説明

EUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの多層反射膜を成膜する方法、ならびにEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの製造方法

【課題】多層反射膜の成膜により基板に応力が加わっても、基板が変形せず平坦度を良好とできるEUVマスクブランクの多層反射膜の成膜方法の提供、およびバッファ層及び吸収層の成膜により基板に応力が加わっても、基板が変形せず平坦度を良好とできるEUVマスクブランクの製造方法の提供。
【解決手段】スパッタリング法を用いて、基板上にEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの多層反射膜を成膜する方法であって、多層反射膜の成膜により基板に加わる応力と逆方向の応力を前記基板が有するように、前記基板を変形させた状態で前記多層反射膜の成膜を実施し、前記多層反射膜の成膜後、前記基板を変形前の形状に戻すことを特徴とするEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの多層反射膜の成膜方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に多層膜を成膜する方法に関する。より具体的には、基板上に半導体製造等に使用されるEUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外)リソグラフィ用反射型マスクブランク(以下、「EUVマスクブランク」という。)の多層反射膜を成膜する方法、およびEUVマスクブランクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体産業において、Si基板等に微細なパターンからなる集積回路を形成する上で必要な微細パターンの転写技術として、可視光や紫外光を用いたフォトリソグラフィ法が用いられてきた。しかし、半導体デバイスの微細化が加速している一方で、従来の光露光の露光限界に近づいてきた。光露光の場合、パターンの解像限界は露光波長の1/2程度であり、液浸法を用いても露光波長1/4程度と言われており、ArFレーザ(193nm)の液浸法を用いても45nm程度が限界と予想される。そこで45nm以降の露光技術として、ArFレーザよりさらに短波長のEUV光を用いた露光技術であるEUVリソグラフィが有望視されている。本明細書において、EUV光とは、軟X線領域または真空紫外線領域の波長の光線をさし、具体的には波長10〜20nm程度、特に13.5nm±0.3nm程度の光線を指す。
【0003】
EUV光は、あらゆる物質に対して吸収されやすく、かつ屈折率が1に近いため、従来の可視光または紫外光を用いたフォトリソグラフィのような屈折光学系を使用することができない。このため、EUV光リソグラフィでは、反射光学系、すなわち反射型フォトマスクとミラーとが用いられる。
【0004】
マスクブランクは、フォトマスク製造用のパターニング前の積層体である。反射型フォトマスク用のマスクブランクの場合、ガラス製等の基板上にEUV光を反射する反射層と、EUV光を吸収する吸収層とがこの順で形成された構造を有している。反射層としては、高屈折率材料の膜と低屈折材料の膜とを交互に積層することで、光線を層表面に照射した際の光線反射率、より具体的にはEUV光を層表面に照射した際の光線反射率が高められた多層反射膜が通常使用される。このような多層反射膜において、高屈折率材料には、Moが広く使用され、低屈折材料にはSiが広く使用される。多層反射膜の成膜には、従来マグネトロンスパッタリング法が用いられていたが(特許文献1参照)、欠点が少なく精度が高い膜が得られることからイオンビームスパッタリング法が主流になりつつある(特許文献2参照)。
一方、吸収層には、EUV光に対する吸収係数の高い材料、具体的にはたとえば、CrやTaを主成分とする材料層が用いられ、これらは通常マグネトロンスパッタ法により成膜される(特許文献2〜6参照)。
【0005】
基板上に薄膜を成膜した際、成膜後の膜で圧縮応力や引張応力が発生する場合がある。
これらの圧縮応力や引張応力が基板に加わることによって、基板が変形するおそれがある。フォトマスク用の基板には通常低膨張ガラス製の基板が使用されるので、応力が加わることによって生じる基板の変形は軽微であるため、従来問題とならなかった。
しかしながら、パターンの微細化の要請によって、従来問題視されなかった基板の微少な変形(応力が加わることによってよって生じる基板の変形)が問題となってきた。
特許文献7には、薄膜自体に膜応力がある場合においても、マスクブランクの平坦度が所望の平坦度となり、マスクのパターン位置精度や、パターン転写の際、パターン位置ずれやパターン欠陥が発生することがないマスクブランクおよび転写用マスクの製造方法、およびそれに用いる電子デバイス用透明基板の平坦度決定方法および製造方法が記載されている。特許文献7に記載の方法では、マスクブランクに使用される電子デバイス用透明基板の主表面上に形成する薄膜の膜応力に起因した平坦度変化量を見込んで、マスクブランクの平坦度が所望の平坦度となるように、前記基板の平坦度を決定し、それに応じて基板表面を凸状または凹状に研磨して、前記基板の平坦度を調整することが提案されている。
【0006】
また、特許文献8では、低熱膨張性物質で作成されたEUVマスク基板と、該基板上に形成される多層膜コーティングと、の間で生じる応力アンバランスによるたわみを直すために、該基板の裏面側に高誘電性コーティングを施して、該基板の静電チャッキングを促すことが提案されている。また、特許文献8では、EUVマスク基板と、該基板上に形成する物質層と、の応力のアンバランスによるたわみを防止するために、該基板と該物質層との間に応力バランシング層を形成することが提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開2002−222764号公報
【特許文献2】特開2004−246366号公報
【特許文献3】特開2002−319542号公報
【特許文献4】特開2004−6798号公報
【特許文献5】特開2004−6799号公報
【特許文献6】特開2004−39884号公報
【特許文献7】特開2004−29736号公報
【特許文献8】特表2003−501823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献7に記載の方法では、薄膜の膜応力に起因した平坦度変化量に応じて、基板表面を所定の形状(凸状または凹状)に研磨することは困難であり、しかも手間がかかる。また、このような研磨を行った場合、基板の平坦度をEUVマスクブランクの仕様内に収めつつ、基板のウェッジ角度やローカルスロープをEUVマスクブランクの仕様内に収めるように予想して研磨することは非常に困難である。
また、EUVマスクブランクを製造する場合、基板上に組成が異なる複数の膜を成膜する。例えば、反射層としては、高屈折率材料の膜と低屈折材料の膜とを交互に積層させた多層反射膜が使用される。該多層反射膜上に成膜される吸収層としては、EUV光に対する吸収係数の高い材料層が用いられる。これらの膜で発生する応力が、必ずしも同一の傾向の応力であるとは限らず、引っ張り応力が発生している膜と、圧縮応力が発生している膜と、が積層されている場合もある。このような場合に、全ての膜で発生する応力に対応するように、基板表面を研磨することは実質的に不可能である。したがって、特許文献7に記載の方法では、全ての膜を成膜した時点で発生している応力(各膜で発生する応力の合計)に対応するように基板表面を研磨することになる。
【0009】
したがって、特許文献7に記載の方法をEUVマスクブランクに適用した場合、成膜過程において、研磨された基板表面の形状が成膜された膜で発生している応力と対応していない状態もありうる。例えば、基板表面の形状が膜で引張応力が発生している状況に対応する形状であるにもかかわらず、成膜された膜では圧縮応力が発生している状態もありうる。この状態で基板を静電チャックやフォルダといった固定手段から取り外すと、成膜された膜で発生している応力と、研磨された基板表面の形状と、が対応していないために、平坦な基板表面に成膜した場合よりも、膜の応力による基板の変形がかえって促進されるおそれがある。
