説明

ポリイミド樹脂の無機薄膜パターン形成方法

【課題】無機薄膜を密着信頼性及びパターン精度高くポリイミド樹脂表面に形成することができるポリイミド樹脂の無機薄膜パターン形成方法を提供する。
【解決手段】(1)ポリイミド樹脂の表面に膜厚が0.01〜10μmの耐アルカリ性保護膜を形成する工程。(2)パターン形成部位の耐アルカリ性保護膜とポリイミド樹脂の表層部を除去して凹部を形成する工程。(3)アルカリ性水溶液を接触させることによって、凹部のポリイミド樹脂のイミド環を開裂してカルボキシル基を生成する工程。(4)このカルボキシル基を有するポリイミド樹脂に金属イオン含有溶液を接触させてカルボキシル基の金属塩を生成する工程。(5)この金属塩を金属として、もしくは金属酸化物或いは半導体として、ポリイミド樹脂表面に析出させて無機薄膜を形成する工程。これらの工程から、ポリイミド樹脂の表面にパターン形状に無機薄膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂の表面に無機薄膜を回路パターンなど微細パターンで形成するポリイミド樹脂の無機薄膜パターン形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムなどポリイミド樹脂で形成される基材の表面に回路パターンを形成する方法として、各種方法が提案されている。その中で、真空蒸着法やスパッタリング法などのドライプロセスが、密着信頼性に優れた微細な回路パターンを良好に形成することが可能な方法として知られているが、これらの方法は高価な装置を必要とし、しかも同時に生産性が低く、高コストであるという問題を有する。
【0003】
そこで現在、最も一般的な回路パターン形成方法としては、予めポリイミド樹脂の基材の表面全体を金属皮膜で被覆して金属被覆材を作製し、フォトリソグラフ法により不必要な部位の金属皮膜をエッチング処理して除去するサブトラクティブ法が広く採用されている。金属被覆材におけるポリイミド樹脂基材と金属皮膜との間の密着力は、基材の表面を粗化することに伴うアンカー効果、もしくは接着剤により確保されている。このサブトラクティブ法は、生産性に優れ、比較的簡便に回路パターンを形成するのに有用な方法であるが、回路パターンを作製する際に多量の金属皮膜を除去する必要があるため、金属材料の無駄が多く発生するという問題がある。それに加え、近年、電子回路基板の高密度化に伴ってより一層微細な回路パターンが要求されているが、サブトラクティブ法では、オーバーエッチングの発生や基材の表面の粗化による凹凸や接着剤の存在などにより、要求される微細回路パターン形成に対応することが困難であるという問題もある。
【0004】
このため、サブトラクティブ法に代わる回路パターン形成法が盛んに研究されている。例えばフォトリソグラフ法の一種であるアディティブ法は、例えば、基材の表面の全面に感光性樹脂を塗布し、回路形成部位以外に紫外線照射することによって、回路形成部位以外を硬化させた後、未硬化部分を溶剤で回路パターン形状に除去し、無電解めっき法を用いて基材の表面に回路パターンを直接形成する方法である。無電解めっき法は溶液内の酸化還元反応を利用し、めっき触媒核が付与された基材表面に金属皮膜を形成する方法である。このアディティブ法は、前記のドライプロセスに比べて優れた生産性を有し、またサブトラクティブ法に比べて微細な回路パターン形成が可能であるが、ポリイミド樹脂基材と金属皮膜間の密着力を確保することが難しいため、密着信頼性に劣るといった問題点がある。また、アディティブ法は工程が複雑である上、微細な回路パターンを形成するためには高価な生産設備を必要とし、高コストになるという問題もある。
【0005】
さらに、微細な回路パターンを簡便かつ安価に形成する方法として、インクジェット方式が注目されている。インクジェット方式は、基材の表面に金属ナノ粒子から構成されるインキをインクジェットノズルよりパターン形状に噴霧して、塗布した後、アニーリング処理して微細な金属皮膜からなる回路パターンを形成するようにしたものである。しかし、インクジェット方式で金属ナノ粒子を噴霧、塗布する際に、基材の表面の単位面積あたりの金属ナノ粒子数が不十分であると、アニーリング時の金属ナノ粒子間の焼結に伴う収縮により、得られる金属皮膜が断線する可能性があり、逆に金属ナノ粒子数が過剰であると、アニーリング後形成する金属皮膜の表面平滑性が失われる可能性があり、基材上への金属ナノ粒子の塗布量の制御が極めてシビアであるという問題点がある。また、基材と金属ナノ粒子の金属成分はその物性上、十分な密着信頼性を得ることが難しく、さらに、アニーリング時の金属ナノ粒子間の焼結に伴う収縮により寸法精度にも問題を有するものである。
【0006】
そして近年、優れた密着信頼性を有する回路パターン形成技術として、ポリイミド樹脂の基材表面をアルカリ性水溶液で処理してカルボキシル基を生成させ、該カルボキシル基に金属イオンを配位させてカルボキシル基の金属塩を形成したのち、フォトマスクを介して紫外線を該ポリイミド樹脂基材上に照射することによって、選択的に金属イオンを還元して金属皮膜を析出させ、必要に応じてめっき法により金属皮膜を増膜するようにした技術が提案されている(例えば特許文献1等参照)。この方法で形成された金属皮膜はその一部がポリイミド樹脂中に埋包されており、ポリイミド樹脂の基材表面に対する金属皮膜の密着信頼性を高く得ることができるのである。
