説明

トランジスタ素子

【課題】n型不純物としてTeを用いたノンアロイ層を有していても、ベース電流、コレクタ電流のリーク電流が少ないトランジスタ素子を提供する。
【解決手段】基板11と、基板11上に設けられた高電子移動度トランジスタ構造層28と、高電子移動度トランジスタ構造層28上に設けられたヘテロバイポーラトランジスタ構造層29とを備えたトランジスタ素子10において、ヘテロバイポーラトランジスタ構造層29のノンアロイ層26,27は、n型不純物としてTeがドーピングされており、n型不純物濃度が1.0×1019cm-3以上2.0×1019cm-3以下にされているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に高電子移動度トランジスタ構造層とヘテロバイポーラトランジスタ構造層とを備えたトランジスタ素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の端末機器用の送受信用パワー増幅器には、化合物半導体を用いて形成される高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor;HEMT)やヘテロバイポーラトランジスタ(Heterojunction Bipolar Transistor;HBT)が用いられている。
【0003】
i−InGaAs層をチャネル層とし、チャネル層の両側又は片側に電子供給層を有するヘテロ結合高電子移動度トランジスタは、電子が高速移動する利点を活かして高速動作が可能なだけでなく、マイクロ波帯等の超高周波帯における高出力、且つ、高効率動作が可能である。
【0004】
ここで、「i−」はエピタキシャル層が半絶縁性であることを表している。以下、同様に本明細書では、エピタキシャル層がn型である場合には「n−」を、p型である場合には「p−」を付記する。また、相対的な不純物濃度が高い場合には「+」、低い場合には「-」と記載する。
【0005】
図3に示すように、従来の高電子移動度トランジスタ構造30は、半絶縁性のGaAsからなる基板31上に、i−AlGaAsからなるバッファ層32、n+−AlGaAsからなる電子供給層33、i−AlGaAsからなるスペーサ層34、i−InGaAsからなるチャネル層35、i−AlGaAsからなるスペーサ層36、n+−AlGaAsからなる電子供給層37、i−GaAsからなるショットキー層38を順に積層して形成される。
【0006】
ヘテロバイポーラトランジスタの動作は、基本的には通常のバイポーラトランジスタ(Bipolar Junction Transistor;BJT)と同様である。npn型BJTでは、エミッタからコレクタに向かって流れる電子量を、ベース電流(ホール電流)により制御することで、トランジスタとして動作させている。即ち、ホール電流を増やすことにより、コレクタ電流が増大する。
【0007】
しかし、npn型BJTでは、ホール電流を更に増やすと、ベースからエミッタに向かってホールが漏れだし、トランジスタの電流増幅率が低下する問題がある。
【0008】
これに対して、エミッタにバンドギャップの大きな半導体材料を用いて構成されるnpn型ヘテロバイポーラトランジスタでは、ベース−エミッタ界面に障壁ができるため、ホールがエミッタへ漏れるのを抑えることができる。よって、ヘテロバイポーラトランジスタでは、電流増幅率を低下させずに、コレクタ電流を大きくできる。
【0009】
図4に示すように、従来のヘテロバイポーラトランジスタ構造40は、半絶縁性のGaAsからなる基板31上に、n+−GaAsからなるサブコレクタ層41、n-−GaAsからなるコレクタ層42、p+−GaAsからなるベース層43、n+−InxGa(1-x)P(x=0.48)からなるエミッタ層44、n+−GaAsからなるエミッタコンタクト層45、graded_n+−InxGa(1-x)As(x=0→0.5)からなるグレーデッドのノンアロイ層46、n+−InxGa(1-x)As(x=0.5)からなる均一組成のノンアロイ層47を順に積層して形成される。
【0010】
これらトランジスタは、主に通信端末機器の送受信用パワー増幅器に用いられてきたが、近年、通信端末機器は、音声やテキストデータだけでなく、動画像などの大容量、且つ、多様な情報を高速で送受信することが求められている。そのため、通信端末機器の中で最も電力を消費する部品である送受信用パワー増幅器にも高性能化が求められ、低消費電力化や高効率化が要求されている。
【0011】
そこで、図5に示すように、電流駆動能力の高いヘテロバイポーラトランジスタ51、高電子移動度トランジスタ52を1つの増幅器モジュールに複数用いることで、出力信号の歪みを抑え、高い振幅を持つ出力信号が得られるパワー増幅器モジュール50を使用している。
【0012】
しかしながら、図5に示したように、複数のトランジスタを配線した場合、配線によるRC遅延、素子の発熱が問題になってしまう。この配線をなくし、これらの問題を解決するのが、図6に示すような、基板31上に高電子移動度トランジスタ構造層61とヘテロバイポーラトランジスタ構造層62とを成長させた2段トランジスタ構造のトランジスタ素子60である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−189200号公報
