説明

ハイブリッド電気自動車の制御装置

【課題】ハイブリッド電気自動車の制御装置において、電動機の回生制動時にドライバビリティを悪化させることなく、回生エネルギーの効率的な回収を図る。
【解決手段】ハイブリッド電気自動車の制御装置(26)は、電動機(4)の回転数と変速機(5)の変速段Sに基づき算出された基準回生制動トルクTsrが電動機(4)の最大回生制動トルクTmに満たない場合に、ブレーキペダル(13)の踏み込み量、電動機(4)の回転数及び変速機(5)の変速段Sに基づいて算出した上乗せ回生制動トルクTadを基準回生制動トルクTsrに上乗せすることにより、回生制動トルクTrを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関とバッテリに蓄えられた電力を動力源として力行する電動機との少なくとも一方から出力される動力で走行し、電動機の回生時に回生制動トルクを発生させて減速するハイブリッド電気自動車の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関、及び、バッテリに蓄えられた電力で駆動可能な電動機の少なくとも一方を動力源として走行可能なハイブリッド電気自動車が注目されている。この種のハイブリッド電気自動車では、減速時に電動機を回生駆動させることにより車両の運動エネルギーを電気エネルギー(電力)としてバッテリに蓄電し、該蓄電した電力で電動機を力行させることによって内燃機関の燃料消費量を抑制して燃費向上が図られている。
【0003】
ハイブリッド電気自動車において更なる燃費向上を図るためには、減速時に回生エネルギーをいかに効率的に回収するかが重要である。特に、電動機では回収する回生エネルギーに応じた回生制動トルクが発生するため、発生する回生制動トルクがドライバーにとって違和感を与えない範囲になるように配慮しつつ、回生エネルギーの回収効率を極力大きくすることが課題とされている。例えば特許文献1には、減速時に電動機で発生させる回生制動トルクをブレーキペダルの踏み込み量及び踏み込み速度に応じて可変に設定することにより、ドライバーの意思に沿った減速挙動を実現しつつ、電動機の回生エネルギーの回収効率を向上させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−253406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1によれば、減速時に電動機で発生させる回生制動トルクは、ブレーキペダルの踏み込み量及び踏み込み速度に比例関係を有するように設定されており、当該比例係数は走行条件に関わらず一定に固定されている。そもそも減速時にドライバーが意図する車両の挙動は、車両がおかれる走行条件によって様々である。にもかかわらず、特許文献1では、車両の走行条件に関わらず回生制動トルクをブレーキペダルの踏み込み量及び踏み込み速度のみに基づいて一律に算出している。そのため、車両の走行条件によっては、回生制動トルクがドライバーの意思とはかけ離れた値となり、場合によってはショックなどとなってドライバビリティを悪化させてしまうという問題点がある。
【0006】
具体的に説明すると、特許文献1では、比例係数が大きく設定されている場合には回生制動トルクの大きさが過大となり、ドライバーにショック感を与えてしまい、ドライバビリティが悪化してしまうことが懸念される。そのため、特許文献1では、このようなドライバビリティの悪化を防止すべく比例係数を小さく設定せざるを得ない。その結果、回生時に発生する回生制動トルクが小さくなるに伴い、回生エネルギーの回収効率も低下してしまうという問題がある。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、電動機の回生制動時にドライバビリティを悪化させることなく、回生エネルギーを効率的に回収可能なハイブリッド電気自動車の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のハイブリッド電気自動車の制御装置は上記課題を解決するために、内燃機関とバッテリに蓄えられた電力を動力源として力行する電動機との少なくとも一方から出力される動力を、変速機を介して駆動輪に伝達することにより走行し、前記電動機を回生駆動させることにより前記駆動輪に回生制動トルクを伝達して減速するハイブリッド電気自動車の制御装置であって、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダル踏み込み量検出手段と、前記電動機の回転数を検出する回転数検出手段と、前記変速機の変速段を検出する変速段検出手段と、前記検出された電動機の回転数と前記検出された変速機の変速段とに基づいて前記電動機の基準回生制動トルクを算出し、該算出された基準回生制動トルクが前記電動機の最大回生制動トルクに満たない場合に、前記検出されたブレーキペダルの踏み込み量、電動機の回転数及び変速段に基づいて算出した上乗せ回生制動トルクを前記基準回生制動トルクに上乗せすることにより、前記回生制動トルクを算出する回生制動トルク算出手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、基準回生制動トルクが電動機の最大回生制動トルクに満たない場合に、基準回生制動トルクに上乗せ回生制動トルクを上乗せして回生制動トルクを設定することにより、回生エネルギーの回収効率を向上させることができる。特に、上乗せ回生制動トルクは、車両の走行条件(ブレーキペダルの踏み込み量、電動機の回転数、変速機の変速段)に応じて算出されるため、ドライバビリティの悪化を防止するために基準回生制動トルクを比較的小さく設定した場合であっても、良好な回生エネルギー回収効率を得ることができる。
【0010】
好ましくは、前記上乗せ回生制動トルクは、前記変速段の変速比が小さくなるに従い減少するように設定するとよい。この場合、変速段の変速比が小さくなるにつれて(即ち、低速側のギアにある場合)上乗せ回生制動トルクが小さく設定されるので、低速側における車両の安全性を良好に確保できる。即ち、ドライバーのブレーキペダルの踏み込み操作によって精度のよい車両の挙動制御が求められる停車時などの走行条件にある場合には、上乗せ回生制動トルクを小さく設定することによって回生制動トルクを抑制し、ドライバーのブレーキペダル操作によって車両をより忠実に制御可能とすることで安全性を向上させられる。
【0011】
また、前記上乗せ回生制動トルクは、前記ブレーキペダルの踏み込み量が増加するに従い増加するように設定してもよい。この場合、ブレーキペダルの踏み込み量が増加するほどドライバーは急激な減速を意図していると想定されるため、上乗せ回生制動トルクを増大させることにより回生エネルギーの回収効率を向上させることができる。
【0012】
また、前記基準回生制動トルクが前記最大回生制動トルクより大きい場合、前記回生制動トルクを前記最大回生制動トルクに設定すると共に、前記内燃機関の出力軸と前記電動機の入力軸との間に設けられたクラッチを接続し、前記内燃機関によるエンジンブレーキをかけて減速してもよい。この場合、基準回生制動トルクが電動機の最大回生制動トルクを超えている場合、最大回生制動トルクで電動機を回生駆動させることによって極力多くの回生エネルギーの回収を図ると共に、電動機の回生制動トルクでは賄いきれない制動力をエンジンブレーキによって補うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基準回生制動トルクが電動機の最大回生制動トルクに満たない場合に、基準回生制動トルクに上乗せ回生制動トルクを上乗せして回生制動トルクを設定することにより、回生エネルギーの回収効率を向上させることができる。特に、上乗せ回生制動トルクは、車両の走行条件(ブレーキペダルの踏み込み量、電動機の回転数、変速機の変速段)に応じて算出されるため、ドライバビリティの悪化を防止するために基準回生制動トルクを比較的小さく設定した場合であっても、良好な回生エネルギー回収効率を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るハイブリッド電気自動車の全体構成を概念的に示すブロック図である。
【図2】本発明に係るハイブリッド電気自動車の制御内容を示すフローチャート図である。
【図3】モータ回転数と基準回生制動トルクとの関係を示すグラフ図である。
【図4】ブレーキペダルの踏み込み量、モータ回転数、変速段と上乗せ回生制動トルクとの関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0016】
図1は、本発明に係るハイブリッド電気自動車1の全体構成を概念的に示すブロック図である。本発明に係るハイブリッド電気自動車1はパラレル式ハイブリッド電気自動車であり、ディーゼルエンジン2(以下、「エンジン2」と称する)の出力軸にクラッチ3の入力軸が連結されており、クラッチ3の出力軸にモータ4の回転軸を介して変速機5の入力軸が連結されている。変速機5の出力軸には、プロペラシャフト6、差動装置7及び駆動軸8を介して左右の駆動輪9が接続されている。また、左右の駆動輪9には、それぞれブレーキ12が備えられており、ドライバーがブレーキペダル13を踏み込むことにより機械的制動トルクを発生させ、車両の減速を行うことができるように構成されている。
