説明

インホイールモータ駆動装置

【課題】軸受のスペース効率を高めて負荷容量を増大させて耐久性を向上させると共に、組立・分解性を向上させてメンテナンス性に優れたインホイールモータ駆動装置を提供する。
【解決手段】車輪用軸受装置Cが連結部材11を介して減速部Bに結合され、内周に複列の外側転走面22a、22bが形成された外方部材22と、一端部に車輪取付フランジ26を一体に有し、外周に内側転走面25aが形成されたハブ輪25、およびこのハブ輪25に嵌合される円筒状の軸部17を一体に有し、外周に内側転走面16aが形成された内輪部材16からなる内方部材24と、両部材間に収容された複列の転動体23と、外方部材22に装着されたシール30、31とを備えると共に、連結部材11と内輪部材16が、クラウニング形状に形成されたセレーション11a、16bを介してトルク伝達可能に、かつ、分離可能に結合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等のダイレクトドライブホイールを駆動輪とする車両に用いられたインホイールモータ駆動装置、特に、電動モータの出力軸と車輪のハブとが減速機を介して同軸状に連結されたインホイールモータ駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車等モータによって駆動される車両においては、モータを車輪に内蔵するインホイールモータシステムが採用されつつある。ここで、従来のインホイールモータ駆動装置50は、例えば、特開2006−258289号公報(特許文献1)に記載されている。このインホイールモータ駆動装置50は、図7に示すように、車体51に取り付けられるケーシング52の内部に駆動力を発生させるモータ部53と、車輪54が取り付けられる車輪用軸受装置55と、モータ部53の回転を減速して車輪用軸受装置55のハブ輪56に伝達する減速部57とを備えている。
【0003】
ここで、装置の軽量・コンパクト化の観点からモータ部53には低トルクで高回転のモータが採用されると共に、車輪54を駆動するのに大きなトルクが必要となるため、減速部57にはコンパクトで高い減速比が得られるサイクロイド減速機が採用されている。
【0004】
この減速部57は、偏心部58a、58bを有するモータ側回転部材58と、偏心部58a、58bに配設される曲線板59a、59bと、曲線板59a、59bをモータ側回転部材58に対して回転自在に支承する転がり軸受60a、60bと、曲線板59a、59bの外周面に係合して曲線板59a、59bに自転運動を生じさせる複数の外ピン61と、曲線板59a、59bの自転運動を内方部材(車輪側回転部材)62に伝達する複数の内ピン63とを備えている。
【0005】
また、車輪用軸受装置55は、外周にケーシング52に取り付けられるための取付フランジ64bを一体に有し、内周に複列の外側転走面64a、64aが一体に形成された外方部材64と、一端部に車輪54を取り付けるための車輪取付フランジ67を一体に有し、外周に複列の外側転走面64a、64aの一方に対向する内側転走面56aと、この内側転走面56aから軸方向に延びる円筒状の小径段部56bが形成されたハブ輪56、およびこのハブ輪56の小径段部56bに圧入固定され、外周に複列の外側転走面64a、64aの他方に対向する内側転走面65aが形成された内輪65からなる内方部材62と、この内方部材62と外方部材64の両転走面間に転動自在に収容された複列のボール66とを備えている。
【特許文献1】特開2006−258289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような従来のインホイールモータ駆動装置50では、モータ側回転部材58の一端部が車輪側回転部材62の内径部に回転自在に支承されている。すなわち、車輪側回転部材62が車輪取付フランジ67を介して車輪54から負荷されるラジアル荷重やモーメント荷重によって傾くと、モータ側回転部材58も共に傾いてしまう。これにより、減速部57の各構成部品間のすきまを変化させて、各構成部品間に過大な荷重が作用したり、構成部品を損傷したりする要因となる。
【0007】
このような問題を解消するために、車輪用軸受装置55には車輪54から受ける荷重を適切に支持可能な負荷容量が要求される。しかし、一般的に軸受の負荷容量を増加させると、軸受の大型化や重量・コストの増大等の問題が発生するため好ましくない。
