説明

ターゲット物質含有液体の製造方法、ターゲット物質を含有する薄膜の形成方法、ターゲット物質含有液体

【課題】 ターゲット物質の歩留りを向上させ、無駄なく簡単に薄膜を形成するためのターゲット物質含有液体の製造方法、ターゲット物質を含有する薄膜の形成方法、ターゲット物質含有液体を提供する。
【解決手段】 ターゲットを用いたプラズマスパッタリング法を用い、前記ターゲットが配置された処理室と同一の処理室内に配置された液体材料に向けてターゲット物質をスパッタリングすることにより、前記ターゲット物質を前記液体材料中に分散させることを特徴とするターゲット物質含有液体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な用途に利用することができるプラズマスパッタリング法を用いたターゲット物質含有液体の製造方法、ターゲット物質を含有する薄膜の形成方法、ターゲット物質含有液体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、FED(Field Emission Display:電界放出ディスプレイ)等の電子放出素子として、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバー等の炭素系材料が注目されている。
これらの炭素系材料の形成には、炭素系材料の成長を促進するために触媒層が用いられる。具体的には、基板上に金属薄膜を形成し、熱処理をして金属薄膜の一部を微粒子化することで触媒層を形成する。そして、触媒層上に炭素系材料を形成する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、触媒層となる金属薄膜の形成には、プラズマスパッタリング法がよく用いられる。プラズマスパッタリング法とは、ターゲットにイオン化したスパッタリングガスを衝突させ、ターゲット物質をはじき飛ばし、はじき飛ばされたターゲット物質を堆積させる方法である。
【0004】
プラズマスパッタリング法で金属薄膜を形成する場合、基板上面全面に金属薄膜を形成することになる。しかし、金属薄膜が必要な範囲は、基板上面の一部(炭素材料を形成する範囲のみ)であるため、スパッタリング後、所望の形状にパターニングする必要がある。
つまり、プラズマスパッタリング法で金属薄膜を形成した場合、金属薄膜を形成する必要がない範囲にまで金属薄膜を形成することとなり、ターゲット物質の歩留りが低下するという問題が生じる。
加えて、触媒層を形成する場合、炭素系材料を形成する毎にプラズマスパッタリング法を用いて金属薄膜を形成しなければならず、製造工程が煩雑となる。
【0005】
また、炭素系材料の触媒層として金属薄膜を形成する場合に限らず、プラズマスパッタリング法を用いて薄膜を形成する際は、他の用途に用いる場合も、ターゲット物質の歩留りの低下・製造工程の煩雑さという問題が生じる。
【0006】
【特許文献1】特開2001−220674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、ターゲット物質の歩留りを向上させ、無駄なく簡単に薄膜を形成するためのターゲット物質含有液体の製造方法、ターゲット物質を含有する薄膜の形成方法、ターゲット物質含有液体を提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、ターゲットを用いたプラズマスパッタリング法を用い、前記ターゲットが配置された処理室と同一の処理室内に配置された液体材料に向けてターゲット物質をスパッタリングすることにより、前記ターゲット物質を前記液体材料中に分散させることを特徴とするターゲット物質含有液体の製造方法に関する。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記ターゲット物質がアルミニウム、ニッケル、鉄、コバルト、タングステン、イットリウム、パラジウム、白金のいずれか一種以上から構成されていることを特徴とする請求項1記載のターゲット物質含有液体の製造方法に関する。
【0010】
請求項3に係る発明は、前記スパッタリング法がマグネトロンスパッタであることを特徴とする請求項1又は2記載のターゲット物質含有液体の製造方法に関する。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3いずれか記載のターゲット物質含有液体を対象物表面に塗布することにより、前記対象物表面に前記ターゲット物質を含有する薄膜を形成することを特徴とするターゲット物質を含有する薄膜の形成方法に関する。