【特許文献1】特開2001−73159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし特許文献1の発明のように、フォトマスクを介した紫外線照射によるパターン形成法では、回路基板の高密度化に伴って要望される極めて微細な回路パターンに対応することが困難である。また、得られる金属皮膜の厚みはnmオーダーであるため、ほとんどの回路パターン用途においては、増膜が必要とされる。つまり、形成した金属皮膜の回路パターン上にめっき法により金属皮膜を析出させる必要がある。しかし、めっき法では等方性に金属皮膜が析出するため、増膜後、パターン精度が劣化するとともに密着信頼性も低下するおそれがある。これらの問題点を解決するために、例えば回路パターン形成部位以外の基材表面に高分子皮膜を形成した後、メッキ法で増膜を行う方法が提案されているが、工程が複雑になり、高コスト化につながるという問題がある。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、無機薄膜を密着信頼性及びパターン精度高くポリイミド樹脂表面に形成することができるポリイミド樹脂の無機薄膜パターン形成方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係るポリイミド樹脂の無機薄膜パターン形成方法は、ポリイミド樹脂の表面に無機薄膜を形成するにあたって、(1)ポリイミド樹脂の表面に膜厚が0.01〜10μmの耐アルカリ性保護膜を形成する工程、(2)パターン形成部位の耐アルカリ性保護膜とポリイミド樹脂の表層部を除去して凹部を形成する工程、(3)アルカリ性水溶液を接触させることによって、凹部のポリイミド樹脂のイミド環を開裂してカルボキシル基を生成する工程、(4)このカルボキシル基を有するポリイミド樹脂に金属イオン含有溶液を接触させてカルボキシル基の金属塩を生成する工程、(5)この金属塩を金属として、もしくは金属酸化物或いは半導体として、ポリイミド樹脂表面に析出させて無機薄膜を形成する工程、とを有することを特徴とするものである。
【0010】
この発明によれば、耐アルカリ性保護膜で被覆されていない凹部にのみアルカリ性水溶液を作用させてポリイミド樹脂にカルボキシル基を生成させると共にこの凹部の内表面に金属もしくは金属酸化物或いは半導体を析出させて無機薄膜を形成することができ、パターン形成部位の凹部内において無機薄膜の形成を行なうことができるものであり、無機薄膜を密着信頼性高く、且つパターン精度高く形成することができるものである。
【0011】
また請求項2の発明は、請求項1の前記(2)工程において、レーザ照射又は真空紫外線照射によって、耐アルカリ性保護膜とポリイミド樹脂の表層部を除去して凹部を形成することを特徴とするものである。
【0012】
レーザー照射又は真空紫外線照射を行なうことによって、耐アルカリ性保護膜だけでなくポリイミド樹脂の表層部も除去して凹部を形成することができるものである。
【0013】
また請求項3の発明は、請求項1又は請求項2の前記(5)の無機薄膜を形成する工程は、金属塩を還元処理することにより、金属塩を金属としてポリイミド樹脂表面に析出させて、金属薄膜を形成する工程であることを特徴とするものである。
【0014】
金属塩の還元処理によって無機薄膜形成部位に金属薄膜を形成することができるものであり、金属薄膜で回路パターンを形成してポリイミド樹脂を基材とする電子回路基板などとして使用することができるものである。
【0015】
また請求項4の発明は、請求項1又は2の前記(5)の無機薄膜を形成する工程は、金属塩を活性ガスと反応させることにより、金属塩を金属酸化物或いは半導体としてポリイミド樹脂表面に析出させて、金属酸化物薄膜或いは半導体薄膜を形成する工程であることを特徴とするものである。
【0016】
金属塩を活性ガスと反応させることによって無機薄膜形成部位に金属酸化物薄膜或いは半導体薄膜を形成することができるものであり、金属酸化物薄膜或いは半導体薄膜を有する各種の電子部品として使用することができるものである。
【0017】
また請求項5の発明は、請求項1乃至4のいずれかの前記(5)工程において、析出した無機薄膜は無機ナノ粒子の集合体から構成されていることを特徴とするものである。
【0018】
この発明によれば、無機ナノ粒子の集合体が有するアンカーロッキング効果を活用して無機薄膜の密着強度を高めることができると共に、無機ナノ粒子の集合体が有する触媒活性を活用して無機薄膜の表面に無電解めっきを容易に行なうことができるものである。
【0019】
また請求項6の発明は、請求項5の前記(5)工程において、無機ナノ粒子の集合体の一部がポリイミド樹脂に埋包されていることを特徴とするものである。
【0020】
この発明によれば、無機ナノ粒子の集合体のポリイミド樹脂に対する高いアンカーロッキング効果で、無機ナノ粒子の集合体からなる無機薄膜をポリイミド樹脂に強固に密着させることができるものである。
【0021】
また請求項7の発明は、請求項1乃至6のいずれかの前記(5)工程の後に、(6)無機薄膜を析出させたポリイミド樹脂表面に無電解めっきを施す工程を有することを特徴とするものである。
【0022】
この発明によれば、無機薄膜の表面に無電解めっき膜を増膜して無機薄膜の膜厚を厚くすることができ、無機薄膜で電子回路基板の回路を形成することができるものである。
【0023】
また請求項8の発明は、請求項7の前記(6)工程において、無機ナノ粒子の集合体をめっき析出核として無電解めっきを行なうことを特徴とするものである。
【0024】
この発明によれば、無機ナノ粒子の集合体からなる無機薄膜の表面に無電解めっきを析出させて、無機薄膜の表面に選択的に無電解めっきを行なうことができ、無電解めっき膜は無機薄膜が形成された凹部の内部において生成されるものであり、無機薄膜に無電解めっき膜を増膜するにあたって増膜後もパターン精度を保つことができるものである。
【0025】
また請求項9の発明は、請求項1乃至8のいずれかにおいて、パターン形成部位は回路パターン形状であることを特徴とするものである。
【0026】
この発明によれば、パターン形成部位に形成される無機薄膜で回路を形成することができ、ポリイミド樹脂を基材とする電子回路基板などとして使用することができるものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、耐アルカリ性保護膜で被覆されていない凹部にのみアルカリ性水溶液を作用させてポリイミド樹脂にカルボキシル基を生成させると共にこの凹部の内表面に金属もしくは金属酸化物或いは半導体を析出させて無機薄膜を形成することができ、パターン形成部位の凹部内において無機薄膜の形成を行なうことができるものであり、無機薄膜を密着信頼性高く、且つパターン精度高く形成することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0029】
