説明

シリコン絶縁膜の形成方法

【課題】熱CVD法やALD法等によってシリコン絶縁膜を形成する際に、成膜温度を増加させることなく薄膜成長速度を増加させて生産性の向上が可能なシリコン絶縁膜の形成方法を提供する。
【解決手段】シリコン源としてアミノシラン化合物を用いるシリコン絶縁膜の形成方法であって、前記アミノシラン化合物は、分子内の全てのSi−NR(R及びRは、水素(H)又は炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状アルキル基)結合が、HSi−NR構造としたときの正規化双極子モーメントが1.37以上を有するとともに、分子内にアミノ基を3個有するトリスアミノ構造又は分子内にアミノ基を4個有するテトラキスアミノ構造を有することを特徴とするシリコン絶縁膜の形成方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン絶縁膜の形成方法に関するものであり、より具体的には、シリコン絶縁膜を形成するために使用される材料の種類及びシリコン絶縁膜の成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン絶縁膜は、シリコン半導体を始めとする各種の電子デバイスの製造において広く使用されている。このようなシリコン絶縁膜としては、シリコン窒化膜、シリコン炭化窒化膜、シリコン酸化膜、シリコン炭化酸化膜を挙げることができる。
【0003】
これらのシリコン絶縁膜の形成方法としては、シリコン含有化合物と、窒化源あるいは酸化源とを高温に加熱された基板に供給して薄膜を堆積させる熱CVD法や、シリコン含有化合物を基板表面に吸着させた後、窒化源あるいは酸化源を供給して薄膜を堆積させる原子層成長法(ALD法)が知られている(特許文献1〜4)。
【0004】
しかしながら、従来のシリコン含有化合物を用いたシリコン絶縁膜の形成方法では、一般に薄膜成長速度が遅く、生産性が低下するという課題があった。ここで、薄膜成長速度を向上させるためには成膜温度を上げる必要があるが、成膜温度の増加は、当該絶縁膜周辺に形成されているその他の材料層に対して電気特性劣化を引き起こす原因となる。このため、成膜温度の上昇出来る幅は、限定的であるという問題があった。
【0005】
具体的には、例えば、従来のシリコン含有化合物であるジクロルシランと、アンモニアとを用いた従来の熱CVD法によるシリコン窒化膜の成膜は、750℃程度の高温で形成されていた。
【0006】
一方、特許文献5には、基板を350℃以上、圧力80Torrでビスエチルアミノシランを用いることにより、シリコン窒化膜を高速で堆積させる方法が開示されている。しかしながら、特許文献5に開示された方法では、高圧条件による熱CVD法の場合、アミノシラン化合物同士の重合反応の寄与が高くなり、分子内の炭素が膜内に取り込まれるため、所望とする膜組成が得られない課題があった。したがって、電気特性を劣化させることなく、所望とする絶縁膜を形成するためには、成膜温度を500℃以下まで低温化させることが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2838464号公報
【特許文献2】特許第2972687号公報
【特許文献3】特開2003−282566号公報
【特許文献4】特開2010−103497号公報
【特許文献5】特開平6−132284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、熱CVD法やALD法等によってシリコン絶縁膜を形成する際に、成膜温度を増加させることなく薄膜成長速度を増加させて生産性の向上が可能なシリコン絶縁膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、シリコン源としてアミノシラン化合物を用いるシリコン絶縁膜の形成方法であって、
前記アミノシラン化合物は、分子内の全てのSi−NR(R及びRは、水素(H)又は炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状アルキル基)結合が、HSi−NR構造としたときの正規化双極子モーメントが1.37以上を有するとともに、分子内にアミノ基を3個有するトリスアミノ構造又は分子内にアミノ基を4個有するテトラキスアミノ構造を有することを特徴とするシリコン絶縁膜の形成方法である。
【0010】
請求項2にかかる発明は、前記アミノシラン化合物とアンモニアとを混合することにより、シリコン窒化膜を形成することを特徴とする請求項1に記載のシリコン絶縁膜の形成方法である。
【0011】
請求項3にかかる発明は、成膜対象である基板に前記アミノシラン化合物を曝した後、前記基板をアンモニア、窒素、又はアンモニアと窒素との混合物、あるいはこれらのプラズマ流体に曝すことにより、シリコン窒化膜を形成することを特徴とする請求項1に記載のシリコン絶縁膜の形成方法である。
【0012】
請求項4にかかる発明は、前記アミノシラン化合物と、酸素、オゾン又は亜酸化窒素とを混合することにより、シリコン酸化膜を形成することを特徴とする請求項1に記載のシリコン絶縁膜の形成方法である。
【0013】
請求項5にかかる発明は、成膜対象である基板に前記アミノシラン化合物を曝した後、前記基板を酸素、オゾン、亜酸化窒素、又はこれらの2以上の混合物、あるいはこれらのプラズマ流体に曝すことにより、シリコン酸化膜を形成することを特徴とする請求項1に記載のシリコン絶縁膜の形成方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のシリコン絶縁膜の形成方法によれば、熱CVD法やALD法等によってシリコン絶縁膜を形成する際に、成膜温度を増加させることなく薄膜成長速度を増加させて生産性の向上が可能なシリコン絶縁膜の形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を適用した一実施形態であるシリコン絶縁膜の形成方法に適用可能な熱CVD装置の一例を示す系統図である。
【図2】本発明を適用した一実施形態であるシリコン絶縁膜の形成方法に適用可能な熱CVD装置の他の例を示す系統図である。
【図3】本発明を適用した一実施形態であるシリコン絶縁膜の形成方法に適用可能な熱CVD装置の他の例を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した実施の形態であるシリコン絶縁膜の形成方法について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0017】
本発明のシリコン絶縁膜の形成方法は、成膜対象となる基板の表面に、シリコン窒化膜、シリコン炭化窒化膜、シリコン酸化膜、シリコン炭化酸化膜等のシリコン絶縁膜を形成する際に、シリコン源として下記に示す2つの特性を有するアミノシラン化合物を用いることを特徴とするものである。
【0018】
<アミノシラン化合物>
先ず、本発明に適用可能なアミノシラン化合物の1つ目の特性は、当該アミノシラン化合物の分子内の全てのSi−NR結合が、シリル基(HSi)−アミノ基(NR)構造としたときの正規化双極子モーメントが1.37以上のものであることである。なお、アミノシラン化合物は、固体であると不適切であるため、上記R及びRは、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状アルキル基である。
【0019】
アミノシラン化合物は、当該アミノシラン化合物の分子内のアミノ基を介して成膜対象となる基板の表面に吸着する。ここで、アミノシラン化合物の基板への吸着性は、双極子モーメントの大きさを指標として評価することが出来る。また、アミノシラン化合物の分子内のアミノ基の、個別の双極子モーメントは、シリル基とアミノ基とが結合した化合物を設定して分子化学計算することにより、簡略化された計算によって求めることが出来る。
【0020】
上記シリル基とアミノ基の結合した化合物は、一般式(HSi−NR)として表現することができる。なお、上記一般式中のRとRは、水素(H)又は炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状アルキル基である。具体的には、以下に示す化合物(1)〜(28)を挙げることが出来る。
【0021】
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

