説明

マスクブランク用基板の製造方法、マスクブランクの製造方法、及び転写用マスクの製造方法、並びに転写用マスクの洗浄方法

【課題】マスクブランク用基板の洗浄時に、超音波を印加した洗浄水を用いた洗浄方法を適用した場合でも、ガラス基板内部に潜傷が発生することを抑制でき、しかも基板主表面に存在するパーティクルを確実に排除できるマスクブランク用基板の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のマスクブランク用基板の製造方法は、ガラス材料からなる基板の表面に向かって、周波数が1.5MHzよりも高い超音波が印加された洗浄水を当てて基板の表面を洗浄する洗浄工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置等の電子デバイスの製造において使用されるフォトマスク(転写用マスク)を作製するために用いるマスクブランク用基板、マスクブランク及び転写用マスクの製造方法並びに転写用マスクの洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体装置の製造工程では、フォトリソグラフィー法を用いて微細パターンの形成が行われている。また、この微細パターンの形成には通常何枚ものフォトマスク(以下、「転写用マスク」という。)と呼ばれている基板が使用される。この転写用マスクは、一般に透光性のガラス基板上に、金属薄膜等からなる微細パターンを設けたものであり、この転写用マスクの製造においてもフォトリソグラフィー法が用いられている。
【0003】
フォトリソグラフィー法による転写用マスクの製造には、ガラス基板等の透光性基板上に転写パターン(マスクパターン)を形成するための薄膜(例えば遮光膜など)を有するマスクブランクが用いられる。このマスクブランクを用いた転写用マスクの製造は、マスクブランク上に形成されたレジスト膜に対し、所望のパターン描画を施す露光工程と、所望のパターン描画に従って前記レジスト膜を現像してレジストパターンを形成する現像工程と、レジストパターンに従って前記薄膜をエッチングするエッチング工程と、残存したレジストパターンを剥離除去する工程とを有して行われている。上記現像工程では、マスクブランク上に形成されたレジスト膜に対し所望のパターン描画を施した後に現像液を供給して、現像液に可溶なレジスト膜の部位を溶解し、レジストパターンを形成する。また、上記エッチング工程では、このレジストパターンをマスクとして、ドライエッチング又はウェットエッチングによって、レジストパターンの形成されていない薄膜が露出した部位を溶解し、これにより所望のマスクパターンを透光性基板上に形成する。こうして、転写用マスクが出来上がる。
【0004】
ところで、上記転写用マスクの製造に用いられるマスクブランク用のガラス基板の製造工程においては、鏡面研磨後のガラス基板に対して、基板表面に存在するパーティクル(異物等)を排除するための洗浄が行われている。従来、この洗浄にはいくつかの方法が知られているが、その1つの方法として、1MHz前後の超音波を印加した洗浄水を基板表面に直接当てて基板表面の洗浄を行う方法(以下、「メガソニック洗浄」という。)がある。従来の硫酸過水やアンモニア過水による洗浄の場合、研磨によって得られたガラス基板表面の平滑性や平坦度を劣化させることがある。メガソニック洗浄ではこのような欠点がないため、高品質化の要求が益々厳しくなっているマスクブランク用基板には好適である。特許文献1には、オゾン水あるいはアノード水と水素水あるいはカソード水を混合してなる洗浄液を用い、この洗浄液に超音波を印加して、マスクブランクス基板等の精密基板を洗浄する精密基板の洗浄方法が開示されている。また、特許文献2には、エッチング液を用いて透光性基板の表面をエッチング処理した後、物理的作用を利用して基板表面に付着している異物を除去する物理的洗浄の1つとして、例えば透光性基板の表面に超音波が印加された洗浄液を供給してメガソニック洗浄を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−96241号公報
【特許文献2】特開2005−221928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者は、従来のメガソニック洗浄には、以下のような課題があることを見い出した。
このメガソニック洗浄方法では、MHz帯の中でも比較的低い低周波数、例えば1.5MHz以下の周波数の超音波を印加した洗浄水をガラス基板の表面に直接当てて洗浄を行った場合、基板表面の付着物を剥離する作用が高く、非常に高い洗浄効果が得られる。ところが、ガラス基板の表層を構成する分子構造に対して与える振動も大きく、内部の結合構造が周りに比べて弱い部分に潜傷が発生する場合があった。しかし、従来の基板の欠陥検査では、この潜傷を発見することは非常に困難であった。このため、表層に潜傷が内在する基板が合格品として次工程の薄膜形成工程に送られ、転写パターン形成用薄膜が成膜され、合格品のマスクブランクとして出荷されてしまう場合があった。
【0007】
このような基板の表層に潜傷が内在するマスクブランクを用いて、転写用マスクを作製した場合、パターン形成用薄膜に転写パターンを形成するときのエッチング工程時に、エッチャントが潜傷に作用して凹欠陥として顕在化してしまう恐れがあった。また、転写用マスク作製時の洗浄工程や、転写用マスクとして継続使用する際に定期的に行われる転写用マスクの洗浄工程、特に、ガラス基板に対してエッチング作用を有する洗浄液を用いた洗浄(アルカリ洗浄等)を行う洗浄工程において、洗浄液が基板の表層に内在する潜傷に作用して凹欠陥として顕在化してしまう恐れがあった。特に、転写パターン形成用薄膜が形成された側の基板主表面の表層に潜傷が内在する場合、これらのエッチング工程や洗浄工程において、エッチャントあるいは洗浄液が基板主表面の表層に接触するのは転写パターンの無い基板表面が露出している透光部であるので、そこに凹欠陥ができてしまうと、透過率異常や位相異常が発生し、転写用マスクとして使用できなくなってしまう。また、潜傷が凹欠陥として顕在化した際に、その凹欠陥に接触している転写パターンが脱落してしまう場合もあり、このような転写用マスクも継続使用することができなくなってしまう。
【0008】
一方、マスクブランク用ガラス基板の主表面に転写パターン形成用薄膜を成膜した後に行う洗浄にメガソニック洗浄を行う場合においても、基板の表層に潜傷が発生するという同様の問題が生じる。特に、転写パターン形成用薄膜が形成された側の基板主表面の表層に潜傷が発生した場合には、アルカリ薬液等を接触させて顕在化させることはできないため、基板主表面の表層の潜傷を検出する方法は皆無であり、合格品のマスクブランクとして出荷されてしまうという問題があった。
【0009】
そこで本発明は、このような従来の課題を解決するべくなされたものであり、その目的とするところは、第1に、マスクブランク用基板の洗浄時に、超音波を印加した洗浄水を用いた洗浄方法を適用した場合でも、ガラス基板内部に潜傷が発生することを抑制でき、しかも基板主表面に存在するパーティクルを確実に排除できる洗浄工程を有するマスクブランク用基板の製造方法を提供することである。
また、第2に、マスクブランクの洗浄時に、超音波を印加した洗浄水を用いた洗浄方法を適用した場合でも、ガラス基板内部に潜傷が発生することを抑制でき、しかも転写パターン形成用薄膜の表面に存在するパーティクルを確実に排除できる洗浄工程を有するマスクブランクの製造方法を提供することである。
【0010】
また、第3に、転写用マスクの洗浄時に、超音波を印加した洗浄水を用いた洗浄方法を適用した場合でも、ガラス基板内部に潜傷が発生することを抑制でき、しかもマスク表面に存在するパーティクルを確実に排除できる転写用マスクの洗浄方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、洗浄水に印加する超音波の周波数を最適化することにより、ガラス基板内部に潜傷が発生することを抑制でき、しかも基板主表面やマスクブランクの転写パターン形成用薄膜の表面に存在するパーティクル、特に例えば60nm相当以上の微粒子のパーティクルを確実に排除できることを見い出した。
本発明者は以上の解明事実に基づき、さらに鋭意検討を続けた結果、本発明を完成したものである。
すなわち、上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0012】
(構成1)
ガラス材料からなる基板の表面に向かって、周波数が1.5MHzよりも高い超音波が印加された洗浄水を当てて基板の表面を洗浄する洗浄工程を有することを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法である。
(構成2)
前記洗浄水に印加する超音波の周波数が、5.0MHz以下であることを特徴とする構成1に記載のマスクブランク用基板の製造方法である。
【0013】
(構成3)
洗浄後の前記基板の表面における、粒径60nm相当以上のパーティクルの洗浄前に対する除去率が、95%以上であることを特徴とする構成1又は2に記載のマスクブランク用基板の製造方法である。
(構成4)
