説明

ディーゼルエンジンシステム及びディーゼルエンジンシステムの冷却方法

【課題】 過給機を冷却するために燃費が悪化するという事態を抑制できるエコラン対応のディーゼルエンジンシステムを提案する。
【解決手段】 過給機23を備えたディーゼルエンジン11において、前記過給機23の温度が所定温度以上となる前記ディーゼルエンジンの運転状態から該ディーゼルエンジンの自動停止条件が成立したときに、前記過給機23を強制的に冷却する冷却手段1、4を含むディーゼルエンジンシステムである。本システムによると、過給機23の冷却のためにディーゼルエンジン11をアイドル状態に維持する必要がなくなるので、エコランによる自動停止条件が満足したときにエンジンを速やかに停止できる。よって、過給機の冷却のために燃費が悪化するという事態を確実に抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は過給機を備えたディーゼルエンジンのシステムに関し、特に自動停止自動始動を行ういわゆるエコランシステムを採用しているディーゼルエンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にディーゼルエンジン(以下、単にエンジンと称する)は、過給機を備えている。過給機は排気ガスでタービンを回してコンプレッサを駆動することで、多量の吸気をエンジンへ供給する装置である。この過給機は高温の排気に晒されているため過給機自身や周辺の排気系部品が高温となる。そのため高温状態のままでエンジンを止めてしまうと、エンジンによって駆動されていた潤滑油ポンプ(図示せず)も停止する。このため、過給機に供給されていた潤滑油が熱せられて炭化(コーキングとも称される)してエンジンを含むシステムに深刻な損傷を与えてしまう。そこで、車両が高負荷で走行して過給機の温度が所定温度以上となっているときはエンジンを直ぐに停止することなく、充分なアイドリングを行うことで過給機の温度を下げて上記問題が生じないようにしている。
【0003】
ところで、近年、燃費の向上、排気ガスの低減等を図るという観点から、信号待ちや荷物の積み下ろしで車両が所定時間以上アイドル状態となる場合に、エンジンを自動停止させ、さらに運転者のクラッチ操作等でエンジンを自動的に始動させるシステム(以下、単にエコランと称す)が注目されている。ところが、過給機を備えたエンジンに単にエコランを適用してしまうと、過給機を冷却することが必要なときにもエンジンが自動停止されてしまうので前述した問題が発生する。そこで、特許文献1はこれに対処する技術を提案する。
【0004】
特許文献1は、エコランを採用しても過給機を保護できるエンジン自動停止装置を提案している。この自動停止装置は過給機の温度を検出して、検出した温度が所定値を越える場合にはエンジンの自動停止を禁止する。すなわち、この自動停止装置は過給機の温度が所定値を越えるとエコランによるエンジンの自動停止を禁止して過給機を保護するものである。
【0005】
さらに特許文献2は、上記特許文献1の自動停止装置が有する問題を改善した技術を提案する。特許文献1の自動停止装置は過給機が高温のときにエコランの起動を一時的に禁止するが、過給機の温度が低下するとエコランが起動するのでエンジンが自動停止する。よって、通常より遅いタイミングでエンジンが自動停止される。このようにエンジン停止のタイミングがずれると乗員が違和感を持つことになる。そこで、特許文献2の制御装置は、過給機の温度が低下してもエンジンが不意に自動停止しないように構成して、乗員に違和感を持たせないように改善している。
【0006】
【特許文献1】特開平9−42003号公報
【特許文献2】特開2002−276411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び特許文献2で提案する装置では、十分なアイドル運転を行って過給機を冷却させた後にエンジが停止される。特に、特許文献2の装置の場合には、乗員が違和感を持たないように停止タイミングを調整するので、エンジン停止までにさらに時間を要することになる。
【0008】
しかしながら、そもそもエコランを採用する目的の一つは上記のように燃費を向上させることである。過給機冷却のためにエンジンの停止時期を遅らせることは、燃費の悪化を招くのでエコランを採用しているメリットが薄れてしまう。
【0009】
