説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】係合要素同士を係合させるにあたって内燃機関の要求トルクに変化が生じた場合の騒音の発生を抑制する。
【解決手段】ハイブリッド駆動装置10は、クラッチ板710とクラッチ板720とが係合したロック状態においてMG1を回転不能にロックすることが可能なロック機構700を備える。ECU100は、ロック機構700を非ロック状態からロック状態へ移行させるにあたって、MG1ロック制御を実行する。この際、エンジン要求出力Pneが変化した場合には、然るべき一定化タイミングにおいてスロットル開度Thrが一定化される。この一定化タイミングは、スロットル開度の変化がエンジントルクTeの変化となって現れるのに要する時間遅延量に対応付けられており、クラッチ板710とクラッチ板720とを係合させる係合段階に相当する期間におけるエンジントルクTeが、的確に一定化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばドグクラッチ等、係合時に係合要素相互間の回転同期を要する係合装置を備えたハイブリッド車両の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、係合部材相互間の円周方向の位相の適合精度を向上させるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された駆動装置によれば、第1の係合部材と第2の係合部材とを係合させる場合に第1の係合部材を電動機で回転させることにより当該位相を調整する位相調整手段を備えることにより、係合ショックを抑制できるとされている。
【0003】
尚、回転要素を固定する締結解放手段を有し、無段変速モードと固定変速モードとを実現可能なハイブリッド車両において、エンジントルクを一定に保ち、モータトルクを変更して締結解放手段の制動トルクをゼロにするトルク変更第一段階と、エンジントルク及びモータトルクの双方を協調的に変更するトルク変更第二段階とを備え、締結解放手段の解放をトルク変更第一段階に行うことによって、締結解放手段の解放に要する時間の短縮化を図るものも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−038136号公報
【特許文献2】特開2007−050776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の係合装置により、相互に差動作用を有する複数の回転要素のうち一の回転要素をロックする構成を採るハイブリッド車両において、係合装置の係合要素同士を係合させる過程においてドライバ操作等により要求出力が変化した場合、係合要素同士の回転同期状態を維持しようとすると、必然的に内燃機関の要求トルクが増加する。一方、スロットル弁等の吸気絞り弁の開度を、変化した要求トルクに対応する開度まで短時間に変更すると、内燃機関の空燃比の制御精度が低下して燃焼状態の悪化を生じ易い。このため、このような状況において、吸気絞り弁の開度は、一般的には、適度な時間なまし処理を施された状態で変更される。
【0006】
ところが、このように吸気絞り弁の開度が時間的になまされると、係合要素同士を係合させる過程において内燃機関のトルクの増加が収束しないため、係合要素に過剰な物理負荷が加わることとなって騒音の増大を招きかねない。係る問題に対し、上記各特許文献に開示される技術思想は、元より係合時の要求出力の変化が考慮されていないため、係る問題を好適に解決することはできない。即ち、上記各特許文献に開示される技術を含む従来の技術には、係合要素同士を係合させるにあたって内燃機関の要求トルクに変化が生じた場合に、騒音の増大を回避できないという技術的な問題点がある。
【0007】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであって、係合要素同士を係合させるにあたって内燃機関の要求トルクに変化が生じた場合の騒音の発生を抑制可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するため、本発明に係る第1のハイブリッド車両の制御装置は、吸気量を調整可能な吸気絞り弁を有する内燃機関及び回転電機を含む動力要素と、前記回転電機により回転速度が調整可能な第1回転要素、車軸に繋がる駆動軸に連結される第2回転要素及び前記内燃機関に連結される第3回転要素を含む相互に差動回転可能な複数の回転要素を備え、該複数の回転要素の状態に応じて定まる動力伝達モードに従って前記動力要素と前記駆動軸との間の動力伝達を行う動力伝達機構と、前記第1回転要素に固定された第1係合要素と第2係合要素とを有し、前記動力伝達モードとして前記内燃機関の回転速度と前記駆動軸の回転速度との比たる変速比が固定される固定変速モードに対応する、前記第1係合要素と前記第2係合要素とが係合してなるロック状態と、前記動力伝達モードとして前記変速比が連続的に可変な無段変速モードに対応する、前記第1係合要素と前記第2係合要素とが係合しない非ロック状態との間で状態を切り替え可能に構成されると共に、前記非ロック状態から前記ロック状態へと前記状態を切り替える過程としてのロック過程が、前記第1係合要素と前記第2係合要素とを回転同期状態に維持する回転同期段階と、前記回転同期状態において前記第1係合要素と前記第2係合要素とを係合させる係合段階とを含むロック手段とを備えたハイブリッド車両の制御装置であって、前記内燃機関の要求トルクを特定する特定手段と、前記ロック過程において前記特定された要求トルクが変化する場合に、前記係合段階における前記内燃機関のトルクを一定化する一定化手段とを具備することを特徴とする。
【0009】
本発明に係るハイブリッド車両は、動力要素として、例えばモータジェネレータ等の電動発電機等の形態を採り得る回転電機と、燃料種別、燃料の供給態様、燃料の燃焼態様、吸排気系の構成及び気筒配列等を問わない各種の態様を採り得る内燃機関とを少なくとも備えた車両である。また、本発明に係る第1のハイブリッド車両の制御装置は、このハイブリッド車両を制御する装置であって、例えば、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、各種プロセッサ又は各種コントローラ、或いは更にROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バッファメモリ又はフラッシュメモリ等の各種記憶手段等を適宜に含み得る、単体の或いは複数のECU(Electronic Controlled Unit)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る。
【0010】
本発明に係るハイブリッド車両は、動力伝達機構を備える。動力伝達機構は、回転電機によりその回転速度を調製可能な第1回転要素、駆動軸に連結される第2回転要素及び内燃機関に連結される第3回転要素を含む、相互に差動作用をなし得る複数の回転要素を備えており、係る差動作用により各回転要素の状態(端的には、回転可能であるか否か及び他の回転要素又は固定要素と連結された状態にあるか否か等を含む)に応じて定まる各種の動力伝達モードに従って、上記動力要素と駆動軸との間の動力伝達(端的にはトルクの伝達である)を行う機構である。特に、動力伝達機構に備わる複数の回転要素のうち、第1、第2及び第3回転要素は、これらのうち二要素の回転速度が定まれば自ずと残余の一回転要素の回転速度が定まる二自由度の差動機構(尚、回転要素は必ずしもこれら三要素に限定されない)を構築する。動力伝達機構は、一又は複数の遊星歯車機構等のギア機構を好適な一形態として採り得るものであって、複数の遊星歯車機構を含む場合には、各遊星歯車機構を構成する回転要素の一部が複数の遊星歯車機構相互間で適宜共有され得る。
【0011】
動力伝達機構は、好適な一形態として、内燃機関の動力(端的にはトルクである)を第1回転要素と駆動軸(即ち、駆動軸に連結される回転要素)とに所定の比率で分配可能な所謂動力分割機構や、動力要素として他の回転電機が備わる構成において、複数の回転電機の役割を、内燃機関の反力を負担する反力要素と駆動軸への動力供給を担う出力要素との間で交互に切り替えるための、或いは回転電機の回転速度を適宜減速又は変速するための各種減速又は変速機構等を含み得るが、動力伝達機構の実践上の態様は、ハイブリッド車両の仕様、仕向け、要求性能、或いは例えば電気的、機械的又は経済的な各種の制約に応じて多種多様であってよい。
【0012】
