説明

プラズマ発生装置

【課題】装置構成を簡単化しつつ、複数の真空チャンバ内に交互にプラズマを発生させることができるプラズマ発生装置を提供する。
【解決手段】プラズマ発生装置は、N個の真空チャンバ(2−1〜2−3)の真空チャンバ壁(15−1〜15−3)と一方の極で接続される電源(10)と、所定の周期でパルス信号を出力する発振器(11)と、電源の他方の極及び発振器に対して互いに並列に接続され、電源から供給される電力を用いて増幅したパルス信号を真空チャンバ内に配置されたN個の電極(14−1〜14−3)の何れかへ出力するN個のパルス増幅回路(13−1〜13−3)と、少なくとも(N-1)個のパルス増幅回路と発振器の間にそれぞれ接続され、各時刻において一つのパルス増幅回路にのみパルス信号が入力されるように互いに異なる遅延期間だけパルス信号を遅延させる少なくとも(N-1)個のタイミング生成回路(12−1〜12−3)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、プラズマ発生装置は、プラズマによる反応活性な場を生じさせるため、表面処理、薄膜形成及びエッチングといった、様々な材料の加工において広く利用されている。例えば、プラズマ発生装置は、基材の表面にダイヤモンドライクカーボン(diamond‐like carbon、DLC)を成膜するために用いられる。DLCの膜を形成するために、プラズマ発生装置は、真空チャンバ内に封入されたメタンまたはアセチレンなどの炭化水素ガスを電離させてプラズマ状態とし、発生するラジカル及びイオンなどの反応活性種を用いる。
【0003】
また、複数の真空チャンバのそれぞれに設けられたプラズマ発生装置、または一つの真空チャンバに設けられた複数の電極のそれぞれに対して、1台の電源装置からリレーなどを介して電力を供給するように構成することで、装置のコストを低下させる技術が提案されている(例えば、特許文献1〜3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−340798号公報
【特許文献2】特開平11−40395号公報
【特許文献3】特開2003−129234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、大量の製品を生産する生産工程においては、生産性を向上するために、製品の加工に要する時間を短縮できることが望ましい。そのため、プラズマ発生装置を用いた成膜などの工程においても、複数の加工対象物の表面に、同時平行的に成膜できることが望ましい。
しかしながら、特許文献1または2に開示された技術は、複数の真空チャンバのうちの何れかでプラズマを利用して加工している間に、他の真空チャンバについては加工対象物の搬送などを行えるようにするためのものであり、電源からの電力は、リレーを介して複数の真空チャンバのうちの何れか一つの真空チャンバ内の電極に供給される。そのため、この技術は、同時に複数の真空チャンバにてプラズマを発生させることはできない。
【0006】
また、特許文献3に開示された技術では、直流電源に対して、スパッタ蒸発源ごとに設けられた複数のパルス分配供給手段が並列に接続されており、各パルス分配供給手段は電源から供給された電力をコンデンサにて蓄えられるようになっている。そしてこの技術は、各パルス分配供給手段が有するスイッチ素子をオンにすることにより、そのパルス分配供給手段に接続された陰極と直流電源に接続された陽極との間でグロー放電を生じさせることが可能となっている。
また、この技術では、各スイッチはスパッタ蒸発源ごとに設けられており、制御機構からスイッチへの信号によって各スイッチが異なるタイミングで開閉することにより、順次時分割で交互にパルス状電力が各スパッタ蒸発源に供給される。
