説明

高誘電性ナノシート積層体、高誘電性ナノシート積層体、高誘電体素子、および高誘電体薄膜素子の製造方法

【課題】コンデンサなどに好適な、非常に薄くしても高い誘電率と良好な絶縁特性を同時に実現する高誘電体薄膜を提供する。
【解決手段】上記課題は、ペロブスカイト構造を有する酸化物ナノシートなどの高誘電体により構成される薄膜により達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話、モバイル電子機器など、電子情報機器の広い分野に応用して好適なコンデンサとして機能する高誘電性ナノシート積層体とその製造方法、並びにこの高誘電体薄膜を使用した高誘電体素子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ユビキタス・情報ネットワーク社会を実現していくためには、電子機器の多機能化・小型化・高周波化・低価格化が鍵であり、これらの要求を満たす技術として、現在、プリント基板への高密度実装技術が注目されている。例えば、携帯端末機器にはデジタルカメラ、ワンセグ、無線LAN、赤外線通信、GPSなど複数の機能が搭載され始め、この結果として回路基板は大型化している。小型化のためには、基板表面に搭載されているセラミックチップコンデンサなどの様々な高周波部品の数を減らし集積化することが必要となっている。
【0003】
回路基板として現在普及しているのは、低価格のエポキシ系樹脂材料である。このエポキシ系の樹脂を主体としたプリント基板に、高い誘電率を持つセラミックコンデンサを埋め込むことができれば、機器の多機能化・小型化・高周波化・低価格化が可能となる。
【0004】
多くの誘電体材料の中で、BaTiO、(Ba,Sr)TiO、Pb(Zr,Ti)Oなどペロブスカイト系酸化物セラミックスは、優れた誘電特性(比誘電率200以上)を有し、1990年代初頭より積層コンデンサやプリント基板など電子デバイスへの応用研究が行われてきた。しかし、エポキシ系の樹脂基板の耐熱温度は300℃程度であり、形成に600℃以上の高い温度が必要なペロブスカイト系酸化物セラミックスを用いたコンデンサを埋め込むことは基本的に不可能であった。
【0005】
この問題を回避する一つの方法として、樹脂中にBaTiOなどのセラミックスナノ粒子を分散させた複合材料を用いる方法が提案されている。しかし、この場合、樹脂の低誘電率(10以下)のために、複合材料の誘電率が数10程度と低く、高周波に対応する要求性能を満たすことは困難であった。
【0006】
他方、基板自体をセラミックスで作製する技術も提案されているが、基板形成に必要な温度が1000℃程度と高いために、工程が複雑でコストを下げることが困難であった。また、工程中に体積が10%以上収縮するため寸法の精度を上げられず、微細化の要求に応えられないという問題点があった。
【0007】
物理蒸着、化学蒸着などの薄膜プロセスにより、チタン酸バリウム系薄膜(BaTiO、(Ba,Sr)TiOなど)を作製し、大容量の薄膜コンデンサの開発を目指す研究も盛んに行われている。しかし、チタン酸バリウム系薄膜は、膜厚を100nmレベルまで小さくすると、誘電率が低下するという問題があり、膜厚100nm程度が素子として安定に動作する限界であった。次世代の大容量コンデンサ素子の開発のためには、素子のさらなる小型化、大容量化の同時実現を可能とする、ナノ領域においても高い誘電率と良好な絶縁特性を同時に実現する新しい高誘電体材料の開発が必要となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような課題を一掃した高誘電性ナノシート積層体とその製造方法、並びにこの高誘電性ナノシート積層体を使用した高誘電体素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面によれば、NbO八面体、TaO八面体もしくはTiO八面体を単位格子内に少なくとも4個内包したペロブスカイト構造を有する酸化物の厚み10nm以下のナノシートを積層した、高誘電性ナノシート積層体が与えられる。
ここで、前記ナノシートの横サイズが10nm〜1000μmであってよい。
また、前記ナノシートが以下の組成式で表される層状酸化物のいずれか又はその水和物を剥離して得られたものであってよい:
組成式A[CaNan−3Nb3n+1-d]、A[(Ca1-xSr)Nan−3Nb3n+1-d]、あるいはA[Mn−1A’n−3M’3n+1-d](A、A’は、H、Li、Na、K、Rb、Csから選ばれる少なくとも1種であり;Mは、Sr、Ba、Pb、Biあるいは希土類元素La、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選ばれる少なくとも1種であり;M’は、Ti、Mg、Mn、Zn、Nb、Taから選ばれる少なくとも1種であり;x=0-1;n=2-8;d=0-2)。
また、前記ナノシートが以下の組成式で表されるペロブスカイト酸化物であってよい:
組成式[CaNan−3Nb3n+1-d]、[(Ca1-xSr)Nan−3Nb3n+1-d]、あるいは[Mn−1A’n−3M’3n+1-d](A’は、H、Li、Na、K、Rb、Csから選ばれる少なくとも1種であり;Mは、Sr、Ba、Pb、Biあるいは希土類元素La、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選ばれる少なくとも1種であり;M’は、Ti、Mg、Mn、Zn、Nb、Taから選ばれる少なくとも1種であり;x=0-1;n=2-8;d=0-2)。
また、高誘電性ナノシート積層体は厚さが1nm〜100nmであってよい。
本発明の他の側面によれば、電極基板に上記いずれかの高誘電性ナノシート積層体を付着させた高誘電体素子が与えられる。
本発明の更に他の側面によれば、第1の電極基板と第2の電極基板の間に上記いずれかの高誘電性ナノシート積層体を設けた高誘電体素子が与えられる。
本発明の更に他の側面によれば、前記第1及び第2の電極基板の少なくとも一方の電極基板に上記いずれかの高誘電性ナノシート積層体を付着させ、前記高誘電性ナノシート積層体を中間にして前記第1及び第2の電極基板を配置する、前記高誘電体素子の製造方法が与えられる。
本発明の更に他の側面によれば、Langmuir-Blodgett法により前記酸化物を基板表面上に緻密かつ隙間なく被覆した単層膜を形成して前記単層膜を前記電極基板に付着する工程を繰り返すことにより前記高誘電性ナノシート積層体を作製する、前記高誘電体素子の製造方法が与えられる。
