説明

ガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶及びその製造方法

【課題】高い破壊耐圧、高い電子移動度及び低いゲート漏れ電流を併せ持つ高性能の電界効果トランジスタを提供すること。
【解決手段】GaN系FET用エピタキシャル結晶基板において、下地基板101の上に設けられるエピタキシャル結晶が、ゲート層108の下地基板側界面に接するチャネル層を含む高純度な第1の緩衝層107と、第2の緩衝層106と、開口部104Aを有する絶縁層104と、p伝導型半導体結晶層103とを有している。第1の緩衝層107をp伝導型半導体結晶層103に電気的に接続するための接続層105が開口部104Aに配されており、第1の緩衝層107に滞留する正孔を接続層105を介してp伝導型半導体結晶層103に引き抜くことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界効果トランジスタ用のガリウムナイトライド系(以下、GaN系と称することがある)エピタキシャル結晶及びその製造方法、並びにそれを用いた電界効果トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
ガリウムナイトライド系電界効果トランジスタは材料のバンドギャップの大きさから高耐圧が期待されるデバイスである。しかし、現実には期待されるほどの高耐圧化は実現されていない。そのひとつの理由として、正孔の引き抜きの問題がある。トランジスタに高電界を印加して駆動すると、走行電子が結晶格子に衝突し、この衝突により電子と正孔が生成する所謂衝突イオン化の現象が生じる。これにより生成した電子は速やかにドレイン電極に吸引されるが、正孔は比較的ゆっくりと結晶層内をソース電極下部に向かって移動するだけであり、正孔が結晶中に滞留、蓄積する。この正孔の滞留、蓄積が生じると、素子活性層の電気化学ポテンシャルは引き下げられ、さらに多くの電子が素子活性層内を走行して、これが更なる衝突イオン化を引き起こす傾向を生じ、この結果電流増加の正帰還現象が起こると、やがてデバイスは破壊に至ることになる。このため、トランジスタに高電圧を印加する場合、電流増加の正帰還現象が生じない程度にする必要があり、バンドギャップが大きくても、これに見合った高耐圧化を実現するのは容易でない。
【0003】
この問題を解決するため、衝突イオン化によって発生した正孔を素子活性層の外に引き抜くようにした技術が、例えば特許文献1、2に開示されている。この従来技術は、GaN系電界効果トランジスタにおいて、素子活性層の下部全面に亘り、電気的に接地されたp伝導型のGaN系エピタキシャル結晶層を配したもので、この構成によれば、電気的に接地したp伝導型半導体結晶層を素子活性層下部に配することにより、衝突イオン化の現象等により発生した正孔を素子活性層から外に引き抜くことができるとされている。
【特許文献1】特開2001−168111号公報
【特許文献2】特開2004−342810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術によれば、一定の正孔引き抜き効果が期待できるが、次のような問題点を有している。一般にp伝導型のGaN系結晶層は、マグネシウムなどを高濃度にドーピングして形成するため結晶性が悪い。したがって、この結晶上にエピタキシャル成長された素子活性層は、p伝導型ガリウムナイトライド層の結晶性の悪さを引き継ぐため、走行する電子の移動度が低いという問題や、ゲート電極からの漏れ電流が大きい等の問題を有しており、実用に供されるレベルのトランジスタを作製することは困難である。
【0005】
また、一般にp伝導型ガリウムナイトライド層を形成する場合、活性化率の不安定さやp伝導型ドーピング剤の拡散などにより、キャリア濃度及びその結晶中での分布を正確に再現よくコントロールするのは困難である。そのため、ゲート下部にもp伝導型層が配置される構造のトランジスタにおいては、閾値電圧の変動やピンチオフの不良などが起こり易いという問題点も有している。
【0006】
本発明の目的は、従来技術に於ける上述の問題点を解決することができるガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶及びその製造方法を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、高耐圧化を図ることができる電界効果トランジスタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、正孔引き抜きのためのp伝導型結晶層が、正孔が蓄積、滞留するソース電極の下層に対抗配置されており、これによりトランジスタの高耐圧化を図ると共に、電子の走行特性に影響が大きいゲート電極からドレイン電極にいたる緩衝層の下部には絶縁層が配されており、これによりトランジスタの閾値変動やピンチオフ性の悪化が有効に防止することができるようになっている。さらに絶縁層の上層(基板と反対側)には横方向成長法により成長した転位欠陥が少ない結晶層が配され、この結晶品質に優れた結晶層により緩衝層が形成されている。これにより、電子の走行性能がさらに向上し、加えてゲート電流の漏れを小さくすることができる。
