説明

プラズマ処理方法及びプラズマ装置

【課題】プラズマ処理時及びその前後には被処理材(基板)を確実にトレイに固定して処理性及びハンドリング性を上げるとともに、必要な時には容易に基板をトレイから剥離することができる方法及び装置を提供する。
【解決手段】トレイ上に載置した基板を支持台上に載置して、基板の表面をプラズマにより処理するプラズマ処理方法において、トレイと基板を熱剥離接着部材で接着する。熱剥離接着部材としては、発泡剥離性シートを好適に用いることができる。熱剥離接着部材は通常は粘着性を有するため、プラズマ処理前後はトレイと基板が確実に固定され、良好なハンドリング性が得られる一方、処理後はトレイを所定の剥離温度以上に加熱するだけで、基板はトレイから容易に剥離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマにより被処理材表面にエッチング、堆積(成膜)、洗浄等の処理を施すプラズマ処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基板等の被処理材(以下、単に基板と呼ぶ)表面のプラズマ処理は、次のようにして行われる。まず基板を真空容器内に搬入して支持台上に載置する。真空容器の内部を減圧状態にした後、処理用のガス(プラズマガス)を真空容器内に導入し、種々の方法でエネルギーを投入してプラズマガスをプラズマ化する。導入するプラズマガスの種類や投入するエネルギー等を適宜設定することにより、基板に対してエッチング、堆積、洗浄等の処理が行われる。
【0003】
ここで、通常、ハンドリングの便宜のため、基板はまずトレイ上に載置・固定され、次に、基板を載置したトレイが真空容器内の支持台上に載置される。すなわち、基板はトレイと一緒に真空容器内に装入され、処理後はトレイと一緒に真空容器から取り出され、後工程の処理が行われる。所定の処理が終わった後、基板はトレイから取り外される。
【0004】
支持台上でプラズマ処理が行われている間、プラズマのエネルギーが基板に投入されるため基板の温度は上昇する。この温度上昇が過度になると、基板自体の特性が変化又は劣化したり、フォトレジストが焼けてしまう。そのため、多くの場合、プラズマ処理の間、基板を冷却することが行われる。基板の冷却は、通常、それを載置する支持台を冷却することにより行われる。
【0005】
基板と支持台の間に上記のようにトレイが介在する場合、トレイに熱伝導率の良好な材料を用いたとしても、支持台とトレイの接触面、及び、トレイと基板の接触面の熱伝達が良好でなければ、基板は十分に冷却されない。支持台とトレイは、従来より機械的な(メカニカル)チャックや静電チャック等で十分な密着性が確保され、場合によっては、それに加えて熱伝導率の良好なヘリウムガスを両者間に流す機構も備えられていた。そのため、支持台とトレイの間の熱伝達に大きな問題はなかった。
【0006】
【特許文献1】特開平5−160258号公報
【特許文献2】特開平5−245967号公報
【特許文献3】特開平8−124975号公報
【特許文献4】特開2003−257907号公報
【特許文献5】特開2005−150312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
トレイと基板は可搬性が重視されるため、両者の間に上記のようなチャック方法を用いることができない。しかし、単に基板をトレイに載置しただけでは、減圧下では両者の間が真空断熱されてしまう。この場合、基板の熱が十分支持台に伝達されず、折角支持台に冷却装置を設けてもその効果を奏することなく基板温度が上昇する。また、プラズマ処理では、複数枚の小径ウエハを真空容器に搬送して同時にプラズマ処理を行うことがあるが、従来の機械的なチャックでは、複数枚の基板を同時にトレイに固定できず、また、ウエハ端部を固定すると、基板表面の処理の均一性が低下して有効な処理面積が小さくなるなどの欠点があった。静電チャックでは、前述のようにトレイに載置した基板を冷却することができなかった。
【0008】
トレイと基板の間にグリスを塗布して両者の密着性を上げることにより、両者の間の熱伝達率を上げることができるが、プラズマ処理中にグリスの一部が気化することによって真空容器の内部や基板表面を汚染する。また、グリスはトレイと基板を接着する効果も有するが、熱伝達率向上の効果を上げようとするとその接着力も強力となり、支持台から基板を剥離する際に基板に無理な力が加わって基板を損傷するという問題がある。更に、プラズマ処理後はグリスを有機溶媒で除去する必要がある。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、プラズマ処理時及びその前後には基板を確実にトレイに固定して処理性及びハンドリング性を上げるとともに、必要な時には容易に基板をトレイから剥離することができる方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明は、被処理材をトレイ上に載置し、更に該トレイを支持台上に載置して、該被処理材の表面をプラズマにより処理するプラズマ処理方法において、トレイと被処理材を熱剥離接着部材で接着することを特徴とする。
