説明

エンジンのバルブ開閉タイミング評価方法及びバルブ開閉タイミング評価装置

【課題】 バルブ開閉タイミングを正確に評価できるエンジンのバルブ開閉タイミング評価方法及びバルブ開閉タイミング評価装置を提供する。
【解決手段】 回転駆動手段3によりエンジン1を所定回転数で回転させながらバルブ近傍のエンジン振動を振動検出手段2で検出し、その振動信号波形及びクランク角度算出手段12からのクランク角度に基づいて、波形解析手段15により、バルブの開及び閉のそれぞれに対応する振動信号波形中に振動ピークが複数あるか否かを判定し、振動ピークが複数ある場合には、回転制御手段4を介して回転駆動手段3によるエンジン1の回転数を高くしてバルブ開閉時の振動を大きくし、バルブの開時及び閉時に対応する振動ピークのクランク角度を検出し、そのクランク角度に基づいて評価手段16によりバルブの開閉タイミングを評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを回転させてインテークバルブ及びエキゾーストバルブの開閉タイミングを評価するエンジンのバルブ開閉タイミング評価方法及びバルブ開閉タイミング評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの生産過程では、出荷品質を確保するために、生産されたエンジンを電動モータ等により一定の回転数で回転させて、インテークバルブ及びエキゾーストバルブのクリアランスを判定し、不良の場合には再調整するようにしている。
【0003】
このようなバルブクリアランスの判定を行うエンジン診断装置として、例えばバルブの近傍に振動センサを装着してエンジン回転中の振動を検出し、その検出された振動信号と、エンジンコントロールユニットからのカム角検出信号、クランク角検出信号及び予め入力されたカムプロフィールデータとに基づいてバルブのクリアランスを判定するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2001−21455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示のように、バルブ近傍のエンジン振動を振動センサにより検出してバルブクリアランスを判定するには、バルブの開時及び閉時のタイミング(クランク角度)を検出する必要があり、そのためにはバルブの開及び閉に応じて振動センサから出力される振動信号のピーク(振動ピーク)の発生タイミングを検出する必要がある。
【0006】
ところが、振動センサから得られる振動信号を、例えば2乗処理し、更にエンベロープ処理して得られる振動信号波形には、1つのバルブが開放または閉塞するのに応じて、バルブのバウンスやノイズ等の影響で図6に示すように振動ピークが複数存在する場合がある。なお、図6において、横軸はクランク角度(°CA)を示し、縦軸は振動レベルを示している。
【0007】
しかも、エンジン生産過程での診断試験では、エンジン生産過程内でありエンジン内に冷却水が供給されず、このエンジン内に冷却水を供給しない状態でエンジンを連続して高回転数で回転させるとウォーターポンプ等に磨耗等の支障が発生することから、エンジンを比較的低回転数で回転させているためバルブの開閉動作(速度)が遅く、その遅い開閉動作に伴ってバルブの開時及び閉時の振動も小さくなる。よって振動センサから得られる振動ピークの振幅値も比較的小さくなり、ノイズ等による振動ピークとの間に充分な振幅差が生じない。
【0008】
このため、図6に示すように、振動ピークが複数現れる場合には、その閾値V1を高く設定しても、依然として振動ピークが複数残ることになる。このように振動ピークが複数あると、特に、1つの気筒に吸気バルブ及び排気バルブがそれぞれ複数(例えば2つずつ等)ある場合には、バルブの開及び閉による振動ピークを特定することが困難となり、バルブの開閉タイミング、即ちバルブクリアランスを正確に判定することができなくなることが懸念される。なお、図6は、評価対象エンジンの複数回転分における振動信号波形を平均化して示している。
【0009】
