説明

モータ制御装置

【課題】本発明の課題は、インバータ停止時において、外力によってモータが回転させられた時の誘起電圧による過電圧を防止することにある。
【解決手段】モータ制御装置に、インバータ回路の起動指令が停止指令である時かつモータの回転数が所定値を超えた時に回転数を減速させる停止時速度制御手段を備えることによって、インバータ停止時においても外力によってモータが回転させられた場合、モータの回転数を減速させて誘起電圧による過電圧を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモータ制御装置に係り、特に、インバータ制御を行うモータ制御装置であり、外力が加えられモータが回転した時に、モータの誘起電圧による過電圧を防止する技術を改良したモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エアコン室外機ファンモータ等のモータは、外風などの外力によってモータが回転させられることがある。モータが外力により回転させられると、モータが発電機として働き、以下に示した式で回転数に比例した電圧(誘起電圧)Eoが発生する。
【0003】
Eo=Ke・ω (Ke:発電定数,ω:回転数)
ある発電定数Keのモータにおいて、外力が増加しモータの回転数が上がった場合、誘起電圧は回転数に伴って比例増加する。また、発電定数Keを大きくした場合も、同回転数における誘起電圧は大きくなる。誘起電圧が大きくなり使用素子の耐圧以上の高圧になった場合、過電圧による素子破壊が起こってしまう。そのため、過電圧を防止するためには、発電定数Ke、もしくは回転数ωのいずれかを抑える必要がある。
【0004】
発電定数Keを小さくするとモータ効率が下がることから、発電定数Keを抑えることで過電圧を防止する方法は好ましくない。回転数ωを抑えて過電圧を防止する方法は、モータに制動力をかけることにより実現できる。
【0005】
制動力をかける方法は様々な方法が提案されているが、大きく分けて機械的制動と電気的制動の2つの方法がある。但し、機械的制動は装置の小型化や低コスト化が困難であるため、近年は電気的制動への要望が強い。電気的制動を行う方法としては、特許文献1〜3に記載されているものが知られている。
【0006】
特許文献1や特許文献2に記載されている方法は、モータからの回生エネルギーを検出し、インバータ制御により抑制することで、回生エネルギーによる過電圧を防止しつつ電気的制動をかけることができる方法である。ただし、これらの方法は、インバータ制御による駆動中のモータの減速・停止を行うためのものであり、駆動停止中のモータが外力により回転させられた様な場合は機能しない。
【0007】
つまり、モータ駆動停止時にはインバータ回路の停止指令が出ているため、インバータ回路は駆動せず、モータに制動力をかけることができない。
【0008】
また、特に、モータ制御装置に電源電圧が供給されていない時にモータが回転させられる様な場合は、モータ制御装置が作動しないため、インバータ制御自体を行うことができないという問題もある。
【0009】
一方、特許文献3のように、モータ駆動停止時にも保護回路を備えることによって制動力をかける方法も提案されている。
【0010】
図8は、保護回路を備えることにより過電圧を防止する機能を備えたモータ制御装置の説明図である。
【0011】
該図に示す如く、モータ制御装置は、高圧直流電圧を生成する高圧直流電源2と、モータ3と、3相上下アームのスイッチング素子S1〜S6と、それらに逆並列に接続された還流ダイオードD1〜D6と、下アームスイッチング素子のゲートに接続された保護回路C1〜C3とから概略構成されている。
【0012】
電源電圧遮断時に外力によってモータが回転させられた場合、誘起電圧が一定以上になると保護回路の働きにより、下アームスイッチング素子をオンさせる。
【0013】
これにより下アームスイッチング素子に電流が流れ、モータに制動力が働くようになっている。
【0014】
ただし、上述の特許文献3のような方法では、過電圧は抑制されるが、電流の大きさに関らずスイッチング素子に通電させるため、回転数の上昇に伴って電流が増加し、過電流や温度上昇による素子破壊が起こる可能性があるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平11−275889号公報
【特許文献2】特開2007−135400号公報