【0010】
一方、特許文献8に記載の方法にしたがって、基板の裏面側に高誘電性コーティングを施して基板の静電チャッキングを促した場合、静電チャックで固定された状態の基板ではたわみが発生しないが、基板と物質層との応力のアンバランスが改善されたわけではない。したがって、基板を静電チャックから取り外した際に、基板と物質層との応力のアンバランスによって、基板にたわみが発生するおそれがある。
また、EUVマスクブランクを製造する場合、EUVマスク基板上に形成する膜の種類や厚さは、光学特性等の理由から制限される。このため、基板と物質層との間に形成する応力バランシング層として使用する物質の種類や、応力バランシング層の厚さは自ずと制約される。したがって、基板と物質層との応力のアンバランスを十分改善することが困難であった。
【0011】
上記の問題を解決するため、本発明は、多層膜の成膜により基板に応力が加わっても、基板が変形せず平坦度を良好とできる多層膜の成膜方法を提供することを目的とする。より具体的には、本発明は、多層反射膜の成膜により基板に応力が加わっても、基板が変形せず平坦度を良好とできるEUVマスクブランクの多層反射膜の成膜方法を提供することを目的とする。また、本発明は、バッファ層及び吸収層の成膜により基板に応力が加わっても、基板が変形せず平坦度を良好とできるEUVマスクブランクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、基板上に多層膜を成膜する方法であって、
多層膜の成膜により基板に加わる応力と逆方向の応力を前記基板が有するように、前記基板を変形させた状態で前記多層膜の成膜を実施し、
前記多層膜の成膜後、前記基板を変形前の形状に戻すことを特徴とする多層膜の成膜方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、スパッタリング法を用いて、基板上にEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの多層反射膜を成膜する方法であって、
多層反射膜の成膜により基板に加わる応力と逆方向の応力を前記基板が有するように、前記基板を変形させた状態で前記多層反射膜の成膜を実施し、
前記多層反射膜の成膜後、前記基板を変形前の形状に戻すことを特徴とするEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの多層膜の成膜方法(以下、本明細書において「本発明の多層反射膜成膜方法」という。)を提供する。
本発明の多層反射膜成膜方法において、変形前の形状に戻した後の前記基板の平坦度が100nm以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の多層反射膜成膜方法において、前記基板を変形させた状態で前記多層反射膜の成膜を実施するために、前記基板との接合面が前記基板の変形後の形状に対応した形状を有する第1の静電チャックを用いて前記基板を固定することが好ましい。
本発明の多層反射膜成膜方法において、前記第1の静電チャックは、チャック力が0.5kPa以上であり、ヤング率が10GPa以上であることが好ましい。
本発明の多層反射膜成膜方法において、前記基板は、比剛性が3.0×1072/s2以上であり、ポアソン比が0.16〜0.25であることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、本発明の多層反射膜成膜方法を用いて、基板上に多層反射膜を成膜した後、
スパッタリング法を用いて、前記多層反射膜上に吸収層を成膜することによりEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクを製造する方法であって、
吸収層の成膜により基板に加わる応力と逆方向の応力を前記基板が有するように、前記基板を変形させた状態で前記吸収層の成膜を実施し、
前記吸収層の成膜後、前記基板を変形前の形状に戻すことを特徴とするEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの製造方法を提供する。
【0016】
また、本発明は、本発明の多層反射膜成膜方法を用いて、基板上に多層反射膜を成膜した後、
スパッタリング法を用いて、前記多層反射膜上にバッファ層及び吸収層を成膜することによりEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクを製造する方法であって、
バッファ層及び吸収層の成膜により基板に加わる応力と逆方向の応力を前記基板が有するように、前記基板を変形させた状態で前記バッファ層及び吸収層の成膜を実施し、
前記吸収層の成膜後、前記基板を変形前の形状に戻すことを特徴とするEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの製造方法を提供する。
【0017】
以下、本明細書において、[0015]および[0016]に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの製造方法のことを総称して「EUVマスクブランクの製造方法」という。
【0018】
本発明のEUVマスクブランクの製造方法において、変形前の形状に戻した後の前記基板の平坦度が100nm以下であることが好ましい。
【0019】
本発明のEUVマスクブランク製造方法において、前記基板を変形させた状態で前記吸収層、あるいは、バッファ層及び吸収層の成膜を実施するために、前記基板との接合面が前記基板の変形後の形状に対応した形状を有する第2の静電チャックを用いることが好ましい。
【0020】
本発明のEUVマスクブランク製造方法において、前記第2の静電チャックは、チャック力が0.5kPa以上であり、ヤング率が10GPa以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の多層反射膜成膜方法では、多層反射膜の成膜により基板に加わる応力と逆方向の応力(以下、本明細書において「第1の応力」という。)によって、多層反射膜の成膜により基板に加わる応力が軽減される。この結果、多層反射膜の成膜により基板に加わる応力によって、成膜後の基板が変形するおそれがない。これにより、平坦度に優れたEUVマスクブランクの多層反射膜、具体的には平坦度が100nm以下の多層反射膜を得ることができる。
本発明のEUVマスクブランク製造方法の第1実施形態では、吸収層の成膜により基板に加わる応力と逆方向の応力(以下、本明細書において「第2の応力」という。)によって、吸収層の成膜により基板に加わる応力が軽減される。この結果、吸収層の成膜により基板に加わる応力によって、成膜後の基板が変形するおそれがない。これにより、平坦度に優れたEUVマスクブランク、具体的には平坦度が100nm以下のEUVマスクブランクを製造することができる。
さらに、本発明のEUVマスクブランク製造方法の第2実施形態では、バッファ層の成膜により基板に加わる応力と、吸収層の成膜により基板に加わる応力と、を合計した応力(以下、本明細書において「バッファ層及び吸収層の成膜により基板に加わる応力」ともいう。)に対して逆方向の応力(以下、本明細書において「第3の応力」という。)によって、バッファ層及び吸収層の成膜により基板に加わる応力が軽減される。この結果、バッファ層及び吸収層の成膜により基板に加わる応力によって、成膜後の基板が変形するおそれがない。これにより、平坦度に優れたEUVマスクブランク、具体的には平坦度が100nm以下のEUVマスクブランクを製造することができる。
【0022】
本発明の多層反射膜成膜方法によれば、成膜用の基板として、平坦度が100nm超の基板を用いて、平坦度100nm以下の多層反射膜を得ることもできる。
本発明のEUVマスクブランクの製造方法によれば、成膜用の基板として、平坦度が100nm超の基板を用いて、平坦度100nm以下のEUVマスクブランクを製造することもできる。