尚、「動力伝達モード」とは、動力伝達に際しての物理的、機械的又は電気的な各種の制約及び仕組みの総称であり、例えば、駆動軸の回転速度と内燃機関の回転速度との比たる変速比に関して言えば、例えば固定されているのか自由に又は予め物理的又は電気的に定まり得る範囲で連続的であるのかといった性質に関するモードや、その採り得る範囲に関するモード、反力要素及び出力要素の選択に関するモード、走行用の動力を供給すべき動力要素の選択に関するモード、駆動軸への動力供給を担う出力要素と内燃機関の反力を受け持つ反力要素との間の役割分担に関するモード等を適宜含み得る趣旨である。
【0013】
本発明に係るハイブリッド車両は、ロック手段を備える。ロック手段は、第1回転要素に固定された第1係合要素と、この第1係合要素と係合可能な第2係合要素とを備え、これらが相互に係合してなるロック状態と、これらが相互いに解放された非ロック状態とを採ることができる。
【0014】
ロック手段が非ロック状態にある場合、動力伝達機構により、動力伝達モードの一つとして無段変速モードが実現される。無段変速モードでは、内燃機関の回転速度と駆動軸の回転速度との比たる変速比を、理論的に、実質的に或いは予め規定された物理的、機械的、機構的又は電気的な制約の範囲内で連続的に(実践上連続的であるのと同等に段階的な態様を含む)変化させることが可能となる。より具体的には、上述の二自由度の差動機構において回転電機を内燃機関の反力を受け持つ反力要素として機能させ、回転電機の回転速度を制御することにより内燃機関の回転速度を自由に制御することが可能となる。この場合、好適な一形態として、内燃機関の動作点(例えば、機関回転速度とトルクとにより規定される内燃機関の一運転条件を規定する点)が、例えば、理論的に、実質的に又は何らかの制約の範囲で自由に選択され、例えば、燃料消費率が理論的に、実質的に又は何らかの制約の範囲で最小となる、或いはハイブリッド車両のシステム効率(例えば、動力伝達機構の伝達効率と内燃機関の熱効率等に基づいて算出される総合的な効率である)が理論的に、実質的に又は何らかの制約の範囲で最大となる、最適燃費動作点等に制御される。
【0015】
一方、ロック手段がロック状態にある場合、動力伝達機構により、動力伝達モードの一つとして固定変速モードが実現され、変速比が一の値に固定される(尚、固定される変速比は、例えば有段変速機等により複数の変速比の中から選択されてもよい)。即ち、ロック状態において、内燃機関の回転速度は、第2係合要素と係合した第1係合要素の回転速度、即ち第1回転要素の回転速度と、車速に律束される第2回転要素の回転速度とにより必然的に定まることとなる。第2係合要素は、好適には固定要素であるが、固定変速モードを実現可能である限りにおいて回転要素であってもよい。固定変速モードでは、ロック手段に内燃機関の反力を負担させることが可能となるため、回転電機を理想的には非稼動とすることができ、運転条件により生じ得る、所謂動力循環と称される無駄な電気パスの発生を回避することが可能となる。
【0016】
ここで、本発明に係るロック手段は、非ロック状態からロック状態へ状態遷移する過程として規定されるロック過程が、第1係合要素と第2係合要素とを回転同期状態に維持する回転同期段階と、回転同期状態に維持されたこれら第1及び第2係合要素を相互に係合させる係合段階とを含む構成となっており、例えばドグクラッチ機構やカムロック機構等の、所謂回転同期式の係合装置となっている。
【0017】
この種のロック手段は、係合段階の開始以前に係合要素同士が所定の位相関係にある必要があるが、第1係合要素が固定される第1回転要素は、駆動軸側の第2回転要素及び内燃機関側の第3回転要素と相互に差動関係にあり、車速が変化しない(即ち、第2回転要素の回転速度が変化しない)と仮定すれば、第1回転要素の回転状態は、第3回転要素の回転状態に左右される。従って、係合段階を迎えるにあたって内燃機関のトルクが変動している場合、係合要素同士の位相関係が程度の差こそあれ崩れ、騒音レベルが実践上看過し難い程度に上昇する懸念がある。補足すれば、第1回転要素の回転状態は、回転電機により制御されるから、定常的に見れば、内燃機関のトルク変動に伴う第1回転要素の回転変動は、回転電機のトルク制御により抑制できるものの、一種の過渡過程である係合段階において、第1及び第2係合要素の位相関係を好適に維持し得る程度に精細に第1回転要素の回転変動を抑制することは、実践上不可能に近い。
【0018】
一方、このような問題を嫌って、ロック過程において内燃機関の要求出力が変化した場合に、トルクを規定し得る内燃機関の動作条件、例えば、吸気絞り弁の開度を急激に変化させると、吸気量の過渡的な急変が、空燃比を変動させる懸念がある。空燃比の制御精度が低下すると、内燃機関の燃焼状態が悪化して、例えば動力性能の低下やエミッションの悪化といった不具合が顕在化しかねない。このため、ロック過程において要求出力が変化するに際しては、一般的に、内燃機関の動作条件が、例えば、吸気絞り弁の開度が漸増される等、この種の不具合を顕在化させない程度の時間なまし処理を施された上で切り替えられる。
【0019】
ところが、このような時間なまし処理が施される場合、内燃機関の要求トルクを、実際の要求とは別に、あるタイミングで一定とすることによって、内燃機関の実際のトルクの変化を抑制しようとしても、実際のトルク変化が、この時間なまし処理の影響を受けて緩慢となり、係合段階において内燃機関のトルク変動が一定値に収束しない。その結果、上述した騒音或いは更に耐久性低下等といった不具合が、解決されない課題として残存する。
【0020】
そこで、本発明に係る第1のハイブリッド車両の制御装置では、以下の如くにして係る問題の解決が図られる。即ち、本発明に係る第1のハイブリッド車両の制御装置によれば、その動作時には、特定手段により内燃機関の要求トルクが特定され、この特定された要求トルクが、ロック手段のロック過程において変化する場合には、一定化手段により係合段階における内燃機関のトルクが一定化される。
【0021】
本発明に係る「特定」とは、検出、算出、導出、推定、同定、選択及び取得等の包括概念であって、制御上の参照情報として確定し得る限りにおいて、その実践的態様は如何様にも限定されない趣旨である。例えば、特定手段は、ハイブリッド車両のアクセル開度及び車速から推定される要求駆動力に基づいた演算処理の結果として、或いはこれらに基づいてマップから該当値を選択することによって、要求トルクを特定してもよい。
【0022】
ここで、一定化手段に係る内燃機関のトルクの「一定化」とは、厳密に不変とすることのみ限定されるものではなく、変動の度合いを実践上問題ないレベルに抑制又は制限すること、或いは、不変とすべく又は変動の度合いを実践上問題ないレベルに抑制又は制限すべく予め設定された制御条件に基づいて駆動対象を直的又は間接的に制御すること等を含む趣旨である。
【0023】
本発明に係る第1のハイブリッド車両の制御装置によれば、このように係合段階における内燃機関のトルクが一定化されることによって、第1係合要素と第2係合要素とを実際に係合させるにあたって、両者の相互的な位相状態を、騒音を始めとする不具合を招来しない好適な範囲に維持することができる。即ち、係合要素同士を係合させるにあたって内燃機関の要求トルクに変化が生じた場合の騒音の発生を抑制することが可能となるのである。
【0024】
補足すると、本発明は、ロック過程における騒音を始めとする不具合の発生が、係合段階において、内燃機関のトルク変動に惹起された第1回転要素の回転変動が生じることにより顕在化する点に着眼し、実際の係合段階における内燃機関のトルクを一定化する旨の技術思想により上記不具合を解消することを可能としたものである。従って、本発明によれば、内燃機関の燃焼状態を悪化させ得る急激な動作条件の変化を回避するための各種の措置(上述の時間なまし処理を含む)を講じることに実質的な支障はなく、内燃機関の燃焼状態を好適に維持しつつ、可及的に迅速に、且つ騒音を始めとする不具合を顕在化させることなくロック過程を終了させることができるといった、実践上極めて有益なる効果が奏されるのである。
【0025】
尚、一定化手段は、係合段階における内燃機関のトルクを一定化するにあたって、トルクに相関する内燃機関の動作条件を制御する。このような動作条件としては、上述したように吸気絞り弁の開度等が好適に該当するが、一定化手段の制御対象は、最終的に係合段階における内燃機関のトルクを一定化し得る限りにおいて何ら限定されない。
【0026】
本発明に係る第1のハイブリッド車両の制御装置の一の態様では、前記ハイブリッド車両は、前記動力要素として、前記駆動軸との間で動力の入出力が可能な前記回転電機と異なる他の回転電機を更に具備する。
【0027】
