説明

ハイブリッド車両の駆動装置

【課題】内燃機関と第1、第2回転電機を備えると共に、エネルギ効率を上げて燃費と機械伝達効率を向上させるハイブリッド車両の駆動装置を提供する。
【解決手段】内燃機関からの駆動力が入力される入力軸14と出力部材16の間に配置される3個の遊星歯車機構と、2個の回転電機と、3個の遊星歯車機構の第1要素Ra,Sb,Rcを第2回転電機に連結する第1連結部材22と、第1遊星歯車機構の第2要素Saを第1回転電機とクラッチを介して入力軸に連結する第2連結部材24と、第2遊星歯車機構の第2要素Rbをクラッチを介して入力軸に連結する第3連結部材26と、第3遊星歯車機構の第2要素Ccを入力軸に連結する第4連結部材30と、第1、第2遊星歯車機構の第3要素Ca,Cbを出力部材に連結する第5連結部材32と、第3遊星歯車機構の第3要素Scなどを固定自在なブレーキなどを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はハイブリッド車両の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両の駆動装置としては特許文献1記載の技術が知られている。その技術は内燃機関と第1、第2回転電機を備え、第1回転電機あるいは第1回転電機と内燃機関を車両の動力源として用いると共に、第2回転電機を内燃機関で駆動して発電させるように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3099721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の技術にあっては、走行するとき常に第2回転電機による発電と電動機駆動が必要となり、エネルギがいつも電気系統を通過することに伴う効率悪化が避けられなかった。特に内燃機関のみで走行した方がエネルギ効率の良い高速走行領域などにおいて燃費の悪化を招いていた。
【0005】
さらに、高車速域をカバーするようなオーバードライブ領域においては遊星歯車機構のサンギヤの回転が逆転することとなり、サンギヤとリングギヤの差回転が過大となることに起因してピニオンギヤが高回転で自転するため、エネルギ損失が増大して機械伝達効率が悪化していた。
【0006】
従って、この発明の目的は上記した不都合を解消し、内燃機関と第1、第2回転電機を備えたハイブリッド車両の駆動装置においてエネルギ効率を上げて燃費の向上を図ると共に、機械伝達効率も向上させるようにしたハイブリッド車両の駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、請求項1に係るハイブリッド車両の駆動装置にあっては、内燃機関(12)と、前記内燃機関に接続されて前記内燃機関からの駆動力が入力される入力軸(14)と、駆動輪に接続される出力部材(16)と、前記入力軸と出力部材の間に配置されると共に、サンギヤ(S)とキャリア(C)とリングギヤ(R)からなる3つの要素をそれぞれ有する第1、第2、第3遊星歯車機構(20a,20b,20c)と、第1、第2回転電機(M1,M2)と、前記第1、第2、第3遊星歯車機構の3つの要素のうちの第1要素(Ra,Sb,Rc)を前記第2回転電機(M2)のロータに連結する第1連結部材(22)と、前記第1遊星歯車機構(20a)の3つの要素のうちの第2要素(Sa)を前記第1回転電機(M1)のロータに連結すると共に、第1クラッチ(C1)を介して前記入力軸(14)に連結する第2連結部材(24)と、前記第2遊星歯車機構(20b)の3つの要素のうちの第2要素(Rb)を第2クラッチ(C2)を介して前記入力軸(14)に連結する第3連結部材(26)と、前記第3遊星歯車機構(20c)の3つの要素のうちの第2要素(Cc)を前記入力軸(14)に連結する第4連結部材(30)と、前記第1遊星歯車機構(20a)の3つの要素のうちの第3要素(Ca)と前記第2遊星歯車機構(20b)の3つの要素のうちの第3要素(Cb)を前記出力部材(16)に連結する第5連結部材(32)と、前記第3遊星歯車機構(20c)の3つの要素のうちの第3要素(Sc)を装置ハウジングに固定自在な第1固定手段(B1)と、前記第1連結部材を前記装置ハウジングに固定自在な第2固定手段(D1)とを備える如く構成した。
【0008】
請求項2に係るハイブリッド車両の駆動装置にあっては、前記第2連結部材(24)と前記第3連結部材(26)は前記第1クラッチ(C1)と前記第2クラッチ(C2)を介して並列に連結されると共に、第3クラッチ(C0)を介して前記入力軸(14)に連結される如く構成した。
【0009】
請求項3に係るハイブリッド車両の駆動装置にあっては、前記第2固定手段(D1)は、軸方向に移動自在な1個のスリーブドグクラッチ部と、前記スリーブドグクラッチ部の左右に噛合自在に配置される2個のドグクラッチ部からなる機械式クラッチから構成されるように構成した。
【0010】
請求項4に係るハイブリッド車両の駆動装置にあっては、前記第1、第2、第3遊星歯車機構(20a,20b,20c)がシングルピニオン式遊星歯車機構からなる如く構成した。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係るハイブリッド車両の駆動装置にあっては、内燃機関(12)からの駆動力が入力される入力軸(14)と駆動輪に接続される出力部材(16)の間に配置されると共に、サンギヤ(S)とキャリア(C)とリングギヤ(R)からなる3つの要素をそれぞれ有する第1、第2、第3遊星歯車機構(20a,20b,20c)と、第1、第2回転電機(M1,M2)とを備え、第1、第2、第3遊星歯車機構の第1要素(Ra,Sb,Rc)を第2回転電機(M2)のロータに連結する第1連結部材(22)と、第1遊星歯車機構(20a)の第2要素(Sa)を第1回転電機(M1)のロータに連結すると共に、第1クラッチ(C1)を介して入力軸(14)に連結する第2連結部材(24)と、第2遊星歯車機構(20b)の第2要素(Rb)を第2クラッチ(C2)を介して入力軸(14)に連結する第3連結部材(26)と、第3遊星歯車機構(20c)の第2要素(Cc)を入力軸(14)に連結する第4連結部材(30)と、第1遊星歯車機構(20a)の3つの要素のうちの第3要素(Ca)と第2遊星歯車機構(20b)の3つの要素のうちの第3要素(Cb)を出力部材(16)に連結する第5連結部材(32)と、第3遊星歯車機構(20c)の第3要素(Sc)と第1連結部材を(それぞれ)装置ハウジングに固定自在な第1固定手段(B1)と第2固定手段(D1)とを備える如く構成したので、換言すれば、発電機と電動機(第1、第2回転電機M1,M2)と変速機としての機能を統合し、内燃機関のみによる有段変速走行と、電動機のみによる無段変速走行と、内燃機関と電動機による無段変速走行と有段変速走行とのうちのいずれも可能となるように構成したので、走行状態に応じてそれらのいずれかのうちの最適な駆動力や運転を選択することで、エネルギ効率を上げて燃費の向上を図ることができる。
