説明

ハイブリッド車両のモータ制御装置

【課題】 ディーゼルエンジンを用いたハイブリッド車両のフィルタ強制再生時間の短縮を図り、燃費の向上を図る。
【解決手段】 ディーゼルエンジン1の排ガス中の粒子状物質を捕集するフィルタ33と、フィルタ33を強制再生させる強制再生手段35と、バッテリ6の充電状態に基づいてエンジン1の出力を電力に変換してバッテリ6を充電するバッテリ充電手段41とをそなえ、強制再生の実行時には、エンジン1によるバッテリ6ヘの電力供給を禁止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両のモータ制御装置に関し、特に排ガス中の微粒子を捕集するフィルタの強制再生時におけるモータの制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関(エンジン)と電動機(モータ)とを組み合わせて車両の駆動力を得るようにしたハイブリッド車両又はハイブリッド電気自動車が開発、実用化されている。このようなハイブリッド車両では、エンジンを専らモータの電力供給源(発電機)として用いるシリーズ式ハイブリッド車両や、エンジンの出力軸とモータの出力軸とを機械的に接続して、両方の駆動力により駆動輪を駆動し得るようにしたパラレル式ハイブリッド車両が知られている。
【0003】
このうちパラレル式ハイブリッド車両では、ドライバのアクセル踏込み量等の負荷情報と、エンジン回転数とから要求駆動トルクを求めるとともに、バッテリの残存容量(充電率)からエンジンとモータとの出力配分が設定されるようになっている。
ところで、パラレル式ハイブリッド車両のエンジンとしてディーゼルエンジを適用することが考えられる。この場合、ディーゼルエンジンの排気通路中に酸化触媒(DOC)及びパティキュレート捕集用のフィルタ(以下、単にフィルタという)を設け、排ガス中に含まれる粒子状物質(PM:Particulate Matter)をフィルタで捕集するとともにフィルタに堆積したPMを酸化(燃焼)させてフィルタを連続再生するようにした技術が知られている。なお、以下では、粒子状物質をPMと表記するが、すす,パティキュレート及びスートと同一の意味である。
【0004】
このような技術では、例えばフィルタの入口と出口との間の圧力差を検出する差圧センサを設け、この差圧センサで検出された差圧が所定値以上になると、フィルタが目詰まりを起こしているものと判定して、フィルタの強制再生が実行されるようになっている。
また、強制再生時には、膨張行程の後期又は排気行程の初期に追加燃料噴射(ポスト燃料噴射)を行い、この追加燃料のうちの未燃燃料(HC;炭化水素)を酸化触媒で酸化反応(燃焼)させて、このときの反応熱によりフィルタに流入する排ガス温度を上昇させる。そして、フィルタに流入する排ガス温度を高温化することでフィルタ内のPMを自己着火させてPMを燃焼させ、フィルタの強制再生を図っている(第1の従来技術)。
【0005】
なお、特許文献1には、エンジン走行とモータ走行とを切り換えながら走行する通常走行モードと、エンジンのみで走行する特別走行モードとをそなえたハイブリッド自動車において、触媒が活性化していないときには走行モードを強制的に特別走行モードに切り換えるようにした技術が開示されている。そして、このような制御により、触媒温度の低下時に触媒温度を速やかに上昇させることができる(第2の従来技術)。
【特許文献1】特開2001−115869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、パラレル式ハイブリッドではバッテリ残存容量が低下するとエンジンによりモータを駆動し、モータを発電機として作動させることによりバッテリを充電する場合がある。
しかしながら、上述の第1の従来技術では、停車中におけるバッテリの充電(以下、停車発電制御又は単に発電制御という)とフィルタの強制再生とが重なると、燃料の燃焼に酸素を消費してしまうため強制再生が促進されず強制再生時間が長くなり、燃費が悪化するという課題がある。つまり、モータを発電機としてエンジンにより駆動しているときには、エンジンの負荷が増大して燃料噴射量が増大し、空気過剰率が低下(つまりリッチ化)して、ほとんどの酸素が燃焼に用いられてしまう。このため排ガス内の酸素濃度が低下して、フィルタに供給される酸素量が低下し、フィルタ内におけるPMの燃焼(酸化)が促進されずに強制再生時間が長くなる。そして、強制再生時間が長引く分だけ燃費が悪化することになる。