したがって、本発明の目的は、過給機を冷却するために燃費が悪化するという事態を抑制できるエコラン対応のディーゼルエンジンシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、過給機を備えたディーゼルエンジンにおいて、前記過給機の温度が所定温度以上となる前記ディーゼルエンジンの運転状態から該ディーゼルエンジンの自動停止条件が成立したときに、前記過給機を強制的に冷却する冷却手段を含むディーゼルエンジンシステムによって達成される。
【0011】
本発明によると、過給機の温度が所定温度以上となるようなディーゼルエンジンの運転状態(車両の高負荷走行など)から自動停止条件が成立したときには、冷却手段が過給機を強制的に冷却する。よって、過給機の冷却のためにディーゼルエンジンをアイドル状態に維持する必要がなくなるので、エコランによる自動停止条件が満足したときにエンジンを速やかに停止できる。したがって、このディーゼルエンジンシステムは過給機の冷却のために燃費が悪化するという事態を確実に抑制できる。
【0012】
そして、前記冷却手段は、前記ディーゼルエンジンと前記過給機とを接続する空間内に前記過給機を冷却する液体を噴射する液体噴射手段と、該液体噴射手段の駆動を制御する制御手段とを含んで形成できる。また、前記冷却手段は、前記過給機の外部から該過給機を冷却する液体を噴射する液体噴射手段と、該液体噴射手段の駆動を制御する制御手段とを含んで形成することもできる。
【0013】
また、前記ディーゼルエンジンの回転数を検出する回転数検出手段をさらに備え、前記制御手段は、前記回転数検出手段によって検出される前記回転数が所定範囲内にあるときに前記液体噴射手段を駆動して前記液体を噴射して、該液体を前記過給機まで供給するように設定しておくことが好ましい。そして、前記過給機の温度を推定する温度推定手段と、該温度推定手段で推定された前記温度に基づいて前記液体の必要添加量を算出する添加量算出手段とをさらに備え、前記制御手段は、前記添加量算出手段が算出した前記必要添加量に対応して、1回または複数回で前記必要添加量を噴射するように前記液体噴射手段を制御するようにしてもよい。そして、前記制御手段は、前記必要添加量を複数回に分けて噴射するときに初回の噴射量がその後の噴射量より多くなるように前記液体噴射手段を駆動することがより望ましい。
【0014】
また、前記ディーゼルエンジンの排気通路に排気浄化用のフィルタと、該フィルタの機能維持の処理に用いる燃料添加弁が設置されており、前記液体噴射手段として、前記燃料添加弁が使用されるように形成すると構成を簡素化できる。
【0015】
さらに、上記目的は、過給機と、自動停止自動始動の機構を備えたディーゼルエンジンとを含むシステムの冷却方法であって、前記過給機の温度が所定温度以上となる前記ディーゼルエンジンの運転状態から該ディーゼルエンジンの自動停止条件が成立したときに、前記ディーゼルエンジンと前記過給機とを接続する空間内に前記過給機を冷却する液体を噴射することにより該過給機を冷却するディーゼルエンジンシステムの冷却方法によっても達成できる。そして、前記液体の噴射量が所定量よりも多くなるときに複数回に分けて噴射し、初回噴射量をその後の噴射量より多くすることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、冷却手段によって過給機を冷却できるので、エコランによるエンジン自動停止の時期が遅れるという事態を抑制できる。よって、過給機を備えるエコラン対応のディーゼルエンジンで燃費が悪化することを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。図1は、車両に搭載された状態でのディーゼルエンジン11(以下、単にエンジン11と称す)のシステムを示したブロック図である。エンジン11は4個の気筒12-1〜12-4を備えた4気筒エンジンである。図1の左から第1気筒12-1、第2気筒12-2、第2気筒12-2、第4気筒12-4となっている。各気筒12のそれぞれには燃料噴射用のインジェクタ13-1〜13-4が配置されている。図示しない燃料タンクに接続された燃料噴射ポンプ9からコモンレール14を介して各インジェクタ13-1〜13-4に燃料が供給されている。
【0018】
エンジン11には吸気マニホルド(インテークマニホルド)20が配設されている。この吸気マニホルド20は吸気通路21の下流に接続されている。吸気通路21に導入される吸気TAは、まずエアーフィルタ22、過給機23のコンプレッサ23a、インタークーラ24を介して吸気マニホルド20へと供給されている。インタークーラ24より下流の吸気通路2内にはスロットルバルブ8が配置されている。
【0019】