本発明の更に他の側面によれば、前記電極基板をカチオン性有機ポリマー溶液中に浸漬して、その基板表面に有機ポリマーを吸着させた後、前記ナノシートが懸濁したコロイド溶液中に浸漬することにより、前記ナノシートを静電的相互作用によって、前記ポリマー上に吸着させ、前記高誘電性ナノシート積層体を作製する、前記高誘電体素子の製造方法が与えられる。
ここで、前記ナノシートを静電的相互作用によって前記電極基板上に吸着させる前記工程において、超音波を付与して前記ナノシート同士の重複部分を除去してよい。
また、前記高誘電性ナノシート積層体を生成した後に、紫外線を照射して前記有機ポリマーを除去してよい。
また、前記高誘電性ナノシート積層体を生成した後に、加熱により前記有機ポリマーを除去してよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ペロブスカイト構造酸化物の有する独自の高誘電特性および高い構造制御性を活用した、極めて薄くしかも高誘電性を有するナノシート積層体(以下、高誘電体薄膜とも称する)及びその応用製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1〜4で示したペロブスカイトナノシート薄膜により構成される薄膜素子の構造模式図。
【図2】実施例1で示したペロブスカイトナノシートの5層積層した薄膜に対し、高分解能透過型電子顕微鏡観察により薄膜の断面構造を評価した結果を示す図。
【図3】実施例1で示したペロブスカイトナノシートの5層積層した薄膜に対し、高分解能透過型電子顕微鏡観察により薄膜の断面構造を評価した結果を示す図。
【図4】実施例1〜4で示したペロブスカイトナノシート薄膜ならびに典型的な高誘電率酸化物材料における比誘電率の膜厚依存性を比較した図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者等は、ペロブスカイト構造酸化物の有する高誘電特性を発見すると共に、高誘電体薄膜の作製に好適な室温の溶液プロセスを発見し、これらの知見をさらに応用して本発明を得るに至った。
【0013】
本発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施の形態に係わる高誘電性ナノシート状ペロブスカイト酸化物からなる高誘電体の断面構造を概略的に例示した図である。図1において、(1)は原子平坦性エピタキシャルSrRuOからなる下部電極基板(以下、単に「基板(1)」ということがある)、(2)は該基板(1)上に形成された高誘電性ナノシート状ペロブスカイト酸化物(以下、ペロブスカイトナノシートという)からなる高誘電体薄膜構造、(3)は金からなる上部電極である。そして、この図1の実施形態では、SrRuOからなる下部電極基板(1)上にペロブスカイトナノシート(2)を積層した多層構造を形成した例を示している。
【0015】
なお、本発明においては、下部電極基板(1)としての、たとえば原子平坦性エピタキシャル基板に限定されることはなく、金、白金、銅、アルミ等の金属電極、NbドープSrTiO等の伝導性ペロブスカイト基板、ITO、GaドープZnO、NbドープTiO等の透明酸化物電極、Si、ガラス、プラスチックなど他の種類の基板上に、同様にペロブスカイトナノシート薄膜が配設されていてもよい。上部電極(3)についても下部電極基板(1)と同様に各種であってよい。
【0016】
高誘電体薄膜の構成層となるペロブスカイトナノシート(2)(例えばCaNaNb13)は、層状ペロブスカイト酸化物をソフト化学的な処理により結晶構造の基本最小単位である層1枚にまで剥離することにより得られる、2次元異方性を有するナノ物質である。
【0017】
本発明の高誘電体素子は、主としてこのような高誘電性のペロブスカイトナノシートもしくはその積層をもって構成されるものであるが、ここで、たとえば好適にはペロブスカイトナノシートは、厚み10nm以下(数原子に相当)、横サイズ100nm〜1000μmの粒子サイズを有してよい。
【0018】
このようなペロブスカイトナノシートは、層状ペロブスカイト酸化物より剥離されて得られるが、この際の層状ペロブスカイト酸化物としては各種のものであってよいが、たとえば好適には、高機能の誘電体ブロックであるNbO八面体、TaO八面体もしくはTiO八面体を内包した次のものが例示される。
組成式HCaNaNb13-d、HCaNaNb16-d、HCaNaNb19-d、HCaNaNb22-d、HCaNaNb25-d、HSrNaNb13-d、HSrNaNb16-d、HSrNaNb19-d、HSrNaNb22-d、HSrNaNb25-d、HBaNaNb13-d、HBaNaNb16-d、HBaNaNb19-d、HBaNaNb22-d、HBaNaNb25-d、HPbNaNb13-d、HPbNaNb16-d、HPbNaNb19-d、HPbNaNb22-d、HPbNaNb25-d、H(Ca1-xSr)NaNb13-d、H(Ca1-xSr)NaNb16-d、H(Ca1-xSr)NaNb19-d、H(Ca1-xSr)NaNb22-d、H(Ca1-xSr)NaNb25-d、HCaNa(Nb1-xTa)13-d、HCaNa(Nb1-xTa)16-d、HCaNa(Nb1-xTa)19-d、HCaNa(Nb1-xTa)22-d、HCaNa(Nb1-xTa)25-d、HSrNa(Nb1-xTa)13-d、HSrNa(Nb1-xTa)16-d、HSrNa(Nb1-xTa)19-d、HSrNa(Nb1-xTa)22-d、HSrNa(Nb1-xTa)25-d、LiCaNaNb13-d、LiCaNaNb16-d、LiCaNaNb19-d、LiCaNaNb22-d、LiCaNaNb25-d、LiSrNaNb13-d、LiSrNaNb16-d、LiSrNaNb19-d、LiSrNaNb22-d、LiSrNaNb25-d、LiBaNaNb13-d、LiBaNaNb16-d、LiBaNaNb19-d、LiBaNaNb22-d、LiBaNaNb25-d、LiPbNaNb13-d、LiPbNaNb16-d、LiPbNaNb19-d、LiPbNaNb22-d、LiPbNaNb25-d、Li(Ca1-xSr)NaNb13-d、Li(Ca1-xSr)NaNb16-d、Li(Ca1-xSr)NaNb19-d、Li(Ca1-xSr)NaNb22-d、Li(Ca1-xSr)NaNb25-d、LiCaNa(Nb1-xTa)13-d、LiCaNa(Nb1-xTa)16-d、LiCaNa(Nb1-xTa)19-d、LiCaNa(Nb1-xTa)22-d、LiCaNa(Nb1-xTa)25-d、LiSrNa(Nb1-xTa)13-d、LiSrNa(Nb1-xTa)16-d、LiSrNa(Nb1-xTa)19-d、LiSrNa(Nb