【化20】

【化21】

【化22】

【化23】

【化24】

【化25】

【化26】

【化27】

【化28】

【0022】
上記化合物(1)〜(21)の名称は、(1)アミノシラン、(2)メチルアミノシラン、(3)エチルアミノシラン、(4)プロピルアミノシラン、(5)イソプロピルアミノシラン、(6)ブチルアミノシラン、(7)ターシャリブチルアミノシラン、(8)ジメチルアミノシラン、(9)エチルメチルアミノシラン、(10)メチルプロピルアミノシラン、(11)イソプロピルメチルアミノシラン、(12)ブチルメチルアミノシラン、(13)メチルターシャリブチルアミノシラン、(14)ジエチルアミノシラン、(15)エチルプロピルアミノシラン、(16)エチルイソプロピルアミノシラン、(17)エチルブチルアミノシラン、(18)エチルターシャリブチルアミノシラン、(19)ジプロピルアミノシラン、(20)イソプロピルプロピルアミノシラン、(21)ブチルプロピルアミノシラン、(22)プロピルターシャリブチルアミノシラン、(23)ジイソプロピルアミノシラン、(24)イソプロピルブチルアミノシラン、(25)イソプロピルターシャリブチルアミノシラン、(26)ジブチルアミノシラン、(27)ブチルター者リブチルアミノシラン、(28)ジターシャリブチルアミノシランである。
【0023】
シリル基とアミノ基とが結合した上記化合物(1)〜(28)の双極子モーメントは、市販の分子化学計算プログラムを用いることにより計算することが可能である。ここで、市販の分子化学計算プログラムとしては、例えば、Gaussian社より提供されているGaussian09を挙げることが出来る。
【0024】
上記計算プログラムGaussian09を用いて密度汎関数法(B3LYP/cc−pVDZ)で計算した結果を下記の表1に示す。なお、表1に記載の正規化双極子モーメントは、ジメチルアミノシラン(HSi−N(CH)を基準として求めた。
【0025】
【表1】

