説明

フォトマスクブランクの製造方法、フォトマスクの製造方法及び塗布装置

【課題】良好な接液によって均一なレジスト膜を形成することができるフォトマスクブランク、フォトマスク及びそれらの製造方法並びに塗布装置を提供すること。
【解決手段】レジスト液21を塗布装置に備えられたノズル22の毛細管現象により上昇させ、上昇させたレジスト液21を下方に向けられた基板10の被塗布面10aに接液させ、ノズル22と基板10とを相対的に移動させて被塗布面10aにレジスト膜を形成することを含むフォトマスクブランクの製造方法であって、接液の際には、ノズルの一端が、他端より被塗布面に接近することにより、前記ノズル内の前記塗布液が、前記ノズルの一端において、被塗布面に最初に接液し、前記最初に接液した点を接液起点として、前記一定長さのノズルの全長にわたる、接液がなされるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の表面にレジスト膜を塗布する工程を経て製造されるフォトマスクブランクの製造方法、そのフォトマスクブランクを用いて製造されるフォトマスクの製造方法、並びに塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フォトレジストなどの塗布液をフォトマスクブランク用基板やシリコンウエハ等の基板に塗布する塗布装置(コータ)としてスピンコータが知られている。スピンコータは、基板の中央に塗布液を滴下し、次いで基板を高速回転させて遠心力の作用によって塗布液を伸展させ基板表面に塗布膜を形成する。
【0003】
ところで、上記スピンコータは、基板の周縁部にレジストのフリンジと呼ばれる盛り上がりが発生する問題があった。特に、液晶表示装置や液晶表示装置製造用のフォトマスクにおいては、大型基板(例えば、少なくとも、一辺が300mm以上の方形基板)にレジストを塗布する必要があり、さらに、近年におけるパターンの高精度化や、基板サイズの大型化にともない、大型基板に均一なレジスト膜を塗布する技術の開発が望まれていた。
【0004】
かかる課題を解決するための一つの方策として、大型基板に均一なレジスト膜を塗布する技術を用いた装置として、CAPコータ(キャピラリコータ)と呼ばれる塗布装置が提供されている(例えば、特許文献1参照)。このCAPコータは、塗布液が溜められた液槽に毛管状隙間を有するノズルを沈めておき、被塗布面が下方を向いた姿勢で吸着盤によって保持された基板の当該被塗布面近傍までノズルを上昇させるとともに毛管状隙間から塗布液を接液し、次いでノズルを被塗布面に亘って相対的に走査させることにより塗布膜を形成するものである。
【0005】
具体的には、所定の高さまでレジストが満たされている液槽のレジスト中に完全に沈んだ状態のノズルを、被塗布基板の下方まで上昇させる。次いで、制御部は、液槽の上昇を一端停止させ、液槽からノズルのみを突出させる。ここで、ノズルはレジストに完全に沈んでいたので、毛管状隙間はレジストで満たされている。すなわち、ノズルは、毛管状隙間の先端までレジストが満たされた状態で上昇する。
【0006】
次いで、制御部は、ノズルのみの上昇を停止させ、再び液槽を上昇させることにより、フォトマスクブランクの被塗布面にレジストを接液する。即ち、制御部は、ノズルの毛管状隙間に満たされているレジストを被塗布面に接触させる。このようにして、レジストをフォトマスクブランクの被塗布面に接液した状態で、ノズルとともに液槽を塗布高さの位置まで下降させ、かつ、フォトマスクブランクを移動させてノズルを被塗布面全体にわたって走査させることによってレジスト膜を形成する。
【0007】
上記CAPコータを用いれば、基板の周縁部にフリンジが生ずることなく、従来のスピンコータの問題点を解決することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−327963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、従来のCAPコータにおいては、レジスト膜の塗布対象である基板に対してその塗布動作に係る移動方向と直交する幅方向の長さに延設されたノズルを基板の被塗布面の塗布開始位置に接近させてレジストを該被塗布面に接液させるようになっている。すなわち、レジストの接液時においては、基板の幅方向にほぼ同時にレジストがノズルから基板の被塗布面に接液させることを意図している。
【0010】