【0012】
また、内燃機関あるいは電動機による有段自動変速機としてだけでなく、電気式無段変速機としても機能できるため、変速ショックの少ない滑らかな走行を実現することができる。
【0013】
また、有段変速走行中に変速を行う際、第1、第2回転電機に対して駆動側か回生側にトルクを印加することによって変速ショックを抑制したり、変速時間を変更したりすることも可能となり、穏やかで滑らかな変速からキビキビしたスピーディな変速までの間の任意の変速を実現することも可能となる。
【0014】
さらに、各変速段のいずれにおいてもトルクが流れて作動する遊星歯車機構における各要素の回転数が常に正回転(前進段)か逆回転(後進段)となるように統一することが可能となるように構成したので、高車速域のようなオーバードライブ領域においても電動機の回転を逆転させることがなく、即ち、遊星歯車機構においてサンギヤとリングギヤの差回転が必要以上に過大となってピニオンギヤの自転回転数が過度になるようなことがなく、よってエネルギ損失を抑制して機械伝達効率も向上させることができる。また、それによって遊星歯車機構におけるピニオンギヤのベアリングの耐久性も向上させることができる。
【0015】
さらに、第1、第2回転電機を例えば第1、第2クラッチや3個の遊星歯車機構の径方向外側に配置するように構成すれば、装置としてコンパクトにでき、特にFF車への搭載が好適となる。
【0016】
さらに、走行中の3個の遊星歯車機構の作動を例えば最大で2個までとするように構成すれば、遊星歯車機構内のギヤの噛合いによる損失を減少させることができ、走行中の機械伝達効率を一層向上させることが可能となる。
【0017】
請求項2に係るハイブリッド車両の駆動装置にあっては、第2連結部材(24)と第3連結部材(26)は(それぞれ)第1クラッチ(C1)と第2クラッチ(C2)を介して並列に連結されると共に、第3クラッチ(C0)を介して入力軸(14)に連結される如く構成したので、請求項1で規定される構成に比してさらに変速段、例えば最高変速段を1段追加することができる。また、その変速段で3個の遊星歯車機構の作動を1個に抑制するように構成することも可能となり、それによってクルーズ走行時などの高車速領域において燃費をより向上させることも可能となる。
【0018】
請求項3に係るハイブリッド車両の駆動装置にあっては、第2固定手段(D1)は、軸方向に移動自在な1個のスリーブドグクラッチ部とその左右に噛合自在に配置される2個のドグクラッチ部からなる機械式クラッチから構成されるようにしたので、湿式多板ブレーキのような摩擦係合要素を解放する構成とする場合に比し、解放したときのフリクションロスを低減することができ、上記した効果に加え、効率を一層向上させることができる。
【0019】
請求項4に係るハイブリッド車両の駆動装置にあっては、第1、第2、第3遊星歯車機構(20a,20b,20c)がシングルピニオン式遊星歯車機構からなる如く構成したので、上記した効果に加え、ダブルピニオン式で構成した場合に比し、ギヤの噛合い回数を減少でき、機械伝達効率を一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の実施例に係るハイブリッド車両の駆動装置を全体的に示す模式図である。
【図2】図1に示すハイブリッド車両の駆動装置のドグクラッチD1などの構造を模式的に示す説明図である。
【図3】図1に示すハイブリッド車両の駆動装置の、電子制御ユニット(MOTECU)の制御による、動作を全体的に示す速度線図である。
【図4】図3に示す動作を走行状態に分けて一覧的に示す説明図である。
【図5】バッテリ残容量が十分な場合のLo−EV(低速前進電動機走行)/Rvs−EV(後進電動機走行)を示す速度線図である。
【図6】バッテリ残容量が十分な場合のEng Start2(2速域からの内燃機関の始動)を示す速度線図である。
【図7】バッテリ残容量が十分な場合のMid−EVT2(中速域(2速域から4速域)走行時の電気式CVT走行)を示す速度線図である。
【図8】バッテリ残容量が十分な場合のMid−EVT1(中速域(1速域から5速域)走行時の電気式CVT走行)を示す速度線図である。
【図9】バッテリ残容量が十分な場合の4th(内燃機関による4速での有段変速走行)を示す速度線図である。
【図10】バッテリ残容量が十分な場合のHi−EVT(高速域(4速域から6速域)走行時の電気式CVT走行)を示す速度線図である。
【図11】バッテリ残容量が十分な場合の6th(内燃機関による6速での有段変速走行)を示す速度線図である。
【図12】バッテリ充電可能容量に余裕がある場合のRunning−Charge(走行中(減速時ではない)の発電)を示す速度線図である。
【図13】図1に示すハイブリッド車両の駆動装置の内燃機関の回転数と出力トルクに対する燃料消費率の特性を示す説明図である。
【図14】バッテリ充電可能容量に余裕がある場合のFull Regeneration(減速時の回生(発電))を示す速度線図である。
【図15】バッテリ残容量が不十分な場合のEng Start0(停車中の内燃機関の始動)を示す速度線図である。
【図16】バッテリ残容量が不十分な場合のEng Start0に続くLaunch(停車中の内燃機関始動後の内燃機関による車両の発進)を示す速度線図である。
【図17】バッテリ残容量が不十分な場合のLow(内燃機関による1速での有段変速走行)を示す速度線図である。