【0026】
ここで、本発明に適用可能なアミノシラン化合物の、分子内のアミノ基の正規化双極子モーメントは、1.37以上であることを要する。上記正規化双極子モーメントが1.37未満であると、基板表面への吸着特性が低下するために好ましくない。これに対して、上記正規化双極子モーメントが1.37以上であると、基板への吸着特性が向上するために好ましい。
【0027】
アミノシラン化合物を用いたシリコン絶縁膜形成反応では、アミノシラン化合物が基板に化学吸着した後、窒化源や酸化源との反応を経て薄膜形成が進行する。従って、成膜速度は、アミノシランの基板への化学吸着性に強く依存する。この化学吸着性は、反応の活性化エネルギーと反応確率とにより表現されるが、反応確率はアミノシラン化合物の基板表面での滞在時間に強く依存するものであり、これは物理吸着性に起因した特性となる。従って、アミノシラン化合物が基板表面に吸着する特性が向上することは、アミノシラン化合物の基板表面における滞在時間が長くなるため、基板表面の反応サイトとの反応確率を増加させる効果があり、直接的に成膜速度向上に寄与する。成膜速度は、分子内アミノ基の正規化双極子モーメントが1.37以上の場合に比較して優位に向上するものであり、1.37以下の場合は、優位に成膜速度を向上させることは出来ない。
【0028】
なお、アミノシラン化合物の分子内のアミノ基の全てについて、正規化双極子モーメントが1.37以上であることを要する。
【0029】
本発明に適用可能なアミノシラン化合物の特性は、当該アミノシラン化合物の分子内にアミノ基を3個有するトリスアミノ構造(SiH(NR)又は分子内にアミノ基を4個有するテトラキスアミノ構造(Si(NR)を有することである。
【0030】
ここで、基板表面への吸着特性はアミノ基が起点となるため、分子内のアミノ基の数が多いことは、成膜速度向上に寄与する。また、成膜速度は、分子内アミノ基の正規化双極子モーメントが1.37以上かつ同アミノ基の数が3以上となる場合に、それ以下の場合と比較して優位に向上するものである。
【0031】
このように、正規化双極子モーメントが1.37以上かつアミノ基数が3以上のアミノシラン化合物、すなわち、その分子内にアミノ基を3個有するトリスアミノ構造(SiH(NR)又は分子内にアミノ基を4個有するテトラキスアミノ構造(Si(NR)を有するアミノシラン化合物を用いることにより、反応確率を増加させることが可能となるため、成膜温度を増加させることなく、成膜速度を向上させることが可能となる。
【0032】
本発明に適用可能なアミノシラン化合物、すなわち、分子内の全てのSi−NR結合が、シリル基(HSi)−アミノ基(NR)構造としたときの正規化双極子モーメントが1.37以上のものであり、その分子内にアミノ基を3個有するトリスアミノ構造(SiH(NR)又は分子内にアミノ基を4個有するテトラキスアミノ構造(Si(NR)を有するものの具体例としては、例えば、以下の化合物(29)〜(32)を挙げることが出来る。
【0033】
【化29】

