説明

プラズマCVD法によるシリコン系薄膜の形成方法

【課題】高周波励起のプラズマCVD法によるシリコン系薄膜の形成方法において、比較的低温下で安価に、生産性よく結晶化度の高い多結晶シリコン系薄膜を形成する。
【解決手段】成膜時のガス圧を0.0095Pa〜64Paの範囲から、成膜室内へ導入する成膜原料ガスの導入流量Msに対する希釈ガスの導入流量Mdの比(Md/Ms)を0〜1200の範囲から、高周波電力密度を0.0024W/cm3 〜11W/cm3 の範囲からそれぞれ選択、決定するとともに、成膜時のプラズマポテンシャルを25V以下、プラズマ中電子密度を1×1010個/cm3 以上に維持して膜形成し、且つ、それら圧力等の組み合わせをレーザラマン散乱分光法による膜中シリコンの結晶性評価においてアモルファスシリコン成分に起因するIaに対する結晶化シリコン成分に起因するIcの比(Ic/Ia=結晶化度)が8以上となる組み合わせとして多結晶シリコン系薄膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラズマCVD法によるシリコン系薄膜、特に多結晶シリコン系薄膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示装置における画素に設けられるTFT(薄膜トランジスタ)スイッチの材料として、或いは各種集積回路、太陽電池等の作製にシリコン系薄膜(代表的にはシリコン薄膜)が採用されている。
【0003】
シリコン薄膜は、多くの場合、シラン系反応ガスを用いたプラズマCVD法により形成され、その場合、該薄膜のほとんどはアモルファスシリコン薄膜である。
【0004】
アモルファスシリコン薄膜は、被成膜基板の温度を比較的低くして形成することができ、平行平板型の電極を用いた高周波放電(周波数 13.56MHz)による材料ガスのプラズマのもとに容易に大面積に形成できる。このことから、これまで液晶表示装置の画素用スイッチングデバイス、太陽電池等に広く利用されている。
【0005】
しかし、シリコン膜利用の太陽電池における発電効率のさらなる向上、シリコン膜利用の半導体デバイスにおける応答速度等の特性のさらなる向上はかかるアモルファスシリコン膜に求めることはできない。そのため結晶性シリコン薄膜(例えば多結晶シリコン薄膜)の利用が検討されている(例えば特開2001−313257号公報参照)。
【0006】
多結晶シリコン薄膜のような結晶性シリコン薄膜の形成方法としては、被成膜基板の温度を600℃〜700℃以上の温度に維持して低圧プラズマCVD、熱CVD等のCVD法や、真空蒸着法、スパッタ蒸着法等のPVD法により膜形成する方法(例えば特開平5−234919号公報、特開平11−54432号公報参照)、各種CVD法やPVD法により比較的低温下でアモルファスシリコン薄膜を形成した後、後処理として、800℃程度以上の熱処理若しくは600℃程度で長時間にわたる熱処理を施す方法(例えば特開平5−218368号公報参照)が知られている。
【0007】
また、アモルファスシリコン膜にレーザアニール処理を施して該膜を結晶化させる方法も知られている(例えば特開平8−124852号公報、特開2005−197656号公報、特開2004−253646号公報参照)。

【0008】
一方、近年、膜形成対象基板の大型化に伴って、広い範囲にわたりプラズマを安定的に形成できる手法として、誘導結合型アンテナからプラズマ化対象ガスに高周波電力を印加して誘導結合型プラズマを生成し,該プラズマのもとで膜形成することも注目されている(例えば特開2004−228354号公報参照)。
【0009】
【特許文献1】特開2001−313257号公報
【特許文献2】特開平5−234919号公報
【特許文献3】特開平11−54432号公報
【特許文献4】特開平5−218368号公報
【特許文献5】特開平8−124852号公報
【特許文献6】特開2005−197656号公報
【特許文献7】特開2004−253646号公報
【特許文献8】特開2004−228354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、これらのうち基板を高温に曝す方法では、基板として高温に耐え得る高価な基板を採用しなけれならず、例えば安価な低融点ガラス基板(耐熱温度500℃以下)への結晶性シリコン薄膜の形成は困難であり、そのため、多結晶シリコン薄膜のような結晶性シリコン薄膜の製造コストが高くなるという問題がある。
【0011】
また、レーザアニール法によるときには、低温下で結晶性シリコン薄膜を得ることができるものの、レーザ照射工程を必要とすることや、非常に高いエネルギー密度のレーザ光を照射しなければならないこと等から、この場合も結晶性シリコン薄膜の製造コストが高くなってしまう。
【0012】
さらに、大面積基板への膜形成に適すると考えられている誘導結合型プラズマによるシリコン薄膜の形成については、未だその形成方法が十分確立されているとは言えない。
【0013】
そこで本発明は、比較的低温下で安価に、生産性よく結晶化度の高い多結晶シリコン系薄膜を形成できるプラズマCVD法によるシリコン系薄膜の形成方法を提供することを第1の課題とする。
【0014】
