説明

ハイドライド気相エピタキシー装置およびアルミニウム系III族窒化物単結晶を製造する方法

【課題】装置構成がシンプルであり、メンテナンス性にも優れ、しかも高品質なアルミニウム系III族窒化物単結晶を高生産性で製造することができるハイドライド気相エピタキシー装置を提供する。
【解決手段】III族ハロゲン化物ガスと窒素源ガスとを反応させて目的とするアルミニウム系III族窒化物単結晶を成長させる反応ゾーンを有する反応器本体20と、III族ハロゲン化物ガスを作り出すためにIII族元素の単体46とハロゲン原料ガスとを加熱下で反応させてIII族ハロゲン化物ガスを発生させるIII族源ガス発生部40と、III族源ガス発生部で製造されたIII族ハロゲン化物ガスを、反応器本体の反応ゾーン22へ供給するIII族ハロゲン化物ガス導入管50と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドライド気相エピタキシー装置およびアルミニウム系 III族窒化物単結晶を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウムや窒化ガリウムといった III族窒化物単結晶は大きなバンドギャップエネルギーを持つ。窒化アルミニウムのバンドギャップエネルギーは6.2eV程度であり、窒化ガリウムのバンドギャップエネルギーは3.4eV程度である。これらの混晶である窒化アルミニウムガリウムは、成分比に応じ窒化アルミニウムと窒化ガリウムのバンドギャップエネルギーの間のバンドギャップエネルギーをとる。
【0003】
従って、これらのアルミニウム系 III族窒化物単結晶を用いることにより、他の半導体では不可能な紫外領域の短波長発光が可能となり、白色光源用の紫外発光ダイオード、殺菌用の紫外発光ダイオード、高密度光ディスクメモリの読み書きに利用できるレーザー、通信用レーザーなどの発光光源が製造可能になる。さらに、電子の飽和ドリフト速度が高いことを利用して超高速電子移動トランジスタといった電子デバイスの製造や、負の電子親和力を利用してフィールドエミッタへの応用が可能である。
【0004】
上記のような発光光源や電子デバイス等の機能を発現する素子部分は、基板上に数ミクロン以下の薄膜を積層して積層構造を形成することで一般的に試みられている。これらは公知の分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、有機金属気相エピタキシー(MOVPE:Metalorganic Vapor Phase Epitaxy)法、ハイドライド気相エピタキシー(HVPE:Hydride Vapor Phase Epitaxy)法などの結晶成長方法により形成される。
【0005】
上記の積層構造、特に発光素子となる積層構造を形成するための基板としては上記のアルミニウム系 III族窒化物(以下、Al系 III族窒化物)、特に窒化アルミニウムからなる単結晶基板が好ましいとされる。なぜならば、窒化アルミニウムや窒化ガリウムといった III族窒化物の単体もしくは混晶を成長層として形成する際には、界面における格子不整合の影響や、成長時の温度履歴によって発生する応力の影響を最小限に抑えることができるためである。この結果、成長層内の転位密度や欠陥、クラックが低減し、発光効率が向上すると考えられている。また、紫外線発光層を成長する場合においては、基板としてAl系 III族窒化物単結晶を用いることにより、基板部分のバンドギャップエネルギーが発光層のバンドギャップエネルギーより大きくなるので、発光した紫外光が基板で吸収されず、光の取り出し効率が高くなる。
【0006】
上記Al系 III族窒化物単結晶基板の製造に関して、本発明者らはHVPE法で製造する方法を既に提案した(特許文献1および特許文献2)。該HVPE法とは、三塩化アルミニウムなどの III族ハロゲン化物ガスからなる III族源ガスと、アンモニアなどの窒素源ガスとを高温に保持された単結晶基板に接触させて III族窒化物を当該単結晶基板上にエピタキシャル成長させる方法であり、結晶成長速度が速いという特徴を有している。そのため、厚膜のAl系 III族窒化物単結晶を実用レベルで量産することが可能となる。したがって、この方法によってサファイア等の基板上に得られる厚膜単結晶をウェハ状に加工することによって、Al系 III族窒化物単結晶基板として用いることができる。さらに、このような基板上にMOVPE法やMBE法、HVPE法などの結晶成長法を用いて発光等を目的とした積層構造を形成することにより、高効率な発光光源が得られると期待される。
【0007】
以上のように、Al系 III族窒化物単結晶基板の利用は、発光や電子移動等の機能性を持つ積層構造を製造する際、成長層の特性をより高性能・高品質に仕上げることを可能にする。
