説明

InGaNを含む半導体層の成膜を行う気相成長方法および気相成長装置

【課題】InGaNを含む半導体の形成で、高品質・高In組成のInGaNを含む半導体の形成を可能とする。
【解決手段】
気相成長装置を用いて、基板上に少なくともInGaNを含む半導体薄膜を形成する気相成長方法であって、前記気相成長装置内で第一のN源とIn源とを反応させ、InN源を生成する第1のステップと、前記気相成長装置内で、第一のN源とは異なる第二のN源とGa源とを反応させ、GaN源を生成する第2のステップと、前記第1のステップで生成された前記InN源と、前記第2のステップで生成された前記GaN源とを前記基板上で反応させ、前記基板上に薄膜を形成する第3のステップとを有する気相成長方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、InGaNを含む半導体層の成膜を行う気相成長方法、および気相成長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
1990年代に入り、窒化物系の半導体発光素子が発明されてから、LED照明の実用化が始まった。現在、LED照明は、信号だけに留まらず、液晶モニターのバックライト等の多方面の用途で活躍し始めている。
【0003】
LED照明は、一般的に青色半導体発光素子と、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)蛍光体との組み合わせにより白色LEDを実現している。白色LEDは、従来の照明よりも低消費電力・省スペース・水銀フリーのため環境に良いというメリットがあり、次世代の照明器具として期待が寄せられている。
【0004】
青色半導体発光素子を作製するためには、青色波長域〜紫外波長域の短波長域で発光する発光層を形成する必要がある。このため、発光層には、In組成xが0.2未満のInxGa1-xN混晶半導体を用いられるのが一般的である。かかるInxGa1-xN混晶半導体は、有機金属気相成長法(以下、MOCVD法という。)などの手法を用いて、エピタキシャル成長させることによって作製される。
【0005】
さらに、近年では、太陽光スペクトルをカバーできる発光素子の研究開発が行なわれており、緑色波長の光を発光する半導体発光素子の登場が望まれている。緑色波長の光を発光する発光層を作製するために、In組成xが0.2以上のInxGa1-xN混晶半導体を成膜する必要がある。
【0006】
従来、In組成xが0.2未満のInxGa1-xN混晶半導体は、In源およびGa源とNHとを反応させることにより、比較的容易に形成することができたが、In組成xが0.2以上のInxGa1-xN混晶半導体を形成することは容易ではなかった。例えば、図6(特開2003−37288号公報(平成15年2月7日公開))に示すように、In組成xが0.2以上では、In反応温度をより低くする必要があるが、温度を低くするとNHとの反応性が低下し、InxGa1-xN混晶半導体は成膜しにくくなる。逆に、基板を700℃以上に加熱した状態で、In源とNHとの反応性を高める試みも行なわれているが、高温状態となる程、InGaNは熱分解し易く、InxGa1-xN混晶半導体に窒素空孔などの欠陥や相分離などが生じたり、膜応力による膜ゆがみが生じたりするという問題があった。
【0007】
そこで、NHを加熱分解するのではなく、窒素プラズマを用いることにより、低温の基板上でInGaN混晶半導体を成長させる方法が提案されている。例えば、特許文献1には、原子状窒素を含む化合物をプラズマなどにより活性化させたガスを、それとは別の供給経路から供給しているIII族有機化合物と反応させることで、600度以下の低温でIII族窒化物の薄膜を成長させることができる成膜技術が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、高周波分子線エピタキシー法(以下、RF−MBE法という。)を用い、GaNバッファ層上に金属Inの1−2分子層を入れ、平坦な表面モフォロジーを作ることで結晶性のよいInNあるいは高In組成を有するInGaN混晶半導体を形成する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−12902号公報(平成12年1月14日公開)