1-xTa)22-d、LiSrNa(Nb1-xTa)25-d、NaCaNaNb13-d、NaCaNaNb16-d、NaCaNaNb19-d、NaCaNaNb22-d、NaCaNaNb25-d、NaSrNaNb13-d、NaSrNaNb16-d、NaSrNaNb19-d、NaSrNaNb22-d、NaSrNaNb25-d、NaBaNaNb13-d、NaBaNaNb16-d、NaBaNaNb19-d、NaBaNaNb22-d、NaBaNaNb25-d、NaPbNaNb13-d、NaPbNaNb16-d、NaPbNaNb19-d、NaPbNaNb22-d、NaPbNaNb25-d、Na(Ca1-xSr)NaNb13-d、Na(Ca1-xSr)NaNb16-d、Na(Ca1-xSr)NaNb19-d、Na(Ca1-xSr)NaNb22-d、Na(Ca1-xSr)NaNb25-d、NaCaNa(Nb1-xTa)13-d、NaCaNa(Nb1-xTa)16-d、NaCaNa(Nb1-xTa)19-d、NaCaNa(Nb1-xTa)22-d、NaCaNa(Nb1-xTa)25-d、NaSrNa(Nb1-xTa)13-d、NaNaSrNa(Nb1-xTa)16-d、NaSrNa(Nb1-xTa)19-d、NaSrNa(Nb1-xTa)22-d、NaSrNa(Nb1-xTa)25-d、KCaNaNb13-d、KCaNaNb16-d、KCaNaNb19-d、KCaNaNb22-d、KCaNaNb25-d、KSrNaNb13-d、KSrNaNb16-d、KSrNaNb19-d、KSrNaNb22-d、KSrNaNb25-d、KBaNaNb13-d、KBaNaNb16-d、KBaNaNb

19-d、KBaNaNb22-d、KBaNaNb25-d、KPbNaNb13-d、KPbNaNb16-d、KPbNaNb19-d、KPbNaNb22-d、KPbNaNb25-d、K(Ca1-xSr)NaNb13-d、K(Ca1-xSr)NaNb16-d、K(Ca1-xSr)NaNb19-d、K(Ca1-xSr)NaNb22-d、K(Ca1-xSr)NaNb25-d、KCaNa(Nb1-xTa)13-d、KCaNa(Nb1-xTa)16-d、KCaNa(Nb1-xTa)19-d、KCaNa(Nb1-xTa)22-d、KCaNa(Nb1-xTa)25-d、KSrNa(Nb1-xTa)13-d、KNaSrNa(Nb1-xTa)16-d、KSrNa(Nb1-xTa)19-d、KSrNa(Nb1-xTa)22-d、KSrNa(Nb1-xTa)25-d、KCaNaNb13-d、KCaNaNb16-d、KCaNaNb19-d、KCaNaNb22-d、KCaNaNb25-d、KSrNaNb13-d、KSrNaNb16-d、KSrNaNb19-d、KSrNaNb22-d、KSrNaNb25-d、KBaNaNb13-d、KBaNaNb16-d、KBaNaNb19-d、KBaNaNb22-d、KBaNaNb25-d、KPbNaNb13-d、KPbNaNb16-d、KPbNaNb19-d、KPbNaNb22-d、KPbNaNb25-d、K(Ca1-xSr)NaNb13-d、K(Ca1-xSr)NaNb16-d、K(Ca1-xSr)NaNb19-d、K(Ca1-xSr)NaNb22-d、K(Ca1-xSr)NaNb25-d、KCaNa(Nb1-xTa)13-d、KCaNa(Nb1-xTa)16-d、KCaNa(Nb1-xTa)19-d、KCaNa(Nb1-xTa)22-d、KCaNa(Nb1-xTa)25-d、KSrNa(Nb1-xTa)13-d、KNaSrNa(Nb1-xTa)16-d、KSrNa(Nb1-xTa)19-d、KSrNa(Nb1-xTa)22-d、KSrNa(Nb1-xTa)25-d、RbCaNaNb13-d、RbCaNaNb16-d、RbCaNaNb19-d、RbCaNaNb22-d、RbCaNaNb25-d、RbSrNaNb13-d、RbSrNaNb16-d、RbSrNaNb19-d、RbSrNaNb22-d、RbSrNaNb25-d、RbBaNaNb13-d、RbBaNaNb16-d、RbBaNaNb19-d、RbBaNaNb22-d、RbBaNaNb25-d、RbPbNaNb13-d、RbPbNaNb16-d、RbPbNaNb19-d、RbPbNaNb22-d、RbPbNaNb25-d、Rb(Ca1-xSr)NaNb13-d、Rb(Ca1-xSr)NaNb16-d、Rb(Ca1-xSr)NaNb19-d、Rb(Ca1-xSr)NaNb22-d、Rb(Ca1-xSr)NaNb25-d、RbCaNa(Nb1-xTa)13-d、RbCaNa(Nb1-xTa)16-d、RbCaNa(Nb1-xTa)19-d、RbCaNa(Nb1-xTa)22-d、RbCaNa(Nb1-xTa)25-d、RbSrNa(Nb1-xTa)13-d、RbNaSrNa(Nb1-xTa)16-d、RbSrNa(Nb1-xTa)19-d、RbSrNa(Nb1-xTa)22-d、RbSrNa(Nb1-xTa)25-d、CsCaNaNb13-d、CsCaNaNb16-d、CsCaNaNb19-d、CsCaNaNb22-d、CsCaNaNb25-d、CsSrNaNb13-d、CsSrNaNb16-d、CsSrNaNb19-d、CsSrNaNb22-d、CsSrNaNb25-d、CsBaNaNb13-d、CsBaNaNb16-d、CsBaNaNb19-d、CsBaNaNb22-d、CsBaNaNb25-d、CsPbNaNb13-d、CsPbNaNb16-d、CsPbNaNb19-d、CsPbNaNb22-d、CsPbNaNb25-d、Cs(Ca1-xSr)NaNb13-d、Cs(Ca1-xSr)NaNb16-d、Cs(Ca1-xSr)NaNb19-d、Cs(Ca1-xSr)NaNb

22-d、Cs(Ca1-xSr)NaNb25-d、CsCaNa(Nb1-xTa)13-d、CsCaNa(Nb1-xTa)16-d、CsCaNa(Nb1-xTa)19-d、CsCaNa(Nb1-xTa)22-d、CsCaNa(Nb1-xTa)25-d、CsSrNa(Nb1-xTa)13-d、CsNaSrNa(Nb1-xTa)16-d、CsSrNa(Nb1-xTa)19-d、CsSrNa(Nb1-xTa)22-d、CsSrNa(Nb1-xTa)25-d(x=0-1;d=0-2)。
【0019】