この態様によれば、ハイブリッド車両は、駆動軸に直接、又は各種変速機構や減速機構等を介して間接的に連結される、上記回転電機とは異なる、例えばモータジェネレータ等の他の回転電機を動力要素として更に備える。このため、この他の回転電機の動力のみを利用した所謂EV(Electric Vehicle)走行等が好適に可能となる。本発明に係るハイブリッド車両は、この種のハイブリッド車両に対しても好適に適用可能である。
【0028】
本発明に係る第1のハイブリッド車両の制御装置の他の態様では、前記一定化手段は、前記回転同期段階において前記吸気絞り弁の開度を一定化することにより前記係合段階における前記内燃機関のトルクを一定化する。
【0029】
この態様によれば、回転同期段階において吸気絞り弁の開度が一定化される。上述したように、内燃機関の要求トルクを一定化しても、時間なまし処理の態様によっては、吸気絞り弁の開度は必ずしも一定化されないが、このように吸気量を直接制御する吸気絞り弁の開度が然るべきタイミングで確実に一定化されることにより、内燃機関のトルクは、ロック過程の一部において確実に一定化される。
【0030】
一方、吸気絞り弁の開度変化(即ち、負荷条件の変化)により内燃機関のトルク変化をもたらそうとする場合、内燃機関のトルク変化は、この開度変化に対し、時間軸上の遅延を伴って発現する。即ち、吸気絞り弁の開度変化がもたらす吸気量の変化に応じて目標空燃比を維持すべく燃料噴射量が増量され、増量された燃料が燃焼することにより実際のトルクが変化するまでには有限の時間遅延が生じる。
【0031】
この態様では、この種の時間遅延が考慮されており、係合段階以前に吸気絞り弁を一定化することにより、係合段階に相当する期間において、内燃機関のトルクを一定化することが可能となる。言い換えれば、係合段階におけるトルク変動を回避すべく係合段階における吸気絞り弁の開度を一定化しても、実際にはその一定化の効能が発現するのは、係合段階の開始時点よりも時系列上後の時点になるため、係合段階におけるトルク変動は必ずしも有意義に抑制されないのである。
【0032】
一定化手段が吸気絞り弁の開度を一定化するタイミングは、係合段階における内燃機関のトルク変動が少なくとも実践上十分に抑制され得る限りにおいて何ら限定されない。例えば、係るタイミングは、予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて、係合段階の開始時点において内燃機関のトルクが一定化されるように固定値又は可変値として決定されていてもよい。或いは逆に、内燃機関の燃焼状態を許容範囲に維持し得る程度の時間なまし処理が施された後に吸気絞り弁の開度を一定化し、それにより内燃機関のトルクが一定化されて以降のタイミングで係合段階が開始されるように、係合段階の開始タイミングが制御されてもよい。
【0033】
いずれにせよ、このように回転同期段階において吸気絞り弁の開度を一定化することにより、内燃機関の燃焼状態を許容範囲に維持する旨の効果と、ロック過程の短縮化に係る効果と、騒音を始めとする不具合を回避する旨の効果とを、所望のレベルで融合させることが可能となり、本発明に係る実践上の利益が、その都度個別具体的な事情に応じて最適化された状態で好適に享受され得る。
【0034】
上述した課題を解決するため、本発明に係る第2のハイブリッド車両の制御装置は、吸気量を調整可能な吸気絞り弁を有する内燃機関及び回転電機を含む動力要素と、前記回転電機により回転速度が調整可能な第1回転要素、車軸に繋がる駆動軸に連結される第2回転要素及び前記内燃機関に連結される第3回転要素を含む相互に差動回転可能な複数の回転要素を備え、該複数の回転要素の状態に応じて定まる動力伝達モードに従って前記動力要素と前記駆動軸との間の動力伝達を行う動力伝達機構と、前記第1回転要素に固定された第1係合要素と第2係合要素とを有し、前記動力伝達モードとして前記内燃機関の回転速度と前記駆動軸の回転速度との比たる変速比が固定される固定変速モードに対応する、前記第1係合要素と前記第2係合要素とが係合してなるロック状態と、前記動力伝達モードとして前記変速比が連続的に可変な無段変速モードに対応する、前記第1係合要素と前記第2係合要素とが係合しない非ロック状態との間で状態を切り替え可能に構成されると共に、前記非ロック状態から前記ロック状態へと前記状態を切り替える過程としてのロック過程が、前記第1係合要素と前記第2係合要素とを回転同期状態に維持する回転同期段階と、前記回転同期状態において前記第1係合要素と前記第2係合要素とを係合させる係合段階とを含むロック手段とを備えたハイブリッド車両の制御装置であって、前記内燃機関の要求トルクを特定する特定手段と、前記ロック過程において前記特定された要求トルクが変化する場合に、前記回転同期段階において前記吸気絞り弁の開度を所定時間一定化した後に前記回転同期段階を前記係合段階へ移行させる一定化手段とを具備することを特徴とする。
【0035】
本発明に係る第2のハイブリッド車両の制御装置が適用されるハイブリッド車両は、上記のハイブリッド車両を制御する装置であって、第1のハイブリッド車両の制御装置と同様、例えば、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、各種プロセッサ又は各種コントローラ、或いは更にROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バッファメモリ又はフラッシュメモリ等の各種記憶手段等を適宜に含み得る、単体の或いは複数のECU(Electronic Controlled Unit)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る。
【0036】
第2のハイブリッド車両の制御装置によれば、特定された要求トルクがロック過程において変化する場合に、一定化手段により回転同期段階において吸気絞り弁の開度が一定化され、その後、一定化手段により、或いは、段階移行に行う他の手段により、回転同期段階が係合段階へ移行せしめられる。即ち、要求トルクがロック過程において変化する場合には、吸気絞り弁又は吸気絞り弁を駆動する駆動手段に対し、回転同期段階においてこの種の開度一定化に係る駆動信号が供給される。
【0037】
従って、第2のハイブリッド車両の制御装置によれば、吸気絞り弁の開度一定化に対応する内燃機関のトルクの実挙動(即ち、好適には、トルクの一定化又は略一定化)を係合段階において効果的に発現させることができ、ロック過程における騒音を始めとする不具合の発生を抑制することが可能となる。
【0038】
尚、このような吸気絞り弁の駆動制御において、吸気絞り弁の開度の制御(即ち、一定化)に対応する内燃機関の実挙動(即ち、端的にはトルクの挙動)は、必ずしも目的とする挙動(即ち、端的には一定又は略一定状態)と合致する必要はない。これは、先にも述べたように、吸気絞り弁の開度が相応の時間遅延を伴ってトルクに反映されることに鑑み、言わば前倒しで吸気絞り弁の開度制御を実行する必然性からみれば当然である。
【0039】
尚、第2のハイブリッド車両の制御装置が具備する一定化手段に係る「一定化」とは、第1のハイブリッド車両の一定化手段に係るトルクの一定化と同様の意味合いを有しており、厳密に不変とすることのみに限定されるものではなく、変動の度合いを実践上問題ないレベルに抑制又は制限すること、或いは、不変とすべく又は変動の度合いを実践上問題ないレベルに抑制又は制限すべく予め設定された制御条件に基づいて駆動対象を直接的又は間接的に制御すること等を含む趣旨である。
【0040】
尚、一定化手段に係る「所定時間」とは、好適には、予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて設定された、吸気絞り弁の開度一定化に惹起された内燃機関の実挙動変化を係合段階において有意義に発現させる(係合段階に相当する時間領域のみにこの種の挙動変化が現れることを理想的な一として含むが、無論それに限定されない)ことが可能な時間である。
【0041】
また、一定化手段は、吸気絞り弁の開度を所定時間一定化した後に回転同期段階を係合段階へ移行させるが、吸気絞り弁の開度の一定化を終了するタイミングと、回転同期段階から係合段階への移行タイミングとは時系列上で一致せずともよい。
【0042】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施形態に係るハイブリッド車両の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図2】図1のハイブリッド車両におけるハイブリッド駆動装置の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図3】図2のハイブリッド駆動装置に備わるエンジンの一断面構成を例示する模式図である。