しかしながら、かかる方法によってレジストを基板の被塗布面に接液させる場合、基板の幅方向に亘る全領域において同時にレジストを接液させることは困難である。特に、液晶表示装置用の基板や、液晶表示装置製造用のフォトマスクにおいては、基板の大型化が急速に進み、直線状の接液部の長さは、数百mm、又は1000mmを越えるサイズとなる。このような基板にレジスト液を接液させる際、基板の幅方向の複数個所で接液した後、それらの接液点から順次接液状態が基板の幅方向に拡大することとなる。
【0011】
このように、複数個所で接液した場合、隣接する2つの接液点から拡大した接液領域同士が衝突する際にその接液部分に気泡の混入が生じる問題があった。接液部分へ気泡が混入した状態で、基板とノズルとを相対移動させて該基板の被塗布面全体にレジストを塗布すると、気泡が混入した部分によってレジスト膜の表面に線状痕が発生することとなり、均一なレジスト膜を形成することが困難になる。更に、接液領域同士の衝突は、該部分においてレジスト液量が局所的に増加し、又は減少し、この状態で基板とノズルとが相対移動すると、やはり線状痕が生じたり、膜厚の不均一が生じたりすることが、発明者によって見出された。
【0012】
なお、このような接液の不安定を抑止するために、接液起点として、被塗布面に突起を設けるなどの方法が、本出願人によって検討された。しかしながら、接液挙動は精緻に制御する必要があることが更に見出された。例えば、レジスト液の組成による物性や環境の温度により、接液時に必要な被塗布面と塗布ノズルの最適ギャップは異なる。従って、接液ギャップを所望値に制御できることが望まれる。更に、接液のための手段がフォトマスクブランクやフォトマスクに残留しないこと、更には接液のための手段を除去した痕跡も、フォトマスクに残留しないことが更に望ましい。
【0013】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、良好な接液によって均一なレジスト膜を形成することができるフォトマスクブランクの製造方法、フォトマスクの製造方法及び塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のフォトマスクブランクの製造方法は、塗布装置に備えられたノズルの長手方向に沿って開口した上端部にレジスト液を毛細管現象により上昇させ、前記ノズルの上端部に上昇させた前記レジスト液を下方に向けられた基板の被塗布面に接液させ、前記ノズルと前記基板とを前記ノズルの長手方向とは直交する方向に相対的に移動させて前記被塗布面にレジスト膜を形成する工程を経てフォトマスクブランクを得るフォトマスクブランクの製造方法であって、前記接液の際に、前記ノズルの上端部の長手方向の一端を、当該上端部の他端よりも前記被塗布面に接近させることにより、前記ノズルの上端部に上昇させた前記レジスト液を、前記ノズルの上端部の長手方向の一端から先に前記被塗布面に接液し、前記レジスト液が前記被塗布面に最初に接液した前記ノズルの上端部の長手方向の一端を接液起点として、前記ノズルの上端部の長手方向の全長にわたる接液がなされることを特徴とする。
【0015】
この方法によれば、塗布開始ラインの一端における一か所の接液起点で、レジスト液が基板の被塗布面に最初に接液することができ、これにより、複数個所で接液する場合に発生するレジスト膜への気泡の混入を防止することができる。これにより線状痕や膜厚変動のないレジスト膜を、再現性よく、確実に形成することができる。
【0016】
本発明において、前記接液の際に、前記ノズルの長手方向の一端を、前記被塗布面に向けて上昇させ、前記接液起点の接液がなされた後に、前記上昇したノズルの長手方向の一端を下降させることが好ましい。
【0017】
また本発明のフォトマスクの製造方法は、透明基板上に遮光膜を有し、前記遮光膜上にレジスト膜が形成されたレジスト膜付フォトマスクブランクを用意する工程と、前記レジスト膜付フォトマスクブランクのレジスト膜にパターンを描画し、現像することによってレジストパターンを形成する工程と、前記レジストパターンをマスクとして該遮光膜をエッチング処理する工程と、を含むフォトマスクの製造方法であって、前記レジスト膜付フォトマスクブランクは、上記フォトマスクブランクの製造方法によって製造することを特徴とする。
【0018】
この方法によれば、一か所の接液起点でレジスト液が基板の被塗布面に接液することにより、複数個所で接液する場合に発生するレジスト膜への気泡の混入や膜厚変動を防止することができる。これにより線状痕のないレジスト膜を形成することができる。従って、均一なレジスト膜によって製造されたフォトマスクにおいては、目的パターンに対する誤差の小さい金属遮光膜パターンを得ることができる。
【0019】