また本発明は、上記第1の課題を解決できるとともに欠陥の少ない良質な多結晶シリコン系薄膜を形成できるプラズマCVD法によるシリコン系薄膜の形成方法を提供することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者の研究によると、多結晶シリコン系薄膜をTFT(薄膜トランジスタ)スイッチの作製、或いは各種集積回路、太陽電池等の作製に半導体膜として利用しようとする場合、それらスイッチ等の性能向上のためには、該膜は、レーザラマン散乱分光法による膜中シリコンの結晶性評価においてアモルファスシリコン成分に起因するラマン散乱ピーク強度Iaに対する結晶化シリコン成分に起因するラマン散乱ピーク強度Icの比(Ic/Ia=結晶化度)が高い方が好ましく、具体的には、該結晶化度が8以上が好ましく、10以上がより好ましい。結晶化度(Ic/Ia)=10は、シリコン成分の結晶化の程度が100%に近い。
【0016】
本発明者はかかる結晶化度8以上の多結晶シリコン系薄膜を形成すべく研究を重ねたところ、
(1) 膜形成にはプラズマCVD法を利用できること、さらに言えば、シリコン原子を含む成膜原料ガス或いは該シリコン原子を含む成膜原料ガスとこれを希釈する希釈ガスを成膜室内に導入し、該導入ガスを高周波励起にてプラズマ化し、該プラズマのもとで該成膜室内に配置された被成膜基板上にシリコン系薄膜を形成するプラズマCVD法を利用でき、該プラズマCVD法により比較的低温下に生産性よく膜形成でき、例えば耐熱温度500℃以下の安価な低融点ガラス基板(代表的には無アルカリガラス基板)への膜形成も可能であり、それだけ安価に膜形成できること、並びに
(2) 該プラズマCVD法による成膜時の成膜室内圧は0.0095Pa〜64Paの範囲から選択決定することが好ましいこと、
(3) 成膜時に前記成膜室内へ導入する前記成膜原料ガスの導入流量Ms〔sccm〕に対する前記希釈ガスの導入流量Md〔sccm〕の比(Md/Ms)は0〜1200の範囲から選択決定することが好ましいこと(Md/Ms=0は希釈ガスを用いない場合である。)、
(4) 成膜時の高周波電力密度を0.0024W/cm3 〜11W/cm3 の範囲から選択決定することが好ましいこと、
(5) 成膜時のプラズマポテンシャルは25V以下に維持し、成膜時のプラズマ中の電子密度を1×1010個/cm3 以上に維持することが好ましいこと、
(6) 上記諸条件を満たして結晶化度8以上の多結晶シリコン系薄膜を形成できること
を見いだした。
【0017】
成膜時の成膜室内圧は0.0095Pa〜64Paの範囲から選択決定することが好ましい理由は、0.0095Paより低くなってくると、プラズマが不安定となったり、膜形成速度が低下してきたりし、極端な場合はプラズマの点灯、維持がかなわなくなり、64Paより高くなってくると、シリコンの結晶性が低下し、結晶化度(Ic/Ia)≧8の多結晶シリコン系薄膜の形成が困難になってくるからである。
【0018】
成膜時の成膜原料ガスの導入流量Ms〔sccm〕に対する前記希釈ガスの導入流量Md〔sccm〕の比(Md/Ms)は0〜1200の範囲に設定することが好ましい理由は、比(Md/Ms)が1200を超えてくるとシリコンの結晶性が低下し、結晶化度(Ic/Ia)≧8の多結晶シリコン系薄膜の形成が困難になってくるうえ、膜形成速度が低下してくるからである。
【0019】
成膜時の高周波電力密度は0.0024W/cm3 〜11W/cm3 の範囲から選択決定することが好ましい理由は、0.0024W/cm3 より小さくなってくると、プラズマが不安定となったり、膜形成速度が低下してきたりし、極端な場合はプラズマの点灯、維持が困難となり、11W/cm3 より大きくなってくると、シリコンの結晶性が低下してきて結晶化度(Ic/Ia)≧8の多結晶シリコン系薄膜の形成が困難になったり、膜形成速度が低下したりするからである。
ここで「高周波電力密度〔W/cm3 〕」とは、投入高周波電力〔W〕をプラズマ生成空間(通常は成膜室)の体積〔cm3 〕で除したものである。
【0020】
また、成膜時のプラズマポテンシャルを25V以下に維持することが好ましい理由は、25Vより高くなってくると、シリコンの結晶化が阻害されやすくなり、結晶化度(Ic/Ia)≧8の多結晶シリコン系薄膜の形成が困難になってくるからである。
しかし、あまり低くなってくると、プラズマの維持が困難になってくるので、それには限定されないが、概ね10V以上とすればよい。
【0021】
また、成膜時のプラズマ中の電子密度を1×1010個/cm3 以上に維持することが好ましい理由は、電子密度が1×1010個/cm3 より小さくなってくると、膜形成に寄与するイオン密度も低下してきてシリコンの結晶化度が低下したり、膜形成速度が低下したりして、結晶化度(Ic/Ia)≧8の多結晶シリコン系薄膜の形成が困難になってくるからである。
しかし、あまり大きすぎると、膜及び被成膜基板が飛来するイオン等の荷電粒子によりダメージを受けやすくなるので、結晶化度(Ic/Ia)≧8の達成を考慮すれば、必ずしもそれには限定されないが、概ね1.0×1012個/cm3 程度以下とすればよい。
【0022】
なお、プラズマポテンシャルの増減はプラズマ中の電子密度の増減に影響する。プラズマポテンシャルが高くなれば、電子密度も大きくなる傾向があり、プラズマポテンシャルが低くなれば、電子密度も小さくなる傾向にある。よってこれら両者は結晶化度(Ic/Ia)≧8の達成を考慮して選択決定しなければならない。
かかるプラズマポテンシャルやプラズマの電子密度は、印加する高周波電力の大きさ(換言すれば高周波電力密度)、高周波の周波数、成膜圧等のうち少なくとも一つを制御することで調整できる。
【0023】
