説明

ブレーキシステム

【課題】ブレーキシステムの信頼性を向上させる。
【解決手段】増圧リニア制御弁172の閉状態において、ポンプ装置65の作動により、増圧リニア制御弁172の動力式液圧源側の液圧を第1設定圧PACC0とする。保持弁153、増圧機構遮断弁192を閉状態として、増圧リニア制御弁172を開状態とする。ブレーキシリンダ圧センサ226の検出値が異常判定しきい値Pthより大きくなれば、制御系は正常であり、異常判定しきい値Pthに達しない場合には制御系は異常であるとされる。制御系が正常であるか否かが検出されるのであり、ブレーキシステムの信頼性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキシステムにおける制御系の検査に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、(a)車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、(b)マスタシリンダと、(c)アキュムレータと、(d)そのアキュムレータの液圧を利用して、電気アクチュエータの駆動により作動させられる増圧機構と、(e)その増圧機構の液圧とマスタシリンダの液圧とのうち高い方を選択して液圧ブレーキのブレーキシリンダに供給する選択バルブとを備えたブレーキシステムが記載されている。
電気アクチュエータが正常である場合には、増圧装置は電気アクチュエータにより作動させられ、異常である場合には、マスタシリンダの液圧より作動させられる。また、アキュムレータから高圧の作動液が供給され得る場合には、マスタシリンダの液圧より高い液圧を発生させることができるが、アキュムレータの液圧が低くなると、増圧機構の出力液圧も低くなる。
特許文献2には、(a)車両の前後左右の車輪に設けられ、車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、(b)マスタシリンダと、(c)マスタシリンダと前輪の液圧ブレーキのブレーキシリンダとの間に設けられた機械式倍力機構と、(d)ポンプ装置とブレーキシリンダとの間に設けられた電磁弁とを備えたブレーキシステムが記載されている。このブレーキシステムにおいて、ブレーキシリンダ液圧センサの検出値と目標液圧との差が大きい場合には、電磁弁等が異常であるとされる。電磁弁等が正常な場合には、電磁弁によって制御されたポンプ装置の液圧が前輪および後輪のブレーキシリンダに供給される。電磁弁等が異常である場合には、前輪のブレーキシリンダには機械式増圧機構により発生させられた液圧が供給され、後輪のブレーキシリンダにはマスタシリンダの液圧が供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009−502645号公報
【特許文献2】特開平10−287227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、液圧ブレーキシステムにおいて、制御系の検査の信頼性を向上させることである。
【課題を解決するための手段および効果】
【0005】
請求項1に係るブレーキシステムは、(a)車両の複数の車輪にそれぞれ設けられ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられて、その車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、(b)電気エネルギの供給により液圧を発生させる動力式液圧源と、(c)その動力式液圧源が接続されるとともに、前記複数の液圧ブレーキのブレーキシリンダが接続された共通通路と、(d)その共通通路と前記動力式液圧源とを接続する制御圧通路に設けられ、前記動力式液圧源の出力液圧を制御して前記共通通路に供給する出力液圧制御弁と、(e)前記出力液圧制御弁の前記動力式液圧源側の液圧を検出する液圧源液圧センサと、(f)前記出力液圧制御弁の前記共通通路側の液圧を検出する制御圧センサと、(g)前記共通通路の前記制御圧通路との接続部および前記制御圧センサと、前記複数のブレーキシリンダとの間に設けられ、前記接続部および前記制御圧センサと前記複数のブレーキシリンダとを連通させたり遮断したりする連通遮断装置と、(h)その連通遮断装置によって前記接続部および前記制御圧センサと前記複数のブレーキシリンダとが連通させられた状態で、少なくとも前記出力液圧制御弁を制御することによって、前記共通通路の液圧を制御して前記複数のブレーキシリンダの液圧を制御するブレーキ液圧制御装置とを含むブレーキシステムであって、前記連通遮断装置により前記接続部および前記制御圧センサが前記複数のブレーキシリンダから遮断された状態で、前記出力液圧制御弁を閉状態から開状態に切り換えた後に、前記液圧源液圧センサの検出値と前記制御圧センサの検出値とを比較して、当該ブレーキシステムの制御系が正常であるか否かの制御系検査を実行する制御系検査装置を含むものとされる。
共通通路には、複数のブレーキシリンダが接続されるとともに動力式液圧源が接続される。動力式液圧源と共通通路とを接続する制御圧通路には出力液圧制御弁が設けられ、動力式液圧源の液圧が出力液圧制御弁によって制御されて、共通通路に供給される。共通通路とブレーキシリンダとが連通させられた状態においては、共通通路の液圧がブレーキシリンダに供給されるのであり、出力液圧制御弁によって制御された動力式液圧源の液圧が供給される。
また、制御系が正常であり、出力液圧制御弁の動力式液圧源側の液圧が共通通路側の液圧より高い場合において、出力液圧制御弁を閉状態から開状態に切り換えれば、動力式液圧側の液圧と共通通路側の液圧とはほぼ同じになるはずである。そのため、出力液圧制御弁が開状態に切り換えられた後の、液圧源液圧センサの検出値と制御圧センサの検出値とを比較すれば、制御系が正常であるか否かの検査を行うことができる。
この場合において、共通通路から複数のブレーキシリンダ、すなわち、作動液の消費量が多い要素がすべて遮断される。また、共通通路の弾性変形量、作動液の圧縮量は小さい。そのため、出力液圧制御弁が閉状態から開状態に切り換えられれば、共通通路の液圧は速やかに、かつ、確実に増加するはずである。したがって、出力液圧制御弁が閉状態から開状態に切り換えられた場合の、液圧源液圧センサの検出値と制御圧センサの検出値とを比較すれば、正確に、かつ、速やかに制御系の検査を行うことができるのであり、制御系の検査の信頼性を向上させることができる。
なお、制御圧センサは、出力液圧制御弁より共通通路側に設けられたものであり、制御圧通路に設けても、共通通路に設けても良い。
また、連通遮断装置は、複数の電磁開閉弁を含むものであり、例えば、ブレーキシリンダと共通通路との間に設けられた電磁開閉弁(例えば、個別制御弁)を含むものとしたり、共通通路に設けられた電磁開閉弁(例えば、前後遮断弁、左右遮断弁)を含むものとしたりすることができる。前後遮断弁や左右遮断弁を閉状態とすれば、接続部等から2つ以上のブレーキシリンダを遮断することが可能となる。
なお、特許文献1には制御系の検査についての記載はない。
特許文献2に記載の制御系の検査においては、電磁弁の上流側に設けられたセンサの検出値と下流側に設けられたセンサの検出値とが比較されるのではなく、本願請求項1に係るブレーキシステムにおける制御系の検査とは異なる。
【特許請求可能な発明】
【0006】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。請求可能発明は、少なくとも、請求の範囲に記載された発明である「本発明」ないし「本願発明」を含むが、本願発明の下位概念発明や、本願発明の上位概念あるいは別概念の発明を含むこともある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組を、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0007】
(1)車両の複数の車輪にそれぞれ設けられ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられて、その車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
電気エネルギの供給により液圧を発生させる動力式液圧源と、
その動力式液圧源が接続されるとともに、前記複数の液圧ブレーキのブレーキシリンダが接続された共通通路と、
その共通通路と前記動力式液圧源とを接続する制御圧通路に設けられ、前記動力式液圧源の出力液圧を制御して前記共通通路に供給する出力液圧制御弁と、
前記出力液圧制御弁の前記動力式液圧源側の液圧を検出する液圧源液圧センサと、
前記出力液圧制御弁の前記共通通路側の液圧を検出する制御圧センサと、
前記共通通路の前記制御圧通路との接続部および前記制御圧センサと、前記複数のブレーキシリンダとの間に設けられ、前記接続部および前記制御圧センサと前記複数のブレーキシリンダとを連通させたり遮断したりする連通遮断装置と、
その連通遮断装置によって前記接続部および前記制御圧センサと前記複数のブレーキシリンダとが連通させられた状態で、少なくとも前記出力液圧制御弁を制御することによって、前記共通通路の液圧を制御して前記複数のブレーキシリンダの液圧を制御するブレーキ液圧制御装置と
を含むブレーキシステムに、
前記連通遮断装置により前記接続部および前記制御圧センサが前記複数のブレーキシリンダから遮断された状態で、前記出力液圧制御弁を閉状態から開状態に切り換えた後に、前記液圧源液圧センサの検出値と前記制御圧センサの検出値とを比較して、当該ブレーキシステムの制御系が正常であるか否かの制御系検査を実行する制御系検査装置を設けたことを特徴とするブレーキシステム。
出力液圧制御弁は、ソレノイドに電流が供給されない場合に閉状態にある常閉の電磁開閉弁であっても、電流が供給されない場合に開状態にある常開の電磁開閉弁であってもよい。また、ソレノイドへの供給電流量の連続的な制御により前後の差圧(および/または)開度を連続的に制御可能なリニア制御弁であっても、ソレノイドへの供給電流のON・OFFにより開状態と閉状態とに切り換え可能な単なる開閉弁であってもよい。以下、本明細書において、特に記載しない限り、電磁開閉弁とは、リニア制御弁、単なる開閉弁のいずれであってもよいものとする。
動力式液圧源は、電気エネルギの供給により作動させられるものであり、例えば、ポンプ装置を含むものとすることができる。また、アキュムレータを含むものとすれば、高圧の作動液を速やかに共通通路に供給することが可能となる。動力式液圧源がアキュムレータを含む場合において、アキュムレータに蓄えられた作動液の液圧を検出するアキュムレータ圧センサが設けられていることが多いため、アキュムレータ圧センサを液圧源液圧センサとして利用することができる。
(2)前記制御系検査装置が、前記液圧源液圧センサの検出値が第1設定圧より大きい場合に、前記出力液圧制御弁を閉状態から開状態に切り換え、その後に、前記制御圧センサの検出値が、前記第1設定圧で決まる異常判定しきい値以上である場合に、前記制御系が正常であるとする第1制御系検査部を含む(1)項に記載のブレーキシステム。
出力液圧制御弁の閉状態において、液圧源液圧センサの検出値が第1設定圧より高く、かつ、制御圧センサの検出値が第1設定圧以下の状態にある。例えば、液圧ブレーキの非作用状態においては、制御圧センサの検出値(例えば、共通通路の液圧)はほぼ大気圧にある。