前記基板は、バイナリマスクブランク用基板、位相シフトマスクブランク用基板、または多階調マスクブランク用基板であることを特徴とする構成1乃至3のいずれか一項に記載のマスクブランク用基板の製造方法である。
【0014】
(構成5)
構成1乃至4のいずれか一項に記載のマスクブランク用基板の製造方法により得られるマスクブランク用基板の表面に、転写パターンを形成するための薄膜を成膜することを特徴とするマスクブランクの製造方法である。
(構成6)
ガラス材料からなる基板の表面に転写パターンを形成するための薄膜を形成する成膜工程と、前記薄膜の表面に向かって、周波数が1.5MHzよりも高い超音波が印加された洗浄水を当てて薄膜の表面を洗浄する洗浄工程と、を有することを特徴とするマスクブランクの製造方法である。
【0015】
(構成7)
前記洗浄水に印加する超音波の周波数が、5.0MHz以下であることを特徴とする構成6に記載のマスクブランクの製造方法である。
(構成8)
洗浄後の前記薄膜の表面における、粒径60nm相当以上のパーティクルの洗浄前に対する除去率が、95%以上であることを特徴とする構成6又は7に記載のマスクブランクの製造方法である。
【0016】
(構成9)
前記マスクブランクは、バイナリマスクブランク、位相シフトマスクブランク、または多階調マスクブランクであることを特徴とする構成6乃至8のいずれか一項に記載のマスクブランクの製造方法である。
(構成10)
構成5乃至9のいずれか一項に記載のマスクブランクの製造方法により得られるマスクブランクの前記薄膜をパターニングして転写パターンを形成することを特徴とする転写用マスクの製造方法である。
【0017】
(構成11)
転写パターンが形成された転写用マスクの表面に向かって、周波数が1.5MHzよりも高い超音波が印加された洗浄水を当てて転写用マスクの表面を洗浄することを特徴とする転写用マスクの洗浄方法である。
(構成12)
前記洗浄水に印加する超音波の周波数が、5.0MHz以下であることを特徴とする構成11に記載の転写用マスクの洗浄方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のマスクブランク用基板の製造方法によれば、マスクブランク用基板の洗浄時に、超音波を印加した洗浄水を用いた洗浄方法を適用した場合に、周波数が1.5MHzよりも高い超音波が印加された洗浄水を基板の表面に当てて洗浄することにより、ガラス基板内部に潜傷が発生することを抑制でき、しかも基板主表面に存在するパーティクルを確実に排除することができる。また、本発明により得られるマスクブランク用基板を用いてマスクブランクおよび転写用マスクを作製することにより、基板内部の潜傷に起因する凹欠陥が発生することを抑制でき、転写用マスクの透過率異常や位相異常が生じるのを防止できる。
【0019】
また、本発明のマスクブランクの製造方法によれば、マスクブランクの洗浄時に、超音波を印加した洗浄水を用いた洗浄方法を適用した場合でも、周波数が1.5MHzよりも高い超音波が印加された洗浄水をマスクブランクの薄膜の表面に当てて洗浄することにより、マスクブランクの洗浄時においてもガラス基板内部に潜傷が発生することを抑制でき、しかも転写パターン形成用薄膜の表面に存在するパーティクルを確実に排除することができる。本発明により得られるマスクブランクを用いて転写用マスクを作製することにより、潜傷に起因する凹欠陥が発生することを抑制でき、転写用マスクの透過率異常や位相異常が生じるのを防止できる。また、マスクブランクの洗浄時、つまりマスクブランク用基板の主表面に転写パターン形成用薄膜を成膜した後に行う洗浄の段階で、特に転写パターン形成用薄膜が形成された側の基板主表面の表層に潜傷が発生した場合には、アルカリ薬液等を接触させて顕在化させることはできないため、潜傷が発生したマスクブランクを検出する方法は皆無であり、マスクブランクの洗浄時に潜傷を発生させない重要性がより高いので、本発明による効果は非常に大きい。
【0020】
また、本発明の転写用マスクの洗浄方法によれば、転写用マスクの洗浄時に、超音波を印加した洗浄水を用いた洗浄方法を適用した場合でも、周波数が1.5MHzよりも高い超音波が印加された洗浄水を転写用マスクの表面に当てて洗浄することにより、転写パターンの無い透光部に潜傷が発生することを抑制でき、しかもマスク表面に存在するパーティクルを確実に排除できる。ゆえに、転写用マスクの洗浄(特にアルカリ洗浄等)を繰り返し行っても、潜傷に起因する凹欠陥が発生することを抑制でき、転写用マスクの透過率異常や位相異常が生じるのを防止でき、転写用マスクを継続使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明における洗浄工程において使用される洗浄装置の一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を詳述する。
本発明は、上記構成1の発明にあるように、ガラス材料からなる基板の表面に向かって、周波数が1.5MHzよりも高い超音波が印加された洗浄水を当てて基板の表面を洗浄する洗浄工程を有することを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法である。
【0023】
上記ガラス材料からなるマスクブランク用基板としては、使用する露光波長に対して透明性を有するものであれば特に制限されない。本発明では、石英基板、その他各種のガラス基板(例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス等)を用いることができるが、この中でも石英基板は、ArFエキシマレーザー又はそれよりも短波長の領域で透明性が高いので、高精細の転写パターン形成に用いられるバイナリマスクブランク用基板または位相シフトマスクブランク用基板として好適である。
【0024】
マスクブランク用のガラス基板の製造工程においては、研磨工程の後、ガラス基板表面に存在するパーティクル(例えば基板表面に付着している研磨砥粒などの異物等)を排除するための洗浄工程が実施される。
上記研磨工程では、マスクブランク用基板(ガラス基板)の表面に研磨パッドを接触させ、ガラス基板の表面に研磨砥粒を含む研磨液を供給し、ガラス基板と研磨パッドとを相対的に移動させてガラス基板の表面を研磨する。たとえば、研磨パッドを貼着した研磨定盤にガラス基板を押し付け、研磨砥粒を含有した研磨液を供給しながら上記研磨定盤とガラス基板とを相対的に移動(つまり研磨パッドと基板とを相対的に移動)させることにより、ガラス基板の表面を研磨する。研磨砥粒としては、ガラス基板の良好な平滑性、平坦性が得られることから、少なくとも精密研磨工程の仕上げ研磨では、コロイダルシリカが好ましく用いられる。この研磨工程には例えば遊星歯車方式の両面研磨装置などを使用することができる。
【0025】
本発明においては、上記研磨工程の後、ガラス材料からなる基板の表面に向かって、周波数が1.5MHzよりも高い超音波が印加された洗浄水を当てて基板の表面を洗浄する洗浄工程を実施する。
本発明者の検討によれば、前述のとおり、1MHz前後の比較的低い周波数帯、例えば0.8MHz程度の周波数の超音波を印加した洗浄水をガラス基板の表面に直接当てて洗浄を行った場合、基板表面の付着物を剥離する作用が高く、非常に高い洗浄効果が得られるものの、ガラス基板の表層を構成する分子構造に対して与える振動も大きく、内部の結合構造が周りに比べて弱い部分に潜傷が発生する場合があった。しかし、従来の基板の欠陥検査では、この潜傷を発見することは非常に困難であり、後の転写用マスクの作製工程や洗浄工程において、エッチャントやアルカリ洗浄液等が潜傷に作用して凹欠陥として顕在化して初めて検出することができ、バイナリマスク、位相シフトマスク、または多階調マスクにおいてこの凹欠陥が透光部にできてしまうと透過率異常や位相異常が発生する重大な問題となるものである。従って、マスクブランク用基板の研磨後の洗浄工程において、超音波を印加した洗浄水を用いた洗浄方法を適用した場合でも、ガラス基板内部(特に基板主表面の表層)に潜傷が発生するのを抑制する必要がある。
【0026】
本発明者は、このような課題を解決するため鋭意検討した結果、洗浄水に印加する超音波の周波数を最適化することにより、ガラス基板内部に潜傷が発生するのを抑制できることを見い出した。具体的には、研磨後のガラス基板の表面に向かって、周波数が1.5MHzよりも高い超音波が印加された洗浄水を当てて基板の表面を洗浄する洗浄工程を実施することにより、ガラス基板内部(特に基板主表面の表層)に潜傷が発生することを抑制できる。また、2.0MHz以上の超音波が印加された洗浄水を適用するとより確実に潜傷の発生を抑制できるため好ましく、2.5MHz以上の超音波が印加された洗浄水を適用すると最適である。なお、基板内部に潜傷が発生したかどうかは、たとえばアルカリ薬液などで潜傷を顕在化させることによって確認することが可能である。
【0027】
また、超音波が印加された洗浄水を当てて基板の表面を洗浄する洗浄方式を適用していることにより、周波数が1.5MHzよりも高い超音波が印加された洗浄水であっても基板主表面に存在するパーティクルを確実に排除することができる。本発明においては、洗浄水に印加する超音波の周波数の上限は、5.0MHz以下であることが望ましい。洗浄水に印加する超音波の周波数が5.0MHzよりも高いと、洗浄後の基板表面のパーティクル除去率、とりわけ粒径200nm以上の比較的大きなパーティクルの除去率が低下する恐れがある。なお、洗浄水に印加する超音波の周波数の上限を4.0MHz以下とすると比較的大きなパーティクルの除去率をより向上させることができるため好ましく、洗浄水に印加する超音波の周波数の上限を3.5MHz以下とすると最適である。