【図18】バッテリ残容量が不十分な場合の2ndから6th(内燃機関による2速から6速での有段変速走行)を示す速度線図である。
【図19】バッテリ残容量が不十分な場合のCharge under stop(停車中の発電)を示す速度線図である。
【図20】バッテリ残容量が不十分な場合のRvs−EV(後進電動機走行)を示す速度線図である。
【図21】図5から図20以外の動作を示す速度線図である。
【図22】同様に図5から図21以外の動作を示す速度線図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面に即してこの発明に係るハイブリッド車両の駆動装置を実施するための形態を説明する。
【実施例】
【0022】
図1はこの発明の実施例に係るハイブリッド車両の駆動装置を全体的に示す模式図である。
【0023】
以下説明すると、符号10はハイブリッド車両の駆動装置を示し、駆動装置10は、内燃機関12と、内燃機関12に接続されて内燃機関12からの駆動力が入力される入力軸14と、駆動輪(図示せず)に接続される出力部材16と、入力軸14と出力部材16の間に配置されると共に、サンギヤSとキャリアCとリングギヤRからなる3つの要素をそれぞれ有する第1、第2、第3遊星歯車機構20a,20b,20c(「i,j,k」とも示す)と、第1、第2回転電機M1,M2と、第1、第2、第3遊星歯車機構20のそれぞれ3つの要素のうちの第1要素Ra,Sb,Rcを第2回転電機M2のロータR2に連結する第1連結部材22と、第1遊星歯車機構20aの3つの要素のうちの第2要素Saを第1回転電機M1のロータR1に連結すると共に、第1クラッチC1を介して入力軸14に連結する第2連結部材24と、第2遊星歯車機構20bの3つの要素のうちの第2要素Rbを第2クラッチC2を介して入力軸14に連結する第3連結部材26と、第3遊星歯車機構20cの3つの要素のうちの第2要素Ccを入力軸14に連結する第4連結部材30と、第1遊星歯車機構20aの3つの要素のうちの第3要素Caと第2遊星歯車機構20bの3つの要素のうちの第3要素Cbを出力部材16に連結する第5連結部材32と、第3遊星歯車機構20cの3つの要素のうちの第3要素Scを装置ハウジング10aに固定自在なブレーキ(第1固定手段)B1と、第1連結部材22を装置ハウジング10aに固定自在なドグクラッチ(第2固定手段)D1とを備え、ハイブリッド車両(図示せず。以下「車両」という)に搭載される。
【0024】
内燃機関(以下「エンジン」といい、図にEと示す)12はガソリンを燃料とする火花点火式のガソリンエンジン(あるいは軽油を燃料とする圧縮着火式のディーゼルエンジン)からなり、燃料と空気の混合気を点火(着火)されるとき、燃焼してピストン(図示せず)を駆動する。
【0025】
ピストンの駆動はクランク軸(図示せず)の回転に変換され、クランク軸に接続される出力軸12aから出力されるエンジン12の出力はダンパ(フライホイール、トルクコンバータなど)12bを介して入力軸14から入力される。
【0026】
第1、第2、第3遊星歯車機構20a,20b,20cはそれぞれ、サンギヤSa,Sb,Scと、キャリアCa,Cb,Ccと、リングギヤRa,Rb,Rcからなるそれぞれ3つの要素S,C,Rを有する。キャリアCa,Cb,Ccはシングルピニオン式からなる。
【0027】
尚、第1、第2、第3遊星歯車機構20はそれぞれサンギヤSとキャリアCとリングギヤRからなる3つの要素を有するが、この明細書において第1要素、第2要素、第3要素は必ずしもサンギヤS、キャリアC、リングギヤRを示すものではない。上記した「3つの要素のうちの第・・・要素」はそのことを意味する。
【0028】
第1、第2回転電機M1,M2は共にブラシレス交流同期電動機からなり、装置ハウジング10aに固定されたステータS1,S2と、ステータS1,S2に対して相対回転自在に配置されるロータR1,R2を備える。
【0029】
第1、第2回転電機M1,M2は通電されて回転するときは電動機(モータ)として機能すると共に、エンジン12(あるいは駆動輪)によって駆動されて回転するときは発電機(ジェネレータ)として機能する。
【0030】
このように、この明細書において「回転電機」は電動機(モータ)と発電機(ジェネレータ)の機能を共に有する機器を意味する。例えば、第1回転電機M1によって発電された電気エネルギはPDU(パワードライブユニット)36を介してバッテリ(BAT。エネルギ貯留手段)40に蓄えられると共に、第2回転電機M2にエネルギとして供給される。同様に第2回転電機M2によって発電された電気エネルギもバッテリ40あるいは第1回転電機M1に供給される。
【0031】
図示の如く、第2連結部材24と第3連結部材26は第1クラッチC1と第2クラッチC2を介して並列に連結されると共に、連結点の上流(エンジン12側)に配置された第3クラッチC0を介して入力軸14に連結される。
【0032】
より具体的には、入力軸14は第3クラッチC0を介してクラッチガイド(中間部材)Cgに連結され、クラッチガイドCgは第1クラッチC1を介して第2連結部材24に連結されると共に、第2クラッチC2を介して第3連結部材26に連結される。
【0033】
このように入力軸14は一方では第3遊星歯車機構20cのキャリアCcに連結されると共に、他方では第3クラッチC0に連結され、それから並列に連結された第1、第2クラッチC1,C2に連結されるように構成される。
【0034】
第1、第2、第3クラッチC1,C2,C0とブレーキ(第1固定手段)B1は、全て、複数枚のクラッチディスクとクラッチプレートが相互に微小な間隙を有しつつ対向配置された油圧式(湿式)の多板クラッチからなる。
【0035】
第1クラッチC1あるいは第2クラッチC2は油圧を供給されてオン(係合)されると、第1連結部材22あるいは第2連結部材24をクラッチガイドCgを介して入力軸14に接続(連結)する一方、油圧を排出されてオフ(解放)されると、クラッチガイドCgを介しての第1連結部材22あるいは第2連結部材24と入力軸14との接続(連結)を遮断する。
【0036】
第3クラッチC0も油圧を供給されてオン(係合)されると、第1連結部材22(より正確には第1クラッチC1とクラッチガイドCgを介して)と第2連結部材24(より正確には第2クラッチC2とクラッチガイドCgを介して)を入力軸14に接続(連結)する一方、油圧を排出されてオフ(解放)されると、それらの接続(連結)を遮断する。
