説明

シフトバイワイヤシステム

【課題】エンコーダに異常が生じても、目標レンジと切り替え後のシフトレンジとがずれるのを抑制可能なシフトバイワイヤシステムを提供する。
【解決手段】SBW−ECU13は、エンコーダ34の異常を検出した場合、レンジセレクタ45のセレクタセンサ46から信号の出力があると、オープン駆動制御手段によりロータ37を回転駆動する。そして、SBW−ECU13は、当該回転駆動により自動変速機20のシフトレンジが目標レンジに切り替わった後、所定の期間である切替禁止時間を設定し、当該切替禁止時間が設定されている期間中、自動変速機20のシフトレンジの新たな切り替えを禁止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動変速機のシフトレンジを切り替えるシフトバイワイヤシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両制御の分野において、車両状態を変化させるアクチュエータを車両の運転者の指令によってバイワイヤ制御回路により電気制御するバイワイヤシステムが実用化されている。例えば、運転者の指令によって車両の自動変速機のシフトレンジを切り替えるシフトバイワイヤシステムが知られている。シフトバイワイヤシステムでは、例えば電動のアクチュエータを回転させて自動変速機の変速機構部を駆動することによりシフトレンジを切り替える。変速機構部は、アクチュエータにより回転駆動されるディテントプレート、および、当該ディテントプレートに形成された凹部に嵌り込むことでディテントプレートの回転を規制することにより自動変速機のシフトレンジを固定可能な規制部を有するディテントスプリング等を備えている。ここで用いられるアクチュエータは、高速で回転するモータ部、および、当該モータ部の回転を減速して出力する減速部を有している。また、モータ部としてSRモータ等のブラシレスモータを採用する場合、アクチュエータには、モータ部の回転角の変化分に応じたパルス信号を出力するインクリメンタル型のエンコーダが設けられることが一般的である。このエンコーダからのパルス信号に基づきモータ部の回転状態を検出し、検出した回転状態をフィードバックすることにより、モータ部の最適な回転駆動制御が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3849930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、通常、エンコーダからのパルス信号に基づくモータ部の回転状態をフィードバックしつつモータ部を駆動するフィードバック駆動制御を行い、エンコーダの異常時にはモータ部の回転状態をフィードバックすることなくモータ部を駆動するオープン駆動制御を行うシフトバイワイヤシステムが開示されている。このシフトバイワイヤシステムでは、弾性を有するディテントスプリングによりディテントプレートの回転を規制する構成のため、モータ部によりディテントプレートが回転駆動されることでシフトレンジが目標レンジに切り替わった直後、ディテントプレートが暫く回転方向に揺動する。ディテントプレートが揺動する時間の長さは、変速機構部の部品公差、モータ部の制御精度、および、環境温度等の環境条件等により変動する。
【0005】
特許文献1のシフトバイワイヤシステムでは、エンコーダの異常時にオープン駆動制御によりモータ部を回転駆動する場合、シフトレンジが目標レンジに切り替わった直後においても、シフトレンジの切り替えに関し新たな切替指示を受け付け可能である。そのため、ディテントプレートが揺動しているにもかかわらず、新たな切替指示を受け付けるおそれがある。ディテントプレートが揺動している状態で新たな切替指示を受け付けると、ディテントスプリングの規制部がディテントプレートの凹部の中心からずれた位置にあるときにモータ部の回転が開始されるおそれがある。例えば頻繁にシフトレンジの切り替えが行われるガレージシフト時等、上述したようなモータ部の回転作動が短時間のうちに繰り返されると、凹部と規制部との位置ずれが徐々に大きくなり、シフトレンジが目標レンジとは異なるレンジに切り替わるフェイタルモードに陥るおそれがある。
【0006】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、エンコーダに異常が生じても、目標レンジと切り替え後のシフトレンジとがずれるのを抑制可能なシフトバイワイヤシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、車両の運転者により操作されるシフト選択手段からの信号に応じて自動変速機のシフトレンジを切り替えるシフトバイワイヤシステムであって、モータ部と減速部とエンコーダとディテントプレートとディテントスプリングと目標レンジ決定手段とフィードバック駆動制御手段とオープン駆動制御手段と制御部と異常検出手段とを備えている。モータ部は、ステータ、および、当該ステータに対し相対回転可能に設けられるロータを有している。減速部は、モータ部のロータの回転を減速して出力する出力軸を有している。エンコーダは、モータ部のロータの回転に応じてパルス信号を出力する。ディテントプレートは、複数の凹部を有し、減速部の出力軸に接続するよう設けられることでモータ部により回転駆動される。ディテントスプリングは、規制部を有し、当該規制部がディテントプレートの複数の凹部のいずれかに嵌り込むことでディテントプレートの回転を規制することにより、自動変速機のシフトレンジを固定可能である。目標レンジ決定手段は、シフト選択手段からの信号に基づき目標レンジを決定する。フィードバック駆動制御手段は、エンコーダからのパルス信号のカウント値であるパルス信号カウント値に基づきステータに対するロータの回転位置を検出しつつモータ部の通電相を順次切り替えることでロータを目標回転位置まで回転駆動する。オープン駆動制御手段は、エンコーダからのパルス信号にかかわらずモータ部の通電相を順次切り替え、当該通電相の切り替え回数のカウント値である切替回数カウント値に基づきロータを目標回転位置まで回転駆動する。制御部は、フィードバック駆動制御手段またはオープン駆動制御手段によりロータを回転駆動することで、目標レンジ決定手段により決定した目標レンジとなるよう自動変速機のシフトレンジを切り替える。異常検出手段は、エンコーダの異常を検出する。
【0008】
そして、本発明では、制御部は、異常検出手段によりエンコーダの異常を検出した場合、シフト選択手段から信号の出力があると、オープン駆動制御手段によりロータを回転駆動し、当該回転駆動により自動変速機のシフトレンジが目標レンジに切り替わった後、所定の期間である切替禁止時間を設定し、当該切替禁止時間が設定されている期間中、自動変速機のシフトレンジの切り替えを禁止する。そのため、ディテントプレートが揺動している状態で、新たなシフトレンジの切り替え指示に伴うモータ部の回転が開始されるのを抑制することができる。これにより、短時間のうちにオープン駆動制御手段によりモータ部の回転作動が繰り返されることで凹部と規制部との位置ずれが徐々に大きくなるといった事態を抑制することができる。したがって、本発明では、エンコーダに異常が生じても、目標レンジと切り替え後のシフトレンジとがずれるのを抑制することができる。