【特許文献2】特開2008−53589号公報(平成20年3月6日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の成膜方法では、高In組成のInGaN半導体における結晶性に優れた高In組成のInGaN半導体層を成長させるのが困難であった。図7は、InNとGaNの2元窒化物成長反応の成長温度と平衡定数の関係を示した図である。Ga+NH→GaN+3/2Hの平衡定数がIn+NH→InN+3/2Hの平衡定数よりも大きく、Ga+N→GaNの平衡定数がIn+N→InNの平衡定数よりも大きいため、原子状窒素やNHはInよりもGaと多く反応することになるので、同じN源を用いてInの組成比を高くすることが難しいという課題を有していた。
【0011】
さらに、特許文献2では、RF−MBE法を用いている為、その性質上、10−10Torrという高真空にする必要があるが、InGaNは、圧力が低ければ低いほど低い温度で解離してしまうこととなる。結晶性などに優れた高In組成のInGaNを生成する場合には、マイグレーションを促進するために、基板を比較的高温にする必要がある。しかし、10−10Torrという高真空では、InGaNは比較的低温で解離し、窒素空孔が生じ易いという課題を有していた。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は結晶性のよい高In組成のInGaNを含む半導体層の成膜を行う気相成長方法、および気相成長装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る気相成長方法は、気相成長装置を用いて、基板上に、少なくともInGaNを含む半導体薄膜を形成する気相成長方法であって、前記気相成長装置内で第一のN源とIn源とを反応させ、InN源を生成するステップと、前記気相成長装置内で第二のN源とGa源とを反応させ、GaN源を生成するステップと、前記InN源と前記GaN源とを反応させ、前記基板上に薄膜を形成するステップとを有する。
【0014】
さらに、少なくとも前記第一のN源と前記第二のN源の一方を、プラズマ発生機でN源を分解することによって生成するステップを有してもよい。
【0015】
さらに、少なくとも前記第一のN源と前記第二のN源の一方を、白金またはタングステンを含む触媒を用いてN源を分解することによって生成するステップを有してもよい。
【0016】
また、前記第一のN源として少なくともNを含み、前記第二のN源として少なくともNHを含んでもよい。
【0017】
本発明に係る気相成長装置は、基板上に、少なくともInGaNを含む半導体薄膜を形成する気相成長装置であって、前記基板に薄膜を形成する領域であるプロセス室と、In源を供給するIn源供給部と、前記In源と反応させるN源を供給する第一のN源供給部と、Ga源を供給するGa源供給部と、前記Ga源と反応させるN源を供給する第二のN源供給部とを備え、前記プロセス室は、前記第一のN源供給部から供給されるN源と、In源供給部から供給されるIn源とが反応し、InN源を生成する第一の反応領域と、前記第二のN源供給部から供給されるN源と、Ga源供給部から供給されるGa源とが反応し、GaN源を生成する第二の反応領域と、前記第一の反応領域で生成されたInN源と、前記第二の反応領域で生成されたGaN源とが反応し、前記基板上にInGaNの薄膜を形成する第三の反応領域とを有する。
【0018】
さらに、前記第一の反応領域と前記第三の反応領域の間に第一のオリフィスと、前記第二の反応領域と前記第三の反応領域の間に第二のオリフィスとを備えてもよい。
【0019】
また、前記第一のN源供給部と前記第二のN源供給部の少なくとも一方は、Nを含むプラズマを生成する手段を有してもよい。
【0020】
また、前記第一のN源供給部と前記第二のN源供給部の少なくとも一方は、白金またはタングステンを含む触媒を有してもよい。
【0021】
前記第一のN源供給部から供給されるN源として少なくともNを含み、前記第二のN源供給部から供給されるN源として少なくともNHを含んでもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、上記のような構成を有することにより、結晶性のよい高In組成のInGaNを含む半導体層を成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態1におけるにおける気相成長装置を示す概略図である。
