説明

サスペンション装置、自動車、及びサスペンション特性調整方法

【課題】ロール剛性を含むサスペンション特性の調整を可能にしつつ、車両前方の視認性の低下を抑制する。
【解決手段】バネ下の車軸に連結されたストラット外筒11と、バネ上の車体12に連結され且つストラット外筒11に進退可能に挿入されたピストンロッド14と、ストラット外筒11とピストンロッド14とが圧縮方向にストロークするときにストラット外筒11と当接して圧縮方向のストロークを係止するバンプストッパ16と、で構成されたショックアブソーバ3を備え、ストラット外筒11とバンプストッパ16との間に当接方向に進退可能な当接板17を介装し、この当接板17を進退させる進退機構18をストラット外筒11の外周に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンション装置、これを備えた自動車、及びサスペンション特性調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ショックアブソーバの上端部に、バンプストッパの上下位置を調整するためのアクチュエータを設け、このアクチュエータによってバッファクリアランスを調整することにより、ロール剛性を変更し、所望の旋回性能を得ようとするものがあった(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−59156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に記載された従来例にあっては、アクチュエータをショックアブソーバの上端部に設けているので、その分、サスペンション・アッセンブリの高さが増加してしまい、フロントボディではフード(ボンネット)の高さを全面にわたって上げなければならない。これは、サスペンション・アッセンブリの分だけフードを局部的に凸形状とするのは現実的ではないからである。したがって、前方の視界が狭くなることでコーナが見えにくくなり、視認性が低下してしまう。
本発明の課題は、ロール剛性を含むサスペンション特性の調整を可能にしつつ、車両前方の視認性の低下を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題を解決するために、本発明に係るサスペンション装置は、バネ上の車体及びバネ下の車軸の何れか一方に連結されたシリンダと、車体及び車軸の他方に連結され且つシリンダにストローク可能に挿入されたピストンロッドと、シリンダとピストンロッドとが圧縮方向にストロークするときにシリンダと当接して圧縮方向のストロークを係止するバンプストッパと、シリンダとバンプストッパとの間に介装され当接方向に進退可能な当接部材と、シリンダの外周に設けられ当接部材を進退させる進退機構と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明に係るサスペンション装置によれば、シリンダとバンプストッパとの間に当接方向に進退可能な当接部材を介装し、この当接部材の上下位置を進退機構で変更することでバッファクリアランスを調整できるので、ロール剛性を含めたサスペンション特性を調整し、車両の旋回性能を所望の特性に一致させることができる。また、当接部材を進退させる進退機構をシリンダの外周に設けたことで、サスペンション・アッセンブリの高さ方向への増大を抑制することができる。これにより、フロントボディにおけるフードの高さを抑制し、車両前方の視界が狭くなることを抑制できるので、視認性の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
《一実施形態》
《構成》
図1は、本発明の概略構成図である。自動車1の各車輪2FL〜2RRには、ストラット式のショックアブソーバ3FL〜3RRを有するサスペンションが採用されており、夫々、サスペンションストロークのバウンド方向への余裕距離、つまりバッファクリアランスを調整できるように構成されている。
【0007】
ショックアブソーバ3は、図2に示すように、バネ下の車軸に連結されたストラット外筒11と、バネ上の車体12にストラットマウント13を介して連結され、ストラット外筒11に進退可能に挿入されたピストンロッド14と、を備えている。ストラット外筒11にはダンパーオイルが充填され、ピストンロッド14のピストンにはダンパーオイルが通過可能なオリフィスが形成されている(図示省略)。したがって、ストラット外筒11とピストンロッド14とが相対的にストロークするときの、ダンパーオイルの流動抵抗によってサスペンションストロークが減衰される。