また本発明の塗布装置は、被塗布面を有する基板を着脱可能に保持する保持手段と、レジスト液を溜める液槽と、前記液槽中に溜められたレジスト液を長手方向に沿って開口した上端部に毛細管現象によって上昇させるノズルと、前記ノズルの上端部に上昇させた前記レジスト液を前記保持手段に保持された基板の被塗布面に対して進退させる昇降手段と、前記ノズルの上端部に上昇させた前記レジスト液を前記基板の被塗布面に接液させた状態を維持したまま、前記ノズルと前記基板と前記ノズルの長手方向とは直交する方向に相対的に移動させる移動手段とを具備し、前記接液の際には、前記ノズルの上端部の長手方向の一端を、当該上端部の他端よりも前記被塗布面に接近させることにより、前記ノズルの上端部に上昇させた前記レジスト液を、前記ノズルの上端部の長手方向の一端から先に前記被塗布面に接液し、前記レジスト液が前記被塗布面に最初に接液した前記ノズルの上端部の長手方向の一端を接液起点として、前記ノズルの上端部の長手方向の全長にわたる接液がなされることを特徴とする。
【0020】
更に、前記ノズルの上端部の長手方向の一端部だけを所定量上昇させ、前記ノズルの上端部の長手方向の一端を接液起点として、前記ノズルの上端部の長手方向の全長にわたる接液がなされた後、当該上端部の一端部を下降させるように、前記ノズルの昇降動作を制御する制御手段を備える。
【0021】
この構成によれば、確実に、塗布開始時にノズルの一端において、一か所の接液起点でレジスト液が基板の被塗布面に接液することができる。このため、複数個所で接液する場合に発生するレジスト膜への気泡の混入を防止することができる。これにより線状痕のない、膜厚分布の小さいレジスト膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、良好な接液によって均一なレジスト膜を形成することができるフォトマスクブランク、フォトマスク及びそれらの製造方法並びに塗布装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る塗布装置を示す側面図
【図2】(a)図1の塗布装置の塗布手段の構成を示す断面図、(b)図2(a)に示す矢印A方向から見た塗布手段の塗布ノズル付近の概略図
【図3】図2の塗布手段の塗布ノズルの構成を示す拡大断面図
【図4】図1の塗布装置の構成を示す正面図
【図5】基板及び塗布ノズルを示す上面図
【図6】基板及び塗布ノズルを示す正面図
【図7】本発明によるフォトマスクブランクの製造工程を示すフローチャート
【図8】本発明によるフォトマスクの製造工程を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の一実施の形態に係る塗布装置の構成を示す側面図である。図1に示すように、この塗布装置1は、ベースフレーム11と、このべースフレーム11に設置された塗布手段2と、ベースフレーム11上に移動可能に支持され移動手段4によって水平方向に移動操作される移動フレーム12と、この移動フレーム12に設けられ基板10を吸着する吸着手段3と、基板10を着脱自在に保持する保持手段5とを備えている。これら塗布手段2、吸着手段3、移動手段4及び保持手段5は、図示しない制御部によって制御される。尚、この制御部は、後述する、ノズル昇降手段の駆動を制御することができる。
【0025】
本実施の形態において、基板10は、透明基板に遮光膜(金属クロム膜、又は該クロム膜にクロム酸化物、窒化物などの層を積層したもの)が形成されたフォトマスクブランク(サイズ:1220mm×1400mm)であり、塗布装置1は、該透明基板10の遮光膜表面にレジスト剤を塗布してレジスト膜を形成するための装置である。このレジスト膜が形成されたフォトマスクブランクは、その後の描画工程においてレジスト膜にパターン描画され、さらに現像工程によってレジストパターンが形成され、該レジストパターンをマスクとした、該遮光膜のエッチング工程等を経てフォトマスクとなることができる。もちろん、フォトマスクブランクには、他の機能性の膜を更に有するものとすることもできる。
【0026】
図2(a)は、この塗布装置1における塗布手段2の構成を示す断面図である。図2(a)に示すように、塗布手段2は、液槽20に溜められた液体状のレジスト液21を塗布ノズル22の毛管状隙間23における毛細管現象により上昇させ、下方に向けられた基板10の被塗布面10aに塗布ノズル22の上端部を近接させ、塗布ノズル22により上昇されたレジスト液21を該塗布ノズル22の上端部を介して被塗布面10aに接液させるように構成されている。
【0027】
