説明

フィルタ回路、分波器およびRFモジュール

【課題】挿入損失の劣化を抑制し、かつ特定周波数帯域の抑圧を高めることができる。
【解決手段】入力端子と出力端子との間に接続され、通過帯域を有するフィルタ部10と、前記入力端子と前記出力端子との間に、前記フィルタ部に並列に接続された経路12と、を具備し、前記経路は、前記入力端子から入力され前記経路を通過して前記出力端子に出力される第1信号の位相と、前記入力端子から入力され前記フィルタ部を通過して前記出力端子から出力される第2信号の位相と、が前記通過帯域外の周波数帯域において逆位相となり、かつ前記第1信号の振幅と、前記第2信号の振幅と、が前記周波数帯域において同一となるようなインピーダンスを有するフィルタ回路。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ回路、分波器およびRFモジュールに関し、特に、フィルタ部と並列に接続された経路を有するフィルタ回路、分波器およびRFモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の高周波回路として、フィルタ回路が用いられている。フィルタ回路は、通過帯域の高周波信号を通過させ、通過帯域外の信号を減衰させる。フィルタ回路においては、通過帯域外の特定の周波数帯域において減衰量を高めることがある。特許文献1および2には、フィルタに直列に移相器を接続することにより、通過帯域外の特定の周波数帯域の抑圧を高める方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−33733号公報
【特許文献2】国際公開2009/025106号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1および2の方法では、フィルタに直列に移相器等の素子を挿入するため、挿入損失が増大してしまう。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、挿入損失の増大を抑制し、かつ特定周波数帯域の抑圧を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、入力端子と出力端子との間に接続され、通過帯域を有するフィルタ部と、前記入力端子と前記出力端子との間に、前記フィルタ部に並列に接続された経路と、を具備し、前記経路は、前記入力端子から入力され前記経路を通過して前記出力端子に出力される第1信号の位相と、前記入力端子から入力され前記フィルタ部を通過して前記出力端子から出力される第2信号の位相と、が前記通過帯域外の周波数帯域において逆位相となり、かつ前記第1信号の振幅と、前記第2信号の振幅と、が前記周波数帯域において同一となるようなインピーダンスを有することを特徴とするフィルタ回路である。本発明によれば、挿入損失の増大を抑制し、かつ特定周波数帯域の抑圧を高めることができる。
【0007】
上記構成において、前記経路は、誘導性のインピーダンスを有する構成とすることができる。この構成によれば、特定周波数帯域の抑圧をより高めることができる。
【0008】
上記構成において、前記経路は、前記通過帯域より低周波数側において容量性から誘導性に変化するインピーダンスを有し、前記通過帯域より高周波数側において誘導性のインピーダンスを有する構成とすることができる。この構成によれば、低周波領域の減衰特性を改善できる。
【0009】
上記構成において、前記周波数帯域は前記通過帯域より低周波数側と、前記通過帯域より高周波数側と、に位置する構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記経路は、前記入力端子と前記出力端子との間に直列に接続された集中定数のインダクタを含む構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記経路は、前記入力端子と前記出力端子との間に、前記インダクタに直列に接続された集中定数のキャパシタを含む構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記経路は、前記入力端子と前記出力端子との間に、前記インダクタに直列に接続された分布定数線路を含む構成とすることができる。この構成によれば、より柔軟に回路設計を行なうことができる。
【0013】
上記構成において、前記経路は、前記インダクタと前記キャパシタとの間に直列に接続された分布定数線路を含む構成とすることができる。
【0014】
本発明は、共通端子と第1端子との間に接続された第1フィルタと、前記共通端子と第2端子との間に接続された第2フィルタと、を含み、前記第1フィルタおよび前記第2フィルタのうち少なくとも一方が上記フィルタ回路であることを特徴とする分波器である。
【0015】
