説明

Cu系配線膜の成膜方法

【課題】 低電気抵抗を維持した上で、基板との密着性を向上することが可能な新規なCu系配線膜の成膜方法を提供する。
【解決手段】 所定の酸素含有雰囲気中でCuターゲットを用いてスパッタリングにより成膜するCu系配線膜の成膜方法において、所定の酸素含有雰囲気中でCuターゲットに印加する電力量を所定の値に設定してスパッタリングにより成膜する第1の成膜工程を経た後、前記Cuターゲットに印加する電力量を第1の成膜工程よりも増加させてスパッタリングにより成膜する第2の成膜工程を行なうCu系配線膜の成膜方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面表示装置に用いられるCu系配線膜の成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、平面表示装置に使用される薄膜トランジスタ等の半導体電子部品においては、電子回路の高集積化や応答速度の高速化の進展に伴い、配線層の低抵抗化が求められている。現在、低抵抗化の配線材料としては、主にAl系の材料が用いられているが、更なる低抵抗化が要求されているため、Cu系の材料の採用が検討されている。
【0003】
薄膜トランジスタ等の半導体電子部品において、Cu配線は基板上に形成されるが、純Cu膜は基板に対する密着性が弱いために、Ti、Ta、Mo等の下地層を形成する構造が一般的である(例えば、特許文献1参照)。
また、半導体集積回路において、基板に対するCu配線層の密着性を向上させるためCu配線層の下地膜としてCuO層を形成する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2004−133422号公報
【特許文献2】特開平6−333925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に提案されるCuとTi、Ta、Mo等の金属膜を積層する配線構造は、低抵抗でありながら基板とに密着性が弱いCu配線の課題を克服するために効果的な方法である。しかしながら、Cu以外の金属膜を別に形成する必要があるため、金属膜の蒸着工程を追加しなければならず、製造効率の上ではなお課題を有するものである。
また、特許文献2に提案されるCu配線構造においても、Cu配線とは別に酸化Cu層を形成するという別工程を加えなければならず、この点において製造効率上なお課題を有するものである。
本発明の目的は、上記の課題に鑑み、低抵抗を維持した上で、基板との密着性を向上することが可能な新規なCu系配線膜の成膜方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、Cu系配線膜の成膜方法として、Cuターゲットを用いてスパッタリングする雰囲気を所定の酸素含有雰囲気に維持しつつも、Cuターゲットに印加する電力量の制御によって、基板との密着性を向上させると同時に、Cuが元来有する低抵抗の特性を有するCu系配線膜の成膜方法を見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、所定の酸素含有雰囲気中でCuターゲットを用いてスパッタリングにより成膜するCu系配線膜の成膜方法において、所定の酸素含有雰囲気中でCuターゲットに印加する電力量を所定の値に設定してスパッタリングにより成膜する第1の成膜工程を経た後、前記Cuターゲットに印加する電力量を第1の成膜工程よりも増加させてスパッタリングにより成膜する第2の成膜工程を行なうCu系配線膜の成膜方法である。
【0006】
また、前記第2の成膜工程の後、前記Cuターゲットに印加する電力量を第2の成膜工程よりも減少させてスパッタリングにより成膜する第3の成膜工程を行なうCu系配線膜の成膜方法である。
また、第1の成膜工程では膜厚10〜100nmの膜を成膜することが好ましく、第2の成膜工程では膜厚100〜500nmの膜を成膜することが好ましく、第3の成膜工程では膜厚10〜100nmの膜を成膜することが好ましい。
また、得られるCu系配線膜は比抵抗を10μΩcm以下とすることが好ましい。