従って、かかる点に鑑みてなされた本発明の目的は、振動ピークが複数現れる場合でも、バルブ開閉タイミングを正確に評価できるエンジンのバルブ開閉タイミング評価方法、及びそれを実施するバルブ開閉タイミング評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する請求項1に記載のエンジンのバルブ開閉タイミング評価方法の発明は、エンジンを所定回転数で回転させながらバルブ近傍のエンジン振動を検出し、上記バルブの開及び閉のそれぞれに対応する振動信号における振動ピークの発生タイミングに基づいて上記バルブの開閉タイミングを評価するエンジンのバルブ開閉タイミング評価方法において、上記バルブの開及び閉のそれぞれに対応する上記振動信号中に振動ピークが複数あるか否かを判定し、振動ピークが複数ある場合には、上記エンジンを上記所定回転数よりも高い回転数で回転させてバルブの開閉タイミングを評価することを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載のエンジンのバルブ開閉タイミング評価装置の発明は、エンジンを回転させる回転駆動手段と、上記エンジンのバルブ近傍の振動を検出する振動検出手段と、該振動検出手段で検出される振動信号を2乗する2乗処理手段と、該2乗処理手段の出力波形をエンベロープ処理するエンベロープ処理手段と、上記エンジンのクランク角度を算出するクランク角度算出手段と、上記エンベロープ処理手段から得られる振動信号波形及び上記クランク角度算出手段で算出されるクランク角度に基づいて、上記バルブの開及び閉のそれぞれに対応する上記振動信号波形中に振動ピークが1つのみか複数あるかを判定すると共に、判定結果に基づいて振動ピークが1つのみの場合に当該振動ピーク発生タイミングに対応するクランク角度を検出する波形解析手段と、該波形解析手段での判定結果に基づいて、振動ピークが複数ある場合に上記回転駆動手段を制御して上記エンジンの回転数を高める回転制御手段と、上記波形解析手段で検出されたクランク角度に基づいて、上記バルブの開閉タイミングを評価する評価手段とを有することを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載のエンジンのバルブ開閉タイミング評価方法の発明は、回転中のエンジンのバルブ近傍の振動を検出し、上記バルブの開及び閉のそれぞれに対応する振動信号における振動ピークの発生タイミングに基づいて上記バルブの開閉タイミングを評価するエンジンのバルブ開閉タイミング評価方法において、上記バルブの開及び閉のそれぞれに対応する上記振動信号中に振動ピークが複数あるか否かを判定し、振動ピークが複数ある場合には上記エンジンの複数回転分における上記振動信号に基づいて安定性の高い振動ピークを特定してバルブの開閉タイミングを評価することを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3のエンジンのバルブ開閉タイミング評価方法において、上記振動ピークが複数ある場合には、上記エンジンの回転毎に上記振動信号中から各振動ピークのピーク値を検出して、上記エンジンの複数回転分について発生タイミングがほぼ同じ振動ピークのピーク値の最大値と最小値との差を求め、差が最小の発生タイミングの振動ピークを上記安定性の高い振動ピークと特定することを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載のエンジンのバルブ開閉タイミング評価装置の発明は、回転中のエンジンのバルブ近傍の振動を検出する振動検出手段と、上記振動検出手段で検出される振動信号を2乗する2乗処理手段と、該2乗処理手段の出力波形をエンベロープ処理するエンベロープ処理手段と、上記エンジンのクランク角度を算出するクランク角度算出手段と、上記エンベロープ処理手段から得られる振動信号波形及び上記クランク角度算出手段で算出されるクランク角度に基づいて、上記バルブの開及び閉のそれぞれに対応する上記振動信号波形中に振動ピークが1つのみか複数あるかを判定し、判定結果に基づいて、振動ピークが1つの場合には、当該振動ピークの発生タイミングに対応するクランク角度を検出し、振動ピークが複数ある場合には、上記エンジンの複数回転分における上記振動信号に基づいて安定性の高い振動ピークを特定して、特定した振動ピークの発生タイミングに対応するクランク角度を検出する波形解析手段と、上記波形解析手段で検出されたクランク角度に基づいて上記バルブの開閉タイミングを評価する評価手段とを有することを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項5のエンジンのバルブ開閉タイミング評価装置において、上記波形解析手段は、上記振動ピークが複数ある場合に、上記エンジンの回転毎に上記振動信号中から各振動ピークのピーク値を検出して、上記エンジンの複数回転分について発生タイミングがほぼ同じ振動ピークのピーク値の最大値と最小値との差を求め、差が最小の発生タイミングの振動ピークを上記安定性の高い振動ピークと特定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によると、バルブの開或いは閉に対応する振動信号中に振動ピークが複数ある場合には、エンジンを所定回転数よりも高い回転数で回転させるので、バルブの開閉動作が速くなり、それに伴ってバルブの開時及び閉時の振動が大きくなる。