説明

上下T型継手の溶接方法及び上下T型溶接継手並びにこれを用いた溶接構造物

【課題】立板の上下両面に上板及び下板が各々配置され健全な溶接金属部及び十分な溶接強度を得る上下T型継手の溶接方法及びその上下T型溶接継手並びにこれを用いた溶接構造物を提供する。
【解決手段】立板の上下両面に、1枚もしくは突合せ配置された2枚の上板及び下板が配置されたステンレス鋼板からなり、上板及び下板の表面から立板側まで、ワイヤを送給しながら、非消耗電極方式のアーク溶接またはレーザビームの焦点位置を板表面より上側へずらした焦点ぼかしのレーザビーム照射によるレーザ溶接を行う上下T型継手の溶接方法において、上板または下板の板厚T1の範囲が2<T1≦6mmであり、立板の板厚T2の範囲が前記板厚T1の2〜5倍(2×T1≦T2≦5×T1)であり、前記上板又は前記下板の貫通後の立板の溶け幅wが、前記板厚T1より大きい(w>T1)ことを特徴とする上下T型継手の溶接方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立板上下面に薄板の平板を溶接する上下T型継手の溶接方法及びその上下T型溶接継手並びにこれを用いた溶接構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
高エネルギー密度の電子ビームやレーザビームを用いたT型継手の貫通溶接方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のT型継手の貫通溶接方法では、下板の上板と接する面を凹状に形成し、上板表面から電子ビームを照射して上板の溶接金属を前記凹状の部分で受け止めることが開示されている。従来の溶接工程では困難な厚板のT型継手部材を対象に、電子ビーム溶接によって上板を溶融及び貫通して下板側まで容易に溶融接合できる。
【0004】
特許文献2に記載の溶接方法及びこれを用いて接合された構造体では、従来のアーク溶接では困難な継手構造の車体フレームを対象に、接合箇所となる略板状箇所を有する部材に他の部材の接合箇所を当接し、前記他の部材が当接する面とは反対側の部材面から所定の貫通溶接手段(レーザ溶接手段,電子ビーム溶接手段)を用いて貫通溶接処理することが開示されている。レーザ溶接は、光学レンズ等によって集光化及び高エネルギー密度化したレーザビームを部材に照射して溶融するため、上記貫通溶接が可能である。
【0005】
特許文献3に記載のアルミニウム合金の中空材及びその製造方法では、断面櫛型形状のソリッド押出形材と、このソリッド形材の櫛歯部に対向する板材と、前記ソリッド形材の櫛歯部の先端部と前記板材との接触部を溶着する溶接部とから構成することが開示されている。また、前記ソリッド形材の櫛歯部に対向させて板材を載置して、前記ソリッド形材の櫛歯部の先端部と前記板材との接触部を溶接することが開示されている。ソリッド形材の櫛歯部の先端部と前記板材との接触部(T型継手部)を、主にレーザ溶接によって溶接するようにしている。また、特許文献3には、レーザ溶接の代わりに、MIG溶接又はTIG溶接を使用してもよいと記載されている。MIG溶接では、下側の櫛歯部まで溶融接合するために、上側の板材に予め穴を設けておき、この穴部からプラグ溶接(MIGアークスポット溶接)して下側の櫛歯部まで接合するようにしている。
【0006】
一方、フラックス入りワイヤを用いた溶け込みの深いTIG溶接方法が以下の文献に開示されている。
【0007】
例えば、特許文献4に記載のTIG溶接方法では、金属酸化物を6質量%以上含有するフラックスを内包したフラックス入りワイヤを溶加材として使用し、溶融金属中に前記金属酸化物を0.05〜3g/分供給しながらTIG溶接することが開示されている。また、金属酸化物を6%以上含有したフラックス入りワイヤを所定量供給しながらTIG溶接して深い溶け込み部を得るようにしている。特に、板厚9mmのI型突合せ継手を表面側から片面溶け込み溶接試験した溶け込み深さの測定結果を示している。
【0008】
特許文献5に記載のTIG溶接用フラックス入りワイヤでは、I型継手の溶接への適用で深い溶け込み部を得るため、フラックスがSiO2とCr23とで構成され、この混合比率はSiO2が20〜80重量%、Cr23が20〜80重量%であり、このフラックスが前記フラックス入りワイヤに5〜25重量%の比率で充填されていることが開示されている。板厚8mmステンレス鋼の平板にビードオンプレート溶接した試験結果が開示されている。
【0009】
特許文献6に記載のTIG溶接法では、第1部材の開先表側における第2部材の中心線上でアークを発生させると共に、溶接部に交番磁界を与えながら溶接することが開示されている。アーク溶接中に交番磁界を与えてながら溶融部を攪拌してT型継手の左右裏面部に裏ビードを形成するようにしている。
【0010】
特許文献7に記載のTIG溶接装置及び方法では、不活性ガスからなる第1のシールドガスを電極の外周を囲むように被溶接物に向けて流すと共に、前記第1のシールドガスの周辺側に酸化性ガスを含む第2のシールドガスを被溶接物に向けて流しながら溶接し、溶接金属部の酸素濃度を70〜220wt.ppmの範囲にすることが開示されている。また、特許文献7には、第2のシールドガスの酸素濃度若しくは二酸化炭素濃度と溶接金属部の溶け幅及び深さとの関係から、酸化性ガス(O2ガスやCO2ガス)と不活性ガス(Arガス)との混合ガスをアーク溶接部分に流して溶け込み深さを増加させることが開示されている。
【0011】
特許文献8には、摩擦攪拌接合によってT継手を形成することが開示されている。摩擦攪拌接合方法は、摩擦攪拌用のプローブを挿入して低融点材のアルミニウム継手材料を摩擦攪拌接合するものであって、前記プローブを用いて前記アルミニウム継手材料を固相接合(融点以下の状態で接合)するものである。この摩擦攪拌接合方法は、材料を溶融させることがなく軟化状態で一方のワークと他方のワークとを接合する。すなわち、特許文献8では、第1ワークの下面に溝を設け、前記溝に第2ワークを嵌合し、第1ワークの上面側から摩擦攪拌プローブを第2ワークの肉に及ぶように作用せしめ、第1ワークと第2ワークとを摩擦攪拌接合することによってT継手を形成することが開示されている。
【0012】
一方、特許文献9は、溶け込み促進剤を塗布したI型突合せ継手部の表側と裏側の両面から遂行する非消耗電極方式のアーク溶接によって板厚中央部で融合し合った溶け込み形状の両面溶接部を形成することが開示されている。I型突合せ表面に溶け込み促進剤を塗布した後に表裏両面から溶接することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭63−203286号公報(特に、第2頁左上欄第16行〜同頁右上欄第4行,第1図)
【特許文献2】特開2003−334680号公報(特に、段落0029,0030,図3)
【特許文献3】特開平6−23451号公報(特に、段落0007〜0010,図1,図2)
【特許文献4】特開2001−219274号公報(特に、段落0009,0010)
【特許文献5】特開2001−1183号公報(特に、段落0006〜0008)
【特許文献6】特開昭59−13577号公報(特に、第1頁右下欄第4〜17行,第1図)
【特許文献7】特開2004−298963号公報(特に、段落0014〜0016,図1,図11,図15)
【特許文献8】特開平11−28581号公報(特に、段落0012〜0014,図1,図2)
【特許文献9】特開2006−231359号公報(特に、段落0035〜0039,図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1に開示された技術では、大気を排除する真空装置や溶接する部材を収納する大きな真空チャンバー等の特殊な環境設備が必要になり、新たな設備投資に伴って製造コストが高騰するという問題がある。また、特許文献1では、電子ビームによる貫通溶接がキーホール型の溶け込み形状になり、溶け幅が極めて狭いため溶接断面積が小さく、部材の板厚強度より低い強度しか得られない。キーホール型の溶け込み溶接は、スパッタ(溶融金属の飛散)も発生し易いという問題がある。
【0015】
特許文献2に開示された技術では、レーザ溶接のキーホール型の溶け込み形状であって溶け幅が狭いため、溶接強度に相関関係のある溶接断面積が小さくなり易い。また、溶接中にスパッタが発生し易い。このレーザ溶接には、添加ワイヤ又はフラックス入りワイヤは使用されていない。さらに、レーザ溶接は、レーザ発信器等の特殊な設備が必要であり、電子ビーム溶接と同様に、安価なアーク溶接設備と比べて何れも高価である。また、特許文献2では、電子ビーム溶接でも前記レーザ溶接と同様に遂行できると明記されているが、大気を排除する真空装置や溶接する部材を収納する真空チャンバー等の特殊な環境設備が必要となるため、溶接前の準備や溶接後の搬出に時間がかかり、溶接部位の移動や回転を要する複雑形状の溶接には不向きである。
【0016】
特許文献3に開示されたレーザ溶接では、光学レンズ等によって集光化及び高エネルギー密度化したレーザビームを部材に照射して溶融するため、前記下側の櫛歯部までの貫通溶接が可能であるが、キーホール型の溶け込み形状であって溶け幅が狭いため、溶接強度に相関関係のある溶接断面積が小さく成り易い。なお、このレーザ溶接には、添加ワイヤ又はフラックス入りワイヤは使用されていない。また、溶接対象の中空材はアルミニウム合金であり、材質や特性及び融点が全く異なる材料であるステンレス鋼や低炭素鋼に適用することが記載されていない。
【0017】
特許文献4に開示された技術では、フラックス入りワイヤの送給量の増減や送給方向によって溶け込み深さやワイヤ溶融状態が大きく変化するという問題がある。また、特許文献4は、上下T型継手の溶接を想定していない。
【0018】
特許文献5に開示された技術では、前記特許文献3の場合と同様に、フラックス入りワイヤの送給量の増減や送給方向によって溶け込み深さやワイヤ溶融状態が大きく変化するという問題がある。また、特許文献5は、上下T型継手の溶接は想定していない。
【0019】
特許文献6に開示された技術では、上板表面には溝状の開先が設けられており、開先上部まで積層するために複数パスの溶接工程が必要となり煩雑である。また、特許文献6では、交番磁界を与えるために特殊な交番磁界装置を使用する必要があり、新たな設備投資に伴って製造コストが高騰するという問題がある。
【0020】
特許文献7に開示された技術では、フラックス入りワイヤを使用しない平板上での溶け込みについて検討されており、上下T型継手の溶接,突合せ継手の溶接は想定していないため、T型継手の溶け込みについて検討されていない。
【0021】
特許文献8に開示された摩擦攪拌接合方法では、外部から溶接ワイヤ(例えば、フラックス入りワイヤやソリッドワイヤ)を接合部分に送給・溶着することができないため、接合表面側を凸形状にできないという問題がある。
【0022】
特許文献9は、溶け込み促進剤(複数の金属酸化物混合のフラックス剤)の塗布後に溶接した溶融底部に微小なポロシティ(フラックス巻き込みの溶接欠陥)が発生することがあり、また、溶け込み形状の曲りや片寄りによる溶け不足が発生することがあるという問題があった。この問題は、溶け込み促進剤を塗布する前にギャップ部分及びその近傍を溶融封止すると共に、溶融封止後の継手表面に溶け込み促進剤を塗布する時の塗布膜厚を20μm以上形成することにより改善できるが、上記溶融封止の作業追加,溶け込み促進剤の刷毛塗り作業の技量アップ及び時間増加が必要になるという新たな問題が生じた。また、特許文献9は、上下T型継手の溶接は想定していない。
【0023】
本発明は、前記技術の種々の点を考慮してなされたものであり、健全な溶接金属部及び十分な溶接強度を得るのに有効な上下T型継手の溶接方法及びその上下T型溶接継手並びにこれを用いた溶接構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記課題を解決する本発明の特徴は、ワイヤを用いたアーク溶接またはレーザ溶接により上下T型溶接を行う方法であって、溶接により上板及び下板表面から立板側までの特定の溶け込み形状よりなる溶接金属部を形成する溶接方法にある。
【0025】
本発明におけるアーク溶接は、アークの熱エネルギーを用いて高融点材のステンレス鋼又は低炭素鋼の継手材料を溶融接合(融点以上の状態で接合)するものである。上記目的を達成するために、本発明は、立板の上下両面に上板及び下板が各々配置されたステンレス鋼板からなるT型継手であって、上板及び下板の板厚T1範囲が2<T1≦6mmであり、立板の板厚T2範囲が前記板厚T1の2倍以上5倍以下(2×T1≦T2≦5×T1)であり、前記立板の上下両面に1枚ずつ配置された各板表面、又は前記立板の上下両面に2枚ずつ並列に突合せ配置された各板表面から立板側まで溶接する上下T型継手の溶接方法において、不活性ガスのシールドガスを流出するシールドガス供給手段、又は不活性ガスのシールドガスと酸化性ガス入りのシールドガスとを流出する二重シールドガス供給手段を用いて非消耗電極方式のアーク溶接を前記上側の板表面又は前記上側と対向する下側の板表面から各々別々に遂行すると同時に、溶け込み深さ促進性のフラックス入りワイヤをアーク溶接部分に送給しながら前記立板側まで各々別々に溶融させ、少なくとも前記上側の板表面又は前記下側の板表面から裏面貫通後の立板の各溶け幅wを前記上板及び下板の板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は上板及び下板の板裏面の貫通部分若しくは立板の溶け幅部分の各溶接断面積Aを上板及び下板の板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、若しくは前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部をT型継手の上下両側に備えることを特徴とする。
【0026】
また、本発明は、立板の上下両面に上板及び下板が各々配置されたステンレス鋼板からなるT型継手であって、上板及び下板の板厚T1範囲が2<T1≦6mmであり、立板の板厚T2範囲が前記板厚T1の2倍以上5倍以下(2×T1≦T2≦5×T1)であり、前記立板の上下両面に1枚ずつ配置された各板表面、又は前記立板の上下両面に2枚ずつ並列に突合せ配置された各板表面から立板側まで溶接する上下T型継手の溶接方法において、溶接すべき箇所に照射するレーザビームの焦点位置を前記板表面より上側へずらした位置となるようにレーザトーチを配置し、焦点ぼかしの前記レーザビーム照射によるレーザ溶接を前記上側の板表面又は前記上側と対向する下側の板表面から各々別々に遂行すると同時に、レーザ溶接部分にワイヤを送給しながら前記立板側まで各々別々に溶融させ、少なくとも前記上側の板表面又は前記下側の板表面から裏面貫通後の立板の各溶け幅wを前記上板及び下板の板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は上板及び下板の板裏面の貫通部分若しくは立板の溶け幅部分の各溶接断面積Aを上板及び下板の板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、若しくは前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部をT型継手の上下両側に備えることを特徴とする。
【0027】
特に、前記立板の上下両面に上板及び下板を2枚ずつ並列に各々突合せ配置する時には、各突合せ部にギャップGが殆どない状態又はあっても前記板厚T1の0.2倍以下の小さいギャップG範囲(0≦G≦0.2×T1)に設定し、その後に、前記フラックス入りワイヤを用いた非消耗電極方式のアーク溶接又は前記焦点ぼかしのレーザビームを用いたレーザ溶接を前記上側の板表面又は前記上側と対向する下側の板表面から各々別々に遂行し、前記立板側の各溶け幅wがw>T1の大きさ、又は前記溶接断面積AがA>B1の大きさ、又は前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方がw>T1及びA>B1の大きさのいずれかを有する溶け込み形状の溶接金属部をT型継手の上下両側に備えるとよい。
【0028】
また、立板の上面に上板を1枚配置又は2枚並列に突合せ配置して溶接する時には、前記フラックス入りワイヤを用いた非消耗電極方式のアーク溶接又は前記焦点ぼかしのレーザビームを用いたレーザ溶接の遂行によって、少なくとも前記上側の板表面から裏面貫通後の立板側の溶け幅wを前記上側の板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は上板裏面の貫通部分若しくは立板側の溶け幅部分の溶接断面積Aを上側の板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、若しくは前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部をT型継手の片側に備えるとすることもできる。
【0029】
また、少なくとも前記立板の上下両面に上板及び下板を1枚配置又は2枚並列に突合せ配置して上下T型継手の形状を構成する第1工程と、前記フラックス入りワイヤを用いた非消耗電極方式のアーク溶接の遂行によって上側の板表面から立板側まで溶接し、前記上側の板表面から裏面貫通後の立板の溶け幅wを前記上側の板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は上板裏面の貫通部分若しくは立板側の溶け幅部分の溶接断面積Aを上側の板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成した溶け込み形状の溶接金属部をT型継手の片方に備える第2工程と、前記フラックス入りワイヤを用いた非消耗電極方式のアーク溶接の遂行によって前記上側と対向する下側の板表面から立板側まで溶接し、前記下側の板表面から裏面貫通後の立板の溶け幅wを前記下側の板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は下板裏面の貫通部分若しくは立板の溶け幅部分の溶接断面積Aを下側の板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成した溶け込み形状の溶接金属部をT型継手の他方に備える第3工程と、を有するとよい。
【0030】