剥離のための処理は、ソフト化学処理と呼ぶことができるものであって、このソフト化学処理とは、酸処理とコロイド化処理を組み合わせた処理である。すなわち、層状構造を有するペロブスカイト酸化物の粉末もしくは単結晶に塩酸などの酸水溶液を接触させ、生成物をろ過、洗浄後、乾燥させると、処理前に層間に存在していたアルカリ金属イオンがすべて水素イオンに置き換わり、水素型物質が得られる。次に、得られた水素型物質をアミンなどの水溶液中に入れ撹拌すると、コロイド化する。このとき、層状構造を構成していた層が1枚1枚にまで剥離する。膜厚はnmの範囲で制御可能である。ソフト化学処理によるナノシート剥離は、以前、本願発明者等が発明して特許出願・論文発表などを行ったことにより、現在ではよく知られた手法となっている。従って、本願でこれ以上詳細に一般的な解説を行う必要はないものと考えるが、必要であれば、例えば特許文献1、2を参照されたい。
【0020】
そして剥離したペロブスカイトナノシートは、本発明者らがすでに提案しているLangmuir-Blodgett法(以下、単に「LB法」ということがある)を利用して、高誘電体薄膜を形成することができる。
LB法とは、粘土鉱物あるいは有機ナノ薄膜の製膜法として知られる手法であり、両親媒性分子を利用して気−水界面上において会合膜を形成し、これを基板に転写させることで、均一なモノレイヤー膜を作製する手法である。ペロブスカイトナノシートの場合には、低濃度のペロブスカイトナノシート・ゾル溶液を用いると、両親媒性であるカチオン性分子を用いることなく、気−水界面にナノシートが吸着し、さらにバリヤにより、気−水界面に吸着したナノシートを寄せ集めることで、ペロブスカイトナノシートが基板表面上に緻密かつ隙間なく被覆した高品位単層膜の製造が可能になる。
そして、上記のLB法を繰り返し行い、ペロブスカイトナノシートを積層することで、多層構造を有する高誘電体薄膜が提供される。LB法の詳細については非特許文献1を参照されたい。
【0021】
また、上記のLB法以外でも、本発明者らが特許文献1及び特許文献2としてすでに提案している交互自己組織化積層技術により、同様のペロブスカイトナノシートからなる高誘電体薄膜を形成することができる。
実際の操作としては、基板を(1)有機ポリカチオン溶液に浸漬→(2)純水で洗浄→(3)ペロブスカイトナノシート・ゾル溶液に浸漬→(4)純水で洗浄する、という一連の操作を1サイクルとして、これを少なくとも2種類のペロブスカイトナノシートに対して必要回数分反復する。有機ポリカチオンとしては、実施例記載のポリエチレンイミン(PEI)、さらに同様なカチオン性を有するポリジアリルジメチルアンモニウム塩化物(PDDA)、塩酸ポリアリルアミン(PAH)などが適当である。また、交互積層に際しては、基板表面に正電荷を導入することができれば基本的に問題なく、有機ポリマーの代わりに、正電荷を持つ無機高分子、多核水酸化物イオンを含む無機化合物を使用することもできる。
【0022】
さらに,本発明においては、高誘電体薄膜の構成層となるペロブスカイトナノシート単層を形成する方法として、ペロブスカイトナノシートを基板表面上に隙間なく被覆し、ペロブスカイトナノシート相互の重複を除去もしくは低減することを特徴とする単層膜の形成方法が提供される。
【0023】
この方法では、前記基板表上にペロブスカイトナノシートを隙間なく被覆する手段が、カチオン性有機ポリマー溶液中に基板を浸漬して基板表面に有機ポリマーを吸着させた後、該薄片粒子が懸濁したコロイド溶液中に浸漬することにより、ナノシートを静電的相互作用によって基板上に自己組織的に吸着させるプロセスによるものであることを特徴とする単層の形成方法や、前記ペロブスカイトナノシート同士の重複部分を除去、低減する処理手段が、アルカリ水溶液中で超音波処理することによることを特徴とする単層膜の形成方法が例示される。この手法により、LB法と同等の、ペロブスカイトナノシートが基板表面上に緻密かつ隙間なく被覆した高品位単層膜の製造が可能になる。
そして、上記の方法を繰り返し行い、ペロブスカイトナノシートを積層することで、多層構造を有する高誘電体薄膜が提供される。
【0024】
さらには、以上の方法において、紫外線照射して有機ポリマーを除去することにより、無機高誘電体薄膜の形成が可能となる。この際の紫外線照射は、層状ペロブスカイト酸化物の光触媒有機物分解反応が活性となるバンドギャップ以下の波長を含む紫外線照射であればよく、より好適には1mW/cm以上のキセノン光源を用いて12時間以上照射することが望ましい。
【0025】
無機高誘電体薄膜の形成には、紫外線照射以外にも、低温加熱による処理も可能であり、紫外線照射と同等効果を奏することが可能となる。この際の加熱処理は、層状ペロブスカイト酸化物の熱安定温度である800℃以下であればよく、エポキシ等の樹脂基板やその他、耐熱温度の低い基板においては、300℃以下の温度で熱処理することが望ましい。
【0026】
本発明では、上記の方法を工程の少なくとも一部として含むことを特徴とする高誘電体薄膜またはその素子の製造方法が実現されることになる。
たとえば以下の実施例に示した形態では、層状ペロブスカイト酸化物(KCaNaNb13、KCaNaNb16)を出発原料に、ペロブスカイトナノシート(CaNaNb13、CaNaNb16)を作製し、図1に示したように、原子平坦性エピタキシャルSrRuO基板上にカチオン性ポリマーを介してLB法あるいは交互自己組織化積層技術により多層構造を有する高誘電体薄膜を作製している。
なお、本発明は以下の実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0027】
本実施例においては、層状ペロブスカイト酸化物(例えばKCaNaNb13)を出発原料としてペロブスカイトナノシート(CaNaNb13)を作製し、図1に示したように、下部電極基板である原子平坦性エピタキシャルSrRuO基板(1)上に、LB法により前記ペロブスカイトナノシート(2)からなる高誘電体薄膜を以下のように作製した。
【0028】
層状ペロブスカイト酸化物KCaNaNb13は、KCaNb10およびNaNbO1:1の割合に混合し、1273Kで24時間焼成して得られたものである。得られた粉体5gを室温にて5規定の硝酸溶液200cm中で酸処理を行ない、水素交換型層状ペロブスカイト酸化物HCaNaNb13・1.5HOを得、次いで、夫々の水素交換型層状ペロブスカイト酸化物0.4gにテトラブチルアンモニウム水酸化物(以下、TBAOHと記載する)水溶液100cmを加えて室温にて7日間撹拌、反応させて、組成式がCaNaNb13で表される厚さが約2nm、横サイズ約10μmの長方形状のナノシート(2)が分散した乳白色状のゾル溶液を作製した。
【0029】
原子平坦性エピタキシャルSrRuOからなる下部電極となる伝導性基板(1)をオゾン雰囲気で紫外線照射することで表面洗浄を行った。
【0030】