【図4】図2のハイブリッド駆動装置における動力分割機構の作用を説明する動作共線図である。
【図5】図1のハイブリッド車両においてECUにより実行されるMG1ロック制御のフローチャートである。
【図6】第1実施形態の効果に係り、図5のMG1ロック制御の実行過程におけるエンジン要求出力、スロットル開度及びエンジントルクの一時間推移を例示する模式的な時間特性図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係るハイブリッド駆動装置の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
<発明の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の好適な各種実施形態について説明する。
<1:第1実施形態>
<1-1:実施形態の構成>
始めに、図1を参照し、本発明の第1実施形態に係るハイブリッド車両1の構成について説明する。ここに、図1は、ハイブリッド車両1の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0045】
図1において、ハイブリッド車両1は、ハイブリッド駆動装置10、PCU(Power Control Unit)11、バッテリ12、アクセル開度センサ13、車速センサ14及びECU100を備えた、本発明に係る「ハイブリッド車両」の一例である。
【0046】
ECU100は、CPU、ROM及びRAM等を備え、ハイブリッド車両1の各部の動作を制御可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「ハイブリッド車両の制御装置」の一例である。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述するMG1ロック制御を実行可能に構成されている。尚、ECU100は、本発明に係る「特定手段」及び「一定化手段」の一例として機能するように構成された一体の電子制御ユニットであり、上記各手段に係る動作は、全てECU100によって実行されるように構成されている。但し、本発明に係る上記手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
【0047】
PCU11は、バッテリ12から取り出した直流電力を交流電力に変換して後述するモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2に供給すると共に、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2によって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ12に供給することが可能な不図示のインバータを含み、バッテリ12と各モータジェネレータとの間の電力の入出力を、或いは各モータジェネレータ相互間の電力の入出力(即ち、この場合、バッテリ12を介さずに各モータジェネレータ相互間で電力の授受が行われる)を制御可能に構成された電力制御ユニットである。PCU11は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される構成となっている。
【0048】
バッテリ12は、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2を力行するための電力に係る電力供給源として機能する充電可能な蓄電手段である。
【0049】
アクセル開度センサ13は、ハイブリッド車両1の図示せぬアクセルペダルの操作量たるアクセル開度Taを検出可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ13は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度Taは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0050】
車速センサ14は、ハイブリッド車両1の車速Vを検出可能に構成されたセンサである。車速センサ14は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0051】
ハイブリッド駆動装置10は、ハイブリッド車両1のパワートレインとして機能する動力ユニットである。ここで、図2を参照し、ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、ハイブリッド駆動装置10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0052】
図2において、ハイブリッド駆動装置10は、エンジン200、動力分割機構300、モータジェネレータMG1(以下、適宜「MG1」と略称する)、モータジェネレータMG2(以下、適宜「MG2」と略称する)、入力軸400、駆動軸500、減速機構600及びロック機構700を備える。
【0053】
エンジン200は、本発明に係る「内燃機関」の一例たるガソリンエンジンであり、ハイブリッド車両1の主たる動力源として機能するように構成されている。ここで、図3を参照し、エンジン200の詳細な構成について説明する。ここに、図3は、エンジン200の一断面構成を例示する模式図である。尚、同図において、図1及び図2と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。尚、本発明における「内燃機関」とは、燃料の燃焼により動力を生成可能な機関を包括する概念であって、係る概念を満たす限りにおいて、その実践的態様は、エンジン200のものに限定されず各種の態様を有してよい。
【0054】
図3において、エンジン200は、気筒201内において燃焼室に点火プラグ(符号省略)の一部が露出してなる点火装置202による点火動作を介して混合気を燃焼せしめると共に、係る燃焼による爆発力に応じて生じるピストン203の往復運動を、コネクティングロッド204を介してクランクシャフト205の回転運動に変換可能に構成されている。
【0055】
クランクシャフト205近傍には、クランクシャフト205の回転位置(即ち、クランク角)を検出するクランクポジションセンサ206が設置されている。このクランクポジションセンサ206は、ECU100(不図示)と電気的に接続されており、ECU100では、このクランクポジションセンサ206から出力されるクランク角信号に基づいて、エンジン200の機関回転速度NEが算出される構成となっている。
【0056】
エンジン200において、外部から吸入された空気は吸気管207を通過し、吸気ポート210を介して吸気バルブ211の開弁時に気筒201内部へ導かれる。一方、吸気ポート210には、インジェクタ212の燃料噴射弁が露出しており、吸気ポート210に対し燃料を噴射することが可能な構成となっている。インジェクタ212から噴射された燃料は、吸気バルブ211の開弁時期に前後して吸入空気と混合され、上述した混合気となる。
【0057】
燃料は、図示せぬ燃料タンクに貯留されており、図示せぬフィードポンプの作用により、図示せぬデリバリパイプを介してインジェクタ212に供給される構成となっている。気筒201内部で燃焼した混合気は排気となり、吸気バルブ211の開閉に連動して開閉する排気バルブ213の開弁時に排気ポート214を介して排気管215に導かれる。
【0058】
一方、吸気管207における、吸気ポート210の上流側には、図示せぬクリーナを経て導かれた吸入空気に係る吸入空気量を調節可能な、本発明に係る「吸気絞り弁」の一例たるスロットルバルブ208が配設されている。このスロットルバルブ208は、ECU100と電気的に接続されたスロットルバルブモータ209によってその駆動状態が制御される構成となっている。尚、ECU100は、基本的には不図示のアクセルペダルの開度(即ち、上述したアクセル開度Ta)に応じたスロットル開度が得られるようにスロットルバルブモータ209を制御するが、スロットルバルブモータ209の動作制御を介してドライバの意思を介在させることなくスロットル開度を調整することも可能である。即ち、スロットルバルブ208は、一種の電子制御式スロットルバルブとして構成されている。
【0059】