また、少なくとも前記立板の上下両面に上板及び下板を1枚配置又は2枚並列に突合せ配置して上下T型継手の形状を構成する第1工程と、前記焦点ぼかしのレーザビームを用いたレーザ溶接の遂行によって上側の板表面から立板側まで溶接し、前記上側の板表面から裏面貫通後の立板の溶け幅wを前記上側の板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は上板裏面の貫通部分若しくは立板の溶け幅部分の溶接断面積Aを上側の板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成した溶け込み形状の溶接金属部をT型継手の片方に備える第2工程と、前記焦点ぼかしのレーザビームを用いたレーザ溶接の遂行によって前記上側と対向する下側の板表面から立板側まで溶接し、前記下側の板表面から裏面貫通後の立板の溶け幅wを前記下側の板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は下板裏面の貫通部分若しくは立板の溶け幅部分の溶接断面積Aを下側の板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成した溶け込み形状の溶接金属部をT型継手の他方に備える第3工程と、を有するとよい。
【0031】
また、前記フラックス入りワイヤの内部に充填されているフラックス剤は、少なくともTiO2,Cr23及びSiO2からなる酸化物が混合された粉末剤であり、前記非消耗電極方式のアーク溶接部分又は前記焦点ぼかしのレーザビーム照射によるレーザ溶接部分に送給されるフラックス入りワイヤの溶着量が1g/分以上7g/分以下の範囲であり、かつ、前記立板の溶け幅wが前記上板及び下板の板厚T1より大きく(w>T1)形成されていると共に、前記溶接金属部に含まれる酸素ガスの含有量が100wt.ppm以上200wt.ppm以下の範囲であるとよい。
【0032】
また、前記溶け込み促進性のフラックス入りワイヤの代わりにソリッドワイヤ若しくはストランドワイヤを使用する時には、前記フラックス入りワイヤ使用の時よりも、前記酸化性ガスの濃度を倍増したシールドガスを使用又は前記酸化性ガス入りのシールドガスの流量若しくは流速を増加したシールドガスを使用し、前記上側の板表面又は前記上側と対向する下側の板表面から前記非消耗電極方式のアーク溶接を各々別々に遂行し、前記立板の各溶け幅wがw>T1の大きさ、又は前記溶接断面積AがA>B1の大きさ、又は前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方がw>T1及びA>B1の大きさのいずれかを有する溶け込み形状の溶接金属部をT型継手の上下両側に備えるとよい。
【0033】
また、前記T型継手を横向姿勢又は立向姿勢で溶接する時には、継手部材を横向姿勢又は立向姿勢に組立配置した後に、前記フラックス入りワイヤを用いた非消耗電極方式のアーク溶接又は前記焦点ぼかしのレーザビームを用いたレーザ溶接の遂行によって、一方の板表面から横向姿勢又は立向姿勢の状態で立板側まで溶接し、その後に他方の板表面から横向姿勢又は立向姿勢の状態で立板側まで溶接し、又は前記フラックス入りワイヤを用いた2組のアーク溶接又は前記焦点ぼかしのレーザビームを用いた2組のレーザ溶接の遂行によって、時間的及び空間的に遠く離れた位置で左右両側の継手部を横向姿勢又は立向姿勢の状態で立板側まで各々別々に溶接し、少なくとも前記立板の溶け幅wがw>T1の大きさを有する溶け込み形状の溶接金属部を左右T型継手の両側に備えるとすることもできる。
【0034】
また、上記目的を達成するために、本発明は、立板の上下両面に上板及び下板が各々配置されたステンレス鋼板からなるT型継手であって、上板及び下板の板厚T1範囲が2<T1≦6mmであり、立板の板厚T2範囲が前記板厚T1の2倍以上5倍以下(2×T1≦T2≦5×T1)であり、前記立板の上下両面に1枚ずつ配置された各板表面、又は前記立板の上下両面に2枚ずつ並列に突合せ配置された各板表面から立板側まで溶接された上下T型溶接継手において、不活性ガスのシールドガスを流出するシールドガス供給手段、又は不活性ガスのシールドガスと酸化性ガス入りのシールドガスとを流出する二重シールドガス供給手段を用いて非消耗電極方式のアーク溶接を前記上側の板表面又は前記上側と対向する下側の板表面から各々別々に遂行すると同時に、溶け込み深さ促進性のフラックス入りワイヤをアーク溶接部分に送給しながらの前記立板側まで各々別々に溶融させ、少なくとも前記上側の板表面又は前記下側の板表面から裏面貫通後の立板の各溶け幅wを前記上板及び下板の板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は上板及び下板の板裏面の貫通部分若しくは立板の溶け幅部分の各溶接断面積Aを上板及び下板の板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、若しくは前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部をT型継手の上下両側に備えた構造にしたことを特徴とする。
【0035】
また、本発明は、立板の上下両面に上板及び下板が各々配置されたステンレス鋼板からなるT型継手であって、上板及び下板の板厚T1範囲が2<T1≦6mmであり、立板の板厚T2範囲が前記板厚T1の2倍以上5倍以下(2×T1≦T2≦5×T1)であり、前記立板の上下両面に1枚ずつ配置された各板表面、又は前記立板の上下両面に2枚ずつ並列に突合せ配置された各板表面から立板側まで溶接された上下T型溶接継手において、溶接すべき箇所に照射するレーザビームの焦点位置を前記板表面より上側へずらした位置となるようにレーザトーチを配置し、焦点ぼかしの前記レーザビーム照射によるレーザ溶接を前記上側の板表面又は前記上側と対向する下側の板表面から各々別々に遂行すると同時に、レーザ溶接部分にワイヤを送給しながら前記立板側まで各々別々に溶融させ、少なくとも前記上側の板表面又は前記下側の板表面から裏面貫通後の立板の各溶け幅wを前記上板及び下板の板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は上板及び下板の板裏面の貫通部分若しくは立板の溶け幅部分の各溶接断面積Aを上板及び下板の板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、若しくは前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部をT型継手の上下両側に備えた構造にしたことを特徴とする。
【0036】
特に、前記立板の各溶け幅wがw>T1の大きさ、又は前記溶接断面積AがA>B1の大きさ、又は前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方がw>T1及びA>B1の大きさのいずれかを有する溶け込み形状の溶接金属部が、前記フラックス入りワイヤを用いたTIGアーク溶接によってT型継手の上下両側に1パスずつ形成され、又は前記焦点ぼかしのレーザビームを用いたレーザ溶接によってT型継手の上下両側に1パスずつ形成されているとよい。
【0037】
また、前記立板の上下両面に溶接された上板及び下板、又は前記立板の上面のみに溶接された上側の平板は、少なくとも溶接線の部分及びその近傍部分を除外した他の部分の板面に多数の孔が予め形成されている多孔板であり、かつ、前記フラックス入りワイヤを用いた非消耗電極方式のアーク溶接又は前記焦点ぼかしのレーザビームを用いたレーザ溶接の遂行によって、前記孔及び近傍が溶損されることなく、板端面部の複数の溶接線部分又は板面部の複数の溶接線部分が立板側に各々溶接された構造になっているとすることもできる。
【0038】
さらに、前記立板の各溶け幅wがw>T1の大きさ、又は前記溶接断面積AがA>B1の大きさ、又は前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方がw>T1及びA>B1の大きさのいずれかを有する溶け込み形状の前記溶接金属部をT型継手の上下両側又はT型継手の片側のいずれかに備えた構造の溶接継手が、原子力機器又は火力機器に使用される溶接構造物に組み込まれ、かつ、前記上下T型溶接継手の溶接部又は該上下T型溶接継手と並んでいる角型溶接継手の溶接部を含む溶接構造物が高温水蒸気媒体若しくは腐食性媒体と接触する環境状態に配備されているとよい。
【0039】
すなわち、本発明の上下T型継手の溶接方法では、不活性ガスのシールドガスを流出するシールドガス供給手段、又は不活性ガスのシールドガスと酸化性ガス入りのシールドガスとを流出する二重シールドガス供給手段を用いて非消耗電極方式のアーク溶接を前記上側の板表面又は前記上側と対向する下側の板表面から各々別々に遂行すると同時に、溶け込み深さ促進性のフラックス入りワイヤをアーク溶接部分に送給しながらの前記立板側まで各々別々に溶融させ、少なくとも前記上側の板表面又は前記下側の板表面から裏面貫通後の立板の各溶け幅wを前記上板及び下板の板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は上板及び下板の板裏面の貫通部分若しくは立板の溶け幅部分の各溶接断面積Aを上板及び下板の板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、若しくは前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部をT型継手の上下両側に備えることにより、溶け不足やアンダーカット及びポロシティ等の溶接欠陥のない品質良好な溶接金属部を有する上下T型溶接継手及び平板側の材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。また、従来の多パス溶接やフラックス塗布方式の溶接施工と比べて作業工数が大幅に削減でき、同時に、多パス溶接で生じていた大きな変形と比べて変形量が大幅に減少するので歪取り作業が削減でき、生産性向上及びコスト低減が可能となる。
【0040】
前記非消耗電極方式のアーク溶接は、例えば、TIGアーク溶接であり、若しくはプラズマアーク溶接であってもよく、特殊な溶接設備を新たに導入する必要がなく、既存の溶接機を使用することができる。特に、溶け込み深さ促進性のフラックス入りワイヤを前記アーク溶接(TIGアーク溶接、若しくはプラズマアーク溶接)部分に送給しながら溶接することにより、前記フラックス入りワイヤの内部に含有されている複数の金属酸化物の加熱反応(例えば、溶融中の金属酸化物から酸素が解離し、その解離した酸素の多くが溶融プール内に溶解する化学反応)によって、アーク直下の溶融プール(溶融金属)の対流が深さ方向及び内向き方向に変化して溶け込み深さを促進する。溶け込み促進の結果、上板表面から立板側まで深く溶融して溶け込むと同時に、その立板の溶け幅wが平板の板厚T1より大きく(w>T1)形成でき、また、立板の溶け幅w部分の溶接断面積Aも平板の板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成することができる。さらに、前記フラックス入りワイヤを用いた非消耗電極方式のアーク溶接(TIGアーク溶接、若しくはプラズマアーク溶接)は、対流型(及び熱伝導型)の溶融形態で深く溶け込むと同時に、スパッタ(溶融金属の飛散)の発生が全くない。さらに、フラックス剤を板表面に塗布する必要もない。
【0041】
なお、前記フラックス入りワイヤに充填されているフラックス剤は、複数の金属酸化物であり、例えば、TiO2,Cr23,SiO2等の成分からなる酸化物の粉末である。溶け込み深さ促進性のフラックス入りワイヤは、これら成分粉末の金属酸化物を適正比率で複数混合して充填された特殊なワイヤであり、アーク溶接中に発生する前記加熱反応によって溶け込み状態を促進するため、溶け込み深さが増加する作用及び効果を有しているものである。このような溶け込み深さ促進性のフラックス入りワイヤは、脱酸剤や塩基性造滓剤入りの従来ワイヤ(フラックス入りワイヤ)とは成分及び作用が全く異なるものであり、溶け込み深さを促進する前記金属酸化物の粉末が充填されている特殊なワイヤであり、また、耐食性にも優れたステンレス鋼からなるフラックス入りワイヤであり、既に公知の市販品を使用すればよい。
【0042】
一方、前記二重シールド供給手段(例えば、二重シールド構造の溶接トーチ)の外側ノズルのノズル孔から数パーセントの酸化性ガス(例えば、O2やCO2)と不活性ガス(例えば、ArやHe)との混合ガス(酸化性ガス入りのシールドガス)をアーク直下の溶融プール部分に流すと共に、溶け込み促進性の前記フラックス入りワイヤをアーク溶接部分に送給しながら溶接することにより、前記酸化性ガスから解離した酸素、さらに、溶融中の前記フラックス入りワイヤから解離した酸素の両方が溶融プール内に多く溶解する。この酸素溶解によって、アーク直下の溶融プール(溶融金属)の対流が深さ方向及び内向き方向に大きく変化して溶け込みがさらに深くなる。溶け込み深さ促進の結果、上板表面から立板側まで深く溶融して溶け込むと同時に、その立板の溶け幅wが平板の板厚T1より大きく(w>T1)形成でき、また、立板の溶け幅w部分の溶接断面積Aも平板の板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成することができる。前記酸化性ガス(O2やCO2)と不活性ガス(ArやHe)との混合ガスは、既に公知の市販品を使用すればよい。
【0043】
溶け込み形態や溶け幅の調整は、前記フラックス入りワイヤの送給量や前記金属酸化物の含有量又は混合比率の調整によって調整可能であり、また、前記酸化性ガスの含有量やそのガス流量の調整によっても調整可能である。さらに、溶接電流や溶接速度など溶接入熱条件の大きさによって調整可能であり、継手部材の板厚や用途に応じて所定範囲の溶け幅w若しくは溶接断面積Aを確保するように、事前に確認試験を行って調整するとよい。
【0044】
また、本発明の上下T型継手の溶接方法では、溶接すべき箇所に照射するレーザビームの焦点位置を前記板表面より上側へずらした位置となるようにレーザトーチを配置し、焦点ぼかしの前記レーザビーム照射によるレーザ溶接を前記上側の板表面又は前記上側と対向する下側の板表面から各々別々に遂行すると同時に、レーザ溶接部分にワイヤを送給しながら前記立板側まで各々別々に溶融させ、少なくとも前記上側の板表面又は前記下側の板表面から裏面貫通後の立板の各溶け幅wを前記上板及び下板の板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は上板及び下板の板裏面の貫通部分若しくは立板の溶け幅部分の各溶接断面積Aを上板及び下板の板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、若しくは前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部をT型継手の上下両側に備えることにより、上述したように、溶け不足やアンダーカット及びポロシティ等の溶接欠陥のない品質良好な溶接金属部を有する上下T型溶接継手及び平板側の材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。また、従来の多パス溶接やフラックス塗布方式の溶接施工と比べて作業工数が大幅に削減でき、同時に、多パス溶接で生じていた大きな変形と比べて変形量が大幅に減少するので歪取り作業が削減でき、生産性向上及びコスト低減が可能となる。
【0045】
特に、前記焦点ぼかしのレーザビームを用いたレーザ溶接を遂行することによって、深さ方向に深く溶け込む従来のキーホール型の溶け込み形態から幅方向に溶け広がる溶け込み形態に変化させることができる。その結果、金属蒸気及びスパッタ発生が激減すると同時に、立板の溶け幅wが平板の板厚T1より大きく(w>T1)形成でき、また、立板側の溶け幅w部分の溶接断面積Aも平板の板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成することができる。レーザビームについては、既に市販のCO2レーザ又はYAGレーザ又はファイバーレーザ又はディスクレーザのいずれかを使用すればよい。なお、前記レーザビームの焦点位置が上板表面となるジャストホーカス(距離L=0)に定めた時やT型継手の内部側(距離L<0)に定めた時には、深さ方向に深く溶け込む従来のキーホール型の溶け込み形態によって深い溶け込み形状になり、金属蒸気及びスパッタが多発すると共に、溶接幅方向の溶け込み幅が狭くなってしまうため、立板の溶け幅wを上板の板厚T1より大きく(w>T1)形成することができないので好ましくない。
【0046】
T型継手に使用する上板及び下板((水平方向に配置されている上下の平板))の板厚T1範囲は2<T1≦6mmであり、好ましくは2<T1≦5mmの範囲に抑えて設定することにより、板表面から立板側まで確実に溶融接合することができ、所定形状の健全な溶け込みを有する溶接金属部及び上下T型溶接継手を得ることができる。また、立板の板厚T2範囲を前記上板の板厚T1の2倍以上5倍以下(2×T1≦T2≦5×T1)に設定することにより、溶接すべき上板側の溶接線又は下板側の溶接線と立板側との位置合わせに位置ずれが少々ある状態であっても、立板側の端面部に溶けダレがない健全な溶け込み形状を有する溶接金属部及び上下T型溶接継手を得ることができる。
【0047】
なお、前記上板及び下板の板厚T1が2mmより薄いと、溶け過ぎによる溶接変形が増大し易い。反対に、前記上板及び下板の板厚T1が6mmより厚いと、上側又は下側の板表面から裏面貫通して立板側まで溶融し難く、また、立板の溶け幅wを十分な大きさに形成することも難しくなる。強制的に溶融するには、大出力の溶接装置が必要になると共に、溶け過ぎによる溶接変形が増大し易いので好ましくない。一方、立板側の板厚T2が上板及び下板の板厚T1の2倍より薄いと、例えば、溶接すべき上板側の溶接線又は下板側の溶接線と立板側との位置合わせに位置ずれがあったりする場合に、立板側の片端面部に溶けダレが発生したり、溶け込みが偏ったり歪な形状になったりし易い。反対に、立板の板厚T2が上板及び下板の板厚T1の5倍より厚いと、立板側の板厚T2に対する立板側の溶け幅w及び溶接断面積Aの比率が低下すると共に、上板及び下板の板厚T1との板厚バランスが悪化したり、素材自身の重量が増大したりするので好ましくない。
【0048】