すなわち、この塗布手段2は、液体状のレジスト液21を溜める液槽20を有している。この液槽20は、基板10の横方向、すなわち、後述するように移動フレーム12によって移動される方向に直交する方向の一辺の長さに相当する長さ(図2(a)中において紙面に直交する方向となっている)を少なくとも有している。この液槽20は、支持プレート24の上端側に、上下方向に移動可能に取付けられて支持されている。そして、この液槽20は、図示しない駆動機構により、支持プレート24に対して、上下方向に移動操作される。
【0028】
また、支持プレート24は、下端側において、互いに直交して配置されたリニアウェイ25、26を介して、ベースフレーム11の底フレーム72上に支持されている。すなわち、この支持プレート24は、底フレーム72上において、直交する2方向への位置調整が可能となっている。
【0029】
支持プレート24には、スライド機構27を介して、液槽20内に収納された塗布ノズル22を支持する支持柱28が取付けられている。
【0030】
図2(b)は図2(a)に示す矢印A方向から塗布装置1における液槽20及び吸着手段3の付近をみた概略図であり、塗布ノズル22の上端部が液槽20から基板10側へ突出した状態を示している。同図に示すように、塗布ノズル22は、基板10の横方向(基板移動方向と直交する方向)の長さに相当する長さを有している。このように長尺な塗布ノズル22を複数の支持柱28a〜28cが長手方向の複数個所にて支持している。図2(b)には、塗布ノズル22の長手方向の一端部、中央部、他端部にそれぞれ独立に駆動可能に設けた3つの支持柱28a〜28cで支持した構成が示されている。スライド機構27は、3つの支持柱28a〜28cを同時に昇降駆動可能であると共に、後述する接液時には一端部の支持柱28aのみを上昇及び下降駆動可能に構成されている。例えば、スライド機構27は、パルス数によって駆動量を精緻に制御できるステッピングモータを駆動源として備えても良い。不図示の制御部が、パルス数をステッピングモータに指示して塗布ノズル22の昇降距離を高精度に制御する。
【0031】
図3は、この塗布装置1における塗布手段2の要部の構成を示す断面図である。図3に示すように、支持柱28は、液槽20の底面部に設けられた透孔20bを介して、この液槽20内に上端側を進入させている。そして、この支持柱28の上端部には、塗布ノズル22が取付けられている。この塗布ノズル22は、支持柱28に支持されて、液槽20内に収納されている。この塗布ノズル22は、少なくとも基板10の横方向の長さに相当する長さ(図3中において紙面に直交する方向となっている)を有して構成され、この長手方向に沿って、スリット状の毛管状隙間23を有している。この塗布ノズル22は、この毛管状隙間23を挟んで、尖った断面形状を有して構成されている。毛管状隙間23の上端部は、塗布ノズル22の上端部において、この塗布ノズル22の略全長に亘りスリット状に開口している。また、この毛管状隙間23は、塗布ノズル22の下方側に向けても開口されている。
【0032】
スライド機構27(図2)は、図示しない駆動機構により、制御部の制御にしたがって、支持柱28を支持プレート24に対して上下方向に移動させる。すなわち、液槽20と塗布ノズル22とは、互いに独立的に、支持プレート24に対して上下方向に移動可能となっている。
【0033】
液槽20の上面部には、塗布ノズル22の上端側がこの液槽20の上方側に突出されるための透孔部20aが設けられている。なお、液槽20の底面部の透孔20bの周囲部と塗布ノズル22の底面部とは、蛇腹29で繋がれており、この透孔20bからレジスト液21が漏れることが防止されている。
【0034】
図1において、移動フレーム12は、吸着手段3を介して基板10を吸着保持し、この基板10を塗布手段2に対して水平方向に移動させる機構である。この移動フレーム12は、対向する一対の側板と、これら側板を連結する天板とが一体的に連結されて構成されており、剛性不足により基板10と塗布手段2との位置精度が狂うことがないように、十分な機械的強度を有して構成されている。
【0035】
この移動フレーム12は、ベースフレーム11上に設置されたリニアウェイ41を介して、ベースフレーム11により支持されており、このベースフレーム11上を水平方向に移動可能となされている。また、この移動フレーム12の一方の側板には、移動部材13が取付けられている。この移動部材13には、ナット部が形成されている。この移動部材13のナット部には、ベースフレーム11に取付けられた移動手段4を構成するボールスクリュー42が螺合する。
【0036】
そして、この移動フレーム12の天板の略中央部には、図示しない複数の吸着孔が穿設された吸着板を有し、基板10を吸着する吸着手段3が取り付けられている。
【0037】