【0008】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたもので、軸受のスペース効率を高めて負荷容量を増大させて耐久性を向上させると共に、組立・分解性を向上させてメンテナンス性に優れたインホイールモータ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、ケーシングと、このケーシング内に配設され、偏心部が一体に形成されたモータ側回転部材を回転駆動するモータ部と、前記モータ側回転部材の回転を減速する減速部と、この減速部に連結され、車輪を回転自在に支承する車輪用軸受装置とを備えたインホイールモータ駆動装置において、前記車輪用軸受装置が連結部材を介して前記減速部に結合され、当該車輪用軸受装置が、外周に前記ケーシングに取り付けられるための取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に前記複列の外側転走面の一方に対向する内側転走面と、この内側転走面から軸方向に延びる円筒状の小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に嵌合される円筒状の軸部を一体に有し、外周に前記複列の外側転走面の他方に対向する内側転走面が形成された内輪部材からなる内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールとを備え、前記ケーシングに装着されたオイルシールによって前記車輪用軸受装置が前記減速部と遮断され、軸受内部に封入されたグリースによって潤滑されると共に、前記連結部材と内輪部材がセレーションを介してトルク伝達可能に、かつ、分離可能に結合されている。
【0010】
このように、ケーシング内に配設されたモータ部と減速部、およびこの減速部に連結された車輪用軸受装置とを備えたインホイールモータ駆動装置において、車輪用軸受装置が連結部材を介して減速部に結合され、当該車輪用軸受装置が、外周にケーシングに取り付けられるための取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に複列の外側転走面の一方に対向する内側転走面と、この内側転走面から軸方向に延びる円筒状の小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に嵌合される円筒状の軸部を一体に有し、外周に複列の外側転走面の他方に対向する内側転走面が形成された内輪部材からなる内方部材と、この内方部材と外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールとを備え、ケーシングに装着されたオイルシールによって車輪用軸受装置が減速部と遮断され、軸受内部に封入されたグリースによって潤滑されると共に、連結部材と内輪部材がセレーションを介してトルク伝達可能に、かつ、分離可能に結合されているので、減速部の潤滑油内に混入した金属摩耗粉等の異物が軸受内部に侵入して剥離寿命が低下するのを防止し、潤滑油の清浄度の影響を受けずに所望の剥離寿命を確保することができると共に、組立・分解性が向上してメンテナンス性に優れたインホイールモータ駆動装置を提供することができる。
【0011】
好ましくは、請求項2に記載の発明のように、前記セレーションの歯面のうち少なくとも一方の歯面がクラウニング形状に形成されていれば、車輪取付フランジを介して車輪から負荷されるラジアル荷重やモーメント荷重によって内輪部材が傾いても、このセレーションによってその傾きは許容され、連結部材が共に傾くのを防止することができる。したがって、減速部の各構成部品間に過大な荷重が作用したり、構成部品を損傷したりするのを防止し、耐久性と信頼性を向上させることができる。
【0012】
また、請求項3に記載の発明のように、前記複列の転動体列のうちインナー側の転動体列の基本定格荷重がアウター側の転動体列の基本定格荷重よりも大きく設定されていれば、インナー側の転動体列部分に加わる荷重がアウター側の転動体列部分に加わる荷重よりも大きくなっても寿命をそれ以上にすることができ、強度・耐久性を向上させることができる。
【0013】
また、請求項4に記載の発明のように、前記インナー側の転動体のピッチ円直径が前記アウター側の転動体のピッチ円直径よりも大径に設定されると共に、当該インナー側の転動体列における転動体個数が前記アウター側の転動体列の転動体個数よりも多く設定されていれば、インナー側の転動体列部分の剛性が高くなると共に、基本定格荷重がアウター側の転動体列部分の基本定格荷重よりも大きくなり、軸受のスペース効率を高めて無駄のない設計を実現することができ、強度・耐久性を向上させることができる。