しかしながら、この技術では、各スパッタ蒸発源へ電力を供給するタイミングを調節するための制御機構が必要となるので、装置構成が複雑になる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、装置構成を簡単化しつつ、複数の真空チャンバにて交互にプラズマを発生させることができるプラズマ発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の記載によれば、本発明の一つの形態として、2以上であるN個の真空チャンバ(2−1〜2−3)の真空チャンバ壁(15−1〜15−3)と、各真空チャンバ内にそれぞれ配置される、N個の電極(14−1〜14−3)との間に電圧を印加することで真空チャンバ内にプラズマを発生させるプラズマ発生装置が提供される。このプラズマ発生装置は、真空チャンバ壁と一方の極で接続される電源(10)と、所定の周期でパルス信号を出力する発振器(11)と、電源(10)の他方の極及び発振器(11)に対して互いに並列に接続され、かつ、電源(10)から供給される電力を用いてパルス信号を増幅し、増幅されたパルス信号をN個の電極の何れかへ出力するN個のパルス増幅回路(13−1〜13−3)と、N個のパルス増幅回路のうちの少なくとも(N-1)個のパルス増幅回路と発振器(11)の間にそれぞれ接続され、N個のパルス増幅回路のうちの一つのパルス増幅回路にパルス信号が入力されている間、他のパルス増幅回路にはパルス信号が入力されないように互いに異なる遅延期間だけパルス信号を遅延させる少なくとも(N-1)個のタイミング生成回路(12−1〜12−3)とを有する。
係る構成を有することにより、このプラズマ発生装置は、装置構成を簡単化しつつ、複数の真空チャンバにて交互にプラズマを発生させることができる。
また、電源は、同時に複数のパルス増幅回路に電力を供給する必要が無く、電源の負荷が抑制されるので、電源の回路規模は、一つのパルス増幅回路のみを有するプラズマ発生装置で用いられる規模でよい。そのため、このプラズマ発生装置は、装置構成を簡単化できる。
【0009】
また請求項2の記載によれば、発振器(11)は、第1の電圧を有し、かつ第1の持続期間を持つ短パルスと、その短パルスに続く、第1の電圧の絶対値よりも小さい絶対値を持つ第2の電圧を有し、かつ第1の持続期間よりも長い第2の持続期間を持つ長パルスとを含む信号をパルス信号として出力することが好ましい。
このように、このプラズマ発生装置は、先ず、電圧が高い短パルスを真空チャンバ内に印加することでグロー放電を生じさせ、その後、真空チャンバ内に印加する電圧を、グロー放電を維持できる範囲内で低下させる。そのため、このプラズマ発生装置は、真空チャンバ内でアーク放電が生じることを抑制できるので、安定的にプラズマを発生させることができる。
【0010】
さらに請求項3に記載の発明によれば、発振器がパルス信号を出力する所定の周期は、各真空チャンバについて、増幅されたパルス信号が印加されなくなってから次の増幅されたパルス信号が印加されるまでの期間中も、過渡現象によりプラズマが発生可能なように設定されることが好ましい。
これにより、このプラズマ発生装置は、複数の真空チャンバ内に同時にプラズマを発生させることができる。
【0011】
また請求項4に記載のように、本発明の他の実施形態によれば、真空チャンバ(2−1)の真空チャンバ壁(15−1)と真空チャンバ内に配置される2以上であるN個の電極(14−1〜14−3)との間に電圧を印加することで真空チャンバ内にプラズマを発生させるプラズマ発生装置が提供される。この実施形態においても、プラズマ発生装置は、真空チャンバ壁と一方の極で接続される電源(10)と、所定の周期でパルス信号を出力する発振器(11)と、電源の他方の極及び発振器に対して互いに並列に接続され、かつ、電源から供給される電力を用いてパルス信号を増幅し、増幅されたパルス信号をN個の電極の何れかへ出力するN個のパルス増幅回路(13−1〜13−3)と、N個のパルス増幅回路のうちの少なくとも(N-1)個のパルス増幅回路と発振器の間にそれぞれ接続され、N個のパルス増幅回路のうちの一つのパルス増幅回路にパルス信号が入力されている間、N個のパルス増幅回路のうちの他のパルス増幅回路にはパルス信号が入力されないように、互いに異なる遅延期間だけパルス信号を遅延させる少なくとも(N-1)個のタイミング生成回路(12−1〜12−3)とを有する。
これにより、このプラズマ発生装置は、一つの真空チャンバ内においてチャンバ壁と異なる電極間で交互にプラズマを発生させることができる。
【0012】
なお、上記各手段に付した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一つの実施形態によるプラズマ発生装置の概略構成図である。
【図2】発振器の一例の回路図である。
