説明

ハイブリッド自動車

【課題】こもり音の発生を回避しつつ、運転者や乗員に違和感を与えるのを抑制する。
【解決手段】車速Vが閾値Vref未満の低車速走行時にエンジンを燃費最適動作ラインで運転して車両要求パワーPe*を出力するとエンジンの運転ポイントがこもり音領域内となるときには、エアコン要求パワーPa*より小さな値の補正用パワーPalimをエアコン要求パワーPa*の代わりに用いて車両要求パワーPe*が小さくなるよう再設定(補正)し(S150)、この再設定(補正)した車両要求パワーPe*と燃費最適動作ラインからこもり音領域を回避して得られる実行用動作ラインを用いてエンジンの目標回転数Ne*や目標トルクTe*を設定すると共にモータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定してエンジンやモータMG1,MG2を駆動制御する(S160〜S210)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車に関し、詳しくは、内燃機関と、第1の電動機と、内燃機関の出力軸と第1の電動機の回転軸と駆動軸とに3つの回転要素が接続された遊星歯車機構と、遊星歯車機構を介することなく駆動軸に動力を出力可能な第2の電動機と、第1の電動機および第2の電動機と電力のやりとりが可能なバッテリと、乗員室を空気調和する空調装置と、走行に必要な走行用パワーを含めて車両に要求される車両要求パワーを燃費最適動作ラインから低回転高トルクのこもり音領域を回避してなる実行用動作ライン上の運転ポイントで内燃機関を運転することによって該内燃機関から出力して走行するよう内燃機関と第1の電動機と第2の電動機とを制御する制御手段と、を備えるハイブリッド自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のハイブリッド自動車としては、エンジンと、モータMG1と、エンジンの出力軸,モータMG1の回転軸,車軸側にキャリア,サンギヤ,リングギヤが接続された遊星歯車機構と、車軸側に動力を出力するモータMG2と、モータMG1およびモータMG2と電力のやりとりを行なうバッテリと、エンジンから出力すべき要求パワーをこもり音を回避してエンジンを効率よく運転する動作ライン上の運転ポイントでエンジンを運転することによってエンジンから出力して走行するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このハイブリッド自動車では、こもり音領域を回避しているために動作ラインのうち要求パワーの増加に対してエンジンの運転ポイントが回転数は変化しないがトルクが増加する範囲でエンジンを運転するときには、要求パワーに増加パワーを上乗せ補正して得られる要求パワーを動作ライン上の運転ポイントでエンジンを運転することによってエンジンから出力してバッテリを充電しておくことにより、車両のエネルギ効率を向上させている。
【0003】
また、同様のハード構成のハイブリッド自動車において、駆動要求パワーがこもり音領域内となるパワーのときには、駆動要求パワーの履歴を判定し、判定された履歴に応じてエンジンの目標パワーをこもり音領域内となるパワーの下限値である閾値PLまたは上限値である閾値PHに設定し、設定された目標パワーに基づいてエンジンの目標回転数と目標トルクとを設定して運転制御するものも提案されている(例えば、特許文献2参照)。このハイブリッド自動車では、エンジンをこもり音領域の中心から離れたこもり音発生領域とこもり音が発生しない領域との境界付近の運転ポイントで運転することにより、こもり音の発生を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−153233号公報
【特許文献2】特開2005−127185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
こもり音領域はエンジンの運転ポイントのうち低回転高トルクの領域となるから、燃費最適動作ライン上の運転ポイントでエンジンから出力すべきパワーを出力しようとするとこもり音領域となるときに、エンジンの運転ポイントをエンジンから出力するパワーを変更せずにこもり音領域を回避した動作ライン上の運転ポイントに移行しようとすると、トルクが小さく回転数が大きくなる運転ポイントに移行することになる。このとき、比較的低車速で走行しているときには、エンジンの回転数が大きくなることから、運転者や乗員に違和感を与えてしまう。
【0006】
本発明のハイブリッド自動車は、こもり音の発生を回避しつつ、運転者や乗員に違和感を与えるのを抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のハイブリッド自動車は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明のハイブリッド自動車は、
内燃機関と、第1の電動機と、前記内燃機関の出力軸と前記第1の電動機の回転軸と駆動軸とに3つの回転要素が接続された遊星歯車機構と、前記遊星歯車機構を介することなく前記駆動軸に動力を出力可能な第2の電動機と、前記第1の電動機および前記第2の電動機と電力のやりとりが可能なバッテリと、乗員室を空気調和する空調装置と、走行に必要な走行用パワーを含めて車両に要求される車両要求パワーを燃費最適動作ラインから低回転高トルクのこもり音領域を回避してなる実行用動作ライン上の運転ポイントで前記内燃機関を運転することによって該内燃機関から出力して走行するよう前記内燃機関と前記第1の電動機と前記第2の電動機とを制御する制御手段と、を備えるハイブリッド自動車において、
