エンジンの制御システム
【課題】背圧調節装置を利用した暖機促進を好適に図ることが可能なエンジンの制御システムを提供する。
【解決手段】エンジンの制御システム100Aはエンジン50Aが備える排気弁55の最大リフト量を一定にしつつ、作用角を変更可能な作用角可変機構57と、排気系20で発生する背圧を調節可能な背圧調節弁40と、エンジン50Aの暖機時に排気系20で発生する背圧を高めるように背圧調節弁40を制御するとともに、排気弁55の作用角を拡大するように作用角可変機構57を制御するECU1Aと、を備える。吸排気弁54、55のバルブタイミングは排気弁55の作用角を拡大することで、吸排気弁54、55のオーバラップ量が拡大するように設定されている。
【解決手段】エンジンの制御システム100Aはエンジン50Aが備える排気弁55の最大リフト量を一定にしつつ、作用角を変更可能な作用角可変機構57と、排気系20で発生する背圧を調節可能な背圧調節弁40と、エンジン50Aの暖機時に排気系20で発生する背圧を高めるように背圧調節弁40を制御するとともに、排気弁55の作用角を拡大するように作用角可変機構57を制御するECU1Aと、を備える。吸排気弁54、55のバルブタイミングは排気弁55の作用角を拡大することで、吸排気弁54、55のオーバラップ量が拡大するように設定されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンの制御システムに関し、特に排気弁の最大リフト量を一定にしつつ、作用角を変更可能な作用角可変機構を備えるエンジンの制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンが備える吸気弁や排気弁のバルブ特性を可変にする可変動弁機構が知られている。例えば特許文献1では、排気弁のリフト量を変更し得る第1の可変動弁機構と、排気弁の位相を変更し得る第2の可変動弁機構と、エンジンブレーキ要求時に第1および第2の可変動弁機構の作動を制御する制御手段とを有するエンジンの可変動弁装置が開示されている。特許文献1では、この可変動弁装置によってエンジンブレーキ力を変更できるようにすることが開示されている。
【0003】
特許文献2では、機関の回転に同期して回転する駆動軸に設けられ、半径方向に沿って係合溝が形成されたフランジ部と、カムシャフトに設けられ、半径方向方向に沿って係合溝が形成されたフランジ部と、これらフランジ部にピンを介して係合する環状ディスクとを備え、環状ディスクの中心を偏心させることで吸排気弁のバルブリフト特性を可変制御する内燃機関の可変動弁装置が開示されている。
【0004】
特許文献3では、アウタカム軸とインナカム軸からなるカム軸と、カム軸の両軸端部に設けられる第1位相制御機構と第2の位相制御機構とを備え、アウタカム軸およびインナカム軸間の相対的な位相を変更可能な動弁装置が開示されている。特許文献4では、吸気バルブの作用角を可変とするにあたり、作用角の拡大/縮小に併せてリフト量が拡大/縮小する作用角可変機構が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−157195号公報
【特許文献2】特開2006−336659号公報
【特許文献3】特開2009−144521号公報
【特許文献4】特開2005−299594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、エンジンの排気系には背圧を調節可能な背圧調節装置が設けられることがある。背圧調節装置は排気系で発生する背圧を高めることで、例えばエンジンブレーキ力を高めることに用いられる。一方、背圧調節装置は排気系で発生する背圧を高めることで、エンジン筒内および吸気通路への排気の吹き戻しを発生させることもできる。そして、これにより内部EGRガス量を増加させることで、筒内温度の低下を抑制することもできる。このため、背圧調節装置は例えばエンジンの暖機中に背圧を高めることで、暖機促進を図ることにも用いられる。
【0007】
ところが、背圧調節装置を暖機促進に利用する場合、排気弁のバルブ特性によっては、排気の吹き戻しに必要とされる排気ポートの開口面積を十分確保できない虞がある。具体的には例えば排気弁のバルブタイミングが固定である場合には、機関運転全体を考慮したバルブタイミングが求められる結果、排気ポートの開口面積を十分に確保できない虞がある。この点、排気の吹き戻しを十分に発生させるには、例えば吸排気弁のオーバラップ量を大きめに設定することも考えられる。ところが、この場合には例えば高負荷運転時のエンジン性能が悪化する虞がある。
【0008】
本発明は上記課題に鑑み、背圧調節装置を利用した暖機促進を好適に図ることが可能なエンジンの制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はエンジンが備える排気弁の最大リフト量を一定にしつつ、作用角を変更可能な作用角可変機構と、前記エンジンの排気系で発生する背圧を調節可能な背圧調節装置と、前記エンジンの暖機時に前記エンジンの排気系で発生する背圧を高めるように前記背圧調節装置を制御するとともに、前記排気弁の作用角を拡大するように前記作用角可変機構を制御する制御部とを備えるエンジンの制御システムである。
【0010】
本発明は前記排気弁の位相を変更可能な位相可変機構をさらに備え、前記制御部が前記エンジンの暖機時に前記排気弁の位相を遅角させるように前記位相可変機構を制御する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、背圧調節装置を利用した暖機促進を好適に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1の全体構成図である。
【図2】実施例1のエンジンの概略構成図である。
【図3】実施例1のバルブタイミングの説明図である。