この状態において、共通通路から複数のブレーキシリンダが遮断されて、出力液圧制御弁が閉状態から開状態に切り換えられて、制御圧センサの検出値が、第1設定圧で決まる異常判定しきい値以上になれば、制御系は正常であるとされる。
異常判定しきい値は第1設定圧とほぼ同じ大きさとしたり、第1設定圧より多少小さい値としたりすることができる。
また、第1設定圧が小さい場合は異常判定しきい値も小さくされ、第1設定圧が大きい場合は異常判定しきい値も大きい値とされる。そして、異常判定しきい値が小さい値とされた場合は、制御圧センサにおける検査範囲が狭くなるが、異常判定しきい値が大きい値とされた場合には、検査範囲を広くすることができ、より一層、検査の信頼性を向上させることができる。
第1設定圧が、ブレーキシリンダ液圧の制御において用いられる液圧範囲の上限値近傍の値(制御用上限値)とされれば、ブレーキシリンダの制御において使用される範囲において制御圧センサの検査を行うことができる。
異常判定しきい値が、制御圧センサの圧力検出可能範囲の上限値近傍の値に決定されるように、第1設定圧(センサ用上限値)の値が設定されれば、制御圧センサの圧力の検出可能な範囲において検査を行うことができる。
なお、第1設定圧を、制御用上限値とセンサ用上限値とのうちの大きい方とすれば、制御圧センサの検査の信頼性をより一層高めることができる。
(3)前記出力液圧制御弁が、自身の前後の差圧を、ソレノイドへの供給電流が大きい場合に小さい場合より小さい値に制御可能なリニア制御弁であり、
前記制御系検査装置が、前記ソレノイドへの供給電流の増加に伴って、前記液圧源液圧センサの検出値から前記制御圧センサの検出値を引いた値である前後の差圧が小さくなる場合に、前記制御系が正常であるとする第2制御系検査部を含む(1)項または(2)項に記載のブレーキシステム。
例えば、出力液圧制御弁において、ソレノイドへの供給電流量に応じた電磁駆動力Fdと、前後の差圧に応じた差圧作用力Fpとが、弁子を弁座から離間させる向きに作用し、スプリングの付勢力Fsが弁子を弁座に着座させる向きに作用する場合(Fp+Fd:Fs)において、ソレノイドに電流が供給されない場合には、原則として、閉状態にある。ソレノイドに電流が供給され、差圧作用力Fpと電磁駆動力Fdとの和がスプリングの付勢力Fsより大きくなると(Fp+Fd>Fs)、開状態に切り換えられる。出力液圧制御弁を閉状態から開状態に切り換える場合の、差圧とソレノイドへの供給電流との関係(出力液圧制御弁の開弁特性)を図3(b)に示す。この場合において、スプリングの付勢力Fsはほぼ一定であると考えることができるため、出力液圧制御弁を開状態に切り換えるのに必要な電磁駆動力Fdは、差圧が大きいほど小さくてよいことがわかる。また、この特性から、出力液圧制御弁において、ソレノイドへの供給電流量を漸増させれば、前後の差圧が漸減させられることがわかる。
この出力液圧制御弁の特性に基づき、ソレノイドへの供給電流量を漸増させた場合に、前後の差圧(液圧源液圧センサの検出値と制御圧センサの検出値との差)が漸減すれば、制御系が正常であるとすることができる。
なお、制御系の検査中、動力式液圧源の液圧がほぼ一定であると考えることができる場合には、差圧が小さくなるということは、出力液圧制御弁の共通通路側の液圧が大きくなることである。そのため、供給電流量の増加に伴って制御圧センサの検出値が大きくなった場合に、制御系が正常であるとすることができる。
(4)当該ブレーキシステムが、(a)運転者のブレーキ操作により液圧を発生させるマニュアル式液圧源と、(b)前記動力式液圧源の液圧を利用して前記マニュアル式液圧源の液圧を増圧して出力可能な増圧機構とを含み、
その増圧機構が前記共通通路に接続され、
前記連通遮断装置が、前記接続部および前記制御圧センサと前記増圧機構とを連通させたり遮断したりする増圧機構連通遮断部を含み、かつ、
前記制御系検査装置が、前記連通遮断装置によって前記接続部および前記制御圧センサから前記複数のブレーキシリンダと前記増圧機構とが遮断された状態で、前記制御系検査を行う第3制御系検査部を含む(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載のブレーキシステム。
増圧機構連通遮断部は、増圧機構に対応して設けられた電磁開閉弁(例えば、増圧機構と共通通路との間に設けられた増圧機構遮断弁が該当する)としても、複数のブレーキシリンダを連通・遮断するために設けられた電磁開閉弁としてもよい。例えば、共通通路に設けられた前後遮断弁(ブレーキシリンダを接続部等から遮断することができる)が閉状態とされることにより、増圧機構も接続部等から遮断することができる場合には、前後遮断弁を増圧機構連通遮断部とすることができる。前後遮断弁は、ブレーキシリンダを遮断する機能と増圧機構を遮断する機能との両方を備えたものであると考えられる。
例えば、制御系検査が、ブレーキ操作部材の非操作状態において行われる場合において、増圧機構が、マニュアル式液圧源の液圧により作動させられるものであり、ブレーキ操作部材の非操作状態においてマニュアル式液圧源に連通させられるものである場合には、制御系の検査において増圧機構が共通通路に連通させられると、共通通路の液圧が増圧機構を介してマニュアル式液圧源に流出するおそれがある。その場合には、制御系の検査時に、増圧機構が共通通路から遮断されることが望ましい。
(5)前記共通通路に、前記複数のブレーキシリンダのうちの1つ以上がそれぞれ個別通路を介して接続されるとともに、前記増圧機構がサーボ圧通路を介して接続され、かつ、前記連通遮断装置が、(a)前記個別通路の各々に設けられた上流側個別制御弁と、(b)前記サーボ圧通路に設けられた増圧機構連通遮断弁と、(c)前記上流側個別制御弁のすべてと前記増圧機構遮断弁とを、それぞれ、開状態と閉状態とに切り換えるバルブ制御部とを含み、
前記第3制御系検査部が、前記上流側個別制御弁すべてと前記増圧機構連通遮断弁とが閉状態にされた状態で、前記制御系検査を行うものである(4)項に記載のブレーキシステム。
本項に記載のブレーキシステムにおいては、個別通路の各々に設けられた個別制御弁(上流側個別制御弁)、増圧機構と共通通路との間に設けられた増圧機構遮断弁等によって連通遮断装置が構成される。
上流側個別制御弁は、各ブレーキシリンダの液圧を制御する際にも使用されるものとすることができる。複数のブレーキシリンダの1つ以上に対応して設けられた上流側個別制御弁は、制御系の検査において共通に開閉させられるが、ブレーキシリンダ液圧の制御において個別に開閉させられる。
増圧機構遮断弁についても同様であり、制御系の検査において、すべての上流側個別制御弁と共通に開閉させられるが、ブレーキシリンダ液圧の制御において、上流側個別制御弁とは別個に開閉させられる。
複数のブレーキシリンダが、それぞれ、共通通路に個別に接続される場合には、上流側個別制御弁は、複数のブレーキシリンダの各々に対応して設けられる。それに対して、左右後輪のブレーキシリンダが、1つの個別通路を介して共通通路に設けられる場合には、左右後輪のブレーキシリンダに対応して1つの上流側個別制御弁が設けられる。この場合には、左右後輪のブレーキシリンダの液圧は共通に制御される。
(6)前記制御系検査装置が、低圧源と前記複数のブレーキシリンダとが連通させられた状態で、前記制御系検査を行う第4制御系検査部を含む(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載のブレーキシステム。
制御系検査が液圧ブレーキの非作用状態において行われる場合において、何らかの原因で、連通遮断装置を経て共通通路の液圧が流出させられる場合があり、それによって、液圧ブレーキが作動させられるおそれがある。
それに対して、ブレーキシリンダが低圧源に連通させられた状態で制御系検査が行われるようにすれば、たとえ、連通遮断装置を経て共通通路の液圧が流出させられても、液圧ブレーキの作動を防止することができるのであり、引きずりを防止することができる。
低圧源は、作動液を大気圧で収容するリザーバとしたり、ブレーキ操作部材が操作されていない場合のマニュアル式液圧源としたりすることができる。
(7)当該ブレーキシステムが、(a)低圧源と、(b)その低圧源と前記複数のブレーキシリンダのうちの1つ以上との間に、それぞれ設けられた下流側個別制御弁とを含み、
前記第4制御系検査部が、前記下流側個別制御弁すべてが開状態にされ、かつ、前記連通遮断装置により前記接続部および前記制御圧センサから前記複数のブレーキシリンダが遮断された状態で、前記制御系検査を行う低圧源連通検査部を含む(6)項に記載のブレーキシステム。
低圧源がリザーバである場合に、下流側個別制御弁をブレーキシリンダ液圧の制御で用いられる減圧弁(個別制御弁)とすることができる。
(8)当該ブレーキシステムが、(a)ブレーキ操作部材の操作によって液圧を発生させるマニュアル式液圧源と、(b)作動液を収容するリザーバとを含み、前記第4制御系検査部が、前記車両の左右前輪のブレーキシリンダが前記マニュアル液圧源に連通させられ、前記左右後輪のブレーキシリンダが前記リザーバに連通させられた状態で、前記制御系検査を行うマスタ・リザーバ連通検査部を含む(6)項または(7)項に記載のブレーキシステム。
左右前輪のブレーキシリンダがマニュアル式液圧源に連通させられ、かつ、リザーバから遮断された状態において制御系検査が行われる場合において、制御系検査の途中でブレーキ操作部材が操作されても、直ちに、左右前輪の液圧ブレーキを作動させることができる。
また、マニュアル式液圧源に液圧が発生させられ、左右前輪のブレーキシリンダに液圧が供給されたことが、接続部および制御圧センサを含む部分に影響が及ばない場合には、制御系検査を継続して行うことも可能である。
(9)前記制御系検査装置が、予め定められた制御系検査条件を満たす場合に、前記制御系検査を行う第5制御系検査部を含む(1)項ないし(8)項のいずれか1つに記載のブレーキシステム。
(10)前記制御系検査条件が、前記液圧ブレーキが非作用状態にあることと前記車両の走行速度が設定速度以上であることとの少なくとも一方を含む(9)項に記載のブレーキシステム。
制御系検査は、予め定められた制御系検査条件が満たされる場合に行われる。
接続部等から複数のブレーキシリンダが遮断されるため、ブレーキシリンダに動力式液圧源の液圧を供給することができない。そのため、制御系検査は、液圧ブレーキの非作用状態で行われることが望ましい。
また、制御系の検査において発せられる作動音を他の音で紛らわすことができる状態で行われることが望ましい。車両の走行速度が設定速度以上である場合には、駆動装置において発生られる音が検査において発せられる作動音より大きくなることが多い。
特許文献2に記載のブレーキシステムにおいては、液圧ブレーキの作用状態において検査が行われるのであり、特許文献2に、液圧ブレーキの非作用状態において検査が行われることは記載されていない。
(11)前記制御系検査条件が、前記液圧ブレーキの作動要求がないことを含む(9)項または(10)項のいずれか1つに記載のブレーキシステム。
例えば、ブレーキ操作部材が操作されていない場合、自動ブレーキを作動させる要求がない場合が該当する。
(12)前記制御系検査条件が、車両に設けられたブレーキ操作部材が操作されていないこと、前記ブレーキ操作部材が操作される可能性が低いこととの少なくとも一方であることを含む(9)項ないし(11)項に記載のブレーキシステム。
いわゆるイニシャルチェックが行われる期間においては、自動ブレーキが作動させられる可能性は低い。そのため、ブレーキ操作部材が操作されているか否かが検出されれば、液圧ブレーキの作動要求があるか否かがわかる。