【図3】各真空チャンバに印加される電圧のパルス波形を示すタイムチャートである。
【図4】他の実施形態によるプラズマ発生装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一つの実施形態によるプラズマ発生装置について説明する。
このプラズマ発生装置は、複数の真空チャンバ内にそれぞれ設けられた二つの電極間でグロー放電を生じさせることで、各真空チャンバ内にプラズマを発生させる。このプラズマ発生装置では、真空チャンバごとに設けられた複数のパルス増幅回路が、一つの電源に対して並列に接続されるとともに、それぞれタイミング生成回路を介して並列に一つの発振器に接続される。そして、その発振器から生じたパルスは、各タイミング生成回路によってそれぞれ異なるタイミングで各パルス増幅回路に供給される。そして各パルス増幅回路は、電源から供給された電力を用いて入力されたパルスを増幅し、増幅されたパルスを真空チャンバ内の電極へ出力する。これにより、このプラズマ発生装置は、電源に掛かる負荷を時間的に分散することで、電源の小型化を図るとともに、複数の真空チャンバ内でプラズマを発生させる。
【0015】
図1は、本発明の一つの実施形態に係る、化学気相成長法(CVD)を用いた成膜装置として動作するプラズマ発生装置1の全体構成を示す概略構成図である。
プラズマ発生装置1は、3個の真空チャンバ2−1〜2−3と、一つの電源10と、一つの発振器11と、真空チャンバごとに設けられた3個のタイミング生成回路12−1〜12−3と、3個のパルス増幅回路13−1〜13−3とを有する。
各真空チャンバ2−1〜2−3には、真空チャンバ内を真空にするための真空排気機構(図示せず)、圧力計及び成膜の原料となるガス活性種を供給するためのプロセスガスを真空チャンバ内に導入するためのプロセスガス導入機構(図示せず)が設けられる。さらに、各真空チャンバ2−1〜2−3には、成膜される基材(ワーク)により形成される電極14−1〜14−3を真空チャンバ内に搬入または真空チャンバから搬出するための機構を有していてもよい。
【0016】
各パルス増幅回路13−1〜13−3は、それぞれ、タイミング生成回路12−1〜12−3を介して発振器11と並列に接続される。そして発振器11から出力されたパルス信号は、タイミング生成回路12−1〜12−3を介して各パルス増幅回路13−1〜13−3に入力される。
また各パルス増幅回路13−1〜13−3は、それぞれ、電源10の陰極に対して互いに並列に接続される。また各パルス増幅回路13−1〜13−3は、それぞれ、真空チャンバ内に配置され、例えば、真空チャンバ2−1〜2−3の底面を形成する絶縁体内を通される導線を介して、電極14−1〜14−3と接続される。そして各パルス増幅回路13−1〜13−3は、入力されたパルス信号を電源10からの電力を用いて増幅し、増幅されたパルス信号を電極14−1〜14−3へ出力する。
一方、真空チャンバ2−1〜2−3の内壁である真空チャンバ壁15−1〜15−3は、鉄、銅などの導電体により、例えば、円筒形または釣鐘型に形成され、それぞれ、電源10の接地される側と接続される。そのため、真空チャンバ壁15−1〜15−3も電極として機能し、電極14−1〜14−3にパルスが伝達されると、チャンバ壁15−1〜15−3と電極14−1〜14−3との間でグロー放電が生じ、それにより各真空チャンバ内にプロセスガスのプラズマが生成される。
【0017】
各真空チャンバ2−1〜2−3内に成膜されるワークが設置された後、各真空チャンバは真空排気される。その後、各真空チャンバ2−1〜2−3内にプロセスガスが導入される。プロセスガスは、成膜される活性種に応じて適切なものが用いられる。例えば、プロセスガスとして、希ガス、炭化水素、及び酸素ガスのうちの何れか、又は、それらのガスのうちの2種類以上を混合したガスが用いられる。より具体的には、例えば、プロセスガスとして、Ar、He、N 2、O2、H2、CH4、C2H2、C2H4、C3H8、CF4、C2F6、SF6、SiH4、SiH3Cl、SiH2Cl2、Si(CH3)4、及び(CH3)3Si-NH-Si(CH3)3のうちの何れか、又は、それらのガスのうちの2種類以上を混合したガスが用いられる。