【0008】
厚膜のAl系 III族窒化物単結晶を製造するためのHVPE装置として、従来では、次に示す二つのタイプの装置が知られている。第1のタイプの装置は、石英製の反応器本体中に、Al系 III族ハロゲン化物ガスを発生させる III族源ガス発生部と、 III族源ガス( III族ハロゲン化物)と窒素源ガスとを反応させて目的とするAl系 III族窒化物単結晶を単結晶基板上に成長させる反応ゾーンが配設されてなる一体型装置である。
【0009】
第2のタイプの装置は、 III族源ガス発生部がAl系 III族窒化物単結晶を単結晶基板上に成長させる反応ゾーンを有する反応器本体の外部に配設され、 III族源ガス発生部で発生させた III族源ガスを配管を介して反応器本体内に導入する分離型装置である。当該分離型装置では、 III族源ガス発生部と反応器本体とは何れも石英製であり、配管としてはフレキシブルなステンレス製配管を用い、配管と III族源ガス発生部および反応器本体との接続部には、ガスの漏洩を防止するために樹脂製シール部材を介在さるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−303774号公報
【特許文献2】特開2007−42854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記一体型装置では、 III族源ガス発生部を石英製の反応器本体内部に収容させるために、反応器本体となる大型の石英反応管を必要とすると共に、反応器本体内部のメンテナンスが難しく、装置構成も煩雑になるという問題がある。
【0012】
これに対し、前記分離型装置では、 III族源ガス発生部と反応器本体とを、それぞれ別々の石英反応管で制作することができ、装置構成もシンプルになり、しかもメンテナンスも容易になるというメリットがある。
【0013】
しかしながら、従来の分離型装置を用いてAl系 III族窒化物単結晶を製造しようとした場合には、膜厚を厚くするために長時間結晶成長を行うと多結晶化してしまうことがあるという問題が発生することが明らかとなった。
【0014】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、装置構成がシンプルであり、メンテナンス性にも優れ、しかも高品質なAl系 III族窒化物単結晶を安定して製造することができるハイドライド気相エピタキシー装置を提供することである。また、本発明の他の目的は、高品質なAl系 III族窒化物単結晶を高生産性で製造することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、従来の分離型装置における前記問題の発生を防止することができれば上記目的を達成することができると考え、先ず上記問題の発生原因について鋭意検討を行った。その結果、一体型装置と分離型装置とでは III族源ガス発生部から反応ゾーンに達するまでの III族源ガス流路の構造の違いに起因して III族源ガスの温度履歴に違いが生じ、それが上記問題発生の原因となっていることを突き止めた。すなわち、分離型装置では、前記シール部材の最高使用温度(耐熱温度:約250℃)が III族源ガス発生部の温度(通常、400〜600℃)よりかなり低いために III族源ガスの温度を一旦下げる必要がある。そのため、ステンレス製配管の内部に固体として析出し、析出物の微細なパーティクルが III族源ガスに同伴されて反応器本体内に導入されることが判明した。そして、当該パーティクルが反応ゾーンにおいて単結晶基板に付着すると、そこが結晶成長の核となり多結晶が成長することを突き止めた。
このような、従来の分離型装置における前記問題の発生原因が明らかとなったことから、本発明者等は、フィルターを設置して前記パーティクルの反応器本体への導入を阻止することにより前記問題の発生を防止することを試みた。しかしながら、このような対策によりある程度の改善(多結晶成長の頻度の低下)は図られたものの、満足のゆく効果を得るには至らなかった。
そこで、本発明者等は、分離型装置において III族源ガスの温度を下げることなく反応器本体に導入できる装置構造について鋭意検討を行い、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、
III族ハロゲン化物ガス及び窒素源ガスを単結晶基板に接触させて III族窒化物を当該単結晶基板上にエピタキシャル成長させる反応ゾーンを有する反応器本体と、
当該反応器本体の外部に配設され、前記 III族ハロゲン化物ガスを生成するための III族源ガス発生部と、