【0007】
また、特許文献1の技術(第2の従来技術)では、触媒が活性化していないときには走行モードを強制的にエンジンのみで走行する特別走行モードに切り換えている。しかしながら、この第2の従来技術は車両走行中の場合に適用される技術であって、車両の停車中に生じる上記課題の解決手段に関しては何ら開示されていない。
本発明は、このような要望に応えるべく創案されたもので、ハイブリッド車両の強制再生時間の短縮を図り燃費の向上を図るようにした、ハイブリッド車両のモータ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このため、本発明のハイブリッド車両のモータ制御装置は、車両に搭載されたディーゼルエンジンと、前記車両に搭載されたモータと、前記モータに電力供給可能に接続されたバッテリと、前記ディーゼルエンジンの排ガス中の粒子状物質を捕集するフィルタと、前記フィルタを強制再生させる強制再生手段と、前記バッテリの充電状態に基づいて前記ディーゼルエンジンの出力を電力に変換して前記バッテリを充電するバッテリ充電手段と、前記強制再生手段による強制再生の実行時には、前記バッテリ充電手段による前記バッテリヘの電力供給を禁止する充電禁止手段とを備えていることを特徴としている(請求項1)。
【0009】
また、車両に搭載されたディーゼルエンジンと、前記車両に搭載されたモータと、前記モータに電力供給可能に接続されたバッテリと、前記ディーゼルエンジンの排ガス中の粒子状物質を捕集するフィルタと、前記フィルタを強制再生させる強制再生手段と、前記バッテリの充電状態に基づいて前記ディーゼルエンジンの出力を電力に変換して前記バッテリを充電するバッテリ充電手段と、前記車両が停車中であり、前記強制再生手段による強制再生が実行中であり、且つ前記バッテリの充電率が所定値より高い場合には、前記モータにより前記ディーゼルエンジンの出力をアシストする強制再生時アシスト手段とを備えていることを特徴としている(請求項2)。
【0010】
また、所定の停止条件を満たすと前記ディーゼルエンジンの運転を自動停止する自動停止手段と、前記強制再生が実行されているときは前記自動停止手段による運転停止を禁止する自動停止禁止手段とを備えていることを特徴としている(請求項3)。
また、前記ディーゼルエンジンの出力軸は、クラッチを介して前記モータの入力軸に接続されていることを特徴としている(請求項4)。
【発明の効果】
【0011】
本発明のハイブリッド車両のモータ制御装置によれば、停車時に強制再生が開始されるときには、バッテリの充電が禁止されるためエンジン負荷の増大を抑制できる。したがって、燃料噴射量が増大するような事態を回避でき、空気過剰率の低下を招く事がなく、排ガス中の酸素濃度の低下を防止できる。このため、強制再生時にフィルタに多量の酸素を供給でき、強制再生時間の短縮を図ることができる。そして、このように強制再生時間の短縮を図ることで、ポスト噴射を行う時間が短縮されて燃費の向上を図ることができる。
【0012】
また、バッテリの充電率が所定値より高い場合には、モータによりディーゼルエンジンの出力がアシストされるので、エンジンの負荷がさらに低下して、空気過剰率をさらに高めることができる。これにより、排ガス中の酸素濃度が高められ、強制再生時にフィルタに供給される酸素量を増大させることができ再生時間の一層の低減を図ることができる。したがって、さらなる燃費の向上を図ることができる。
【0013】
また、強制再生が実行されているときはエンジンの自動停止(アイドルストップ)が禁止されるので、フィルタの強制再生中のエンジン停止を確実に回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面により、本発明の一実施形態に係るハイブリッド車両のモータ制御装置について説明すると、図1は本発明が適用される車両のパワートレインを示す模式図である。図示するように、この車両は、駆動源8としてエンジン1と電動機(又はモータ/ジェネレータ、以下、単にモータという)2とを用いたパラレル式ハイブリッド自動車(HEV)であって、このエンジン1とモータ2との合計出力により車両が駆動されるようになっている。