前記立板の上下両面に上板及び下板を2枚ずつ並列に各々突合せ配置する時には、各突合せ部にギャップGが殆どない状態又はあっても前記板厚T1の0.2倍以下の小さいギャップG範囲(0≦G≦0.2×T1)に設定し、好ましくは0.1倍以下の0≦G≦0.1×T1の範囲に抑えて設定することにより、組立精度や位置決め精度が高まり、溶接品質に悪影響(例えば、不均一な溶け込み,不揃いなビード形状,アンダーカットなど)を及ぼすことがある要因の一つを取り除くことができる。そして、突合せ配置の終了後に、前記フラックス入りワイヤを用いた非消耗電極方式のアーク溶接又は前記焦点ぼかしのレーザビームを用いたレーザ溶接を前記上側の板表面又は前記上側と対向する下側の板表面から各々別々に遂行し、前記立板の各溶け幅wがw>T1の大きさ、又は前記溶接断面積AがA>B1の大きさ、又は前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方がw>T1及びA>B1の大きさのいずれかを有する溶け込み形状の溶接金属部をT型継手の上下両側に備えることにより、上述したように、溶け不足やアンダーカット及びポロシティ等の溶接欠陥のない品質良好な溶接金属部を有する上下T型溶接継手及び上板及び下板の材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。また、従来の多パス溶接やフラックス塗布方式の溶接施工と比べて作業工数が大幅に削減でき、同時に、多パス溶接で生じていた大きな変形と比べて変形量が大幅に減少するので歪取り作業が削減でき、生産性向上及びコスト低減が可能となる。
【0049】
また、立板の溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成することにより、所定形状の健全な溶接金属部が得られると共に、上下T型継手の溶接表面に凹みやアンダーカットのない凸形状の良好な溶接ビードを得ることができる。なお、ビード表面高さCが1mmより小さいと、ビード境界部にアンダーカットが生じ易い。反対に、ビード表面高さCが3mmより大き過ぎると、溶け込み深さが浅くなったり、ビード外観が悪くなったり、過剰な出っ張り部分が邪魔になったりするので好ましくない。
【0050】
また、立板の上面に上板を1枚配置又は2枚並列に突合せ配置して溶接する時には、前記フラックス入りワイヤを用いた非消耗電極方式のアーク溶接又は前記焦点ぼかしのレーザビームを用いたレーザ溶接の遂行によって、少なくとも前記上側の板表面から裏面貫通後の立板の溶け幅wを前記上側の板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は上板裏面の貫通部分若しくは立板の溶け幅部分の溶接断面積Aを上側の板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、若しくは前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部をT型継手の片側に備えることにより、品質良好な溶接金属部を有する上下T型溶接継手及び上側の板厚材料強度と同等以上の溶接強度を得ることができる。
【0051】
また、少なくとも前記立板の上下両面に上板及び下板を1枚配置又は2枚並列に突合せ配置して上下T型継手の形状を構成する第1工程と、前記フラックス入りワイヤを用いた非消耗電極方式のアーク溶接の遂行によって上側の板表面から立板側まで溶接し、前記上側の板表面から裏面貫通後の立板の溶け幅wを前記上側の板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は上板裏面の貫通部分若しくは立板の溶け幅部分の溶接断面積Aを上側の板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成した溶け込み形状の溶接金属部をT型継手の片方に備える第2工程と、前記フラックス入りワイヤを用いた非消耗電極方式のアーク溶接の遂行によって前記上側と対向する下側の板表面から立板側まで溶接し、前記下側の板表面から裏面貫通後の立板の溶け幅wを前記下側の板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は下板裏面の貫通部分若しくは立板の溶け幅部分の溶接断面積Aを下側の板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成した溶け込み形状の溶接金属部をT型継手の他方に備える第3工程とを有することにより、上述したように、溶け不足やアンダーカット及びポロシティ等の溶接欠陥のない品質良好な溶接金属部を有する上下T型溶接継手及び上板及び下板の材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。また、従来の多パス溶接やフラックス塗布方式の溶接施工と比べて作業工数が大幅に削減でき、同時に、多パス溶接で生じていた大きな変形と比べて変形量が大幅に減少するので歪取り作業が削減でき、生産性向上及びコスト低減が可能となる。
【0052】
また、少なくとも前記立板の上下両面に上板及び下板を1枚配置又は2枚並列に突合せ配置して上下T型継手の形状を構成する第1工程と、前記焦点ぼかしのレーザビームを用いたレーザ溶接の遂行によって上側の板表面から立板側まで溶接し、前記上側の板表面から裏面貫通後の立板の溶け幅wを前記上側の板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は上板裏面の貫通部分若しくは立板の溶け幅部分の溶接断面積Aを上側の板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成した溶け込み形状の溶接金属部をT型継手の片方に備える第2工程と、前記焦点ぼかしのレーザビームを用いたレーザ溶接の遂行によって前記上側と対向する下側の板表面から立板側まで溶接し、前記下側の板表面から裏面貫通後の立板の溶け幅wを前記下側の板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は下板裏面の貫通部分若しくは立板の溶け幅部分の溶接断面積Aを下側の板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成した溶け込み形状の溶接金属部をT型継手の他方に備える第3工程とを有することにより、上述したように、溶け不足やアンダーカット及びポロシティ等の溶接欠陥のない品質良好な溶接金属部を有する上下T型溶接継手及び上板及び下板の材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。また、従来の多パス溶接やフラックス塗布方式の溶接施工と比べて作業工数が大幅に削減でき、同時に、多パス溶接で生じていた大きな変形と比べて変形量が大幅に減少するので歪取り作業が削減でき、生産性向上及びコスト低減が可能となる。
【0053】
前記フラックス入りワイヤの内部に充填されているフラックス剤は、少なくともTiO2,Cr23及びSiO2からなる酸化物が混合された粉末剤であり、前記非消耗電極方式のアーク溶接部分又は前記焦点ぼかしのレーザビーム照射によるレーザ溶接部分に送給されるフラックス入りワイヤの溶着量が1g/分以上7g/分以下の範囲であり、好ましくは2g/分以上5g/分以下の範囲であり、かつ、前記立板の溶け幅wが前記上板及び下板の板厚T1より大きく(w>T1)形成されていると共に、前記溶接金属部に含まれる酸素ガスの含有量が100wt.ppm以上200wt.ppm以下の範囲であることにより、品質良好な溶接金属部を有する上下T型溶接継手及び上板及び下板の材料強度と同等以上の引張強度を得ることができる。
【0054】
なお、フラックス入りワイヤの溶着量が1g/分より少ないと、フラックス入りワイヤが溶融プール内へスムーズに入らすに不規則な溶着状態になると共に酸素の溶解量が過少な状態になるため、溶接ビードが不整な形状になると同時に、溶け込み深さが浅い形状になって立板側まで溶け込まず、若しくは立板側まで溶けても溶け幅wが確保できなくなるので好ましくない。一方、フラックス入りワイヤの溶着量が7g/分より多いと、アークエネルギー又はレーザエネルギーがワイヤの溶融に消費されると共に酸素の溶解量が過大な状態になるため、溶け込み深さが浅い形状になると同時に、溶接金属部に含まれる酸素ガスの含有量が許容基準(例えば、200wt.ppm以下)を超えると共に、溶接金属部の靭性強度が低下するので好ましくない。したがって、溶接金属部に含まれる酸素ガスの含有量が100wt.ppm以上200wt.ppm以下の範囲であることにより、母材強度と同程度の溶接強度及び靭性強度を有する溶接金属部及びその上下T型溶接継手を得ることができる。
【0055】
また、前記溶け込み促進性のフラックス入りワイヤの代わりにソリッドワイヤ若しくはストランドワイヤを使用する時には、前記フラックス入りワイヤ使用の時よりも前記酸化性ガスの濃度を倍増したシールドガスを使用又は前記酸化性ガス入りのシールドガスの流量若しくは流速を増加したシールドガスを使用して非消耗電極方式のアーク溶接を遂行することによって、酸化性ガスから解離した酸素が溶融プール内に多く溶解するので特定深さまで溶融させることができ、健全な溶け込み形状を有する溶接金属部及びその上下T型溶接継手を得ることができる。
【0056】
さらに、前記T型継手を横向姿勢又は立向姿勢で溶接する時には、継手部材を横向姿勢又は立向姿勢に組立配置した後に、前記フラックス入りワイヤを用いた非消耗電極方式のアーク溶接又は前記焦点ぼかしのレーザビームを用いたレーザ溶接の遂行によって、一方の板表面から横向姿勢又は立向姿勢の状態で立板側まで溶接し、その後に他方の板表面から横向姿勢又は立向姿勢の状態で立板側まで溶接し、又は前記フラックス入りワイヤを用いた2組のアーク溶接又は前記焦点ぼかしのレーザビームを用いた2組のレーザ溶接の遂行によって、時間的及び空間的に遠く離れた位置で左右両側の継手部を横向姿勢又は立向姿勢の状態で立板側まで各々別々に溶接し、少なくとも前記立板の溶け幅wがw>T1の大きさを有する溶け込み形状の溶接金属部を左右T型継手の両側に備えることにより、溶接作業時間が大幅に短縮できると共に、健全な溶け込み形状を有する溶接金属部及びその上下T型溶接継手を得ることができる。
【0057】
また、本発明の上下T型溶接継手では、不活性ガスのシールドガスを流出するシールドガス供給手段、又は不活性ガスのシールドガスと酸化性ガス入りのシールドガスとを流出する二重シールドガス供給手段を用いて非消耗電極方式のアーク溶接を前記上側の板表面又は前記上側と対向する下側の板表面から各々別々に遂行すると同時に、溶け込み深さ促進性のフラックス入りワイヤをアーク溶接部分に送給しながらの前記立板側まで各々別々に溶融させ、少なくとも前記上側の板表面又は前記下側の板表面から裏面貫通後の立板の各溶け幅wを前記上板及び下板の板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は上板及び下板の板裏面の貫通部分若しくは立板の溶け幅部分の各溶接断面積Aを上板及び下板の板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、若しくは前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部をT型継手の上下両側に備えた構造にしたことにより、上述したように、溶け不足やアンダーカット及びポロシティ等の溶接欠陥のない品質良好な溶接金属部を有する上下T型溶接継手及び上板及び下板の材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。また、従来の多パス溶接やフラックス塗布方式の溶接施工と比べて作業工数が大幅に削減でき、同時に、多パス溶接で生じていた大きな変形と比べて変形量が大幅に減少するので歪取り作業が削減でき、生産性向上及びコスト低減が可能となる。
【0058】
また、本発明の上下T型溶接継手では、溶接すべき箇所に照射するレーザビームの焦点位置を前記板表面より上側へずらした位置となるようにレーザトーチを配置し、焦点ぼかしの前記レーザビーム照射によるレーザ溶接を前記上側の板表面又は前記上側と対向する下側の板表面から各々別々に遂行すると同時に、レーザ溶接部分にワイヤを送給しながら前記立板側まで各々別々に溶融させ、少なくとも前記上側の板表面又は前記下側の板表面から裏面貫通後の立板の各溶け幅wを前記上板及び下板の板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は上板及び下板の板裏面の貫通部分若しくは立板の溶け幅部分の各溶接断面積Aを上板及び下板の板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、若しくは前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部をT型継手の上下両側に備えた構造にしたことにより、上述したように、溶け不足やアンダーカット及びポロシティ等の溶接欠陥のない品質良好な溶接金属部を有する上下T型溶接継手及び上板及び下板の材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。また、従来の多パス溶接やフラックス塗布方式の溶接施工と比べて作業工数が大幅に削減でき、同時に、多パス溶接で生じていた大きな変形と比べて変形量が大幅に減少するので歪取り作業が削減でき、生産性向上及びコスト低減が可能となる。
【0059】
また、前記立板の各溶け幅wがw>T1の大きさ、又は前記溶接断面積AがA>B1の大きさ、又は前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方がw>T1及びA>B1の大きさのいずれかを有する溶け込み形状の溶接金属部が、前記フラックス入りワイヤを用いたTIGアーク溶接によってT型継手の上下両側に1パスずつ形成され、又は前記焦点ぼかしのレーザビームを用いたレーザ溶接によってT型継手の上下両側に1パスずつ形成されていることにより、従来の多パス溶接やフラックス塗布方式の溶接施工と比べて作業工数が大幅に削減でき、また、多パス溶接で生じていた大きな変形と比べて変形量が大幅に減少するので歪取り作業も削減することもできる。
【0060】
また、前記立板の上下両面に溶接された上板及び下板、又は前記立板の上面のみに溶接された上側の平板は、少なくとも溶接線の部分及びその近傍部分を除外した他の部分の板面に多数の孔が予め形成されている多孔板であり、かつ、前記フラックス入りワイヤを用いた非消耗電極方式のアーク溶接又は前記焦点ぼかしのレーザビームを用いたレーザ溶接の遂行によって、前記孔及び近傍が溶損されることなく、板端面部の複数の溶接線部分又は板面部の複数の溶接線部分が立板側に各々溶接された構造になっていることにより、前記孔に阻害されずに所定の溶接線部分を正常に溶接でき、品質良好な溶接金属部を有する上下T型溶接継手を得ることができる。また、高温水蒸気体若しくは腐食性流体が前記孔を通過する構造の溶接構造物に組み込むことができる。
【0061】
さらに、前記立板の各溶け幅wがw>T1の大きさ、又は前記溶接断面積AがA>B1の大きさ、又は前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方がw>T1及びA>B1の大きさのいずれかを有する溶け込み形状の前記溶接金属部をT型継手の上下両側又はT型継手の片側のいずれかに備えた構造の溶接継手が、原子力機器又は火力機器に使用される溶接構造物に組み込まれ、かつ、前記上下T型溶接継手の溶接部又は該上下T型溶接継手と並んでいる角型溶接継手の溶接部を含む溶接構造物が高温水蒸気媒体若しくは腐食性媒体と接触する環境状態に配備されていることにより、原子力機器又は火力機器の稼動によって蒸気媒体環境下若しくは腐食環境下で長期間適用されても、耐食性及び溶接強度が高いので確保腐食割れ等の事象を防止でき、長寿命化に寄与することができる。
【発明の効果】
【0062】
以上述べたように、本発明の上下T型継手の溶接方法及びその上下T型溶接継手並びにこれを用いた溶接構造物によれば、溶け不足やアンダーカット及びポロシティ等の溶接欠陥のない品質良好な溶接金属部を有する上下T型溶接継手及びこれを用いた溶接構造物が得られる。また、立板の溶け幅w部分の溶接断面積Aが確保(A>B1)されているので、上板及び下板の材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。また、従来の多パス溶接やフラックス塗布方式の溶接施工と比べて作業工数が大幅に削減でき、同時に、多パス溶接で生じていた大きな変形と比べて変形量が大幅に減少するので歪取り作業が削減でき、生産性向上及びコスト低減が可能となる。さらに、原子力機器又は火力機器の稼動によって蒸気媒体環境下若しくは腐食環境下で長期間適用されても、耐食性及び溶接強度が高いので腐食割れ等の事象を防止でき、長寿命化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の上下T型継手の溶接方法及びその上下T型溶接継手に係わる溶接手順及び溶け込み形状の一実施形態を示す説明図である。
【図2】本発明の上下T型継手の溶接方法及びその上下T型溶接継手に係わる溶接手順及び溶け込み形状の他の一実施形態を示す説明図である。
【図3】本発明の上下T型継手の溶接方法及びその上下T型溶接継手に係わる溶接手順及び溶け込み形状のさらに他の実施形態を示す説明図である。
【図4】本発明の上下T型継手の溶接方法及びその上下T型溶接継手に係わるレーザ溶接手順及び溶け込み形状の実施形態を示す説明図である。
【図5】本発明の上下T型継手の溶接方法及びその上下T型溶接継手に係わるレーザ溶接手順及び溶け込み形状の他の実施形態を示す説明図である。
【図6】図1に示される溶接方法を適用した時の板厚別の溶接電流Iと立板3の溶け幅w及び溶け込み深さhの関係を示す実施例である。
【図7】図1に示した溶接方法を適用した時のT型継手の溶接電流Iと入熱量Q及び上板表面からの溶け込み深さHの関係を示す実施例である。
【図8】図1に示される溶接方法を適用した時のフラックス入りワイヤの溶着量と溶け込み深さ及び溶金部のOガス含有量の関係を示す実施例である。
【図9】複数のT型継手及び溶接線を有する溶接構造物の概略を示す一実施例の斜視図である。
【図10】従来のTIG溶接方法による開先溝付きT型継手の多パス溶接形状を示す比較例の断面図である。
【図11】従来のTIG溶接方法によるギャップ付きT型継手の多パス溶接形状を示す他の比較例の断面図である。
【図12】従来のTIG溶接方法によるギャップ付きT型継手の多パス溶接形状を示すさらに他の比較例の断面図である。
【図13】従来のレーザ溶接方法によるT型継手の溶け込み形状を示す比較例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0064】
以下、本発明の内容について、図1〜図9に示される実施形態を用いて具体的に説明する。
【0065】
〔実施形態1〕