プロセスガスが導入された後、各真空チャンバ内の圧力は、プロセスガス導入機構または真空排気機構を制御することにより、例えば、100〜101kPaの範囲内の所定の圧力に調整される。
その後、プラズマ発生装置1は、真空チャンバ壁15−1〜15−3と電極14−1〜14−3との間にパルス状の直流電力を印加することで、各真空チャンバ内にプラズマを生成させ、そのプラズマ中でガスが分解されることにより生成された活性種によりワークの表面に膜を形成する。例えば、ワークは、DLCコーティングされる。
以下、プラズマ発生装置1の各部について説明する。
【0018】
電源10は、直流電圧を、電源10の陰極に対して並列に接続される各パルス増幅回路13−1〜13−3と電源10の接地される側である陽極に対して並列に接続される真空チャンバ壁15−1〜15−3間に印加する。電源10は、例えば、300V〜1kV程度の電圧を発生させる。なお、電源10として、例えば、プラズマ発生装置用として市販されている様々な直流電源装置の何れかを用いることができる。
【0019】
発振器11は、所定の周期でパルス信号を発生させ、そのパルスをタイミング生成回路12−1〜12−3を介してパルス増幅回路13−1〜13−3へ出力する。
本実施形態では、発振器11が発生するパルス信号には、相対的に電圧が高く、かつ相対的に持続時間が短い高電圧短パルスと、その高電圧短パルスに引き続き、高電圧短パルスの電圧の絶対値よりも低い電圧の絶対値を持ち、かつ高電圧短パルスの持続時間よりも長い持続時間を持つ低電圧長パルスが含まれる。
これにより、真空チャンバ内に先ず高電圧が印加されるので、真空チャンバ内にグロー放電が生じ易くなる。そして一旦グロー放電が生じた後、真空チャンバ内に印加される電圧が低下するので、プラズマ発生装置1は、真空チャンバ内にアーク放電が生じることを抑制できる。そのため、このプラズマ発生装置1は、真空チャンバ内に安定的にプラズマを発生させることができる。
例えば、高電圧短パルスの持続時間は1μsecであり、一方、低電圧長パルスの持続時間は5μsecである。また、発振器11が出力する高電圧短パルスの電圧は、数Vであり、低電圧長パルスの電圧は、高電圧短パルスの電圧の略1/2である。
【0020】
また、パルスの発振周期は、例えば、パルスの持続時間Ptに、発振器11と並列に接続されるパルス増幅回路の数Nを乗じた値(Pt×N)またはその値(Pt×N)に所定のオフセット期間(例えば、数μsec)を加えた期間とすることができる。
さらに、パルスの発振周期は、真空チャンバ内にパルス信号が印加されなくなってから次のパルス信号が印加されるまでの期間が、過渡的にプラズマが発生可能な状態が続く期間よりも短くなるように設定されることが好ましい。この場合、例えば、発振周期は数μsec〜数十μsec程度に設定される。これにより、プラズマ発生装置1は、複数の真空チャンバ内に同時にプラズマを発生させることができる。
【0021】
図2は、発振器11の一例の回路図である。発振器11は、デジタル信号発生器21と、デジタル/アナログコンバータ22と、直流電源23とを有する。
デジタル信号発生器21は、例えば、組み込み型のプロセッサ及びその周辺回路を有し、直流電源23から供給される駆動電圧(例えば、5V)により動作する。そしてデジタル信号発生器21は、高電圧短パルスとそれに続く低電圧長パルスとを含むデジタル波形信号を所定の周期ごとに生成し、そのデジタル波形信号を、デジタル/アナログコンバータ22へ出力する。
デジタル/アナログコンバータ22は、例えば、抵抗ラダー型のデジタル/アナログコンバータであり、直流電源23から供給される駆動電圧を用いて、デジタル波形信号をアナログのパルス信号へ変換する。例えば、デジタル/アナログコンバータ22により変換されたパルス信号に含まれる、高電圧短パルスの電圧の絶対値が5Vであり、低電圧長パルスの電圧の絶対値が2.5Vとなる。
そしてデジタル/アナログコンバータ22は、パルス信号を各タイミング生成回路12−1〜12−3へ出力する。
なお、発振器11は、上記のような、2段階のステップ状に減衰する波形を持つパルス信号を周期的に生成可能な他の回路により構成されてもよい。
【0022】
タイミング生成回路12−1〜12−3は、互いに異なる遅延時間だけ、発振器11から受け取ったパルス信号を遅延させて出力する。
図3は、タイミング生成回路12−1〜12−3から出力されるパルス信号のタイミングチャートの一例である。