【0015】
また、エンジン1とモータ2との間には、エンジン1とモータ2との駆動力を断接しうるクラッチ3が設けられている。また、モータ2の出力側には、エンジン1及び/又はモータ2からの出力回転数を変速する変速機4が設けられている。つまり、この車両ではエンジン1、クラッチ3、モータ2、変速機4の順で各機器が直列に配設されており、エンジン1の出力軸は、クラッチ3を介してモータ2の入力軸に接続されている。そして、変速機4から出力された駆動力が駆動輪7に伝達されるようになっている。
【0016】
また、モータ2にはインバータ5を介して充放電可能なバッテリ6が接続されており、このインバータ5の作動を制御することにより、モータ2の作動状態が制御されるようになっている。
このような構成により、クラッチ3を接続してモータ2を駆動することで、エンジン1の駆動力をモータ2の駆動力でアシストしながら走行することができる。また、インバータ5によりモータ2を発電機として機能させることで、エンジン2の駆動力で発電を行ってバッテリ6を充電したり、エンジンブレーキ相当の回生ブレーキを作用させて電力を回生したりすることができる。なお、クラッチ3を切断した状態で、モータ2がバッテリ6から電力供給を受けて力行することにより、モータ2の駆動力のみで駆動輪7を駆動することも可能である。
【0017】
ところで、本実施形態では変速機4として自動変速機が適用されている。この自動変速機4は、シフトマップで設定された目標変速段となるように現在の変速段を切り換えるような有段式の自動変速機であって、特に、ここでは、平行2軸歯車式の手動変速機をベースにして図示しない複数のアクチュエータを作動させることにより変速段を切り換えるような自動変速機として構成されている。
【0018】
このため、この変速機4には、上記図示しない複数のアクチュエータを有するギアシフトユニット(GSU)9が付設されている(図2参照)。なお、変速機としてはこのような変速機以外にも、手動変速機を用いても良いし、トルクコンバータと遊星歯車機構とを組み合わせた自動変速機を用いても良い。
また、クラッチ3は変速段の切り換え時に自動的にクラッチの断接を行う自動クラッチであって、やはり図示しないクラッチアクチュエータが上記GSU9と協調して作動することにより、クラッチ3の断接が実行されるようになっている。なお、変速機2にトルクコンバータを有する自動変速機が適用された場合には、このクラッチ3は省略可能である。
【0019】
また、本実施形態においては、エンジン1はディーゼルエンジンとして構成されており、インジェクタ10(図2参照)の駆動時間(即ち燃料噴射量)を制御することで、エンジン1の出力トルクが制御されるようになっている。
次に、図2を用いて本発明の要部について説明すると、上述のディーゼルエンジン1の排気通路31には、上流側から順に排ガス中の成分を酸化させる酸化触媒32と排ガス中のPM(カーボンCを主体とする粒子状物質)を捕集するフィルタ33とが設けられている。
【0020】
ここで、酸化触媒32は、通常走行時は、排ガス中のNOをNO2 に酸化し、このNO2 を酸化剤としてフィルタ33に供給するものである。そして、フィルタ33ではこのNO2 とPMとが反応することによりPMが燃焼して、フィルタ33の連続再生が図られるようになっている。
また、強制再生時には、排ガス中の未燃燃料(HC)を酸化反応(燃焼)させて、このときの反応熱により高温となった排ガスをフィルタ33に供給する機能を有している。そして、フィルタ33に流入する排ガス温度を高温化することでフィルタ33内のPMを自己着火させてPMを燃焼させ、フィルタ33を強制的に再生させるようになっている。
【0021】
ここで、詳細は図示しないが、フィルタ33は、全体が多孔質材で形成されるとともに、上流側が開口し下流側が閉塞された第1通路と、上流側が閉塞され下流側が開口する第2通路とが交互に隣接して配設されている。これにより、フィルタ33に供給された排ガスは、多孔質の壁部を介して第1通路から第2通路に流入し、このときに排ガス中のPMが壁部において捕集されるようになっている。また、排気通路31上にはフィルタ33の上流側(入口)と下流側(出口)との圧力差を検出する差圧センサ34が設けられている。