【0009】
請求項1の発明によれば、下地基板上にエピタキシャル成長により形成された電界効果トランジスタ用のガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶であって、ゲート層と、前記ゲート層の前記下地基板側界面に接するチャネル層を含む高純度な第1の緩衝層と、該第1の緩衝層の前記下地基板側に配されている第2の緩衝層と、該第2の緩衝層の前記下地基板側に配されており、その一部に開口部を有する非ガリウムナイトライド系の絶縁層と、該絶縁層の前記下地基板側に配されているp伝導型半導体結晶層とを有しており、前記第1の緩衝層を前記p伝導型半導体結晶層に電気的に接続するためのガリウムナイトライド系結晶から成る接続層が前記非ガリウムナイトライド系の絶縁層の前記開口部に配されていることを特徴とするガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶が提案される。
【0010】
請求項2の発明によれば、請求項1に記載の発明において、前記接続層がp伝導型結晶であるガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶が提案される。
【0011】
請求項3の発明によれば、請求項1又は2に記載の発明において、前記接続層が前記第1の緩衝層に向かって延びる端部を有しており、該端部は前記第1の緩衝層を超えて延びていないガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶が提案される。
【0012】
請求項4の発明によれば、請求項1、2又は3に記載の発明において、前記接続層が、前記非ガリウムナイトライド系の絶縁層の前記開口部に露出された前記p伝導型半導体結晶層上への選択成長により形成された結晶層であるガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶が提案される。
【0013】
請求項5の発明によれば、請求項1、2、3又は4に記載の発明において、前記第1の緩衝層の平均転位密度が、前記非ガリウムナイトライド系の絶縁層の前記開口部の上部を除いて、1×105 /cm以下であるガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶が提案される。
【0014】
請求項6によれば、請求項1、2、3、4又は5に記載の発明において、前記第2の緩衝層の少なくとも一部が、前記開口部に配されたガリウムナイトライド系結晶を基点として選択横方向成長法により形成された結晶層であるガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶が提案される。
【0015】
請求項7によれば、請求項1、2、3、4、5又は6に記載の発明において、前記絶縁層が酸化シリコン又は窒化シリコンであるガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶が提案される。
【0016】
請求項8によれば、請求項1、2、3、4、5、6又は7に記載のガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶を用いて形成された電界効果トランジスタであって、前記ゲート層の上部に形成されたゲート電極と、前記ゲート電極の両側に配置され、前記ゲート層とオーミック接続されたソース電極及びドレイン電極とを備えており、前記開口部或いは前記開口部に形成された接続層が、ソース電極下部、又は前記ゲート電極のソース側端と前記ソース電極の間の領域に配されており、前記p伝導型半導体結晶層が正孔引抜き用電極に接続されていることを特徴とする電界効果トランジスタが提案される。
【0017】
請求項9によれば、請求項8に記載の発明において、前記第2の緩衝層が、横方向成長法により成長された結晶層である電界効果トランジスタが提案される。
【0018】
請求項10によれば、請求項8に記載の発明において、前記第1の緩衝層と前記ゲート層との界面が半導体ヘテロ接合界面で構成されている電界効果トランジスタが提案される。
【0019】
請求項11によれば、請求項1に記載のガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶の製造方法において、前記下地基板の上に前記p伝導型半導体結晶層をエピタキシャル成長させるステップと、前記p伝導型半導体結晶層の上に前記絶縁層を形成するステップと、前記絶縁層に開口部を設けるステップと、前記絶縁層をマスクとして前記開口部にガリウムナイトライド系結晶を選択成長させて前記p伝導型半導体結晶層を前記第1の緩衝層に電気的に接続するための接続層を形成するステップとを有することを特徴とするガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶の製造方法が提案される。