【0012】
請求項5に係る発明は、前記薄膜が炭素系材料の触媒層であることを特徴とする請求項4記載のターゲット物質を含有する薄膜の形成方法に関する。
【0013】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至3いずれか記載の方法で製造されたターゲット物質含有液体に関する。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、ターゲットを用いたプラズマスパッタリング法を用い、前記ターゲットが配置された処理室と同一の処理室内に配置された液体材料に向けてターゲット物質をスパッタリングすることにより、前記ターゲット物質を前記液体材料中に分散させることで、微粒子状、分子状又は原子状のターゲット物質を含有するターゲット物質含有液体を得ることができる。ターゲット物質含有液体は、塗布するだけでターゲット物質を含有する薄膜を形成することができるため、無駄なく簡単に薄膜を形成することができ、歩留りも向上させることができる。
【0015】
請求項2に係る発明によれば、前記ターゲット物質がアルミニウム、ニッケル、鉄、コバルト、タングステン、イットリウム、パラジウム、白金のいずれか一種以上から構成されていることにより、カーボンナノチューブ等の炭素系材料を形成するための触媒層の形成に好適に利用することができる。
【0016】
請求項3に係る発明によれば、前記スパッタリング法がマグネトロンスパッタであることにより、迅速にターゲット物質含有液体を製造することができる。
【0017】
請求項4に係る発明によれば、請求項1乃至3いずれか記載のターゲット物質含有液体を対象物表面に塗布することにより、前記対象物表面にターゲット物質を含有する薄膜を形成することで、ターゲット物質を含有する薄膜を得ることができる。当該薄膜はターゲット物質含有液体を塗布するだけで形成されているため、無駄なく簡単に薄膜を形成することができ、歩留りも向上させることができる。
【0018】
請求項5に係る発明によれば、前記薄膜が炭素系材料の触媒層であることにより、無駄なく簡単に触媒層を形成することができるので、容易に炭素系材料の形成を行うことができる。
【0019】
請求項6に係る発明によれば、請求項1乃至3いずれか記載の方法で製造されたターゲット物質含有液体であることにより、塗布するだけでターゲット物質を含有する薄膜を形成することができるので、無駄なく簡単に当該薄膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
まず、本発明のターゲット物質含有液体の製造方法の実施形態について説明する。
本実施形態に係るターゲット物質含有液体の製造方法は、プラズマスパッタリング法を用いて液体材料中にターゲット物質を分散させる方法である。
【0021】
図1は、本実施形態に係る製造方法に用いるプラズマスパッタリング装置(以下、単にスパッタリング装置と称す)の一例を示す概略構成図である。
図1に示すスパッタリング装置(M1)は、真空処理室(1)内にターゲット(2)を有している。そして、真空処理室(1)内部にはスパッタリングガスが導入され、電源(3)でDC電圧を印加することにより、スパッタリングガスをイオン化する。
また、真空処理室(1)内には、ターゲット(2)と対向する位置に液体材料収容皿(4)が配置されており、液体材料収容皿(4)内部に液体材料(5)が収容されている。
なお、スパッタリング装置(M1)は永久磁石(6)を有するマグネトロンスパッタリング装置である。また、真空処理室(1)は、ロータリーポンプ(共に図示せず)により真空排気される。
【0022】
スパッタリング装置(M1)では、イオン化されたスパッタリングガスがターゲット(2)に衝突することにより、ターゲット物質がはじき飛ばされる。そして、はじき飛ばされたターゲット物質が、液体材料(5)中に飛散し、液体材料中に均一に分散して、ターゲット物質含有液体を得ることができる。このとき、ターゲット物質は微粒子、分子又は原子の状態(具体的には、FE-SEM(電界放射型走査電子顕微鏡)を用い10万倍以上の倍率でみても識別できないほどの大きさになることが多い)で液体材料中に分散する。
【0023】
液体材料としては、真空処理室内で気化しない低蒸気圧のものであれば特に限定されず、各種オイル等を挙げることができる。液体材料として用いることができるオイルとしては、ロータリーポンプに使用されるオイル等を挙げることができる。