【0022】
一方、この車両には図2に示すように、ハイブリッドシステムを統括的に管理,制御するシステム管理手段(システムマネジメントユニット)11が設けられており、上記の差圧センサ34はこのシステム管理手段11に設けられた強制再生手段35に接続されている。ここで、この強制再生手段35は、差圧センサ34からの情報に基づいてフィルタ33の上流側と下流側との差圧が所定値以上となると、所定量のPMがフィルタ33に堆積してフィルタ33が目詰まりを生じているものと判定して、フィルタ33の強制再生を実行するものである。
【0023】
そして、強制再生手段35により強制再生が開始されると、後述のECU12から強制再生指令がインジェクタ10に出力され、主燃料噴射の後に追加燃料噴射(ポスト噴射)が実行されるようになっている。このポスト噴射は、例えば排気行程において噴射されるものであって、このようなタイミングで燃料を噴射することにより、燃料がシリンダ内や排気通路等で燃焼することなく酸化触媒32に達し、触媒32において酸化(燃焼)が行なわれる。これにより、触媒32の下流側にあるフィルタ33が熱せられて、PMが酸化可能な温度(600℃)までフィルタ33が昇温されてPMの焼却(フィルタの再生)が実行されるようになっている。また、このようなポスト燃料噴射量は、エンジン回転数Ne,負荷(ここでは主噴射量qmain)及び触媒32の出口温度等に応じて設定されるようになっている。
【0024】
一方、システム管理手段11には、エンジン出力を制御するエンジンコントロールユニット(ECU)12と、インバータ5の作動状態を制御してモータ出力を制御するモータコントロールユニット(MCU)13とを備えている。また、図示はしないが上記変速機4の目標変速段を設定するとともにGSU9の作動を制御する変速機コントローラ、及び変速機コントローラと協調してクラッチ3の断接状態を制御するクラッチコントローラも設けられている。
【0025】
また、システム管理手段11内には、車両の走行状態やドライバの運転操作状態に基づいて、駆動源8に対する要求トルクを算出する要求トルク算出手段14と、この要求トルク算出手段14で算出された駆動源8の要求トルクのうち、エンジン1が受け持つ出力トルク(エンジンの出力配分)と、モータ2が受け持つ出力トルク(モータの出力配分)を設定する出力配分決定手段15が設けられている。
【0026】
また、システム管理手段11には、上記差圧センサ34以外にも、エンジン1のエンジン回転数Neを検出するエンジン回転数センサ21、ドライバのアクセル踏み込み量(アクセル開度)θACCを検出するアクセル開度センサ23、及びバッテリ6の残存容量(充電率)SOCを検出する残存容量センサ24が接続されている。
ここで、図示するように、要求トルク算出手段14には、エンジン回転数センサ21及びアクセル開度センサ23によりそれぞれ検出されたエンジン回転数Ne及びアクセル開度θACCが入力されるようになっており、要求トルク算出手段14では、これらの情報(Ne,θACC)に基づいて、ドライバがエンジン1及びモータ2からなる駆動源8に対して要求する要求トルクTを算出するようになっている。
【0027】
また、出力配分決定手段15には、バッテリ電圧とバッテリ電流とに基づきバッテリ6の残存容量SOCを算出する残存容量センサ24が接続されている。また、出力配分決定手段15には、残存容量センサ24で得られるバッテリ残存容量SOCと、要求トルク算出手段14で設定された要求合計トルクTとをパラメータとして、エンジン1とモータ2との出力配分を設定する出力配分設定マップ(図示省略)が設けられており、このマップから、エンジン1及びモータ2の出力配分(トルク配分又は割合)が設定されるようになっている。なお、この出力配分設定マップでは、基本的にはバッテリ6の残存容量SOCが低くなるほどエンジンの出力配分を高く設定するような特性に設定されている。
【0028】
このようにして出力配分が決定されると、要求トルク算出手段14で算出された駆動源8の要求トルクTと上記の出力配分と基づいて、エンジン1の目標トルクTe及びモータ2の目標トルクTmがそれぞれ設定されるようになっている。