また、多層反射膜の応力はその膜厚や層数によって大体の値は決まってくるので、成膜する多層反射膜の膜厚や層数が同程度である場合、多層反射膜の成膜により基板に加わる応力は大体一定となる。したがって、本発明の多層反射膜成膜方法において、多層反射膜成膜時に基板が有する第1の応力も大体一定となる。よって、本発明の多層反射膜成膜方法を実施する際、基板毎に第1の応力を変更する必要がなく、具体的には、基板毎に静電チャックの形状を変更する必要がない。このため、多層反射膜付基板の生産性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、基板上に多層膜を成膜する方法であって、多層膜の成膜により基板に加わる応力と逆方向の応力を前記基板が有するように、前記基板を変形させた状態で前記多層膜の成膜を実施し、前記多層膜の成膜後、前記基板を変形前の形状に戻すことを特徴とする。
まず初めに、本発明の多層反射膜成膜方法について説明する。本発明の多層反射膜成膜方法は、マグネトロンスパッタリング法やイオンビームスパッタリング法といったスパッタリング法を用いて、基板上にEUVマスクブランクの多層反射膜(以下、単に「多層反射膜」という。)を成膜する点は従来の方法と同様である。但し、本発明の多層反射膜成膜方法では、第1の応力を基板が有するように基板を変形させた状態で多層反射膜の成膜を実施する。
【0024】
マグネトロンスパッタリング法やイオンビームスパッタリング法といったスパッタリング法を用いて、基板上に多層反射膜を成膜した場合、成膜後の多層反射膜では応力(通常は圧縮応力)が発生し、この応力が基板に加わる。このような応力のことを、以下、本明細書において「多層反射膜の成膜により基板に加わる応力」または「多層反射膜の成膜による応力」という。
例えば、イオンビームスパッタリング法を用いて、基板上に多層反射膜として、Si膜(低屈折率層、膜厚4.5nm)と、Mo膜(高屈折率層、膜厚2.3nm)と、を交互に40〜50層成膜して、Si/Mo多層反射膜を成膜した場合、通常基板には多層反射膜の成膜により400〜500MPaの圧縮応力が加わる。多層反射膜を成膜する際、基板は静電チャックやフォルダによって固定されている。この状態では、多層反射膜の成膜による400〜500MPaの圧縮応力が基板に加わったとしても、それによって基板が変形することはない。しかしながら、基板を静電チャックやフォルダから取り外すと、多層反射膜の成膜による400〜500MPaの圧縮応力が加わることによって、高い剛性を有する石英ガラス基板であってもある程度変形する。
例えば、EUVマスクブランク用の基板として、一般的に使用されるSiO2−TiO2系のガラス基板(外形6インチ(152.4mm)角、厚さ6.3mm、熱膨張率0.2×10-7/℃、ヤング率67GPa、比剛性3.1×1072/s2)に、多層反射膜の成膜による400〜500MPaの圧縮応力が加わった場合、基板は成膜面側に1.9〜2.1μm程度凸状に反った状態に変形している。EUVマスクブランクにおいて、平坦度の許容限界値はマスクブランクの端から端までで100nm以下である。なお、「多層反射膜成膜後の基板の平坦度」とは、多層反射膜上の平坦度を意味する。
熱処理等によって多層反射膜成膜後の基板の平坦度を許容限界値以下に下げることは可能であるが、このような処理を行った場合、EUVマスクブランクの光学特性が悪化する可能性がある。
【0025】
本発明の多層膜成膜方法では、第1の応力を基板が有するように、基板を変形させた状態で多層反射膜の成膜を実施する。例えば、上記した例では、多層反射膜の成膜により400〜500MPaの圧縮応力が基板に加わるので、第1の応力は、この圧縮応力と同程度の大きさの引張応力である。
詳しくは後述するが、第1の応力を基板が有するように、基板を変形させた状態で多層反射膜の成膜を実施した場合、多層反射膜成膜後の基板を元の形状に戻した際に、多層反射膜の成膜により基板に加わる応力は、第1の応力によって打ち消されて基板を変形させない程度まで軽減される。
ここで、「第1の応力」とは、上記したように、多層反射膜の成膜により基板に加わる応力と逆方向の応力である。但し、多層反射膜の成膜により基板に加わる応力は、二次元的な応力であるのに対して、第1の応力は、基板を変形させることによって生じるものであるため、三次元的な応力であると考えられる。したがって、上記した「第1の応力」に関する定義を狭義に解釈、すなわち文言通りに解釈した場合、多層反射膜の成膜により基板に加わる応力に対して逆方向の応力であるとは言えない場合もある。この点に関して、本明細書では、「第1の応力」に関する定義を広義に解釈する。具体的には、上記したように、多層反射膜の成膜により基板に加わる応力が圧縮応力である場合、これと同程度の大きさの引張応力、またはこれに相当する三次元的な応力を第1の応力とする。なお、後述する第2の応力および第3の応力についても同様である。
【0026】
上記した点から明らかなように、本発明の多層反射膜成膜方法において、第1の応力の大きさは、多層反射膜の成膜により基板に加わる応力の大きさによって異なる。
本発明の多層反射膜成膜方法において、多層反射膜の成膜により基板に加わる応力が、第1の応力によって300MPa以下まで低減されることが好ましく、200MPa以下まで低減されることがより好ましく、100MPa以下まで低減されることがさらに好ましい。本発明の多層反射膜成膜方法において、第1の応力の大きさは、多層反射膜の成膜により基板に加わる応力の大きさと等しいことがより好ましい。
【0027】
本発明の多層反射膜成膜方法において、変形によって基板が第1の応力を有するようにするためには、多層反射膜の成膜による圧縮応力が加わることによって基板が変形する方向とは逆方向に基板を変形させればよい。上記した例では、多層反射膜の成膜による圧縮応力が加わることによって、成膜面側に対して、1.9〜2.1μm程度、一般的には1.95〜2.05μm程度、凸状に反った状態に基板が変形する。よって、基板1が第1の応力を有するようにするためには、成膜面側に対して1.9〜2.1μm程度、好ましくは1.95〜2.05μm程度、凹状に反った状態になるように基板を変形させればよい。
【0028】
図1(a)〜(e)は、本発明の多層反射膜成膜方法を説明するための概念図であり、多層反射膜成膜前後の基板の形状を示している。図1(a)は、多層反射膜を成膜する前の基板1を示している。図1(a)に示すように、多層反射膜を成膜する前の基板1は、研磨により平坦度0μmが目標となっている。図1(a)において、線10は基板1の変形の有無をより明確にするために示した仮想水平線である。図1(b)は従来の手順にしたがって、スパッタリング法を用いて多層反射膜2を成膜した後の基板1を示している。
図1(b)では、多層反射膜2の成膜による圧縮応力が基板1に加わり、これによって、基板1が成膜面側に凸状に反った状態に変形している。
図1(c)は、多層反射膜2成膜後の基板1が図1(b)に示す形状に変形するのを防止するために、第1の応力を有するように変形させた基板1を示している。図1(c)において基板1は、成膜面側に凹状に反った状態に変形している。本発明の多層反射膜成膜方法では、基板1を図1(c)に示す形状に変形させた状態で、スパッタリング法を用いて多層反射膜を成膜する。図1(d)は、図1(c)に示す基板1上に多層反射膜2を成膜した状態を示している。
【0029】
本発明の多層反射膜成膜方法では、図1(d)に示すように、第1の応力を有するように基板1を変形させた状態で多層反射膜2を成膜した後、基板1を変形前の形状に戻す。
なお、図1(d)に示す状態から、基板1を変形前の形状に戻すためには、変形させるために基板1に加えていた力を解除すればよい。この結果、基板1は復元力によって変形前の形状に戻る。
図1(e)は、多層反射膜2の成膜後、基板1を変形前の形状に戻した状態を示している。図1(e)に示す状態において、多層反射膜の成膜により基板1に加わる圧縮応力は、第1の応力によって打ち消されて基板を変形させない程度まで軽減される。この結果、多層反射膜の成膜により基板1に加わる圧縮応力によって基板1が変形することが防止される。
【0030】