移動手段4は、移動部材13のナット部に螺合するボールスクリュー42と、ボールスクリュー42を回転操作するモータ43とから構成されている。この移動手段4において、モータ43は、制御部による制御にしたがって駆動され、ボールスクリュー42を回転させる。制御部による制御によって、ボールスクリュー42が所定の方向に所定の回転数だけ回転されることにより、移動部材13は、所定の方向ヘ所定の距離だけ移動フレーム12を伴って水平に移動操作される。
【0038】
なお、吸着手段3と塗布手段2との垂直方向の位置(高さ)精度は、リニアウェイ41と吸着手段3との間の距離(高さ)の誤差、リニアウェイ41と塗布手段2との間の距離(高さ)の誤差及びリニアウェイ41そのものの形状誤差によって決まる。
【0039】
保持手段5は、この塗布装置外より搬入される基板10を、まず、略垂直に傾斜した状態で保持し(図1において破線で示す)、次にこの基板10を水平状態として、この基板10を移動フレーム12に取付けられた吸着手段3に受け渡すための機構である。また、この保持手段5は、塗布手段2によるレジスト剤の塗布が完了した基板10を吸着手段3から受取って水平状態として保持し、次に、この基板10を略垂直に傾斜した状態として、この基板10のこの塗布装置外への搬出を可能とするための機構である。
【0040】
図4は、塗布装置1の構成を示す正面図である。なお、本実施の形態においては、塗布装置1の基板10の搬入側を正面とする。図1及び図4に示すように、この保持手段5は、ベースプレート69と、このベースプレート69上において、水平状態と略垂直に傾斜した状態とに亘って回動可能に支持された回動プレート65とを有して構成されている。
【0041】
そして、この保持手段5は、回動プレート65上に、リニアウェイ64、一対のレール63及びリニアウェイ62を介して、それぞれが保持プレート61に固定された4個の保持部材55を備えている。これら保持部材55は、基板10の四隅の周縁部を保持するものである。
【0042】
各保持部材55の近傍には、保持部材55にセットされた基板10が保持部材55から外れないように、図示しない押さえ手段が設けられている。この押さえ手段は、例えば、上下動及び水平方向への回動が可能となされた押さえプレートにより構成されている。この押さえ手段は、保持部材55にセットされた基板10を保持部材55側に押さえ付けるようになっている。
【0043】
保持プレート61は、リニアウェイ62を介して、図1中矢印Yで示すベースフレーム11上のリニアウェイ41に平行な方向に配設された一対のレール63上に各二個ずつが配設されている。塗布手段2に近い側の2個の保持プレート61は、ボールスクリューとモータとを有する図示しない駆動手段により、図1中矢印Y方向に移動操作可能となっている。これにより、基板10の縦寸法が異なる場合であっても、この駆動手段により2個の保持プレート61をY方向に移動させて、各保持部材55を基板10の四隅の周縁部に対向させることができる。
【0044】
また、一対のレール63は、図1中矢印Xで示すベースフレーム11上のリニアウェイ41に直交する方向に配設されたリニアウェイ64を介して、それぞれの両端部において回動プレート65に取り付けられている。これらレール63は、ボールスクリューとモータを有する図示しない駆動手段により、図1中矢印X方向に移動可能となっている。これにより、基板10の横寸法が異なる場合であっても、この駆動手段により2個の保持プレート61をX方向に移動させて、各保持部材55を基板10の四隅の周縁部に対向させることができる。
【0045】
回動プレー卜65は、塗布手段2から遠い側の端部が、回動軸66により、ベースプレート69に対して回動可能に支持されている。この回動プレー卜65は、水平状態となったときには、塗布手段2に近い側の端部をベースプレート69上に突設されたストッパ68により支持される。
【0046】
そして、この回動プレート65は、一端側をベースプレート69に取付けられた回動シリンダ67により、回動軸66回りに回動操作される。すなわち、この回動シリンダ67は、他端側が回動プレート65に連結されており、伸縮可能となっている。
【0047】
また、ベースプレート69には、下面の四隅に、ガイド棒71が突設されている。これらガイド棒71は、ベースフレーム11に固定された保持手段フレーム70に貫通されている。ベースプレート69は、これらガイド棒71が保持手段フレーム70にガイドされることにより、水平状態を維持したまま、保持手段フレーム70に対して昇降移動することができる。そして、ベースプレート69は、ベースフレーム11の底フレーム72上に設置されたエアシリンダ等の昇降手段73により、垂直方向に昇降移動可能となっている。
【0048】