図1は、上下T型継手の溶接方法及びその上下T型溶接継手に係わる溶接手順及び溶け込み形状の一実施形態を示す説明図である。すなわち、最初の第1工程31では、図1の(1)に示すように、床面に対して垂直方向に沿った立板3の上下面(立板両面)に、水平方向に沿った上板及び下板1a,1bを1枚ずつ配置、又は上板及び下板1a,1b,2a,2bを2枚ずつ並列に突合せ配置して上下T字状に構成したT型継手を製作する。溶接対象のT型継手は、例えば、原子力機器又は火力機器等に組み込まれる溶接物である。特に耐食性に優れたステンレス鋼材若しくは一般の炭素鋼材からなり、上板及び下板の板厚T1範囲は、2<T1≦6mmである。好ましくは2<T1≦5mmの範囲に抑えるとさらによい。また、立板3の板厚T2範囲は、前記上板及び下板の板厚T1の2倍以上5倍以下(2×T1≦T2≦5×T1)であり、立板3の上下両面に板厚T1の上板及び下板を水平方向に1枚ずつ配置又は2枚ずつ並列に突合せ配置して上下T字状に継手が構成されている。前記上板及び下板1a,1b,2a,2bの突合せ部にはギャップGがほとんどない状態、また、上板及び下板1a,1b,2a,2bとその中間にある立板3との継手面も隙間がほとんどない状態にあり、比較的高精度に位置決め配置されている。なお、図中に記載しているB1は、上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1方向から見た板厚断面積のことである。
【0066】
前記上板及び下板1a,1b,2a,2b(水平方向に配置されている上下の平板)の板厚T1範囲を2<T1≦6mmに設定することにより、好ましくは2<T1≦5mmの範囲に抑えて設定することにより、上板及び下板1a,1b,2a,2bの表面から裏面貫通して立板3側まで確実に溶融接合することができ、品質良好な溶け込み形状の溶接金属部7b,8bをT型継手の上下両側に備えた上下T型溶接継手12を得ることができる。また、前記立板3の板厚T2範囲を前記上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1の2倍以上5倍以下(2×T1≦T2≦5×T1)に設定することにより、溶接すべき上板及び下板1a,1b,2a,2bの溶接線とその中間にある立板3の両面との位置合わせに位置ずれが少々ある状態であっても、立板3の端面部に溶けダレがない健全な溶け込み形状を有する溶接金属部7b,8b及び上下T型溶接継手12を得ることができる。
【0067】
なお、前記上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1が2mmより薄いと、溶け過ぎによる溶接変形が増大し易い。反対に、前記上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1が6mmより厚いと、上側又は下側の板表面から裏面貫通して立板3側まで溶融し難く、また、立板3の溶け幅wを十分な大きさに形成することも難しくなる。強制的に溶融接合するには、大出力の溶接装置が必要になると共に、上板及び下板1a,1b,2a,2bの溶け過ぎによる溶接変形が増大し易いので好ましくない。一方、前記立板3の板厚T2が上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1の2倍より薄いと、例えば、溶接すべき上板及び下板1a,1b,2a,2bの溶接線と立板3両面との位置合わせに位置ずれがあったりする場合に、立板3の片端面部に溶けダレが発生したり、溶け込みが偏ったり歪な形状になったりし易い。反対に、立板3の板厚T2が上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1の5倍より厚いと、立板3の板厚T2に対する立板3の溶け幅w及び溶接断面積Aの比率が低下すると共に、上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1との板厚バランスが悪化したり、素材自身の重量が増大したりするので好ましくない。
【0068】
次の第2工程32では、図1の(2)に示すように、ノズル9aの内周から不活性ガス(例えば、純ArガスやHeガス、又はArとHeとの混合ガス)のシールドガス9bを流出するシールド構造の溶接トーチ11(シールドガス供給手段)を用いて非消耗電極方式のアーク溶接を遂行すると同時に、溶け込み深さ促進性のフラックス入りワイヤ4をアーク6溶接部分に送給しながら、上板1a,2aの板表面側から立板3まで溶融接合させる。特に、この溶融接合によって、少なくとも上板1a,2aの板表面から裏面貫通後の立板3の溶け幅wを上板1a,2aの板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は上板1a,2aの板裏面の貫通部分若しくは立板3の溶け幅部分の溶接断面積Aを上板1a,2aの板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、若しくは前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部7aを得るようにしている。
【0069】
なお、立板3の溶け幅w部分の溶接断面積Aは、前記立板3の溶け幅wと溶接線長さLとの積(A=w×L)で求められる。同様に、前記板厚T1方向の板厚断面積B1は、上板1,2の板厚T1と溶接線長さLとの積(B1=T1×L)で求められ、前記溶け幅wをw>T1に形成すれば、その時の溶接断面積Aは、前記板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成されたことになる。
【0070】
前記非消耗電極方式のアーク溶接は、例えば、TIGアーク溶接であり、若しくはプラズマアーク溶接であり、特殊な溶接設備を新たに導入する必要がなく、既存の溶接機を使用することができる。特に、溶け込み深さ促進性のフラックス入りワイヤ4を用いた非消耗電極方式のアーク溶接(TIGアーク溶接、若しくはプラズマアーク溶接)を遂行することにより、フラックス入りワイヤ4の内部に含有している複数の金属酸化物の加熱反応(例えば、溶融中の金属酸化物から酸素が解離し、その解離した酸素の多くが溶融プール7a内に溶解する化学反応)によって、アーク6直下の溶融プール7a(溶融金属)の対流が深さ方向及び内向き方向に変化して溶け込み深さを促進する。溶け込み促進の結果、上板1a,2aの板表面から立板3まで深く溶融して溶け込み、その立板3の溶け幅wが上板1a,2aの板厚T1より大きく(w>T1)形成し、また、上板裏面の貫通部分及び立板の溶け幅w部分の溶接断面積Aも上板1a,2aの板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成し、上板材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。さらに、前記フラックス入りワイヤを用いた非消耗電極方式のアーク溶接(TIGアーク溶接、若しくはプラズマアーク溶接)は、対流型(及び熱伝導型)の溶融形態で深く溶け込むと同時に、スパッタ(溶融金属の飛散)の発生が全くない。さらに、フラックス剤を板表面に塗布する必要もない。
【0071】
このような溶け込み形態や溶け幅wの調整は、前記溶け込み深さ促進性のフラックス入りワイヤ4の送給量や前記金属酸化物の含有量又は混合比率の調整によって調整可能である。また、溶接電流や溶接速度など溶接入熱条件の大きさによって調整可能であり、継手部材の板厚や用途に応じて所定範囲の溶け幅wや溶接断面積Aを確保するように、事前に確認試験を行って調整するとよい。
【0072】
なお、前記フラックス入りワイヤに充填されているフラックス剤は、複数の金属酸化物であり、例えば、TiO2,Cr23,SiO2等の成分からなる酸化物の粉末である。溶け込み深さ促進性のフラックス入りワイヤ4は、これら成分粉末の金属酸化物を適正比率で複数混合して充填された特殊なワイヤであり、アーク溶接中に発生する前記加熱反応によって溶け込み状態を促進するため、溶け込み深さが増加する作用及び効果を有しているものである。このような溶け込み深さ促進性のフラックス入りワイヤ4は、脱酸剤や塩基性造滓剤入りの従来ワイヤ(フラックス入りワイヤ)とは成分及び作用が全く異なるものであり、溶け込み深さを促進する前記金属酸化物の粉末が充填されている特殊なワイヤであり、また、耐食性にも優れたステンレス鋼からなるフラックス入りワイヤであり、既に公知の市販品を使用すればよい。
【0073】
また、非消耗性の電極5は、溶接トーチ11の先端に設けられるタングステン電極であり、例えば、高融点材のLa23入りW,Y23入りW,ThO2入りWなど、市販品の電極棒を使用すればよい。また、アーク6溶接部分及び電極5を保護するシールドガス9bは、ノズル9aの内周から流出させる不活性ガスであり、例えば、純ArガスやHeガスであり、また、Ar主体の混合ガスも使用可能であり、市販品のガスを使用すればよい。
【0074】
前記第2工程32の溶接終了後に継手部材を裏返し反転する。その後に、次の第3工程33に移行する。すなわち、第3工程33では、図1の(3)に示すように、不活性ガスのシールドガス9bを流出するシールド構造の溶接トーチ11(シールドガス供給手段)を用いて非消耗電極方式のアーク溶接を遂行すると同時に、溶け込み深さ促進性のフラックス入りワイヤ4をアーク6溶接部分に送給しながら、上板1a,2aと対向する下板1b,2b(継手部材を上下反転しているので該当する下板1b,2bは上側の位置にある)の板表面から立板3まで溶融させる。特に、この溶融接合によって、前記第2工程32の時と同様に、下板1b,2bの板表面から裏面貫通後の立板3の溶け幅wを下板1b,2bの板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は下板1b,2bの板裏面の貫通部分若しくは立板3の溶け幅部分の溶接断面積Aを下板1b,2bの板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、若しくは前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部8aを得ると共に、さらに、2つの溶接金属部7b,8bをT型継手の上下に備えた上下T型溶接継手12を得るようにしている。
【0075】
このような溶接施工の構成により、溶け不足やアンダーカット及びポロシティ等の溶接欠陥のない品質良好な溶接金属部7a,7b,8a,8bを上下に備えた上下T型溶接継手12及び上板及び下板の材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。また、従来の多パス溶接やフラックス塗布方式の溶接施工と比べて作業工数が大幅に削減でき、同時に、多パス溶接で生じていた大きな変形と比べて変形量が大幅に減少するので歪取り作業が削減でき、生産性向上及びコスト低減が可能となる。
【0076】
また、立板3の溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成することにより、所定形状の健全な溶接金属部7a,7bが得られると共に、T型継手の溶接表面に凹みやアンダーカットのない凸形状の良好な溶接ビードを得ることができる。なお、ビード表面高さCが1mmより小さいと、ビード境界部にアンダーカットが生じ易い。反対に、ビード表面高さCが3mmより大き過ぎると、溶け込み深さが浅くなったり、ビード外観が悪くなったり、過剰な出っ張り部分が邪魔になったりするので好ましくない。
【0077】
前記フラックス入りワイヤ4の内部に充填されているフラックス剤は、少なくともTiO2,Cr23及びSiO2からなる酸化物が混合された粉末剤であり、前記非消耗電極方式のアーク6溶接部分に送給されるフラックス入りワイヤの溶着量は1g/分以上7g/分以下の範囲であり、好ましくは2g/分以上5g/分以下の範囲であり、かつ、立板3の溶け幅wが上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1より大きく(w>T1)形成されていると共に、溶接金属部7b,8bに含まれる酸素ガスの含有量が100wt.ppm以上200wt.ppm以下の範囲であることにより、品質良好な溶接金属部7b,8bを上下両側に有する上下T型溶接継手及び上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1の材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。
【0078】
なお、フラックス入りワイヤ4の溶着量が1g/分より少ないと、フラックス入りワイヤ4が溶融プール7a,8a内(溶融金属内)へスムーズに入らずに不規則な溶着状態になると共に酸素の溶解量が過少な状態になるため、溶接ビードが不整な形状になると同時に、溶け込み深さが浅い形状になって立板3まで溶け込まず、若しくは立板3まで溶けても溶け幅wが確保(w>T1)できないので好ましくない。一方、フラックス入りワイヤ4の溶着量が7g/分より多いと、アークエネルギーがワイヤの溶融に消費されると共に酸素の溶解量が過大な状態になるため、溶け込み深さが浅い形状になると同時に、溶接金属部7b,8bに含まれる酸素ガスの含有量が許容基準(例えば、200wt.ppm以下)を超えると共に、溶接金属部7b,8bの靭性強度が低下するので好ましくない。したがって、溶接金属部7b,8bに含まれる酸素ガスの含有量が100wt.ppm以上200wt.ppm以下の範囲であることにより、母材強度と同程度の溶接強度及び靭性強度を有する溶接金属部7b,8b及びその上下T型溶接継手12を得ることができる。
【0079】
また、前記溶け込み深さ促進性のフラックス入りワイヤ4は、溶接進行方向の前方からアーク6溶接部分に送給、又は溶接進行方向の後方からアーク6溶接部分に送給することができる。特に、溶け込み深さ促進性のフラックス入りワイヤ4の先端部を溶融プールへ接触又は挿入させるように送給することにより、例えば、小電流から大電流まで広範囲の溶接電流(例えば100A〜350A)を出力させる場合や低速送りの少量ワイヤの場合であっても、フラックス入りワイヤ4がアーク6直下の溶融プール7a内にスムーズに入り、大きな溶滴にならずに安定して溶融及び溶着させることができる。同時に、上板1a,2aの板表面又は下板1b,2bの板表面から立板3まで深く溶け込み、この立板3の溶け幅wを上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1より大きく(w>T1)形成することができると共に、品質良好な溶接金属部7b,8bを上下両側に有する上下T型溶接継手及び上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1の材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。
【0080】
さらに、前記T型継手を下向姿勢から横向姿勢又は立向姿勢に変更して溶接する時には、継手部材1a,1b,2a,2b,3を横向姿勢又は立向姿勢に組立配置(継手部材1a,1b,2a,2b,3を90度左回転させた姿勢状態)した後に、前記フラックス入りワイヤ4を用いた非消耗電極方式のアーク溶接の遂行によって、一方(例えば上板1a,2a側)の板表面から横向姿勢又は立向姿勢の状態で立板3まで溶接し、その後に他方(例えば下板1b,2b側)の板表面から横向姿勢又は立向姿勢の状態で立板3まで溶接し、又は前記フラックス入りワイヤ4を用いた2組のアーク溶接の遂行によって、時間的及び空間的に遠く離れた位置で左右両側の継手部を横向姿勢又は立向姿勢の状態で立板3まで各々別々に溶接し、少なくとも立板3の溶け幅wがw>T1の大きさを有する溶け込み形状の溶接金属部7a,7b,8a,8bをT型継手の左右両側に備えることにより、溶接作業時間が大幅に短縮できると共に、健全な溶け込み形状を有する溶接金属部7b,8b及びその上下T型溶接継手12を得ることができる。
【0081】
また、図1の(2)と(3)及び(4)に示すように、本発明の上下T型溶接継手では、不活性ガスのシールドガス9bを流出させるシールド構造の溶接トーチ11(シールドガス供給手段)を用いて非消耗電極方式のアーク溶接を上板1a,2aの板表面又は前記上板1a,2aと対向する下板1b,2bの板表面から各々別々に遂行すると同時に、溶け込み深さ促進性のフラックス入りワイヤ4をアーク6溶接部分に送給しながら立板3まで各々別々に溶融させ、少なくとも前記上板1a,2aの板表面又は前記下板1b,2bの板表面から裏面貫通後の立板3の各溶け幅wを前記上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は上板及び下板1a,1b,2a,2bの板裏面の貫通部分若しくは立板3の溶け幅部分の各溶接断面積Aを上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、若しくは前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部7a,7b,8a,8bをT型継手の上下両側に備えた構造の上下T型溶接継手12にすることもできる。
【0082】
また、前記立板3の各溶け幅wがw>T1の大きさ、又は前記溶接断面積AがA>B1の大きさ、又は前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方がw>T1及びA>B1の大きさのいずれかを有する溶け込み形状の溶接金属部7a,7b,8a,8bが、前記フラックス入りワイヤを用いた前記消耗電極方式のアーク溶接によってT型継手の上下両側に1パスずつ形成されているとすることもできる。
【0083】
このような構成により、開先溝やギャップの形成作業をなくすと共に、溶接パス数を削減し、フラックス剤の塗布作業も不要にし、また、溶接中に金属蒸気及びスパッタの発生もなくすため確実に溶融接合された溶け込み及び溶け幅を有する溶接が可能となる。その結果、上述したように、溶け不足やアンダーカット及びポロシティ等の溶接欠陥のない品質良好な溶接金属部7b,8bを上下両側に有する上下T型溶接継手12及び上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1の材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。また、従来の多パス溶接やフラックス塗布方式の溶接施工と比べて作業工数が大幅に削減でき、同時に、多パス溶接で生じていた大きな変形と比べて変形量が大幅に減少するので歪取り作業が削減でき、生産性向上及びコスト低減が可能となる。
