説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】 電気循環比率を抑制し、燃費向上を図ることができるハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】 エンジンE、第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2および出力ギアOGを、それぞれ回転要素に連結したラビニョウ型遊星歯車列PGRを有する駆動力合成変速機TMを備えたハイブリッド車両の制御装置において、第1,第2モータジェネレータと電力の授受を行うバッテリ4と、第1モータジェネレータMG1または第2モータジェネレータMG2の発電電力で第2モータジェネレータMG2または第1モータジェネレータMG1を駆動する際に生じる電気損失が最小となる駆動力合成変速機TMの変速比を得るバッテリ4の充放電パワーを演算し、演算した充放電パワーとなるようにエンジンEおよび第1,第2モータジェネレータMG1,MG2を制御する統合コントローラ6と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のハイブリッド車両の制御装置では、エンジン出力の一部を遊星ギアで構成した変速機を介して第1モータジェネレータに供給し、第1モータジェネレータの発電した電力により第2モータジェネレータを駆動してドライブシャフトへ伝達している。上記説明に関係する技術の一例は、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3220115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術にあっては、エンジンパワーが電気変換される比率、すなわち電気循環比率は、変速機の変速比(入力回転数と出力回転数との比率)に依存するため、変速によって変速機の効率が変化する。ここで、変速比は車速に応じて設定されているため、エンジンの燃費効率が最良となる所望のエンジン動作点を設定した場合であっても、車速によって電気循環比率が増大し、電気損失が大きくなることで燃費が悪化するという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、電気循環比率を抑制し、燃費向上を図ることができるハイブリッド車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明では、第1モータジェネレータの発電電力で第2モータジェネレータを駆動する際に生じる電気損失が最小となる差動歯車変速機の変速比を得るバッテリの充放電パワーを演算し、この充放電パワーとなるようにエンジンおよび両モータジェネレータを制御する。
【発明の効果】
【0007】
よって、本発明にあっては、電気損失が最小となるようにバッテリの充放電を行うため、電気循環比率を抑制し、燃費向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1のエンジン動作点制御装置を適用したハイブリッド車を示す全体システム図である。
【図2】実施例1のエンジン動作点制御装置を適用したハイブリッド車に採用されたラビニョウ型遊星歯車列による各走行モードをあらわす共線図である。
【図3】実施例1のエンジン動作点制御装置を適用したハイブリッド車での走行モードマップの一例を示す図である。
【図4】実施例1のエンジン動作点制御装置を適用したハイブリッド車での4つの走行モード間におけるモード遷移経路を示す図である。
【図5】実施例1の実施例1の統合コントローラ6において、エンジン動作点を決めるための制御ブロック図である。
【図6】実施例1の駆動力合成変速機TMの変速比と電気循環比率との関係を示す図である。
【図7】実施例1のエンジン回転数と電気循環比率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実施するための形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、ハイブリッド車の駆動系構成を説明する。
図1は実施例1のハイブリッド車両の制御装置を適用したハイブリッド車の駆動系を示す全体システム図である。実施例1におけるハイブリッド車の駆動系は、図1に示すように、エンジンEと、第1モータジェネレータMG1と、第2モータジェネレータMG2と、出力ギアOG(出力部材)と、駆動力合成変速機(差動歯車変速機)TMと、を有する。