なお、制御部による自動変速機のシフトレンジの切り替えを禁止する手段としては、例えば、「切替禁止時間が設定されている期間中、目標レンジ決定手段は、シフト選択手段からの信号を受け付けない(無視する)」、あるいは、「切替禁止時間が設定されている期間中、制御部は、目標レンジ決定手段により目標レンジが決定されてもモータ部のロータを回転駆動しない」といった手段が考えられる。
【0009】
請求項2に記載の発明では、切替禁止時間は、自動変速機のシフトレンジが目標レンジに切り替わった後、ディテントプレートの揺動が収束すると想定される最大時間以上の長さである。これにより、ディテントプレートが揺動している状態で、新たなシフトレンジの切り替え指示に伴いモータ部が回転し始める事態を確実に回避することができる。すなわち、本発明では、シフトレンジが目標レンジに切り替わった後、ディテントプレートの揺動が確実に停止した(規制部が凹部の中心に位置した)状態で、新たなシフトレンジの切り替えが可能となる。これにより、凹部と規制部との位置ずれが徐々に大きくなることで、シフトレンジが目標レンジとは異なるレンジに切り替わるフェイタルモードに陥るのを防止することができる。したがって、本発明では、エンコーダに異常が生じても、目標レンジと切り替え後のシフトレンジとがずれるのを確実に防止することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、モータ部の温度を検出可能な温度検出手段をさらに備えている。そして、本発明では、制御部は、温度検出手段により検出した温度に基づき切替禁止時間の長さを設定する。シフトレンジが目標レンジに切り替わった後、ディテントプレートが揺動する時間の長さは、ディテントプレートに関連する部品の部品公差、モータ部の制御精度、および、環境温度等の環境条件等により変動する。例えば、モータ部の温度が低い場合、モータ部の出力するトルクは大きくなり、モータ部によってディテントプレートの回転を停止させ易くなるため、ディテントプレートが揺動する時間は短くなる。一方、モータ部の温度が高い場合、モータ部の出力するトルクは小さくなり、モータ部によってディテントプレートの回転を停止させ難くなるため、ディテントプレートが揺動する時間は長くなる。本発明では、温度検出手段により検出したモータ部の温度に基づき切替禁止時間の長さを設定することで、切替禁止時間が必要以上に長く設定されるのを回避することができる。したがって、シフトバイワイヤシステムの商品性を維持することができる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、モータ部に印加される電圧を検出可能な電圧検出手段をさらに備えている。そして、本発明では、制御部は、電圧検出手段により検出した電圧に基づき切替禁止時間の長さを設定する。上述のように、シフトレンジが目標レンジに切り替わった後、ディテントプレートが揺動する時間の長さは、ディテントプレートに関連する部品の部品公差、モータ部の制御精度、および、環境温度等の環境条件等により変動する。例えば、モータ部に印加される電圧が高い場合、モータ部の出力するトルクは大きくなり、モータ部によってディテントプレートの回転を停止させ易くなるため、ディテントプレートが揺動する時間は短くなる。一方、モータ部に印加される電圧が低い場合、モータ部の出力するトルクは小さくなり、モータ部によってディテントプレートの回転を停止させ難くなるため、ディテントプレートが揺動する時間は長くなる。本発明では、電圧検出手段により検出したモータ部に印加される電圧に基づき切替禁止時間の長さを設定することで、切替禁止時間が必要以上に長く設定されるのを回避することができる。したがって、シフトバイワイヤシステムの商品性を維持することができる。
【0012】
ところで、オープン駆動制御手段によるモータ部の回転中に、新たなシフトレンジの切り替え指示に伴うモータ部の急激な逆回転が生じると、切替回数カウント値と実回転角とのずれが発生することがある。その結果、凹部と規制部とが位置ずれするおそれがある。
そこで、請求項5に記載の発明では、制御部は、異常検出手段により前記エンコーダの異常を検出した場合、シフト選択手段から信号の出力があるとオープン駆動制御手段によりロータを回転駆動し、当該回転駆動の開始から、自動変速機のシフトレンジが目標レンジに切り替わるまでの期間中、自動変速機のシフトレンジの切り替えを禁止する。これにより、本発明では、オープン駆動制御手段によるモータ部の回転中に、新たなシフトレンジの切り替え指示に伴うモータ部の急激な逆回転が生じることはない。その結果、凹部と規制部とが位置ずれするのを防止することができる。
【0013】
請求項6に記載の発明は、制御部により自動変速機のシフトレンジの切り替えが禁止されている期間中、シフト選択手段から信号の出力があった場合、「自動変速機のシフトレンジの切り替えは禁止されていること」を運転者に通知可能な通知手段をさらに備えている。これにより、制御部により自動変速機のシフトレンジの切り替えが禁止されている期間中にシフト選択手段の操作を行った運転者に対し、「自動変速機のシフトレンジの切り替えは禁止されていること」を認識させることができ、運転者の混乱を抑制することができる。
【0014】
請求項7に記載の発明は、制御部により自動変速機のシフトレンジの切り替えが禁止されている期間中、「自動変速機のシフトレンジの切り替えは禁止されていること」を表示する表示手段をさらに備えている。これにより、制御部により自動変速機のシフトレンジの切り替えが禁止されている期間中、「自動変速機のシフトレンジの切り替えは禁止されていること」を運転者に予め認識させることができ、運転者の混乱を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態によるシフトバイワイヤシステムを含む車両制御システムを示す概略図。
【図2】本発明の一実施形態によるシフトバイワイヤシステムのアクチュエータを示す断面図。
【図3】本発明の一実施形態によるシフトバイワイヤシステムの変速機構部およびその近傍を示す図。
【図4】本発明の一実施形態によるシフトバイワイヤシステムのディテントプレートを示す図であって、(A)はシフトレンジが「Pレンジ」のときの状態を示す図、(B)はシフトレンジが「Dレンジ」のときの状態を示す図。
【図5】本発明の一実施形態によるシフトバイワイヤシステムによる、エンコーダが異常なときに実行する処理の処理フローを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態によるシフトバイワイヤシステムを図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、電子制御ユニットを「ECU」と略記する。
(一実施形態)
【0017】
