説明

二元運転モードエンジンシステム

【課題】直接噴射式でディーゼル運転モードとパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードとの切換えが可能な二元運転モードエンジンにおいて、ディーゼル運転モード時にガス燃料を噴射しないガス燃料噴射弁が燃焼ガスにより加熱されて損傷する不具合を防止する。
【解決手段】ガス燃料供給装置30から供給されるガス燃料と高圧冷却流体供給装置40から供給される冷却流体を切替装置50が選択してガス燃料噴射弁5に供給する構造とし、ガス燃料噴射弁5はパイロット噴射燃料着火式ガス運転モード時にはガス燃料を噴射し、ディーゼル運転モード時には冷却流体を噴射する形態とする。ディーゼル運転モード時にガス燃料噴射弁5から冷却流体を噴射してガス燃料噴射弁5を冷却し、ガス燃料噴射弁5が燃焼室6の中の燃焼ガスで加熱されて損傷するのを防止すると共に、冷却流体に水を用いた場合にはディーゼル運転モード時のNOx低減を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽油やDME(DiMethyl Ether、ジメチルエーテル)等の油燃料のみで運転するディーゼル運転モードと、パイロット噴射した油燃料の自己着火した火炎により主燃料のガス燃料を燃焼させて運転するパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードとに切り替えができる二元運転モードエンジンにおいて、ディーゼル運転モード時にはガス燃料噴射弁から空気や水等の冷却流体を噴射してガス燃料噴射弁を冷却し、ディーゼル運転モード時の燃焼室内の燃焼ガスによってガス燃料噴射弁が過熱され、ガス燃料噴射弁が焼付きや固着等の損傷を起こす不具合を防止することが目的である。
【背景技術】
【0002】
現在、日本国内では貨物輸送の95%はディーゼルエンジンを動力源とするトラック及び船舶が担っている。これに使用されるエネルギーの種類から見れば、わが国の貨物輸送は原油を原料とする軽油に全面的に依存していることになる。近年、インドや中国では急速な経済発展により軽油を含む原油の消費が急激の増大し、これらの国の原油の輸入量が急増している。そのため、近い将来、わが国は必要量の原油の輸入が困難となり、ディーゼルエンジンの燃料である軽油が不足して貨物輸送に支障を来たす事態が懸念されている。この軽油不足による貨物輸送の停滞を回避するために、近年、トラック用燃料の部分的な脱石油化の必要性が認識されている。また、最近、都市においてはトラックのディーゼルエンジンからのパティキュレートや黒煙の排出を削減し、大気汚染の改善が強く求められている。これら貨物輸送分野における燃料の脱石油化や大気汚染の改善のニーズから、限定されたトラックの使用条件ではあるが、天然ガスエンジンを動力源とするトラックの導入が進められおり、市場に投入されるトラックの台数は年々、増加している。
【0003】
ところで貨物輸送を担うトラックに天然ガスエンジンを使用する場合、現在の軽油スタンドと同様に日本全国の全ての地域で天然ガスが十分に供給されるようにするためには、膨大な数の天然ガス供給スタンドを短期間に配置することが必要となる。軽油供給スタンドと同等の数量の天然ガス供給スタンドを全国的に完備することは膨大な設備投資が必要となるため、これを早期に実現することは資金面から不可能と考えられている。
【0004】
そこで、トラックに軽油タンクと天然ガスタンクを装着して軽油と天然ガスの2種類の燃料を搭載し、軽油のみを燃焼させて運転するディーゼル運転モードとパイロット噴射した少量の軽油を自己着火させた火炎により主燃料であるガス燃料を燃焼させて運転するパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードの2種類の運転モードが可能な二元運転モードエンジンを動力源とするトラックの研究開発が進められている。
【0005】
この二元運転モードエンジンを動力源とするトラックでは、現在、既に全国津々浦々に配置されている軽油供給スタンドで必要に応じて常に軽油を補給し、限られた地域にしか配置されていない天然ガス供給スタンドに立ち寄れる場合に天然ガスを補給するようにする。そして天然ガスタンクに天然ガスが満たされている場合に天然ガスを主燃料とするパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードで走行する。そして、天然ガスタンクの天然ガスが無くなれば軽油のみで運転するディーゼル運転モードでトラックを走行させるようにする。このように、二元運転モードエンジンのトラックでは軽油と天然ガスの2種類の燃料を選択しながら運行させることが可能である。そのため、二元運転モードエンジンのトラックの運転手は、軽油と天然ガスの補給の可否や価格差を考え、軽油と天然ガスを任意に選択してトラックを走行させることができる。このように主燃料として天然ガスと軽油の2種類の燃料を選択して使用できる二元運転モードエンジンのトラックは、貨物輸送分野における軽油の依存率を低下させることができるため、近年のインドや中国の経済発展で生じた軽油消費量の増加で懸念されているわが国での軽油不足を回避する手段としては極めて有効と考えられる。
【0006】
この二元運転モードエンジンの中でも軽油を燃焼室内に直接に噴射する油燃料噴射弁と天然ガスを燃焼室内に直接に噴射するガス燃料噴射弁とを備えた直接噴射式の二元運転モードエンジンは熱効率が高いことから、古くから研究開発が進められている。かかる直接噴射式二元運転モードエンジンの技術に関連する資料としては、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4および特許文献5が公知である。
【0007】
特許文献1および特許文献2の技術は、軽油やDME等の圧縮着火性の良い油燃料を燃焼室内に直接に噴射する油燃料噴射弁と天然ガス等の圧縮着火性の悪いガス燃料を燃焼室内に直接に噴射するガス燃料噴射弁とこのガス燃料を着火するための点火栓を燃焼室内に備え、ガス燃料噴射弁からのガス噴射を停止させて油燃料噴射弁から噴射した油燃料のみの自己着火で燃焼させて運転するディーゼル運転モードと、ガス燃料噴射弁から噴射した主燃料であるガス燃料を点火栓で燃焼させて運転する火花着火式ガス運転モードの2種類の運転を互いに切り替えることができるものである。このエンジンでは主燃料として軽油等の液体燃料と天然ガス等の気体燃料を任意に選択してエンジンが運転できるようにしたものである。
【0008】
特許文献3の技術は、軽油等の圧縮着火性の良い油燃料を燃焼室内に直接に噴射する油燃料噴射弁をシリンダの中心から離れたシリンダ近傍に備えると共に天然ガス等の圧縮着火性の悪い良いガス燃料を燃焼室内に直接に噴射するガス燃料噴射弁をシリンダの中心から離れたシリンダ近傍に備え、油燃料噴射弁からパイロット噴射した少量の油燃料を自己着火させた火炎によりガス燃料噴射弁から噴射した主燃料であるガス燃料を燃焼させてエンジンを運転するサイドインジェクション方式のパイロット噴射燃料着火式ガスエンジンである。このパイロット噴射燃料着火式ガスエンジンではディーゼルエンジンよりもパティキュレート、黒煙および二酸化炭素(CO2)の排出が少ないことが特徴である。
【0009】
特許文献4の技術は、燃焼室内に直接にガスを噴射するガス噴射弁を設け、このガス噴射弁にガス燃料供給装置と高圧流体(空気)供給装置を並列的に接続し、このガス噴射弁にクランク角度に応じて天然ガスと高圧空気を切り替えて供給し、そのシリンダの排気行程―吸気行程―圧縮行程―爆発行程の1サイクルの運転中にガス噴射弁から燃焼室内に天然ガスと高圧空気を交合に複数回の噴射させるようにし、燃焼室内に噴射した天然ガスを自己着火させて天然ガスを燃焼させ、エンジンを運転するものである。したがって燃料としては天然ガスのみを使用するガスエンジンである。したがって燃料としては天然ガスのみを使用するガスエンジンである。
特許文献5の技術は、燃焼室内に直接にガスを噴射するガス噴射弁を設け、圧縮行程にガス噴射弁から圧縮着火可能ガスを間欠的に複数回の噴射を行うようにして、ガス噴射が高圧でない場合でもガス燃料と空気の混合を良好にするようにしたものである。そして、燃焼室内に噴射した天然ガスを自己着火させて天然ガスを燃焼させ、エンジンを運転するものである。したがって燃料としては天然ガスのみを使用するガスエンジンである。
【特許文献1】実用新案出願公開 昭60−112639
【特許文献2】実用新案出願公開 昭60−112641
【特許文献3】実用新案出願公開 昭62−45339
【特許文献4】特許公開 2002−38955
【特許文献5】特許公開 2002−138869
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
トラックに軽油やDME等の自己着火性の良い油燃料と、天然ガス等の自己着火性の悪いガス燃料の2種類の燃料を搭載し、油燃料のみ燃焼させて運転するディーゼル運転モードとパイロット噴射した少量の油燃料の自己着火した火炎により主燃料であるガス燃料を燃焼させて運転するパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードの2種類の運転モードが可能な二元運転モードエンジンを動力源とするトラックでは、運転手が選択したディーゼル運転モードまたはパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードの何れかにより運行することが可能である。
【0011】
油燃料を燃焼室内に直接に噴射する油燃料噴射弁とガス燃料を燃焼室内に直接に噴射するガス燃料噴射弁とを個別に備えた直接噴射式の二元運転モードエンジンでは、パイロット噴射燃料着火式ガス運転モードの場合には、ガス燃料噴射弁から燃焼室内にガス燃料が噴射され、油燃料噴射弁から燃焼室内に油燃料がパイロット噴射されて油燃料とガス燃料が燃焼し、運転される。その結果、エンジン運転中に燃焼室内で高温の燃焼ガスに曝される油燃料噴射弁とガス燃料噴射弁のそれぞれの弁部は、それぞれの弁で噴射されるそれぞれの燃料により冷却されるため、油燃料噴射弁とガス燃料噴射弁の弁部が燃焼室内の高温の燃焼ガスで加熱されて過剰に温度が上昇することは無い。そのため油燃料噴射弁とガス燃料噴射弁の弁部が過熱して焼付きや損傷を起こすことは無い。
【0012】
