インサートモールド方法、インサートモールド構造及び動力伝達装置
【課題】 大きな回転トルクがかかってもピンが倒れない樹脂製プーリの提供を図る。
【解決手段】第1の金型61に形成された保持穴61cに、インサートピン33を装着した状態で、第1の金型61に対して第2の金型63を組み合わせて内部にキャビティCを形成し、該キャビティC内に溶解モールド材を流しこむインサートモールド方法であって、保持穴61cが開口する面61bに対してインサートピン33に形成された段差面33eを密着させることで、保持穴61cを段差面33eによって密閉した状態とし、この状態でキャビティC内に溶解モールド材を流し込む。これにより、このインサートモールド方法による製造物は、インサートピン33の露出部33d(すなわちインサートピン33がモールド部材31から突出する部分33d)の根元にバリがない構造となり、バリを除去する工程が不要となる。
【解決手段】第1の金型61に形成された保持穴61cに、インサートピン33を装着した状態で、第1の金型61に対して第2の金型63を組み合わせて内部にキャビティCを形成し、該キャビティC内に溶解モールド材を流しこむインサートモールド方法であって、保持穴61cが開口する面61bに対してインサートピン33に形成された段差面33eを密着させることで、保持穴61cを段差面33eによって密閉した状態とし、この状態でキャビティC内に溶解モールド材を流し込む。これにより、このインサートモールド方法による製造物は、インサートピン33の露出部33d(すなわちインサートピン33がモールド部材31から突出する部分33d)の根元にバリがない構造となり、バリを除去する工程が不要となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インサートピンのインサートモールド方法および構造に関し、またこれを用いた動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1にはトルクリミッター機能を持った動力伝達装置が開示されている。なお、この背景技術の説明でカッコ内の符号番号は特許文献1の図1中の符号番号に一致させてある。この動力伝達装置は、エンジンからの動力を受けて駆動する駆動側の回転部材としてのプーリ(1、2)と、プーリ(1、2)と同軸上に並列配置されるとともにプーリ(1、2)によって回転駆動する従動側の回転部材としてのハブ(9、11)と、を備えている。プーリ(1、2)とハブ(9、11)との間にはトルクリミッター機能を有する係合機構が設けられている。係合機構は、正常運転時には、プーリ(1、2)とハブ(9、11)とを連結してプーリ(1、2)の回転トルクをハブ(9、11)に伝達する。また、係合機構は、異常時(例えば圧縮機の焼きつき故障等によるロック時)には、プーリ(1、2)とハブ(9、11)との連結を解除する。これにより異常時にその他の部位の破損を防いでいる。
【0003】
具体的には、係合機構は、金属製のプーリ(2)の圧入孔(2b)に圧入された金属製のピン(6)と、ハブ(11)に固定された金属製の保持部材(13)と、ピン(6)と連結し且つ保持部材(13)の間隙に保持される弾性体(7)と、を備えている。正常運転時には、弾性体(7)は保持部材(13)の間隙内に保持されたままハブ(11)とプーリ(2)とを連結し、異常時には弾性体(7)が弾性変形して保持部材(13)の間隙をくぐり抜けてハブ(11)とプーリ(2)とを連結を解除する。
【特許文献1】特開平8−135752号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような装置において、プーリに圧入孔を設けてピンを圧入する構造よりも、プーリに予めピンをインサートモールドする構造のほうがピンが安定して好ましいと考えられるが、インサートモールド成形工程で、ピンの根元にバリが発生してしまう。このようなバリが、ピンと、ピンと係合する連結部材と、の接触面間に介在すると、係合が不完全となって連結部材が設定負荷以下または設定負荷以上でピンから離脱する虞がある。そのため、正常にトルクリミッター機能が作動するようにバリ除去工程が必要になり、製造コストが嵩んでしまう。
【0005】
本発明は、以上のような問題を背景に為されたものであって、インサートピンの根元のバリ除去工程が不要なインサートモールド方法および構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、第1の金型に形成された保持穴にインサートピンを装着した状態で、前記第1の金型に対して第2の金型を組み合わせて内部にキャビティを形成して前記キャビティ内に溶解モールド材を流しこむインサートモールド方法であって、前記保持穴の開口端面に対して、前記インサートピンに形成された環状の段差面を、密着させることで、前記保持穴を密閉し、この状態でキャビティ内に溶解モールド材を流し込むことを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に記載の発明は、第1の金型に形成された保持穴に、インサートピンを装着した状態で、前記第1の金型に対して第2の金型を組み合わせて内部にキャビティを形成して前記キャビティ内に溶解モールド材を流しこむインサートモールド方法であって、前記保持穴が開口する面には、該保持穴の開口周縁に環状の突起が設けられていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3に記載の発明は、モールド部材にインサートピンがインサートモールドされたインサートモールド構造であって、前記インサートピンは、その埋設部と露出部との境界に段差面を備え、該段差面が前記回転部材の表面と面一に設けられていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項4に記載の発明は、モールド部材にインサートピンがインサートモールドされたインサートモールド構造であって、前記モールド部材の表面のうちインサートピンが突出する面は、その内周側に外周側よりも凹設された凹部を備え、該凹部から前記インサートピンが突出していることを特徴とするものである。
【0010】
請求項5に記載の発明は、回転自在に配置された駆動側の回転部材と、前記駆動側部材と独立して回転自在に配置された従動側の回転部材と、一方の回転部材に一部がインサートモールドされたインサートピンと、他方の回転部材に装着され且つ前記インサートピンと係合することで前記2つの回転部材を一体的に回転させるとともに前記2つの回転部材の間に所定値以上の回転負荷が加わった際に前記インサートピンとの係合から離脱する連結部材と、を備えた動力伝達装置であって、前記インサートピンは、その埋設部と露出部との境界に段差面を備え、該段差面が前記一方の回転部材の表面と面一に設けられていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項6に記載の発明は、回転自在に配置された駆動側の回転部材と、前記駆動側部材と独立して回転自在に配置された従動側の回転部材と、一方の回転部材に一部がインサートモールドされたインサートピンと、他方の回転部材に装着され且つ前記インサートピンと係合することで前記2つの回転部材を一体的に回転させるとともに前記2つの回転部材の間に所定値以上の回転負荷が加わった際に前記インサートピンとの係合から離脱する連結部材と、を備えた動力伝達装置であって、前記一方の回転部材の表面のうちインサートピンが突出する面は、その内周側に外周側よりも凹設された凹部を備え、該凹部から前記インサートピンが突出していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、第1の金型の保持穴の開口する面に対して、インサートピンの段差面を密着させることで、保持穴を密閉し、この状態でキャビティ内に溶解モールド材を流し込む方法を採用する。そのため、保持穴とインサートピンとの間の隙間に溶解モールド材が流れ込むことが防止される。これにより、このインサートモールド方法による製造物は、インサートピンの露出部(すなわちインサートピンがモールド部材の表面から突出する部分)の根元にバリがない構造となる。結果、インサートピンの露出部の根元のバリを除去する工程が不要となる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、第1の金型の保持穴が開口する面には、保持穴の開口周縁に沿う環状の突起が設けられているため、このインサートモールド方法による製造物は、モールド部材の表面のうちインサートピンが突出する面に、内周側に外周側よりも凹設された凹部を備え、該凹部から前記インサートピンが突出している構造となる。そのため、キャビティ内に溶解モールド材を流し込んだ際に、保持穴とインサートピンとの間の隙間に溶解モールド材が流れ込んで、インサートピンの露出部(すなわちインサートピンがモールド部材の表面から突出する部分)の根元にバリができても、このバリが凹部内に納まる。結果、インサートピンの露出部の根元のバリを除去する工程が不要となる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、インサートピンは埋設部と露出部との境界に段差面を備え、その段差面がモールド部材の表面と面一に設けられている。そのため、このインサートモールド構造は、請求項1のインサートモールド方法によって製造できるため、インサートピンの露出部の根元にバリがない構造となる。結果、インサートピンの露出部の根元のバリを除去する工程が不要となる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、モールド部材の表面のうちインサートピンが突出する面は、内周側に外周側よりも凹設された凹部を備え、該凹部から前記インサートピンが突出している。そのため、このインサートモールド構造は、請求項2のインサートモールド方法によって製造できるため、インサートピンの露出部の根元にバリができても、このバリが凹部内に納まる。結果、インサートピンの露出部の根元のバリを除去する工程が不要となる。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、インサートピンは埋設部と露出部との境界に段差面を備え、その段差面が一方の回転部材の表面と面一に設けられている。そのため、このインサートピンのインサートモールド構造は、請求項1のインサートモールド方法によって製造できるため、インサートピンの露出部の根元にバリがない構造となる。結果、インサートピンの露出部の根元のバリを除去する工程が不要となる。