その結果、振動センサから得られる振動ピークの振幅値が大きくなって、ノイズ等による他の振動ピークとの間に充分な振幅差が生じることになる。従って、閾値を適当な高さに設定することにより、1つの振動ピークを容易に抽出することができるので、1つの気筒に吸気バルブ及び排気バルブがそれぞれ複数(例えば、2つずつ等)ある場合でも、吸気バルブ及び排気バルブのそれぞれの開閉タイミング、即ちバルブクリアランスを正確に評価することが可能となる。しかも、通常はエンジンを所定回転数で回転させ、複数の振動ピークがある場合にのみ所定回転数よりも高い回転数で回転させるので、それらの回転数を適切に設定することにより、ウォーターポンプ等への支障を回避することができる。
【0017】
請求項2の発明によると、回転駆動手段、振動検出手段、2乗処理手段、エンベロープ処理手段、クランク角度算出手段、波形解析手段、回転制御手段、及び評価手段を有する簡単かつ安価な構成でバルブの開閉タイミングを確実に評価することが可能になると共に、回転駆動手段、振動検出手段、回転制御手段を除く構成要素は、例えばパーソナルコンピュータを有して構成できるので、構成のより簡略化が可能となる。
【0018】
請求項3の発明によると、バルブの開或いは閉に対応する振動信号中に振動ピークが複数ある場合には、エンジンの複数回転分における振動信号から安定性の高い振動ピークを特定するので、バルブの開時及び閉時に発生する振動ピークを確実に特定することができる。即ち、バルブの実際の開時或いは閉時に発生する振動ピークは、ノイズ等の他の振動ピークに比べてエンジンの回転毎の安定性が高いという性質を有するので、エンジンの複数回転分における振動信号から安定性の高い振動ピークを特定することで、バルブの実際の開時或いは閉時に発生する振動ピークを確実に特定することができる。従って、振動ピークが複数現れる場合でも、バルブの開閉タイミング即ちバルブクリアランスを正確に評価することが可能となる。
【0019】
請求項4の発明によると、振動ピークが複数発生する場合には、エンジンの複数回転分について発生タイミングがほぼ同じ振動ピークのピーク値の最大値と最小値との差が最小となる発生タイミングの振動ピークを安定性の高い振動ピークとして特定するので、バルブの実際の開時或いは閉時に発生する振動ピークを容易かつ確実に特定することができる。
【0020】
請求項5の発明によると、振動検出手段、2乗処理手段、エンベロープ処理手段、クランク角度算出手段、波形解析手段、および評価手段を有する簡単かつ安価な構成でバルブの開閉タイミングを確実に評価することが可能になると共に、振動検出手段を除く構成要素は、例えばパーソナルコンピュータを有して構成できるので、構成のより簡略化が可能となる。
【0021】
請求項6の発明によると、波形解析手段では、振動ピークが複数ある場合に、エンジンの複数回転分について発生タイミングがほぼ同じ振動ピークのピーク値の最大値と最小値との差が最小となる発生タイミングの振動ピークを安定性の高い振動ピークとして特定するので、簡単な構成でバルブの実際の開時或いは閉時に発生する振動ピークを確実に特定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明によるエンジンのバルブ開閉タイミング評価方法及びバルブ開閉タイミング評価装置の実施の形態について、図を参照して説明する。
(第1実施の形態)
図1及び図2は本発明の第1実施の形態を示すもので、図1はバルブ開閉タイミング評価装置の概略構成を示す機能ブロック図、図2はその動作を説明するための信号波形図である。
【0023】
本実施の形態は、図1に示すように、サンプルであるエンジン1のバルブの近傍に振動検出手段である振動センサ2を取り付けて、エンジン1を例えば電動モータからなる回転駆動手段3により回転させながらエンジン1の振動を検出する。回転駆動手段3は、回転制御手段4により制御して、エンジン1の回転数を制御する。なお、図1では、図面を明瞭とするため、1つのバルブに対応する振動センサ2のみを示している。
【0024】
振動センサ2で検出される振動信号は、増幅器5で増幅した後、高域通過フィルタ(HPF)6及び低域通過フィルタ(LPF)7により不要なノイズ成分を除去して、パーソナルコンピュータ(PC)を含んでなる演算装置11に取り込む。また、演算装置11には、エンジン1から出力される気筒判別信号及びクランク角検出信号を取り込む。
【0025】