【図4】第1の制御動作をフローチャートで示す図である。
【図5】排気の吹き戻しの説明図である。
【図6】作用角可変機構の作用角可変上限の説明図である。
【図7】作用角可変上限の第1の比較図である。
【図8】作用角可変上限の第2の比較図である。
【図9】実施例2の全体構成図である。
【図10】実施例2のバルブタイミングの説明図である。
【図11】第2の制御動作をフローチャートで示す図である。
【図12】排気弁の作用角と遅角量の可変上限を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を用いて、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は実施例1の全体構成図である。図2はエンジン50Aの概略構成図である。図1に示すように、吸気系10はエンジン50Aに吸気を供給する。排気系20はエンジン50Aから排出される排気を流通させる。排気系20には過給機30と背圧調節弁40とが設けられている。過給機30は排気駆動式の過給機であり、排気系20には具体的には過給機30のタービン部が設けられている。背圧調節弁40は開度を変更することで、排気通路の絞り度合いを変更する。背圧調節弁40は排気系20で発生する背圧を調節可能な背圧調節装置に相当する。
【0015】
エンジン50Aは圧縮着火式内燃機関(ディーゼルエンジン)であり、複数(ここでは4つ)の気筒51aを備えている。この点、吸気系10からは吸気が各気筒51aに分配供給され、排気系20には各気筒51aからの排気が排出される。エンジン50Aは燃料噴射弁56と作用角可変機構57とを備えている。燃料噴射弁56は気筒51a毎に設けられている。作用角可変機構57は複数の気筒51aに亘って設けられている。
【0016】
背圧調節装置は例えば排気を導入する流路の断面積を可変にする可変ノズルベーンを備えた可変容量型の過給機であってもよい。この点、背圧調節弁40を設ける代わりに過給機30をかかる過給機とすることで、過給機30を背圧調節装置とすることもできる。
【0017】
図2に示すように、エンジン50Aは燃料噴射弁56や作用角可変機構57のほか、シリンダブロック51とシリンダヘッド52とピストン53と吸気弁54と排気弁55を備えている。シリンダブロック51には気筒51aが形成されている。気筒51a内にはピストン53が収容されている。シリンダブロック51の上面にはシリンダヘッド52が固定されている。燃焼室Eはシリンダブロック51、シリンダヘッド52及びピストン53に囲まれた空間として形成されている。
【0018】
シリンダヘッド52には吸気ポート52aと排気ポート52bとが形成されている。また、吸気弁54と排気弁55とが設けられている。吸気ポート52aは燃焼室Eに吸気を導き、排気ポート52bは燃焼室Eからガスを排出する。吸気弁54は吸気ポート52aを開閉し、排気弁55は排気ポート52bを開閉する。吸気弁54と排気弁55とは一気筒あたりに2つずつ設けられている。燃料噴射弁56は具体的には燃焼室Eの中央上部に噴孔を突出させた状態で、シリンダヘッド52に設けられている。
【0019】
作用角可変機構57は具体的には排気弁55に対して設けられている。作用角可変機構57は排気弁55の最大リフト量を一定にしつつ、作用角を変更可能な作用角可変機構となっている。作用角可変機構57には例えば前述した特許文献2で開示されているように、中心を偏心させることで、カム速度を可変にする偏心部材(環状ディスク)を駆動軸、カムシャフト間に備える構造を適用できる。作用角可変機構57は気筒51a毎に設けられている複数(ここでは2つ)の排気弁55それぞれの作用角を同様に変更する。
【0020】
図3は実施例1のバルブタイミングの説明図である。図3に示すように、排気弁55の作用角(開弁期間)は作用角可変機構57によって開弁期間中央に対応するクランク角度を中心として、拡大、縮小される。そして、吸排気弁54、55のバルブタイミングは排気弁55の作用角が拡大することで、吸排気弁54、55のオーバラップ量が拡大するように設定されている。
【0021】
図1に戻り、ECU1Aは電子制御装置であり、ECU1Aには背圧調節弁40や燃料噴射弁56や作用角可変機構57が制御対象として電気的に接続されている。また、ECU1Aにはエンジン50Aの運転状態を検出するためのセンサ群70が電気的に接続されている。センサ群70は例えばエンジン50Aに対する加速要求をするためのアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検出可能なアクセル開度センサや、エンジン50Aの回転数NEを検出可能なクランク角センサや、エンジン50Aの冷却水温を検出可能な水温センサを含む。
【0022】
ROMはCPUが実行する種々の処理が記述されたプログラムやマップデータなどを格納するための構成である。CPUがROMに格納されたプログラムに基づき、必要に応じてRAMの一時記憶領域を利用しつつ処理を実行することで、ECU1Aでは各種の機能部が実現される。この点、ECU1Aでは例えば以下に示す制御部が機能的に実現される。
【0023】
制御部はエンジン50Aの暖機時に排気系20で発生する背圧を高めるように背圧調節弁40を制御するとともに、排気弁55の作用角を拡大するように作用角可変機構57を制御する。背圧を高めるように背圧制御弁40を制御するにあたり、制御部は具体的には全開状態よりも排気通路を絞るように背圧調節弁40を制御する。また、排気弁55の作用角を拡大するように作用角可変機構57を制御するにあたり、制御部は具体的には吸気弁54の作用角よりも排気弁55の作用角を拡大するように作用角可変機構57を制御する。
【0024】