【0011】
ここで、熱剥離接着部材とは、所定以上の温度になると剥離する接着部材のことを言う。例えば、特許文献1〜5に記載の発泡剥離性シート又は発泡剥離剤は本発明に好適に用いることができる。ただし、特許文献1〜5にはプラズマ処理容器内で発泡剥離性シート又は発泡剥離剤を用いることは記載されていない。もちろん本発明では、このような発泡剥離性シート・発泡剥離剤以外にも、熱を加えることにより接着力が弱まる又は接着力を失う接着部材であればいずれも使用することができる。
【0012】
上で述べた「トレイ上に載置」又は「支持台上に載置」とは、重力方向に関する上下を言うのではなく、単に一つの方向を示すのみである。すなわち、例えば支持台が重力方向に関して上部に配置され、その下面にトレイが何らかの方法で固定され、そのトレイの下面に被処理材が熱剥離接着部材で接着される場合も、本発明の範囲に含まれる。
【0013】
上記「プラズマ処理」には、プラズマエッチング処理、プラズマ成膜処理、プラズマ洗浄処理等、プラズマを用いたあらゆる処理が含まれる。
プラズマ処理における被処理材への入熱量が少ない場合は、被処理材の温度はそう上がらないが、投入エネルギが大きくなるにつれ、被処理材の温度が上昇する。このプラズマ処理中の被処理材の温度が熱剥離接着部材の剥離温度を超えると好ましくないため、プラズマ処理時には支持台を冷却することが望ましい。
【0014】
トレイと被処理材の接着は、トレイの表面に溝を設け、被処理材とトレイの間にある気体を該溝から逃がしながら行うことが望ましい。
【0015】
溝を設けたトレイを用いる場合、被処理材の周囲に配置したシール材を介して蓋を載置し、蓋を機械的に被処理材に押圧しつつ、被処理材、シール材及び蓋により形成される与圧室内に気体を注入することにより被処理材の全面を押圧して被処理材をトレイに接着させることが望ましい。この場合において、前記押圧の際に、被処理材の下面を排気することがより望ましい。ここで「下面」とは、被処理材の、与圧室とは反対側の面を指す。
【0016】
表面に溝を有するトレイと被処理材の接着は以下に述べる被処理材接着装置を用いて行うことが望ましい。即ち、この装置は、板状の被処理材を、表面に溝を有するトレイに均等に接着させるための被処理材接着装置であって、
該被処理材の上面の周囲に対応する位置に配置されるシール材と、
該シール材を介して被処理材の上側に配置される蓋と、
該シール材を押圧しつつ該蓋を該トレイに固定する固定手段と、
被処理材、シール材及び蓋により形成される与圧室内に気体を注入するための与圧手段と、
を備えることを特徴とする
【0017】
上記被処理材接着装置は、与圧室の周囲の空間を減圧する減圧手段を備えることが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るプラズマ処理方法又はプラズマ処理装置では、プラズマ処理中及びその前後において被処理材がトレイに確実に固定されているため、被処理材の処理室(真空容器)への搬入や搬出等のハンドリングが容易となる。また、プラズマ処理中は、被処理材に投入されたエネルギにより生じる熱を効率よくトレイ及び支持台に伝達するため、被処理材の温度上昇を抑えることができる。この効果は、支持台を冷却した場合により顕著である。
【0019】
そして、プラズマ処理が終了し、被処理材とトレイを処理室から取り出して必要な後処理を行った後は、熱剥離接着部材を加熱して所定の剥離温度以上とするだけで、被処理材はトレイから離れる。従って、処理全体を通して被処理材に無理な力を加えることなく、迅速なプラズマ処理を行うことができる。さらに、グリスを使用しないので、その洗浄工程を省くことが可能となる。
【0020】
本発明が対象とする被処理材は、シリコンや化合物などの半導体、ガラスや樹脂などの絶縁体、金属などの導体など、その種類を問わない。また、その形状についても、大きな1枚板であるウエハ状のものはもちろん、小さなチップ状のものが多数配列したものであってもよい。
【0021】