【化30】

【化31】

【化32】

【0034】
上記アミノシラン化合物(29)〜(32)の名称は、(29)トリスエチルアミノシラン、(30)トリスイソプロピルアミノシラン、(31)テトラキスエチルアミノシラン、(32)テトラキスイソプロピルアミノシランである。
【0035】
本発明のシリコン絶縁膜の形成方法によれば、シリコン絶縁膜を形成する際に、分子内の全てのSi−NR結合が、HSi−NR構造としたときの正規化双極子モーメントが1.37以上を有するとともに、分子内にアミノ基を3個有するトリスアミノ構造又は分子内にアミノ基を4個有するテトラキスアミノ構造を有するアミノシラン化合物を用いることにより、成膜対象となる基板の表面に効率よく吸着させることができる。これにより、シリコン絶縁膜を形成する際に成膜温度を増加させることなく薄膜成長速度を増加することができるため、生産性を向上することができる。
【0036】
<第1の実施形態>
本発明を適用した第1実施形態のシリコン絶縁膜の形成方法は、シリコン絶縁膜を熱CVD法により形成するものである。図1は、本実施形態のシリコン絶縁膜の形成方法に適用可能な熱CVD装置の構成を示す系統図である。また、図1中の符号1は熱CVD装置、符号2はシリコン源、符号3はチャンバー、符号4はステージ、符号5は基板、符号6は真空排気装置をそれぞれ示している。さらに、熱CVD装置1には、シリコン源2からチャンバー3への経路には、液体流量制御装置7及び気化装置8が設けられており、図示略の窒素源又は酸素源からチャンバー3への経路には気体流量制御装置9が設けられており、チャンバー3から真空排気装置6への経路には圧力計10及び圧力制御装置11が設けられている。
【0037】
図1に示す熱CVD装置1を用いてシリコン窒化膜を形成する場合について説明する。先ず、シリコン源2に液体として貯留されている本発明に適用可能なアミノシラン化合物を気化装置8によってガス化させた後、窒素源であるアンモニア(NH)を伴った流体としてチャンバー3内に供給する。ここで、チャンバー3内には、ステージ4上に400℃以上に加熱された基板5が載置されている。そして、チャンバー3内にアミノシラン化合物とアンモニアとが混合された気体を供給することにより、基板5の表面にシリコン窒化膜を形成することができる。
【0038】
また、図1に示す熱CVD装置1を用いてシリコン酸化膜を形成する場合には、上記窒素源に代えて酸素源として酸素、オゾン又は亜酸化窒素を用いる。そして、シリコン窒化膜を形成する場合と同様に、アミノシラン化合物をガス化させた後、酸素源を伴った流体としてチャンバー3内に供給することにより、基板5の表面にシリコン酸化膜を形成することができる。
【0039】
以上説明したように、本実施形態のシリコン絶縁膜の形成方法によれば、上述したアミノシラン化合物と、窒素源又は酸素源とを混合することにより、成膜温度を増加させることなく、早い薄膜成長速度でシリコン窒化膜を形成することができる。
【0040】
<第2実施形態>
本発明を適用した第2実施形態のシリコン絶縁膜の形成方法について、以下に説明する。図2及び図3は、本実施形態のシリコン絶縁膜の形成方法に適用可能な熱CVD装置の構成を示す系統図である。ここで、図2に示す熱CVD装置21は、チャンバー3に高周波電源23と接続されたプラズマ発生装置22が設けられている点、図3に示す熱CVD装置31は、窒素源又は酸素源からチャンバー3への経路に遠隔プラズマ発生装置32が設けられている点において、図1に示す熱CVD装置1と異なっており、その他の構成要素については同一である。
【0041】
図2及び図3に示す熱CVD装置21,31を用いてシリコン窒化膜又はシリコン酸化膜を形成する場合について説明する。先ず、シリコン源2内の液体状アミノシラン化合物を気化装置8によりガス化させてチャンバー3内に供給する。ここで、チャンバー3内には、ステージ4上に100℃以上に加熱された基板5が載置されている。そして、チャンバー3内に気化されたアミノシラン化合物を供給して、基板5の表面に吸着させる。
【0042】
次に、チャンバー3内の基板5に、窒化源又は酸化源、或いはそれらのプラズマ活性流体を供給することで、先に基板5の表面に吸着させたアミノシラン化合物と反応させる。これにより、基板5の表面にシリコン窒化膜又はシリコン酸化膜を形成することが出来る。
【0043】
本実施形態のシリコン絶縁膜の形成方法では、上記第1実施形態においてアミノシラン化合物と窒素源又は酸素源とを混合した状態でチャンバー3内の基板5に供給するのに対して、アミノシラン化合物と窒素源又は酸素源とを混合させない状態でそれぞれチャンバー3内の基板5に交互に供給する。このように、初めに、基板にアミノシラン化合物を吸着させ、その後、アンモニアを基板へ供給することにより、吸着したアミノシランのみを窒化させることができる。すなわち、基板に吸着したアミノシラン化合物と、後から供給された窒素源又は酸素源とを反応させて絶縁膜を形成することができる。
【0044】
本実施形態の窒化源としては、アンモニア、窒素、又はアンモニアと窒素との混合物、あるいはこれらのプラズマ流体(プラズマ活性流体)を用いることができる。
また、酸素源としては、酸素、オゾン、亜酸化窒素、又はこれらの2以上の混合物、あるいはこれらのプラズマ流体を用いることができる。
【0045】
窒素源又は酸素源の、プラズマ活性流体の供給方法としては、図2に示す熱CVD装置21のように、基板5の配置されたチャンバー3内においてプラズマ発生装置22によって形成して供給しても良いし、図3に示す熱CVD31のように、チャンバー3の外部の窒素源又は酸素源の供給経路に遠隔プラズマ発生装置32を配置し、このプラズマ源によって活性化させた流体のダウンフローを基板5の表面に供給してもよい。
【0046】