【図2】AlN、GaN、InNの各温度での窒素の平衡解離圧を示したグラフである。
【図3】実施形態2におけるにおける気相成長装置を示す概略図である。
【図4】実施形態3におけるにおける気相成長装置を示す概略図である。
【図5】実施形態4における気相成長装置を示す概略図である。
【図6】InGaNの各組成比での窒素の平衡解離圧を示すグラフである。
【図7】InNとGaNの2元窒化物成長反応の成長温度と平衡定数の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一態様に係るInGaNを含む半導体層の成膜を行う気相成長法および気相成長装置について図面を用いて説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものである。
【0025】
<実施形態1>
図1は本実施形態における気相成長装置を示す概略図である。以下において、図1の気相成長装置を参照しながら、実施形態1における成膜方法を説明する。実施形態1における気相成長装置1は、トリメチルインジウム(以下、TMIという。)3、Nガス4、トリメチルガリウム(以下、TMGという。)5、NHガス6、およびキャリアガス7を導入することで、基板2上に半導体層を成膜する装置である。
【0026】
実施形態1における気相成長装置1は、基板2に半導体層を成膜するプロセス室8、プロセス室8にTMI3を供給するIn源供給部9、Nガス4を供給するInN用N源供給部10、TMG5を供給するGa源供給部11、NHガス6を供給するGaN用N源供給部12、半導体層の原料となるガスにプラズマ処理を施すコイル電極13、コイル電極13に高周波電圧を印加する高周波電源(図示せず)、InGaNを含む半導体層の高品質な成長を阻害するイオンを除去するメッシュ電極14、メッシュ電極14に直流電圧を印加する直流電源(図示せず)、および未反応のガスやキャリアガス7を排気する排気口15を備える。尚、キャリアガス7としてアルゴンなどが用いられる。
【0027】
コイル電極13およびメッシュ電極14は、In源供給部9、InN用N源供給部10、Ga源供給部11、およびGaN用N源供給部12にそれぞれ設置されている。TMI3、Nガス4、TMG5、およびNHガス6は、プラズマ処理されることで分解・励起される。Nガス4およびNHガス6は、プラズマ処理されることで、それぞれInN用N源、GaN用N源となる。ここで、N源とは、原子状窒素および準安定状態窒素分子などをいう。「原子状窒素」は窒素原子のみならず窒素ラジカルを含むものである。また、「準安定状態窒素分子」は、準安定状態窒素分子のエネルギーとInやGaなどのIII族源と窒素原子の結合エネルギーの和が、窒素分子の解離エネルギーを超えると、窒素分子が解離してIII族源との反応が進む。また、TMI3およびTMG5は、プラズマ処理されることで、それぞれIn源、Ga源となる。
【0028】
プロセス室8は、In源とInN用N源が反応するInN源生成部16、プラズマ処理がそれぞれに施されたGa源とGaN用N源が反応するGaN源生成部17、および基板2に半導体層を形成する成膜部18を備える。ここで、InN源、GaN源は、それぞれIn−N分子、Ga−N分子などを含んでいる。
【0029】
さらに、成膜部18は、基板2を加熱するヒーター19、基板2を保持する基板保持台20、および基板2を回転させる回転機構21を有する。InN源生成部16から供給されるInN源と、GaN源生成部17から供給されるGaN源とが、ヒーター19で加熱された基板2上で反応することにより、InGaNを含んだ半導体層が形成される。基板2の下向き表面に半導体層が形成されるように成膜部18を設置することで、基板2の半導体層に、原料となるガス等のパーティクルが混入されないようにしている。
【0030】
本実施形態に係る気相成長装置1においては、Nガス4にプラズマ処理を施すことで生成したInN用N源とIn源とをInN源生成部16で反応させてInN源を生成し、さらに、NHガス6にプラズマ処理を施し、生成したGaN用N源とGa源とをGaN源生成部17で反応させてGaN源を生成する。次いで、ヒーター19で加熱された基板2上で、InN源とGaN源とを反応させることで、基板2上にInGaNの半導体層を成膜する。Inは、N源との反応性がGaよりも低いため、Gaと混合してN源と反応させた場合、Inの組成を高くするのは難しい。そこで、上記のようにInとGaを異なるN源に予め反応させることで、高In組成のInGaN層を、基板上に生成させることができる。