【0014】
また、請求項5に記載の発明のように、前記ハブ輪の内周に硬化した凹凸部が形成されると共に、前記軸部の嵌合部を拡径して凹凸部に食い込ませて加締めることにより、ハブ輪と内輪部材が一体に塑性結合されていれば、軽量・コンパクト化が図れると共に、結合部の緩みを防止して長期間に亙って初期に設定された予圧を維持することができ、耐久性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るインホイールモータ駆動装置は、ケーシングと、このケーシング内に配設され、偏心部が一体に形成されたモータ側回転部材を回転駆動するモータ部と、前記モータ側回転部材の回転を減速する減速部と、この減速部に連結され、車輪を回転自在に支承する車輪用軸受装置とを備えたインホイールモータ駆動装置において、前記車輪用軸受装置が連結部材を介して前記減速部に結合され、当該車輪用軸受装置が、外周に前記ケーシングに取り付けられるための取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に前記複列の外側転走面の一方に対向する内側転走面と、この内側転走面から軸方向に延びる円筒状の小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に嵌合される円筒状の軸部を一体に有し、外周に前記複列の外側転走面の他方に対向する内側転走面が形成された内輪部材からなる内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールとを備え、前記ケーシングに装着されたオイルシールによって前記車輪用軸受装置が前記減速部と遮断され、軸受内部に封入されたグリースによって潤滑されると共に、前記連結部材と内輪部材がセレーションを介してトルク伝達可能に、かつ、分離可能に結合されているので、減速部の潤滑油内に混入した金属摩耗粉等の異物が軸受内部に侵入して剥離寿命が低下するのを防止し、潤滑油の清浄度の影響を受けずに所望の剥離寿命を確保することができると共に、組立・分解性が向上してメンテナンス性に優れたインホイールモータ駆動装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
ケーシングと、このケーシング内に配設され、偏心部が一体に形成されたモータ側回転部材を回転駆動するモータ部と、前記モータ側回転部材の回転を減速する減速部と、この減速部に連結され、車輪を回転自在に支承する車輪用軸受装置とを備えたインホイールモータ駆動装置において、前記車輪用軸受装置が連結部材を介して前記減速部に結合され、当該車輪用軸受装置が、外周に前記ケーシングに取り付けられるための取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に前記複列の外側転走面の一方に対向する内側転走面と、この内側転走面から軸方向に延びる円筒状の小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に嵌合される円筒状の軸部を一体に有し、外周に前記複列の外側転走面の他方に対向する内側転走面が形成された内輪部材からなる内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールとを備え、前記ケーシングに装着されたオイルシールによって前記車輪用軸受装置が前記減速部と遮断され、軸受内部に封入されたグリースによって潤滑されると共に、前記連結部材と内輪部材がセレーションを介してトルク伝達可能に、かつ、分離可能に結合され、これらセレーションの歯面がクラウニング形状に形成されている。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基いて詳細に説明する。
図1は、本発明に係るインホイールモータ駆動装置の一実施形態を示す縦断面図、図2は、図1のII−II線に沿った横断面図、図3は、図2の要部拡大図、図4は図1の偏心部を示す要部拡大図、図5は、図1の車輪用軸受装置を示す拡大図、図6は、図5の連結部を示す要部拡大図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(図面左側)、中央寄り側をインナー側(図面右側)という。
【0018】