背圧調節弁40と作用角可変機構57を制御するにあたり、制御部は具体的には機関運転状態(具体的にはここではアクセル開度、回転数NEおよび冷却水温)に基づき、背圧調節弁40の開度(排気通路の絞り度合い)と作用角可変機構57の作用角制御状態を算出し、背圧制御弁40の開度が算出した開度になるように背圧制御弁40を制御するとともに、作用角制御状態が算出した作用角制御状態になるように作用角可変機構57を制御する。機関運転状態には例えばアクセル開度の代わりに燃料噴射量が適用されてもよい。
【0025】
背圧調節弁40の開度と作用角可変機構57の作用角制御状態を算出するにあたり、制御部は具体的には機関運転状態を検出するとともに、背圧調節弁40の開度と作用角可変機構57の作用角制御状態を機関運転状態に応じて予め定めたマップデータそれぞれを参照し、検出した機関運転状態に対応する背圧調節弁40の開度と作用角可変機構57の作用角制御状態を読み込むことで、背圧調節弁40の開度と作用角可変機構57の作用角制御状態を算出する。これらマップデータには機関運転状態に応じて実現すべき背圧調節弁40の開度と作用角可変機構57の作用角制御状態とが予め設定されている。これらマップデータはできるだけ燃費を悪化させることなく暖機完了が最短となる時間を達成することを目標として作成されている。
【0026】
本実施例では背圧調節弁40と作用角可変機構57とECU1Aとを備えるエンジンの制御システム(以下、単に制御システムと称す)100Aが実現されている。
【0027】
次に第1の制御動作であるECU1Aの動作を図4に示すフローチャートを用いて説明する。ECU1Aは機関運転状態を検出する(ステップS1)。ステップS1では、具体的にはアクセル開度、回転数NEおよび冷却水温を検出する。続いてECU1Aは冷却水温が所定値αよりも低いか否かを判定する(ステップS2)。所定値αは例えば40℃であり、冷却水温が所定値αよりも低い場合にはエンジン50Aが暖機中であると判断される。ステップS2で否定判定であれば、本フローチャートを終了する。
【0028】
一方、ステップS2で肯定判定であれば、ECU1Aは検出した機関運転状態に基づき、実現すべき背圧調節弁40の開度および作用角可変機構57の作用角制御状態を算出する(ステップS3A)。そして、算出した開度および作用角制御状態になるように背圧制御弁40と作用角可変機構57を制御する(ステップS4A)。ステップS4Aの後にはステップS2に戻る。これにより、エンジン50Aの暖機時に冷却水温が所定値αになるまでの間、背圧を高めるように背圧調節弁40が制御されるとともに、排気弁55の作用角を拡大するように作用角可変機構57が制御される。
【0029】
次に制御システム100Aの作用効果について説明する。図5は排気の吹き戻しの説明図である。制御システム100Aはエンジン50Aの暖機時に背圧を高めるように背圧調節弁40を制御する。このため、制御システム100Aは排気系20からエンジン50Aの気筒51a内に排気の吹き戻しを発生させることができる。また、制御システム100Aはエンジン50Aの暖機時に排気弁55の作用角を拡大するように作用角可変機構57を制御することで、排気の吹き戻しに必要とされる排気ポート52bの開口面積も確保できる。結果、排気の吹き戻し量を増加させることで、内部EGRガス量を増加させることができる。このため、制御システム100Aは背圧調節弁40を利用した暖機促進を好適に図ることができる。
【0030】
制御システム100Aでは、排気弁55の作用角を拡大することで、吸排気弁54、55のオーバラップ量が拡大するように吸排気弁54、55のバルブタイミングが設定されている。このため、制御システム100Aは吸排気弁54、55のオーバラップ量の拡大によっても排気の吹き戻し量を増加させることができ、これによって内部EGRガス量を増加させることでも暖機促進を好適に図ることができる。
【0031】
オーバラップ量の拡大を図るにあたって、制御システム100Aは以下の点で好適である。図6は作用角可変機構57の作用角可変上限の説明図である。図6に示すように、バルブスタンプ(ピストン53と排気弁55との干渉)発生領域Rは位相が遅角側である場合ほど、小さなリフト量でバルブスタンプが発生するように形成されている。この点、作用角可変機構57の作用角可変上限は作用角可変機構57の構造そのものに起因する要因もさることながら、バルブスタンプを回避する観点から設定される。そして、排気弁55の最大リフト量を一定にしつつ、作用角を変更可能な作用角可変機構57では、作用角の拡大に伴いリフト量の立ち上がりおよび立ち下がりが緩やかになることから、閉弁時にバルブスタンプが発生しない範囲内で作用角を拡大することができる。
【0032】
図7は作用角可変上限の第1の比較図である。図8は作用角可変上限の第2の比較図である。図7では、作用角可変機構57の場合と、作用角の拡大/縮小に併せてリフト量が拡大/縮小する作用角可変機構の場合(ケース1の場合)とで作用角可変上限を比較している。図8では、作用角可変機構57の場合と、アウタカム軸とインナカム軸からなるカム軸を備え、アウタカム軸およびインナカム軸間の相対的な位相を変更可能な動弁装置の場合(ケース2の場合)とで作用角可変上限を比較している。ケース2の場合、合成作用角(2つの排気弁55のうち、一方の排気弁のみを遅角させた場合の全体としての開弁期間)の可変上限が作用角可変上限となっている。
【0033】
図7に示すように、ケース1の場合には、作用角の拡大に伴いリフト量が拡大する。このためこの場合には、作用角を拡大するとリフト量減少時にバルブスタンプが発生する。結果、作用角可変機構57の場合と比較して吸排気弁54、55のオーバラップ量を拡大することができなくなる分、内部EGRガス量を増加させることができず、これによって暖機促進の効果が減少することになる。
【0034】