当該 III族源ガス発生部で生成した III族ハロゲン化物ガスを反応器本体に導入するための III族ハロゲン化物ガス導入管と、を有するハイドライド気相エピタキシー装置において、
前記 III族源ガス発生部は、
III族元素の単体を収容して保持する収容部と、
該収容部を囲み、該収容部の下流側に排出口が設けられ、前記収容部に保持された III族元素の単体とハロゲン原料ガスとを反応させ、当該反応により生成した III族ハロゲン化物ガスを前記排出口から排出するように構成してあるハロゲン化反応器と、
前記ハロゲン化反応器および排出口を覆うように配設された外殻ケーシングとを有し、
前記外殻ケーシングが、前記 III族ハロゲン化物ガス導入管に接続してあり、
前記外殻ケーシングと前記ハロゲン化反応器との間の隙間に搬送ガスを流通せしめ、当該搬送ガスと共に前記排出口より排出された III族ハロゲン化物ガスを前記 III族ハロゲン化物ガス導入管を通して前記反応器本体の反応ゾーンへ供給するようにしたことを特徴とするハイドライド気相エピタキシー装置である。
【0017】
本発明に係るハイドライド気相エピタキシー装置では、 III族源ガス発生部のハロゲン化反応器および排出口を覆うように、外殻ケーシングが配置されている。しかも、外殻ケーシングが金属原料ガス導入管に接続してある。ハロゲン化反応器は、ハロゲン原料ガスで腐食されないように、たとえば石英ガラス、アルミナ、サファイヤ、耐熱ガラスなどで構成する。このハロゲン化反応器の排出口からは、ハロゲン原料ガスが III族元素の単体と反応した後の III族ハロゲン化物ガスが排出される。
【0018】
この III族ハロゲン化物ガスは、ハロゲン原料ガスに比較して金属を浸食しないので、 III族源ガス発生部のハロゲン化反応器および排出口を覆う外殻ケーシングは、ステンレスなどの金属で構成することが可能になる。その外殻ケーシングを III族ハロゲン化物ガス導入管に対して接続すれば、樹脂製のシール部材を用いる必要がなくなる。
【0019】
そのため III族ハロゲン化物ガス導入管の周囲を、収容部と同等な温度近くにまで加熱することが可能になり、 III族ハロゲン化物ガス導入管の内部で固体が析出することがなくなる。そのため、メンテナンスが容易になると共に、配管途中での固体の析出による反応ゾーンでのAl系 III族窒化物単結晶の多結晶化を防止することができる。そのため、高品質なAl系 III族窒化物単結晶を高生産性で製造することが可能になる。
【0020】
前記外殻ケーシングおよび III族ハロゲン化物ガス導入管が金属で構成されても良く、前記 III族源ガス発生部のハロゲン化反応器は、耐熱性および耐酸性の非金属材料で構成されてもよい。
【0021】
好ましくは、前記 III族源ガス発生部のハロゲン化反応器を覆う前記外殻ケーシングの外周を加熱する第1加熱手段と、前記 III族ハロゲン化物ガス導入管の外周を加熱する第2加熱手段とを、さらに有する。
【0022】
好ましくは、前記第2加熱手段による加熱温度が、前記第1加熱手段による加熱温度の90%以上、800℃以下の温度範囲内にある。このような温度範囲とすることで、 III族ハロゲン化物ガス導入管の途中における固体の析出を効果的に防止することができる。
【0023】
好ましくは、前記反応器本体には、前記窒素源ガスを前記反応ゾーンの内部に導入する窒素源ガス導入管が、前記 III族ハロゲン化物ガス導入管とは別に設けてある。
【0024】
好ましくは、前記 III族元素の単体がアルミニウムであり、
前記ハロゲン原料ガスが、ハロゲン化水素ガスもしくはハロゲンガスであり、
前記搬送ガスが不活性ガスまたは水素ガスであり、
前記窒素源ガスがアンモニアガスであり、
目的とする前記Al系 III族窒化物単結晶が、窒化アルミニウム単結晶である。
【0025】
本発明に係るAl系 III族窒化物単結晶を製造する方法は、
III族ハロゲン化物ガスと窒素源ガスとを高温に保持された単結晶基板に接触させて、Al系 III族窒化物単結晶を当該単結晶基板上にエピタキシャル成長させる方法であって、上記のいずれかに記載の装置を用いてAl系 III族窒化物を製造することを特徴とする。本発明の方法によれば、高品質なAl系 III族窒化物単結晶を高生産性で製造することができる。
【0026】