1dmのメスフラスコに夫々のペロブスカイトナノシート・ゾル溶液8cmを超純水中に分散させた。この分散溶液を半日〜1日程度放置し、次いで、アセトンによりよく洗浄したLBトラフに分散溶液を展開後、水面の安定および下層液の温度が一定となるように30分間待つ。その後、上記で準備した基板(1)をLB製膜装置にセットし、以下に示す一連の操作をペロブスカイトナノシートに対して行うことを1サイクルとし、このサイクルを繰り返してペロブスカイトナノシートを積層することで、多層構造を有する高誘電体薄膜が提供される。
[1]圧縮速度0.5mm/分でバリヤを移動させて表面を圧縮することにより、気−水界面上に分散した一方の種類のペロブスカイトナノシートを寄せ集め、一定圧力になった後30分間静置する。このようにして、気−水界面にてペロブスカイトナノシートを並置一体化したモノレイヤー膜を形成する。
[2]引き上げ速度0.8mm/分で基板(1)を垂直に引き上げて前記モノレイヤー膜を基板に付着させることで、一方の種類のペロブスカイトナノシートが緻密にパックされた薄膜を得る。
【0031】
こうして得られた多層構造を有する薄膜に対し、キセノン光源を用いて紫外線照射(1mW/cm、72時間)し、ペロブスカイトナノシートの光触媒反応を利用して、剥離剤として用いたTBAOHを分解、除去した薄膜を得た。
【0032】
図2は、このようにして作製した、CaNaNb13が5層積層した多層構造に対し、高分解能透過型電子顕微鏡観察により薄膜の断面構造を評価した結果である。基板上にナノシートが原子レベルで平行に累積した積層構造が確認されており、また各層の厚みは約2nmで、これらが5層積層した多層構造を有していた。これより、ナノシート単層膜の緻密性、平滑性を維持して交互に積層した高品位多層構造膜が実現していることが確認できた。
【0033】
図2においてさらに注目すべきは下部電極である基板(1)とペロブスカイトナノシート薄膜の間に、既往の強高誘電体薄膜において問題となっている、製造工程における熱アニールによる基板界面の劣化や組成ズレに付随する低誘電率層や界面層の形成が見られない点である。これは、本実施例のナノシート薄膜の製造工程が、基板界面劣化、組成ズレの影響のない、室温での溶液プロセスを利用していることによる画期的な効果である。
【0034】
表1は、このようにして作製した、CaNaNb13が3層、5層、10層積層した多層構造を有する高誘電体薄膜に対し、上部電極として金ドット電極を形成とした薄膜素子、すなわち高誘電体素子における比誘電率および漏れ電流密度をまとめたものである。漏れ電流密度は、ケースレー社製半導体パラメーターアナライザー(4200-SCS)により印加電圧+1V時における電流密度を計測したものであり、他方、比誘電率はアジレントテクノロジー社製高精度LCRメーター(4284A)により周波数10kHzでの静電容量を計測し、比誘電率を算定した結果である。
【0035】
【表1】

【0036】
表1によれば、ペロブスカイトナノシートから高誘電体薄膜の漏れ電流特性は、膜厚が6〜20nmと極薄にもかかわらず、何れも10-8A/cm以下という良好な絶縁特性を示した。尚、10nmの膜厚で既往の材料と比較した場合の漏れ電流は、既往のペロブスカイト系酸化物薄膜(Ba,Sr)TiOに対し約4桁漏れ電流が抑制された、極めて優れた絶縁特性を示す。また、ペロブスカイトナノシートの比誘電率は、積層数によらず300以上という高い比誘電率を示した。以上より、ナノスケールの膜厚にもかかわらず、安定な高誘電特性と絶縁特性を同時に実現する高誘電体薄膜を作製することができた。
【実施例2】
【0037】
本実施例においては、層状ペロブスカイト酸化物KCaNaNb13を出発原料に、ペロブスカイトナノシートCaNaNb13を作製し、図1に示したように、下部電極基板である原子平坦性エピタキシャルSrRuO基板(1)上に、交互自己組織化積層技術によりペロブスカイトナノシート(2)からなる高誘電体薄膜を以下のように作製した。
【0038】
実施例1と同様の方法により、層状ペロブスカイト酸化物KKCaNaNb13を単層剥離し、組成式がKCaNaNb13で表される厚さが約2nm、横サイズ約10μmの長方形状のナノシート(2)が分散した乳白色状のゾル溶液を作製した。
【0039】
原子平坦性エピタキシャルSrRuOからなる下部電極となる伝導性基板(1)をオゾン雰囲気で紫外線照射することで表面洗浄し、次いで、この基板を塩酸:メタノール=1:1の溶液に20分間浸漬した後、濃硫酸中に20分間浸漬することにより、親水化処理を行った。
【0040】
この基板(1)を以下に示す一連の操作をナノシート(2)について行うことを1サイクルとし、このサイクルを必要回数分反復することで、所望の膜厚を有する薄膜を作製した。例えば、図1の構造はこのサイクルを3回繰り返した結果を示す。
[1]上記ポリカチオン溶液としてPEI溶液に20分間浸漬する
[2]Milli-Q純水で充分に洗浄する
[3]撹拌した上記ナノシートゾル溶液の一方の中に浸漬する
[4]20分経過後にMilli-Q純水で充分に洗浄する
[5]得られた薄膜をpH11のTBAOH水溶液中に浸漬しながら、超音波洗浄槽(ブランソン製、42kHz、90W)にて20分間超音波処理する。
【0041】
こうして得られた超格子構造を有する薄膜に対し、キセノン光源を用いて紫外線照射(1mW/cm、72時間)し、ペロブスカイトナノシートの光触媒反応を利用して、有機ポリマーが分解、除去された薄膜を得た。
【0042】
このようにして作製した、CaNaNb13が3層、5層、10層積層した多層構造を有する高誘電体薄膜に対し、実施例1と同様の手法、測定条件によって比誘電率および漏れ電流密度の評価を行ったところ、表1と同じ結果を得た。すなわち、本実施例2では実施例1とは異なる素子作製手法で、本発明の有効性が実証されたものである。
【実施例3】
【0043】
本実施例においては、層状ペロブスカイト酸化物(例えばKCaNaNb16)を出発原料としてペロブスカイトナノシート(CaNaNb16)を作製し、図1に示したように、下部電極基板である原子平坦性エピタキシャルSrRuO基板(1)上に、LB法により前記ペロブスカイトナノシート(2)からなる高誘電体薄膜を以下のように作製した。
【0044】
層状ペロブスカイト酸化物KCaNaNb16は、KCaNaNb13およびNaNbO1:1の割合に混合し、1473Kで24時間焼成して得られたものである。得られた粉体5gを室温にて5規定の硝酸溶液200cm中で酸処理を行ない、水素交換型層状ペロブスカイト酸化物HCaNaNb16・1.5HOを得、次いで、夫々の水素交換型層状ペロブスカイト酸化物0.4gにテトラブチルアンモニウム水酸化物(以下、TBAOHと記載する)水溶液100cmを加えて室温にて7日間撹拌、反応させて、組成式がCaNaNb16で表される厚さが約2.5nm、横サイズ約5μmの長方形状のナノシート(2)が分散した乳白色状のゾル溶液を作製した。