本発明の多層反射膜成膜方法において、基板1を第1の応力を有するように変形させた状態で多層反射膜2の成膜を実施する手段、すなわち、基板1を第1の応力を有するように変形させる手段は特に限定されない。したがって、例えば図1(c)に示すように、基板1を成膜面側に凹状に反った状態に変形させる場合、図1(a)に示す基板1の両側面を、図面中央方向に向けて特定の大きさの力で押すことによって、成膜面側に凹状に反った状態に変形させてもよい。前記力の大きさは中央方向に向けて同じ力であることが好ましい。
本発明の多層反射膜成膜方法において、基板1を第1の応力を有するように変形させた状態で多層反射膜2の成膜を実施するために、特定の形状をした静電チャックを用いて基板1を固定することが好ましい。この場合、静電チャックが基板1を第1の応力を有するように変形させる手段である。
マグネトロンスパッタリング法やイオンビームスパッタリング法といったスパッタリング法を用いて基板上に成膜する際、静電チャックは基板を固定する手段として最も一般的に使用される。そのため、基板を変形させる手段として静電チャックを用いた場合、スパッタリングを実施する系内に、基板の変形のみに使用される新たな手段を持ち込む必要がない。スパッタリングを実施する系内にこのような新たな手段を持ち込んだ場合、該手段に付着したスパッタ粒子が剥離することによって、基板および多層反射膜を汚染するおそれがある。また、基板を変形させる手段として静電チャックを用いた場合、基板の成膜面全体を一度に成膜することができる。
【0031】
静電チャックを用いて、基板1が第1の応力を有するように変形させるためには、基板との接合面が基板の変形後の形状に対応する形状をした第1の静電チャックを用いればよい。
図2は、基板1を図1(c)に示す形状に変形させる際に使用する第1の静電チャックの概念図である。なお、図2には、図1(c)の基板1も併せて示してある。図2に示す第1の静電チャック20は、基板1との接合面20aが、図1(c)に示す変形後の基板1の形状と対応する。具体的には、接合面20aが凹面形状になっており、図1(c)に示す変形後の基板1の成膜面に対して裏面側の面(以下、本明細書において、「基板1の裏面」という。)の形状と対応する。このような形状の第1の静電チャック20に基板1を固定することによって、基板1を図1(c)に示す形状に変形させることができる。なお、図2では、静電チャック自らの接合面20aが凹面形状となっているが、静電チャックの接合面は水平のままとしつつ、静電チャックと基板との間に凹面形状を有する整形部材を挿入することで対応することも可能であり、この態様も上記した第1の静電チャック、すなわち、基板との接合面が基板の変形後の形状に対応する形状をした静電チャックに含まれる。このような整形部材を使用する場合、整形部材を含めた第1の静電チャック全体が、後述する条件を満たしていることが必要となる。
なお、第1の静電チャック20が、基板1の変形後の形状に対応する形状を有する場合、第1の静電チャック20の基板1との接合面20aの形状と、基板1の変形後の形状と、のずれが最大で2mm以下、特に1mm以下、さらには0.1mm以下とすることが好ましい。
【0032】
但し、EUVマスクブランクの製造に使用される基板は、石英ガラス基板のように、高い剛性を有する基板が使用されるので、静電チャックを用いて基板を第1の応力を有するように変形させるためには、第1の静電チャックが以下の条件を満たしていることが必要となる。
(a)成膜に使用する基板よりも高い剛性(ヤング率、ポアソン比)を有していること。
(b)チャック力が十分強く、基板を変形させることができること。
上記(a)に関して、第1の静電チャックは、ヤング率およびポアソン比がそれぞれ以下の条件を満たすことが好ましい。
ヤング率:10GPa以上、好ましくは50GPa以上
ポアソン比:0.4以下、好ましくは0.3以下
第1の静電チャック20の剛性が基板1の剛性よりも低い場合、基板1ではなく静電チャック20のほうが変形してしまうおそれがある。静電チャックの剛性は、形状や大きさによっても影響されるため、ヤング率、ポアソン比のみで判断することはできないが、ヤング率およびポアソン比を上記範囲とすることは、静電チャックの剛性を高めるうえで好ましい。
【0033】
第1の静電チャックが上記のヤング率およびポアソン比を満たしているためには、静電チャックが硬度の高い材料を用いて作製されていることが必要となる。また、基板と接触する静電チャック表面部分の材料は、高誘電体であること、具体的には1MHzでの比誘電率が8以上であることが要求される。
このような要求を満足するため、基板との接触する静電チャックの表面部分の材料としては、例えばアルミナ、窒化アルミ、炭化ケイ素のようなセラミック材料が使用される。
【0034】
上記(b)に関して、第1の静電チャックは、チャック力が0.5kPa以上のものを使用することが好ましく、より好ましくはチャック力が1.0kPa以上である。第1の静電チャックのチャック力が小さい場合、第1の静電チャック20に基板1を固定した際に、基板1を十分変形させることができない場合がある。チャック力が上記の範囲であれば、石英ガラス基板のように、剛性の高い基板であっても所望の形状に変形させることができる。
【0035】
本発明の多層反射膜成膜方法において、第1の静電チャック20の形状および寸法、より具体的には、第1の静電チャック20の接合面20aの平面形状および寸法、は特に限定されない。したがって、該接合面20aの平面形状は、円形や楕円形であってもよく、正方形、矩形であってもよく、六角形、八角形若しくはその他の多角形であってもよい。但し、接合面20aの形状は、該接合面20aに固定する基板1の平面形状と実質的に同一であることが、該接合面20aに固定した基板1を所望の形状に変形するのに好ましい。
接合面20aの寸法は、該接合面20に固定する基板1の寸法よりも大きくてもよいし、小さくてもよい。但し、接合面20aが基板1よりも大きい場合、スパッタリング法を用いて多層反射膜を成膜する際に、スパッタ粒子が該接合面20aに付着して汚染源となるおそれがある。また、接合面20aが基板1よりも小さ過ぎる場合、該接合面20aに固定した基板1を所望の形状に変形することができない場合がある。このため、該接合面20aの寸法は、基板1の寸法よりわずかに小さいことが好ましい。
【0036】
本発明の多層反射膜成膜方法において、第1の静電チャック20を用いて、基板1を第1の応力を有するように変形させるためには、特許文献8に記載の方法のように、基板1の裏面に高誘電性コーティングを施して、該基板1の静電チャッキングを促すことが好ましい。このような目的で基板1の裏面に施す高誘電性コーティングは、シート抵抗が100Ω/□以下となるように、構成材料の電気伝導率と厚さを選択する。高誘電性コーティングの構成材料としては、公知の文献に記載されているものから広く選択することができる。例えば、特許文献8に記載の高誘電率のコーティング、具体的には、シリコン、TiN、モリブデン、クロム、CrN、TaSiからなるコーティングを適用することができる。高誘電性コーティングの厚さは、例えば10〜1000nm、特に10〜100nmとすることができる。
高誘電性コーティングは、公知の成膜方法、例えば、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリングといったスパッタリング法、CVD法、真空蒸着法、電解メッキ法を用いて形成することができる。
【0037】
本発明の多層反射膜成膜方法で使用する基板1は、EUVマスクブランク用の基板としての特性を満たすことが要求される。そのため、基板1は、低熱膨張係数(0±1.0×10-7/℃であることが好ましく、より好ましくは0±0.3×10-7/℃、さらに好ましくは0±0.2×10-7/℃、さらに好ましくは0±0.1×10-7/℃、特に好ましくは0±0.05×10-7/℃)を有し、平滑性、平坦度、およびマスクブランクまたはパターン形成後のフォトマスクの洗浄等に用いる洗浄液への耐性に優れたものが好ましい。基板1としては、具体的には低熱膨張係数を有するガラス、例えばSiO2−TiO2系ガラス等を用いるが、これに限定されず、β石英固溶体を析出した結晶化ガラスや石英ガラスやシリコンや金属などの基板を用いることもできる。また、基板1は、高剛性の基板であることが好ましい。具体的には、比剛性が3.0×1072/s2以上であって、ポアソン比が0.16〜0.25であることが好ましい。
