説明

ブースター負圧の推定方法及び車両の制御装置

【課題】簡易な構成でありながらも、ブースター負圧の推定を精度良く行うことのできるブースター負圧の推定方法、及びブースター負圧を的確に把握することでその不足を好適に防止することのできる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】電子制御ユニット9は、エンジン1の吸気負圧を利用して形成されたブースター負圧によりブレーキ踏力の助勢を行うブレーキブースター5を備える液圧ブレーキシステムにおいて、車両の制動減速度をGセンサー11の検出結果から演算するステップと、規定の演算周期におけるブースター負圧の回復量を演算するステップと、制動減速度とブースター負圧の消費量との関数を用い、上記演算周期におけるブースター負圧の消費量を制動減速度に基づいて演算するステップと、演算された回復量及び消費量に基づいてブースター負圧の推定値を演算するステップとを、上記演算周期毎に実行してブースター負圧の推定を行うようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの吸気負圧を利用して形成されたブースター負圧によりブレーキ踏力の助勢を行うブレーキブースターを備える液圧ブレーキシステムのブースター負圧の推定方法及びそうした液圧ブレーキシステムを備える車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される液圧ブレーキシステムの多くには、ブレーキペダルの踏力を倍力してマスターシリンダーに伝えるブレーキブースターが設けられている。ブレーキブースターは、エンジンの吸気マニホールド等に発生する吸気負圧を利用して形成されたブースター負圧により作動する。
【0003】
一方、近年には、例えば信号待ちのような停車時にエンジンを自動停止し、運転者の発進操作に応じてエンジンを自動再始動する、いわゆるエコノミーランニング制御を行う車両が実用されている。こうした車両では、自動停止中のエンジンには吸気負圧が発生しないことから、エンジンの停止期間が長くなると、ブレーキブースターのブースト負圧が低下して、ブレーキ踏力の助勢を十分に行えなくなってしまうことがある。そのため、こうした車両には、ブースター負圧の推移を監視し、ブースター負圧が不足したときには、ブースター負圧を確保すべくエンジンを再始動させる制御が必要となる。
【0004】
従来、ブースター負圧の推定方法として、特許文献1に記載の方法が知られている。特許文献1では、エンジンの吸気負圧と、マスターシリンダーの発生液圧であるマスターシリンダー圧とに基づいてブースター圧を推定するようにしている。また特許文献2には、ブレーキペダルの踏み込み量からエンジン停止中のブースター負圧の低下を予測し、ブースター圧の低下が予測されたときにエンジンを再始動させる車両の制御装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−80497号公報
【特許文献2】特開2003−13768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
こうした従来の技術では、ブースター負圧の推定やその低下予測を行うために、マスターシリンダー圧を検出するPMCセンサーやブレーキペダルの踏み込み量(ブレーキストローク)を検出するブレーキストロークセンサーが必要となる。一方、コスト削減のために、それらのセンサーを割愛した構成の液圧ブレーキシステムが開発されており、そうした液圧ブレーキシステムでは、現状のブースター負圧の確認を行うことができなくなっている。
【0007】
本発明は実情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、簡易な構成でありながらも、ブースター負圧の推定を精度良く行うことのできるブースター負圧の推定方法、及びブースター負圧を的確に把握することでその不足を好適に防止することのできる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、エンジン(1)の吸気負圧を利用して形成されたブースター負圧によりブレーキ踏力の助勢を行うブレーキブースター(5)を備える液圧ブレーキシステムの前記ブースター負圧の推定を行う方法としての請求項1に記載の発明は、制動操作により発生する車両の減速度を車両前後方向に作用する加速度の検出結果から演算するステップ(S102)と、規定の演算周期における前記ブースター負圧の回復量を演算するステップ(S103)と、前記減速度と前記ブースター負圧の消費量との関数関係並びに演算された前記減速度を用い、前記演算周期における前記ブースター負圧の消費量を演算するステップ(S106,S107)と、演算された前記回復量及び前記消費量に基づいて前記ブースター負圧の推定値を演算するステップ(S109)と、を、前記演算周期毎に実行して前記ブースター負圧の推定を行うようにしている。
【0009】
上記推定方法では、車両前後方向に作用する加速度の検出結果から制動操作により発生する車両の減速度が演算され、規定の演算周期におけるブースター負圧の消費量が減速度とブースター負圧の消費との関数関係並びに演算された減速度から演算されるようになる。また上記方法では、規定の演算周期におけるブースター負圧の回復量が演算され、その回復量と上記消費量とに基づいてブースター負圧の推定値が演算されるようになる。こうした推定方法では、PMCセンサーやブレーキストロークセンサーの検出結果を用いることなく、ブースター負圧が推定されている。そのため、上記推定方法によれば、簡易な構成でありながらも、ブースター負圧の推定を精度良く行うことができる。
【0010】
なお、ここでの「関数」とは、制動操作により発生する車両の減速度を引数として取り、ブースター負圧の消費量を返し値として出力する演算処理を指している。こうした関数としては、減速度と消費量との関係を示す演算マップを用いて減速度から消費量を演算する演算処理や、減速度と消費量との関係式から消費量を演算する演算処理などが考えられる。
【0011】