次に、本実施の形態に係る塗布装置1の塗布工程及び該塗布工程における接液方法について説明する。塗布装置1において、略垂直に傾斜した状態で保持された保持手段5に塗布装置外より搬入された基板10が保持され、該基板10が保持手段5に保持されながら保持手段5の回動動作及び水平移動動作に伴って吸着手段3に受け渡される。
【0049】
図5は、保持手段5(図1)に保持されて水平移動する基板10及び塗布ノズル22の先端部を示す上面図である。なお、図5において、基板10及び塗布ノズル22以外は省略している。
【0050】
水平に保持された基板10はその下側の被塗布面10a(図2)に遮光膜(クロム層10b)が形成されており、塗布装置1は、この被塗布面10aを下側に向けた状態で保持手段5により図中の矢印方向へ基板10を水平移動させることにより、塗布ノズル22の上を横切るように移動させる。そして、基板10の縁部10cの一端部(角部)付近であって、被塗布面上の、塗布開始位置において停止する。この縁部10cは、基板10の水平移動方向に対して直交する方向の縁部である。本実施の形態では、基板10の水平移動方向に対して直交する方向に塗布ノズル22がその長手方向を合わせるようにして対向するようになっており、この塗布ノズル22の長手方向に対向する基板10の縁部10c付近の一か所(塗布開始点)においてレジスト液21が基板10に接液することとなる。なお、一か所の接液起点とは、レジスト液21の塗布開始位置(図5の場合には基板10の縁部10c付近、具体的には縁部10cから塗布方向に、0〜5mm程度内側の地点)において一か所であることを意味している。尚、基板10と塗布ノズル22の相対移動は、いずれの一方が他方に対して移動してもよく、また双方が移動してもよい。
【0051】
基板10の塗布開始位置が塗布ノズル22の上方まで移動されると、塗布装置1は、この位置で基板10の水平移動を一旦停止させ、塗布ノズル22を上昇させる。このとき、図6(a)に示すように、塗布ノズル22と被塗布面10aが所定距離になるまで、塗布ノズル22が上昇する。尚、塗布ノズル22が既に上昇した状態で、内部に塗布ノズル22を収容した液槽20が上昇してもよい。結果として、塗布ノズル22は、被塗布面10aに対して、例えば10〜80μm程度まで接近する。このとき塗布ノズル22の先端部には、該塗布ノズル22の毛管状隙間23に保持されたレジスト液21が盛り上がった状態となっている。
【0052】
次いで、図6(b)に示すように、塗布ノズル22の長手方向の一端を支持する支持柱28aだけを上昇駆動して、塗布ノズル22の長手方向の一端を基板10(被塗布面10a)の対向する一端部に更に近接させる。具体的には、塗布ノズル22の先端に盛り上がったレジスト液が一点で被塗布面10aに最初に接液できる距離分だけ上昇する。例えば、この上昇量は、5〜50μmとすることができる。
【0053】
尚、レジスト液を被塗布面10aに対して一点で接液させる際の上昇量は、制御部にあらかじめパルス数として設定することができ、スライド機構27の駆動源となるステッピングモータにそのパルス数を与えることでステピングモータの駆動量として精緻に動作させることができる。
【0054】
接液起点から接液したレジスト液は、塗布ノズル22の長手方向の他端に向けて、速やかに塗布ノズル22の全長にわたって拡大し、接液点から接液ラインとなる。
【0055】
塗布ノズル22の全長にわたって接液ラインが形成された後、一端部の支持柱28aを下降させることにより、片側だけ上昇させていた塗布ノズル22の一端を下降させ、塗布ノズル22を水平姿勢に戻す。そして、図6(c)に示すように、さらに塗布ノズル22全体を、所定量下降させ、塗布ノズル22と被塗布面の間を、塗布動作に適した距離(塗布ギャップという)になるようにする。塗布ギャップは、100〜500μm、好ましくは200〜400μmとすることができる。
【0056】
尚、上記のように塗布ノズル22を傾斜させるのではなく、水平位置のままで被塗布面10aへの接液を行うと、塗布ノズル22に沿った複数個所で偶発的に接液起点が生じ、例えば隣接する2つの接液起点から互いに対向する方向に接液領域が拡がることとなって、これらの接液領域が衝突する部分でレジスト液21への気泡の混入が発生することになるが、本実施の形態の塗布装置1においては、1つの接液起点を起点として接液領域が一方向へ拡がることにより、基板10に接液したレジスト液21への気泡の混入や、衝突の衝撃による液だまり(メニスカス)形状の不安定化を防止することができる。
【0057】