また、水銀、臭素等でもよい。また、有機のカチオンとアニオンを用いて室温で液体となる塩(所謂常温溶融塩又はイオン液体と称されるもの)を用いてもよい。
【0024】
ターゲット物質としては、スパッタリング装置(M1)でスパッタすることができるものであれば特に限定されない。
例えば、アルミニウム、ニッケル、鉄、コバルト、タングステン、イットリウム、パラジウム、白金又はその合金等の金属を使用することができる。これら金属をターゲット物質として用いて液体材料(5)中に分散させることにより、得られたターゲット物質含有液体はカーボンナノチューブ等の炭素系材料を成長させるための触媒として好適に利用することができる。
また、セラミックスやガラス等の絶縁物を液体材料(5)中に分散させることもできる。
【0025】
スパッタリング法としては、本実施形態のようなマグネトロンスパッタリング法が好ましい。マグネトロンスパッタリング法を用いることにより、所望のターゲット物質含有液体を迅速に得ることができる。
スパッタリングガスとしては特に限定されないが、アルゴン等の不活性ガス、酸素、不活性ガスと酸素の混合ガス等を挙げることができる。
なお、本実施形態では、電源(4)としてDC電源を用いているが、RF電源を用いてもよい。
また、ターゲットによっては(例えば金を用いる場合等)、永久磁石(6)は用いなくてもよい。
【0026】
上記方法で得られたターゲット物質含有液体を、対象物表面の所望の場所に塗布することでターゲット物質を含有する薄膜(以下、ターゲット物質薄膜と称す)を得ることができる。
ターゲット物質薄膜の形成は、ターゲット物質含有液体を塗布するだけでよいため、パターニング等をしなくても所望の場所にのみターゲット物質薄膜を形成することができる。そのため、容易且つ無駄なくターゲット物質薄膜を形成することができ、ターゲット物質の歩留りも向上させることができる。
また、ターゲット物質含有液体の製造において、一回のスパッタリングで、複数のターゲット物質薄膜を形成することができるだけの量を製造することができる。そのため、ターゲット物質薄膜形成ごとにスパッタリングを行う必要がなく、作業を簡略化することができる。
さらに、ターゲット物質含有液体は保存することもできるので、予めターゲット物質含有液体を製造しておくこともできる。これにより、ターゲット物質薄膜形成直前にスパッタリング等を行ってターゲット物質含有液体を製造する必要がないため、ターゲット物質薄膜の形成をより簡単に行うことができる。
【0027】
なお、ターゲット物質が分散している液体材料は、用途に応じて適宜蒸発・炭化させてもよい。
【0028】
(ターゲット物質含有液体の用途について)
以下、上記実施形態で説明したターゲット物質含有液体の用途について説明する。
まず、カーボンナノチューブ等の炭素系材料を形成する際の触媒層としての用途について説明する。
この場合、ターゲット物質として、アルミニウム、ニッケル、鉄、コバルト、タングステン、イットリウム、パラジウム、白金又はその合金等を用いてターゲット物質含有液体を製造する。そして、当該ターゲット物質含有液体を基板等に塗布することで、触媒層(ターゲット物質薄膜)を形成する。
このように触媒層を形成することにより、塗布したところのみ触媒層が形成される(ターゲット物質が存在する)こととなる。そのため、パターニング等をする必要がなく、容易且つ無駄なく触媒層を形成することができる。
また、ターゲット物質含有液体を用いた触媒層は、塗布した直後にターゲット物質が微粒子、分子又は原子の状態となっているため、従来のように熱処理をして金属薄膜を微粒子化するといった工程も不要となる。
さらに、カーボンナノチューブ等の炭素系材料を形成する際は、高温(具体的には800℃以上)でアニリングするため、液体材料は昇温過程で蒸発又は炭化する。そのため、液体材料が、高温で形成される炭素系材料に影響を与えることは殆どない。
【0029】
また、ターゲット物質含有液体は金属配線を形成する材料としても使用することができる。
この場合、ターゲット物質として金等を用いる。そして、金属配線を形成したい場所にターゲット物質含有液体を塗布し、液体材料を蒸発させる。それにより、ターゲット物質のみが残存し、金属配線となる。
【0030】
また、ターゲット物質含有液体は、樹脂等の高分子に含有するフィラーとしても使用することができる。
具体的には、モノマーの状態の高分子にターゲット物質含有液体を混合することで、高分子にターゲット物質がフィラーとして含有されることになる。モノマーの状態の高分子にターゲット物質含有液体を混ぜることにより、高分子にターゲット物質(フィラー)を均一に混在させることができる。