【0037】
ブレーキ(第2固定手段)B1も油圧を供給されると、第3遊星歯車機構20cのキャリアScを装置ハウジング10aに固定する一方、油圧を排出されてオフ(解放)されると、キャリアScと装置ハウジング10aとの固定を解除する。
【0038】
図2に示す如く、ドグクラッチ(第2固定手段)D1は、軸方向に移動自在な1個のスリーブドグクラッチ部Sと、そのスリーブドグクラッチ部Sの左右に噛合自在に配置される2個のドグクラッチ部D1a(装置ハウジング10aの一部に相当)とD1b(第1連結部材22の一部に相当)からなる機械式のクラッチから構成される。スリーブドグクラッチ部Sはドグクラッチ部D1aまたはD1bの一方(図示例ではD1b)と常に噛合させられる。
【0039】
スリーブドグクラッチ部Sは、油圧シリンダC内に摺動自在に配置された油圧ピストンPに連結され、油圧を供給されて油圧ピストンPが移動すると、図2において左右いずれかに移動する。
【0040】
スリーブドグクラッチ部Sは例えば1点鎖線で示すように左側に移動すると、ドグクラッチ部D1aと噛合して第1連結部材22を装置ハウジング10aに固定する一方、実線で示すように右側に移動すると、第1連結部材22と装置ハウジング10aの固定を解除する。
【0041】
図1の説明に戻ると、図示の如く、第1、第2回転電機M1,M2は、第1、第2、第3クラッチC1,C2,C0と第1、第2、第3遊星歯車機構20a,20b,20cの径方向外側に配置される。
【0042】
図示は省略するが、車両のドライブシャフトの付近には車速センサが配置されて車速を示す信号を出力すると共に、第1、第2回転電機M1,M2にはレゾルバからなる回転数センサが装備され、それらの回転数を通じて第2、第1連結部材24,22の回転数を示す信号を出力する。
【0043】
それらセンサの出力は第1、第2回転電機M1,M2などの動作を制御する電子制御ユニット(ECU(Electronic Control Unit)。以下「MOTECU」という)42に送られる。MOTECU42は、マイクロコンピュータを備える。
【0044】
MOTECU42は、同様にマイクロコンピュータを備える他の電子制御ユニット(ECU)、即ち、エンジン12の動作を制御するECU(以下「ENGECU」という)44と、バッテリ40の動作を制御するECU(以下「BATECU」という)46と、第1から第3クラッチC1,C2,C0とブレーキB1とドグクラッチD1の動作を制御するECU(以下「TMECU」という)48にバス50を介して接続され、相互に通信自在に構成される。
【0045】
バッテリ40には電圧・電流センサが配置されてバッテリ40に貯留された電力のSOC(State of Charge。残容量)を示す信号を出力する。BATECU46はその電圧・電流センサの出力などに基づいてバッテリ40への充放電の動作を制御する。
【0046】
MOTECU42は上記した車速センサと回転数センサの出力に加え、バス50を介してENGECU44と通信し、ENGECU44で検出されたエンジン12の回転数などの情報を取得すると共に、エンジン12の始動・停止を指令する。
【0047】
また、MOTECU42はバス50を介してBATECU46と通信し、そこで検出されたバッテリ40の残容量SOCなどの情報を取得すると共に、充電(発電)の要否を判断する。
【0048】
さらに、MOTECU42は、車両の走行状態に応じて第1、第2回転電機M1,M2と、第1、第2、第3遊星歯車機構20と、PDU36の動作を制御すると共に、TMECU48と通信して第1から第3クラッチC1,C2,C0とブレーキB1とドグクラッチD1の動作、即ち、油圧の給排による係合・解放を制御する。
【0049】
図3は駆動装置10の、MOTECU42の制御による、動作を全体的に示す速度線図、図4はその駆動装置10の動作を走行状態に分けて一覧的に示す説明図である。
【0050】
尚、図3の速度線図において縦軸は遊星歯車機構20の3つの要素、即ち、サンギヤS、キャリアC、リングギヤRに対応し、紙面の上方への長さが車両前進方向の回転数、下方への長さがRvs(後進走行)方向の回転数を示す。また、SC間の距離はサンギヤSの歯数の逆数、CR間の距離はリングギヤRの歯数の逆数に比例する。後で触れる図5以降の速度線図でも同様である。
【0051】
図4に示す如く、駆動装置10はエンジン12のみによる有段変速走行と、第1、第2回転電機M1,M2のみによる無段変速走行と、エンジン12と第1、第2回転電機M1,M2による無段変速(電気式CVT)走行と、第1回転電機M1による後進(Rvs)走行のうちのいずれも可能となるように構成される。前進段は6速からなる有段変速走行が可能となるように構成される。
【0052】
尚、図4で「Op」は第1から第3クラッチC1,C2,C0とブレーキB1とからなる湿式摩擦係合要素の油圧が排出(オフ)されている個数、「PLA作動数」は3個の遊星歯車機構20内の動作させられてトルクを伝達している個数を示す。
【0053】
黒丸はエンジン12と第1、第2回転電機M1,M2が動作、白丸は第1から第3クラッチC1,C2,C0とブレーキB1とドグクラッチD1とが動作(係合)していることを示す。また、3個の遊星歯車機構20(i,j,k)の入出力間のギヤ比(入力回転数と出力回転数との比)は図示の通りである。
【0054】
図5から図14は、バッテリ40の残容量SOCが十分な場合のMOTECU42の制御による、図4に一覧的に記載する動作を発進から順を追って示す、図3と同様の速度線図である。
【0055】
尚、図5以降においてE(エンジン12)あるいはM1,M2(第1、第2回転電機)が黒地に白抜きで示されるときは(例えば図5でM1、図6でE,M1)駆動されていることを、白地に黒く示されるときは(例えば図5でE,M2)駆動されていないことを意味する。また、M1,M2がハッチングされるときは(例えば図12、図14)は発電していることを意味する。
【0056】
また、図5以降において第1から第3クラッチC1,C2,C0とクラッチD1とブレーキB1がハッチングされるときは(例えば図5でC0とD1、図9でB1)係合していること、然らざる場合は係合していない(解放されている)ことを意味する。
【0057】
また、図3などにおいて左側の一点鎖線と右側の破線は停車中でエンジン12が作動中に、エンジン12からトルクは供給されていないが、連れ回されている状況の回転数を示す。
【0058】
以下説明すると、図5はLo−EV(低速前進電動機走行)/Rvs−EV(後進電動機走行)を示す速度線図である。同図において各部に作用するトルクはLow(1速)の場合を示す(Rvs(後進)のときは逆向きとなる)。
【0059】
バッテリ40の残容量SOCが十分な場合、MOTECU42はTMECU48に指示してドグクラッチD1を係合させると共に、第1回転電機M1を駆動して発進する。第1回転電機M1の回転は第2連結部材24を介して第1遊星歯車機構20aのサンギヤSaに入力される。
【0060】
そのリングギヤRaは第1連結部材22を介して第2遊星歯車機構20bのサンギヤSbに連結されると共に、ドグクラッチD1を係合することで第1連結部材22は装置ハウジング10aに固定されることから、第1遊星歯車機構20aで減速されたキャリアCaの出力が第5連結部材32と出力部材16を介して駆動輪に伝達されて車両を発進させる。
【0061】
MOTECU42はLo−EV(低速前進電動機走行)が意図されるとき、第1回転電機M1を前進走行方向に相当する正転方向に駆動して回転数0から2nd(2速)あるいはLow(1速)の間の領域(ハッチングで示す)に制御する一方、Rvs−EV(後進電動機走行)が意図されるとき、第1回転電機M1を逆転方向に駆動して回転数0から下方の領域(ハッチングで示す)に制御する。
【0062】
Lo−EV(低速前進電動機走行)が選択された場合、MOTECU42は次いでTMECU48に指示して第3クラッチC0を係合させ、エンジン12の始動に備える。
【0063】
図6はEng Start2(2速域からのエンジン12の始動)を示す速度線図である。
【0064】
図6に示す状況において2速相当の車速に達したとき、バッテリ40の残容量SOCや車両の燃費効率の観点からエンジン12を始動した方が良いと判断した場合、MOTECU42はTMECU48に指示し、第3クラッチC0に加え、第2クラッチC2を係合させる。
【0065】
その結果、第1回転電機M1から第2連結部材24と第1遊星歯車機構20aを介して第2遊星歯車機構20bのキャリアCbへ入力された駆動トルクは増速されて第2遊星歯車機構20bのリングギヤRbへと伝達され、その出力トルクは第3連結部材26と第2クラッチC2と第3クラッチC0を介してエンジン12に入力され、エンジン12を駆動して始動する。
【0066】
図7はMid−EVT2(中速域(2速域から4速域)走行時の電気式CVT走行)を示す速度線図である。尚、「電気式CVT」は図1の構成による無段変速制御を意味する。
【0067】
MOTECU42は、図示の如く、第1回転電機M1へのトルク印加を停止する一方、TMECU48に指示してドグクラッチD1を解放させて第2回転電機M2を駆動し、走行状態に応じて第2回転電機M2の回転数を増減させることで、図示のように、2速域(2nd)から4速域(4th)の間の中速域(ハッチングで示す)のうちの任意の最適な値にレシオ(変速比)を制御するMid−EVT2に移行する。
【0068】
図8はMid−EVT1(中速域(1速域から5速域)走行時の電気式CVT走行)を示す速度線図である。
【0069】
図5などに示す状況において、図6で説明した場合と同様、1速(Low)相当の車速に達した段階でエンジン12を始動(図示しないEng Start1(1速からのエンジン12の始動))した後に1速で走行している場合、バッテリ40の残容量SOCが十分でエンジン12の出力と第2回転電機M2の出力を合成して走行した方が良いと判断するとき、MOTECU42はTMECU48に指示してドグクラッチD1を解放させる一方、走行状態に応じて第2回転電機M2の回転数を増減させ、図示のように、1速域(Low)から5速域(5th)の間の中速域(ハッチングで示す)のうちの任意の最適な値にレシオ(変速比)を制御するMid−EVT1に移行する。
【0070】
図9は4th(エンジン12による4速での有段変速走行)を示す速度線図である。
【0071】
図7に示すように、4速(4th)相当の車速に達してバッテリ40の残容量SOCや燃費効率の点でエンジン12のみで走行した方が良いと判断するとき、MOTECU42は、第2回転電機M2へのトルク印加を停止させる一方、TMECU48に指示してブレーキB1を係合させつつ、エンジン12の出力を上げてエンジン12のみによる4速での駆動に移行する。
【0072】
その状況でブレーキB1が係合されると、第3遊星歯車機構20cのサンギヤScは装置ハウジング10aに固定される結果、第4連結部材30を介して第3遊星歯車機構20cのキャリアCcに入力されるエンジン回転数はリングギヤRcから増速されて出力される。
【0073】
その出力は第2遊星歯車機構20bを介して減速されて出力部材16から出力され、4速の変速比が確立される。図1に示す構成においてはいずれの変速段においてもエンジン12のみによる走行が可能であり、特に4速から6速に至る比較的高い車速領域においてはエンジン12のみによる走行の方が効率の良い場合が多いため、第1、第2回転電機M1,M2へのトルク印加を止めることでエネルギ損失を抑制でき、結果としてエネルギ効率を上げて燃費の向上を図ることができる。
【0074】
図10はHi−EVT(高速域(4速域から6速域)走行時の電気式CVT走行)を示す速度線図である。
【0075】
図9に示す状況においてMOTECU42は、電気式CVTに切り換えることもできる。即ち、MOTECU42はTMECU48に指示して第2クラッチC2を解放させる一方、第1回転電機M1を駆動させつつ、エンジン12の出力を低下させ、走行状態に応じて第1回転電機M1の回転数を増減することで、図示の如く、4速域から6速域の範囲(ハンチングで示す)においてレシオを任意の最適な値に制御するHi−EVTへと移行することができる。
【0076】
図11は6th(エンジン12による6速での有段変速走行)を示す速度線図である。
【0077】