しかし、ディーゼル運転モードでは、二元運転モードエンジンが油燃料のみの燃焼により運転されるため、油燃料噴射弁から油燃料は噴射されるが、ガス燃料噴射弁からガス燃料は噴射されない。そのため、ディーゼル運転モード中には油燃料噴射弁の弁部は、油燃料の噴射で冷却されるために燃焼室内の高温の燃焼ガスで加熱されても過剰に温度が上昇することは無い。しかし、ガス燃料噴射弁からガス燃料が噴射されないため、ガス燃料噴射弁の弁部はガス燃料の噴射で冷却されない状態になる。そのためディーゼル運転モードでは、ガス燃料噴射弁の弁部は燃焼室内の高温の燃焼ガスで加熱されて過剰に温度が上昇し、過熱による焼付きや損傷を起こすことになる。
【0013】
ところで、油燃料を燃焼室内に直接に噴射する油燃料噴射弁とガス燃料を燃焼室内に直接に噴射するガス燃料噴射弁とを個別に備えた直接噴射式の二元運転モードエンジンである特許文献1および特許文献2の技術は、油燃料のみで運転されるディーゼル運転モード時には、ガス燃料噴射弁からはガス燃料が噴射されないため、ガス燃料噴射弁がガス燃料の噴射で冷却されない。そのため、燃焼室内に露出したガス燃料噴射弁の弁部が燃焼室内の高温の燃焼ガスで加熱され、ガス燃料噴射弁の弁部が焼付きや損傷を起こす不具合が発生する。そのため、特許文献1および特許文献2の技術の二元運転モードエンジンでは継続してディーゼル運転モードを行うことは不可能である。
【0014】
特許文献3の技術は、シリンダの中心から離れたシリンダ近傍に軽油等の圧縮着火性の良い油燃料を燃焼室内に直接に噴射する油燃料噴射弁を備えると共に、シリンダの中心から離れたシリンダ近傍に天然ガス等の圧縮着火性の悪いガス燃料を燃焼室内に直接に噴射するガス燃料噴射弁を備え、油燃料噴射弁からパイロット噴射した少量の油燃料を自己着火させた火炎によりガス燃料噴射弁から噴射した主燃料であるガス燃料を点火して燃焼させるサイドインジェクション方式のパイロット噴射燃料着火式ガスエンジンである。シリンダ壁の近傍に備えた油燃料噴射弁からスワールの下流方向に向かってスワールと順流となる方向に少量の油燃料がパイロット噴射され、シリンダ壁の近傍に備えたガス油燃料噴射弁からスワールの下流方向に向かってスワールと順流となる方向に主燃料のガス燃料が噴射される。そしてパイロット噴射した少量の油燃料を自己着火させた火炎が主燃料のガス燃料を燃焼させることにより、エンジンは運転される。
【0015】
このように特許文献3の技術では、油燃料噴射弁とガス油燃料噴射弁は共にシリンダの中心から離れたシリンダ壁の近傍に配置されている上に、油燃料噴射弁の油燃料の噴射方向とガス油燃料噴射弁のガス燃料の噴射方向とは共にスワール下流方向に向かってスワールと順流となる方向にガス燃料を噴射される構造となっている。そのため、油燃料噴射弁から燃焼室内に噴射された油燃料の噴霧とガス油燃料噴射弁から燃焼室内に噴射されたガス燃料の塊はシリンダ中心を中心として旋回運動するシリンダ内の空気のスワールに乗って燃焼室内を旋回するようになる。このように、燃焼室内に噴射された油燃料の噴霧の塊とガス油燃料の塊は、シリンダ内で旋回するスワールの流れの中で前後に並んで燃焼室内でシリンダ中心を中心として旋回運動するだけである。そのためにエンジンの軽負荷運転にガス燃料の噴射量が少ない時にはガス燃料の塊が油燃料噴霧の塊との接触しない場合がある。その場合にはピストンが上死点に近づいて油燃料噴霧が自己着火して油燃料噴霧の火炎が形成されても、油燃料噴霧の火炎が速やかにガス油燃料の混合気を点火することができずにガス燃料が燃焼しない状態となる場合が生じる。その時にはエンジンのトルクが瞬時に低下するため、円滑なパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードの運転が不能になる不具合が発生する。このように特許文献3のパイロット噴射燃料着火式ガスエンジンではエンジンの運転条件によっては運転中に激しいトルク変動を生じる不具合が発生する恐れがある。
【0016】
また、この特許文献3の技術では、エンジンの運転中は常に油燃料噴射弁から油燃料がパイロット噴射され、ガス燃料噴射弁から主燃料であるガス燃料が噴射されるパイロット噴射燃料着火式ガスエンジンで運転されるだけである。そしてガス燃料噴射弁からガス燃料が噴射されないで油燃料噴射弁から油燃料のみが噴射されるディーゼル運転は行なわれない技術である。そのため、特許文献3の技術のエンジンを搭載したトラックは、パイロット噴射した少量の軽油を自己着火させた火炎により主燃料であるガス燃料を燃焼させて運転するパイロット噴射燃料着火式ガス運転で走行するだけであり、軽油のみ燃焼させて運転するディーゼル運転での走行はできない技術である。即ち、特許文献3の技術のエンジンを搭載したトラックでは、ディーゼル運転またはパイロット噴射燃料着火式ガス運転の2種類の運転モードを選択して運転手がトラックを走行させることができないものである。
【0017】
特許文献4の技術は、エンジンの各シリンダの1サイクル運転中には常にガス噴射弁から燃焼室内にガス燃料と高圧空気を交合に噴射させてガス燃料と空気の混合を促進させるようにしたものである。燃焼室内にガス燃料と高圧空気を交合に噴射し、自己着火でガス燃料を燃焼させて運転する単なる圧縮着火式のガス燃料エンジンである。油燃料を燃焼室内に直接に噴射する油燃料噴射弁とガス燃料を燃焼室内に直接に噴射するガス燃料噴射弁とを別個に備え、油燃料のみ燃焼させて運転するディーゼル運転モードとパイロット噴射した少量の油燃料が自己着火した火炎により主燃料であるガス燃料を燃焼させて運転するパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードの2種類の運転が可能な直接噴射式の二元運転モードエンジンとしては運転できない。そのため、二元運転モードエンジンの特徴である油燃料とガス燃料の2種類の燃料を持ち、エンジンの運転者が油燃料とガス燃料の入手の容易さや価格差を考え、主燃料として油燃料とガス燃料の何れかを任意に選択してエンジンを運転することはできない。また、特許文献4の技術は、燃焼室内にガス噴射弁から噴射したガス燃料を自己着火させて燃焼させる構造のため、噴射したガス燃料を点火する手段を備えていない。ガス燃料はセタン価が低いために自己着火性が悪く、全てのエンジン運転条件において最適なクランク角度でガス燃料を確実に燃焼させることは難しい。そのため、様々に気温が異なる季節や地域でこの特許文献4のエンジンを実用に用いるようにするためには、電気火花の点火栓や油燃料のパイロット噴射などのガス燃料を点火する手段を新たに追加することが必要となる。
【0018】
特許文献5の技術は、燃焼室内の吸気のスワールの旋廻方向を考慮しないで単に圧縮行程にガス噴射弁から燃焼室内に圧縮着火が可能なガスを1サイクルの間に間欠的に複数回に分けて噴射するようにしたものである。一般に、燃焼室内の空気と噴射したガス燃料とを混合させて燃焼室内にガス燃料を広範囲に分散させるには、燃焼室内の空気のスワールが持つ旋回エネルギーを効果的に利用することが必要となるが、特許文献5の技術では、燃焼室内の空気のスワールとガス噴射弁のガス噴射の方向については何ら記載されていない。例えば、ガス噴射弁から燃焼室内のスワールの流れに対向する方向に間欠的に複数回のガス噴射を行っても燃焼室内のスワールの運動エネルギーとガス燃料の噴射の運動エネルギーが相殺して、燃焼室内に広くガス燃料を分散させることができない。そのため特許文献5の技術では、ガス燃料と空気が十分に混合させることができないため、不完全燃焼を起こし、一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)の有害排出ガスを多く排出すると共に、必要なエンジン出力が得られない不具合を生じる場合がある。
【0019】
本発明は上記の問題に鑑みて案出されたものである。その構造は燃焼室に軽油等の圧縮着火性の良い油燃料を噴射する油燃料噴射弁と天然ガス等の圧縮着火性の悪いガス燃料を噴射するガス燃料噴射弁とを備え、ガス燃料噴射弁からのガス燃料の噴射を停止させて油燃料噴射弁から噴射した油燃料のみの自己着火で燃焼させて運転するディーゼル運転モードと、油燃料噴射弁からパイロット噴射した少量の油燃料を自己着火させた火炎によりガス燃料噴射弁から噴射した主燃料であるガス燃料を燃焼させて運転するパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードを互いに切り替ができる二元運転モードエンジンにおいて、このガス燃料噴射弁はガス燃料と加圧された空気や水等の冷却流体とを任意に切り替えて噴射できるようにしたことである。ディーゼル運転モード時にはガス燃料噴射弁から冷却流体を噴射してガス燃料噴射弁を冷却し、燃焼室内の高温の燃焼ガスでガス燃料噴射弁の弁部が加熱されて過剰に温度が上昇し、弁部の焼付きや損傷を起こす不具合を防止する。また、油燃料噴射弁はシリンダ中心線の近傍に配置して油燃料噴射弁の多噴孔ノズルからシリンダの内壁面の方向に向かって放射状に油燃料を噴射し、ガス燃料噴射弁はシリンダ中心線から離れた位置に単数または複数を配置してガス燃料噴射弁からガス燃料または冷却流体をスワールの下流方向に噴射するようにする。これにより、ガス燃料または冷却流体は燃焼室内を旋回する空気と混合しながらスワールに流され、シリンダの内壁面の全周にガス燃料と空気の混合気や冷却流体が燃焼室内に分散され、スワールと一体となって燃焼室内を旋回させるようにする。そして、圧縮行程でピストンが上死点近づくにつれて燃焼室内の空気とガス燃料の混合気や冷却流体は圧縮される。シリンダの内壁面の全周に分散してスワールと一体となって旋回するガス燃料の混合気や冷却流体は、ピストンが上死点近づいた時点でピストンの頂面のキャビティの外周壁に沿って旋回するようになる。パイロット噴射燃料着火式ガス運転モード時には、キャビティの外周壁に沿って旋回してキャビティの中でドーナッツ状態に分布するガス燃料の混合気の中心部に油燃料噴射弁の先端の多噴孔ノズルからピストンのキャビティの側壁に向かってシリンダ中心線の近傍の油燃料噴射弁からピストンのキャビティに少量の油燃料をパイロット噴射する。油燃料噴射弁からパイロット噴射する油燃料が少量なためにパイロット噴射時の油燃料噴霧の運動エネルギーは小さい。そのためはパイロット噴射時の油燃料噴霧は到達距離が短くなってシリンダ壁面近傍には到達しないでピストンのキャビティの中心部に分散する。その結果、燃焼室の主要部分であるキャビティの中では、中心部のパイロット噴射した油燃料噴霧を取り囲むようにガス燃料と空気の混合気がキャビティの中で旋回するガス燃料混合気の分布形態となる。圧縮行程の終わり近くでキャビティの中心部で自己着火した油燃料噴霧の火炎は油燃料の噴霧を取り囲むように分散したガス燃料と空気の混合気を点火し、ガス燃料の混合気を燃焼させるようにしたことにより、燃費の良好なCOやHCの排出の少ない完全燃焼に近い燃焼が実現できるようにしたことである。一方、ディーゼル運転モード時にはエンジンのディーゼル運転モード時には軽油やDME等の油燃料が燃焼室内に直接に噴射されるのみで、ガス燃料はガス燃料噴射弁から燃焼室内に噴射されない。その代わりにガス燃料噴射弁からは空気や水等の冷却流体を噴射し、燃焼室内に露出するガス燃料噴射弁の先端の弁部を冷却するする。これにより、ディーゼル運転モード時にガス燃料噴射弁の弁部の温度が過剰に上昇して損傷を起こす不具合を防止する。特にガス燃料噴射弁から冷却流体として水を噴射した場合は、ガス燃料噴射弁の冷却と共に燃焼ガス温度の低下による窒素酸化物(NOx)の排出が削減できる効果が得られる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は上記目的を達成するために、次のような構成を採用することにした。