【0008】
また、ピストンロッド14の基端側には、ストラット外筒11のグランドパッキン15に対向する筒状のバンプストッパ16が周設されている。また、グランドパッキン15とバンプストッパ16との間には、ピストンロッド14に挿通された状態で軸方向に進退可能な当接板17が介装され、この当接板17を進退させる進退機構18が、ストラット外筒11の外周面におけるストラット外筒11を挟んで対向する2箇所に固定されている。したがって、進退機構18によって支持された当接板17がバンプストッパ16に当接するときに、ストラット外筒11とピストンロッド14との圧縮方向(バウンド方向)のストロークが係止されるので、このバンプストッパ16と当接板17との離隔距離が、バッファクリアランスとなる。
【0009】
ここで、図3に示すように、ストラット外筒11とピストンロッド14との圧縮方向のストロークによって当接板17とバンプストッパ16とが当接する際に、車体横方向の内側よりも外側の方が早く当接するように、当接板17の当接方向の厚み(高さ)を、車体横方向に変化させ、内側よりも外側の方を厚く(高く)している。
また、図2に示すように、進退機構18は、ストラット外筒11の外周面に軸方向に沿って固定された油圧シリンダ19と、この油圧シリンダ19に供給される油圧に応じて上下に進退する進退ロッド20と、で構成されており、この進退ロッド20の先端に当接板17が固定されている。
【0010】
油圧シリンダ19は、進退ロッド20の上下動の双方を油圧によって作動させる復動型のシリンダで構成されている。そして、後述する油圧制御回路30から供給される油圧によって、当接板17をグランドパッキン15に接触するまで下降させてバッファクリアランスを最大にした下限位置と、この下限位置から所定量だけ当接板17を上昇させてバッファクリアランスを最小にした上限位置と、の間で進退ロッド20を上下に進退させ、且つ任意の位置を維持することができる。
【0011】
また、グランドパッキン15における当接板17との接触面には、シート状の弾性体21が貼設されている。また、グランドパッキン15と非接触状態にある当接板17がバンプストッパ16に当接すると、車重が油圧シリンダ19にかかるので、その下端をブラケット22によって補強しているが、勿論、油圧シリンダ19をストラット外筒11に溶接する等して十分な強度が得られれば、ブラケット22を省略してもよい。
【0012】
また、ショックアブソーバ3は、車体12を懸架するコイルスプリング23の内側に配置されており、油圧シリンダ19とその油圧配管とが、コイルスプリング23の下端を担持しているロアシート24を貫通するように設けられている。なお、油圧シリンダ19の全長やロアシート24の上下位置を調整し、油圧シリンダ19の全体をロアシート24の上方に収めることにより、その油圧配管だけをロアシート24に貫通させるようにしてもよい。
【0013】
また、図4に示すように、一つのショックアブソーバ3に対して配設される一対の油圧シリンダ19は、ストラット外筒11を車体前後方向に挟んで対向する2箇所に配置されている。また、当接板17のストローク量(上下位置)を検出するストロークセンサ25が、ストラット外筒11における車両内側に取付けられている。
そして、図2に示すように、油圧制御回路30は、油圧シリンダ19の下室19aに連通したポートA、油圧シリンダ19の上室19bに連通したポートB、オイルタンク31に連通したポートT、及びポンプ32に連通したポートPを備えた方向制御弁33を備えている。この方向制御弁33は、『オールクローズ』位置と、『A⇔P,B⇔T』位置と、『A⇔T,B⇔P』位置と、に切換え可能な4ポート3ポジション切換え/クローズドセンタ/両ソレノイド・スプリングセンタ式の電磁操作弁で構成されている。
【0014】
したがって、方向制御弁33が非励磁の『オールクローズ』位置にあると、油圧シリンダ19の下室19a及び上室19bが閉鎖されるので、進退ロッド20が不動状態となり当接板17の上下位置が維持される。また、方向制御弁33が励磁されて『A⇔P,B⇔T』位置にあるときにポンプ32を駆動すると、その吐出圧が方向制御弁33を介して油圧シリンダ19の下室19aに供給されるので、進退ロッド20が上方に前進し当接板17が上昇する。また、方向制御弁33が励磁されて『A⇔T,B⇔P』位置にあるときにポンプ32を駆動すると、その吐出圧が方向制御弁33を介して油圧シリンダ19の上室19bに供給されるので、進退ロッド20が下方に後退し当接板17が下降する。