基板1は、その成膜面が、Rms0.15nm以下の平滑な表面と100nm以下の平坦度を有していることがパターン形成後のフォトマスクにおいて高反射率および転写精度が得られるために好ましい。一方、基板1の裏面は、Rms0.5nm以下の平滑な面であることが好ましい。
基板1の大きさや厚みなどはマスクの設計値等により適宜決定されるものである。基板としては、一辺の長さが140〜160mm角の矩形の基板を用いることが好ましく、厚さが5〜7mmの基板を用いることが好ましい。なお、後で示す実施例では一辺の長さが6インチ(152.4mm)角で、厚さ0.25インチ(6.3mm)のSiO2−TiO2系ガラスを用いた。
【0038】
本発明の多層反射膜成膜方法を用いて基板1上に成膜される多層反射膜は、EUVマスクブランクの多層反射膜として所望の特性を有するものである限り特に限定されない。ここで、多層反射膜に特に要求される特性は、高EUV光線反射率の膜であることである。具体的には、EUV光の波長領域の光線を多層反射膜表面に照射した際に、波長13.5nm付近の光線反射率の最大値が60%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましい。
【0039】
上記の特性を満たす多層反射膜としては、Si膜とMo膜とを交互に積層させたSi/Mo多層反射膜、BeとMo膜とを交互に積層させたBe/Mo多層反射膜、Si化合物とMo化合物層とを交互に積層させたSi化合物/Mo化合物多層反射膜、Si膜、Mo膜およびRu膜をこの順番に積層させたSi/Mo/Ru多層反射膜、Si膜、Ru膜、Mo膜およびRu膜をこの順番に積層させたSi/Ru/Mo/Ru多層反射膜が挙げられる。
【0040】
上記した多層反射膜を成膜する手順は、マグネトロンスパッタリング法やイオンビームスパッタリング法といったスパッタリング法を用いて多層反射膜を成膜する際に通常実施される手順であってよい。例えば、イオンビームスパッタリング法を用いて、Si/Mo多層反射膜を成膜する場合を例にとると、ターゲットとしてSiターゲットを用い、スパッタガスとしてArガス(ガス圧1.3×10-2Pa〜2.7×10-2Pa)を使用して、イオン加速電圧300〜1500V、成膜速度0.03〜0.30nm/secで厚さ4.5nmとなるようにSi膜を成膜し、次に、ターゲットとしてMoターゲットを用い、スパッタガスとしてArガス(ガス圧1.3×10-2Pa〜2.7×10-2Pa)を使用して、イオン加速電圧300〜1500V、成膜速度0.03〜0.30nm/secで厚さ2.3nmとなるようにMo膜を成膜することが好ましい。これを1周期として、Si膜およびMo膜を40〜50周期積層させることによりSi/Mo多層反射膜が成膜される。多層反射膜の膜厚は、250〜300nmであることが、好適なEUV光線反射率を得る点で好ましい。
多層反射膜2の成膜方法は、スパッタリング法である限り特に限定されず、マグネトロンスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法のいずれであってもよい。但し、欠点が少なく精度が高い膜が得られることからイオンビームスパッタリング法で成膜することが好ましい。
【0041】
スパッタリング法を用いて、多層反射膜を成膜する際、均一な成膜を得るために、回転体を用いて基板を回転させながら成膜を行うことが一般的に行われている。本発明の多層反射膜成膜方法においても、均一な成膜を得るために、回転体を用いて基板を回転させながら成膜を行うことが好ましい。
【0042】
本発明の多層反射膜成膜方法において、成膜後の多層反射膜表面が酸化されるのを防止するため、多層反射膜の最上層は酸化されにくい材料の層とすることが好ましい。酸化されにくい材料の層は多層反射膜のキャップ層として機能する。キャップ層として機能する酸化されにくい材料の層の具体例としては、Si層を例示することができる。多層反射膜がSi/Mo膜である場合、最上層をSi層とすることによって、該最上層をキャップ層として機能させることができる。その場合キャップ層の膜厚は、11.0±1nmであることが好ましい。
【0043】
図1(d)および図1(e)を用いて説明したように、本発明の多層膜成膜方法では、多層反射膜2の成膜後、基板1の形状を変形前の形状に戻す。図2に示す第1の静電チャック20に固定することによって基板1を図1(c)に示す形状に変形させている場合、基板1の形状を変形前の形状に戻すには、第1の静電チャック20のチャック力を解除して、第1の静電チャック20から基板1を取り外せばよい。第1の静電チャック20から取り外した基板1は、復元力によって変形前の形状に戻る。
図1(e)を用いて説明したように、本発明の多層反射膜成膜方法では、多層反射膜2の成膜後、基板1を変形前の形状に戻した状態において、多層反射膜2の成膜により基板に加わる応力が、第1の応力によって打ち消されて、基板を変形させない程度まで軽減される。この結果、多層膜の成膜により基板1に加わる応力によって、基板1が変形することが防止される。このため、多層反射膜2の成膜後の基板1、より具体的には変形前の形状に戻した後の基板1が平坦度に優れている。変形前の形状に戻した後の基板1の平坦度は、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは75nm以下であり、さらに好ましくは50nm以下であり、30nm以下であることが特に好ましい。なお、「多層反射膜成膜後の基板の平坦度」とは、多層反射膜上の平坦度を意味する。
この結果、平坦度に優れたEUVマスクブランクの多層反射膜、具体的には平坦度が100nm以下の多層反射膜を得ることができる。
【0044】
次に、本発明のEUVマスクブランクの製造方法の第1実施形態について説明する。
本発明のEUVマスクブランクの製造方法の第1実施形態は、本発明の多層反射膜成膜方法を用いて基板上に多層反射膜を成膜した後、スパッタリング法を用いて該多層反射膜上に吸収層を成膜することによってEUVマスクブランクを製造する方法である。
【0045】
本発明のEUVマスクブランクの製造方法の第1実施形態において、マグネトロンスパッタリング法やイオンビームスパッタリング法といったスパッタリング法を用いて、多層反射膜上に吸収層を成膜する点は従来の方法と同様である。
但し、本発明のEUVマスクブランクの製造方法の第1実施形態では、第2の応力を基板が有するように、基板を変形させた状態で吸収層の成膜を実施する。
詳しくは後述するが、第2の応力を基板が有するように、基板を変形させた状態で吸収層の成膜を実施した場合、吸収層成膜後の基板を元の形状に戻した際に、吸収層の成膜により基板に加わる応力は、第2の応力によって打ち消されて、基板を変形させない程度まで軽減される。
【0046】
基板上に多層反射膜を成膜する場合と同様に、マグネトロンスパッタリング法やイオンビームスパッタリング法といったスパッタリング法を用いて、多層反射膜上に吸収層を成膜した場合、成膜後の吸収層では応力が発生し、この応力が基板に加わる。このような応力のことを、以下、本明細書において「吸収層の成膜により基板に加わる応力」または「吸収層の成膜による応力」という。
但し、多層反射膜と、吸収層と、は構成材料や成膜条件が異なるので、多層反射膜の成膜により基板に加わる応力と、吸収層の成膜により基板に加わる応力と、は、その大きさが異なっている。例えば、イオンビームスパッタリング法を用いて、多層反射膜上に吸収層として、厚さ70nmのTaN膜を成膜した場合、基板には吸収層の成膜による100〜400MPaの圧縮応力が加わる。
また、吸収層の成膜により基板に加わる応力は通常圧縮応力であるが、吸収層の場合、構成する材料によっては、吸収層の成膜により基板に加わる応力が引っ張り応力である場合もある。
これらの結果、本発明の多層反射膜成膜方法における第1の応力と、本発明のEUVマスクブランク製造方法における第2の応力と、は通常大きさが異なっており、属性が異なっている場合がある。