【0011】
エンジンEは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度等が制御される。
第1モータジェネレータMG1と第2モータジェネレータMG2は、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することによりそれぞれ独立に制御される。
【0012】
駆動力合成変速機TMは、ラビニョウ型遊星歯車列PGR(遊星歯車列)と、ローブレーキLBとを有し、ラビニョウ型遊星歯車列PGRは、第1サンギアS1と、第1ピニオンP1と、第1リングギアR1と、第2サンギアS2と、第2ピニオンP2と、第2リングギアR2と、互いに噛み合う第1ピニオンP1と第2ピニオンP2とを支持する共通キャリアPCと、によって構成されている。つまり、ラビニョウ型遊星歯車PGRは、第1サンギアS1と、第1リングギアR1と、第2サンギアS2と、第2リングギアR2と、共通キャリアPCと、の5つの回転要素を有する。この5つの回転要素に対する入出力部材の連結関係について説明する。
【0013】
第1サンギアS1には、第1モータジェネレータMG1が連結されている。第1リングギアR1は、ローブレーキLBを介してケースに固定可能に設けられている。第2サンギアS2には、第2モータジェネレータMG2が連結されている。第2リングギアR2(エンジン入力部材)には、エンジンクラッチECを介してエンジンEが連結されている。共通キャリアPCには、出力ギアOGが直結されている。なお、出力ギアOGからは、図外のディファレンシャルやドライブシャフトを介して左右の駆動タイヤ(駆動輪)に駆動力が伝達される。
【0014】
上記連結関係により、図2に示す共線図上において、第1モータジェネレータMG1(第1サンギアS1)、エンジンE(第2リングギアR2)、出力ギアOG(共通キャリアPC)、ローブレーキLB(第1リングギアR1)、第2モータジェネレータMG2(第2サンギアS2)の順に配列され、ラビニョウ型遊星歯車列PGRの動的な動作を簡易的に表せる剛体レバーモデルを導入することができる。
【0015】
ここで、「共線図」とは、差動歯車のギア比を考える場合、式により求める方法に代え、より簡単で分かりやすい作図により求める方法で用いられる速度線図であり、縦軸に各回転要素の回転数(回転速度)をとり、横軸に各回転要素をとり、各回転要素の間隔をサンギアとリングギアの歯数比に基づく共線図レバー比になるように配置したものである。
【0016】
エンジンクラッチECとローブレーキLBは、後述する油圧制御装置5からの油圧により締結される多板摩擦クラッチと多板摩擦ブレーキであり、エンジンクラッチECは、図2の共線図上において、エンジンEと共にエンジン入力回転部材である第2リングギアR2の回転速度軸と一致する位置に配置され、ローブレーキLBは、図2の共線図上において、第1リングギアR1の回転速度軸(出力ギアOGの回転速度軸と第2サンギアS2の回転速度軸との間の位置)に配置される。
【0017】
次に、ハイブリッド車の制御系を説明する。
実施例1におけるハイブリッド車の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、油圧制御装置5と、統合コントローラ6(制御手段)と、アクセル開度センサ7と、車速センサ8と、エンジン回転数センサ9と、第1モータジェネレータ回転数センサ10と、第2モータジェネレータ回転数センサ11と、第2リングギア回転数センサ12と、を有して構成されている。
【0018】
エンジンコントローラ1は、アクセル開度センサ7からのアクセル開度APOとエンジン回転数センサ9からのエンジン回転数Neを入力する統合コントローラ6からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(Ne,Te)を制御する指令を、例えば、図外のスロットルバルブアクチュエータへ出力する。
【0019】
モータコントローラ2は、レゾルバによる両モータジェネレータ回転数センサ10,11からのモータジェネレータ回転数N1,N2を入力する統合コントローラ6からの目標モータジェネレータトルク指令等に応じ、第1モータジェネレータMG1のモータ動作点(N1,T1)と、第2モータジェネレータMG2のモータ動作点(N2,T2)と、をそれぞれ独立に制御する指令をインバータ3へ出力する。なお、このモータコントローラ2からは、バッテリ4の充電状態をあらわすバッテリSOCの情報が統合コントローラ6に対して出力される。