すなわち、請求項1記載の発明に係わる二元運転モードエンジンシステムは、シリンダヘッドとシリンダおよびピストンにより燃焼室を形成し、シリンダヘッドには軽油やDME等の圧縮着火性の良い油燃料を上記燃焼室内に直接に噴射する油燃料噴射弁と天然ガス等の圧縮着火性の悪いガス燃料を上記燃焼室内に直接に噴射するガス燃料噴射弁を備え、上記ガス燃料噴射弁からのガス燃料の噴射を停止させて上記油燃料噴射弁から噴射した油燃料のみを燃焼させて運転するディーゼル運転モードと、上記油燃料噴射弁からパイロット噴射した少量の油燃料の燃焼火炎により上記ガス燃料噴射弁から噴射した主燃料であるガス燃料を点火して燃焼させて運転するパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードとの2種類の運転モードに切り替えが可能な二元運転モードエンジンにおいて、ガス燃料供給装置から供給される天然ガス等の圧縮着火性の悪いガス燃料と高圧冷却流体供給装置から供給される空気や水等の冷却流体とを任意に切り替えて上記ガス燃料噴射弁に供給する切換装置を配設し、上記ディーゼル運転モード時には上記油燃料噴射弁から上記燃焼室内に油燃料を噴射すると共に上記切換装置から上記ガス燃料噴射弁に上記冷却流体を供給して上記ガス燃料噴射弁から上記燃焼室内に上記冷却流体を噴射し、上記パイロット噴射燃料着火式ガス運転モード時には上記油燃料噴射弁から上記燃焼室内に少量の油燃料をパイロット噴射すると共に上記切換装置から上記ガス燃料噴射弁にガス燃料を供給して上記ガス燃料噴射弁から上記燃焼室内に主燃料であるガス燃料を噴射するようにしたことを特徴とする。
【0021】
この請求項1記載の発明は、シリンダヘッドには軽油やDME等のセタン価の高い圧縮着火性の良い油燃料を燃焼室内に直接に噴射する油燃料噴射弁と、天然ガス等のセタン価の低い圧縮着火性の悪いガス燃料を燃焼室内に直接に噴射するガス燃料噴射弁が備えられており、そして、ガス燃料噴射弁からのガス噴射を停止して油燃料噴射弁から燃焼室内に噴射した油燃料のみを燃焼させて運転するディーゼル運転モードと、油燃料噴射弁から燃焼室内にパイロット噴射した少量の油燃料を自己着火させた火炎によりガス燃料噴射弁から燃焼室内に直接に噴射した主燃料であるガス燃料を点火して燃焼させて運転するパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードとの2種類の運転モードに任意に切り替えることができる二元運転モードエンジンに関するものである。この二元運転モードエンジンでは、油燃料供給装置から軽油やDME等の圧縮着火性の良い油燃料が油燃料噴射弁に供給され、電子制御装置からの信号により油燃料噴射弁から燃焼室内に油燃料が直接に噴射される。それと同時にガス燃料供給装置から天然ガス等の圧縮着火性の悪いガス燃料が切換装置に供給されると共に高圧冷却流体供給装置から空気や水等の冷却流体が切換装置に供給される構造とし、電子制御装置からの信号によりガス燃料と空気や水等の冷却流体の何れかが選択されて切換装置からガス燃料噴射弁に供給され、切換装置からガス燃料噴射弁に供給されたガス燃料と冷却流体の何れかが電子制御装置からの信号によりガス燃料噴射弁から燃焼室内に噴射される構造とする。
【0022】
ディーゼル運転モード時には油燃料供給装置から軽油やDME等の圧縮着火性の良い油燃料を油燃料噴射弁に供給して油燃料噴射弁から燃焼室内に直接に噴射すると共に、電子制御装置からの信号により切換装置で冷却流体を選択してガス燃料噴射弁に供給し、ガス燃料噴射弁から燃焼室内に冷却流体を直接に噴射する形態となる。このディーゼル運転モードでは、二元運転モードエンジンは、軽油やDME等の油燃料のみでの運転となる。一方、パイロット噴射燃料着火式ガス運転モード時には電子制御装置からの信号により切換装置は天然ガス等のガス燃料を選択してガス燃料噴射弁に供給し、ガス燃料噴射弁は燃焼室内に主燃料のガス燃料を直接に噴射すると共に、油燃料噴射弁は油燃料供給装置から供給された軽油やDME等の圧縮着火性の少量の良い油燃料を燃焼室内に直接にパイロット噴射する形態となる。このパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードでは、二元運転モードエンジンは、軽油やDME等の油燃料と天然ガス等のガス燃料との2種類の燃料を燃焼させる運転となる。
【0023】
このパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードでは、ガス燃料供給装置から供給されたガス燃料が切換装置を経てガス燃料噴射弁から主燃料として燃焼室内に直接に噴射され、油燃料噴射弁から軽油やDME等の圧縮着火性の良い少量の油燃料が燃焼室内に直接にパイロット噴射される。このパイロット噴射された油燃料が最初に自己着火を起こし、この自己着火した油燃料の火炎がガス燃料噴射弁から燃焼室内に噴射した主燃料であるガス燃料を点火することによりガス燃料を燃焼させ、二元運転モードエンジンはパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードで運転されることなる。
【0024】
二元運転モードエンジンのディーゼル運転モード時には軽油やDME等の油燃料が燃焼室内に直接に噴射されるのみで、ガス燃料はガス燃料噴射弁から燃焼室内に噴射されない。そのため、燃焼室内に露出する構造でシリンダヘッドに配設されたガス燃料噴射弁の先端の針弁や噴孔ノズルなどの弁部は、ディーゼル運転モード時には油燃料の燃焼火炎に曝されて加熱されるため、弁部の温度が過剰に上昇して溶着・固着等の不具合を発生する危険が高い。請求項1記載の発明は、二元運転モードエンジンのディーゼル運転モード時に冷却流体供給装置から供給された空気や水等の冷却流体をガス燃料噴射弁から燃焼室内に噴射させるようにして、ガス燃料噴射弁の弁部を冷却し、弁部の温度が過剰に上昇するのを防止するようにしたことである。
【0025】
以上のように、請求項1記載の発明は、ディーゼル運転モード時にはガス燃料噴射弁から冷却流体を噴射してガス燃料噴射弁を冷却できるようにしたことである。これにより、二元運転モードエンジンのディーゼル運転モード時にガス燃料噴射弁が燃焼室内の高温の燃焼ガスに曝される状態においても、ガス燃料噴射弁には溶着・固着等の不具合が発生しないようにしたことである。
【0026】
請求項2記載の発明は請求項1に記載の二元運転モードエンジンシステムに係わり、上記油燃料噴射弁は上記シリンダヘッドの上記シリンダのシリンダ中心線の近傍に配置し、上記油燃料噴射弁の先端部の多噴孔ノズルから上記シリンダの内壁面の方向に向かって放射状に油燃料を噴射し、上記ガス燃料噴射弁は上記シリンダヘッドの上記シリンダ中心線から離れた位置に単数または複数を配置し、上記ガス燃料噴射弁の先端部の単噴孔ノズルまたは多噴孔ノズルからガス燃料または冷却流体を噴射する方向が上記ガス燃料噴射弁の中心線と燃焼室を形成するシリンダヘッドの面との交点と上記シリンダ中心線とを含む面より上記燃焼室内を旋回する空気のスワールの下流方向に向けたことを特徴とする。
【0027】
請求項2記載の発明では、油燃料噴射弁はシリンダヘッドのシリンダ中心線の近傍に配置する。そして油燃料噴射弁の先端の多噴孔ノズルから略等間隔でシリンダの内壁面の方向に向かって放射状に油燃料を噴射する。また、シリンダヘッドに単数のガス燃料噴射弁を配置する場合は、ガス燃料噴射弁はシリンダ中心線から離れた位置のシリンダヘッドに配置し、ガス燃料噴射弁の単噴孔ノズルまたは多噴孔ノズルが燃焼室内に露出するように配設する。そして、ガス燃料噴射弁の単噴孔ノズルまたは多噴孔ノズルからガス燃料または冷却流体を噴射する方向は、ガス燃料噴射弁の中心線と燃焼室を形成するシリンダヘッドの面との交点と上記シリンダ中心線とを含む面より燃焼室内を旋回するスワールの流れの下流方向とする。
【0028】
また、シリンダヘッドに2本のガス燃料噴射弁を配置する場合は、2本のガス燃料噴射弁はシリンダ中心線から離すと共にシリンダ中心線に対して互いに略向対する位置のシリンダヘッドに配置し、各ガス燃料噴射弁の単噴孔または多噴孔ノズルが燃焼室内に露出するように配設する。そして、2本のガス燃料噴射弁が各々の単噴孔ノズルまたは多噴孔ノズルからガス燃料または冷却流体を噴射する方向は、各々のガス燃料噴射弁の単噴孔ノズルまたは多噴孔ノズルの位置とシリンダ中心線とを含むそれぞれの面より燃焼室内を旋回するスワールの流れの下流方向とする。
【0029】
また、シリンダヘッドに3本以上の多数のガス燃料噴射弁を配置する場合は、全てのガス燃料噴射弁はシリンダ中心線から離れると共にシリンダの内側のほぼ等間隔の位置でシリンダヘッドに配置し、各々のガス燃料噴射弁の単噴孔ノズルまたは多噴孔ノズルが燃焼室内に露出するように配設する。そして、3本以上のガス燃料噴射弁の各々の単噴孔ノズルまたは多噴孔ノズルからガス燃料または冷却流体を噴射する方向は、各々のガス燃料噴射弁の単噴孔または多噴孔ノズルの位置とシリンダ中心線とを含むそれぞれの面より燃焼室内を旋回するスワールの流れの下流方向とする。パイロット噴射燃料着火式ガス運転モード時にガス燃料噴射弁の単噴孔ノズルまたは多噴孔ノズルから燃焼室内を旋回する空気のスワールの下流方向に噴射したガス燃料または冷却流体は、燃焼室内を旋回する空気と混合しながらスワールに流され、シリンダの内壁面の全周にわたってガス燃料と空気の混合気または冷却流体が分散されてスワールと一体となって燃焼室内を旋回する。そして、圧縮行程でピストンが上死点近づくのにしたがって燃焼室内の空気とガス燃料の混合気または冷却流体は圧縮されて行く。シリンダの内壁面の全周に分散してスワールと一体となって旋回するガス燃料の混合気または冷却流体は、ピストンが上死点近づいた時点では、ピストンの頂面の中央部にシリンダヘッドに対向する凹状の燃焼室の主要部分を占めるキャビティの外周壁に沿って旋回するようになる。