【0017】
エンジン2は、ハイブリッド電気自動車1の動力源の一つとして機能する内燃機関である。エンジン2はディーゼルエンジンであり、例えば燃焼室において空気を高温圧縮し燃料を噴射することで、自然発火を利用した燃焼による爆発力によって生じるピストンの往復運動を出力軸の回転運動に変換することが可能に構成されている。
【0018】
クラッチ3は、エンジン2の出力軸とモータ4の回転軸との間に設けられており、これらの機械的な接続状態を切り替え可能に構成された動力伝達機構である。クラッチ3が接続されている場合、エンジン2の出力軸はモータ4の回転軸に機械的に接続されるため、駆動輪9はエンジン2の出力軸及びモータ4の回転軸の双方に接続されることとなる。一方、クラッチ3が切断されている場合、エンジン2の出力軸はモータ4の回転軸と機械的に切断されるため、駆動輪9にはモータ4の回転軸のみが変速機5を介して機械的に接続されることとなる。
【0019】
モータ4は、バッテリ11に蓄えられた直流電力をインバータ10で交流変換して力行駆動することによりハイブリッド電気自動車1の動力源の一つとして機能すると共に、回生時にモータ4にて発電された交流電力をインバータ10にて直流変換してバッテリ11に充電する発電機として機能する電動機である。
【0020】
変速機5は変速比の異なる複数の変速段を切替可能に構成された動力伝達機構であり、エンジン2及びモータ4から出力される動力をプロペラシャフト6、差動装置7及び駆動軸8を介して左右の駆動輪9に伝達する。本実施形態では特に、変速機5は前進5段後進1段式トランスミッションであり、前進段の低速側である「1速」側は変速比が小さく、高速側である「5速」側は変速比が大きくなるように設定されている。尚、変速機5はオートマティックトランスミッションであってもよいし、マニュアルトランスミッションであってもよい。また、変速機5の変速段は、前進5段後進1段としたが、これに限ったものでなくても良い。
【0021】
バッテリ11は、モータ4を力行するための直流電力を蓄電可能な蓄電池である。バッテリ11には直流電力が蓄えられており、当該直流電力はインバータ10によって交流変換された後、モータ4に供給される。一方、バッテリ11の充電は、モータ4の回生によって発電された交流電力をインバータ10によって直流変換(整流)された後、バッテリ11に供給されることによって行われる。
【0022】
クラッチ3が接続状態にある場合、エンジン2の出力軸はモータ4の回転軸と機械的に接続されるため、駆動輪9はエンジン2の出力軸及びモータ4の回転軸の双方と接続される。この場合、モータ4の力行時には、駆動輪9にはエンジン2の出力トルクとモータ4の出力トルクの双方が変速機5を介して伝達される。即ち、駆動輪9の駆動トルクの一部はエンジン2から供給されると共に、残りはモータ4から供給される。また、走行中にバッテリ11の充電量が少なくなった場合には、エンジン2の出力トルクの一部を用いて駆動輪9を駆動しつつ、エンジン2の出力トルクの残りでモータ4を回生駆動させることにより、バッテリ11を充電することもできる。
【0023】
クラッチ3が切断されている場合(即ち、接続状態にない場合)には、エンジン2の出力軸はモータ4の回転軸と機械的に切断され、駆動輪9にはモータ4の回転軸のみが変速機5を介して機械的に接続される。この場合、モータ4の力行時には、駆動輪9にエンジン2の出力トルクは伝達されず、モータ4の出力トルクのみが伝達される。即ち、ハイブリッド電気自動車1の走行は、専ら、バッテリ11に蓄えられた電力を用いてモータ4を駆動することによって行われる。
【0024】
ブレーキペダル13はドライバーによる踏み込み量に応じて駆動輪9の各々に設けられたブレーキ12を作動させることにより、機械的制動トルクを駆動輪9に伝達して車両を減速させる。また、アクセルペダル14はドライバーによる踏み込み量に応じて、動力源であるエンジン2及びモータ4の少なくとも一方の出力トルクを上昇させて車両を加速させる。尚、本実施例では、油圧式のブレーキペダル13及びアクセルペダル14を採用している。
【0025】