ところで、ブレーキペダル(4)の踏み込み操作時と戻し操作時とでは、上記減速度に対するブースター負圧の消費量変動の挙動は異なったものとなる。そこで請求項2によるように、消費量の演算に用いられる関数として、上記減速度が増加するブレーキペダル(4)の踏み込み操作時に用いられる関数(M1)と上記減速度が減少するブレーキペダル(4)の戻し操作時に用いられる関数(M2)との2つの異なる関数を備えるようにすれば、ブースター負圧消費量の的確な演算が可能である。
【0012】
またブースター負圧の回復量は、例えば請求項3によるように、吸気負圧から規定のチェック弁ヒステリシス圧を減算した値とブースター負圧の推定値との差を徐変処理することで演算することができる。なお、本明細書におけるチェック弁ヒステリシス圧とは、吸気負圧とブースター負圧の間の圧力損失のことを言う。
【0013】
ところで、ブレーキブースター(5)内の気体の圧力は、その温度によっても変化する。例えばブレーキブースター(5)内の気体が膨張する高温時には、気体の膨張によりその圧力が高まるため、ブースター負圧は低くなる。またブレーキブースター(5)内の気体が収縮する低温時には、気体の収縮によりその圧力が下がるため、ブースター負圧は高くなる。そのため、請求項4によるように、演算されたブースター負圧の推定値に、ブレーキブースター(5)の周囲の温度に応じた補正を行うステップ(S110)を更に備えるようにすれば、温度の影響も考慮したより正確なブースター負圧値を推定することが可能である。
【0014】
ちなみに、ブレーキペダル(4)があるブレーキストロークまで踏み込まれたとすると、いずれはブレーキの戻し操作がなされるため、少なくとも、そのときのブレーキストロークからストローク「0」までのブレーキペダル(4)の戻し操作が将来なされることが予期される。したがって、ブレーキペダル(4)の踏み込み操作時に、そのときのブレーキストロークからストローク「0」までの戻し操作に伴うブースター負圧の消費量の推定を行うことで、将来のブースター負圧の消費量を先読みすることが可能となる。すなわち、こうしたブースター負圧消費量の先読みを行うことで、次回のブレーキ踏み込み操作時にブースター負圧が不足するかどうかを予測することができる。その点、請求項5によるように、上記減速度が増加するブレーキペダル(4)の踏み込み操作時に、その時点の踏み込み量からのブレーキペダル(4)の戻し操作が完了するまでのブースター負圧の消費量を演算し、戻し操作完了時点のブースター負圧を予測するようにすれば、ブレーキペダル(4)が実際に戻し操作される前にその戻し操作に伴うブースター負圧の消費量を先読みして将来のブースター負圧を推定することができる。
【0015】
一方、上記課題を解決するため、エンジン(1)の自動停止・自動再始動制御を行う車両の制御装置(9)としての請求項6に記載の発明は、エンジン(1)の自動停止中に、請求項1〜4のいずれかに記載のブースター負圧の推定方法を用いて推定されたブースター負圧の推定値が規定の閾値以下となることを条件にエンジン(1)の再始動を実行するようにしている。
【0016】
請求項1〜4に記載のブースター負圧の推定方法によれば、簡易な構成でありながらも、ブースター負圧の推定を精度良く行うことができる。したがって上記構成によれば、ブースター負圧を的確に把握することでその不足を好適に防止することができる。
【0017】
またエンジン(1)の自動停止・自動再始動制御を行う車両の制御装置(9)としての請求項7に記載の発明は、エンジン(1)の自動停止中に、請求項5に記載のブースター負圧の推定方法を用いて予測されたブースター負圧の予測値が規定の閾値以下となることを条件にエンジン(1)の再始動を実行するようにしている。
【0018】
請求項5に記載のブースター負圧の推定方法によれば、ブレーキペダル(4)が実際に戻し操作される前にその戻し操作に伴うブースター負圧の消費量を先読みして将来のブースター負圧を推定することができる。したがって上記構成によれば、将来のブースター負圧の不足を先読みして実際に不足する前にエンジン(1)を再始動してブースター負圧を回復させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のブースター負圧の推定方法によれば、簡易な構成でありながらも、ブースター負圧の推定を精度良く行うことができる。また本発明の車両の制御装置によれば、ブースター負圧を的確に把握することでその不足を好適に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態の適用される車両の液圧ブレーキシステムの構成を模式的に示す略図。
【図2】エンジン始動後の吸気負圧及びブースター負圧の推移を示すグラフ。
【図3】制動加速度に対するブースター負圧の推移の様子を示すグラフ。
【図4】第1実施形態に採用される踏み込み操作時用負圧消費量演算マップの一例における制動加速度と負圧消費量との関係を示すグラフ。
【図5】同実施形態に採用される戻し操作時用負圧消費量演算マップの一例における制動加速度と負圧消費量との関係を示すグラフ。
【図6】同実施形態に採用されるブースター負圧推定ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
【図7】同実施形態に採用される負圧回復量演算ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
【図8】同実施形態に採用される再始動判定ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
【図9】非作動時におけるブレーキブースターの状態を示す断面図。
【図10】ブレーキペダル踏み込み操作時におけるブレーキブースターの状態を示す断面図。
【図11】ブレーキペダル保持時におけるブレーキブースターの状態を示す断面図。
【図12】ブレーキペダル戻し操作時におけるブレーキブースターの状態を示す断面図。
【図13】本発明の第2実施形態に採用される踏み込み操作時負圧消費量演算ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