本発明は、上記分波器を含むことを特徴とするRFモジュールである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、挿入損失の増大を抑制し、かつ特定周波数帯域の抑圧を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、実施例1に係るフィルタ回路の回路図である。
【図2】図2は、実施例2に係るフィルタ回路の回路図である。
【図3】図3(a)は、実施例2に係るフィルタ回路の通過特性を示す図、図3(b)は、実施例2に係るフィルタ回路における周波数に対する各信号の電流および各信号間の位相差を示す図である。
【図4】図4は、実施例3に係るフィルタ回路の回路図である。
【図5】図5(a)は、実施例3に係るフィルタ回路の通過特性を示す図、図5(b)は、実施例3に係るフィルタ回路における周波数に対する各信号の電流および各信号間の位相差を示す図である。
【図6】図6は、実施例4に係るフィルタ回路の回路図である。
【図7】図7(a)は、実施例4に係るフィルタ回路の通過特性を示す図、図7(b)は、実施例4に係るフィルタ回路における周波数に対する各信号の電流および各信号間の位相差を示す図である。
【図8】図8(a)は、実施例5に係るフィルタ回路の回路図、図8(b)は、分布定数線路D1を示す断面斜視図である。
【図9】図9(a)は、実施例5に係るフィルタ回路の通過特性を示す図、図9(b)は、実施例5に係るフィルタ回路における周波数に対する各信号の電流および各信号間の位相差を示す図である。
【図10】図10は、実施例6に係る分波器の回路図である。
【図11】図11は、実施例7に係る分波器の回路図である。
【図12】図12(a)は、送信フィルタのフィルタ部の回路図、図12(b)は、送信フィルタのフィルタ部を形成したチップの平面図である。
【図13】図13(a)は、受信フィルタの回路図、図13(b)は、受信フィルタを形成したチップの平面図である。
【図14】図14(a)は、弾性表面波共振子の平面図、図14(b)はA−A断面図である。
【図15】図15(a)は、圧電薄膜共振子の平面図、図15(b)は、図15(a)のA−A断面図である。
【図16】図16(a)から図16(c)は、実施例7に係る分波器の実装図である。
【図17】図17(a)および図17(b)は、それぞれ図16(c)のA−A断面図およびB−B断面図である。
【図18】図18(a)から図18(c)は、各層の上面を示す平面図である。
【図19】図19(a)から図19(c)は、各層の上面または下面を示す平面図である。
【図20】図20(a)から図20(c)は、実施例8のフィルタが実装された基板の各層の上面を示す平面図である。
【図21】図21(a)および図21(b)は、実施例8のフィルタが実装された基板の各層の上面または下面を示す平面図である。
【図22】図22(a)および図22(b)は、実施例8に係る分波器の実装図である。
【図23】図23(a)から図23(d)は、各層の上面および下面を示す平面図である。
【図24】図24(a)から図24(c)は、実施例9に係るRFモジュールの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、実施例1に係るフィルタ回路の回路図である。図1のように、フィルタ回路18は、フィルタ部10と経路12とを備えている。フィルタ部10は、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に接続されている。経路12は、入力端子Tinと出力端子Toutとの間にフィルタ部10と並列に接続されている。入力端子Tinから入力した信号は、フィルタ部10と経路12とに分岐される。フィルタ部10を通過した信号I1と経路12を通過した信号I2とは合成され出力端子Toutから出力される。フィルタ部10は、通過帯域を有するバンドパスフィルタであり、通過帯域の信号を通過させ、通過帯域外の信号を抑圧する。
【0020】
経路12のインピーダンスは、以下のように設定されている。すなわち、入力端子Tinから入力され経路12を通過して出力端子Toutに出力される第2信号I2の位相と、入力端子Tinから入力されフィルタ部10を通過して出力端子Toutから出力される第1信号I1の位相と、が通過帯域外の周波数帯域において逆位相となる。かつ、この周波数帯域において、第1信号I1の振幅と、第2信号I2の振幅と、が同一となる。
【0021】
実施例1によれば、周波数帯域において、第1信号I1と第2信号I2との位相が逆位相となる。また、第1信号I1の振幅と、第2信号I2の振幅と、が同一となる。これにより、第1信号I1と第2信号I2とが弱めあう。よって、この周波数帯域において、出力端子Toutから出力する信号を減衰させることができる。経路12のインピーダンスを調整することにより、通過帯域外の任意の周波数帯域において減衰量を増大させることができる。
【0022】