排気管215には、三元触媒216が設置されている。三元触媒216は、エンジン200から排出される排気中のNOx(窒素酸化物)を還元すると同時に、排気中のCO(一酸化炭素)及びHC(炭化水素)を酸化可能に構成された触媒装置である。尚、触媒装置の採り得る形態は、このような三元触媒に限定されず、例えば三元触媒に代えて或いは加えて、NSR触媒(NOx吸蔵還元触媒)或いは酸化触媒の各種触媒が設置されていてもよい。
【0060】
排気管215には、エンジン200の排気空燃比を検出することが可能に構成された空燃比センサ217が設置されている。更に、気筒201を収容するシリンダブロックに設置されたウォータージャケットには、エンジン200を冷却するために循環供給される冷却水(LLC)に係る冷却水温を検出するための水温センサ218が配設されている。これら空燃比センサ217及び水温センサ218は、夫々ECU100と電気的に接続されており、検出された空燃比及び冷却水温は、夫々ECU100により一定又は不定の検出周期で把握される構成となっている。
【0061】
図2に戻り、モータジェネレータMG1は、本発明に係る「回転電機」の一例たる電動発電機であり、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた構成となっている。モータジェネレータMG2は、本発明に係る「他の回転電機」の一例たる電動発電機であり、モータジェネレータMG1と同様に、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた構成となっている。尚、モータジェネレータMG1及びMG2は、例えば同期電動発電機として構成され、例えば外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える構成を有するが、他の構成を有していてもよい。
【0062】
動力分割機構300は、中心部に設けられた、本発明に係る「第1回転要素」の一例たるサンギアS1と、サンギアS1の外周に同心円状に設けられた、本発明に係る「第2回転要素」の一例たるリングギアR1と、サンギアS1とリングギアR1との間に配置されてサンギアS1の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギアP1と、これら各ピニオンギアの回転軸を軸支する、本発明に係る「第3回転要素」の一例たるキャリアC1とを備えた、本発明に係る「動力伝達機構」の一例たる動力分配装置である。
【0063】
ここで、サンギアS1は、サンギア軸310を介してMG1のロータRTに連結されており、その回転速度はMG1の回転速度(以下、適宜「MG1回転速度Nmg1」と称する)と等価である。また、リングギアR1は、駆動軸500及び減速機構600を介してMG2の不図示のロータに結合されており、その回転速度はMG2の回転速度(以下、適宜「MG2回転速度Nmg2」と称する)と等価である。更に、キャリアC1は、エンジン200の先に述べたクランクシャフト205に連結された入力軸400と連結されており、その回転速度は、エンジン200の機関回転速度NEと等価である。尚、ハイブリッド駆動装置10において、MG1回転速度Nmg1及びMG2回転速度Nmg2は、夫々レゾルバ等の回転センサにより一定の周期で検出されており、ECU100に一定又は不定の周期で送出されている。
【0064】
一方、駆動軸500は、ハイブリッド車両1の駆動輪たる右前輪FR及び左前輪FLを夫々駆動するドライブシャフトSFR及びSFL(即ち、これらドライブシャフトは、本発明に係る「車軸」の一例である)と、デファレンシャル等各種減速ギアを含む減速装置としての減速機構600を介して連結されている。従って、モータジェネレータMG2から駆動軸500に供給されるモータトルクTmg2(即ち、本発明に係る「動力」の一例である)は、減速機構600を介して各ドライブシャフトへと伝達され、各ドライブシャフトを介して伝達される各駆動輪からの駆動力は、同様に減速機構600及び駆動軸500を介してモータジェネレータMG2に入力される。即ち、MG2回転速度Nmg2は、ハイブリッド車両1の車速Vと一義的な関係にある。
【0065】
動力分割機構300は、係る構成の下で、エンジン200からクランクシャフト205を介して入力軸400に供給されるエンジントルクTeを、キャリアC1とピニオンギアP1とによってサンギアS1及びリングギアR1に所定の比率(各ギア相互間のギア比に応じた比率)で分配し、エンジン200の動力を2系統に分割することが可能となっている。
【0066】
動力分割機構300の動作を分かり易くするため、リングギアR1の歯数に対するサンギアS1の歯数としてのギア比ρを定義すると、エンジン200からキャリアC1に対しエンジントルクTeを作用させた場合に、サンギア軸310に現れるトルクTesは下記(1)式により、また駆動軸500に現れるトルクTerは下記(2)式により夫々表される。
【0067】
Tes=−Te×ρ/(1+ρ)・・・(1)
Ter=Te×1/(1+ρ)・・・(2)
尚、本発明に係る「動力伝達機構」に係る実施形態上の構成は、動力分割機構300のものに限定されない。例えば、本発明に係る動力伝達機構は、複数の遊星歯車機構を備え、一の遊星歯車機構に備わる複数の回転要素が、他の遊星歯車機構に備わる複数の回転要素の各々と適宜連結され、一体の差動機構を構成していてもよい。また、本実施形態に係る減速機構600は、予め設定された減速比に従って駆動軸500の回転速度を減速するに過ぎないが、ハイブリッド車両1は、この種の減速装置とは別に、例えば、複数のクラッチ機構やブレーキ機構を構成要素とする複数の変速段を備えた有段変速装置を備えていてもよい。例えばモータジェネレータMG2と減速機構600との間に、動力分割機構300と同等の遊星歯車機構を介在させ、この遊星歯車機構のサンギアにMG2のロータを、リングギアにリングギアR1を夫々連結すると共に、キャリアを回転不能に固定することによって、MG2回転速度Nmg2を減速させる構成であってもよい。
【0068】
ロック機構700は、一対のクラッチ板710及び720を有するドグクラッチ機構である。
【0069】
クラッチ板710は、サンギア軸310に固定されており、サンギア軸310と一体に回転可能な、本発明に係る「第1係合要素」の一例である。クラッチ板710において、クラッチ板720と対向する対向面には、周方向に所定間隔で不図示の歯状部材(所謂、ドグ歯である)が形成されている。
【0070】
クラッチ板720は、固定要素たるケースCSに固定された、本発明に係る「第2係合要素」の一例である。クラッチ板720において、クラッチ板710と対向する対向面には、クラッチ板710と同様に周方向に所定間隔で不図示の歯状部材が形成されている。
【0071】
一方、クラッチ板720は、不図示の電磁アクチュエータの作用により、図中右方向へ所定量ストローク可能に構成されており、所定量ストロークした状態において、対向面に形成された歯状部材が、クラッチ板710の対向面に形成された歯状部材と相互に噛合する(より具体的には、一方の凸部と他方の凹部が、また一方の凹部と他方の凸部とが噛合する)ことにより、ロック状態を採るように構成されている。ロック状態において、クラッチ板710の回転は、固定要素たるケースCSに固定されたクラッチ板720によって阻まれ、クラッチ板710は回転不能にロックされる。
【0072】
補足すると、このようにドグクラッチ機構では、係合要素同士が回転同期した状態で、最終的に係合要素同士が所定の位相関係にある必要がある。従って、ロック機構700を非ロック状態(クラッチ板同士が離間した状態)からロック状態へ状態遷移させるロック過程においては、(ア)モータジェネレータMG1によりクラッチ板710の回転がゼロ又は略ゼロに維持され、更に位相制御により然るべき位相状態が形成された後に、(イ)アクチュエータによりクラッチ板720がストロークされる構成を採る。即ち、(ア)は本発明に係る「回転同期段階」の一例であり、(イ)は本発明に係る「係合段階」の一例である。尚、係合段階には、或いは係合段階の後段階としては、歯状部材相互間に形成されたガタを詰める所謂ガタ詰め段階が存在してもよい。
【0073】
尚、この電磁アクチュエータは、PCU11を介してECU100と電気的に接続された状態となっており、その動作状態は、ECU100により制御される構成となっている。また、ドグクラッチ機構の実践的態様は、ロック機構700のものに限定されない。例えば、サンギア軸310に、第1係合要素として中空のハブが固定され、このハブの外周面に歯状部材(即ち、外歯)が形成され、一方で、ケースCSに固定された環状部材の外周面に同様に歯状部材(即ち、外歯)が形成され、更に、第2係合要素として、この環状部材の外歯に勘合する内歯を有するスリーブが、図示右方向に電磁アクチュエータによりストローク可能に設置される構成であってもよい。この場合、スリーブの内歯と環状部材の外歯とを常時噛合させ、ストローク時にスリーブの内歯が更にハブの外歯と噛合することにより、ハブと環状部材とを固定させ、ロック状態を構築してもよい。