【特許文献3】特開平10−70897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述のように、特許文献1,2の従来技術は、駆動中のモータに制動力をかけるものであり、インバータ回路の停止指令が出ている時には対応できない。
【0017】
また、モータ制御装置に電源電圧が供給されていない状態では、インバータ制御自体を行うことができないため、インバータ制御による電気的制動を実施することができないという問題がある。
【0018】
更に、特許文献3の従来技術は、インバータ回路の停止指令が出ている時でも制動力を発生させることができるが、スイッチング素子を常時オンさせるため、過電流や高温等の過電圧以外の要因による破壊が起こる可能性がある。
【0019】
また、上記のような課題のため、現状では、エアコン室外機ファンモータのように、モータ駆動停止時に外力によりモータが回転させられる場合には、従来技術を適用することができず、モータの発電定数Keを抑えることによって過電圧を防止しており、モータ効率を上げられない要因となっている。
【0020】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、インバータ回路の停止指令が出ている時でも、モータが回転させられた場合に、モータに制動力を発生させるインバータ制御が可能となるモータ制御装置を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、本発明のモータ制御装置は、直流電圧を入力としたインバータ回路と、前記インバータ回路に接続されたモータと、前記モータの回転位置を検出する回転位置検出部と、前記インバータ回路を駆動するインバータ駆動回路と、前記インバータ駆動回路に制御信号を送るインバータ制御部とを備えたモータ制御装置において、前記回転位置検出部で検出したモータの回転位置からモータの回転数を演算する速度演算手段と、前記インバータ回路の起動指令を受信する起動指令受信手段と、前記起動指令受信手段で受信した指令が停止指令の時、かつ前記速度演算手段で演算した回転数が所定値を超えた時に前記回転数を減速させる停止時速度制御手段とを有することを特徴とする。
【0022】
また、本発明の他のモータ制御装置は、直流電圧を入力としたインバータ回路と、前記インバータ回路に接続されたモータと、前記直流電圧を生成する直流電源と、前記インバータ回路を駆動するインバータ駆動回路と、前記インバータ駆動回路の電源電圧を生成するインバータ駆動回路電源とを備えたモータ制御装置において、前記インバータ駆動回路電源から前記インバータ駆動回路へ供給する電源電圧が遮断もしくは低下した時に前記モータが外力により回転した場合、誘起電圧を直流電圧に整流した誘起直流電圧から前記インバータ駆動回路の電源電圧を生成する第2のインバータ駆動回路電源を備えたことを特徴とする。
【0023】
また、本発明の他のモータ制御装置は、直流電圧を入力としたインバータ回路と、前記インバータ回路に接続されたモータと、前記直流電圧を生成する直流電源と、前記インバータ回路を駆動するインバータ駆動回路と、前記インバータ駆動回路に制御信号を送るインバータ制御部と、前記インバータ制御部の電源電圧を生成するインバータ制御部電源とを備えたモータ制御装置において、前記インバータ制御部電源から前記インバータ制御部へ供給される電源電圧が遮断もしくは低下した時に前記モータが外力により回転した場合、誘起電圧を直流電圧に整流した誘起直流電圧から前記インバータ制御部の電源電圧を生成する第2のインバータ制御部電源を備えたことを特徴とする。
【0024】
また、本発明の他のモータ制御装置は、直流電圧を入力としたインバータ回路と、前記インバータ回路に接続されたモータと、前記インバータ回路を駆動するインバータ駆動回路と、前記インバータ駆動回路の電源電圧を生成するインバータ駆動回路電源と、前記インバータ駆動回路に制御信号を送るインバータ制御部と、リレーと、前記リレーが開放していることにより前記インバータ駆動回路への電源電圧が供給されない時に前記モータが外力により回転させられた場合、前記リレーの開放を解除させるリレー開放解除手段を備えたことを特徴とする。
【0025】
また、本発明の他のモータ制御装置は、直流電圧を入力としたインバータ回路と、前記インバータ回路に接続されたモータと、前記インバータ回路を駆動するインバータ駆動回路と、前記インバータ駆動回路に制御信号を送るインバータ制御部と、前記インバータ制御部の電源電圧を生成するインバータ制御部電源と、リレーと、前記リレーが開放していることにより前記インバータ制御部への電源電圧が供給されない時に前記モータが外力により回転させられた場合、前記リレーの開放を解除させるリレー開放解除手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明のモータ制御装置によれば、インバータ回路の停止指令が出ている時でも、モータが回転させられた場合に、モータに制動力を発生させるインバータ制御が可能となる効果がある。