図3において、横軸は時間を表し、縦軸は電圧を表す。そしてグラフ301は、タイミング生成回路12−1から出力される電圧の時間変化を表す。同様にグラフ302は、タイミング生成回路12−2から出力される電圧の時間変化を表す。さらにグラフ303は、タイミング生成回路12−3から出力される電圧の時間変化を表す。そしてグラフ301〜303において、2段階のステップ状に電圧が変化する期間が一つのパルス信号310である。なお、この実施形態では、パルス信号は真空チャンバ内の陰極に印加されるので、パルス信号310は負の電圧値を持つ。すなわち、高電圧短パルスの電圧の方が、低電圧長パルスの電圧よりも低い。
図3に示されるように、タイミング生成回路12−1〜12−3は、一つのパルス増幅回路にパルス信号が入力されている間、他のパルス増幅回路にはパルス信号が入力されないように互いに異なる遅延時間だけパルス信号を遅延させる。
【0023】
例えば、タイミング生成回路12−1は、発振器11から受け取ったパルス信号を数μsec遅延させた後、そのパルス信号をパルス増幅回路13−1へ出力する。また、タイミング生成回路12−2は、発振器11から出力されるパルス信号の持続時間とタイミング生成回路12−1の遅延時間と所定のオフセット(例えば、数μsec)との合計期間だけパルス信号を遅延させ、その遅延されたパルス信号をパルス増幅回路13−2へ出力する。さらに、タイミング生成回路12−3は、発振器11から出力されるパルス信号の持続時間とタイミング生成回路12−2の遅延時間と所定のオフセットとの合計期間だけパルス信号を遅延させ、その遅延されたパルス信号をパルス増幅回路13−3へ出力する。
そのため、例えば、期間t1では、パルス増幅回路13−1にのみパルス信号が入力される。同様に、期間t2では、パルス増幅回路13−2にのみパルス信号が入力される。また、期間t3では、パルス増幅回路13−3にのみパルス信号が入力される。そのため、電源10に対して同時に複数のパルス増幅回路による負荷が掛かることが防止されるので、電源10は、一つのパルス増幅回路だけが接続されている場合の電源の回路と同程度の規模の回路とすることができる。
【0024】
パルス増幅回路13−1〜13−3は、タイミング生成回路を介して受け取ったパルスを増幅する。そのために、パルス増幅回路13−1〜13−3は、それぞれ、電源10の陰極と接続される電流ブースト回路31と、タイミング生成回路からパルスを受け取り、増幅されたパルスを電極14−1〜14−3へ出力する増幅回路32とを有する。
電流ブースト回路31は、電源10から電極14−1〜14−3へ流れる電流を増幅する。例えば、電流ブースト回路31は、パルス信号が各電極へ伝達される際に真空チャンバ壁と電極間に数10ミリアンペア〜数アンペア程度の電流が流れるように、電流を増幅する。なお、電流ブースト回路31として、例えば、プラズマ発生装置において使用される公知の様々な電流ブースト回路の何れかを用いることができる。
【0025】
増幅回路32は、パルス信号の波形を保ったまま、パルス信号の電圧を増幅する。例えば、増幅回路32は、パルス信号のうちの高電圧短パルスの電圧を数100V〜略1kVに上昇させる。また増幅回路32は、パルス信号のうちの低電圧長パルスの電位差を、増幅された高電圧短パルスの電圧の略1/2の電圧に上昇させる。なお、増幅回路32として、例えば、数100V〜数kVの直流出力電圧を扱える公知の増幅回路の何れかを用いることができる。
【0026】
増幅回路32は、増幅されたパルス信号を電極14−1〜14−3へ出力する。これにより、増幅されたパルス信号のうちの高電圧短パルス信号が電極に印加されることにより、真空チャンバ内でグロー放電が発生する。その後、増幅された低電圧長パルス信号が電極に印加されている間、真空チャンバ内ではグロー放電が維持される。そのため、プラズマ発生装置1は、増幅されたパルス信号が電極に印加されている間、真空チャンバ内にプロセスガスのプラズマを継続的に発生させることができる。また、一旦グロー放電が生じた後、電極に印加される電圧が低下するので、真空チャンバ内でアーク放電が生じることが抑制される。
【0027】