ポリイミド樹脂は、主鎖に環状イミド構造を持ったポリマーであって、例えばポリアミック酸をイミド化することにより得られるものであり、耐熱性、耐薬品性、機械的強度、難燃性、電気絶縁性等に優れた熱硬化性樹脂である。本発明ではこのポリイミド樹脂のフィルムや成形板などを基材として用いることができ、特に形態上の制限はない。
【0030】
そして本発明は、まず(1)工程で、このポリイミド樹脂の基材1の表面の全面に耐アルカリ性に優れた保護膜2を図1(a)のように形成する。この耐アルカリ性保護膜2を構成する材料は特に制限されるものではないが、後の工程で容易に除去できるものであることが望ましく、例えば耐アルカリ性を有する樹脂成分や無機質高分子成分を挙げることができる。また後の工程において酸性溶液を使用する場合には、耐アルカリ性の他に耐酸性をも有していることが望ましい。耐アルカリ性保護膜2を形成する樹脂成分としては、例えばポリエーテルイミド、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリ塩化ビニルなどが好ましく、また無機質高分子成分としては、ポリオキシシロキサン類などが好ましい。
【0031】
耐アルカリ性保護膜2を形成するにあたっては、例えば樹脂成分や無機質高分子成分を溶剤に溶解させて液状乃至ペースト状にし、これをポリイミド樹脂基材1の表面に塗布することによって、行なうことができる。塗布方法は特に制限されるものではないが、スピンコート法、ディップ法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、バーコート法などを挙げることができる。溶剤は、成分や塗布方法などによって適宜選択されるが、具体例を挙げると、ポリエーテルイミドにはTHF、ポリスチレンにはトルエン、ポリエチレンには熱リグロイン、ポリプロピレンにはトルエンなどが好ましい。エチルセルロースなどは耐アルカリ性が低いので使用することはできない。
【0032】
耐アルカリ性保護膜2はポリイミド樹脂基材1の表面の全面を被覆する必要があり、膜厚は0.01〜10μmに設定され、より好ましくは0.03〜4μmである。耐アルカリ性保護膜2の膜厚がこの範囲未満であると、保護膜としての役割を果たすことができなくなるおそれがあり、逆に膜厚がこの範囲を超えて厚いと、次の(2)の工程でポリイミド樹脂基材1に凹部3を形成することが困難になる。
【0033】
上記のようにポリイミド樹脂基材1の表面に耐アルカリ性保護膜2を形成した後、(2)工程で、所定の任意のパターン形状に沿って、耐アルカリ性保護膜2とポリイミド樹脂基材1の表層部を除去し、パターン形状に凹部3を図1(b)のように形成する。
【0034】
凹部3の形成は、例えばレーザ描画装置を用いて、フェムト秒レーザ、紫外線レーザ、グリーンレーザ、YAGレーザなどのレーザをパターン形状に沿って走査させながら耐アルカリ性保護膜2の上から照射することによって行なうことができ、また真空紫外線(VUV)照射装置を用い、フォトマスクを介して真空紫外線を耐アルカリ性保護膜2の上から照射することによって行なうことができる。このように、レーザ照射又は真空紫外線照射することによって、耐アルカリ性保護膜2だけでなく、その下のポリイミド樹脂基材1の表層部も除去することができるものであり、ポリイミド樹脂基材1の表面に凹部3を形成することができるものである。通常のフォトリソグラフ法のように溶剤で耐アルカリ性保護膜2をパターン形状に除去する方法では、このような凹部3をポリイミド樹脂基材1の表面に形成することはできない。
【0035】
凹部3の深さは特に限定されるものではないが、0.5〜15μmの範囲が好ましく、より好ましくは1〜10μmの範囲である。ここで、耐アルカリ性保護膜2は化学的に安定な膜であって、最終的に剥離することなく残すことになるので、この凹部3の深さは耐アルカリ性保護膜2の膜厚を含み、耐アルカリ性保護膜2の表面から凹部3の底面までの深さである。
【0036】
次に(3)工程で、ポリイミド樹脂基材1の表面にアルカリ性水溶液4を塗布したり、アルカリ性水溶液4にポリイミド樹脂基材1を浸漬したりして、ポリイミド樹脂基材1の表面をアルカリ性水溶液4で処理する。アルカリ性水溶液4としては特に制限されるものではないが、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、水酸化マグネシウム水溶液、エチレンジアミン水溶液を挙げることができる。アルカリ性水溶液4の濃度は特に限定されるものではないが、0.01〜10Mが好ましく、より好ましくは0.5〜6Mである。またアルカリ性水溶液4には、バインダー樹脂、有機溶剤、無機フィラー、増粘剤、レベリング剤などから選ばれる助剤を加えて、粘度、ポリイミド樹脂基材との濡れ性、平滑性、揮発性を制御するようにしてもよい。これらは塗布パターンの形状、線幅に応じて選択するのが望ましい。
【0037】
このようにアルカリ性水溶液4で処理するにあたって、図1(c)のように、アルカリ性水溶液4はポリイミド樹脂基材1の表面のうち耐アルカリ性保護膜2で被覆されていない凹部3にのみ選択的に作用するものである。ここで、ポリイミド樹脂基材1の表面にアルカリ性水溶液4が作用すると、特許文献1に記載されているように、化学反応式1にみられるようなポリイミド樹脂の分子構造中のイミド環の開裂により、カルボキシル基(−COOA:カルボン酸のアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩)とアミド結合(−CONH−)が生成される。
【0038】
【化1】

【0039】
従って、図1(b)のようなポリイミド樹脂基材1の表面をアルカリ性水溶液4で処理して、図1(c)のようにポリイミド樹脂基材1の凹部3にのみ選択的に接触させることによって、図1(d)のように、ポリイミド樹脂基材1の表層部にカルボキシル基が生成されて改質された改質層5がパターン形成部位に沿ったパターンで形成される。
【0040】