【0074】
また、本発明に係るロック手段は、このようなドグクラッチ機構に限定されない。例えば、ロック手段は、サンギア軸310に固定された、第1係合要素たるカムと、このカムとの間にカムボールを挟んでこのカムと一体に回転するクラッチ板と、固定要素に連結された第2係合要素たる電磁アクチュエータとを備える所謂カムロック式係合装置であってもよい。この種のカムロック式係合装置においては、カムが係合対象(この場合、固定要素たる電磁アクチュエータである)と回転同期した状態において、電磁アクチュエータによりクラッチ板を電磁アクチュエータ側の摩擦要素へ引きつけ、クラッチ板とカムとの間に生じる差回転によりカムボールを介してセルフロック作用を発現させ、カムの回転を阻止することが可能である。
【0075】
<1-2:実施形態の動作>
<1-2-1:変速モードの詳細>
本実施形態に係るハイブリッド車両1は、サンギアS1の状態に応じて、本発明に係る「動力伝達モード」の一例たる変速モードとして固定変速モード又は無段変速モードを選択可能である。ここで、図4を参照し、ハイブリッド車両1の変速モードについて説明する。ここに、図4は、ハイブリッド駆動装置10の動作共線図である。尚、同図において、図2と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0076】
図4(a)において、縦軸は回転速度を表しており、横軸には、左から順にモータジェネレータMG1(一義的にサンギアS1)、エンジン200(一義的にキャリアC1)及びモータジェネレータMG2(一義的にリングギアR1)が表されている。ここで、動力分割機構300は、回転二自由度の遊星歯車機構であり、サンギアS1、キャリアC1及びリングギアR1のうち二要素の回転速度が定まった場合に、残余の一回転要素の回転速度が必然的に定まる構成となっている。即ち、動作共線図上において、各回転要素の動作状態は、ハイブリッド駆動装置10の一動作状態に一対一に対応する一の動作共線によって表すことができる。尚、これ以降適宜、動作共線図上の点を動作点mi(iは自然数)によって表すこととする。即ち、一の動作点miには一の回転速度が対応している。
【0077】
図4(a)において、MG2の動作点が動作点m1であるとする。この場合、MG1の動作点が動作点m3であれば、残余の一回転要素たるキャリアC1に連結されたエンジン200の動作点は、動作点m2となる。この際、駆動軸500の回転速度を維持したままMG1の動作点を動作点m4及び動作点m5に変化させれば、エンジン200の動作点は夫々動作点m6及び動作点m7へと変化する。
【0078】
即ち、この場合、モータジェネレータMG1を回転速度制御装置とすることによって、エンジン200を所望の動作点で動作させることが可能となる。この状態に対応する変速モードが、無段変速モードである。無段変速モードでは、エンジン200の動作点(この場合の動作点とは、機関回転速度とエンジントルクTeとの組み合わせによって規定される)は、基本的にエンジン200の燃料消費率が最小となる最適燃費動作点に制御される。尚、当然ながら無段変速モードにおいて、MG1回転速度Nmg1は可変である必要がある。このため、無段変速モードが選択される場合、ロック機構700は、サンギアS1が解放状態となるように、その駆動状態が制御される。
【0079】
ここで補足すると、動力分割機構300において、駆動軸500に先に述べたエンジントルクTeに対応するトルクTerを供給するためには、サンギア軸310にエンジントルクTeに応じて現れる先述のトルクTesと大きさが等しく且つ符合が反転した(即ち、負トルクである)反力トルクをモータジェネレータMG1からサンギア軸310に供給する必要がある。この場合、動作点m3或いは動作点m4といった正回転領域の動作点において、MG1は正回転負トルクの発電状態となる。即ち、無段変速モードにおいては、モータジェネレータMG1(一義的にサンギアS1)を反力要素として機能させることにより、駆動軸500にエンジントルクTeの一部を供給し、且つサンギア軸310に分配されるエンジントルクTeの一部で発電が行われる。駆動軸500に対し要求されるトルクがエンジン直達のトルクで不足する場合には、この発電電力を利用する形で、モータジェネレータMG2から駆動軸500に対し適宜トルクTmg2が供給される。
【0080】
一方、例えば高速軽負荷走行時等、例えばMG2回転速度Nmg2が高いものの機関回転速度NEが低く済むような運転条件においては、MG1が、例えば動作点m5の如き負回転領域の動作点となる。この場合、モータジェネレータMG1は、エンジントルクTeの反力トルクとして負トルクを出力しており、負回転負トルクの状態となって力行状態となる。即ち、この場合、モータジェネレータMG1からのトルクTmg1は、ハイブリッド車両1の駆動トルクとして駆動軸500に伝達されてしまう。
【0081】
他方で、モータジェネレータMG2は、駆動軸500に出力される、要求トルクに対し過剰なトルクを吸収するため、負トルク状態となる。この場合、モータジェネレータMG2は、正回転負トルクの状態となって発電状態となる。このような状態においては、MG1からの駆動力をMG2での発電に利用し、この発電電力によりMG1を力行駆動する、といった所謂動力循環と称される非効率な電気パスが生じることとなる。動力循環が生じた状態では、ハイブリッド駆動装置10の伝達効率が低下してハイブリッド駆動装置10のシステム効率が低下する。
【0082】
そこで、ハイブリッド車両1では、予めこのような動力循環が生じ得るものとして定められた運転領域において、ロック機構700が先に述べたロック状態に制御される。その様子が図4(b)に示される。ロック機構700がロック状態となると、即ち、サンギアS1がロックされると、必然的にモータジェネレータMG1もまたロック状態となり、MG1の動作点は、回転速度がゼロである動作点m8となる。このため、エンジン200の動作点は動作点m9となり、その機関回転速度NEは、車速Vと一義的なMG2回転速度Nmg2により一義的に決定される(即ち、変速比が一定となる)。このようにMG1がロック状態にある場合に対応する変速モードが、固定変速モードである。
【0083】
固定変速モードでは、本来モータジェネレータMG1が負担すべきエンジントルクTeの反力トルクをロック機構700の物理的な制動力により代替させることができる。即ち、モータジェネレータMG1を発電状態にも力行状態にも制御する必要はなくなり、モータジェネレータMG1を停止させることが可能となる。従って、基本的にモータジェネレータMG2を稼動させる必要もなくなり、MG2は言わば空転状態となる。結局、固定変速モードでは、駆動軸500に現れる駆動トルクが、エンジントルクTeのうち、動力分割機構300により駆動軸500側に分割された直達成分(上記(2)式参照)のみとなり、ハイブリッド駆動装置10は、機械的な動力伝達を行うのみとなって、その伝達効率が向上する。
【0084】
<1-2-2:MG1ロック制御の詳細>
ハイブリッド車両1において、変速モードは、ECU100によりその都度、ハイブリッド駆動装置10のシステム効率ηsysがより高い変速モードに制御される。この際、ECU100は、予めROMに格納された変速マップを参照する。この変速マップは、縦軸及び横軸に夫々要求駆動力Ft及び車速Vが表されてなる二次元マップである。変速マップ上においては、MG1をロック状態に制御して固定変速モードを選択すべき領域が、MG1ロック領域として規定されている。尚、要求駆動力Ftとは、各ドライブシャフトに加わる駆動力の要求値であり、車速センサ14により検出される車速Vとアクセル開度センサ13により検出されるアクセル開度Accとをパラメータとする要求駆動力マップより取得される。ECU100は、車速V及び要求駆動力Ftにより規定されるハイブリッド車両1の運転条件が、固定変速モードに該当する場合に、MG1ロック制御を実行することによって、変速モードを無段変速モードから固定変速モードへ切り替える。
【0085】
ここで、図5を参照し、MG1ロック制御の詳細について説明する。ここに、図5は、MG1ロック制御のフローチャートである。
【0086】
