説明

n型AlN結晶、n型AlGaN固溶体及びそれらの製造方法

【課題】 n型AlN結晶、AlGaN固溶体の生産において生産性やキャリア濃度が十分でないという問題があった。本発明はこのような問題点を解決し、半導体素子として利用するのに必要な、低抵抗のn型AlGaN固溶体を得る。
【解決手段】 AlN結晶のAl原子の一部、またはAlGaN固溶体のAlまたは/およびGa原子をIIa族元素で、隣接するN原子のうち2原子をO原子で同時に置換することにより、不純物準位が浅い、低抵抗のn型AlN結晶若しくはn型AlGaN固溶体を作製する。AlN結晶、AlGaN固溶体の製造方法としては、CVD法,MBE法等の方法によることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイドバンドギャップ半導体として開発が進められている、低抵抗n型AlN結晶、n型AlGaN固溶体及びそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
AlN(窒化アルミニウム)は、バンドギャップが大きい(6.5eV)のに加え、高い熱伝導率(320W/mK)や耐熱性等多くの優れた特性を有することから、高密度記録に必要な短波長発光素子やパワーデバイスへの利用が期待されている。
またAlGaN固溶体においても、AlN(窒化アルミニウム)とGaN(窒化ガリウム)の混合比率によって、バンドギャップや熱膨張係数を連続的に制御できることから、高密度記録に必要な短波長発光素子やパワーデバイスの構成要素としての利用が期待されている。これらの用途に用いられるためには、ドーピングによってp,n型結晶を合成する必要があり、AlN、GaN結晶と共に、多方面で検討が行われている。ここで、AlGaN固溶体とは、AlNのAl原子の一部をGa原子で置換した固溶体を意味する。化学式では、Al1-nGanN(0<n<1)と表現される。
【0003】
例えば、原子状のビームを用いて、C原子とO原子を同時ドーピングしたAlN結晶を合成し、C,Oの比率によってp型やn型の半導体を得た事例(特許文献1参照)や、MOCVDを用いたAlN、AlGaN合成時にSiを導入し、キャリア濃度が約1017cm-1のn型AlN結晶やAlGaN固溶体を得た事例(非特許文献1参照)が報告されている。しかし、これらの方法では、生産性やキャリア濃度が十分ではないという問題があった。本発明は、これらの問題を解決するためになされた。
【特許文献1】特開2000−031059号公報
【非特許文献1】Yoshida Taniyasu et.al ,Applied Physics Letters 81(7), 1255p (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように従来の技術においては、生産性やキャリア濃度が十分ではないという問題があった。そこで本発明は、これらの問題を解決するためになされた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明におけるn型AlN結晶は下記の構成よりなる。
(1)AlN結晶のAl原子の一部をIIa族元素で、隣接するN原子のうち2原子をO原子で同時に置換した構造を有するn型AlN結晶。
(2)IIa族元素の濃度(C2A)が1×1018cm-1以上であり、O濃度(Co)が、1.5C2A<Co<2.5C2Aである、前記(1)記載のn型AlN結晶。
(3)CVD法又はMBE法を用いてAlN結晶を合成する際、IIa族元素含有化合物及び酸素(O) 含有化合物を添加することを特徴とするn型AlN結晶の製造方法。
(4)昇華法を用いてAlN結晶を合成する際、IIa族元素含有化合物及び酸素(O) 含有化合物を添加することを特徴とするn型AlN結晶の製造方法。
(5)合成したAlN結晶を、不活性雰囲気において熱処理することを特徴とする、前記(3)または(4)記載のn型AlN結晶の製造方法。
【0006】
すなわち、本発明によれば、AlN結晶のAl原子の一部を、IIa族元素で置換し、隣接する窒素(N)2原子を酸素(O)2原子で置換することにより、浅い不純物準位が形成され、低抵抗n型AlN結晶を得ることができる。ここで、IIa族元素とは、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Raを示し、本発明には、Be、Mgが特に望ましい。
より具体的には、CVDや昇華法によってAlN結晶を合成する際に、IIa族元素化合物及び酸素(O) 含有化合物を添加することによってこれらの元素を含有する結晶を合成し、必要に応じて熱処理(拡散処理)することにより、前述の「O−M−O構造」(MはIIa族金属)を形成して、浅い不純物準位を有するn型半導体を得ることができる。この際、IIa族元素及び酸素(O)が単一の化合物中に含有される場合には、必ずしも、複数の化合物を用いる必要はない。
【0007】
さらに本発明におけるn型AlGaN固溶体は下記の構成よりなる。
(6)AlGaN固溶体のAlまたは/およびGa原子をIIa族元素で、隣接するN原子のうち2原子をO原子で同時に置換した構造を有するn型AlGaN固溶体。
(7)IIa族元素の濃度(C2A)が1×1013cm-1以上であり、O濃度(Co)が、1.5C2A<Co<2.5C2Aである、前記(6)記載のn型AlGaN固溶体。
(8)Al原子の濃度(CAl)とGa原子の濃度(CGa)の関係が、CAl≧CGaである前記(6)又は(7)に記載のn型AlGaN固溶体。
(9)CVD法又はMBE法を用いてAlGaN固溶体を合成する際、IIa族元素含有化合物及び酸素(O) 含有化合物を添加することを特徴とする、前記(6)〜(8)のいずれか一項に記載のn型AlGaN固溶体の製造方法。
(10)合成したAlGaN固溶体を、不活性雰囲気において熱処理することを特徴とする、前記(4)記載のn型AlGaN固溶体の製造方法。
【0008】
すなわち本発明によれば、AlGaN固溶体のIIIb族原素(Alまたは/およびGa原子)を、IIa族元素で置換し、隣接する窒素(N)2原子を酸素(O)2原子で置換することにより、浅い不純物準位が形成され、低抵抗のn型AlGaN固溶体を得ることができる。
より具体的には、CVD法等によってAlGaN固溶体を合成する際に、IIa族元素化合物及び酸素(O) 含有化合物を添加することによってこれらの元素を含有する固溶体を合成し、必要に応じて熱処理(拡散処理)することにより、前述の「O−M−O構造」(MはIIa族金属)を形成して、浅い不純物準位を有するn型半導体を得ることができる。この際、IIa族元素及び酸素(O)が単一の化合物中に含有される場合には、必ずしも、複数の化合物を用いる必要はない。
【0009】
前述のO−M−O構造の形成とその導電性を向上させる効果については、第一原理計算による解析等から、次のような要因があると推定される。
構造形成については、AlNのAl若しくはAlGaN固溶体のIIIb族元素をIIa族元素で単独置換する場合や、NをOで単独置換する場合には、格子の歪みが大きく、特にIIa族元素では添加可能な濃度が限られてしまう。これに対し、O−M−O構造では、格子の歪みが小さく、M−O結合エネルギーが極めて強いことも相まって、エネルギー的に極めて有利となる。このため、結晶(固溶体)成長中や熱処理中において、M,Oは隣接サイトに選択的に導入されると推定される。この効果はBeとMgで特に顕著である。
【0010】
この構造の効果については、M−O結合により、Oの結合形態が変化するためと考えている。酸素は、AlNに相当量(約1000ppm)固溶することが古くから知られており、「n型半導体」となるが、深い不純物準位(350〜700meV)を形成するため、現実には絶縁体的な挙動を示す。この原因は、OがNサイトで偏心するため、非結合手が生じるためと考えられている。IIa族元素で隣接位置を置換することによって偏心が解消され、不純物準位が浅くなり、導電性が向上する。AlN結晶若しくはAlGaN固溶体でも、同様の現象が生じているものと推定される。
【0011】
上述の同時ドーピングにおいて、ドープ元素濃度の比率は重要である。O/Mが1.5以下の場合には、Mの単独置換サイト(p型)やM−O構造(電荷中立)が多く形成され、n型半導体としての機能が十分ではなくなる。一方、O/Mが2.5以上の場合には、Oの単独置換サイトが多く形成されて、深い不純物準位の影響が主体的となり、導電率が低下する。
また、本発明のn型AlGnN固溶体において、本同時ドーピングの効果はAlN側で顕著である。Nサイトを置換するO原子との結合強度は、Alの方がGaより大きく、隣接するIIIb族サイトのGa原子数が多い場合には、エネルギー面の優位性が低下するためと推定される。
【発明の効果】
【0012】
以上の様に、本発明によれば、低抵抗のn型AlN半導体結晶若しくはn型AlGaN固溶体を得ることができ、短波長発光素子やパワーデバイスを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、実施例にもとづいて本発明を具体的に説明する。
実施例1
AlN単結晶板(1mm×5mm×1mm)に、IIa族元素及びOOの濃度が表1の濃度になるよう、イオン注入法を用いてドープを行い、不活性雰囲気中1500℃で10分間熱処理して試料を作製し、100℃で導電率を測定した。結果を表1に併記した。
【0014】
【表1】