前記制御手段は、車速が比較的小さな値として予め設定された所定値未満の低車速走行時に前記車両要求パワーを前記燃費最適動作ライン上の運転ポイントで前記内燃機関を運転すると前記こもり音領域となるときには、前記車両要求パワーが小さくなるよう補正すると共に該補正した車両要求パワーを前記実行用動作ライン上の運転ポイントで前記内燃機関を運転することによって該内燃機関から出力して走行するよう前記内燃機関と前記第1の電動機と前記第2の電動機とを制御する手段である、
ことを特徴とする。
【0009】
この本発明のハイブリッド自動車では、車速が比較的小さな値として予め設定された所定値未満の低車速走行時に車両要求パワーを燃費最適動作ライン上の運転ポイントで内燃機関を運転するとこもり音領域となるときには、車両要求パワーが小さくなるよう補正すると共にこの補正した車両要求パワーを実行用動作ライン上の運転ポイントで内燃機関を運転することによって内燃機関から出力して走行するよう内燃機関と第1の電動機と第2の電動機とを制御する。このように、低車速走行時に燃費最適動作ライン上で内燃機関を運転するとこもり音が生じるときには車両要求パワーを小さく補正するから、実行用動作ライン上の運転ポイントに移行しても、補正前の車両要求パワーのときに比して内燃機関の回転数を小さくすることができる。この結果、こもり音の発生を回避しつつ、運転者や乗員に違和感を与えるのを抑制することができる。
【0010】
こうした本発明のハイブリッド自動車において、前記車両要求パワーは、前記走行用パワーとバッテリの充放電に要求されるバッテリ要求パワーと空調装置に要求される空調要求パワーとを含むパワーであり、前記制御手段は、前記バッテリ要求パワーおよび空調要求パワーの少なくとも一方を小さく補正することによって前記前記車両要求パワーが小さくなるよう補正する手段である、ものとすることもできる。こうすれば、走行に必要なパワーを変更することなく、車両要求パワーを小さくなるように補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】実施例のハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】要求トルク設定用マップの一例を示す説明図である。
【図4】燃費最適動作ラインとこもり音領域の関係の一例を示す説明図である。
【図5】実行用動作ラインと燃費最適動作ラインとエンジン22の運転ポイントの関係の一例を示す説明図である。
【図6】変形例の駆動制御ルーチンの一部の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0013】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、エンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して接続された3軸式の動力分配統合機構30と、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータMG1と、動力分配統合機構30に接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに取り付けられた減速ギヤ35と、この減速ギヤ35に接続されたモータMG2と、乗員室21の空気調和を行なう空調装置60と、車両全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット70とを備える。
【0014】
エンジン22は、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関であり、エンジン22の運転状態を検出する各種センサから信号を入力するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24により燃料噴射制御や点火制御,吸入空気量調節制御などの運転制御を受けている。エンジンECU24は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、エンジンECU24は、クランクシャフト26に取り付けられた図示しないクランクポジションセンサからの信号に基づいてクランクシャフト26の回転数、即ちエンジン22の回転数Neも演算している。
【0015】
動力分配統合機構30は、外歯歯車のサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリア34とを備え、サンギヤ31とリングギヤ32とキャリア34とを回転要素として差動作用を行なう遊星歯車機構として構成されている。動力分配統合機構30は、キャリア34にはエンジン22のクランクシャフト26が、サンギヤ31にはモータMG1が、リングギヤ32にはリングギヤ軸32aを介して減速ギヤ35がそれぞれ連結されており、モータMG1が発電機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力をサンギヤ31側とリングギヤ32側にそのギヤ比に応じて分配し、モータMG1が電動機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力とサンギヤ31から入力されるモータMG1からの動力を統合してリングギヤ32側に出力する。リングギヤ32に出力された動力は、リングギヤ軸32aからギヤ機構37およびデファレンシャルギヤ38を介して、最終的には車両の駆動輪39a,39bに出力される。