【0015】
また、方向制御弁33のポートPとポンプ32とを連通した流路には、油圧回路内のハンマリングや脈動を吸収するアキュムレータ34が接続されている。また、方向制御弁33のポートAと油圧シリンダ19の下室19aとを連通した流路には、油圧が所定値を超えたときにオイルタンク31への還流によって油圧を所定値以下に制限するリリーフ弁35が接続されている。
【0016】
この油圧制御回路30を駆動制御するのは、図1に示すように、例えばマイクロコンピュータで構成されたコントローラ4であり、コントローラ4は、当接板17のストローク量、車速、操舵角、ヨーレイト、横加速度、ブレーキ操作量、路面摩擦係数などの各種データに基づいて、図5の駆動制御処理を実行する。
なお、路面摩擦係数は、車輪の復元モーメントとコーナリングフォースとに基づいて推定したり、或いは特開平8−324414号公報に記載されているように、ホイールとタイヤ表面との共振の揺らぎ現象に基づいて推定したりする。更には、スリップ率とブレーキ操作量とに基づいて推定したり、路面の画像データと気温とに基づいて推定したり、路面判別センサ(GVS:Grand View Censor)の検出結果に基づいて推定したり、更にはインフラストラクチャから取得したりしてもよい。
その他のデータについては、各種センサによって検出する。
【0017】
次に、コントローラ4で実行される駆動制御処理を、図5のフローチャートに従って説明する。なお、本実施形態では、目標旋回特性をニュートラルステアに設定した場合について説明する。
先ずステップS1では、イグニッションがONにされたときの初期設定として、各車輪2FL〜2RRにおける夫々の当接板17が初期位置に到達するように、油圧制御回路30を駆動制御する。この初期位置は、運転者が選択した走行モードに応じて可変とするが、予め設定された所定位置でもよい。
【0018】
続くステップS2では、車速Vが所定値Vs以上で且つ操舵角θが所定値θs以上であるかるか否かを判定する。
各所定値Vs及びθsは、路面摩擦係数μに応じて設定する。具体的には、図6に示すように、路面摩擦係数μが所定値μs以上であるときには、車速Vsを所定値V1(例えば40km/h)、操舵角θsを所定値θ1(例えば90deg)に設定し、路面摩擦係数μが所定値μs未満であるときには、車速Vsを所定値V2(例えば20km/h)、操舵角θsを所定値θ2(例えば45deg)に設定する。
【0019】
ここで、判定結果が『V<Vs又はθ<θs』である間は、旋回外輪でサスペンションがストロークエンドに達するほどの、つまり当接板17にバンプストッパ16が当接するほどの旋回走行ではないと判断してステップS2の処理を継続して行う。一方、判定結果が『V≧Vs且つθ≧θs』であるときには、旋回外輪でサスペンションがストロークエンドに達するほどの旋回走行であると判断してステップS3に移行する。
【0020】
ステップS3では、操舵角やヨーレイトに基づいて、車両の旋回状態がアンダーステア傾向にあるか否かを判定する。ここで、アンダーステア傾向ではないと判定されたら、後述するステップS5に移行する。一方、アンダーステア傾向であると判定されたら、ステップS4に移行する。
ステップS4では、アンダーステア傾向を抑制することを目的として、旋回外側後輪の当接板17が上昇するように、油圧制御回路30を駆動制御してから前記ステップS2に戻る。
【0021】
アンダーステア傾向を抑制するためには、後輪コーナリングフォースを減少させればよい。ここで、輪荷重とコーナリングフォースの関係を、図7に示すように、輪荷重が増加してゆくと、これに伴って最初はコーナリングフォースも増加するが、次第にその増加率は減少してゆき、ある時点からコーナリングフォースは減少し始める。すなわち、コーナリングフォースが上限値(限界値)近傍にあるときに、輪荷重を更に増加させれば、コーナリングフォースを減少させることができる。旋回外輪で当接板17にバンプストッパ16が当接するようなときには、既に旋回外輪のコーナリングフォースが上限値近傍にあると考えられるので、その後輪の当接板17を押上げて輪荷重を増加させれば、旋回外側後輪のコーナリングフォースが減少するので、左右輪を合せた後輪コーナリングフォースが減少し、結果としてアンダーステア傾向が抑制される。
【0022】