図10に示すように、6速(6th)相当の車速に達した上でバッテリ40の残容量SOCや燃費効率の点でエンジン12のみで走行した方が良いと判断するとき、MOTECU42は、TMECU48に指示して第1クラッチC1を係合させつつ、第1回転電機M1へのトルク印加を停止させながら、エンジン12の出力を上げ、エンジン12のみによる6速での有段変速走行に移行する。
【0078】
図12はRunning−Charge(走行中(減速時ではない)の発電)を示す速度線図である。
【0079】
図12に示す例は例えば図9に示す有段4速走行での場合であるが、図1に示す構成においては1速から6速の全変速段でこの走行中の発電(充電)が可能である。
【0080】
この場合、MOTECU42は、運転者からアクセル開度を通じて要求された駆動力に対し、BATECU46からバッテリ残容量SOCに応じて要求される発電出力を、エンジン12を駆動しつつ、第1、第2回転電機M1,M2の発電出力を制御して所望の発電出力を得ることで、バッテリ40を充電することができる。
【0081】
即ち、図12において矢印a:エンジン12の出力トルクの一部、b:走行抵抗(駆動輪に作用する駆動力)、c:エンジン12の出力トルクの一部、d:第1回転電機M1の発電量、e:第2回転電機M2の発電量とするとき、図示の如く、a+c−b−d−e=0となることから、第1、第2回転電機M1,M2にd,e分だけ発電させることができる。
【0082】
また、第1、第2回転電機M1,M2での発電に必要な回生トルクを、第1、第2遊星歯車機構20a,20b内でトルクが釣り合うように制御することで、違和感のない走行中の発電(充電)が可能となる。
【0083】
図13は図1に示す装置10のエンジン12の回転数と出力トルクに対する燃料消費率の特性を示す説明図である。
【0084】
エンジン12の運転状態は同図に符号Aで示す領域で運転する際に最も燃料消費率が低くなって効率良く運転できる。以後は等高線に従って徐々に効率が悪化していくため、例えば同図に符号Bで示す点で走行中にバッテリ40の残容量SOCが低下していて充電が必要な場合などには、エンジントルクを同図に符号Cで示す点まで上昇させ、上昇した出力分を第1、第2回転電機M1,M2での発電に利用することによって効率良く発電することができる。
【0085】
図14はFull Regeneration(減速時の回生(発電))を示す速度線図である。
【0086】
この場合、MOTECU42はTMECU48に指示して第3クラッチC0を解放させ、エンジン12との接続を遮断しつつ、第1、第2回転電機M1,M2に発電させることで、車両の運転エネルギを全て電気エネルギとして回生発電することができる。
【0087】
尚、図14において矢印bが車両の運動エネルギに相当する慣性によるトルクを表わすとすると、第1、第2回転電機M1,M2においてはそれぞれd,e分だけ発電させることができる。
【0088】
その際、第1、第2回転電機M1,M2における回生トルクd,eを、第1、第2遊星歯車機構20a,20bでトルクが釣り合うように制御することで、遊星歯車機構20内でのトルクの釣り合いの崩れによる各要素の不要な回転上昇に起因する違和感の発生がなく、かつ第1、第2回転電機M1,M2において最も発電効率が高い領域をバランスさせて回生発電することができる。
【0089】
図15から図20は、バッテリ40の残容量SOCが不十分になった場合のMOTECU42の制御を示す、図5から図14と同様の速度線図である。
【0090】
以下説明すると、図15はEng Start0(停車中のエンジン12の始動)を示す速度線図である。
【0091】
この場合、MOTECU42はTMECU48に指示して第3クラッチC0と第1クラッチC1を係合させた後、第1回転電機M1を駆動することで、第1回転電機M1の出力は第2連結部材24と第1クラッチC1と第3クラッチC0を介してエンジン12に入力され、エンジン12を駆動して始動する。
【0092】
このとき、車両に意図しない駆動力が発生しないように、図示しない車両側の制御ユニットによって車両本体の減速用フットブレーキやパーキングブレーキが制動力を発揮する状態になるように制御することが望ましい。
【0093】
尚、図中の破線は、第3遊星歯車機構20c内において、駆動トルクを伝達しないが、エンジン12と第1回転電機M1によって各要素が連れ回されている状態を示す。
【0094】
図16はEng Start0に続くLaunch(停車中のエンジン始動後のエンジン12による車両の発進)を示す速度線図である。
【0095】
MOTECU42は、エンジン12を始動した後、TMECU48に指示してブレーキB1を係合させることで車両を発進させる。その際、ブレーキB1は完全には固定せず、滑らせるように制御し、第3遊星歯車機構20cのサンギヤScの正転回転数を漸減させると同時に、そのリングギヤRcの逆転回転数も漸減させる。それにより、車両の速度が徐々に上昇し、図示の如く、レシオは徐々に1速相当に近づいていく。
【0096】
図17はLow(エンジン12による1速での有段変速走行)を示す速度線図である。
【0097】
図16で説明した通り、ブレーキB1を滑り状態で制御することによって発進した後、車両が1速(Low)状態に近づくことで第1連結部材22の逆転回転数は漸減していき、1速相当となった時点で第1連結部材22の回転は停止する。その段階でMOTECU42はTMECU48に指示してドグクラッチD1を係合させた上でブレーキB1を解放させ、エンジン12による1速での有段変速走行に切り換える。
【0098】
図18は、2ndから6th(エンジン12による2速から6速での有段変速走行)を示す速度線図である。
【0099】
次いで、MOTECU42は、車速と要求された駆動力に応じて最適な変速段を選ぶべく、TMECU48に指示してドグクラッチD1を解放させると共に、第1から第3クラッチC1,C2,C0とブレーキB1の締結と解放を制御し、所望の変速段を選択しつつ、エンジン12の回転数を増減させ、エンジン12による2速から6速のうちの任意の速度段での有段変速走行に切り換える。
【0100】