【図14】同実施形態に採用される戻し操作時負圧消費量演算ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
【図15】本発明の第3実施形態に採用される再始動判定ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1の実施の形態)
以下、本発明のブースター負圧の推定方法及び車両の制御装置を具体化した第1の実施の形態を、図1〜図8を参照して詳細に説明する。なお、本実施の形態の推定方法及び制御装置は、例えば信号待ちのような停車時にエンジンを自動停止し、運転者の発進操作に応じてエンジンを自動再始動する、いわゆるエコノミーランニング制御を行う車両に適用されている。
【0022】
図1は、本実施の形態の適用される車両の液圧ブレーキシステムの構成を示している。この車両には、エンジン1の吸気通路2のスロットルバルブ3の下流に発生する吸気負圧を利用してブレーキペダル4の踏力を倍力して伝えるブレーキブースター5が設けられている。またこの液圧ブレーキシステムには、ブレーキブースター5により倍力されたブレーキペダル4の踏力に応じてブレーキ液圧を発生させるマスターシリンダー6が設けられている。またこの液圧ブレーキシステムには、マスターシリンダー6の発生するブレーキ液圧に応じて動作して、車両の各輪にそれぞれ設けられたブレーキ装置7(ドラムブレーキ装置やディスクブレーキ装置など)に制動力を付与するブレーキアクチュエーター8が設けられている。
【0023】
こうした車両のエンジン1及びブレーキアクチュエーター8は、電子制御ユニット9により制御されている。電子制御ユニット9には、車体速度VS0を検出する車速センサー10、車体の前後方向に作用する加速度(車体加速度G)を検出するGセンサー11を始め、車両の運転状況を検出する各種センサーの検出信号が入力されている。なお、Gセンサー11の検出値は、車両重心が後方に移動する場合には、正の値となり、車両重心が前方に移動するときには、負の値となる。
【0024】
そして電子制御ユニット9は、それらセンサーの検出結果から把握される車両の運転状況に応じてエンジン制御を実行する。また電子制御ユニット9は、ブレーキアクチュエーター8の制御ソレノイドを操作することで、ABS(Antilock Brake System )やブレーキアシスト、ESC(Electronic Stability Control)といったブレーキ制御を実行する。
【0025】
以上のように構成された本実施の形態の適用対象となる液圧ブレーキシステムでは、マスターシリンダー6の発生液圧(マスターシリンダー圧PMC)を検出するPMCセンサーやブレーキペダル4の踏み込みのストロークを検出するブレーキストロークセンサーは割愛されている。これらのセンサーを備える液圧ブレーキシステムでは、それらセンサーの検出結果から演算することで、ブレーキブースター5内の負圧、すなわちブースター負圧を求めることが可能である。しかしながら、これらセンサーの割愛された本実施の形態では、そうした態様ではブースター負圧を求めることができないようになっている。
【0026】
一方、本実施の形態の適用される車両では、上述のようにエコノミーランニング制御が実施されており、状況に応じてエンジン1が自動停止されるようになっている。エンジン1が停止されると、吸気負圧が発生しなくなるため、ブレーキブースター5のブースター負圧を回復させることができなくなり、ブレーキ操作に伴う負圧の消費により、ブースター負圧が不足することがある。そのため、エンジン1の自動停止中には、ブースター負圧が十分に確保されているかを確認し、不足する場合には、エンジン1を再始動する制御が必要となる。しかしながら、この液圧ブレーキシステムには、PMCセンサーもブレーキストロークセンサーも搭載されておらず、既知の方法を用いたブースター負圧の推定は行えないようになっている。
【0027】
そこで本実施の形態では、車両前後方向に作用する加速度を検出するGセンサー11の検出結果を用いてブースター負圧の推定を行うようにしている。より詳しくは、本実施の形態では、Gセンサー11の検出する車両前後方向の加速度からエンジン1による加速度等を差し引くことで、制動操作により発生する車両の減速度、すなわち制動減速度を求めるようにしている。そしてその求められた制動減速度から制動操作により消費されるブースター負圧の量を求め、その結果からブースター負圧の推定値を演算するようにしている。
【0028】
なお、上記のようにGセンサー11の検出結果からは、ブースター負圧の消費量を求めることができる。こうしたブースター負圧の消費量からブースター負圧の大きさを求めるには、ある時点のブースター負圧の大きさを初期値として把握しておく必要がある。
【0029】
図2は、エンジン始動後の吸気負圧(インテークマニホールド負圧)及びブースター負圧の推移が示されている。なお同図には、エンジン始動開始時のブースター負圧が異なる4つのケースにおけるブースター負圧の推移が示されている。
【0030】
吸気負圧が一定で、ブレーキ操作がなされない定常状態に放置すれば、ブースター負圧はいずれ、吸気負圧よりも一定値だけ低い負圧に飽和する。この定常状態での吸気負圧とブースター負圧との差圧は、吸気通路2とブレーキブースター5との間に設けられた、図示しないチェック弁のロス分(圧力損失分)、すなわちチェック弁ヒステリシス圧に相当する。
【0031】
ここで図2に示されるように、エンジン始動(t0)から一定の時間t1が経過した後は、エンジン始動時のブースター負圧の如何に依らず、ブースター負圧は、吸気負圧からチェック弁ヒステリシス圧を差し引いた値となる。一方、チェック弁ヒステリシス圧は、実験等により定数として予め求めておくことができる。したがって、吸気負圧からチェック弁ヒステリシス圧を減算した値として、エンジン始動から一定の時間t1が経過した時点のブースター負圧を求めることができる。そしてある時点t2(>t1)のブースター負圧の値が求まれば、その後のブースター負圧の変化量(回復量、消費量)を求めてその値に足し込んでいくことでt2時点以後のブースター負圧の大きさを求めることが可能となる。