したがって、アンダーステア傾向が強いほど、旋回外側後輪の当接板17を押上げる圧力が大きくなるように、油圧制御回路30を駆動制御する。
一方、ステップS5では、操舵角やヨーレイトに基づいて、車両の旋回状態がオーバーステア傾向にあるか否かを判定する。ここで、オーバーステア傾向ではないと判定されたら、略ニュートラルステア状態にあると判断して、そのまま前記ステップS2に戻る。一方、オーバーステア傾向であると判定されたら、ステップS6に移行する。
【0023】
ステップS6では、オーバーステア傾向を抑制することを目的として、旋回外側前輪の当接板17が上昇するように、油圧制御回路30を駆動制御してから前記ステップS2に戻る。
オーバーステア傾向を抑制するためには、今度は逆に前輪コーナリングフォースを減少させればよい。旋回外輪で当接板17にバンプストッパ16が当接するようなときには、既に旋回外輪のコーナリングフォースが上限値近傍にあると考えられるので、その前輪の当接板17を押上げて輪荷重を増加させれば、旋回外側前輪のコーナリングフォースが減少するので、左右輪を合せた前輪コーナリングフォースが減少し、結果としてオーバーステア傾向が抑制される。
【0024】
したがって、オーバーステア傾向が強いほど、旋回外側前輪の当接板17を押上げる圧力が大きくなるように、油圧制御回路30を駆動制御する。
以上より、ストラット外筒11が「シリンダ」に対応し、当接板17が「当接部材」に対応し、油圧シリンダ19が「流体圧シリンダ」に対応し、リリーフ弁35が「リリーフ回路」に対応し、油圧制御回路30とコントローラ4とが「制御手段」に対応する。
【0025】
《動作》
次に、一実施形態の動作について説明する。
図2に示すように、サスペンションがストロークしてない状態で、当接板17がグランドパッキン15に接触する下限位置にあるときには、当接板17とバンプストッパ16との離隔距離、つまりバッファクリアランスが最大となる。この状態で、サスペンションがバウンド方向にストロークすると、グランドパッキン15とバンプストッパ16とが当接する従来品と略同等のサスペンションストロークが許容されるので、図8に示すように、バンプストッパ16に作用する荷重の立ち上がりが、通常のノーマルモードとなる。
【0026】
また、サスペンションがストロークしていない状態で、方向制御弁33を『A⇔P,B⇔T』位置に切換え、且つポンプ32を駆動して、油圧シリンダ19の下室19aの油圧を増加させると、進退ロッド20が上昇するので、当接板17がバンプストッパ16に接近し、バッファクリアランスが減少する。そして、当接板17が所望の位置に到達した時点で、再び方向制御弁33を『オールクローズ』位置に切換え、且つポンプ32の駆動を停止することにより、進退ロッド20が不動状態となり、当接板17の上下位置が維持される。この状態で、サスペンションがバウンド方向にストロークすると、より早くバンプストッパ16が係止されるので、図8に示すように、バンプストッパ16に作用する荷重の立ち上がりが、ノーマルモードよりも早いスポーツモードとなる。
【0027】
また、当接板17にバンプストッパ16が当接している状態で、油圧シリンダ19の下室19aの油圧を増加させると、図9に示すように、当接板17でバンプストッパ16を押上げることになるので、その分、車重を受けて輪荷重が増加する。
また、当接板17を上昇させている状態で、方向制御弁33を『A⇔T,B⇔P』位置に切換え、且つポンプ32を駆動して、油圧シリンダ19の上室19bの油圧を増加させると、進退ロッド20が下降するので、当接板17がバンプストッパ16から遠ざかり、バッファクリアランスが増加する。そして、当接板17が所望の位置に到達した時点で、再び方向制御弁33を『オールクローズ』位置に切換え、且つポンプ32の駆動を停止することにより、進退ロッド20が不動状態となり、当接板17の上下位置が維持される。
【0028】
《作用》
次に、一実施形態の作用について説明する。
今、運転者が自動車1のイグニッションをONにすると、各車輪2FL〜2RRのバッファクリアランスが初期設定される(ステップS1)。すなわち、ストラット外筒11とピストンロッド14とが圧縮方向にストロークするときの、そのストロークの係止位置が調整されることによってサスペンション特性が調整される。
【0029】