尚、バッテリ40の残容量SOCが不十分な場合のRunning−Charge(走行中の発電)とFull Regeneration(減速時の回生)については図12と図14に示す制御と全く同様に実施可能である。
【0101】
図19は、Charge under stop(停車中の発電)を示す速度線図である。
【0102】
これは、バッテリ40の残容量SOCの低下が顕著でRvs−EVが不能となっている場合など、緊急に充電(発電)が必要な場合の処理である。
【0103】
この場合、MOTECU42はTMECU48に指示して第1クラッチC1と第3クラッチC0を係合させ、エンジン12の出力を入力軸14から第2連結部材24を介して第1回転電機M1に入力し、第1回転電機M1を駆動して充電(発電)させる。
【0104】
図20は、Rvs−EV(後進電動機走行)を示す速度線図である。これは、図5に示す、バッテリ40の残容量SOCが十分な場合の制御と異ならないので、説明を省略する。
【0105】
尚、図4の最右端に示す如く、上記した制御において3個の第1、第2、第3遊星歯車機構20a,20b,20cの走行中の作動は最大で2個までとするように構成したので、トルクが流れて作動する遊星歯車機構20の内部におけるギヤの噛合回数を減らしてギヤの噛合に起因する機械伝達効率の低下を抑制することができる。
【0106】
図21は、図7に示すMid−EVT2と同様の制御を示す速度線図である。図21の場合、第1回転電機M1で発電した出力でバッテリ40を介さずに直接第2回転電機M2を駆動し、第1回転電機M1で発電する出力分をエンジン12の出力に上乗せして出力し、エンジン12のトルクと第1、第2回転電機M1,M2のトルクと、駆動力とが遊星歯車機構20を介して釣り合うように運転するように構成した。
【0107】
この場合、MOTECU42は、発電側回転電機の発電出力と駆動側回転電機の駆動出力が等しくなるようにエンジン12の出力と各回転電機M1,M2の出力を制御することで、バッテリ40を経由する必要がないので、バッテリ40の残容量SOCの多寡に関わらず、電気式CVT走行することができる。また、バッテリ40への電気エネルギの出し入れの頻度が抑制できるので、バッテリ40の劣化を抑制することもできる。
【0108】
図22は図10に示すHi−EVTと同様の制御を示す速度線図である。図22の場合、第2回転電機M2で発電した出力で、バッテリ40を介さずに直接第1回転電機M1を駆動し、第2回転電機M2で発電する出力をエンジン12の出力に上乗せして出力し、エンジン12のトルクと第1、第2回転電機M1,M2のトルクと、駆動力とが遊星歯車機構20を介して釣り合うように運転する如く構成したので、図21に示す例と同様の効果を得ることができる。
【0109】
上記した如く、この実施例に係るハイブリッド車両の駆動装置10にあっては、エンジン(内燃機関)12と、前記エンジン(内燃機関)12に接続されて前記エンジン(内燃機関)12からの駆動力が入力される入力軸14と、駆動輪に接続される出力部材16と、前記入力軸14と出力部材16の間に配置されると共に、サンギヤSとキャリアCとリングギヤRからなる3つの要素をそれぞれ有する第1、第2、第3遊星歯車機構20a,20b,20cと、第1、第2回転電機M1,M2と、前記第1、第2、第3遊星歯車機構20の3つの要素のうちの第1要素Ra,Sb,Rcを前記第2回転電機M2のロータR2に連結する第1連結部材22と、前記第1遊星歯車機構20aの3つの要素のうちの第2要素Saを前記第1回転電機M1のロータR1に連結すると共に、第1クラッチC1を介して前記入力軸14に連結する第2連結部材24と、前記第2遊星歯車機構20bの3つの要素のうちの第2要素Rbを第2クラッチC2を介して前記入力軸14に連結する第3連結部材26と、前記第3遊星歯車機構20cの3つの要素のうちの第2要素Ccを前記入力軸14に連結する第4連結部材30と、前記第1遊星歯車機構20aの3つの要素のうちの第3要素Caと前記第2遊星歯車機構20bの3つの要素のうちの第3要素Cbを前記出力部材16に連結する第5連結部材32と、前記第3遊星歯車機構20cの3つの要素のうちの第3要素Scを装置ハウジング10aに固定自在なブレーキ(第1固定手段)B1と、前記第1連結部材22を前記装置ハウジング10aに固定自在なドグクラッチ(第2固定手段)D1とを備える如く構成したので、換言すれば、発電機と電動機(第1、第2回転電機M1,M2)と変速機としての機能を統合し、エンジン12のみによる有段変速走行と、電動機のみによる無段変速走行と、エンジン12と電動機による無段変速走行(電気式CVTによる走行)と有段変速走行とのうちのいずれも可能となるように構成したので、図4から図24に示す如く、走行状態に応じてそれらのいずれかのうちの最適な駆動力や運転を選択することで、エネルギ効率を上げて燃費の向上を図ることができる。
【0110】
また、図9、図11、図12などに示す如く、エンジン12あるいは電動機による有段自動変速機としてだけでなく、図7、図8、図10などに示すように電気式CVTとしても機能できるため、変速ショックの少ない滑らかな走行を実現することができる。
【0111】
また、図18などに示す如く、有段変速走行中に変速を行う際、第1、第2回転電機M1,M2に対して駆動側か回生側にトルクを印加することによって変速ショックを抑制したり、変速時間を変更したりすることも可能となり、穏やかで滑らかな変速からキビキビしたスピーディな変速までの間の任意の変速を実現することも可能となる。
【0112】
さらに、図3に示す如く、各変速段のいずれにおいても、トルクが流れて作動する遊星歯車機構20における各要素の回転数がいずれも常に正回転(前進段)か逆回転(後進段)に統一されるように構成したので、高車速域のようなオーバードライブ領域においても電動機(第1、第2回転電機M1,M2)の回転を逆転させることがなく、即ち、遊星歯車機構20においてサンギヤSとリングギヤRの差回転が必要以上に過大となってピニオンギヤの自転回転数が過度になるようなことがなく、よってエネルギ損失を抑制して機械伝達効率も向上させることができる。また、これによって遊星歯車機構20におけるピニオンギヤのベアリングの耐久性も向上させることができる。
【0113】