【0084】
〔実施形態2〕
図2は、上下T型継手の溶接方法及びその上下T型溶接継手に係わる溶接手順及び溶け込み形状の他の一実施形態を示す説明図である。図1との主な相違点は、立板3の上下両面に上板1a,2a及び下板2b,2bを2枚ずつ並列に突合せ配置する時に、上板1a,2a同士の突合せ部又は下板1b,2b同士の突合せ部にギャップGがあったりなかったりするT型継手の実施例であり、その他の部分や符号は、図1と略同じである。
【0085】
例えば、溶接線の長い部材のT型継手では、ギャップGがない状態に組み立てることが意外と難しく、上板1a,2a同士の突合せ部又は下板1b,2b同士の突合せ部にギャップGがあったりなかったりする状態になり易く、また、前記上板1a,2aと立板3の上面又は前記下板1b,2bと立板3の下面との継手密着面にも僅かな隙間があったりなかったりすることがある。特に、前記ギャップGが全体的に過大な場合や、許容値を時々超えたりするバラツキの大きなギャップG変化の場合には、溶接品質に悪影響(例えば、不均一な溶け込み,不揃いなビード形状,アンダーカットなど)が発生し易い。これを避けるため、本実施例では、許容可能なギャップG範囲を以下のように限定している。
【0086】
すなわち、図2の(1)に示すように、最初の第1工程31では、立板3の上下両面面に上板1a,2a及び下板1b,2bを2枚ずつ並列に突合せ配置する時に、各突合せ部にギャップGが殆んどない状態又はあっても上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1の0.2倍以下の小さいギャップG範囲(0≦G≦0.2×T1)に設定している。好ましくは0.1倍以下の0≦G≦0.1×T1の範囲に抑えて設定するとさらによい。また、上板1a,2aと上板3の上面又は下板1b,2bと立板3の下面との隙間が殆どない状態又はあっても0.5mm以下に抑制するとよい。このように、ギャップG範囲や隙間を抑制することによって、組立精度や位置決め精度が高まり、溶接品質に悪影響を及ぼすことがある要因の一つを取り除くことができる。
【0087】
上述したように、溶接対象のT型継手は、例えば、原子力機器又は火力機器等に組み込まれる溶接物である。特に耐食性に優れたステンレス鋼材若しくは一般の炭素鋼材からなり、上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1範囲は、2<T1≦6mmであり、また、立板3の板厚T2範囲は、前記上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1の2倍以上5倍以下(2×T1≦T2≦5×T1)であり、立板3の上下両面に板厚T1の上板及び下板1a,1b,2a,2bを水平方向に2枚ずつ並列に突合せ配置して上下T字状に継手が構成されている。
【0088】
次の第2工程32では、図2の(2)に示すように、上記ギャップG有無のT型継手をアーク溶接する場合、ノズル9aの内周から不活性ガス(例えば、純ArガスやHeガス、又はArとHeとの混合ガス)のシールドガス9bを流出するシールド構造の溶接トーチ11(シールドガス供給手段)を用いて非消耗電極方式のアーク溶接を遂行すると同時に、溶け込み深さ促進性のフラックス入りワイヤ4をアーク6溶接部分に送給しながら、上板1a,2aの板表面から立板3まで溶融接合させる。特に、この溶融接合によって、少なくとも上板1a,2aの板表面から裏面貫通後の立板3の溶け幅wを上板1a,2aの板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は上板1a,2aの板裏面の貫通部分若しくは立板3の溶け幅部分の溶接断面積Aを上板1a,2aの板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、若しくは前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部7aを得るようにしている。
【0089】
前記第2工程32の溶接終了後に継手部材を裏返し反転する。その後に、次の第3工程33に移行する。すなわち、第3工程33では、図2の(3)に示すように、不活性ガスのシールドガス9bを流出するシールド構造の溶接トーチ11(シールドガス供給手段)を用いて非消耗電極方式のアーク溶接を遂行すると同時に、溶け込み深さ促進性のフラックス入りワイヤ4をアーク6溶接部分に送給しながら、上板1a,2aと対向する下板1b,2b(継手部材を上下反転しているので該当する下板1b,2bは上側の位置にある)の板表面から立板3まで溶融させる。特に、この溶融接合によって、前記第2工程32の時と同様に、下板1b,2bの板表面から裏面貫通後の立板3の溶け幅wを下板1b,2bの板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は下板1b,2bの板裏面の貫通部分若しくは立板3の溶け幅部分の溶接断面積Aを下板1b,2bの板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、若しくは前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部8aを得ると共に、さらに、2つの溶接金属部7b,8bをT型継手の上下両側に備えた上下T型溶接継手12を得るようにしている。
【0090】
このような溶接施工の構成により、前記突合せ部にギャップGがあったりなかったりするT型継手であっても、ワイヤ溶着充填及び前記溶接断面積Aの確保(A>B1)によって、上述したように、溶け不足やアンダーカット及びポロシティ等の溶接欠陥のない品質良好な溶接金属部7a,7b,8a,8bを上下に備えた上下T型溶接継手12及び上板及び下板の材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。また、従来の多パス溶接やフラックス塗布方式の溶接施工と比べて作業工数が大幅に削減でき、同時に、多パス溶接で生じていた大きな変形と比べて変形量が大幅に減少するので歪取り作業が削減でき、生産性向上及びコスト低減が可能となる。
【0091】
なお、所定形状の溶接金属部7b,8bを上下両側に有する上下T型溶接継手12を1パスずつの溶接によって達成することが最も好ましいが、例えば、ワイヤ溶着量の不足によって溶接ビード表面部に余盛り不足やアンダーカットが発生した時には、2パス目の溶接を追加するとよい。立板3の溶け幅w及び溶接断面積Aは、既に1パス目の溶接によって所定(w>T1,A>B1)の大きさに形成済みである。したがって、2パス目の溶接を行う時には、上板1a,2a又は下板1b,2bの各溶接ビード表面が所定範囲(1≦C≦3mm)の高さになるように、1パス目溶接の施工条件を見直して2パス目の溶接施工条件を定め、前層溶接のビード表面部から前記フラックス入りワイヤ4送りのアーク溶接を再度遂行することによって、前記余盛り不足及びアンダーカットが解消されて、健全な余盛り高さの溶接ビード及び溶け込み形状を有する溶接金属部7bに改善することができる。また、2パス目の溶接では、前記フラックス入りワイヤ4の代わりにソリッドワイヤ若しくはストランドワイヤを使用して溶接することも可能であり、前記余盛り不足及びアンダーカットを解消することができる。
【0092】
また、下板1b,2bがないT型継手の場合には、第3工程33の溶接が不要となり、第2工程のアーク溶接の遂行によって上板1b,2bを立板3に溶接すればよい。すなわち、立板3の上面に上板1a,2aを1枚配置又は2枚並列に突合せ配置して溶接する時には、図1の(2)及び図2の(2)に示したように、前記フラックス入りワイヤ4を用いた非消耗電極方式のアーク溶接の遂行によって、上板1a,2aの板表面から裏面貫通後の立板3の溶け幅wを前記上側の板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は立板3の溶け幅w部分の溶接断面積Aを上側の板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、若しくは前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部7a,7bをT型継手の片側に備えるようにするとよい。これにより、溶け不足やアンダーカット及びポロシティ等の溶接欠陥のない品質良好な溶接金属部7bを有する上下T型溶接継手12及び上側の板厚材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。
【0093】
〔実施形態3〕
図3は、上下T型継手の溶接方法及びその上下T型溶接継手に係わる溶接手順及び溶け込み形状のさらに他の実施形態を示す説明図である。図1及び図2との主な相違点は、不活性ガスのシールドガスと酸化性ガス入りのシールドガスとを流出する二重シールド構造の溶接トーチ13(二重シールドガス供給手段)を用いて非消耗電極方式のアーク溶接を遂行するようにしたことである。T型継手の形状や溶接部分の溶け込み形状は、図1及び図2と略同じである。
【0094】
すなわち、図3の(2)に示すように、内管と外管とが同軸状に配設された二重シールド構造の溶接トーチ13(二重シールドガス供給手段)を使用し、外側ノズル10aのノズル孔から数パーセントの酸化性ガス(例えば、O2やCO2)と不活性ガス(ArやHe)との混合ガス10b(酸化性ガス入りのシールドガス)を流出させ、同時に、内側ノズル9aのノズル孔から不活性ガス9b(ArやHe)のシールドガスを流出させる。この二重シールドガスの雰囲気内で、非消耗電極方式のアーク溶接を遂行すると同時に、溶け込み深さ促進性のフラックス入りワイヤ4をアーク6溶接部分に送給しながら、上板1a,2aの板表面から立板3まで溶融接合させる。特に、この溶融接合によって、上述したように、上板1a,2aの板表面から裏面貫通後の立板3の溶け幅wを上板1a,2aの板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は上板1a,2aの板裏面の貫通部分若しくは立板3の溶け幅部分の溶接断面積Aを上板1a,2aの板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、若しくは前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部7aを得るようにしている。
【0095】
例えば、数パーセントの酸化性ガス(例えば、O2やCO2)と不活性ガス(例えば、ArやHe)との混合ガス10b(酸化性ガス入りのシールドガス)をアーク直下の溶融プール部分に流すと共に、前記溶け込み促進性のフラックス入りワイヤ4をアーク6溶接部分に送給しながら溶接すると、前記酸化性ガスから解離した酸素、さらに、溶融中の前記フラックス入りワイヤ4から解離した酸素の両方が溶融プール内に多く溶解する。この酸素溶解によって、アーク6直下の溶融プール7a(溶融金属)の対流が深さ方向及び内向き方向に大きく変化して溶け込みがさらに深くなる。溶け込み深さ促進の結果、上板1a,2a表面から立板3まで深く溶融して溶け込むと同時に、その立板3の溶け幅wが上板1a,2aの板厚T1より大きく(w>T1)形成でき、また、立板3の溶け幅w部分の溶接断面積Aも上板1a,2aの板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成することができる。前記フラックス入りワイヤ4及び前記二重シールド構造の溶接トーチ13を用いた非消耗電極方式のアーク溶接(TIGアーク溶接、若しくはプラズマアーク溶接)は、対流型(及び熱伝導型)の溶融形態で深く溶け込むと同時に、スパッタ(溶融金属の飛散)の発生が全くない。さらに、フラックス剤を板表面に塗布する必要もない。
【0096】
なお、酸化性ガス(O2やCO2)と不活性ガス(ArやHe)との混合ガスのシールドガス10bは、既に公知の市販品を使用すればよい。また、不活性ガスのシールドガス9bと酸化性ガス入りのシールドガス10bとを流出させる方法については、二重シールド構造の溶接トーチ13を使用すればよい。
【0097】
また、溶け込み形態や溶け幅の調整については、前記フラックス入りワイヤ4の送給量や前記金属酸化物の含有量又は混合比率の調整によって調整可能であり、また、前記酸化性ガスの含有量やそのガス流量の調整によっても調整可能である。さらに、溶接電流や溶接速度など溶接入熱条件の大きさによって調整可能であり、継手部材の板厚や用途に応じて所定範囲の溶け幅w若しくは溶接断面積Aを確保するように、事前に確認試験を行って調整するとよい。
【0098】
最初の第1工程31では、図3の(1)に示すように、床面に対して垂直方向に沿った立板3の上下面(立板両面)に、水平方向に沿った上板及び下板1a,1b,2a,2bを1枚ずつ配置、又は上板及び下板1a,1b,2a,2bを2枚ずつ並列に突合せ配置して上下T字状に構成したT型継手を製作する。上述したように、溶接対象のT型継手は、例えば、原子力機器又は火力機器等に組み込まれる溶接物である。特に耐食性に優れたステンレス鋼材若しくは一般の炭素鋼材からなり、上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1範囲は、2<T1≦6mmである。好ましくは2<T1≦5mmの範囲に抑えるとさらによい。また、立板3の板厚T2範囲は、前記上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1の2倍以上5倍以下(2×T1≦T2≦5×T1)であり、立板3の上下両面に板厚T1の上板及び下板1a,1b,2a,2bを1枚ずつ配置又は2枚ずつ並列に突合せ配置して上下T字状に継手が構成されている。前記上板及び下板1a,1b,2a,2bの突合せ部にはギャップGがほとんどない状態、また、上板及び下板1a,1b,2a,2bとその中間にある立板3との継手面も隙間がほとんどない状態にあり、比較的高精度に位置決め配置されている。なお、図中に記載しているB1は、上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1方向から見た板厚断面積のことである。
【0099】
また、前記第1工程31において、立板3の上下両面に上板1a,2a及び下板1b,2bを2枚ずつ並列に各々突合せ配置する時には、各突合せ部にギャップGが殆どない状態に設定し、若しくは図2の(1)に示したように、ギャップGがあっても上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1の0.2倍以下の小さいギャップG範囲(0≦G≦0.2×T1)に設定している。好ましくは0.1倍以下の0≦G≦0.1×T1の範囲に抑えて設定するとさらによい。また、上板1a,2aと上板3の上面又は下板1b,2bと立板3の下面との隙間が殆どない状態又はあっても0.5mm以下に抑制するとよい。このように、ギャップG範囲や隙間を抑制することによって、組立精度や位置決め精度が高まり、溶接品質に悪影響を及ぼすことがある要因の一つを取り除くことができる。
【0100】
次の第2工程32では、図3の(2)に示すように、不活性ガスのシールドガス9bと酸化性ガス入りのシールドガス10bとを流出する二重シールド構造の溶接トーチ13(二重シールドガス供給手段)を用いて非消耗電極方式のアーク溶接を遂行する。同時に、溶け込み深さ促進性のフラックス入りワイヤ4をアーク6溶接部分に送給しながら上板1a,2bの板表面から立板3まで溶融させ、上述したように、立板3の溶け幅wを上板1a,2bの板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時に上板1a,2aのビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は上板1a,2a裏面の貫通部分若しくは立板3の溶け幅w部分の溶接断面積Aを上板1a,2aの板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、又は前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部7aを得るようにしている。
【0101】
前記第2工程32の溶接終了後に継手部材を裏返し反転する。その後に、次の第3工程33に移行する。すなわち、第3工程33では、図3の(3)に示すように、不活性ガスのシールドガス9bと酸化性ガス入りのシールドガス10bとを流出させる二重シールド構造の溶接トーチ13(二重シールドガス供給手段)を用いて非消耗電極方式のアーク溶接を遂行すると同時に、溶け込み深さ促進性のフラックス入りワイヤ4をアーク6溶接部分に送給しながら、上板1a,2aと対向する下板1b,2b(継手部材を上下反転しているので該当する下板1b,2bは上側の位置にある)の板表面から立板3まで溶融させる。特に、この溶融接合によって、前記第2工程32の時と同様に、下板1b,2bの板表面から裏面貫通後の立板3の溶け幅wを下板1b,2bの板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は下板1b,2bの板裏面の貫通部分若しくは立板3の溶け幅部分の溶接断面積Aを下板1b,2bの板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、若しくは前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部8aを得ると共に、さらに、2つの溶接金属部7b,8bをT型継手の上下に備えた上下T型溶接継手12を得るようにしている。
【0102】
このような溶接施工の構成により、ワイヤ溶着充填及び溶接断面積Aの確保(A>B1)によって、上述したように、溶け不足やアンダーカット及びポロシティ等の溶接欠陥のない品質良好な溶接金属部7a,7b,8a,8bを上下に備えた上下T型溶接継手12及び上板及び下板の材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。また、従来の多パス溶接やフラックス塗布方式の溶接施工と比べて作業工数が大幅に削減でき、同時に、多パス溶接で生じていた大きな変形と比べて変形量が大幅に減少するので歪取り作業が削減でき、生産性向上及びコスト低減が可能となる。
【0103】