【0030】
パイロット噴射燃料着火式ガス運転モード時には、ピストンが上死点近づいてピストンのシリンダヘッドとの間隙であるトップクリアランスが小さくなった時点で、シリンダヘッドのシリンダ中心線の近傍に配置した油燃料噴射弁は先端の多噴孔ノズルからピストンのキャビティの側壁に向かってキャビティの中に少量の油燃料をパイロット噴射する。油燃料噴射弁は各噴孔ノズルからシリンダヘッドの燃焼室を構成する面に対して10度から20度の範囲の角度でピストンのキャビティの側壁面方向に向かって油燃料を噴射する。パイロット噴射燃料着火式ガス運転モード時には油燃料噴射弁からパイロット噴射する油燃料が少量なため、パイロット噴射時の油燃料噴霧の運動エネルギーは小さい。そのためはパイロット噴射時の油燃料の噴霧はキャビティの側壁面までは到達しないでキャビティの中心部に分散する。その結果、燃焼室の主要部分を占めるキャビティの中では、中心部のパイロット噴射した油燃料の噴霧を取り囲むようにガス燃料と空気の混合気が旋回するガス燃料混合気の分布形態となる。
【0031】
このように、燃焼室の主要部分を占めるキャビティの中心部にはパイロット噴射した油燃料の噴霧が存在し、油燃料の噴霧を取り囲むように理論混合比に近いガス燃料の混合気が旋回する燃料の分布形態となり、圧縮行程の終わり近くで最初にシリンダ中心部の油燃料噴霧が自己着火する。次に自己着火した油燃料噴霧の火炎は油燃料の噴霧を取り囲むように分散したガス燃料と空気の混合気を点火し、ガス燃料の混合気が燃焼する。ガス燃料の混合気は油燃料の噴霧を取り囲むように分散しているため、油燃料噴霧の火炎がキャビティ内でドーナツ状に分散したガス燃料の混合気の内周面から一斉にガス燃料の混合気を点火することになる。これにより、ガス燃料の混合気は円滑に燃焼させることができるため、ガス燃料を短期間に燃焼させることが可能となって燃費は良好となり、且つガス燃料の混合気がCOやHCの排出の少ない燃焼にすることができる。また、ディーゼル運転モード時には、ガス燃料噴射弁の単噴孔ノズルまたは多噴孔ノズルから燃焼室内を旋回する空気のスワールの下流方向に冷却流体として水をした場合、水の噴霧は燃焼室内を旋回する空気と混合しながらスワールに流され、シリンダの内壁面の全周にわたって分散する。ピストンが上死点近づき、油燃料噴射弁が水の噴霧が分散するキャビティに中に油燃料を噴射することにより、油燃料の燃焼熱で水の噴霧が気化する際の吸熱作用により油燃料の燃焼ガス温度が低下し、ディーゼル運転モード時のNOxの発生が抑制される。
【0032】
請求項3記載の発明は、請求項1乃至2のいずれか一項に記載の二元運転モードエンジンシステムに係わり、上記ディーゼル運転モード時には上記ガス燃料噴射弁から上記燃焼室内にエンジンの1サイクル当たりにおいて複数回に分割して冷却流体を噴射し、上記パイロット噴射燃料着火式ガス運転モード時には上記ガス燃料噴射弁から上記燃焼室内にエンジンの1サイクル当たりにおいて複数回に分割してガス燃料を噴射するようにしたことを特徴とする。
【0033】
請求項3記載の発明では、パイロット噴射燃料着火式ガス運転モードにおいて、一つのシリンダでエンジンの1サイクル当たりに燃焼室内に必要な量のガス燃料を噴射する時に、ガス燃料噴射弁が一回の開弁によって燃焼室内にガス燃料を噴射するのではなく、複数回の開弁を行わせることによって複数回に分けてガス燃料を噴射とする。一般的に気体の中に液体を噴射した場合には、小さい密度の物質の中に大きな密度の物質を噴射することになり、大きな密度の物質が小さい密度の物質の中に広く進入し、小さい密度の物質と大きな密度の物質は良く混合する。しかし、燃焼室内の空気にガス燃料噴射弁からガス燃料を噴射した場合のような気体の中に気体を噴射する形態では両者の密度の差が少ないために噴射したガス燃料の貫徹力が弱いために燃焼室内のガス燃料が空気の中に進入し難く、燃焼室内で空気とガス燃料が混合し難くなり、ガス燃料と空気の均一な混合気は形成され難い特性がある。
【0034】
しかし、シリンダ中心線から離れて配置したガス燃料噴射弁の単噴孔ノズルまたは多噴孔ノズルから燃焼室内を旋回する空気のスワールの下流方向にガス燃料をそのシリンダの1サイクル運転で断続的に複数回にわたって噴射すことにより、燃焼室内に噴射したガス燃料は、複数個の塊となって燃焼室内を旋回する空気と混合しながらスワールに流され、燃焼室内を旋回しながらシリンダの内壁面の全周にガス燃料と空気の混合気を形成しながら分散されるようになる。そして、圧縮行程でピストンが上死点近づくにつれて燃焼室内の空気とガス燃料の混合気は圧縮される。シリンダの内壁面の全周に分散されたスワールと一体となって旋回するガス燃料の混合気は、ピストンが上死点近づいた時点でピストンの頂面の中央部にシリンダヘッドに対向する凹状の燃焼室の主要部分を占めるキャビティの外周壁に沿って旋回するようになる。
【0035】
一方、ピストンが上死点近づいてピストンのシリンダヘッドとの間隙であるトップクリアランスが小さくなった時点でシリンダヘッドのシリンダ中心線の近傍に配置した油燃料噴射弁の先端の多噴孔ノズルからピストンのキャビティの側壁に向かって少量の油燃料をパイロット噴射する。パイロット噴射した油燃料は少量のために油燃料噴霧の持つ運動エネルギーが低い。そのため油燃料噴霧はシリンダ壁面近傍には到達しないでピストンのキャビティの中心部に分散する。その結果、燃焼室の主要部分を占めるキャビティの中では、中心部のパイロット噴射した油燃料噴霧を取り囲むようにガス燃料と空気の混合気が旋回するガス燃料混合気の分布形態となる。圧縮行程の終わり近くでシリンダ中心部の油燃料噴霧が自己着火して形成された油燃料噴霧の火炎は、油燃料の噴霧を取り囲むように分散したガス燃料と空気の混合気を点火し、ガス燃料の混合気が燃焼する。ガス燃料の混合気は油燃料の噴霧を取り囲むように分散しているため、油燃料噴霧の火炎がキャビティ内でドーナツ状に分散したガス燃料の混合気の内周面から一斉にガス燃料の混合気を点火することになる。これにより、そのシリンダの1サイクルで断続的に複数回にわたって噴射したガス燃料の混合気はガス燃料の過濃な部分が少ない理論混合比に近い混合気となっているため、燃費の良好なCOやHCの排出の少ない完全燃焼に近い燃焼が実現できるようにすることができる。
【0036】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の二元運転モードエンジンシステムに係わり、4サイクルエンジンでは、上記ディーゼル運転モード時に上記ガス燃料噴射弁から上記燃焼室内に噴射する冷却流体の噴射は上記シリンダの吸気行程の開始から圧縮行程の終了に至る期間内であり、上記パイロット噴射燃料着火式ガス運転モード時に上記ガス燃料噴射弁から上記燃焼室内に噴射するガス燃料の噴射は上記シリンダの吸気行程の開始から圧縮行程の終了に至る期間内であることを特徴とする。
【0037】
請求項4記載の発明では、二元運転モードエンジンシステムの4サイクルエンジンでは、パイロット噴射燃料着火式ガス運転モード時にガス燃料噴射弁から燃焼室内に吸気行程の開始から圧縮行程の終了に至る期間内にガス燃料を噴射する。この期間にガス燃料を噴射することにより、燃焼室内に直接に噴射したガス燃料は未燃焼の状態で排気マニホールドに排出されないようにすることができる。また、吸気行程の開始から圧縮行程の終了に至る期間内で噴射量に適した噴射のタイミングを選択してガス燃料を噴射することにより、ガス燃料が燃焼室内で広範囲な領域に均一な混合気を形成させることができる。そのため、全てのエンジン運転状態でガス燃料の混合気が所定の均一な混合比に近づけて運転することが可能となり、ガス燃料の混合気は少しでも完全燃焼に近づけて燃焼させることができるため、パイロット噴射燃料着火式ガス運転モードの燃費改善や有害排出ガスの削減に効果がある。
【0038】
また、ディーゼル運転モード時には、吸気行程の開始から圧縮行程の終了に至る期間内にガス燃料噴射弁から燃焼室内に冷却流体を噴射する。吸気行程の開始から圧縮行程の終了に至る期間は燃焼行程の期間に比較して燃焼室内の圧力が低いため、低圧での噴射が可能となる。そのため、冷却流体を噴射するために必要な仕事量は少なくて良く、エンジンの燃費の悪化を抑えて、冷却流体の噴射によるガス燃料噴射弁の弁部の冷却が可能となる。そして吸気行程の開始から圧縮行程の終了に至る期間内でガス燃料噴射弁から冷却流体として水を噴射した場合は、燃焼行程で噴射した水が蒸発して燃焼ガスの温度を下げることによりNOxが削減できる効果がある。吸気行程の開始から圧縮行程の終了の期間にガス燃料噴射弁から燃焼室内に冷却流体として空気を噴射した場合、燃焼室内のスワールの下流方向に噴射するためスワールの回転エネルギーが増加して、油燃料噴射弁から噴射された軽油等の油燃料と燃焼室内の空気との混合が促進され、ディーゼル運転モード時の燃費改善やCO、HCおよびパティキュレートの排出削減が得られる効果がある。
【0039】
請求項5記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の二元運転モードエンジンシステムに係わり、上記ディーゼル運転モード時に上記ガス燃料噴射弁から上記燃焼室内に噴射する冷却流体の量は、上記エンジン運転の運転状態により調整することを特徴とする。
【0040】
請求項5記載の発明では、二元運転モードエンジンのディーゼル運転モード時にはエンジン出力に比例して噴射される油燃料が増加するため、燃焼室内のガス温度も増加する。その結果、エンジン出力に比例してガス燃料噴射弁の弁部の温度も上昇する。そこで、冷却流体の噴射量をエンジン運転の負荷の大小に応じて調節することにより、ガス燃料噴射弁の弁部の温度を特定のレベル以下に抑えるようにする。これにより、ディーゼル運転モード時の軽負荷運転においては、冷却流体の噴射量の削減が可能となって冷却流体の噴射に要する駆動エネルギーを少なくすることができるため、冷却流体の噴射に起因する燃費の悪化を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0041】