図1は、本発明の一実施形態によるシフトバイワイヤシステム3を含む車両制御システム1を示している。例えば四輪の車両に搭載される車両制御システム1は、自動変速機制御システム2、シフトバイワイヤシステム3、エンジン制御システム4および統合ECU10などから構成されている。
【0018】
自動変速機制御システム2、シフトバイワイヤシステム3およびエンジン制御システム4は、それぞれAT−ECU12、SBW−ECU13およびEC−ECU14を有している。AT−ECU12、SBW−ECU13およびEC−ECU14は、いずれも演算手段としてのCPU、記憶手段としてのROMおよびRAM、ならびに、入出力手段等を有する小型のコンピュータである。AT−ECU12、SBW−ECU13およびEC−ECU14は、それぞれ車内のLAN回線17を経由して電気的または光学的に相互に接続されている。また、AT−ECU12、SBW−ECU13、EC−ECU14および統合ECU10は、車両の電源であるバッテリ18に電気的に接続されており、このバッテリ18から供給された電力によって作動する。統合ECU10は、上述のAT−ECU12、SBW−ECU13およびEC−ECU14と共同して車両制御システム1全体を制御する。本実施形態において、SBW−ECU13は、特許請求の範囲の「制御部」に対応する。
【0019】
自動変速機制御システム2は、車両の自動変速機20を油圧により駆動する。自動変速機制御システム2は、自動変速機20のシフトレンジおよび変速段を切り替える油圧回路21を備えている。本実施形態では、自動変速機20には、走行レンジとして前進用のレンジであるDレンジおよび後進用のレンジであるRレンジと、非走行レンジとして駐車用のレンジであるPレンジおよび中立のレンジであるNレンジとが設定されている。油圧回路21は、レンジ位置選択機構としてのスプールバルブであるマニュアルバルブ22を有している。マニュアルバルブ22は、軸方向へ移動することにより、油圧回路21を切り替える。マニュアルバルブ22が油圧回路21を切り替えることにより、自動変速機20は上記のシフトレンジのいずれかに設定される。自動変速機20は、いずれかのシフトレンジで締結する複数の摩擦係合要素を備えている。油圧回路21に設置されている複数の電磁弁23は、対応する摩擦係合要素を油圧により駆動する。これにより、各摩擦係合要素は、電磁弁23から供給される油圧によって締結または解放される。
【0020】
AT−ECU12は、油圧回路21の電磁弁23などの電気要素に電気的に接続されている。これにより、AT−ECU12は、各電磁弁23からの出力油圧を電気的に制御する。AT−ECU12によって電磁弁23からの出力油圧を制御することにより、自動変速機20の各摩擦係合要素は締結または解放される。また、本実施形態の場合、AT−ECU12は、例えば自動変速機20の出力軸の回転数などから車両の速度を検出する車速センサ24と電気的に接続している。AT−ECU12は、車速センサ24から出力された検出信号を受信して車速を検出し、各電磁弁23を制御する。
【0021】
シフトバイワイヤシステム3は、自動変速機制御システム2のマニュアルバルブ22、および、パーキングロック機構70(図3)を駆動するアクチュエータ30、および、変速機構部50等を備えている。なお、SBW−ECU13は、シフトバイワイヤシステム3を構成する要素の1つである。電磁駆動式のアクチュエータ30は、モータ部32、エンコーダ34および減速部33などを有している。
【0022】
ここで、アクチュエータ30について説明する。本実施形態では、モータ部32は、スイッチトリラクタンス(SR)モータであり、永久磁石を用いることなく駆動力を発生するブラシレスモータである。図2に示すように、モータ部32は、回転方向に配列された複数のコイル36が嵌合されているステータ35を有している。また、モータ部32は、ステータ35の内側にロータ37を有している。ロータ37は、中心部に軸部材38を有し、アクチュエータ30のハウジング31に回転可能に支持されている。
SBW−ECU13は、モータ部32の複数のコイル36に所定のタイミングで順次通電し、ロータ37および軸部材38を回転させる。
【0023】
本実施形態では、エンコーダ34は、アクチュエータ30のハウジング31内に設けられている。エンコーダ34は、ロータ37と一体に回転する磁石と、ハウジング31に固定された基板に実装され、磁石と対向配置されて磁石における磁束発生部の通過を検出する、磁気検出用のホールIC等により構成されている。エンコーダ34は、モータ部32(ロータ37)の回転角の変化分に応じてパルス信号を出力する。
【0024】
上述のように、本実施形態でのエンコーダ34は、モータ部32の回転に応じてパルス信号を出力するインクリメンタル型のエンコーダである。SBW−ECU13は、エンコーダ34から出力されたパルス信号に応じてカウント用の値(パルス信号カウント値)を減少(カウントダウン)または増大(カウントアップ)させる。これにより、SBW−ECU13は、モータ部32(ロータ37)の回転状態を検出可能である。SBW−ECU13は、エンコーダ34によってモータ部32の回転状態を検出することにより、モータ部32を脱調させることなく高速回転させることができる。なお、車両電源のオン毎(シフトバイワイヤシステム3の起動毎)に、モータ部32の励磁通電相学習(エンコーダ34から出力されたパルス信号に応じたカウント値と通電相の同期)のための初期駆動制御が行われる。この初期駆動制御により、アクチュエータ30の回転を適切に制御できるようになる。
減速部33は、モータ部32(軸部材38)の回転運動を減速して出力軸39から出力し、変速機構部50に伝達する。変速機構部50は、減速部33から出力された回転駆動力をマニュアルバルブ22、および、パーキングロック機構70へ伝達する。
【0025】
変速機構部50は、図3に示すようにマニュアルシャフト51、ディテントプレート52およびディテントスプリング55などを有している。マニュアルシャフト51は、アクチュエータ30の減速部33の出力軸39に接続し、モータ部32の回転駆動力によって回転駆動される。ディテントプレート52は、マニュアルシャフト51から径方向外側に伸びてマニュアルシャフト51と一体に構成されている。これにより、ディテントプレート52は、マニュアルシャフト51と一体にアクチュエータ30によって回転駆動される。ディテントプレート52には、マニュアルシャフト51と平行に突出するピン54が設置されている。ピン54は、マニュアルバルブ22と接続している。その結果、ディテントプレート52がマニュアルシャフト51とともに回転することにより、マニュアルバルブ22は軸方向へ往復移動する。すなわち、変速機構部50は、アクチュエータ30の回転駆動力を直線運動に変換してマニュアルバルブ22に伝達する。
【0026】