【0016】
モータMG1およびモータMG2は、いずれも発電機として駆動することができると共に電動機として駆動できる周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ41,42を介してバッテリ50と電力のやりとりを行なう。インバータ41,42とバッテリ50とを接続する電力ライン54は、各インバータ41,42が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータMG1,MG2のいずれかで発電される電力を他のモータで消費することができるようになっている。したがって、バッテリ50は、モータMG1,MG2のいずれかから生じた電力や不足する電力により充放電されることになる。なお、モータMG1,MG2により電力収支のバランスをとるものとすれば、バッテリ50は充放電されない。モータMG1,MG2は、いずれもモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40により駆動制御されている。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流などが入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42へのスイッチング制御信号が出力されている。モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、モータECU40は、回転位置検出センサ43,44からの信号に基づいてモータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2も演算している。
【0017】
バッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52によって管理されている。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧,バッテリ50の出力端子に接続された電力ライン54に取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流,バッテリ50に取り付けられた温度センサ51からの電池温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。また、バッテリECU52は、バッテリ50を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいてバッテリ50に蓄えられている蓄電量の全容量(蓄電容量)に対する割合である蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいてバッテリ50を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算している。なお、バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、電池温度Tbに基づいて入出力制限Win,Woutの基本値を設定し、バッテリ50の蓄電割合SOCに基づいて出力制限用補正係数と入力制限用補正係数とを設定し、設定した入出力制限Win,Woutの基本値に補正係数を乗じることにより設定することができる。また、バッテリECU52は、蓄電割合SOCが所定値(例えば50%や60%)を中心に所定範囲(例えば中心からプラスマイナス10%の範囲など)となるよう、充電や放電に必要なパワーとしてバッテリ要求パワーPb*も演算している。
【0018】
空調装置60は、バッテリ50が接続される電力ライン54からの電力を用いて駆動するコンプレッサ64や図示しないコンデンサ,エキスパンションバルブ,エバポレータからなる冷凍サイクル62と、この冷凍サイクル62のエバポレータとの熱交換により冷却された空気または加温された空気を乗員室21の吹き出し口21aに送風するブロワ66と、乗員室21に取り付けられた操作パネル67と、を備える。この空調装置60は、空調用電子制御ユニット(以下、空調ECUという)68によって制御されている。空調ECU68には、操作パネル67に取り付けられて冷暖房のオンオフを操作するブロワスイッチ67aからのオンオフ信号や同じく操作パネル67に取り付けられて乗員室21内の温度を設定する設定温度スイッチ67bからの設定温度Tin*,操作パネル67に取り付けられて乗員室21内の温度を検出する温度センサ67cからの乗員室温Tinなどが入力されており、空調ECU68からは、コンプレッサ64やブロワ66への駆動信号などが出力されている。空調ECU68は、入力信号に基づいて乗員室温Tinが設定温度Tin*になるよう空調装置60(コンプレッサ64やブロワ66など)を駆動制御する。なお、空調ECU68は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、必要に応じて空調装置60の状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に送信したり、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号を受信したりする。また、空調ECU68は、設定温度Tin*や乗員室温Tinに基づいて乗員室21を設定温度Tin*に保つのに必要なパワーとしてエアコン要求パワーPa*も演算している。