以上説明したように、本実施形態のシリコン絶縁膜の形成方法によれば、成膜対象である基板5に上述したアミノシラン化合物を曝した後、基板5を窒素源又は酸素源あるいはこれらのプラズマ流体に曝すことにより、シリコン窒化膜又はシリコン酸化膜を形成する構成となっている。これにより、上述した第1実施形態のシリコン絶縁膜の形成方法と同様に、成膜温度を増加させることなく、早い薄膜成長速度でシリコン窒化膜を形成することができるという効果が得られる。
【0047】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上述した実施形態の方法によって形成されたシリコン絶縁膜には、成膜条件によってアミノシラン化合物中に存在する炭素が含まれる。ここで、炭素のシリコン絶縁膜へのドーピング量に関しては、アミノシラン化合物の供給流量、窒素源又は酸素源との濃度比、成膜温度等の各種成膜条件によって制御することが可能である。
【0048】
さらには、アミノシラン化合物と窒素源又は酸素源とに加え、エチレン等の不飽和炭化水素ガスを添加することによって、より積極的に炭素のシリコン絶縁膜へのドーピング量を増加させることも出来る。
【0049】
以下、具体例を示す。
<実施例1>
(高双極子モーメント且つトリス/テトラキスアミノ構造の優位性を示すシリコン窒化膜の形成例)
正規化双極子モーメントが1.37以上となるSi−NR型のアミノシラン化合物について、分子内のアミノ基数が2個(ビス型)、3個(トリス型)、4個(テトラキス型)のそれぞれの化合物について、アンモニアと混合して基板に供給することにより、シリコン窒化膜を形成した。
【0050】
アミノシラン化合物の供給は、アミノシラン化合物の充てんされた容器内の気相部を、0.2(MPaG)のHeガスで加圧することにより、アミノシラン化合物の液体を成膜装置チャンバーに繋がる配管に押し出すと共に、液体気化装置によりアミノシラン化合物を気化して行った。その後、アンモニアと混合した。アミノシラン化合物とアンモニアとの混合気体は、400℃から500℃に加熱された処理基板が設置された、圧力133Pa以下、望ましくは、50Pa以下の圧力に制御された真空チャンバーに供給した。
【0051】
各アミノシラン化合物は、ビスターシャリブチルアミノシラン[SiH(NH(t−C))]、ビスイソプロピルアミノシラン[SiH(NH(i−C))]、トリスイソプロピルアミノシラン[SiH(NH(i−C))]、テトラキスイソプロピルアミノシラン[S(NH(i−C))]とした。形成されたシリコン窒化膜の膜質については、エリプソメトリーにより膜厚と屈折率とを測定した。膜質の測定結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2に示すように、屈折率については、各化合物の間で差はなかった。また、同じビス構造を有するビスターシャリブチルアミノシランとビスイソプロピルアミノシランとの成膜速度もほぼ一致した値となった。
これに対して、分子内にアミノ基を3つ有するトリスイソプロピルアミノシランは、ビス構造を有するアミノシラン化合物との成膜速度比が1.5倍速くなった。
さらに、分子内にアミノ基を4つ有するテトラキスイソプロピルアミノシランでは、ビス構造を有するアミノシラン化合物との成膜速度比が2.1倍速くなった。
【0054】
ところで、ビスターシャリブチルアミノシランは、現在、半導体装置の量産製造に用いられている化合物である。上記化合物のアミノ基の正規化双極子モーメントは1.37以上であるが、この化合物に代えて、アミノ基の双極子モーメントが高い物質であってトリス型およびテトラキス型のアミノシラン化合物を用いることにより、シリコン窒化膜の膜質を変えることなく、生産性を大幅に改善可能であることが確認された。
【0055】
また、高双極子モーメントを有するアミノ基の3〜4置換体のアミノシラン化合物を用いることによる高速成膜は、シリコン窒化膜の形成に限られるものではなく、同様に、基板の処理表面における反応により薄膜形成されるシリコン酸化膜形成にも用いることが出来るものである。
【0056】
<実施例2>
実施例1のアミノシラン化合物について、原子層成長法(ALD法)によりシリコン酸化膜を形成した。酸化源としては、亜酸化窒素を用い、同ガスを真空チャンバー内でプラズマ化させて200℃に加熱された処理基板へ供給した。形成した酸化膜について、エリプソメトリーにより膜厚と屈折率を測定した。膜質測定結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
表3に示すように、屈折率については、実施例1と同様、各化合物の間で差はなかった。また、同じビス構造を有するビスターシャリブチルアミノシランとビスイソプロピルアミノシランとの成膜速度は、後者の化合物の方が若干低下した。
これに対して、分子内にアミノ基を3つ有するトリスイソプロピルアミノシランは、ビス構造を有するアミノシラン化合物との成膜速度比が1.3倍速くなった。
さらに、分子内にアミノ基を4つ有するテトラキスイソプロピルアミノシランでは、ビス構造を有するアミノシラン化合物との成膜速度比が1.9倍速くなった。
【0059】
これらの傾向は、実施例1と同様であり、高双極子モーメントを有するアミノ基の3〜4置換体のアミノシラン化合物を用いることによる高速成膜は、熱CVD法に限られるものではなく、同様に、基板処理表面における反応により薄膜形成される原子層成長法(ALD法)にも用いることが出来ることが確認された。
【0060】
<比較例1>
従来技術にかかるアミノシラン化合物として、トリスジメチルアミノシラン[SiH(N(CH]、ビスジエチルアミノシラン[SiH(N(C]、ビスターシャリブチルアミノシラン[SiH(NH(t−C))]の3化合物について、実施例1と同様の方法により、シリコン窒化膜を形成した。各アミノシラン化合物により形成されたシリコン窒化膜の膜質については、エリプソメトリーにより膜厚と屈折率とを測定した。膜質の測定結果を表4に示す。
【0061】
【表4】