【0032】
なおブースター負圧は、ブレーキ操作に応じて消費される一方で、エンジン1が運転中であれば、そのエンジン1の吸気負圧により随時回復されてもいる。こうしたブースター負圧の回復量は、エンジン1の吸気通路2とブレーキブースター5との間に設置されたオリフィスの径によって決まる時定数を有した一次遅れ系として求めることができる。具体的には、本実施の形態では、吸気負圧からチェック弁ヒステリシス圧を減算した値とブースター負圧との差を適宜な時定数で徐変処理することでブースター負圧の回復量を求めるようにしている。
【0033】
次に、制動操作に応じたブースター負圧の消費量について考察する。図3上段は、エンジン停止状態、すなわちブースター負圧が増加しない状態で、順次緩めながら複数回に渡ってブレーキペダル4を踏み込んだときの制動加速度とブースター負圧の推移を示している。また図3下段は、ブレーキペダル4の踏み込み量を次第に減少させながら、残存するブースター負圧の減少の様子を表したものである。時刻t11から時刻t12までは、踏み込み操作時を、時刻t12から時刻t13までは戻し操作時を表わし、t21〜t53についても同様である。同図に示すように、ブースター負圧は、制動減速度が増大するブレーキペダル4の踏み込み操作時にも、制動減速度が減少するブレーキペダル4の戻し操作時にも消費される。具体的には、時刻t11から時刻t12に示す踏み込み操作では、Pt11−Pt12の大きさがブースター負圧消費量を示し、時刻t12から時刻t13までの戻し操作では、Pt12−Pt13の大きさがブースター負圧消費量を示す。ただし、制動減速度に対するブースター負圧の消費量の挙動は、ブレーキペダル4の踏み込み操作時と戻し操作時とで異なったものとなる。そこで本実施の形態では、ブレーキペダル4の踏み込み操作時とその戻し操作時とで、それぞれ異なる関数を用いてブースター負圧消費量を演算するようにしている。
【0034】
なお、ここでの「関数」とは、制動操作により発生する車両の減速度を引数として取り、ブースター負圧の消費量を返し値として出力する演算処理を指している。本実施の形態では、制動減速度が増加するブレーキペダル4の踏み込み操作時には、図4に示す踏み込み操作時用演算マップM1を用いて制動減速度からブースター負圧の消費量を求めるようにしている。また制動減速度が減少するブレーキペダル4の戻し操作時には、図5に示す戻し操作時用演算マップM2を用いて制動減速度からブースター負圧の消費量を求めるようにしている。なお、図4及び図5の縦軸、横軸はそれぞれ同じスケールで描かれており、これらを対比すること、及び図3より、踏み込み操作時のブースター負圧消費量と戻し操作時のブースター負圧消費量を各踏み戻しにおいて比較することにより、踏み込み操作時のブースター負圧消費量の方が、戻し操作時のブースター負圧消費量より大きいことがわかる。
【0035】
図6は、こうした本実施の形態に採用されるブースター負圧推定ルーチンのフローチャートを示している。なお本ルーチンの処理は、電子制御ユニット9によって、規定の演算周期毎に繰り返し実行されるものとなっている。
【0036】
さて本ルーチンが開始されると、まずステップS100においてエンジン1が停止中であるか否かが判定され、停止中でなければ(NO)、ステップS101において、後述する負圧回復量演算ルーチンにおいて現演算周期のブースター負圧の回復量が演算された後、ステップS102に処理が移行される。一方、エンジン1が停止中であれば(S100:YES)、ブースター負圧は回復しないため、ブースター負圧の回復量の演算を行わずに、そのままステップS102に処理が移行される。
【0037】
処理がステップS102に移行されると、そのステップS102において、Gセンサー11の検出値からエンジン1等によるG変化分を除くことで、制動減速度が演算される。そして続くステップS103において、その制動減速度の微分値が演算される。
【0038】
ここで制動減速度の微分値が正であれば(S104:YES)、制動減速度は増加傾向にあり、ブレーキペダル4の踏み込み操作中であることが判る。そこで、この場合には、ステップS106において、図4に示した踏み込み操作時用演算マップM1を用いて、制動減速度からブースター負圧の消費量が演算される。
【0039】
また、制動減速度の微分値が負であれば(S105:YES)、制動減速度は減少傾向にあり、ブレーキペダル4の戻し操作中であることが判る。そこでこの場合には、ステップS107において、図5に示した戻し操作時用演算マップM2を用いて、制動減速度からブースター負圧の消費量が演算される。
【0040】
一方、制動加速度が「0」であれば(S105:NO)、ブレーキペダル4の保持中であることが判る。このときにはブースター負圧の消費はないため、ステップS108においてブースター負圧の消費量に「0」が設定される。
【0041】
こうして現演算周期でのブースター負圧の消費量が演算されると、ステップS109にて、ブースター負圧の推定値の前回値に、ステップS101で演算した回復量を加算するとともに、ステップS106〜S108で演算した消費量を減算することで、現演算周期でのブースター負圧の推定値が演算される。
【0042】
ちなみに、ブースター負圧の大きさは、ブレーキブースター5内の気体の温度によっても変化する。具体的には、ブレーキブースター5内の気体が膨張する高温時には、ブースター負圧は減少し、ブレーキブースター5内の気体が収縮する低温時には、ブースター負圧は増加する。そこで本実施の形態では、ステップS110において、S109で演算したブースター負圧の推定値に、エンジン1の冷却水温に基づく補正を行って、最終的なブースター負圧の推定値を演算するようにしている。
【0043】
図7は、以上のブースター負圧推定ルーチンのステップS101にて実行される負圧回復量演算ルーチンのフローチャートを示している。
