説明

ナビゲーション装置及び電気自動車のナビゲーション方法

【課題】駆動用モータの温度上昇をより確実に抑制するように経路を設定できるナビゲーション装置を提供する。
【解決手段】ナビゲーション装置11の情報処理装置12は、探索した目的地までの経路に従って電気自動車1が走行する場合について駆動用モータ3の温度変化を推定し、駆動用モータ3の温度が当該モータ3の性能が劣化するレベルまで上昇しないように経路を変更する。具体的には、各リンクについて設定されるリンクコストとリンクコスト係数とに基づきリンクコストの積算値を計算し、そのリンクコストの積算値を最小にする経路を探索する。また、各リンクについて設定した温度コストと温度コスト係数とに基づいて温度コストの積算値も計算し、その温度コストが駆動用モータ3の性能が劣化する温度に対応して設定される性能劣化閾値を超えないように経路を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動用モータにより車輪を駆動して走行する電気自動車に搭載されるナビゲーション装置及び電気自動車のナビゲーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるナビゲーション装置は、通常、目的地に到達するまでの時間,若しくは距離が最短になる経路を優先したり、有料道路の選択を優先したり交通情報を加味するなどして、走行効率が良好となる経路を探索するようになっている。また、一般的に電気自動車においては、走行中に駆動用モータや当該モータに駆動用電源を供給するバッテリが熱をもつと効率が極端に低下するという問題がある。
したがって、走行効率を優先して探索された経路に沿って電気自動車が走行すると、駆動用モータが連続して駆動されるため、モータやバッテリの温度が大きく上昇することが想定される。すると、自動車の速度が上がらなくなったり、走行が不安定なったり、バッテリの消費効率が低下するなどの影響が出ると考えられる。
【0003】
例えば特許文献1には、電気自動車に搭載された走行用のモータやインバータ,バッテリの温度上昇を抑制し、車両の走行性能を確保するため、経路案内が行なわれているとき、モータやインバータ,バッテリの温度上昇が生じると共に次の走行区間が登坂路であるときは、その登坂路の走行を禁止して目的地まで走行できる迂回路を設定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−269878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように迂回路を設定するだけでは、モータ等の発熱を抑制できる程度に限界があり、温度の上昇に伴う悪影響を確実に回避できるとは言えない。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、駆動用モータの温度上昇をより確実に抑制するように経路を設定できるナビゲーション装置及び電気自動車のナビゲーション方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載のナビゲーション装置によれば、経路変更手段は、探索した目的地までの経路に従って電気自動車が走行する場合について、駆動用モータの温度変化を推定し、駆動用モータの温度が当該モータの性能が劣化するレベルまで上昇しないように経路を変更する。すなわち、駆動用モータの温度変化を推定して評価することで、駆動用モータの温度が、その性能が劣化するレベルまで上昇することを回避するように経路を変更するので、駆動用モータの性能を維持した状態で電気自動車1の走行を継続させることができる。
【0007】
請求項2記載のナビゲーション装置によれば、経路変更手段は、各リンクについて設定されるリンクコストとリンクコスト係数とに基づいてリンクコストの積算値を計算し、そのリンクコストの積算値を最小にする経路を探索する。また、各リンクについて設定した温度コストと温度コスト係数とに基づいて温度コストの積算値も計算し、その温度コストが駆動用モータの性能が劣化する温度に対応して設定される性能劣化閾値を超えないように経路を変更する。
【0008】
すなわち、各リンクの道路状態などの属性を考慮すれば、電気自動車がそのリンクを走行した場合に駆動用モータの温度がどのように変化するかを推定できるので、その状態に応じて温度コストを計算することが可能である。そして、温度コストを計算すれば、駆動用モータの温度変化を定量的に評価できるので、その温度がモータ性能が劣化するレベルを超えないように回避できる。
【0009】
請求項3記載のナビゲーション装置によれば、経路変更手段は、交通情報取得手段を介して得られる経路の渋滞情報に基づいて経路変更を行う。すなわち、道路の混雑状態は、自動車の走行速度等に大きく影響するので、渋滞情報を加味して駆動用モータの温度変化を推定すれば、温度上昇をより確実に抑制する経路を選択できる。