前記フラックス入りワイヤ4の内部に充填されているフラックス剤は、上述したように、少なくともTiO2,Cr23及びSiO2からなる酸化物が混合された粉末剤であり、前記非消耗電極方式のアーク6溶接部分に送給されるフラックス入りワイヤの溶着量は1g/分以上7g/分以下の範囲であり、好ましくは2g/分以上5g/分以下の範囲であり、かつ、立板3の溶け幅wが上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1より大きく(w>T1)形成されていると共に、溶接金属部7b,8bに含まれる酸素ガスの含有量が100wt.ppm以上200wt.ppm以下の範囲であることにより、品質良好な溶接金属部7b,8bを上下両側に有する上下T型溶接継手及び上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1の材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。
【0104】
なお、フラックス入りワイヤ4の溶着量が1g/分より少ないと、フラックス入りワイヤ4が溶融プール7a,8a内(溶融金属内)へスムーズに入らすに不規則な溶着状態になると共に酸素の溶解量が過少な状態になるため、溶接ビードが不整な形状になると同時に、溶け込み深さが浅い形状になって立板3まで溶け込まず、若しくは立板3まで溶けても溶け幅wが確保(w>T1)できないので好ましくない。一方、フラックス入りワイヤ4の溶着量が7g/分より多いと、アークエネルギーがワイヤの溶融に消費されると共に酸素の溶解量が過大な状態になるため、溶け込み深さが浅い形状になると同時に、溶接金属部7b,8bに含まれる酸素ガスの含有量が許容基準(例えば、200wt.ppm以下)を超えると共に、溶接金属部7b,8bの靭性強度が低下するので好ましくない。したがって、溶接金属部7b,8bに含まれる酸素ガスの含有量が100wt.ppm以上200wt.ppm以下の範囲であることにより、母材強度と同程度の溶接強度及び靭性強度を有する溶接金属部7b,8b及びその上下T型溶接継手12を得ることができる。
【0105】
また、上述したように、前記フラックス入りワイヤ4は、溶接進行方向の前方からアーク6溶接部分に送給、又は溶接進行方向の後方からアーク6溶接部分に送給することができる。特に、前記フラックス入りワイヤ4の先端部を溶融プールへ接触又は挿入させるように送給することにより、例えば、小電流から大電流まで広範囲の溶接電流(例えば100A〜350A)を出力させる場合や低速送りの少量ワイヤの場合であっても、前記フラックス入りワイヤ4がアーク6直下の溶融プール7a内にスムーズに入り、大きな溶滴にならずに安定して溶融及び溶着させることができる。同時に、上板1a,2aの板表面又は下板1b,2bの板表面からの立板3まで深く溶け込み、その立板3の溶け幅wを上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅w部分の溶接断面積Aを前記板厚T1部分の板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成した溶け込み形状の溶接金属部7b,8bを得ることができる。
【0106】
さらに、前記溶け込み促進性のフラックス入りワイヤ4の代わりにソリッドワイヤ若しくはストランドワイヤを使用する時には、前記フラックス入りワイヤ4使用の時よりも、前記酸化性ガスの濃度を倍増したシールドガス10bを使用又は前記酸化性ガス入りのシールドガス10bの流量若しくは流速を増加したシールドガスを使用して非消耗電極方式のアーク溶接を遂行することによって、酸化性ガスから解離した酸素が溶融プール内に多く溶解するので特定深さまで溶融させることができる。同時に、ワイヤ溶着充填及び溶接断面積Aの確保(A>B1)によって、上述したように、溶け不足やアンダーカット及びポロシティ等の溶接欠陥のない品質良好な溶接金属部7a,7b,8a,8bを上下に備えた上下T型溶接継手12及び上板及び下板の材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。
【0107】
一方、下板1b,2bがなく、上板1a,2aのみがあるT型継手を溶接する時には、図3の(2)に示したように、前記二重シールド構造の溶接トーチ13及びフラックス入りワイヤ4を用いた非消耗電極方式のアーク溶接の遂行によって、上板1a,2aの板表面から裏面貫通後の立板3の溶け幅wを上側の板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は立板3の溶け幅部分の溶接断面積Aを上側の板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、若しくは前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部7a,7bをT型継手の片側に備えるようにするとよい、これにより、溶け不足やアンダーカット及びポロシティ等の溶接欠陥のない品質良好な溶接金属部7bを有する上下T型溶接継手12及び上側の板厚材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。
【0108】
また、図3の(2)と(3)及び(4)に示すように、本発明の上下T型溶接継手では、不活性ガスのシールドガス9bと酸化性ガス入りのシールドガス10bとを流出させる二重シールド構造の溶接トーチ13(二重シールドガス供給手段)を用いて非消耗電極方式のアーク溶接を上板1a,2aの板表面又は前記上板1a,2aと対向する下板1b,2bの板表面から各々別々に遂行すると同時に、溶け込み深さ促進性のフラックス入りワイヤ4をアーク6溶接部分に送給しながら立板3まで各々別々に溶融させ、少なくとも前記上板1a,2aの板表面又は前記下板1b,2bの板表面から裏面貫通後の立板3の各溶け幅wを前記上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は上板及び下板1a,1b,2a,2bの板裏面の貫通部分若しくは立板3の溶け幅部分の各溶接断面積Aを上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、若しくは前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部7a,7b,8a,8bをT型継手の上下両側に備えた構造の上下T型溶接継手12にすることもできる。
【0109】
また、前記立板3の各溶け幅wがw>T1の大きさ、又は前記溶接断面積AがA>B1の大きさ、又は前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方がw>T1及びA>B1の大きさのいずれかを有する溶け込み形状の溶接金属部7b,8bが、前記フラックス入りワイヤ4及び二重シールドガス供給手段を用いた非消耗電極方式のアーク溶接によってT型継手の上下両側に1パスずつ形成されているとすることもできる。
【0110】
このような構成により、上述したように、溶け不足やアンダーカット及びポロシティ等の溶接欠陥のない品質良好な溶接金属部7b,8bを上下両側に有する上下T型溶接継手12及び上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1の材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。また、従来の多パス溶接やフラックス塗布方式の溶接施工と比べて作業工数が大幅に削減でき、同時に、多パス溶接で生じていた大きな変形と比べて変形量が大幅に減少するので歪取り作業が削減でき、生産性向上及びコスト低減が可能となる。
【0111】
〔実施形態4〕
図4は、本発明の上下T型継手の溶接方法及びその上下T型溶接継手に係わるレーザ溶接手順及び溶け込み形状の実施形態を示す説明図である。図1及び図3との主な相違点は、前記アーク溶接の代わりに、レーザトーチを用いて焦点ぼかしのレーザビーム照射によるレーザ溶接を遂行すると同時に、レーザ溶接部分にワイヤを送給しながら下側の立板まで溶融させるようにしたことである。他の部分や符号は、図1及び図3と略同じである。
【0112】
すなわち、図4の(2)に示すように、焦点ぼかしのレーザ溶接(第2工程35)では、レーザビーム18の焦点位置19を上板1a,2aの板表面より上側へずらした位置(距離L)となるようにレーザトーチ17を配置し、前記焦点ぼかしのレーザビーム18照射によるレーザ溶接を遂行すると同時に、レーザ溶接部分にワイヤ44を送給しながら立板3まで溶融させ、少なくとも上板1a,2a裏面貫通後の立板3の溶け幅wを上板1a,2aの板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時に上板1a,2aのビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は上板1a,2aの裏面の貫通部分若しくは立板3の溶け幅w部分の溶接断面積Aを上板1a,2aの板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、又は前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部77aを得るようにしている。
【0113】
特に、使用するレーザビーム18の焦点位置19を、少なくとも前記上板1a,2aの板表面より上側へずらした位置L(例えば、上板1a,2aの板厚T1より大きな距離L>T1だけ上側へ離した位置)となるようにレーザトーチ17(例えば、レーザビーム18を集光して加工物に照射する集光レンズ等から構成されているレーザ加工トーチ)を配置して、焦点ぼかしのレーザビーム18を溶接すべき箇所に照射することが重要である。このような焦点ぼかしのレーザビーム18を用いたレーザ溶接を遂行することによって、深さ方向に深く溶け込む従来のキーホール型の溶け込み形態から幅方向に溶け広がる溶け込み形態に変化させることができる。この溶け込み形態の変化によって、金属蒸気及びスパッタ発生が激減できると同時に、立板3の溶け幅wが上板1a,2aの板厚T1より大きく(w>T1)形成、また、立板3の溶け幅w部分の溶接断面積Aも上板1a,2aの板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成した溶け込み形状の溶接金属部77aを得ることができる。レーザビーム18については、既に市販のCO2レーザ又はYAGレーザ又はファイバーレーザ又はディスクレーザのいずれかを使用すればよい。
【0114】
なお、前記レーザビーム18の焦点位置が板表面となるジャストホーカス(距離L=0)に定めた時やT型継手の内部側(距離L<0)に定めた時には、深さ方向に深く溶け込む従来のキーホール型の溶け込み形態によって深い溶け込み形状になり、反対に、溶接幅方向の溶け込み幅が狭くなってしまうため、立板3の溶け幅wを上板の板厚T1より大きく(w>T1)形成することができない。さらに、金属蒸気及びスパッタが多発するので好ましくない。
【0115】
レーザ溶接部分に送給するワイヤ44は、T型継手の部材と同質系のソリッドワイヤ又はストランドワイヤを使用すればよい。また、前記溶け込み促進性のフラックス入りワイヤ4を使用することも可能である。レーザ溶接部分に流すシールドガス9cについては、Arガス又はN2ガスを使用すればよい。このように、シールドガス9cの雰囲気中で、かつ、焦点ぼかしのレーザビーム18照射によるレーザ溶接の遂行及びレーザ溶接部分にワイヤ44を送給及び溶着させることによって、溶け不足やアンダーカット及びポロシティ等の溶接欠陥のない品質良好な溶接金属部77b,88b及び該溶接金属部77b,88bを上下に備えた上下T型溶接継手14を得ることができる。
【0116】
第1工程31では、図4の(1)に示すように、床面に対して垂直方向に沿った立板3の上下面(立板両面)に、水平方向に沿った上板及び下板1a,1b,2a,2bを1枚ずつ配置、又は上板及び下板1a,1b,2a,2bを2枚ずつ並列に突合せ配置して上下T字状に構成したT型継手を製作する。上述したように、溶接対象のT型継手は、原子力機器又は火力機器等に組み込まれる溶接物である。特に耐食性に優れたステンレス鋼材若しくは一般の炭素鋼材からなり、上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1範囲は、2<T1≦6mmである。好ましくは2<T1≦5mmの範囲に抑えるとさらによい。また、立板3の板厚T2範囲は、前記上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1の2倍以上5倍以下(2×T1≦T2≦5×T1)であり、立板3の上下両面に板厚T1の上板及び下板1a,1b,2a,2bを1枚ずつ配置又は2枚ずつ並列に突合せ配置して上下T字状に継手が構成されている。前記上板及び下板1a,1b,2a,2bの突合せ部にはギャップGがほとんどない状態、また、上板及び下板1a,1b,2a,2bとその中間にある立板3との継手面も隙間がほとんどない状態にあり、比較的高精度に位置決め配置されている。
【0117】
なお、上述したように、上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1が2mmより薄いと、溶け過ぎによる溶接変形が増大し易い。反対に、前記上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1が6mmより厚いと、立板3の溶け幅wを十分な大きさに形成することが難しくなる。強制的に溶融接合するには、大出力のレーザ発信装置が必要になると共に、上板及び下板1a,1b,2a,2bの溶け過ぎによる溶接変形が増大し易いので好ましくない。一方、前記立板3の板厚T2が上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1の2倍より薄いと、例えば、溶接すべき上板及び下板1a,1b,2a,2bの溶接線と立板3両面との位置合わせに位置ずれがあったりする場合に、立板3の片端面部に溶けダレが発生したり、溶け込みが偏ったり歪な形状になったりし易い。反対に、立板3の板厚T2が上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1の5倍より厚いと、立板3の板厚T2に対する立板3の溶け幅w及び溶接断面積Aの比率が低下すると共に、上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1との板厚バランスが悪化したり、素材自身の重量が増大したりするので好ましくない。
【0118】
また、上述したように、図4中に記載しているB1は、上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1方向から見た板厚断面積のことであり、さらに、立板3の溶け幅w部分の溶接断面積Aは、前記立板3の溶け幅wと溶接線長さLとの積(A=w×L)で求められる。同様に、前記板厚T1方向の板厚断面積B1は、上板1,2の板厚T1と溶接線長さLとの積(B1=T1×L)で求められ、前記溶け幅wをw>T1に形成すれば、その時の溶接断面積Aは、前記板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成されたことになる。
【0119】
次の第2工程35では、図4の(2)に示すように、前記焦点ぼかしのレーザビーム18照射によるレーザ溶接を遂行すると同時に、レーザ溶接部分にワイヤ44を送給しながら上板1a,2aの板表面から立板3まで溶融させ、少なくとも立板3の溶け幅wを上板1a,2aの板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記立板3の溶け幅w部分の溶接断面積Aを上板1a,2aの板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、又は前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部77aを得るようにしている。これにより、溶け不足やアンダーカット及びポロシティ等の溶接欠陥のない品質良好な溶接金属部77b,77bを片方に備えた上下T型溶接継手14及び上板1a,2aの材料強度と同等以上の溶接強度を得ることができる。
【0120】
前記第2工程35の溶接終了後に継手部材を裏返し反転する。その後に、次の第3工程36に移行する。すなわち、第3工程36では、図4の(3)に示すように、前記焦点ぼかしのレーザビーム18照射によるレーザ溶接を遂行すると同時にレーザ溶接部分にワイヤ44を送給しながら、前記上板1a,2aと対向する下板1b,2b(継手部材を上下反転しているので該当する下板1b,2bは上側の位置にある)の板表面から立板3まで溶融させる。特に、この溶融接合によって、前記第2工程35の時と同様に、少なくとも前記立板3の溶け幅wを下板1b,2bの板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は下板1b,2bの板裏面の貫通部分若しくは立板3の溶け幅部分の溶接断面積Aを下板1b,2bの板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、若しくは前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部88aを得ると共に、さらに、2つの溶接金属部77b,88bをT型継手の上下に備えた上下T型溶接継手14を得るようにしている。
【0121】
このような溶接施工の構成により、ワイヤ溶着充填及び溶接断面積Aの確保(A>B1)によって、上述したように、溶け不足やアンダーカット及びポロシティ等の溶接欠陥のない品質良好な溶接金属部77b,77b,88a,88bを上下に備えた上下T型溶接継手14及び上板及び下板の材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。また、従来の多パス溶接やフラックス塗布方式の溶接施工と比べて作業工数が大幅に削減することができる。さらに、アーク溶接と比べてレーザ溶接の入熱量が少なく、変形量も減少するので歪取り作業が削減でき、生産性をさらに高めることできる。
【0122】
また、上述したように、立板3の溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成することにより、所定形状の健全な溶接金属部が得られると共に、T型継手の溶接表面に凹みやアンダーカットのない凸形状の良好な溶接ビードを得ることができる。なお、ビード表面高さCが1mmより小さいと、ビード境界部にアンダーカットが生じ易い。反対に、ビード表面高さCが3mmより大き過ぎると、溶け込み深さが浅くなったり、ビード外観が悪くなったり、過剰な出っ張り部分が邪魔になったりするので好ましくない。