ここで、アルカリ性水溶液4が上記のようにポリイミド樹脂基材1の凹部3の表面内に浸透するに従って、カルボキシル基を生成させてポリイミド樹脂の改質反応が進行するものであり、アルカリ性水溶液4で処理する時間を長くしたり、ポリイミド樹脂基材1を加熱処理したりすることによって、改質層5の厚みを増大させることができるものである。アルカリ性水溶液4でポリイミド樹脂基材1の表面を処理する際の処理温度は10〜80℃が好ましく、より好ましくは15〜60℃である。また処理時間は5〜1800秒が好ましく、より好ましくは30〜600秒である。
【0041】
上記のように(3)工程で、ポリイミド樹脂基材1の凹部3の内表面にカルボキシル基を生成させる改質層5を形成した後、(4)工程で、ポリイミド樹脂基材1の表面を金属イオン含有溶液で処理する。金属イオン含有溶液において、金属イオンとしては、金イオン、銀イオン、銅イオン、白金アンミン錯体、パラジウムアンミン錯体、タングステンイオン、タンタルイオン、チタンイオン、錫イオン、インジウムイオン、カドミウムイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、マンガンイオン、アルミニウムイオン、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、そして亜鉛イオンから選ばれた少なくとも1種を挙げることができる。これらの金属イオンのうち、白金アンミン錯体、パラジウムアンミン錯体はアルカリ溶液の状態で、それ以外の金属イオンは酸性溶液の状態で使用されるものである。
【0042】
そして、このようにポリイミド樹脂基材1の表面を金属イオン含有溶液で処理して、上記のようにカルボキシル基を生成させた改質層5に金属イオン含有溶液を接触させることによって、例えば
−COO…M2+OOC−
のようにカルボキシル基に金属イオン(M2+)を配位させてカルボキシル基の金属塩(カルボン酸の金属塩)を生成させることができるものであり、図1(e)のように改質層5の箇所に金属イオン含有改質層6を形成させることができるものである。ここで、ポリイミド樹脂に生成させたカルボキシル基中の水酸基、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属と、金属イオンとの間の配位子交換を進行させるために、水酸基やアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の解離度を増加させる必要がある。このためにはポリイミド樹脂基材1を酸性状態に保つことが必要であり、従ってこの場合には金属イオン含有溶液として金属イオン含有酸性溶液を用いるのが好ましい。
【0043】
また、金属イオン含有溶液中の金属イオン濃度は、ポリイミド樹脂に生成させたカルボキシル基中の水酸基、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属と、金属イオンとの配位子置換反応に密接な相関を示す。金属イオン種により異なるが、金属イオン濃度は1〜1000mMが好ましく、より好ましくは10〜500mMである。金属イオン濃度が低くなると、配位子置換の反応が平衡に達するまでの時間がかかるため好ましくない。ポリイミド樹脂基材1の表面への金属イオン含有溶液の接触時間は10〜600秒が好ましく、より好ましくは30〜420秒である。
【0044】
上記のように(4)の工程で、ポリイミド樹脂基材1の凹部3の内表面の改質層5に金属イオン含有溶液を接触させ、カルボキシル基の金属塩を生成させた金属イオン含有改質層6を形成させた後、水もしくはアルコールでポリイミド樹脂基材1の表面を洗浄し、不要な金属イオンを除去する。そして次に、(5)の工程で、金属イオン含有改質層6の金属塩を、金属として析出させ、もしくは金属酸化物或いは半導体として析出させ、ポリイミド樹脂基材1凹部3の内表面に、金属からなる無機薄膜7、もしくは金属酸化物或いは半導体からなる無機薄膜7を形成することができるものである。
【0045】
この無機薄膜7は、図1(f)に示すように凹部3の内表面の金属イオン含有改質層6の表層に形成されるものである。ここで、このように金属イオン含有改質層6の金属塩を、金属もしくは金属酸化物或いは半導体として金属イオン含有改質層6の表層に析出させることによって、金属イオン含有改質層6は含有する金属イオンが減少するように組成が変化している。すなわち、(5)の工程の後の金属イオン含有改質層6は、金属イオン含有改質層6の厚みや後述の処理の方法・程度等によって影響されるが、金属イオンが残存していない改質層6′か、あるいは金属イオンのうちの一部が残存している改質層6′に、その組成が変質しているものである。
【0046】
金属イオン含有改質層6に金属塩を金属として析出させる場合には、金属塩を還元処理することによって行なうことができる。還元処理は、例えば、還元剤を含む溶液でポリイミド樹脂基材1の表面を処理したり、還元ガスや不活性ガス雰囲気下でポリイミド樹脂基材1を熱処理することによって行なうことができる。還元条件は金属イオン種により異なるが、還元剤を含む溶液で処理する場合、還元剤として、例えば水素化ホウ素ナトリウム、次亜リン酸及びその塩、ジメチルアミンボラン等を使用することができる。また還元ガスで処理する場合、還元ガスとして、例えば水素及びその混合ガス、ボラン−窒素混合ガス等を使用することができ、不活性ガスで処理する場合、不活性ガスとして、例えば窒素ガス、アルゴンガス等を使用することができる。
【0047】
また、金属イオン含有改質層6の金属塩を金属酸化物或いは半導体として析出させる場合には、金属塩を活性ガスで処理することによって行なうことができる。処理条件は金属イオン種により異なるが、活性ガスとして、例えば酸素及びその混合ガス、窒素及びその混合ガス、硫黄及びその混合ガス等を使用し、ポリイミド樹脂基材1の表面を活性ガスと接触させることによって、処理を行なうことができる。
【0048】