ディテントプレート52は、図4に示すように、マニュアルシャフト51の径方向外側に凹部61、凹部62、凹部63、凹部64を有している。凹部61は、ディテントプレート52の回転方向の一方側に形成されている。凹部64は、ディテントプレート52の回転方向の他方側に形成されている。凹部62および凹部63は、凹部61と凹部64との間に形成されている。ここで、凹部61、凹部62、凹部63、凹部64は、それぞれ、特許請求の範囲における「凹部」に対応している。
本実施形態では、凹部61は、自動変速機20のシフトレンジである「Pレンジ」に対応して形成されている。凹部62は、「Rレンジ」に対応して形成されている。凹部63は、「Nレンジ」に対応して形成されている。凹部64は、「Dレンジ」に対応して形成されている。
【0027】
ディテントスプリング55は、弾性変形可能に形成されており、先端に規制部としてのディテントローラ53を有している。ディテントスプリング55は、ディテントローラ53をディテントプレート52の中心(マニュアルシャフト51)方向に付勢している。マニュアルシャフト51を経由してディテントプレート52に回転方向の所定の力が加わると、ディテントローラ53は図4(A)、(B)に示すように各凹部61〜64間に形成される凸部を乗り越えて隣接する他の凹部61〜64へ移動する。その結果、アクチュエータ30によってマニュアルシャフト51を回転させることにより、マニュアルバルブ22の軸方向の位置、および、パーキングロック機構70の状態が変化し、自動変速機20のシフトレンジが変更される。なお、ディテントローラ53が各凹部61〜64間の凸部を乗り越えるとき、ディテントスプリング55は撓むようにして弾性変形する。また、このとき、ディテントローラ53は、回転しながら各凹部61〜64および凸部を移動する。
【0028】
ディテントローラ53が凹部61、凹部62、凹部63、凹部64のいずれかに嵌り込むことでディテントプレート52の回転を規制することにより、マニュアルバルブ22の軸方向の位置、および、パーキングロック機構70の状態が決定される。これにより、自動変速機20のシフトレンジが固定される。
本実施形態では、図4に示すようにシフトレンジが「Pレンジ」側から「Rレンジ」、「Nレンジ」および「Dレンジ」側へ切り替わるときにアクチュエータ30の減速部33が回転する方向を、正回転方向と定義している。一方、シフトレンジが「Dレンジ」側から「Nレンジ」、「Rレンジ」および「Pレンジ」側へ切り替わるときにアクチュエータ30の減速部33が回転する方向を、逆回転方向と定義している。
【0029】
図3は、シフトレンジが「Dレンジ」であるとき、すなわち、「Pレンジ」以外のレンジであるときのパーキングロック機構70の状態を示している。この状態では、パーキングギア74は、パーキングロックポール73によってロックされていない。そのため、車両の車輪の回転は妨げられない。この状態から、アクチュエータ30の減速部33が逆回転方向に回転すると、ディテントプレート52を介してロッド71が図3に示す矢印Xの方向に押され、ロッド71の先端に設けられたテーパ部72がパーキングロックポール73を図3に示す矢印Yの方向に押し上げる。その結果、パーキングロックポール73がパーキングギア74に噛み合い、パーキングギア74がロックされる。その結果、車輪の回転が規制された状態となる。このとき、ディテントスプリング55のディテントローラ53はディテントプレート52の凹部61に嵌り込んだ状態(ディテントローラ53が凹部61の中心に位置する状態。図4(A)参照)であり、自動変速機20の実際のレンジ(以下、「実レンジ」という。)は「Pレンジ」である。
【0030】
シフトバイワイヤシステム3では、弾性を有するディテントスプリング55によりディテントプレート52の回転を規制する構成のため、モータ部32によりディテントプレート52が回転駆動されることでシフトレンジが目標レンジに切り替わった直後、ディテントプレート52が暫く回転方向(正回転方向および逆回転方向)に揺動する。図4(A)では、シフトレンジが「Pレンジ」に切り替わった直後のディテントプレート52、ディテントスプリング55およびディテントローラ53の状態を実線で示しており、ディテントプレート52が揺動しているときの各部材の状態を破線で示している。また、図4(B)では、シフトレンジが「Dレンジ」に切り替わった直後のディテントプレート52、ディテントスプリング55およびディテントローラ53の状態を実線で示しており、ディテントプレート52が揺動しているときの各部材の状態を破線で示している。ディテントプレート52が揺動する時間(シフトレンジが目標レンジに切り替わった直後、ディテントプレート52が揺動し始めてから揺動が停止するまでの時間)の長さは、変速機構部50の部品公差、モータ部32の制御精度、および、環境温度等の環境条件等により変動する。
【0031】
SBW−ECU13は、アクチュエータ30のモータ部32およびエンコーダ34、シフト選択手段としてのレンジセレクタ45のセレクタセンサ46、温度検出手段としての温度センサ81、ならびに、電圧検出手段としての電圧センサ82等に電気的に接続している。
セレクタセンサ46は、車両の運転者がレンジセレクタ45を操作することにより指令したレンジ(以下、「指令レンジ」という。)を検出する。セレクタセンサ46は、検出した信号をSBW−ECU13へ出力する。
【0032】
SBW−ECU13は、セレクタセンサ46から出力された指令レンジに関する信号に基づき、目標レンジを決定する。より具体的には、本実施形態では、セレクタセンサ46の信号、ブレーキの信号、および、車速センサ24の信号等に基づき目標レンジを決定する。ここで、SBW−ECU13は、特許請求の範囲における「目標レンジ決定手段」として機能する。SBW−ECU13は、自動変速機20のシフトレンジが、目標レンジ決定手段により決定された目標レンジとなるようアクチュエータ30の回転を制御する。これにより、自動変速機20の実レンジが、運転者の意図するレンジに切り替わる。
【0033】
温度センサ81は、モータ部32に設けられている。温度センサ81は、モータ部32の温度を検出し、検出した信号をSBW−ECU13に出力する。電圧センサ82は、SBW−ECU13とモータ部32のコイル36とを接続する電力線に設けられている。電圧センサ82は、モータ部32のコイル36に印加される電圧を検出し、検出した信号をSBW−ECU13に出力する。
【0034】
本実施形態のエンコーダ34は、インクリメンタル型のエンコーダのため、モータ部32の相対的な回転位置しか検出することができない。そのため、アクチュエータ30を回転させることでシフトレンジを所望のレンジに切り替えるにあたっては、アクチュエータ30の減速部33の絶対位置に対応する基準位置を学習しておく必要がある。アクチュエータ30の基準位置を学習した後は、学習した基準位置と所定回転量(制御定数)とに基づき各シフトレンジに対応するアクチュエータ30の回転位置を演算により求め、当該演算により求めた回転位置となるようアクチュエータ30を回転させることで、実レンジを所望のシフトレンジに切り替えることができる。本実施形態では、SBW−ECU13は、ディテントプレート52の回転可能範囲の端部(PレンジまたはDレンジ)に対応するアクチュエータ30の基準位置を学習する。