また、制御系の検査は、液圧ブレーキの作動要求がない場合に行われることが望ましい。そのため、ブレーキ操作部材が操作される可能性が低い場合に、検査が行われることは妥当なことである。例えば、ブレーキ操作部材の操作が解除されてから設定時間以内に再び操作されることは稀であると考えられる。そのため、ブレーキ操作部材の操作が解除されてから設定時間以内に行われるようにすることができる。
(13)前記制御系検査条件が、オーディオ装置の音量が設定音量以上であることを含む(9)項ないし(12)項のいずれか1つに記載のブレーキシステム。
ブレーキシステムが、ハイブリッド車両、電気自動車に適用された場合に特に有効である。
(14)前記制御系検査条件が、車両の駆動装置のエンジン回転数が設定数以上であることを含む(9)項ないし(13)項のいずれか1つに記載のブレーキシステム。
内燃駆動車両に適用された場合に特に有効である。
(15)前記制御系検査装置が、前記制御系検査中に、車両に設けられたブレーキ操作部材の操作が行われた場合には、その制御系検査を中止するブレーキ操作時検査中止部を含む(1)項ないし(14)項のいずれか1つに記載のブレーキシステム。
ブレーキ操作部材の操作が行われた場合には、動力式液圧源の液圧を利用して、出力液圧制御弁の制御により共通通路の液圧が制御され、制御された液圧がブレーキシリンダに供給されて、液圧ブレーキが作動させられるブレーキシステムにおいて、ブレーキ操作部材が操作された場合には、制御系の検査がキャンセルされることが望ましい。
それに対して、ブレーキシステムが、ブレーキ操作部材の操作により液圧を発生させるマニュアル式液圧源が設けられる場合において、マニュアル式液圧源と複数のブレーキシリンダの少なくとも1つとが連通している状態で、制御系の検査が行われる場合には、検査中にブレーキ操作部材が操作されても、検査を継続させることも可能である。この場合には、出力液圧制御弁の制御圧をブレーキシリンダに供給することはできないが、マニュアル式液圧源の液圧を供給することが可能となる。
(16)前記制御系検査装置が、前記制御圧センサの検出値が、前記液圧源液圧センサの検出値に対して低い場合に、前記出力液圧制御弁と前記制御圧センサとの少なくとも一方が異常であると検出する制御系異常検出部を含む(1)項ないし(15)項のいずれか1つに記載のブレーキシステム。
出力液圧制御弁が閉状態から開状態に切り換えられたにもかかわらず、制御圧センサの検出値が増加しない場合には、出力液圧制御弁が開状態になっていない異常、制御圧センサの異常、共通通路の液漏れ、連通遮断装置の異常、液圧源液圧センサの異常等が考えられる。この場合に、別の制御系検査装置により、出力液圧制御弁、制御圧センサ、連通遮断装置が正常であるか否か、液漏れの有無が別個に検査されるようにすれば、異常箇所を特定することができる。
上述の別個の検査により、上述の構成要素の一部が正常であることがわかっている場合には、それ以外の構成要素が異常であるとすることができる。例えば、連通遮断装置が正常であること、共通通路に液漏れがないことがわかっている場合には、制御圧センサ、出力液圧制御弁、液圧源液圧センサのうちの1つ以上の異常であるとすることができる。
また、異常が生じ難い構成要素は正常で、異常が生じ易い構成要素が異常であると推定することも可能である。
(17)前記増圧機構が、前記共通通路と、前記動力式液圧源と、前記マニュアル式液圧源との間に設けられ、前記マニュアル式液圧源の液圧により機械的に作動させられるものである(4)項ないし(16)項のいずれか1つに記載のブレーキシステム。
本項に記載のブレーキシステムにおいては、増圧機構が、動力式液圧源とは別個に設けられ、機械的に作動させられるものである。そのため、電気系の異常時等にも、マニュアル式液圧源の液圧より高圧の液圧を発生させることができる。
(18)前記増圧機構が、(a)前記マニュアル式液圧源の液圧を増圧して出力するメカ式増圧器と、(b)前記メカ式増圧器と前記動力式液圧源との間に設けられ、前記動力式液圧源から前記メカ式増圧器への作動液の流れを許容し、逆向きの流れを阻止する高圧側逆止弁とを含む(17)項に記載のブレーキシステム。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施例である液圧ブレーキシステムが搭載された車両全体を示す図である。
【図2】上記液圧ブレーキシステムのブレーキ回路図である。
【図3】上記液圧ブレーキシステムに含まれる増圧リニア制御弁、減圧リニア制御弁の断面図である。
【図4】上記液圧ブレーキシステムに含まれるブレーキECUの記憶部に記憶されたイニシャルチェックプログラムを表すフローチャートである。
【図5】上記イニシャルチェックが行われる場合のアキュムレータ圧センサの検出値、ブレーキシリンダ圧センサの検出値の変化の状態を示す図である。
【図6】上記ブレーキECUの記憶部に記憶されたブレーキ液圧制御プログラムを表すフローチャートである。
【図7】上記液圧ブレーキシステムにおいて、ブレーキ液圧制御プログラムが実行された場合の状態を示す図である(正常な場合)。
【図8】上記液圧ブレーキシステムにおいて、ブレーキ液圧制御プログラムが実行された場合の別の状態を示す図である(制御系が異常な場合)。
【図9】上記液圧ブレーキシステムにおいて、ブレーキ液圧制御プログラムが実行された場合のさらに別の状態を示す図である(液漏れの可能性がある場合)。
【図10】上記液圧ブレーキシステムにおいて、制御系の検査が行われる場合の状態を示す図である。
【図11】上記ブレーキECUの記憶部に記憶された別のイニシャルチェックプログラムを表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態であるブレーキシステムについて図面に基づいて詳細に説明する。
最初に、本発明の一実施形態であるブレーキシステムである液圧ブレーキシステムが搭載された車両について説明する。
本車両は、駆動装置として電動モータとエンジンとを含むハイブリッド車両である。ハイブリッド車両において、駆動輪としての左右前輪2,4は、電気的駆動装置6と内燃的駆動装置8とを含む駆動装置10によって駆動される。駆動装置10の駆動力はドライブシャフト12,14を介して左右前輪2,4に伝達される。内燃的駆動装置8は、エンジン16,エンジン16の作動状態を制御するエンジンECU18等を含むものであり、電気的駆動装置6は電動モータ20,蓄電装置22,モータジェネレータ24,電力変換装置26,モータECU28、動力分割機構30等を含む。動力分割機構30には、電動モータ20、モータジェネレータ24、エンジン16が連結され、これらの制御により、出力部材32に電動モータ20の駆動トルクのみが伝達される場合、エンジン16の駆動トルクと電動モータ20の駆動トルクとの両方が伝達される場合、エンジン16の出力がモータジェネレータ24と出力部材32とに出力される場合等に切り換えられる。出力部材32に伝達された駆動力は、減速機、差動装置を介してドライブシャフト12,14に伝達される。
電力変換装置26は、インバータ等を含むものであり、モータECU28によって制御される。インバータの電流制御により、少なくとも、電動モータ20に蓄電装置22から電気エネルギが供給されて回転させられる回転駆動状態と、回生制動により発電器として機能することにより蓄電装置22に電気エネルギを充電する充電状態とに切り換えられる。充電状態においては、左右前輪2,4に回生制動トルクが加えられる。その意味において、電気的駆動装置6は回生ブレーキ装置であると考えることができる。
【0010】
液圧ブレーキシステムは、左右前輪2,4に設けられた液圧ブレーキ40のブレーキシリンダ42,左右後輪46,48(図2参照)に設けられた液圧ブレーキ50のブレーキシリンダ52と、これらブレーキシリンダ42,52の液圧を制御可能な液圧制御部54等を含む。液圧制御部54は、コンピュータを主体とするブレーキECU56によって制御される。
また、車両には、ハイブリッドECU58が設けられ、これらハイブリッドECU58,ブレーキECU56,エンジンECU18,モータECU28は、CAN(Car area Network)59を介して接続されている。これらは互いに通信可能とされ、適宜必要な情報が通信される。
【0011】
なお、本液圧ブレーキシステムは、ハイブリッド車輪に限らず、プラグインハイブリッド車両、電気自動車、燃料電池車両に搭載することもできる。電気自動車においては、内燃的駆動装置8が不要となる。燃料電磁車両においては、駆動用モータが燃料電池スタック等によって駆動される。
また、本液圧ブレーキシステムは、内燃駆動車両に搭載することもできる。電気的駆動装置6が設けられていない車両においては、駆動輪2,4に回生制動トルクが加えられることがないため、回生協調制御が行われることはない。
【0012】
以下、液圧ブレーキシステムについて説明するが、ブレーキシリンダ、液圧ブレーキ、後述する種々の電磁開閉弁等を、前後左右の車輪の位置に対応して区別する必要がある場合には、車輪位置を表す符号(FL,FR,RL,RR)を付して記載し、代表して、あるいは、区別する必要がない場合には、符号を付さないで記載する。
【実施例1】
【0013】
実施例1に係る液圧ブレーキシステムは、図2に示すブレーキ回路を含む。
60はブレーキ操作部材としてのブレーキペダルであり、62はブレーキペダル60の操作により液圧を発生させるマニュアル式液圧源としてのマスタシリンダである。64はポンプ装置65とアキュムレータ66とを含む動力式液圧源である。液圧ブレーキ40,50は、ブレーキシリンダ42,52の液圧により作動させられ、車輪の回転を抑制するものであり、本実施例においては、ディスクブレーキである。
なお、液圧ブレーキ40,50は、ドラムブレーキとすることができる。また、前輪2,4の液圧ブレーキ40をディスクブレーキとし、後輪46,48の液圧ブレーキ50をドラムブレーキとすることもできる。
マスタシリンダ62は、2つの加圧ピストン68,69を備えたタンデム式のものであり、加圧ピストン68,69のそれぞれの前方が加圧室70,72とされる。本実施例においては、加圧室70,72がそれぞれマニュアル式液圧源に該当する。また、加圧室72,70には、それぞれ、マニュアル通路としてのマスタ通路74,76を介して、左前輪2の液圧ブレーキ40FLのブレーキシリンダ42FL、右前輪4の液圧ブレーキ40FRのブレーキシリンダ42FRが接続される。
また、加圧室70,72は、加圧ピストン68,69が後退端に達した場合に、それぞれ、リザーバ78に連通させられる。リザーバ78の内部は、作動液を収容する複数の収容室80,82,84に仕切られている。収容室80,82は、それぞれ、加圧室70,72に対応して設けられ、収容室74はポンプ装置65に対応して設けられたものである。
【0014】
動力式液圧源64において、ポンプ装置65は、ポンプ90およびポンプモータ92を含み、ポンプ90によりリザーバ78の収容室84から作動液が汲み上げられて吐出されて、アキュムレータ66に蓄えられる。ポンプモータ92は、アキュムレータ66に蓄えられた作動液の圧力が予め定められた設定範囲内にあるように制御される。また、リリーフ弁94により、ポンプ90の吐出圧が過大になることが防止される。
【0015】
動力式液圧源64とマスタ通路76との間には高圧発生器としての増圧機構100が設けられる。増圧機構100は、ハウジング102と、ハウジング102に液密かつ摺動可能に嵌合された段付きピストン104とを含み、段付きピストン104の大径側に大径側室110が設けられ、小径側に小径側室112が設けられる。