【0027】
さらに、回生エネルギーの抑制が可能となり、回生エネルギーによる過電圧を防止しつつモータに制動力を発生させることができる。
【0028】
また、インバータ制御部やインバータ駆動部などに電源電圧が供給されていない場合でも、モータが外力等により回転させられた場合は電源電圧の供給を再開し、モータへ制動力を発生させるインバータ制御が可能になる。
【0029】
また、素子破壊が起きない程度の電流・温度の範囲内でスイッチング素子動作の制御が可能となり、従来技術において発生する可能性のあった過電流や高温等の要因による破壊を防止しつつ、過電圧を抑制することができる。
【0030】
さらに、過電圧を抑制することによって外力が加えられた時の過電圧破壊が起こりにくくなるため、同使用環境でも過電圧抑制を行っていない場合に比べて発電定数Keの大きなモータが採用可能となる。これにより、モータ効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のモータ制御装置の実施例1を示すブロック図。
【図2】本発明のモータ制御装置の実施例2を示すブロック図。
【図3】本発明のモータ制御装置の実施例3を示すブロック図。
【図4】本発明のモータ制御装置の実施例4を示すブロック図。
【図5】本発明のモータ制御装置の実施例5を示すブロック図。
【図6】本発明のモータ制御装置の実施例5における停止時モータ駆動回路電源の構成例を示した図。
【図7】本発明のモータ制御装置の実施例6を示すブロック図。
【図8】従来技術の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
インバータ回路の停止指令が出ているときでもモータが回転させられた場合に、モータに制動力を発生させるインバータ制御が可能なことを簡単な構成で実現できる。
【実施例1】
【0033】
本発明の実施例1を、図1を用いて説明する。
【0034】
図1において、インバータ回路1は、直流電源2から入力した直流電圧を交流電圧に変換してモータ3に出力する。インバータ回路1は、一般的に6個のスイッチング素子と、それらに逆並列に接続された還流ダイオードから構成されており、また、スイッチング素子にはIGBTやMOSトランジスタ,バイポーラトランジスタ等が用いられる。
【0035】
インバータ駆動回路4は、インバータ制御部5から制御信号を入力し、その制御信号に対応したゲート電圧を各スイッチング素子のゲート部に印加することでインバータ回路1を駆動する。インバータ回路1とインバータ駆動回路4は、例えば、インバータ回路1とインバータ駆動回路4をワンチップに集積した高耐圧ワンチップインバータICを用いてもよい。
【0036】
インバータ制御部5は、マイクロコンピュータやDSP(デジタル・シグナル・プロセッサ)などで形成される。また、後述する速度演算手段51,起動指令受信手段53,停止時速度制御手段52,制御信号出力部54などは、マイクロコンピュータのソフトウェア処理やポートを利用することで、インバータ制御部5であるマイクロコンピュータ内部で実現することができる。
【0037】
回転位置検出部6はモータ3の回転位置情報VHを速度演算手段51へ出力するようになっている。回転位置検出部6は、例えば、ホール素子やホールIC等の位置センサー等が用いられ、モータ3の誘起電圧と所定の位置関係をもつ回転位置情報VHを、電圧値として出力する。
【0038】
速度演算手段51は、受信した回転位置情報VHからモータ3の回転数Nを演算し、停止時速度制御手段52へ出力するようになっている。
【0039】
また、インバータ回路1の起動指令Vspを受信する起動指令受信手段53が設けられており、起動指令受信手段53は、起動指令Vspが運転指令か停止指令かを伝える信号として起動指令信号Vsを停止時速度制御手段52へ出力する。
【0040】
停止時速度制御手段52は、起動指令信号Vsが停止指令の時、かつモータ3の回転数Nが、予め設定しておいた回転数以上となった時にモータ3を減速させる電流指令値I*を制御信号出力部54へ出力するようになっている。
【0041】
また、起動指令信号Vsが運転指令の場合は、インバータ制御部5による通常通りのインバータ制御を行う。起動指令信号Vsが停止指令の時でモータ3の回転数Nが所定値より小さい場合は、インバータ回路1は停止状態を維持する。