【0031】
メッシュ電極14は、Nガス4およびキャリアガス7をプラズマ処理した際に発生するイオンが、プロセス室8に導入されるのを防ぐ。もし、これらのイオンがプロセス室8に導入されると、イオン衝撃によってInGaNを含む半導体層の結晶にダメージが生じるとともに、基板の表面が帯電することとなり、InGaNを含む高品質な半導体層を成長しにくくなる。メッシュ電極14は、直流電源から直流電圧を印加することにより、上記の各ステップのプラズマ処理によって生成されるイオンが、プロセス室8に導入されるのを遮蔽することができ、イオンダメージが少ないInGaNを含む半導体層を成膜することができる。また、イオンがメッシュ電極14に接触すると、イオンとメッシュ電極14との間で電子の授受が行なわれることにより、イオンが中性化されてプロセス室8にイオンが導入されにくくなる。イオンとしては、Nガス4をプラズマ処理する際に生じるN2+、N+等、TMI3をプラズマ処理する際に生じるInC+、CH+、InHx+、In+、H2+、H+等、キャリアガス7をプラズマ処理する際に生じるAr+等があるため、メッシュ電極14には、正の直流電圧を印加することが好ましい。これにより正イオンに対する反発力を生じさせることができるため、正イオンがプロセス室8に導入されるのを抑制することができる。
【0032】
次いで、本実施形態における気相成長方法について、詳細に説明する。以下、InN源を生成する方法について説明する。まず、In源供給部9のコイル電極13に、高周波電源からの高周波電圧を印加することによりプラズマを生成する。次に、In源供給部9に、TMI3とキャリアガス7を導入する。そして、TMI3とキャリアガス7をコイル電極13で発生させたプラズマで処理することにより、TMI3は分解されて、In源が生成される。他方で、InN用N源供給部10のコイル電極13に、高周波電源からの高周波電圧を印加することによりプラズマを生成する。次に、InN用N源供給部10に、Nガス4とキャリアガス7を導入する。そして、Nガス4とキャリアガス7をコイル電極13で発生させたプラズマで処理することにより、Nガス4は分解されて、InN用N源が生成される。
【0033】
そして、In源をIn源供給部9からInN源生成部16に導入し、InN用N源をInN用N源供給部10からInN源生成部16に導入することで反応させることで、InN源や、窒素および窒素水素化物が生成される。
【0034】
同様に、GaN源を生成する方法について説明する。Ga源供給部11のコイル電極13に、高周波電源からの高周波電圧を印加することによりプラズマを生成する。次に、Ga源供給部11に、TMG5とキャリアガス7を導入する。そして、TMG5とキャリアガス7をコイル電極13で発生させたプラズマで処理することにより、TMG5は分解されて、Ga源が生成される。他方で、GaN用N源供給部12のコイル電極13に、高周波電源からの高周波電圧を印加することによりプラズマを生成する。次に、GaN用N源供給部12に、NHガス6とキャリアガス7を導入する。そして、NHガス6とキャリアガス7をコイル電極13で発生させたプラズマで処理することにより、NHガス6が分解されて、GaN用N源が生成される。
【0035】
そして、Ga源をGa源供給部11からGaN源生成部17に導入し、GaN用N源をGaN用N源供給部12からGaN源生成部17に導入することで反応させることで、GaN源や、窒素および窒素水素化物が生成される。
【0036】
最後に、InGaN膜を生成する方法に説明する。成膜部18の基板保持台20には、基板2がセットされ、ヒーター19によって基板2を所定の温度に加熱した上で、プロセス室8内を所定の圧力に設定する。そして、基板2上でInN源、窒素および窒素水素化物と、GaN源、窒素および窒素水素化物と、準安定状態窒素分子および原子状窒素の水素化合物とを反応させることにより、基板2上にInGaNを含む半導体層を成膜する。
【0037】