【0017】
請求項6に記載の発明には、一方の回転部材の表面のうちインサートピンが突出する面は、内周側に外周側よりも凹設された凹部を備え、その凹部からインサートピンが突出している。そのため、このインサートピンのインサートモールド構造は、請求項2のインサートモールド方法によって製造できるため、インサートピンの露出部の根元にバリができても、このバリが凹部内に納まる。結果、インサートピンの露出部の根元のバリを除去する工程が不要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
第1実施形態:図1〜図10は本発明の第1実施形態を示すものである。図1は本発明の第1実施形態の動力伝達装置の分解斜視図、図2は同動力伝達装置の縦断面図、図3は同動力伝達装置の図2中の矢示III方向からの側面図、図4は図1の動力伝達装置の組立方法の説明図、図5は図1の動力伝達装置の動力遮断後の状態を示す説明図、図6は同動力伝達装置のロケーションプレートの左側面図、図7は同ロケーションプレートの右側面図、図8は同ロケーションプレートの図6中のVIII−VIII線の沿う側面図、図9は同ロケーションプレートの成形方法を示す断面図であって図9aはキャビティに溶解モールド材としての溶解樹脂を流す前の状態を示す図であり図9bはキャビティに溶解樹脂を流し込んだ後の状態を示す図、図10は図9b中のX部の拡大断面図である。
【0020】
本実施形態では、動力伝達装置1のプーリの一部を構成するロケーションプレートの成形方法に特徴を有するものであり、まず、動力伝達装置1を説明したのち、ロケーションプレート30の成形方法を説明する。
【0021】
「動力伝達装置」
本実施形態の動力伝達装置1は、図1〜図3に示すように、従動機としての圧縮機3に装着されるもので、圧縮機3のハウジング5のボス部5aにベアリング6を介して回転自在に装着されたプーリ20(駆動側の回転部材)と、圧縮機3の回転軸7の端部に固定されたハブ50(従動側の回転部材)と、これらを連結する連結部材12と、を備える。
【0022】
本実施形態のプーリ20は、樹脂製のプーリ本体部21と、プーリ本体部21にダンパー40を介して装着されて該プーリ本体部21と一体的に回転する樹脂製のロケーションプレート30と、を備える。
【0023】
プーリ20のロケーションプレート30の一方(ハブ側)の面には、複数個(この例では3つ)の円柱状のピン33が立設されている。このピン33は、プーリ20の回転中心を中心とする同一円周上に所定(この例では120°)の角度間隔で配置されている。
【0024】
ハブ50には、プーリ20の回転中心を中心とする同一円周上に所定(この例では120°)の角度間隔でリベット装着孔51が形成されており、この装着孔51にリベット53によって連結部材12の一端部が回転自在に固定されている。そして、連結部材12の他端部がプーリ20のピン33に係合することで、2つの回転部材20、50が一体的に回転するようになっている。
【0025】
連結部材12の他端部は、2つの回転部材の間に所定値以上の回転負荷が加わるとピン33との係合から離脱するようになっており、これにより、トルクリミッター機能を発揮する。
【0026】
以下、より具体的に連結部材12について説明すると、連結部材12は、軸受鋼や高炭素鋼等のバネ材を所定形状に打ち抜いて製作されている。なお、連結部材12は、所定形状に打ち抜かれた同形同大の2枚以上の板材を厚み方向に重ね合わせたものであってもよい。この連結部材12は、二股状のリーフスプリングとして構成され、スリット状の隙間16を介して対向する一対の側片12aを備えている。連結部材12の連結端側には、リベット53の外周部に当接してピン33を回転自在に係合する貫通孔14を有している。また、連結部材12の開放端側には、両側片12a、12aの先端部分に形成されピン33を狭持する狭持部15、15を備えている。この狭持部15、15は、ピン33の外周部に沿って形成される凹曲面15、15として構成され、この凹曲面15の両端縁にはピン33の外周部に接触する凸部17A、17Bを備えている。凸部17A、17Bは凸円形状に形成されて、凹曲面15、15のうち凸部17A、17Bのみがピン33の外周部と接触するようになっており、凹曲面15のうち凸部17A、17B以外の部位はピン33の外周部とクリアランスをもっている。連結端側(基端側)の凸部17A、17A間の距離Lは、開放端側(先端側)の凸部17B、17B間の距離L’よりも大きくなっている。また、一対の側片12a,12a間の隙間16の幅wは、ピン33の外周径よりもわずかに大きくなっており、ピン33を移動自在に収容できるようになっている。
【0027】
この動力伝達装置1の組立工程において、プーリ20とハブ50とを連結する際には、プーリ20のピン33とハブ50のリベット53とを連結部材12で連結することで行われる。具体的にはまず、ハブ50にリベット53で連結部材12を回転自在に固定し、次に、図4に示すように連結部材12の隙間16内に、プーリのピン33を挿入する。次いで、ハブ50を回転しないように固定した状態で、プーリ20を正転(矢印方向に回転)させる。これにより、隙間16内のピン33を開放端側に移動させてピン33を開放端側の狭持部15,15内に押し込み、最終的に図3に示すようにピン33が狭持部15,15内に狭持された状態とする。このようにして動力伝達装置1を組み立てる。
【0028】
次に、上記のように構成された動力伝達装置の動作を説明する。駆動機としてのエンジンンの動力によって図示せぬベルトを介してプーリ20が回転すると、係合機構(ピン33、連結部材12、及びリベット53)を介してハブ50が一体的に回転する。ハブ50が回転すると、これと一体的に従動機としての圧縮機の回転軸7が回転し、圧縮機が作動する。
【0029】
圧縮機内部に焼付等が生じて負荷トルクが所定値を超えた場合には、連結部材12の側片12a,12aが押し広がりつつ連結部材12からピン33が離脱し、これにより、プーリ20から回転軸7への動力の伝達が遮断されてプーリ20が空転する(図5参照)。そのため、圧縮機およびエンジンを損傷させずに済む。
【0030】
次に、プーリの構造をより詳しく説明する。上述の如く、本実施形態のプーリ20は、樹脂製のプーリ本体部21と、プーリ本体部21にダンパー40を介して装着されて該プーリ本体部21と一体的に回転する樹脂製のロケーションプレート30と、を備える。
【0031】
プーリ本体部21は、外周側にベルト係合部23aを有す得る外筒部23と、内周側にベアリング6が嵌合する内筒部25と、これら外筒部23と内筒部25とを連結する放射状に延びた複数のリブ27と、を備え、外筒部23と内筒部25との間には複数のリブ27によって区画された扇状の収納空間28が設けられている。
【0032】
プーリ本体部21の収容空間28には、ダンパー40が装着されている。このダンパー40は、略四角柱のブロック形状に成形された一対のダンパー本体40aと、一対のダンパー本体40aを連結する連結帯40bと、を備えて構成されており、全体がゴム、軟質樹脂等の弾性体によって形成されている。一対のダンパー本体40aの間には空間40dが形成され、この空間40dに、ロケーションプレート30の突起31cが嵌入される。
【0033】
ロケーションプレート30は、リング状で且つ円板状の本体部31と、本体部31にインサートモールドされ且つ本体部31の一方の面31aから突出された円柱状のピン33と、本体部31の他方の面31bから突出された6片の突起31cと、を備える。この突起31cが、プーリ本体部21に装着されるダンパー40の空間40dに嵌合されることで、プーリ本体部21とロケーションプレート30とがダンパー40を介して一体化したプーリ20となる。そして、ロケーションプレート30のインサートピン33に、ハブ50に装着された連結部材12が係合されることで、プーリ20とハブ50とが一体的に回転するようになっている。なお、上述の如く所定値以上の負荷トルクが加わると、連結部材12がインサートピン33から離脱してプーリ20が空転する。
【0034】
次に、インサートピン33について図6〜図8を参照しつつより詳しく説明する。インサートピン33は、図6、7に示すように、略円柱状に形成され、樹脂製のロケーションプレート本体部(モールド部材)31にインサートモールドされたものである。このインサートピンは、図8に示すように、本体部21に埋設された埋設部33cと、ロケーションプレート本体部31から露出(突出)する露出部33dと、を備える。埋設部33cは露出部33dよりも大径に形成され、埋設部33cと露出部33dと境界には略円環状の段差面33eが設けられている。インサートピン33の埋設部33cには、インサートピン33に軸心に対して非対称形(この例では6角形)に形成された頭部33fが形成されており、この頭部33fによりロケーションプレート本体部31に対して回転してしまうことが防止されている。
【0035】
そして、段差面33eは、ロケーションプレート本体部31の表面31a、31eのうちインサートピン33が突出する面31eと面一に設けられている。なお、ロケーションプレート本体部31の表面31aのうち、一般面よりもインサートピン33が突出する面31eが一段高く設けられており、この面31eが連結部材12を取り付ける取付面31eとして構成されている。この例では、取付面31と連結部材12とは図2に示すように非接触である。