また、第1の成膜工程でCuターゲットに印加する電力量は1〜10W/cmであることが好ましく、第2の成膜工程でCuターゲットに印加する電力量は2〜20W/cmであることが好ましく、第3の成膜工程でCuターゲットに印加する電力量は1〜10W/cmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低抵抗を維持した上で、基板との密着性を向上することが可能な新規なCu系配線膜を効率よく成膜方法することが可能となるので、平面表示装置用のCu配線膜の成膜方法として欠くことのできない技術となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の最大の特徴は、所定の酸素含有雰囲気中でCuターゲットを用いてスパッタリングする際に、Cuターゲットに印加する電力量を制御して、Cu系配線膜の基板に対する密着性を向上させることが可能となる点にある。
【0009】
本発明においては、まず、所定の酸素含有雰囲気中で、Cuターゲットに印加する電力量を所定の値に設定してスパッタリングを行なう第1の成膜工程を実施する。その後、同一のCuターゲットに印加する電力量を第1の成膜工程よりも増加させてスパッタリングを行なう第2の成膜工程を実施する。このCuターゲットに印加する電力量を第1の成膜工程よりも第2の成膜工程で増加させることで、低抵抗を維持した上で基板との密着性を向上することが可能となる。
【0010】
上記のように電力量を制御して基板に対する密着性を向上できる理由は明確ではないが、スパッタリングする際に、酸素含有雰囲気中で、Cuターゲットに印加する電力量を初期の値を低く抑える第1の成膜工程を実施することで、Cu系配線膜の成膜初期側には密着性に優れた酸素濃化された領域が形成されるためと考えられる。
印加される電力量が低い場合はCuタ−ゲット上から放出されるCu粒子の量は少なく、電力量が上昇すると放出されるCuの粒子は増加する。この時、電力量が低い場合は、酸素と反応した酸化Cu粒子が多く形成され酸素濃度が上昇する。一方、電力量が増加すると酸素と反応しないCu粒子が増加すると同時に酸素と反応した酸化Cu粒子の一部は分解してCu粒子となって放出され、Cu粒子の割合が増加することとなり、酸素濃度を低下することができる。
【0011】
このように、電力量を低い値に設定すると膜中の酸素量を増加させることができ、電力量を増加させると酸素量がより低い領域を形成することができる。
つまり、第1の成膜工程で密着性に有効な酸素濃化領域を形成すること、第2の成膜工程で低抵抗性が要求される低酸素領域を形成することを、Cuターゲットに印加する電力量を第1の成膜工程よりも第2の成膜工程で増加させる電力量制御により達成できる点が、本発明の重要な特徴である。
【0012】
また、Cu系配線膜の用途によっては、Cu系配線膜上に耐湿性が要求される場合がある。そのため、Cu系配線膜の成膜終期側にも酸素濃化された領域を形成することが耐湿性を向上させるには有効と考えられる。
そこで、酸素雰囲気中でスパッタリングする際に、第2の成膜工程後に、Cuターゲットに印加する電力量を第2の成膜工程よりも減少させてスパッタリングを行なうことで、成膜初期側のみならず成膜終期側にも内部よりも酸素濃化された領域を形成することが可能となる。そして、上記の方法によって、基板との密着性と同時にCu系配線膜上の耐湿性を改善したCu系配線膜を形成することが可能となる。
【0013】
また、本発明においてスパッタリングガス中の酸素分圧は、密着性を向上させるための酸素濃化された領域を形成することと、低抵抗を維持するためのバランスをとることが有効である。配線膜としての要求値によって適正な酸素分圧は異なるが、酸素分圧が高すぎると本来Cuが有する低抵抗性が得にくくなるため、酸素分圧は30%以下とすることが望ましい。より望ましくは15%以下である。また、十分な密着性を得るために酸素分圧は3%以上であることがより好ましい。
【0014】
また、第1の成膜工程では、膜厚10〜100nmの膜を成膜することが望ましい。それは、膜厚が10nmに満たない場合には、密着性が十分得られない場合があり、100nmを超えると配線膜の抵抗値が上昇する場合があるためである。
また、第2の成膜工程では、膜厚100〜500nmの膜を成膜することが望ましい。それは、膜厚が100nmに満たない場合には、膜が薄すぎるために導電を得るのに十分な抵抗値を得づらいためであり、500nmを超えると抵抗値は低く抑えられるが、成膜に時間がかかり生産効率上望ましくないためである。