【0020】
インバータ3は、第1モータジェネレータMG1と第2モータジェネレータMG2との各ステータコイルに接続され、モータコントローラ2からの指令により独立した三相交流を作り出す。このインバータ3には、力行時に放電し回生時に充電するバッテリ4が接続されている。
油圧制御装置5は、統合コントローラ6からの油圧指令を受け、エンジンクラッチECと、ローブレーキLBと、の締結油圧制御及び解放油圧制御を行う。この締結油圧制御及び解放油圧制御には、滑り締結制御や滑り解放制御による半クラッチ制御も含む。
【0021】
統合コントローラ6は、アクセル開度センサ7からのアクセル開度APOと、車速センサ8からの車速VSPと、エンジン回転数センサ9からのエンジン回転数Neと、第1モータジェネレータ回転数センサ10からの第1モータジェネレータ回転数N1と、第2モータジェネレータ回転数センサ11からの第2モータジェネレータ回転数N2と、第2リングギア回転数センサ12からの第2リングギア入力回転数ωin等の情報を入力し、所定の演算処理を行う。そして、エンジンコントローラ1、モータコントローラ2、油圧制御装置5に対し演算処理結果にしたがって制御指令を出力する。
【0022】
なお、統合コントローラ6とエンジンコントローラ1、および、統合コントローラ6とモータコントローラ2とは、情報交換のためにそれぞれ双方向通信線14、15により接続されている。
【0023】
次に、ハイブリッド車の走行モードについて説明する。
実施例1のハイブリッド車における走行モードとしては、電気自動車無段変速モード(以下、「EVモード」という。)と、電気自動車固定変速モード(以下、「EV-LBモード」という。)と、ハイブリッド車固定変速モード(以下、「LBモード」という。)と、ハイブリッド車無段変速モード(以下、「E-iVTモード」という。)と、を有する。
【0024】
「EVモード」は、図2(a)の共線図に示すように、二つのモータジェネレータMG1.MG2のみで走行する無段変速モードであり、エンジンEは停止で、エンジンクラッチECは解放である。
【0025】
「EV-LBモード」は、図2(b)の共線図に示すように、ローブレーキLBを締結した状態で、二つのモータジェネレータMG1,MG2のみで走行する固定変速モードであり、エンジンEは停止で、エンジンクラッチECは解放である。第1モータジェネレータMG1から出力Outputへの減速比、及び、第2モータジェネレータMG2から出力Outputへの減速比が大きいので駆動力が大きく出るモードである。
【0026】
「LBモード」は、図2(c)の共線図に示すように、ローブレーキLBを締結した状態で、エンジンEとモータジェネレータMG1,MG2で走行する固定変速モードであり、エンジンEは運転でエンジンクラッチECは締結である。エンジンEとモータジェネレータMG1,MG2から出力Outputへの減速比が大きいので駆動力が大きく出るモードである。
【0027】
「E-iVTモード」は、図2(d)の共線図に示すように、エンジンEとモータジェネレータMG1,MG2で走行する無段変速モードであり、エンジンEは運転でエンジンクラッチECは締結である。
【0028】
そして、4つの走行モードのモード遷移制御は、統合コントローラ6により行われる。すなわち、統合コントローラ6には、アクセル開度APO等から求めた要求駆動力Fdrvと車速VSPとバッテリSOCによる三次元空間に、図3に示すような4つの走行モードを割り振った走行モードマップがあらかじめ設定されていて、車両の停止時や走行時には、要求駆動力Fdrvと車速VSPとバッテリSOCの各検知値により走行モードマップが検索され、要求駆動力Fdrvと車速VSPにより決まる車両動作点やバッテリ充電量に応じて最適な走行モードが選択される。なお、図3は三次元走行モードマップをバッテリSOCが充分な容量域のある値で切り取ることにより、要求駆動力Fdrvと車速VSPとの二次元によりあらわした走行モードマップの一例である。
【0029】