【0028】
近年における電子デバイスの高密度化、高精度化に伴い、転写用マスクの微細パターン化が進み、マスクブランク用基板の表面平滑性や表面欠陥に対する要求は年々厳しくなる状況にあり、欠陥検査装置の検査精度も向上してきており、従来の検査装置では確認できないようなサイズの小さな表面欠陥(例えば、粒径が60nm相当)も検出されるようになり、このような微小の表面欠陥も許容されなくなってきている。
【0029】
本発明によると、洗浄後の前記基板表面における、粒径60nm相当以上のパーティクルの洗浄前に対する除去率が95%以上という高い除去率が得られる。ここで、上記パーティクルの除去率とは、以下の関係式によって算出される値である。
除去率(%)=[(洗浄前のパーティクル数−洗浄後のパーティクル数)/洗浄前のパーティクル数]×100
【0030】
具体的には、微粒子塗布装置を用いて、基板上に複数の粒径(既知)を含む粒子を塗布する。例えば、60nm以上の複数の粒径を含むポリスチレンラテックス(PSL)粒子(PSL粒子は、その粒子同士が1mm以内で近接し合う確率は1%以下となるような特性を有している。)を基板上に所定の塗布密度で塗布する。そして、洗浄前のパーティクル数を60nm感度等の欠陥検査装置を用いて検出する。なお、ここでいう60nm感度の欠陥検査装置とは、基板上に粒子径60nmのPSL粒子をばらまいた試験体に対する欠陥検査を行っても、そのPSL粒子を検出できる欠陥検査装置のことをいう。基板洗浄後、同様に上記欠陥検査装置を用いてパーティクル数を検出する。それらの結果から、上記関係式によって、洗浄によるパーティクルの除去率が算出される。
【0031】
なお、以上のような複数の粒径を含むパーティクル全体の除去率ではなく、粒径ごとのパーティクルの除去率を求める場合には、粒径微粒子塗布装置を用いて、同一基板上に複数の粒径(既知)の粒子のみを塗布する。例えば、粒径60nm、90nm、120nm、150nm、200nmのPSL粒子を同一基板上にそれぞれの領域を分けて所定の塗布密度で塗布する。そして、洗浄前の各粒径ごとのパーティクル数を60nm感度等の欠陥検査装置を用いて検出する。基板洗浄後、同様に上記欠陥検査装置を用いて各粒径ごとのパーティクル数を検出する。それらの結果から、上記関係式によって、洗浄による各粒径ごとのパーティクルの除去率が算出される。本発明によれば、粒径60nm相当以上のパーティクルにつき、いずれの粒径についてもパーティクル除去率95%以上が得られる。
【0032】
図1は、本発明における洗浄工程において使用される洗浄装置の一例を示す構成図である。
図1に示す洗浄装置10は、枚葉式洗浄装置であり、基板1を保持するスピンチャック11と、アーム15の先端に備えられた超音波洗浄ノズル14とを有して構成されている。スピンチャック11は、電動モータ12により回転可能に設けられている。また、超音波洗浄ノズル14は、洗浄水供給装置16から供給される洗浄水に超音波を印加させ、この超音波を印加された洗浄水を上方から基板1の表面に直接当てて供給する。洗浄時には、基板1を所定の回転数で回転させながら、超音波洗浄ノズル14は、アーム15により基板1の中央から端面までの間で移動(スイング)するように構成されている。また、スピンチャック11の周囲は洗浄カップ13にて覆われており、洗浄水の飛散を防止している。
【0033】
この場合の洗浄水としては、純水を用いるのが好適である。従来の硫酸過水やアンモニア過水などの酸やアルカリ性の洗浄液を用いると、研磨によって得られたガラス基板表面の平滑性や平坦度を劣化させることがある。なお、洗浄水には、水素ガス溶解水、Oガス溶解水、Oガス溶解水、希ガス溶解水、Nガス溶解水等を適用してもよい。
【0034】
上記洗浄装置を用いる場合、洗浄時の基板の回転数や超音波洗浄ノズルの移動速度については、基板全体が均一に洗浄されるように、適宜設定されることが望ましい。また、基板表面に当てる洗浄水の流量は、洗浄時の基板の回転数や超音波洗浄ノズルの移動速度によっても多少異なるが、概ね1.0〜5.0リットル/分程度が好ましく、特に1.0〜3.0リットル/分程度とするのが好適である。
また、上記洗浄装置における超音波洗浄ノズル14の先端部の形状に関しては、例えば円形状のものでも、矩形状(スリット状など)のものでも任意に用いることができる。
【0035】
以上のように、本発明のマスクブランク用基板の製造方法によれば、マスクブランク用基板の洗浄時に、超音波を印加した洗浄水を用いた洗浄方法を適用した場合でも、周波数が1.5MHzよりも高い超音波が印加された洗浄水を基板の表面に当てて洗浄することにより、ガラス基板内部に潜傷が発生する恐れがなく、しかも基板主表面に存在するパーティクルを確実に排除することができる。
また、本発明により得られるマスクブランク用基板を用いてマスクブランクおよび転写用マスクを作製することにより、マスク作製段階やマスク洗浄段階で基板内部の潜傷に起因する凹欠陥が発生する恐れがなく、転写用マスクの透過率異常や位相異常が生じるのを防止することができる。
【0036】
以上は、本発明のマスクブランク用基板の製造方法について説明したが、マスクブランクの製造段階で行う洗浄に関しても、超音波を印加した洗浄水を用いた洗浄方法を適用する場合、超音波が薄膜表面から基板内部に伝わることで潜傷が発生することが判明しており、これを抑制する必要がある。マスクブランクの製造時の洗浄工程において基板内部に潜傷が発生すると、このマスクブランクを用いて転写用マスクを作製する際、基板内部の潜傷に起因する凹欠陥が発生する恐れがある。
【0037】
本発明は、マスクブランクの製造方法についても提供するものであり、マスクブランクの製造時の洗浄工程において基板内部に潜傷が発生するのを抑制する。すなわち、本発明は、上記構成6の発明にあるように、ガラス材料からなる基板の表面に転写パターンを形成するための薄膜を形成する成膜工程と、前記薄膜の表面に向かって、周波数が1.5MHzよりも高い超音波が印加された洗浄水を当てて薄膜の表面を洗浄する洗浄工程と、を有することを特徴とするマスクブランクの製造方法を提供する。
【0038】
上記成膜工程では、上記マスクブランク用ガラス基板の表面に転写パターンを形成するための薄膜が形成される。本発明が好適に適用されるマスクブランクは、透光性基板(ガラス基板)上に転写パターンが形成された転写用マスクを作製するためのバイナリマスクブランクまたは位相シフトマスクブランクである。よって、転写パターンを形成するための薄膜は、遷移金属などの金属を含む材料からなる薄膜であり、単一層の場合も積層の場合も含まれる。詳しくは後述するが、例えばクロム、タンタル、タングステンなどの遷移金属単体又はその化合物を含む材料からなる遮光膜や、遮光膜等の上に設けられるエッチングマスク膜などが挙げられる。また、遷移金属シリサイド(特にモリブデンシリサイド)の化合物を含む材料からなる光半透過膜や遮光膜なども挙げられる。
【0039】
ガラス基板上に上記薄膜を成膜する方法としては、例えばスパッタ成膜法が好ましく挙げられるが、本発明はスパッタ成膜法に限定する必要はない。
【0040】
本発明においては、上記成膜工程の後、前記薄膜の表面に向かって、周波数が1.5MHzよりも高い超音波が印加された洗浄水を当てて薄膜の表面を洗浄する洗浄工程を実施する。
【0041】
マスクブランクの洗浄時に、超音波を印加した洗浄水を用いた洗浄方法を適用した場合でも、周波数が1.5MHzよりも高い超音波が印加された洗浄水をマスクブランク表面、つまり転写パターン形成用薄膜の表面に当てて洗浄することにより、マスクブランクの洗浄時においてもガラス基板内部に潜傷が発生することを抑制でき、しかも転写パターン形成用薄膜の表面に存在するパーティクルを確実に排除することができる。従って、本発明により得られるマスクブランクを用いて転写用マスクを作製することにより、潜傷に起因する凹欠陥が発生することを抑制でき、転写用マスクの透過率異常や位相異常が生じるのを防止できる。たとえば、前述のマスクブランク用基板の洗浄工程において潜傷が発生した場合、アルカリ薬液等で潜傷を顕在化させることにより確認することができるため、このような潜傷が発生した基板を予め排除することは可能であるが、マスクブランクの洗浄時、つまりマスクブランク用基板の主表面に転写パターン形成用薄膜を成膜した後に行う洗浄の段階で、特に転写パターン形成用薄膜が形成された側の基板主表面の表層に潜傷が発生した場合には、アルカリ薬液等を接触させて顕在化させることはできないため、潜傷が発生したマスクブランクを検出する方法は皆無であり、マスクブランクの洗浄時に潜傷を発生させない重要性がより高く、本発明のマスクブランクの製造方法による効果は非常に大きい。なお、洗浄水に印加する超音波の周波数を2.0MHz以上とすると確実に潜傷の発生を抑制できるため好ましく、洗浄水に印加する超音波の周波数を2.5MHz以上とすると最適である。
【0042】