【0035】
また、SBW−ECU13は、基準位置を学習した後においては、当該基準位置と、所定回転量と、エンコーダ34からのパルス信号カウント値(モータ部32の回転位置)とに基づく演算により、そのときの実レンジを間接的に検出することができる。本実施形態では、SBW−ECU13は、検出した実レンジの情報を、統合ECU10を経由して、車両の運転席前方に設けられた表示装置47に表示する。これにより、運転者は、その時点の実レンジを確認することができる。本実施形態では、図4に示す各シフトレンジ(P、R、N、D)のそれぞれの範囲内にディテントローラ53の中心が位置するときのモータ部32の回転位置に基づき、対応する実レンジを検出可能である。
【0036】
上述のように、SBW−ECU13は、通常、エンコーダ34からのパルス信号カウント値に基づきステータ35に対するロータ37の回転位置を検出しつつモータ部32の通電相を順次切り替えることでロータ37を目標回転位置まで回転駆動する。すなわち、SBW−ECU13は、ロータ37(モータ部32)の回転状態をフィードバックしながらモータ部32を回転駆動することでシフトレンジを目標レンジに切り替える。以下、SBW−ECU13による上記制御を「フィードバック駆動制御」という。ここで、SBW−ECU13は、特許請求の範囲における「フィードバック駆動制御手段」として機能する。
【0037】
EC−ECU14は、車両の内燃機関(以下、「エンジン」という。)40のスロットル41、インジェクタ42、およびアクセルペダル43のアクセルセンサ44に電気的に接続している。スロットル41は、エンジン40の吸気通路を流れる吸気の流量を調整する。インジェクタ42は、エンジン40の吸気通路または各気筒へ噴射する燃料の量を調整する。アクセルセンサ44は、車両の運転者によるアクセルペダル43の操作量を検出し、検出した信号をEC−ECU14に出力する。このような構成により、EC−ECU14は、車両の運転者によってアクセルペダル43が操作されると、その操作に基づいてスロットル41およびインジェクタ42などを電気的に制御する。その結果、EC−ECU14は、エンジン40の回転数および出力トルクを調整する。
【0038】
ところで、SBW−ECU13がフィードバック駆動制御を行っているとき、例えば、エンコーダ34からのパルス信号が何らかの原因で一時的に欠けたり、エンコーダ34の信号線に重畳したノイズが正規のパルス信号と誤認されたり、脱調が生じたりすると、通電相とロータ37の回転位相との同期が取れなくなり、ロータ37を正常に回転駆動できなくなる。これにより、ロータ37の回転が停止したり、逆回転したりするおそれがある。そこで、本実施形態では、SBW−ECU13は、モータ部32への通電状態、および、エンコーダ34からのパルス信号を常時監視し、上述のようなパルス信号に関する異常を検出すると、エンコーダ34が異常な状態であると判定する(エンコーダ34の異常を検出する)。ここで、SBW−ECU13は、特許請求の範囲における「異常検出手段」として機能する。
【0039】
上述のように、SBW−ECU13は、通常、フィードバック駆動制御によりモータ部32を回転駆動することで自動変速機20のシフトレンジを切り替える。一方、SBW−ECU13は、エンコーダ34の異常を検出すると、「フィードバック駆動制御」ではなく、以下に説明する「オープン駆動制御」によりモータ部32を回転駆動する。
オープン駆動制御とは、エンコーダ34からのパルス信号にかかわらずモータ部32の通電相を順次切り替え、当該通電相の切り替え回数のカウント値である切替回数カウント値に基づきロータ37を目標回転位置まで回転駆動する制御である。すなわち、SBW−ECU13は、エンコーダ34が故障等で異常な状態になると(エンコーダ34の異常を検出すると)、オープン駆動制御によりモータ部32を回転駆動することで自動変速機20のシフトレンジを切り替える。なお、SBW−ECU13のROMには「切替回数カウント値と凹部61〜64の各中心間の距離(回転角度)との対応関係」が記憶されており、SBW−ECU13は、当該対応関係に基づき、ロータ37を目標回転位置まで回転駆動する。
【0040】
そして、本実施形態では、SBW−ECU13は、エンコーダ34の異常を検出した場合、レンジセレクタ45のセレクタセンサ46から信号の出力があると、オープン駆動制御によりロータ37を回転駆動し、当該回転駆動の開始から、自動変速機20のシフトレンジが目標レンジに切り替わるまでの期間中、自動変速機20のシフトレンジの新たな切り替えを禁止する。つまり、SBW−ECU13は、例えば、「ロータ37の回転駆動の開始から、自動変速機20のシフトレンジが目標レンジに切り替わるまでの期間中、セレクタセンサ46からの信号を受け付けない(無視する)」、あるいは、「ロータ37の回転駆動の開始から、自動変速機20のシフトレンジが目標レンジに切り替わるまでの期間中、目標レンジが決定されてもモータ部32のロータ37を回転駆動しない」。これにより、オープン駆動制御によるモータ部32の回転中に、新たなシフトレンジの切り替え指示に伴うモータ部32の急激な逆回転が生じることはない。その結果、凹部61〜64の中心とディテントローラ53とが位置ずれするのを防止することができる。
【0041】
また、本実施形態では、SBW−ECU13は、オープン駆動制御によりロータ37を回転駆動し、当該回転駆動により自動変速機20のシフトレンジが目標レンジに切り替わった後、所定の期間である切替禁止時間を設定する。そして、当該切替禁止時間が設定されている期間中、自動変速機20のシフトレンジの新たな切り替えを禁止する。つまり、SBW−ECU13は、例えば、「切替禁止時間が設定されている期間中、セレクタセンサ46からの信号を受け付けない(無視する)」、あるいは、「切替禁止時間が設定されている期間中、目標レンジが決定されてもモータ部32のロータ37を回転駆動しない」。
【0042】
ここで、SBW−ECU13は、切替禁止時間の長さを、「自動変速機20のシフトレンジが目標レンジに切り替わった後、ディテントプレート52の揺動が収束(停止)すると想定される最大時間以上の長さ」に設定する。より具体的には、SBW−ECU13は、温度センサ81により検出したモータ部32の温度、および、電圧センサ82により検出したコイル36に印加される電圧に基づき、切替禁止時間の長さを設定する。
【0043】
例えば、モータ部32の温度が低い場合、モータ部32の出力するトルクは大きくなり、モータ部32によってディテントプレート52の回転を停止させ易くなるため、ディテントプレート52が揺動する時間は短くなる。一方、モータ部32の温度が高い場合、モータ部32の出力するトルクは小さくなり、モータ部32によってディテントプレート52の回転を停止させ難くなるため、ディテントプレート52が揺動する時間は長くなる。
【0044】