【0019】
ハイブリッド用電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッド用電子制御ユニット70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。ハイブリッド用電子制御ユニット70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52,空調用ECU68と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52,空調用ECU68と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。なお、実施例のハイブリッド自動車20では、シフトポジションセンサ82により検出するシフトポジションSPとしては、駐車ポジション(Pポジション)や中立ポジション(Nポジション),ドライブポジション(Dポジション),リバースポジション(Rポジション)などがある。
【0020】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダル83の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてが動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されてリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部が動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力をリングギヤ軸32aに出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。
【0021】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特に、低車速時に燃費最適ラインを用いてエンジン22を運転するとエンジンの運転ポイントがこもり音領域内となる場合の動作について説明する。図2は、実施例のハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間毎(例えば数msec毎)に繰り返し実行される。
【0022】
駆動制御ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accや車速センサ88からの車速V,モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2,バッテリ50の入出力制限Win,Wout,バッテリ要求パワーPb*,エアコン要求パワーPa*など制御に必要なデータを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2は、回転位置検出センサ43,44により検出されたモータMG1,MG2の回転子の回転位置に基づいて演算されたものをモータECU40から通信により入力するものとした。バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、バッテリ50の電池温度Tbとバッテリ50の残容量(SOC)とに基づいて設定されたものをバッテリECU52から通信により入力するものとした。また、バッテリ要求パワーPb*は、蓄電割合SOCに基づいて演算されたものをリサイズコントローラー42から通信により入力するものとした。エアコン要求パワーPa*は、設定温度Tin*や乗員室温Tinに基づいて演算されたものを空調ECU68から通信により入力するものとした。
【0023】
こうしてデータを入力すると、入力したアクセル開度Accと車速Vとに基づいて車両に要求されるトルクとして駆動輪39a,39bに連結された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクTr*と走行に要求される走行用パワーPd*とを設定すると共に(ステップS110)、走行用パワーPd*にバッテリ要求パワーPb*とエアコン要求パワーPa*とを加えて車両に要求される車両要求パワーPe*を設定する(ステップS120)。ここで、要求トルクTr*は、実施例では、アクセル開度Accと車速Vと要求トルクTr*との関係を予め定めて要求トルク設定用マップとしてROM74に記憶しておき、アクセル開度Accと車速Vとが与えられると記憶したマップから対応する要求トルクTr*を導出して設定するものとした。図3に要求トルク設定用マップの一例を示す。走行用パワーPd*は、設定した要求トルクTr*にリングギヤ軸32aの回転数Nrを乗じて計算することができる。なお、リングギヤ軸32aの回転数Nrは、車速Vに換算係数kを乗じること(Nr=k・V)によって求めたり、モータMG2の回転数Nm2を減速ギヤ35のギヤ比Grで割ること(Nr=Nm2/Gr)によって求めることができる。
【0024】