図8に示すように、ケース2の場合には、作用角可変機構57の場合と比較してリフト量の立ち上がりおよび立ち下がりが急になっている。このためこの場合には、2つの排気弁55のうち、一方の排気弁を遅角することで合成作用角を拡大すると、リフト量減少時にバルブスタンプが発生する。結果、この場合にも作用角可変機構57の場合と比較して吸排気弁54、55のオーバラップ量を拡大することができなくなる分、暖機促進の効果が減少する。また、この場合には作用角可変機構57の場合と比較して体積効率が低下すると考えられる点でも、作用角可変機構57のほうが有利である。
【0035】
このように制御システム100Aは排気弁55の最大リフト量を一定にしつつ、作用角を変更可能な作用角可変機構57を備えることで、作用角の可変上限を大きく確保することができる。このため、制御システム100Aは吸排気弁54、55のオーバラップ量を好適に拡大することで、暖機促進性を高めることができる点で好適である。
【実施例2】
【0036】
図9は実施例2の全体構成図である。エンジン50Bは排気弁55の位相(開閉時期)を変更可能な位相可変機構58をさらに備えている点以外、エンジン50Aと実質的に同一である。位相可変機構58には、例えば作用角可変機構57が備える駆動軸の位相をエンジン50Bの回転に対して変更する構造を適用できる。ECU1Bは制御部がさらに後述するように実現される点以外、ECU1Aと実質的に同一である。
【0037】
図10は実施例2のバルブタイミングの説明図である。図10に示すように、実施例2では作用角可変機構57によって排気弁55の作用角を拡大、縮小することができるだけでなく、さらに位相可変機構58によって排気弁55の開閉時期を変更することができる。この点、位相可変機構58は気筒51a毎に設けられている複数(ここでは2つ)の排気弁55それぞれの位相を同様に変更する。
【0038】
ECU1Bでは制御部がさらにエンジン50Bの暖機時に排気弁55の位相を遅角させるように位相可変機構58を制御する。位相可変機構58を制御するにあたり、制御部は具体的には機関運転状態(具体的にはここではアクセル開度、回転数NEおよび冷却水温)に基づき、位相可変機構58の位相制御状態を算出し、位相制御状態が算出した位相制御状態になるように位相可変機構58を制御する。
【0039】
位相可変機構58の位相制御状態を算出するにあたり、制御部は具体的には機関運転状態を検出するとともに、位相可変機構58の位相制御状態を機関運転状態に応じて予め定めたマップデータを参照し、検出した機関運転状態に対応する位相可変機構58の位相制御状態を読み込むことで、位相可変機構58の位相制御状態を算出する。このマップデータには機関運転状態に応じて実現すべき位相可変機構58の位相制御状態が予め設定されている。
【0040】
作用角可変機構57と位相可変機構58を制御する制御部は、リフト量減少時にバルブスタンプが発生しない範囲内で作用角を拡大するように作用角可変機構57を制御するとともに、排気弁55の位相を遅角させない場合にバルブスタンプを発生させることなく拡大可能な最大作用角よりも作用角が小さくなるように作用角可変機構57を制御することができる。また、バルブスタンプが発生しない範囲内で排気弁55の位相を最大限遅角させるように位相可変機構58を制御することができる。
【0041】
本実施例では背圧調節弁40と作用角可変機構57と位相可変機構58とECU1Bとを備える制御システム100Bが実現されている。
【0042】
次に第2の制御動作であるECU1Bの動作を図11に示すフローチャートを用いて説明する。なお、本フローチャートはステップS3A、S4Aの代わりにステップS3B、S4Bが設けられている点以外、図4に示すフローチャートと同じになっている。このためここでは特にこれらについて説明する。ステップS3Bで、ECU1Bは検出した機関運転状態に基づき、実現すべき背圧調節弁40の開度、作用角可変機構57の作用角制御状態および位相可変機構58の位相制御状態を算出する(ステップS3B)。そして、算出した開度、作用角制御状態および位相制御状態になるように背圧制御弁40、作用角可変機構57および位相可変機構58を制御する(ステップS4B)。
【0043】
次に制御システム100Bの作用効果について説明する。図12は排気弁55の作用角と遅角量の可変上限を示す図である。図12に示すように、制御システム100Bではエンジン50Bの暖機時に排気弁55の位相を遅角させるように位相可変機構58を制御することで、作用角の拡大を抑制しつつ、閉弁時にバルブスタンプが発生しない範囲内で排気弁55の位相を遅角させることができる。このため、制御システム100Bは制御システム100Aの場合と比較して排気弁55のリフト量を大きく確保しつつ、吸排気弁54、55のオーバラップ量を拡大することで、暖機促進性を高めることができる。
【0044】
制御システム100Bは具体的にはリフト量減少時にバルブスタンプが発生しない範囲内で作用角を拡大するように作用角可変機構57を制御するとともに、排気弁55の位相を遅角させない場合にバルブスタンプを発生させることなく拡大可能な最大作用角よりも作用角が小さくなるように作用角可変機構57を制御し、またバルブスタンプが発生しない範囲内で排気弁55の位相を最大限遅角させるように位相可変機構58を制御することで、上述のように暖機促進性を高めることができる。
【0045】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0046】
ECU 1A、1B
背圧調節弁 40
エンジン 50A、50B
排気弁 55
作用角可変機構 57
位相可変機構 58