【0020】
請求項12によれば、請求項11に記載の発明において、前記接続層を形成した後、前記絶縁層上に、前記開口部に形成されているガリウムナイトライド系結晶を基点として選択横方向成長法により結晶層を形成するステップをさらに有するガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶の製造方法が提案される。
【0021】
請求項13によれば、請求項1、2、3、4、5、6又は7に記載の発明において、p伝導型の層においてp伝導型を与えるドーパントがマグネシウムであるガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶が提案される。
【0022】
請求項14によれば、請求項8、9又は10に記載の発明において、p伝導型の層においてp伝導型を与えるドーパントがマグネシウムである電界効果トランジスタが提案される。
【0023】
請求項15によれば、請求項11又は12に記載の発明において、p伝導型の層においてp伝導型を与えるドーパントがマグネシウムであるガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶の製造方法が提案される。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、高い破壊耐圧、高い電子移動度及び低いゲート漏れ電流を併せ持つ高性能の電界効果トランジスタを提供することができる。また、閾値が正確にコントロールされたトランジスタを再現性よく生産できるので、工業的意義はきわめて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例につき詳細に説明する。
【0026】
図1に示されるのは、本発明を適用したガリウムナイトライド系電界効果トランジスタ(以下、GaN系FETと称することがある)の一実施形態を説明するための模式的断面図である。ガリウムナイトライド系の電界効果トランジスタ100は、下地基板101の上に緩衝層102が形成されて成る基板上に形成されている。
【0027】
下地基板101としては、シリコンカーバイド基板、サファイヤ基板、シリコン基板、ガリウムナイトライド基板、砒化ガリウム基板など、単結晶基板を用いることができる。下地基板101は、半絶縁性又は低抵抗p導電性のものが好ましいが、n導電性のものであっても使用できる。様々なサイズのものが市販されているが大きさに制限は無い。このように、下地基板101は市販されているものを適宜に使用することができる。
【0028】
下地基板101の上に設けられている緩衝層102は、下地基板101の上に設けられる各種の半導体結晶層と下地基板101との間の格子定数差に因り生じるひずみの緩和や、下地基板101に含まれている不純物の影響を防止するなどの目的で導入されている。緩衝層102の材料としては、アルミナイトライド、アルミガリウムナイトライド、ガリウムナイトライドなどが使用できる。緩衝層102は、下地基板101上にこれらの材料をMOVPE法、MBE法、HVPE法などにより積層して形成することができる。使用する原料は各成長方法に適した原料が市販されているのでこれを用いるのがよい。緩衝層102の厚みに特に制限は無いが通常300nmから3000nmの範囲である。
【0029】
緩衝層102の上には、エピタキシャル成長により形成された電界効果トランジスタ用のガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶が設けられている。このガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶は、図1に示されているように、下地基板101と緩衝層102とからなる基板上に、p伝導型半導体結晶層103、絶縁層104、第2の緩衝層106、第1の緩衝層107、及びゲート層108がこの順序で積層することによって形成されたものである。以下、このガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶の構成について詳しく説明する。緩衝層102の上にはp伝導型半導体結晶層103が形成されている。p伝導型半導体結晶層103の材料としては、アルミナイトライド、アルミガリウムナイトライド、ガリウムナイトライドなどが使用できる。形成法としてはMOVPE法、MBE法、HVPE法が使用できる。使用する原料は各成長方法に適した原料が市販されているのでこれを用いるのがよい。
【0030】
p伝導型の導電型を得るためには、半導体結晶中に不純物をドーピングする。p伝導型半導体結晶層103におけるp伝導型を与えるドーピング剤としては、マグネシウムを用いることができる。ドーピング濃度としては特に制限は無いが、一般に5×1016cm-2から1×1021cm-2の範囲であり、より好ましくは1×1017cm-2から1×1020cm-2の範囲であり、もっとも好ましくは5×1017cm-2から5×1019cm-2の範囲である。