車両ECU26は、エンジンECU27、インバータECU28及びバッテリECU29と共に、ハイブリッド電気自動車1の動作全体を制御可能に構成された電子制御ユニットである。これにより、車両ECU26はエンジン2、クラッチ3、モータ4及び変速機5をはじめとするハイブリッド電気自動車1を構成する各部位の動作状態の制御を行うと共に、各部位の制御状態を取得可能に構成されている。
【0026】
例えば、車両ECU26はブレーキペダル13の踏み込み量を、ブレーキペダル13の油圧経路に設置された油圧センサ(図不示)により電気信号として検出することにより、ブレーキペダル13の踏み込み量を検知する。また、車両ECU26はアクセルペダル14の踏み込み量をアクセル開度センサ(図不示)により電気信号として検出することにより、アクセルペダル14の踏み込み量を検知する。また、車両ECU26は変速機5にアクセスすることによって、変速機5においてどの変速段が選択されているかを検出することができ、モータ4にアクセスすることによりモータ回転数を検出することができるように構成されている。即ち、車両ECU26は本発明の「ブレーキペダル踏み込み量検出手段」、「回転数検出手段」、「変速段検出手段」の一例として機能する。
【0027】
エンジンECU27は、エンジン2の動作に必要な各種制御を行うための電子制御ユニットであり、例えば、車両ECU26によって設定されたエンジン2から出力すべきトルクを出力可能なようにエンジン2における燃料の噴射量や噴射タイミングなどを制御する。
【0028】
インバータECU28は、インバータ10の動作に必要な各種制御を行うための電子制御ユニットであり、例えば、車両ECU26によって設定されたモータ4から出力すべきトルクを出力可能なようにインバータ10を制御することにより、モータ4を力行又は回生作動するように制御する。
【0029】
バッテリECU29は、バッテリ11の電流及び電圧を検出可能なバッテリ電流センサやバッテリ電圧センサ(図不示)から取得した情報を、車両ECU26を介して取得することにより、バッテリ11の充電量を求め、当該求めたSOCを車両ECU26に送信する。
【0030】
上述の車両ECU26、エンジンECU27、インバータECU28及びバッテリECU29は、それぞれCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備えて構成される電子制御ユニットであり、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する各種制御を実行することが可能に構成されている。これらの各種の制御の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではない。
【0031】
続いて、以上のように構成されたハイブリッド電気自動車1の具体的な動作について、図2を参照して説明する。図2は、本発明に係るハイブリッド電気自動車1の制御内容を示すフローチャート図である。
【0032】
まず車両ECU26は、アクセルペダル14から踏み込み量を検知することにより、アクセルペダル14がOFFであるか否かを判断する(ステップS101)。アクセルペダル14がONである場合(ステップS101:NO)、ドライバーは車両を減速させる意思がないと想定されるため、以下に述べる制御を行う必要はなく、車両ECU26は処理を終了する(END)。一方、アクセルペダル14がOFFである場合(ステップS101:YES)、車両ECU26は更にブレーキペダル13から踏み込み量を検知することにより、ブレーキペダル13がONであるか否かを判断する(ステップS102)。
【0033】
ブレーキペダル13がONである場合(ステップS102:YES)、車両ECU26はブレーキペダル13の踏み込み量F、モータ回転数R、変速段Sを取得し(ステップS103)、該取得したブレーキペダルの踏み込み量F、モータ回転数R、変速段Sに基づいて基準回生制動トルクTsr及び上乗せ回生制動トルクTadを算出する(ステップS104&ステップS105)。
【0034】
ステップS104ではステップS103で取得したモータ回転数Rと変速段Sに基づいて、基準回生制動トルクTsrが算出される。ここで、図3はモータ回転数Rと基準回生制動トルクTsrとの関係を示すグラフ図である。基準回生制動トルクTsrは、モータ回転数がR0以上の範囲において、モータ回転数Rの増加と共に増加し、モータ4の最大回生制動トルクTm(一点鎖線を参照)に到達した場合には、そのラインに従うように設定される。このようなモータ回転数Rと基準回生制動トルクTsrとの対応関係が各変速段毎に予め理論的、実験的或いはシミュレーション的な手法にて設定され、車両ECU26に内蔵されたメモリ等に予め記憶されている。