なお、Al系 III族窒化物とは、 III族元素のホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)の窒化物結晶の単体、もしくはこれら III族元素の窒化物結晶からなる混晶のうち、 III族元素のアルミニウムを少なくとも含む全ての III族元素の窒化物を意味する。具体的には窒化アルミニウム単体の他、窒化アルミニウムとアルミニウム以外の III族元素であるホウ素、ガリウム、インジウムの窒化物との混晶、例えば、窒化アルミニウムボロン、窒化アルミニウムインジウム、窒化アルミニウムガリウム、窒化アルミニウムインジウムガリウム、窒化アルミニウムガリウムボロン等を含み、B、Al、Ga、Inなどの III族元素の成分比は任意である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1(A)は本発明の一実施形態に係るハイドライド気相エピタキシー装置の概略断面図、図1(B)は図1(A)に示す III族源ガス発生部および III族ハロゲン化物ガス導入管における温度分布を示すグラフである。
【図2】図2は図1に示す反応器本体の詳細断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るハイドライド気相エピタキシー(HVPE)装置10は、反応器本体20と III族源ガス発生部40と III族ハロゲン化物ガス導入管50とを有する。反応器本体20は、 III族ハロゲン化物ガスと窒素源ガスとを反応させて目的とするAl系 III族窒化物単結晶を成長させる反応ゾーン22を有する。
【0029】
III族源ガス発生部40は、 III族ハロゲン化物ガスを作り出すために III族元素の単体46とハロゲン原料ガスとを加熱下で反応させて III族ハロゲン化物ガスを発生させるようになっている。 III族ハロゲン化物ガス導入管50は、 III族源ガス発生部40で製造された III族ハロゲン化物ガスを、反応器本体20の反応ゾーン22へ供給するようになっている。
【0030】
図2に示すように、反応器本体20は、反応ゾーン22において、目的とするAl系 III族窒化物単結晶を成長させる基板24を着脱自在に保持する基板保持部26が配置してある。基板保持部26には、回転駆動軸27が連結してあり、基板24を回転自在になっている。基板保持部26に保持してある基板24を加熱するために、基板保持部26の下方には、高周波コイルなどの加熱手段28が装着してある。なお、加熱手段28としては、高周波コイルに限らず、発熱抵抗体、あるいはその他の加熱手段でも良い。
【0031】
基板保持部26には、単一の基板24が保持されていても良いし、複数の基板24が保持されていても良い。基板保持部26は、反応器本体20の内チャンバ32の内部に基板側表面が露出するように配置してあり、その部分に反応ゾーン22が形成される。
【0032】
内チャンバ32の外周には、外チャンバ30が装着してある。内チャンバ32の一方の開口端は、外チャンバ30の開口端に嵌め込まれ、排気口32aを構成している。内チャンバ32の他方の開口端は外チャンバ30の端壁30aにより閉じられている。ただし、外チャンバ30の端壁30aには、 III族ハロゲン化物ガス導入管50の端部導入口50aが貫通していると共に、窒素源ガス導入管60の端部導入口60aが貫通している。
【0033】
III族ハロゲン化物ガス導入管50の端部導入口50aと窒素源ガス導入管60の端部導入口60aとは、それぞれ内チャンバ32の内部に設けられた第1ノズル34および第2ノズル36にそれぞれ接続してあり、これらの内部がそれぞれ流通可能になっている。
【0034】
図2に示す実施形態では、第1ノズル34のノズル口34aは、ノズル口34aから吹き出されたガスが、内チャンバ32の長手方向に沿って基板24に向かうガスの流れとなるように構成してある。また、第2ノズル36のノズル口36aは、第1ノズル34のノズル口34aの上方に位置し、ノズル口36aから吹き出されたガスが、内チャンバ32の長手方向に沿って基板24に向かい、基板24の表面で、第1ノズル34のノズル口34aからのガス流と混合されるように構成してある。
【0035】
第1ノズル34および第2ノズル36が配置してある内チャンバ32の外周で、外チャンバ30の内部には、ヒータ38が配置してあり、これらのノズル34および36から吹き出されるガスの温度を適切な温度に加熱している。
【0036】
本実施形態では、反応器本体20の内チャンバ32は、反応ゾーン22を内部に有することから、石英ガラス、アルミナ、サファイヤ、耐熱ガラスなどの耐熱性および耐酸性の非金属材料で構成されることが好ましく、第1ノズル34および第2ノズル36も同様な材質で構成されることが好ましい。
【0037】
外チャンバ30は、内チャンバと同様な材質で構成しても良いが、反応ゾーン22には直接に接触していないので、一般的にはステンレス金属で構成することもできる。 III族ハロゲン化物ガス導入管50は、後述するように金属で構成され、窒素源ガス導入管60も、 III族ハロゲン化物ガス導入管50と同様な金属で構成することができる。
【0038】