高分子にターゲット物質含有液体を混合する場合のターゲット物質としては炭素を挙げることができる。炭素を含有させることにより、高分子に導電性をもたせ、帯電防止膜等に利用することができる。
【0031】
また、ターゲット物質として酸化チタンを含有させたターゲット物質含有液体を塗布し、液体材料を蒸発させることにより薄膜を形成してもよい。酸化チタンは日光或いは蛍光灯等の紫外線等と反応し光触媒として機能し、空気の浄化、脱臭、抗菌の効果を奏する。そのため、酸化チタンを含有するターゲット物質含有液体は、これらの効果を奏するコーティング薄膜の形成に利用することができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。
(実施例1)
実施例1では、DCスパッタリング装置としてサンユー電子株式会社製Quick Coater SC-701HMCの平行平板電極を用いて、ターゲット物質含有液体を製造する。なお、本実施例1で用いたDCスパッタリング装置は、図1のスパッタリング装置(M1)のように永久磁石(6)を有していない。
液体材料としてロータリーポンプオイル(アルバック機工製 純正真空ポンプ油 SO-M/合成油)を、液体材料収容皿(4)としてガラスシャーレ(72mmφ)を用いた。そして、液体材料収容皿(4)に10ml(深さ約2.5mm)の液体材料を収容した。
また、ターゲット(2)のターゲット物質としては金(Au)(ターゲットの厚さ0.3mm)を、スパッタリングガスとしてはアルゴンガスを用い、成膜圧力は15Paとした。ターゲット(2)には電源(3)により、1kV,5mAの直流電力を投入した。
【0033】
以下に、実施例1のターゲット物質含有液体の製造方法の詳細について記載する。
(i)液体材料(ロータリーポンプオイル)10mlを試験管に入れ、油回転ポンプを用いて30分間予備真空排気し、液体材料に含まれる空気や水分を予め排気する。
(ii)予備排気した液体材料を液体材料収容皿(4)に入れて真空処理室(1)内の試料台上に載置する。
(iii)真空処理室(1)内を真空排気する。このとき、液体材料の様子を目視確認し、気泡が大量に発生しないよう、手動排気バルブを用いて調整する。
(iv)開閉蓋に取り付けたピラニ真空計(アネルバ製 MPG-011)の表示が3Pa以下の真空度に達した後、スパッタリング装置の使用方法にしたがって「ガス置換」の操作を3回行う。再度3Pa以下の真空度に達した後、ガス流量調整バルブを開けArガスを流し、ピラニ真空計が圧力15Paになるように調整する。
(v)放電電圧を印加して放電スパッタリングを開始する。このとき、電流を5mAに設定する(電圧は約1kVとなる)。また、スパッタリングは60〜300秒間行う。
(vii)液体材料収容皿(4)を取り出し、液体材料(ターゲット物質含有液体)を試験管に回収する。
【0034】
スパッタリング直後、金は液体材料表面近傍に浮遊するが、攪拌することにより液体材料中に均一に分散した赤銅色のターゲット物質含有液体となった。
【0035】
図2は、スパッタリング・攪拌後のターゲット物質含有液体について、分光器を用い、光のスペクトルを測定した結果を示す図であり、(a)が60秒、(b)が120秒、(c)が180秒、(d)が300秒スパッタリングを行ったターゲット物質含有液体を示す。
図3は、スパッタリング・攪拌後のターゲット物質含有液体を示す図であり、(a)がスパッタリングを行っていない液体(0秒)、(b)が60秒、(c)が120秒、(d)が180秒スパッタリングを行ったターゲット物質含有液体を示す。
【0036】
図2,3に示すように、スパッタリングの時間が長くなることにより、透過率が低下している。時間と共に透過率が低下することからも、ターゲット物質が液体全体に均一に分散していることがわかる。
また、300秒スパッタリングしたターゲット物質含有液体をシリコン基板に塗布し、350℃でアニールして液体を蒸発させた後、FE-SEM(電界放射型走査電子顕微鏡)で観察した場合、何ら形状や構造は確認できなかったが、EDS(エネルギー分散型X線スペクトル装置)でスペクトルを測定したところ、金のピークが検出された。つまり、金が基板表面に存在することが確認され、その大きさはFE-SEMの限界(最大20万倍程度、分解能3nm程度)以下であることが確認された。
【0037】
(実施例2)