【0045】
原子平坦性エピタキシャルSrRuOからなる下部電極となる伝導性基板(1)をオゾン雰囲気で紫外線照射することで表面洗浄を行った。
【0046】
1dmのメスフラスコに夫々のペロブスカイトナノシート・ゾル溶液8cmを超純水中に分散させた。この分散溶液を半日〜1日程度放置し、次いで、アセトンによりよく洗浄したLBトラフに分散溶液を展開後、水面の安定および下層液の温度が一定となるように30分間待つ。その後、上記で準備した基板(1)をLB製膜装置にセットし、以下に示す一連の操作をペロブスカイトナノシートに対して行うことを1サイクルとし、このサイクルを繰り返してペロブスカイトナノシートを積層することで、多層構造を有する高誘電体薄膜が提供される。
[1]圧縮速度0.5mm/分でバリヤを移動させて表面を圧縮することにより、気−水界面上に分散した一方の種類のペロブスカイトナノシートを寄せ集め、一定圧力になった後30分間静置する。このようにして、気−水界面にてペロブスカイトナノシートを並置一体化したモノレイヤー膜を形成する。
[2]引き上げ速度0.8mm/分で基板(1)を垂直に引き上げて前記モノレイヤー膜を基板に付着させることで、一方の種類のペロブスカイトナノシートが緻密にパックされた薄膜を得る。
【0047】
こうして得られた多層構造を有する薄膜に対し、キセノン光源を用いて紫外線照射(1mW/cm、72時間)し、ペロブスカイトナノシートの光触媒反応を利用して、剥離剤として用いたTBAOHを分解、除去した薄膜を得た。
【0048】
図3は、このようにして作製した、CaNaNb16が5層積層した多層構造に対し、高分解能透過型電子顕微鏡観察により薄膜の断面構造を評価した結果である。基板上にナノシートが原子レベルで平行に累積した積層構造が確認されており、また各層の厚みは約2.5nmで、これらが5層積層した多層構造を有していた。これより、ナノシート単層膜の緻密性、平滑性を維持して交互に積層した高品位多層構造膜が実現していることが確認できた。
【0049】
図3においてさらに注目すべきは下部電極である基板(1)とペロブスカイトナノシート薄膜の間に、既往の強高誘電体薄膜において問題となっている、製造工程における熱アニールによる基板界面の劣化や組成ズレに付随する低誘電率層や界面層の形成が見られない点である。これは、本実施例のナノシート薄膜の製造工程が、基板界面劣化、組成ズレの影響のない、室温での溶液プロセスを利用していることによる画期的な効果である。
【0050】
表2は、このようにして作製した、CaNaNb16が3層、5層、10層積層した多層構造を有する高誘電体薄膜に対し、上部電極として金ドット電極を形成とした薄膜素子、すなわち高誘電体素子における比誘電率および漏れ電流密度をまとめたものである。漏れ電流密度は、ケースレー社製半導体パラメーターアナライザー(4200-SCS)により印加電圧+1V時における電流密度を計測したものであり、他方、比誘電率はアジレントテクノロジー社製高精度LCRメーター(4284A)により周波数10kHzでの静電容量を計測し、比誘電率を算定した結果である。
【0051】
【表2】

【0052】
表2によれば、ペロブスカイトナノシートから高誘電体薄膜の漏れ電流特性は、膜厚が5〜25nmと極薄にもかかわらず、何れも10-7A/cm以下という良好な絶縁特性を示した。尚、12nmの膜厚で既往の材料と比較した場合の漏れ電流は、既往のペロブスカイト系酸化物薄膜(Ba,Sr)TiOに対し約3桁漏れ電流が抑制された、極めて優れた絶縁特性を示す。また、ペロブスカイトナノシートの比誘電率は、積層数によらず300以上という高い比誘電率を示した。以上より、ナノスケールの膜厚にもかかわらず、安定な高誘電特性と絶縁特性を同時に実現する高誘電体薄膜を作製することができた。すなわち、本実施例3では実施例1、2とは異なる材料で、本発明の有効性が実証されたものである。
【実施例4】
【0053】
本実施例においては、層状ペロブスカイト酸化物KCaNaNb13、KCaNaNb16を出発原料に、ペロブスカイトナノシートCaNaNb13、CaNaNb16を作製し、図1に示したように、下部電極基板であるPt基板(1)上に、LB法により前記ペロブスカイトナノシート(2)からなる高誘電体薄膜を以下のように作製した。
【0054】
ペロブスカイトナノシートCaNaNb13、CaNaNb16は、層状ペロブスカイト酸化物KCaNaNb13、KCaNaNb16を出発原料とし、上記実施例1から3と同じ方法にて作製した。
【0055】
下部電極として使用するPt基板(1)をオゾン雰囲気で紫外線照射することで表面洗浄を行った。
【0056】
1dmのメスフラスコ中で、ペロブスカイトナノシート・ゾル溶液8cmを超純水中に分散させた。この分散溶液を半日〜1日程度放置し、次いで、アセトンによりよく洗浄したLBトラフに分散溶液を展開後、水面の安定および下層液の温度が一定となるように30分間待った。その後、上記で準備した基板(1)をLB製膜装置にセットし、以下に示す一連の操作を1サイクルとし、ペロブスカイトナノシートを積層することで、高誘電体薄膜に好適な多層構造を作製した。
[1]圧縮速度0.5mm/分でバリヤを移動させて表面を圧縮することにより、気−水界面上に分散したペロブスカイトナノシートを寄せ集め、一定圧力になった後30分間静置する。このようにして、気−水界面にてペロブスカイトナノシートを並置一体化したモノレイヤー膜を形成する。
[2]引き上げ速度0.8mm/分で基板(1)を垂直に引き上げ、前記モノレイヤー膜が基板に付着し、ペロブスカイトナノシートが緻密にパックされた薄膜を得る。
【0057】
こうして得られた多層構造を有する薄膜に対し、キセノン光源を用いて紫外線照射(1mW/cm、72時間)し、ペロブスカイトナノシートの光触媒反応を利用して、剥離剤として用いたTBAOHを分解、除去した薄膜を得た。
【0058】
表3は、このように作製したCaNaNb13、CaNaNb16の5層積層膜における比誘電率と漏れ電流密度をまとめたものである。実施例1から3と同様の手法、測定条件によって比誘電率および漏れ電流密度の評価を行ったところ、CaNaNb13については表1、2と同等の結果、CaNaNb16については表3と同等の結果を得た。すなわち、本実施例4では実施例1から3とは異なる素子構造で、本発明の有効性が実証されたものである。
【0059】