トレイの表面に溝を設けることにより、トレイと被処理材を接着する際に、被処理材とトレイの間にある気体を、溝を通して外部へ逃がすことができるため、トレイと被処理材の間に気体が残留することを防止することができる。これにより、被処理材からトレイへの熱の伝導性がより高まり、プラズマ処理中における被処理材の温度上昇をより確実に抑えることができる。
【0022】
被処理材の上部に与圧室を設け、与圧室内に気体を注入し被処理材の全面を押圧して被処理材をトレイに接着させることにより、被処理材の全面を均等な圧力で押圧することができるため、トレイと被処理材の間の一部に気体が残留することを防ぐことができ、トレイへの被処理材の接着性を更に高めることができる。
【0023】
その際、機械的な押圧により加えられるシール材への圧力に偏りが生じたとしても、被処理材の下面を排気することにより、その偏りを補正してシール材に均等な圧力を加えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の一実施形態を図1により説明する。図1は、カソードカップリング型プラズマCVD装置10の断面図である。上下分割型の真空容器11内には、上部電極12と下部電極13がほぼ平行に配設されている。上部電極12の下面には多数の細かいガス導入口が設けられ、一方、下部電極13内には冷却装置が設けられている。電気的には、上部電極12及び容器11が接地される一方、下部電極13には高周波電力が投入される。なお、本実施例では下部電極13が上記支持台として作用する。
本プラズマCVD装置10を用いた被処理材(以下、基板と呼ぶ)14の処理方法は、次の通りである。
【0025】
まず、真空容器11の外で、図2(a)に示すように、アルミナ等から成るトレイ15上に、発泡剥離性シート16を介して基板14を載置する。発泡剥離性シート16は、常温では粘着性を有するが、熱を加えることにより含有成分が発泡し、それにより粘着性を失うというものである。例えば、日東電工株式会社製「リバアルファ」(登録商標)を用いることができる。
【0026】
こうして基板を固定したトレイ15を下部電極13上に載置し、静電クランプ等でトレイ15を下部電極13に固定する。真空容器11を閉じた後、上部電極12から処理ガスを真空容器11内に導入しつつ、下部電極13に高周波電力を投入する。これにより、処理ガスがプラズマ化され、基板14上に成膜が行われる。その間、下部電極13の冷却装置には冷却液が所定流量で流され、基板14が所定温度以上に上昇しないように制御される。
【0027】
所定時間の処理が終了した後、高周波電力の投入が停止され、真空容器11内の処理ガスを十分吸引除去した後、真空容器11内に空気が導入されて真空容器11が開放される。トレイ15のクランプが解除され、トレイ15が下部電極13から取り外されて真空容器11外に取り出される。そして、図2(b)に示すように、トレイ15を加熱台17上に載置し、所定の剥離温度以上に加熱することにより、発泡剥離性シート16は粘着力を失い、基板14をトレイから持ち上げることができるようになる。発泡剥離性シート16が発泡し、粘着力を失う温度は、各種のものが用意されている。例えば、上記日東電工株式会社製リバアルファでは90℃、120℃、150℃などで剥離するものが用意されている。これらは、基板14の種類やプラズマ処理条件に応じて適宜選択して使用することが可能である。
【0028】
次に、図3を用いてトレイの好適な一実施形態であるトレイ15Aについて説明する。図3(a)はトレイ15Aの上面図である。トレイ15Aは、基板14を載置する側の表面に溝21を設けたものである。この例では、溝21を蜂の巣(ハニカム)状に、トレイ15の端部22にまで延びるように形成した。
【0029】
このように溝21を設けることにより、図3(b)の縦断面図に示すように、発泡剥離性シート16を用いてトレイ15A上に基板14を接着する際に、基板14からトレイ15Aに圧力を加えるにより発泡剥離性シート16から押し出される気体を溝21から端部22を通過して外部に逃がすことができる。そのため、接着後にトレイ15Aと基板14の間に気体が残留することを防ぐことができ、溝21がない場合よりもトレイ15Aと基板14の接着性が向上する。そのため、プラズマCVD装置10により基板14上に成膜が行われる際に基板14の熱をより確実にトレイ15Aに逃がすことができ、基板14が所定温度以上に上昇することを防ぐことができる。なお、図3(b)では説明の都合上、溝21は図3(a)に示した蜂の巣状のものとは異なる形状で示した。
【0030】