例えば、運転者が通常のノーマルモードを選択していれば、当接板17をグランドパッキン15に接触するまで下降させてバッファクリアランスを最大にすることで、図8に示すように、バンプストッパ16に作用する荷重の立ち上がりが、通常のノーマルモードにされる。一方、運転者がスポーツモードを選択していれば、当接板17を上昇させてバッファクリアランスを減少させることで、バンプストッパ16に作用する荷重の立ち上がりが、ノーマルモードよりも早いスポーツモードにされる。
【0030】
ところで、悪路を走行しているときや大きな突起を乗り上げたときのサスペンションストロークによって、グランドパッキン15と非接触状態にある当接板17にバンプストッパ16が当接すると、油圧シリンダ19に過大な荷重がかかる可能性がある。しかしながら、油圧シリンダ19の下室19aの油圧が所定値を超えると、オイルタンク31への還流を行うリリーフ弁35が備えられているので、油圧シリンダ19の油圧は常に所定値以下に制限される。
【0031】
また、図10に示すように、ショックアブソーバ3の軸と車輪2の接地点がLだけずれているので、サスペンションがバウンド方向にストロークして車輪2からWの反力を受けると、ショックアブソーバ3には曲げモーメントM(=L×W)が作用する。一方、当接板17の厚みを、内側よりも外側の方を厚くしているので、当接板17にバンプストッパ16が当接する際、車体横方向の内側よりも外側の方が早く当接する。このとき、ショックアブソーバ3の軸と当接板17の当接位置がL1だけずれているので、バンプストッパ16からW1の荷重を受けると、ショックアブソーバ3には曲げモーメントMと反対方向のモーメントM1が作用する。したがって、サスペンションストローク時にショックアブソーバ2に作用する曲げモーメントMは、当接板17とバンプストッパ16との接触時に発生するモーメントM1によって打ち消され、低減される。
【0032】
そして、サスペンションがストロークエンドに達するほどの旋回走行を行うときには(ステップS2の判定が“Yes”)、ニュートラルステアを維持するために、必要に応じて各車輪2FL〜2RRにおける当接板17の上下位置を調整する。
例えば、左旋回をしているときに、アンダーステア傾向になったとする(ステップS3の判定が“Yes”)。この場合、図7に示すように、コーナリングフォースが上限値近傍にある右後輪2RRの輪荷重が増加するように、当接板17を押上げる方向に油圧シリンダ19を作動させる(ステップS4)。これにより、右後輪2RRのコーナリングフォースが減少し、左右輪を合わせた後輪コーナリングフォースが減少するので、アンダーステア傾向が抑制される。
【0033】
一方、左旋回をしているときに、オーバーステア傾向になったとする(ステップS5の判定が“Yes”)。この場合、コーナリングフォースが上限値近傍にある右前輪2FRの輪荷重が増加するように、当接板17を押上げる方向に油圧シリンダ19を作動させる(ステップS6)。これにより、右前輪2FRのコーナリングフォースが減少し、左右輪を合わせた前輪コーナリングフォースが減少するので、オーバーステア傾向が抑制される。
【0034】
また、当接板17を上昇させている状態から、グランドパッキン15と接触する下限位置まで下降させると、当接板17は弾性体21を介してグランドパッキン15に接触するので、このときのショックが緩和される。
ところで、従来技術のように、バンプストッパ16の上下位置を調整するためのアクチュエータをショックアブソーバ3の上端部に設けると、その分、サスペンション・アッセンブリの高さが増加してしまい、フロントボディではフード(ボンネット)の高さを上げなければならない。すなわち、図11に示すように、サスペンション・アッセンブリの分だけフードを局部的に凸形状とするのは現実的ではないので、太線で示すように、フード高さを全面にわたって高くしなければならない。
【0035】
運転者のアイポイントを変えずに、フードを例えば約100mm高くすると、前方下側の死角が増加し、その距離は前輪の接地点を基準にするとフードを高くする前の約1.7倍となり、運転者にとって前方の視界が狭くなってしまう。したがって、コーナが見えにくくなるので、特にワインディング路などで、所望の旋回速度で走行できなくなったり、所望の旋回速度で走行できても精神的な疲労感が増加したりして、広義の旋回性が低下してしまう。
【0036】
なお、フード高さと共にアイポイントを高くすることも考えられるが、例えば着座位置を上昇させると乗降性が低下してしまい、また車高全体を高くすると車両重量が増加したり、重心高さの上昇によって旋回性能が低下したりして、新たな問題を招来してしまう。