【0015】
実施例2
昇華法により、SiC基板上に成長したAlN(0001)を基板としてエピタキシャル成長をMOCVD法により行った。トリメチルアルミニウムとアンモニアからドーパントを含まないAlNエピタキシャル層を約0.5μm成長させた後、装置内にトリメチルアルミニウム、アンモニアとは別系統で基板ホルダー直上に設置したノズルから、エチルアルコールとビスシクロペンタディエニルマグネシウムを導入しながら0.2μmのエピタキシャル層を成長させた。成長後、不活性ガス雰囲気下で1200℃にてアニール処理を行った。その結果、シート抵抗500Ω、またホール測定によりn型の導電性を示すことが確認された。
【0016】
実施例3
高さが200mmの炭素(グラファイト)製ヒータの内部に、MgO粉末(1wt%)とAl23粉末(0.8wt%)を混合したAlN粉末を入れたBN製のルツボを設置し、ケースの上部にはAlNの種結晶を固定して、1気圧の窒素雰囲気中、ルツボ下部の温度が2200℃,上部が2100℃となるよう20時間加熱し、AlN結晶を成長させた。得られた結晶の比抵抗を150℃で測定した結果、0.8Ω・cmであった。
【0017】
実施例4
サファイア(0001)を基板として、AlNエピタキシャル成長をHVPE法により行った。
石英管中にAlCl3とNH3を別系統で導入して基板上で反応させ、さらに別系統からCP2Mgと酸素を導入した。圧力は常圧、温度は1000℃とし、5時間結晶成長させた後、不活性ガス雰囲気下、1200℃でアニール処理を行った。得られた試料の導電性性を測定した結果、シート抵抗は500Ωであり、ホール測定によりn型の電気伝導を示すことが確認された。
【0018】
実施例5
Gaの含有率が5at%(Al/Gaの原子比=9)のAlGaN固溶体の板(1mm×5mm×1mm)に、IIa族元素及びOの濃度が表2の濃度になるよう、イオン注入法を用いてドープを行い、不活性雰囲気中1200で10分間熱処理して試料(1−A,1−B)を作製し、100℃で導電率を測定した。さらにIIa族元素に対するO濃度比が約1.15の試料(1−C)及び同約2.94の試料(1−D)を実施例と同様の方法により作製し、100℃で導電率を測定した。これらの結果を表2に併記した。
【0019】
【表2】