図8において、ECU100は、回転同期制御を実行する(ステップS101)。ここで、回転同期制御とは、クラッチ板710とクラッチ板720とを回転同期状態に維持する制御であり、モータジェネレータMG1によりクラッチ板710の回転速度をゼロとすることにより実現される。また、本実施形態では、この回転同期制御において、クラッチ板710とクラッチ板720との位相状態も制御されることとする。即ち、これ以降に説明における「回転同期状態」とは、両者間で回転速度が同期し且つ位相が整合した状態を意味することとする。尚、回転同期制御の実行期間は、本発明に係る「回転動機段階」に相当する。
【0087】
回転同期制御が開始されると、ECU100は、エンジントルクTeの要求値であるエンジン要求トルクTneが変化したか否かを判別する(ステップS102)。ここで、動力分割機構300に備わる回転要素の差動作用を考慮すれば、ロック過程において機関回転速度NEは不変である必要があり、エンジン要求出力Pneの変化は、そのままエンジン要求トルクTneの変化となる。即ち、ステップS102においては、例えばドライバのアクセル操作等によってエンジン要求出力Pneに変化が生じているか否かが判別され、エンジン要求出力Pneに変化が生じている場合にエンジン要求トルクTneに変化が生じているものと判別される。尚、より実践的態様としては、エンジン要求トルクの変化が予め設定された基準値以上であるか否かが判別されてもよい。
【0088】
エンジン要求トルクTneが不変である場合(ステップS102:NO)、ECU100は、クラッチ板710とクラッチ板720との回転同期が完了したか否かを判別する(ステップS104)。回転同期が完了していない場合(ステップS104:NO)、ECU100は、処理をステップS102に戻す。一方、回転同期が完了している場合(ステップS104:YES)、ECU100は、処理をステップS108に進ませる。尚、ステップS108については後述する。
【0089】
ステップS102においてエンジン要求トルクTneが変化している場合(ステップS102:YES)、ECU100は、エンジントルクTeを増加させるが、この際、スロットルバルブ208の開度たるスロットル開度Thrを漸増させる(ステップS103)。即ち、スロットル開度の変化に時間なまし処理を施す。
【0090】
スロットル開度の漸増処理が開始されると、ECU100は、所定の一定化タイミングが訪れたか否かを判別する(ステップS105)。一定化タイミングが訪れない場合(ステップS105:NO)、ECU100は、当該一定化タイミングが訪れるまで処理を実質的に待機状態に制御すると共に、一定化タイミングが訪れると(ステップS105:YES)、スロットル開度Thrを、その時点の値で一定化する(ステップS106)。ステップS106に係る処理は、本発明に係る「一定化手段」の動作の一例である。
【0091】
スロットル開度の一定化がなされると、ECU100は、クラッチ板710とクラッチ板720とが回転同期状態に移行したか否かを判別する(ステップS107)。未だ両者が回転同期状態にない場合(ステップS107:NO)、ECU100は、ステップS107を繰り返し実行する。
【0092】
クラッチ板710とクラッチ板720とが回転同期状態に移行すると(ステップS107:YES)、ECU100は、係合制御を開始する(ステップS108)。係合制御とは、クラッチ板720をクラッチ板710の方向へ所定量ストロークさせる制御を意味し、ECU100が電磁アクチュエータを駆動制御することにより実現される。尚、係合制御の実行期間は、本発明に係る「係合段階」に相当する。
【0093】
係合制御が開始されると、ECU100は、クラッチ板710とクラッチ板720との係合が完了したか否かを判別する(ステップS109)。係合途中である場合には(ステップS109:NO)、ステップS109が継続され、クラッチ板720のストロークが継続されると共に、両者の係合が完了すると(ステップS109:YES)、MG1ロック制御は終了する。
【0094】
ここで、図6を参照し、MG1ロック制御の効果について説明する。ここに、図6は、MG1ロック制御の実行過程におけるエンジン200の動作状態の一時間推移を例示する模式的な時間特性図である。
【0095】
図6において、上段から順に、エンジン要求出力Pne、スロットル開度Thr及びエンジントルクTeの時間特性(即ち、横軸は時刻で共通である)が例示される。
【0096】
図示時刻T1において、MG1ロック要求に応じて回転同期段階が開始され、時刻T2において、エンジン要求出力PneがPne1からPne2へ上昇したとする。尚、ここでは、エンジン要求出力Pneの上昇は、エンジン要求トルクTneの上昇と略等価である。
【0097】
一方、エンジン要求出力Pneの変化に対し、スロットル開度Thrをリニアに応答させると、既に述べたように、吸気量の変動による燃焼状態の悪化が回避され難い。そこで、ECU100は、時刻T2から、上記「一定化タイミング」に相当する時刻T3に到る期間において、スロットル開度Thrを初期値であるThr1から漸増させる。時刻T3が訪れると、ECU100は、スロットル開度Thrを、その時点のスロットル開度Thr2で維持し、スロットル開度の一定化を開始する。このようなスロットル開度一定化の過程を経て時刻T4においてクラッチ板710とクラッチ板720との回転同期が完了すると、ロック過程は係合段階に移行し、時刻T5において両者の係合が完了する。
【0098】
ここで、スロットル開度Thrの変化に対するエンジントルクTeの応答には、エンジン200の物理的構成に応じて予め実験的に定まり得る所定の時間遅延が存在する。従って、時刻T3において開始されたスロットル開度Thrの一定化が、実際にエンジントルクTeの一定化(図示エンジントルクTe2参照)となって現れる始めるタイミングは、時刻T4となる。
【0099】
即ち、本実施形態に係るMG1ロック制御によれば、実際に係合段階が開始される以前の一定化タイミング(ここでは、時刻T3)においてスロットル開度Thrが一定化されることにより、係合段階におけるエンジントルクTeのみを効率良く一定化することが可能となっている。より具体的に言えば、時刻T4においてエンジントルクTeの変化が一時的に停止するように、予め把握され得る時間遅延量に基づいて、スロットル開度Thrの一定化タイミングである時刻T3が決定されているのである。
【0100】
また、係合段階に相当する期間の長さ(即ち、クラッチ板同士を係合させるのに要する時間)は、クラッチ板720を所定量ストロークさせるのに要する時間であり、予め実験等により把握可能である。従って、スロットル開度Thrをエンジン要求出力Pneに応じて再び漸増させるタイミングもまた、係合段階におけるエンジントルクTeの変化が生じない範囲で可及的にエンジントルクTeが要求値に追従するように的確に決定することができる。そのようなスロットル開度一定化に係る期間の長さは、本発明に係る「所定時間」の一例である。
【0101】
このように、本実施形態に係るMG1ロック制御によれば、回転同期段階に相当する期間内で定められた所定の一定化タイミングにおいて、スロットル開度Thrが確実に一定化される。このため、例えばエンジン要求出力Pne又はエンジン要求トルクTenを一時的に一定化することによって内燃機関のトルクの一定化を図る場合と異なり、係合段階におけるエンジントルクTeの変動を確実に抑制することができる。また、この一定化タイミングは、スロットル開度Thrの変化がエンジントルクTeの変化となって現れるのに要する時間遅延を考慮して定められるため、一方で、係合段階に相当する期間において的確にエンジントルクTeを一定化させつつ、他方で、燃焼状態を悪化させない範囲でスロットル開度Thrを漸増させることにより動力性能を可及的に担保するといった、実践上有益な効果が付帯される。
【0102】
即ち、本実施形態に係るMG1ロック制御によれば、ロック過程においてエンジン要求トルクTneが変化したとしても、エンジン200の燃焼状態の悪化を招くことなく、クラッチ板710とクラッチ板720との位相関係が崩れることによる騒音(ドグ歯同士の接触音等)の発生が好適に防止される。また、このような騒音の原因となる物理的接触は、場合によりロック機構700の耐久性も減じ得る。従って、本実施形態によれば、ロック機構700の耐久性も好適に維持される。
<2:第2実施形態>