上述の効果を確実に得るために、溝21は、トレイ15Aの表面の面積のうち5%以上に形成されていることが望ましい。しかし、溝21が占める面積が大きすぎると基板14からトレイ15Aへの熱の伝導効率が低下するため、この面積は40%以下とすることが望ましい。また、溝21の深さは、溝21を通過する空気のコンダクタンス及び熱の伝導効率を考慮して、10μm〜200μmとすることが望ましい。
【0031】
ここで、溝21は正方格子状や三角格子状等、蜂の巣状以外の形状に形成してもよい。また、溝21が図3に示したように端部22にまで延びていなくとも、基板14の面よりも大きい範囲に溝21が形成されていれば、トレイと基板の間の発泡剥離性シートが含んでいる気体を外部に排出するという、溝を設ける目的を達成することができる。
【0032】
次に、トレイと基板を接着する接着装置30について、図4〜図7を用いて説明する。図4は接着装置30の縦断面図である。接着装置30はトレイを載置する載置台30Aと、載置台30Aを覆う蓋30Bと、載置台30Aと蓋30Bを重ねて固定するクランプ30Cを有する。
【0033】
載置台30Aの構成を図4及び載置台30Aの上面図である図5を用いて説明する。載置台30Aの上面の中央部31Aは、載置台30Aを蓋30Bで覆うことによりこの中央部31Aに排気室31が形成されるように、周囲よりも一段低くなっている。中央部31A内に、トレイを嵌め込むための窪み32が形成されている。中央部31A内の窪み32から離れた位置に、排気室31内の空気を排出するための排出口33が設けられている。また、中央部31Aの周囲には、排気室31内の気密を保つための排気室Oリング34が設けられている。
【0034】
蓋30Bの構成を図4及び蓋30Bを下面図である図6を用いて説明する。蓋30Bを載置台30Aに被せた際に窪み32の直上になる位置に、各窪み32と1対1に対応して、蓋30Bの下面よりも上側に窪んで成る与圧室35が形成されている。各与圧室35の上面に、気体を注入するための気体注入口36が設けられている。本実施例では注入される気体は窒素ガスとしたが、気体の種類は特に問わない。また、各与圧室35の周囲には、窪み32に被処理材を載置した時に被処理材の上面の周囲に対応する位置に配置されるシール材(Oリング)37が設けられている。
【0035】
図4及び図4中に破線で囲った1個の与圧室35の近傍を拡大した図である図7を用いて、接着装置30の動作を説明する。まず、使用者は窪み32にトレイ15Aを嵌め込み、トレイ15Aの上に発泡剥離性シート16を介して基板14を載置する。次に、使用者は載置台30Aに蓋30Bを被せ、クランプ30Cにより両者を固定する。これにより、蓋30Bはシール材37を押圧するようにトレイ15Aに固定される。そして、排出口33から空気を排出して排気室31内を減圧する。これにより、仮にクランプ30Cによりシール材37に加えられた圧力に偏りが生じていたとしても、その偏りを補正してシール材37に均一に圧力を加えることができる。
【0036】
次に、気体注入口36から各与圧室35に窒素ガスを供給する。これにより、基板14の表面に均一な圧力が加えられ、基板14がトレイ15Aに接着する。この時、トレイ15Aと基板14の間に残存していた空気は、トレイ15Aの溝を通って排出口33から排出される。
【0037】
与圧室35に供給する気体の圧力は、大気圧よりも大きく、且つ基板に不要な力を加えることなく基板をトレイに接着するために、0.2MPa〜5MPaとすることが望ましい。
【0038】
ここでは1台の接着装置に窪み32、与圧室35、気体注入口36及びシール材37を7組設けた例を示したが、その個数は任意である。
【実施例1】
【0039】
発泡剥離性シートを用いた場合とそれを用いない場合で、プラズマ処理時の基板の温度上昇がどのように変化するかを測定する試験を行った。プラズマ処理装置にはサムコ株式会社製RIE-200誘導結合型プラズマエッチング装置を使用した。その概略構成を図8に示す。基板には50×50×0.2mmの熱酸化膜付Siチップを、発泡剥離性シートには日東電工株式会社製リバアルファNo.3195Mを用いた。トレイには、第1試験ではNi被覆アルミナ板(Al2O3/Ni)を、第2試験では表面を酸化したシリコンウエハ(SiO2/Si)を用いた。なお、リバアルファNo.3195Mの粘着力は3.7N/20mm、剥離温度は120℃である。第1試験におけるトレイのNi被覆は、支持台への静電チャックのためである。
【0040】
図9に示すように、発泡剥離性シート41により基板42をトレイ43上に固定し、基板42表面とトレイ43表面にそれぞれ温度測定用のサーモラベル44を貼付した。なお、サーモラベル44をプラズマから保護するため、サーモラベル44の上にカプトンテープ(デュポン社の登録商標)45を貼付した。また、比較のために、発泡剥離性シートを使用せず、基板をトレイ上に単に載置しただけの場合の試験も行った。