小径側室112には、動力式液圧源64に接続された高圧室114が連通させられ、小径側室112と高圧室114との間に、高圧供給弁116が設けられる。高圧供給弁116は、弁子120および弁座122と、スプリング124とを含み、スプリング124の付勢力が、弁子120を弁座122に押し付ける向きに作用する。高圧供給弁116は常閉弁である。
小径側室112には、弁子120に対向して開弁部材125が設けられ、開弁部材125と段付きピストン104との間にスプリング126が設けられる。スプリング126の付勢力は、開弁部材125を段付きピストン104から離間させる向きに作用する。
段付きピストン104の段部とハウジング102との間には、スプリング128(リターンスプリング)が設けられ、段付きピストン104を後退方向に付勢する。なお、段付きピストン104とハウジング102との間には図示しないストッパが設けられ、段付きピストン104の前進端位置を規制する。
また、段付きピストン104には、大径側室110と小径側室112とを連通させる連通路130が形成される。連通路130は、少なくとも段付きピストン104の後退端位置において、開弁部材125から離間した状態で、大径側室110と小径側室112とを連通させるが、段付きピストン104が前進して、開弁部材125に当接すると遮断される。
本実施例においては、ハウジング102,段付きピストン104,高圧供給弁116,開弁部材125等によりメカ式増圧器134が構成される。
【0016】
高圧室114と動力式液圧源64とが高圧供給通路131によって接続され、高圧供給通路131に、動力式液圧源64から高圧室114への作動液の流れは許容し、逆向きの流れを阻止する高圧側逆止弁132が設けられる。高圧側逆止弁132は、動力式液圧源64の液圧が高圧室114の液圧より高い場合には、動力式液圧源64から高圧室114への作動液の流れを許容するが、動力式液圧源64の液圧が高圧室114の液圧以下の場合には閉状態にあり、双方向の流れを阻止する。そのため、仮に、動力液圧源64に液漏れが生じても、高圧室114から動力式液圧源64への作動液の逆流が防止され、小径側室112の液圧の低下が防止される。
さらに、マスタ通路74とメカ式増圧器134の出力側(小径側室112でもよい)との間には、メカ式増圧器134をバイパスして接続するバイパス通路136が設けられ、バイパス通路136にはマスタ通路74からメカ式増圧器134の出力側への作動液の流れを許容し、逆向きの流れを阻止するマニュアル側逆止弁138が設けられる。
【0017】
増圧機構100において、大径側室110にマスタシリンダ14の加圧室72の液圧が供給されると、作動液は、連通路130を経て小径側室112に供給される。
段付きピストン104に作用する前進方向の力(大径側室110の液圧による)が、リターンスプリング128の付勢力より大きくなると前進させられる。段付きピストン104が開弁部材125に当接し、液通路130が遮断されると、小径側室112の液圧が増加し、出力される(後述するように共通通路に供給される)。
また、開弁部材125の前進により高圧供給弁116が開状態に切り換えられると、高圧室114から高圧の作動液が小径側室112に供給され、小径側室112の液圧が高くなる。一方、アキュムレータ66に蓄えられた作動液の圧力が高圧室114の圧力より高い場合には、アキュムレータ66の液圧が高圧側逆止弁132を経て高圧室114に供給され、小径側室112に供給される。
段付きピストン104において、大径側室110の液圧が、大径側に作用する力(マスタシリンダ62の液圧×受圧面積)と小径側に作用する力(出力液圧×受圧面積)とが釣り合う大きさに調整されて、出力される。この意味において、増圧機構100を倍力機構と称することができる。
また、マニュアル側逆止弁138によりメカ式増圧器134の出力液圧がマスタ通路74に向かって流れることが防止される。
一方、アキュムレータ66の液圧が高圧室114の液圧以下である場合には、高圧側逆止弁132により、アキュムレータ66と高圧室114との間の双方向の作動液の流れが阻止されるため、段付きピストン104がそれ以上前進できなくなる。また、段付きピストン104はストッパに当接することにより前進できなくなることもある。この状態から、加圧室72の液圧が、小径側室112の液圧より高くなると、増圧器バイパス通路136およびマニュアル側逆止弁138を経て液圧がメカ式増圧器134の出力側に供給される。
【0018】
一方、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FR、左右後輪46,48のブレーキシリンダ52RL、RRは、それぞれ、個別通路150FL、FR、RL、RRを介して共通通路152に接続される。
個別通路150FL、FR、RL、RRには、それぞれ、保持弁(SHij:i=F,R、j=L,R)153FL、FR、RL、RRが設けられるとともに、ブレーキシリンダ42FL、42FR、52RL、52RRとリザーバ78との間には、それぞれ、減圧弁(SRij:i=F,R、j=L,R)156FL,FR,RL,RRが設けられる。
本実施例においては、左前輪2,右後輪48に対応して設けられた保持弁153FL、RRが、ソレノイドに電流が供給されない場合に開状態にある常開の電磁開閉弁であり、右前輪4,左後輪46に対応して設けられた保持弁153FR,RLがソレノイドに電流が供給されない場合に閉状態にある常閉の電磁開閉弁である。
その結果、前輪側の左右輪2,4に対応する保持弁153FL、FR、後輪側の左右輪46,48に対応する保持弁153RL、RRにおいて、一方が常開の電磁開閉弁とされ他方が常閉の電磁開閉弁とされる。
また、対角位置にある一方の2つの車輪、すなわち、左前輪2および右後輪48に対応する保持弁153FL,RRが常開の電磁開閉弁とされ、対角位置にある他方の2つの車輪、すなわち、右前輪4および左後輪46に対応する保持弁153FR、RLが常閉の電磁開閉弁とされることになる。
また、減圧弁156FL,FR,RRは常閉の電磁開閉弁であり、左後輪46に対応して設けられた減圧弁156RLは常開の電磁開閉弁である。
【0019】
共通通路152には、ブレーキシリンダ42,52に加えて、動力式液圧源64、増圧機構100も接続される。
動力式液圧源64は、制御圧通路170を介して共通通路152の接続部171に接続される。制御圧通路170に増圧リニア制御弁(SLA)172が設けられ、制御圧通路170とリザーバ78との間に減圧リニア制御弁(SLR)176が設けられる。これら増圧リニア制御弁172,減圧リニア制御弁176の制御により、動力式液圧源64の出力液圧が制御されて、共通通路152に供給される。増圧リニア制御弁172,減圧リニア制御弁176により出力液圧制御弁装置178が構成される。また、増圧リニア制御弁172、減圧リニア制御弁176は、出力液圧制御弁と称することができる。増圧リニア制御弁172,減圧リニア制御弁176は、いずれもソレノイドに電流が供給されない場合に閉状態にある常閉の電磁開閉弁であり、ソレノイドへの供給電流の大きさの連続的な制御により、出力液圧の大きさを連続的に制御可能なものである。
【0020】
図3(a)に示すように、増圧リニア制御弁172,減圧リニア制御弁176は、いずれも、弁子180と弁座182とを含むシーティング弁と、スプリング184と、ソレノイド186とを含み、スプリング184の付勢力Fsは、弁子180を弁座182に接近させる向きに作用し、ソレノイド186に電流が供給されることにより駆動力Fdが弁子180を弁座182から離間させる向きに作用する。また、増圧リニア制御弁172において、動力式液圧源64と共通通路152との差圧に応じた差圧作用力Fpが弁子180を弁座182から離間させる向きに作用し、減圧リニア制御弁176においては、共通通路152(制御圧通路170)とリザーバ通路78との差圧に応じた差圧作用力Fpが作用する(Fp+Fd:Fs)。いずれにしても、ソレノイド186への供給電流の制御により、差圧作用力F3が制御され、制御圧通路170の液圧が制御される。また、増圧リニア制御弁172,減圧リニア制御弁176の制御により、共通通路152の液圧が制御されると考えることもできる。
【0021】
また、図3(b)に、開弁圧(差圧)と供給電流との関係である増圧リニア制御弁172の特性を示す。差圧作用力Fpとソレノイド186の駆動力Fdとの和がスプリング184の付勢力Fsより大きくなると増圧リニア制御弁172が開状態に切り換えられるのであり、その時の前後の差圧が小さいほど多くの電流を供給する必要があることがわかる。
また、増圧リニア制御弁172において、動力式液圧源64の液圧と共通通路152の液圧との差圧に応じた力が差圧作用力として作用するが、アキュムレータ66の液圧はほぼ一定と考えることができる。そのため、差圧は、共通通路152の液圧が大きい場合は小さい場合より小さくなると考えることができ、共通通路152(ブレーキシリンダ42,52)の液圧を大きくする要求がある(差圧を小さくする要求がある)場合には、ソレノイド186への供給電流を大きくする必要がある。
換言すれば、ソレノイド186への供給電流を大きくすれば、前後の差圧を小さくすることができるのであり、共通通路152の液圧が高くなる。
【0022】
図3(b)に示す特性を示すテーブルは、ブレーキECU56の記憶部に予め記憶されている。増圧リニア制御弁172の供給電流の制御において、差圧が取得され、差圧と上述の特性テーブルとから、増圧リニア制御弁172を閉状態から開状態に切り換えるために必要な供給電流量I(開弁電流)が取得され、さらに、共通通路152の液圧の目標値(ブレーキシリンダ液圧の目標値)に基づき、必要な供給電流増加分が取得され、それらに基づいて供給電流量が決定される。
減圧リニア制御弁176においても同様であり、リザーバ78の液圧がほぼ一定であるとみなすことができるため、前後の差圧は、共通通路152の液圧とすることができる。
【0023】
共通通路152には、増圧機構100がサーボ圧通路190を介して接続される。サーボ圧通路190には、高圧発生器遮断弁としての増圧機構遮断弁(SREG)192が設けられる。増圧機構遮断弁192は常開の電磁開閉弁である。
一方、マスタ通路74,76が、左右前輪2,4の個別通路150FL,FRの保持弁153FL,FRの下流側に接続され、マスタ通路74、76の途中にそれぞれマニュアル遮断弁としてのマスタ遮断弁(SMCFL,FR)194FL,FRが設けられる。マスタ遮断弁194FLは常閉の電磁開閉弁であり、マスタ遮断弁194FRは常開の電磁開閉弁である。
さらに、マスタ通路74には、ストロークシミュレータ200がシミュレータ制御弁202を介して接続される。シミュレータ制御弁202は常閉の電磁開閉弁である。
【0024】
以上のように、本実施例においては、動力式液圧源64,出力液圧制御弁装置178、マスタ遮断弁194,保持弁153,減圧弁156、増圧機構遮断弁192等により液圧制御部54が構成される。
液圧制御部54はブレーキECU56の指令に基づいて制御される。ブレーキECU56は、図1に示すように、実行部、入出力部、記憶部等を含むコンピュータを主体とするものであり、入出力部には、ブレーキスイッチ218,ストロークセンサ220,マスタシリンダ圧センサ222,アキュムレータ圧センサ224,ブレーキシリンダ圧センサ226,レベルウォーニング228,車輪速度センサ230,ドア開閉スイッチ232,イグニッションスイッチ234、アクセルスイッチ236等が接続されるとともに液圧制御部54等が接続される。