本ルーチンが開始されると、まずステップS200において、吸気負圧の検出値からチェック弁ヒステリシス圧を減算した値と、ブースター負圧との差圧が演算される。次に、ステップS201において、一次フィルターを通して演算した差圧の徐変処理を行うことでその徐変値が演算される。そしてステップS202では、ここで演算した上記差圧の徐変値がブースター負圧の回復量に設定される。
【0044】
さて、本実施の形態の車両の制御装置では、以上の処理により演算されたブースター負圧の推定値を用いて自動停止中のエンジン1を再始動するか否かの判定を行うようにしている。図8は、こうした本実施の形態に採用されるエンジン1の再始動判定ルーチンのフローチャートを示している。なお本ルーチンの処理は、規定の制御周期毎に電子制御ユニット9によって繰り返し実行されるものとなっている。
【0045】
本ルーチンが開始されると、まずステップS300において、エンジン1が停止中であるか否かが判定され、ここでエンジン1が停止中でなければ(NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了される。一方、エンジン1が停止中であれば(S300:YES)、ステップS301にてブースター負圧の推定値が規定の再始動判定値未満であるか否かが判定される。そしてブースター負圧の推定値が再始動判定値未満であれば(S301:YES)、そのままではブースター負圧が不足するとして、ステップS302にてエンジン1が再始動されるようになる。
【0046】
以上の本実施の形態によれば、以下のような効果を奏することができる。
(1)本実施の形態では、エンジン1の吸気負圧を利用して形成されたブースター負圧によりブレーキ踏力の助勢を行うブレーキブースター5を備える液圧ブレーキシステムにあって、以下の態様でブレーキブースター5のブースター負圧を推定するようにしている。すなわち、本実施の形態では、以下の各ステップを演算周期毎に実行することでブースター負圧の推定を行うようにしている。
・制動操作により発生する車両の減速度を車両前後方向に作用する加速度の検出結果から演算するステップ(S102)。
・規定の演算周期におけるブースター負圧の回復量を演算するステップ(S101)。
・上記減速度とブースター負圧の消費量との関数を用い、現演算周期におけるブースター負圧の消費量を前記減速度に基づいて演算するステップ(S106,S107)。
・演算された前記回復量及び前記消費量に基づいてブースター負圧の推定値を演算するステップ(S109)。
【0047】
こうした本実施の形態では、PMCセンサーやブレーキストロークセンサーの検出結果を用いることなく、ブースター負圧が推定されている。そのため、本実施の形態のブースター負圧の推定方法によれば、簡易な構成でありながらも、ブースター負圧の推定を精度良く行うことができる。
【0048】
(2)本実施の形態では、消費量の演算に用いられる関数(演算マップ)として、減速度が増加するブレーキペダル4の踏み込み操作時に用いられる関数(踏み込み操作時用演算マップM1)と、減速度が減少するブレーキペダル4の戻し操作時に用いられる関数(戻し操作時用演算マップM2)との2つの異なる関数を備えるようにしている。そのため、ブレーキペダル4の踏み込み操作時とその戻し操作時とでの制動減速度に対するブースター負圧の消費量の挙動の違いに応じて、ブースター負圧の消費量を的確に演算することができる。
【0049】
(3)本実施の形態では、吸気負圧から規定のチェック弁ヒステリシス圧を減算した値とブースター負圧の推定値との差を徐変処理することで、ブースター負圧の回復量を演算するようにしている。そのため、容易且つ的確にブースター負圧の回復量を求めることができる。
【0050】
(4)ブレーキブースター5内の気体の圧力は、その温度によっても変化する。例えばブレーキブースター5内の気体が膨張する高温時には、気体の膨張によりその圧力が高まるため、ブースター負圧は低くなる。またブレーキブースター5内の気体が収縮する低温時には、気体の収縮によりその圧力が下がるため、ブースター負圧は高くなる。その点、本実施の形態では、演算されたブースター負圧の推定値に、ブレーキブースター5の周囲の温度に応じた補正を行うステップ(S110)を更に備えるようにしている。そのため、本実施の形態では、温度の影響も考慮してより正確にブースター負圧の推定を行うことが可能となる。
【0051】
(5)本実施の形態の車両の制御装置では、エンジン1の自動停止中に、上記態様で推定されたブースター負圧の推定値が規定の閾値以下となることを条件にエンジン1の再始動を実行するようにしている。そのため、ブースター負圧を的確に把握することでその不足を好適に防止することができる。
【0052】
(第2の実施の形態)
次に、本発明を具体化した第2の実施の形態を、図9〜図14を併せ参照して詳細に説明する。なお本実施の形態にあって、上記実施の形態と共通する構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0053】
第1の実施の形態では、演算マップM1,M2を参照して制動減速度からブースター負圧の消費量を求めるようにしていた。これに対して本実施の形態では、制動操作に伴うブースター負圧の消費量を、以下の物理モデルを用いて求めるようにしている。
【0054】
図9は、非作動時、すなわちブレーキペダル4が踏まれていないときのブレーキブースター5の状態を示している。同図に示すように、ブレーキブースター5は、定圧室50、及び変圧室51の2つの圧力室を備えている。このうち、定圧室50は、図示しないチェック弁を介してエンジン1の吸気通路2に連通されており、吸気負圧によりその内部に負圧が引かれるようになっている。なお、これら定圧室50及び変圧室51の体積は、ブレーキペダル4の踏み込み量(ブレーキストローク)に応じて変化されるようになっている。ちなみに、ブレーキブースター5のブースター負圧とは、定圧室50内の負圧(大気圧と定圧室50の圧力との差圧)のことである。
【0055】
また、ブレーキブースター5には、真空弁52及び大気弁53の2つの弁が設けられている。真空弁52は、その開弁/閉弁に応じて定圧室50と変圧室51とを連通/遮断する弁となっている。また大気弁53は、その開弁に応じて変圧室51を大気開放する弁となっている。