上記第1実施形態においては、ハイブリッド駆動装置10が固定変速モードを採るに際して、MG1がロックされる(正確には、サンギアS1及びクラッチ板710を介してMG1がロックされる)構成を採る。然るに、固定変速モードを得るに際してのハイブリッド駆動装置の構成は、この種のMG1ロックに限定されない。ここで、図7を参照し、他のハイブリッド駆動装置の構成について説明する。ここに、図7は、本発明の第2実施形態に係るハイブリッド駆動装置20の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、図2と重複する箇所には同一の符合を付してその説明を適宜省略することとする。
【0103】
図7において、ハイブリッド駆動装置20は、動力分割機構300に代えて、本発明に係る「動力伝達機構」の他の一例として動力分割機構800を備える点において、ハイブリッド駆動装置10と相違する構成となっている。動力分割機構800は、複数の回転要素により構成される差動機構として、シングルピニオンギア型の第1遊星歯車機構810及びダブルピニオン型の第2遊星歯車機構820を備えた、所謂ラビニヨ型遊星歯車機構の形態を採る。
【0104】
第1遊星歯車機構810は、サンギア811、キャリア812及びリングギア813並びに軸線方向に自転し且つキャリア812の自転により公転するようにキャリア812に保持された、サンギア811及びリングギア813に噛合するピニオンギア814を備え、サンギア811にモータジェネレータMG1のロータが、キャリア812に入力軸400が、またリングギア813に駆動軸500が夫々連結された構成となっている。
【0105】
第2遊星歯車機構820は、サンギア821、キャリア822及びリングギア823並びに軸線方向に自転し且つキャリア822の自転により公転するように夫々キャリア822に保持された、サンギア821に噛合するピニオンギア825及びリングギア823に噛合するピニオンギア824を備え、サンギア821にブレーキ機構700のカム710(不図示)が連結された構成となっている。即ち、本実施形態においては、サンギア821が、本発明に係る「第1回転要素」の他の一例として機能する。
【0106】
このように、動力分割機構800は、全体として第1遊星歯車機構810のサンギア811、第2遊星歯車機構820のサンギア821(第1回転要素)、相互に連結された第1遊星歯車機構810のキャリア812及び第2遊星歯車機構820のリングギア823からなる第3回転要素群、並びに相互に連結された第1遊星歯車機構810のリングギア813及び第2遊星歯車機構820のキャリア822からなる第2回転要素群の、合計4個の回転要素(回転要素群)を備えている。
【0107】
ハイブリッド駆動装置20によれば、サンギア821がロック状態となり、その回転速度がゼロとなると、車速Vと一義的な回転速度を有する第2回転要素群と、このサンギア821とによって、残余の一回転要素たる第3回転要素群の回転速度が規定される。第3回転要素群を構成するキャリア812は、エンジン200(不図示)のクランクシャフト205に連結された入力軸400に連結されているため、結局エンジン200の機関回転速度Neは、車速Vと一義的な関係となって、固定変速モードが実現されるのである。このように、固定変速モードは、ハイブリッド駆動装置10以外の構成においても実現可能であり、それに合わせて、ブレーキ機構700のクラッチ板710が固定される第1回転要素も適宜変更されてよい。尚、動力分割機構800を構成する各回転要素のうち、相互に連結されたもの同士以外の回転要素には差動作用が生じるため、第1回転要素たるサンギア821の回転速度は、第1実施形態と同様にモータジェネレータMG1により制御可能である。
【0108】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うハイブリッド車両の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、回転同期式の係合装置を備えたハイブリッド車両に利用可能である。
【符号の説明】
【0110】
1…ハイブリッド車両、10…ハイブリッド駆動装置、20…ハイブリッド駆動装置(第2実施形態)、30…ハイブリッド駆動装置(第3実施形態)、100…ECU、200…エンジン、205…クランクシャフト、300…動力分割機構、310…サンギア軸、S1…サンギア、C1…キャリア、R1…リングギア、MG1…モータジェネレータ、MG2…モータジェネレータ、400…入力軸、500…駆動軸、600…減速機構、700…ロック機構、710…第1係合要素、720…第2係合要素、800…動力分割機構(第2実施形態)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気量を調整可能な吸気絞り弁を有する内燃機関及び回転電機を含む動力要素と、
前記回転電機により回転速度が調整可能な第1回転要素、車軸に繋がる駆動軸に連結される第2回転要素及び前記内燃機関に連結される第3回転要素を含む相互に差動回転可能な複数の回転要素を備え、該複数の回転要素の状態に応じて定まる動力伝達モードに従って前記動力要素と前記駆動軸との間の動力伝達を行う動力伝達機構と、
前記第1回転要素に固定された第1係合要素と第2係合要素とを有し、前記動力伝達モードとして前記内燃機関の回転速度と前記駆動軸の回転速度との比たる変速比が固定される固定変速モードに対応する、前記第1係合要素と前記第2係合要素とが係合してなるロック状態と、前記動力伝達モードとして前記変速比が連続的に可変な無段変速モードに対応する、前記第1係合要素と前記第2係合要素とが係合しない非ロック状態との間で状態を切り替え可能に構成されると共に、前記非ロック状態から前記ロック状態へと前記状態を切り替える過程としてのロック過程が、前記第1係合要素と前記第2係合要素とを回転同期状態に維持する回転同期段階と、前記回転同期状態において前記第1係合要素と前記第2係合要素とを係合させる係合段階とを含むロック手段と
を備えたハイブリッド車両の制御装置であって、
前記内燃機関の要求トルクを特定する特定手段と、
前記ロック過程において前記特定された要求トルクが変化する場合に、前記係合段階における前記内燃機関のトルクを一定化する一定化手段と
を具備することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記ハイブリッド車両は、前記動力要素として、前記駆動軸との間で動力の入出力が可能な前記回転電機と異なる他の回転電機を更に具備する
ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記一定化手段は、前記回転同期段階において前記吸気絞り弁の開度を一定化することにより前記係合段階における前記内燃機関のトルクを一定化する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
吸気量を調整可能な吸気絞り弁を有する内燃機関及び回転電機を含む動力要素と、
前記回転電機により回転速度が調整可能な第1回転要素、車軸に繋がる駆動軸に連結される第2回転要素及び前記内燃機関に連結される第3回転要素を含む相互に差動回転可能な複数の回転要素を備え、該複数の回転要素の状態に応じて定まる動力伝達モードに従って前記動力要素と前記駆動軸との間の動力伝達を行う動力伝達機構と、
前記第1回転要素に固定された第1係合要素と第2係合要素とを有し、前記動力伝達モードとして前記内燃機関の回転速度と前記駆動軸の回転速度との比たる変速比が固定される固定変速モードに対応する、前記第1係合要素と前記第2係合要素とが係合してなるロック状態と、前記動力伝達モードとして前記変速比が連続的に可変な無段変速モードに対応する、前記第1係合要素と前記第2係合要素とが係合しない非ロック状態との間で状態を切り替え可能に構成されると共に、前記非ロック状態から前記ロック状態へと前記状態を切り替える過程としてのロック過程が、前記第1係合要素と前記第2係合要素とを回転同期状態に維持する回転同期段階と、前記回転同期状態において前記第1係合要素と前記第2係合要素とを係合させる係合段階とを含むロック手段と
を備えたハイブリッド車両の制御装置であって、
前記内燃機関の要求トルクを特定する特定手段と、
前記ロック過程において前記特定された要求トルクが変化する場合に、前記回転同期段階において前記吸気絞り弁の開度を所定時間一定化した後に前記回転同期段階を前記係合段階へ移行させる一定化手段と
を具備することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−254227(P2010−254227A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109344(P2009−109344)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】