【0031】
p伝導型半導体結晶層103の厚みに特に制限は無いが、通常10nmから2000nmの範囲であり、より好ましくは50nmから1500nmの範囲であり、もっとも好ましくは100nmから1000nmの範囲である。
【0032】
p伝導型半導体結晶層103の上には電気的絶縁材料から成る絶縁層104が形成されている。絶縁層104には窓、すなわち開口部104Aが設けられている。この開口部104Aを利用して、p伝導型半導体結晶層103と絶縁層103の上層部との間で電気的接続ができるようになっている。符号105で示される接続層がこの電気的接続のために開口部104Aに配されているが、これについては、後で詳しく説明する。開口部104Aの幅に特に制限は無いが、加工の容易さとトランジスタの寸法を考慮して、100nmから5000nmの範囲である。
【0033】
絶縁層104の材料としては、トランジスタに十分なピンチオフ性と安定した閾値特性を与えるために電気的に十分な絶縁性があることがまずもって必要である。また、絶縁層104形成後、接続層105の積層のために絶縁層104に設けられている開口部104Aへのエピタキシャル成長を行うので、その成長温度に耐えうる耐熱性を有している必要がある。さらに、p伝導型半導体結晶層103上に接続層105を選択成長できるようにするため、ガリウムナイトライド系結晶が表面に析出しない材料が使用できる。このような特性をそなえた、絶縁層104の材料として好ましい材料としては、シリコンナイトライド(窒化シリコン)、シリコンオキサイド(酸化シリコン)がある。これらの材料を絶縁層104として形成するための方法としては、蒸着法、スパッタ法、CVD法などが使用できる。使用する原料は各成長方法に適した原料が市販されているのでこれを用いるのがよい。絶縁層104の厚みに特に制限は無いが通常10nmから3000nmの範囲である。
【0034】
接続層105は開口部104Aに配されている。図1は、開口部104Aに配される接続層105の一形態を示しているだけであり、接続層105の配設形態がこの一形態に限定されるものでもないし、この一形態に基づいて限定されるものでもない。接続層105の下地基板101側の端部はp伝導型半導体結晶層103に電気的に接続されており、接続層105の反対側(上層側)の端部は、第1の緩衝層107に向かって延びているが、第1の緩衝層107を超えて延びていない。第1の緩衝層107で発生した正孔は、この開口部104Aに配された接続層105を通じてp伝導型半導体結晶層103に流れ込むことができ、最終的にはp伝導型半導体結晶層103に接続された正孔引き抜き電極112を介してこの正孔を引き抜くことができる構成となっている。
【0035】
接続層105の材料としては、アルミナイトライド、アルミガリウムナイトライド、ガリウムナイトライドなどが使用できるが、第1の緩衝層107で発生した正孔に対してポテンシャルの障壁が発生しないように、p伝導型半導体結晶層103と同じ結晶系の材料であり、かつ同じ組成を有することが望ましい。接続層105の導電型はi 型でもp型でもn型でも良いが、この場合にも第1の緩衝層107で発生した正孔に対しポテンシャルの障壁が発生しないように、その電子濃度を第1の緩衝層107のそれよりも低く設定することが必要である。p伝導型半導体結晶層103形成法としては、MOVPE法、MBE法、HVPE法が使用できる。使用する原料は各成長方法に適した原料が市販されているのでこれを用いるのがよい。
【0036】
接続層105の導電型をp型とする場合には、p伝導型の導電型を得るため、p伝導型半導体結晶層103を形成する場合と同様に、その半導体結晶中に不純物をドーピングする。接続層105においてp伝導型を与えるドーピング剤としては、マグネシウムを用いることができる。ドーピング濃度としては特に制限は無いが、一般に5×1016cm-2から1×1021cm-2の範囲であり、より好ましくは1×1017cm-2から1×1020cm-2の範囲であり、もっとも好ましくは5×1017cm-2から5×1019cm-2の範囲である。
【0037】
絶縁層104の上層側(素子活性層側)の正孔を、接続層105を介して効率よく絶縁層104の下層側(基板側)に引き抜くことができるようにするため、絶縁層104の上には、転位欠陥が少ない結晶層が配される。ここでは、絶縁層104の上に、横方向成長法によりエピタキシャル成長して形成された第2の緩衝層106が設けられている。
【0038】
本実施の形態では、接続層105が第2の緩衝層106の横方向成長のための基材(基点)として用いられている。このため、接続層105は、第2の緩衝層106の基材として好適なように、絶縁層104より上の部位の断面形状が図1に示したようにファセット面を形成することが重要である。これは基板温度、反応炉圧力を適宜選択することにより実現できる。このような条件としては、使用する反応炉形状に大きく依存するが、基板温度としては1050℃から1250℃の範囲であり、好ましくは1100℃から1225℃の範囲であり。さらに好ましくは1150℃から1200℃の範囲である。反応炉圧力としては0.5torr−200torrの範囲が好ましく、より好ましくは1torr−100torr、もっとも好ましくは5torr−50torrである。接続層105の厚みは、絶縁層104よりも厚い範囲で設定できるが、一般的に20nmから10000nmの範囲であり、好ましくは50nmから5000nmの範囲であり、もっとも好ましくは100nmから2000nmの範囲である。