また、このようなマスクブランクの洗浄時に、超音波が印加された洗浄水を薄膜の表面に直接当てて洗浄する洗浄方式を適用することにより、高い洗浄効果が得られ、薄膜の表面に存在するパーティクル、特に60nm相当以上の微粒子のパーティクルを確実に排除するのに効果的である。本発明においては、洗浄水に印加する超音波の周波数の上限は、5.0MHz以下であることが望ましい。洗浄水に印加する超音波の周波数が5.0MHzよりも高いと、洗浄後の薄膜の表面のパーティクル除去率、とりわけ粒径200nm以上の比較的大きなパーティクルの除去率が低下する恐れがある。なお、洗浄水に印加する超音波の周波数の上限を4.0MHz以下とすると比較的大きなパーティクルの除去率をより向上させることができるため好ましく、洗浄水に印加する超音波の周波数の上限を3.5MHz以下とすると最適である。
【0043】
本発明によると、洗浄後の前記薄膜の表面における、粒径60nm相当以上のパーティクルの洗浄前に対する除去率が95%以上が得られる。なお、ここでのパーティクルの除去率とは、前述のマスクブランク用基板の洗浄後のパーティクルの除去率と同義である。
【0044】
また、マスクブランクの洗浄工程においても、前述の図1に示すような洗浄装置を好適に用いることができる。洗浄水としては、純水を用いるのが好適である。そのほか、洗浄水に、水素ガス溶解水、Oガス溶解水、Oガス溶解水、希ガス溶解水、Nガス溶解水等を適用してもよい。
マスクブランクの洗浄工程において上記洗浄装置を用いる場合、洗浄時のマスクブランクの回転数や超音波洗浄ノズルの移動速度については、マスクブランク全体が均一に洗浄されるように、適宜設定されることが望ましい。また、マスクブランク表面に当てる洗浄水の流量は、洗浄時のマスクブランクの回転数や超音波洗浄ノズルの移動速度によっても多少異なるが、概ね1.0〜5.0リットル/分程度が好ましく、特に1.0〜3.0リットル/分程度とするのが好適である。
【0045】
以上説明した本発明のマスクブランク用基板の製造方法および本発明のマスクブランクの製造方法は、とくに微細転写パターンが要求される波長200nm以下の短波長の露光光(ArFエキシマレーザーなど)を露光光源とする露光装置に用いられる転写用マスクの作製に用いるマスクブランク用基板およびマスクブランクの製造に好適である。パターンの微細化の要求は益々高まる一方であり、マスクブランク用基板やマスクブランクにおいても、その表面欠陥に対する要求は極めて厳しくなってきている。たとえば、ガラス基板表面に前述の潜傷が発生し、あるいは異物付着等による凸欠陥が存在するマスクブランクを使用して例えば位相シフトマスクを作製した場合、マスク面のパターン近傍に前述の潜傷が顕在化することに起因した凹欠陥あるいは上記の異物付着に起因する凸欠陥が存在すると、露光光の透過光にはその凹欠陥や凸欠陥に起因する位相角の変化や透過率の低下が起こる。この位相角の変化や透過率の低下は転写されるパターンの位置精度やコントラストを悪化させる原因となる。特にArFエキシマレーザー光(波長193nm)のような短波長の光を露光光として用いる場合、マスク面上の微細な凹欠陥に対して位相角の変化が非常に敏感となるため、転写像への影響が大きくなり、微細な凹欠陥に由来する位相角や透過率の変化は決して無視できない重要な問題である。
【0046】
また、バイナリマスクにおいても、ArFエキシマレーザー光(波長193nm)のような短波長の光を露光光として用いる場合、たとえ微細な表面欠陥が存在しても透過率への影響が大きくなるため重要な問題となる。本発明によれば、潜傷が顕在化することに起因した凹欠陥あるいは異物付着による凸欠陥などの微細な表面欠陥の発生を抑制することができるため、微細転写パターンが要求される波長200nm以下の短波長の露光光を露光光源とする露光装置に用いられる転写用マスクの作製に好適である。
【0047】
FPD(FlatPanel Display)等の製造に用いられる多階調マスクは、ガラス基板上に、露光光を遮光する遮光部、露光光を所定の透過率で透過させる半透光部、露光光を高い透過率で透過する透光部の少なくとも3つの透過率の異なる領域が混在した構成となっている。近年では、透過率の異なる2種類以上の半透光部を備えた多階調マスクも使用されてきている。このため、露光光の透過率制御は非常に重要であり、ガラス基板表面に前述の潜傷が存在し、それに起因して凹欠陥が発生することや、異物付着に起因する凸欠陥が存在することは避けるべき問題である。本発明によれば、潜傷が顕在化することに起因した凹欠陥あるいは異物付着による凸欠陥などの微細な表面欠陥の発生を抑制することができるため、多階調マスクの作製に好適である。
【0048】
例えば、以下のようなマスクブランクおよびその製造に用いるマスクブランク用基板に好適である。
(1)前記薄膜が遷移金属を含む材料からなる遮光膜であるバイナリマスクブランク
かかるバイナリマスクブランクは、透光性基板上に遮光膜を有する形態のものであり、この遮光膜は、クロム、タンタル、ルテニウム、タングステン、チタン、ハフニウム、モリブデン、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、パラジウム、ロジウム等の遷移金属単体あるいはその化合物を含む材料からなる。例えば、クロムや、クロムに酸素、窒素、炭素などの元素から選ばれる1種以上の元素を添加したクロム化合物で構成した遮光膜が挙げられる。また、例えば、タンタルに、酸素、窒素、ホウ素などの元素から選ばれる1種以上の元素を添加したタンタル化合物で構成した遮光膜が挙げられる。
かかるバイナリマスクブランクは、遮光膜を、遮光層と表面反射防止層の2層構造や、さらに遮光層と基板との間に裏面反射防止層を加えた3層構造としたものなどがある。
また、遮光膜の膜厚方向における組成が連続的又は段階的に異なる組成傾斜膜としてもよい。
【0049】
(2)前記薄膜が、前記の遷移金属及びケイ素(遷移金属シリサイド、特にモリブデンシリサイドを含む)の化合物を含む材料からなる光半透過膜である位相シフトマスクブランク
かかる位相シフトマスクブランクとしては、透光性基板(ガラス基板)上に光半透過膜を有する形態のものであって、該光半透過膜をパターニングしてシフタ部を設けるタイプであるハーフトーン型位相シフトマスクが作製される。かかる位相シフトマスクにおいては、光半透過膜を透過した光に基づき転写領域に形成される光半透過膜パターンによる被転写基板のパターン不良を防止するために、透光性基板上に光半透過膜とその上の遮光膜(遮光帯)とを有する形態とするものが挙げられる。また、ハーフトーン型位相シフトマスクブランクのほかに、透光性基板をエッチング等により掘り込んでシフタ部を設ける基板掘り込みタイプであるレベンソン型位相シフトマスク用やエンハンサー型位相シフトマスク用のマスクブランクが挙げられる。
【0050】
前記ハーフトーン型位相シフトマスクブランクの光半透過膜は、実質的に露光に寄与しない強度の光(例えば、露光波長に対して1%〜30%)を透過させるものであって、所定の位相差(例えば180度)を有するものであり、この光半透過膜をパターニングした光半透過部と、光半透過膜が形成されていない実質的に露光に寄与する強度の光を透過させる光透過部とによって、光半透過部を透過して光の位相が光透過部を透過した光の位相に対して実質的に反転した関係になるようにすることによって、光半透過部と光透過部との境界部近傍を通過し回折現象によって互いに相手の領域に回り込んだ光が互いに打ち消しあうようにし、境界部における光強度をほぼゼロとし境界部のコントラスト即ち解像度を向上させるものである。
【0051】
この光半透過膜は、例えば遷移金属及びケイ素(遷移金属シリサイドを含む)の化合物を含む材料からなり、これらの遷移金属及びケイ素と、酸素及び/又は窒素を主たる構成要素とする材料が挙げられる。遷移金属には、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、ハフニウム、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、クロム等が適用可能である。
また、光半透過膜上に遮光膜を有する形態の場合、上記光半透過膜の材料が遷移金属及びケイ素を含むので、遮光膜の材料としては、光半透過膜に対してエッチング選択性を有する(エッチング耐性を有する)特にクロムや、クロムに酸素、窒素、炭素などの元素を添加したクロム化合物で構成することが好ましい。
【0052】
レベンソン型位相シフトマスクは、バイナリマスクブランクと同様の構成のマスクブランクから作製されるため、パターン形成用薄膜の構成については、バイナリマスクブランクの遮光膜と同様である。エンハンサー型位相シフトマスク用のマスクブランクの光半透過膜は、実質的に露光に寄与しない強度の光(例えば、露光波長に対して1%〜30%)を透過させるものではあるが、透過する露光光に生じさせる位相差が小さい膜(例えば、位相差が30度以下。好ましくは0度。)であり、この点が、ハーフトーン型位相シフトマスクブランクの光半透過膜とは異なる。この光半透過膜の材料は、ハーフトーン型位相シフトマスクブランクの光半透過膜と同様の元素を含むが、各元素の組成比や膜厚は、露光光に対して所定の透過率と所定の小さな位相差となるように調整される。
【0053】
(3)前記薄膜が、遷移金属、遷移金属及びケイ素(遷移金属シリサイド、特にモリブデンシリサイドを含む)の化合物を含む材料からなる遮光膜であるバイナリマスクブランク