続いて、車速Vが比較的小さな値として予め設定された閾値Vref(例えば、10km/hや20km/hなど)未満であるか否か、即ち、走行騒音が小さい低車速走行時であるか否かを判定すると共に(ステップS130)、モータMG2のトルク指令Tm2*が値0近傍の状態でエンジン22を燃費最適動作ラインで運転して車両要求パワーPe*を出力するとエンジン22の運転ポイントがこもり音領域内となるか否かを判定する(ステップS140)。燃費最適動作ラインとこもり音領域の関係の一例を図4に示す。上述のステップS140の判定は、図4に示すように、こもり音領域はエンジン22が低回転高トルクの運転ポイントとなるときの領域であるから、車両要求パワーPe*が一定の曲線と燃費最適動作ラインとの交点がこのこもり音領域内となるか否かの判定となる。ここで、車速がVref未満を条件としているのは、車速が高い時には走行時の暗騒音が大きく、エンジン回転数が大きくなっても暗騒音によりエンジン音がある程度マスクされ、運転者や乗員に違和感を与えないからである。
【0025】
車速Vが閾値Vref以上であったり、車速VがVref未満であってもエンジン22を燃費最適動作ラインで運転して車両要求パワーPe*を出力するとエンジン22の運転ポイントがこもり音領域外となるときには、燃費最適動作ラインからこもり音領域を回避した実行用動作ラインと車両要求パワーPe*との交点としてエンジン22を運転すべき運転ポイントとしての目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定し(ステップS160)、エンジン22の目標回転数Ne*とモータMG2の回転数Nm2と動力分配統合機構30のギヤ比ρとを用いて次式(1)によりモータMG1の目標回転数Nm1*を計算すると共に計算した目標回転数Nm1*と入力したモータMG1の回転数Nm1とに基づいて式(2)によりモータMG1から出力すべきトルク指令Tm1*を計算する(ステップS170)。ここで、式(1)は、動力分配統合機構30の回転要素に対する力学的な関係式として容易に導くことができる。また、式(2)は、モータMG1を目標回転数Nm1*で回転させるためのフィードバック制御における関係式であり、式(2)中、右辺第2項の「k1」は比例項のゲインであり、右辺第3項の「k2」は積分項のゲインである。
【0026】
Nm1*=Ne*・(1+ρ)/ρ-Nm2/ρ (1)
Tm1*=ρ・Te*/(1+ρ)+k1(Nm1*-Nm1)+k2∫(Nm1*-Nm1)dt (2)
【0027】
次に、要求トルクTr*に設定したトルク指令Tm1*を動力分配統合機構30のギヤ比ρで除したものを加えて更に減速ギヤ35のギヤ比Grで除してモータMG2から出力すべきトルクの仮の値である仮トルクTm2tmpを次式(3)により計算すると共に(ステップS180)、バッテリ50の入出力制限Win,Woutと設定したトルク指令Tm1*に現在のモータMG1の回転数Nm1を乗じて得られるモータMG1の消費電力(発電電力)との偏差をモータMG2の回転数Nm2で割ることによりモータMG2から出力してもよいトルクの上下限としてのトルク制限Tm2min,Tm2maxを次式(4)および式(5)により計算し(ステップS190)、設定した仮トルクTm2tmpを式(6)によりトルク制限Tm2min,Tm2maxで制限してモータMG2のトルク指令Tm2*を設定する(ステップS200)。ここで、式(3)も動力分配統合機構30の回転要素に対する力学的な関係式として容易に導くことができる。
【0028】
Tm2tmp=(Tr*+Tm1*/ρ)/Gr (3)
Tm2min=(Win-Tm1*・Nm1)/Nm2 (4)
Tm2max=(Wout-Tm1*・Nm1)/Nm2 (5)
Tm2*=max(min(Tm2tmp,Tm2max),Tm2min) (6)
【0029】
こうしてエンジン22の目標回転数Ne*や目標トルクTe*,モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定すると、エンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*についてはエンジンECU24に、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*についてはモータECU40にそれぞれ送信し(ステップS210)、駆動制御ルーチンを終了する。目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24は、エンジン22が目標回転数Ne*と目標トルクTe*とによって示される運転ポイントで運転されるようにエンジン22における吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御などの制御を行なう。また、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、トルク指令Tm1*でモータMG1が駆動されると共にトルク指令Tm2*でモータMG2が駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。こうした制御により、バッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内でエンジン22を効率よく運転して駆動軸としてのリングギヤ軸32aに要求トルクTr*を出力して走行することができる。
【0030】