図1に示すように、 III族源ガス発生部40は、 III族元素の単体46が収容される収容部46aが内部に配置してある筒状のハロゲン化反応器42を有する。筒状のハロゲン化反応器42の長手方向の一端(底部)には排出口44が形成してあると共に、長手方向の他端(頂部)には、頂部開口端41が形成してある。頂部開口端41には、ハロゲン原料ガスをハロゲン化反応器42に供給するための供給口43が形成してある蓋部45が、内部を密封可能に、しかも着脱自在に装着される。
【0039】
供給口43からは、ハロゲン化反応器42の内部に、ハロゲン原料ガスとして、たとえばHClガスなどのハロゲン化水素ガスもしくはClなどのハロゲンガスが供給されるようになっている。 III族元素の単体46は、たとえばアルミニウムを含む III族金属で構成してある。 III族元素の単体46は、装置のメンテナンス時などに、蓋部45をハロゲン化反応器42の頂部から外すことで、ハロゲン化反応器42の内部から交換自在になっている。ハロゲン化反応器42の底部に形成してある排出口44は、供給口42から供給されたハロゲン原料ガスが III族元素の単体46に反応して作り出された III族ハロゲン化物ガスを外部に送り出すようになっている。
【0040】
ハロゲン化反応器42の外周で蓋部45の近くには、フランジ47がハロゲン化反応器42と一体に形成してある。フランジ47は、筒形状の外殻ケーシング48の頂部開口端49に密封に連結されている。外殻ケーシング48は、 III族ハロゲン化物ガス発生部40の排出口44を含むハロゲン化反応器42の大部分を覆うように、ハロゲン化反応器42の外周に配置してある。外殻ケーシング47が覆っている排出口44を含むハロゲン化反応器42の大部分とは、ハロゲン化反応器42において、 III族元素の単体46を収容している収容部46aに対応する部分を少なくとも含む部分であり、具体的には、ハロゲン化反応器42の全長の50%以上である。
【0041】
外殻ケーシング42の頂部開口端49の近くには、搬送ガス供給口52が形成してあり、そこから外殻ケーシング48の内部に搬送ガスが供給される。外殻ケーシング48とハロゲン化反応器42との間には、搬送ガス流路53が形成してある。搬送ガスとしては、外殻ケーシング48を腐食させず、しかも排出口44から排出される III族ハロゲン化物ガスと反応しないガスであれば特に限定されず、たとえば窒素ガス、ヘリウム、またはアルゴンなどの不活性ガスあるいは水素ガス、あるいはこれらの混合ガスなどが用いられる。
【0042】
供給口52から供給された搬送ガスは、ハロゲン化反応器42の外周に沿った搬送ガス流路53を通り、排出口44の近くにて、排出口44から排出される III族ハロゲン化物ガスを巻き込み、その III族ハロゲン化物ガスを III族ハロゲン化物ガス導入管50に導入するようになっている。すなわち、排出口44から排出された III族ハロゲン化物ガスは、搬送ガスと共に III族ハロゲン化物ガス導入管50を通して、 III族源ガス発生部40の外部に配置された反応器本体20の反応ゾーン22へ供給されるようになっている。
【0043】
本実施形態では、ハロゲン化反応器42は、供給口43から供給されるハロゲン原料ガスで腐食されないように、たとえば石英ガラス、アルミナ、サファイヤ、耐熱ガラスなどの耐熱性および耐酸性の非金属材料で構成される。このハロゲン化反応器42は、図1のように排出口44およびフランジ47を一体に形成してもよいし、石英ガラスもしくは耐熱ガラス製の一体成形容器の内部に石英ガラス、アルミナ、サファイヤ、耐熱ガラスなどの金属原料収納容器(収容部46a)を設置してもよい。また、外殻ケーシング48および III族ハロゲン化物ガス導入管50は、たとえばステンレス、インコネル、ハステロイ、タンタル、タングステンなどの金属で構成される。外殻ケーシング48および III族ハロゲン化物ガス導入管50は、一体成形されても良いし、あるいは溶接などで接合されても良い。また、市販の金属シールを用いた継手により接続してもよい。
【0044】
本実施形態では、外殻ケーシング48および III族ハロゲン化物ガス導入管50の外周が加熱炉54で覆われている。加熱炉54は、たとえば電気炉、光加熱装置、高周波誘導加熱装置などで構成され、予備加熱部55、第1加熱部56および第2加熱部57を有する。
【0045】
予備加熱部55、第1加熱部56および第2加熱部57は、それぞれが独立に温度制御可能な加熱手段であり、予備加熱部55は、供給口43から供給されて金属体46に向かうハロゲン原料ガスを予備的に加熱するためのものである。第1加熱部56は、ハロゲン化反応器42の収容部46aに収容されている金属体46を所定温度に加熱する加熱手段である。また、第2加熱部57は、排出口44から排出される III族ハロゲン化物ガスが III族ハロゲン化物ガス導入管50を通過する間に所定温度以下に低下しないように加熱する加熱手段である。