この遮光膜は、遷移金属及びケイ素の化合物を含む材料からなり、これらの遷移金属及びケイ素と、酸素及び/又は窒素を主たる構成要素とする材料が挙げられる。また、遮光膜は、遷移金属と、酸素、窒素及び/又はホウ素を主たる構成要素とする材料が挙げられる。遷移金属には、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、ハフニウム、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、クロム等が適用可能である。
特に、遮光膜をモリブデンシリサイドの化合物で形成する場合であって、遮光層(MoSi等)と表面反射防止層(MoSiON等)の2層構造や、さらに遮光層と基板との間に裏面反射防止層(MoSiON等)を加えた3層構造がある。
また、遮光膜の膜厚方向における組成が連続的又は段階的に異なる組成傾斜膜としてもよい。
【0054】
また、レジスト膜の膜厚を薄膜化して微細パターンを形成するために、遮光膜上にエッチングマスク膜を有する構成としてもよい。このエッチングマスク膜は、遷移金属シリサイドを含む遮光膜のエッチングに対してエッチング選択性を有する(エッチング耐性を有する)特にクロムや、クロムに酸素、窒素、炭素などの元素を添加したクロム化合物からなる材料で構成することが好ましい。このとき、エッチングマスク膜に反射防止機能を持たせることにより、遮光膜上にエッチングマスク膜を残した状態で転写用マスクを作製してもよい。
【0055】
(4)前記薄膜が、1以上の半透過膜と遮光膜との積層構造である多階調マスクブランク。
半透過膜の材料については、前記のハーフトーン型位相シフトマスクブランクの光半透過膜と同様の元素のほか、クロム、タンタル、チタン、アルミニウムなどの金属単体や合金あるいはそれらの化合物を含む材料も含まれる。各元素の組成比や膜厚は、露光光に対して所定の透過率となるように調整される。遮光膜の材料についても、前記のバイナリマスクブランクの遮光膜が適用可能であるが、半透過膜との積層構造で、所定の遮光性能(光学濃度)となるように、遮光膜材料の組成や膜厚は調整される。
【0056】
また、上記(1)〜(4)において、透光性基板と遮光膜との間、又は光半透過膜と遮光膜との間に、遮光膜や光半透過膜に対してエッチング耐性を有するエッチングストッパー膜を設けてもよい。エッチングストッパー膜は、エッチングストッパー膜をエッチングするときにエッチングマスク膜を同時に剥離することができる材料としてもよい。
【0057】
また、本発明は、転写用マスクの洗浄方法についても提供する。
すなわち、本発明は、上記構成11の発明にあるように、転写パターンが形成された転写用マスクの表面に向かって、周波数が1.5MHzよりも高い超音波が印加された洗浄水を当てて転写用マスク表面を洗浄することを特徴とする転写用マスクの洗浄方法を提供する。
上記転写用マスクは、マスクブランク用基板の表面に転写パターン形成用薄膜を形成したマスクブランクを用いて、フォトリソグラフィー法により、上記薄膜をパターニングして所定の転写パターンを形成することによって作製される。
【0058】
本発明の転写用マスクの洗浄方法によれば、転写用マスクの作製時の洗浄工程等において、超音波を印加した洗浄水を用いた洗浄方法を適用した場合でも、周波数が1.5MHzよりも高い超音波が印加された洗浄水を転写用マスクの表面に当てて洗浄することにより、転写パターンの無い透光部や、転写パターンを含む近傍の基板表面に潜傷が発生するのを抑制でき、しかもマスク表面に存在するパーティクルを確実に排除できる。ゆえに、転写用マスクを継続使用するための定期的に行われる洗浄(特にアルカリ洗浄等)を繰り返し行っても、潜傷に起因する凹欠陥が発生する恐れがなく、転写用マスクの透過率異常や位相異常が生じるのを防止でき、また凹欠陥に起因する転写パターンの膜剥がれ(脱落)も防止でき、転写用マスクを安全に継続使用することができる。なお、洗浄水に印加する超音波の周波数を2.0MHz以上とすると確実に潜傷の発生を抑制できるため好ましく、洗浄水に印加する超音波の周波数を2.5MHz以上とすると最適である。
【0059】
また、本発明の転写マスクの洗浄方法においても、洗浄水に印加する超音波の周波数の上限は、5.0MHz以下であることが望ましい。洗浄水に印加する超音波の周波数が5.0MHzよりも高いと、洗浄後のマスク表面のパーティクル除去率が低下する場合がある。なお、洗浄水に印加する超音波の周波数の上限を4.0MHz以下とすると比較的大きなパーティクルの除去率をより向上させることができるため好ましく、洗浄水に印加する超音波の周波数の上限を3.5MHz以下とすると最適である。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。
(実施例1−1)
使用する基板は、合成石英ガラス基板(大きさ152.4mm×152.4mm、厚さ6.35mm)である。この合成石英ガラス基板の端面を面取加工、及び研削加工し、更に酸化セリウム砥粒を含む研磨液で粗研磨処理および精密研磨を終えたガラス基板を両面研磨装置のキャリアにセットし、以下の条件で研磨加工(超精密研磨)を行った。
研磨パッド:軟質ポリシャ(スウェードタイプ)
研磨液:コロイダルシリカ砥粒(平均粒径100nm)+水
加工圧力:50〜100g/cm
加工時間:60分
【0061】
超精密研磨終了後、ガラス基板をフッ酸中に浸漬させてコロイダルシリカ砥粒を除去する洗浄を行った。次に、ガラス基板の主表面および端面に対してスクラブ洗浄を、純水によるスピン洗浄、およびスピン乾燥を行った。スピン乾燥後、ガラス基板の主表面をレーザー干渉コンフォーカル光学系による60nm感度の欠陥検査装置(レーザーテック社製 M6640)を用いて、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥および凹状欠陥について欠陥検査を行った。次に、欠陥検査を行ったガラス基板の中から、凹状欠陥が検出されず、かつ60nm相当の凸状欠陥の検出数が一桁レベルのものを10枚選定した。以下、この選定したガラス基板を用いて、各実施例の洗浄条件に対する洗浄能力の評価を行った。
【0062】
前記の選定したガラス基板の主表面に対して、疑似異物として粒径60nmのPSL粒子を散布した。次に、60nm感度の欠陥検査装置(レーザーテック社製 M6640)で60nm相当以上の大きさの凸状欠陥および凹状欠陥について欠陥検査を行った。その結果、凹状欠陥は検出されなかったが、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥は、3430個検出された。
【0063】
続いて、図1に示す洗浄装置を用いて超音波洗浄を行った。洗浄水として純水を使用し、周波数が1.6MHzの超音波を印加した。また、超音波洗浄ノズルから基板の表面(主表面)に向かって流下する超音波が印加された洗浄水の流量は1.5リットル/分に調節した。なお、洗浄中の基板回転数、および洗浄ノズルの移動速度は適宜設定した。
【0064】
以上の条件で5分間の基板洗浄を行った。洗浄後のガラス基板の主表面を上記60nm感度の欠陥検査装置(レーザーテック社製 M6640)を用いて、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥および凹状欠陥について欠陥検査を行った。その結果、凹状欠陥は検出されなかったが、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥は、69個検出された。
同様にして、全部で10枚のガラス基板に対して、疑似異物の散布、洗浄および欠陥検査を行った。
【0065】
以上の洗浄を終えた10枚のガラス基板について、前述の関係式に基づき、洗浄後の基板表面における粒径60nm相当以上のパーティクルの除去率を算出した結果、10枚のガラス基板の平均で98.0%と高いパーティクル除去率であり、高い洗浄効果が得られることが分かった。
また、上記の洗浄を終えた10枚のガラス基板をアルカリ薬液中に20分間浸漬、洗浄した後、再度、ガラス基板の主表面を上記60nm感度の欠陥検査装置(レーザーテック社製 M6640)を用いて、欠陥検査を行った結果、10枚のいずれの基板についても凹状欠陥は検出されなかった。従って、上記の本発明による超音波洗浄を行っても、ガラス基板内部に潜傷が発生していないことが確認できた。
【0066】
(実施例1−2〜1−7、参考例1)
超音波洗浄において、洗浄水に印加する超音波の周波数を、2.0MHzに変更したこと以外は実施例1−1と同様にして、洗浄能力の評価を行った(実施例1−2)。
超音波洗浄において、洗浄水に印加する超音波の周波数を、2.5MHzに変更したこと以外は実施例1−1と同様にして、洗浄能力の評価を行った(実施例1−3)。
超音波洗浄において、洗浄水に印加する超音波の周波数を、3.0MHzに変更したこと以外は実施例1−1と同様にして、洗浄能力の評価を行った(実施例1−4)。
超音波洗浄において、洗浄水に印加する超音波の周波数を、3.5MHzに変更したこと以外は実施例1−1と同様にして、洗浄能力の評価を行った(実施例1−5)。
【0067】