なお、第1信号I1と第2信号I2との位相が逆位相とは、この周波数帯域において信号を減衰させる程度であり、例えば180°±30°が好ましく、180°±10°がより好ましい。第1信号I1と第2信号I2との振幅が同一とは、この周波数帯域において信号を減衰させる程度であり、2つの信号I1およびI2の振幅比が0.7〜1.5であることが好ましく、0.9〜1.2であることがより好ましい。
【0023】
フィルタ部10としては、例えばラダー型フィルタまたは多重モード型フィルタを用いることができる。
【実施例2】
【0024】
実施例2は、経路12がインダクタを含む例である。図2は、実施例2に係るフィルタ回路の回路図である。フィルタ部10としてラダー型フィルタを用いている。経路12は、一端が入力端子Tinに他端が出力端子Toutに接続されたインダクタL1を含んでいる。フィルタ部10は、1または複数の直列共振子S1〜S4および1または複数の並列共振子P1〜P3を備えている。直列共振子S1〜S4は、出力端子Toutと入力端子Tinとの間に直列に接続されている。並列共振子P1〜P3は、出力端子Toutと入力端子Tinとの間に並列に接続されている。
【0025】
インダクタL1のインダクタンスを150nHとし、フィルタ部10として、ラダー型フィルタを用いシミュレーションを行った。ラダー型フィルタは、6段構成であり、圧電基板としてタンタル酸リチウムを用いた弾性表面波共振子を備えている。通過帯域は、1920MHzから1980MHzである。経路12を備えていないフィルタ部10を比較例に係るフィルタ回路とした。
【0026】
図3(a)は、実施例2に係るフィルタ回路の通過特性を示す図、図3(b)は、実施例2に係るフィルタ回路における周波数に対する各信号の電流および各信号間の位相差を示す図である。図3(a)において、実線は実施例2、破線は比較例の通過特性を示している。図3(b)において、□は第1信号I1の電流成分の振幅、○は第2信号I2の電流成分の振幅を任意座標で示している。点線は、第1信号I1と第2信号I2との位相差を示している。図3(a)のように、比較例および実施例1とも2GHz近傍に通過帯域F0が位置している。図3(b)のように、1GHz近傍の周波数帯域F1において、第1信号I1と第2信号I2との信号の振幅がほぼ同じになっている。さらに、周波数帯域F1において、第1信号I1と第2信号I2との位相差がほぼ180°となっている。これにより、図3(a)のように、実施例1に係るフィルタ回路においては周波数帯域F1において、減衰量が増加している。
【0027】
フィルタ部10で用いられる共振子は、通過帯域以外の周波数においては共振特性を示さず、容量とみなせる。例えば、弾性表面波共振子は、圧電基板の誘電率と、電極指間隔等で定まる容量とみなせる。例えば、圧電薄膜共振子は、圧電膜の誘電率と、上部電極と下部電極との面積で定まる容量とみなせる。このため、実施例1のように、誘導性のインピーダンスを有する経路12を用いる。これにより、第1信号I1と第2信号I2とを逆位相とすることができる。これにより、第1信号I1と第2信号I2とが合成された出力端子Toutから出力する信号を減衰させることができる。
【0028】
インダクタL1は、例えば集中定数のインダクタとすることができる。インダクタL1としては、例えば、チップインダクタ、積層基板中のスパイラルインダクタまたはボンディングワイヤを用いることができる。なお、比較例2においては、周波数帯域F1を1GHz近傍としているが、経路12のインピーダンスを任意に設定することにより、周波数帯域F1を任意に設定することができる。
【実施例3】
【0029】
実施例3は、経路12がインダクタとキャパシタとを含む例である。図4は、実施例3に係るフィルタ回路の回路図である。実施例2の図2と比較し、経路12は、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、インダクタL1に直列に接続されたキャパシタC1を含む。その他の構成は、実施例2の図2と同じであり説明を省略する。インダクタL1のインダクタンスを250nH、キャパシタC1のキャパシタンスを0.2pFとし、シミュレーションを行った。その他の条件は、実施例2のシミュレーションと同じである。
【0030】
図5(a)は、実施例3に係るフィルタ回路の通過特性を示す図、図5(b)は、実施例3に係るフィルタ回路における周波数に対する各信号の電流および各信号間の位相差を示す図である。
【0031】
実施例2においては、図3(a)のように、低周波数領域(例えば、直流に近い領域)において減衰量が小さくなる。これは、経路12がインダクタL1のため、図3(b)のように、低周波数領域において第2信号I2の振幅が大きくなるためである。
【0032】