【0047】
上記した点から明らかなように、本発明のEUVマスクブランクの製造方法の第1実施形態において、第2の応力の大きさは、吸収層の成膜により基板に加わる応力の大きさによって異なる。
本発明のEUVマスクブランクの製造方法の第1実施形態において、吸収層の成膜により基板に加わる応力が、第2の応力によって300MPa以下まで軽減されることが好ましく、200MPa以下まで軽減されることがより好ましく、100MPa以下まで軽減されることがさらに好ましい。
【0048】
本発明のEUVマスクブランク製造方法の第1実施形態において、第2の応力を有するように基板を変形させる際の考え方、および基板を変形させる手段は、本発明の多層反射膜成膜方法において、第1の応力を有するように基板を変形させる場合について述べたのと基本的に同様である。但し、吸収層の成膜により基板に加わる応力は、引っ張り応力である場合もある。そのため、吸収層の成膜により基板に加わる応力が引っ張り応力である場合に、第2の応力を有するように基板を変形させる際の考え、および基板を変形させる手段について以下に述べる。
【0049】
図3(a)〜(e)は、本発明のEUVマスクブランクの製造方法の第1実施形態を説明するための概念図であり、吸収層成膜前後の基板の形状を示している。なお、図3において、吸収層の成膜により基板に加わる応力は引っ張り応力である。
図3(a)は、吸収膜を成膜する前の基板1を示している。図3(a)において、基板1上には多層反射膜2が成膜されている。図3(a)に示すように、吸収層を成膜する前の基板1は平坦度0μmである。図3(a)において、線10は基板1の変形の有無をより明確にするために示した仮想水平線である。
図3(b)は従来の手順にしたがって多層反射膜2上に吸収層3を成膜した後の基板を示している。図3(b)に示す基板1は、吸収層3の成膜による引っ張り応力によって、成膜面側に凹状に反った状態に変形している。
図3(c)は、吸収層3を成膜した後の基板1が、図3(b)に示す形状に変形するのを防止するために、第2の応力を有するように変形させた基板1を示している。図3(c)において、基板1は成膜面側に凸状に反った状態に変形している。本発明のEUVマスクブランクの製造方法の第1実施形態では、基板1を図3(c)に示す形状に変形させた状態で、スパッタリング法を用いて吸収層を成膜する。図3(d)は、図3(c)に示す基板1の多層反射膜2上に吸収層3を成膜した状態を示している。
【0050】
本発明のEUVマスクブランク製造方法の第1実施形態では、図3(c)、(d)に示すように、第2の応力を有するように基板1を変形させた状態で多層反射膜2上に吸収層3を成膜した後、基板1を変形前の形状に戻すことによってEUVマスクブランクが製造される。なお、図3(d)に示す基板を変形前の形状に戻すには、基板1を変形させるために加えていた力を解除すればよい。基板1は復元力によって変形前の形状に戻る。図3(e)は、吸収層3の成膜後、基板1を変形前の形状に戻した状態を示している。図3(e)に示す状態において、吸収層3の成膜により基板1に加わる応力が、第2の応力によって打ち消されて、基板を変形させない程度まで軽減される。この結果、吸収層3の成膜により基板1に加わる応力によって、吸収層3成膜後の基板1が変形することが防止される。
【0051】
本発明のEUVマスクブランクの製造方法の第1実施形態において、基板1を図3(c)に示す形状に変形させるためには、基板との接合面の形状が、基板の変形後の形状に対応する形状をした第2の静電チャックに基板1を固定すればよい。図4は、基板1を図3(c)に示す形状に変形させる際に使用する第2の静電チャックの概念図である。なお、図4には、図3(c)の基板1も併せて示してある。図4に示す第2の静電チャック20′は、基板1との接合面20a′の形状が、図3(c)に示す変形後の基板1の形状と対応する。
図4に示す第2の静電チャック20′は、基板1との接合面20a′が、図3(c)に示す変形後の基板1の形状と対応する。具体的には、接合面20a′が凸面形状になっており、図3(c)に示す変形後の基板1の裏面の形状と対応している。このような形状の第2の静電チャック20′に基板1を固定することによって基板1を図3(c)に示す形状に変形させることができる。なお、図4では、静電チャック自らの接合面が凸面形状となっているが、静電チャックの接合面は水平のままとしつつ、静電チャックと基板との間に凸面形状を有する整形部材を挿入することで対応することも可能であり、この態様は静電チャックの上記態様に含まれる。
なお、第2の静電チャック20′が、基板1の変形後の形状に対応する形状を有する場合、第2の静電チャック20′の基板1との接合面20a′の形状と、基板1の変形後の形状と、のずれが最大で2mm以下、特に1mm以下、さらには0.1mm以下であることが好ましい。
【0052】
本発明のEUVマスクブランクの製造方法の第1実施形態において、第2の静電チャック(整形部材を使用する場合も含めた)のヤング率、ポアソン比、チャック力、形状および寸法等は、本発明の多層反射膜成膜方法における第1の静電チャックと同様である。
なお、本発明のEUVマスクブランクの製造方法の第1実施形態において、第2の静電チャックとしたのは、上記したように、第1の応力と、第2の応力と、では大きさが通常異なっており、属性が異なっている場合もあるためである。要するに、第1の応力を有するように基板1を変形させる際に用いる静電チャック(第1の静電チャック)20と、第2の応力を有するように基板1を変形させる際に用いる静電チャック(第2の静電チャック)20′と、は、基板1との接合面20a、20a′の形状が通常異なっているためである。したがって、第1の応力と、第2の応力と、が大きさおよび属性が同一である場合、第1の静電チャック20と第2の静電チャック20′は同一のものであってもよい。
【0053】
本発明のEUVマスクブランクの製造方法の第1実施形態において、多層反射膜2上に成膜する吸収層3の構成材料としては、EUV光に対する吸収係数の高い材料、具体的には、Cr、Taおよびこれらの窒化物が挙げられる。中でも、TaNがアモルファスであり、表面形状が平滑であるという理由で好ましい。吸収層3の厚さは、50〜150nmであることが好ましい。吸収層3の成膜方法は、スパッタリング法である限り特に限定されず、マグネトロンスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法のいずれであってもよい。
【0054】
上記した吸収層を成膜する手順は、マグネトロンスパッタリング法やイオンビームスパッタリング法といったスパッタリング法を用いて吸収層を成膜する際に通常実施される手順であってよい。例えば、イオンビームスパッタリング法を用いて、吸収層としてTaN層を成膜する場合、ターゲットとしてTaターゲットを用い、スパッタガスとしてN2ガス(ガス圧5×10-3Pa〜3×10-2Pa)を使用して、電圧200〜600V、成膜速度0.05〜0.3nm/secで厚さ50〜150nmとなるように成膜することが好ましい。
【0055】
スパッタリング法を用いて、吸収層を成膜する際、均一な成膜を得るために、回転体を用いて基板を回転させながら成膜を行うことが好ましい。
【0056】
EUVマスクブランクを製造する際、多層反射膜と、吸収層と、の間にバッファ層を成膜する場合がある。本発明のEUVマスクブランクの製造方法においても、多層反射膜と、吸収層と、の間にバッファ層を成膜してもよい。本発明のEUVマスクブランクの製造方法の第2実施形態は、本発明の多層反射膜成膜方法を用いて基板上に多層反射膜を成膜した後、スパッタリング法を用いて該多層反射膜上にバッファ層を成膜し、該バッファ層上に吸収層を成膜することによってEUVマスクブランクを製造する方法である。
本発明のEUVマスクブランクの製造方法の第2実施形態は、多層反射膜と、吸収層と、の間にスパッタリング法を用いてバッファ層を成膜すること以外は、本発明のEUVマスクブランクの製造方法の第1実施形態と同様である。
【0057】