【0041】
こうして準備したトレイ43及び基板42を上記プラズマ処理装置に装入し、図10に示す処理条件でプラズマエッチング処理を行った。これらの処理の間の基板42表面の最高温度を測定した結果を図11に示す。アルミナトレイの場合、発泡剥離性シート41を用いることにより、基板温度は10℃低下している。また、シリコントレイの場合、35〜40℃も低下している。
プラズマエッチング処理を行った後、トレイ43をプラズマ処理装置から取り出し、図示しないホットプレートに載置した。ホットプレートに通電し、トレイ43を徐々に150℃まで加熱したところ、発泡剥離性シートが発泡して粘着力を失い、基板42をトレイ43から容易に剥離することができた。
【0042】
次に、基板42をΦ50mm×0.2mmサファイア(Al2O3)とし、トレイ43にNi被覆アルミナ板(Al2O3/Ni)を用いてプラズマエッチング処理を行った。処理条件は、ガス種をCl2/SiCl4 = 50/5(sccm)、ICP/バイアス=800/500(W)、処理時間10分、圧力0.6Paとした。その最高温度測定結果を図12に示す。投入電力が小さい場合には、発泡剥離性シート41を使用することによる温度低下は10℃に留まっているが、投入電力が大きくなると、その温度低下効果は顕著となり、約140℃も低下している。
プラズマエッチング処理を行った後は上記同様、トレイ43をプラズマ処理装置から取り出し、図示しないホットプレートに載置してトレイ43を徐々に150℃まで加熱した。これにより、発泡剥離性シートが発泡して粘着力を失い、基板42をトレイ43から容易に剥離することができた。
【実施例2】
【0043】
上述の溝つきのトレイ15Aに発泡剥離性シートを介してサファイア基板を接着した時の、サファイア基板の剥がれ難さを確認する実験を行った。この実験では、(i)接着装置30を用いて接着を行った試料A、(ii)接着装置30を用いることなく、トレイ15A上に発泡剥離性シートを介してサファイア基板を載置し、サファイア基板上から該基板の全面に手で圧力を加えて接着を行った試料B、(iii)同じく接着装置30を用いることなく、トレイ15A上に発泡剥離性シートを介してサファイア基板を載置し、サファイア基板上のうちプラズマ処理がなされない周辺部にのみ手で圧力を加えて接着を行った試料C、を用いた。
【0044】
これら3個の試料につき、サファイア基板をピンセットで挟んで持ち上げようとしたところ、試料Cはすぐにサファイア基板がトレイ15Aから剥がれた。また、試料Bは、試料Cよりは剥がれ難かったものの、やはりサファイア基板はトレイ15Aから剥がれた。それに対して試料Aでは、試料Bのサファイア基板が剥がれた位置までサファイア基板を持ち上げても剥がれることはなかった。
【0045】
なお、実際にプラズマ処理を行う場合には、基板の表面に形成されたレジストが不均一に力を加えられることにより破壊されるおそれがある等の理由により、試料Bのようにサファイア基板の全面に手で圧力を加えることはできない。そのため、手で力を加えて接着を行う限り、試料Cのように周辺部にしか圧力を加えることができず、試料Bよりも更に接着力が弱くなる。従って、接着装置30を用いて確実に接着を行うことが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態で用いるカソードカップリング型プラズマCVD装置の概略構成図。
【図2】トレイ、発泡剥離性シートと基板の関係を示す断面図であり、(a)は接着状態、(b)は剥離状態を表す。
【図3】トレイの好適な一実施形態であるトレイ15Aを示す上面図(a)及びトレイ15Aに基板14を接着する際に基板14とトレイ15Aの間から気体を排出することができることを示す縦断面図(b)。
【図4】トレイと被処理材を接着するための装置の一実施形態を示す縦断面図。
【図5】接着装置30のステージ30Aを示す上面図。
【図6】接着装置30の蓋30Bを示す下面図。
【図7】1個の与圧室35の周囲を拡大して示した縦断面図。
【図8】温度上昇測定試験に用いたトレイと基板の斜視図。
【図9】温度上昇測定試験に用いたICPプラズマエッチング装置の概略構成図。
【図10】温度上昇測定試験条件の表。
【図11】温度上昇測定試験条件の結果の表。
【図12】温度上昇測定試験条件の結果の表。
【符号の説明】
【0047】
10…プラズマCVD装置
11…真空容器
12…上部電極
13…下部電極