実施例3においては、図5(b)のように、低周波数領域R1において、キャパシタC1により信号I2が小さくなる。これにより、図5(a)のように、低周波数領域R1において、減衰量を大きくすることができる。このように、経路12を、通過帯域F0より低周波数側においてキャパシタの成分が支配的な容量性からインダクタの成分が支配的な誘導性に変化するインピーダンスを有し、通過帯域F0より高周波数側において誘導性のインピーダンスを有するように設定する。これにより、低周波領域の減衰特性を改善できる。
【0033】
実施例3のように、経路12は、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、インダクタL1に直列に接続された集中定数のキャパシタC1を含むように構成することができる。集中定数のキャパシタC1としては、例えばチップキャパシタ、積層基板中のMIM(Metal
Insulator Metal)キャパシタを用いることができる。
【0034】
なお、図4においては、経路12の入力端子Tin側をインダクタL1、出力端子Tout側をキャパシタC1としたが、入力端子Tin側をキャパシタC1、出力端子Tout側をインダクタL1としてもよい。
【実施例4】
【0035】
実施例4は、並列共振子とグランドとの間にインダクタが接続された例である。図6は、実施例4に係るフィルタ回路の回路図である。実施例2の図2と比較し、フィルタ部10の並列共振子P1〜P3とグランドとの間にインダクタL2が接続されている。その他の構成は、実施例2の図2と同じであり説明を省略する。インダクタL1のインダクタンスを150nH、インダクタL2のインダクタンスを0.2nHとし、シミュレーションを行った。その他の条件は、実施例2のシミュレーションと同じである。
【0036】
図7(a)は、実施例4に係るフィルタ回路の通過特性を示す図、図7(b)は、実施例4に係るフィルタ回路における周波数に対する各信号の電流および各信号間の位相差を示す図である。
【0037】
図7(b)のように、実施例4においては、周波数帯域F1に加え3GHz近傍の周波数帯域F2においても、第1信号I1と第2信号I2との信号の振幅がほぼ同じになっている。さらに、第1信号I1と第2信号I2との位相差がほぼ180°となっている。これにより、図7(a)のように、周波数帯域F1に加え周波数帯域F2においても減衰量が増大している。
【0038】
実施例4のように、経路12のインピーダンスと、インダクタL2のインダクタンスを調整することにより、減衰量を増大させる周波数領域F1およびF2を通過帯域F0より低周波数側と、通過帯域F0より高周波数側と、に位置させることができる。なお、経路12のインピーダンスおよびインダクタL2のインダクタンスを任意に設定することにより、周波数領域F1およびF2の周波数を任意に設定することができる。
【0039】
実施例4によれば、並列共振子P1〜P3とグランドとの間にインダクタL2を接続することにより、減衰極を任意に2つ設けることができる。なお、周波数帯域F2における減衰極は、第1信号I1と第2信号I2との信号の振幅がほぼ同じになり、かつ第1信号I1と第2信号I2との位相差がほぼ逆位相とることにより形成されたものであり、並列共振子とインダクタとの共振により形成されたものではない。
【実施例5】
【0040】
実施例5は、経路12がインダクタと分布定数線路を含む例である。図8(a)は、実施例5に係るフィルタ回路の回路図である。実施例3の図4と比較し、経路12は、インダクタL1とキャパシタC1との間に、一端がインダクタL1に、他端がキャパシタC1に接続された分布定数線路D1を含む。図8(b)は、分布定数線路D1を示す断面斜視図である。分布定数線路D1はストリップラインにより構成されている。誘電体層24の上下をグランド電極22および26が挟んでおり、誘電体層24内に導電層28が延伸している。誘電体層24の誘電率、誘電体層24の膜厚H、導電層28の膜厚T、導電層28の幅W、および導電層28の長さLから分布定数線路D1のインピーダンスを設定することができる。なお、分布定数線路D1は、マイクロストリップライン等でもよい。その他の構成は、実施例3の図4と同じであり説明を省略する。インダクタL1のインダクタンスを30nH、キャパシタC1のキャパシタンスを0.1pFとした。さらに、誘電体層24の比誘電率を4.8、膜厚Hを85μm、導電層28の膜厚Tを25μm、導電層28の幅Wを100μm、および導電層28の長さLを1mmとしシミュレーションを行った。その他の条件は、実施例2のシミュレーションと同じである。
【0041】
図9(a)は、実施例5に係るフィルタ回路の通過特性を示す図、図9(b)は、実施例5に係るフィルタ回路における周波数に対する各信号の電流および各信号間の位相差を示す図である。
【0042】