【0056】
さて、同図に示されるように、ブレーキ非作動時には、真空弁52は開弁し、大気弁53は閉弁している。そのため、このときの定圧室50及び変圧室51は連通し、これらの内部には、エンジン1の吸気負圧により負圧が引かれるようになっている。
【0057】
図10は、ブレーキペダル踏み込み操作時のブレーキブースター5の状態が示されている。同図に示されるように、このときには、真空弁52は閉弁し、大気弁53は開弁する。そのため、このときの変圧室51の内圧は、徐々に大気圧に近づくようになる。
【0058】
一方、このときの定圧室50の体積は、ブレーキペダル4の踏み込みに応じて徐々に減少するようになる。そして定圧室50の体積が「VC(k-1)」から「VC(k)」に変化すれば、その変化前後の定圧室50の圧力の関係は、次式(1)の通りとなる。なお、下式(1)において、「PCon(k-1)」は、体積変化前の定圧室50の圧力を、「PCon(k)」は体積変化後の定圧室50の圧力を、それぞれ示している。
【0059】
【数1】

よって、このときのブレーキブースター5のブースター負圧の推定値PVBon(k) は、次式(2)に示す通りとなる。なお次式(2)での「PA 」は、大気圧となっている。
【0060】
【数2】

図11は、ブレーキペダル4がある程度踏み込まれた状態で保持されているときのブレーキブースター5の状態を示している。同図に示されるように、このときの真空弁52は閉じられ、大気弁53は開弁されている。したがって、このときの定圧室50の内部は負圧となり、変圧室51の内部は大気圧となる。
【0061】
図12は、ブレーキペダル戻し操作時のブレーキブースター5の状態を示している。同図に示されるように、このときの真空弁52は開弁され、大気弁53は閉弁されるようになる。したがって、ブレーキペダル4の戻し操作が開始された直後には、負圧の定圧室50と大気圧の変圧室51とが連通され、両室の圧力が均質に均されるようになる。ここでブレーキペダル4の戻し操作直前の定圧室50の体積を「VC(k-1)」、その圧力を「PCon(k-1)」、変圧室51の体積を「VV(k-1)」、その圧力、すなわち大気圧を「PA 」とすると、ブレーキペダル戻し直後の定圧室50の圧力の初期値PCoff0 は、次式(3)の通りとなる。
【0062】
【数3】

一方、ブレーキペダル4が戻されていくと、定圧室50の体積が徐々に増大するとともに、変圧室51の体積が徐々に減少するようになる。そして定圧室50の体積が「VCoff(k-1) 」から「VCoff(k) 」に変化し、変圧室51の体積が「VVoff(k-1) 」から「VVoff(k) 」に変化したのであれば、両室の総体積は「VCoff(k-1) +VVoff(k-1) 」から「VCoff(k) +VVoff(k) 」に変化することになる。したがって、こうした体積変化前後の定圧室50の圧力の関係は、次式(4)の通りとなる。なお、下式(4)において「PCoff(k-1) 」は、体積変化前の定圧室50の圧力を、「PCoff(k) 」は体積変化後の定圧室50の圧力を、それぞれ示している。
【0063】
【数4】

よって、このときのブレーキブースター5のブースター負圧の推定値PVBoff(k)は、次式(5)に示す通りとなる。
【0064】
【数5】

以上のように、そのとき時の定圧室50及び変圧室51の体積さえ判れば、上記のような物理モデルを用いてブレーキブースター5のブースター負圧を求めることができる。そして定圧室50及び変圧室51の体積は、ブレーキストロークから直接求めることができる。ただし、本実施の形態の適用される液圧ブレーキシステムには、ブレーキストロークセンサーはおろか、PMCセンサーすら搭載されていない。
【0065】
そこで本実施の形態では、以下の態様で定圧室50及び変圧室51の体積を求めるようにしている。すなわち、本実施の形態では、まずGセンサー11の検出値から制動減速度を求めるようにしている。そしてその制動加速度をマスターシリンダー6のマスターシリンダー圧PMCに換算し、そのマスターシリンダー圧PMCをブレーキストロークに、更にそのブレーキストロークを定圧室50及び変圧室51の体積に換算するようにしている。本実施の形態では、こうしてGセンサー11の検出結果から求められた車両の制動減速度に基づいて、定圧室50及び変圧室51の体積を、ひいてはブースター負圧を求めるようにしている。
【0066】
図13は、本実施の形態に採用される踏み込み操作時負圧消費量演算ルーチンのフローチャートを示している。本ルーチンの処理は、図6に示したブースター負圧推定ルーチンのステップS106の処理の代りとして、電子制御ユニット9により実行されるものとなっている。
【0067】
本ルーチンが開始されると、まずステップS400において、制動減速度がマスターシリンダー圧PMCに換算される。また、次のステップS401では、そのマスターシリンダー圧PMCがブレーキストロークに換算され、更に次のステップS402では、そのブレーキストロークが定圧室50の体積VC(k)に換算される。
【0068】
こうして定圧室50の体積VC(k)が求められると、ステップS403にて、上式(1)に基づき定圧室50の圧力PCon(k)が演算される。そして次のステップS404にて、その演算された圧力PCon(k)から、上式(2)に基づいてブレーキブースター5のブースター負圧の推定値PVBon(k) が演算されるようになる。
【0069】
図14は、本実施の形態に採用される戻し操作時負圧消費量演算ルーチンのフローチャートを示している。本ルーチンの処理は、図6に示したブースター負圧推定ルーチンのステップS107の処理の代りとして、電子制御ユニット9により実行されるものとなっている。
【0070】
本ルーチンが開始されると、まずステップS500において、制動減速度がマスターシリンダー圧PMCに換算される。また、次のステップS501では、そのマスターシリンダー圧PMCがブレーキストロークに換算され、更に次のステップS502では、そのブレーキストロークが定圧室50の体積VC(k)に換算される。
【0071】