また、上述のようにしてエンジン目標トルクTe及びモータ目標トルクTmが設定されると、このうちエンジン目標トルクTeがECU12に入力されるようになっており、ECU12では、上記エンジン目標トルクTeを出力するためのインジェクタ駆動時間が設定(又は算出)されるようになっている。これにより、ECU12で設定されたインジェクタ駆動時間でインジェクタ10が駆動され、エンジン出力トルクが目標トルクTeとなるようにエンジン1が制御される。
【0029】
また、モータ目標トルクTmが設定されると、このモータ目標トルクTmがMCU13に入力されて、この目標トルクTmとなるようにインバータ5の作動が制御されるようになっている。そして、これによりモータ出力トルクが目標トルクTmとなるようにモータ2が制御される。
さて、ここまではモータ2が駆動源として機能する場合について説明したが、このモータ2はバッテリ6の残存容量SOCが第1所定値(例えば33%)以下まで低下すると、発電機として機能してバッテリ6を充電するようになっている。
【0030】
すなわち、図2に示すように、残存容量センサ24で得られた情報は、上記出力配分決定手段15以外にも、ECU12,MCU13及びインバータ5からなるバッテリ充電手段41に入力されるようになっており、バッテリ充電手段41では、以下の条件がすべて成立すると、エンジン1によりモータ2を駆動してバッテリ6を充電する制御(以下、発電制御という)を実行するようになっている。
・残存容量センサ24で検出された残存容量SOCが上記第1所定値以下。
・車両が停止している(車速=0)。
【0031】
なお、これらの条件が全て成立した場合を、以下では充電開始条件が成立したという。そして、充電開始条件が成立した場合には、変速機コントローラ及びクラッチコントローラ(ともに図示省略)により変速機4はニュートラルに保持されるとともに、クラッチ3は接続状態に保持される。そして、ECU12により、エンジン1の運転状態が発電に適した運転状態に制御されるとともに、モータ2が発電機として機能するように、MCU13によりインバータ5が制御されるようになっている。
【0032】
これにより、エンジン1が運転されるとこのエンジン1の駆動力はクラッチ3を介してモータ(発電機)2に伝達され、このとき発生した電力がバッテリ6に充電されるようになっている。なお、このときは変速機4がニュートラルとなっているので車両に駆動力が伝達されることはない。
また、以下の条件のいずれかが成立すると、上述の発電制御が終了又は中止される。
・バッテリ6の残存容量SOCが第2所定値(例えば35%)以上となった。
・変速機4が走行段に変速された。
・車速が検出された。
【0033】
なお、上記の条件のいずれか1つでも成立した場合を、以下、充電終了条件が成立したという。また、上述の各条件のうち、バッテリ6の残存容量SOCが第2所定値になった場合には、エンジン2による発電によりバッテリ6の残存容量が十分回復したと判定して発電制御を終了するものであり、変速機4が走行段に変速された場合及び車速が検出された場合は、発電制御の前提条件(つまり、車両停車中)が不成立となり発電制御を中止するようになっている。
【0034】
ところで、本装置のシステム管理手段11にはバッテリ充電手段41によるバッテリ6ヘの充電を禁止する充電禁止手段が設けられている。具体的には、上記充電開始条件が成立した場合であっても、上述したフィルタ33が強制再生中であると判定した場合には発電制御が禁止されるようになっている。
これは主に以下の理由によるものである。つまり、停車中にエンジン1によりモータ2を発電機として駆動すると、エンジン1はモータ(発電機)2を駆動する分だけ負荷が大きくなるため、その分燃料噴射量が増大することになる。燃料噴射量が増えると、空燃比が低下(即ち、空気過剰率が低下、つまりリッチ化)するため、排ガス中の酸素濃度も低下することになり、フィルタ33に供給される酸素量が低下する。
【0035】
ここで、フィルタの強制再生時の再生時間はフィルタ33に供給される酸素量で変化する。つまり、酸素供給量が十分でないとフィルタ33内におけるPMの燃焼(酸化)が促進されずに強制再生時間が長くなり、酸素供給量が十分であればPMの燃焼が速やかに行われ強制再生時間が短くなる。また、強制再生時には、上述したように主噴射後にポスト噴射を行うため、燃料消費量が通常の運転状態よりも多くなっている。このため、強制再生時間が長くなるほど燃費が悪化する。