図9(b)のように、周波数帯域F1において第1信号I1と第2信号I2との信号の振幅がほぼ同じであり、かつ第1信号I1と第2信号I2との位相差がほぼ逆位相となっている。これにより、図9(a)のように、周波数帯域F1の減衰量を増大させることができる。さらに、分布定数線路D1を用いることにより、経路12全体のQ値を小さくできるため、フィルタ特性の変動を緩やかにすることができる。例えば、図9(a)の領域R2における減衰量のピークを実施例3の図5(a)より小さくすることができる。
【0043】
さらに、実施例5によれば、経路12は、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、インダクタL1に直列に接続された分布定数線路D1を含む。これにより、インダクタL1の位相変換機能と、信号の振幅の減衰機能の一部を分布定数線路D1に担わせることができる。これにより、集中定数のインダクタL1と分布定数線路D1とが相補的な関係を有するため、より柔軟に回路設計が可能となる。例えば、減衰量を増大させる周波数帯域をより柔軟に設定することができる。
【0044】
なお、発明者らの実験によると、第1信号I1と第2信号I2との位相差を逆位相とするためには、入力端子Tinおよび出力端子Toutに近い素子は集中定数素子であることが好ましい。よって、分布定数線路D1は、インダクタL1とキャパシタC1との間に直列に接続されることが好ましい。
【0045】
実施例1から実施例5において、経路12は、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に限らず、入力端子Tinとフィルタ部10の途中、フィルタ部10の途中から出力端子Toutとの間に接続されていてもよい。例えば、実施例2から実施例5のように、フィルタ部10がラダー型フィルタの場合、フィルタ部10の途中の直列共振器の接続点(例えば直列共振子S2とS3の接続点)と入力端子Tinの間に経路12が接続されてもよい。あるいは、フィルタ部10の途中の直列共振器の接続点と出力端子Toutとの間に接続されていてもよい。さらに、経路12は、直列共振子の接続点同士(例えば直列共振子S1とS2との接続点と、直列共振子S2とS3との接続点と、の間)に接続されていてもよい。このような場合でも、フィルタ部10を通過する第1信号I1と、経路12とフィルタ部10の一部とを通過する第2信号I2と、が略逆位相となり、かつ第1信号I1と第2信号I2との振幅が略同一であればよい。
【実施例6】
【0046】
実施例6は、分波器の例である。図10は、実施例6に係る分波器の回路図である。図10のように、第1フィルタ11が共通端子Tantと第1端子T1との間に接続されている。第2フィルタ14が共通端子Tantと第2端子T2との間に接続されている。第1フィルタ11は、実施例1から5に係るフィルタ回路18である。
【0047】
実施例6のように、実施例1から5に係るフィルタ回路を、分波器が備える第1フィルタ11および第2フィルタ14の少なくとも一方に用いることができる。送信フィルタと受信フィルタとを備えた分波器の場合、送信フィルタは、特に挿入損失を抑制することが求められる。よって、送信フィルタに実施例1から5に係るフィルタ回路を用いることが好ましい。
【実施例7】
【0048】
実施例7は、分波器の具体例である。図11は、実施例7に係る分波器の回路図である。図11のように、第1フィルタ11として、実施例4に係るフィルタ回路を用いている。第1フィルタ11のフィルタ部10は直列共振子S11〜S14および並列共振子P11〜P13を備えている。並列共振子P11およびP12はインダクタL11を共通に介し接地されている。並列共振子P13は、インダクタL12を介し接地されている。第2フィルタ14は、ラダー型フィルタであり、直列共振子S21〜S24および並列共振子P21〜P23を備えている。並列共振子P21〜P23はインダクタL21を共通に介し接地されている。共通端子TantはインダクタL3を介し接地されている。インダクタL3は、整合回路として機能する。その他の構成は、実施例5と同じであり説明を省略する。なお、以降、第1フィルタ11として送信フィルタ、第2フィルタ14として受信フィルタの例を説明する。
【0049】
図12(a)は、送信フィルタのフィルタ部10の回路図、図12(b)は、送信フィルタのフィルタ部を形成したチップの平面図である。図12(b)は、チップの裏面から表面を透視した平面図である。図12(a)のように、フィルタ部10は、アンテナ端子Ant1と送信端子Txとの間に直列共振子S11〜S14が直列に接続されている。さらに、並列共振子P11〜P13が並列に接続されている。並列共振子P11〜P13の一端はそれぞれ端子G11〜G13に接続されている。図12(b)のように、タンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウム等の圧電基板31上に直列共振子S11〜S14および並列共振子P11〜P13が弾性表面波共振子として形成されている。図12(b)に示したパッドAnt1、G11、G12、G12、Txがそれぞれ図12(a)に示した端子Ant1、G11、G12、G13、Txに対応する。なお、図12(b)のパッドG12は、図12(a)の端末G12およびG13を共通としたパッドである。