以上の知見に基づき、本発明は前記第1の課題を解決するため、
シリコン原子を含む成膜原料ガス及び希釈ガスのうち少なくとも該成膜原料ガスを成膜室内に導入し、該導入ガスを高周波励起にてプラズマ化し、該プラズマのもとで該成膜室内に配置された被成膜基板上にシリコン系薄膜を形成するプラズマCVD法によるシリコン系薄膜の形成方法であり、成膜時の成膜室内圧を0.0095Pa〜64Paの範囲から、成膜時に前記成膜室内へ導入する前記成膜原料ガスの導入流量Ms〔sccm〕に対する前記希釈ガスの導入流量Md〔sccm〕の比(Md/Ms)を0〜1200の範囲から、成膜時の高周波電力密度を0.0024W/cm3 〜11W/cm3 の範囲からそれぞれ選択決定するとともに、成膜時のプラズマポテンシャルを25V以下に、成膜時のプラズマ中の電子密度を1×1010個/cm3 以上に維持して膜形成し、
且つ、前記選択決定される成膜時の成膜室内圧、成膜原料ガスと希釈ガスの導入流量比(Md/Ms)及び高周波電力密度並びに前記維持されるべきプラズマポテンシャル及びプラズル中の電子密度の組み合わせがレーザラマン散乱分光法による膜中シリコンの結晶性評価においてアモルファスシリコン成分に起因するラマン散乱ピーク強度Iaに対する結晶化シリコン成分に起因するラマン散乱ピーク強度Icの比(Ic/Ia=結晶化度)が8以上となる多結晶シリコン系薄膜が得られる組み合わせとして膜形成することで多結晶シリコン系薄膜を形成するプラズマCVD法によるシリコン系薄膜の形成方法を提供する。
【0024】
本発明に係るシリコン系薄膜の形成方法においては、ガスプラズマ化のために投入する高周波電力を効率よく利用して成膜室内に高密度プラズマ形成し、また、広い範囲にわたりプラズマを安定的に形成してできるだけ均一な膜を形成するために、前記成膜室内への導入ガスの高周波励起によるプラズマ化を該成膜室内に設置した誘導結合型アンテナから該導入ガスへ高周波電力を印加することで行ってもよい。
【0025】
このように誘導結合型アンテナ成膜室内に設置するときは、該アンテナを電気絶縁性材料で被覆することが好ましい。アンテナを電気絶縁性材料で被覆することで、自己バイアスによりアンテナがプラズマからの荷電粒子によりスパッタリングされ、アンテナ由来のスパッタ粒子が形成しようとする膜中に混入することを抑制できる。
かかる絶縁性材料としては、石英ガラスやアンテナの陽極酸化処理による材料を例示できる。
【0026】
いずれにしても、本発明に係る膜形成方法により形成できる多結晶シリコン系薄膜としては、シリコンからなる多結晶シリコン薄膜を挙げることができるが、このほか、例えば、ゲルマニウムを含む(例えば10原子%以下のゲルマニウムを含む)多結晶シリコン系薄膜や炭素を含む(例えば10原子%以下の炭素を含む)多結晶シリコン系薄膜も例示できる。
【0027】
いずれにしても、前記アモルファスシリコン成分に起因するラマン散乱ピーク強度Iaとして波数480-1cmでのラマン散乱強度を採用できる。また、前記結晶化シリコン成分に起因するラマン散乱ピーク強度Icとして波数520-1cm又はその付近でのラマン散乱ピーク強度を採用できる。
【0028】
多結晶シリコン薄膜を形成する場合、前記シリコン原子を含む原料ガスの例として、モノシラン(SiH4 )ガス、ジシラン(Si2 6 )ガス等のシラン系ガスを挙げることができ、希釈ガスを用いる場合には、該希釈ガスとして水素ガスを例示できる。
【0029】
ゲルマニウムを含む多結晶シリコン系薄膜を形成する場合は、前記シリコン原子を含む成膜原料ガスとして、ゲルマニゥム原子も含むガスを採用すればよい。
かかる成膜原料ガスの具体例としては、モノシラン(SiH4 )ガス、ジシラン(Si2 6 )ガス等のシラン系ガスにゲルマニゥムを含むガス〔例えばモノゲルマン(GeH4 )ガス、四フッ化ゲルマニゥム(GeF4 )ガス〕を混合したガスを例示できる。
この場合も希釈ガスを用いる場合には、該希釈ガスとして例えば水素ガスを用いることができる。
【0030】
炭素を含む多結晶シリコン系薄膜を形成する場合は、前記シリコン原子を含む成膜原料ガスとして、炭素原子も含むガスを採用すればよい。
かかる成膜原料ガスの具体例としては、モノシラン(SiH4 )ガス、ジシラン(Si2 6 )ガス等のシラン系ガスに炭素を含むガス〔例えばメタン(CH4 )ガス、四フッ化炭素(CF4 )ガス〕を混合したガスを例示できる。
この場合も希釈ガスを用いる場合には、該希釈ガスとして例えば水素ガスを用いることができる。
【0031】
ところで、多結晶シリコン系薄膜は、その表面が酸素や窒素などで終端処理されていることが望ましい。ここで「酸素や窒素などによる終端処理」とは、多結晶シリコン系薄膜の表面に酸素や、窒素が結合し、(Si−O)結合や、(Si−N)結合、或いは(Si−O−N)結合などを生じさせることを言う。
【0032】
かかる終端処理による酸素や窒素の結合は、終端処理前の結晶性シリコン薄膜表面に、例えば、未結合手のような欠陥があっても、これを補うがごとく機能し、結晶性シリコン薄膜全体として実質上欠陥の抑制された良質な膜状態を形成する。かかる終端処理が施された結晶性シリコン薄膜は電子デバイスの材料として利用された場合、該デバイスに求められる特性が向上する。例えば、TFT材料として用いられた場合、TFTにおける電子移動度を向上させたり、OFF電流を低減させることができる。また、長時間のTFTの使用においても電圧電流特性が変化し難い等の信頼性が向上する。
【0033】