また、エンジン11の吸気マニホルド20の対向側には燃焼後の排気ガスEGを集合する排気マニホルド(エキゾーストマニホルド)30が配置されている。この排気マニホルド30には排気ガスを機外に放出するための排気通路31が接続されている。排気通路31は過給機23のタービン23b側を介して、排気ガス浄化用の排気浄化フィルタ33に接続されている。排気浄化フィルタ33には触媒34が担持されている。排気浄化フィルタ33の下流側には浄化済みの排気ガスEGを排出するための排気管35が接続されている。
【0020】
また、上記排気マニホルド30には排気ガスの一部を吸気側に還流して窒素酸化物(NOx)を低減する排気ガス再循環装置40(以下、単にEGR装置40という)の排気ガス循環通路41(以下、EGR通路41という)が接続されている。EGR通路41は、排気マニホルド30とスロットルバルブ8より下流の吸気通路21とを接続している。EGR通路41には、排気マニホルド30を出たEGRガス(排気ガス)を冷却するEGR用クーラ42及び吸気通路21へのEGRガスの還流量を調整するEGR用バルブ43が配置されている。上記EGR通路41、EGR用クーラ42及びEGR用バルブ43を含んでEGR装置40が形成される。
【0021】
図2は、上記排気マニホルド30及び過給機23周辺のより詳細な構成を説明するため図1の一部を拡大して示した図である。図2では、図1で図示を省略した液体噴射手段となる液体噴射ノズル4が示されている。液体噴射ノズル4は、液体が噴射される噴出口(吐出口)が排気マニホルド30内部に臨むように配置されている。液体噴射ノズル4は過給機23を冷却する液体を排気マニホルド30内に噴射する。液体噴射ノズル4から噴射された液体が、排気通路31を介して高温の過給機23に達すると気化する。この気化時の気化潜熱により過給機23が冷却される。
【0022】
液体噴射ノズル4は、排気マニホルド30と過給機23とを接続したときの内部の空間内に配置することができるが、図2で示すように噴射された液体が過給機23に向って流れ易いように排気通路31が接続される排気マニホルド30の接続部30aの周辺に設置することが望ましい。なお、前述したように排気マニホルド30にはEGR通路41も接続されている。吸気TA側に還流するEGRガスには上記噴射ノズル4からの液体を混入させないことが望ましい。そこで、図示のように排気マニホルド30に設ける排気通路31用の接続部30aとEGR通路41用の接続部30bとは、液体噴射ノズル4からの液体がEGR通路41へ侵入しない距離を確保して配置するのがよい。
【0023】
ところで、過給機23のタービン23bより下流の排気通路31に配置されている排気浄化フィルタ33に担持される触媒34として吸蔵還元型NOx触媒或いは酸化機能を有する触媒を採用できる。このような触媒を採用したときには吸蔵されたNOxを放出還元する処理、SOx被毒からの回復処理、フィルタに捕集されたパーティキュレートの酸化除去を行う処理(これらを総称してフィルタの機能維持の処理と称す)を行って、触媒作用を維持することが必要である。フィルタの機能維持処理のために触媒に還元剤が供給される。そして、還元剤を触媒に供給する技術として触媒上流から燃料を噴射するものがある。この技術を採用するときには、図2で示した液体噴射ノズル4が配置されている位置と同位置から還元剤として燃料を供給できる。
【0024】
よって、本実施例のエンジンシステムにフィルタの機能維持処理のために燃料噴射ノズル(燃料添加弁)を設ける場合には、この燃料噴射ノズルを上記液体噴射ノズル4として使用(兼用)できることになる。さらに、過給機23を冷却するために用いる液体として燃料を用いることとすれば、フィルタの機能維持のため構成をそのまま過給機の冷却用に使用できる。なお、前記燃料噴射ポンプ9に燃料制御弁51が接続されており、この燃料制御弁51に液体噴射ノズル4が接続されている。燃料制御弁51は燃料噴射ポンプ9と同様にECU1によって制御されている。ECU1によって液体噴射ノズル4から噴射させる燃料の1回分の噴射量、噴射回数等が制御される。
【0025】
なお、液体噴射ノズル4から噴射させる液体については燃料以外のもの、例えば水を採用することができる。液体は過給機23の熱で気化し、システムや排気ガスに悪影響を与えないものを適宜に選択して使用できる。
【0026】
また、液体噴射ノズル4は燃料噴射ノズルとは別に設けてもよい。例えば点線で変形例として示す液体噴射ノズル4aは、噴射口が排気通路31内に臨むように配置されており、過給機23のタービン23bに液体を直接、吹き付ける形態である。
【0027】