【0039】
このように、第2の緩衝層106は、p伝導型選択成長層として形成されている接続層105を基材(基点)として選択横方向成長により形成されている。横方向成長とは、下地として形成されたファセット面上に基板と平行な方向に結晶をエピタキシャル成長させる公知の手法であり、例えば特開平10−312971号公報、又は特開平11−135770号公報に詳細が記述されており、これを参照に条件を設定すればよい。
横方向成長法を用いることにより開口部の結晶に存在する転位の伝播を大幅に減らすことができるため、第二の緩衝層以降の結晶の転位密度を低減することができる。特にトランジスタにおいて電子が走行する第一緩衝層の転位密度を1×105 cm-3以下程度にすることができるため高い移動度を有する動作層を形成することができる。したがって、例えば、第一の緩衝層の平均転位密度が、非ガリウムナイトライド系の絶縁層の開口部の上部を除いて、1×105 /cm以下であるとする構成により、高い移動度を有する動作層を形成することができる。
【0040】
第2の緩衝層106の材料は、i型もしくはp型のアルミガリウムナイトライド、もしくはガリウムナイトライド、インジウムアルミガリウムナイトライドである。その成長法としては、MOVPE法、MBE法、HVPE法が使用できるが、横方向成長の容易さの観点から言えば、MOVPE法が好ましい。i型の導電層を得るには高純度にするか又は炭素、鉄、マンガン、クロム等の補償元素を添加する。p型の導電型を得るには、不純物をドーピングする。ドーピング剤としてはマグネシウムが使用できる。第2の緩衝層106の膜厚としては500nmから5000nmが一般的であるが、700nmから4000nmが好ましく、900nmから3000nmがもっとも好ましい。p型、i型、いずれの場合でも第2の緩衝層106は空乏化していることが好ましい。
【0041】
第2の緩衝層106の上には、後述するチャネル層を含んでいる高純度な第1の緩衝層107が形成されている。第1の緩衝層107の材料はi型もしくはp型のアルミガリウムナイトライドもしくはガリウムナイトライド、インジウムアルミガリウムナイトライド等であるが、下地である第2の緩衝層106との間に大きな格子定数差が発生しない範囲で適宜の材料を選択できる。しかし、第2の緩衝層106と同一の結晶系であり同じ組成であることが好ましい。第1の緩衝層107の成長法としては、MOVPE法、MBE法、HVPE法が使用できる。第1の緩衝層107の膜厚としては、50nmから3000nmが一般的であるが、70nmから1000nmが好ましく、90nmから500nmがもっとも好ましい。
【0042】
第1の緩衝層107の上にはゲート層108が形成されている。ゲート層108の材料としてはi型もしくはn型のアルミガリウムナイトライド、アルミナイトライドもしくはインジウムアルミガリウムナイトライドを用いることができるが、第1の緩衝層107よりも電子親和力が小さくなるような組成にすることが重要である。こうすることにより、第1の緩衝層107とゲート層108との界面の第1の緩衝層107側にチャネル層が形成されている。すなわち、第1の緩衝層107は、ゲート層108の下地基板側界面に接するチャネル層を含んでいる高純度の層である。また、ゲート層108の組成を選択することにより、第1の緩衝層107との間で格子定数差を生じさせ、これによりピエゾ電界を発生させ、第1の緩衝層107側にフリーキャリアを誘起させることができる。ゲート層108の厚みは第1の緩衝層107との間の格子乗数差に起因する弾性歪限界内で設定できる。したがって、設定した組成を勘案して決定されるが、例えば5nmから50nmの範囲が一般的である。
【0043】
ゲート層108の上には、ソース電極109、ドレイン電極110、及びゲート電極111が形成されている。ソース電極109及びドレイン電極110の材料としては、例えばTi/Alが使用できる。ゲート電極111の材料としては、例えばNi/Auが使用できる。
【0044】
符号112で示されるのは、正孔引き抜き電極である。正孔引き抜き電極112は、p伝導型半導体結晶層103の露出部分に設けられている。正孔引き抜き電極112の材料としては、例えばNi/Auが使用できる。図1に示した本実施の形態ではソース電極109と正孔電極112とを接続し、ともに接地してあるが、正孔引き抜き電極112を独立に負にバイアスしてもよい。
【0045】
符号113で示されるのは、素子分離のための素子分離溝である。図1では、説明を簡単にするため、1つの電界効果トランジスタ100のみが示されている。しかし、実際には、電界効果トランジスタ製造用のエピタキシャル基板上には一度に多数の電界効果トランジスタ100が形成され、素子分離溝113を設けることによって、エピタキシャル基板上に、上記した層構造を有する多数の電界効果トランジスタ100が相互に電気的に干渉しないようにして形成されている。