【0035】
ステップS105ではステップS103で取得したブレーキペダルの踏み込み量F、モータ回転数R、変速段Sに基づいて、上乗せ回生制動トルクTadが算出される。図4は、ブレーキペダルの踏み込み量F、モータ回転数R、変速段Sと上乗せ回生制動トルクTadとの関係を示すグラフ図である。
【0036】
図4(a)は変速機5の変速段Sが「5速」に設定されている場合の、上乗せ回生制動トルクTadとモータ回転数Rとの関係を示している。上乗せ回生制動トルクTadは、モータ回転数がR0以上からR1に向かうに従い増加し、R1以上からR2に向かうに従い減少するように設定されている。また、ブレーキペダルの踏み込み量が大きくなるに従い、上乗せ回生制動トルクTadが大きくなるように設定されている。これは、ブレーキペダルの踏み込み量が大きい場合は、ドライバーは急な減速を意図しているため、回生制動トルクを大きく設定することがドライバーの意思に沿っており、且つ、回生エネルギーの回収効率を向上させることができるからである。
【0037】
一方、モータ回転数がR0より小さい範囲(例えば、クリープ領域や停車状態に近い領域)では、上乗せ回生制動トルクTadはゼロに設定されている。これは、モータ回転数Rが小さい領域では車速が低い(停車状態に近い)と想定されるため、ドライバビリティの確保や安全上の観点から、ドライバーのブレーキペダルの踏み込み量Fに忠実な制動制御が可能なように、上乗せ回生制動トルクTadを抑制しているためである。
【0038】
図4(b)は変速機5の変速段が「3速」に設定されている場合の、上乗せ回生制動トルクTadとモータ回転数Rとの関係を示している。この場合、図4(a)と比較すると、上乗せ回生制動トルクTadのモータ回転数Rの変化に対する大まかな振る舞いは類似しているものの、全体的に上乗せ回生制動トルクTadが小さくなるように設定されている。つまり、変速機5の変速段が低速側になると車速も小さくなる(停車状態に近づく)と想定されるため、ドライバビリティの確保や安全上の観点から、ドライバーのブレーキペダルの踏み込み量Fに忠実な制動制御が可能なように、上乗せ回生制動トルクTadを抑制しているためである。その結果、変速段が低速側にある場合には、上乗せ回生制動トルクTadが小さくなる分、ドライバーのブレーキペダルの踏み込み動作に忠実な制動制御が可能となり、ドライバビリティの向上を図ることができる。
【0039】
図4(c)は変速機5の変速段が「1速」又は「2速」に設定されている場合の、上乗せ回生制動トルクTsrとモータ回転数Rとの関係を示している。この場合、上乗せ回生制動トルクTsrはモータ回転数Rに関わらず、常にゼロに設定される。これは図4(b)に比べて更に低速側の変速段では、車両が停車状態により近い状態にあると想定されるため、上乗せ回生制動トルクTadをゼロに設定し、極力ドライバーのブレーキペダルの踏み込み動作に忠実な制動制御が可能とし、安全性の向上を図っているためである。
【0040】
尚、図4に示す各変速段における上乗せ回生制動トルクTsrとモータ回転数Rとの対応関係は予め理論的、実験的或いはシミュレーション的な手法にて設定され、車両ECU26に内蔵されたメモリ等に予め記憶されている。
【0041】
再び図2に戻って、車両ECU26はステップS104において算出した基準回生トルクと、ステップS105において算出した上乗せ回生トルクとの和が、モータ4の最大回生制動トルクTm以下であるか否かを判定する(ステップS106)。図3において点(a)で示したように、当該和がモータ4の最大回生制動トルクTm以下である場合(ステップS106:YES)、車両ECU26は回生制動トルクTrを次式に基づき設定する(ステップS107)。
回生制動トルクTr=基準回生制動トルクTsr+上乗せ回生制動トルクTad (1)
そして、車両ECU26は、式(1)により算出される回生制動トルクTrが発生するように、モータ4を回生制御する(ステップS108)。このように、回生制動トルクTrを基準回生制動トルクTsrに上乗せ回生制動トルクTadを上乗せして算出することにより、減速時における回生エネルギーの回収効率を向上させることができる。特に上乗せ回生制動トルクTadを車両の走行条件(モータ回転数Rや変速段S)に応じて設定しているため、ドライバビリティの悪化を防止するために基準回生制動トルクTsrを比較的小さく設定した場合であっても、良好なエネルギー回収効率を得ることができる。
【0042】