このようにして、塗布ノズル22の全長にわたって、基板10への接液がなされ、塗布ギャップが調整されたら、レジスト液21を接液させた状態で基板10を水平移動させることにより、基板10の被塗布面10aにレジスト液21が塗布される。この場合、レジスト液21が最初に接液した時点で該レジスト液21に気泡が混入することが防止されることにより、基板10の被塗布面10aに塗布されたレジスト液21の層には、気泡等による線状痕が発生することなく、均一なレジスト膜を形成することができる。被塗布面全体への塗布が終了したら、塗布ノズル22を離間させる。
【0058】
そして、塗布装置1によってレジスト膜が形成された基板10を、乾燥後に、塗布装置10から搬出する。
【0059】
次に、上述した塗布装置1を用いたフォトマスクブランクの製造工程について説明する。
図7は、本実施の形態に係るフォトマスクブランクの製造工程を示すフローチャートである。図7に示すように、塗布装置1では、基板10を搬入して保持手段5にセットし(ステップST11)、保持手段5によって基板10を水平に保持しながらこれを水平移動させて塗布手段2の上部の塗布位置まで移動させる(ステップST12)。このステップにおいて、塗布装置1では、塗布ノズル22の上部に基板10の塗布開始位置である縁部10c付近の所定位置がくるように位置決めされる。そして、この状態において、液槽20を上昇させ、ある位置からは液槽20の上昇を停止させて支持柱28a〜28cを上昇駆動する。図6(a)に示すように塗布ノズル22と被塗布面10aとの間が所定距離となったところで、支持柱28a〜28cの上昇駆動を停止させる。次に、図6(b)に示すように、長尺な塗布ノズル22の一端だけが上昇するように一端部を支持する支持柱28aだけを上昇させる(ステップST13)。このとき、塗布ノズル22の長手方向の一端部が被塗布面10aに接液する上昇量だけ上昇させる。この結果、一か所の接液起点からレジスト液21が基板10に接液する(ステップST14)。基板10の塗布開始位置の全長に亘ってレジスト液21が接液すると、塗布ノズル22の長手方向の一端を支持する支持柱28aだけを上記上昇量だけ下降させて、塗布ノズル22を水平状態に戻す。さらに、塗布ノズル22全体を僅かに下降させて塗布ノズル22と被塗布面10aとの間に適切な塗布ギャップを形成する(ステップST15)。そして、この状態において、基板10を水平移動させて(すなわち、基板10と塗布ノズル22とを相対移動させて)、レジスト液21を基板10の被塗布面10aに塗布する(ステップST16)。尚、基板10の代わりに、ノズルを移動させてもよい。これにより、基板10にはレジスト液21が塗布され、その後、塗布されたレジスト液21を乾燥させ、搬出する(ステップST17)。かくして、これらの処理工程によって、フォトマスクブランクが製造される。
【0060】
また、図8は、図7の工程により完成したフォトマスクブランクを用いてフォトマスクを製造する工程を示すフローチャートである。図8に示すように、フォトマスクの製造工程においては、まず、フォトマスクブランクの表面に形成されたレジスト膜に対して描画処理を行い(ステップST21)、続いて該レジスト膜の現像処理、ついで該レジスト膜をマスクとした遮光膜のエッチング処理を実行する(ステップST22、ステップST23)。これにより、遮光膜に所定のパターンが形成される。そして、最後にレジスト膜を剥離することにより(ステップST24)、フォトマスクが完成する。尚、図8は、透明基板上に遮光膜による遮光パターンが形成された、いわゆるバイナリマスクについての工程であるが、用途に応じて、遮光膜を積層にし、或いは遮光膜と半透光膜、或いは他の機能性の膜とを用いた、積層構成のフォトマスクに本発明を適用することももちろん可能である。その場合には、フォトリソ工程が2回以上になり、これらのそれぞれの工程において、本発明のレジスト液塗布方法を適用することが可能であり、それにより更に良好な効果が得られる。
【0061】
(他の実施の形態)
なお上述の実施の形態においては、塗布ノズル22の長さと被塗布面積の幅が同じである場合について述べたが、本発明ではこれに限定されるものではなく、塗布ノズル22の長さが基板10の幅よりも長い場合であっても本発明を適用することができる。
【0062】
また上述の実施の形態においては、サイズが1220mm×1400mmのフォトマスクブランクを製造する場合について述べたが、本発明ではこれに限定されるものではなく、種々の大きさのフォトマスクブランクを製造する場合に適用することができる。特に一辺が1000mm以上の大型マスクにおいて、本発明の効果が顕著である。このような大型マスク用のブランクスにおいても、例えば、乾燥後の膜厚変動が3%以下、更には、2%以下にまで抑制することが可能であり、特に、レジストの塗布開始から、レジスト膜面積の30%が塗布される地点までの領域において、膜厚変動を1%以下に抑えることが可能であった。