「ロケーションプレートの成形方法」
次に、ロケーションプレート30の成形方法について説明する。
【0036】
ロケーションプレート30の成形金型は、互いに組み合わせることで、内部にキャビティCを形成する第1の金型61および第2の金型63を備えてなる。第1の金型61には、キャビティCを臨むようにインサートピン33を装着自在な保持穴61cが設けられている。この保持穴61cにインサートピン33を装着すると、インサートピン33の一部33dが保持穴61c内に位置し且つ残りの部分33cがキャビティC内に露出する。この保持穴61c内に位置する部分33bは、モールド部材31から露出する部分となり、一方、保持穴61c外に位置してキャビティC内に露出する部分33cは、モールド部材31に埋設される部分となる。
【0037】
ロケーションプレート30を成形工程は、まず、第1の金型61の保持穴61cに、インサートピン33を装着した状態で、第1の金型61に対して第2の金型63を組み合わせて内部にキャビティCを形成する。この状態で、図示せぬランナー、ゲートからキャビティC内に溶解モールド材(溶解樹脂)を流しこむ。そして、溶解モールド部材が冷えて固化したのち、第1の金型61と第2の金型63を分解して、求めるロケーションプレート30を得る。
【0038】
キャビティC内に溶解モールド材を流し込む際には、第1の金型61の保持穴61cにインサートピン33を装着しておくが、このとき図9aおよび図10に示すように第1の金型61の保持穴61cが開口する面61bに対してインサートピン33の段差面33eが密着することで、保持穴61cが段差面33eによって密閉される。そのため、キャビティC内に溶解モールド材を流し込んだ際に、保持穴61c内には溶解モールド材が侵入しないようになっている。これにより、このインサートモールド方法による製造物は、インサートピン33の根元にバリが発生しない構造となる。
【0039】
なお、保持穴61cにインサートピン33を装着した際には、突出しピン65で、インサートピン33を保持穴61cの所定の位置まで押し込むようになっており、第2の金型63には、突出しピン65を挿入するための挿入孔67が設けられている。
【0040】
「効果」
以下、第1実施形態の効果をまとめる。
【0041】
(1)第1実施形態のインサートモールド方法によれば、第1の金型61に形成された保持穴61cに、インサートピン33を装着した状態で、第1の金型61に対して第2の金型63を組み合わせて内部にキャビティCを形成し、該キャビティC内に溶解モールド材を流しこむインサートモールド方法であって、保持穴61cが開口する面61bに対してインサートピン33に形成された段差面33eを密着させることで、保持穴61cを段差面33eによって密閉し、この状態でキャビティC内に溶解モールド材を流し込むことを特徴とするものである。
【0042】
そのため、保持穴61cとインサートピン33との間の隙間S(図10参照)に溶解モールド材が流れ込むことが防止される。これにより、このインサートモールド方法による製造物は、インサートピン33の露出部33d(すなわちインサートピン33がモールド部材31から突出する部分33d)の根元にバリがない構造となる。結果、インサートピン33の露出部33dの根元のバリを除去する工程が不要となる。
【0043】
なお、このインサートモールド方法による製造物は、インサートピン33の埋設部33cと露出部33dとの境界に形成される段差面33eが、該段差面33eとモールド部材31の表面31eと面一に設けられた構造となる。
【0044】
(2)第1実施形態のインサートモールド構造によれば、モールド部材31にインサートピン33がインサートモールドされたインサートモールド構造であって、インサートピン33は、その埋設部33cと露出部33dとの境界に段差面33eを備え、該段差面33eとモールド部材31の表面31eとが面一に設けられていることを特徴とするものである。
【0045】
そのため、このインサートモールド構造は、上記(1)のインサートモールド方法によって製造できるため、インサートピン33の露出部33dの根元にバリがない構造となる。結果、インサートピン33の露出部33dの根元のバリを除去する工程が不要となる。
【0046】
(3)第1実施形態の動力伝達装置1によれば、回転自在に配置された駆動側の回転部材20と、駆動側の回転部材20と独立して回転自在に配置された従動側の回転部材50と、一方の回転部材(この例では駆動側の回転部材20)に一部33d、33cがインサートモールドされたインサートピン33と、他方の回転部材(この例では従動側の回転部材50)に装着され且つインサートピン33の露出部33dと係合することで2つの回転部材20、50を一体的に回転させるとともに2つの回転部材20、50の間に所定値以上の回転負荷が加わった際にインサートピン33との係合から離脱する連結部材12と、を備えた動力伝達装置1であって、インサートピン33は、その埋設部33cと露出部33dとの境界に段差面33eを備え、該段差面33eが一方の回転部材20の表面31eと面一に設けられていることを特徴とするものである。
【0047】
そのため、動力伝達装置1の一方の回転部材20を構成するロケーションプレート30は、上記(1)のインサートモールド方法によって形成できるので、インサートピン33の露出部33dの根元にバリがない構造となる。結果、インサートピン33の露出部33dの根元のバリを除去する工程が不要となる。
【0048】
(4)また、第1実施形態の動力伝達装置1によれば、前記一方の回転部材20は、2つの部材21、31をダンパー40を介して一体に組み付けられたものである。そのため、ダンパー40により、トルクショックを吸収できて好ましい。
【0049】
次に、その他の実施形態を説明する。なお、上述の第1実施形態と同様の構造については同一符号を付して構造およびその作用効果の説明を省略する。
【0050】
第2実施形態:図11〜図13は本発明の第2実施形態を示すものである。図11は本実施形態の動力伝達装置のロケーションプレートの断面図、図12は同ロケーションプレートの成形方法を示す断面図であって図12aはキャビティに溶解モールド材としての溶解樹脂を流す前の状態を示す図であり図12bはキャビティに溶解樹脂を流し込んだ後の状態を示す図、図13は図12b中の要部拡大断面図である。
【0051】
第2実施形態では、図11に示すようにインサートピン33がその露出部33dと埋設部33cとが同径で段差面を有さず、ロケーションプレート本体部31の表面のうちインサートピン33が突出する面31e(つまり連結部材12を取り付ける取付面31e)に、その内周側に外周側の部分よりも凹設された凹部71が設けられ、該凹部71からインサートピン33が突出している点で、第1実施形態と異なっている。
【0052】
つまり、第2実施形態の成型金型は、図12、13に示すように、第1の金型61の保持穴61cが開口する面61bには、保持穴61cの開口の周縁かに沿う環状の突起73が設けられている。言い換えると、環状突起73は、保持穴61cの内周面から連続して設けられ且つ保持穴61cが開口する面61bのうちの外周側の部分より突出している。この環状の突起73によって、上述の凹部71が形成される。
【0053】
そのため、キャビティC内に溶解モールド材を流し込んだ際に、図13に示すように、保持穴61cとインサートピン33との間の隙間Sに溶解モールド材が流れ込んで、インサートピン33の露出部33dの根元にバリBができても、このバリBが凹部71の外周側の面31e(つまり連結部材12を取り付ける取付面31e)よりも突出せずに凹部71内に納まる。結果、インサートピン33の露出部33dに他の部材(この例では連結部材12)を係合させても他の部材12がバリと接触せずに、係合状態が阻害されない。そのため、インサートピン33の露出部33dの根元のバリを除去する工程が不要となる。
【0054】
以下、第2実施形態の効果をまとめる。
【0055】
(5)第2実施形態のインサートモールド方法によれば、第1の金型61に形成された保持穴61cに、インサートピン33を装着した状態で、第1の金型61に対して第2の金型63を組み合わせて内部にキャビティCを形成し、キャビティC内に溶解モールド材を流しこむことでインサートピン33をインサートモールドするインサートモールド方法であって、第1の金型61の保持穴61cが開口する面61bには、保持穴61cの開口の周縁から突出する環状突起73が設けられていることを特徴とするものである。
【0056】
そのため、キャビティC内に溶解モールド材を流し込んだ際に、保持穴61cとインサートピン33との間の隙間Sに溶解モールド材が流れ込んで、インサートピン33の露出部33dの根元にバリBができても、このバリBが凹部71内に納まるため、インサートピン33の露出部33dの根元のバリBを除去する工程が不要となる。
【0057】
(6)第2実施形態のインサートモールド構造および動力伝達装置によれば、モールド部材31にインサートピン33がインサートモールドされたインサートモールド構造であって、モールド部材31の表面のうちインサートピン33が突出する面31eには、その内周側が外周側よりも凹設された凹部71を備え、該凹部71からインサートピン33が突出していることを特徴とするものである。
【0058】
そのため、このインサートモールド構造および動力伝達装置は、上記(5)のインサートモールド方法によって形成でき、インサートピン33の露出部33dの根元にバリBができても、このバリBがモールド部材31の凹部71内に納まる。結果、インサートピン33の露出部33dの根元のバリBを除去する工程が不要となる。
【0059】