【0042】
制御信号出力部54は、モータ3に電流指令値I*が出力されるように、例えばPWM(パルス幅変調)信号等の制御信号UT〜WBをインバータ駆動回路4に出力する。
【0043】
また、インバータ駆動回路4やインバータ制御部5,インバータ回路1などの本発明におけるいくつかの構成部が、モータ3に内蔵される形態となる場合もある。
【0044】
以上のような構成により、インバータ回路に停止指令が出ている時でも、モータが外力等により回転させられた場合、インバータ制御によってモータに制動力を発生させることができる。
【0045】
また、モータに制動力を発生させることで誘起電圧を抑制することができるため、外力によるモータ回転時の過電圧破壊を防止することが可能となる。
【0046】
更に、過電圧を抑制することによって、同使用環境においても発電定数Keの大きなモータが採用可能となるため、モータ効率の向上を図ることができる。
【実施例2】
【0047】
本発明の実施例2を、図2を用いて説明する。
【0048】
図2の構成は、図1の構成に加えてモータ電流情報検出部7が設置されており、また、停止時速度制御手段52は、モータ電流検出手段521と、速度指令演算手段522と、速度制御手段523とから構成されている。それ以外の構成は図1と同じであり、実施例1と同様にインバータ回路の停止指令が出ている時でも、モータが外力等により回転させられた場合、インバータ制御によってモータに制動力を発生させることができる。
【0049】
モータ電流情報検出部7は、例えば、電流センサーや抵抗等から構成され、モータに流れる電流を検出するための情報を電圧値として取得し、モータ電流情報VImとしてモータ電流検出手段521へ出力するようになっている。モータ電流検出手段521は、このモータ電流情報VImを演算することでモータ電流を検出し、モータ電流検出値Imとして速度指令演算手段522へ出力する。速度指令演算手段522は、モータ電流検出値Imが予め設定しておいた電流値を超えた場合、設定した電流値近傍となるようなモータの回転数を演算し、速度指令値N*として速度制御手段523に出力する。
【0050】
この時の設定値を、スイッチング素子が過電流破壊を起こさない電流に設定することで、過電流破壊を防止することができる。
【0051】
速度制御手段523は、速度指令値N*と回転数Nの偏差が零近傍となるように第1の電圧調整値Iq*を演算し、この第1の電圧調整値Iq*に基づいて制御信号出力部54が制御信号UT〜WBを出力する様になっており、これによりモータの回転数Nが速度指令値N*近傍になるよう制御される。
【0052】
ここで、第1の電圧調整値Iq*はq軸電流(磁束と直交したモータ電流成分)の指令値であり、q軸電流を調整することで制動力トルクを制御できる。
【0053】
以上のような構成により、モータに制動力を発生させた時に流れる電流が過電流となることを防ぎ、モータ制動時のスイッチング素子等の過電流破壊を防止することができる。
【実施例3】
【0054】
本発明の実施例3を、図3を用いて説明する。
【0055】
図3の構成は、図1の構成に加えてモータ温度情報検出部8が設置されており、また、停止時速度制御手段52は、モータ温度検出手段524と、速度指令演算手段522と、速度制御手段523とから構成されている。それ以外の構成は図1と同じであり、実施例1と同様にインバータ回路の停止指令が出ている時でも、モータが外力等により回転させられた場合、インバータ制御によってモータに制動力を発生させることができる。
【0056】
本実施例では、実施例2におけるモータ電流と同様に、モータ温度を検出し、回転数を制御することによって温度を予め設定しておいた所定値以下に保つようになっている。
【0057】
モータ温度情報検出部8は、例えば、熱電対やサーミスタ等の温度センサーから構成され、モータ温度を検出するための情報を電圧値として取得し、モータ温度情報VTmとしてモータ温度検出手段524へ出力するようになっている。
【0058】
モータ温度検出手段524は、このモータ温度情報VTmを演算することでモータ温度を検出し、モータ温度検出値Tmとして速度指令演算手段522へ出力する。
【0059】
速度指令演算手段522は、モータ温度検出値Tmが予め設定しておいた温度を超えた場合、設定した温度近傍となるようなモータの回転数を演算し、速度指令値N*として速度制御手段523に出力する。この時の設定値を、構成部品が高温によって破壊することのない温度に設定する。