本実施形態では、プラズマ処理によってNガス4およびNHガス6を分解・励起することにより、InN源生成部16とGaN源生成部17において、それぞれInN源、窒素および窒素水素化物とGaN源、窒素および窒素水素化物を生成しているため、基板2の低温化が可能になる。基板2の温度を700℃よりも上げると、窒素空孔などの欠陥や相分離などが生じたり、膜応力による膜ゆがみが生じたりするという問題があるので、上記の基板2の加熱温度は、100℃以上700℃以下であることが好ましい。100℃未満であると、InN源、窒素および窒素水素化物と、GaN源、窒素および窒素水素化物と、原子状窒素および準安定状態窒素分子および原子状窒素の水素化合物との反応性が十分ではないことに起因して、成膜速度が遅くなる傾向があり、700℃を超えると、InGaNを含む半導体に窒素空孔などの欠陥や相分離などが生じたり、膜応力による膜ゆがみが生じたりするため好ましくない。図6は、InGaNの各組成比での窒素の平衡解離圧を示すグラフであるが、例えば、1.0(atm)の場合、In組成比が0.3以上となるには、700℃以下が望ましい。また、表面のマイグレーションを十分に起こすためには450℃以上の温度が必要であるため、基板2は450℃以上700℃以下に加熱することがより好ましい。
【0038】
InGaNを含む半導体層を成膜するときのプロセス室8の圧力は、装置の安全上、2.0(atm)以下であるのがよい。さらに、1.0(atm)以下であるのがより好ましい。1.0(atm)以下で成膜することにより、窒素空孔を減少させることができ、これにより少なくとも結晶欠陥密度を減少させることができ、InGaNを含む半導体層の結晶性を高めることができる。
【0039】
図2(出典:窒化物基板および格子整合基板の成長とデバイス特性、シーエムシー出版、天野浩監修、P92、図6)は、AlN、GaN、InNの各温度での窒素の平衡解離圧を示したグラフである。GaNやInNは、圧力が高いほど平均自由行程が短くなり、原子状窒素および準安定状態窒素分子および原子状窒素の水素化合物の密度が減少するが、図2に示すように、圧力が低くなるほど、平衡温度が低くなり、InNが解離し易くなる。そのため、あまり圧力を低くし過ぎると、窒素空孔が生じやすくなり、また反応性が著しく低下して結晶成長が遅くなるので、所定の圧力下で反応させた方がよい。
【0040】
上記のInGaNを含む半導体層を成膜するときには、回転機構21によって基板2を0rpm以上1500rpm以下に回転させながら、基板上にInGaNを含む半導体層を成膜することが好ましい。上記の回転速度は、1rpm以上300rpm以下であることがより好ましく、さらに好ましくは1rpm以上100rpm以下である。このようにしてInGaNを含む半導体層を成膜することにより、InGaNを含む半導体層の面内の組成分布をより均一にすることができる。
【0041】
従来の成膜方法では、Inを含む有機金属化合物を高温高圧で供給していため、In組成比が0.2以上となるInGaNを含む半導体層の膜質の低下を避けることができなかった。
【0042】
本実施形態に係るInGaNを含む半導体層の成膜方法は、InGaNを共通のNHガスではなく、異なる窒素源ガスを別々に反応させることで、InGaNの組成比を制御しやすく、これにより、例えば高In組成のInGaN膜を成長させようとした場合、GaN用窒素源ガスとしてNHを使用するのに対して、InN用窒素源ガスとしてNHガスに比べInの反応が進みやすい原子状窒素供給を行うことにより高In組成で、結晶性、電気的特性、および光学特性等に優れたInGaNを含む半導体層を成膜することができる。
【0043】
<実施形態2>
本実施形態では、NHガス6の分解を、コイル電極13によるプラズマ処理ではなく、ヒーター加熱によって行う場合について説明する。
【0044】
図3は、本実施形態における気相成長装置を示す概略図である。本実施形態に係る気相成長装置は、実施形態1に係る気相成長装置においてGa源供給部11およびGaN用N源供給部12に設置されたコイル電極13、高周波電源、メッシュ電極14の代わりとして、GaN用N源供給部12にNH加熱用ヒーター30が設置されており、それ以外は、実施形態1と同様の構成である。このような構成を採用することにより、実施形態1よりも簡便な構成とすることができる。以下においては、実施形態1と相違する点のみを説明し、実施形態1と重複する説明は省略する。