そこで、本実施形態では、当接板17を進退させる進退機構18をストラット外筒11の外周に設けたことで、サスペンション・アッセンブリの高さ方向への増大を抑制することができる。これにより、フロントボディにおけるフードの高さを抑制し、車両前方の視界が狭くなることを抑制できるので、視認性の低下を抑制することができる。
【0037】
《応用例》
なお、上記の一実施形態では、ストラット外筒11がバネ下の車軸に連結され、ピストンロッド14がバネ上の車体12に連結されたショックアブソーバ3を採用しているが、これに限定されるものではなく、ストラット外筒11をバネ上の車体12に連結し、ピストンロッド14をバネ下の車軸に連結したショックアブソーバを採用してもよい。
【0038】
また、上記の一実施形態では、バンプストッパ16及び当接板17がピストンロッド14と同軸上に配設されているが、これに限定されるものではなく、オフセット配置してもよい。
また、上記の一実施形態では、当接板17を上下に進退させる進退機構18に、油圧シリンダ19を採用しているが、これに限定されるものではなく、圧縮空気を利用した空気圧シリンダを採用してもよい。更には、電動モータの回転運動を直線運動に変換して当接板17を上下に進退させる電動駆動機構を採用してもよい。
【0039】
また、上記の一実施形態では、当接板17の初期位置を、ノーマルモードとスポーツモードの2段階に変更可能としているが、これに限定されるものではなく、3段階以上、或いは連続的無段階に変更可能としてもよい。
また、上記の一実施形態では、当接板17における当接方向の厚みを、車体横方向の内側と外側で変化させているが、これに限定されるものではない。要は、当接板17とバンプストッパ16とが当接する際に、車体横方向の内側よりも外側の方が早く当接するように構成すればよいので、バンプストッパ16における当接方向の厚みを、車体横方向の内側と外側で変化させるようにしてもよいし、更には当接板17とバンプストッパ16との双方の厚みを変化させるようにしてもよい。
【0040】
また、上記の一実施形態では、目標旋回特性をニュートラルステアに設定しているが、これに限定されるものではなく、アンダーステアやオーバーステアに設定してもよい。すなわち、アンダーステア傾向を強めるには、コーナリングフォースが上限値近傍にある旋回外側前輪の輪荷重が増加するように進退機構18を駆動制御すればよい。逆に、オーバーステア傾向を強めるには、コーナリングフォースが上限値近傍にある旋回外側後輪の輪荷重が増加するように進退機構18を駆動制御すればよい。
【0041】
《効果》
(1)バネ下の車軸に連結されたストラット外筒11と、バネ上の車体12に連結され且つストラット外筒11に進退可能に挿入されたピストンロッド14と、ストラット外筒11とピストンロッド14とが圧縮方向にストロークするときにストラット外筒11と当接して圧縮方向のストロークを係止するバンプストッパ16と、ストラット外筒11とバンプストッパ16との間に介装され当接方向に進退可能な当接板17と、ストラット外筒11の外周に設けられ当接板17を進退させる進退機構18とを備えた。
【0042】
これにより、当接板17の上下位置を変更することでバッファクリアランスを調整できるので、ロール剛性を含めたサスペンション特性を調整し、車両の旋回性能を所望の特性に一致させることができる。また、当接板17を進退させる進退機構18をストラット外筒11の外周に設けたことで、サスペンション・アッセンブリの高さ方向への増大を抑制することができる。これにより、フロントボディにおけるフードの高さを抑制し、車両前方の視界が狭くなることを抑制できるので、視認性の低下を抑制することができる。
【0043】
しかも、ストラットマウント13は、従来品をそのまま採用することができ、車体12への取付け部分についても設計変更が不要となるので車体12の共用化もできる。また、剛体であるストラット外筒11に進退機構18を取付けたことで、当接板17とバンプストッパ16とが当接するときの衝撃にも耐える十分な強度を確保することができる。
【0044】
(2)コイルスプリング23の内側に、当接板17と進退機構18とを配置した。
これにより、当接板17や進退機構18を跳ね石等から保護することができる。また、コイルスプリング23を覆う車体構造(通称、ストラットタワー)についても設計変更が不要となり共用化ができる。
【0045】
(3)ストラット外筒11を車体前後方向に挟んで対向する2箇所に進退機構18を配置した。