【0050】
図13(a)は、受信フィルタ14の回路図、図13(b)は、受信フィルタを形成したチップの平面図である。図13(b)は、チップの裏面から表面を透視した平面図である。図13(a)のように、受信フィルタ14は、アンテナ端子Ant2と受信端子Rxとの間に直列共振子S21〜S24が直列に接続されている。さらに、並列共振子P21〜P23が並列に接続されている。並列共振子P21〜P23の一端はそれぞれ端子G21〜G23に接続されている。図13(b)のように、タンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウム等の圧電基板32上に直列共振子S21〜S24および並列共振子P21〜P23が弾性表面波共振子として形成されている。図13(a)のパッドAnt2、G21、G22、G22、Rxがそれぞれ図13(a)の端子Ant2、G21、G22、G23、Rxに対応する。図13(b)のパッドG22は、図13(a)の端末G22およびG23を共通としたパッドである。
【0051】
図14(a)は、弾性表面波共振子の平面図、図14(b)はA−A断面図である。図14(a)および図14(b)のように、圧電基板30上に、例えば主成分がAl等である金属からなる電極38が形成されている。電極38は、反射器34およびくし型電極36を形成する。くし型電極36において励振された弾性波が反射器34で反射され共振する。これにより、共振子として機能する。
【0052】
共振子としては、例えば圧電薄膜共振子を用いることもできる。図15(a)は、圧電薄膜共振子の平面図、図15(b)は、図15(a)のA−A断面図である。図15(a)および図15(b)のように、例えばシリコン基板40上に下部電極42、AlN等の圧電膜44、上部電極46が順次積層されている。圧電膜44を挟み上部電極46と下部電極42とが重なる領域が共振領域48である。共振領域48においては、上下方向に伝搬する弾性波が共振し共振子として機能する。共振領域48の下方には、空隙49が形成されている。空隙49の代わりに、音響多層膜が形成されていてもよい。
【0053】
図16(a)から図16(c)は、実施例7に係る分波器の実装図である。図17(a)および図17(b)は、それぞれ図16(c)のA−A断面図およびB−B断面図である。図16(a)は、基板の斜視図、図16(b)は、基板に圧電基板を実装した斜視図、図16(c)は封止した斜視図である。図16(a)、図17(a)および図17(b)のように、基板50は積層基板であり、積層基板を構成する各層51〜54の上面には銅または金等の金属からなる配線64が形成されている。また、各層51〜54を貫通するビア配線68が形成されている。ビア配線68は、各層51〜54を貫通するビア内を金属で埋め込んだ配線である。基板50の上面には、周囲に沿って金属からなるシールリングが形成されている。基板50の下面には、フットパッド62が形成されている。
【0054】
図16(b)、図17(a)および図17(b)のように、基板50の上面に、フィルタ部10が形成された圧電基板31と、受信フィルタ14が形成された圧電基板32と、がAuまたは半田等の金属を用いフリップチップ実装されている。
【0055】
図16(c)、図17(a)および図17(b)のように、圧電基板31および32を封止部60を用い封止する。封止部60としては、例えば半田等の金属を用いることができる。シールリングは金属により濡れ性がよいため、半田等の封止部60はシールリング上に形成される。封止部60として樹脂等の絶縁体を用いてもよい。
【0056】
図18(a)から図19(c)は、各層の上面および下面を示す平面図である。図18(a)は、層51上に実装された圧電基板31および32を透視してみた図である。圧電基板31および32内は図12(b)および図13(b)と同じ配置であり説明を省略する。
【0057】
図18(b)は層51の上面の平面図である。圧電基板31上に形成されたパッドAnt1、G11、G12およびTxが層51上のパッドAnt1、G11、G12およびTxに、バンプを用い電気的に接続される。圧電基板32上に形成されたパッドAnt2、G21、G22およびRxが層51上のパッドAnt2、G21、G22およびRxに、バンプを用い電気的に接続される。符号v1〜v11、ggおよびs1は層51を貫通するビア配線68である。層51上に形成された配線64のうち、配線102aは、送信端子Txに接続するインダクタL1の一部である。シールリングはビア配線ggを介し接地される。
【0058】