そこで本発明は前記第2の課題を解決するため、
上記本発明にかかるシリコン系薄膜の形成方法において、前記多結晶シリコン系薄膜を形成後に、酸素含有ガス及び窒素含有ガスから選ばれた少なくとも一種の終端処理用ガスに高周波電力を印加することで発生させた終端処理用プラズマのもとで該多結晶性シリコン系薄膜の表面を終端処理するシリコン系薄膜の形成方法も提供する。
【0034】
かかる終端処理は、支障がなければ、多結晶性シリコン系薄膜形成後に、同じ成膜室内へ終端処理用ガスを導入し、該ガスに高周波電力を印加して終端処理用プラズマを発生させ、該プラズマのもとで多結晶性シリコン系薄膜の表面を終端処理してもよい。
また、成膜室から独立した終端処理室を準備し、該終端処理室において終端処理工程を実施してもよい。
【0035】
また、成膜室において多結晶性シリコン系薄膜を形成した後、該多結晶性シリコン系薄膜が形成された基板を該成膜室に(直接的に或いは物品搬送ロボットを有する搬送室を介する等して間接的に)連設された終端処理室へ搬入し、該終端処理室で終端処理を実施してもよい。
【0036】
かかる終端処理室における終端処理において、終端処理用ガスに高周波電力を印加する高周波放電電極についても、前記のような誘導結合プラズマを発生させるアンテナとしてもよい。
【0037】
終端処理用ガスとしては、前記のとおり酸素含有ガス又は(及び)窒素含有ガスを用いるが、酸素含有ガスとしては、酸素ガスや酸化窒素(N2 O)ガスを例示でき、窒素含有ガスとしては、窒素ガスやアンモニア(NH3 )ガスを例示できる。
【発明の効果】
【0038】
以上説明したように本発明によると、比較的低温下で安価に、生産性よく結晶化度の高い多結晶シリコン系薄膜を形成できるプラズマCVD法によるシリコン系薄膜の形成方法を提供することができる。
【0039】
また本発明によると、かかる利点を有するシリコン系薄膜の形成方法であって、欠陥の少ない良質な多結晶シリコン系薄膜を形成できるプラズマCVD法によるシリコン系薄膜の形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明に係るシリコン系薄膜(多結晶シリコン系薄膜)の形成方法の実施に使用できる薄膜形成装置の1例の構成の概略を示している。
【0041】
図1の薄膜形成装置は、成膜室1を備えており、成膜室1内の下部には被成膜基板Sを保持するホルダ2が設置されている。ホルダ2にはこれに保持される基板Sを加熱できるヒータ21が内蔵されている。
【0042】
成膜室1内上部の、ホルダ2に対向する領域に誘導結合型アンテナ3が配置されている。アンテナ3は倒立門形状のもので、その両端部31、32は成膜室1の天井壁11に設けた絶縁性部材111を貫通して成膜室外まで延びている。成膜室1内におけるアンテナ3の横方向幅はw、縦方向長さはhである。
【0043】
成膜室外まで出たアンテナ端部31にはマッチングボックス41を介して出力可変の高周波電源4が接続されている。他方のアンテナ端部32は接地されている。
【0044】
また、成膜室1には排気量調整弁(本例ではコンダクタンスバルブ)51を介して排気ポンプ5が接続されている。さらに、ガス導入管61を介して成膜原料ガス供給部6が接続されているとともに、ガス導入管71を介して希釈ガス供給部7が接続されている。さらに、ガス導入管81を介して終端処理用ガス供給部8が接続されている。ガス供給部6、7及び8のそれぞれには成膜室内へのガス導入量を調整するためのマスフローコントローラやガス源等が含まれている。
【0045】
ホルダ2は成膜室1を介して接地電位とされる。
【0046】
また、成膜室1に対しラングミューアプローブ利用のプラズマ診断装置10及び圧力計100が設けられている。プラズマ診断装置10は成膜室1内へ挿入されたラングミューアプローブ10aと該プローブで得られるプラズマ情報に基づいてプラズマポテンシャル及びプラズマ中の電子密度を求めることができる。成膜室内圧力は圧力計100で計測できる。
【0047】
以上説明した薄膜形成装置によると、例えば次のようにして多結晶シリコン系薄膜を形成でき、さらに該膜に対し終端処理を行える。
【0048】
先ず、成膜室1内のホルダ2上に被成膜基板Sを保持させ、必要に応じヒータ21で該基板を加熱し、排気ポンプ5を運転して成膜室内圧力を成膜時の圧力より低い圧力まで排気する。次いで、成膜室1内へ成膜原料ガス供給部6からシリコン原子を含む成膜原料ガスを導入し、或いはガス供給部6からシリコン原子を含む成膜原料ガスを導入するとともに希釈ガス供給部7から希釈ガスを導入し、コンダクタンスバルブ51にて成膜室内圧力を成膜時圧力に調整しつつ可変高周波電源4からマッチングボックス41を介してアンテナ3へ高周波電力を供給する。
【0049】
すると、該アンテナから成膜室内ガスに高周波電力が印加され、それにより該ガスが高周波励起されて誘導結合プラズマが発生し、該プラズマのもとで基板S上にシリコン系薄膜が形成される。
【0050】
この膜形成においては、成膜時の成膜室内圧を0.0095Pa〜64Paの範囲から、成膜室1内へ導入する成膜原料ガスの導入流量Ms〔sccm〕に対する希釈ガスの導入流量Md〔sccm〕の比(Md/Ms)を0〜1200の範囲から、高周波電力密度を0.0024W/cm3 〜11W/cm3 の範囲からそれぞれ選択決定し、さらに、成膜時のプラズマポテンシャルを25V以下に、成膜時のプラズマ中の電子密度を1×1010個/cm3 以上の範囲に維持して膜形成する。
【0051】