軽油やDME等の圧縮着火性の良い油燃料を燃焼室内に直接に噴射する油燃料噴射弁と天然ガス等の圧縮着火性の悪いガス燃料燃焼室内に直接に噴射するガス燃料噴射弁とを個別に備えた直接噴射式の二元運転モードエンジンでは、パイロット噴射燃料着火式ガス運転モードの運転中には、ガス燃料噴射弁からガス燃料が噴射されると共に油燃料噴射弁から油燃料がパイロット噴射されるため、ガス燃料噴射弁と油燃料噴射弁はそれぞれが噴射する燃料で冷却される。これに対し、特許文献に示したように従来の二元運転モードエンジンのディーゼル運転モードの運転中には、油燃料噴射弁から油燃料が噴射されが、ガス燃料噴射弁からガス燃料が噴射されないためにガス燃料噴射弁は燃料で冷却されない状態となる。そのため、ディーゼル運転モードで継続して二元運転モードエンジンを運転した時には、ガス燃料噴射弁の弁部は、燃焼室内の油燃料の燃焼ガスで加熱され続けて過熱し、焼付きや損傷を起こす不具合が発生するようになる。請求項1記載の発明は、ガス燃料供給装置から天然ガス等の圧縮着火性の悪いガス燃料を切換装置に供給する共に、高圧冷却流体供給装置から空気や水等の冷却流体を切換装置に供給する構造とし、ディーゼル運転モード時には切換装置で冷却流体を選択してガス燃料噴射弁に供給し、ガス燃料噴射弁から燃焼室内に冷却流体を直接に噴射して、ディーゼル運転モード時にガス燃料噴射弁が冷却できるようにしたことである。ディーゼル運転モード時にガス燃料噴射弁から冷却流体を噴射するようにしたことによりガス燃料噴射弁が冷却流体の噴射で冷却されるため、ガス燃料噴射弁は燃焼室内に露出した弁部の温度が過剰に上昇するのが防止できるようにしたことである。直接噴射式の二元運転モードエンジンのディーゼル運転モード時において、ガス燃料噴射弁から冷却流体を噴射することにより、ガス燃料噴射弁が過剰に温度上昇し、損傷を起こす不具合の発生を防止できる効果がある。
【0042】
請求項2記載の発明では、油燃料噴射弁はシリンダヘッドのシリンダ中心線の近傍に配置し、油燃料噴射弁の先端の多噴孔ノズルからシリンダの内壁面の方向に向かって放射状に油燃料を噴射する。また、ガス燃料噴射弁はシリンダ中心線から離れた位置に配置し、ガス燃料噴射弁の中心線と燃焼室を形成するシリンダヘッドの触火面との交点と上記シリンダ中心線とを含む面より燃焼室内のスワールの下流方向に向かってガス燃料噴射弁がガス燃料または冷却流体を噴射するようにしたことである。パイロット噴射燃料着火式ガス運転モードの場合、ガス燃料はガス燃料噴射弁からスワール流れの下流方向に向かって噴射するため、燃焼室内のスワールの流れに乗って燃焼室内でシリンダ中心線を中心として旋回運動する。
【0043】
圧縮行程でピストンが上死点に近づくにつれてガス燃料は、シリンダ中心線を中心として旋回しながら空気との混合気に変換されながらピストンにより圧縮される。ピストンが上死点近づいた時点ではシリンダの内壁面の全周に分散してスワールと一体となって旋回するガス燃料の混合気は、ピストンの頂面の中央部にシリンダヘッドに対向する凹状の燃焼室の主要部分を占めるキャビティの外周壁に沿って旋回するようになる。そして、ピストンが上死点近づいた或るタイミングでシリンダヘッドのシリンダ中心線の近傍に配置した油燃料噴射弁は、先端部の燃焼室に露出した多噴孔ノズルからシリンダヘッドの触火面に対して10度から20度の範囲の角度を成す方向でピストンのキャビティの側壁面方向に向かって油燃料をパイロット噴射する。パイロット噴射する油燃料は少量であるため、パイロット噴射時の油燃料噴霧の運動エネルギーは小さい。そのためはパイロット噴射時の油燃料の噴霧はシリンダ壁面近傍には到達しないでピストンのキャビティの中心部に分散する。このように請求項2記載の発明では、上記油燃料噴射弁をシリンダヘッドのシリンダ中心線の近傍に配置し、シリンダ中心線から離れた位置に配置したガス燃料噴射弁がスワールの下流方向に向けて噴射するようにしたことにより、ピストンが上死点に到達する前の燃焼室の主要部分を占めるキャビティの中では、中心部のパイロット噴射した油燃料の噴霧を取り囲むようにガス燃料と空気の混合気が旋回するガス燃料混合気の分布形態となる。ピストンが上死点の前で油燃料の噴霧が自己着火して火炎を形成し、この油燃料噴霧の火炎がキャビティの側壁面の全周に分散して油燃料噴霧を取り囲んで旋回するガス燃料の混合気の内周面の全体から点火するため、燃焼室内の全てのガス燃料を速やかに燃焼させることが可能となる。
【0044】
請求項3記載の発明は、パイロット噴射燃料着火式ガス運転モード時に各シリンダでの1サイクル当たりに燃焼室内に必要な量のガス燃料を噴射する時に、ガス燃料噴射弁が一回の開弁によって燃焼室内に噴射するのではなく、ガス燃料噴射弁が複数回の開弁を行わせることによって複数回に分けて断続した噴射とする。燃焼室内の空気中にガス燃料噴射弁からガス燃料を噴射した場合には、気体の中に気体を噴射することになる。この場合、空気とガス燃料の密度の差が少ないために噴射したガス燃料が燃焼室内の空気の中に進入し難く、燃焼室内で短時間に空気とガス燃料を混合させてス燃料の混合気を形成せることは難しい。しかしながら、ガス燃料噴射弁に複数回の開弁を行わせることによって複数回に分けて断続してガス燃料を噴射した場合には、燃焼室内のスワールの中にガス燃料噴射弁から噴射したガス燃料は多くの塊となって分散するようになる。この多くのガス燃料の塊はスワールで流される間に燃焼室内で広く分散されると共に、燃焼室内での空気とガス燃料との混合が促進されようになる。
【0045】
ピストンが上死点に近づいた圧縮行程の終わり近くの時点では、ガス燃料の混合気は、ピストンの頂面の中央部にシリンダヘッドに対向する凹状の燃焼室の主要部分を占めるキャビティの中を旋回する分布形態となる。このキャビティの中で旋回するガス燃料の混合気の中にシリンダ中心線の近傍に配設した油燃料噴射弁から噴射した油燃料の噴霧は、キャビティ中心に油燃料噴霧の混合気を形成する。ピストンの上死点の前で油燃料噴霧が自己着火して火炎を形成し、油燃料噴霧を取り囲むガス燃料の混合気を点火して効率よくガス燃料混合気を燃焼させることができる。これにより、燃焼室内の全てのガス燃料混合気を点火して完全に燃焼させることが短期間できるため、低燃費でCOやHCの少ない良好なパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードの燃焼を実現することができる。
【0046】
請求項4記載の発明では、二元運転モードエンジンシステムの4サイクルエンジンでは、ディーゼル運転モード時において、吸気行程の開始から圧縮行程の終了に至る期間内にガス燃料噴射弁から冷却流体を噴射する。冷却流体として水を使用し、吸気行程の開始から圧縮行程の終了に至る期間内に水を噴射した場合、爆発行程の燃焼熱で燃焼室内に分散した水の噴霧は蒸発する。その時の水の噴霧の吸熱作用で燃焼ガスの温度を下げることによりNOxが低減できると共に、水の噴霧の気化での体積膨張による爆発行程時のシリンダ内圧力の上昇により、シリンダ内の作動流体の膨張仕事が増加してエンジン出力が増して燃費が低減できる効果がある。また、燃焼室内への水の噴射によりスワールの旋回速度が上昇して燃焼室内での油燃料噴霧と空気との混合が促進され、油燃料噴霧と空気との混合気の均一性が高まって油燃料の燃焼が良化し、CO、HCおよびパテキュレートの排出削減に加え、燃費低減の効果が得られる。また、吸気行程や圧縮行程でガス燃料噴射弁から燃焼室内に空気を噴射した場合、ガス燃料噴射弁から燃焼室内のスワールの下流方向に空気を噴射するためにスワールの回転エネルギーが増加して、油燃料噴射弁から噴射された軽油等の油燃料と燃焼室内の空気との混合が促進され、ディーゼル燃焼が良化する効果も得られる。このように、吸気行程の開始から圧縮行程の終了に至る期間内の適切なタイミングで冷却流体を噴射することにより、燃焼の良化や有害排出ガスの低減を得ることができる。
【0047】
また、パイロット噴射燃料着火式ガス運転モード時にはガス燃料噴射弁から燃焼室内に吸気行程の開始から圧縮行程の終了に至る期間内にガス燃料を噴射する。この期間に噴射することにより、燃焼室内に直接に噴射したガス燃料は未燃焼の状態で排気マニホールドに排出されないようにすることができる。吸気行程の開始から圧縮行程の終了に至る期間内で適切な噴射のタイミングを選択してガス燃料を噴射することにより、ガス燃料は燃焼室内で広範囲な領域に均一な混合気を形成させることができる。そのため、全てのエンジン運転状態でガス燃料の混合気が所定の均一な混合比に近づけて運転することが可能となり、ガス燃料の混合気が完全燃焼に近い状態で燃焼させることができるため、パイロット噴射燃料着火式ガス運転モードの燃焼の良化や有害排出ガスを低減した運転が可能となる効果がある。
【0048】
請求項5記載の発明では、二元運転モードエンジンのディーゼル運転モード時にはエンジン出力に比例した量の軽油やDME等の油燃料が油燃料噴射弁から噴射されるため、燃焼室内の燃焼ガス温度はエンジン出力に比例して高くなり、ガス燃料噴射弁の先端の燃焼室に露出した弁部の温度は、油燃料の噴射量に比例して高くなる。ガス燃料噴射弁の弁部の過剰な温度上昇によるガス燃料噴射弁の不具合発生を防止するため、ディーゼル運転モード時の油燃料の噴射量が多い場合には、ガス燃料噴射弁から燃焼室内に噴射する冷却流体の量を増加させるようにして、ガス燃料噴射弁の先端の燃焼室に露出した弁部の温度を一定以下の温度に冷却する。ディーゼル運転モード時にはエンジン運転の負荷条件によりガス燃料噴射弁から燃焼室内に噴射する冷却流体の量を調整することにより、冷却流体の噴射エネルギーの浪費を防止してエンジン燃費低下を最小限に抑え、冷却流体の噴射量の節約による冷却流体のタンクをコンパクト化することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
本発明の第1実施の形態は、油燃料噴射弁から軽油やDME等の圧縮着火性の良い主燃料の油燃料を燃焼室内に直接に噴射すると共にガス燃料噴射弁から空気や水等の冷却流体を燃焼室内に直接に噴射して油燃料のみを燃焼させて運転するディーゼル運転モードと、ガス燃料噴射弁から天然ガス等の圧縮着火性の悪い主燃料のガス燃料を燃焼室内に直接に噴射すると共に油燃料噴射弁から少量の油燃料を直接にパイロット噴射して油燃料の燃焼火炎によりガス燃料噴射弁から噴射した主燃料のガス燃料を点火して燃焼させて運転するパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードとの2種類の運転モードに切り替えが可能な4サイクルで運転する多シリンダの二元運転モードエンジンである。この第1実施の形態について、図1乃至図6に基づいて詳述する。図1は、軽油やDME等の圧縮着火性の良い油燃料を各シリンダの油燃料噴射弁に供給して各シリンダの油燃料噴射弁が各シリンダの燃焼室内に油燃料を直接に噴射する具体的な構成と、天然ガス等の縮着火性の悪いガス燃料または空気や水等の冷却流体の何れかを選択して各シリンダのガス燃料噴射弁に供給して各シリンダのガス燃料噴射弁が各シリンダの燃焼室内に選択されたガス燃料または冷却流体を直接に噴射する具体的な構成を示した模式図である。