【0046】
予備加熱部55、第1加熱部56および第2加熱部57の加熱温度は、次のようにして決定される。すなわち、第1加熱部56により加熱されるハロゲン化反応器42の内部温度T1は、ハロゲン原料ガスが金属体46と反応して、たとえばAlClガスなどの III族ハロゲン化物ガスが生成されるために都合が良い温度に設定される。
【0047】
たとえばAlClガスなどの III族ハロゲン化物ガスを生成する場合には、内部温度T1は、200°C〜600°Cであることが好ましく、本発明によれば、 III族ハロゲン化物ガス導入管の内部温度T2をT1の90%以上に保温することが出来るので、 III族ハロゲン化物ガス導入管の途中における固体の析出が起こらず、 III族ハロゲン化物ガスの反応条件に有利な生成温度と出来るため、さらには300℃〜600℃であることが好ましい。
第2加熱部57により加熱される III族ハロゲン化物ガス導入管50の内部温度T2は、前記内部温度T1の90%以上、800℃以下であることが好ましい。また、予備加熱部55におけるハロゲン化反応器42の内部加熱温度T0は、金属体46の周囲において前述した内部温度T1に保たれるように決定される。
【0048】
本実施形態では、外殻ケーシング48の頂部開口端49は、加熱炉54の外部に配置されることが好ましい。金属で構成される外殻ケーシング48の頂部開口端49は、たとえば石英で構成されるフランジ47に対して着脱自在に装着されることが好ましく、しかも、これらの接続部において密封性が要求されるために、これらの接続部にはシール部材を介在させることが好ましい。外殻ケーシング48の頂部開口端49とフランジ47との接続部を、加熱炉54の外側に配置することで、シール部材が加熱されることはなくなり、シール部材の耐久性が向上する。
【0049】
また、外殻ケーシング48の頂部開口端49とフランジ47との接続部を、加熱炉54の外側に配置することで、ハロゲン化反応器42の頂部開口端41と蓋部45との接続部も、加熱炉54の外側に配置される。そのため、ハロゲン化反応器42の頂部開口端41と蓋部45との接続部におけるシール部材も加熱されることはなくなり、その部分に用いられるシール部材の耐久性が向上する。
【0050】
本実施形態に係るハイドライド気相エピタキシー装置10では、 III族源ガス発生部40のハロゲン化反応器42および排出口44を覆うように、外殻ケーシング48が配置されている。しかも、外殻ケーシング48が III族導入管50に接続してある。ハロゲン化反応器42は、ハロゲン原料ガスで腐食されないように、たとえば石英ガラス、アルミナ、サファイヤ、耐熱ガラスなどで構成する必要がある。このハロゲン化反応器42の排出口44からは、ハロゲン原料ガスが III族元素の単体と反応した後の III族ハロゲン化物ガスが排出される。
【0051】
この III族ハロゲン化物ガスは、ハロゲン原料ガスに比較して金属を浸食しないので、 III族源ガス発生部40のハロゲン化反応器42および排出口44を覆う外殻ケーシング48は、ステンレスなどの金属で構成することが可能になる。その外殻ケーシング48を III族ハロゲン化物ガス導入管50に対して、溶接、一体成形、また、市販の金属シールを用いた継手などの手段で接続すれば、樹脂製のシール部材を用いる必要がなくなる。
【0052】
そのため III族ハロゲン化物ガス導入管50の周囲を、ハロゲン化反応器42における収容部46aと同等な温度近くにまで、第2加熱部57により加熱することが可能になり、 III族ハロゲン化物ガス導入管50の内部で固体が析出することがなくなる。そのため、メンテナンスが容易になると共に、配管途中での固体の析出によるAl系 III族窒化物単結晶が多結晶化することが防止される。そのため、高品質なAl系 III族窒化物単結晶を高生産性で製造することが可能になる。
【0053】
なお、従来では、金属製の III族ハロゲン化物ガス導入部50と、石英などで構成されたハロゲン化反応器42の排出口44とを直接に接続していたために、その接続部にシール部材を必要としていた。そのため、 III族ハロゲン化物ガス導入部50の温度を、ハロゲン化反応器42における収容部46aの内部温度T1並みに加熱することができず、図1(B)に示すように、金属原料ガス導入部50の温度T2’が、ハロゲン化反応器42における収容部46aの内部温度T1よりも低くなっていた。そのために、 III族ハロゲン化物ガス導入部50の内部で、固体の析出が生じるおそれがあった。
【0054】