【0036】
したがって、発電制御とフィルタ33の強制再生とが同時が実行されると、フィルタ33に供給される酸素量が低下して、これに起因して強制再生時間が長くなり、この結果、ポスト噴射の時間が増大して燃費が悪化することになるのである。
そこで、本装置では、フィルタ33が強制再生中である場合には、たとえ充電開始条件が成立している場合であっても、発電制御を禁止しているのである。なお、本実施形態では、充電禁止手段は、バッテリ充電手段41がその機能を兼用している。
【0037】
そして、このようにフィルタ33の強制再生時に発電制御を禁止することにより、エンジン1の負荷を低減でき、この分燃料噴射量を低減することができるようになり、酸素過剰率を増大させる(リーン化させる)ことができる。これにより、排ガス中の酸素濃度を高めることができるので、フィルタ33に供給される酸素量が増大し、フィルタ33の強制再生時間の短縮を図ることができるのである。したがって、ポスト噴射を行う時間が低減されて燃費が向上するという利点がある。
【0038】
ところで、システム管理手段11には、以下の条件が全て成立したときに、モータ2を駆動してエンジン1の出力をアシストする強制再生時アシスト手段も設けられている。なお、本実施形態では、強制再生時アシスト手段についてもバッテリ充電手段41がその機能を兼用している。
・車両停車中
・強制再生実行中
・バッテリ6の残存容量SOCが第3の所定値(例えば65%)以上
なお、これらの条件が全て成立した場合を強制再生アシスト条件が成立したという。そして、このような強制再生アシスト条件が成立したときに、モータ2を駆動してエンジン1の運転をアシストすることにより、エンジン1の負荷がさらに低減されて燃料噴射量が低下し、これによりさらに空気過剰率を増大させてフィルタ33の強制再生時間の更なる短縮を図ることができるのである。
【0039】
なお、第3の所定値としては、バッテリ6が満充電に近いSOCが望ましい。このようなSOCであれば、エンジン1をアシストするためにモータ2を駆動しても大きなSOCの低下を招くことがない。
ところで、本実施形態のハイブリッド車両は、所定のエンジン停止条件が成立するとエンジン1の運転を自動停止するとともに、上記所定のエンジン停止条件とは異なる所定のエンジン再始動条件が成立するとエンジン1を再始動させる、いわゆるアイドルストップスタート(ISS)機能を有している。なお、このようなISS機能を有する車両をISS車両ともいう。
【0040】
このため、システム管理手段11には、図2に示すように、エンジン1の運転を自動停止させる自動停止手段51と、エンジン1の運転を再始動させる再始動手段52とを有するISS機能部50が設けられている。また、図示はしないが、これらの自動停止手段51及び再始動手段52にはエンジン回転数センサ21や残存容量センサ24以外にも、車速センサ(図示省略)や変速段を検出するギヤポジションセンサ等が接続されており、これらのセンサからの情報に基づいてエンジンの停止条件が成立すると、自動停止手段51ではECU12にエンジン停止信号を送り、インジェクタ10の駆動を停止することでエンジン1を自動的に停止させるようになっている。
【0041】
また、各センサからの情報に基づいて、エンジン再始動条件が成立すると、再始動手段52ではECU12に再始動信号を送り、図示しないスタータモータを作動させてエンジン1を再始動させるようになっている。なお、モータ2にスタータモータの機能を兼用させても良い。
なお、このISS機能自体は従来より広く知られたものであるので、エンジン停止条件及びエンジン再始動条件については説明を省略する。
【0042】
また、本装置には、エンジン停止条件が成立していても自動停止手段51によるエンジン1の運転停止を禁止する自動停止禁止手段53が設けられている。ここで、この自動停止禁止手段53は、強制再生手段35からの情報に基づいて、フィルタ33の強制再生が実行されていると判定されると、たとえエンジン1の停止条件が成立している場合であっても、自動停止手段51によるエンジン1の運転停止を禁止して、エンジン1の運転を継続させるようになっている。