超音波洗浄において、洗浄水に印加する超音波の周波数を、4.0MHzに変更したこと以外は実施例1−1と同様にして、洗浄能力の評価を行った(実施例1−6)。
超音波洗浄において、洗浄水に印加する超音波の周波数を、5.0MHzに変更したこと以外は実施例1−1と同様にして、洗浄能力の評価を行った(実施例1−7)。
超音波洗浄において、洗浄水に印加する超音波の周波数を、6.0MHzに変更したこと以外は実施例1−1と同様にして、洗浄能力の評価を行った(参考例1)。
【0068】
実施例1−1と同様に、洗浄前および洗浄後の基板主表面の欠陥検査を行い、洗浄後の基板表面における粒径60nm相当以上のパーティクルの除去率を算出した。その結果、実施例1−2の場合、洗浄前の基板主表面の欠陥検査では、凹状欠陥は検出されず、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥は、4080個検出された。一方、洗浄後の基板主表面の欠陥検査では、凹状欠陥は検出されず、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥は、90個検出された。さらに、洗浄後の基板表面における粒径60nm相当以上のパーティクルの除去率を算出したところ、10枚のガラス基板の平均で97.8%と高いパーティクル除去率であり、実施例1−2の場合でも高い洗浄効果が得られることが分かった。
【0069】
実施例1−3の場合、洗浄前の基板主表面の欠陥検査では、凹状欠陥は検出されず、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥は、2840個検出された。一方、洗浄後の基板主表面の欠陥検査では、凹状欠陥は検出されず、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥は、71個検出された。さらに、洗浄後の基板表面における粒径60nm相当以上のパーティクルの除去率を算出したところ、10枚のガラス基板の平均で97.5%と高いパーティクル除去率であり、実施例1−3の場合でも高い洗浄効果が得られることが分かった。
【0070】
実施例1−4の場合、洗浄前の基板主表面の欠陥検査では、凹状欠陥は検出されず、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥は、2545個検出された。一方、洗浄後の基板主表面の欠陥検査では、凹状欠陥は検出されず、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥は、76個検出された。さらに、洗浄後の基板表面における粒径60nm相当以上のパーティクルの除去率を算出したところ、10枚のガラス基板の平均で97.0%と高いパーティクル除去率であり、実施例1−4の場合でも高い洗浄効果が得られることが分かった。
【0071】
実施例1−5の場合、洗浄前の基板主表面の欠陥検査では、凹状欠陥は検出されず、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥は、2911個検出された。一方、洗浄後の基板主表面の欠陥検査では、凹状欠陥は検出されず、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥は、99個検出された。さらに、洗浄後の基板表面における粒径60nm相当以上のパーティクルの除去率を算出したところ、10枚のガラス基板の平均で96.6%と高いパーティクル除去率であり、実施例1−5の場合でも高い洗浄効果が得られることが分かった。
【0072】
実施例1−6の場合、洗浄前の基板主表面の欠陥検査では、凹状欠陥は検出されず、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥は、5133個検出された。一方、洗浄後の基板主表面の欠陥検査では、凹状欠陥は検出されず、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥は、185個検出された。さらに、洗浄後の基板表面における粒径60nm相当以上のパーティクルの除去率を算出したところ、10枚のガラス基板の平均で96.4%と高いパーティクル除去率であり、実施例1−6の場合でも高い洗浄効果が得られることが分かった。
実施例1−7の場合、洗浄前の基板主表面の欠陥検査では、凹状欠陥は検出されず、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥は、3256個検出された。一方、洗浄後の基板主表面の欠陥検査では、凹状欠陥は検出されず、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥は、163個検出された。さらに、洗浄後の基板表面における粒径60nm相当以上のパーティクルの除去率を算出したところ、10枚のガラス基板の平均で95.0%と高いパーティクル除去率であり、実施例1−7の場合でも高い洗浄効果が得られることが分かった。
【0073】
一方、参考例1の場合、洗浄前の基板主表面の欠陥検査では、凹状欠陥は検出されず、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥は、4874個検出された。一方、洗浄後の基板主表面の欠陥検査では、凹状欠陥は検出されず、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥は、370個検出された。さらに、洗浄後の基板表面における粒径60nm相当以上のパーティクルの除去率を算出したところ、10枚のガラス基板の平均で92.4%と、他の実施例に比べて洗浄効果は若干低下することが分かった。なお、参考例1については、洗浄条件で、粒径200nmのPSL粒子を用いた洗浄性能評価も行ったが、粒径60nmのPSL粒子で行った洗浄性能評価よりも欠陥の検出率が明らかに上昇するという結果が得られた。
【0074】
また、実施例1−1と同様に、洗浄を終えたガラス基板をアルカリ薬液中に20分間浸漬、洗浄した後、再度、ガラス基板の主表面の欠陥検査を行った結果、実施例1−1〜1−7、参考例1のいずれの基板についても凹状欠陥は検出されなかった。従って、上記の本発明による超音波洗浄を行った場合に、ガラス基板内部に潜傷が発生していないことが確認できた。
【0075】
(実施例2)
実施例1−1と同様に、スピン乾燥後のガラス基板の主表面を60nm感度の欠陥検査装置(レーザーテック社製 M6640)を用いて検査し、凹状欠陥が検出されず、かつ60nm相当の凸状欠陥の検出数が一桁レベルのものを選定した。選定したガラス基板を用いて、以下のように位相シフトマスクブランクを作製した。
上記ガラス基板上に、まず窒化されたモリブデン及びシリコンからなる光半透過膜を成膜した。
具体的には、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=10mol%:90mol%)を用い、アルゴン(Ar)と窒素(N)とヘリウム(He)との混合ガス雰囲気(ガス流量比 Ar:N:He=5:49:46)で、ガス圧0.3Pa、DC電源の電力を3.0kWとして、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、モリブデン、シリコン及び窒素からなるMoSiN膜を69nmの膜厚で形成した。次いで、上記MoSiN膜が形成された基板に対して、加熱炉を用いて、大気中で加熱温度を450℃、加熱時間を1時間として、加熱処理を行った。なお、このMoSiN膜は、ArFエキシマレーザーにおいて、透過率は6.16%、位相差が184.4度となっていた。
【0076】
次に、上記光半透過膜の上に、以下の遮光膜を成膜した。
具体的には、スパッタターゲットにクロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)と二酸化炭素(CO)と窒素(N)とヘリウム(He)との混合ガス雰囲気(ガス圧0.2Pa,ガス流量比 Ar:CO:N:He=20:35:10:30)とし、DC電源の電力を1.7kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚30nmのCrOCN層を成膜した。続いて、アルゴン(Ar)と窒素(N)との混合ガス雰囲気(ガス圧0.1Pa,ガス流量比 Ar:N=25:5)とし、DC電源の電力を1.7kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚4nmのCrN層を成膜した。最後に、アルゴン(Ar)と二酸化炭素(CO)と窒素(N)とヘリウム(He)との混合ガス雰囲気(ガス圧0.2Pa,ガス流量比 Ar:CO:N:He=20:35:5:30)とし、DC電源の電力を1.7kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚14nmのCrOCN層を成膜し、合計膜厚48nmの3層積層構造のクロム系遮光膜を形成した。
【0077】
この遮光膜は、上記光半透過膜との積層構造で光学濃度(OD)がArFエキシマレーザー露光光の波長193nmにおいて3.0となるように調整されている。また、前記露光光の波長に対する遮光膜の表面反射率は20%であった。
【0078】