ここで、金属酸化物としては、例えば酸化チタン、酸化錫、酸化インジウム、酸化バナジウム、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化コバルト、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、インジウム−錫複合酸化物、ニッケル−鉄複合酸化物、コバルト−鉄複合酸化物、などを挙げることができるものであり、このように金属酸化物からなる無機薄膜7をポリイミド樹脂基材1の表面に形成することによって、例えば、コンデンサー、透明導電膜、放熱材、磁気記録材料、エレクトロクロミズム素子、センサー、触媒、発光材料などとして使用することができるものである。
【0049】
また半導体としては、例えば硫化カドミウム、テルル化カドミウム、セレン化カドミウム、硫化銀、硫化銅、リン化インジウム、などを挙げることができるものであり、このように半導体からなる無機薄膜7をポリイミド樹脂基材1の表面に形成することによって、例えば、発光材料、トランジスタ、メモリー材料、などとして使用することができるものである。
【0050】
上記のように(5)の工程で形成される無機薄膜7を構成する金属、もしくは金属酸化物或いは半導体は、粒径2〜100nmのナノ粒子で構成されている。この無機ナノ粒子は、その極めて高い表面エネルギーのため容易に凝集され、無機ナノ粒子の集合体として存在するものである。そしてこのとき、上記の金属イオン濃度、還元剤濃度、雰囲気温度、活性ガス濃度の条件などにより程度は異なるものの、無機ナノ粒子の集合体の一部がポリイミド樹脂基材1の樹脂内で安定化しており、すなわち、無機ナノ粒子の集合体の一部がポリイミド樹脂の表層部内に埋包された状態となり、この際のアンカーロッキング効果によって、ポリイミド樹脂基材1と無機ナノ粒子の集合体からなる無機薄膜7とを強固に密着させることができるものである。特に、基材表面を化学的、もしくは物理的に粗化することにより得られる一般的なアンカーロッキング効果では、その表面粗さがμmオーダーであるが、本発明におけるような無機ナノ粒子とポリイミド樹脂とのアンカーロッキング効果は、表面粗さがナノスケールで優れた密着特性を得ることができるものであり、高周波領域の電子信号を伝達するための配線材料に適しているものである。
【0051】
上記のようにしてポリイミド樹脂基材1の凹部3に無機薄膜7を形成することができるものであり、凹部3を回路パターン形状に設定しておくことによって、無機薄膜7で回路パターンを形成することができ、ポリイミド樹脂基材1を電子回路基板などの電子部品として加工することができるものである。無機薄膜7は上記のようにポリイミド樹脂基材1の表面に形成される凹部3内に形成されるものである。従って無機薄膜7は凹部3から剥がれ難いものであって、無機薄膜7を密着性高く形成することができると共に、凹部3に沿って無機薄膜7を精度高く形成することができるものであり、無機薄膜7で回路パターンを形成するにあたって、密着信頼性高く且つパターン精度高く形成することができるものである。
【0052】
ここで、上記の(5)の工程で形成される無機薄膜7は膜厚が10〜500nm程度である。一方、電子回路基板において回路は概ねμ単位の膜厚が必要である。このために、電子回路基板として使用する場合には、無機薄膜7に増膜を施して、回路の膜厚を厚く形成することが好ましい。すなわち、(5)の工程の後に、(6)の工程で、ポリイミド樹脂基材1に設けた無機薄膜7の表面に無電解めっきを行ない、無機薄膜7の膜厚を無電解めっきで厚くすることができるものである。
【0053】
無電解めっきは、例えば、無電解めっき浴にポリイミド樹脂基材1を浸漬することによって行なうことができるものであり、無機薄膜7を形成する上記の無機ナノ粒子集合体をめっきの析出核として、無機薄膜7の表面に図1(g)のように無電解めっき膜8を析出させることができるものである。すなわち、無機ナノ粒子の集合体は、極めて広大な比表面積を有するので、優れた触媒活性を示すものであり、無電解めっき膜8を析出させるための析出核として利用する場合、多くの点から均一にめっき膜の析出が始まるため、良好な密着性と電気特性を示す無電解めっき膜8を得ることができるものである。このように無機ナノ粒子集合体をめっきの析出核として無機薄膜7の表面に無電解めっき膜8を析出させることによって、ポリイミド樹脂基材1の表面のうち、無機薄膜7の表面にのみ選択的に無電解めっき膜8を形成することができるものであり、そして無電解めっき膜8は無機薄膜7が形成された凹部3の内部に沿って生成されるものであり、無機薄膜7に無電解めっき膜8を増膜して回路を形成するにあたって増膜後も凹部3によって回路のパターン精度を保つことができるものである。従って無電解めっき膜8の厚みは凹部3の深さ以下であることが好ましい。凹部3の内部を完全に無電解めっき膜8で充填する場合には、無電解めっき膜8の厚みは凹部3の深さ以上でもよく、無電解めっき膜8の厚みが凹部3の深さを超えるときには、研削等の機械的手段、もしくはエッチングなど化学的手段で、深さを超えた無電解めっき膜8を研磨除去するのが好ましい。尚、無電解めっき浴は、ポリイミド樹脂基材1の再改質を防ぐため、中性もしくは弱アルカリ性無電解めっき浴であることが好ましい。
【実施例】
【0054】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0055】
(実施例1)
ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、商品名「カプトン200−H」)をエタノール溶液に浸漬し、5分間超音波洗浄を施したのち、オーブン中で100℃、60分乾燥することにより、ポリイミドフィルムの表面を清浄化した。
【0056】
一方、50質量部のポリスチレンを180質量部のトルエンに溶解させることによって、ポリスチレン溶液を調製し、このポリスチレン溶液をポリイミドフィルムの表面にスピンコート法にて1500rpm、30secの条件で均一に塗布した。この後、60℃に保持されたオーブン中に10分間保持することによって、ポリイミドフィルムの表面にポリスチレンの耐アルカリ性保護膜を形成した(図1(a)参照)。この耐アルカリ性保護膜の膜厚は0.5μmであった。