このインホイールモータ駆動装置1は、駆動力を発生させるモータ部Aと、モータ部Aの回転を減速して出力する減速部Bと、減速部Bからの出力を車輪(図示せず)に伝達する車輪用軸受装置Cとを備えている。
【0019】
モータ部Aは、ケーシング2に固定されるステータ3と、ステータ3の内側にアキシアルギャップ(軸方向の隙間)を設けて配置されるロータ4と、ロータ4の内側に嵌合してロータ4と一体に回転するモータ側回転部材5とを備えたアキシアルギャップモータで構成されている。また、モータ部Aのインナー側の開口部には、モータ部Aの内部への塵埃の混入等を防止するためのエンドキャップ6が装着されている。
【0020】
ロータ4は、内周にスプライン(またはセレーション)が形成された中空状の円筒部4aと、この円筒部4aから径方向外方に延びる円板状のフランジ部4bを有し、アンギュラ玉軸受からなる複列の転がり軸受7、7によってケーシング2に対して回転自在に支承されている。また、ケーシング2とロータ4との間には、減速部Bに封入された潤滑油のモータ部Aへの浸入を防止するためのオイルシール8が装着されている。
【0021】
なお、ここでは、モータ部Aにアキシアルギャップモータを採用したものを例示したが、これに限らず、任意の構成のモータが適用可能であり、例えば、図示はしないが、ケーシングの内周に固定されるステータと、このステータの内径側にラジアルギャップを介して対向するロータとを備えるラジアルギャップモータであっても良い。
【0022】
モータ側回転部材5は、モータ部Aの駆動力を減速部Bに伝達するためにモータ部Aから減速部Bに亙って配設され、減速部B内に偏心部5a、5bが一体に形成されている。このモータ側回転部材5は、インナー側の端部がロータ4の円筒部4aにスプライン嵌合されると共に、減速部Bの両側で一対のアンギュラ玉軸受からなる転がり軸受9、10によって、ケーシング2および連結部材11に対して回転自在に支承されている。さらに、2つの偏心部5a、5bは、偏心運動による遠心力を互いに相殺するように180°位相を変えて形成されている。
【0023】
減速部Bは、偏心部5a、5bに回転自在に保持される公転部材となる曲線板12a、12bと、ケーシング2上の固定位置に保持され、曲線板12a、12bの外周部に係合する外周係合部材となる複数の外ピン13、13と、曲線板12a、12bの自転運動を連結部材11に伝達する運動変換機構14と、モータ側回転部材5に装着された2つのカウンタウェイト15、15とを備えている。これらのカウンタウェイト15、15は円板状に形成され、曲線板12a、12bの回転によって生じる不釣合い慣性偶力を相殺するために、各偏心部5a、5bに隣接する位置に偏心部5a、5bと180°位相を変えて配置されている。
【0024】
連結部材11は、インナー側の端部に、この連結部材11の回転軸心を中心とする円周上の等間隔に複数の内ピン18、18が固着されると共に、アウター側の端部に、後述する車輪用軸受装置Cを構成する内方部材24に分離可能に連結される雌セレーション(またはスプライン)11aが形成されている。この連結部材11はSCR430等の浸炭鋼からなり、雌セレーション11aをはじめ、表面が58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。なお、浸炭鋼に限らず、例えば、連結部材11をS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成し、高周波焼入れによって表面に硬化層を形成するようにしても良い。
【0025】
次に、図2を用いて運動変換機構14を説明する。曲線板12aは、外周部にエピトロコイド等のトロコイド系曲線で構成される複数の波形を有し、複数の貫通孔19、19と軸受孔20が形成されている。貫通孔19は、曲線板12aの自転軸心を中心とする円周上に等間隔に複数個形成され、後述する内ピン18が嵌挿される。また、軸受孔20は、曲線板12aの中心に形成され、偏心部5aに嵌合されている。そして、曲線板12aは深溝玉軸受からなる転がり軸受21によって偏心部5aに対して回転自在に支承されている。
【0026】
外ピン13は、モータ側回転部材5の回転軸心を中心とする円周軌道上に等間隔に設けられている。これらの外ピン13は曲線板12a、12bの公転軌道と一致しているため、曲線板12a、12bが公転運動すると、曲線形状の波形と外ピン13とが係合して、曲線板12a、12bに自転運動を生じさせる。また、曲線板12a、12bとの摩擦抵抗を低減するために、曲線板12a、12bの外周面に転接する位置に針状ころ軸受13aが装着されている(図3参照)。