【0050】
第1実施形態の二元運転モードエンジンのエンジン本体10では、シリンダヘッド1とシリンダ2およびピストン3により燃焼室6を構成し、ピストンの頂面の中央部にシリンダヘッドに対向する凹状のキャビティ7を配設し、シリンダ中心線Aの近傍のシリンダヘッド1に油燃料噴射弁4を配置し、シリンダ中心線Aから離れた位置のシリンダヘッド1にガス燃料噴射弁5を配設し、燃焼室6の中に油燃料噴射弁4からは油燃料を噴射すると共にガス燃料噴射弁5からはガス燃料または冷却流体の何れかを噴射するようにしたものである。
【0051】
先ず、油燃料噴射弁4が油燃料を噴射する方法について説明する。軽油やDME等の油燃料は、液体燃料供給装置20の液体燃料タンク21からサプライポンプ22に供給通路24で導かれてサプライポンプ22で加圧さる。サプライポンプ22で加圧された油燃料は供給通路25でコモンレール23に導かれる。コモンレール23に導かれた油燃料は、コモンレール23から供給通路26で油燃料噴射弁4に導かれる。電磁弁である油燃料噴射弁4は電子制御装置(ECU:Electronic-Control Unit)60からの制御信号で開弁及び閉弁し、クランク角度の所定時期に所定のクランク角度にわたって油燃料噴射弁4が所定量の油燃料を燃焼室6に噴射する構造となっている。
【0052】
次に、ガス燃料噴射弁5がガス燃料を噴射する方法について説明する。ガス燃料はガス燃料供給装置30の高圧ガス燃料ボンベ31から供給通路33でレギュレータ32に導かれ、レギュレータ32で所定の圧力まで減圧される。レギュレータ32で所定の圧力まで減圧されたガス燃料は、供給通路34で切替装置50に導かれる。この切替装置50は、電子制御装置60からの制御信号によりガス燃料と冷却流体の何れかを選択してガス燃料噴射弁5に送ることが可能な電磁駆動式の三方弁である。ガス燃料噴射弁5にガス燃料を送るように指示する電子制御装置60からの制御信号を切替装置50が受け取ることにより、切替装置50は、供給通路44と供給通路11を連通しないようにすると共に供給通路34と供給通路11が連通するように切り替わり、レギュレータ32から供給されたガス燃料をガス燃料噴射弁5に導くように切り替えられる。これにより切替装置50を介してレギュレータ32からガス燃料噴射弁5にガス燃料が送られる。そして、電子制御装置60からガス燃料噴射弁5に送られた制御信号によってガス燃料噴射弁5は、クランク角度の所定時期に所定のクランク角度にわたって開弁し、所定量のガス燃料を燃焼室6の中に噴射する構造となっている。
【0053】
次に、ガス燃料噴射弁5が冷却流体を噴射する方法について説明する。冷却流体は高圧冷却流体供給装置40の冷却流体タンク42から供給通路43を通じて加圧装置41に導かれ、加圧装置41で所定の圧力まで加圧される。加圧装置41で所定の圧力まで加圧された冷却流体は次に、供給通路44を通じて切替装置50に導かれる。この切替装置50は、電子制御装置60からの制御信号によりガス燃料と冷却流体の何れかを選択してガス燃料噴射弁5に送ることが可能な電磁駆動式の三方弁である。ガス燃料噴射弁5に冷却流体を送るように指示する電子制御装置60からの制御信号を切替装置50が受け取ることにより、切替装置50は供給通路34と供給通路11を連通しないようにすると共に供給通路44と供給通路11が連通するように切り替わり、加圧装置41から供給される冷却流体がガス燃料噴射弁5に導かれるよう切り替えられる。これにより、切替装置50を介して加圧装置41からガス燃料噴射弁5に冷却流体が送られる。そして、電子制御装置60からガス燃料噴射弁5に送られた制御信号によってガス燃料噴射弁5は、クランク角度の所定時期に所定のクランク角度にわたって開弁し、所定量の冷却流体を燃焼室6の中に噴射する構造となっている。
【0054】
第1実施形態の二元運転モードエンジンは、軽油やDME等の油燃料のみで運転するディーゼル運転モードと、軽油やDME等の油燃料と天然ガス等のガス燃料で運転するパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードの2種類の運転モードに切替えることが可能である。ディーゼル運転モード時には油燃料噴射弁4が主燃料として燃焼室6の中に油燃料を噴射すると共にガス燃料噴射弁5が燃焼室6の中に冷却流体を噴射し、油燃料のみを燃焼させて運転する。そしてパイロット噴射燃料着火式ガス運転モード時には、油燃料噴射弁4が燃焼室6の中に少量の油燃料をパイロット噴射すると共に、ガス燃料噴射弁5が燃焼室6の中に主燃料であるガス燃料を噴射し、油燃料とガス燃料を燃焼させて運転する。このようにパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードでは、二元運転モードエンジンは油燃料とガス燃料の2種類の燃料を燃焼させて運転する。
【0055】
次に、ディーゼル運転モードとパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードの2種類の運転モードにおいて、電子制御装置60が行う油燃料を噴射する油燃料噴射弁4とガス燃料または冷却流体を噴射するガス燃料噴射弁5との制御について、電子制御装置60の制御フローチャートである図2に基づいて説明する。先ず、エンジンの運転者が図示しない運転モード選択スイッチを操作して運転モードを選択し、運転モードの信号が図示しないエンジン制御装置に入力される。またこれと同時に、高圧ガス燃料ボンベ31でのガス燃料の充填状態を示す圧力信号が図示しないエンジン制御装置に入力される。この図示しないエンジン制御装置では、例えば高圧ガス燃料ボンベ31にガス燃料を補充すべきレベルまで低下していることを示す圧力信号がエンジン制御装置に入力された場合には、仮にエンジンの運転者がパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードを選択したとしても図示しないエンジン制御装置に組み込まれたプログラムにより、図示しないエンジン制御装置から電子制御装置60にガス燃料が不要なディーゼル運転モードを指示する運転モードの信号が送られるようにする。このように図示しないエンジン制御装置では高圧ガス燃料ボンベ31の残留ガス燃料をチェックしながら適切な運転モードの信号が決定できるプログラムが組み込まれている。図示しないエンジン制御装置で決定された運転モードの信号は、図示しないエンジン制御装置から電子制御装置60に送られる。電子制御装置60ではステップS0で図示しないエンジン制御装置からの運転モードの信号の入力が行われる。ステップS0からステップS1に運転モードの信号が送られ、ステップS1で運転モードの信号の検出が行われる。次に、ステップS1で検出した運転モードの信号について、ステップS2では運転モードの信号がディーゼル運転モードとパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードの何れであるかについての判断が行われる。
【0056】
ステップS2で運転モードの信号がパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードであると判断された場合は、ステップS3とステップS5に進む。ステップS3では切換装置50はレギュレータ32からのガス燃料をガス燃料噴射弁5に送り出し、そしてステップS6でガス燃料噴射弁5から燃焼室6の中に主燃料のガス燃料が噴射される。またステップS5では油燃料噴射弁4から燃焼室6の中に少量の油燃料がパイロット噴射される。このようして第1実施形態の二元運転モードエンジンではパイロット噴射した油燃料の自己着火の火炎が主燃料であるガス燃料を燃焼させるパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードの運転が行われる。
【0057】
一方、ステップS2で運転モードの信号がディーゼル運転モードであると判断された場合は、ステップS4とステップS7に進む。ステップS4では切換装置50は加圧装置41からの空気や水などの冷却流体をガス燃料噴射弁5に送り出し、そしてステップS8でガス燃料噴射弁5から燃焼室6の中に冷却流体が噴射される。またステップ7では油燃料噴射弁4から燃焼室6の中に主燃料の油燃料が噴射される。このようにして第1実施形態の二元運転モードエンジンでは主燃料の油燃料のみを燃焼させるディーゼル運転モードの運転が行われる。
【0058】
次に、第1実施形態の二元運転モードエンジンのパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードにおいて、一つのシリンダ2における油燃料噴射弁4が少量の油燃料を噴射するパイロット噴射とガス燃料噴射弁5が噴射する主燃料のガス燃料の噴射について、図3、図4、図5および図6に基づいて説明する。図3は、シリンダヘッド1とシリンダ2およびピストン3により形成された燃焼室6とシリンダヘッド1に配設された油燃料噴射弁4とガス燃料噴射弁5の斜視透過図である。第1実施形態の二元運転モードエンジンでは、ピストン3が下降する吸気行程の時に図示しない吸気弁が開弁し、吸入空気は吸気ポート12の中を吸入空気流75のように流れ、吸気ポート12から図示しない吸気弁を通過して燃焼室6に吸入される。ここで図示しない吸気弁は、吸気ポート12が燃焼室6に開口する部分のシリンダヘッドに取り付けられており、吸入空気の制御と燃焼室6を気密にする部品である。燃焼室6に吸入された空気は、燃焼室6の中でシリンダ中心線Aを中心とする図3に示した方向のスワール70を形成する。
なお、排気ポート13が燃焼室6に開口する部分のシリンダヘッド1に取り付けた図示しない排気弁が排気行程で開弁し、燃焼室6の中での油燃料やガス燃料が燃焼した後の排気ガスは、排気ポート13の中を排気ガス流76のように流れて図示しない排気マニホールドに排出される。
【0059】