【特許文献2】特開2003−133325号公報
【特許文献3】特開2006−261364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来技術では、エミッタコンタクト層となるノンアロイ層のn型不純物としてn型不純物濃度が2.0×1019cm-3超3.0×1019cm-3以下のSeが用いられていた。
【0015】
しかし、Seは、半導体製造装置内へのメモリー効果が高く、エピタキシャルウェハを連続成長させる場合、次成長への影響が大きい。特に、図6に示したようなトランジスタ素子60を作製するためのエピタキシャルウェハを成長させる場合、1段目の高電子移動度トランジスタ構造層61においてバッファ層32へSeがメモリーし、バッファリーク電流を増大させる原因となり得る。このため、よりメモリー効果の少ないn型不純物としてTeが使用されるようになってきている。
【0016】
しかしながら、TeにてSeと同等のn型不純物濃度のドーピングを行った場合、図7に示すように、ベース電流、コレクタ電流共に1(V)程度の低電圧領域でのリーク電流が大きくなってしまい、ヘテロバイポーラトランジスタ特性を悪化させてしまう。
【0017】
そこで、本発明の目的は、n型不純物としてTeを用いたノンアロイ層を有していても、ベース電流、コレクタ電流のリーク電流が少ないトランジスタ素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的を達成するために創案された本発明は、基板と、前記基板上に設けられた高電子移動度トランジスタ構造層と、前記高電子移動度トランジスタ構造層上に設けられたヘテロバイポーラトランジスタ構造層とを備えたトランジスタ素子において、前記ヘテロバイポーラトランジスタ構造層のノンアロイ層は、n型不純物としてTeがドーピングされており、n型不純物濃度が1.0×1019cm-3以上2.0×1019cm-3以下にされているトランジスタ素子である。
【0019】
前記高電子移動度トランジスタ構造層の電子供給層は、n型不純物としてSiがドーピングされたδドープ層からなると良い。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、n型不純物としてTeを用いたノンアロイ層を有していても、ベース電流、コレクタ電流のリーク電流が少ないトランジスタ素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係るトランジスタ素子の構造を示す図である。
【図2】図1のトランジスタ素子のベース電流とコレクタ電流の電流電圧特性を示すガンメルプロットである。
【図3】従来の高電子移動度トランジスタ構造を示す図である。
【図4】従来のヘテロバイポーラトランジスタ構造を示す図である。
【図5】従来のパワー増幅器モジュールの構成を示す図である。
【図6】2段トランジスタ構造のトランジスタ素子の構造を示す図である。
【図7】図6のトランジスタ素子のベース電流とコレクタ電流の電流電圧特性を示すガンメルプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0023】
図1は、本発明の好適な実施の形態に係るトランジスタ素子の構造を示す図である。
【0024】
図1に示すように、本実施の形態に係るトランジスタ素子10は、半絶縁性のGaAsからなる基板11と、基板11上に設けられたi−AlGaAsからなるバッファ層12と、バッファ層12上に設けられたn+−AlGaAsからなる電子供給層13と、電子供給層13上に設けられたi−AlGaAsからなるスペーサ層14と、スペーサ層14上に設けられたi−InGaAsからなるチャネル層15と、チャネル層15上に設けられたi−AlGaAsからなるスペーサ層16と、スペーサ層16上に設けられたi−InGaPからなるストッパ層17と、ストッパ層17上に設けられたi−GaAsからなるショットキー層18と、ショットキー層18上に設けられたn+−InGaPからなるストッパ層19と、ストッパ層19上に設けられたi−GaAsからなるバッファ層20と、バッファ層20上に設けられたn+−GaAsからなるサブコレクタ層21と、サブコレクタ層21上に設けられたn-−GaAsからなるコレクタ層22と、コレクタ層22上に設けられたp+−GaAsからなるベース層23と、ベース層23上に設けられたn+−InGaPからなるエミッタ層24と、エミッタ層24上に設けられたn-−GaAsからなるバラスト層25と、バラスト層25上に設けられたn+−InGaAsからなるノンアロイ層26と、ノンアロイ層26上に設けられたn+−InGaAsからなるノンアロイ層27と、を備える。
【0025】
このうち、高電子移動度トランジスタ構造層(HEMT構造層)28は、バッファ層12と、電子供給層13と、スペーサ層14と、チャネル層15と、スペーサ層16と、ストッパ層17と、ショットキー層18と、からなる。
【0026】
このHEMT構造層28の電子供給層13は、n型不純物としてSiがドーピングされたδドープ層からなる。δドープ層とは、原子層ドープのことであり、原子1層分に不純物をドーピングした層を意味する。