【0043】
これは、上述したように、フィルタ33の強制再生時には、主噴射後にポスト燃料噴射を行い、このポスト燃料噴射の未燃燃料を酸化触媒32で酸化反応(燃焼)させて、このときの反応熱によりフィルタ33内のPMを燃焼させてフィルタ33を再生しているからであり、フィルタ33の強制再生時には、エンジン1が運転状態であることが必須の条件となるからである。
【0044】
そこで、フィルタ33の強制再生時には、自動停止手段51でエンジン1の停止条件が成立していると判定されても、自動停止禁止手段53によりエンジン1の運転停止を禁止するようにしているのである。
本発明の一実施形態に係るハイブリッド車両のモータ制御装置は上述のように構成されているので、その作用について図3のフローチャートを用いて説明すると以下のようになる。
【0045】
このフローチャートは車両の停止を検出するとこの車両停止をトリガに開始されるものであって、車両が停止すると、まずフィルタ33の状態が強制再生中か否かを判定する(ステップS11)。そして、強制再生中でないと判定された場合には、バッテリの残存容量SOCを検出し、SOCが第1所定値(例えば33%)以下か否かを判定する(ステップS12)。
【0046】
そして、SOCが第1所定値以下であれば、発電制御が実行される(ステップS13)。すなわち、この場合にはバッテリ6の充電が燃費向上よりも優先されるので、エンジン1によりモータ2が駆動されるとともに、モータ2を発電機として作動させることにより、エンジン1の駆動力が電力に変換されて、この電力がバッテリ6に蓄えられる。
一方、SOCが第1所定値よりも大きければ、通常のアイドル運転が行われる(ステップS14)。なお、このときに所定のエンジン停止条件が成立していれば、ISS機能によりエンジン1が自動停止する。
【0047】
また、ステップS11において強制再生中であると判定された場合には、次にSOCが第3所定値(例えば65%)以上か否かを判定する(ステップS15)。そして、SOCが第3所定値未満であれば、発電制御を禁止してバッテリ6への充電を禁止する(ステップS16)。そして、ポスト噴射等の強制再生に適した運転状態でエンジン1を運転する(ステップS17)。
【0048】
したがって、この場合には、フィルタ33の強制再生時に発電制御を禁止することにより、エンジン1の負荷を低減でき、燃料噴射量を低減できる。これにより、酸素過剰率を増大させて、排ガス中の酸素濃度を高めることができ、フィルタ33に供給される酸素量が増大して、フィルタ33の再生時間の短縮を図ることができる。
また、SOCが第3所定値以上であれば、モータ2を駆動してエンジン1の運転をアシストする(ステップS18)。つまり、この場合には、車両停車中、且つフィルタ33の強制再生中、且つSOCが第3所定値以上の強制再生アシスト条件が成立した場合であり、このときには、モータ2を駆動してエンジン1の運転をアシストすることにより、エンジン1の駆動負荷がさらに低減されて燃料噴射量を低減させることができる。これにより、空気過剰率がさらに増大して、フィルタ33の強制再生時間が大幅に短縮される。
【0049】
以上詳述したように、本実施形態に係るハイブリッド車両のモータ制御装置によれば、車両停車中で、且つ強制再生実行中であって、SOCが第3所定値未満であれば、発電制御が禁止されるので、エンジン1の負荷を低減して空気過剰率を増大させることができ、フィルタ33の強制再生時間が短縮されて、燃費が向上するという利点がある。
また、SOCが第3所定値以上であれば、モータ2を駆動してエンジン1の運転をアシストすることにより、エンジン1の負荷がさらに低減されて空気過剰率をさらに増大させることができる。したがって、フィルタ33の強制再生時間をされに短縮させることができ、燃費がさらに向上するという利点がある。
また、フィルタ33の強制再生時には、自動停止禁止手段53によりエンジン1の運転停止が禁止されるので、フィルタ33の強制再生中にエンジン1が停止するような事態を確実に回避することができるという利点がある。