【0027】
ここで、図4に示すように、2枚の曲線板12a、12b間の中心点をGとすると、この中心点Gのインナー側について、中心点Gと曲線板12aの中心との距離をL1、曲線板12aの質量をm1、曲線板12aの重心の回転軸心からの偏心量をε1とし、中心点Gとカウンタウェイト15との距離をL2、カウンタウェイト15の質量をm2、カウンタウェイト15の重心の回転軸心からの偏心量をε2とすると、L1×m1×ε1=L2×m2×ε2を満足する関係となっている。また、中心点Gのアウター側の曲線板12bとカウンタウェイト15との間にも同様の関係が成立する。
【0028】
運動変換機構14は、図2に示すように、連結部材11に保持された複数の内ピン18、18と曲線板12a、12bに設けられた貫通孔19とを備えている。内ピン18は、貫通孔19との摩擦抵抗を低減するために、貫通孔19の内周面に転接する位置に針状ころ軸受18aが装着されている。一方、貫通孔19は、複数の内ピン18それぞれに対応する位置に形成され、貫通孔19の内径寸法は、針状ころ軸受18aを含む内ピン18の外径寸法より所定量大径に設定されている(図3参照)。
【0029】
次に、図1を用いて本発明に係るインホイールモータ駆動装置1の作動原理について説明する。
モータ部Aは、ステータ3のコイル3aに交流電流を供給することによって生じる電磁力を受けて、フランジ部4bに永久磁石(または磁性体)4cが固定されたロータ4が回転する。この時、コイル3aに高周波数の電圧を印加するほどロータ4は高速回転する。これにより、ロータ4に接続されたモータ側回転部材5が回転し、曲線板12a、12bがモータ側回転部材5の回転軸心を中心として公転運動する。この時、外ピン13が、曲線板12a、12bの曲線形状の波形と係合して、曲線板12a、12bをモータ側回転部材5の回転とは逆方向に自転運動させる。
【0030】
貫通孔19に挿通された内ピン18は、曲線板12a、12bの自転運動に伴って貫通孔19の内周面に転接し、曲線板12a、12bの公転運動が内ピン18には伝わらずに曲線板12a、12bの自転運動のみが連結部材11を介してハブ輪25に伝達される。このように、モータ側回転部材5の回転が減速部Bによって減速されて連結部材11に伝達されるので、低トルク、高回転型のモータ部Aを採用した場合でも、車輪に必要なトルクを伝達することが可能となる。
【0031】
なお、減速部Bの減速比は、外ピン13の本数をZa、曲線板12a、12bの波形の数をZbとすると、(Za−Zb)/Zbで算出される。例えば、Za=12、Zb=11では、減速比は1/11となり、多段構成とすることなくコンパクトな構成であっても極めて大きな減速比を得ることができる。
【0032】
車輪用軸受装置Cは、図5に拡大して示すように、外方部材22と、この外方部材22に複列の転動体(ボール)23、23を介して内挿された内方部材24とを備えている。外方部材22は、外周にケーシング2に取り付けられるための取付フランジ22cを一体に有し、内周に複列の外側転走面22a、22bが形成されている。この外方部材22はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼からなり、少なくとも複列の外側転走面22a、22bが高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理が施されている。
【0033】
内方部材24は、ハブ輪25と、このハブ輪25に塑性結合された内輪部材16とからなる。ハブ輪25は、アウター側の端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ26を一体に有し、外周に複列の外側転走面22a、22bの一方(アウター側)に対向する内側転走面25aと、この内側転走面25aから軸方向に延びる円筒状の小径段部25bが形成されている。車輪取付フランジ26の円周等配に車輪を固定するためのハブボルト26aが植設されている。また、ハブ輪25はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼からなり、内側転走面25aをはじめ、後述するアウター側のシール30のシールランド部となる車輪取付フランジ26の基部26bから小径段部25bに亙って高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理が施されている。
【0034】