【0060】
速度制御手段523は、速度指令値N*と回転数Nの偏差が零近傍となるようにq軸電流指令値である第1の電圧調整値Iq*を演算し、この第1の電圧調整値Iq*に基づいて制御信号出力部54が制御信号UT〜WBを出力する様になっており、モータの回転数Nが速度指令値N*近傍になるよう制御される。
【0061】
以上のような構成により、モータに制動力を発生させた時にモータが過剰な高温となることを防ぎ、スイッチング素子等の構成部の熱的破壊を防止できる。
【実施例4】
【0062】
本発明の実施例4を、図4を用いて説明する。
【0063】
図4の構成は、図1に加えて、直流電圧検出部9,回生エネルギー検出手段55,回生エネルギー制御手段56が設置されており、それ以外の構成は図1と同様である。
【0064】
本発明をエアコン等の家電用モータへ適用した場合、直流電源2は、一般的に、商用の交流電源より得た交流電圧を整流する整流回路から構成される場合が多い。モータが外力等により回転させられて回生エネルギーが生じると、直流電源2の電圧は直流電源2が生成する電圧値以上の電圧に持ち上がる。
【0065】
本実施例では、直流電圧検出部9は回生エネルギーを検出するため、情報として直流電源2の電圧値Vdを検出し、回生エネルギー検出手段55に出力するようになっている。
【0066】
また、回生エネルギーを検出するために、例えば、直流電源2の直流電力値や直流電流値等の情報を取得する方法もある。
【0067】
回生エネルギー検出手段55は、直流電源2の電圧値Vdから回生エネルギーを演算する。回生エネルギー検出手段55によって演算された値は、回生エネルギー検出値Erとして回生エネルギー制御手段56に出力されるようになっている。
【0068】
回生エネルギー制御手段56は、回生エネルギー検出値ERが零近傍になるように第2の電圧調整値Id*を演算し、この第2の電圧調整値Id*は制御信号出力部54へ出力される。
【0069】
ここで、第2の電圧調整値Id*は、d軸電流(磁束と並行したモータ電流成分)の指令値であり、d軸電流を調整することで回生エネルギーを制御できる。
【0070】
また、実施例1と同様に、停止時速度制御手段52から制御信号出力部54に電流指令値として第1の電圧調整値Iq*が出力されており、例えば、実施例2のように、停止時速度制御手段52を構成することによって、過電流を防止するようなq軸電流指令値が制御信号出力部54へ出力される。
【0071】
制御信号出力部54は、受信した第1の電圧調整値Iq*と第2の電圧調整値Id*に基づき制御信号UT〜WBを出力する様になっている。
【0072】
以上のような構成により、回生エネルギーERが零近傍に制御されるため、誘起電圧による電源電圧の持ち上がりを防止するようにモータに制動力を発生させることができる。
【実施例5】
【0073】
本発明の実施例5を、図5を用いて説明する。
【0074】
図5の構成は、図1の構成に、インバータ駆動回路4に電源電圧を供給するインバータ駆動回路電源10と、インバータ制御部5に電源電圧を供給するインバータ制御部電源11と、第2のインバータ駆動回路電源12と、第2のインバータ制御部電源13と、逆流防止部14,15とが加えられており、それ以外の構成は図1と同様である。
【0075】
第2のインバータ駆動回路電源12は、インバータ駆動回路電源10からインバータ駆動回路4への電源電圧の供給が遮断もしくは低下した場合、インバータ駆動回路4へ電源電圧を供給する手段として構成されている。
【0076】
第2のインバータ駆動回路電源12は、インバータ駆動回路電源10と、インバータ回路1の直流電圧入力側と、インバータ駆動回路4に接続されており、インバータ駆動回路電源10から電源電圧が供給されていない場合に、インバータ回路1の直流電圧入力側から供給される誘起直流電圧を基に所定の電圧を生成し、インバータ駆動回路4に供給することを特徴としている。
【0077】
ここで、誘起直流電圧は、モータが外力によって回転させられた時に発生する誘起電圧を直流電圧に変換したものであり、本実施例において誘起直流電圧は、交流電圧である誘起電圧が、直流電源の一部として備えられる平滑コンデンサと、インバータ回路1に備えられた還流ダイオードの作用により自動的に直流電圧へと変換され、直流に変換する電源回路を新たに設けることなく得られるよう構成されている。
【0078】
逆流防止部14は、ダイオード等の整流素子、またはスイッチング素子やリレー等から構成され、第2のインバータ駆動回路電源12の生成した電圧がインバータ駆動回路電源10側へ逆流するのを防止する。