走行モードマップの選択により、「EVモード」と「EV-LBモード」との間においてモード遷移を行う場合、図4に示すように、ローブレーキLBの締結・解放が行われる。「E-iVTモード」と「LBモード」との間においてモード遷移を行う場合、図4に示すように、ローブレーキLBの締結・解放が行われる。また、「EVモード」と「E-iVTモード」との間においてモード遷移を行う場合、図4に示すように、エンジンクラッチECの締結・解放とエンジンEの始動・停止が行われる。「EV-LBモード」と「LBモード」との間においてモード遷移を行う場合、図4に示すように、エンジンクラッチECの締結・解放とエンジンEの始動・停止が行われる。
【0030】
次に、実施例1のエンジン動作点(Ne,Te)の決定方法について説明する。
図5は、実施例1の統合コントローラ6において、エンジン動作点を決めるための制御ブロック図である。
【0031】
目標駆動パワー演算部(目標駆動パワー演算手段)31では、アクセル開度APOと車速VSPとから所定のマップを検索することにより、アクセル開度APOと車速VSPとに応じた目標駆動パワーを演算する。
基本充放電パワー演算部32では、バッテリSOCから所定のテーブルを検索することにより、バッテリSOCに応じた基本充放電パワーP0を出力する。基本充放電パワーP0は、バッテリSOCが低いほど充電側に大きくなり、バッテリSOCが高いほど放電側に大きくなる特性とする。
【0032】
変速候補演算部33は、駆動力合成変速機TMの電気損失が最小となるn個の目標変速比候補と対応したn個の小演算部34と、基本演算部35とを備える。
各小演算部34は、必要充放電パワー演算部34aと、システム効率演算部34bとをそれぞれ有する。
必要充放電パワー演算部34aでは、目標駆動パワー演算部31から出力された目標駆動パワーと車速VSPとに基づき、対応する目標変速比候補(目標変速比1〜目標変速比n)を得るためのバッテリ4の必要充放電パワーPnを演算する。
【0033】
システム効率演算部34bでは、目標駆動パワー演算部31から出力された目標駆動パワーと、必要充放電パワー演算部34aから出力された必要充放電パワーPnと、車速VSPとに基づき、エンジンE、第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2の動作と効率を予測し、各効率から下記の式を参照してシステム効率Enを出力する。
システム効率En = エンジン効率×第1モータジェネレータ効率×第2モータジェネレータ効率×バッテリ効率
【0034】
基本演算部35は、基本システム効率演算部35bを有し、基本システム効率演算部35bでは、目標駆動パワー演算部31から出力された目標駆動パワーと、基本充放電パワー演算部32から出力された基本充放電パワーP0と、車速VSPとに基づき、バッテリSOCに応じた基本システム効率E0を出力する。
【0035】
充放電パワー決定部36では、各必要充放電パワー演算部34aから出力された必要充放電パワーP1〜Pnのうち、最もシステム効率が高いものを充放電パワーPxとして採用する。このとき、充放電パワーの許容最大値である最大充放電パワー|Pmax|を超える充放電パワーは採用しないこととする。また、バッテリSOCが所定範囲外の場合は、バッテリ4の過充放電を防止するために、バッテリSOCに応じた基本充放電パワーP0を充放電パワーPxとして採用する。
【0036】
基本充放電パワー演算部32、変速候補演算部33および充放電パワー決定部36により、実施例1の充放電パワー演算手段が構成される。
加算部37では、目標駆動パワー演算部31から出力された目標駆動パワーと、充放電パワー決定部36から出力された充放電パワーPxとを加算してエンジン要求パワーを算出する。
【0037】
エンジン運転/停止判定部38では、エンジン要求パワーに基づいてエンジンEを運転するのか停止させるのかを判定する。すなわち、エンジン要求パワーが起動判定閾値αを超えている場合、エンジンEを運転すると判定する。一方、エンジン要求パワーが停止判定閾値βよりも小さい場合、エンジンEを停止させると判定する。ここで、起動判定閾値α、停止判定閾値βは、燃費や運転性等の要求で決定される値である。エンジン運転/停止判定部38は、判定結果に応じてエンジンON/OFF信号を出力する。
【0038】
エンジン回転数演算部39では、エンジン要求パワーから所定のマップを検索することにより、エンジン要求パワーを得るエンジン回転数を演算する。
動作点決定部40では、加算部37から出力されたエンジン要求パワーと、エンジン回転数演算部39から出力されたエンジン回転数とに基づき、エンジン動作点(Ne,Te)を決定し、当該エンジン動作点(Ne,Te)に応じた制御指令をエンジンコントローラ1へ出力する。なお、エンジン運転/停止判定部38からエンジンOFF信号が出力されている場合、動作点決定部40は、燃料カット信号をエンジンコントローラ1へ出力する。