【0010】
請求項4記載のナビゲーション装置によれば、経路変更手段は、経路に含まれる各リンクの渋滞情報に基づいて混雑度を複数レベルに判別し、各混雑度レベルに対応するリンクコスト係数及び温度コスト係数を設定してリンクコストの積算値を計算する。その場合に、温度コストが性能劣化閾値を超えた場合は、先に位置するリンクのリンクコスト係数の大小関係を逆転させてリンクコストの再計算を行う。すなわち、通常の最短距離,若しくは最短時間を目指す経路計算の場合は、リンクの混雑度が高い状態は望ましくない。しかし、駆動用モータの温度が上昇して性能劣化閾値を超えるような場合になると、混雑度が高く、走行速度を低下させざるを得ない状況は、温度上昇を抑制する観点から好ましくなる。したがって、斯様な場合にリンクコスト係数の大小関係を逆転させてリンクコストを再計算すれば、駆動モータの温度上昇を抑制するために寄与できる経路が選択され易くなる。
【0011】
請求項5記載のナビゲーション装置によれば、経路変更手段は、経路に付与されている勾配情報に基づいて経路を変更する。すなわち、この経路変更自体は一見すると特許文献1と同様のようであるが、本発明では経路について温度コストを計算して駆動用モータの温度変化を推定しているので、より確実な効果が得られる。
【0012】
請求項6記載のナビゲーション装置によれば、経路変更手段は、経路に含まれる各リンクの勾配情報に対応するリンクコスト係数を設定してリンクコスト計算すると共に、温度コストが前記性能劣化閾値を超えた場合は、先に位置するリンクのリンクコスト係数の大小関係を逆転させてリンクコストの再計算を行う。すなわち、請求項5と同様の理由から、リンクコスト係数の大小関係を逆転させてリンクコストを再計算すれば、駆動モータの温度上昇を抑制するために寄与できる経路が選択され易くなる。
【0013】
請求項7記載のナビゲーション装置によれば、経路変更手段は、温度コストの積算値を再計算した結果、温度コストが前記性能劣化閾値よりも所定値だけ低下した場合は、逆転させたリンクコスト係数値の設定を元に戻して更に再計算を行う。すなわち、この場合、駆動用モータの負荷状況について若干の余裕が生じたことになるので、リンクコスト係数値の設定を元に戻すことで、走行時間若しくは走行距離の短縮を目指した経路探索を行うことができる。
【0014】
請求項8記載のナビゲーション装置によれば、経路変更手段は、温度コストについて性能劣化閾値よりも大となる限界閾値を設定し、温度コストがその限界閾値を超えた場合は、その先に位置するリンクについてはコストの計算を中止する。すなわち、温度コストが限界閾値を超えるような状態になった場合は、そのノードを選択対象から外して異なる経路を選択することで、駆動モータの温度上昇を抑制することが可能な経路を探索する。
【0015】
請求項9記載のナビゲーション装置によれば、経路変更手段は、駆動用モータの温度が上昇する傾向が確認された場合には、交差点に対応するコスト(すなわち、交差点コスト),或いは交差点自身に付与されるリンクコストを低下させ、交差点により多く案内するように経路を変更する。すなわち、走行経路中に交差点があれば、信号が赤になっている場合には電気自動車が停止することになるので、駆動用モータの温度低下を促進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例であり、駆動用モータ制御システムの全体構成を示す図
【図2】ナビゲーション装置の電気的構成を示すブロック図
【図3】ナビゲーション装置の制御内容を示すフローチャート
【図4】図3のステップS7の詳細を示すフローチャート
【図5】最適ルート探索の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施例について図面を参照して説明する。図1は、駆動用モータ制御システム全体の構成を示すものである。電気自動車1は、4つの車輪2(FL,FR,RL,RR)ごとに駆動用モータ3(FL,FR,RL,RR)がそれぞれ配置されており、各車輪2の駆動力を個別に制御可能となっている。各駆動用モータ3には、独立したバッテリ4(FL,FR,RL,RR)から駆動用電源が供給され、駆動用モータ3は、インバータ回路等の駆動回路を内蔵しており、その駆動回路に対してモータ制御装置5からの制御指令が与えられる。
【0018】
電気自動車1に搭載されるナビゲーション装置11は、モータ制御装置5との通信が可能であり、モータ制御装置5に対して駆動用モータ3の制御情報を送信する。モータ制御装置5は、前記制御情報に基づいて各駆動用モータ3の制御指令を生成すると、上述したように各駆動用モータ3の駆動回路に出力する。また、モータ制御装置5は、各駆動用モータ3に配置されている温度計6(FL,FR,RL,RR,温度センサ)より出力される温度情報を得るようになっている。モータ制御装置5は、各バッテリ4についても、出力電圧や出力電流を監視したり、図示しない温度計によって温度を監視する。