本実施形態では、金属製の外殻ケーシング48と金属製の III族ハロゲン化物ガス導入管50とを接続する構造としたために、 III族ハロゲン化物ガス導入管50の周囲を、ハロゲン化反応器42の収容部46aと同等な温度近く(T2がT1に近い)にまで、第2加熱部57により加熱することが可能になり、 III族ハロゲン化物ガス導入管50の内部で固体が析出することを防ぐことが出来る。
【0055】
次に、上述したHVPE装置10を用いて、 III族ハロゲン化物ガスと窒素源ガスとを反応させて、加熱された基板24上にAl系 III族窒化物単結晶を成長させてAl系 III族窒化物単結晶を製造する方法について説明する。
【0056】
図1に示す III族元素の単体46として用いられる金属アルミニウムは純度が99.99%以上、より好ましくは99.999%以上の高純度のものを使用することが好ましい。金属アルミニウムとハロゲン原料ガス(たとえばHClなどのハロゲン化水素ガスや塩素などのハロゲンガス)との接触面積を大きくするため、金属アルミニウムは粒状もしくはメッシュ状などの態様が好ましい。粒状の場合には直径1〜10mm程度のものが取り扱い易いがこの限りでない。金属アルミニウムはハロゲン化反応器42内に直接充填しても良いが、アルミナなどの化学的耐久性、熱的耐久性の良好な高純度のボート等の内部に充填してもよい。また、例えばセラミックハニカムのような他材料の表面を高純度金属アルミニウムで被覆し、流通ガスとの接触面積を大きくしても良い。
【0057】
ハロゲン化反応器42の内部では、アルミニウムを含む III族金属とハロゲン原料ガスとの反応により III族ハロゲン化物ガス(たとえばAlClなどの金属原料ガス)を得ている。
【0058】
なお、 III族ハロゲン化物ガスとは三塩化アルミニウム等のハロゲン化アルミニウムの他、三塩化ガリウムもしくは一塩化ガリウム等のハロゲン化ガリウムや三塩化インジウム等のハロゲン化インジウムなどのハロゲン化物ガスを含むものであり、目的とするAl系 III族窒化物単結晶の混晶を製造する場合には組成に応じて、該ハロゲン化物ガスを適宜混合して使用する。
【0059】
目的とするAl系 III族窒化物単結晶が析出される基板24としては、特に限定されないが、たとえばサファイア、シリコン、シリコンカーバイド、酸化亜鉛、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化アルミニウムガリウム、ガリウム砒素、ホウ化ジルコニウム、ホウ化チタニウムなどが用いられる。
【0060】
図2に示す第1ノズル34から反応ゾーン22に供給した III族ハロゲン化物ガスを窒化してAl系 III族窒化物単結晶を得るために、第2ノズル36からは窒素源ガスを吹き出させる。この窒素源ガスは通常キャリアガスに希釈して供給する。当該窒素源ガスとしては、窒素を含有する反応性ガスが採用されるが、コストと取扱易さの点で、アンモニアガスが好ましい。
【0061】
反応ゾーン22に水素を含むキャリアガスを流通して加熱し、基板に付着した有機物を除去するため、通常サーマルクリーニングを行うと良い。サファイア基板の場合、一般的には1100℃で10分間程度保持する。その後、第1ノズル34からは三塩化アルミニウムを含む III族ハロゲン化物ガスを反応ゾーンに供給し、第2ノズル36からは窒素源ガスの供給を開始して、好ましくは1000〜1700°Cに加熱された基板24上にAl系 III族窒化物結晶を成長させる。
【0062】
III族ハロゲン化物ガスの供給量は、標準状態における体積流量により管理しても良いが、分圧により決定すると理解し易い。すなわち、基板上に供給される全ガス(キャリアガス、 III族ハロゲン化物ガス、窒素源ガス)の標準状態における体積の合計に対する III族ハロゲン化物ガスの標準状態における体積の割合を III族ハロゲン化物ガスの供給分圧としている。
【0063】
III族ハロゲン化物ガスの供給分圧は1Pa〜1000Paの濃度範囲が選択される。窒素源ガスの供給量は、一般的に供給する上記 III族ハロゲン化物ガスの0.5〜200倍の供給量が好適に選択されるがこの限りでない。成長時間は意図する膜厚になるように適宜調節される。一定時間成長した後、 III族ハロゲン化物ガスの供給を停止して成長を終了する。基板を室温まで降温する。
【0064】
以上、 III族ハロゲン化物ガスを原料として III族窒化物単結晶の製造について説明したが、さらに高品質なAl系 III族窒化物単結晶を得るために、成長初期に基板上に100nm以下の膜厚のバッファー層を成長してその上にHVPE法で厚膜を形成する方法、基板上にHVPE法以外の方法によって結晶品質の良好なテンプレート膜を形成してその上にHVPE法で厚膜を形成する方法、基板をストライプ状もしくはドット状に加工してその上にHVPE法で横方向成長させながら厚膜を形成する方法等、様々な成長手法が適用可能である。