以上のようにして、ガラス基板上に光半透過膜と遮光膜を積層したマスクブランクに対し、マスクブランクの主表面を60nm感度の欠陥検査装置(レーザーテック社製 M6640)を用いて、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥および凹状欠陥について欠陥検査を行った。次に、欠陥検査を行ったガラス基板の中から、凹状欠陥が検出されず、かつ60nm相当の凸状欠陥の検出数が一桁レベルのものを10枚選定した。選定したマスクブランクの主表面に対して、疑似異物として粒径60nmのPSL粒子を散布した。次に、60nm感度の欠陥検査装置(レーザーテック社製 M6640)で60nm相当以上の大きさの凸状欠陥および凹状欠陥について欠陥検査を行った。その結果、凹状欠陥は検出されなかったが、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥は、3377個検出された。
【0079】
続いて、図1に示す洗浄装置を用いて超音波洗浄を行った。洗浄水として純水を使用し、周波数が1.6MHzの超音波を印加した。また、超音波洗浄ノズルからマスクブランクの薄膜表面に向かって流下する超音波が印加された洗浄水の流量は1.5リットル/分に調節した。なお、洗浄中のマスクブランク回転数、および洗浄ノズルの移動速度は適宜設定した。
【0080】
以上の条件で5分間の超音波洗浄を行った。洗浄後のマスクブランクの主表面を上記60nm感度の欠陥検査装置(レーザーテック社製 M6640)を用いて、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥および凹状欠陥について欠陥検査を行った。その結果、凹状欠陥は検出されなかったが、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥は、74個検出された。
同様にして、全部で10枚のマスクブランクに対して、疑似異物の散布、洗浄および欠陥検査を行った。
【0081】
実施例1−1と同様に、洗浄を終えた10枚のマスクブランクについて、前述の関係式に基づき、洗浄後のマスクブランク主表面における粒径60nm相当以上のパーティクルの除去率を算出した結果、97.8%と高いパーティクル除去率が得られ、高い洗浄効果が得られることが分かった。
以上のようにして、ガラス基板上に光半透過膜と遮光膜の積層構造のパターン形成用薄膜を有する位相シフトマスクブランクを作製した。
【0082】
次に、上記の位相シフトマスクブランクを用いて、ハーフトーン型位相シフトマスクを作製した。
まず、上記マスクブランク上に、レジスト膜として、電子線描画用化学増幅型ポジレジスト膜(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製 PRL009)を形成した。レジスト膜の形成は、スピンナー(回転塗布装置)を用いて、回転塗布した。上記レジスト膜を塗布後、所定の加熱乾燥処理を行った。レジスト膜の膜厚は150nmとした。
【0083】
次に上記マスクブランク上に形成されたレジスト膜に対し、電子線描画装置を用いて所望のパターン描画を行った後、所定の現像液で現像してレジストパターンを形成した。
次に、上記レジストパターンをマスクとして、遮光膜のエッチングを行った。ドライエッチングガスとして、ClとOの混合ガスを用いた。続いて、光半透過膜(MoSiN膜)のエッチングを行って光半透過膜パターンを形成した。ドライエッチングガスとして、SFとHeの混合ガスを用いた。
【0084】
次に、残存するレジストパターンを剥離して、再び全面に上記と同じレジスト膜を形成し、マスクの外周部に遮光帯を形成するための描画を行い、描画後、レジスト膜を現像してレジストパターンを形成した。このレジストパターンをマスクとして、遮光帯領域以外の遮光膜をエッチングにより除去した。
残存するレジストパターンを剥離して、位相シフトマスクを得た。
こうして得られた位相シフトマスクは、45nmハーフピッチの微細パターンが良好なパターン精度で形成されていた。
【0085】
また、得られた位相シフトマスクをアルカリ薬液中に20分間浸漬、洗浄した後、再度、マスク欠陥検査装置を用いて、位相シフトマスクの欠陥検査を行った結果、マスクパターンのない透光部に凹状欠陥は検出されなかった。また、パターンの脱落も検出されなかった。従って、上記のガラス基板上に光半透過膜と遮光膜を積層したマスクブランクに対し、本発明による超音波洗浄を行っても、ガラス基板内部に潜傷が発生していないことが確認できた。
【0086】
(実施例3)
実施例1−1と同様に、スピン乾燥後のガラス基板の主表面を60nm感度の欠陥検査装置(レーザーテック社製 M6640)を用いて検査し、凹状欠陥が検出されず、かつ60nm相当の凸状欠陥の検出数が一桁レベルのものを選定した。選定したガラス基板を用いて、以下のようにバイナリマスクブランクを作製した。
上記ガラス基板上に、遮光膜として、MoSiN膜(遮光層)、MoSiN膜(表面反射防止層)をそれぞれ形成した。
具体的には、MoとSiとの混合ターゲット(Mo:Si=13at%:87at%)を用い、ArとNとの混合ガス雰囲気で、モリブデン、シリコン、窒素からなるMoSiN膜(膜組成比 Mo:9.9at%,Si:66.1at%,N:24.0at%)を47nmの膜厚で形成した。
【0087】
次いで、Mo:Si=13at%:87at%のターゲットを用い、ArとNとの混合ガス雰囲気で、モリブデン、シリコン、窒素からなるMoSiN膜を13nmの膜厚で形成した。遮光膜の合計膜厚は60nmとした。
遮光膜の光学濃度(OD)はArFエキシマレーザー露光光の波長193nmにおいて3.0であった。
【0088】
次に、上記MoSi系遮光膜の上に、以下のCr系エッチングマスク膜を成膜した。
具体的には、スパッタターゲットにクロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)と窒素(N)との混合ガス雰囲気で、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚5nmのCrN膜(膜組成比 Cr:75.3at%,N:24.7at%)を成膜した。なお、遮光膜の各層とCr系エッチングマスク膜の元素分析は、ラザフォード後方散乱分析法を用いた。
【0089】
以上のようにして、ガラス基板上にMoSi系遮光膜とCr系エッチングマスク膜を積層したマスクブランクに対し、マスクブランクの主表面を60nm感度の欠陥検査装置(レーザーテック社製 M6640)を用いて、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥および凹状欠陥について欠陥検査を行った。次に、欠陥検査を行ったガラス基板の中から、凹状欠陥が検出されず、かつ60nm相当の凸状欠陥の検出数が一桁レベルのものを10枚選定した。選定したマスクブランクの主表面に対して、疑似異物として粒径60nmのPSL粒子を散布した。次に、60nm感度の欠陥検査装置(レーザーテック社製 M6640)で60nm相当以上の大きさの凸状欠陥および凹状欠陥について欠陥検査を行った。その結果、凹状欠陥は検出されなかったが、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥は、3892個検出された。
【0090】
続いて、図1に示す洗浄装置を用いて超音波洗浄を行った。洗浄水として純水を使用し、周波数が1.6MHzの超音波を印加した。また、超音波洗浄ノズルからマスクブランクの薄膜表面に向かって流下する超音波が印加された洗浄水の流量は1.5リットル/分に調節した。なお、洗浄中のマスクブランク回転数、および洗浄ノズルの移動速度は適宜設定した。
【0091】
以上の条件で5分間の超音波洗浄を行った。洗浄後のマスクブランクの主表面を上記60nm感度の欠陥検査装置(レーザーテック社製 M6640)を用いて、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥および凹状欠陥について欠陥検査を行った。その結果、凹状欠陥は検出されなかったが、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥は、70個検出された。
同様にして、全部で10枚のマスクブランクに対して、疑似異物の散布、洗浄および欠陥検査を行った。
【0092】
実施例1−1と同様に、洗浄を終えた10枚のマスクブランクについて、前述の関係式に基づき、洗浄後のマスクブランク主表面における粒径60nm相当以上のパーティクルの除去率を算出した結果、98.2%と高いパーティクル除去率が得られ、高い洗浄効果が得られることが分かった。
以上のようにして、ガラス基板上にMoSi系遮光膜およびCr系エッチングマスク膜を有するバイナリマスクブランクを作製した。
【0093】
次に、上記のバイナリマスクブランクを用いて、バイナリマスクを作製した。
まず、上記マスクブランク上に、レジスト膜として、電子線描画用化学増幅型ポジレジスト膜(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製 PRL009)を形成した。レジスト膜の形成は、スピンナー(回転塗布装置)を用いて、回転塗布した。上記レジスト膜を塗布後、所定の加熱乾燥処理を行った。レジスト膜の膜厚は100nmとした。