次いで、ターゲット物質としてニッケルを用いてターゲット物質含有液体を製造し、当該ターゲット物質含有液体を用いてカーボンナノチューブを形成することができるか実証した。
ターゲット物質含有液体の製造には、ターゲット物質としてニッケル(純度99%以上、51mmφ×0.1mmt)を用いた。また、実施例1からサンユー電子(株)製 Quick Coater SC-701HMCのターゲットホルダー(陰極)を交換して、平行平板スパッタリング法から(永久磁石(6)を有する)マグネトロンスパッタリング法に変更した。
また、スパッタリング条件としては、成膜圧力を3Pa、ターゲット(2)への投入電力を400V,20mAの直流電力とした。
その他の条件は実施例1と同じである。
【0038】
以下に、実施例2のターゲット物質含有液体の製造方法の詳細について記載する。
(i)液体材料(ロータリーポンプオイル)10mlを試験管に入れ、油回転ポンプを用いて30分間予備真空排気し、液体材料に含まれる空気や水分を予め排気する。
(ii)DCスパッタリング装置に液体材料を入れず、10分間放電し、ターゲットの表面を清浄化する。放電条件はスパッタリング条件(後述の(v)(vi)と同じ手順と条件)とした。
(iii)予備排気した液体材料を液体材料収容皿(4)に入れて真空処理室(1)内の試料台上に載置する。
(iv)真空処理室(1)内を真空排気する。このとき、液体材料の様子を目視確認し、気泡が大量に発生しないよう、手動排気バルブを用いて調整する。
(v)開閉蓋に取り付けたピラニ真空計(アネルバ製 MPG-011)の表示が2Pa以下の真空度に達した後、スパッタリング装置の使用方法にしたがって「ガス置換」の操作を3回行う。再度2Pa以下の真空度に達した後、ガス流量調整バルブを開けArガスを流し、ピラニ真空計が圧力3Paになるように調整する。
(vi)放電電圧を印加して放電スパッタリングを開始する。電流を20mAに設定し、電圧は約400Vとなる。1時間スパッタリングを行った後、2時間放電を停止して真空排気したまま放置して油を冷却、その後また1時間スパッタリングを行うという作業を4回繰り返し、合計スパッタリング時間4時間とする。
(vii)液体材料収容皿(4)を取り出し、液体材料(ターゲット物質含有液体)を試験管に回収する。
【0039】
図4はスパッタリング前後の液体材料(又はターゲット物質含有液体)の写真であり、(a)がスパッタリング前、(b)がスパッタリング後を示す。
図4に示すように、スパッタリング後のターゲット物質含有液体は黄褐色に着色している。つまり、液体材料中にニッケルが分散していることがわかる。
【0040】
上記した製造方法により製造されたニッケルが分散したターゲット物質含有液体を触媒として用い、カーボンナノチューブを形成した。
図5はカーボンナノチューブの形成のための成長炉を示す概略図である。
図5に示す成長炉は、外径約40mmφ、内径約35mmφの透明石英管(11)をセラミック管状炉(12)(株式会社アサヒ理化製作所製のセラミックス電気管状炉ARF-40KC)内部に通し、石英管(11)内部にアルミナボート(13)を設置して、試料台として使用したものである。また、熱電対(T.C.)で透明石英管(11)内部の温度を計測し、セラミック管状炉(12)のヒーター(14)により加熱・温度調整を行った。
キャリアガスとしてアルゴンガスを供給するためのガス供給系(15)、カーボンナノチューブ合成の原料ガスとしてエタノール蒸気を供給するためのガス供給系(16)により、アルゴンガス及びエタノール蒸気を透明石英管(11)に供給した。
【0041】
以下に、カーボンナノチューブの形成方法の詳細について記載する。
(i)シリコン(Si)ウエハを1cm×1cmに切断しメタノールで洗浄して基板(17)とし、ニッケルが分散したターゲット物質含有液体を基板(17)に塗布し、成長炉内のアルミナボート(13)に載置する。
(ii)成長炉をポンプ(18)(アルバックULVAC DAU-20)で真空排気した後、成長炉内にアルゴンガスを流量100sccm供給する。成長炉内の圧力はクリスタル真空計(19)(アネルバ製 クリスタルゲージ M-320XG)の表示値で3〜4kPaに維持した。成長炉の温度を350℃まで昇温し150分間維持することで、液体材料の油分を蒸発又は分解する。それにより、基板(17)表面の端部にニッケルからなる付着物(薄膜)が残留する。なお、付着物は基板(17)の端部に偏析するが、これは基板(17)と液体材料の親和性が悪いため、基板(17)表面で液体材料がはじかれたからだと考えられる。他の材料の基板を使用するか、親和性を向上する表面処理を行うことにより、基板表面(17)全体に付着物が残留することとなる。