また、第3の成膜工程では、膜厚10〜100nmの膜を成膜することが望ましい。それは、膜厚が10nmに満たない場合には、耐湿性を向上させるのに十分な膜を形成できない場合があり、100nmを超えると配線膜の抵抗値が上昇する場合があるためである。
【0015】
また、Cuターゲットに印加する電力量の制御も重要となる。十分なスパッタリングによる成膜速度を維持するためには、電力量としては、使用するターゲットの単位面積当たりの電力密度に換算して、1W/cm以上であることが望ましい。膜中に含まれる酸素量は、雰囲気の酸素分圧が同じ場合、投入電力に大きく影響される。
そして、第1の成膜工程でCuターゲットに印加する電力量は1〜10W/cmであることが望ましく、第2の成膜工程でCuターゲットに印加する電力量は第1の成膜工程よりも増加させ2〜20W/cmであることが望ましい。それは、密着性と低い抵抗値を両立させるためである。第1の成膜工程の電力量は、基板または下地膜との密着性を確保するために必要な酸素量を含有させるために1〜10W/cmに制御することが望ましいためである。より好ましくは1〜7W/cmである。また、第2の成膜工程は低い抵抗値を得るために、第1の成膜工程より高い電力量である2〜20W/cmとすることが望ましく、より好ましくは4〜20W/cmである。また、第3の成膜工程でCuに印加する電力量は、第2の成膜工程よりも減少させ第1の成膜工程と同様に1〜10W/cmであることが望ましい。
また、Cuターゲットに印加する電力量は、密着性を維持しつつより比抵抗を低くするために、第2の成膜工程では第1の成膜工程で設定する2倍以上の値とすることが望ましい。
【0016】
また、本発明のCu系配線膜の成膜方法で得られるCu系配線膜は、平面表示装置等の配線膜として使用される場合には低い比抵抗とすることが好ましいため、比抵抗を10μΩcm以下とすることが望ましい。
【0017】
また、本発明においてCu系配線膜は、ガラス基板、Siウェハ基板、樹脂基板等の上に形成することが可能であるが、特に一般的に平面表示装置を製造するのに使用されているガラス基板上へ成膜するのに有効である。また、配線保護膜であるSiN膜やSi膜等の薄膜の上に形成することで、これらの膜との密着性、Si膜との拡散抑制にも有効である。
【実施例1】
【0018】
25×50mmのガラス基板上(コーニング1737)に、純度99.99%のCuターゲット(直径164mm×厚さ5mm)を使用して、酸素ガス分圧を10%としたAr+Oガスの酸素含有雰囲気中で、250nmのCu系配線膜を成膜した。その際、Cuターゲットに印加する電力量を初期の値を500Wとして、50nmの厚さに成膜し(第1の成膜工程)、その後、印加する電力量を1000Wに増加させて200nmの膜厚で成膜した(第2の成膜工程)。なお、上記のスパッタリング成膜には、スパッタリング装置としてアネルバ製C−3010を使用した。
また、比較例として、上記と同様のCuターゲットを使用して、Arガスのみでスパッタ成膜したCu系配線膜、酸素ガス分圧を10%としたAr+Oガスの酸素含有雰囲気中でCuターゲットに印加する電力量をそれぞれ500W、1000Wの一定値でスパッタ成膜したCu系配線膜も作製した。
【0019】
また、上記で作製したCu系配線膜の各試料について、比抵抗を測定するとともに、密着性試験として、各試料のCu系配線膜に2mm間隔で碁盤の目状に切れ目を入れた後、膜表面にテープを貼り、引き剥がした時に基板上に残った桝目を面積率で評価する試験を行った。以上の結果を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
表1から、本発明例の試料4では、7.8μΩcmの低い抵抗を維持しつつ、基板に対する十分な密着性を有していることが分かる。
【実施例2】
【0022】
25×50mmのガラス基板上(コーニング1737)に、純度99.99%のCuターゲット(直径164mm×厚さ5mm)を使用して、酸素分圧を10%としたAr+Oガスの酸素含有雰囲気中で、280nmのCu系配線膜を成膜した。その際、Cuターゲットに印加する電力量を初期の値を500Wとして、50nmの厚さに形成し(第1の成膜工程)、その後、印加する電力量を1000Wに増加させて200nmの厚みに成膜した(第2の成膜工程)。次いで印加する電力量を700Wに減少させて30nmの厚みに成膜した(第3の成膜工程)。なお、上記のスパッタリング成膜には、スパッタリング装置としてアネルバ製C−3010を使用した。