【0045】
NH加熱用ヒーター30は、NHを加熱分解し、GaN用N源を生成し、GaN用N源供給部12からGaN源生成部17に供給する。GaN用N源を、GaN源生成部17においてGa源と反応させることで、GaN源、窒素および窒素水素化物が形成される。
【0046】
<実施形態3>
本実施形態では、NHガス6の分解を、コイル電極13によるプラズマ処理ではなく、触媒によって行う場合について説明する。
【0047】
図4は、本実施形態におけるMODVD装置を示す概略図である。本実施形態に係る気相成長装置は、実施形態1に係る気相成長装置が備えるGa源供給部11およびGaN用N源供給部12に設置されたコイル電極13、高周波電源およびメッシュ電極14の代わりとして、GaN用N源供給部12に触媒40が設置されており、それ以外は、実施形態1と同様の構成である。このような構成を採用することにより、実施形態1よりも簡便な構成とすることができる。以下においては、実施形態1と相違する点のみを説明し、実施形態1と重複する説明は省略する。
【0048】
本実施形態では、白金やタングステンなどの触媒40により、NHを分解し、GaN用N源を生成し、GaN用N源供給部12からGaN源生成部17に供給する。触媒40は電流を流して加熱することで温度を制御する。但し、触媒40の設置方法は、これに限定されるものではなく、GaN用N源供給部12に設置するだけでもよいし、ヒーターで加熱することで温度を制御してもよい。GaN用N源をGaN源生成部17において、Ga源と反応させることで、GaN源、窒素および窒素水素化物が形成される。
【0049】
<実施形態4>
本実施形態では、InN源生成部16およびGaN源生成部17と成膜部18の間にオリフィス50を設けることで、InN源生成部16およびGaN源生成部17と成膜部18との圧力を独立に制御することができる気相成長装置について説明する。
【0050】
図5は、本実施形態における気相成長装置を示す概略図である。本実施形態は、実施形態1の構成に加えて、InN源生成部16およびGaN源生成部17と成膜部18の間にオリフィス50を設けたこと以外は、実施形態1と同様の構成である。すなわち、実施形態1では、InN源生成部16およびGaN源生成部17と、成膜部18は開放されていたが、本実施形態では、InN源生成部16およびGaN源生成部17と、成膜部18の間にオリフィス50を設けることで圧力差を設けることができる。以下においては、実施形態1と相違する点のみを説明し、実施形態1と重複する説明は省略する。
【0051】
本実施形態では、オリフィス50を設けることにより、それぞれの反応に適した圧力下でIn源とInN用N源、およびGa源とGaN用N源を反応させることで、実施形態1よりも結晶性を高めることができる。
【0052】
オリフィス50を設けることにより、InN源生成部16およびGaN源生成部17と、成膜部18との間で圧力差を生じさせることが可能になる。したがって、上記のInN源生成部16およびGaN源生成部17と、成膜部18の圧力は個別に設定することが可能となる。
【0053】
このようにInGaNを共通のNHガスではなく、異なる圧力において異なるN源ガスを別々に反応させることで、より最適な条件でInN源、窒素および窒素水素化物とGaN源、窒素および窒素水素化物を生成することができ、またIn組成比を制御しやすくすることができ、これにより、高In組成で高品質の薄膜を形成することができる。
【0054】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態では、基板を保持するために基板保持台20を用いたが、本発明における基板を保持する手段は、これに限定されるものではなく、例えば、負圧を発生されて基板2を吸着する基板吸着機構など、基板2を保持する手段であればよい。
【0055】
上記実施形態において、基板2は、下向き表面に半導体層が形成されるように成膜部18を設置していたが、本発明においては、原料となるガス等のパーティクルが混入されない設置方法を用いれば、必ずしも基板2の表面を下向きに配置する必要はなく、基板2の上向き表面に半導体層を形成されるように成膜部18を設置してもよい。
【0056】