【0019】
図2は、ナビゲーション装置11の電気的構成を示すブロック図である。ナビゲーション装置11は、マイコンを主体として構成された情報処理装置(経路変更手段)12、車両の現在位置を検出するためのGPS(Global Positioning System)13、地図データベース(DB)14、操作部15、外部通信装置(交通情報取得手段)16、例えばTFT(Thin Film Transistor)を用いたカラー液晶ディスプレイ等からなる表示装置(報知手段)17、スピーカ(報知手段)18、車内センサ部19,車外センサ部20及び車内通信装置21などを備えて構成されている。
【0020】
前記情報処理装置12は、CPU12a、ROM12b、RAM12c、フラッシュメモリ12d、タイマ12eなどを備えている。GPS13は、人工衛星からの送信電波に基づいて車両の現在位置を検出(測位)するGPS(Global Positioning System)のための受信機である。車内センサ部19は、図示しないが車速センサや車両のピッチ角を検出するためのGセンサ、車両のロール角を検出するためのジャイロスコープ、車両の走行距離を検出する距離センサなどである。更に、車内センサ部19には、その他ステアリングの回転センサや各駆動輪の車輪センサ等を用いてもよい。情報処理装置12は、GPS13及び車内センサ部19からの信号に基づいて、車両の現在位置、進行方向、速度、走行距離、現在時刻等を高精度で検出するようになっている。
【0021】
地図データベース14は、道路地図データ、目印データ、マップマッチング用データ、目的地データ(施設データベース)、交通情報を道路データに変換するためのテーブルデータなどの各種データを記録した地図データ記録メディアからデータを読み出すためのドライブ装置により構成されている。地図データ記録メディアには、DVD等の大容量記憶媒体を用いるのが一般的であるが、メモリカード、ハードディスク装置等の媒体を用いてもよい。
【0022】
上記道路地図データは、道路形状、道路状況(転がり抵抗、勾配抵抗)、道路幅、道路名、信号、踏切、建造物、各種施設、地名、地形等のデータを含むとともに、その道路地図を表示装置17の画面上に表示するためのデータを含んでいる。また、目的地データは、駅等の交通機関、レジャー施設、宿泊施設、公共施設等の施設や、小売店、デパート、レストラン等の各種の店舗、住居やマンション、地名などに関する情報からなり、このデータにはそれらの電話番号や住所、緯度および経度等のデータが含まれるとともに、施設を示すランドマーク等を、表示装置17の画面上に道路地図に重ね合せて表示するためのデータを含んで構成されている。
【0023】
操作部15は、詳しく図示はしないが、表示装置17の画面の近傍に設けられたメカニカルスイッチや、表示装置17の画面上に設けられるタッチパネル、リモコンスイッチを含んで構成されている。利用者(ドライバ)は、この操作部5を用いて、目的地、目的地の検索に必要な情報の入力、および表示装置17の画面や表示態様の切り替え等を行う各種のコマンドの入力を行うようになっている。
【0024】
外部通信装置16は、外部の例えばVICS(登録商標)やテレマチックスなど種々の交通情報センタ22等との間で無線通信によりデータの受信を行うものであり、渋滞情報などを取得可能である。表示装置17は報知手段に相当するものであり、その画面には、車両の位置周辺の地図が各種縮尺で表示されるとともに、その表示に重ね合わせて、車両の現在位置と進行方向とを示す現在地マーク(ポインタ)が表示されるようになっている。また、目的地までのルート探索時には、探索された複数ルートを同時に表示するようになっている。この目的地までのルート案内の実行時には、ルート案内用の画面が表示されるようになっている。さらに、表示装置17には、利用者が目的地の検索に必要な情報等を入力したり、目的地の検索や設定を行うための入力用の画面や、各種のメッセージ等も表示されるようになっている。スピーカ18は、ルート案内時のメッセージを音声で出力する他、種々の音声報知を行なう。
【0025】
ここで、情報処理装置12におけるルート探索手段としての機能は、車両の出発地(現在位置)から目的地までの推奨する走行ルートを自動計算するものであり、その手法としては、例えばダイクストラ法が用いられている。
車外センサ部20は、主として自車両の道路交通状況をリアルタイムで検知するためのセンサであり、例えばレーダセンサ,レーザセンサ,カメラユニットなどからなる。情報処理装置12は、これらにより自車両の前方に位置している車両の存在の有無や距離などを検知することで、交通渋滞の程度を把握する。