演算装置11には、クランク角度算出手段12、2乗処理手段13、エンベロープ処理手段14、波形解析手段15、評価手段16、及び表示部17を備え、エンジン1からのクランク角検出信号及び気筒判別信号は、クランク角度算出手段12に供給してクランク角度を算出し、その算出したクランク角度を波形解析手段15に供給する。
【0026】
また、LPF7から出力される振動信号は、2乗処理手段13に供給し、ここで2乗処理した後、エンベロープ処理手段14でエンベロープ処理して波形解析手段15に供給する。
【0027】
波形解析手段15は、エンベロープ処理手段14から得られる振動信号波形及びクランク角度算出手段12からのクランク角度に基づいて、評価対象バルブの開及び閉のそれぞれに対応する振動信号波形を所定の閾値によって振動ピークが1つのみか複数あるかを判定すると共に、その判定結果に基づいて、振動ピークが1つのみの場合には、その振動ピーク発生タイミングに対応するクランク角度を検出して評価手段16に供給し、振動ピークが複数ある場合には、回転制御手段4を介して回転駆動手段3によるエンジン1の回転数を制御する。
【0028】
評価手段16は、波形解析手段15で検出されたクランク角度に基づいて振動センサ2に対応する評価対象バルブの開閉タイミング、即ちバルブクリアランスを評価し、その評価結果を表示部17に表示する。なお、この評価手段16によるバルブ開閉タイミングの評価は、例えば、特許文献1に開示のようにカムプロフィールデータを予め入力しておき、そのカムプロフィールデータと波形解析手段15で検出されたクランク角度との比較に基づいて行うようにする。
【0029】
次に、本実施の形態によるバルブ開閉タイミング評価装置の動作の概要について説明する。
【0030】
本実施の形態では、先ず、回転制御手段4により回転駆動手段3を駆動して、エンジン1を所定回転数である予め設定された第1回転数で回転させる。なお、この第1回転数は、通常の試験運転における回転数で、ウォーターポンプ等に磨耗等の支障をきたさない所定の回転数領域内で比較的低回転数に設定する。
【0031】
この状態で、振動センサ2によりバルブ近傍のエンジン1の振動を検出し、波形解析手段15において、先ず、評価対象バルブの開及び閉のそれぞれに対応する振動信号波形を第1閾値(例えば、図6の閾値V1)に基づいて振動ピークが1つのみか複数あるかを判定する。
【0032】
ここで、振動ピークが1つのみの場合には、次に、その振動ピーク発生タイミングに対応するクランク角度を検出して評価手段16に供給する。
【0033】
これに対し、振動ピークが複数ある場合には、次に、回転制御手段4により回転駆動手段3を制御して、エンジン1を上記の所定の回転数領域内で、第1回転数よりも高い第2回転数、例えば第1回転数の2倍の回転数で回転させる。
【0034】
このように、エンジン回転数を2倍にすると、バルブの開閉速度も2倍になり、それに伴ってバルブの開時及び閉時の振動も大きくなるので、バルブの開或いは閉に対応する振動信号波形は、図2に実線で示すようになる。即ち、バルブの開時或いは閉時の振動ピークの振幅値が、破線で示す第1回転数のときよりも大きくなって、ノイズ等による他の振動ピークとの間に充分な振幅差が生じることになる。なお、図2において、横軸はクランク角度(°CA)を示し、縦軸は振動レベルを示している。
【0035】
波形解析手段15では、この第2回転数での評価対象バルブの開及び閉のそれぞれに対応する振動信号波形を第2閾値V2(V2>V1)に従って振動ピークが1つのみか複数あるかを判定し、振動ピークが1つのみの場合には、その発生タイミングに対応するクランク角度を検出して評価手段16に供給する。
【0036】
なお、第2回転数での振動信号波形において、第2閾値V2にあって複数の振動ピークがある場合には、その閾値を順次大きくして振動ピークが1つのみ現れるようにするか、或いは、エンジン1の回転数を上記の所定の回転数領域内で順次高くし、それに応じて閾値を順次大きくして振動ピークが1つのみ現れるようにする。
【0037】
以上のようにして、波形解析手段15において、評価対象バルブの開時及び閉時のクランク角度を検出したら、それらのクランク角度に基づいて評価手段16で当該バルブの開閉タイミング、即ちバルブクリアランスを評価し、その評価結果を表示部17に表示する。
【0038】