【0065】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。たとえば、 III族源ガス発生部40および/または反応器本体20は、水平設置以外に、垂直設置、あるいは、斜め設置でも良い。
【符号の説明】
【0066】
10… ハイドライド気相エピタキシー(HVPE)装置
20… 反応器本体
22… 反応ゾーン
24… 基板
30… 外チャンバ
32… 内チャンバ
34… 第1ノズル
36… 第2ノズル
38… ヒータ
40… III族源ガス発生部
42… ハロゲン化反応器
44… 排出口
46… 金属体
46a… 収容部
48… 外殻ケーシング
50… III族ハロゲン化物ガス導入管
52… 搬送ガス供給口
54… 加熱炉
55… 予備加熱部
56… 第1加熱部
57… 第2加熱部
60… 窒素源ガス導入管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族ハロゲン化物ガス及び窒素源ガスを単結晶基板に接触させて III族窒化物を当該単結晶基板上にエピタキシャル成長させる反応ゾーンを有する反応器本体と、
当該反応器本体の外部に配設され、前記 III族ハロゲン化物ガスを生成するための III族源ガス発生部と、
当該 III族源ガス発生部で生成した III族ハロゲン化物ガスを反応器本体に導入するための III族ハロゲン化物ガス導入管と、を有するハイドライド気相エピタキシー装置において、
前記 III族源ガス発生部は、
III族元素の単体を収容して保持する収容部と、
該収容部を囲み、該収容部の下流側に排出口が設けられ、前記収容部に保持された III族元素の単体とハロゲン原料ガスとを反応させ、当該反応により生成した III族ハロゲン化物ガスを前記排出口から排出するように構成してあるハロゲン化反応器と、
前記ハロゲン化反応器および排出口を覆うように配設された外殻ケーシングとを有し、
前記外殻ケーシングが、前記 III族ハロゲン化物ガス導入管に接続してあり、
前記外殻ケーシングと前記ハロゲン化反応器との間の隙間に搬送ガスを流通せしめ、当該搬送ガスと共に前記排出口より排出された III族ハロゲン化物ガスを前記 III族ハロゲン化物ガス導入管を通して前記反応器本体の反応ゾーンへ供給するようにしたことを特徴とするハイドライド気相エピタキシー装置。
【請求項2】
前記外殻ケーシングおよび III族ハロゲン化物ガス導入管が金属で構成され、
前記 III族源ガス発生部のハロゲン化反応器が耐熱性および耐酸性の非金属材料で構成される請求項1に記載のハイドライド気相エピタキシー装置。
【請求項3】
前記 III族源ガス発生部のハロゲン化反応器を覆う前記外殻ケーシングの外周を加熱する第1加熱手段と、
前記 III族ハロゲン化物ガス導入管の外周を加熱する第2加熱手段とを、さらに有する請求項1または2に記載のハイドライド気相エピタキシー装置。
【請求項4】
前記第2加熱手段による加熱温度が、前記第1加熱手段による加熱温度の90%以上、800℃以下の温度範囲内にある請求項3に記載のハイドライド気相エピタキシー装置。
【請求項5】
前記反応器本体には、前記窒素源ガスを前記反応ゾーンの内部に導入する窒素源ガス導入管が、前記 III族ハロゲン化物ガス導入管とは別に設けてある請求項1〜4のいずれかに記載のハイドライド気相エピタキシー装置。
【請求項6】
前記 III族元素の単体がアルミニウムであり、
前記搬送ガスが不活性ガスまたは水素ガスであり、
前記窒素源ガスがアンモニアガスであり、
目的とする前記アルミニウム系 III族窒化物単結晶が、窒化アルミニウム単結晶である請求項1〜5のいずれかに記載のハイドライド気相エピタキシー装置。
【請求項7】
III族ハロゲン化物ガスと窒素源ガスとを反応させて、加熱された基板上にアルミニウム系 III族窒化物単結晶を成長させてアルミニウム系 III族窒化物単結晶を製造する方法であって、
請求項1〜6のいずれかに記載の装置を用いてアルミニウム系 III族窒化物単結晶を製造することを特徴とするアルミニウム系 III族窒化物単結晶を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−60340(P2013−60340A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201165(P2011−201165)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】