続いてステップS503においてブレーキペダル4の操作が踏み込み操作から戻し操作に切り替わった直後であるか否かが判定される。ここで戻し操作への切り替わり直後であれば(S503:YES)、ステップS504において、上式(3)により定圧室50の圧力の初期値PCoff0 が演算された後、ステップS505の処理に移行する。一方、戻し操作への切り替わり直後でなければ(S503:NO)、そのままステップS505の処理に移行する。
【0072】
処理がステップS505に移行すると、そのステップS505において、上式(4)に基づき定圧室50の圧力PCoff(k) が演算される。そして次のステップS506にて、その演算された圧力PCon(k)から、上式(5)に基づいてブレーキブースター5のブースター負圧の推定値PVBoff(k)が演算されるようになる。
【0073】
以上説明した本実施の形態によっても、上記(1)及び(3)〜(5)と同様の効果を奏することができる。更に本実施の形態によれば、次の効果を奏することができる。
(6)本実施の形態では、ブレーキペダル4の踏み込み時と戻し操作時とで異なる関係式を用いてブースター負圧の消費量を演算するようにしている。すなわち、本実施の形態では、ブースター負圧の消費量の演算に用いられる関数(関係式)として、制動減速度が増加するブレーキペダル4の踏み込み時に用いられる関数(式(1)、(2))と制動減速度が減少するブレーキペダル4の戻し操作時に用いられる関数(式(3)〜(5))との2つの異なる関数を備えるようにしている。そのため、ブレーキペダル4の踏み込み時とその戻し操作時とでの記減速度に対するブースター負圧の消費量の挙動の違いに応じて、ブースター負圧の消費量を的確に演算することができる。
【0074】
(第3の実施の形態)
次に、本発明を具体化した第3の実施の形態を、図15を併せ参照して詳細に説明する。なお本実施の形態にあって、上記実施の形態と共通する構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0075】
上述の物理モデルによれば、ブレーキ操作の態様が判っていれば、その操作によるブースター負圧の消費量を求めることができる。したがって、将来のブレーキ操作状況が推測できるのであれば、その推測通りにブレーキが操作されたときのブースター負圧の推移を予測することができる。
【0076】
一方、ブレーキペダル4があるブレーキストロークまで踏み込まれたとすると、いずれはブレーキの戻し操作がなされるため、少なくとも、そのときのブレーキストロークからストローク「0」までのブレーキペダル4の戻し操作がなされることが約束されることになる。したがって、ブレーキペダル4の踏み込み操作時に、そのときのブレーキストロークからストローク「0」までの戻し操作に伴うブースター負圧の消費量を行うことで、将来のブースター負圧の消費量を先読みすることが可能である。こうしたブースター負圧消費量の先読みを行えば、次回のブレーキ踏み込み操作時にブースター負圧が不足するかどうかを予測することができる。そしてエンジン1の自動停止中にブースター負圧の不足が予測されるときには、実際に不足が発生する前にエンジン1を再始動することで、ブースター負圧の不足をより確実に回避することができる。
【0077】
図15は、こうした本実施の形態に採用される再始動判定ルーチンのフローチャートを示している。本ルーチンの処理は、規定の制御周期毎に、電子制御ユニット9により繰り返し実行されるものとなっている。
【0078】
さて本ルーチンが開始されると、まずステップS600において、エンジン1が停止中であるか否かが判定され、ここでエンジン1が停止中でなければ(NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了される。一方、エンジン1が停止中であれば(S600:YES)、ステップS601にてブレーキペダル4が踏み込み操作中であるか否かが判定され、そうでなければ(NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了される。
【0079】
踏み込み操作中であれば(S601:YES)、ステップS602において現状のブースター負圧PVBの演算がなされるようになる。このときのブースター負圧の推定は、上記各実施の形態による方法により行うことができる。
【0080】
続いてステップS603において、上述の物理モデルを用いて、現在のブレーキストロークからストローク「0」までブレーキペダル4を戻し操作したときのブースター負圧の消費量ΔPVBの予測が行われる。そしてステップS604において、現在のブースター負圧PVBから予測された将来のブースター負圧の消費量ΔPVBを減算した値が規定の再始動判定値未満であるか否かの判定が行われ、そうであれば(YES)、次回のブレーキ踏み込み時にはブースター負圧が不足する虞があるとして、ステップS605にてエンジン1が再始動されるようになる。
【0081】
以上説明した本実施の形態によれば、次の効果を奏することができる。
(7)本実施の形態では、制動減速度が増加するブレーキペダル4の踏み込み時に、その時点の踏み込み量からのブレーキペダル4の戻し操作が完了するまでのブースター負圧の消費量を演算し、戻し操作完了時点のブースター負圧を予測するようにしている。そのため、ブレーキペダル4が実際に戻し操作される前にその戻し操作に伴うブースター負圧の消費量を先読みして将来のブースター負圧を推定することができる。
【0082】
(8)本実施の形態では、上記態様で予測された将来のブレーキ負圧が規定の再始動判定値未満となったときに、自動停止中のエンジン1の再始動を行うようにしている。そのため、エンジン1の自動停止中にブースター負圧の不足が予測されるときには、実際に不足が発生する前にエンジン1を再始動することで、ブースター負圧の不足をより確実に回避することができる。
【0083】
なお、上記実施の形態は以下のように変更して実施することもできる。