シリンダ中心線Aの近傍に配置した油燃料噴射弁4は、電子制御装置60からの制御信号により燃焼室6の中に所定の時期に所定の量の油燃料を噴射する。油燃料は、シリンダヘッド触火面9に対して10度から20度の範囲の角度を成してシリンダ2の内壁面(ピストン3が上死点に近い場合はピストン3のキャビティ側壁8)に向かって油燃料噴射弁4の燃焼室6に露出する弁部に設けた多噴孔ノズルの各噴孔ノズルから噴射される。一方、シリンダ中心線Aから離れた位置のシリンダヘッド1に配設したガス燃料噴射弁5は、電子制御装置60からの制御信号によりガス燃料噴射弁5の先端に設けられた単噴孔ノズルまたは多噴孔ノズルから燃焼室6の中に吸気行程の開始から圧縮行程の終了に至る期間内の最適な時期(クランク角度)でガス燃料を噴射する。このガス燃料は、ガス燃料噴射弁5の燃焼室6に露出する弁部に設けた単噴孔ノズルまたは多噴孔ノズルから、ガス燃料噴射弁中心線Cとシリンダヘッド触火面9との交点Bとシリンダ中心線Aとを含む面であるAB面(図3に斜線で示した面)よりスワール70の方向に対し下流となる方向(交点Bでスワール70の方向に逆流となる速度ベクトル成分を持たない方向)に噴射されるように構成する。
【0060】
ガス燃料噴射弁5から燃焼室6のスワール70の方向に対して下流方向に吸気行程の開始から圧縮行程の終了する期間の適切なタイミングで1サイクルの1回のガス燃料を噴射した場合、ガス燃料混合気は燃焼室6の中を旋回する空気と混合しながらスワール70の方向に流され、シリンダ2の内壁面に沿ってスワール70と共にシリンダ2の中を旋回するようなる。そして、圧縮行程でピストン3が上死点近づくにつれて燃焼室6の中の空気とガス燃料が混合したガス燃料混合気は圧縮される。ピストン3が上死点近づいた時点ではキャビティ7が燃焼室6の主要部分を占めるため、それまでシリンダ2の内壁面の内周に分散してスワール70の方向と一体となって旋回するガス燃料混合気は、ピストンの頂面の中央部に配設したキャビティ7の外周壁に沿って旋回するようになる。このキャビティ7の外周壁に沿って旋回してキャビティの中でドーナッツ形状のように分布するガス燃料混合気の中心部にシリンダ中心線Aの近傍の油燃料噴射弁4から燃焼室6に少量の油燃料をキャビティ側壁8に向かってパイロット噴射する。パイロット噴射燃料着火式ガス運転モードの時には、油燃料噴射弁4からパイロット噴射する油燃料が少量なためにパイロット噴射時の油燃料噴霧の運動エネルギーは小さい。そのためはパイロット噴射時の油燃料噴霧はキャビティ側壁8の近傍には到達しないでピストン3のキャビティ7の中心部に分散する。図4は、ピストン3が上死点に近づいた時点において、ガス燃料噴射弁5からガス燃料の噴射により形成されたガス燃料混合気72と油燃料噴射弁4から油燃料の噴射により形成された油燃料噴霧71がキャビティ7の中に分布する状態をX視(図1参照)で示したものである。ピストン3が上死点近づいた時点で燃焼室6の主要部分を占めるキャビティ7の中では、中心部のパイロット噴射した油燃料噴霧71を取り囲むようにガス燃料混合気72が旋回する分布形態となる。
【0061】
圧縮行程が進行し、ピストン3が上死点に接近して燃焼室6の中の温度と圧力が上昇した時点でパイロット噴射の油燃料噴霧71が自己着火を起こす。図4に示したように、ガス燃料混合気72は油燃料噴霧71を取り囲んでドーナツ状に分布しているため、ガス燃料混合気72の内周面の広い範囲にわたってガス燃料混合気72に接触することになり、油燃料噴霧71の火炎がガス燃料混合気72の内周面から点火することができる。これによりドーナッツ状に分散したガス燃料混合気72は内周面から一斉に点火されることになり、短時間に燃焼室6の中で主燃料のガス燃料混合気72を円滑に燃焼させることができる。そのため、第1実施形態の二元運転モードエンジンは、サイクル効率が良く、HCやCOの有害排出ガスの少ないでのパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードの運転を行うことができる。
【0062】
一般に、パイロット噴射燃料着火式ガス運転モード時の特定の運転状態において、シリンダ2に吸入された空気がスワール70の方向に旋回運動する燃焼室6の中に、ガス燃料噴射弁5からガス燃料をスワール70の方向の下流方向に噴射したとしても、密度の近い気体の空気の中に気体のガス燃料を噴射する混合の形態となるため、噴射したガス燃料が空気の中に進入し難く、噴射した全てのガス燃料を理論混合比となるように空気と混合させることは極めて難しい。そこで、第1実施形態の二元運転モードエンジンでは、パイロット噴射燃料着火式ガス運転モード時の特定の運転状態において、各々のシリンダ2の燃焼室6に必要な量のガス燃料を噴射する時に、電子制御装置60から送られた制御信号により吸気行程の開始から圧縮行程の終了に至る期間内でその時の運転状態に適した噴射のタイミングを選択してガス燃料を噴射すると共に、ガス燃料噴射弁5に1サイクル当たりに複数回の開弁を行わせることによって1サイクル当たりに必要なガス燃料量を複数回に分けて断続して噴射するようにする。これにより、ガス燃料は燃焼室6の中でスワール70の下流方向に複数の混合気の塊としてシリンダ2の内壁面に沿って空気と混合しながら流され、ガス燃料の混合気の塊は均一混合気に成長していくようにする。
【0063】
そして、圧縮行程でピストン3が上死点近づくにつれて燃焼室6の中で空気とガス燃料が混合気を形成しながらガス燃料は圧縮される。ピストン3が上死点近づいた時点ではキャビティ7が燃焼室6の主要部分を占めるため、それまでシリンダ2の内壁面の内周に分散してスワール70と一体となって旋回する複数のガス燃料混合気の塊はピストン3が上死点近づいた時点でキャビティ側壁8に沿って旋回するようになる。このキャビティ側壁8に沿って分布したガス燃料混合気の塊が旋回するキャビティ7の中心部に、シリンダ中心線Aの近傍の油燃料噴射弁4から少量の油燃料をキャビティ側壁8に向かってパイロット噴射する。パイロット噴射燃料着火式ガス運転モード時には油燃料噴射弁からパイロット噴射する油燃料が少量なためにパイロット噴射時の油燃料噴霧71の運動エネルギーは小さい。そのためはパイロット噴射時の油燃料噴霧71はキャビティ側壁8の近傍には到達しないでピストン3のキャビティ7の中心部に分散する。図5は、ピストン3が上死点に近づいた時点において、ガス燃料噴射弁5から燃焼室6の中に1サイクルでガス燃料を数回に分けて断続して噴射したことにより形成されたガス燃料混合気73の塊と、油燃料噴射弁4から油燃料をパイロット噴射したことにより形成された油燃料噴霧71がキャビティ7の中に分布する状態をX視(図1参照)で示したものである。図5に示したように、燃焼室6の主要部分を占めるキャビティ7の中では、中心部のパイロット噴射した油燃料噴霧71を取り囲むように断続噴射した場合のガス燃料混合気73が旋回する分布形態となる。
【0064】
圧縮行程が進行し、ピストン3が上死点に接近して燃焼室6の中の温度と圧力が上昇した時点でパイロット噴射の油燃料噴霧71が自己着火を起こす。ガス燃料混合気73の塊は油燃料噴霧71を取り囲んで分布しているため、全てのガス燃料混合気73の塊に対してキャビティ8の中心方向から油燃料噴霧71の火炎がガス燃料混合気73の塊に点火することができる。これにより油燃料噴霧71の周囲を取り囲むように分布したガス燃料混合気73の全ての塊をキャビティ7の中心方向から一斉に点火できることになり、短時間に燃焼室6の中で主燃料のガス燃料混合気73を円滑に燃焼させることができる。そのため、第1実施形態の二元運転モードエンジンは、サイクル効率が良く、HCやCOの有害排出ガスの少ないパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードの運転を行うことができる。
【0065】
第1実施形態の二元運転モードエンジンでのパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードの運転では、エンジン負荷およびエンジン回転数の状態にしたがって電子制御装置60によりガス燃料噴射弁5を制御してガス燃料の噴射を最適にする。例えば、吸気行程の開始から圧縮行程の終了に至る期間内でガス燃料の噴射量に適したタイミングでガス燃料を噴射すると共に、ガス燃料の噴射量が少ない低負荷時にはガス燃料噴射弁5から1サイクルで1回の連続したガス燃料の噴射を行い、ガス燃料の噴射量が多い中高低負荷時にはガス燃料噴射弁5から1サイクルで複数回に分けて断続したガス燃料の噴射を行う。これにより、エンジン運転状態でガス燃料の混合気を燃焼室6の中の広範囲に分散させると共に過濃混合気の形成を抑え、ガス燃料の燃焼悪化を防止する。また、ガス燃料噴射弁から燃焼室6の中に吸気行程の開始から圧縮行程の終了に至る期間内にガス燃料の噴射を完了させるようにしたことにより、燃焼室6の中に直接に噴射したガス燃料は未燃焼の状態でシリンダ2から大気中に排出されることが防止できる。このようにして、第1実施形態の二元運転モードエンジンでのパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードの運転では、全ての運転状態において、主燃料のガス燃料を所定の均一な混合比にして円滑に燃焼させることができるため、サイクル効率が良く、HCやCOの有害排出ガスの少ない運転を行うことが可能となる。
【0066】
次に、第1実施形態の二元運転モードエンジンのディーゼル運転モードについて、油燃料噴射弁4から噴射する主燃料の油燃料の噴射と、ガス燃料噴射弁5から噴射する冷却流体の噴射について説明する。ディーゼル運転モードにおいては、電子制御装置60から送られた制御信号により吸気行程の開始から圧縮行程の終了に至る期間内の最適な時期にガス燃料噴射弁5から燃焼室6の中に冷却流体を噴射すると共に、電子制御装置60から送られた制御信号によりピストン3が上死点に近づいたタイミングで油燃料噴射弁4から主燃料の油燃料を燃焼室6の大部分を占めるキャビティ7の中に噴射して第1実施形態の二元運転モードエンジンはディーゼル運転モードの運転を行う。パイロット噴射燃料着火式ガス運転モードにおける油燃料噴射弁4の油燃料のパイロット噴射の場合に比較し、ディーゼル運転モードにおける油燃料噴射弁4の油燃料の噴射では、主燃料として油燃料を噴射するために油燃料の噴射量が多く、噴射圧力、噴射期間および噴射回数等の噴射形態が異なることである。また、ディーゼル運転モードにおける冷却流体の噴射は、電子制御装置60により吸気行程の開始から圧縮行程の終了に至る期間内の最適な噴射時期に1サイクル当たりの最適な噴射回数で最適な噴射量に制御する。
【0067】