【0039】
統合コントローラ6は、上記変速比およびエンジン動作点(Ne,Te)が得られるような第1モータジェネレータMG1のモータ動作点(N1,T1)および第2モータジェネレータMG2のモータ動作点(N2,T2)をそれぞれ決定し、これらモータ動作点(N1,T1),(N2,T2)に応じた制御指令をモータコントローラ2へ出力する。
【0040】
次に、作用を説明する。
図1に示した駆動系のように、2つのモータジェネレータMG1,MG2および動力分配機能として1つ以上の遊星ギアで構成される駆動力合成変速機TMを備えた駆動系では、エンジン出力(以下、出力をパワーとも言う。)の一部が遊星ギア(ラビニョウ型遊星歯車列PGR)により両モータジェネレータMG1,MG2の一方に分配され、当該一方のモータジェネレータの回生動作により電気変換されたパワーはバッテリ4を介して他方のモータジェネレータへ供給され、当該モータジェネレータの力行動作によるパワーが出力ギアOGへ伝達される。
【0041】
このとき、エンジンパワーが電気変換される比率、つまり電気循環比率は、駆動力合成変速機TMの入力回転数と出力回転数との比率、すなわち、変速比に依存するため、変速比によって駆動力合成変速機TMの効率は変化する。
【0042】
図6は、実施例1の駆動力合成変速機TMの変速比と電気循環比率との関係を示す図であり、MG1パワー/エンジンパワー[%]の特性を示す曲線と、MG2パワー/エンジンパワー[%]の特性を示す曲線は、複数の腹と節を有し、変速比に応じてエンジンパワー放出側とエンジンパワー吸収側とに振動する特性を示し、横軸(変速比)に対して略対照形状となる。なお、節と腹の数は、駆動力合成変速機TMの構造(遊星ギアの数等)に応じて異なる。図6において、駆動力合成変速機TMの電気損失は、ある変速比での両曲線の幅(距離)が広いほど大きい。
【0043】
ここで、変速比を車速VSPにより可変させた場合、図7に示すように、エンジンEの燃費効率が最良となるような所望のエンジン動作線(エンジン最良燃費動作線)を設定した場合であっても、車速VSPによって電気循環比率が増大するため、車両全体でのシステム効率は悪化する。
【0044】
これに対し、実施例1の統合コントローラ6では、電気損失が最小となる複数の変速比(図6の節a,b,c)を得る必要充放電パワーをそれぞれ演算し、各必要充放電パワーのうち、システム効率が最も高い必要充放電パワーを充放電パワーとし、この充放電パワーとなるようにエンジンEおよび両モータジェネレータMG1,MG2を制御する。
【0045】
すなわち、電気損失が最小となり、かつ、車両全体のシステム効率が最も高くなるような変速比を設定し、当該変速比を得るために必要なバッテリ4の充放電パワーが得られるようにエンジン動作点およびモータ動作点を決めているため、車両全体のシステム効率の向上を図ることができる。
【0046】
以下に実施例1のハイブリッド車のエンジン動作点制御装置の効果を列挙する。
(1) エンジンE、第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2および出力ギアOGを、それぞれ回転要素に連結したラビニョウ型遊星歯車列PGRを有する駆動力合成変速機TMを備えたハイブリッド車両の制御装置において、第1,第2モータジェネレータと電力の授受を行うバッテリ4と、第1モータジェネレータMG1または第2モータジェネレータMG2の発電電力で第2モータジェネレータMG2または第1モータジェネレータMG1を駆動する際に生じる電気損失が最小となる駆動力合成変速機TMの変速比を得るバッテリ4の充放電パワーを演算する充放電パワー演算手段(基本充放電パワー演算部32、変速候補演算部33および充放電パワー決定部36)と、充放電パワーとなるようにエンジンEおよび第1,第2モータジェネレータMG1,MG2を制御する統合コントローラ6と、を備える。これにより、電気損失が最小となるようにバッテリの充放電が行われることで、電気循環比率を抑制でき、燃費向上を図ることができる。
【0047】
(2) 充放電パワー演算手段は、エンジン効率を含む車両全体のシステム効率が最も高い変速比を得る充放電パワーを演算するため、エンジンの燃費、モータジェネレータの力行効率および回生効率、バッテリの充放電効率等を考慮した車両全体のシステム効率を向上させることができる。