ブレーキスイッチ218は、ブレーキペダル60が操作されるとOFFからONになるスイッチである。
ストロークセンサ220は、ブレーキペダル60の操作ストローク(STK)を検出するものであり、本実施例においては、2つのセンサが設けられ、同様に、ブレーキペダル60の操作ストロークが検出される。
マスタシリンダ圧センサ222は、マスタシリンダ62の加圧室の液圧(PMCFL、FR)を検出するものであり、マスタ通路74,76にそれぞれ設けられる。マスタ通路74,76の液圧は、原則として、同じ大きさである。
このように、本実施例においては、ストロークセンサ220,マスタシリンダ圧センサ222について2系統とされており、2つのセンサのうちの一方が故障しても他方によりブレーキ操作状態を検出することが可能となる。
【0025】
アキュムレータ圧センサ224は、アキュムレータ66に蓄えられている作動液の液圧(PACC)を検出するものである。増圧リニア制御弁172の動力液圧源64側に設けられたものであり、液圧源液圧センサに対応する。
ブレーキシリンダ圧センサ226は、ブレーキシリンダ42,52の液圧(PWC)を検出するものであり、共通通路152に設けられる。保持弁153の開状態において、ブレーキシリンダ42,52と共通通路152とは連通させられるため、共通通路152の液圧をブレーキシリンダ42,52の液圧とすることができる。また、共通通路152の液圧は、増圧リニア制御弁172を含む出力液圧制御弁装置178によって制御されるため、出力液圧制御弁装置178の制御圧とすることもできる。さらに、ブレーキシリンダ圧センサ226は、増圧リニア制御弁172の共通通路側に位置するものであり、制御圧センサに対応する。
増圧リニア制御弁172の制御において用いられる前後の差圧は、アキュムレータ圧センサ224の検出値、ブレーキシリンダ圧センサ226の検出値の差として取得され、減圧リニア制御弁176の制御において用いられる前後の差圧は、ブレーキシリンダ圧センサ226の検出値として取得される。
レベルウォーニング228は、リザーバ78に収容された作動液が予め定められた設定量以下になるとONとなるスイッチである。本実施例においては、3つの収容室80、82,84のいずれか1つに収容された作動液量が設定量以下になると、ONとなる。
車輪速度センサ230は、左右前輪2,4、左右後輪46,48に対応してそれぞれ設けられ、車輪の回転速度を検出する。また、4輪の回転速度に基づいて車両の走行速度が取得される。
ドア開閉スイッチ232は、車両に設けられたドアの開閉を検出するものである。運転席側のドアの開閉を検出するものであっても、その他のドアの開閉を検出するものであってもよい。例えば、ドアカーテシランプスイッチをドア開閉スイッチとすることができる。
イグニッションスイッチ(IGSW)234は、車両のメインスイッチであり、アクセルスイッチ236は、図示しないアクセル操作部材が操作状態にある場合にONとなるスイッチである。
また、CAN59には、車間制御ECU240,衝突回避ECU242,オーディオECU244等が接続され、車間制御ECU240,衝突回避ECU242からの制動要求に応じて液圧制御部54等を制御する。また、オーディオECU244からオーディオ装置の作動状態を表す情報(例えば、音量を表す情報)が供給される。
さらに、記憶部には、種々のプログラム、テーブル等が記憶されている。
【0026】
<イニシャルチェック>
図4のフローチャートで表されるイニシャルチェックプログラムは予め定められた設定時間毎に実行される。
イニシャルチェックにおいては多くの項目についての検査が行われるが、そのうちの制御系の検査について説明する。
制御系の検査は、予め定められた制御系検査条件が満たされた場合に行われる。制御系検査条件は、ブレーキスイッチ218がOFFであり、かつ、車両の走行速度が設定速度以上であるという条件であり、設定速度は、駆動装置10において発せられる音が制御系検査に伴う作動音より大きくなる速度(乗員が気にならない速度)とされる。イグニッションスイッチ234がOFFからONに切り換えられた後の、制御系の検査が行われていない場合において、制御系検査条件が満たされた場合に制御系の検査が行われる。
制御系は、増圧リニア制御弁172,アキュムレータ圧センサ224,ブレーキシリンダ圧センサ226等を含むものである。増圧リニア制御弁172の制御において、アキュムレータ圧センサ224,ブレーキシリンダ圧センサ226が利用されるため、制御系にこれらが含まれると考えることができる。
【0027】
制御系検査において、増圧リニア制御弁172が閉状態にあり、アキュムレータ66に蓄えられる作動液の液圧が第1設定圧PACC0より大きい状態で、すべての保持弁153、増圧機構遮断弁192が閉状態とされて、増圧リニア制御弁172が開状態に切り換えられる。ブレーキシリンダ圧センサ226の検出値が第1設定圧PACC0で決まる異常判定しきい値Pthに達した場合には、制御系が正常であるとされる。
アキュムレータ66に蓄えられる作動液の液圧は、ポンプモータ92の制御により、予め定められた設定範囲内に維持されるが、第1設定圧PACC0は、その設定範囲の上限値より多少小さい値とされる。
異常判定しきい値Pthは、第1設定圧PACC0近傍の値とされるのであり、異常判定しきい値Pth以下の範囲において、ブレーキシリンダ圧センサ226が正常であるか否かが検査されることになる。
図5(a)に示すように、第1設定圧(アキュムレータ圧)が低い値とされた場合には、ブレーキシリンダ圧センサ226の破線で囲まれた範囲Raにおける検査が行われることになり、ブレーキシリンダ圧センサ226の検出値が破線で表すように変化する場合には、異常であると検出することができない。それに対して、第1設定圧が高い値とされれば、ブレーキシリンダ圧センサ226の一点鎖線で囲まれた範囲Rbにおいて検出値が正常であるか否かを検査することが可能となる。
また、第1設定圧PACC0が、制御で用いられる液圧の上限値近傍の値とされるため、制御において用いられる範囲においてブレーキシリンダ圧センサ226の検査を行うことができる。
【0028】
制御系検査において、保持弁153が閉状態とされ、増圧機構遮断弁192が閉状態にされるため、共通通路152(制御圧通路170との接続部およびブレーキシリンダ圧センサ226)からすべてのブレーキシリンダ42,52が遮断されるとともに増圧機構100が遮断される。また、作動液の圧縮量、共通通路152の弾性変形量は小さい。そのため、増圧リニア制御弁172が開状態に切り換えられると、共通通路152の液圧は、速やかに、ほぼアキュムレータ圧と同じ高さまで昇圧すると考えられる。
そのため、増圧リニア制御弁172を閉状態から開状態に切り換えて、予め定められた設定時間(増圧待ち時間)が経過するまでの間に、ブレーキシリンダ圧センサ226の検出値が異常判定しきい値に達した場合には、制御系が正常であると判定される。
それに対して、ブレーキシリンダ圧センサ226の検出値が設定時間内に異常判定しきい値に達しない場合には、制御系の異常(増圧リニア制御弁172の閉固着異常、ブレーキシリンダ圧センサ226の異常、アキュムレータ圧センサ226の異常のうちの1つ以上の異常)であると判定される。
【0029】
本プログラムは、イグニッションスイッチ234がOFFからONに切り換わった後の、制御系の検査が行われていない場合に実行される。
ステップ1(以下、S1と略称する。他のステップについても同様とする。)において、予め定められた制御系検査条件が満たされたか否かが判定される。
制御系検査条件が満たされた場合には、S2,3において、増圧待ちフラグ、減圧待ちフラグがONであるか否かが判定される。増圧待ちフラグ、減圧待ちフラグについては後述するように増圧待ち時間、減圧待ち時間が経過するのを待っている間、ONとされるフラグであり、最初にS2,3が実行される場合にはOFFである。
【0030】
S4において、アキュムレータ圧センサ224による検出値PACCが第1設定圧PACC0より大きいか否かが判定される。アキュムレータ圧PACCが第1設定圧PACC0以下である場合には、S5においてポンプモータ92が作動させられる。増圧リニア制御弁172は閉状態にあるため、ポンプ90から吐出された作動液が共通通路152に供給されることはない。
ポンプ装置65の作動により、アキュムレータ66に作動液が加圧された状態で蓄えられる。それ以降、S1〜5が繰り返し実行され、実際のアキュムレータ圧PACCが第1設定圧PACC0より大きくなるまで増加させられる。
なお、ポンプモータ92が、イグニッションスイッチ234がOFFからONに切り換えられる前のドア開閉スイッチ232がONになった時に始動させられるようにされている場合には、最初に、S4が実行された場合に、既に、アキュムレータ圧が第1設定圧PACC0より大きい場合もある。その場合には、S5が実行されることなく、S4の判定がYESとなる。
【0031】
アキュムレータ圧センサ224の検出値が第1設定圧PACC0より大きい場合には、S6において、ポンプモータ92が停止させられ、S7において、図10に示すように、左右後輪46,48の減圧弁156RL,RR、マスタ遮断弁194FL,FRが開状態とされ、すべての保持弁153FL,FR,RL,RRが閉状態とされ、増圧機構遮断弁192が閉状態とされる。
共通通路152からすべてのブレーキシリンダ42FL,FR,52RL,RRが遮断されるとともに増圧機構100が遮断される。また、左右後輪46,48のブレーキシリンダ52RL,RRがリザーバ78に連通させられ、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRがマスタシリンダ62に連通させられる。本実施例においては、共通通路152からすべてのブレーキシリンダ42FL,FR,RL,RRが遮断されることにより、接続部171,ブレーキシリンダ圧センサ226がすべてのブレーキシリンダ42FL,FR,RL,RRから遮断されることになる。
そして、S8において、増圧リニア制御弁172のソレノイドに電流が供給されることにより開状態に切り換えられる。本実施例においては、増圧リニア制御弁172の前後の差圧がほぼ0(アキュムレータ66の圧力と共通通路152の圧力とが同じ)になるまで、開状態を維持し得る大きさの電流が供給される。それにより、共通通路152とアキュムレータ66とが連通させられる。
【0032】
S9において、増圧リニア制御弁172が開状態に切り換えられてから増圧待ち時間が経過したか否かが判定される。最初にS9が実行された場合には、増圧待ち時間は経過していないため、S10において、共通通路152の液圧(ブレーキシリンダ液圧センサ226の検出値)Pwcが異常判定しきい値Pthより大きいか否かが判定される。最初にS10が実行された場合には、ブレーキシリンダ圧センサ226の検出値Pwcは異常判定しきい値Pthより低いと思われる。そのため、S11において、増圧待ちフラグがONとされる。
増圧待ち時間は、共通通路152の液圧Pwcがアキュムレータ66の液圧PACCとほぼ同じになるまでに要する時間である。上述のように、共通通路152の液圧は速やかに増加すると考えられるため、増圧待ち時間は短いと考えられる。
【0033】
以後、増圧待ち時間が経過するまで、あるいは、ブレーキシリンダ圧センサ226の検出値Pwcが異常判定しきい値Pthに達するまで、S1,2,9,10,11が繰り返し実行される。