さらに、前記選択決定される成膜時の成膜室内圧、成膜原料ガスと希釈ガスの導入流量比(Md/Ms)及び高周波電力密度並びに前記維持されるべきプラズマポテンシャル及びプラズル中の電子密度の組み合わせがレーザラマン散乱分光法による膜中シリコンの結晶性評価においてアモルファスシリコン成分に起因するラマン散乱ピーク強度Iaに対する結晶化シリコン成分に起因するラマン散乱ピーク強度Icの比(Ic/Ia=結晶化度)が8以上となる、より好ましくは10以上となる多結晶シリコン系薄膜が得られる組み合わせとして膜形成する。
かくして、基板S上に多結晶シリコン系薄膜を形成する。
【0052】
成膜室内の圧力はガス導入量にも影響されるが、ガス導入量を一定化したあとコンダクタンスバルブ51で調整するのが簡単である。成膜室内圧は圧力計100で把握できる。 成膜室内への各ガス導入量の調整及び導入量比(Md/Ms)の調整は前記各ガス供給部のマスフローコントローラにより行える。
高周波電力密度の調整は高周波電源4の出力調整により行える。
プラズマポテンシャル及び電子密度は前記プラズマ診断装置10により把握できる。
【0053】
この膜形成において、結晶化度(Ic/Ia)が8以上、より好ましくは10以上を達成する成膜時の成膜室内圧力、ガス導入量比(Md/Ms)、高周波電力密度、プラズマポテンシャル及び電子密度はそれぞれ上記範囲から決定するのであるが、その方法としては、例えば、成膜室内圧力、ガス導入量比(Md/Ms)及び高周波電力密度について、前記プラズマ診断装置10においてプラズマポテンシャルが25V以下であること及び電子密度が1×1010個/cm3 以上の範囲にあることを確認できるときの成膜室内圧、ガス導入量比(Md/Ms)及び高周波電力密度であって、それぞれが前記範囲内にあるものを選択決定する場合を挙げることができる。
【0054】
或いは、結晶化度(Ic/Ia)が8以上、より好ましくは10以上を達成する成膜時の成膜室内圧力、ガス導入量比(Md/Ms)、高周波電力密度、プラズマポテンシャル及び電子密度の組み合わせについて予め実験等により求めておき、成膜室内圧力、ガス導入量比(Md/Ms)、高周波電力密度、プラズマポテンシャル及び電子密度を、その組み合わせ群から選択決定してもよい。
【0055】
このようにして結晶化度が8以上のシリコンを主成分とする多結晶シリコン系薄膜を形成したのち、該膜に終端処理を施してもよい。
例えば、ガス供給部6(又は6、7)から室1内へのガス導入、電源4からアンテナ3への電力印加を停止する一方、排気ポンプ5の運転を続行して成膜室1内から残存ガスをできるだけ排出する。
【0056】
その後、基板温度を例えば250℃〜400℃の範囲に維持しつつ、終端処理ガス供給部8から終端処理ガスである例えば酸素ガス又は窒素ガスを50sccm〜500sccmの範囲の流量で膜室1内へ導入するとともに成膜室内を終端処理のための圧力(0.1Pa〜10Pa程度の範囲の圧力)に設定し、さらに高周波電源4からマッチングボックス41を介して終端処理用高周波電力(例えば13.56MHz、0.5kW〜3kW程度の電力)をアンテナ3に印加して終端処理用ガスをプラズマ化し、該プラズマのもとで所定の処理時間(例えば0.5分〜10分程度)、基板S上の多結晶シリコン系薄膜の表面に終端処理を施し、それによりより該多結晶シリコン系薄膜をより良質のものとする。
【0057】
このように酸素又は窒素で終端処理された多結晶シリコン系薄膜を例えばTFT用の半導体膜として使用すると、TFT電気特性としての電子移動度が、終端処理しない場合よ一層向上し、また、OFF電流が低減する。
なお、酸素含有ガスによる終端処理の前又は後に窒素含有ガスによる終端処理を施してもよい。
【0058】
次に、多結晶シリコン系薄膜の例として多結晶シリコン薄膜を形成した実験例について説明する。
実験に先立って誘導結合型アンテナ3として次のものを準備し、実験ではそれらアンテナのうちいずれかを用いた。

アンテナ A B C D E F
横方向幅w 140mm 120mm 50mm 50mm 50mm 50mm
縦方向長さh 110mm 70mm 80mm 65mm 55mm 50mm
【0059】
形成された膜のシリコンの結晶化度の評価はHe−Neレーザ(波長632.8nm)を用いたレーザラマン散乱分光法により行い、膜中シリコンの結晶性評価においてアモルファスシリコン成分に起因するラマン散乱ピーク強度Iaに対する結晶化シリコン成分に起因するラマン散乱ピーク強度Icの比(Ic/Ia=結晶化度)で行った。
また、ここでは、アモルファスシリコン成分に起因するラマン散乱ピーク強度Iaとして波数480-1cmでのラマン散乱強度を採用し、結晶化シリコン成分に起因するラマン散乱ピーク強度Icとして波数520-1cm又はその付近でのラマン散乱ピーク強度を採用した。
【0060】
いずれの実験においても、膜形成にあたっては基板Sとして無アリカルガラス基板をホルダ2に保持させ、ヒータ21で該基板の温度を400℃とし、成膜原料ガスとしてモノシラン(SiH4 )ガスを用い、希釈ガスを用いる場合は該ガスとして水素ガス(H2 )を用い、当初成膜室1から排気ポンプ5で排気して該室内圧を10-5Paオーダとし、その後各実験のとおり該室内へのガス導入、アンテナ3への周波数13.56MHzの高周波電力印加及びプラズマ点灯により無アルカリガラス基板上にシリコン薄膜を形成した。
【0061】