第3実施形態:図14〜図16は本発明の第2実施形態を示すものである。図14は本実施形態の動力伝達装置のロケーションプレートの断面図、図15は同ロケーションプレートの成形方法を示す断面図であって図15aはキャビティに溶解モールド材としての溶解樹脂を流す前の状態を示す図であり図15bはキャビティに溶解樹脂を流し込んだ後の状態を示す図、図16は図15b中の要部拡大断面図である。
【0060】
この第3実施形態は、第1実施形態と第2実施形態とを組み合わせたものである。すなわち、インサートピン33は、埋設部33cと露出部33dとの境界に円環状の段差面33eを備え、モールド部材31の表面のうちインサートピン33が突出する面31eは、その内周側に外周側の部分よりも凹設された凹部71を備え、該凹部71からインサートピン33が突出するとともに凹部71の底面とインサートピン33の段差面33eとが面一に設けられている。
【0061】
つまり、第3実施形態の成形金型では、第1の金型61の保持穴61cが開口する面61bには、凹部71に対応して、保持穴61cの開口の周縁から突出する環状突起73が設けられている。そして、保持穴61cの開口周縁の環状突起73に対してインサートピン33の段差面33eを密着させることで、保持穴61cを密閉した状態とすることができるようになっている。
【0062】
そのため、保持穴61cをインサートピン33の段差面33eにより密閉した状態でキャビティC内に溶解モールド材を流し込むことで、保持穴61cとインサートピン33との間の隙間S(図16参照)に溶解モールド材が流れ込むことが防止される。これにより、このインサートモールド方法による製造物は、インサートピン33の露出部33dの根元にバリがない構造となり、インサートピン33の露出部33dの根元のバリを除去する工程が不要となる。
【0063】
また、インサートピン33が突出する面(つまり連結部材を取り付ける取付面)31eから凹設された凹部71からインサートピン33が突出しているため、仮にインサートピン33の露出部33dの根元にバリができてしまうことがあっても、インサートピン33の露出部33dとこれに係合する連結部材12との係合状態が不完全になることがない。
【0064】
つまり、第3実施形態のインサートモールド方法およびインサートモールド構造および動力伝達装置によれば、第1実施形態および第2実施形態の効果を組み合わせた効果が得られる。
【0065】
なお、以上の実施形態では、車両用空調装置の圧縮機の回転軸に固着されたハブ(従動側の回転部材)と、エンジンにより回転するプーリ(駆動側の回転部材)とを連結した動力伝達装置で説明したが、本発明はその他の従動側の回転部材と駆動側の回転部材とを連結する動力伝達装置に適用できる。
【0066】
また、以上の実施形態では、連結部材として二股状の連結部材12を用いているが、本発明ではその他の連結部材を用いてもよいし、またその他の連結手段を用いてもよい。
【0067】
また、以上の実施形態では、インサートピンをインサートモールドするモールド部材として樹脂を利用したものを説明したが、本発明ではモールド部材としては樹脂以外のものであってもよい。
【0068】
また、以上の実施形態では、プーリ本体と分割されたロケーションプレートに本発明にかかるインサートモールド方法および構造を適用した例を説明したが、本発明にあっては例えば図17に示すように、全体が樹脂またはその他のモールド部材によりなるプーリ20Aにインサートピン33をインサートモールドする方法および構造に適用できる。
【0069】
また、以上の実施形態では、圧縮機に用いられるプーリについて説明したが、本発明はその他の装置に用いられるプーリに利用できる。また、本発明ではプーリに限られず、その他の回転部材に利用できる。
【0070】
また、以上の実施形態では、連結部材12を取り付ける取付面31eに対して連結部材12が接触していないが(図2参照)、本発明では、例えば図18のように連結部材12を取りつける取付面31eに対して連結部材12が接触していてもよい。
【0071】
その他にも本発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に種々の変形を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1は本発明の第1実施形態の動力伝達装置の分解斜視図。
【図2】図2は同動力伝達装置の縦断面図。
【図3】図3は同動力伝達装置の図2中の矢示III方向からの側面図。
【図4】図4は図1の動力伝達装置の組立方法の説明図。
【図5】図5は図1の動力伝達装置の動力遮断後の状態を示す説明図。
【図6】図6は同動力伝達装置のロケーションプレートの左側面図。
【図7】図7は同ロケーションプレートの右側面図。
【図8】図8は同ロケーションプレートの図6中のVIII−VIII線の沿う側面図。
【図9】図9は同ロケーションプレートの成形方法を示す断面図であって図9aはキャビティに溶解モールド材としての溶解樹脂を流す前の状態を示す図であり図9bはキャビティに溶解樹脂を流し込んだ後の状態を示す図。
【図10】図10は図9b中のX部の拡大断面図である。
【図11】図11は本実施形態の動力伝達装置のロケーションプレートの断面図。
【図12】図12は同ロケーションプレートの成形方法を示す断面図であって図12aはキャビティに溶解モールド材としての溶解樹脂を流す前の状態を示す図であり図12bはキャビティに溶解樹脂を流し込んだ後の状態を示す図。
【図13】図13は図12b中の要部拡大断面図である。
【図14】図14は本実施形態の動力伝達装置のロケーションプレートの断面図。
【図15】図15は同ロケーションプレートの成形方法を示す断面図であって図15aはキャビティに溶解モールド材としての溶解樹脂を流す前の状態を示す図であり図15bはキャビティに溶解樹脂を流し込んだ後の状態を示す図。
【図16】図16は図15b中の要部拡大断面図である。
【図17】図17は本発明の第4実施形態の動力伝達装置を示す図であって、図17aは正面図であり図17bは図17a中のB−B断面図。
【図18】図18は本発明の変形例を示す要部断面図。
【符号の説明】
【0073】
1…動力伝達装置
12…連結部材(他の部材)
20、20A…プーリ(駆動側の回転部材)
21…プーリ本体部
31…ロケーションプレート本体部(モールド部材)
31e…取付面(インサートピンが突出する面)
33…インサートピン
33c…埋設部(大径部)
33d…露出部(小径部)
33e…段差面
40…ダンパー
50…ハブ(従動側の回転部材)
53…リベット
61…第1の金型
61b…保持穴が開口する面
61c…保持穴
63…第2の金型
71…凹部
73…環状突起
C…キャビティ
【技術分野】
【0001】
本発明は、インサートピンのインサートモールド方法および構造に関し、またこれを用いた動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1にはトルクリミッター機能を持った動力伝達装置が開示されている。なお、この背景技術の説明でカッコ内の符号番号は特許文献1の図1中の符号番号に一致させてある。この動力伝達装置は、エンジンからの動力を受けて駆動する駆動側の回転部材としてのプーリ(1、2)と、プーリ(1、2)と同軸上に並列配置されるとともにプーリ(1、2)によって回転駆動する従動側の回転部材としてのハブ(9、11)と、を備えている。プーリ(1、2)とハブ(9、11)との間にはトルクリミッター機能を有する係合機構が設けられている。係合機構は、正常運転時には、プーリ(1、2)とハブ(9、11)とを連結してプーリ(1、2)の回転トルクをハブ(9、11)に伝達する。また、係合機構は、異常時(例えば圧縮機の焼きつき故障等によるロック時)には、プーリ(1、2)とハブ(9、11)との連結を解除する。これにより異常時にその他の部位の破損を防いでいる。
【0003】
具体的には、係合機構は、金属製のプーリ(2)の圧入孔(2b)に圧入された金属製のピン(6)と、ハブ(11)に固定された金属製の保持部材(13)と、ピン(6)と連結し且つ保持部材(13)の間隙に保持される弾性体(7)と、を備えている。正常運転時には、弾性体(7)は保持部材(13)の間隙内に保持されたままハブ(11)とプーリ(2)とを連結し、異常時には弾性体(7)が弾性変形して保持部材(13)の間隙をくぐり抜けてハブ(11)とプーリ(2)とを連結を解除する。
【特許文献1】特開平8−135752号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような装置において、プーリに圧入孔を設けてピンを圧入する構造よりも、プーリに予めピンをインサートモールドする構造のほうがピンが安定して好ましいと考えられるが、インサートモールド成形工程で、ピンの根元にバリが発生してしまう。このようなバリが、ピンと、ピンと係合する連結部材と、の接触面間に介在すると、係合が不完全となって連結部材が設定負荷以下または設定負荷以上でピンから離脱する虞がある。そのため、正常にトルクリミッター機能が作動するようにバリ除去工程が必要になり、製造コストが嵩んでしまう。
【0005】
本発明は、以上のような問題を背景に為されたものであって、インサートピンの根元のバリ除去工程が不要なインサートモールド方法および構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、第1の金型に形成された保持穴にインサートピンを装着した状態で、前記第1の金型に対して第2の金型を組み合わせて内部にキャビティを形成して前記キャビティ内に溶解モールド材を流しこむインサートモールド方法であって、前記保持穴の開口端面に対して、前記インサートピンに形成された環状の段差面を、密着させることで、前記保持穴を密閉し、この状態でキャビティ内に溶解モールド材を流し込むことを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に記載の発明は、第1の金型に形成された保持穴に、インサートピンを装着した状態で、前記第1の金型に対して第2の金型を組み合わせて内部にキャビティを形成して前記キャビティ内に溶解モールド材を流しこむインサートモールド方法であって、前記保持穴が開口する面には、該保持穴の開口周縁に環状の突起が設けられていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3に記載の発明は、モールド部材にインサートピンがインサートモールドされたインサートモールド構造であって、前記インサートピンは、その埋設部と露出部との境界に段差面を備え、該段差面が前記回転部材の表面と面一に設けられていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項4に記載の発明は、モールド部材にインサートピンがインサートモールドされたインサートモールド構造であって、前記モールド部材の表面のうちインサートピンが突出する面は、その内周側に外周側よりも凹設された凹部を備え、該凹部から前記インサートピンが突出していることを特徴とするものである。