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンの制御システムに関し、特に排気弁の最大リフト量を一定にしつつ、作用角を変更可能な作用角可変機構を備えるエンジンの制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンが備える吸気弁や排気弁のバルブ特性を可変にする可変動弁機構が知られている。例えば特許文献1では、排気弁のリフト量を変更し得る第1の可変動弁機構と、排気弁の位相を変更し得る第2の可変動弁機構と、エンジンブレーキ要求時に第1および第2の可変動弁機構の作動を制御する制御手段とを有するエンジンの可変動弁装置が開示されている。特許文献1では、この可変動弁装置によってエンジンブレーキ力を変更できるようにすることが開示されている。
【0003】
特許文献2では、機関の回転に同期して回転する駆動軸に設けられ、半径方向に沿って係合溝が形成されたフランジ部と、カムシャフトに設けられ、半径方向方向に沿って係合溝が形成されたフランジ部と、これらフランジ部にピンを介して係合する環状ディスクとを備え、環状ディスクの中心を偏心させることで吸排気弁のバルブリフト特性を可変制御する内燃機関の可変動弁装置が開示されている。
【0004】
特許文献3では、アウタカム軸とインナカム軸からなるカム軸と、カム軸の両軸端部に設けられる第1位相制御機構と第2の位相制御機構とを備え、アウタカム軸およびインナカム軸間の相対的な位相を変更可能な動弁装置が開示されている。特許文献4では、吸気バルブの作用角を可変とするにあたり、作用角の拡大/縮小に併せてリフト量が拡大/縮小する作用角可変機構が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−157195号公報
【特許文献2】特開2006−336659号公報
【特許文献3】特開2009−144521号公報
【特許文献4】特開2005−299594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、エンジンの排気系には背圧を調節可能な背圧調節装置が設けられることがある。背圧調節装置は排気系で発生する背圧を高めることで、例えばエンジンブレーキ力を高めることに用いられる。一方、背圧調節装置は排気系で発生する背圧を高めることで、エンジン筒内および吸気通路への排気の吹き戻しを発生させることもできる。そして、これにより内部EGRガス量を増加させることで、筒内温度の低下を抑制することもできる。このため、背圧調節装置は例えばエンジンの暖機中に背圧を高めることで、暖機促進を図ることにも用いられる。
【0007】
ところが、背圧調節装置を暖機促進に利用する場合、排気弁のバルブ特性によっては、排気の吹き戻しに必要とされる排気ポートの開口面積を十分確保できない虞がある。具体的には例えば排気弁のバルブタイミングが固定である場合には、機関運転全体を考慮したバルブタイミングが求められる結果、排気ポートの開口面積を十分に確保できない虞がある。この点、排気の吹き戻しを十分に発生させるには、例えば吸排気弁のオーバラップ量を大きめに設定することも考えられる。ところが、この場合には例えば高負荷運転時のエンジン性能が悪化する虞がある。
【0008】
本発明は上記課題に鑑み、背圧調節装置を利用した暖機促進を好適に図ることが可能なエンジンの制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はエンジンが備える排気弁の最大リフト量を一定にしつつ、作用角を変更可能な作用角可変機構と、前記エンジンの排気系で発生する背圧を調節可能な背圧調節装置と、前記エンジンの暖機時に前記エンジンの排気系で発生する背圧を高めるように前記背圧調節装置を制御するとともに、前記排気弁の作用角を拡大するように前記作用角可変機構を制御する制御部とを備えるエンジンの制御システムである。
【0010】
本発明は前記排気弁の位相を変更可能な位相可変機構をさらに備え、前記制御部が前記エンジンの暖機時に前記排気弁の位相を遅角させるように前記位相可変機構を制御する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、背圧調節装置を利用した暖機促進を好適に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1の全体構成図である。
【図2】実施例1のエンジンの概略構成図である。
【図3】実施例1のバルブタイミングの説明図である。
【図4】第1の制御動作をフローチャートで示す図である。
【図5】排気の吹き戻しの説明図である。
【図6】作用角可変機構の作用角可変上限の説明図である。
【図7】作用角可変上限の第1の比較図である。
【図8】作用角可変上限の第2の比較図である。
【図9】実施例2の全体構成図である。
【図10】実施例2のバルブタイミングの説明図である。
【図11】第2の制御動作をフローチャートで示す図である。
【図12】排気弁の作用角と遅角量の可変上限を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を用いて、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は実施例1の全体構成図である。図2はエンジン50Aの概略構成図である。図1に示すように、吸気系10はエンジン50Aに吸気を供給する。排気系20はエンジン50Aから排出される排気を流通させる。排気系20には過給機30と背圧調節弁40とが設けられている。過給機30は排気駆動式の過給機であり、排気系20には具体的には過給機30のタービン部が設けられている。背圧調節弁40は開度を変更することで、排気通路の絞り度合いを変更する。背圧調節弁40は排気系20で発生する背圧を調節可能な背圧調節装置に相当する。
【0015】
エンジン50Aは圧縮着火式内燃機関(ディーゼルエンジン)であり、複数(ここでは4つ)の気筒51aを備えている。この点、吸気系10からは吸気が各気筒51aに分配供給され、排気系20には各気筒51aからの排気が排出される。エンジン50Aは燃料噴射弁56と作用角可変機構57とを備えている。燃料噴射弁56は気筒51a毎に設けられている。作用角可変機構57は複数の気筒51aに亘って設けられている。