【0062】
表4に示すように、屈折率については、各化合物の間で差はないものの、成膜速度はトリスジメチルアミノシランの成膜速度を1とした場合に、ビスジエチルアミノシランは1.5、ビスターシャリブチルアミノシランは6.3となった。
トリスジメチルアミノシランは、分子内に3個のアミノ基を有するトリス構造であるが、当該アミノ基の正規化双極子モーメントが1.0と低いため、成膜速度が低いことがわかった。
ビスジエチルアミノシラン及びビスターシャリブチルアミノシランは、分子内に2個のアミノ基を有するビス構造であるが、ビスジエチルアミノシランの正規化双極子モーメントが1.173と低いのに対して、ビスターシャリブチルアミノシランの正規化双極子モーメントが1.395と高いため、両化合物間の成膜速度には大きな違いが確認された。
【符号の説明】
【0063】
1,21,31・・・熱CVD装置
2・・・シリコン源
3・・・チャンバー
4・・・ステージ
5・・・基板
6・・・真空排気装置
22・・・プラズマ発生装置
32・・・遠隔プラズマ発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン源としてアミノシラン化合物を用いるシリコン絶縁膜の形成方法であって、
前記アミノシラン化合物は、分子内の全てのSi−NR(R及びRは、水素(H)又は炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状アルキル基)結合が、HSi−NR構造としたときの正規化双極子モーメントが1.37以上を有するとともに、分子内にアミノ基を3個有するトリスアミノ構造又は分子内にアミノ基を4個有するテトラキスアミノ構造を有することを特徴とするシリコン絶縁膜の形成方法。
【請求項2】
前記アミノシラン化合物とアンモニアとを混合することにより、シリコン窒化膜を形成することを特徴とする請求項1に記載のシリコン絶縁膜の形成方法。
【請求項3】
成膜対象である基板に前記アミノシラン化合物を曝した後、前記基板をアンモニア、窒素、又はアンモニアと窒素との混合物、あるいはこれらのプラズマ流体に曝すことにより、シリコン窒化膜を形成することを特徴とする請求項1に記載のシリコン絶縁膜の形成方法。
【請求項4】
前記アミノシラン化合物と、酸素、オゾン又は亜酸化窒素とを混合することにより、シリコン酸化膜を形成することを特徴とする請求項1に記載のシリコン絶縁膜の形成方法。
【請求項5】
成膜対象である基板に前記アミノシラン化合物を曝した後、前記基板を酸素、オゾン、亜酸化窒素、又はこれらの2以上の混合物、あるいはこれらのプラズマ流体に曝すことにより、シリコン酸化膜を形成することを特徴とする請求項1に記載のシリコン絶縁膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−8828(P2013−8828A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140377(P2011−140377)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】