このように、本実施の形態では、通常は、エンジン1を第1回転数で回転させながらバルブの開閉タイミングを評価し、第1回転数ではバルブの開或いは閉に対応する振動信号中に振動ピークが複数ある場合には、エンジン1を上記の所定の回転数領域内で第1回転数よりも高い回転数で回転させるようにしたので、バルブの開時及び閉時に対応する振動ピークを容易かつ確実に抽出することができる。従って、1つの気筒に吸気バルブ及び排気バルブがそれぞれ複数(例えば、2つずつ等)ある場合でも、吸気バルブ及び排気バルブのそれぞれの開閉タイミング、即ちバルブクリアランスを正確に評価することができる。しかも、通常は、エンジン1を低回転数である第1回転数で回転させ、複数の振動ピークがある場合にのみ、上記の所定の回転数領域内で第1回転数よりも高い回転数で回転させるので、ウォーターポンプ等に支障をきたすことも回避できる。
【0039】
また、クランク角度算出手段12、2乗処理手段13、エンベロープ処理手段14、波形解析手段15、評価手段16、及び表示部17を有する演算装置11は、PCを有して構成できるので、装置全体を簡単かつ安価にできる。
【0040】
(第2実施の形態)
図3乃至図5は本発明の第2実施の形態を示すもので、図3はバルブ開閉タイミング評価装置の概略構成を示す機能ブロック図、図4はその動作を説明するための信号波形図、図5は同じく動作を説明するための図である。
【0041】
本実施の形態では、図3に示すように、サンプルであるエンジン1のバルブの近傍に振動検出手段である振動センサ2を取り付け、第1実施の形態と同様に、エンジン1を例えば電動モータからなる回転駆動手段により回転させながらエンジン1の振動を検出する。なお、図3においても、図面を明瞭とするため1つのバルブに対応する振動センサ2のみを示している。
【0042】
振動センサ2で検出される振動信号は、第1実施の形態と同様に、増幅器5で増幅した後、HPF6及びLPF7により不要なノイズ成分を除去して、パーソナルコンピュータ(PC)を含んでなる演算装置21に取り込む。また、演算装置21には、エンジン1から出力される気筒判別信号及びクランク角検出信号を取り込む。
【0043】
演算装置21には、クランク角度算出手段22、2乗処理手段23、エンベロープ処理手段24、波形解析手段25、評価手段26、及び表示部27を備え、エンジン1からのクランク角検出信号及び気筒判別信号は、クランク角度算出手段22に供給してクランク角度を算出し、その算出したクランク角度を波形解析手段25に供給する。
【0044】
また、LPF7から出力される振動信号は、2乗処理手段23に供給し、ここで2乗処理した後、エンベロープ処理手段24でエンベロープ処理して波形解析手段25に供給する。
【0045】
波形解析手段25は、エンベロープ処理手段24から得られる振動信号波形及びクランク角度算出手段22からのクランク角度に基づいて、評価対象バルブの開及び閉のそれぞれに対応する振動信号波形中に振動ピークが1つのみか複数あるかを判定し、その判定結果に基づいて、振動ピークが1つの場合には、当該振動ピークの発生タイミングに対応するクランク角度を検出して評価手段26に供給し、振動ピークが複数ある場合には、エンジン1の複数回転分における振動信号波形に基づいて安定性の高い振動ピークを特定して、その特定した振動ピークの発生タイミングに対応するクランク角度を検出して評価手段26に供給する。
【0046】
本実施の形態では、波形解析手段25において、評価対象バルブの開及び閉のそれぞれに対応する振動信号波形中に振動ピークが複数ある場合には、エンジン1の回転毎に振動信号波形中から各振動ピークのピーク値を検出して、エンジン1の複数回転分について発生タイミングがほぼ同じ振動ピークのピーク値の最大値と最小値との差を求め、その差が最小の発生タイミングの振動ピークを安定性の高い振動ピークと特定して、その振動ピークの発生タイミングに対応するクランク角度を検出する。
【0047】
評価手段26は、波形解析手段25で検出されたクランク角度に基づいて、第1実施の形態と同様に、振動センサ2に対応する評価対象バルブの開閉タイミング、即ちバルブクリアランスを評価し、その評価結果を表示部27に表示する。
【0048】
次に、本実施の形態によるバルブ開閉タイミング評価装置の動作の概要について説明する。
【0049】
本実施の形態では、エンジン1を回転させながら、振動センサ2によりバルブ近傍のエンジン1の振動を検出し、その振動信号に基づいて波形解析手段25において、先ず、評価対象バルブの開及び閉のそれぞれに対応する振動信号波形中に振動ピークが1つのみか複数あるかを判定する。
【0050】
ここで、振動ピークが1つのみの場合には、次に、その発生タイミングに対応するクランク角度を検出して評価手段26に供給する。
【0051】