【0046】
次に、接続層105と第2の緩衝層106と各電極との配置関係について説明する。接続層105は、トランジスタの活性領域のうちのゲート電極111のソース側端とソース電極109との間の領域に対向するように配置され、それ以外のトランジスタの活性領域は第2の緩衝層106に対向する配置構成とするのが望ましい。図1の構成では、正孔の引き抜きのためのp伝導型結晶である接続層105は、正孔が蓄積、滞留するソース電極109の下層にソース電極109に対向するようにして配置されており、これにより、極めて効果的に正孔を引き抜くことができる構成となっている。
【0047】
このような配置構成とすることにより、接続層105を介しての第1の緩衝層107からの正孔の引き抜きを効果的に達成しつつ、最もキャリアが高速で走行するゲート電極111の下からドレイン電極110までのチャネル部の結晶層が、横方向成長法により形成した第2の緩衝層106の配置により転位がない/少ない結晶層が配されることとなるため、より高い移動度を有する電子走行層が形成でき、キャリアとなる電子の移動度をさらに高めて、そのため高出力、高周波特性に優れるなどの特徴を有するトランジスタを形成することが可能となる他、横方結晶性の悪化に起因するゲート漏れ電流の増大を抑制することもできると言う効果も期待できる。また、電子の走行特性に影響が大きいゲート電極111からドレイン電極110にいたる第1の緩衝層107の下部には絶縁層104が配されており、これにより、基板方向への電流の漏れを効果的に抑え、トランジスタの閾値変動やピンチオフ性の悪化が有効に防止することができるようになっている。
【0048】
本実施の形態ではヘテロ接合電界効果トランジスタ(HFET)の形態について説明したが、半導体結晶層の構造を変えることにより、本発明により、その他のFET構造であるMODFET、MESFET用エピタキシャル結晶基板などが作製可能である。
【0049】
上記において、本発明を実施の形態の一例に基づいて説明したが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されない。本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及びその範囲内でのすべての変形を含むものである。
【実施例】
【0050】
以下に本発明の一実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、以下に説明する一実施例はあくまで例示であって、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0051】
図2は、本発明の方法により、図1に示した構成のガリウムナイトライド系電界効果トランジスタを製作するための工程を示すもので、以下、図2を参照しながら本発明の一実施例につき説明する。
【0052】
まず、成長面が(0001)面であり、オフ角が0.5°であるシリコンカーバイド下地基板201を成長炉にセットし、シリコンカーバイド下地基板201の表面にMOCVD法によりアルミナイトライド緩衝層202を2000nmの厚みに成長した(図2の(A))。
【0053】
ついで、原料ガスを切り替え、ドーピング剤としてマグネシウムを5×1018cm-2の濃度にドーピングしp伝導型ガリウムナイトライド結晶層203を500nmの厚さに成長した(図2の(B))。
【0054】
基板を冷却後、反応炉から取り出し、CVD装置にセットし、p伝導型ガリウムナイトライド結晶層203の上にシリコンナイトライド絶縁層204を500nm積層した。ついで基板をCVD装置から取り出し、基板にレジストをスピン塗布した後、ホトリソグラフィー法により、レジストに窓を形成した。この窓は、シリコンナイトライド絶縁層204に開口部204Aを形成するためのものである。この際、この窓はp伝導型ガリウムナイトライド結晶層203の結晶面(11−20)に平行な線状に1000nm幅で形成した。また、窓以外の部分は20000nm幅で形成した。その後、窓の形成によって露出したシリコンナイトライドをCHF3 ガスを用いたドライエッチングにより除去し、開口部204Aを形成した(図2の(C))。
【0055】
次いで得られた基板を再び成長炉に移し、MOCVD法により、p伝導型ガリウムナイトライド接続層205をシリコンナイトライド絶縁層204より上層に(11−22)面からなるファセットが形成されるように成長した。
【0056】
続いて、連続してドーピング剤であるマグネシウム原料の供給を停止し、結晶が横方成長するように基板温度/ 反応炉圧力を1150℃/ 100torrに設定し、前記(11−22)面上にi伝導型ガリウムナイト横方向成長層206を1000nm成長した(図2の(E))。
【0057】