図18(c)は層52の上面の平面図である。図18(c)を参照し、層52には、ビア配線v1〜v11、s1、s2、w1〜w3が形成されている。層52の上面上に形成された配線64のうち、配線102bは、配線102aとビア配線s1を介し接続されるインダクタL1の一部である。
【0059】
図19(a)は層53の上面の平面図である。図19(a)を参照し、層53には、ビア配線v1〜v4、v11、v12、s2、s3、w1〜w3が形成されている。層53の上面上に形成された配線64のうち配線104aは、ビア配線s2を介しインダクタに接続される分布定数線路D1の一部である。
【0060】
図19(b)は層54の上面の平面図である。図19(b)を参照し、層54には、ビア配線v1〜v3、v11、v12、w1〜w3が形成されている。層54の上面上に形成された配線104aは、ビア配線s3を介し配線104aに接続される分布定数線路D1の一部である。
【0061】
図19(c)は層54の下面を上から透視した平面図である。層54の下面にはフットパッド62が形成されている。フットパッドAntは図11の共通端子Tantに対応する。フットパッドTxは、図11の第1端子T1に対応する。フットパッドRxは図11の第2端子T2に対応する。フットパッドGndは接地されるフットパッドである。上面に形成された配線104bを破線で図示している。フットパッドAntと配線104bとが重なる領域106がMIMキャパシタC1として機能する。
【0062】
以上により、配線102aおよび102bから形成されるインダクタL1と、配線104aおよび104bとから形成される分布定数線路D1と、配線104bとフットパッドAntとから形成されるキャパシタC1とが、送信端子Txと共通端子Antの間に直列に接続される。さらに、フィルタ部10とは並列に接続される。
【0063】
実施例7のように、経路12をフィルタ部10および第2フィルタ14が実装された基板50内に形成することができる。
【実施例8】
【0064】
実施例8はインダクタをフィルタが実装された基板外に形成する例である。図20(a)から図21(c)は、実施例8のフィルタが実装された基板の各層の上面および下面を示す平面図である。図20(a)から図21(c)は、それぞれ実施例7の図18(a)から図19(c)に対応している。実施例7と比較し、基板50は、層51、52、54を含み層53は含んでいない。基板50内に、配線102a、102b、104aおよび104b並びにMIMキャパシタC1が形成されていない。その他の構成は、実施例7の図18(a)から図19(c)と同様であり説明を省略する。
【0065】
図22(a)および図22(b)は、実施例8に係る分波器100の実装図である。図22(a)および図22(b)のように、基板70は積層基板であり、層71および72が積層されている。各層71および72は、例えばセラミックまたは樹脂等の絶縁体からなる。各層71および72上には金属からなる配線84が形成されている。各層71および72を貫通するビア配線88が形成されている。基板70の下面にはフットパッド82が形成されている。基板70上にはフィルタが搭載された基板50が搭載されている。さらに、チップインダクタ80が搭載されている。
【0066】
図23(a)から図23(d)は、各層の上面または下面を示す平面図である。図23(a)は、層71上に実装された基板50およびインダクタ80を示した平面図である。図23(a)のように、層71上に基板50およびインダクタ80が搭載されている。図23(b)は層71の上面の平面図である。図23(b)のように、層71の上面には、金属からなるパッド92および93が形成されている。パッド92には、基板50のフットパッド62が半田等のロウ材を用い電気的に接続される。パッド93には、チップインダクタ80の両端が半田等のロウ材を用い電気的に接続される。基板71を貫通する金属からなるビア配線88が形成されている。
【0067】
図23(c)は層72の上面の平面図である。図23(c)のように、層72の上面には配線84が形成されている。配線84のうち、配線112は、基板50(破線で図示)のフットパッドTxとインダクタ80(破線で図示)とを接続する配線である。配線114は、インダクタ80に接続された分布定数線路D1である。
【0068】
図23(d)は層72の下面を上方より透視した平面図である。配線112を破線で図示している。図23(d)のように、層72の下面には金属からなるフットパッド82が形成されている。基板50のフットパッドAntと接続されたフットパッドANTと配線114とが重なる領域116がMIMキャパシタC1として機能する。
【0069】
以上により、チップインダクタ80から形成されるインダクタL1と、配線114から形成される分布定数線路D1と、配線114とフットパッドANTとから形成されるキャパシタC1とが、送信端子Txと共通端子Antの間に直列に接続される。さらに、フィルタ部10とは並列に接続される。
【0070】