【0094】
次に上記マスクブランク上に形成されたレジスト膜に対し、電子線描画装置を用いて所望のパターン描画を行った後、所定の現像液で現像してレジストパターンを形成した。
次に、上記レジストパターンをマスクとして、エッチングマスク膜のエッチングを行った。ドライエッチングガスとして、ClとOの混合ガスを用いた。続いて、エッチングマスク膜に形成されたパターンをマスクとして、上記MoSi系遮光膜(MoSiN/MoSiN)のエッチングを行って遮光膜パターンを形成した。ドライエッチングガスとして、SFとHeの混合ガスを用いた。
【0095】
次に、残存するレジストパターンを剥離し、さらに上記エッチングマスク膜パターンをエッチングにより除去した。
こうして得られたMoSi系バイナリマスクは、32nmハーフピッチの微細パターンが良好なパターン精度で形成されていた。
また、得られたバイナリマスクをアルカリ薬液中に20分間浸漬、洗浄した後、再度、マスク欠陥検査装置を用いて、バイナリマスクの欠陥検査を行った結果、マスクパターンのない透光部に凹状欠陥は検出されなかった。また、パターンの脱落も検出されなかった。従って、上記のガラス基板上にMoSi系遮光膜およびCr系エッチングマスク膜を積層したマスクブランクに対し、本発明による超音波洗浄を行っても、ガラス基板内部に潜傷が発生していないことが確認できた。
【0096】
(比較例1)
超音波洗浄において、洗浄水に印加する超音波の周波数を、1.5MHzに変更したこと以外は実施例1−1と同様にして、洗浄能力の評価を行った。
実施例1−1と同様に、洗浄前および洗浄後の基板主表面の欠陥検査を行い、洗浄後の基板表面における粒径60nm相当以上のパーティクルの除去率を算出した。その結果、洗浄前の基板主表面の欠陥検査では、凹状欠陥は検出されず、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥は、3119個検出された。一方、洗浄後の基板主表面の欠陥検査では、凹状欠陥は検出されず、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥は、37個検出された。さらに、洗浄後の基板表面における粒径60nm相当以上のパーティクルの除去率を算出したところ、10枚のガラス基板の平均で98.8%と高いパーティクル除去率であり、高い洗浄効果が得られることが分かった。
【0097】
しかし、実施例1−1と同様に、洗浄を終えたガラス基板をアルカリ薬液中に20分間浸漬、洗浄した後、再度、ガラス基板の主表面の欠陥検査を行った結果、10枚中2枚の基板について凹状欠陥が検出された。つまり、洗浄前の基板表面には凹状欠陥は検出されていないため、上記の比較例による超音波洗浄を行った場合に、ガラス基板内部に潜傷が発生し、これがアルカリ薬液の作用により凹欠陥として顕在化してしまうことが確認できた。
【0098】
(比較例2)
実施例2と同様にして光半透過膜と遮光膜を積層したマスクブランクに対し、洗浄水に印加する超音波の周波数を、1.5MHzに変更したこと以外は実施例2と同様にしてマスクブランクの超音波洗浄を行った。
実施例2と同様に、洗浄前および洗浄後のマスクブランク主表面の欠陥検査を行い、洗浄後のマスクブランク主表面における粒径60nm相当以上のパーティクルの除去率を算出した。その結果、洗浄前の基板主表面の欠陥検査では、凹状欠陥は検出されず、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥は、2774個検出された。一方、洗浄後の基板主表面の欠陥検査では、凹状欠陥は検出されず、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥は、22個検出された。さらに、洗浄後の基板表面における粒径60nm相当以上のパーティクルの除去率を算出したところ、10枚のガラス基板の平均で99.2%と高いパーティクル除去率であり、高い洗浄効果が得られることが分かった。
以上のようにして、ガラス基板上に光半透過膜と遮光膜の積層構造のパターン形成用薄膜を有する位相シフトマスクブランクを作製した。
【0099】
次に、実施例2と同様に、上記の位相シフトマスクブランクを用いて、ハーフトーン型位相シフトマスクを作製した。
得られた位相シフトマスクをアルカリ薬液中に20分間浸漬、洗浄した後、再度、位相シフトマスクの表面の欠陥検査を行った結果、マスクパターンのない透光部に凹状欠陥が検出された。つまり、使用したガラス基板表面にはもともと凹状欠陥は検出されていないため、上記のガラス基板上に光半透過膜と遮光膜を積層したマスクブランクに対し、上記の比較例2による超音波洗浄を行った場合に、ガラス基板内部に潜傷が発生し、この潜傷が透光部ではアルカリ薬液の作用により凹欠陥として顕在化してしまうことが確認できた。
【0100】
従って、比較例2では、マスクブランクの製造時には確認できない潜傷の発生が、このマスクブランクを用いて転写用マスクを作製した後に、凹欠陥として顕在化してしまうことで初めて発見されるという重大な問題が発生するため、マスクブランクの洗浄の場合、ガラス基板内部に潜傷を発生させないことの重要性が非常に高い。これに対し、本発明によれば、前述したように、マスクブランクの洗浄時にガラス基板内部に潜傷が発生することを抑制できるため、このマスクブランクを用いて転写用マスクを作製した後に、潜傷が凹欠陥として顕在化して初めて発見されるという問題が生じることはなく、本発明による効果は非常に大きい。
【符号の説明】
【0101】
1 基板
10 洗浄装置
11 スピンチャック
12 電動モータ
13 洗浄カップ
14 超音波洗浄ノズル
15 アーム
16 洗浄液供給装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス材料からなる基板の表面に向かって、周波数が1.5MHzよりも高い超音波が印加された洗浄水を当てて基板の表面を洗浄する洗浄工程を有することを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項2】
前記洗浄水に印加する超音波の周波数が、5.0MHz以下であることを特徴とする請求項1に記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項3】
洗浄後の前記基板の表面における、粒径60nm相当以上のパーティクルの洗浄前に対する除去率が、95%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項4】
前記基板は、バイナリマスクブランク用基板、位相シフトマスクブランク用基板、または多階調マスクブランク用基板であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のマスクブランク用基板の製造方法により得られるマスクブランク用基板の表面に、転写パターンを形成するための薄膜を成膜することを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【請求項6】
ガラス材料からなる基板の表面に転写パターンを形成するための薄膜を形成する成膜工程と、前記薄膜の表面に向かって、周波数が1.5MHzよりも高い超音波が印加された洗浄水を当てて薄膜の表面を洗浄する洗浄工程と、を有することを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【請求項7】
前記洗浄水に印加する超音波の周波数が、5.0MHz以下であることを特徴とする請求項6に記載のマスクブランクの製造方法。
【請求項8】
洗浄後の前記薄膜の表面における、粒径60nm相当以上のパーティクルの洗浄前に対する除去率が、95%以上であることを特徴とする請求項6又は7に記載のマスクブランクの製造方法。
【請求項9】
前記マスクブランクは、バイナリマスクブランク、位相シフトマスクブランク、または多階調マスクブランクであることを特徴とする請求項6乃至8のいずれか一項に記載のマスクブランクの製造方法。
【請求項10】
請求項5乃至9のいずれか一項に記載のマスクブランクの製造方法により得られるマスクブランクの前記薄膜をパターニングして転写パターンを形成することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【請求項11】
転写パターンが形成された転写用マスクの表面に向かって、周波数が1.5MHzよりも高い超音波が印加された洗浄水を当てて転写用マスク表面を洗浄することを特徴とする転写用マスクの洗浄方法。
【請求項12】
前記洗浄水に印加する超音波の周波数が、5.0MHz以下であることを特徴とする請求項11に記載の転写用マスクの洗浄方法。


【図1】
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【公開番号】特開2012−137676(P2012−137676A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291140(P2010−291140)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】