【0057】
次に、紫外線レーザ装置を用い、次の条件で線幅5μmの回路パターンを描画し、耐アルカリ性保護膜とポリイミドフィルムの表層部を除去してパターン形状の凹部をポリイミドフィルムに形成した(図1(b)参照)。この凹部の深さは3μmであった。
【0058】
レーザ出力 :5W
波長 :355nm
発振動作 :パルス
スキャンスピード:30mm/sec
次に、上記のポリイミドフィルムを、50℃に温度調整した5M濃度のKOH水溶液中に5分間浸漬し、アルカリ性水溶液で処理した(図1(c)参照)。この後、ポリイミドフィルムをエタノール溶液中に浸漬して超音波洗浄を10分間行った。ポリイミドフィルムの表面には回路パターン形状で改質層が形成されていた(図1(d)参照)。
【0059】
次に、金属イオン含有酸性溶液として50mMの濃度のCuSO水溶液を用い、この水溶液中にポリイミドフィルムを5分間浸漬し、改質層にCuイオンを配位して、金属イオン含有改質層を形成した(図1(e)参照)。この後、蒸留水で余分なCuSO4を除去した。
【0060】
次に、還元溶液として5mM濃度のNaBH水溶液を用い、この水溶液にポリイミドフィルムを5分間浸漬した後、蒸留水で洗浄したところ、凹部の内表面の金属イオン含有改質層の表面部に銅薄膜の析出が確認された(図1(f)参照)。銅薄膜の厚みは300nm、線幅は5μm、銅薄膜の電気抵抗は5×10−3Ωcmであり、凹部と同形状を有する回路パターンを形成することができた。
【0061】
この後、ポリイミドフィルムを、50℃に温度調整した次の浴組成の中性無電解銅めっき浴に3時間浸漬した。
【0062】
CuCl2 :0.05M
エチレンジアミン :0.60M
Co(NO32 :0.15M
アスコルビン酸 :0.01M
2,2’−ビピリジル :20ppm
pH :6.75
そして無電解銅めっき膜は凹部内において銅薄膜の上に析出し、膜厚が3μmの均一な銅めっき膜が得られた(図1(g)参照)。銅めっき膜の電気抵抗は3×10−5Ωcmであり、先の銅薄膜とこの銅めっき膜とで、電子回路基板の回路を形成することができた。
【0063】
(実施例2)
10質量部のアクリル樹脂を80質量部のテレピネオールに溶解させることによって、アクリル樹脂ペーストを調製した。そして実施例1と同様にして表面を清浄化したポリイミドフィルムの表面に、スクリーン印刷法で、SUS300メッシュ、乳化剤5μmのスクリーン版を介してアクリル樹脂ペーストを塗布し、110℃のオーブン中に30分間保持することによって、ポリイミドフィルムの表面にアクリル樹脂の耐アルカリ性保護膜を形成した(図1(a)参照)。この耐アルカリ性保護膜の膜厚は10μmであった。
【0064】
次に、YAGレーザ装置を用い、次の条件で線幅40μmの回路パターンを描画し、耐アルカリ性保護膜とポリイミドフィルムの表層部を除去してパターン形状の凹部をポリイミドフィルムに形成した(図1(b)参照)。この凹部の深さは18μmであった。
【0065】
レーザ出力 :50W
波長 :1064nm
発振動作 :パルス
スキャンスピード:100mm/sec
一方、10M濃度のKOH水溶液100質量部に、増粘剤としてポリエチレングリコール30質量部を加え、これを攪拌して溶解させることによって、アルカリ性水溶液を調製し、このアルカリ性水溶液をバーコート法でポリイミドフィルムの表面に膜厚50μmで塗布し、ピーク温度40℃に保持されたベルト炉中で30分間加熱することによって、アルカリ性水溶液による処理を行なった(図1(c)参照)。この後、ポリイミドフィルムをプロパノール溶液中に浸漬して超音波洗浄を10分間行った。ポリイミドフィルムの表面には回路パターン形状で改質層が形成されていた(図1(d)参照)。
【0066】
次に、金属イオン含有酸性水溶液として100mM濃度のAgNO水溶液を用い、この金属イオン含有水溶液中にポリイミドフィルムを5分間浸漬し、凹部内表面の改質層に銀イオンを配位させて、金属イオン含有改質層を形成した(図1(e)参照)。この後、蒸留水で余分なAgNOを除去した。
【0067】
次に、還元ガスとして水素を用い、200℃の50%水素気流中(Nバランス)で30分間還元処理を行なったところ、金属イオン含有改質層の表面部に銀薄膜の析出が確認された(図1(f)参照)。銀薄膜の厚みは300nm、線幅は40μm、銀薄膜の電気抵抗は5×10−3Ωcmであり、凹部と同形状を有する回路パターンを形成することができた。
【0068】
この後、ポリイミドフィルムを、80℃に温度調整した次の浴組成の中性無電解ニッケルめっき浴に5時間浸漬した。
【0069】
NiSO :0.1M
CHCOOH :1.0M
NaHPO :0.2M
pH :4.5
そして無電解ニッケルめっき膜は凹部内において銀薄膜の上に析出し、膜厚が16μmの均一なニッケルめっき膜が得られた(図1(g)参照)。ニッケルめっき膜の電気抵抗は3×10−5Ωcmであり、先の銀薄膜とこのニッケルめっき膜とで、電子回路基板の回路を形成することができた。
【0070】
(実施例3)
30質量部のポリプロピレンを180質量部のトルエンに溶解させることによって、ポリプロピレン溶液を調製した。そしてディップ法にて、引き上げ速度20mm/secの条件下で、実施例1と同様にして表面を清浄化したポリイミドフィルムにポリプロピレン溶液を均一に塗布し、40℃に保持されたオーブン中に5分間保持することによって、ポリイミドフィルムの表面にポリプロピレンの耐アルカリ性保護膜を形成した(図1(a)参照)。この耐アルカリ性保護膜の膜厚は0.03μmであった。
【0071】
次に、フェムト秒レーザ装置を用い、次の条件で線幅3μmの回路パターンを描画し、耐アルカリ性保護膜とポリイミドフィルムの表層部を除去してパターン形状の凹部をポリイミドフィルムに形成した(図1(b)参照)。この凹部の深さは3μmであった。
【0072】
レーザ出力 :10W
波長 :780nm
発振動作 :パルス
スキャンスピード:300mm/sec