(iii)エタノールを封入した容器を50℃に加熱し、エタノール蒸気を流量130〜170sccmで成長炉に流入させる。このときの成長炉内のエタノールガスの圧力はクリスタルゲージの表示値で400〜500Paに維持する。そして、成長炉の温度を800℃まで昇温し15分間維持して、カーボンナノチューブを形成する。カーボンナノチューブ形成後、成長炉のヒーターを止めて室温に戻す。
【0042】
図6はカーボンナノチューブを形成後の基板(17)を示す写真である。
図7,8は基板(17)端部(図6の左下端)をFE-SEM(電界放射型走査電子顕微鏡)で観察した拡大写真であり、図7が5000倍、図8が20000倍の倍率で拡大したものである。
図6で示されるように、基板(17)表面全体は、炭素薄膜が形成されることにより黒く変色した。
また、図7,8で示されるように、ニッケルからなる付着物が残留した端部では、直径数10nm、長さ1μm以上の繊維状物質(カーボンナノチューブ)が一面に付着しているのが観察された。
実施例2から、本発明のターゲット物質含有液体は、カーボンナノチューブの触媒として、好適に利用できることわかる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、炭素系材料の触媒、金属配線、フィラー含有高分子、コーティング薄膜等、様々な用途に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本実施形態に係る製造方法に用いるプラズマスパッタリング装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】ターゲット物質として金を用いたターゲット物質含有液体について光のスペクトルを測定した結果を示す図である。
【図3】ターゲット物質として金を用いたターゲット物質含有液体を示す図である。
【図4】実施例2のスパッタリング前後の液体材料(又はターゲット物質含有液体)の写真である。
【図5】カーボンナノチューブの形成のための成長炉を示す概略図である。
【図6】カーボンナノチューブを形成後の基板を示す写真である。
【図7】基板端部をFE-SEM(電界放射型走査電子顕微鏡)で観察した拡大写真である。
【図8】基板端部をFE-SEM(電界放射型走査電子顕微鏡)で観察した拡大写真である。
【符号の説明】
【0045】
1 真空処理室
2 ターゲット
5 液体材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットを用いたプラズマスパッタリング法を用い、
前記ターゲットが配置された処理室と同一の処理室内に配置された液体材料に向けてターゲット物質をスパッタリングすることにより、
前記ターゲット物質を前記液体材料中に分散させることを特徴とするターゲット物質含有液体の製造方法。
【請求項2】
前記ターゲット物質がアルミニウム、ニッケル、鉄、コバルト、タングステン、イットリウム、パラジウム、白金のいずれか一種以上から構成されていることを特徴とする請求項1記載のターゲット物質含有液体の製造方法。
【請求項3】
前記スパッタリング法がマグネトロンスパッタであることを特徴とする請求項1又は2記載のターゲット物質含有液体の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか記載のターゲット物質含有液体を対象物表面に塗布することにより、前記対象物表面に前記ターゲット物質を含有する薄膜を形成することを特徴とするターゲット物質を含有する薄膜の形成方法。
【請求項5】
前記薄膜が炭素系材料の触媒層であることを特徴とする請求項4記載のターゲット物質を含有する薄膜の形成方法。
【請求項6】
請求項1乃至3いずれか記載の方法で製造されたターゲット物質含有液体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−131558(P2010−131558A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311612(P2008−311612)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(505044451)ソナック株式会社 (107)
【出願人】(509093026)公立大学法人高知工科大学 (95)
【Fターム(参考)】