これにより、当接板17を安定して支持し、バンプストッパ16との当接時に偏心荷重が入力されることを防止でき、且つ双方の進退機構18を跳ね石等から保護することができる。すなわち、進退機構18を車体横方向で対向させると、外側の進退機構が跳ね石等を受けやすくなるからである。
(4)進退機構18を油圧シリンダ19で構成した。
これにより、大型化を抑制することができる。
(5)油圧シリンダ19の油圧を所定値以下に制限するリリーフ弁35を設けた。
これにより、悪路を走行しているときや大きな突起を乗り上げたときのような過大な入力から油圧回路を保護することができる。
【0046】
(6)ストラット外筒11とピストンロッド14との圧縮方向のストロークによって当接板17とバンプストッパ16とが当接する際に、車体横方向の内側よりも外側の方が早く当接するように、当接板17における当接方向の厚みを、車体横方向の内側と外側で変化させた。
これにより、サスペンションストローク時にショックアブソーバ2に作用する曲げモーメントMを、当接板17とバンプストッパ16との接触時に発生するモーメントM1によって打ち消し、低減することができ、結果として乗り心地を向上させることができる。
【0047】
(7)グランドパッキン15と当接板17との間に弾性体21を介装したこ。
これにより、当接板17がグランドパッキン15に接触するときのショックを緩和し、その干渉音を軽減することができる。
(8)前後左右輪における進退機構18を個別に駆動制御し、夫々の当接板17の上下位置を変更する制御手段を備えた。
これにより、各輪のバッファクリアランスを調整できるので、車両の旋回性能を所望の特性に一致させることができる。
【0048】
(9)制御手段は、夫々の当接板17の位置を車両の旋回走行状態に応じて変更する。
これにより、ニュートラルステア、アンダーステア、オーバーステア等、任意の旋回特性に調整することができる。
(10)制御手段は、夫々の当接板17の初期位置を選択された走行モードに応じて変更する。
これにより、バンプストッパ16に作用する荷重の立ち上がりを、通常のノーマルモードや、ノーマルモードよりも早いスポーツモード等に任意に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の概略構成図である。
【図2】ショックアブソーバの概略構成図である。
【図3】ショックアブソーバを車体正面から見た図である。
【図4】油圧シリンダの配置図である。
【図5】駆動制御処理を示すフローチャートである。
【図6】所定値Vs及びθsの設定について説明するグラフである。
【図7】輪荷重とコーナリングフォースの関係を示すグラフ、及び後輪コーナリングフォースの減少によるアンダーステア傾向の抑制について説明した図である。
【図8】バンプストッパに作用する荷重の立ち上がり特性を示すグラフである。
【図9】当接板でバンプストッパを押上げている様子である。
【図10】曲げモーメントの低減について説明した図である。
【図11】従来技術の問題点を説明した図である。
【符号の説明】
【0050】
1 自動車
2FL〜2RR 車輪
3FL〜3RR ショックアブソーバ
4 コントローラ
11 ストラット外筒(シリンダ)
12 車体
13 ストラットマウント
14 ピストンロッド
15 グランドパッキン
16 バンプストッパ
17 当接板(当接部材)
18 進退機構
19 油圧シリンダ(流体圧シリンダ)
20 進退ロッド
21 弾性体
22 ブラケット
23 コイルスプリング
24 ロアシート
25 ストロークセンサ
30 油圧制御回路
31 オイルタンク
32 ポンプ
33 方向制御弁
34 アキュムレータ
35 リリーフ弁(リリーフ回路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バネ上の車体及びバネ下の車軸の何れか一方に連結されたシリンダと、前記車体及び前記車軸の他方に連結され且つ前記シリンダにストローク可能に挿入されたピストンロッドと、前記シリンダと前記ピストンロッドとが圧縮方向にストロークするときに当該シリンダと当接して圧縮方向のストロークを係止するバンプストッパと、前記シリンダと前記バンプストッパとの間に介装され当接方向に進退可能な当接部材と、前記シリンダの外周に設けられ前記当接部材を進退させる進退機構と、を備えたことを特徴とするサスペンション装置。
【請求項2】
前記車体を懸架するコイルスプリングの内側に、前記当接部材と前記進退機構とを配置したことを特徴とする請求項1に記載のサスペンション装置。
【請求項3】