また、気相成長装置1に、さらに、その他の金属原料を加え、その他の金属原料供給部およびその他の金属窒化物用N源供給部を備える構成として、基板2上にInGaNとその他の金属を含む半導体層を形成してもよい。このようにしてInGaNを含む半導体層を成膜すると、InGaNを含む半導体層は、InNとGaNとを含む混晶半導体となる。
【符号の説明】
【0057】
1 気相成長装置
2 基板
3 TMI
4 Nガス
5 TMG
6 NHガス
7 キャリアガス
8 プロセス室
9 In源供給部
10 InN用N源供給部
11 Ga源供給部
12 GaN用N源供給部
13 コイル電極
14 メッシュ電極
15 排気口
16 InN源生成部
17 GaN源生成部
18 成膜部
19 ヒーター
20 基板保持台
21 回転機構
30 NH加熱用ヒーター
40 触媒
50 オリフィス


【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相成長装置を用いて、基板上に少なくともInGaNを含む半導体薄膜を形成する気相成長方法であって、
前記気相成長装置内で第一のN源とIn源とを反応させ、InN源を生成する第1のステップと、
前記気相成長装置内で、第一のN源とは異なる第二のN源とGa源とを反応させ、GaN源を生成する第2のステップと、
前記第1のステップで生成された前記InN源と、前記第2のステップで生成された前記GaN源とを前記基板上で反応させ、前記基板上に薄膜を形成する第3のステップとを有する気相成長方法。
【請求項2】
前記第一のN源または前記第二のN源の少なくとも一方を、プラズマ発生機で分解し、生成するステップを有する請求項1記載の気相成長方法。
【請求項3】
前記第一のN源または前記第二のN源の少なくとも一方を、白金またはタングステンを含む触媒を用いて分解し、生成するステップを有する請求項1または2に記載の気相成長方法。
【請求項4】
前記第1のステップにおける前記InN源の圧力は、前記第2のステップにおける前記GaN源の圧力と異なる請求項1から3いずれかに記載の気相成長方法。
【請求項5】
前記第一のN源として少なくともNを含み、前記第二のN源として少なくともNHを含む請求項1から4のいずれかに記載の気相成長方法。
【請求項6】
基板上に、少なくともInGaNを含む半導体薄膜を形成する気相成長装置であって、
前記基板に薄膜を形成する領域であるプロセス室と、
In源を供給するIn源供給部と、
前記In源と反応させるN源を供給する第一のN源供給部と、
Ga源を供給するGa源供給部と、
前記Ga源と反応させ、かつInN源のN源とは異なるN源を供給する第二のN源供給部とを備え、
前記プロセス室は、
前記第一のN源供給部から供給されるN源と、In源供給部から供給されるIn源とが反応し、InN源を生成する第一の反応領域と、
前記第二のN源供給部から供給されるN源と、Ga源供給部から供給されるGa源とが反応し、GaN源を生成する第二の反応領域と、
前記第一の反応領域で生成されたInN源と、前記第二の反応領域で生成されたGaN源とが反応し、前記基板上にInGaNの薄膜を形成する第三の反応領域とを有する気相成長装置。
【請求項7】
前記第一の反応領域と前記第三の反応領域の間に第一のオリフィスと、
前記第二の反応領域と前記第三の反応領域の間に第二のオリフィスとを備える請求項6に記載の気相成長装置。
【請求項8】
前記第一のN源供給部または前記第二のN源供給部の少なくとも一方は、Nを含むプラズマを生成する手段を有する請求項6または7に記載の気相成長装置。
【請求項9】
前記第一のN源供給部または前記第二のN源供給部の少なくとも一方は、白金またはタングステンを含む触媒を有する請求項6から8いずれかに記載の気相成長装置。
【請求項10】
前記第一のN源供給部から供給されるN源は、少なくともNを含み、
前記第二のN源供給部から供給されるN源は、少なくともNHを含む請求項6から9いずれかに記載の気相成長装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−93394(P2013−93394A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233549(P2011−233549)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】