さらに、液体噴射ノズル4は過給機23の外部から液体を噴射するものでもよい。この点に関して液体噴射ノズル4の他の変形例として点線で液体噴射ノズル4bを示している。この液体噴射ノズル4bは、過給機23の外部に液体を吹きつける形態である。この液体噴射ノズル4bから噴射させる液体としてはウインドウォシャ液や水を使用できる。図2ではウインドウォシャ液52を使用する場合を例示している。この場合には、ウインドウォシャ液52を吐出させるポンプ53をECU1で駆動制御すればよい。
【0028】
再度、図1を参照してエンジン11を中心に形成したシステムの電気的な構成について説明する。このシステムにはエコランが適用されているので、エコランを実行するための構成が含まれている。本明細書では、エコランを行うための構成をアイドルストップ機構と称して説明する。このシステムはECU1(電子制御ユニット)によって全体的に制御されている。エンジン11の周部にはエンジン11の状態を検出するため、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサ2、クランクシャフトの回転角を検出するクランク角センサ3、排気ガスの温度を検出する排気温センサ37、排気浄化フィルタ33の出口温度を検出するフィルタ温センサ36が設置されている。また、車両の操作状態を確認するためブレーキペダル5aと連動したブレーキスイッチ5b、車速センサ6、アクセルペダル7aと連動したアイドルスイッチ7bが配置されている。上記複数のセンサやスイッチからの検出信号はECU1へ供給される。また、このシステムにはECU1によって駆動が制御されるスロットルバルブ8、燃料噴射ポンプ9、エンジンスタータ15及びエンジンスタータ15を駆動するバッテリ16を含んでいる。
【0029】
ECU1は複数のセンサやスイッチからエンジンの駆動状態を確認して、所定条件が整った場合にエンジン11のエコランの制御を開始する。ECU1によりアイドルストップ機構が駆動されたときの様子については後述する。
【0030】
ECU1にはマイクロコンピュータを中心として構成されており、内部のROM1aには、エンジンのアイドルストップ機構をなすエンジン自動停止プログラムやエンジン自動始動プログラムが格納されている。さらに、車両が高負荷走行した後に停車したときのように、過給機の温度が所定温度以上となるエンジン運転状態からエンジンの自動停止条件が成立したときに、液体噴射ノズル4を駆動して液体を噴射させる過給機冷却プログラムが格納されている。この過給機冷却プログラムはアイドルストップ機構が駆動されたことと関連して起動される。
【0031】
ここでアイドルストップ機構が駆動される条件(以下、エコラン開始条件という)について説明する。アイドルストップ機構をなすエンジンの自動停止プログラムは、(1)エンジンが暖機後であり、かつ、過熱していない状態(エンジン冷却水の水温Twが水温上限値Twmaxよりも低く、かつ、水温下限値Twminより高い)、(2)アクセルペダル7aが踏まれていない状態(アイドルスイッチ7b、オン)、(3)バッテリ16の充電量が基準電圧以上、(4)ブレーキペダル3aが踏み込まれている状態(ブレーキスイッチ5b、オン)、(5)車両が停止している状態である、ことを条件に自動的にエンジンを停止するように設定されている。
【0032】
ECU1はエンジン11の起動時から上記自動停止プログラムに基づいた制御を実行する。また、エンジン11が停止状態となった後には、ECU1はエンジン11の自動始動プログラムによる制御を開始する。(1)〜(5)の自動停止条件のうち1つでも満たしていなかった場合には、ECU1はエンジン始動制御を開始する。エンジン始動制御が開始されると、ECU1は燃料噴射量変更プログラムに基づく制御を開始する。ECU1はエンジンスタータ15に指令を出してエンジンスタータ15を駆動するとともに、スロットルバルブ8に指令を出してスロットルバルブ8を開く。また、ECU1は燃料噴射ポンプ9に対し燃料噴射の指令を行う。このときの噴射量は初期燃料噴射量Qで、この初期燃料噴射量Qは、ECU1内の書き換え可能なメモリに記憶されたものを読み込む。
【0033】
図3は、ECU1によって実行される過給機冷却のルーチンを示したフローチャートである。ECU1はエコランの自動停止条件を満たしているか否かの確認を行う(S101)。自動停止条件は前述した通りである。ECU1はエコラン条件を満たしていること確認すると、過給機23の温度Ttbを推定する。ECU1は浄化フィルタ下流に配置したフィルタ温センサ36、排気通路31に配置した排気温センサ37からの信号及び運転条件履歴などに基づいて、過給機23の温度Ttbを推定する(S102)。運転条件履歴としては、エンジン11の負荷状態が確認できるデータ等であって、過給機23の温度状態を推定できる種々の情報が含まれる。まお、このような運転条件履歴に関する情報は、ECU1内の書き換え可能なメモリに記憶しておけばよい。