【0010】
請求項5に記載の発明は、回転自在に配置された駆動側の回転部材と、前記駆動側部材と独立して回転自在に配置された従動側の回転部材と、一方の回転部材に一部がインサートモールドされたインサートピンと、他方の回転部材に装着され且つ前記インサートピンと係合することで前記2つの回転部材を一体的に回転させるとともに前記2つの回転部材の間に所定値以上の回転負荷が加わった際に前記インサートピンとの係合から離脱する連結部材と、を備えた動力伝達装置であって、前記インサートピンは、その埋設部と露出部との境界に段差面を備え、該段差面が前記一方の回転部材の表面と面一に設けられていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項6に記載の発明は、回転自在に配置された駆動側の回転部材と、前記駆動側部材と独立して回転自在に配置された従動側の回転部材と、一方の回転部材に一部がインサートモールドされたインサートピンと、他方の回転部材に装着され且つ前記インサートピンと係合することで前記2つの回転部材を一体的に回転させるとともに前記2つの回転部材の間に所定値以上の回転負荷が加わった際に前記インサートピンとの係合から離脱する連結部材と、を備えた動力伝達装置であって、前記一方の回転部材の表面のうちインサートピンが突出する面は、その内周側に外周側よりも凹設された凹部を備え、該凹部から前記インサートピンが突出していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、第1の金型の保持穴の開口する面に対して、インサートピンの段差面を密着させることで、保持穴を密閉し、この状態でキャビティ内に溶解モールド材を流し込む方法を採用する。そのため、保持穴とインサートピンとの間の隙間に溶解モールド材が流れ込むことが防止される。これにより、このインサートモールド方法による製造物は、インサートピンの露出部(すなわちインサートピンがモールド部材の表面から突出する部分)の根元にバリがない構造となる。結果、インサートピンの露出部の根元のバリを除去する工程が不要となる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、第1の金型の保持穴が開口する面には、保持穴の開口周縁に沿う環状の突起が設けられているため、このインサートモールド方法による製造物は、モールド部材の表面のうちインサートピンが突出する面に、内周側に外周側よりも凹設された凹部を備え、該凹部から前記インサートピンが突出している構造となる。そのため、キャビティ内に溶解モールド材を流し込んだ際に、保持穴とインサートピンとの間の隙間に溶解モールド材が流れ込んで、インサートピンの露出部(すなわちインサートピンがモールド部材の表面から突出する部分)の根元にバリができても、このバリが凹部内に納まる。結果、インサートピンの露出部の根元のバリを除去する工程が不要となる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、インサートピンは埋設部と露出部との境界に段差面を備え、その段差面がモールド部材の表面と面一に設けられている。そのため、このインサートモールド構造は、請求項1のインサートモールド方法によって製造できるため、インサートピンの露出部の根元にバリがない構造となる。結果、インサートピンの露出部の根元のバリを除去する工程が不要となる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、モールド部材の表面のうちインサートピンが突出する面は、内周側に外周側よりも凹設された凹部を備え、該凹部から前記インサートピンが突出している。そのため、このインサートモールド構造は、請求項2のインサートモールド方法によって製造できるため、インサートピンの露出部の根元にバリができても、このバリが凹部内に納まる。結果、インサートピンの露出部の根元のバリを除去する工程が不要となる。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、インサートピンは埋設部と露出部との境界に段差面を備え、その段差面が一方の回転部材の表面と面一に設けられている。そのため、このインサートピンのインサートモールド構造は、請求項1のインサートモールド方法によって製造できるため、インサートピンの露出部の根元にバリがない構造となる。結果、インサートピンの露出部の根元のバリを除去する工程が不要となる。
【0017】
請求項6に記載の発明には、一方の回転部材の表面のうちインサートピンが突出する面は、内周側に外周側よりも凹設された凹部を備え、その凹部からインサートピンが突出している。そのため、このインサートピンのインサートモールド構造は、請求項2のインサートモールド方法によって製造できるため、インサートピンの露出部の根元にバリができても、このバリが凹部内に納まる。結果、インサートピンの露出部の根元のバリを除去する工程が不要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
第1実施形態:図1〜図10は本発明の第1実施形態を示すものである。図1は本発明の第1実施形態の動力伝達装置の分解斜視図、図2は同動力伝達装置の縦断面図、図3は同動力伝達装置の図2中の矢示III方向からの側面図、図4は図1の動力伝達装置の組立方法の説明図、図5は図1の動力伝達装置の動力遮断後の状態を示す説明図、図6は同動力伝達装置のロケーションプレートの左側面図、図7は同ロケーションプレートの右側面図、図8は同ロケーションプレートの図6中のVIII−VIII線の沿う側面図、図9は同ロケーションプレートの成形方法を示す断面図であって図9aはキャビティに溶解モールド材としての溶解樹脂を流す前の状態を示す図であり図9bはキャビティに溶解樹脂を流し込んだ後の状態を示す図、図10は図9b中のX部の拡大断面図である。
【0020】
本実施形態では、動力伝達装置1のプーリの一部を構成するロケーションプレートの成形方法に特徴を有するものであり、まず、動力伝達装置1を説明したのち、ロケーションプレート30の成形方法を説明する。
【0021】
「動力伝達装置」
本実施形態の動力伝達装置1は、図1〜図3に示すように、従動機としての圧縮機3に装着されるもので、圧縮機3のハウジング5のボス部5aにベアリング6を介して回転自在に装着されたプーリ20(駆動側の回転部材)と、圧縮機3の回転軸7の端部に固定されたハブ50(従動側の回転部材)と、これらを連結する連結部材12と、を備える。
【0022】
本実施形態のプーリ20は、樹脂製のプーリ本体部21と、プーリ本体部21にダンパー40を介して装着されて該プーリ本体部21と一体的に回転する樹脂製のロケーションプレート30と、を備える。
【0023】
プーリ20のロケーションプレート30の一方(ハブ側)の面には、複数個(この例では3つ)の円柱状のピン33が立設されている。このピン33は、プーリ20の回転中心を中心とする同一円周上に所定(この例では120°)の角度間隔で配置されている。
【0024】
ハブ50には、プーリ20の回転中心を中心とする同一円周上に所定(この例では120°)の角度間隔でリベット装着孔51が形成されており、この装着孔51にリベット53によって連結部材12の一端部が回転自在に固定されている。そして、連結部材12の他端部がプーリ20のピン33に係合することで、2つの回転部材20、50が一体的に回転するようになっている。
【0025】
連結部材12の他端部は、2つの回転部材の間に所定値以上の回転負荷が加わるとピン33との係合から離脱するようになっており、これにより、トルクリミッター機能を発揮する。
【0026】
以下、より具体的に連結部材12について説明すると、連結部材12は、軸受鋼や高炭素鋼等のバネ材を所定形状に打ち抜いて製作されている。なお、連結部材12は、所定形状に打ち抜かれた同形同大の2枚以上の板材を厚み方向に重ね合わせたものであってもよい。この連結部材12は、二股状のリーフスプリングとして構成され、スリット状の隙間16を介して対向する一対の側片12aを備えている。連結部材12の連結端側には、リベット53の外周部に当接してピン33を回転自在に係合する貫通孔14を有している。また、連結部材12の開放端側には、両側片12a、12aの先端部分に形成されピン33を狭持する狭持部15、15を備えている。この狭持部15、15は、ピン33の外周部に沿って形成される凹曲面15、15として構成され、この凹曲面15の両端縁にはピン33の外周部に接触する凸部17A、17Bを備えている。凸部17A、17Bは凸円形状に形成されて、凹曲面15、15のうち凸部17A、17Bのみがピン33の外周部と接触するようになっており、凹曲面15のうち凸部17A、17B以外の部位はピン33の外周部とクリアランスをもっている。連結端側(基端側)の凸部17A、17A間の距離Lは、開放端側(先端側)の凸部17B、17B間の距離L’よりも大きくなっている。また、一対の側片12a,12a間の隙間16の幅wは、ピン33の外周径よりもわずかに大きくなっており、ピン33を移動自在に収容できるようになっている。