【0063】
以上、本発明に係る塗布装置及び製造方法について好ましい実施の形態を示して説明したが、本発明では前述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、例えば、フラットパネルディスプレイ(FPD)を製造するためのフォトマスクブランク及びフォトマスクを製造する場合に適用可能である。
【符号の説明】
【0065】
1…塗布装置
2…塗布手段
3…吸着手段
4…移動手段
5…保持手段
10…基板
10a…被塗布面
10c…縁部
11…ベースフレーム
12…移動フレーム
20…液槽
21…レジスト液
22…塗布ノズル
23…毛管状隙間
28a〜28c…支持柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布装置に備えられたノズルの長手方向に沿って開口した上端部にレジスト液を毛細管現象により上昇させ、前記ノズルの上端部に上昇させた前記レジスト液を下方に向けられた基板の被塗布面に接液させ、前記ノズルと前記基板とを前記ノズルの長手方向とは直交する方向に相対的に移動させて前記被塗布面にレジスト膜を形成する工程を経てフォトマスクブランクを得るフォトマスクブランクの製造方法であって、
前記接液の際に、前記ノズルの上端部の長手方向の一端を、当該上端部の他端よりも前記被塗布面に接近させることにより、前記ノズルの上端部に上昇させた前記レジスト液を、前記ノズルの上端部の長手方向の一端から先に前記被塗布面に接液し、
前記レジスト液が前記被塗布面に最初に接液した前記ノズルの上端部の長手方向の一端を接液起点として、前記ノズルの上端部の長手方向の全長にわたる接液がなされることを特徴とするフォトマスクブランクの製造方法。
【請求項2】
前記接液の際に、前記ノズルの長手方向の一端を、前記被塗布面に向けて上昇させ、前記接液起点の接液がなされた後に、前記上昇したノズルの長手方向の一端を下降させることを特徴とする請求項1に記載のフォトマスクブランクの製造方法。
【請求項3】
透明基板上に遮光膜を有し、前記遮光膜上にレジスト膜が形成されたレジスト膜付フォトマスクブランクを用意する工程と、
前記レジスト膜付フォトマスクブランクのレジスト膜にパターンを描画し、現像することによってレジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンをマスクとして該遮光膜をエッチング処理する工程と、
を含むフォトマスクの製造方法であって、
前記レジスト膜付フォトマスクブランクは、請求項1又は2に記載された製造方法によって製造することを特徴とするフォトマスクの製造方法。
【請求項4】
被塗布面を有する基板を着脱可能に保持する保持手段と、
レジスト液を溜める液槽と、
前記液槽中に溜められたレジスト液を長手方向に沿って開口した上端部に毛細管現象によって上昇させるノズルと、
前記ノズルの上端部に上昇させた前記レジスト液を前記保持手段に保持された基板の被塗布面に対して進退させる昇降手段と、
前記ノズルの上端部に上昇させた前記レジスト液を前記基板の被塗布面に接液させた状態を維持したまま、前記ノズルと前記基板と前記ノズルの長手方向とは直交する方向に相対的に移動させる移動手段と、
を具備し、
前記接液の際には、前記ノズルの上端部の長手方向の一端を、当該上端部の他端よりも前記被塗布面に接近させることにより、前記ノズルの上端部に上昇させた前記レジスト液を、前記ノズルの上端部の長手方向の一端から先に前記被塗布面に接液し、
前記レジスト液が前記被塗布面に最初に接液した前記ノズルの上端部の長手方向の一端を接液起点として、前記ノズルの上端部の長手方向の全長にわたる接液がなされることを特徴とする塗布装置。
【請求項5】
前記ノズルの上端部の長手方向の一端部だけを所定量上昇させ、前記ノズルの上端部の長手方向の一端を接液起点として、前記ノズルの上端部の長手方向の全長にわたる接液がなされた後、当該上端部の一端部を下降させるように、前記ノズルの昇降動作を制御する制御手段を有することを特徴とする請求項4に記載の塗布装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−13321(P2011−13321A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155484(P2009−155484)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】