また、例えば、モータ部32に印加される電圧が高い場合、モータ部32の出力するトルクは大きくなり、モータ部32によってディテントプレート52の回転を停止させ易くなるため、ディテントプレート52が揺動する時間は短くなる。一方、モータ部32に印加される電圧が低い場合、モータ部32の出力するトルクは小さくなり、モータ部32によってディテントプレート52の回転を停止させ難くなるため、ディテントプレート52が揺動する時間は長くなる。
【0045】
SBW−ECU13は、モータ部32の温度が低いほど、または、モータ部32に印加される電圧が高いほど、切替禁止時間の長さを短く設定する。一方、モータ部32の温度が高いほど、または、モータ部32に印加される電圧が低いほど、切替禁止時間の長さを長く設定する。本実施形態では、SBW−ECU13は、切替禁止時間の長さを、例えば0.5〜1.5秒の範囲の長さに設定する。
【0046】
本実施形態では、切替禁止時間が設定されている期間中は、自動変速機20のシフトレンジの新たな切り替えを禁止するため、ディテントプレート52が揺動している状態で、新たなシフトレンジの切り替え指示に伴うモータ部32の回転が開始されるのを防止することができる。これにより、短時間のうちにオープン駆動制御によるモータ部32の回転作動が繰り返されることで凹部61〜64の中心とディテントローラ53との位置ずれが徐々に大きくなるといった事態を回避することができる。
【0047】
また、本実施形態では、SBW−ECU13は、自動変速機20のシフトレンジの新たな切り替えを禁止している期間中(モータ部32がオープン駆動制御により回転駆動しているとき、および、切替禁止時間が設定されている期間中)、セレクタセンサ46から信号の出力があった場合、「自動変速機20のシフトレンジの新たな切り替えは禁止されていること」を示す文章あるいはマーク等を表示装置47に表示するとともに、統合ECU10に接続されたスピーカ48から「自動変速機20のシフトレンジの新たな切り替えは禁止されていること」を示す音声またはブザー音等を発する。ここで、SBW−ECU13、統合ECU10、表示装置47およびスピーカ48は、特許請求の範囲における「通知手段」として機能する。
【0048】
次に、SBW−ECU13がオープン駆動制御を行うとき、すなわち、エンコーダ34が異常なときのSBW−ECU13の一作動例について、図5に基づき説明する。図5は、エンコーダ34が異常なときにSBW−ECU13が実行する一連の処理フロー(S100)を示す図である。当該処理フローS100は、エンコーダ34の異常を検出したことをきっかけとして開始される。
【0049】
S101では、SBW−ECU13は、運転者からのシフトレンジの切り替え要求があったか否かを判断する。具体的には、例えばセレクタセンサ46から信号が出力されたか否かにより、運転者からのシフトレンジの切り替え要求があったか否かを判断する。運転者からのシフトレンジの切り替え要求があったと判断した場合(S101:YES)、処理は、S102へ移行する。一方、運転者からのシフトレンジの切り替え要求がない場合(S101:NO)、処理は、図5に示す一連の処理フローS100の先頭、すなわち、S101に戻る。つまり、SBW−ECU13は、運転者からのシフトレンジの切り替え要求があるまで、S101の処理を繰り返す。
【0050】
S102では、SBW−ECU13は、シフトレンジは切り替え中であるか否かを判断する。具体的には、例えばモータ部32への電力の供給状況に基づき、モータ部32が回転駆動中か否かを判断することで、シフトレンジが切り替え中であるか否かを判断する。シフトレンジは切り替え中であると判断した場合(S102:YES)、処理は、S105へ移行する。一方、シフトレンジは切り替え中でないと判断した場合(S102:NO)、処理は、S103へ移行する。
【0051】
S103では、SBW−ECU13は、シフトレンジ切り替え後に設定された切替禁止時間内であるか否かを判断する。「シフトレンジ切り替え後に設定された切替禁止時間」とは、後述するS104の処理によるシフトレンジの切り替え後に設定される所定の長さの時間である。切替禁止時間内であると判断した場合(S103:YES)、処理は、S105へ移行する。一方、切替禁止時間内でないと判断した場合(S103:NO)、処理は、S104へ移行する。
【0052】
S104では、SBW−ECU13は、オープン駆動制御によりモータ部32を回転駆動することで、目標レンジとなるよう自動変速機20のシフトレンジを切り替える。S104の後、処理は、図5に示す一連の処理フローS100の先頭、すなわち、S101に戻る。なお、S104の処理により自動変速機20のシフトレンジが目標レンジに切り替わったとき(モータ部32の回転駆動が停止したとき)、SBW−ECU13は、切替禁止時間を設定する。ここで、SBW−ECU13は、温度センサ81および電圧センサ82からの信号に基づき、切替禁止時間の長さを設定する。
【0053】
S105では、SBW−ECU13は、運転者からシフトレンジの切り替え要求があった場合、当該要求を拒絶し、運転者に「自動変速機20のシフトレンジの新たな切り替えは禁止されていること」を通知する。具体的には、セレクタセンサ46から信号の出力があった場合、「自動変速機20のシフトレンジの新たな切り替えは禁止されていること」を示す文章あるいはマーク等を表示装置47に表示するとともに、スピーカ48から「自動変速機20のシフトレンジの新たな切り替えは禁止されていること」を示す音声またはブザー音等を発する。S105の後、処理は、図5に示す一連の処理フローS100の先頭、すなわち、S101に戻る。
【0054】
このように、図5に示す一連の処理フローS100は、SBW−ECU13がオープン駆動制御によりモータ部32を回転駆動するとき、すなわち、エンコーダ34の異常を検出したとき、繰り返し実行される処理である。つまり、オープン駆動制御を行っているとき、エンコーダ34の異常が検出されなくなったら、図5に示す一連の処理フローS100を抜け、以降、フィードバック駆動制御によりモータ部32を回転駆動する。
【0055】
以上説明したように、本実施形態では、SBW−ECU13は、エンコーダ34の異常を検出した場合、レンジセレクタ45のセレクタセンサ46から信号の出力があると、オープン駆動制御手段によりロータ37を回転駆動し、当該回転駆動により自動変速機20のシフトレンジが目標レンジに切り替わった後、所定の期間である切替禁止時間を設定し、当該切替禁止時間が設定されている期間中、自動変速機20のシフトレンジの新たな切り替えを禁止する。そのため、ディテントプレート52が揺動している状態で、新たなシフトレンジの切り替え指示に伴うモータ部32の回転が開始されるのを抑制することができる。これにより、短時間のうちにオープン駆動制御手段によりモータ部32の回転作動が繰り返されることで凹部61〜64とディテントスプリング53との位置ずれが徐々に大きくなるといった事態を抑制することができる。したがって、本実施形態では、エンコーダ34に異常が生じても、目標レンジと切り替え後のシフトレンジとがずれるのを抑制することができる。