【0027】
この動力伝達装置1の組立工程において、プーリ20とハブ50とを連結する際には、プーリ20のピン33とハブ50のリベット53とを連結部材12で連結することで行われる。具体的にはまず、ハブ50にリベット53で連結部材12を回転自在に固定し、次に、図4に示すように連結部材12の隙間16内に、プーリのピン33を挿入する。次いで、ハブ50を回転しないように固定した状態で、プーリ20を正転(矢印方向に回転)させる。これにより、隙間16内のピン33を開放端側に移動させてピン33を開放端側の狭持部15,15内に押し込み、最終的に図3に示すようにピン33が狭持部15,15内に狭持された状態とする。このようにして動力伝達装置1を組み立てる。
【0028】
次に、上記のように構成された動力伝達装置の動作を説明する。駆動機としてのエンジンンの動力によって図示せぬベルトを介してプーリ20が回転すると、係合機構(ピン33、連結部材12、及びリベット53)を介してハブ50が一体的に回転する。ハブ50が回転すると、これと一体的に従動機としての圧縮機の回転軸7が回転し、圧縮機が作動する。
【0029】
圧縮機内部に焼付等が生じて負荷トルクが所定値を超えた場合には、連結部材12の側片12a,12aが押し広がりつつ連結部材12からピン33が離脱し、これにより、プーリ20から回転軸7への動力の伝達が遮断されてプーリ20が空転する(図5参照)。そのため、圧縮機およびエンジンを損傷させずに済む。
【0030】
次に、プーリの構造をより詳しく説明する。上述の如く、本実施形態のプーリ20は、樹脂製のプーリ本体部21と、プーリ本体部21にダンパー40を介して装着されて該プーリ本体部21と一体的に回転する樹脂製のロケーションプレート30と、を備える。
【0031】
プーリ本体部21は、外周側にベルト係合部23aを有す得る外筒部23と、内周側にベアリング6が嵌合する内筒部25と、これら外筒部23と内筒部25とを連結する放射状に延びた複数のリブ27と、を備え、外筒部23と内筒部25との間には複数のリブ27によって区画された扇状の収納空間28が設けられている。
【0032】
プーリ本体部21の収容空間28には、ダンパー40が装着されている。このダンパー40は、略四角柱のブロック形状に成形された一対のダンパー本体40aと、一対のダンパー本体40aを連結する連結帯40bと、を備えて構成されており、全体がゴム、軟質樹脂等の弾性体によって形成されている。一対のダンパー本体40aの間には空間40dが形成され、この空間40dに、ロケーションプレート30の突起31cが嵌入される。
【0033】
ロケーションプレート30は、リング状で且つ円板状の本体部31と、本体部31にインサートモールドされ且つ本体部31の一方の面31aから突出された円柱状のピン33と、本体部31の他方の面31bから突出された6片の突起31cと、を備える。この突起31cが、プーリ本体部21に装着されるダンパー40の空間40dに嵌合されることで、プーリ本体部21とロケーションプレート30とがダンパー40を介して一体化したプーリ20となる。そして、ロケーションプレート30のインサートピン33に、ハブ50に装着された連結部材12が係合されることで、プーリ20とハブ50とが一体的に回転するようになっている。なお、上述の如く所定値以上の負荷トルクが加わると、連結部材12がインサートピン33から離脱してプーリ20が空転する。
【0034】
次に、インサートピン33について図6〜図8を参照しつつより詳しく説明する。インサートピン33は、図6、7に示すように、略円柱状に形成され、樹脂製のロケーションプレート本体部(モールド部材)31にインサートモールドされたものである。このインサートピンは、図8に示すように、本体部21に埋設された埋設部33cと、ロケーションプレート本体部31から露出(突出)する露出部33dと、を備える。埋設部33cは露出部33dよりも大径に形成され、埋設部33cと露出部33dと境界には略円環状の段差面33eが設けられている。インサートピン33の埋設部33cには、インサートピン33に軸心に対して非対称形(この例では6角形)に形成された頭部33fが形成されており、この頭部33fによりロケーションプレート本体部31に対して回転してしまうことが防止されている。
【0035】
そして、段差面33eは、ロケーションプレート本体部31の表面31a、31eのうちインサートピン33が突出する面31eと面一に設けられている。なお、ロケーションプレート本体部31の表面31aのうち、一般面よりもインサートピン33が突出する面31eが一段高く設けられており、この面31eが連結部材12を取り付ける取付面31eとして構成されている。この例では、取付面31と連結部材12とは図2に示すように非接触である。
「ロケーションプレートの成形方法」
次に、ロケーションプレート30の成形方法について説明する。
【0036】
ロケーションプレート30の成形金型は、互いに組み合わせることで、内部にキャビティCを形成する第1の金型61および第2の金型63を備えてなる。第1の金型61には、キャビティCを臨むようにインサートピン33を装着自在な保持穴61cが設けられている。この保持穴61cにインサートピン33を装着すると、インサートピン33の一部33dが保持穴61c内に位置し且つ残りの部分33cがキャビティC内に露出する。この保持穴61c内に位置する部分33bは、モールド部材31から露出する部分となり、一方、保持穴61c外に位置してキャビティC内に露出する部分33cは、モールド部材31に埋設される部分となる。
【0037】
ロケーションプレート30を成形工程は、まず、第1の金型61の保持穴61cに、インサートピン33を装着した状態で、第1の金型61に対して第2の金型63を組み合わせて内部にキャビティCを形成する。この状態で、図示せぬランナー、ゲートからキャビティC内に溶解モールド材(溶解樹脂)を流しこむ。そして、溶解モールド部材が冷えて固化したのち、第1の金型61と第2の金型63を分解して、求めるロケーションプレート30を得る。
【0038】
キャビティC内に溶解モールド材を流し込む際には、第1の金型61の保持穴61cにインサートピン33を装着しておくが、このとき図9aおよび図10に示すように第1の金型61の保持穴61cが開口する面61bに対してインサートピン33の段差面33eが密着することで、保持穴61cが段差面33eによって密閉される。そのため、キャビティC内に溶解モールド材を流し込んだ際に、保持穴61c内には溶解モールド材が侵入しないようになっている。これにより、このインサートモールド方法による製造物は、インサートピン33の根元にバリが発生しない構造となる。
【0039】
なお、保持穴61cにインサートピン33を装着した際には、突出しピン65で、インサートピン33を保持穴61cの所定の位置まで押し込むようになっており、第2の金型63には、突出しピン65を挿入するための挿入孔67が設けられている。
【0040】
「効果」
以下、第1実施形態の効果をまとめる。
【0041】
(1)第1実施形態のインサートモールド方法によれば、第1の金型61に形成された保持穴61cに、インサートピン33を装着した状態で、第1の金型61に対して第2の金型63を組み合わせて内部にキャビティCを形成し、該キャビティC内に溶解モールド材を流しこむインサートモールド方法であって、保持穴61cが開口する面61bに対してインサートピン33に形成された段差面33eを密着させることで、保持穴61cを段差面33eによって密閉し、この状態でキャビティC内に溶解モールド材を流し込むことを特徴とするものである。
【0042】
そのため、保持穴61cとインサートピン33との間の隙間S(図10参照)に溶解モールド材が流れ込むことが防止される。これにより、このインサートモールド方法による製造物は、インサートピン33の露出部33d(すなわちインサートピン33がモールド部材31から突出する部分33d)の根元にバリがない構造となる。結果、インサートピン33の露出部33dの根元のバリを除去する工程が不要となる。
【0043】
なお、このインサートモールド方法による製造物は、インサートピン33の埋設部33cと露出部33dとの境界に形成される段差面33eが、該段差面33eとモールド部材31の表面31eと面一に設けられた構造となる。
【0044】
(2)第1実施形態のインサートモールド構造によれば、モールド部材31にインサートピン33がインサートモールドされたインサートモールド構造であって、インサートピン33は、その埋設部33cと露出部33dとの境界に段差面33eを備え、該段差面33eとモールド部材31の表面31eとが面一に設けられていることを特徴とするものである。
【0045】
そのため、このインサートモールド構造は、上記(1)のインサートモールド方法によって製造できるため、インサートピン33の露出部33dの根元にバリがない構造となる。結果、インサートピン33の露出部33dの根元のバリを除去する工程が不要となる。
【0046】
(3)第1実施形態の動力伝達装置1によれば、回転自在に配置された駆動側の回転部材20と、駆動側の回転部材20と独立して回転自在に配置された従動側の回転部材50と、一方の回転部材(この例では駆動側の回転部材20)に一部33d、33cがインサートモールドされたインサートピン33と、他方の回転部材(この例では従動側の回転部材50)に装着され且つインサートピン33の露出部33dと係合することで2つの回転部材20、50を一体的に回転させるとともに2つの回転部材20、50の間に所定値以上の回転負荷が加わった際にインサートピン33との係合から離脱する連結部材12と、を備えた動力伝達装置1であって、インサートピン33は、その埋設部33cと露出部33dとの境界に段差面33eを備え、該段差面33eが一方の回転部材20の表面31eと面一に設けられていることを特徴とするものである。