・上記実施の形態では、Gセンサー11の検出値からエンジン1による加速分を差し引くことで制動操作に応じた車両の減速度である制動減速度を求めるようにしていた。なお、空気抵抗や路面抵抗、転がり抵抗、路面勾配などによる加速分(減速分)など、Gセンサー11の検出値に表われる、エンジン1による加速分外の因子が無視し得ない場合には、エンジン1による加速分と同様に、それらの加速分も差し引いて制動減速度を求めるようにすると良い。また、Gセンサーを用いる他に、車輪速センサーの検出値の微分値を演算し、そこから上記と同様の手段を用いて、制動減速度を求めるようにしても良い。
【0084】
・第2の実施の形態では、制動加速度からマスターシリンダー圧PMC、ブレーキストロークを経て定圧室体積、変圧室体積を求めるようにしていたが、制動加速度から定圧室体積、変圧室体積を直接演算するようにしても良い。
【0085】
・上記実施の形態では、エンジン1の冷却水温に基づいてブースター負圧推定値の温度補正を行うようにしていたが、エンジンルーム内の気温の検出値など、他の温度検出値を用いても同様の温度補正を行うことはできる。
【0086】
・上記実施の形態では、演算したブースター負圧の推定値に、ブレーキブースター5の周囲の温度に応じた補正を行うようにしていたが、ブースター負圧の温度依存性が無視し得る程度に小さい場合には、そうした温度補正を割愛するようにしても良い。
【0087】
・上記実施の形態では、吸気負圧からチェック弁ヒステリシス圧を減算した値とブースター負圧の推定値との差を徐変処理することでブースター負圧の回復量を演算するようにしていたが、他の態様で回復量の演算を行うようにしても良い。
【0088】
・上記実施の形態では、エンジン1の始動から一定の時間が経過した時点の吸気負圧の検出値からブースター負圧の初期値を求めるようにしていたが、そうした初期値の求め方は、これに限らず適宜変更しても良い。他の方法としては、例えばブースター負圧が規定値となったときにオンとなるスイッチをブレーキブースター5に設け、このスイッチがオンとなるタイミングでその既定値をブースター負圧の初期値に設定することなどが考えられる。
【0089】
・上記実施の形態では、制動減速度に基づき推定されたブースター負圧に基づき、自動停止中のエンジン1の再始動判定を行うようにしていたが、推定したブースター負圧は、他の制御にも用いることが可能である。例えば、推定結果からブースター負圧の不足が確認されたときには、より大きい吸気負圧が確保されるようにエンジン1の制御態様を変更することなどが考えられる。
【符号の説明】
【0090】
1…エンジン、2…吸気通路、3…スロットルバルブ、4…ブレーキペダル、5…ブレーキブースター、6…マスターシリンダー、7…ブレーキ装置、8…ブレーキアクチュエーター、9…電子制御ユニット、10…車速センサー、11…Gセンサー、50…定圧室、51…変圧室、52…真空弁、53…大気弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(1)の吸気負圧を利用して形成されたブースター負圧によりブレーキ踏力の助勢を行うブレーキブースター(5)を備える液圧ブレーキシステムの前記ブースター負圧の推定を行う方法であって、
制動操作により発生する車両の減速度を車両前後方向に作用する加速度の検出結果から演算するステップ(S102)と、
規定の演算周期における前記ブースター負圧の回復量を演算するステップ(S101)と、
前記減速度と前記ブースター負圧の消費量との関数関係並びに演算された前記減速度を用い、前記演算周期における前記ブースター負圧の消費量を演算するステップ(S106,S107)と、
演算された前記回復量及び前記消費量に基づいて前記ブースター負圧の推定値を演算するステップ(S109)と、
を、前記演算周期毎に実行して前記ブースター負圧の推定を行うブースター負圧の推定方法。
【請求項2】
前記消費量の演算に用いられる関数として、前記減速度が増加するブレーキペダル(4)の踏み込み操作時に用いられる関数(M1)と前記減速度が減少する前記ブレーキペダル(4)の戻し操作時に用いられる関数(M2)との2つの異なる関数を備える
請求項1に記載のブースター負圧の推定方法。
【請求項3】
前記ブースター負圧の回復量は、前記吸気負圧から規定のチェック弁ヒステリシス圧を減算した値と前記ブースター負圧の推定値との差を徐変処理することで演算される
請求項1又は2に記載のブースター負圧の推定方法。
【請求項4】
演算された前記ブースター負圧の推定値に、前記ブレーキブースター(5)の周囲の温度に応じた補正を行うステップ(S110)を更に備える
請求項1〜3のいずれか1項に記載のブースター負圧の推定方法。
【請求項5】
前記減速度が増加するブレーキペダル(4)の踏み込み操作時に、その時点の踏み込み量からの前記ブレーキペダル(4)の戻し操作が完了するまでの前記ブースター負圧の消費量を演算し、戻し操作完了時点の前記ブースター負圧を予測する
請求項1〜4のいずれか1項に記載のブースター負圧の推定方法。
【請求項6】
エンジン(1)の自動停止・自動再始動制御を行う車両の制御装置(9)であって、
前記エンジン(1)の自動停止中に、請求項1〜4のいずれかに記載のブースター負圧の推定方法を用いて推定された前記ブースター負圧の推定値が規定の閾値以下となることを条件に前記エンジン(1)の再始動を実行する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項7】
エンジン(1)の自動停止・自動再始動制御を行う車両の制御装置(9)であって、
前記エンジン(1)の自動停止中に、請求項5に記載のブースター負圧の推定方法を用いて予測された前記ブースター負圧の予測値が規定の閾値以下となることを条件に前記エンジン(1)の再始動を実行する
ことを特徴とする車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−6511(P2012−6511A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144983(P2010−144983)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】