【0050】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、本発明は、図4に示すように、エンジン1とモータ2とを隣接して設け、モータ1と変速機4との間にクラッチ3を介装させたハイブリッド自動車に適用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態に係るハイブリッド車両のモータ制御装置が適用される車両のパワートレインを示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るハイブリッド車両のモータ制御装置の要部機能に着目したブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るハイブリッド車両のモータ制御装置の作用を説明するためのフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態に係るハイブリッド車両のモータ制御装置の変形例について示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 エンジン
2 電動機(モータ)
3 クラッチ
4 変速機
5 インバータ
6 バッテリ
7 駆動輪
8 駆動源
9 ギアシフトユニット(GSU)
10インジェクタ
11 システム管理手段
12 エンジンコントロールユニット(ECU)
13 モータコントロールユニット(MCU)
14 要求トルク算出手段
15 出力配分決定手段
21 エンジン回転数センサ
22 入力軸回転数センサ
23 アクセル開度センサ
24 残存容量センサ
31 排気通路
32 酸化触媒
33 フィルタ
34 差圧センサ
35 強制再生手段
41 バッテリ充電手段/充電禁止手段/強制再生アシスト手段
51 自動停止手段
53 自動停止禁止手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたディーゼルエンジンと、
前記車両に搭載されたモータと、
前記モータに電力供給可能に接続されたバッテリと、
前記ディーゼルエンジンの排ガス中の粒子状物質を捕集するフィルタと、
前記フィルタを強制再生させる強制再生手段と、
前記バッテリの充電状態に基づいて前記ディーゼルエンジンの出力を電力に変換して前記バッテリを充電するバッテリ充電手段と、
前記強制再生手段による強制再生の実行時には、前記バッテリ充電手段による前記バッテリヘの電力供給を禁止する充電禁止手段とを備えている
ことを特徴とする、ハイブリッド車両のモータ制御装置。
【請求項2】
車両に搭載されたディーゼルエンジンと、
前記車両に搭載されたモータと、
前記モータに電力供給可能に接続されたバッテリと、
前記ディーゼルエンジンの排ガス中の粒子状物質を捕集するフィルタと、
前記フィルタを強制再生させる強制再生手段と、
前記バッテリの充電状態に基づいて前記ディーゼルエンジンの出力を電力に変換して前記バッテリを充電するバッテリ充電手段と、
前記車両が停車中であり、前記強制再生手段による強制再生が実行中であり、且つ前記バッテリの充電率が所定値より高い場合には、前記モータにより前記ディーゼルエンジンの出力をアシストする強制再生時アシスト手段とを備えている
ことを特徴とする、ハイブリッド車両のモータ制御装置。
【請求項3】
所定のエンジン停止条件を満たすと前記ディーゼルエンジンの運転を自動停止する自動停止手段と、
前記強制再生が実行されているときは前記自動停止手段による運転停止を禁止する自動停止禁止手段とを備えている、
ことを特徴とする、請求項1又は2記載のハイブリッド車両のモータ制御装置。
【請求項4】
前記ディーゼルエンジンの出力軸は、クラッチを介して前記モータの入力軸に接続されている
ことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のハイブリッド車両のモータ制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−275010(P2006−275010A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−98886(P2005−98886)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】