一方、図3において点(b)で示したように、当該和がモータ4の最大回生制動トルクTmより大きい場合(ステップS106:NO)、車両ECU26は回生制動トルクTrを次式に基づいて設定する(ステップS109)。
回生制動トルクTr=最大回生制動トルクTm (2)
そして、車両ECU26は、式(2)により算出される回生制動トルクTrが発生するように、モータ4を回生制御すると共に、クラッチを接続し、エンジンブレーキをかける(ステップS110)。この場合、回生制動トルクTrはモータが発生可能な最大回生制動トルクTmを超えているため、モータから最大回生制動トルクTmを発生させることによって最大限の回生エネルギーを取得すると共に、足りない制動力をエンジンブレーキによって補填する。
【0043】
尚、ステップS110ではモータの回生制動トルクの不足分をエンジンブレーキによって補うこととしているが、エンジンブレーキに代えて、機械式ブレーキの自動制御などによって補うようにしてもよい。
【0044】
以上説明したように、本発明に係るハイブリッド電気自動車1では、ドライバビリティの悪化を防止するために基準回生制動トルクを比較的小さく設定した場合であっても、車両の走行条件(電動機の回転数や変速機の変速段)に応じて設定された上乗せ回生制動トルクを加算することで、良好なエネルギー回収効率を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、内燃機関とバッテリに蓄えられた電力を動力源として力行する電動機との少なくとも一方から出力される動力で走行し、電動機の回生時に回生制動トルクを発生させて減速するハイブリッド電気自動車の制御装置利用可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 ハイブリッド電気自動車
2 エンジン
3 クラッチ
4 モータ
5 変速機
9 駆動輪
11 バッテリ
13 ブレーキペダル
14 アクセルペダル
26 車両ECU
27 エンジンECU
28 インバータECU
29 バッテリECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関とバッテリに蓄えられた電力を動力源として力行する電動機との少なくとも一方から出力される動力を、変速機を介して駆動輪に伝達することにより走行し、前記電動機を回生駆動させることにより前記駆動輪に回生制動トルクを伝達して減速するハイブリッド電気自動車の制御装置であって、
ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダル踏み込み量検出手段と、
前記電動機の回転数を検出する回転数検出手段と、
前記変速機の変速段を検出する変速段検出手段と、
前記検出された電動機の回転数と前記検出された変速段とに基づいて前記電動機の基準回生制動トルクを算出し、該算出された基準回生制動トルクが前記電動機の最大回生制動トルクに満たない場合に、前記検出されたブレーキペダルの踏み込み量、電動機の回転数及び変速段に基づいて算出した上乗せ回生制動トルクを前記基準回生制動トルクに上乗せすることにより、前記回生制動トルクを算出する回生制動トルク算出手段と
を備えたことを特徴とするハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項2】
前記上乗せ回生制動トルクは、前記変速段の変速比が小さくなるに従い減少するように設定されていることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項3】
前記上乗せ回生制動トルクは、前記ブレーキペダルの踏み込み量が増加するに従い増加するように設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項4】
前記基準回生トルクが前記最大回生制動トルクより大きい場合、前記回生制動トルクを前記最大回生制動トルクに設定すると共に、前記内燃機関の出力軸と前記電動機の入力軸との間に設けられたクラッチを接続し、前記内燃機関によるエンジンブレーキをかけて減速することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−121466(P2012−121466A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274171(P2010−274171)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】