【0020】
実施例6
昇華法により、SiC基板上に成長したAlN(0001)を基板としてエピタキシャル成長をMOCVD法により行った。トリメチルアルミニウム、トリメチルガリウムとアンモニアからドーパントを含まないAlNエピタキシャル層を約0.5μm成長させた後、装置内にトリメチルアルミニウム、トリメチルガリウム、アンモニアとは別系統で基板ホルダー直上に設置したノズルから、エチルアルコールとビスシクロペンタディエニルマグネシウムを導入しながら0.3μmのエピタキシャル層を成長させた。成長後、不活性ガス雰囲気下で1200℃にてアニール処理を行った。得られたAlGaN層のAl/Ga比率は15であった。導電率を測定した結果、シート抵抗400Ω、またホール測定によりn型の導電性を示すことが確認された。
【0021】
実施例7
サファイア(0001)を基板として、AlGaNエピタキシャル成長をHVPE法により行った。
石英管中にAlCl3、GaCl3とNH3を別系統で導入して基板上で反応させ、さらに別系統からCP2Mgと酸素を導入した。圧力は常圧、温度は1000℃とし、3時間結晶成長させた後、不活性ガス雰囲気下、1150℃でアニール処理を行った。得られた試料のAl/Ga比率は、4.5であった。導電率を測定した結果、シート抵抗は1.2kΩであり、ホール測定によりn型の導電性を示すことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlN結晶のAl原子の一部をIIa族元素で、隣接するN原子のうち2原子をO原子で同時に置換した構造を有するn型AlN結晶。
【請求項2】
IIa族元素の濃度(C2A)が1×1018cm-1以上であり、O濃度(Co)が、1.5C2A<Co<2.5C2Aである、請求項1記載のn型AlN結晶。
【請求項3】
CVD法又はMBE法を用いてAlN結晶を合成する際、IIa族元素含有化合物及び酸素(O) 含有化合物を添加することを特徴とするn型AlN結晶の製造方法。
【請求項4】
昇華法を用いてAlN結晶を合成する際、IIa族元素含有化合物及び酸素(O) 含有化合物を添加することを特徴とするn型AlN結晶の製造方法。
【請求項5】
合成したAlN結晶を、不活性雰囲気において熱処理することを特徴とする、請求項3または4記載のn型AlN結晶の製造方法。
【請求項6】
AlGaN固溶体のAlまたは/およびGa原子をIIa族元素で、隣接するN原子のうち2原子をO原子で同時に置換した構造を有するn型AlGaN固溶体。
【請求項7】
IIa族元素の濃度(C2A)が1×1013cm-1以上であり、O濃度(Co)が、1.5C2A<Co<2.5C2Aである、請求項6記載のn型AlGaN固溶体。
【請求項8】
Al原子の濃度(CAl)とGa原子の濃度(CGa)の関係が、CAl≧CGaである請求項6又は7に記載のn型AlGaN固溶体。
【請求項9】
CVD法又はMBE法を用いてAlGaN固溶体を合成する際、IIa族元素含有化合物及び酸素(O) 含有化合物を添加することを特徴とする、請求項6〜8のいずれか一項に記載のn型AlGaN固溶体の製造方法。
【請求項10】
合成したAlGaN固溶体を、不活性雰囲気において熱処理することを特徴とする、請求項4記載のn型AlGaN固溶体の製造方法。

【公開番号】特開2006−52123(P2006−52123A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174864(P2005−174864)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】