【表3】

【0060】
図4は、実施例1から4で示したCaNaNb13およびCaNaNb16からなる高誘電体薄膜について比誘電率の膜厚依存性をプロットした結果である。併せて、比較のために典型的な高誘電率酸化物材料における比誘電率の膜厚依存性を示した。既往のペロブスカイト系酸化物、例えば(Ba,Sr)TiOにおいては、高容量化を目指してナノレベルまで薄膜化すると、比誘電率が低下するのに対し、本発明のペロブスカイトナノシート薄膜においては、顕著なサイズ効果はなく、約5〜10nmの薄膜においても200以上の高い比誘電率を維持していた。特に注目すべきは、本発明のペロブスカイトナノシート薄膜が、10nmレベルの薄膜領域において、既往の高誘電率酸化物材料を大きく凌ぐ優れた比誘電率を有している点である。従って、本発明により、ナノ領域においても高い誘電率と良好な絶縁特性を同時に実現するサイズフリー高誘電率特性を得ることができるという画期的な効果を有する。
【0061】
以上、実施例1〜4で示したように、本発明のペロブスカイトナノシート薄膜は、膜厚50nm以下の薄膜領域において、既往の高誘電率酸化物材料を大きく凌ぐ優れた比誘電率を有する。以上の特性を利用すれば、従来のチタン酸バリウム系薄膜と比較し、20分の1の小型化と1桁以上の大容量化を同時に実現する高誘電体薄膜の提供が可能となる。
なお、高誘電体薄膜の多層膜化するに当たり、上部電極基板に対しても、上記実施例1から4の手法に基づき、ペロブスカイトナノシート薄膜を付着させ、両者を併せて多層化することも本発明の範疇である。
【0062】
以上のようにして得られた高誘電体薄膜をコンデンサ等に適用することにより、既往の高誘電率酸化物材料に対し同じ膜厚でも1桁以上高容量の素子を得ることができる。さらに、漏れ電流を抑制と消費電流の低減や、コンデンサの高集積化において、種々の形態で任意に設計できるという優れた効果を奏する。
以上の実施の形態においては、原子平坦性エピタキシャルSrRuO基板、Pt上にペロブスカイトナノシートの多層構造を形成して高誘電体薄膜、高誘電体素子に適用する例によって本発明を説明したが、本発明に係わる高誘電体素子は、単独で薄膜コンデンサとしても利用でき、また、積層コンデンサ、高周波デバイス、DRAMメモリ、トランジスタ用ゲート絶縁体などにも利用でき、同様の優れた効果を奏する。
【0063】
以上説明した通り、本発明によれば、ペロブスカイトナノシートの有する、独自のナノ物性および高い組織、構造制御性を活用することで、ナノ領域においても高い誘電率と良好な絶縁特性を同時に実現することができる。
【0064】
ペロブスカイトナノシートは、室温での自己組織化などのソフト化学反応を利用することにより素子の作製が可能であるため、従来の製造行程における熱アニールによる基板界面劣化、組成ズレなどの問題を回避可能で、かつ様々な材料との融合が可能である。特に、従来、エポキシ系の樹脂基板は耐熱温度が300℃程度と低く、コンデンサの実装が不可能であったが、本発明のペロブスカイトナノシートを用いることにより、高誘電体薄膜の製膜やコンデンサの実装が可能となる。
【0065】
さらに、本発明では、従来の誘電体薄膜プロセスの主流である、大型の真空装置や高価な成膜装置を必要としない、低コスト、低環境プロセスを実現することができる。従って、本発明の高誘電率ナノ材料を高誘電率材料が基幹部品となっている、積層コンデンサ、高周波デバイスなどの電子材料、IT技術分野、ナノエレクトロニクスなどの技術分野に使用すれば極めて有用であると結論される。
【0066】
以上詳細に説明したように、ペロブスカイト構造酸化物の有する独自の高誘電特性および高い構造制御性を活用することが可能になり、高誘電特性を実現することができる。
【0067】
さらに、NbO八面体、TaO八面体もしくはTiO八面体を単位格子内に少なくとも4個内包した層状ペロブスカイト構造の有する独自の高誘電特性および優れた絶縁特性を活用することが可能になり、高誘電特性と優れた絶縁特性を同時に実現することができる。
【0068】
さらに、厚み約1nmの極薄いナノシート状の酸化物を用いることで、ナノレベルの高誘電体薄膜の製造と設計が可能となる。
【0069】
さらに、高誘電体材料として知られるNbO八面体、TaO八面体もしくはTiO八面体を基本ブロックとして内包したペロブスカイト酸化物を単体のナノシートとして抽出し、人為的な再構築が可能となる。
【0070】
さらに、NbO八面体、TaO八面体もしくはTiO八面体を内包したナノシート状のペロブスカイト酸化物を単体として安定に抽出することができる、ナノレベルの薄膜において、従来のペロブスカイトよりも高い誘電率を有する高誘電体薄膜の製造と設計が可能となる。
【0071】
さらに、100nm以下のナノスケールの薄さでも機能する高誘電体薄膜の提供ができたため、従来の高誘電体薄膜では到達困難であった薄膜化と高容量化を同時に達成できる。
【0072】
さらに、自立性が弱いナノシート状ペロブスカイト酸化物でも電極基板に保持することで取扱いが容易になり、高誘電体薄膜を利用した素子の生産性を確保することができる。
【0073】
さらに、上述の高誘電体薄膜を利用したコンデンサ構造素子が提供され、高誘電体素子の生産性、安定性を確保することができる。
【0074】
さらに、Langmuir-Blodgett法を用いることにより、ナノシート状ペロブスカイト酸化物が基板表面上に緻密かつ隙間なく被覆した高品位高誘電体薄膜の製造が可能になったため、回路の漏れ電流の原因となる欠陥を除去、低減した高性能の高誘電体素子を低コストかつ室温での溶液プロセスで直接製造することができる。
また、従来の高誘電体薄膜プロセスと異なり、高温でのアニール等が不要な、室温での溶液プロセスが可能になったため、従来の素子製造行程における基板界面劣化、組成ズレなどの問題を回避して、高性能の高誘電体素子を提供することができる。
【0075】
さらに、ビーカーとピンセットを利用した、低コストかつ室温での溶液プロセスが可能になったため、従来の高誘電体薄膜プロセスの主流である、大型の真空装置や高価な成膜装置を必要としない、低コスト、低環境プロセスを実現できる。
【0076】
さらに、ナノシート状ペロブスカイト酸化物が基板表面上に緻密かつ隙間なく被覆した高品位高誘電体薄膜の製造が可能になったため、回路の漏れ電流の原因となる欠陥を除去、低減した高性能の高誘電体素子を提供することができる。
【0077】
さらに、有機物を除去した無機高誘電体素子の製造が可能となったため、従来の素子製造プロセスの熱処理工程に付随した、基板界面劣化、組成ズレなどの問題を一掃して、高性能の高誘電体素子を提供することができる。