その後、再び反応炉の圧力及び成長温度を変更し、i伝導型ガリウムナイトライドチャネル層207を500nm成長した。ついで原料ガスを変更し、アルミ組成20%のi型アルミガリウムナイトライド電子供給層208を30nm成長した(図2の(G))。以上のようにして、図2の(F)に示す層構造を有するガリウムナイトライド系電界効果トランジスタ用エピタキシャル結晶を作製した。
【0058】
さらに、以上のようにして得られたガリウムナイトライド系電界効果トランジスタ用エピタキシャル結晶を用いて図3に示すGaN系FET200を次のようにして作製した。先ず、リソグラフィー法により所定のレジスト開口を形成した後、塩素ガスを用いたICPエッチング法により、素子分離溝213を基板に達する深さまで形成した。
【0059】
ついで同様の手法で、正孔引き抜き電極212を形成するため、結晶層の一部をp伝導型ガリウムナイトライド結晶層203に達するまでエッチングした。同様の手法でリソグラフィー法により所定の形状のレジスト開口を形成した。この際、次工程でソース電極209が形成される開口部の下部にp伝導型ガリウムナイトライド接続層205が配置されるように位置合わせを行った。
【0060】
その後、Ti/Al/Ni/Au金属膜を20nm/ 150nm/ 25nm/ 50nmの厚みに蒸着法で形成した後、リフトオフ法により所定の形状に加工した。その後、800℃で30秒間、窒素雰囲気中で加熱し、ソース電極209とドレイン電極210とを形成した。ついで同じくリソグラフィー法にて所定のレジスト開口を形成し、Ni/Au金属膜を25nm/150nmの厚みに蒸着法で形成した後、リフトオフ法により所定の形状に加工した。
【0061】
ついで、700℃で30秒間、窒素雰囲気中で加熱し、正孔引き抜き電極212を形成した。次いで同じくリソグラフィー法にて所定のレジスト開口を形成し、Ni/Au金属膜を25nm/ 150nmの厚みに蒸着法で形成した後、リフトオフ法により所定の形状に加工しゲート電極211を形成した。このようにして図3の構造のGaN系FET200が得られた。
【0062】
作製したトランジスタのソース電極209―ゲート電極間隔211は2μmである。ゲート電極211―ドレイン電極210間隔は4μmである。ゲート長は1.5μmである。ゲート幅は30μmである。
【0063】
このようにして作製したトランジスタのオフ耐圧を評価した。ソース電極を接地し、ゲート電極に閾値電圧(作製したデバイスでは−5.5Vであった)以下の電圧である−10Vを印加し、ドレイン電圧を正方向に印加し、電流値が1mA/mmとなる電圧を素子の電圧と定義したところ、耐圧は440Vと極めて高い値を示した。
【0064】
一方ゲート電圧として0Vを印加し、ドレイン電極として30Vを印加したときの電流密度は921mA/mmと極めて高い値を示した。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施の形態の一例を説明するためのGaN系FETの模式的断面図。
【図2】本発明の一実施例を説明するための、GaN系FETの製作工程の一部を示す工程図。
【図3】本発明によるGaN系FETのの一実施例の模式的断面図。
【符号の説明】
【0066】
101 下地基板
102 緩衝層
103 p伝導型半導体結晶層
104 絶縁層
104A 開口部
105 接続層
106 第2の緩衝層
107 第1の緩衝層
108 ゲート層
109、209 ソース電極
110、210 ドレイン電極
111、211 ゲート電極
112、212 正孔引き抜き電極
113、213 素子分離溝
201 シリコンカーバイド下地基板
202 アルミナイトライド緩衝層
203 p伝導型ガリウムナイトライド結晶層
204 シリコンナイトライド絶縁層
204A 開口部
205 p伝導型ガリウムナイトライド接続層
206 i伝導型ガリウムナイト横方向成長層
207 i伝導型ガリウムナイトライドチャネル層
208 i伝導型アルミガリウムナイトライド電子供給層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地基板上にエピタキシャル成長により形成された電界効果トランジスタ用のガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶であって、
ゲート層と、
前記ゲート層の前記下地基板側界面に接するチャネル層を含む高純度な第1の緩衝層と、
該第1の緩衝層の前記下地基板側に配されている第2の緩衝層と、
該第2の緩衝層の前記下地基板側に配されており、その一部に開口部を有する非ガリウムナイトライド系の絶縁層と、
該絶縁層の前記下地基板側に配されているp伝導型半導体結晶層と
を有しており、
前記第1の緩衝層を前記p伝導型半導体結晶層に電気的に接続するためのガリウムナイトライド系結晶から成る接続層が前記非ガリウムナイトライド系の絶縁層の前記開口部に配されていることを特徴とするガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶。
【請求項2】