【0048】
(3) アクセル開度APOに応じた目標駆動パワーを演算する目標駆動パワー演算部31を備え、統合コントローラ6は、充放電パワーと目標駆動パワーとの和であるエンジン要求パワーとなるようにエンジンEを制御する。これにより、ドライバの要求駆動パワーを達成しつつ、電気損失の最小限に抑えることができる。
【0049】
(4) 充放電パワー演算手段は、バッテリSOCが所定範囲から外れる場合、充放電パワーをバッテリSOCに応じた値とするため、バッテリ4の過放電および過充電を防止でき、バッテリ4の耐久性向上を図ることができる。
【0050】
(他の実施例)
以上、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実施例に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0051】
実施例1では、ラビニョウ型遊星歯車列を有する差動歯車変速機を備えた駆動系構成について説明したが、本発明は、エンジン、第1モータジェネレータ、第2モータジェネレータおよび駆動輪へ動力を伝達する出力部材を、それぞれ回転要素に連結した遊星歯車列を有する差動歯車変速機を備えた駆動系構成に適用でき、実施例1と同様の作用効果を奏する。
【符号の説明】
【0052】
E エンジン
MG1 第1モータジェネレータ
MG2 第2モータジェネレータ
OG 出力ギア(出力部材)
TM 駆動力合成変速機(差動歯車変速機)
PGR ラビニョウ型遊星歯車列(遊星歯車列)
EC エンジンクラッチ
LB ローブレーキ
1 エンジンコントローラ
2 モータコントローラ
3 インバータ
4 バッテリ
5 油圧制御装置
6 統合コントローラ(制御手段)
7 アクセル開度センサ
8 車速センサ
9 エンジン回転数センサ
10 第1モータジェネレータ回転数センサ
11 第2モータジェネレータ回転数センサ
12 第2リングギア回転数センサ
31 目標駆動パワー演算部(目標駆動パワー演算手段)
32 基本充放電パワー演算部(充放電パワー演算手段)
33 変速候補演算部(充放電パワー演算手段)
34 小演算部
34a 必要充放電パワー演算部
34b システム効率演算部
35 基本演算部
35b 基本システム効率演算部
36 充放電パワー決定部(充放電パワー演算手段)
37 加算部
38 エンジン運転/停止判定部
39 エンジン回転数演算部
40 動作点決定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン、第1モータジェネレータ、第2モータジェネレータおよび駆動輪へ動力を伝達する出力部材を、それぞれ回転要素に連結した遊星歯車列を有する差動歯車変速機を備えたハイブリッド車両の制御装置において、
両モータジェネレータと電力の授受を行うバッテリと、
前記第1モータジェネレータの発電電力で前記第2モータジェネレータを駆動する際に生じる電気損失が最小となる前記差動歯車変速機の変速比を得る前記バッテリの充放電パワーを演算する充放電パワー演算手段と、
前記充放電パワーとなるように前記エンジンおよび両モータジェネレータを制御する制御手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記充放電パワー演算手段は、エンジン効率を含む車両全体のシステム効率が最も高い変速比を得る充放電パワーを演算することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
アクセル開度に応じた目標駆動パワーを演算する目標駆動パワー演算手段を備え、
前記制御手段は、前記充放電パワーと前記目標駆動パワーとの和であるエンジン要求パワーとなるように前記エンジンを制御することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記充放電パワー演算手段は、バッテリSOCが所定範囲から外れる場合、前記充放電パワーをバッテリSOCに応じた値とすることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−158937(P2010−158937A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1265(P2009−1265)
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】