14、42…被処理材(基板)
15、15A、43…トレイ
16、41…発泡剥離性シート
17…加熱台
21…溝
22…トレイの端部
30…接着装置
30A…載置台
30B…蓋
30C…クランプ
31…空間
31A…載置台の中央部
33…排出口
34…排気室Oリング
35…与圧室
36…気体注入口
37…シール材
44…サーモラベル
45…サーモラベル保護シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理材をトレイ上に載置し、更に該トレイを支持台上に載置して、該被処理材の表面をプラズマにより処理するプラズマ処理方法において、
トレイと被処理材を熱剥離接着部材で接着することを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項2】
プラズマ処理時に該支持台を冷却することを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理方法。
【請求項3】
熱剥離接着部材が発泡剥離剤である請求項1又は2に記載のプラズマ処理方法。
【請求項4】
熱剥離接着部材が発泡剥離性シートである請求項1又は2に記載のプラズマ処理方法。
【請求項5】
トレイの表面に溝を設け、被処理材とトレイの間にある気体を該溝から逃がしながらトレイと被処理材を接着することを特徴とする請求項1〜4に記載のプラズマ処理方法。
【請求項6】
トレイの表面のうち溝が占める面積の割合が5%〜40%であることを特徴とする請求項5に記載のプラズマ処理方法。
【請求項7】
溝の深さが10μm〜200μmであることを特徴とする請求項5又は6に記載のプラズマ処理方法。
【請求項8】
被処理材の周囲に配置したシール材を介して蓋を載置し、蓋を機械的に被処理材に押圧しつつ、被処理材、シール材及び蓋により形成される与圧室内に気体を注入することにより被処理材の全面を押圧して被処理材をトレイに接着させることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載のプラズマ処理方法。
【請求項9】
前記気体の圧力が0.2MPa〜5MPaであることを特徴とする請求項8に記載のプラズマ処理方法。
【請求項10】
前記押圧の際に、被処理材の下面を排気することを特徴とする請求項8又は9に記載のプラズマ処理方法。
【請求項11】
被処理材をトレイ上に載置し、更に該トレイを支持台上に載置して、該被処理材の表面をプラズマにより処理するプラズマ処理装置において、
トレイと被処理材を接着する熱剥離接着部材を備えることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項12】
該支持台を冷却する冷却装置が設けられている請求項11に記載のプラズマ処理装置。
【請求項13】
熱剥離接着部材が発泡剥離剤である請求項11又は12に記載のプラズマ処理装置。
【請求項14】
熱剥離接着部材が発泡剥離性シートである請求項11又は12に記載のプラズマ処理装置。
【請求項15】
トレイが表面に溝を有することを特徴とする請求項11〜14のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項16】
トレイの表面のうち溝が占める面積の割合が5%〜40%であることを特徴とする請求項15に記載のプラズマ処理装置。
【請求項17】
溝の深さが10μm〜200μmであることを特徴とする請求項15又は16に記載のプラズマ処理装置。
【請求項18】
板状の被処理材を、表面に溝を有するトレイに均等に接着させるための被処理材接着装置であって、
該被処理材の上面の周囲に対応する位置に配置されるシール材と、
該シール材を介して被処理材の上側に配置される蓋と、
該シール材を押圧しつつ該蓋を該トレイに固定する固定手段と、
被処理材、シール材及び蓋により形成される与圧室内に気体を注入するための与圧手段と、
を備えることを特徴とする被処理材接着装置。
【請求項19】
与圧室の周囲の空間を減圧する減圧手段を備えることを特徴とする請求項18に記載の被処理材接着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−201404(P2007−201404A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−196558(P2006−196558)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(392022570)サムコ株式会社 (36)
【Fターム(参考)】