【0016】
背圧調節装置は例えば排気を導入する流路の断面積を可変にする可変ノズルベーンを備えた可変容量型の過給機であってもよい。この点、背圧調節弁40を設ける代わりに過給機30をかかる過給機とすることで、過給機30を背圧調節装置とすることもできる。
【0017】
図2に示すように、エンジン50Aは燃料噴射弁56や作用角可変機構57のほか、シリンダブロック51とシリンダヘッド52とピストン53と吸気弁54と排気弁55を備えている。シリンダブロック51には気筒51aが形成されている。気筒51a内にはピストン53が収容されている。シリンダブロック51の上面にはシリンダヘッド52が固定されている。燃焼室Eはシリンダブロック51、シリンダヘッド52及びピストン53に囲まれた空間として形成されている。
【0018】
シリンダヘッド52には吸気ポート52aと排気ポート52bとが形成されている。また、吸気弁54と排気弁55とが設けられている。吸気ポート52aは燃焼室Eに吸気を導き、排気ポート52bは燃焼室Eからガスを排出する。吸気弁54は吸気ポート52aを開閉し、排気弁55は排気ポート52bを開閉する。吸気弁54と排気弁55とは一気筒あたりに2つずつ設けられている。燃料噴射弁56は具体的には燃焼室Eの中央上部に噴孔を突出させた状態で、シリンダヘッド52に設けられている。
【0019】
作用角可変機構57は具体的には排気弁55に対して設けられている。作用角可変機構57は排気弁55の最大リフト量を一定にしつつ、作用角を変更可能な作用角可変機構となっている。作用角可変機構57には例えば前述した特許文献2で開示されているように、中心を偏心させることで、カム速度を可変にする偏心部材(環状ディスク)を駆動軸、カムシャフト間に備える構造を適用できる。作用角可変機構57は気筒51a毎に設けられている複数(ここでは2つ)の排気弁55それぞれの作用角を同様に変更する。
【0020】
図3は実施例1のバルブタイミングの説明図である。図3に示すように、排気弁55の作用角(開弁期間)は作用角可変機構57によって開弁期間中央に対応するクランク角度を中心として、拡大、縮小される。そして、吸排気弁54、55のバルブタイミングは排気弁55の作用角が拡大することで、吸排気弁54、55のオーバラップ量が拡大するように設定されている。
【0021】
図1に戻り、ECU1Aは電子制御装置であり、ECU1Aには背圧調節弁40や燃料噴射弁56や作用角可変機構57が制御対象として電気的に接続されている。また、ECU1Aにはエンジン50Aの運転状態を検出するためのセンサ群70が電気的に接続されている。センサ群70は例えばエンジン50Aに対する加速要求をするためのアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検出可能なアクセル開度センサや、エンジン50Aの回転数NEを検出可能なクランク角センサや、エンジン50Aの冷却水温を検出可能な水温センサを含む。
【0022】
ROMはCPUが実行する種々の処理が記述されたプログラムやマップデータなどを格納するための構成である。CPUがROMに格納されたプログラムに基づき、必要に応じてRAMの一時記憶領域を利用しつつ処理を実行することで、ECU1Aでは各種の機能部が実現される。この点、ECU1Aでは例えば以下に示す制御部が機能的に実現される。
【0023】
制御部はエンジン50Aの暖機時に排気系20で発生する背圧を高めるように背圧調節弁40を制御するとともに、排気弁55の作用角を拡大するように作用角可変機構57を制御する。背圧を高めるように背圧制御弁40を制御するにあたり、制御部は具体的には全開状態よりも排気通路を絞るように背圧調節弁40を制御する。また、排気弁55の作用角を拡大するように作用角可変機構57を制御するにあたり、制御部は具体的には吸気弁54の作用角よりも排気弁55の作用角を拡大するように作用角可変機構57を制御する。
【0024】
背圧調節弁40と作用角可変機構57を制御するにあたり、制御部は具体的には機関運転状態(具体的にはここではアクセル開度、回転数NEおよび冷却水温)に基づき、背圧調節弁40の開度(排気通路の絞り度合い)と作用角可変機構57の作用角制御状態を算出し、背圧制御弁40の開度が算出した開度になるように背圧制御弁40を制御するとともに、作用角制御状態が算出した作用角制御状態になるように作用角可変機構57を制御する。機関運転状態には例えばアクセル開度の代わりに燃料噴射量が適用されてもよい。
【0025】
背圧調節弁40の開度と作用角可変機構57の作用角制御状態を算出するにあたり、制御部は具体的には機関運転状態を検出するとともに、背圧調節弁40の開度と作用角可変機構57の作用角制御状態を機関運転状態に応じて予め定めたマップデータそれぞれを参照し、検出した機関運転状態に対応する背圧調節弁40の開度と作用角可変機構57の作用角制御状態を読み込むことで、背圧調節弁40の開度と作用角可変機構57の作用角制御状態を算出する。これらマップデータには機関運転状態に応じて実現すべき背圧調節弁40の開度と作用角可変機構57の作用角制御状態とが予め設定されている。これらマップデータはできるだけ燃費を悪化させることなく暖機完了が最短となる時間を達成することを目標として作成されている。
【0026】
本実施例では背圧調節弁40と作用角可変機構57とECU1Aとを備えるエンジンの制御システム(以下、単に制御システムと称す)100Aが実現されている。
【0027】
次に第1の制御動作であるECU1Aの動作を図4に示すフローチャートを用いて説明する。ECU1Aは機関運転状態を検出する(ステップS1)。ステップS1では、具体的にはアクセル開度、回転数NEおよび冷却水温を検出する。続いてECU1Aは冷却水温が所定値αよりも低いか否かを判定する(ステップS2)。所定値αは例えば40℃であり、冷却水温が所定値αよりも低い場合にはエンジン50Aが暖機中であると判断される。ステップS2で否定判定であれば、本フローチャートを終了する。