【0026】
次に、本実施例の作用について図3乃至図5も参照して説明する。図3は、ナビゲーション装置11の情報処理装置12を中心として実行される制御内容を、本発明の要旨に係る部分について示すフローチャートである。情報処理装置12は、GPS13や車内センサ部19により電気自動車1の現在位置を測位し(ステップS1)、外部通信装置16により案内経路の交通情報を受信する(ステップS2)。そして、ユーザにより設定された目的地があるか否を判断する(ステップS3)。目的地があれば(YES)目的地を決定し(ステップS4)、温度計6により計測される駆動用モータ3の温度(初期温度)を取得する(ステップS5)。それから、駆動用モータ3の温度上昇を抑制するのに最適となる案内経路を探索する(ステップS6)。
【0027】
また、ステップS3において目的地が設定されていない場合(NO)、情報処理装置12は、車内センサ部19により電気自動車1の進行方向を予測し(ステップS8)、ステップS5と同様に駆動用モータ3の温度を取得し(ステップS9)、その進行方向に沿ったルート探索を行う(道なりルート探索,ステップS10)。
ステップS6又はS10でルート探索を行うと、その時点での駆動用モータ3の温度が、予め設定されているモータの動作限界温度から、所定のマージンα度を減じた温度よりも高いか否かを判定する(ステップS7)。[(限界温度−α)≧モータ温度]であれば(NO)そのまま処理を終了し、[(限界温度−α)<モータ温度]であれば(YES)ステップS3に戻る。
【0028】
図4は、ステップS6における最適ルート探索の処理内容を示すフローチャートである。一般に、ナビゲーションのルート探索に使用されるダイクストラ法では、リンクコストが最小になるように経路計算が行われるが、本実施例では、リンクコストに併せて、電気自動車1が各リンクを走行した場合に駆動用モータ3の温度が変化すると推定されるレベルに応じて「温度コスト」を設定し、その温度コストの積算値も計算する。
【0029】
図4において、先ず、リンクコスト及び温度コストの初期化を行う(ステップS11)。それから、始点(出発地)におけるリンクコストの積算値sum[0]を「=0」に設定し、温度コストの積算値Temp[0]には、ステップS5で測定した温度に所定の係数βを乗じた値を初期値として設定する(ステップS12)。以降のステップS13〜S32は、終点(目的地)までの探索が完了するまで、すなわちsum[N−1]=−1(未探索),となっている間にループするメインループとなる。
【0030】
続くステップS14では、最小値を保持する変数minを、最大値INT_MAXに設定する。以降のステップS15〜S30は、未探索のノードが存在する間に(i=0,1,2,…,N−1)ループするサブループとなる。ステップS16では、現在のノードiが探索済みか、すなわちsum[i]≠−1か否かを判断し、探索済みであれば(YES)ステップS17〜S29の未探索ノードループを実行する。また、探索済みでなければ(NO)、未探索ノードループを抜けてポインタiをインクリメントし、探索済みノードループを回る。
【0031】
ステップS18では、現在のノードjが未探索か、すなわちsum[j]=−1か否かを判断し、未探索であれば(YES)ノードi,jが繋がっているか否かを判断する(ステップS19)。ノードi,jが繋がっている場合、graph[i][j]には所定のリンクコストが付与されている(≠0)ので(YES)、情報制御装置12は、外部通信装置16を介して、そのリンク[i][j]についての交通情報を取得する(ステップS20)。
【0032】
それから、電気自動車1がノードiに到達した時点での温度コストTemp[i]が、駆動モータ3の性能劣化温度コスト値(性能劣化閾値)を超えているか否かを判断する(ステップS21)。尚、温度コストTemp[i]は、後述するステップS24で計算されている。ステップS24で計算されるのはTemp[j]であるが、この時点では、前回に計算されたものがTemp[i]となっている。また、「性能劣化温度コスト値」は、駆動モータ3の温度が上昇することで、モータ性能が劣化することが推定される温度コスト値である。
ここで、電気自動車1のように駆動モータ3を複数備えている場合には、全ての駆動モータ3について個別に温度コストを計算しても良いし、何れか1つの駆動モータ3についてのみ温度コストを計算しても良い。
【0033】
ステップS21において、温度コストTemp[i]が性能劣化温度コスト値を超えていなければ(NO)、リンクコスト係数Tの設定を通常通りにする(ステップS23)。一方、温度コストTemp[i]が性能劣化温度コスト値を超えている場合は(YES)、リンクコスト係数Tの設定を、劣化温度範囲に対応するものに切り換える(ステップS22)。