本発明のEUVマスクブランクの製造方法の第2実施形態において、バッファ層を構成する材料としては、たとえば、Cr、Al、Ru、Taおよびこれらの窒化物、ならびにSiO2、Si34、Al23が挙げられる。バッファ層は厚さ10〜60nmであることが好ましい。
バッファ層の成膜方法は、スパッタリング法である限り特に限定されず、マグネトロンスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法のいずれであってもよい。
バッファ層を成膜する手順は、マグネトロンスパッタリング法やイオンビームスパッタリング法といったスパッタリング法を用いてバッファ層を成膜する際に通常実施される手順であってよい。例えば、イオンビームスパッタリング法によりSiO2膜を成膜することが好ましい。イオンビームスパッタ法を用いて、バッファ層としてSiO2膜を成膜する場合、ターゲットとしてSiターゲット(ホウ素ドープ)を用い、スパッタガスとしてArガスおよびO2ガス(ガス圧2.7×10-2Pa〜4.0×10-2Pa)を使用して、電圧1200〜1500V、成膜速度0.01〜0.03nm/secで厚さ4〜60nmとなるように成膜することが好ましい。
スパッタリング法を用いて、バッファ層を成膜する際、均一な成膜を得るために、回転体を用いて基板を回転させながら成膜を行うことが好ましい。
【0058】
本発明のEUVマスクブランクの製造方法の第2実施形態では、第3の応力を基板が有するように、基板を変形させた状態で吸収層の成膜を実施する。
本発明のEUVマスクブランクの製造方法の第2実施形態では、第3の応力を基板が有するように、基板を変形させた状態でバッファ層を成膜し、該バッファ層上に吸収層の成膜した後、基板を元の形状に戻すことによってEUVマスクブランクが製造される。
本発明のEUVマスクブランクの製造方法の第2実施形態では、吸収層の成膜後、基板を元の形状に戻した際に、バッファ層の成膜により基板に加わる応力と、吸収層の成膜により基板に加わる応力と、を合計した応力が、第3の応力によって打ち消されて、基板を変形させない程度まで軽減される。この結果、バッファ層及び吸収層の成膜により基板に加わる応力によって、バッファ層及び吸収層が成膜された後の基板が変形することが防止される。
【0059】
本発明のEUVマスクブランクの製造方法(第1の実施形態および第2の実施形態)において、吸収層3成膜後の基板1、より具体的には吸収層3成膜後、変形前の形状に戻した後の基板1が平坦度に優れている。吸収層3成膜後、変形前の形状に戻した後の基板1の平坦度は、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは75nm以下であり、さらに好ましくは50nm以下であり、30nm以下であることが特に好ましい。ここで、「吸収層成膜後の基板の平坦度」とは、吸収層上の平坦度を意味する。
この結果、平坦度に優れたEUVマスクブランク、具体的には平坦度が100nm以下のEUVマスクブランクを製造することができる。
【0060】
本発明の多層反射膜成膜方法によれば、成膜用の基板として、平坦度が100nm超の基板を使用して、平坦度が100nm以下のEUVマスクブランク用の多層反射膜を得ることもできる。また、本発明のEUVマスクブランクの製造方法によれば、成膜用の基板として、平坦度が100nm超の基板を使用して、平坦度が100nm以下のEUVマスクブランクを製造することもできる。
平坦度が100nm超の基板を使用して、平坦度が100nm以下のEUVマスクブランク用の多層反射膜を得るには、図1(e)に示す状態、すなわち、多層反射膜2の成膜後、基板1を変形前の形状に戻した状態における基板1の形状を計算等によって予測し、図1(e)に示す状態における基板1の平坦度が100nm以下になるように、図1(c)に示す状態において、第1の応力を有するように基板1を変形させる。
平坦度が100nm超の基板を使用して、平坦度が100nm以下のEUVマスクブランクを製造する場合も同様に、図3(e)に示す状態、すなわち、吸収層3の成膜後、基板1を変形前の形状に戻した状態における基板1(EUVマスクブランク)の形状を計算等によって予測し、図3(e)に示す状態における基板1(EUVマスクブランク)の平坦度が100nm以下になるように、図3(c)に示す状態において、第2の応力を有するように基板1を変形させる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を用いて本発明をさらに説明する。
(比較例1)
比較例1では、基板を変形させることなしにSi/Mo多層膜を成膜する。
成膜用の基板として、SiO2−TiO2系のガラス基板(外形6インチ(152.4mm)角、厚さが6.3mm)を使用する。このガラス基板の熱膨張率は0.2×10-7/℃、ヤング率は67GPa、ポアソン比は0.17、比剛性は3.07×1072/s2である。このガラス基板を研磨により、Rmsが0.15nm以下の平滑な表面と100nm以下の平坦度に形成する。
ガラス基板の裏面側には、マグネトロンスパッタリング法を用いて厚さ100nmのCr膜を成膜することによって、シート抵抗100Ω/□の高誘電性コーティングを施す。
平板形状をした通常の静電チャックにガラス基板(外形6インチ(152.4mm)角、厚さ6.3mm)を固定して、該ガラス基板の表面上に、イオンビームスパッタ法を用いてSi膜およびMo膜を交互に成膜することを40周期繰り返すことにより、合計膜厚272nm((4.5nm+2.3nm)×40)のSi/Mo多層反射膜を形成する。Si/Mo多層反射膜の最上層をSi層(膜厚11.0nm)とすることでキャップ層を設ける。
【0062】
なお、Si膜およびMo膜の成膜条件は以下の通りである。
Si膜の成膜条件
ターゲット:Siターゲット(ホウ素ドープ)
スパッタガス:Arガス(ガス圧0.02Pa)
電圧:700V
成膜速度:0.077nm/sec
膜厚:4.5nm
Mo膜の成膜条件
ターゲット:Moターゲット
スパッタガス:Arガス(ガス圧0.02Pa)
電圧:700V
成膜速度:0.064nm/sec
膜厚:2.3nm
【0063】
成膜後終了後、静電チャックのチャック力を解除して、静電チャックから基板を取り外すと、図1(b)に示すように基板が成膜面側に凸状に反った状態に変形する。レーザー干渉計を用いて基板の最も反った部位の変形量を測定すると、2μmであることが確認される。
【0064】
(実施例1)
本実施例では、静電チャックとして、図2に示す成膜面20aが凹面形状をした第1の静電チャック20を使用すること以外は、比較例1と同様の手順でSi/Mo多層反射膜を成膜する。第1の静電チャック20は、その成膜面20aが、比較例1において多層反射膜2成膜後の基板1が変形した形状(基板1の成膜面側に凹状に反った状態に変形)とは、反対方向に変形した形状、すなわち凹面形状となっている。成膜面20aにおいて、凹面形状の深さは2μmである。
Si/Mo多層反射膜の成膜時、静電チャック20に固定された基板1は、図1(c)および(d)に示すように成膜面側に凹状に反った状態に変形する。Si/Mo多層反射膜を成膜した後、第1の静電チャック20のチャック力を解除して、基板1を第1の静電チャック20から取り外す。基板1は復元力によって変形前の形状に戻り、基板の変形は認められない。基板1の平坦度をレーザー干渉計を用いて測定すると、0.1μmであることが確認される。
【0065】
(比較例2)
比較例2では、実施例1でSi/Mo多層反射膜を成膜した基板を平板状の静電チャックに固定して吸収層を成膜することによってEUVマスクブランクを製造する。成膜方法としては、イオンビームスパッタリング法を使用し、厚さ70nmのCr膜を成膜する。
Cr膜の成膜条件は以下の通りである。
Cr膜の成膜条件
ターゲット:Crターゲット
スパッタガス:Arガス(ガス圧3.3×10-2Pa)
電圧:700V
成膜速度:0.082nm/sec
膜厚:70nm
【0066】
Cr膜の成膜後、静電チャックのチャック力を解除して、基板を静電チャックから取り外すと、基板が成膜面側に凸状に反った状態に変形する(図1(b)に示す形状と同様の形状に変形する。)。レーザー干渉計を用いて基板の最も反った部位の変形量を測定すると、2μmであることが確認される。