そのうちに、ブレーキシリンダ圧センサ224の検出値Pwcが異常判定しきい値Pth以上になると、S10の判定がYESとなり、S12において、制御系が正常であるとされる。
それに対して、増圧待ち時間が経過するまでの間にブレーキシリンダ圧センサ226の検出値Pwcが異常判定しきい値Pthに達しなかった場合には、S9の判定がYESとなり、S13において、制御系が異常であると判定される。
いずれにしても、その後、S14において、増圧待ちフラグがOFFとされ、制御系検査の終了処理が行われる。
【0034】
S15において、保持弁153FL,FR,RL,RRが開状態とされ、S16において、減圧待ち時間が経過しか否かが判定される。減圧弁156RL,RR、マスタ遮断弁194FL,FRが開状態にあるため、共通通路152の液圧はリザーバ78(マスタシリンダ62を経てリザーバ78)に流出する。減圧待ち時間は、共通通路152の液圧がリザーバ78に流出し、ほぼ大気圧に戻るまでに要する時間である。
減圧待ち時間が経過する前においては、S16の判定がNOとなり、S17において、減圧待ちフラグがONとされる。それ以降、S1,2,3,16,17が繰り返し実行され、減圧待ち時間が経過するのが待たれる。
減圧待ち時間が経過すると、S16の判定がYESとなり、S18において、減圧待ちフラグがOFFとされ、S19において、すべてのバルブのソレノイドへの電流がOFFとされて原位置に戻される。
【0035】
それに対して、制御系検査中にブレーキペダル60の操作が行われた場合には、S1の判定がYESとなり、検査が中止させられる。この場合には、ブレーキ液圧制御プログラム等の別個のプログラムにおいて、保持弁153,増圧機構遮断弁192,マスタ遮断弁194等が制御される。
【0036】
このように、本実施例においては、アキュムレータ圧が第1設定圧PACC0より大きく、共通通路152からブレーキシリンダ42FL,FR,52RL,RR、増圧機構100が遮断された状態で、増圧リニア制御弁172が開状態に切り換えられる。制御系が正常である場合には、共通通路152の液圧が速やかに、異常判定しきい値Pth以上になる。
そのため、ブレーキシリンダ圧センサ226の検出値が増圧待ち時間以内に異常判定しきい値に達しなかった場合には、制御系が正常でないことがわかるのであり、制御系の検査を速やかに、かつ、正確に検出することができ、制御系の検査の信頼性を向上させることができる。
また、ブレーキシリンダ42FL、FRがマスタシリンダ62と連通させられ、ブレーキシリンダ52RL、RRがリザーバ78と連通させられた状態で制御系検査が行われるため、たとえ、共通通路152の液圧が保持弁153のいずれかを経て流出しても、リザーバ78(マスタシリンダ62を経てリザーバ78)に戻される。そのため、液圧ブレーキ40,50の作動が防止され、引きずりが防止される。
さらに、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRがマスタシリンダ62に連通させられているため、制御系の検査中にブレーキペダル60が踏み込まれた場合には、速やかに左右前輪2,4の液圧ブレーキ40FL,FRを作動させることができる。
【0037】
なお、上記実施例において、制御系検査中にブレーキペダル60が操作された場合に制御系の検査が中止されるようにされていたが、継続して行うこともできる。共通通路152は左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRから遮断されており、かつ、増圧機構100から遮断されているため、マスタシリンダ62に液圧が発生させられても、共通通路152の液圧に影響が及ぶことがないからである。
また、第1設定圧が、ブレーキシリンダ圧センサ自体で決まる圧力検出可能領域の上限値とほぼ同じ値、あるいは、圧力検出可能領域の上限値より大きい値である場合には、ブレーキシリンダ圧センサ226の圧力検出可能範囲のほぼ全体において検査を行うことが可能となる。換言すれば、第1設定圧を、異常判定しきい値が、圧力検出可能範囲の上限値近傍の値となる大きさに決定することができるのである。
【0038】
さらに、上記実施例においては、増圧リニア制御弁172のソレノイド186への供給電流が急増させられる場合について説明したが、漸増させることもできる。
図3(b)に示すように、増圧リニア制御弁172によって、供給電流の増加に伴って前後の差圧が小さい値に制御されることがわかる。すなわち、図5(b)の実線が示すように、ソレノイド186への供給電流量Iを漸増させれば、制御圧(ブレーキシリンダ液圧)は漸増するはずである。
そこで、本実施例においては、制御系が正常である場合の増圧リニア制御弁172のソレノイド186への供給電流量を漸増させた場合のブレーキシリンダ圧センサ226の検出値を記憶しておき、適正に漸増するか否かが判定される。
ブレーキシリンダ圧センサ226の検出値が適正に漸増する場合には、制御系は正常であるとされ、そうでない場合には、制御系が正常でない(例えば、ブレーキシリンダ圧センサ226、増圧リニア制御弁172の少なくとも一方が異常である)とされる。
また、本実施例においては、すべての減圧弁156FL,FR,RL,RRが連通状態とされ、前後左右のすべてのブレーキシリンダ42FL,FR,RL,RRがリザーバ78に連通させられた状態で制御系の検査が行われる。なお、マスタ遮断弁194FL,FRは閉状態とされる。
【0039】
その場合の一例を図11のフローチャートに従って説明する。
本実施例においては、増圧リニア制御弁172への供給電流が、前後の差圧が0となる大きさ(設定電流量Is)まで漸増させられる。
また、電流量Iが設定電流量Isに達するまでの間、ブレーキシリンダ圧センサ226の検出値Pwcが記憶され、設定電流量Isに達した時に、記憶された検出値Pwcが処理され、適正に漸増したか否かが判定される。
なお、処理した結果、ブレーキシリンダ圧センサ226の検出値が適正に漸増している場合には、制御系が正常であるとされ、そうでない場合には、制御系が異常であると判定される。
増圧リニア制御弁172の閉状態において、アキュムレータ圧センサ224の検出値PACCが第1設定圧PACC0より大きい場合には、S31において、保持弁153,増圧機構遮断弁192が閉状態とされ、すべての減圧弁156FL,FR,RL,RRが開状態とされる。
S32において、増圧リニア制御弁172のソレノイド186への供給電流量IがΔIだけ増加させられる。そして、S33において、ソレノイド186に供給された電流量Iが設定電流量Isに達したか否かが判定される。設定電流量Isに達していない場合には、S34,35において、ブレーキシリンダ圧センサ226の検出値が記憶され、S35において、電流増加待ちフラグがONとされる。
次に、本プログラムが実行される場合には、電流増加待ちフラグがONであるため、S36の判定がYESとなるため、S32において、供給電流が設定量ΔIだけ増加させられ、以後同様に、S32〜35、36が繰り返し実行される。
そのうちに、供給電流が設定電流量Isに達すると、S33の判定がYESとなり、記憶されたデータの処理が行われ、S37において、適正に漸増しているか否かが判定される。例えば、図5(b)の実線が示すように適正に漸増している場合には、S38において、制御系が正常であると判定される。それに対して、例えば、図5(b)の破線が示すように、適正に漸増していない場合(例えば、増加勾配が急激に変化したり、増加勾配が非常に小さかったりする場合)には、S39において異常であると判定される。その後、S40において、電流増加待ちフラグがOFFとされ、以後、S15〜19が同様に実行される。
このように、本実施例においては、電流の漸増に伴ってブレーキシリンダ圧センサ226の検出値が適正に漸増しているか否かが判定されるのであり、ブレーキシリンダ圧センサ226,増圧リニア制御弁172が正常であるか否かを、より詳細に検出することができる。
【0040】
<ブレーキシリンダ液圧制御>
そして、イニシャルチェックの結果に基づいて、ブレーキシリンダ42,52の液圧が制御されるのであり、図6のフローチャートで表されるブレーキ液圧制御プログラムは予め定められた設定時間毎に実行される。
S51において、制動要求があるか否か、すなわち、ブレーキスイッチ218がONである場合、あるいは、自動ブレーキを作動させる要求がある場合等には制動要求があるとされて、判定がYESとなる。自動ブレーキは、トラクション制御、ビークルスタビリティ制御、車間距離制御、衝突回避制御において作動させられる場合があり、これらの制御開始条件が満たされた場合に、制動要求があるとされることがある。
制動要求がある場合には、S52において、液漏れの可能性があるか否かが検出される。本実施例においては、レベルウォーニング228がONである場合に液漏れの可能性が有るとされる。
液漏れの可能性がない場合には、S53において、制御系が異常であるか否かの判定結果が読み込まれる。
いずれの判定もNOである場合には、S54において、回生協調制御が行われる。
制御系が異常である場合には、S53の判定がYESとなり、S55において、すべてのバルブのソレノイドに電流が供給されなくなることにより、原位置に戻される。また、ポンプモータ92は停止状態に保たれる。
液漏れの可能性が有ると検出された場合には、S52の判定がYESとなり、S56において、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42にマスタシリンダ62の液圧が供給され、左右後輪46,48のブレーキシリンダ52に出力液圧制御弁装置178によって制御された液圧が供給される状態とされる。制御系の異常と液漏れの可能性との両方が生じることは稀であるため、液漏れの可能性が有るとされても制御系は正常であり、各バルブの制御、ポンプモータ92の駆動は可能であると考えられる。
なお、電気系が異常である場合には、当該ブレーキシステムに電流が供給されなくなるため、バルブは原位置に戻され、ポンプモータ92は停止状態に保持される。制御系が異常である場合と同様の状態とされる。
また、本実施例においては、制御系が異常であるとされた場合、液漏れの可能性が有るとされた場合には自動ブレーキは作動させられないようにされている。
【0041】
1)システムが正常な場合
左右前後輪2,4,46,48のブレーキシリンダ42,52の液圧は、出力液圧制御弁装置178によって制御されるのであり、原則として回生協調制御が行われる。
回生協調制御は、駆動輪2,4に加わる回生制動トルクと、駆動輪2,4と従動輪46,48との両方に加わる摩擦制動トルクとの和である総制動トルクが総要求制動トルクとなるように行われる制御である。
総要求制動トルクは、ストロークセンサ220,マスタシリンダ圧センサ222の検出値等に基づいて取得される場合(運転者が要求する制動トルク)、車両の走行状態に基づいて取得される場合(トラクション制御、ビークルスタビリティ制御において必要な制動トルク)、車間制御ECU242,衝突回避ECU244等から供給された情報に基づいて取得される場合等がある。そして、ハイブリッドECU58から供給された情報(電動モータ20の回転数等に基づいて決まる回生制動トルクの上限値である発電側上限値、蓄圧装置22の充電容量等に基づいて決まる上限値である蓄電側上限値)と、上述の総要求制動トルク(要求値)とのうちの最小値が要求回生制動トルクとして決定され、この要求回生制動トルクを表す情報がハイブリッドECU58に供給される。