【0034】
リンクコスト係数Tは、後述するステップS26,S27においてリンクコストの積算値を計算する場合に使用される。そして、ステップS20で取得した交通情報に基づくリンク[i][j]の混雑状況に応じて値を変化させる。例えば、混雑度を「順調」,「混雑」,「渋滞」の3段階に判別すると、例えばステップS23における「通常」設定の場合は「順調」=1,「混雑」=2,「渋滞」=4とする。そして、ステップS22における「劣化温度範囲」設定の場合は「順調」=2,「混雑」=1,「渋滞」=4とする。
すなわち、通常のナビゲーションであれば、混雑度が低く「順調」である道路を走行するように案内した方が、目的地までの走行時間が短縮できるので、「順調」から「渋滞」へ、リンクコスト係数Tの値を小から大となるように設定する。一方、ステップS22では、電気自動車1の走行状態を、駆動モータ3の温度を低下させる方向に導くのが望ましい。したがって、「順調」と「混雑」との間でリンクコスト係数Tの大小関係を逆転させる。
【0035】
また、一度ステップS22を実行した場合は、その状態をフラグ等により記憶しておき、ステップS21で「NO」と判断した場合に上記のフラグをチェックし、フラグがセットされていれば、積算値Temp[i]が性能劣化温度コスト値より所定値γを超えて低下している場合にステップS23を実行し、所定値γ以内の低下幅である場合は、ステップS22の設定を継続させても良い。斯様に処理した場合は、積算値Temp[i]が短時間内に再び性能劣化温度コスト値を超えることをより確実に防止できる。加えて、走行時間若しくは走行距離の短縮を目指した経路探索を行うことができる。
【0036】
続くステップS24では、ノードjに到達した時点での温度コストTemp[j]を次式により計算する。
Temp[j]=Tm*graph[i][j]+Temp[i] …(1)
但しTmは、温度コスト係数であり、やはり道路の混雑度に応じて「順調」=4,「混雑」=1,「渋滞」=−1とする。すなわち、「順調」の場合は駆動モータ3の温度が上昇するため値を大きくし、「渋滞」の場合は温度が低下することが期待されるので符号をマイナスに設定する。そして、(1)式は、ノードiに到達した時点での温度コストTemp[i]に、リンク[i][j]のリンクコストに温度コスト係数Tmを乗じたものを加えることでノードjにおける温度コストTemp[j]を求めている。
【0037】
次に、上記温度コストTemp[j]が、駆動モータ3の限界温度コスト値(限界閾値)を超えているか否かを判断する(ステップS25)。「限界温度コスト値」は、駆動モータ3の温度が上昇することで、動作限界に至ることが推定される温度コスト値である。温度コストTemp[j]が限界温度コスト値を超えていなければ(NO)、その時点でのリンクコスト積算値を次式で計算し、
sum[i]+T*graph[i][j] …(2)
上記積算値が、その時点の最小値minよりも小さいか否かを判断する(ステップS26)。そして、最小値minよりも小さければ(YES)、上記積算値を新たな最小値minに設定する(ステップS27)。
【0038】
続くステップS28では、ノードiのポインタをsnode,ノードjのポインタをenodeに設定する。尚、ステップS18,S19,S26で「NO」と判断した場合、またステップS25で「YES」と判断した場合は、ポインタjをインクリメントして未探索ノードループを回る。
【0039】
探索済みノードループを抜けると、その時点の最小コスト積算値minを保持し、また、探索した経路におけるノードの繋がりを記憶するため、
sum[enode]=min
from[enode]=snode
とする(ステップS31)。それから、メインループを回る。最終的に、終点が探索済みとなることで、
sum[N−1]≠−1
になるとメインループを抜けて、その時点にsum[enode],from[enode]に格納されているものが、リンクコスト積算値が最小の値を示す最適ルートのリンクリストとなる。
【0040】
図5は、図4のフローに従って最適ルートを探索した場合の一例を示すダイヤグラムである。円内部の番号はノードであり、[1]が出発地,[9]が目的地である。各ノード間のリンクには、それぞれのリンクコストと交通情報より得られた混雑度とを示している。そして、各ノードには、ルート探索を行った途中の状態を、
(リンクリスト,温度コスト,リンクコスト)
で示している。また、温度コストについては、例えば正常範囲が「0〜14」,性能劣化範囲が「15〜22」(すなわち「14」が性能劣化温度コスト値),限界範囲が「23〜」(すなわち「22」が限界温度コスト値)に設定されている。
【0041】