前記シリンダを車体前後方向に挟んで対向する2箇所に前記進退機構を配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載のサスペンション装置。
【請求項4】
前記進退機構を流体圧シリンダで構成したことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のサスペンション装置。
【請求項5】
前記流体圧シリンダの流体圧を所定値以下に制限するリリーフ回路を設けたことを特徴とする請求項4に記載のサスペンション装置。
【請求項6】
前記シリンダと前記ピストンロッドとの圧縮方向のストロークによって前記当接部材と前記バンプストッパとが当接する際に、車体横方向の内側よりも外側の方が早く当接するように、前記当接部材及び前記バンプストッパの少なくとも一方における当接方向の厚みを、車体横方向の内側と外側で変化させたことを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載のサスペンション装置。
【請求項7】
前記シリンダの一端と前記当接部材との間に弾性体を介装したことを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載のサスペンション装置。
【請求項8】
前後左右輪における前記進退機構を個別に駆動制御し、夫々の前記当接部材の位置を変更する制御手段を備えたことを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載のサスペンション装置。
【請求項9】
前記制御手段は、夫々の前記当接部材の位置を車両の旋回走行状態に応じて変更することを特徴とする請求項8に記載のサスペンション装置。
【請求項10】
前記制御手段は、夫々の前記当接部材の初期位置を選択された走行モードに応じて変更することを特徴とする請求項8又は9に記載のサスペンション装置。
【請求項11】
バネ上の車体及びバネ下の車軸の何れか一方に連結されたシリンダと、前記車体及び前記車軸の他方に連結され且つ前記シリンダにストローク可能に挿入されたピストンロッドと、前記シリンダと前記ピストンロッドとが圧縮方向にストロークするときに当該シリンダと当接して圧縮方向のストロークを係止するバンプストッパと、前記シリンダの外周に設けられ当該シリンダにおける前記バンプストッパとの当接部を当接方向に進退させる進退機構とを備え、
前記進退機構で前記シリンダの当接部を当接方向に進退させることによって、前記シリンダと前記ピストンロッドとが圧縮方向にストロークするときの当該ストロークの係止位置を調整することを特徴とするサスペンション装置。
【請求項12】
サスペンション装置を備えた自動車において、
前記サスペンション装置は、
バネ上の車体及びバネ下の車軸の何れか一方に連結されたシリンダと、前記車体及び前記車軸の他方に連結され且つ前記シリンダにストローク可能に挿入されたピストンロッドと、前記シリンダと前記ピストンロッドとが圧縮方向にストロークするときに当該シリンダと当接して圧縮方向のストロークを係止するバンプストッパと、前記シリンダと前記バンプストッパとの間に介装され当接方向に進退可能な当接部材と、前記シリンダの外周に設けられ前記当接部材を進退させる進退機構と、を備えたことを特徴とする自動車。
【請求項13】
バネ上の車体及びバネ下の車軸の何れか一方に連結されたシリンダと、前記車体及び前記車軸の他方に連結され且つ前記シリンダにストローク可能に挿入されたピストンロッドと、前記シリンダと前記ピストンロッドとが圧縮方向にストロークするときに当該シリンダと当接して圧縮方向のストロークを係止するバンプストッパと、前記シリンダの外周に設けられ当該シリンダにおける前記バンプストッパとの当接部を当接方向に進退させる進退機構とを備え、
前記進退機構で前記シリンダの当接部を当接方向に進退させることによって、前記シリンダと前記ピストンロッドとが圧縮方向にストロークするときの当該ストロークの係止位置を調整することを特徴とするサスペンション特性調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−170509(P2007−170509A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−367499(P2005−367499)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】