ハイブリッドECU58は要求回生制動トルクを表す情報をモータECU28に出力する。モータECU28は、電動モータ20によって左右前輪2,4に加えられる制動トルクが要求回生制動トルクとなるように、電力変換装置26に制御指令を出力する。電動モータ20は、電力変換装置26によって制御される。
電動モータ20の実際の回転数等の作動状態を表す情報がモータECU28からハイブリッドECU58に供給される。ハイブリッドECU58において、電動モータ20の実際の作動状態に基づいて実際に得られた実回生制動トルクが求められ、その実回生制動トルク値を表す情報をブレーキECU56に出力する。
ブレーキECU56は、総要求制動トルクから実回生制動トルクを引いた値等に基づいて要求液圧制動トルクを決定し、ブレーキシリンダ液圧が要求液圧制動トルクに対応する目標液圧に近づくように、増圧リニア制御弁172,減圧リニア制御弁176等を制御する。
【0042】
回生協調制御においては、図7に示すように、原則として、前後左右の各輪2,4,46,48の保持弁153FL,FR,RL,RRがすべて開状態とされ、減圧弁156FL,FR,RL,RRがすべて閉状態とされる。また、マスタ遮断弁194FL,FRは閉状態とされ、シミュレータ制御弁202が開状態とされ、増圧機構遮断弁192は閉状態とされる。共通通路152が増圧機構100から遮断され、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL、FRがマスタシリンダ62から遮断された状態で、増圧リニア制御弁172,減圧リニア制御弁176が制御され、共通通路152の液圧が制御され、4輪のブレーキシリンダ42,52の液圧が制御される。
なお、この状態で、車輪2,4,46,48のスリップが過大となり、アンチロック制御開始条件が満たされると、保持弁153、減圧弁156が別個独立にそれぞれ開閉させられ、各ブレーキシリンダ42,52の液圧が制御される。前後左右の各輪2,4,46,48のスリップ状態が適正な状態とされる。
また、液圧ブレーキシステムが電気的駆動装置8を備えていない車両に搭載された場合等回生協調制御が行われない車両においては、総要求制動トルクと液圧制動トルクとが等しくなるように、出力液圧制御弁装置178が制御される。
【0043】
2)制御系が異常である場合(電気系が異常である場合)
図8に示すように、各バルブは原位置に戻される。
増圧リニア制御弁172,減圧リニア制御弁176は、ソレノイド184に電流が供給されないことにより閉状態とされて、動力式液圧源64が共通通路152から遮断される。
また、増圧機構遮断弁192は開状態とされるため、増圧機構100が共通通路152に連通させられる。
さらに、保持弁153FR、RLは閉状態にあり、保持弁153FL、RRは開状態にあるため、共通通路152に左前輪2,右後輪48のブレーキシリンダ42FL、52RRが連通させられ、右前輪4,左後輪46のブレーキシリンダ42FR、52RLは遮断される。
【0044】
ブレーキペダル60の操作によって、マスタシリンダ62の加圧室70,72に液圧が発生させられる。
加圧室72の液圧が増圧機構100に供給されて、増圧機構100が作動させられる。段付きピストン104の前進により小径側室112が大径側室110から遮断され、液圧が増加させられる。開弁部材125が前進させられ、高圧供給弁116が開状態とされる。また、アキュムレータ66から高圧側逆止弁132を経て高圧室114に高圧の作動液が供給され、小径側室112に供給される。小径側室112の液圧(サーボ圧)は、マスタシリンダ62の液圧より高くされ(ブレーキ操作力が倍力され)、開状態にある増圧機構遮断弁192を経て共通通路152に供給され、保持弁153FL,RRを経て左前輪、右後輪のブレーキシリンダ42FL,52RRに供給される。左前輪、右後輪のブレーキシリンダ42Fl,52RRの液圧はサーボ圧とされる。
この場合において、左前輪2に対応するマスタ遮断弁194FLは閉状態にあるため、ブレーキシリンダ42FLに供給されたサーボ圧のマスタシリンダ62への流出が防止される。それによって、液圧ブレーキ40FLを良好に作動させることができる。
【0045】
ポンプ装置65は停止状態にあるため、そのうちに、アキュムレータ66の液圧が低くなる。アキュムレータ66の液圧が高圧室114の液圧以下になると、アキュムレータ66と高圧室114との間の作動液の流れが阻止されるため、段付きピストン104の前進が阻止される。また、段付きピストン104は、ストッパに当接することによって前進が阻止されることもある。いずれにしても、小径側室112の液圧はそれ以上高くなることがないのであり、メカ式増圧器134は倍力機能を発揮できなくなる。
一方、ブレーキペダル10の操作力が増加させられ、マスタシリンダ62の加圧室72の液圧が小径側室112の液圧より高くなると、メカ増圧器バイパス通路136,マニュアル側逆止弁138を経て小径側室112(メカ式増圧器134の出力側)に供給され、増圧機構遮断弁192,保持弁153FL,RRを介して左前輪2、右後輪48のブレーキシリンダ42FL,52RRに供給される。
この場合には、マスタシリンダ62の加圧室72の液圧は、倍力されることがないため、左前輪2、右後輪48のブレーキシリンダ42FL,52RRの液圧はマスタシリンダ圧とされる。
【0046】
また、保持弁153FR、RLは閉状態にあるため、右前輪4,左後輪46のブレーキシリンダ42FR、52RLには、加圧室72の液圧が供給されないようにされている。
マスタシリンダ62の1つの加圧室72から供給可能な作動液の量は決まっている。そのため、供給先のブレーキシリンダの個数が多くなると、ブレーキシリンダの液圧を充分に高くすることができないという問題が生じる。一方、前輪のブレーキシリンダ42の方が後輪のブレーキシリンダ52よりピストンの受圧面積が大きいため、液圧を同じにした場合に、ブレーキシリンダにおいて消費される作動液の量が多くなる。
これらの事情から、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRに加圧室72から液圧が供給されるようにすると制動力不足が生じるおそれがある。
それに対して、幅方向の同じ側の2つの車輪、例えば、左前輪2、左後輪46のブレーキシリンダ42FL、52RLに加圧室72の液圧が供給されるようにすることも可能であるが、その場合には、ヨーモーメントが生じるおそれがある。
そこで、互いに対角位置にある2つの車輪(左前輪2,右後輪48)のブレーキシリンダ42FL、52RRに作動液が供給されるようにすれば、ヨーモーメントを生じ難くしつつ、2つの液圧ブレーキ40FL、50RRを良好に作動させることができる。
【0047】
また、右前輪4のブレーキシリンダ42FRには開状態にあるマスタ遮断弁194FRを経てマスタシリンダ62の加圧室70から液圧が供給される。
左後輪46のブレーキシリンダ52RLには、液圧が供給されることがない。
このように、本実施例においては、制御系の異常、電気系の異常時に、3輪のブレーキシリンダ42FL,FR,52RRに、増圧機構100,マスタシリンダ62の液圧が供給される。その結果、2輪のブレーキシリンダに液圧が供給される場合に比較して、車両全体として制動力を大きくすることができる。
また、増圧機構100が作動している間には、左前輪2にサーボ圧が供給され、右前輪4にマスタ圧、右後輪48にサーボ圧が供給されるため、車両の左側と右側との間の制動力差が小さくなり、より一層、ヨーモーメントを生じ難くすることができる。
【0048】
3)液漏れの可能性が有ると検出された場合
図9に示すように、左右前輪2,4の保持弁153FL,FRは閉状態とされ、左右後輪46,48の保持弁153RL、RRは開状態とされる。また、マスタ遮断弁194FL,FRは開状態とされ、増圧機構遮断弁192は閉状態とされ、シミュレータ制御弁202は閉状態とされる。さらに、すべての減圧弁156は閉状態とされる。前述のように、左右後輪46,48のブレーキシリンダ42RL,RRの液圧は制御圧とされ、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRの液圧はマスタシリンダ圧とされる。
左右前輪2,4の保持弁153FL,FRが遮断状態とされるため、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRが互いに遮断される。また、左右前輪2,4のブレーキシリンダ42FL,FRと左右後輪46,48のブレーキシリンダ52RL,RRとが遮断される。このように、前輪、後輪のブレーキシリンダ同士が互いに遮断されるとともに、前輪側において、左前輪2、右前輪4のブレーキシリンダ同士が遮断される。すなわち、(左前輪のブレーキシリンダ42FLを含むブレーキ系統250FL)、(右前輪のブレーキシリンダ42FRを含むブレーキ系統250FR)、(左右後輪のブレーキシリンダ52FL,RRを含むブレーキ系統250R)の3つのブレーキ系統が互いに遮断される。その結果、たとえ、これら3つのブレーキ系統のうちの1つに液漏れが生じた場合であっても、他のブレーキ系統に影響が及ばないようにされる。
また、増圧機構遮断弁192が閉状態とされるため、動力式液圧源64から共通通路152に供給された作動液が増圧機構100に流れることを防止することができる。すなわち、本実施例においては、液漏れの可能性の有無が検出されるが、液漏れの位置が特定されない。仮に、ブレーキ系統250FLに液漏れが生じている場合には、大径側室130に高圧の液圧を供給することができず、増圧機構100は非作動状態に保持される。段付きピストン104が後退端位置にあり、連通路130により小径側室112と大径側室110とが連通させられている。この場合に、増圧機構遮断弁192が開状態にあると、連通路130を介して、共通通路152と加圧室72とが連通させられ、共通通路152の液圧が逆流するおそれがある。それに対して、増圧機構遮断弁192が閉状態とされれば、共通通路152の作動液がマスタシリンダ62に流出させられることを良好に防止することができ、左右後輪46,48のブレーキシリンダ52RL,RRに制御圧を供給することが可能となる。
なお、本実施例において、ブレーキ系統250FRは、ブレーキシリンダ42FR、マスタ通路76,加圧室70,収容室80等を含むものであり、ブレーキ系統250FLは、ブレーキシリンダ42FL、マスタ通路74,加圧室72,収容室82等を含むものであり、ブレーキ系統250Rは、ブレーキシリンダ52RL,RR,個別通路150RL、RR,動力式液圧源64,収容室84等を含むものである。
【0049】
4)液圧ブレーキが解除される場合
ブレーキ操作が解除されると、すべてのバルブのソレノイドに電流が供給されなくなることにより、図2の原位置に戻される。また、増圧機構100において、段付きピストン104は後退端に戻され、液通路130により大径側室110と小径側室112とが連通させられる。
右前輪のブレーキシリンダ42FRの液圧は開状態にあるマスタ遮断弁194FRを経て、マスタシリンダ62,リザーバ78に戻され、左前輪2のブレーキシリンダ42FLの液圧は開状態にある保持弁153FL,増圧機構遮断弁192,連通路130を経て、マスタシリンダ62、リザーバ78に戻される。右後輪48のブレーキシリンダ52RRの液圧も同様に、保持弁153RR,増圧機構遮断弁192,増圧機構100を経てリザーバ78に戻される。左後輪46のブレーキシリンダ52の作動液は開状態にある減圧弁156RLを介してリザーバ78に戻される。