ステップS130で車速Vが閾値Vref未満と判定され、且つ、ステップS140でエンジン22を燃費最適動作ラインで運転して車両要求パワーPe*を出力するとエンジン22の運転ポイントがこもり音領域内となるときには、エアコン要求パワーPa*より小さな値の補正用パワーPalimをエアコン要求パワーPa*の代わりに用いて、即ち、走行用パワーPd*にバッテリ要求パワーPb*と補正用パワーPalimを加えて車両要求パワーPe*を再設定(補正)し(ステップS150)、再設定(補正)した車両要求パワーPe*を用いてエンジン22の目標回転数Ne*や目標トルクTe*,モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定する処理(ステップS160〜S200)を実行し、設定したエンジン22の目標回転数Ne*や目標トルクTe*,モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*をエンジンECU24やモータECU40に送信して(ステップS210)、本ルーチンを終了する。実行用動作ラインと燃費最適動作ラインとエンジン22の運転ポイントの関係の一例を図5に示す。図中、実線が実行用動作ラインであり、一点鎖線が燃費最適動作ラインであり、破線が車両要求パワーPe*が一定の曲線である。エンジン22を燃費最適動作ラインで運転して車両要求パワーPe*を出力するとエンジン22の運転ポイントがこもり音領域内となるとき、即ち、図中、燃費最適動作ラインと車両要求パワーPe*が一定の曲線との交点である運転ポイントP1がこもり音領域内となるときには、ステップS150の車両要求パワーPe*の再設定(補正)をしなければ、こもり音の発生を回避するために、燃費最適動作ラインからこもり音領域を回避して得られる実行用動作ラインと車両要求パワーPe*との交点である運転ポイントP2でエンジン22は運転されることになる。一方、ステップS150の車両要求パワーPe*を再設定(補正)すると、車両要求パワーPe*は小さくなるから、実行用動作ラインと再設定(補正)した車両要求パワーPe*との交点である運転ポイントP3は、エンジン22の回転数としては運転ポイントP2より小さな運転ポイントとなる。上述したように、車速Vが閾値Vref未満のときには、走行騒音が小さいため、こもり音領域を回避するためにエンジン22の回転数が大きくなると、エンジン22の回転数が大きくなったために生じる騒音や振動により運転者や乗員に違和感を与える。実施例では、車両要求パワーPe*が小さくなるように再設定(補正)することにより、再設定(補正)をしなかった場合に比してエンジン22の回転数を小さくして、エンジン22の回転数が大きくなったために生じる騒音や振動により運転者や乗員に違和感を与えるのを抑制するのである。なお、車両要求パワーPe*の再設定(補正)の際には、ハイブリッド用電子制御ユニット70から補正用パワーPalimを空調装置60の上限パワーとして空調ECU68に送信することにより、空調ECU68により補正用パワーPalimを上限パワーとして空調装置60を制御させる。
【0031】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、車速Vが閾値Vref未満の低車速走行時にエンジン22を燃費最適動作ラインで運転して車両要求パワーPe*を出力するとエンジン22の運転ポイントがこもり音領域内となるときには、エアコン要求パワーPa*より小さな値の補正用パワーPalimをエアコン要求パワーPa*の代わりに用いて車両要求パワーPe*が小さくなるよう再設定(補正)し、この再設定(補正)した車両要求パワーPe*と燃費最適動作ラインからこもり音領域を回避して得られる実行用動作ラインを用いてエンジン22の目標回転数Ne*や目標トルクTe*を設定すると共にモータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定してエンジン22やモータMG1,MG2を駆動制御することにより、車両要求パワーPe*を再設定(補正)しなかった場合に比して、エンジン22の回転数を小さくし、低車速走行時にエンジン22の回転数が大きくなったために生じる騒音や振動により運転者や乗員に違和感を与えるのを抑制することができる。
【0032】
実施例のハイブリッド自動車20では、車速Vが閾値Vref未満の低車速走行時にエンジン22を燃費最適動作ラインで運転して車両要求パワーPe*を出力するとエンジン22の運転ポイントがこもり音領域内となるときには、エアコン要求パワーPa*より小さな値の補正用パワーPalimをエアコン要求パワーPa*の代わりに用いて車両要求パワーPe*が小さくなるよう再設定(補正)するものとしたが、エアコン要求パワーPa*はそのままにバッテリ要求パワーPb*より小さな値の補正用パワーPblimをバッテリ要求パワーPb*の代わりに用いて、即ち、走行用パワーPd*に補正用パワーPblimとエアコン要求パワーPa*を加えて車両要求パワーPe*が小さくなるように再設定(補正)するものとしてもよい。この場合の駆動制御ルーチンの一部の一例を図6に示す。また、車両要求パワーPe*の再設定(補正)は、車両要求パワーPe*が小さくなればよいから、エアコン要求パワーPa*より小さな値の補正用パワーPalimをエアコン要求パワーPa*の代わりに用いると共にバッテリ要求パワーPb*より小さな値の補正用パワーPblimをバッテリ要求パワーPb*の代わりに用いて、即ち、走行用パワーPd*に補正用パワーPblimと補正用Palimを加えて車両要求パワーPe*が小さくなるように再設定(補正)するものとしてもよい。