【0027】
また、ヘテロバイポーラトランジスタ構造層(HBT構造層)29は、バッファ層20と、サブコレクタ層21と、コレクタ層22と、ベース層23と、エミッタ層24と、バラスト層25と、ノンアロイ層26と、ノンアロイ層27と、からなる。
【0028】
さて、本実施の形態に係るトランジスタ素子10は、ノンアロイ層26,27にドーピングするn型不純物として、半導体製造装置内へのメモリー効果が高いSeに代えて、よりメモリー効果の少ないTeを使用するものであり、更にTeをドーピングしたときのベース電流、コレクタ電流のリーク電流を少なくするためのものである。
【0029】
そのために、トランジスタ素子10におけるHBT構造層29のノンアロイ層26,27は、n型不純物としてTeがドーピングされており、n型不純物濃度が1.0×1019cm-3以上2.0×1019cm-3以下にされている。
【0030】
n型不純物濃度を2.0×1019cm-3以下とするのは、Teをこれより多くドーピングした場合、ダメージ層を形成してしまい、このダメージ層が素子化プロセス時にベース層23、コレクタ層22へ伝播してリーク電流が増大してしまうためである。
【0031】
このようにすることで、n型不純物としてTeを用いたノンアロイ層26,27を有していても、ベース電流、コレクタ電流のリーク電流が少ない、即ち、HBT特性の悪化を抑制したトランジスタ素子10を提供することができる。
【0032】
なお、本発明は、前述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、基板11としてSi基板やInP基板を用いることも可能である。
【実施例】
【0033】
本発明の効果を実証すべく、前述した構造のトランジスタ素子10を作製し、作製したトランジスタ素子10のベース電流とコレクタ電流の電流電圧特性を測定した。
【0034】
具体的には、半絶縁性のGaAsからなる基板11上に、i−AlxGa(1-x)As(x=0.28)からなるバッファ層12、n+−AlxGa(1-x)As(x=0.3)からなる電子供給層13、i−AlxGa(1-x)As(x=0.3)からなるスペーサ層14、i−InxGa(1-x)As(x=0.18)からなるチャネル層15、i−AlxGa(1-x)As(x=0.3)からなるスペーサ層16、i−InxGa(1-x)P(x=0.48)からなるストッパ層17、i−GaAsからなるショットキー層18、n+−InxGa(1-x)P(x=0.48)からなるストッパ層19、i−GaAsからなるバッファ層20、n+−GaAsからなるサブコレクタ層21、n-−GaAsからなるコレクタ層22、p+−GaAsからなるベース層23、n+−InxGa(1-x)P(x=0.48)からなるエミッタ層24、n-−GaAsからなるバラスト層25、n型不純物としてTeを使用すると共にそのn型不純物濃度を1.5×1019cm-3に制御したn+−InxGa(1-x)As(x=0.5)からなるノンアロイ層26,27を順に積層してトランジスタ素子10となるエピタキシャルウェハを作製した。
【0035】
その後、このエピタキシャルウェハに対して素子化プロセスを実施し、トランジスタ素子10を得た。このトランジスタ素子10についてベース電流とコレクタ電流の電流電圧特性を測定したところ、図2に示す結果が得られた。
【0036】
図2と図7を比較すると、トランジスタ素子10では、1(V)程度の低電圧領域におけるベース電流、コレクタ電流のリーク電流を劇的に低減することに成功していることが分かる。
【符号の説明】
【0037】
10 トランジスタ素子
11 基板
12 バッファ層
13 電子供給層
14 スペーサ層
15 チャネル層
16 スペーサ層
17 ストッパ層
18 ショットキー層
19 ストッパ層
20 バッファ層
21 サブコレクタ層
22 コレクタ層
23 ベース層
24 エミッタ層
25 バラスト層
26 ノンアロイ層
27 ノンアロイ層
28 高電子移動度トランジスタ構造層
29 ヘテロバイポーラトランジスタ構造層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に設けられた高電子移動度トランジスタ構造層と、前記高電子移動度トランジスタ構造層上に設けられたヘテロバイポーラトランジスタ構造層とを備えたトランジスタ素子において、
前記ヘテロバイポーラトランジスタ構造層のノンアロイ層は、n型不純物としてTeがドーピングされており、n型不純物濃度が1.0×1019cm-3以上2.0×1019cm-3以下にされていることを特徴とするトランジスタ素子。
【請求項2】
前記高電子移動度トランジスタ構造層の電子供給層は、n型不純物としてSiがドーピングされたδドープ層からなる請求項1に記載のトランジスタ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−8914(P2013−8914A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141789(P2011−141789)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】