例えばノード[1]から[2]に向かう場合は、リンクコストは「3」であり、混雑度が「順調」であるから、リンクコスト係数Tは「1」,温度コスト係数Tmは「4」となる。その結果、ノード[2]における各値は(1−2,12,3)となる。また、ノード[1]から[3]に向かう場合、リンクコストは同じく「3」であるが、混雑度が「渋滞」であるから、リンクコスト係数Tは「2」,温度コスト係数Tmは「−1」となる。その結果、ノード[3]における各値は(1−3,0,12)となる。尚、温度コストの積算値が負の値になる場合は「0」に設定する。
そして、ノード[2]から[4]に向かう場合は、温度コストが限界範囲を超えた「24」となるのでこのリンクを選択せず、ノード[5]に向かう場合を計算する。こちらは混雑度が「混雑」であるから温度コストは「15」となる。
【0042】
ノード[7]に至る時点で、リンクリストはL1[1−2−5−7],L2[1−3−5−7]の2通りあるが、前者L1の温度コストは劣化温度範囲を超えた「18」となっている。したがって、目的地ノード[9]に向かう場合に、「混雑」のリンクコスト係数を「1」にして計算する。一方、正常範囲である後者L2については、リンクコスト係数を「2」にして計算する。
また、ノード[8]に至る時点で、リンクリストはL3[1−2−5−8],L4[1−3−5−8],L5[1−2−6−8]の3通りある。L3の温度コストは限界範囲を超えた「23」となっているので、ここで打ち切る。
【0043】
そして、目的地ノード[9]に至る時点で、リンクリストはL1,L2,L4,L5の4通りあるが、L4,L5の温度コストは限界範囲を超えた「24」,「27」となっている。また、L1の温度コストは性能劣化範囲を超えた「22」となっているから、最終的にはリンクリストL2のルートが選択される。
【0044】
以上のように本実施例によれば、ナビゲーション装置11の情報処理装置12は、探索した目的地までの経路に従って電気自動車1が走行する場合について、走行開始時に温度計6により計測した駆動用モータ3の温度に基づいて、すなわち前記温度に所定の係数を乗じて初期値を決定すると、駆動用モータ3の温度変化を推定し、駆動用モータ3の温度が当該モータ3の性能が劣化するレベルまで上昇しないように経路を変更するようにした。したがって、駆動用モータ3の性能を維持した状態で電気自動車1の走行を継続させることができる。
【0045】
この場合、情報処理装置12は、各リンクについて設定されるリンクコストとリンクコスト係数とに基づきリンクコストの積算値を計算し、そのリンクコストの積算値を最小にする経路を探索する。また、各リンクについて設定した温度コストと温度コスト係数とに基づいて温度コストの積算値も計算し、その温度コストが駆動用モータ3の性能が劣化する温度に対応して設定される性能劣化温度コスト値を超えないように経路を変更する。
すなわち、各リンクの道路状態などの属性を考慮すれば、電気自動車1がそのリンクを走行した場合に駆動用モータ3の温度がどのように変化するかを推定できるので、その状態に応じた温度コストを計算することが可能であるから、温度コストの積算値を計算すれば、駆動用モータ3の温度変化を定量的に評価できる、推定した温度が性能劣化温度コスト値を超えないように回避できる。
【0046】
また、情報処理装置12は、外部通信装置16を介して得られる経路の渋滞情報に基づいて経路変更を行う。すなわち、道路の混雑状態は、自動車の走行速度等に大きく影響するので、渋滞情報を加味して駆動用モータ3の温度変化を推定すれば、温度上昇をより確実に抑制する経路を選択できる。具体的には、渋滞情報に基づいて混雑度を「通常」,「混雑」,「渋滞」の3レベルに判別し、各混雑度レベルに対応するリンクコスト係数を設定してリンクコストの積算値を計算する。その場合に、温度コストが性能劣化温度コスト値を超えた場合は、先に位置するリンクのリンクコスト係数の大小関係を逆転させてリンクコストの再計算を行うので、駆動モータ3の温度上昇を抑制するために寄与できる経路が選択され易くなる。
【0047】
また、情報処理装置12は、温度コストの積算値を再計算した結果、温度コストが前記性能劣化温度コスト値よりも所定値γだけ低下した場合に、逆転させたリンクコスト係数値の設定を元に戻して更に再計算を行うので、駆動用モータ3の負荷状況について若干の余裕が生じた場合に、走行時間若しくは走行距離の短縮を目指した経路探索を行うことができる。
加えて、情報処理装置12は、温度コストについて性能劣化値よりも大となる限界温度コスト値を設定し、温度コストがその限界温度コスト値を超えた場合は、その先に位置するリンクについてはコストの計算を中止するので、そのノードを含む先の経路を選択対象から外し、駆動モータ3の温度上昇をより確実に抑制可能な経路を選択する。
【0048】
その他、以下のように構成しても良い。