【0067】
(実施例2)
本実施例は、第2の静電チャックとして、図2に示す成膜面20aが凹面形状をした静電チャック20を使用すること以外は、比較例2と同様の手順でCr膜を成膜する。静電チャック20は、その成膜面が、比較例2において吸収層3成膜後の基板1が変形した形状(基板1の成膜面側に凸状に反った状態に変形)とは、反対方向に変形した形状、すなわち凹面形状となっている。静電チャック20の成膜面20aは、凹面形状の深さが2μmである。
Cr膜の成膜時、静電チャック20に固定された基板は、成膜面側に凹状に反った状態に変形する(図1(c)および(d)に示す形状と同様の形状に変形する。)。Cr膜を成膜した後、基板を静電チャックから取り外す。基板は復元力によって変形前の形状に戻り、基板の変形は認められない。基板の平坦度をレーザー干渉計を用いて測定すると、0.1μmであることが確認される。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1(a)〜(e)は、本発明の多層反射膜成膜方法を説明するための概念図であり、多層反射膜成膜前後の基板の形状を示している。図1(a)は、多層反射膜を成膜する前の基板を示している。図1(b)は、従来の手順にしたがって多層反射膜を成膜した後の基板を示している。図1(c)は、第1の応力を有するように変形させた基板を示している。図1(d)は、図1(c)に示す基板上に多層反射膜を成膜した状態を示している。図1(e)は多層反射膜の成膜後、基板を変形前の形状に戻した状態を示している。
【図2】図2は、基板を図1(c)に示す形状に変形させる際に使用する第1の静電チャックの概念図である。
【図3】図3(a)〜(e)は、本発明のEUVマスクブランクの製造方法を説明するための概念図であり、吸収層成膜前後の基板の形状を示している。図3(a)は、吸収膜を成膜する前の基板を示している。図3(b)は、従来の手順にしたがって多層反射膜上に吸収層を成膜した後の基板を示している。図3(c)は、第2の応力を有するように変形させた基板を示している。図3(d)は、図3(c)に示す基板の多層膜上に吸収層を成膜した状態を示している。図3(e)は、吸収層の成膜後、基板を変形前の形状に戻した状態を示している。
【図4】図4は、基板を図3(c)に示す形状に変形させる際に使用する第2の静電チャックの概念図である。
【符号の説明】
【0069】
1:基板
2:多層反射膜
3:吸収層
10:仮想水平線
20、20′:静電チャック
20a、20a′:基板との接合面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に多層膜を成膜する方法であって、
多層膜の成膜により基板に加わる応力と逆方向の応力を前記基板が有するように、前記基板を変形させた状態で前記多層膜の成膜を実施し、
前記多層膜の成膜後、前記基板を変形前の形状に戻すことを特徴とする多層膜の成膜方法。
【請求項2】
スパッタリング法を用いて、基板上にEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの多層反射膜を成膜する方法であって、
多層反射膜の成膜により基板に加わる応力と逆方向の応力を前記基板が有するように、前記基板を変形させた状態で前記多層反射膜の成膜を実施し、
前記多層反射膜の成膜後、前記基板を変形前の形状に戻すことを特徴とするEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの多層反射膜の成膜方法。
【請求項3】
変形前の形状に戻した後の前記基板の平坦度が、100nm以下であることを特徴とする請求項2に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの多層反射膜の成膜方法。
【請求項4】
前記基板を変形させた状態で前記多層反射膜の成膜を実施するために、前記基板との接合面が前記基板の変形後の形状に対応した形状を有する第1の静電チャックを用いて前記基板を固定することを特徴とする請求項2または3に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの多層反射膜の成膜方法。
【請求項5】
前記第1の静電チャックは、チャック力が0.5kPa以上であり、ヤング率が10GPa以上であることを特徴とする請求項4に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの多層反射膜の成膜方法。
【請求項6】
前記基板は、比剛性が3.0×1072/s2以上であり、ポアソン比が0.16〜0.25である請求項2ないし5のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの多層反射膜の成膜方法。
【請求項7】
請求項2ないし6のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの多層反射膜の成膜方法を用いて、基板上に多層反射膜を成膜した後、
スパッタリング法を用いて、前記多層反射膜上に吸収層を成膜することによりEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクを製造する方法であって、
吸収層の成膜により基板に加わる応力と逆方向の応力を前記基板が有するように、前記基板を変形させた状態で前記吸収層の成膜を実施し、
前記吸収層の成膜後、前記基板を変形前の形状に戻すことを特徴とするEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの製造方法。
【請求項8】
請求項2ないし6のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの多層反射膜の成膜方法を用いて、基板上に多層反射膜を成膜した後、
スパッタリング法を用いて、前記多層反射膜上にバッファ層及び吸収層を成膜することによりEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクを製造する方法であって、
バッファ層及び吸収層の成膜により基板に加わる応力と逆方向の応力を前記基板が有するように、前記基板を変形させた状態で前記バッファ層及び吸収層の成膜を実施し、
前記吸収層の成膜後、前記基板を変形前の形状に戻すことを特徴とするEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの製造方法。
【請求項9】
変形前の形状に戻した後の前記基板の平坦度が、100nm以下であることを特徴とするであることを特徴とする請求項7または8に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの製造方法。
【請求項10】
前記基板を変形させた状態で前記吸収層の成膜を実施するために、前記基板との接合面が前記基板の変形後の形状に対応した形状を有する第2の静電チャックを用いて前記基板を固定することを特徴とする請求項7または9に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの製造方法。
【請求項11】
前記基板を変形させた状態で前記バッファ層及び吸収層の成膜を実施するために、前記基板との接合面が前記基板の変形後の形状に対応した形状を有する第2の静電チャックを用いて前記基板を固定することを特徴とする請求項8または9に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの製造方法。
【請求項12】
前記第2の静電チャックは、チャック力が0.5kPa以上であり、ヤング率が10GPa以上であることを特徴とする請求項10または11に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−109060(P2008−109060A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−294554(P2006−294554)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】