これに対し、振動ピークが複数ある場合には、エンジン1の回転毎に振動信号波形中から各振動ピークのピーク値を検出して、エンジン1の複数回転分について発生タイミングがほぼ同じ振動ピークのピーク値の最大値と最小値との差を求め、その差が最小の発生タイミングの振動ピークを安定性の高い振動ピークと特定して、その振動ピークの発生タイミングに対応するクランク角度を検出する。
【0052】
即ち、バルブの実際の開時或いは閉時に発生する振動ピークは、例えば図4に示すように、ノイズ等の他の振動ピークに比べてエンジン1の回転毎の安定性が高いという性質を有しているので、振動ピークが複数ある場合には、その安定性が高い性質を利用して、先ず、エンジン1の回転毎に複数の振動ピークのピーク値をそれぞれ求める。その後、エンジン1の複数回転分、例えば、4回転分について、図5に示すように、発生タイミングがほぼ同じ振動ピークのピーク値の最大値と最小値とを検出してそれらの差を求め、その差が最小の発生タイミングの振動ピークを安定性の高い振動ピークと特定して、その振動ピークの発生タイミングに対応するクランク角度を検出する。なお、図4及び図5において、横軸はクランク角度(°CA)を示し、縦軸は振動レベルを示している。
【0053】
以上のようにして、波形解析手段25において、評価対象バルブの開時及び閉時のクランク角度を検出し、それらのクランク角度に基づいて評価手段26で第1実施の形態と同様に、当該バルブの開閉タイミング、即ちバルブクリアランスを評価し、その評価結果を表示部27に表示する。
【0054】
このように、本実施の形態では、波形解析手段25において、バルブの開或いは閉に対応する振動信号中に振動ピークが複数ある場合には、エンジン1の複数回転分について発生タイミングがほぼ同じ振動ピークのピーク値の最大値と最小値との差が最小となる発生タイミングの振動ピークを抽出して、その発生タイミングに対応するクランク角度を検出するようにしたので、バルブの実際の開時或いは閉時に発生する振動ピークのクランク角度を容易かつ確実に検出することができる。従って、1つの気筒に吸気バルブ及び排気バルブがそれぞれ複数(例えば、2つずつ等)ある場合でも、吸気バルブ及び排気バルブのそれぞれの開閉タイミング、即ちバルブクリアランスを正確に評価することができる。
【0055】
また、クランク角度算出手段22、2乗処理手段23、エンベロープ処理手段24、波形解析手段25、評価手段26、及びひ表示部27を有する演算装置21は、第1実施の形態と同様に、PCを有して構成できるので、装置全体を簡単かつ安価にできる。
【0056】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることなく発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、第2実施の形態では、バルブの開或いは閉に対応する振動信号中に振動ピークが複数ある場合に、エンジン1の複数回転分について発生タイミングがほぼ同じ振動ピークのピーク値の最大値と最小値との差を求め、その差が最小となる発生タイミングの振動ピークを、実際のバルブの開時或いは閉時に発生する振動ピークとして特定したが、これに限らず、複数回転分における振動ピークのピーク値を統計学的に処理して、標準偏差等の統計量に基づいて安定性の高い振動ピークを特定することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の第1実施の形態に係るエンジンのバルブ開閉タイミング評価装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図2】第1実施の形態の動作を説明するための信号波形図である。
【図3】本発明の第2実施の形態に係るエンジンのバルブ開閉タイミング評価装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図4】第2実施の形態の動作を説明するための信号波形図である。
【図5】同じく、第2実施の形態の動作を説明するための図である。
【図6】本発明が解決しようとする課題を説明するための図である。
【符号の説明】
【0058】
1 エンジン
2 振動センサ(振動検出手段)
3 回転駆動手段
4 回転制御手段
5 増幅器
6 高域通過フィルタ(HPF)
7 低域通過フィルタ(LPF)
11 演算装置
12 クランク角度算出手段
13 2乗処理手段
14 エンベロープ処理手段
15 波形解析手段
16 評価手段
17 表示部
21 演算装置
22 クランク角度算出手段
23 2乗処理手段
24 エンベロープ処理手段
25 波形解析手段
26 評価手段