以上に説明してきたように、このプラズマ発生装置は、真空チャンバごとにパルスが印加されるタイミングが異なるように、一つの発振器から出力されたパルスを、その発振器に対して並列に接続された異なる遅延時間を持つ複数のタイミング生成回路を介してパルス増幅回路により増幅して各真空チャンバに印加する。そのため、このプラズマ発生装置は、電源に対する負荷を一つのパルス増幅回路に対する負荷と同程度の負荷に抑制できるので、電源を小型化することができる。またこのプラズマ発生装置は、タイミング生成回路により各真空チャンバにパルス信号が印加されるタイミングを調整するので、そのタイミングを制御するための複雑な制御機構を必要としない。そのため、このプラズマ発生装置の装置構成は簡単化できる。
またこのプラズマ発生装置は、ステップ状に減衰する2段階の波形を持つパルスを各真空チャンバに印加するので、真空チャンバ内でグロー放電を容易に生じさせることができるとともに、アーク放電が生じることを抑制できる。そのため、このプラズマ発生装置は、各真空チャンバ内に安定的にプラズマを発生させることができる。
【0028】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。例えば、プラズマ発生装置が有する真空チャンバの数は3台に限られず、プラズマ発生装置は、用途に応じて2以上の任意の数の真空チャンバを有してもよい。
【0029】
また、複数のパルス増幅回路のうちの何れか一つは、タイミング生成回路を介さずに直接発振器と接続されてもよい。すなわち、N個(ただし、Nは2以上の整数)のパルス増幅回路が電源及び発振器に対して互いに並列に接続されている場合、プラズマ発生装置は、(N-1)個のパルス増幅回路と発振器との間に接続される(N-1)個のタイミング生成回路を有する。この場合でも、この変形例によるパルス発生装置は、各タイミング生成回路により、各パルス増幅回路に到達するパルスのタイミングを異ならせることができるので、上記の実施形態によるパルス発生装置と同様の効果を得ることができる。
【0030】
さらに、上記の実施形態あるいは変形例によるプラズマ発生装置は、真空チャンバ内にプラズマを発生させることが求められる様々な用途に利用できる。例えば、プラズマ発生装置は、物理気相成長法(PVD)によりワークに成膜する成膜装置にも適用できる。
【0031】
図4は、他の実施形態による、PVD成膜装置として動作するプラズマ発生装置の概略構成図である。この実施形態によるプラズマ発生装置41は、3個の真空チャンバ2−1〜2−3と、一つの電源10と、一つの発振器11と、真空チャンバごとに設けられた3個のタイミング生成回路12−1〜12−3と、3個のパルス増幅回路13−1〜13−3とを有する。
【0032】
プラズマ発生装置41は、図1に示されたプラズマ発生装置1と比較して、成膜される基材であるワークにより形成される電極14−1〜14−3は、パルス増幅回路13−1〜13−3を介して電源10の陽極と接続される点で異なる。なお、この実施形態においても、真空チャンバ壁15−1〜15−3は電源10の接地される側の電極と接続される。またこの実施形態では、真空チャンバ壁15−1〜15−3には、成膜される材料を供給するターゲット16−1〜16−3が電気的に接続される。そして真空チャンバ内に導入されたガスが電離することにより生成されるイオンがターゲットに衝突することにより、ターゲットから放出された粒子により電極14−1〜14−3が成膜される。
この実施形態においても、プラズマ発生装置41は、真空チャンバごとにパルスが印加されるタイミングが異なるように、一つの発振器から出力されたパルスを、その発振器に対して並列に接続された異なる遅延時間を持つ複数のタイミング生成回路を介してパルス増幅回路により増幅して各真空チャンバに印加する。そのため、プラズマ発生装置41についても、上述した実施形態によるプラズマ発生装置により得られる効果と同様の効果が得られる。
【0033】
この実施形態でも、真空チャンバの数は3台に限られない。また変形例によれば、図4において点線で示されるように、一つの真空チャンバ内に、電源の一方の極と複数のパルス増幅回路の何れかを介して接続される、成膜される対象となるワークである複数の電極14−1〜14−3が配置されてもよい。この場合、例えば、各パルス増幅回路と接続される各電極は、互いに異なる試料により構成されてもよい。なお、この変形例でも、真空チャンバの真空チャンバ壁は、電源の他方の極(接地される側の極)と接続される。これにより、プラズマ発生装置は、複数のワークの表面に成膜することができる。