ここで、ハブ輪25の内周には高周波焼入れによって硬化された凹凸部27が形成されている。この凹凸部27はアヤメローレット状に形成され、旋削等により独立して形成された複数の環状溝と、ブローチ加工等により形成された複数の軸方向溝とを略直交させて構成した交叉溝、あるいは、互いに傾斜した螺旋溝で構成した交叉溝からなる。また、凹凸部27の凸部は良好な食い込み性を確保するために、その先端部が三角形状等の尖塔形状に形成されている。
【0035】
内輪部材16は円筒状に形成され、外周に前記外方部材22の複列の外側転走面22a、22bの他方(インナー側)に対向する内側転走面16aと、この内側転走面16aから軸方向に延びる軸部17が一体に形成されている。この軸部17には、ハブ輪25の小径段部25bに所定のシメシロを介して円筒嵌合するインロウ部17aと、このインロウ部17aの端部に嵌合部17bがそれぞれ形成されている。また、内輪部材16のインナー側の端部には連結部材11のセレーション11aに係合する雄セレーション(またはスプライン)16bが形成されている。
【0036】
内輪部材16はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼からなり、雄セレーション16bの外周面からインロウ部17aに亙って高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理が施されている。なお、嵌合部17bは鍛造後の表面硬さのままとされている。
【0037】
外方部材22と内方部材24のそれぞれの転走面22a、25aと22b、16a間には複列の転動体23、23が収容され、保持器28、28aによりこれら複列の転動体23、23が転動自在にそれぞれ保持されている。そして、ハブ輪25と内輪部材16の一体化は、ハブ輪25に内輪部材16の軸部17が所定のシメシロで圧入され、小径段部25bの端面に内輪部材16の肩部16cが衝合された状態で、嵌合部17bの内径にマンドレル等の拡径治具をアウター側に押し込んで嵌合部17bが拡径することにより行われる。すなわち、嵌合部17bを塑性変形させてハブ輪25の凹凸部27に食い込ませて加締めることにより、ハブ輪25と内輪部材16が塑性結合されて一体化される。これにより、軽量・コンパクト化が図れると共に、結合部の緩みを防止して長期間に亙って初期に設定された予圧を維持することができ、耐久性を向上させることができる。符号29は、ハブ輪25の開口部に装着されたエンドキャップで、外部から内方部材24の内部に雨水やダスト等の異物が侵入するのを防止している。
【0038】
ここで、本実施形態では、複列の転動体23のうちインナー側の転動体23のピッチ円直径がアウター側の転動体23のピッチ円直径よりも大径に設定されている。さらに、このピッチ円直径の差違に伴って、インナー側の転動体23列における転動体個数がアウター側の転動体23列の転動体個数よりも多く設定されている。したがって、インナー側の転動体23列部分の剛性が高くなると共に、基本定格荷重がアウター側の転動体23列部分の基本定格荷重よりも大きくなり、インナー側の転動体23列部分に加わる荷重がアウター側の転動体23列部分に加わる荷重よりも大きくなっても寿命をそれ以上にすることができる。すなわち、軸受のスペース効率を高めて無駄のない設計を実現することができ、強度・耐久性を向上させた車輪用軸受装置Cを提供することができる。
【0039】
なお、ここでは、インナー側の転動体23のピッチ円直径をアウター側の転動体23のピッチ円直径よりも大径に設定すると共に、インナー側の転動体23列における転動体個数をアウター側の転動体23列の転動体個数よりも多く設定することにより、インナー側の転動体23列部分の負荷容量を増大させているが、これに限らず、例えば、図示はしないが、インナー側の転動体のサイズをアウター側の転動体のサイズよりも大きくすることにより負荷容量を増大させても良いし、また、複列の転動体のうちアウター側の転動体をボールとし、インナー側の転動体を円錐ころとしてインナー側の転動体列部分の負荷容量を増大させても良い。
【0040】
また、外方部材22と内方部材24との間に形成される環状空間の開口部を密封するシール30、31が装着されている。また、ケーシング2のアウター側の端部にオイルシール32が装着され、ケーシング2と連結部材11の間に形成される環状空間の開口部が密封されている。このオイルシール32はガータスプリング32aを有し、軸受部と減速部Bとを遮断し、減速部Bを潤滑する潤滑油が軸受内部に浸入するのを防止している。すなわち、減速部Bの潤滑油内に混入した金属摩耗粉等の異物が軸受内部に侵入して剥離寿命が低下するのを防止している。そして、軸受部はシール30、31によって内部に封入されたグリースによって潤滑されている。これにより、軸受部は、減速部B内を潤滑する潤滑油の清浄度の影響を受けずに所望の剥離寿命を確保することができる。