・地図データの経路に付与されている勾配情報に基づいて経路を変更する。すなわち、この経路変更自体は一見すると特許文献1と同様のようであるが、本発明では経路について温度コストを計算して駆動用モータ3の温度変化を推定しているので、より確実な効果が得られる。
【0049】
・経路に含まれる各リンクの勾配情報に対応するリンクコスト係数を設定してリンクコスト計算すると共に、温度コストが前記性能劣化温度コスト値を超えた場合は、先に位置するリンクのリンクコスト係数の大小関係を逆転させてリンクコストの再計算を行う。この場合も、上記実施例と同様に、駆動モータ3の温度上昇を抑制するために寄与できる経路が選択され易くなる。
【0050】
・駆動用モータ3の温度が上昇する傾向が確認された場合には、交差点に対応するコスト(交差点コスト),或いは交差点自身に付与されるリンクコストを低下させ、交差点により多く案内するように経路を変更する。すなわち、走行経路中に交差点があれば、信号が赤になっている場合には電気自動車1が停止することになるので、駆動用モータ3の温度低下を促進させることができる。
【0051】
本発明は上記し又は図面に記載した実施例にのみ限定されるものではなく、以下のような変形又は拡張が可能である。
混雑度は、2レベルや4レベル以上に判別しても良い。また、交通情報としては、その他道路工事に関する情報や事故の発生情報などを用いても良い。また、必ずしも交通情報を使用する必要はない。
リンクコスト係数や温度コスト係数の設定は一例であり、個別の設計に応じて適宜変更しても良い。また、性能劣化温度範囲や限界範囲の温度コスト値についても同様である。
車外センサ部20を、交通情報取得手段として利用しても良い。
【0052】
ステップS10における「道なりルート探索」についても、図4に示す処理に準じて行えば良い。
ステップS7において「YES」と判断し、ステップS6又はS10を再実行する場合には、温度コストに基づく駆動用モータ3の温度推定が、高めに見積もられていた可能性がある。したがって、この場合には、リンクコスト係数及び/又は温度コスト係数の値をより低めに設定するように変更を行うようにしても良い。すなわち、温度計6により計測された駆動用モータ3の温度に基づいて温度推定結果を補正しても良い。
【0053】
駆動用モータ3の温度を推定する場合の初期値については、その他例えば、エンジンルームの気温や外気温を検出する温度センサの測定結果に基づいて決定しても良い。
必ずしも、4つの車輪2の全てに対応して駆動用モータ3が設けられているものに限らず、駆動用モータは1つ以上あれば良い。
ガソリンエンジンとの組み合わせで構成されるハイブリッドタイプの電気自動車に適用しても良い。
【符号の説明】
【0054】
1は電気自動車、2は車輪、3は駆動用モータ、4はバッテリ、5はモータ制御装置、6は温度計(温度センサ)、11はナビゲーション装置、12は情報処理装置(経路変更手段)、16は外部通信装置(交通情報取得手段)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動用モータにより車輪を駆動して走行する電気自動車に搭載されるナビゲーション装置において、
探索した目的地までの経路に従って前記電気自動車が走行する場合について前記駆動用モータの温度変化を推定し、前記駆動用モータの温度が、当該モータの性能が劣化するレベルまで上昇しないように経路を変更する経路変更手段を備えたことを特徴とするナビゲーション装置。
【請求項2】
前記経路変更手段は、各リンクについて設定されるリンクコスト及びリンクコスト係数に基づいてリンクコストの積算値を計算し、前記リンクコストの積算値を最小にする経路を探索すると共に、各リンクについて設定した温度コスト及び前記温度コスト係数に基づいて温度コストの積算値も計算し、前記温度コストが、前記駆動用モータの性能が劣化する温度に対応して設定される性能劣化閾値を超えないように前記経路を変更することを特徴とする請求項1記載のナビゲーション装置。
【請求項3】
外部より道路交通情報を取得する交通情報取得手段を備え、
前記経路変更手段は、前記交通情報取得手段を介して得られる前記経路の渋滞情報に基づいて、前記経路を変更することを特徴とする請求項2記載のナビゲーション装置。
【請求項4】
前記経路変更手段は、前記経路に含まれる各リンクの渋滞情報に基づいて混雑度を複数レベルに判別し、各混雑度レベルに対応するリンクコスト係数を設定してリンクコストの積算値を計算すると共に、
前記温度コストが前記性能劣化閾値を超えた場合は、先に位置するリンクのリンクコスト係数の少なくとも一部について、大小関係を逆転させてリンクコストの再計算を行うことを特徴とする請求項3記載のナビゲーション装置。
【請求項5】
前記経路変更手段は、前記経路に付与されている勾配情報に基づいて、前記経路を変更することを特徴とする請求項2乃至4の何れか1項に記載のナビゲーション装置。
【請求項6】