【0034】
次のステップ103で、ECU1はステップ102で推定した過給機23の温度Ttbと所定値(所定温度)との比較を行う(S103)。このステップ103ではエンジン11を自動停止させてもよい温度まで、過給機23の温度が低下しているかを確認する。よって、ここでの所定値は直ぐにエンジン11を停止するとシステムに損傷を与える虞のある温度を基準にして設定される。この所定値よりも過給機23の温度Ttbが低いとECU1が判断した場合にはシステムに障害が発生する虞がない。よって、ECU1はここで本ルーチンによる処理を停止し、通常のとおりにアイドルストップ機構を駆動してエンジン11を自動停止させることになる。
【0035】
一方、ECU1がステップ103で過給機23の温度Ttbが所定値より高いと判断したときには、直ぐにエンジン11を停止するとシステムに障害が発生することが想定される。そこで、ECU1は過給機23を冷却する準備に入る。ここでは過給機23の冷却用に噴射する液体として燃料を使用する場合を例示している。
【0036】
ECU1は、過給機23の温度Ttbから燃料の必要添加量Qtbを算出する(S104)。ここで算出する必要添加量Qtbは、例えば過給機温度Ttbと必要添加量Qtbとの相関を予め測定して、この測定に基づいて作製した算出テーブルをROM1aに記憶していたものをECU1が読み出して使用する。
【0037】
つぎに、ECU1はクランク角センサ3からの信号に基づいて、エンジン11の回転数が所定範囲内であるか否かを確認する(S105)。すなわち、ECU1は噴射される燃料が過給機23へ確実に供給される範囲のエンジン回転数となっていることを確認してから燃料噴射を行う。このような条件を付することで冷却用に噴射した燃料が確実に過給機23まで到達する。
【0038】
さらに、ECU1はステップ104で算出した燃料の必要添加量Qtbが所定量よりも多いか否かを確認する(S106)。必要添加量Qtbが所定量以上である場合には一度に多量の燃料を噴射するよりも複数回に分けて噴射させた方が効率の良い冷却を行える。そこで、必要添加量Qtbが所定量未満である場合には、ECU1は液体噴射ノズル4を1回の駆動で燃料噴射を行い(S107)、本ルーチンによる処理を終了する。一方、必要添加量Qtbが所定量以上である場合には、ECU1は液体噴射ノズル4を複数回駆動させて燃料を複数回噴射して(S108)、本ルーチンによる処理を終了する。
【0039】
なお、ステップ106で1回の噴射とするか、複数回の噴射とするかの基準とする所定量については、燃料を噴射して過給機を冷却する試験を行って得たデータに基づいて定めればよい。また、所定量を越えた場合に何回に分けて噴射を行うのが効果的であるかについても測定し、必要添加量Qtbと回数とのテーブルを作成してROM1aに予め記憶しておけばよい。
【0040】
また、複数回に分けて燃料を噴射する場合には、必要添加量Qtbを単純に回数で割って等分の噴射を行うよりも、初回の噴射量を最も多くする場合の方が過給機23を効率的に冷却できる。第2回目以降の噴射については、順に噴射量を減らすようにしてもよいし、均等としてもよい。このようなデータのテーブルもROM1aに記憶しておけばよい。また、ステップ106では必要添加量Qtbと所定値との比較を行って噴射回数を定めているが、必要添加量Qtbに応じて噴射回数を予め設定しておいてもよい。例えば、必要添加量Qtbが所定範囲の場合は1回噴射、所定範囲から外れた場合は2回噴射等のように噴射回数を予め設定してもよい。さらに、噴射回数を複数とする場合の1回目及び2回目以降の噴射量を予め設定してもよい。このように必要添加量Qtbに応じて予め噴射回数や噴射量を設定しておけばステップ106で比較処理を行う必要がなくなる。このようなデータについてもテーブルを作成してROM1aに予め記憶しておけばよい。
【0041】
以上説明したエンジン11のシステムは、過給機23が高温となっている状態からエンジン自動停止条件の条件が成立したときに、液体を噴射して過給機23を強制的に冷却できるので、従来の装置のように過給機23が冷却するまでアイドル状態を維持する必要がない。よって、このシステムは過給機23の冷却のために燃費が悪化することを抑制できる。また、過給機23の液体噴射による冷却は短時間で完了するので、エコランによる自動停止条件を満足した後に速やかにエンジン11を停止できる。