【0079】
また、第2のインバータ制御部電源13および逆流防止部15は、上述したような第2のインバータ駆動回路電源12と逆流防止部14の場合と同様の構成とすることで、インバータ制御部電源11からの電源電圧の供給が遮断もしくは低下した時にモータが回転させられた場合、インバータ制御部5に電源を供給する手段として構成することができる。
【0080】
図6に第2のインバータ駆動回路電源12の構成例を示す。
【0081】
図6における第2のインバータ駆動回路電源12は、抵抗R1〜R3、MOSトランジスタM1,M2、ツェナーダイオードDZから構成されている。
【0082】
インバータ駆動回路電源10による電源電圧の供給がない場合、MOSトランジスタM1がオフする。この時、モータが外力により回転すると誘起直流電圧がかかり、MOSトランジスタM2がオンする。これにより、誘起直流電圧がMOSトランジスタM2を介してインバータ駆動回路電源電圧として出力される。点aの電位がツェナーダイオードDZの降伏電圧以上となると、インバータ駆動回路電源電圧として一定の直流電圧を出力する。ツェナーダイオードDZの降伏電圧は、インバータ駆動回路4の電源電圧として適切な値に設定すれば良い。また、このときのツェナーダイオードDZの降伏電圧をインバータ制御部5の電源電圧として適切な値に設定することにより、同様の構成で第2のインバータ制御部電源13も実施可能である。
【0083】
また、インバータ駆動回路電源10から電源電圧が供給されている場合は、MOSトランジスタM1がオン、MOSトランジスタM2がオフすることにより電圧の出力が止まる構成となっており、第2のインバータ駆動回路電源12は、インバータ駆動回路電源10がインバータ駆動回路4へ電源電圧を供給している場合はインバータ駆動回路4への電源電圧の生成を行わない。
【0084】
以上のように、第2のインバータ駆動回路電源12を構成し、図5のモータ制御装置における第2のインバータ駆動回路電源12に適用することにより、インバータ駆動回路電源10の電源電圧が供給されていない時にモータが外力により回転させられても、インバータ駆動回路4への電源電圧を供給することができる。
【0085】
図5におけるインバータ駆動回路4やインバータ制御部5の電源電圧を生成する方法は、直流電源2の生成する直流電圧をレベル変換して得る方法や、交流電源を整流して得る方法、インバータ駆動回路4とインバータ制御部5の電源電圧の一方からレベル変換してもう一方の電源電圧を得る方法など様々な方法がある。
【0086】
例えば、一方の電源電圧をレベル変換してもう一方の電源電圧を生成する場合は、生成基となる電源電圧を生成する方の第2の電源のみ設置すれば良い。また、電源電圧の供給が遮断もしくは低下した場合、例えば、供給を遮断するリレーの位置や数などによって第2の電源の設置有無や設置位置が変わるが、いずれの場合においても、適宜第2の電源を設置することによって、外力によりモータが回転した場合にはインバータ駆動回路4とインバータ制御部5に電源電圧を供給することを可能にする。
【0087】
また、インバータ駆動回路4やインバータ制御部5への電源電圧の供給が遮断もしくは低下する場合としては、電源電圧の供給が行われなくなるようにリレーが開放されている場合や、停電や故障などの異常時等がある。
【0088】
また本実施例は、実施例1〜4と同様にインバータ回路の停止指令が出ている時でも、モータが外力等により回転させられた場合、インバータ制御によってモータに制動力を発生させる構成になっている。
【0089】
本発明の実施形態によると、インバータ駆動回路電源10やインバータ制御部電源11から電源電圧が供給されていない場合でも、外力によるモータ回転時にはインバータ駆動回路4とインバータ制御部5に電源電圧を供給することができるため、モータに制動力を発生させることができる。
【実施例6】
【0090】
本発明の実施例6を、図7を用いて説明する。
【0091】
図7は、図1の構成に、インバータ駆動回路4に電源電圧を供給するインバータ駆動回路電源10と、インバータ制御部5に電源電圧を供給するインバータ制御部電源11と、リレーRYと、リレー開放解除手段57とが加えられており、それ以外の構成は図1と同様である。
【0092】
リレー開放解除手段57は、モータの回転数Nと起動指令信号Vsが入力されるように構成されており、起動指令Vspが停止指令で、かつ回転数が一定値以上であれば、リレーRYの開放を解除するようにリレー開閉信号VRを出力するようになっている。
【0093】