【0047】
そのため、動力伝達装置1の一方の回転部材20を構成するロケーションプレート30は、上記(1)のインサートモールド方法によって形成できるので、インサートピン33の露出部33dの根元にバリがない構造となる。結果、インサートピン33の露出部33dの根元のバリを除去する工程が不要となる。
【0048】
(4)また、第1実施形態の動力伝達装置1によれば、前記一方の回転部材20は、2つの部材21、31をダンパー40を介して一体に組み付けられたものである。そのため、ダンパー40により、トルクショックを吸収できて好ましい。
【0049】
次に、その他の実施形態を説明する。なお、上述の第1実施形態と同様の構造については同一符号を付して構造およびその作用効果の説明を省略する。
【0050】
第2実施形態:図11〜図13は本発明の第2実施形態を示すものである。図11は本実施形態の動力伝達装置のロケーションプレートの断面図、図12は同ロケーションプレートの成形方法を示す断面図であって図12aはキャビティに溶解モールド材としての溶解樹脂を流す前の状態を示す図であり図12bはキャビティに溶解樹脂を流し込んだ後の状態を示す図、図13は図12b中の要部拡大断面図である。
【0051】
第2実施形態では、図11に示すようにインサートピン33がその露出部33dと埋設部33cとが同径で段差面を有さず、ロケーションプレート本体部31の表面のうちインサートピン33が突出する面31e(つまり連結部材12を取り付ける取付面31e)に、その内周側に外周側の部分よりも凹設された凹部71が設けられ、該凹部71からインサートピン33が突出している点で、第1実施形態と異なっている。
【0052】
つまり、第2実施形態の成型金型は、図12、13に示すように、第1の金型61の保持穴61cが開口する面61bには、保持穴61cの開口の周縁かに沿う環状の突起73が設けられている。言い換えると、環状突起73は、保持穴61cの内周面から連続して設けられ且つ保持穴61cが開口する面61bのうちの外周側の部分より突出している。この環状の突起73によって、上述の凹部71が形成される。
【0053】
そのため、キャビティC内に溶解モールド材を流し込んだ際に、図13に示すように、保持穴61cとインサートピン33との間の隙間Sに溶解モールド材が流れ込んで、インサートピン33の露出部33dの根元にバリBができても、このバリBが凹部71の外周側の面31e(つまり連結部材12を取り付ける取付面31e)よりも突出せずに凹部71内に納まる。結果、インサートピン33の露出部33dに他の部材(この例では連結部材12)を係合させても他の部材12がバリと接触せずに、係合状態が阻害されない。そのため、インサートピン33の露出部33dの根元のバリを除去する工程が不要となる。
【0054】
以下、第2実施形態の効果をまとめる。
【0055】
(5)第2実施形態のインサートモールド方法によれば、第1の金型61に形成された保持穴61cに、インサートピン33を装着した状態で、第1の金型61に対して第2の金型63を組み合わせて内部にキャビティCを形成し、キャビティC内に溶解モールド材を流しこむことでインサートピン33をインサートモールドするインサートモールド方法であって、第1の金型61の保持穴61cが開口する面61bには、保持穴61cの開口の周縁から突出する環状突起73が設けられていることを特徴とするものである。
【0056】
そのため、キャビティC内に溶解モールド材を流し込んだ際に、保持穴61cとインサートピン33との間の隙間Sに溶解モールド材が流れ込んで、インサートピン33の露出部33dの根元にバリBができても、このバリBが凹部71内に納まるため、インサートピン33の露出部33dの根元のバリBを除去する工程が不要となる。
【0057】
(6)第2実施形態のインサートモールド構造および動力伝達装置によれば、モールド部材31にインサートピン33がインサートモールドされたインサートモールド構造であって、モールド部材31の表面のうちインサートピン33が突出する面31eには、その内周側が外周側よりも凹設された凹部71を備え、該凹部71からインサートピン33が突出していることを特徴とするものである。
【0058】
そのため、このインサートモールド構造および動力伝達装置は、上記(5)のインサートモールド方法によって形成でき、インサートピン33の露出部33dの根元にバリBができても、このバリBがモールド部材31の凹部71内に納まる。結果、インサートピン33の露出部33dの根元のバリBを除去する工程が不要となる。
【0059】
第3実施形態:図14〜図16は本発明の第2実施形態を示すものである。図14は本実施形態の動力伝達装置のロケーションプレートの断面図、図15は同ロケーションプレートの成形方法を示す断面図であって図15aはキャビティに溶解モールド材としての溶解樹脂を流す前の状態を示す図であり図15bはキャビティに溶解樹脂を流し込んだ後の状態を示す図、図16は図15b中の要部拡大断面図である。
【0060】
この第3実施形態は、第1実施形態と第2実施形態とを組み合わせたものである。すなわち、インサートピン33は、埋設部33cと露出部33dとの境界に円環状の段差面33eを備え、モールド部材31の表面のうちインサートピン33が突出する面31eは、その内周側に外周側の部分よりも凹設された凹部71を備え、該凹部71からインサートピン33が突出するとともに凹部71の底面とインサートピン33の段差面33eとが面一に設けられている。
【0061】
つまり、第3実施形態の成形金型では、第1の金型61の保持穴61cが開口する面61bには、凹部71に対応して、保持穴61cの開口の周縁から突出する環状突起73が設けられている。そして、保持穴61cの開口周縁の環状突起73に対してインサートピン33の段差面33eを密着させることで、保持穴61cを密閉した状態とすることができるようになっている。
【0062】
そのため、保持穴61cをインサートピン33の段差面33eにより密閉した状態でキャビティC内に溶解モールド材を流し込むことで、保持穴61cとインサートピン33との間の隙間S(図16参照)に溶解モールド材が流れ込むことが防止される。これにより、このインサートモールド方法による製造物は、インサートピン33の露出部33dの根元にバリがない構造となり、インサートピン33の露出部33dの根元のバリを除去する工程が不要となる。
【0063】
また、インサートピン33が突出する面(つまり連結部材を取り付ける取付面)31eから凹設された凹部71からインサートピン33が突出しているため、仮にインサートピン33の露出部33dの根元にバリができてしまうことがあっても、インサートピン33の露出部33dとこれに係合する連結部材12との係合状態が不完全になることがない。
【0064】
つまり、第3実施形態のインサートモールド方法およびインサートモールド構造および動力伝達装置によれば、第1実施形態および第2実施形態の効果を組み合わせた効果が得られる。
【0065】
なお、以上の実施形態では、車両用空調装置の圧縮機の回転軸に固着されたハブ(従動側の回転部材)と、エンジンにより回転するプーリ(駆動側の回転部材)とを連結した動力伝達装置で説明したが、本発明はその他の従動側の回転部材と駆動側の回転部材とを連結する動力伝達装置に適用できる。
【0066】
また、以上の実施形態では、連結部材として二股状の連結部材12を用いているが、本発明ではその他の連結部材を用いてもよいし、またその他の連結手段を用いてもよい。
【0067】
また、以上の実施形態では、インサートピンをインサートモールドするモールド部材として樹脂を利用したものを説明したが、本発明ではモールド部材としては樹脂以外のものであってもよい。
【0068】
また、以上の実施形態では、プーリ本体と分割されたロケーションプレートに本発明にかかるインサートモールド方法および構造を適用した例を説明したが、本発明にあっては例えば図17に示すように、全体が樹脂またはその他のモールド部材によりなるプーリ20Aにインサートピン33をインサートモールドする方法および構造に適用できる。
【0069】
また、以上の実施形態では、圧縮機に用いられるプーリについて説明したが、本発明はその他の装置に用いられるプーリに利用できる。また、本発明ではプーリに限られず、その他の回転部材に利用できる。
【0070】
また、以上の実施形態では、連結部材12を取り付ける取付面31eに対して連結部材12が接触していないが(図2参照)、本発明では、例えば図18のように連結部材12を取りつける取付面31eに対して連結部材12が接触していてもよい。
【0071】
その他にも本発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に種々の変形を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1は本発明の第1実施形態の動力伝達装置の分解斜視図。
【図2】図2は同動力伝達装置の縦断面図。
【図3】図3は同動力伝達装置の図2中の矢示III方向からの側面図。
【図4】図4は図1の動力伝達装置の組立方法の説明図。
【図5】図5は図1の動力伝達装置の動力遮断後の状態を示す説明図。
【図6】図6は同動力伝達装置のロケーションプレートの左側面図。
【図7】図7は同ロケーションプレートの右側面図。
【図8】図8は同ロケーションプレートの図6中のVIII−VIII線の沿う側面図。
【図9】図9は同ロケーションプレートの成形方法を示す断面図であって図9aはキャビティに溶解モールド材としての溶解樹脂を流す前の状態を示す図であり図9bはキャビティに溶解樹脂を流し込んだ後の状態を示す図。
【図10】図10は図9b中のX部の拡大断面図である。
【図11】図11は本実施形態の動力伝達装置のロケーションプレートの断面図。
【図12】図12は同ロケーションプレートの成形方法を示す断面図であって図12aはキャビティに溶解モールド材としての溶解樹脂を流す前の状態を示す図であり図12bはキャビティに溶解樹脂を流し込んだ後の状態を示す図。