用いるアンテナを前記アンテナCとし、水素ガスの導入流量(Md)を20sccmの一定とするとともに、モノシランガスの導入流量(Ms)を2sccmの一定とし、従って導入流量比(Md/Ms)を一定値10とし、さらに投入する高周波電力の密度を0.01W/cm3 の一定とし、成膜室内圧を変化させた参考実験例1、実験例2〜6及び参考実験例7〜8を以下の表1にまとめて示す。
【0062】
また、形成されたシリコン薄膜の結晶化度(Ic/Ia)の測定結果と成膜時の成膜室内圧との関係を図2に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
実験例2〜6では結晶化度8以上に結晶化したシリコン薄膜が形成された。
しかし、参考実験例1ではプラズマが点灯せず、シリコン薄膜を形成することができなかった。これは成膜圧が低すぎたためプラズマの点灯、維持に十分なガス分子が室1内に存在しなかったためである。
【0065】
実験例6及び参考実験例7、8ではIc/Iaが次第に低下し、参考実験例7、8ではIc/Iaが大きく低下してしまったが、これは成膜圧力が高くなることによって、シリコンの結晶化に重要な役割を果たす原子状水素ラジカルの生成が抑制されたためである。
【0066】
実験例3、2では圧力が低くなるにもかかわらずIc/Iaが低下傾向を示しているが、これは原子状水素ラジカルの生成が促進されつつも、結晶化促進作用と同時平行的に進むケミカルエッチング的なダメージ作用が上回る傾向があったためである。また、同時にプラズマポテンシャルが上昇することでプラズマからのダメージ作用も増加したためである。
【0067】
図2から、成膜時の成膜室内圧を0.0095Pa〜64Pa程度の範囲のものとすればIc/Ia≧8を達成できることが分かる。また、成膜時の成膜室内圧を0.048Pa〜32Pa程度の範囲のものとすれば、より好ましいIc/Ia≧10を達成できることが分かる。
【0068】
次に、用いるアンテナを前記アンテナCとし、成膜時の圧力を1.3Paの一定とし、投入する高周波電力の密度を0.01W/cm3 の一定とし、ガス導入流量比(Md/Ms)を変化させた実験例9〜13及び参考実験例14を以下の表2にまとめて示す。
【0069】
形成されたシリコン薄膜の結晶化度(Ic/Ia)の測定結果と成膜時のガス導入流量比(Md/Ms)との関係を図3に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
実験例9〜13では結晶化度8以上に結晶化したシリコン薄膜が形成された。
実験例9、10、11、12とIc/Iaが増加するのは、水素ガス導入流量を増加させるほど原子状水素ラジカルが増加し、結晶化が促進されるためである。実験例13、参考実験例14とIc/Iaが低下していき、参考実験例14ではIc/Iaが著しく低下したのは、原子状水素ラジカルが増加しつつも、結晶化促進作用と同時平行的に進むケミカルエッチング的なダメージ作用が上回る傾向があったためである。
【0072】
なお、希釈ガスを採用しない実験例9でも結晶化度が高くなっているのは、モノシランガスが分解され、その結果水素(H)が供給され、原子状水素ラジカルとなっているためである。
【0073】
図3から、成膜時のガス導入量比(Md/Ms)を0〜1200程度の範囲のものとすればIc/Ia≧8を達成できることが分かる。また、成膜時のガス導入量比(Md/Ms)を0〜450程度の範囲のものとすれば、より好ましいIc/Ia≧10を達成できることが分かる。
【0074】
次に、用いるアンテナを前記アンテナCとし、成膜時の圧力を1.3Paの一定とし、水素ガスの導入量(Md)を20sccmの一定とするとともに、モノシランガスの導入量(Ms)を2sccmの一定とし、従って導入流量比(Md/Ms)を一定値10とし、投入する高周波電力の密度を変化させた参考実験例15〜16、実験例17〜20及び参考実験例21を以下の表3にまとめて示す。
【0075】
また、形成されたシリコン薄膜の結晶化度(Ic/Ia)の測定結果と成膜時の高周波電力密度との関係を図4に示す。
【0076】
【表3】

【0077】
実験例17〜20では結晶化度8以上に結晶化したシリコン薄膜が形成された。
参考実験例15ではプラズマが点灯せず、シリコン薄膜を形成することができなかった。これは高周波電力密度が低すぎたため、ガスをプラズマ化することができなかったためである。
【0078】
参考実験例16、実験例17、18とIc/Iaが増加するのは、高周波電力密度を増加するほどガスの分解(プラズマ化)が進み、原子状水素ラジカルの生成が促進されるためである。
実験例19、20、参考実験例21とIc/Iaが低下し、参考実験例21ではIc/Iaが著しく低下しているが、これは、原子状水素ラジカルが増加しつつも、結晶化促進作用と同時平行的に進むケミカルエッチング的なダメージ作用が上回る傾向があったためである。
【0079】
図4から、成膜時の高周波電力密度を0.0024W/cm3 〜11W/cm3 程度の範囲のものとすればIc/Ia≧8を達成できることが分かる。また、成膜時の高周波電力密度を0.0045W/cm3 〜4.1W/cm3 程度の範囲のものとすれば、より好ましいIc/Ia≧10を達成できることが分かる。
【0080】
次に、成膜時の圧力を1.3Paの一定とし、水素ガスの導入量(Md)を20sccmの一定とするとともに、モノシランガスの導入量(Ms)を2sccmの一定とし、従って導入流量比(Md/Ms)を一定値10とし、投入する高周波電力密度を0.01W/cm3 の一定とし、用いるアンテナを種々変えてプラズマポテンシャル及び電子密度を変化させた参考実験例22〜23、実験例24〜25及び参考実験例26〜27を以下の表4にまとめて示す。