【0028】
一方、ステップS2で肯定判定であれば、ECU1Aは検出した機関運転状態に基づき、実現すべき背圧調節弁40の開度および作用角可変機構57の作用角制御状態を算出する(ステップS3A)。そして、算出した開度および作用角制御状態になるように背圧制御弁40と作用角可変機構57を制御する(ステップS4A)。ステップS4Aの後にはステップS2に戻る。これにより、エンジン50Aの暖機時に冷却水温が所定値αになるまでの間、背圧を高めるように背圧調節弁40が制御されるとともに、排気弁55の作用角を拡大するように作用角可変機構57が制御される。
【0029】
次に制御システム100Aの作用効果について説明する。図5は排気の吹き戻しの説明図である。制御システム100Aはエンジン50Aの暖機時に背圧を高めるように背圧調節弁40を制御する。このため、制御システム100Aは排気系20からエンジン50Aの気筒51a内に排気の吹き戻しを発生させることができる。また、制御システム100Aはエンジン50Aの暖機時に排気弁55の作用角を拡大するように作用角可変機構57を制御することで、排気の吹き戻しに必要とされる排気ポート52bの開口面積も確保できる。結果、排気の吹き戻し量を増加させることで、内部EGRガス量を増加させることができる。このため、制御システム100Aは背圧調節弁40を利用した暖機促進を好適に図ることができる。
【0030】
制御システム100Aでは、排気弁55の作用角を拡大することで、吸排気弁54、55のオーバラップ量が拡大するように吸排気弁54、55のバルブタイミングが設定されている。このため、制御システム100Aは吸排気弁54、55のオーバラップ量の拡大によっても排気の吹き戻し量を増加させることができ、これによって内部EGRガス量を増加させることでも暖機促進を好適に図ることができる。
【0031】
オーバラップ量の拡大を図るにあたって、制御システム100Aは以下の点で好適である。図6は作用角可変機構57の作用角可変上限の説明図である。図6に示すように、バルブスタンプ(ピストン53と排気弁55との干渉)発生領域Rは位相が遅角側である場合ほど、小さなリフト量でバルブスタンプが発生するように形成されている。この点、作用角可変機構57の作用角可変上限は作用角可変機構57の構造そのものに起因する要因もさることながら、バルブスタンプを回避する観点から設定される。そして、排気弁55の最大リフト量を一定にしつつ、作用角を変更可能な作用角可変機構57では、作用角の拡大に伴いリフト量の立ち上がりおよび立ち下がりが緩やかになることから、閉弁時にバルブスタンプが発生しない範囲内で作用角を拡大することができる。
【0032】
図7は作用角可変上限の第1の比較図である。図8は作用角可変上限の第2の比較図である。図7では、作用角可変機構57の場合と、作用角の拡大/縮小に併せてリフト量が拡大/縮小する作用角可変機構の場合(ケース1の場合)とで作用角可変上限を比較している。図8では、作用角可変機構57の場合と、アウタカム軸とインナカム軸からなるカム軸を備え、アウタカム軸およびインナカム軸間の相対的な位相を変更可能な動弁装置の場合(ケース2の場合)とで作用角可変上限を比較している。ケース2の場合、合成作用角(2つの排気弁55のうち、一方の排気弁のみを遅角させた場合の全体としての開弁期間)の可変上限が作用角可変上限となっている。
【0033】
図7に示すように、ケース1の場合には、作用角の拡大に伴いリフト量が拡大する。このためこの場合には、作用角を拡大するとリフト量減少時にバルブスタンプが発生する。結果、作用角可変機構57の場合と比較して吸排気弁54、55のオーバラップ量を拡大することができなくなる分、内部EGRガス量を増加させることができず、これによって暖機促進の効果が減少することになる。
【0034】
図8に示すように、ケース2の場合には、作用角可変機構57の場合と比較してリフト量の立ち上がりおよび立ち下がりが急になっている。このためこの場合には、2つの排気弁55のうち、一方の排気弁を遅角することで合成作用角を拡大すると、リフト量減少時にバルブスタンプが発生する。結果、この場合にも作用角可変機構57の場合と比較して吸排気弁54、55のオーバラップ量を拡大することができなくなる分、暖機促進の効果が減少する。また、この場合には作用角可変機構57の場合と比較して体積効率が低下すると考えられる点でも、作用角可変機構57のほうが有利である。
【0035】
このように制御システム100Aは排気弁55の最大リフト量を一定にしつつ、作用角を変更可能な作用角可変機構57を備えることで、作用角の可変上限を大きく確保することができる。このため、制御システム100Aは吸排気弁54、55のオーバラップ量を好適に拡大することで、暖機促進性を高めることができる点で好適である。
【実施例2】
【0036】
図9は実施例2の全体構成図である。エンジン50Bは排気弁55の位相(開閉時期)を変更可能な位相可変機構58をさらに備えている点以外、エンジン50Aと実質的に同一である。位相可変機構58には、例えば作用角可変機構57が備える駆動軸の位相をエンジン50Bの回転に対して変更する構造を適用できる。ECU1Bは制御部がさらに後述するように実現される点以外、ECU1Aと実質的に同一である。
【0037】
図10は実施例2のバルブタイミングの説明図である。図10に示すように、実施例2では作用角可変機構57によって排気弁55の作用角を拡大、縮小することができるだけでなく、さらに位相可変機構58によって排気弁55の開閉時期を変更することができる。この点、位相可変機構58は気筒51a毎に設けられている複数(ここでは2つ)の排気弁55それぞれの位相を同様に変更する。