【図13】図13は図12b中の要部拡大断面図である。
【図14】図14は本実施形態の動力伝達装置のロケーションプレートの断面図。
【図15】図15は同ロケーションプレートの成形方法を示す断面図であって図15aはキャビティに溶解モールド材としての溶解樹脂を流す前の状態を示す図であり図15bはキャビティに溶解樹脂を流し込んだ後の状態を示す図。
【図16】図16は図15b中の要部拡大断面図である。
【図17】図17は本発明の第4実施形態の動力伝達装置を示す図であって、図17aは正面図であり図17bは図17a中のB−B断面図。
【図18】図18は本発明の変形例を示す要部断面図。
【符号の説明】
【0073】
1…動力伝達装置
12…連結部材(他の部材)
20、20A…プーリ(駆動側の回転部材)
21…プーリ本体部
31…ロケーションプレート本体部(モールド部材)
31e…取付面(インサートピンが突出する面)
33…インサートピン
33c…埋設部(大径部)
33d…露出部(小径部)
33e…段差面
40…ダンパー
50…ハブ(従動側の回転部材)
53…リベット
61…第1の金型
61b…保持穴が開口する面
61c…保持穴
63…第2の金型
71…凹部
73…環状突起
C…キャビティ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金型(61)に形成された保持穴(61c)に、インサートピン(33)を装着した状態で、前記第1の金型(61)に対して第2の金型(63)を組み合わせて内部にキャビティ(C)を形成して前記キャビティ(C)内に溶解モールド材を流しこむことでインサートピン(33)をモールド部材(31)内にインサートモールドするインサートモールド方法であって、
前記保持穴(61c)が開口する面(61b)に対して前記インサートピン(33)に形成された環状の段差面(33e)を密着させることで、前記保持穴(61c)を密閉し、この状態でキャビティ(C)内に溶解モールド材を流し込むことを特徴とするインサートモールド方法。
【請求項2】
第1の金型(61)に形成された保持穴(61c)に、インサートピン(33)を装着した状態で、前記第1の金型(61)に対して第2の金型(63)を組み合わせて内部にキャビティ(C)を形成して前記キャビティ(C)内に溶解モールド材を流しこむことでインサートピン(33)をモールド部材(31)内にインサートモールドするインサートモールド方法であって、
前記保持穴(61c)が開口する面(61b)には、該保持穴(61c)の開口周縁に環状の突起(73)が設けられていることを特徴とするインサートモールド方法。
【請求項3】
モールド部材(31)にインサートピン(33)がインサートモールドされたインサートモールド構造であって、
前記インサートピン(33)は、その埋設部(33c)と露出部(33d)との境界に段差面(33e)を備え、該段差面(33e)が前記モールド部材(31)の表面(31e)と面一に設けられていることを特徴とするインサートモールド構造。
【請求項4】
モールド部材(31)にインサートピン(33)がインサートモールドされたインサートモールド構造であって、
前記モールド部材(31)の表面のうちインサートピンが突出する面(31e)は、内周側に外周側よりも凹設された凹部(71)を備え、該凹部(71)から前記インサートピン(33)が突出していることを特徴とするインサートモールド構造。
【請求項5】
回転自在に配置された駆動側の回転部材(20,20A)と、
前記駆動側の回転部材(20,20A)と独立して回転自在に配置された従動側の回転部材(50)と、
一方の回転部材(20,20A)に一部がインサートモールドされたインサートピン(33)と、
他方の回転部材(50)に装着され且つ前記インサートピン(33)と係合することで前記2つの回転部材(20,20A、50)を一体的に回転させるとともに前記2つの回転部材(20,20A、50)の間に所定値以上の回転負荷が加わった際に前記インサートピン(33)との係合から離脱する連結部材(12)と、
を備えた動力伝達装置(1)であって、
前記インサートピン(33)は、その埋設部(33c)と露出部(33d)との境界に段差面(33e)を備え、該段差面(33e)が前記一方の回転部材(20、20A)の表面(31e)と面一に設けられていることを特徴とする動力伝達装置(1)。
【請求項6】
回転自在に配置された駆動側の回転部材(20,20A)と、
前記駆動側の回転部材(20,20A)と独立して回転自在に配置された従動側の回転部材(50)と、
一方の回転部材(20,20A)に一部がインサートモールドされたインサートピン(33)と、
他方の回転部材(50)に装着され且つ前記インサートピン(33)と係合することで前記2つの回転部材(20,20A、50)を一体的に回転させるとともに前記2つの回転部材(20,20A、50)の間に所定値以上の回転負荷が加わった際に前記インサートピン(33)との係合から離脱する連結部材(12)と、
を備えた動力伝達装置(1)であって、
前記一方の回転部材(20,10A)の表面のうちインサートピン(33)が突出する面(33e)には、その内周側に外周側よりも凹設された凹部(71)が設けられ、該凹部(71)から前記インサートピン(33)が突出していることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項1】
第1の金型(61)に形成された保持穴(61c)に、インサートピン(33)を装着した状態で、前記第1の金型(61)に対して第2の金型(63)を組み合わせて内部にキャビティ(C)を形成して前記キャビティ(C)内に溶解モールド材を流しこむことでインサートピン(33)をモールド部材(31)内にインサートモールドするインサートモールド方法であって、
前記保持穴(61c)が開口する面(61b)に対して前記インサートピン(33)に形成された環状の段差面(33e)を密着させることで、前記保持穴(61c)を密閉し、この状態でキャビティ(C)内に溶解モールド材を流し込むことを特徴とするインサートモールド方法。
【請求項2】
第1の金型(61)に形成された保持穴(61c)に、インサートピン(33)を装着した状態で、前記第1の金型(61)に対して第2の金型(63)を組み合わせて内部にキャビティ(C)を形成して前記キャビティ(C)内に溶解モールド材を流しこむことでインサートピン(33)をモールド部材(31)内にインサートモールドするインサートモールド方法であって、
前記保持穴(61c)が開口する面(61b)には、該保持穴(61c)の開口周縁に環状の突起(73)が設けられていることを特徴とするインサートモールド方法。
【請求項3】
モールド部材(31)にインサートピン(33)がインサートモールドされたインサートモールド構造であって、
前記インサートピン(33)は、その埋設部(33c)と露出部(33d)との境界に段差面(33e)を備え、該段差面(33e)が前記モールド部材(31)の表面(31e)と面一に設けられていることを特徴とするインサートモールド構造。
【請求項4】
モールド部材(31)にインサートピン(33)がインサートモールドされたインサートモールド構造であって、
前記モールド部材(31)の表面のうちインサートピンが突出する面(31e)は、内周側に外周側よりも凹設された凹部(71)を備え、該凹部(71)から前記インサートピン(33)が突出していることを特徴とするインサートモールド構造。
【請求項5】
回転自在に配置された駆動側の回転部材(20,20A)と、
前記駆動側の回転部材(20,20A)と独立して回転自在に配置された従動側の回転部材(50)と、
一方の回転部材(20,20A)に一部がインサートモールドされたインサートピン(33)と、
他方の回転部材(50)に装着され且つ前記インサートピン(33)と係合することで前記2つの回転部材(20,20A、50)を一体的に回転させるとともに前記2つの回転部材(20,20A、50)の間に所定値以上の回転負荷が加わった際に前記インサートピン(33)との係合から離脱する連結部材(12)と、
を備えた動力伝達装置(1)であって、
前記インサートピン(33)は、その埋設部(33c)と露出部(33d)との境界に段差面(33e)を備え、該段差面(33e)が前記一方の回転部材(20、20A)の表面(31e)と面一に設けられていることを特徴とする動力伝達装置(1)。
【請求項6】
回転自在に配置された駆動側の回転部材(20,20A)と、
前記駆動側の回転部材(20,20A)と独立して回転自在に配置された従動側の回転部材(50)と、
一方の回転部材(20,20A)に一部がインサートモールドされたインサートピン(33)と、
他方の回転部材(50)に装着され且つ前記インサートピン(33)と係合することで前記2つの回転部材(20,20A、50)を一体的に回転させるとともに前記2つの回転部材(20,20A、50)の間に所定値以上の回転負荷が加わった際に前記インサートピン(33)との係合から離脱する連結部材(12)と、
を備えた動力伝達装置(1)であって、
前記一方の回転部材(20,10A)の表面のうちインサートピン(33)が突出する面(33e)には、その内周側に外周側よりも凹設された凹部(71)が設けられ、該凹部(71)から前記インサートピン(33)が突出していることを特徴とする動力伝達装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2007−55200(P2007−55200A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−246517(P2005−246517)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】
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