【0081】
また、形成されたシリコン薄膜の結晶化度(Ic/Ia)の測定結果と成膜時のプラズマポテンシャルとの関係を図5に、結晶化度(Ic/Ia)の測定結果と成膜時の電子密度との関係を図6にそれぞれ示す。
【0082】
【表4】

【0083】
実験例24、25では結晶化度8以上に結晶化したシリコン薄膜が形成された。
しかし、参考実験例26では、評価可能なシリコン薄膜が基板上に堆積していなかった。これは実質的に薄膜を形成することが不可能な程度にまでプラズマ密度(電子密度)が低下したためである。
【0084】
参考実験例27では、プラズマが点灯したり、消滅したりする不安定な状態となり、シリコン薄膜を形成することができなかった。これは、プラズマポテンシャルが低下しすぎた結果、プラズマそのものの維持が困難になったためである。
参考実験例22、23では、プラズマからのダメージによりIc/Iaが著しく低くなった。
【0085】
図5から、成膜時のプラズマポテンシャルを25V以下の範囲のものとすることでIc/Ia≧8を達成できることが分かる。また、成膜時のプラズマポテンシャルを23V程度以下の範囲のものとすれば、より好ましいIc/Ia≧10を達成できることが分かる。
【0086】
いずれにしても、電子密度の下限については、既述のとおり1×1010個/cm3 程度以上が好ましい。
【0087】
以上説明した実験例のうち、Ic/Ia≧10を達成した実験例3〜5、9〜12、17〜19、24〜25のそれぞれにおいて形成された多結晶シリコン薄膜について終端処理を施した実験例28、29について説明する。
【0088】
実験例28、29のいずれにおいても、多結晶シリコン薄膜が形成された基板Sをホルダ2に保持させ、高周波電源4からマッチングボックス41を介してアンテナ3へ高周波電力を印加した。用いたアンテナ種は、実験例3〜5、9〜12、17〜19、24〜25での多結晶シリコン薄膜形成においてそれぞれ用いたアンテナ種である。また、終端処理用ガス供給部8として、酸素ガス又は窒素ガスを供給できるものを用いた。
【0089】
実験例28(酸素終端処理された多結晶シリコン薄膜の形成)
基板温度:400℃
酸素ガス導入量:100sccm
高周波電力:13.56MHz 1kW
終端処理圧:0.67Pa
処理時間:1分
【0090】
実験例29(窒素終端処理された多結晶シリコン薄膜の形成)
基板温度:400℃
窒素ガス導入量:200sccm
高周波電力:13.56MHz 1kW
終端処理圧:0.67Pa
処理時間:5分
【0091】
このように酸素又は窒素で終端処理された多結晶シリコン系薄膜をTFT用の半導体膜として使用すると、TFT電気特性としての電子移動度が、終端処理しない場合より一層向上し、また、OFF電流が低減した。
【0092】
以上説明した終端処理では成膜室1を終端処理室として利用したが、終端処理室を別途設け、そこで終端処理を施してもよい。例えば、成膜室1において多結晶性シリコン系薄膜を形成した後、該多結晶性シリコン系薄膜が形成された基板Sを成膜室1に(直接的に或いは物品搬送ロボットを有する搬送室を介する等して間接的に)連設された終端処理室へ搬入し、該終端処理室で終端処理を実施してもよい。
【0093】
以上、多結晶シリコン薄膜の形成例について説明してきたが、本発明は、ゲルマニゥムを含むシリコンを主成分とする多結晶シリコン系薄膜や、炭素を含むシリコンを主成分とする多結晶シリコン系薄膜の形成にも適用できる。
【0094】
以下にそのような薄膜形成の実験例について記しておく。
実験例30(ゲルマニゥムを含む多結晶シリコン系薄膜の形成)
基板:無アルカリガラス基板
基板温度:400℃
成膜原料ガス:SiH4 (2sccm)及びGeH4 (0.02sccm)
希釈ガス :水素ガス 20sccm
ガス導入流量比H2 /(SiH4 +GeH4 ):9.9
成膜圧:1.3Pa
高周波電力密度:0.01W/cm3
プラズマポテンシャル:19V
電子密度:4.5×1010個/cm3
アンテナ種:C
【0095】
実験例31(炭素を含む多結晶シリコン系薄膜の形成)
基板:無アルカリガラス基板
基板温度:400℃
成膜原料ガス:SiH4 (2sccm)及びCH4 (0.02sccm)
希釈ガス :水素ガス 20sccm
ガス導入流量比H2 /(SiH4 +CH4 ):9.9
成膜圧:1.3Pa
高周波電力密度:0.01 W/cm3
プラズマポテンシャル:19V
電子密度:4.4×1010個/cm3
アンテナ種: C
【0096】
実験例30によると、膜中のゲルマニゥム含有量はほぼ1atm%〔1原子%〕であった。そしてレーザラマン散乱分光法による膜中シリコンの結晶化度評価において、アモルファスシリコン成分に起因する波数480-1cmでのラマン散乱強度Iaに対する結晶化シリコン成分に起因する波数520-1cm又はその付近でのラマン散乱ピーク強度Icの比(Ic/Ia)が12.3 の多結晶シリコン系薄膜を確認できた。
【0097】
実験例31によると、膜中の炭素含有量はほぼ1atm%〔1原子%〕であった。そして膜中シリコンの結晶化度評価において、アモルファスシリコン成分に起因する波数480-1cmでのラマン散乱強度Iaに対する結晶化シリコン成分に起因する波数520-1cm又はその付近でのラマン散乱ピーク強度Icの比(Ic/Ia)が12.4の多結晶シリコン系薄膜を確認できた。