左後輪46のブレーキシリンダ52RLについては、制御系の異常(電気系の異常)時に、マスタシリンダ62や増圧機構100の作動液が供給されないようにするために、保持弁153RLが常閉の電磁制御弁とされる。そのため、ブレーキ解除時に、ブレーキシリンダ52FLが共通通路152から遮断され、増圧機構100を経て、マスタシリンダ62に作動液を戻すことができない。それに対して、減圧弁156RLが常開の電磁開閉弁とされるため、減圧弁156RLを経てブレーキシリンダ52RLの作動液をリザーバ78に戻すことができる。また、減圧弁156が常開の電磁開閉弁である場合には、液圧ブレーキ40,50の作用状態においてソレノイドに電流を供給し続けなければならず、消費電力が多くなるという問題がある。それに対して、本実施例において、常開の減圧弁156RLは1つであるため、それによる消費電力の増加を抑制することができる。
【0050】
以上のように、本実施例においては、イニシャルチェックの結果に応じて、ブレーキシリンダ42,52の液圧が制御される。
制御系の異常(電気系の異常)には、増圧機構100の作動によりマスタシリンダ62の液圧より高い液圧をブレーキシリンダ42FL、52RRに供給することができる。また、右前輪4のブレーキシリンダ42FRには、マスタシリンダ62から液圧が供給されるため、電気系の異常時に、3輪の液圧ブレーキ40FL,FR,50RRを作動させることができる。その結果、2輪の液圧ブレーキが作動させられる場合に比較して、制動力不足を解消することができる。さらに、サーボ圧が対角位置にある車輪のブレーキシリンダに供給されるため、それにより、ヨーモーメントが生じ難くすることができる。
液漏れの可能性がある場合には、ブレーキ系統250FL,FR,Rが互いに遮断される。そのため、3つのブレーキ系統250FL,FR,Rのうちの1つに液漏れが生じていても、その影響が他のブレーキ系統に及ぶことを良好に回避することができる。また、液漏れが生じていないブレーキ系統においては、より確実に液圧ブレーキを作動させることが可能となる。
また、本実施例においては、保持弁153FL、FRが左右遮断弁、前後遮断弁としての機能を果たす。そのため、専用の前後遮断弁、左右遮断弁が不要となり、その分、コストダウンを図ることができる。
【0051】
以上のように構成された液圧ブレーキシステムにおいて、ブレーキECU56の図5のフローチャートで表されるブレーキ液圧制御プログラムを記憶する部分、実行する部分等によりブレーキ液圧制御装置が構成される。また、保持弁153FL,FR、RL、RR、増圧機構遮断弁192により連通遮断装置が構成される。増圧機構遮断弁192等により増圧機構連通遮断部が構成される。
図4、図11のフローチャートで表されるイニシャルチェックプログラムを記憶する部分、実行する部分等により制御系検査装置が構成される。そのうちの、S8〜13を記憶する部分、実行する部分等により第1制御系検査部が構成され、S32〜39を記憶する部分、実行する部分等により第2制御系検査部が構成され、S7(保持弁153、増圧機構遮断弁192を閉状態とする部分),S8〜13,S31(保持弁153,増圧機構遮断弁192を閉状態とする部分)、32〜39を記憶する部分、実行する部分等により第3制御系検査部が構成され、S7(後輪の減圧弁156,マスタ遮断弁194を開状態とする部部分),S8〜13,S31(減圧弁156を開状態とする部分)、32〜39を記憶する部分、実行する部分等により第4制御系検査部が構成される。
また、S1,S8〜13,32〜37を記憶する部分、実行する部分等により第5制御系検査部が構成される。なお、制御系異常検出装置は制御系異常検出部であると考えることができる。
【0052】
なお、ブレーキ回路の構造は、上記実施例におけるそれに限らない。例えば、共通通路152の個別通路150RRの接続部と個別通路150FLの接続部との間に、前後通遮断弁を設けることができる。この場合には、後輪の保持弁153RL、RR、前後遮断弁により連通遮断装置が構成されることになる。
また、制御系検査条件は、上記実施例のそれに限らない。例えば、エンジン16の回転数が設定数以上であることを含む条件としたり、オーディオ装置の音量が設定音量以上であることを含む条件としたり、ブレーキペダル60の操作が行われる可能性が低いことを含む条件としたり、制動要求がないことを含む条件としたりすることができる。エンジン16の回転数の設定数は、それによって発せられる音が制御系検査において発せられる作動音以上、あるいは、制御系検査において発生される作動音が気にならない程度の数とすることができる。オーディオ装置の音量の設定音量も同様であり、制御系検査において発せられる作動音が気にならない大きさとすることができる。ブレーキペダル60は、操作が解除されてから設定時間内には、再び操作されないことが多い。その設定時間内に制御系の検査が行われるようにすることができる。さらに、自動ブレーキが作動させられる可能性もあるため、制動要求がない場合に、制御系の検査が行われるようにすることができる。
【0053】
さらに、増圧機構100や出力液圧制御弁装置178は不可欠ではない。動力式液圧源64は、増圧機構100を作動させるためにのみ用いられるようにすることもできる等本発明は、上述に記載の態様の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0054】
40,50:液圧ブレーキ 42,52:ブレーキシリンダ 54:液圧制御部 56:ブレーキECU 60:ブレーキペダル 62:マスタシリンダ 64:動力式液圧源 66:アキュムレータ 74,76:マスタ遮断弁 100:増圧機構 150:個別通路 152:共通通路 153:保持弁 156;減圧弁 170:制御圧通路 172:増圧リニア制御弁 176:減圧リニア制御弁 178:出力液圧制御弁装置 190:サーボ圧通路 192:増圧機構遮断弁 218:ブレーキスイッチ 220:ストロークセンサ 222:マスタシリンダ圧センサ 224:アキュムレータ圧センサ 226:ブレーキシリンダ圧センサ 228:レベルウォーニング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の複数の車輪にそれぞれ設けられ、ブレーキシリンダの液圧により作動させられて、その車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
電気エネルギの供給により液圧を発生させる動力式液圧源と、
その動力式液圧源が接続されるとともに、前記複数の液圧ブレーキのブレーキシリンダが接続された共通通路と、
その共通通路と前記動力式液圧源とを接続する制御圧通路に設けられ、前記動力式液圧源の出力液圧を制御して前記共通通路に供給する出力液圧制御弁と、
前記出力液圧制御弁の前記動力式液圧源側の液圧を検出する液圧源液圧センサと、
前記出力液圧制御弁の前記共通通路側の液圧を検出する制御圧センサと、
前記共通通路の前記制御圧通路との接続部および前記制御圧センサと、前記複数のブレーキシリンダとの間に設けられ、前記接続部および前記制御圧センサと前記複数のブレーキシリンダとを連通させたり遮断したりする連通遮断装置と、
その連通遮断装置によって前記接続部および前記制御圧センサと前記複数のブレーキシリンダとが連通させられた状態で、少なくとも前記出力液圧制御弁を制御することによって、前記共通通路の液圧を制御して前記複数のブレーキシリンダの液圧を制御するブレーキ液圧制御装置と
を含むブレーキシステムに、
前記連通遮断装置により前記接続部および前記制御圧センサが前記複数のブレーキシリンダから遮断された状態で、前記出力液圧制御弁を閉状態から開状態に切り換えた後に、前記液圧源液圧センサの検出値と前記制御圧センサの検出値とを比較して、当該ブレーキシステムの制御系が正常であるか否かの制御系検査を実行する制御系検査装置を設けたことを特徴とするブレーキシステム。
【請求項2】
前記制御系検査装置が、前記液圧源液圧センサの検出値が第1設定圧より大きい場合に、前記出力液圧制御弁を閉状態から開状態に切り換え、その後に、前記制御圧センサの検出値が、前記第1設定圧で決まる異常判定しきい値以上まで増加した場合に、前記制御系がが正常であるとする第1制御系検査部を含む請求項1に記載のブレーキシステム。
【請求項3】
前記出力液圧制御弁が、自身の前後の差圧を、ソレノイドへの供給電流が大きい場合に小さい場合より小さい値に制御可能なリニア制御弁であり、
前記制御系検査装置が、前記ソレノイドへの供給電流の増加に伴って、前記液圧源液圧センサの検出値から前記制御圧センサの検出値を引いた値である前後の差圧が小さくなる場合に、前記制御系が正常であるとする第2制御系検査部を含む請求項1または2に記載のブレーキシステム。
【請求項4】
当該ブレーキシステムが、(a)運転者のブレーキ操作により液圧を発生させるマニュアル式液圧源と、(b)前記動力式液圧源の液圧を利用して前記マニュアル式液圧源の液圧を増圧して出力可能な増圧機構とを含み、
その増圧機構が前記共通通路に接続され、
前記連通遮断装置が、前記接続部および前記制御圧センサと前記増圧機構とを連通させたり遮断したりする増圧機構連通遮断部を含み、かつ、
前記制御系検査装置が、前記連通遮断装置によって前記接続部および前記制御圧センサから前記複数のブレーキシリンダと前記増圧機構とが遮断された状態で、前記制御系検査を行う第3制御系検査部を含む請求項1ないし3のいずれか1つに記載のブレーキシステム。
【請求項5】
前記共通通路に、前記複数のブレーキシリンダのうちの1つ以上がそれぞれ個別通路を介して接続されるとともに、前記増圧機構がサーボ圧通路を介して接続され、かつ、前記連通遮断装置が、(a)前記個別通路の各々に設けられた上流側個別制御弁と、(b)前記サーボ圧通路に設けられた増圧機構連通遮断弁と、(c)前記上流側個別制御弁のすべてと前記増圧機構遮断弁とを、それぞれ、開状態と閉状態とに切り換えるバルブ制御部とを含み、
前記第3制御系検査部が、前記上流側個別制御弁すべてと前記増圧機構連通遮断弁とが閉状態にされた状態で、前記制御系検査を行うものである請求項4に記載のブレーキシステム。
【請求項6】
前記制御系検査装置が、前記複数のブレーキシリンダと低圧源とが連通状態にあり、かつ、前記連通遮断装置により前記接続部および前記制御圧センサから前記複数のブレーキシリンダが遮断された状態で、前記制御系検査を行う第4制御系検査部を含む請求項1ないし5のいずれか1つに記載のブレーキシステム。
【請求項7】
前記制御系検査装置が、予め定められた制御系検査条件を満たす場合に、前記制御系検査を行う第5制御系検査部を含み、その制御系検査条件が、前記液圧ブレーキが非作用状態にあることと前記車両の走行速度が設定速度以上であることとの少なくとも一方を含む請求項1ないし6のいずれか1つに記載のブレーキシステム。
【請求項8】
前記制御系検査装置が、前記制御圧センサの検出値が、前記液圧源液圧センサの検出値に対して低い場合に、前記出力液圧制御弁と前記制御圧センサとの少なくとも一方が異常であると検出する制御系異常検出部を含む請求項1ないし7のいずれか1つに記載のブレーキシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−156999(P2011−156999A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21186(P2010−21186)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】