【0023】
また、上記で作製したCu系配線膜の各試料について、比抵抗を測定するとともに、密着性試験として、各試料のCu系配線膜に2mm間隔で碁盤の目状に切れ目を入れた後、膜表面にテープを貼り、引き剥がした時に基板上に残った桝目を面積率で評価する試験を行った。以上の結果を表2に示す。
【0024】
【表2】

【0025】
表2から、本発明例の試料5では、8.2μΩcmの低い抵抗を維持しつつ、基板に対する十分な密着性を有していることが分かる。

【実施例3】
【0026】
25×50mmのガラス基板上(コーニング1737)に、純度99.99%のCuターゲット(直径100mm×厚さ5mm)を使用して、酸素ガス分圧を6%としたAr+Oガスの酸素含有雰囲気中で、250nmのCu系配線膜を成膜した。その際、Cuターゲットに印加する電力量を表3に示す値として50nmの厚さに成膜し(第1の成膜工程)、その後、表3に示す電力量に増加させて200nmの膜厚で成膜した(第2の成膜工程)。なお、上記のスパッタリング成膜には、スパッタリング装置としてアルバック製CS−200を使用した。
また、上記で作製したCu系配線膜の各試料について、実施例1と同様に比抵抗の測定と密着性試験を行った。以上の結果を表3に示す。
【0027】
【表3】

【0028】
表3から、本発明例によれば、低い抵抗を維持しつつ、基板に対する十分な密着性を有していることが分かる。また、電力量は、第2の成膜工程時の値を第1の成膜工程時の値の2倍以上としてより大きくすることで、より低い比抵抗が得られることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の酸素含有雰囲気中でCuターゲットを用いてスパッタリングにより成膜するCu系配線膜の成膜方法において、
所定の酸素含有雰囲気中でCuターゲットに印加する電力量を所定の値に設定してスパッタリングにより成膜する第1の成膜工程を経た後、前記Cuターゲットに印加する電力量を第1の成膜工程よりも増加させてスパッタリングにより成膜する第2の成膜工程を行なうことを特徴とするCu系配線膜の成膜方法。
【請求項2】
前記第2の成膜工程の後、前記Cuターゲットに印加する電力量を第2の成膜工程よりも減少させてスパッタリングにより成膜する第3の成膜工程を行なうことを特徴とする請求項1に記載のCu系配線膜の成膜方法。
【請求項3】
前記第1の成膜工程では、膜厚10〜100nmの膜を成膜することを特徴とする請求項1または2に記載のCu系配線膜の成膜方法。
【請求項4】
前記第2の成膜工程では、膜厚100〜500nmの膜を成膜することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のCu系配線膜の成膜方法。
【請求項5】
前記第3の成膜工程では、膜厚10〜100nmの膜を成膜することを特徴とする請求項2に記載のCu系配線膜の成膜方法。
【請求項6】
比抵抗が10μΩcm以下のCu系配線膜を得ることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のCu系配線膜の成膜方法。
【請求項7】
前記第1の成膜工程でCuターゲットに印加する電力量は、1〜10W/cmであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のCu系配線膜の成膜方法。
【請求項8】
前記第2の成膜工程でCuターゲットに印加する電力量は、2〜20W/cmであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のCu系配線膜の成膜方法。
【請求項9】
前記第3の成膜工程でCuターゲットに印加する電力量は、1〜10W/cmであることを特徴とする請求項2または5に記載のCu系配線膜の成膜方法。

【公開番号】特開2009−76889(P2009−76889A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214489(P2008−214489)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】