これにより、インバータ駆動回路への電源電圧の供給が遮断されている時もモータが回転した場合は電源電圧の供給を再開することができる。
【0094】
本実施例は、実施例1〜4と同様にインバータ回路の停止指令が出ている時でも、モータが外力等により回転させられた場合、インバータ制御によってモータに制動力を発生させる構成になっている。
【0095】
本発明の実施形態によると、インバータ駆動回路電源10からの電源電圧がリレーRYにより遮断されている場合にも、外力によるモータ回転時には遮断を解除しインバータ駆動回路4に電源電圧を供給することができるため、モータに制動力を発生させることができる。
【0096】
また、リレー開放解除手段57は、図7の構成のようにインバータ制御部5内部で実現できるが、例えば、起動指令Vspを出力する上位司令部等によっても可能である。
【0097】
また、本実施例における図7の構成では、リレーRYはインバータ駆動回路電源10とインバータ駆動回路4の間に設けられているが、リレーRYを開放することによってインバータ駆動回路電源10からインバータ駆動回路4への電源電圧の供給が行われなくなる場合は、リレーRYの位置はどこにあっても構わない。
【0098】
また、本実施例のリレーRYはインバータ駆動回路4への電源電圧の供給を遮断するものであったが、インバータ制御部5への電源電圧供給を遮断するリレーに対しても同様の構成を適用することで、モータ回転時には電源電圧の供給を再開させることができる。
【符号の説明】
【0099】
1 インバータ回路
2 直流電源
3 モータ
4 インバータ駆動回路
5 インバータ制御部
6 回転位置検出部
7 モータ電流情報検出部
8 モータ温度情報検出部
9 直流電圧検出部
10 インバータ駆動回路電源
11 インバータ制御部電源
12 第2のインバータ駆動回路電源
13 第2のインバータ制御部電源
14,15 逆流防止部
51 速度演算手段
52 停止時速度制御手段
53 起動指令受信手段
54 制御信号出力部
55 回生エネルギー検出手段
56 回生エネルギー制御手段
57 リレー開放解除手段
521 モータ電流検出手段
522 速度指令演算手段
523 速度制御手段
524 モータ温度検出手段
RY リレー
M1,M2 MOSトランジスタ
R1〜R3 抵抗
DZ ツェナーダイオード
S1〜S6 スイッチング素子
D1〜D6 還流ダイオード
C1〜C3 保護回路
Vsp 起動指令
Vs 起動指令信号
VH 回転位置情報
N 回転数
* 電流指令値
UT,VT,WT,UB,VB,WB 制御信号
VIm モータ電流情報
Im モータ電流検出値
* 速度指令値
Iq* 第1の電圧調整値
VTm モータ温度情報
Tm モータ温度検出値
Vd* 直流電源2の電圧値
Er 回生エネルギー検出値
Id* 第2の電圧調整値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧を入力としたインバータ回路と、該インバータ回路に接続されたモータと、該モータの回転位置を検出する回転位置検出部と、前記インバータ回路を駆動するインバータ駆動回路と、該インバータ駆動回路に制御信号を送るインバータ制御部とを備えたモータ制御装置において、
前記回転位置検出部で検出したモータの回転位置からモータの回転数を演算する速度演算手段と、前記インバータ回路の起動指令を受信する起動指令受信手段と、前記起動指令受信手段で受信した指令が停止指令の時、かつ前記速度演算手段で演算した回転数が所定値を超えた時に前記回転数を減速させる停止時速度制御手段とを有することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記停止時速度制御手段は、前記モータに流れるモータ電流を検出するモータ電流検出手段と、前記モータ電流検出手段で検出したモータ電流検出値が所定値近傍となるように速度指令値を演算する速度指令演算手段と、前記速度指令演算手段の出力の速度指令値と前記回転数の偏差が零近傍となるように第1の電圧調整値を演算する速度制御手段とからなることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記停止時速度制御手段は、前記モータの温度を検出するモータ温度検出手段と、前記モータ温度検出手段で検出したモータ温度検出値が所定値近傍となるように速度指令値を演算する速度指令演算手段と、前記速度指令演算手段の出力の速度指令値と前記回転数の偏差が零近傍となるように第1の電圧調整値を演算する速度制御手段とからなることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のモータ制御装置において、