【0041】
次に、図6を用いて、連結部材11と内輪部材16の連結構造について説明する。
連結部材11と内輪部材16は、セレーション11a、16bを介してトルク伝達可能に連結されている。これにより、減速部Bと車輪用軸受装置Cとが分離可能となり、組立・分解性が向上してメンテナンス性に優れたインホイールモータ駆動装置を提供することができる。
【0042】
さらに、連結部材11の雌セレーション11aと内輪部材16の雄セレーション16bのうち少なくとも一方の歯面が太鼓状のクラウニング形状に形成されている。これにより、車輪取付フランジ26を介して車輪から負荷されるラジアル荷重やモーメント荷重によって内輪部材16が傾いても、これらセレーション11a、16bによってその傾きは許容され、連結部材11が共に傾くのを防止することができる。したがって、減速部Bの各構成部品間に過大な荷重が作用したり、構成部品を損傷したりするのを防止し、耐久性と信頼性を向上させることができる。
【0043】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係るインホイールモータ駆動装置は、モータ部と、車輪が取り付けられた車輪用軸受装置と、モータ部の回転を減速して車輪用軸受装置に伝達する減速部とを備え、これらが同軸状に配設されたインホイールモータ駆動装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係るインホイールモータ駆動装置の一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1のII−II線に沿った横断面図である。
【図3】図2の要部拡大図である。
【図4】図1の偏心部を示す要部拡大図である。
【図5】図1の車輪用軸受装置を示す拡大図である。
【図6】図5の連結部を示す要部拡大図である。
【図7】従来のインホイールモータ駆動装置を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1・・・・・・・・・・・インホイールモータ駆動装置
2・・・・・・・・・・・ケーシング
3・・・・・・・・・・・ステータ
3a・・・・・・・・・・コイル
4・・・・・・・・・・・ロータ
4a・・・・・・・・・・円筒部
4b・・・・・・・・・・フランジ部
4c・・・・・・・・・・永久磁石
5・・・・・・・・・・・モータ側回転部材
5a、5b・・・・・・・偏心部
6、29・・・・・・・・エンドキャップ
7、9、10、21・・・転がり軸受
8、32・・・・・・・・オイルシール
11・・・・・・・・・・連結部材
11a・・・・・・・・・雌セレーション
12a、12b・・・・・曲線板
13・・・・・・・・・・外ピン
13a、18a・・・・・針状ころ軸受
14・・・・・・・・・・運動変換機構
15・・・・・・・・・・カウンタウェイト
16・・・・・・・・・・内輪部材
16a、25a・・・・・内側転走面
16b・・・・・・・・・雄セレーション
16c・・・・・・・・・肩部
17・・・・・・・・・・軸部
17a・・・・・・・・・インロウ部
17b・・・・・・・・・嵌合部
18・・・・・・・・・・内ピン
19・・・・・・・・・・貫通孔
20・・・・・・・・・・軸受孔
22・・・・・・・・・・外方部材
22a、22b・・・・・外側転走面
22c・・・・・・・・・取付フランジ
23・・・・・・・・・・転動体
24・・・・・・・・・・内方部材
25・・・・・・・・・・ハブ輪
25b・・・・・・・・・小径段部
26・・・・・・・・・・車輪取付フランジ
26a・・・・・・・・・ハブボルト
27・・・・・・・・・・凹凸部
28、28a・・・・・・保持器
30・・・・・・・・・・アウター側のシール
31・・・・・・・・・・インナー側のシール
32a・・・・・・・・・ガータスプリング
50・・・・・・・・・・インホイールモータ駆動装置
51・・・・・・・・・・車体
52・・・・・・・・・・ケーシング
53・・・・・・・・・・モータ部
54・・・・・・・・・・車輪
55・・・・・・・・・・車輪用軸受装置