さらに、図1に示す如く、第1、第2回転電機M1,M2を第1、第2、第3クラッチC1,C2,C0と3個の遊星歯車機構20の径方向外側に配置するように構成したので、駆動装置10としてコンパクトにでき、特にFF車への搭載が好適となる。
【0114】
さらに、図4に示す如く、走行中の3個の遊星歯車機構20の作動を最大で2個までとするように構成したので、遊星歯車機構20内のギヤの噛合いによる損失を減少させることができ、走行中の機械伝達効率を一層向上させることが可能となる。
【0115】
また、図1に示す如く、前記第2連結部材24と前記第3連結部材26は前記第1クラッチC1と前記第2クラッチC2を介して並列に連結されると共に、第3クラッチC0を介して前記入力軸14に連結される如く構成したので、第3クラッチC0を備えない場合に比較して最高速段として6速段を追加することができる。また、その6速段は遊星歯車機構20の作動を1個に抑制できるので、クルーズ走行時などの高車速領域において燃費をより向上させることができる。
【0116】
また、図2に示す如く、前記ドグクラッチ(第2固定手段)D1は、軸方向に移動自在な1個のスリーブドグクラッチ部と、前記スリーブドグクラッチ部の左右に噛合自在に配置される2個のドグクラッチ部からなる機械式クラッチから構成されるので、湿式多板ブレーキのような摩擦係合要素を解放するように構成する場合に比し、解放したときのフリクションロスを低減することができ、上記した効果に加え、効率を一層向上させることができる。
【0117】
また、図1に示す如く、前記第1、第2、第3遊星歯車機構20a,20b,20cがシングルピニオン式遊星歯車機構からなる如く構成したので、上記した効果に加え、ダブルピニオン式で構成した場合に比し、遊星歯車機構20の内部におけるギヤの噛合い回数を減少でき、機械伝達効率を一層向上させることができる。
【0118】
尚、上記において3個の遊星歯車機構20が全てシングルピニオン式に構成したが、この発明においてそれは必須の構成ではない。機械伝達効率は低下するが、3個の遊星歯車機構20のいずれかまたは全てをダブルピニオン式にしても良い。それにより、有段変速段のレシオなどをより自由に設定することが可能となる。
【符号の説明】
【0119】
10 ハイブリッド車両の駆動装置、12 内燃機関(エンジン)、14 入力軸、16 出力部材、20 遊星歯車機構、20a 第1遊星歯車機構(i)、20b 第2遊星歯車機構(j)、20c 第3遊星歯車機構(k)、22 第1連結部材、24 第2連結部材、26 第3連結部材、30 第4連結部材、32 第5連結部材、36 PDU(パワードライブユニット)、40 バッテリ(BAT)、42 MOTECU(電子制御ユニット)、44 ENGECU(電子制御ユニット)、46 BATECU(電子制御ユニット)、48 TMECU(電子制御ユニット)、50 バス、M1 第1回転電機、M2 第2回転電機、C1 第1クラッチ、C2 第2クラッチ、C0 第3クラッチ、B1 ブレーキ(第1固定手段)、D1 ドグクラッチ(第2固定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(12)と、前記内燃機関に接続されて前記内燃機関からの駆動力が入力される入力軸(14)と、駆動輪に接続される出力部材(16)と、前記入力軸と出力部材の間に配置されると共に、サンギヤ(S)とキャリア(C)とリングギヤ(R)からなる3つの要素をそれぞれ有する第1、第2、第3遊星歯車機構(20a,20b,20c)と、第1、第2回転電機(M1,M2)と、前記第1、第2、第3遊星歯車機構の3つの要素のうちの第1要素(Ra,Sb,Rc)を前記第2回転電機(M2)のロータに連結する第1連結部材(22)と、前記第1遊星歯車機構(20a)の3つの要素のうちの第2要素(Sa)を前記第1回転電機(M1)のロータに連結すると共に、第1クラッチ(C1)を介して前記入力軸(14)に連結する第2連結部材(24)と、前記第2遊星歯車機構(20b)の3つの要素のうちの第2要素(Rb)を第2クラッチ(C2)を介して前記入力軸(14)に連結する第3連結部材(26)と、前記第3遊星歯車機構(20c)の3つの要素のうちの第2要素(Cc)を前記入力軸(14)に連結する第4連結部材(30)と、前記第1遊星歯車機構(20a)の3つの要素のうちの第3要素(Ca)と前記第2遊星歯車機構(20b)の3つの要素のうちの第3要素(Cb)を前記出力部材(16)に連結する第5連結部材(32)と、前記第3遊星歯車機構(20c)の3つの要素のうちの第3要素(Sc)を装置ハウジングに固定自在な第1固定手段(B1)と、前記第1連結部材を前記装置ハウジングに固定自在な第2固定手段(D1)とを備えたことを特徴とするハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項2】
前記第2連結部材(24)と前記第3連結部材(26)は前記第1クラッチ(C1)と前記第2クラッチ(C2)を介して並列に連結されると共に、第3クラッチ(C0)を介して前記入力軸(14)に連結されることを特徴とする請求項1記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項3】
前記第2固定手段(D1)は、軸方向に移動自在な1個のスリーブドグクラッチ部と、前記スリーブドグクラッチ部の左右に噛合自在に配置される2個のドグクラッチ部からなる機械式クラッチから構成されることを特徴とする請求項1または2記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項4】
前記第1、第2、第3遊星歯車機構(20a,20b,20c)がシングルピニオン式遊星歯車機構からなることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のハイブリッド車両の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−16988(P2012−16988A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154677(P2010−154677)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】