前記経路変更手段は、前記経路に含まれる各リンクの勾配情報に対応するリンクコスト係数を設定してリンクコスト計算すると共に、
前記温度コストが前記性能劣化閾値を超えた場合は、先に位置するリンクのリンクコスト係数の少なくとも一部について、大小関係を逆転させてリンクコストの再計算を行うことを特徴とする請求項5記載のナビゲーション装置。
【請求項7】
前記経路変更手段は、前記温度コストの積算値を再計算した結果、温度コストが前記性能劣化閾値よりも所定値だけ低下した場合は、逆転させたコスト係数値の設定を元に戻して更に再計算を行うことを特徴とする請求項4又は6記載のナビゲーション装置。
【請求項8】
前記経路変更手段は、前記温度コストについて前記性能劣化値よりも大となる限界閾値を設定し、前記温度コストが前記限界閾値を超えた場合は、その先に位置するリンクについてはコストの計算を中止することを特徴とする請求項2乃至7の何れか1項に記載のナビゲーション装置。
【請求項9】
前記経路変更手段は、前記駆動用モータの温度が上昇する傾向が確認された場合には、交差点に対応するコスト,或いは交差点自身に付与されるリンクコストを低下させ、交差点により多く案内するように経路を変更することを特徴とする請求項2乃至8の何れか1項に記載のナビゲーション装置。
【請求項10】
駆動用モータにより車輪を駆動して走行する電気自動車に搭載されるナビゲーション装置により実行されるナビゲーション方法において、
探索した目的地までの経路に従って前記電気自動車が走行する場合について前記駆動用モータの温度変化を推定し、前記駆動用モータの温度が、当該モータの性能が劣化するレベルまで上昇しないように経路を変更することを特徴とする電気自動車のナビゲーション方法。
【請求項11】
各リンクについて設定されるリンクコスト及びリンクコスト係数に基づいてリンクコストの積算値を計算し、前記リンクコストの積算値を最小にする経路を探索すると共に、各リンクについて設定した温度コスト及び前記温度コスト係数に基づいて温度コストの積算値も計算し、前記温度コストが、前記駆動用モータの性能が劣化する温度に対応して設定される性能劣化閾値を超えないように前記経路を変更することを特徴とする請求項10記載の電気自動車のナビゲーション方法。
【請求項12】
外部より道路交通情報を取得すると、前記道路交通情報として得られる前記経路の渋滞情報に基づいて、前記経路を変更することを特徴とする請求項11記載の電気自動車のナビゲーション方法。
【請求項13】
前記経路に含まれる各リンクの渋滞情報に基づいて混雑度を複数レベルに判別し、各混雑度レベルに対応するリンクコスト係数及び温度コスト係数を設定してリンクコストの積算値を計算すると共に、
前記温度コストが前記性能劣化閾値を超えた場合は、先に位置するリンクのリンクコスト係数の大小関係を逆転させてリンクコストの再計算を行うことを特徴とする請求項12記載の電気自動車のナビゲーション方法。
【請求項14】
前記経路に付与されている勾配情報に基づいて、前記経路を変更することを特徴とする請求項11乃至13の何れか1項に記載の電気自動車のナビゲーション方法。
【請求項15】
前記経路に含まれる各リンクの勾配情報に対応するリンクコスト係数及び温度コスト係数を設定してリンクコスト計算すると共に、
前記温度コストが前記性能劣化閾値を超えた場合は、先に位置するリンクのコスト係数の大小関係を逆転させてリンクコスト及び温度コストの再計算を行うことを特徴とする請求項14記載の電気自動車のナビゲーション方法。
【請求項16】
前記温度コストの積算値を再計算した結果、温度コストが前記性能劣化閾値よりも所定値だけ低下した場合は、逆転させたコスト係数値の設定を元に戻して更に再計算を行うことを特徴とする請求項13又は15記載の電気自動車のナビゲーション方法。
【請求項17】
前記温度コストについて前記性能劣化値よりも大となる限界閾値を設定し、前記温度コストが前記限界閾値を超えた場合は、その先に位置するリンクについてはコストの計算を中止することを特徴とする請求項11乃至16の何れか1項に記載の電気自動車のナビゲーション方法。
【請求項18】
前記駆動用モータの温度が上昇する傾向が確認された場合には、交差点に対応するコスト,或いは交差点自身に付与されるリンクコストを低下させ、交差点により多く案内するように経路を変更することを特徴とする請求項11乃至17の何れか1項に記載の電気自動車のナビゲーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−252409(P2010−252409A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95890(P2009−95890)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】