実施例8のように、経路12を基板50が実装された基板70内に形成することができる。実施例7および実施例8以外の方法で、インダクタL1、キャパシタC1および分布定数線路D1を形成してもよい。
【実施例9】
【0071】
実施例9は、実施例8に係る分波器を含むRF(Radio Frequency)モジュールの例である。図24(a)から図24(c)は、実施例9に係るRFモジュールの上面図である。図24(a)のように、実施例8に係る分波器100に用いた基板70に、他の分波器100aおよび100bが搭載されている。図24(b)のように、実施例8に係る分波器100に用いた基板70に、パワーアンプ120が搭載されている。図24(b)のように、実施例8に係る分波器100に用いた基板70に、パワーアンプ120が搭載されている。図24(c)のように、実施例8に係る分波器100に用いた基板70に、他の分波器100aとスイッチ122が搭載されている。
【0072】
以上のように、基板70上に、分波器100以外の部品を搭載し、RFモジュールを形成してもよい。
【0073】
RFモジュールは、携帯電話に限らず、無線LAN(Local Area Network)等のその他の無線装置等に用いることもできる。
【0074】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0075】
10 フィルタ部
11 第1フィルタ
12 経路
14 第2フィルタ
30、31、32 圧電基板
38 電極
40 基板
42 下部電極
44 圧電膜
46 上部電極
49 空隙
50、70 基板
51〜54、71、72 層
60 封止部
62 フットパッド
64、84 配線
66 バンプ
68、88 ビア配線
80 チップインダクタ
102a、104a、102b、104b、112、114 配線
L1 インダクタ
C1 キャパシタ
D1 分布定数線路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端子と出力端子との間に接続され、通過帯域を有するフィルタ部と、
前記入力端子と前記出力端子との間に、前記フィルタ部に並列に接続された経路と、を具備し、
前記経路は、前記入力端子から入力され前記経路を通過して前記出力端子に出力される第1信号の位相と、前記入力端子から入力され前記フィルタ部を通過して前記出力端子から出力される第2信号の位相と、が前記通過帯域外の周波数帯域において逆位相となり、かつ前記第1信号の振幅と、前記第2信号の振幅と、が前記周波数帯域において同一となるようなインピーダンスを有することを特徴とするフィルタ回路。
【請求項2】
前記経路は、誘導性のインピーダンスを有することを特徴とする請求項1記載のフィルタ回路。
【請求項3】
前記経路は、前記通過帯域より低周波数側において容量性から誘導性に変化するインピーダンスを有し、前記通過帯域より高周波数側において誘導性のインピーダンスを有することを特徴とする請求項1記載のフィルタ回路。
【請求項4】
前記周波数帯域は前記通過帯域より低周波数側と、前記通過帯域より高周波数側と、に位置することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載のフィルタ回路。
【請求項5】
前記経路は、前記入力端子と前記出力端子との間に直列に接続された集中定数のインダクタを含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載のフィルタ回路。
【請求項6】
前記経路は、前記入力端子と前記出力端子との間に、前記インダクタに直列に接続された集中定数のキャパシタを含むことを特徴とする請求項5記載のフィルタ回路。
【請求項7】
前記経路は、前記入力端子と前記出力端子との間に、前記インダクタに直列に接続された分布定数線路を含むことを特徴とする請求項5または6記載のフィルタ回路。
【請求項8】
前記経路は、前記インダクタと前記キャパシタとの間に直列に接続された分布定数線路を含むことを特徴とする請求項6記載のフィルタ回路。
【請求項9】
共通端子と第1端子との間に接続された第1フィルタと、
前記共通端子と第2端子との間に接続された第2フィルタと、
を含み、
前記第1フィルタおよび前記第2フィルタのうち少なくとも一方が請求項1から8のいずれか1項記載のフィルタ回路であることを特徴とする分波器。
【請求項10】
請求項9記載の分波器を含むことを特徴とするRFモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−109818(P2012−109818A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257317(P2010−257317)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】