なお、SBW−ECU13による自動変速機20のシフトレンジの新たな切り替えを禁止する手段としては、例えば、「切替禁止時間が設定されている期間中、セレクタセンサ46からの信号を受け付けない(無視する)」、あるいは、「切替禁止時間が設定されている期間中、目標レンジが決定されてもモータ部32のロータ37を回転駆動しない」といった手段が考えられる。
【0056】
また、本実施形態では、切替禁止時間は、自動変速機20のシフトレンジが目標レンジに切り替わった後、ディテントプレート52の揺動が収束すると想定される最大時間以上の長さである。これにより、ディテントプレート52が揺動している状態で、新たなシフトレンジの切り替え指示に伴いモータ部32が回転し始める事態を確実に回避することができる。すなわち、本実施形態では、シフトレンジが目標レンジに切り替わった後、ディテントプレート52の揺動が確実に停止した(ディテントスプリング53が凹部61〜64の中心に位置した)状態で、新たなシフトレンジの切り替えが可能となる。これにより、凹部61〜64とディテントスプリング53との位置ずれが徐々に大きくなることで、シフトレンジが目標レンジとは異なるレンジに切り替わるフェイタルモードに陥るのを防止することができる。したがって、本実施形態では、エンコーダ34に異常が生じても、目標レンジと切り替え後のシフトレンジとがずれるのを確実に防止することができる。
【0057】
また、本実施形態は、モータ部32の温度を検出可能な温度センサ81をさらに備えている。そして、本実施形態では、SBW−ECU13は、温度センサ81により検出した温度に基づき切替禁止時間の長さを設定する。シフトレンジが目標レンジに切り替わった後、ディテントプレート52が揺動する時間の長さは、ディテントプレート52に関連する部品の部品公差、モータ部32の制御精度、および、環境温度等の環境条件等により変動する。例えば、モータ部32の温度が低い場合、モータ部32の出力するトルクは大きくなり、モータ部32によってディテントプレート52の回転を停止させ易くなるため、ディテントプレート52が揺動する時間は短くなる。一方、モータ部32の温度が高い場合、モータ部32の出力するトルクは小さくなり、モータ部32によってディテントプレート52の回転を停止させ難くなるため、ディテントプレート52が揺動する時間は長くなる。本実施形態では、温度センサ81により検出したモータ部32の温度に基づき切替禁止時間の長さを設定することで、切替禁止時間が必要以上に長く設定されるのを回避することができる。したがって、シフトバイワイヤシステム3の商品性を維持することができる。
【0058】
また、本実施形態は、モータ部32に印加される電圧を検出可能な電圧センサ82をさらに備えている。そして、本実施形態では、SBW−ECU13は、電圧センサ82により検出した電圧に基づき切替禁止時間の長さを設定する。上述のように、シフトレンジが目標レンジに切り替わった後、ディテントプレート52が揺動する時間の長さは、ディテントプレート52に関連する部品の部品公差、モータ部32の制御精度、および、環境温度等の環境条件等により変動する。例えば、モータ部32に印加される電圧が高い場合、モータ部32の出力するトルクは大きくなり、モータ部32によってディテントプレート52の回転を停止させ易くなるため、ディテントプレート52が揺動する時間は短くなる。一方、モータ部32に印加される電圧が低い場合、モータ部32の出力するトルクは小さくなり、モータ部32によってディテントプレート52の回転を停止させ難くなるため、ディテントプレート52が揺動する時間は長くなる。本実施形態では、電圧センサ82により検出したモータ部32に印加される電圧に基づき切替禁止時間の長さを設定することで、切替禁止時間が必要以上に長く設定されるのを回避することができる。したがって、シフトバイワイヤシステム3の商品性を維持することができる。
【0059】
また、本実施形態では、SBW−ECU13は、エンコーダ34の異常を検出した場合、セレクタセンサ46から信号の出力があるとオープン駆動制御手段によりロータ37を回転駆動し、当該回転駆動の開始から、自動変速機20のシフトレンジが目標レンジに切り替わるまでの期間中、自動変速機20のシフトレンジの新たな切り替えを禁止する。これにより、オープン駆動制御手段によるモータ部32の回転中に、新たなシフトレンジの切り替え指示に伴うモータ部の急激な逆回転が生じることはない。その結果、凹部61〜64とディテントスプリング53とが位置ずれするのを防止することができる。
【0060】
また、本実施形態は、SBW−ECU13により自動変速機20のシフトレンジの切り替えが禁止されている期間中、セレクタセンサ46から信号の出力があった場合、「自動変速機20のシフトレンジの新たな切り替えは禁止されていること」を運転者に通知可能な通知手段(表示装置47、スピーカ48)をさらに備えている。これにより、SBW−ECU13により自動変速機20のシフトレンジの新たな切り替えが禁止されている期間中にレンジセレクタ45の操作を行った運転者に対し、「自動変速機20のシフトレンジの新たな切り替えは禁止されていること」を認識させることができ、運転者の混乱を抑制することができる。
【0061】
(他の実施形態)
本発明の他の実施形態では、SBW−ECU13および統合ECU10は、制御部(SBW−ECU13)により自動変速機のシフトレンジの新たな切り替えが禁止されている期間中、「自動変速機20のシフトレンジの新たな切り替えは禁止されていること」を示す文章あるいはマーク等を表示装置47に表示することとしてもよい。これにより、SBW−ECU13により自動変速機20のシフトレンジの新たな切り替えが禁止されている期間中、「自動変速機20のシフトレンジの新たな切り替えは禁止されていること」を運転者に予め認識させることができ、運転者の混乱を抑制することができる。なお、ここで、SBW−ECU13、統合ECU10および表示装置47は、特許請求の範囲における「表示手段」として機能する。
【0062】
また、本発明の他の実施形態では、SBW−ECU13は、自動変速機20のシフトレンジの切り替えを禁止している期間中(モータ部32がオープン駆動制御により回転駆動しているとき、および、切替禁止時間が設定されている期間中)、セレクタセンサ46から信号の出力があっても、表示装置47に何ら表示することなく、スピーカ48から何ら発しないこととしてもよい。すなわち、本発明の他の実施形態は、「通知手段」を備えていなくてもよい。
【0063】
また、本発明の他の実施形態では、SBW−ECU13は、切替禁止時間の長さを、温度センサ81または電圧センサ82のうち一方からの信号に基づき、設定することとしてもよい。または、SBW−ECU13は、切替禁止時間の長さを、温度センサ81または電圧センサ82からの信号に基づくことなく、所定の値に設定することとしてもよい。この場合、温度センサ81(温度検出手段)および電圧センサ82(電圧検出手段)を備えていなくてもよい。なお、この場合、切替禁止時間の長さは、「自動変速機20のシフトレンジが目標レンジに切り替わった後、ディテントプレート52の揺動が収束(停止)すると想定される最大時間以上の長さ」に設定することが望ましい。