【0123】
さらに、前記T型継手を下向姿勢から横向姿勢又は立向姿勢に変更して溶接する時には、継手部材1a,1b,2a,2b,3を横向姿勢又は立向姿勢に組立配置(継手部材1a,1b,2a,2b,3を90度左回転させた姿勢状態)した後に、前記焦点ぼかしのレーザビーム18を用いたレーザ溶接の遂行によって、一方(例えば、上板1a,2a側)の板表面から横向姿勢又は立向姿勢の状態で立板3まで溶接し、その後に他方(例えば、下板1b,2b側)の板表面から横向姿勢又は立向姿勢の状態で立板3まで溶接し、又は前記焦点ぼかしのレーザビーム18を用いた2組のレーザ溶接の遂行によって、時間的及び空間的に遠く離れた位置で左右両側の継手部を横向姿勢又は立向姿勢の状態で立板3まで各々別々に溶接し、少なくとも立板3の溶け幅wがw>T1の大きさ又は前記溶け幅w部分の溶接断面積AがA>B1の大きさを有する溶け込み形状の溶接金属部77a,77b,78a,78bをT型継手の左右両側に備えることにより、溶接作業時間が大幅に短縮できると共に、健全な溶け込み形状を有する溶接金属部77b,78b及びその上下T型溶接継手14を得ることができる。
【0124】
また、図4の(2)と(3)及び(4)に示すように、本発明の上下T型溶接継手では、前記焦点ぼかしのレーザビーム18を用いたレーザ溶接を上板1a,2aの板表面又は前記上板1a,2aと対向する下板1b,2bの板表面から各々別々に遂行すると同時に、レーザ溶接部分にワイヤ44を送給しながら立板3まで各々別々に溶融させ、少なくとも前記上板及び下板1a,2a,1b,2bの板表面から裏面貫通後の立板3の各溶け幅wを前記板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は前記上板及び下板1a,1b,2a,2b裏面側の貫通部分若しくは立板3の溶け幅w部分の各溶接断面積Aを上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、若しくは前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部77a,77b,88a,88bをT型継手の上下両側に備えた構造の上下T型溶接継手14にすることもできる。
【0125】
また、前記立板3の各溶け幅wがw>T1の大きさ、又は前記溶接断面積AがA>B1の大きさ、又は前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方がw>T1及びA>B1の大きさのいずれかを有する溶け込み形状の溶接金属部77b,88bが、前記焦点ぼかしのレーザビーム用いたレーザ溶接によってT型継手の上下両側に1パスずつ形成されているとすることもできる。
【0126】
このような構成により、上述したように、溶け不足やアンダーカット及びポロシティ等の溶接欠陥のない品質良好な溶接金属部77b,88bを上下両側に有する上下T型溶接継手14及び上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1の材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。また、従来の多パス溶接やフラックス塗布方式の溶接施工と比べて作業工数が大幅に削減することができる。さらに、アーク溶接と比べてレーザ溶接の入熱量が少なく、変形量も減少するので歪取り作業が削減でき、生産性をさらに高めることできる。
【0127】
〔実施形態5〕
図5は、本発明の上下T型継手の溶接方法及びその上下T型溶接継手に係わるレーザ溶接手順及び溶け込み形状の他の実施形態を示す説明図である。図4との主な相違点は、立板3の上下両面に上板1a,2a及び下板2b,2bを2枚ずつ並列に突合せ配置する時に、上板1a,2a同士の突合せ部又は下板1b,2b同士の突合せ部にギャップGがあったりなかったりするT型継手の実施例であり、その他の部分や符号は、図4と略同じである。
【0128】
上述したように、溶接線の長い部材のT型継手では、ギャップGがない状態に組み立てることが意外と難しく、上板1a,2a同士の突合せ部又は下板1b,2b同士の突合せ部にギャップGがあったりなかったりする状態になり易く、また、前記上板1a,2aと立板3の上面又は前記下板1b,2bと立板3の下面との継手密着面にも僅かな隙間があったりなかったりすることがある。特に、前記ギャップGが全体的に過大な場合や、許容値を時々超えたりするバラツキの大きなギャップG変化の場合には、溶接品質に悪影響(例えば、不均一な溶け込み,不揃いなビード形状,アンダーカットなど)が発生し易い。これを避けるため、本実施例では、許容可能なギャップG範囲を以下のように限定している。
【0129】
すなわち、図5の(1)に示すように、最初の第1工程31では、立板3の上下両面面に上板1a,2a及び下板1b,2bを2枚ずつ並列に突合せ配置する時に、各突合せ部にギャップGが殆んどない状態又はあっても上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1の0.2倍以下の小さいギャップG範囲(0≦G≦0.2×T1)に設定している。好ましくは0.1倍以下の0≦G≦0.1×T1の範囲に抑えて設定するとさらによい。また、上板1a,2aと上板3の上面又は下板1b,2bと立板3の下面との隙間が殆どない状態又はあっても0.5mm以下に抑制するとよい。このように、ギャップG範囲や隙間を抑制することによって、組立精度や位置決め精度が高まり、溶接品質に悪影響を及ぼすことがある要因の一つを取り除くことができる。また、上述したように、溶接対象のT型継手は、例えば、原子力機器又は火力機器等に組み込まれる溶接物である。特に耐食性に優れたステンレス鋼材若しくは一般の炭素鋼材からなり、上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1範囲は、2<T1≦6mmであり、また、立板3の板厚T2範囲は、前記上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1の2倍以上5倍以下(2×T1≦T2≦5×T1)であり、立板3の上下両面に板厚T1の上板及び下板1a,1b,2a,2bを水平方向に2枚ずつ並列に突合せ配置して上下T字状に継手が構成されている。
【0130】
次の第2工程35では、図5の(2)に示すように、前記焦点ぼかしのレーザビーム18照射によるレーザ溶接を遂行すると同時に、レーザ溶接部分にワイヤ44を送給しながら上板1a,2aの板表面から立板3まで溶融させ、少なくとも立板3の溶け幅wを上板1a,2aの板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時に上板1a,2aのビード表面高さCを上板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は前記立板3の溶け幅w部分の溶接断面積Aを上板1a,2aの板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、又は前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部77aを得ると共に、さらに、溶接金属部77a,77bをT型継手の片方に備えた上下T型溶接継手14を得るようにしている。
【0131】
前記第2工程35の溶接終了後に継手部材を裏返し反転する。その後に、次の第3工程36に移行する。すなわち、第3工程36では、図5の(3)に示すように、前記焦点ぼかしのレーザビーム18照射によるレーザ溶接を遂行すると同時にレーザ溶接部分にワイヤ44を送給しながら、前記上板1a,2aと対向する下板1b,2b(継手部材を上下反転しているので該当する下板1b,2bは上側の位置にある)の板表面から立板3側まで溶融させる。特に、この溶融接合によって、前記第2工程35の時と同様に、少なくとも前記立板3の溶け幅wを下板1b,2bの板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は下板1b,2bの板裏面の貫通部分若しくは立板3の溶け幅部分の溶接断面積Aを下板1b,2bの板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、若しくは前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部88aを得ると共に、さらに、2つの溶接金属部77b,88bをT型継手の上下に備えた上下T型溶接継手14を得るようにしている。
【0132】
このような溶接施工の構成により、ワイヤ溶着充填及び溶接断面積Aの確保(A>B1)によって、上述したように、溶け不足やアンダーカット及びポロシティ等の溶接欠陥のない品質良好な溶接金属部77a,77b,88a,88bを上下に備えた上下T型溶接継手14及び上板及び下板の材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。また、従来の多パス溶接やフラックス塗布方式の溶接施工と比べて作業工数が大幅に削減することができる。さらに、アーク溶接と比べてレーザ溶接の入熱量が少なく、変形量も減少するので歪取り作業が削減でき、生産性をさらに高めることできる。
【0133】
なお、所定形状の溶接金属部77b,88bを上下両側に有する上下T型溶接継手14を1パスずつの溶接によって達成することが最も好ましいが、例えば、ワイヤ溶着量の不足によって溶接ビード表面部に余盛り不足やアンダーカットが発生した時には、2パス目の溶接を追加するとよい。立板3の溶け幅w及び溶接断面積Aは、既に1パス目の溶接によって所定(w>T1,A>B1)の大きさに形成済みである。したがって、2パス目の溶接を行う時には、上板1a,2a又は下板1b,2bの各溶接ビード表面が所定範囲(1≦C≦3mm)の高さになるように、1パス目溶接の施工条件を見直して2パス目の溶接施工条件を定め、前層溶接のビード表面部から前記焦点ぼかしのレーザビームを用いたレーザ溶接を再度遂行することによって、前記余盛り不足及びアンダーカットが解消されて、健全な余盛り高さの溶接ビード及び溶け込み形状を有する溶接金属部7bに改善することができる。
【0134】
また、下板1b,2bがないT型継手の場合には、前記第3工程36のレーザ溶接が不要となり、第2工程35のレーザ溶接の遂行によって上板1b,2bを立板3に溶接すればよい。すなわち、図4の(2)及び図5の(2)に示したように、前記焦点ぼかしのレーザビーム18を用いたレーザ溶接の遂行によって、上板1a,2aの板表面から裏面貫通後の立板3の溶け幅wを前記上板1a,2aの板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は立板3側の溶け幅w部分の溶接断面積Aを上側の板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、若しくは前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部7a,7bをT型継手の片側に備えるようにするとよい。これにより、上述したように、溶け不足やアンダーカット及びポロシティ等の溶接欠陥のない品質良好な溶接金属部77bを有する上下T型溶接継手14及び上側の板厚材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。
【0135】
また、図5の(2)と(3)及び(4)に示すように、本発明の上下T型溶接継手では、前記焦点ぼかしのレーザビーム18を用いたレーザ溶接を上板1a,2aの板表面又は前記上板1a,2aと対向する下板1b,2bの板表面から各々別々に遂行すると同時に、レーザ溶接部分にワイヤ44を送給しながら立板3まで各々別々に溶融させ、少なくとも前記上板及び下板1a,2a,1b,2bの板表面から裏面貫通後の立板3の各溶け幅wを前記板厚T1より大きく(w>T1)形成、又は前記溶け幅wをw>T1の大きさに形成すると同時にビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成、又は前記上板及び下板1a,1b,2a,2b裏面側の貫通部分若しくは立板3の溶け幅w部分の各溶接断面積Aを上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成、若しくは前記溶け幅w及び前記溶接断面積Aの両方をw>T1及びA>B1の大きさに形成した溶け込み形状の溶接金属部77a,77b,88a,88bをT型継手の上下両側に備えた構造の上下T型溶接継手14にすることもできる。
【0136】
このような構成により、上述したように、溶け不足やアンダーカット及びポロシティ等の溶接欠陥のない品質良好な溶接金属部77b,88bを上下両側に有する上下T型溶接継手14及び上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚T1の材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。また、従来の多パス溶接やフラックス塗布方式の溶接施工と比べて作業工数が大幅に削減することができる。さらに、アーク溶接と比べてレーザ溶接の入熱量が少なく、変形量も減少するので歪取り作業が削減でき、生産性をさらに高めることできる。
【0137】
〔実施形態6〕
図6は、図1に示される溶接方法を適用した時の板厚別の溶接電流Iと立板3の溶け幅w及び溶け込み深さhの関係を示す実施例である。図6中の上部側には、溶接電流を変化させて溶接した上板側の板厚別の代表的な断面写真を開示している。なお、図6中の枠内の説明では、溶け込み深さhを「溶け深さh」と簡略化して記載する。上側の板厚T1が3,4,6mmからなる3種類(T1=3,4,6)の上板1を用意し、立板3の板厚T2が12mmで一定(T2=12)とし、何れもステンレス鋼材(SUS304L)を使用した。また、溶接速度(毎分当たりの溶接ビードの長さ)を一定(65mm/分)、フラックス入りワイヤ4の送給量を一定(2g/分)にして、上板の板厚別に溶接電流Iを変化させて溶接した。
【0138】
図6から明らかなように、立板3の溶け幅w及び溶け込み深さhは、溶接電流Iの増加に伴って増加し、立板3の溶け込み深さhが1mm以上の形成領域では、溶け幅wが何れも上板の板厚T1以上の大きさに形成された。例えば、立板3の溶け幅wが上板厚T1以上に形成される溶接電流Iは、上側の板厚がT1=3mmの場合で約155A以上、T1=4mmの場合で約195A以上、T1=6mmの場合で約275Aであった。また、図6中に示された板厚別の断面写真は、立板3の溶け込み深さhが約1.2〜1.7mmある部分の溶け込み形状であり、何れの断面も溶け幅wが上側の板厚T1を上回る大きさに形成された結果になっている。
【0139】
このように、本実施例では、各種板厚に対応した適正な溶接電流等の溶接条件を設定して非消耗電極方式のアーク溶接を遂行すると同時に前記フラックス入りワイヤ4をアーク6溶接部分に送給しながら、上板1a,2aの板表面から立板3側まで溶融させることにより、上側の板厚T1以上の溶け幅wが立板3に形成され、上板1a,2aと立板3とを確実に溶融接合した溶接金属部7b、及び上板1の板厚断面積と同等以上の溶接断面積Aを確保することができた。また、このような大きさの溶接金属部7bを備えた上下T型溶接継手を製造できることも確認できた。なお、ここでは、片方の上下T型溶接継手の溶け込み形状及びその溶接断面写真を記載したが、図1の(2)〜(4)に示したように、T型継手の両側溶接を遂行することによって、上述した溶け込み形状及び大きさの溶接金属部7b,8bを上下両側に備えた上下T型溶接継手12を得ることができる。
【0140】
〔実施形態7〕
図7は、図1に示される溶接方法を適用した時のT型継手の溶接電流Iと入熱量Q及び上板表面からの溶け込み深さHの関係を示す実施例である。なお、図7中の枠内の説明では、上板表面からの溶け込み深さHを「溶け込み深さH」、立板の溶け込み深さhを「溶け深さh」と簡略化して記載する。上側の板厚T1が3,4,6mmからなる3種類(T1=3,4,6mm)の上板1aを用意し、立板3の板厚T2が12mmで一定(T2=12)とし、何れもステンレス鋼材(SUS304L)を使用した。また、溶接速度(毎分当たりの溶接ビードの長さ)を一定(65mm/分)、フラックス入りワイヤの送給量を一定(2g/分)にして、上板1aの板厚別に溶接電流Iを変化させて溶接した。溶接の入熱量Q(kJ/cm)は、溶接電流I(A)とアーク電圧Va(V)及び溶接速度V(mm/分)の関係より算出した。また、上板表面からの溶け込み深さHは、上側の板厚T1と下側の立板3の溶け深さhとを加算した値(H=T1+h)となる。
【0141】
図7から明らかなように、上板表面からの溶け込み深さHは、溶接速度が一定(65mm/分)の場合、何れの板厚(T1=3,4,6mm)も溶接電流Iの大きさにほぼ比例増加している。また、溶接の入熱量Qも同様に、溶接電流Iの大きさに比例して増加している。立板3の溶け幅wについては、図6に示した大きさの値になっている。したがって、立板3の溶け幅wを上板1aの板厚T1より大きく(w>T1)形成させるように、各種板厚に対応した適正な溶接電流Iや入熱量Q等の溶接条件を設定してアーク溶接を遂行すると同時に、溶け込み深さ促進性のフラックス入りワイヤ4をアーク6溶接部分に送給しながら、上側の板表面から立板3まで溶融させるとよい。このように溶接することにより、上板1aと立板3とを確実に溶融接合した溶接金属部7b及び上板1aの板厚断面積B1より大きい(A>B1)形状の溶接断面積Aを得ることができた。なお、ここでは、片方の上下T型溶接継手における溶接電流Iと入熱量Q及び板表面からの溶け込み深さHの関係を記載したが、図1の(2)〜(4)に示したように、T型継手の両側溶接を遂行することによって、上述した溶け込み形状及び大きさの溶接金属部7b,8bを上下両側に備えた上下T型溶接継手12を得ることができ、また、上板及び下板1a,1b,2a,2bの板厚断面積B1より大きい(A>B1)形状の溶接断面積Aを得ることができる。
【0142】
〔実施形態8〕
図8は、図1に示される溶接方法を適用した時のフラックス入りワイヤの溶着量と溶け込み深さ及び溶金部のOガス含有量の関係を示す実施例である。ステンレス鋼材(材質SUS304L,板厚9.7mmの平板)を使用し、溶接速度を一定(65mm/分)、溶接電流を200〜260Aの範囲内で変化、溶け込み促進性のフラックス入りワイヤ4の送給量(0〜8.6g/分)を変化させて溶接した。所定量の溶接金属部(溶金部)を採取し、溶解赤外線吸収法によって溶金部のOガス含有量を分析測定した結果である。図8中には、使用板厚の1/2以上の溶け込み深さが確保されている領域のフラックス入りワイヤ4の溶着量範囲とOガス含有量の最小値を記載している。