56・・・・・・・・・・ハブ輪
56a、65a・・・・・内側転走面
56b・・・・・・・・・小径段部
57・・・・・・・・・・減速部
58・・・・・・・・・・モータ側回転部材
58a、58b・・・・・偏心部
59a、59b・・・・・曲線板
60a、60b・・・・・転がり軸受
61・・・・・・・・・・外ピン
62・・・・・・・・・・内方部材
63・・・・・・・・・・内ピン
64・・・・・・・・・・外方部材
64a・・・・・・・・・外側転走面
64b・・・・・・・・・取付フランジ
65・・・・・・・・・・内輪
66・・・・・・・・・・ボール
67・・・・・・・・・・車輪取付フランジ
A・・・・・・・・・・・モータ部
B・・・・・・・・・・・減速部
C・・・・・・・・・・・車輪用軸受装置
G・・・・・・・・・・・曲線板間の中心点
L1・・・・・・・・・・中心点と曲線板の中心との距離
L2・・・・・・・・・・中心点とカウンタウェイトの中心との距離
m1・・・・・・・・・・曲線板の質量
m2・・・・・・・・・・カウンタウェイトの質量
Za・・・・・・・・・・外ピンの本数
Zb・・・・・・・・・・曲線板の波形の数
ε1・・・・・・・・・・曲線板の重心の回転軸心からの偏心量
ε2・・・・・・・・・・カウンタウェイトの重心の回転軸心からの偏心量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、
このケーシング内に配設され、偏心部が一体に形成されたモータ側回転部材を回転駆動するモータ部と、
前記モータ側回転部材の回転を減速する減速部と、
この減速部に連結され、車輪を回転自在に支承する車輪用軸受装置とを備えたインホイールモータ駆動装置において、
前記車輪用軸受装置が連結部材を介して前記減速部に結合され、当該車輪用軸受装置が、外周に前記ケーシングに取り付けられるための取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、
一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に前記複列の外側転走面の一方に対向する内側転走面と、この内側転走面から軸方向に延びる円筒状の小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に嵌合される円筒状の軸部を一体に有し、外周に前記複列の外側転走面の他方に対向する内側転走面が形成された内輪部材からなる内方部材と、
この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールとを備え、
前記ケーシングに装着されたオイルシールによって前記車輪用軸受装置が前記減速部と遮断され、軸受内部に封入されたグリースによって潤滑されると共に、
前記連結部材と内輪部材がセレーションを介してトルク伝達可能に、かつ、分離可能に結合されていることを特徴とするインホイールモータ駆動装置。
【請求項2】
前記セレーションの歯面のうち少なくとも一方の歯面がクラウニング形状に形成されている請求項1に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項3】
前記複列の転動体列のうちインナー側の転動体列の基本定格荷重がアウター側の転動体列の基本定格荷重よりも大きく設定されている請求項1または2に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項4】
前記インナー側の転動体のピッチ円直径が前記アウター側の転動体のピッチ円直径よりも大径に設定されると共に、当該インナー側の転動体列における転動体個数が前記アウター側の転動体列の転動体個数よりも多く設定されている請求項3に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項5】
前記ハブ輪の内周に硬化した凹凸部が形成されると共に、前記軸部の嵌合部を拡径して凹凸部に食い込ませて加締めることにより、ハブ輪と内輪部材が一体に塑性結合されている請求項1乃至4いずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−189187(P2008−189187A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26980(P2007−26980)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】