【0042】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】車両に搭載された状態でのディーゼルエンジン11のシステムを示したブロック図である。
【図2】排気マニホルド及び過給機周辺のより詳細な構成を説明するため図1の一部を拡大して示した図である。
【図3】アイドルストップ機構が駆動されていることを前提に実行される過給機冷却のルーチンを示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0044】
1 ECU(制御手段)
1a ROM
3 クランク角センサ(回転数検出手段)
4 液体噴射ノズル(液体噴射手段)
11 ディーゼルエンジン
23 過給機
34 排気浄化用フィルタ
36 フィルタ温センサ
37 排気温センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過給機を備えたディーゼルエンジンにおいて、
前記過給機の温度が所定温度以上となる前記ディーゼルエンジンの運転状態から該ディーゼルエンジンの自動停止条件が成立したときに、前記過給機を強制的に冷却する冷却手段を含むことを特徴とするディーゼルエンジンシステム。
【請求項2】
前記冷却手段は、前記ディーゼルエンジンと前記過給機とを接続する空間内に前記過給機を冷却する液体を噴射する液体噴射手段と、該液体噴射手段の駆動を制御する制御手段とを含むことを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジンシステム。
【請求項3】
前記冷却手段は、前記過給機の外部から該過給機を冷却する液体を噴射する液体噴射手段と、該液体噴射手段の駆動を制御する制御手段とを含むことを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジンシステム。
【請求項4】
前記ディーゼルエンジンの回転数を検出する回転数検出手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記回転数検出手段によって検出される前記回転数が所定範囲内にあるときに前記液体噴射手段を駆動して前記液体を噴射して、該液体を前記過給機まで供給することを特徴とする請求項2に記載のディーゼルエンジンシステム。
【請求項5】
前記過給機の温度を推定する温度推定手段と、該温度推定手段で推定された前記温度に基づいて前記液体の必要添加量を算出する添加量算出手段とをさらに備え、
前記制御手段は、前記添加量算出手段が算出した前記必要添加量に対応して、1回または複数回で前記必要添加量を噴射するように前記液体噴射手段を制御することを特徴とする請求項2または3に記載のディーゼルエンジンシステム。
【請求項6】
前記制御手段は、前記必要添加量を複数回に分けて噴射するときに初回の噴射量がその後の噴射量より多くなるように前記液体噴射手段を駆動することを特徴とする請求項5に記載のディーゼルエンジンシステム。
【請求項7】
前記ディーゼルエンジンの排気通路に排気浄化用のフィルタと、該フィルタの機能維持の処理に用いる燃料添加弁が設置されており、
前記液体噴射手段として、前記燃料添加弁が使用されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のディーゼルエンジンシステム。
【請求項8】
過給機と、自動停止自動始動の機構を備えたディーゼルエンジンとを含むシステムの冷却方法であって、
前記過給機の温度が所定温度以上となる前記ディーゼルエンジンの運転状態から該ディーゼルエンジンの自動停止条件が成立したときに、前記ディーゼルエンジンと前記過給機とを接続する空間内に前記過給機を冷却する液体を噴射することにより該過給機を冷却することを特徴とするディーゼルエンジンシステムの冷却方法。
【請求項9】
前記液体の噴射量が所定量よりも多くなるときに複数回に分けて噴射し、初回噴射量をその後の噴射量より多くすることを特徴とする請求項8に記載のディーゼルエンジンシステムの冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−46250(P2006−46250A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−230773(P2004−230773)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】