【0064】
また、上述の実施形態では、SBW−ECU13は、エンコーダ34の異常を検出した場合、レンジセレクタ45のセレクタセンサ46から信号の出力があると、オープン駆動制御によりロータ37を回転駆動し、当該回転駆動の開始から、自動変速機20のシフトレンジが目標レンジに切り替わるまでの期間中、自動変速機20のシフトレンジの新たな切り替えを禁止する例を示した。これに対し、本発明の他の実施形態では、SBW−ECU13は、エンコーダ34の異常を検出した場合、レンジセレクタ45のセレクタセンサ46から信号の出力があると、オープン駆動制御によりロータ37を回転駆動し、当該回転駆動の開始から、自動変速機20のシフトレンジが目標レンジに切り替わるまでの期間中、自動変速機20のシフトレンジの新たな切り替えを禁止しないこととしてもよい。
【0065】
また、本発明の他の実施形態では、ディテントプレートの凹部は、いくつ形成されていてもよい。すなわち、本発明を適用可能な自動変速機のレンジの数は4つに限らない。
本発明によるシフトバイワイヤシステムは、上述の実施形態と同様に「P」、「R」、「N」、「D」の4ポジションを切り替える無段変速機(CVT)やHV(ハイブリッド車)の自動変速機(A/T)の他、「P」または「notP」の2ポジションを切り替えるEV(電気自動車)もしくはHVのパーキング機構等のレンジ切替に用いることもできる。
このように、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0066】
3 ・・・・シフトバイワイヤシステム
13 ・・・SBW−ECU(制御部、目標レンジ決定手段、フィードバック駆動制御手段、オープン駆動制御手段、異常検出手段)
20 ・・・自動変速機
32 ・・・モータ部
33 ・・・減速部
34 ・・・エンコーダ
35 ・・・ステータ
37 ・・・ロータ
39 ・・・出力軸
45 ・・・レンジセレクタ(シフト選択手段)
52 ・・・ディテントプレート
53 ・・・ディテントローラ(規制部)
55 ・・・ディテントスプリング
61、62、63、64 ・・・凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転者により操作されるシフト選択手段からの信号に応じて自動変速機のシフトレンジを切り替えるシフトバイワイヤシステムであって、
ステータ、および、当該ステータに対し相対回転可能に設けられるロータを有するモータ部と、
前記ロータの回転を減速して出力する出力軸を有する減速部と、
前記ロータの回転に応じてパルス信号を出力するエンコーダと、
複数の凹部を有し、前記出力軸に接続するよう設けられることで前記モータ部により回転駆動されるディテントプレートと、
規制部を有し、当該規制部が複数の前記凹部のいずれかに嵌り込むことで前記ディテントプレートの回転を規制することにより、前記自動変速機のシフトレンジを固定可能なディテントスプリングと、
前記シフト選択手段からの信号に基づき目標レンジを決定する目標レンジ決定手段と、
前記エンコーダからのパルス信号のカウント値であるパルス信号カウント値に基づき前記ステータに対する前記ロータの回転位置を検出しつつ前記モータ部の通電相を順次切り替えることで前記ロータを目標回転位置まで回転駆動するフィードバック駆動制御手段と、
前記エンコーダからのパルス信号にかかわらず前記モータ部の通電相を順次切り替え、当該通電相の切り替え回数のカウント値である切替回数カウント値に基づき前記ロータを目標回転位置まで回転駆動するオープン駆動制御手段と、
前記フィードバック駆動制御手段または前記オープン駆動制御手段により前記ロータを回転駆動することで、前記目標レンジ決定手段により決定した前記目標レンジとなるよう前記自動変速機のシフトレンジを切り替える制御部と、
前記エンコーダの異常を検出する異常検出手段と、を備え、
前記制御部は、前記異常検出手段により前記エンコーダの異常を検出した場合、前記シフト選択手段から信号の出力があると前記オープン駆動制御手段により前記ロータを回転駆動し、当該回転駆動により前記自動変速機のシフトレンジが前記目標レンジに切り替わった後、所定の期間である切替禁止時間を設定し、当該切替禁止時間が設定されている期間中、前記自動変速機のシフトレンジの新たな切り替えを禁止することを特徴とするシフトバイワイヤシステム。
【請求項2】
前記切替禁止時間は、前記自動変速機のシフトレンジが前記目標レンジに切り替わった後、前記ディテントプレートの揺動が収束すると想定される最大時間以上の長さであることを特徴とする請求項1に記載のシフトバイワイヤシステム。
【請求項3】
前記モータ部の温度を検出可能な温度検出手段をさらに備え、
前記制御部は、前記温度検出手段により検出した温度に基づき前記切替禁止時間の長さを設定することを特徴とする請求項1または2に記載のシフトバイワイヤシステム。
【請求項4】
前記モータ部に印加される電圧を検出可能な電圧検出手段をさらに備え、
前記制御部は、前記電圧検出手段により検出した電圧に基づき前記切替禁止時間の長さを設定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のシフトバイワイヤシステム。
【請求項5】
前記制御部は、前記異常検出手段により前記エンコーダの異常を検出した場合、前記シフト選択手段から信号の出力があると前記オープン駆動制御手段により前記ロータを回転駆動し、当該回転駆動の開始から、前記自動変速機のシフトレンジが前記目標レンジに切り替わるまでの期間中、前記自動変速機のシフトレンジの新たな切り替えを禁止することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のシフトバイワイヤシステム。
【請求項6】
前記制御部により前記自動変速機のシフトレンジの新たな切り替えが禁止されている期間中、前記シフト選択手段から信号の出力があった場合、「前記自動変速機のシフトレンジの新たな切り替えは禁止されていること」を前記運転者に通知可能な通知手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のシフトバイワイヤシステム。
【請求項7】
前記制御部により前記自動変速機のシフトレンジの新たな切り替えが禁止されている期間中、「前記自動変速機のシフトレンジの新たな切り替えは禁止されていること」を表示する表示手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のシフトバイワイヤシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−96436(P2013−96436A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237057(P2011−237057)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】