【0098】
また、実験例30、31で形成された膜に前記実験例28、29と同様の条件で終端処理を施し、TFT用の半導体膜として使用すると、TFT電気特性としての電子移動度が、終端処理しない場合より一層向上し、また、OFF電流が低減した。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、被成膜基板上にTFT(薄膜トランジスタ)スイッチの材料として、或いは各種集積回路、太陽電池等の作製に半導体膜として利用できる多結晶シリコン系薄膜を形成することに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の多結晶シリコン系薄膜の形成方法に用いることができる薄膜形成装置の1例を示す図である。
【図2】形成された膜の結晶化度(Ic/Ia)と成膜時の成膜室内圧との関係を示す図である。
【図3】形成された膜の結晶化度(Ic/Ia)と成膜時のガス導入流量比との関係を示す図である。
【図4】形成された膜の結晶化度(Ic/Ia)と成膜時の高周波電力密度との関係を示す図である。
【図5】形成された膜の結晶化度(Ic/Ia)と成膜時のプラズマポテンシャルとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0101】
1 成膜室
11 成膜室1の天井壁
111 天井壁11に設けた電気絶縁性部材
2 基板ホルダ
21 ヒータ
3 誘導結合型アンテナ
31、32 アンテナ3の端部
4 高周波電源
41 マッグボックス
5 排気ポンプ
51 コンダクタンスバルブ
6 成膜原料ガス供給部
7 希釈ガス供給部
8 終端処理用ガス供給部
10 プラズマ診断装置
10a ラングミューアプローブ
10b プラズマ診断部
100 圧力計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン原子を含む成膜原料ガス及び希釈ガスのうち少なくとも該成膜原料ガスを成膜室内に導入し、該導入ガスを高周波励起にてプラズマ化し、該プラズマのもとで該成膜室内に配置された被成膜基板上にシリコン系薄膜を形成するプラズマCVD法によるシリコン系薄膜の形成方法であり、成膜時の成膜室内圧を0.0095Pa〜64Paの範囲から、成膜時に前記成膜室内へ導入する前記成膜原料ガスの導入流量Ms〔sccm〕に対する前記希釈ガスの導入流量Md〔sccm〕の比(Md/Ms)を0〜1200の範囲から、成膜時の高周波電力密度を0.0024W/cm3 〜11W/cm3 の範囲からそれぞれ選択決定するとともに、成膜時のプラズマポテンシャルを25V以下に、成膜時のプラズマ中の電子密度を1×1010個/cm3 以上に維持して膜形成し、
且つ、前記選択決定される成膜時の成膜室内圧、成膜原料ガスと希釈ガスの導入流量比(Md/Ms)及び高周波電力密度並びに前記維持されるべきプラズマポテンシャル及びプラズル中の電子密度の組み合わせがレーザラマン散乱分光法による膜中シリコンの結晶性評価において該膜中のアモルファスシリコン成分に起因するラマン散乱ピーク強度Iaに対する結晶化シリコン成分に起因するラマン散乱ピーク強度Icの比(Ic/Ia=結晶化度)が8以上となる多結晶シリコン系薄膜が得られる組み合わせとして膜形成することで多結晶シリコン系薄膜を形成することを特徴とするプラズマCVD法によるシリコン系薄膜の形成方法。
【請求項2】
前記成膜室内への導入ガスの高周波励起によるプラズマ化を該成膜室内に設置した誘導結合型アンテナから該導入ガスへ高周波電力を印加することで行う請求項1記載のシリコン系薄膜の形成方法。
【請求項3】
前記アモルファスシリコン成分に起因するラマン散乱ピーク強度Iaとして波数480-1cmでのラマン散乱強度を採用し、前記結晶化シリコン成分に起因するラマン散乱ピーク強度Icとして波数520-1cm又はその付近でのラマン散乱ピーク強度を採用する請求項1又は2記載のシリコン系薄膜の形成方法。
【請求項4】
前記シリコン原子を含む成膜原料ガスとしてゲルマニゥム原子も含むガスを採用し、ゲルマニゥムを含む多結晶シリコン系薄膜を形成する請求項1、2又は3記載のシリコン系薄膜の形成方法。
【請求項5】
前記シリコン原子を含む成膜原料ガスとして炭素原子も含むガスを採用し、炭素を含む多結晶シリコン系薄膜を形成する請求項1、2又は3記載のシリコン系薄膜の形成方法。
【請求項6】
前記多結晶シリコン系薄膜を形成後に、酸素含有ガス及び窒素含有ガスから選ばれた少なくとも一種の終端処理用ガスに高周波電力を印加することで発生させた終端処理用プラズマのもとで該多結晶シリコン系薄膜の表面を終端処理する請求項1から5のいずれかに記載のシリコン系薄膜の形成方法。
【請求項7】
前記成膜室において前記多結晶シリコン系薄膜を形成後、該多結晶シリコン系薄膜が形成された前記基板を該成膜室に連設された終端処理室へ搬入し、該終端処理室で前記終端処理を実施する請求項6記載のシリコン系薄膜の形成方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−124111(P2008−124111A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−303676(P2006−303676)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】