27 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを所定回転数で回転させながらバルブ近傍のエンジン振動を検出し、上記バルブの開及び閉のそれぞれに対応する振動信号における振動ピークの発生タイミングに基づいて上記バルブの開閉タイミングを評価するエンジンのバルブ開閉タイミング評価方法において、
上記バルブの開及び閉のそれぞれに対応する上記振動信号中に振動ピークが複数あるか否かを判定し、振動ピークが複数ある場合には、上記エンジンを上記所定回転数よりも高い回転数で回転させてバルブの開閉タイミングを評価することを特徴とするエンジンのバルブ開閉タイミング評価方法。
【請求項2】
エンジンを回転させる回転駆動手段と、
上記エンジンのバルブ近傍の振動を検出する振動検出手段と、
該振動検出手段で検出される振動信号を2乗する2乗処理手段と、
該2乗処理手段の出力波形をエンベロープ処理するエンベロープ処理手段と、
上記エンジンのクランク角度を算出するクランク角度算出手段と、
上記エンベロープ処理手段から得られる振動信号波形及び上記クランク角度算出手段で算出されるクランク角度に基づいて、上記バルブの開及び閉のそれぞれに対応する上記振動信号波形中に振動ピークが1つのみか複数あるかを判定すると共に、判定結果に基づいて振動ピークが1つのみの場合に当該振動ピーク発生タイミングに対応するクランク角度を検出する波形解析手段と、
該波形解析手段での判定結果に基づいて、振動ピークが複数ある場合に上記回転駆動手段を制御して上記エンジンの回転数を高める回転制御手段と、
上記波形解析手段で検出されたクランク角度に基づいて、上記バルブの開閉タイミングを評価する評価手段と、
を有することを特徴とするエンジンのバルブ開閉タイミング評価装置。
【請求項3】
回転中のエンジンのバルブ近傍の振動を検出し、上記バルブの開及び閉のそれぞれに対応する振動信号における振動ピークの発生タイミングに基づいて上記バルブの開閉タイミングを評価するエンジンのバルブ開閉タイミング評価方法において、
上記バルブの開及び閉のそれぞれに対応する上記振動信号中に振動ピークが複数あるか否かを判定し、振動ピークが複数ある場合には上記エンジンの複数回転分における上記振動信号に基づいて安定性の高い振動ピークを特定してバルブの開閉タイミングを評価することを特徴とするエンジンのバルブ開閉タイミング評価方法。
【請求項4】
上記振動ピークが複数ある場合には、上記エンジンの回転毎に上記振動信号中から各振動ピークのピーク値を検出して、上記エンジンの複数回転分について発生タイミングがほぼ同じ振動ピークのピーク値の最大値と最小値との差を求め、差が最小の発生タイミングの振動ピークを上記安定性の高い振動ピークと特定することを特徴とする請求項3に記載のエンジンのバルブ開閉タイミング評価方法。
【請求項5】
回転中のエンジンのバルブ近傍の振動を検出する振動検出手段と、
上記振動検出手段で検出される振動信号を2乗する2乗処理手段と、
該2乗処理手段の出力波形をエンベロープ処理するエンベロープ処理手段と、
上記エンジンのクランク角度を算出するクランク角度算出手段と、
上記エンベロープ処理手段から得られる振動信号波形及び上記クランク角度算出手段で算出されるクランク角度に基づいて、上記バルブの開及び閉のそれぞれに対応する上記振動信号波形中に振動ピークが1つのみか複数あるかを判定し、判定結果に基づいて、振動ピークが1つの場合には、当該振動ピークの発生タイミングに対応するクランク角度を検出し、振動ピークが複数ある場合には、上記エンジンの複数回転分における上記振動信号に基づいて安定性の高い振動ピークを特定して、特定した振動ピークの発生タイミングに対応するクランク角度を検出する波形解析手段と、
上記波形解析手段で検出されたクランク角度に基づいて上記バルブの開閉タイミングを評価する評価手段と、
を有することを特徴とするエンジンのバルブ開閉タイミング評価装置。
【請求項6】
上記波形解析手段は、上記振動ピークが複数ある場合に、上記エンジンの回転毎に上記振動信号中から各振動ピークのピーク値を検出して、上記エンジンの複数回転分について発生タイミングがほぼ同じ振動ピークのピーク値の最大値と最小値との差を求め、差が最小の発生タイミングの振動ピークを上記安定性の高い振動ピークと特定することを特徴とする請求項5に記載のエンジンのバルブ開閉タイミング評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−3309(P2006−3309A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−182761(P2004−182761)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】