上記のように、当業者は、本発明の範囲内で様々な修正を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0034】
1、41 プラズマ発生装置
2−1〜2−4 真空チャンバ
10 電源
11 発振器
12−1〜12−3 タイミング生成回路
13−1〜13−3 パルス増幅回路
14−1〜14−3 電極(ワーク)
15−1〜15−3 真空チャンバ壁
16−1〜16−3 ターゲット
21 デジタル信号発生器
22 デジタル/アナログコンバータ
23 直流電源
31 電流ブースト回路
32 増幅回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上であるN個の真空チャンバ(2−1〜2−3)の真空チャンバ壁(15−1〜15−3)と前記真空チャンバ内にそれぞれ配置されるN個の電極(14−1〜14−3)との間に電圧を印加することで前記真空チャンバ内にプラズマを発生させるプラズマ発生装置であって、
前記真空チャンバ壁と一方の極で接続される電源(10)と、
所定の周期でパルス信号を出力する発振器(11)と、
前記電源の他方の極及び前記発振器に対して互いに並列に接続され、かつ、前記電源から供給される電力を用いて前記パルス信号を増幅し、増幅されたパルス信号を前記N個の電極の何れかへ出力するN個のパルス増幅回路(13−1〜13−3)と、
前記N個のパルス増幅回路のうちの少なくとも(N-1)個のパルス増幅回路と前記発振器の間にそれぞれ接続され、前記N個のパルス増幅回路のうちの一つのパルス増幅回路に前記パルス信号が入力されている間、前記N個のパルス増幅回路のうちの他のパルス増幅回路には前記パルス信号が入力されないように、互いに異なる遅延期間だけ前記パルス信号を遅延させる少なくとも(N-1)個のタイミング生成回路(12−1〜12−3)と、
を有することを特徴とするプラズマ発生装置。
【請求項2】
前記発振器(11)は、第1の電圧を有し、かつ第1の持続期間を持つ短パルスと、該短パルスに続く、前記第1の電圧の絶対値よりも小さい絶対値を持つ第2の電圧を有し、かつ前記第1の持続期間よりも長い第2の持続期間を持つ長パルスとを含む信号を前記パルス信号として出力する、請求項1に記載のプラズマ発生装置。
【請求項3】
前記所定の周期は、前記各真空チャンバについて、増幅されたパルス信号が印加されなくなってから次の増幅されたパルス信号が印加されるまでの期間中も、過渡現象によりプラズマが発生可能なように設定される、請求項1または2に記載のプラズマ発生装置。
【請求項4】
真空チャンバ(2−1)の真空チャンバ壁(15−1)と前記真空チャンバ内に配置される2以上であるN個の電極(14−1〜14−3)との間に電圧を印加することで前記真空チャンバ内にプラズマを発生させるプラズマ発生装置であって、
前記真空チャンバ壁と一方の極で接続される電源(10)と、
所定の周期でパルス信号を出力する発振器(11)と、
前記電源の他方の極及び前記発振器に対して互いに並列に接続され、かつ、前記電源から供給される電力を用いて前記パルス信号を増幅し、増幅されたパルス信号を前記N個の電極の何れかへ出力するN個のパルス増幅回路(13−1〜13−3)と、
前記N個のパルス増幅回路のうちの少なくとも(N-1)個のパルス増幅回路と前記発振器の間にそれぞれ接続され、前記N個のパルス増幅回路のうちの一つのパルス増幅回路に前記パルス信号が入力されている間、前記N個のパルス増幅回路のうちの他のパルス増幅回路には前記パルス信号が入力されないように、互いに異なる遅延期間だけ前記パルス信号を遅延させる少なくとも(N-1)個のタイミング生成回路(12−1〜12−3)と、
を有することを特徴とするプラズマ発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−107281(P2012−107281A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255999(P2010−255999)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】