【0033】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「内燃機関」に相当し、モータMG1が「第1の電動機」に相当し、プラネタリギヤ30が「遊星歯車機構」に相当し、モータMG2が「第2の電動機」に相当し、バッテリ50が「バッテリ」に相当し、空調装置60が「空調装置」に相当し、車速Vが閾値Vref以上であったり、車速Vが閾値Vref未満の低車速走行時であってもエンジン22を燃費最適動作ラインで運転して車両要求パワーPe*を出力するとエンジン22の運転ポイントがこもり音領域外となるときには、車両要求パワーPe*と燃費最適動作ラインからこもり音領域を回避して得られる実行用動作ラインを用いてエンジン22の目標回転数Ne*や目標トルクTe*を設定すると共にモータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定してエンジン22やモータMG1,MG2を駆動制御し、車速Vが閾値Vref未満の低車速走行時で且つエンジン22を燃費最適動作ラインで運転して車両要求パワーPe*を出力するとエンジン22の運転ポイントがこもり音領域内となるときには、エアコン要求パワーPa*より小さな値の補正用パワーPalimをエアコン要求パワーPa*の代わりに用いて車両要求パワーPe*が小さくなるよう再設定(補正)し、この再設定(補正)した車両要求パワーPe*と実行用動作ラインを用いてエンジン22の目標回転数Ne*や目標トルクTe*を設定すると共にモータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定してエンジン22やモータMG1,MG2を駆動制御する図2の駆動制御ルーチンを実行するハイブリッド用電子制御ユニット70とエンジンECU24とモータECU40と空調ECU68とが「制御手段」に相当する。
【0034】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0035】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、ハイブリッド自動車の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0037】
20 ハイブリッド自動車、21 乗員室、21a 吹き出し口、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 動力分配統合機構、31 サンギヤ、32 リングギヤ、32a リングギヤ軸、33 ピニオンギヤ、34 キャリア、35 減速ギヤ、37 ギヤ機構、38 デファレンシャルギヤ、39a,39b 駆動輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、51 温度センサ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、54 電力ライン、60 空調装置、62 冷凍サイクル、64 コンプレッサ、66 ブロワ、67 操作パネル、67a ブロワスイッチ、67b 設定温度スイッチ、67c 温度センサ、68 空調用電子制御ユニット(空調ECU)、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、第1の電動機と、前記内燃機関の出力軸と前記第1の電動機の回転軸と駆動軸とに3つの回転要素が接続された遊星歯車機構と、前記遊星歯車機構を介することなく前記駆動軸に動力を出力可能な第2の電動機と、前記第1の電動機および前記第2の電動機と電力のやりとりが可能なバッテリと、乗員室を空気調和する空調装置と、走行に必要な走行用パワーを含めて車両に要求される車両要求パワーを燃費最適動作ラインから低回転高トルクのこもり音領域を回避してなる実行用動作ライン上の運転ポイントで前記内燃機関を運転することによって該内燃機関から出力して走行するよう前記内燃機関と前記第1の電動機と前記第2の電動機とを制御する制御手段と、を備えるハイブリッド自動車において、
前記制御手段は、車速が比較的小さな値として予め設定された所定値未満の低車速走行時に前記車両要求パワーを前記燃費最適動作ライン上の運転ポイントで前記内燃機関を運転すると前記こもり音領域となるときには、前記車両要求パワーが小さくなるよう補正すると共に該補正した車両要求パワーを前記実行用動作ライン上の運転ポイントで前記内燃機関を運転することによって該内燃機関から出力して走行するよう前記内燃機関と前記第1の電動機と前記第2の電動機とを制御する手段である、
ことを特徴とするハイブリッド自動車。
【請求項2】
請求項1記載のハイブリッド自動車であって、
前記車両要求パワーは、前記走行用パワーとバッテリの充放電に要求されるバッテリ要求パワーと空調装置に要求される空調要求パワーとを含むパワーであり、
前記制御手段は、前記バッテリ要求パワーおよび空調要求パワーの少なくとも一方を小さく補正することによって前記前記車両要求パワーが小さくなるよう補正する手段である、
ハイブリッド自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−144170(P2012−144170A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4658(P2011−4658)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】