【0078】
さらに、低温加熱により安定かつ簡便に、有機物を除去した無機高誘電体素子の製造が可能となったため、従来の素子製造プロセスの熱処理工程に付随した、基板界面劣化、組成ズレなどの問題を一掃して、高性能の高誘電体素子を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
高誘電体薄膜は、積層コンデンサ、高周波デバイス、DRAMメモリ、トランジスタ用ゲート絶縁体などあらゆる電子機器に利用されており、実用化を目指し世界中の産官学で研究開発に凌ぎを削っている。以上の点、さらに今回開発したナノ材料が、(1)従来の材料の中で最小の薄膜で機能し、かつ高い誘電率と良好な絶縁特性を同時に実現すること、(2)室温、低コストの溶液プロセスにより素子の製造をすることができること、(3)室温プロセスを実現したことにより従来の熱アニールに付随した問題を全て一掃できたこと、(4)従来、実装が困難であった樹脂基板等への高誘電体薄膜の製膜やコンデンサの実装が可能となること、従来の誘電体薄膜プロセスの主流である、大型の真空装置や高価な成膜装置を必要としない、低コスト、低環境プロセスを実現したこと、等をふまえれば、その経済的効果は明白である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0080】
【特許文献1】特開2001−270022号
【特許文献2】特開2004−255684号
【非特許文献】
【0081】
【非特許文献1】Kosho Akatsuka, Masa-aki Haga, Yasuo Ebina, Minoru Osada, Katsutoshi Fukuda, Takayoshi Sasaki, "Construction of Highly Ordered Lamellar Nanostructures through Langmuir-Blodgett Deposition of Molecularly Thin Titania Nanosheets Tens of Micrometers Wide and Their Excellent Dielectric Properties", ACS Nano, 3, 1097-1106 (2009).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NbO八面体、TaO八面体もしくはTiO八面体を単位格子内に少なくとも4個内包したペロブスカイト構造を有する酸化物の厚み10nm以下のナノシートを積層した、高誘電性ナノシート積層体。
【請求項2】
前記ナノシートの横サイズが10nm〜1000μmである、請求項1に記載の高誘電性ナノシート積層体。
【請求項3】
前記ナノシートが以下の組成式で表される層状酸化物のいずれか又はその水和物を剥離して得られたものである、請求項1または2に記載の高誘電性ナノシート積層体。
組成式A[CaNan−3Nb3n+1-d]、A[(Ca1-xSr)Nan−3Nb3n+1-d]、あるいはA[Mn−1A’n−3M’3n+1-d](A、A’は、H、Li、Na、K、Rb、Csから選ばれる少なくとも1種であり;Mは、Sr、Ba、Pb、Biあるいは希土類元素La、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選ばれる少なくとも1種であり;M’は、Ti、Mg、Mn、Zn、Nb、Taから選ばれる少なくとも1種であり;x=0-1;n=2-8;d=0-2)。
【請求項4】
前記ナノシートが以下の組成式で表されるペロブスカイト酸化物である、請求項1から3のいずれかに記載の高誘電性ナノシート積層体。
組成式[CaNan−3Nb3n+1-d]、[(Ca1-xSr)Nan−3Nb3n+1-d]、あるいは[Mn−1A’n−3M’3n+1-d](A’は、H、Li、Na、K、Rb、Csから選ばれる少なくとも1種であり;Mは、Sr、Ba、Pb、Biあるいは希土類元素La、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選ばれる少なくとも1種であり;M’は、Ti、Mg、Mn、Zn、Nb、Taから選ばれる少なくとも1種であり;x=0-1;n=2-8;d=0-2)。
【請求項5】
厚さが1nm〜100nmである、請求項1から4のいずれかに記載の高誘電性ナノシート積層体。
【請求項6】
電極基板に請求項1から5のいずれかに記載の高誘電性ナノシート積層体を付着させた高誘電体素子。
【請求項7】
第1の電極基板と第2の電極基板の間に請求項1から5のいずれかに記載の高誘電性ナノシート積層体を設けた高誘電体素子。
【請求項8】
前記第1及び第2の電極基板の少なくとも一方の電極基板に請求項1から5のいずれかに記載の高誘電性ナノシート積層体を付着させ、前記高誘電性ナノシート積層体を中間にして前記第1及び第2の電極基板を配置する、請求項7に記載の高誘電体素子の製造方法。
【請求項9】
Langmuir-Blodgett法により前記酸化物を基板表面上に緻密かつ隙間なく被覆した単層膜を形成して前記単層膜を前記電極基板に付着する工程を繰り返すことにより、前記高誘電性ナノシート積層体を作製する、請求項6又は7に記載の高誘電体素子の製造方法。
【請求項10】
前記電極基板をカチオン性有機ポリマー溶液中に浸漬して、その基板表面に有機ポリマーを吸着させた後、前記ナノシートが懸濁したコロイド溶液中に浸漬することにより、前記ナノシートを静電的相互作用によって、前記ポリマー上に吸着させ、前記高誘電性ナノシート積層体を作製する、請求項6又は7に記載の高誘電体素子の製造方法。
【請求項11】
前記ナノシートを静電的相互作用によって前記電極基板上に吸着させる前記工程において、超音波を付与して前記ナノシート同士の重複部分を除去する、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記高誘電性ナノシート積層体を生成した後に、紫外線を照射して前記有機ポリマーを除去する、請求項10または11に記載の素子製造方法。
【請求項13】
前記高誘電性ナノシート積層体を生成した後に、加熱により前記有機ポリマーを除去する、請求項10または11に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−240884(P2012−240884A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112462(P2011−112462)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】