次に、上記のポリイミドフィルムを、70℃に温度調整した2M濃度のKOH水溶液中に10分間浸漬し、アルカリ性水溶液で処理した(図1(c)参照)。この後、ポリイミドフィルムを水中に浸漬して超音波洗浄を10分間行った。ポリイミドフィルムの表面には回路パターン形状で改質層が形成されていた(図1(d)参照)。
【0073】
次に、0.1M濃度の硫酸インジウム水溶液と0.1M濃度の硫酸錫水溶液を混合し、インジウムイオンと錫イオンのモル比がインジウム/錫=15/85からなる金属イオン含有酸性水溶液を調製し、この金属イオン含有水溶液中にポリイミドフィルムを20分間浸漬し、凹部の内表面の改質層にインジウムイオンと錫イオンを配位させて、金属イオン含有改質層を形成した(図1(e)参照)。この後、蒸留水で余分な金属イオンを除去した。
【0074】
次にこのポリイミドフィルムを水素雰囲気下で350℃、3時間熱処理を行い、インジウム−錫合金からなるナノ粒子集合体を得た。この時、ナノ粒子集合体の膜厚は50nmであった。この後、ポリイミドフィルムを空気雰囲気下で300℃、6時間の条件で熱処理を行って、インジウム−錫合金を酸素と反応させることによって、凹部の内表面にITO薄膜を形成させた(図1(f)参照)。このITO薄膜の線幅は3μm、シート抵抗は0.7Ω/□であった。
【0075】
(実施例4)
50質量部のポリジメチルシロキサンを5M濃度のエチレンジアミン水溶液100質量部に混合した溶液に、増粘剤としてポリビニルピロリドン35質量部とグリセリン25質量部を加え、これを攪拌して溶解させることによって、ポリジメチルシロキサンペーストを調製した。そしてこのポリジメチルシロキサンペーストを、実施例1と同様にして表面を清浄化したポリイミドフィルムの表面に、フレキソ印刷法で均一に塗布し、ピーク温度150℃に保持されたベルト炉中で10分間加熱処理することによって、ポリイミドフィルムの表面にポリジメチルシロキサンの耐アルカリ性保護膜を形成した(図1(a)参照)。この耐アルカリ性保護膜の膜厚は8μmであった。
【0076】
次に、真空紫外線照射装置を用い、次の条件で線幅20μmの回路パターンを描画し、耐アルカリ性保護膜とポリイミドフィルムの表層部を除去してパターン形状の凹部をポリイミドフィルムに形成した(図1(b)参照)。この凹部の深さは10μmであった。
【0077】
出力 :100W
波長 :172nm
真空度 :10Pa
照射時間:300min
次に、上記のポリイミドフィルムを、60℃に温度調整した7M濃度のMg(OH)水溶液中に50分間浸漬し、アルカリ性水溶液で処理した(図1(c)参照)。この後、ポリイミドフィルムを水中に浸漬して超音波洗浄を10分間行った。ポリイミドフィルムの表面には回路パターン形状で改質層が形成されていた(図1(d)参照)。
【0078】
次に、50mM濃度の硝酸カドミウム水溶液からなる金属イオン含有酸性水溶液中にポリイミドフィルムを3分間浸漬し、凹部の内表面の改質層にカドミウム(II)イオンを配位させて、金属イオン含有改質層を形成した(図1(e)参照)。この後、蒸留水で余分な硝酸カドミウムを除去した。
【0079】
次に100ppm濃度の硫化ナトリウム、5mM濃度のリン酸水素二ナトリウム、5mM濃度のリン酸二水素カリウムの組成からなる水溶液を30℃に保ち、ポリイミドフィルムを20分間浸漬して硫化処理を行い、硫化カドミウムのナノ粒子集合体を得た。そして上記のアルカリ性水溶液による処理以降の処理を10回繰り返すことにより、硫化カドミウムのナノ粒子集合体の濃度を増加させた。
【0080】
この後、大気雰囲気下で300℃、5時間の条件で熱処理を行うことにより、硫化カドミウム薄膜を形成させた(図1(f)参照)。この硫化カドミムウム薄膜の線幅は20μm、膜厚は2.3μmであった。
【0081】
(比較例1)
10質量部のポリスチレンを180質量部のトルエンに溶解させることによって、ポリスチレン溶液を調製し、このポリスチレン溶液を、実施例1と同様に表面を清浄化したポリイミドフィルムの表面にスピンコート法にて3000rpm、30secの条件で均一に塗布した。この後、60℃に保持されたオーブン中に10分間保持することによって、ポリイミドフィルムの表面にポリスチレンの耐アルカリ性保護膜を形成した。この耐アルカリ性保護膜の膜厚は0.008μmであった。
【0082】
次に、紫外線レーザ装置を用い、次の条件で線幅5μmの回路パターンを描画し、耐アルカリ性保護膜とポリイミドフィルムの表層部を除去してパターン形状の凹部をポリイミドフィルムに形成した(図1(b)参照)。この凹部の深さは4μmであった。
【0083】
レーザ出力 :5W
波長 :355nm
発振動作 :パルス
スキャンスピード:30mm/sec
次に、上記のポリイミドフィルムを、50℃に温度調整した5M濃度のKOH水溶液中に5分間浸漬し、アルカリ性水溶液で処理した。この後、ポリイミドフィルムをエタノール溶液中に浸漬して超音波洗浄を10分間行った。ポリイミドフィルムの表面には回路パターン形状で改質層が形成されていた。
【0084】
次に、金属イオン含有酸性溶液として50mMの濃度のCuSO水溶液を用い、この水溶液中にポリイミドフィルムを5分間浸漬し、改質層にCuイオンを配位して、金属イオン含有改質層を形成した。この後、蒸留水で余分なCuSOを除去した。
【0085】
次に、還元溶液として5mM濃度のNaBH水溶液を用い、この水溶液にポリイミドフィルムを5分間浸漬した後、蒸留水で洗浄したところ、凹部内のみならず、凹部以外のポリイミドフィルムの表面にも銅薄膜の析出が認められ、回路パターンを形成することができなかった。
【0086】
(比較例2)
30質量部のアクリル樹脂を80質量部のテレピネオールに溶解させることによって、アクリル樹脂ペーストを調製した。そして実施例1と同様にして表面を清浄化したポリイミドフィルムの表面に、スクリーン印刷法で、SUS200メッシュ、乳化剤20μmのスクリーン版を介してアクリル樹脂ペーストを塗布し、110℃のオーブン中に30分間保持することによって、ポリイミドフィルムの表面にアクリル樹脂の耐アルカリ性保護膜を形成した。この耐アルカリ性保護膜の膜厚は15μmであった。
【0087】