【0038】
ECU1Bでは制御部がさらにエンジン50Bの暖機時に排気弁55の位相を遅角させるように位相可変機構58を制御する。位相可変機構58を制御するにあたり、制御部は具体的には機関運転状態(具体的にはここではアクセル開度、回転数NEおよび冷却水温)に基づき、位相可変機構58の位相制御状態を算出し、位相制御状態が算出した位相制御状態になるように位相可変機構58を制御する。
【0039】
位相可変機構58の位相制御状態を算出するにあたり、制御部は具体的には機関運転状態を検出するとともに、位相可変機構58の位相制御状態を機関運転状態に応じて予め定めたマップデータを参照し、検出した機関運転状態に対応する位相可変機構58の位相制御状態を読み込むことで、位相可変機構58の位相制御状態を算出する。このマップデータには機関運転状態に応じて実現すべき位相可変機構58の位相制御状態が予め設定されている。
【0040】
作用角可変機構57と位相可変機構58を制御する制御部は、リフト量減少時にバルブスタンプが発生しない範囲内で作用角を拡大するように作用角可変機構57を制御するとともに、排気弁55の位相を遅角させない場合にバルブスタンプを発生させることなく拡大可能な最大作用角よりも作用角が小さくなるように作用角可変機構57を制御することができる。また、バルブスタンプが発生しない範囲内で排気弁55の位相を最大限遅角させるように位相可変機構58を制御することができる。
【0041】
本実施例では背圧調節弁40と作用角可変機構57と位相可変機構58とECU1Bとを備える制御システム100Bが実現されている。
【0042】
次に第2の制御動作であるECU1Bの動作を図11に示すフローチャートを用いて説明する。なお、本フローチャートはステップS3A、S4Aの代わりにステップS3B、S4Bが設けられている点以外、図4に示すフローチャートと同じになっている。このためここでは特にこれらについて説明する。ステップS3Bで、ECU1Bは検出した機関運転状態に基づき、実現すべき背圧調節弁40の開度、作用角可変機構57の作用角制御状態および位相可変機構58の位相制御状態を算出する(ステップS3B)。そして、算出した開度、作用角制御状態および位相制御状態になるように背圧制御弁40、作用角可変機構57および位相可変機構58を制御する(ステップS4B)。
【0043】
次に制御システム100Bの作用効果について説明する。図12は排気弁55の作用角と遅角量の可変上限を示す図である。図12に示すように、制御システム100Bではエンジン50Bの暖機時に排気弁55の位相を遅角させるように位相可変機構58を制御することで、作用角の拡大を抑制しつつ、閉弁時にバルブスタンプが発生しない範囲内で排気弁55の位相を遅角させることができる。このため、制御システム100Bは制御システム100Aの場合と比較して排気弁55のリフト量を大きく確保しつつ、吸排気弁54、55のオーバラップ量を拡大することで、暖機促進性を高めることができる。
【0044】
制御システム100Bは具体的にはリフト量減少時にバルブスタンプが発生しない範囲内で作用角を拡大するように作用角可変機構57を制御するとともに、排気弁55の位相を遅角させない場合にバルブスタンプを発生させることなく拡大可能な最大作用角よりも作用角が小さくなるように作用角可変機構57を制御し、またバルブスタンプが発生しない範囲内で排気弁55の位相を最大限遅角させるように位相可変機構58を制御することで、上述のように暖機促進性を高めることができる。
【0045】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0046】
ECU 1A、1B
背圧調節弁 40
エンジン 50A、50B
排気弁 55
作用角可変機構 57
位相可変機構 58
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンが備える排気弁の最大リフト量を一定にしつつ、作用角を変更可能な作用角可変機構と、
前記エンジンの排気系で発生する背圧を調節可能な背圧調節装置と、
前記エンジンの暖機時に前記エンジンの排気系で発生する背圧を高めるように前記背圧調節装置を制御するとともに、前記排気弁の作用角を拡大するように前記作用角可変機構を制御する制御部と、を備えるエンジンの制御システム。
【請求項2】
請求項1記載のエンジンの制御システムであって、
前記排気弁の位相を変更可能な位相可変機構をさらに備え、
前記制御部が前記エンジンの暖機時に前記排気弁の位相を遅角させるように前記位相可変機構を制御するエンジンの制御システム。
【請求項1】
エンジンが備える排気弁の最大リフト量を一定にしつつ、作用角を変更可能な作用角可変機構と、
前記エンジンの排気系で発生する背圧を調節可能な背圧調節装置と、
前記エンジンの暖機時に前記エンジンの排気系で発生する背圧を高めるように前記背圧調節装置を制御するとともに、前記排気弁の作用角を拡大するように前記作用角可変機構を制御する制御部と、を備えるエンジンの制御システム。
【請求項2】
請求項1記載のエンジンの制御システムであって、
前記排気弁の位相を変更可能な位相可変機構をさらに備え、
前記制御部が前記エンジンの暖機時に前記排気弁の位相を遅角させるように前記位相可変機構を制御するエンジンの制御システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−60837(P2013−60837A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198600(P2011−198600)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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