直流電力,直流電流、あるいは直流電圧の少なくとも一つを検出する回生エネルギー検出手段と、前記回生エネルギー検出手段からの検出値を用いて前記モータから前記直流電源に回生される電力が零近傍になるように第2の電圧調整値を制御する回生エネルギー制御手段を有することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項5】
直流電圧を入力としたインバータ回路と、該インバータ回路に接続されたモータと、前記直流電圧を生成する直流電源と、前記インバータ回路を駆動するインバータ駆動回路と、該インバータ駆動回路の電源電圧を生成するインバータ駆動回路電源とを備えたモータ制御装置において、
前記インバータ駆動回路電源から前記インバータ駆動回路へ供給する電源電圧が遮断もしくは低下した時に前記モータが外力により回転した場合、誘起電圧を直流電圧に整流した誘起直流電圧から前記インバータ駆動回路の電源電圧を生成する第2のインバータ駆動回路電源を有することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項6】
直流電圧を入力としたインバータ回路と、該インバータ回路に接続されたモータと、前記直流電圧を生成する直流電源と、前記インバータ回路を駆動するインバータ駆動回路と、該インバータ駆動回路に制御信号を送るインバータ制御部と、前記インバータ制御部の電源電圧を生成するインバータ制御部電源とを備えたモータ制御装置において、
前記インバータ制御部電源から前記インバータ制御部へ供給される電源電圧が遮断もしくは低下した時に前記モータが外力により回転した場合、誘起電圧を直流電圧に整流した誘起直流電圧から前記インバータ制御部の電源電圧を生成する第2のインバータ制御部電源を有することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項7】
請求項5に記載のモータ制御装置において、
前記第2のインバータ駆動回路電源が、前記インバータ駆動回路電源から前記インバータ駆動回路へ供給される電源電圧が遮断もしくは低下しているときのみ、前記インバータ駆動回路の電源電圧を生成することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項8】
請求項6に記載のモータ制御装置において、
前記第2のインバータ制御部電源が、前記インバータ制御部電源から前記インバータ制御部へ供給される電源電圧が遮断もしくは低下しているときのみ、前記インバータ制御部の電源電圧を生成することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項9】
直流電圧を入力としたインバータ回路と、該インバータ回路に接続されたモータと、前記インバータ回路を駆動するインバータ駆動回路と、該インバータ駆動回路の電源電圧を生成するインバータ駆動回路電源と、前記インバータ駆動回路に制御信号を送るインバータ制御部と、リレーと、該リレーが開放していることにより前記インバータ駆動回路への電源電圧が供給されない時に前記モータが外力により回転させられた場合、前記リレーの開放を解除させるリレー開放解除手段を備えたことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項10】
直流電圧を入力としたインバータ回路と、該インバータ回路に接続されたモータと、前記インバータ回路を駆動するインバータ駆動回路と、該インバータ駆動回路に制御信号を送るインバータ制御部と、該インバータ制御部の電源電圧を生成するインバータ制御部電源と、リレーと、該リレーが開放していることにより前記インバータ制御部への電源電圧が供給されない時に前記モータが外力により回転させられた場合、前記リレーの開放を解除させるリレー開放解除手段を備えたことを特徴とするモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−103707(P2011−103707A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256631(P2009−256631)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000233273)日立原町電子工業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】