前記接続層がp伝導型結晶である請求項1に記載のガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶。
【請求項3】
前記接続層が前記第1の緩衝層に向かって延びる端部を有しており、該端部は前記第1の緩衝層を超えて延びていない請求項1又は2に記載のガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶。
【請求項4】
前記接続層が、前記非ガリウムナイトライド系の絶縁層の前記開口部に露出された前記p伝導型半導体結晶層上への選択成長により形成された結晶層である請求項1、2又は3に記載のガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶。
【請求項5】
前記第1の緩衝層の平均転位密度が、前記非ガリウムナイトライド系の絶縁層の前記開口部の上部を除いて、1×105 /cm以下である請求項1、2、3、又は4に記載のガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶。
【請求項6】
前記第2の緩衝層の少なくとも一部が、前記開口部に配されたガリウムナイトライド系結晶を基点として選択横方向成長法により形成された結晶層である請求項1、2、3、4又は5に記載のガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶。
【請求項7】
前記絶縁層が酸化シリコン又は窒化シリコンである請求項1、2、3、4、5又は6に記載のガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5、6又は7に記載のガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶を用いて形成された電界効果トランジスタであって、
前記ゲート層の上部に形成されたゲート電極と、
前記ゲート電極の両側に配置され、前記ゲート層とオーミック接続されたソース電極及びドレイン電極とを備えており、
前記開口部或いは前記開口部に形成された接続層が、ソース電極下部、又は前記ゲート電極のソース側端と前記ソース電極の間の領域に配されており、
前記p伝導型半導体結晶層が正孔引抜き用電極に接続されていることを特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項9】
前記第2の緩衝層が、横方向成長法により成長された結晶層である請求項8に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項10】
前記第1の緩衝層と前記ゲート層との界面が半導体ヘテロ接合界面で構成されている請求項8に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項11】
請求項1に記載のガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶の製造方法において、
前記下地基板の上に前記p伝導型半導体結晶層をエピタキシャル成長させるステップと、
前記p伝導型半導体結晶層の上に前記絶縁層を形成するステップと、
前記絶縁層に開口部を設けるステップと、
前記絶縁層をマスクとして前記開口部にガリウムナイトライド系結晶を選択成長させて前記p伝導型半導体結晶層を前記第1の緩衝層に電気的に接続するための接続層を形成するステップと
を有することを特徴とするガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶の製造方法。
【請求項12】
前記接続層を形成した後、前記絶縁層上に、前記開口部に形成されているガリウムナイトライド系結晶を基点として選択横方向成長法により結晶層を形成するステップをさらに有する請求項11に記載のガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶の製造方法。
【請求項13】
p伝導型の層においてp伝導型を与えるドーパントがマグネシウムである請求項1、2、3、4、5、6又は7に記載のガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶。
【請求項14】
p伝導型の層においてp伝導型を与えるドーパントがマグネシウムである請求項8、9又は10に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項15】
p伝導型の層においてp伝導型を与えるドーパントがマグネシウムである請求項11又は12に記載のガリウムナイトライド系エピタキシャル結晶の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−227478(P2008−227478A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33098(P2008−33098)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】