次に、YAGレーザ装置を用い、次の条件で線幅40μmの回路パターンを描画してパターン形状の凹部を形成した。この凹部の深さは12μmであり、耐アルカリ性保護膜を貫通しておらず、ポリイミドフィルムの表面にまで達していなかった。
【0088】
レーザ出力 :50W
波長 :1064nm
発振動作 :パルス
スキャンスピード:20mm/sec
次に、上記のポリイミドフィルムを、50℃に温度調整した5M濃度のKOH水溶液中に5分間浸漬し、アルカリ性水溶液で処理した。この後、ポリイミドフィルムをエタノール溶液中に浸漬して超音波洗浄を10分間行った。ポリイミドフィルムの表面には改質層の形成は確認できなかった。
【0089】
(比較例3)
30質量部のエチルセルロースを100質量部のテレピネオールに溶解させることによって、エチルセルロース溶液を調製した。そして実施例1と同様にして表面を清浄化したポリイミドフィルムの表面に、スクリーン印刷法で、SUS300メッシュ、乳化剤5μmのスクリーン版を介してエチルセルロース溶液を塗布し、110℃のオーブン中に30分間保持することによって、ポリイミドフィルムの表面にエチルセルロース皮膜を形成した。このエチルセルロース皮膜の膜厚は5μmであった。
【0090】
次に、YAGレーザ装置を用い、次の条件で線幅40μmの回路パターンを描画し、エチルセルロース皮膜とポリイミドフィルムの表層部を除去してパターン形状の凹部をポリイミドフィルムに形成した(図1(b)参照)。この凹部の深さは18μmであった。
【0091】
レーザ出力 :50W
波長 :1064nm
発振動作 :パルス
スキャンスピード:100mm/sec
次に、上記のポリイミドフィルムを、50℃に温度調整した5M濃度のKOH水溶液中に5分間浸漬し、アルカリ性水溶液で処理した。この後、ポリイミドフィルムをエタノール溶液中に浸漬して超音波洗浄を10分間行った。このアルカリ処理の結果、エチルセルロース皮膜はKOH水溶液に溶解し、ポリイミドフィルムの表面に保護膜は存在しなくなった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、電子部品、機械部品、特にフレキシブル回路板、フレックスリジッド回路板、TAB用キャリアなどの回路板の製造に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示すものであり、(a)乃至(g)はそれぞれ概略断面図である。
【符号の説明】
【0094】
1 ポリイミド樹脂基材
2 耐アルカリ性保護膜
3 凹部
4 アルカリ性水溶液
5 改質層
6 金属イオン含有改質層
7 無機薄膜
8 無電解めっき膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂の表面に無機薄膜を形成するにあたって、(1)ポリイミド樹脂の表面に膜厚が0.01〜10μmの耐アルカリ性保護膜を形成する工程、(2)パターン形成部位の耐アルカリ性保護膜とポリイミド樹脂の表層部を除去して凹部を形成する工程、(3)アルカリ性水溶液を接触させることによって、凹部のポリイミド樹脂のイミド環を開裂してカルボキシル基を生成する工程、(4)このカルボキシル基を有するポリイミド樹脂に金属イオン含有溶液を接触させてカルボキシル基の金属塩を生成する工程、(5)この金属塩を金属として、もしくは金属酸化物或いは半導体として、ポリイミド樹脂表面に析出させて無機薄膜を形成する工程、とを有することを特徴とするポリイミド樹脂の無機薄膜パターン形成方法。
【請求項2】
前記(2)工程において、レーザ照射又は真空紫外線照射によって、耐アルカリ性保護膜とポリイミド樹脂の表層部を除去して凹部を形成することを特徴とする請求項1に記載のポリイミド樹脂の無機薄膜パターン形成方法。
【請求項3】
前記(5)の無機薄膜を形成する工程は、金属塩を還元処理することにより、金属塩を金属としてポリイミド樹脂表面に析出させて、金属薄膜を形成する工程であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリイミド樹脂の無機薄膜パターン形成方法。
【請求項4】
前記(5)の無機薄膜を形成する工程は、金属塩を活性ガスと反応させることにより、金属塩を金属酸化物或いは半導体としてポリイミド樹脂表面に析出させて、金属酸化物薄膜或いは半導体薄膜を形成する工程であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリイミド樹脂の無機薄膜パターン形成方法。
【請求項5】
前記(5)工程において、析出した無機薄膜は無機ナノ粒子の集合体から構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のポリイミド樹脂の無機薄膜パターン形成方法。
【請求項6】
前記(5)工程において、無機ナノ粒子の集合体の一部がポリイミド樹脂に埋包されていることを特徴とする請求項5に記載のポリイミド樹脂の無機薄膜パターン形成方法。
【請求項7】
前記(5)工程の後に、(6)無機薄膜を析出させたポリイミド樹脂表面に無電解めっきを施す工程を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のポリイミド樹脂の無機薄膜パターン形成方法。
【請求項8】
前記(6)工程において、無機ナノ粒子の集合体をめっき析出核として無電解めっきを行なうことを特徴とする請求項7に記載のポリイミド樹脂の無機薄膜パターン形成方法。
【請求項9】
無機薄膜形成部位は回路パターン形状であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のポリイミド樹脂の無機薄膜パターン形成方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−210891(P2006−210891A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−368027(P2005−368027)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】