【0143】
図8から明らかなように、フラックス入りワイヤの溶着量が0g/分(ワイヤなし)の時には、溶金部のOガス含有量が17wt.ppmで少なく、母材部の値と比べて約半分の値であり、また、溶け込み深さが3mm以下で浅く、特定の溶け込み(例えば、板厚が4〜5mmの上板T1を貫通溶融し得る溶け込み深さ)に到達しておらず、溶け不足に至っている。フラックス入りワイヤの溶着量が0.8〜6.8g/分の範囲内では、溶け込み深さが5.6〜7mmに深くなっており、特定の溶け込み深さに到達している。この時のOガス含有量は、少しばらついているが、100〜250wt.ppmの範囲である。フラックス入りワイヤの溶着量が前記範囲より多い時(例えば、8.6g/分)には、溶け込み深さが3.4mmまで減少して特定深さに到達しておらず、溶け不足に至っている。T型継手の溶接では、上板1a,2aの板表面から立板3まで溶融させる必要があると共に、立板3の溶け幅wを上板1a,2aの板厚T1より大きく(w>T1)形成することが最も重要である。したがって、立板3の溶け幅w(上板と立板との接合面部)がw>T1の大きさになるフラックス入りワイヤの溶着量は、図8に示したように、0.8〜6.8g/分の範囲内であり、小数点以下を四捨五入して1g/分以上7g/以下を適正範囲とした。また、上記溶け込み深さを有する溶金部に含有されたOガス含有量は、100〜250wt.ppmの範囲であるが、200wt.ppmを超えると、溶金部の靭性強度が低下して好ましくないので切り捨てて、100wt.ppm以上200wt.ppm以下の範囲に限定した。なお、立板3の溶け幅wの調整については、前記フラックス入りワイヤの溶着量の他に、溶接電流Iや溶接速度など溶接入熱条件の大きさによって調整可能であり、継手部材の板厚や用途に応じて所定範囲の溶け幅w若しくは溶接断面積Aを確保するように、事前に確認試験を行って調整するとよい。
【0144】
図1〜図5に示したように、T型継手の上板及び下板1a,2a,1b,2bの板厚T1範囲(2<T1≦6mm)対応した溶接電流でアーク溶接を遂行又は前記焦点ぼかしのレーザビーム照射によるレーザ溶接を遂行すると同時に、前記アーク溶接部分又は前記レーザ溶接部分に送給するフラックス入りワイヤの溶着量が1g/分以上7g/分以下の範囲であり、好ましくは2g/分以上5g/分以下の範囲であり、かつ、立板3の溶け幅wが前記上板及び下板1a,2a,1b,2bの板厚T1より大きく(w>T1)形成されていると共に、前記溶接金属部に含まれる酸素ガスの含有量が100wt.ppm以上200wt.ppm以下の範囲であることにより、品質良好な溶接金属部7b,77b,8b,88b、を上下両側に備えた上下T型溶接継手及び上板及び下板の材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。
【0145】
〔実施形態9〕
図9は、複数のT型継手及び溶接線を有する溶接構造物の概略を示す一実施例の斜視図である。図9中の下段には、T型継手の溶接部の断面A,角継手の溶接部の断面Bを記載してある。床面に対して垂直方向に沿った複数の立板3の上下両面に上下両側から水平方向に沿った複数の上板1a,2a及び下板1b,2bを各々配置して上下T字状に構成されたT型継手の溶接構造物28である。この溶接構造物28は、例えば、原子力機器又は火力機器に組み込まれ、しかも、上下T型溶接継手の溶接部を含む大部分が高温水蒸気媒体若しくは腐食性媒体と接触する環境状態に配備されることになるものである。複数の立板3の上下両面に配置されている複数の上板1a,1b及び下板2a,2bは、溶接線15,16の部分及びその近傍部分を除外した他の部分の板面に多数の孔が予め形成されている多孔板であり、太い黒線部分が溶接線15,16である。溶接構造物28の材質は、耐食性に優れたステンレス鋼であり、高温水蒸気体若しくは腐食性流体が主に前記孔を通過する構造になっている。図9中に記載の溶接線15がT型継手の溶接部、また、左右両端部にある溶接線16が角継手の溶接部である。立板3の上下両面に各々配置されている上板1a,2a及び下板1b,2bの板厚T1範囲は、上述したように、2<T1≦6mmである。
【0146】
T型継手の溶接部(溶接線15,断面A)は、図1〜図5に示した溶接方法を適用して立板3まで各々溶接されているものでおり、また、角継手の溶接部(溶接線16,断面B)においては、前記溶接方法を応用して立板3の溶け幅wがw>T1の大きさになるように角型溶接されている。すなわち、溶け込み促進性のフラックス入りワイヤ4を用いた前記非消耗電極方式のアーク溶接又は前記焦点ぼかしのレーザビームを用いたレーザ溶接の遂行によって、立板3の各溶け幅wがw>T1の大きさ、又は前記溶け幅w部分の溶接断面積AがA>B1の大きさに形成された溶け込み形状の溶接金属部7b,8bをT型継手の上下両側又は角型継手の上下両側に各々備えた構造の溶接構造物28である。
【0147】
このような溶接施工の構成により、上述したように、溶け不足やアンダーカット及びポロシティ等の溶接欠陥のない品質良好な溶接金属部7b,77b,8b,88bを上下両側に備えた上下T型溶接継手12,14又は角型溶接継手及びこれを用いた溶接構造物28が得られ、また、立板3の溶け幅w部分の溶接断面積Aが確保(A>B1)されているので、上板及び下板の板厚材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。また、従来の多パス溶接と比べて変形量が大幅に減少するので歪取り作業が削減でき、生産性向上及びコスト低減が可能となる。さらに、この溶接構造物28は、原子力機器又は火力機器に組み込まれ、上下T型溶接継手12,14の溶接金属部7b,77b,8b,88b,15又は該上下T型溶接継手12,14と並んでいる角型溶接継手の溶接部16、断面Bを含む溶接構造物28が高温水蒸気媒体若しくは腐食性媒体と接触する環境状態に配備されるため、原子力機器又は火力機器の稼動によって蒸気媒体環境下若しくは腐食環境下で長期間適用されても、耐食性及び溶接強度が高いので腐食割れ等の事象を防止でき、長寿命化に寄与することができる。
【0148】
以上述べたように、本発明の上下T型継手の溶接方法及びその上下T型溶接継手12,14並びにこれを用いた溶接構造物28によれば、溶け不足やアンダーカット及びポロシティ等の溶接欠陥のない品質良好な溶接金属部7b,77b,8b,88bを有する上下T型溶接継手12,14及びこれを用いた溶接構造物28が得られ、また、立板3の溶け幅w部分の溶接断面積Aが確保(A>B1)されているので、上板及び下板の材料強度と同等以上の溶接強度(例えば引張強度)を得ることができる。また、従来の多パス溶接やフラックス塗布方式の溶接施工と比べて作業工数が大幅に削減でき、同時に、多パス溶接で生じていた大きな変形と比べて変形量が大幅に減少するので歪取り作業が削減でき、生産性向上及びコスト低減が可能となる。さらに、原子力機器又は火力機器の稼動によって蒸気媒体環境下若しくは腐食環境下で長期間適用されても、耐食性及び溶接強度が高いので腐食割れ等の事象を防止でき、長寿命化に寄与することができる。
【0149】
〔比較例〕
図10は、従来のTIG溶接方法による開先溝付きT型継手の多パス溶接形状を示す比較例の断面図である。また、図11は、従来のTIG溶接方法による他のギャップ付きT型継手の多パス溶接形状を示す他の比較例の断面図である。さらに、図12は、従来のTIG溶接方法による他のギャップ付きT型継手の多パス溶接形状を示すさらに他の比較例の断面図である。
【0150】
すなわち、従来のTIG溶接方法では、溶け込みが浅いため、図10の(1)に示すように、上板1及び立板3を溶け易くするために、上板1表面部に開先溝20を形成して薄肉化している。そして、図10の(2)に示すように、最初に、開先溝20の薄肉部を溶接して立板3まで溶け込ませて初層溶接部22を形成している。その後に、上板1上部まで複数の積層溶接部23を順次積層する多パス溶接を遂行している。また、比較例に係わる他の方法として、図11の(1)及び(2)に示すように、上板1,2を2枚並列に配置した継ぎ目部分に大きなギャップ21(隙間G)を設け、この継手ギャップ21の底部及び立板3側の空間部を溶接して立板3まで溶け込ませて初層溶接部22を形成した後に、開先上部まで複数の積層溶接部23を順次積層する多パス溶接を遂行している。また、比較例に係わるさらに他の方法として、図12の(1)及び(2)に示すように、上板1,2を2枚並列に配置した継ぎ部に大きな継手ギャップ21を設け、立板3と左右両側の上板1とを各々隅肉溶接24した後に、残り継ぎ部の中央部分を肉盛りする溶接25を遂行している。
【0151】
このため、図10,図11及び図12に示した従来のTIG溶接方法では、工数増加の多パス溶接が必要であり、また、溶接変形も増加する結果に成り易いという問題がある。
【0152】
図13は、従来のレーザ溶接方法によるT型継手の溶け込み形状を示す比較例の断面図である。すなわち、従来のレーザ溶接方法では、キーホール型の深い溶け込み及び幅の狭い溶接であるため、図13の(2)に示すように、レーザ溶接部26のビード幅及び上板1貫通後の立板3の溶け幅wが狭いので、溶接強度に相関関係のある溶接断面積が小さい。また、レーザ溶接中に金属蒸気及びスパッタが多発し易い。累計の溶接断面積を大きくするためには、例えば、レーザビームを複数箇所に照射して複数のレーザ溶接部26を形成して、各々狭い溶け幅wを複数加えて広げるようにしていた。
【符号の説明】
【0153】
1a,2a T型継手の上板
1b,2b T型継手の下板
3 T型継手の立板
4 フラックス入りワイヤ
5 非消耗性電極
6 アーク
7a,77a,8a,88a 溶融金属(溶融プール)
7b,77b,8b,88b 溶接金属部
9a 内側ノズル
9b 不活性ガス
9c シールドガス
10a 外側ノズル
10b 酸化性ガス入り混合ガス
11 溶接トーチ
12,14 溶接後の上下T型溶接継手
13 二重シールド構造の溶接トーチ
15 T型継手の溶接線(溶接部)
16 角型継手の溶接線(溶接部)
17 レーザトーチ
18 レーザビーム
19 焦点位置
20 開先溝
21 継手ギャップ
22 初層溶接部
23 積層溶接部
24,25 隅肉溶接部
26 レーザ溶接部
28 溶接構造物
44 ワイヤ
T1 上下板の板厚
T2 立板の板厚
w 立板の溶け幅
C ビード表面高さ
h 立板の溶け深さ
A 溶け幅w部分の溶接断面積
B1 上下板の板厚断面積
L 焦点ずれ高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立板の上下両面に、1枚もしくは突合せ配置された2枚の上板及び下板が配置されたステンレス鋼板からなり、上板及び下板の表面から立板側まで、ワイヤを送給しながら、非消耗電極方式のアーク溶接またはレーザビームの焦点位置を板表面より上側へずらした焦点ぼかしのレーザビーム照射によるレーザ溶接を行う上下T型継手の溶接方法において、
上板または下板の板厚T1の範囲が2<T1≦6mmであり、
立板の板厚T2の範囲が前記板厚T1の2〜5倍(2×T1≦T2≦5×T1)であり、
前記上板又は前記下板の貫通後の立板の溶け幅wが、前記板厚T1より大きい(w>T1)ことを特徴とする上下T型継手の溶接方法。
【請求項2】
立板の上下両面に、1枚もしくは突合せ配置された2枚の上板及び下板が配置されたステンレス鋼板からなり、上板及び下板の表面から立板側まで、ワイヤをアーク溶接部分に送給しながら非消耗電極方式のアーク溶接を行う上下T型継手の溶接方法において、
上板または下板の板厚T1の範囲が2<T1≦6mmであり、
立板の板厚T2の範囲が前記板厚T1の2〜5倍(2×T1≦T2≦5×T1)であり、
前記上板及び下板に形成された板裏面の貫通部分若しくは立板溶け幅部分の溶接断面積Aが、上板または下板の板厚断面積B1より大きい(A>B1)ことを特徴とする上下T型継手の溶接方法。
【請求項3】
請求項1に記載された上下T型継手の溶接方法であって、
前記上板及び下板の少なくともいずれかに形成されたビードの表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成することを特徴とする上下T型継手の溶接方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載された上下T型継手の溶接方法であって、
前記アーク溶接を、不活性ガスのシールドガスを流出するシールドガス供給手段、又は不活性ガスのシールドガスと酸化性ガス入りのシールドガスとを流出する二重シールドガス供給手段を用いたシールドガス下で行うことを特徴とする上下T型継手の溶接方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載された上下T型継手の溶接方法であって、
前記ワイヤとして、溶け込み深さ促進性のフラックス剤を含むフラックス入りワイヤを使用することを特徴とする上下T型継手の溶接方法。
【請求項6】
請求項5に記載された上下T型継手の溶接方法において、
前記フラックス入りワイヤに充填されているフラックス剤は、少なくともTiO2,Cr23及びSiO2からなる酸化物が混合された粉末剤であり、
送給されるフラックス入りワイヤの溶着量が1g/分以上7g/分以下の範囲であり、
前記立板の溶け幅wを前記上板及び下板の板厚T1より大きく(w>T1)形成されていると共に、
前記溶接金属部に含まれる酸素ガスの含有量が100wt.ppm以上200wt.ppm以下の範囲であることを特徴とする上下T型継手の溶接方法。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれかに記載された上下T型継手の溶接方法であって、
前記ワイヤとして、ソリッドワイヤ若しくはストランドワイヤを使用することを特徴とする上下T型継手の溶接方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の上下T型継手の溶接方法において、
前記立板の上下両面に、ギャップGなしで、もしくはギャップGを前記板厚T1の0.2倍以下(0≦G≦0.2×T1)として上板及び下板を2枚ずつ突合せ配置することを特徴とする上下T型継手の溶接方法。
【請求項9】
立板の上下両面に上板及び下板を1枚配置又は2枚並列に突合せ配置して上下T型継手の形状を構成する第1工程と、
前記上板の表面から立板側までを前記請求項1又は2の溶接方法により溶接する第2工程と、
前記上板と対向する前記下板の表面から立板側までを前記請求項1又は2の溶接方法により溶接する第3工程と、を有することを特徴とする上下T型継手の溶接方法。
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれかに記載の上下T型継手の溶接方法において、
前記T型継手を横向姿勢又は立向姿勢で溶接する時には、継手部材を横向姿勢又は立向姿勢に組立配置した後に、前記フラックス入りワイヤを用いた非消耗電極方式のアーク溶接又は前記焦点ぼかしのレーザビームを用いたレーザ溶接の遂行によって、一方の板表面から横向姿勢又は立向姿勢の状態で立板側まで溶接し、その後に前記板表面と対向する他方の板表面から横向姿勢又は立向姿勢の状態で立板側まで溶接し、
又は前記フラックス入りワイヤを用いた2組のアーク溶接又は前記焦点ぼかしのレーザビームを用いた2組のレーザ溶接の遂行によって、時間的及び空間的に遠く離れた位置で左右両側の継手部を横向姿勢又は立向姿勢の状態で立板側まで各々別々に溶接し、
少なくとも前記立板の溶け幅wがw>T1の大きさを有する溶け込み形状の溶接金属部を左右T型継手の両側に備えることを特徴とする上下T型継手の溶接方法。
【請求項11】
立板の上下両面に、1枚もしくは突合せ配置された2枚の上板及び下板が配置されたステンレス鋼板からなり、ワイヤを用いた非消耗電極方式のアーク溶接またはレーザビームの焦点位置を板表面より上側へずらした焦点ぼかしのレーザビーム照射によるレーザ溶接で、上板及び下板の板表面から立板までを溶接された溶接金属部を有する上下T型溶接継手であって、
上板及び下板の板厚T1範囲が2<T1≦6mmであり、
立板の板厚T2範囲が前記板厚T1の2倍以上5倍以下(2×T1≦T2≦5×T1)であり、
前記上板又は前記下板の貫通後の立板の溶け幅wが前記板厚T1より大きく(w>T1)、
または上板及び下板の板裏面の貫通部分若しくは立板側の溶け幅部分の溶接断面積Aが上板及び下板の板厚断面積B1より大きく(A>B1)形成された溶接金属部をT型継手の上下両側に備えたことを特徴とする上下T型溶接継手。
【請求項12】
請求項11に記載の上下T型溶接継手において、
不活性ガスのシールドガスを流出するシールドガス供給手段、又は不活性ガスのシールドガスと酸化性ガス入りのシールドガスとを流出する二重シールドガス供給手段を用いてアーク溶接またはレーザ溶接されたことを特徴とする上下T型溶接継手。
【請求項13】
請求項11に記載の上下T型溶接継手において、
前記ワイヤは、溶け込み深さ促進性のフラックス剤を含むフラックス入りワイヤであることを特徴とする上下T型溶接継手。
【請求項14】
請求項11に記載の上下T型溶接継手において、
ビード表面高さCを板表面より1〜3mm高い凸形状(1≦C≦3mm)に形成したことを特徴とする上下T型溶接継手。
【請求項15】
請求項11に記載の上下T型溶接継手において、
前記溶接金属部がT型継手の上下両側に1パスずつ形成されていることを特徴とする上下T型溶接継手。
【請求項16】
請求項11に記載の上下T型溶接継手において、
上板及び下板の少なくともいずれか一方は、溶接金属部以外の範囲に予め形成された複数の孔を有する多孔板であることを特徴とする上下T型溶接継手。
【請求項17】
原子力機器又は火力機器に使用され、高温水蒸気媒体若しくは腐食性媒体と接触する環境状態に配備されている溶接構造物であって、前記溶接構造物は、少なくとも一部に請求項11ないし16のいずれかに記載の上下T型溶接継手を有することを特徴とする溶接構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−167425(P2010−167425A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10486(P2009−10486)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】