ディーゼル運転モード時にはエンジン出力に比例した量の軽油やDME等の油燃料が噴射され、燃焼室6の中の燃焼ガス温度はエンジン出力に比例して高くなり、ガス燃料噴射弁のノズル部分の温度は油燃料の噴射量に比例して高くなる。過剰な温度上昇によるガス燃料噴射弁の不具合発生を防止するため、ディーゼル運転モード時の油燃料の噴射量が多い場合には、ガス燃料噴射弁から燃焼室6の中に噴射する冷却流体の量を増加させるようにして、ガス燃料噴射弁の弁部の温度を一定以下の温度に冷却する。ディーゼル運転モード時にはエンジン運転の負荷条件によりガス燃料噴射弁から燃焼室6の中に噴射する冷却流体の量を調整することにより、冷却流体の噴射エネルギーの浪費を防止してエンジン燃費低下を最小限に抑え、冷却流体の噴射量の節約による冷却流体のタンクをコンパクト化することが可能となる。また、爆発行程に比べてシリンダ2の中の圧力が低い吸気行程の開始から圧縮行程の終了に至る期間内の最適な噴射時期に冷却流体を噴射するようにしたことにより、冷却流体の噴射圧力は高圧にする必要が無いため、加圧装置41の加圧エネルギーは少なくて良いため、加圧装置41の駆動による大幅な燃費悪化が回避できる効果がある。このようにガス燃料噴射弁5から噴射する冷却流体を最適に制御することにより、ディーゼル運転モードにおいてガス燃料噴射弁5からの冷却流体の噴射による駆動損失を抑えると共に冷却流体のタンクをコンパクト化し、且つガス燃料噴射弁5が燃焼室6の中に露出したガス燃料噴射弁5を冷却し、ガス燃料噴射弁5が油燃焼の燃焼ガスによる直接的な加熱やその燃焼ガスの輻射熱によって過剰に温度が上昇し、ガス燃料噴射弁5が過熱による損傷を受けるのを防止することができる。
【0068】
また、冷却流体は、ガス燃料と同じくガス燃料噴射弁5からシリンダ中心線Aから離れた配置したガス燃料噴射弁5の単噴孔ノズルまたは多噴孔ノズルから燃焼室6のスワール70の下流方向に噴射されることになる。そして冷却流体は、吸気行程の開始から圧縮行程の終了に至る期間内の最適な時期に噴射するようにしたことにより、冷却流体が空気と水の何れの場合であっても燃焼室6の中で旋回する吸入空気のスワール70の旋回エネルギーを増加させることができる。このスワール70の旋回エネルギーの増加は、油燃料噴射弁4から燃焼室6の中に噴射した油燃料の噴霧を燃焼室6の中に広く分布させると共に、油燃料の噴霧と空気との混合を促進させて油燃料の噴霧の混合気を均一な理論混合比に近づける効果がある。これにより、ディーゼル運転モードの油燃料の燃焼は良好となり、黒煙、パティキュレート、COおよびHCの有害排出ガスの低減が得られる。
【0069】
ところで、冷却流体として水を使用し、ガス燃料噴射弁5から吸気行程の開始から圧縮行程の終了に至る期間内の最適な噴射時期に1サイクル当たりに複数回に分けて断続的に水の噴射を行った場合は、1回で噴射する水の噴霧が持つ運動エネルギーは少ないため、水の噴霧は燃焼室6の中に貫徹する力が小さく、燃焼室6の中に浮遊する。そのため、水の噴霧はシリンダ2の壁面やピストン3の表面に到達してそれぞれに表面に水滴として付着してエンジンの運転中に潤滑油に混入して潤滑油の持つ潤滑能力を低下させる不具合を防止することができる。このように断続して噴射した水の噴霧は、ピストン3の表面やシリンダ2の内壁面に付着するこが無くなり、燃焼室6の中の吸入空気と混合しながらガス燃料噴射弁5から遠く離れる方向にスワール70の流れに乗って流されて燃焼室6の中に分散される。そしてピストン3が上死点に近づく時点では、パイロット噴射燃料着火式ガス運転モード時にガス燃料噴射弁5から1サイクル当たりに複数回のガス燃料が噴射された場合の図5のガス燃料混合気73と同様に、断続して噴射された水の噴霧の塊はキャビティ側壁8の全周にわたってキャビティ8の中に分散される。ピストン3が上死点に到達する前に、水の噴霧が充満したキャビティ7の中に油燃料噴射弁4から油燃料が噴射され、ディーゼル運転モードが運転される。水の噴霧が充満したキャビティ7の中で油燃料の噴霧を燃焼させることにより、油燃料の燃焼熱で吸熱作用により油燃料の燃焼ガス温度が低下し、油燃料の燃焼によるNOxの発生が抑制される。また、水の噴霧が気化する際の体積膨張により、爆発行程時のシリンダ内圧力の上昇により、シリンダ内の作動流体の膨張仕事が増加してエンジン出力が増し、燃費が低減できる効果がある。このように、ディーゼル運転モードにおいて、冷却流体として燃焼室6の中にガス燃料噴射弁5から水を噴射した場合には、油燃料の燃焼ガス温度の低下によるNOxの排出が削減と燃費が低減できる効果が得られる。
【0070】
以上の本発明の第1実施形態では油燃料噴射弁4が油燃料を噴射する液体燃料供給装置20として、液体燃料タンク21からサプライポンプ22に供給通路24で導かれてサプライポンプ22で加圧され、サプライポンプ22で加圧された油燃料は供給通路25でコモンレール23に導かれ、コモンレール23に導かれた油燃料はコモンレール23から供給通路26で油燃料噴射弁4に導かれ、電子制御装置60からの制御信号で開弁及び閉弁が制御される電磁弁である油燃料噴射弁4から燃焼室6の中に油燃料を噴射する特許公開2002−13453等で公知のコモンレールシステムを使用した。本発明の第1実施の形態では、油燃料を噴射する方法として、コモンレールシステム以外として、油燃料の加圧ポンプと電子制御装置からの制御信号で開弁及び閉弁が制御される電磁弁である油燃料噴射弁を一体化した噴射装置である特許公開2005−291104等で公知のユニットインジェクタを用いも良い。また、ガス燃料噴射弁5に圧電素子で高速での開弁と閉弁が可能なピエゾ式インジェクターを使用することにより、1サイクルで複数回の断続したガス燃料または冷却流体の噴射を容易に実施することができる。
【0071】
本発明の第1実施形態ではガス燃料噴射弁5は、シリンダ中心線Aから離れた位置のシリンダヘッド1に1本のガス燃料噴射弁5を配設したが、シリンダ中心線Aから離れた位置のシリンダヘッド1に複数のガス燃料噴射弁を配設しても良い。2本のガス燃料噴射弁を配設する場合は、2本のガス燃料噴射弁はそれぞれがシリンダ中心線Aから離れていると共に、互いに対向する位置のシリンダヘッド1に取り付けられることが望ましい。そして、単数のガス燃料噴射弁5の場合と同様に、それぞれのガス燃料噴射弁がガス燃料または冷却流体を噴射する方向は、それぞれのガス燃料噴射弁の単噴孔ノズルまたは多噴孔ノズルの位置でのスワール70の下流方向に向かって燃焼室6の中に噴射することが望ましい。図6は、シリンダ中心線から離れた配置した2本のガス燃料噴射弁55およびガス燃料噴射弁56のそれぞれの先端に設けた2噴孔ノズルからガス燃料噴射弁55およびガス燃料噴射弁56のそれぞれの位置におけるスワール70の下流方向に、吸気行程の開始から圧縮行程の終了に至る期間内の最適な期間に1サイクルで複数回の断続したガス燃料の噴射を行い、圧縮行程が進行してピストン3が上死点近づいた時点でシリンダ中心線Aの近傍に配設した油燃料噴射弁4の先端に設けた2噴孔ノズルからピストン3のキャビティ側壁8に向かって放射状にキャビティ7の中に少量の油燃料をパイロット噴射した時のガス燃料混合気74と油燃料噴霧71が分布する状態をX視(図1参照)で示したパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードの図である。ガス燃料噴射弁55およびガス燃料噴射弁56の2本のガス燃料噴射弁を持つ二元運転モードエンジンのパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードでのガス燃料混合気74は、1本のガス燃料噴射弁5を持つ二元運転モードエンジンのパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードの場合よりも短時間に主燃料のガス燃料をシリンダ2の中の広範囲に分布させると共に、噴射した全てのガス燃料の混合気を理論混合比に近づけて過濃なガス燃料の混合気の部分を極力、少なくすることが可能となる。全ての理論混合比に近い状態のガス燃料混合気74の燃焼が完全燃焼となり、サイクル効率の向上による燃費の改善や不完全燃焼時に伴うCO、HCの有害物質の排出が少なくできる効果がある。ガス燃料噴射弁55およびガス燃料噴射弁56の2本のガス燃料噴射弁を持つ二元運転モードエンジンのディーゼル運転モードでは、キャビティ7の中の広範囲に水の噴霧を分散させることができるため、ディーゼル運転モード時に十分なNOxの排出削減が可能となる。
【0072】
また、本発明の第1実施形態の二元運転モードエンジンでは、特許公開2005−54771の気筒群個別制御エンジンを適用して特定の運転状態において一部のシリンダの運転を休止する気筒群個別制御を行っても良い。そして、特許公開2005−69238のエンジンの排出ガスシステムを併用し、燃費の低減や排出ガスの浄化を図っても良い。また、電子制御装置60からの信号により油燃料噴射弁4を1サイクルで複数の開弁を行わせて、油燃料噴射弁4から断続して油燃料を燃焼室6の中に噴射させても良い。また、冷却流体として空気を用いる場合は、冷却流体タンク42を省略し、供給通路44を二元運転モードエンジンのエアクリーナーの下流の吸気管に接続して加圧装置41に冷却空気を供給しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本第1実施形態の二元運転モードエンジンにおいて、油燃料噴射弁が油燃料を燃焼室の中に噴射する具体的な構成と、ガス燃料噴射弁がガス燃料または冷却流体を燃焼室の中に噴射する具体的な構成を示した模式図である。
【図2】本第1実施形態の油燃料噴射弁からの油燃料の噴射とガス燃料噴射弁からのガス燃料および冷却流体の噴射に関する制御のフローチャートである。
【図3】本第1実施形態のシリンダヘッドとシリンダおよびピストンにより構成された燃焼室とシリンダヘッドに配設された油燃料噴射弁4とガス燃料噴射弁5の透過斜視図である。
【図4】本第1実施形態のパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードで油燃料のパイロット噴射と1サイクルで1回のガス燃料の噴射の状態(X視図)を示したものである。
【図5】本第1実施形態のパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードで油燃料のパイロット噴射と1サイクルで数回に分けて断続したガス燃料の噴射の状態(X視図)を示したものである。
【図6】本第1実施形態の各シリンダに2本のガス燃料噴射弁を配設し、パイロット噴射燃料着火式ガス運転モードで油燃料のパイロット噴射と1サイクルで数回の断続したガス燃料の噴射の状態(X視図)を示したものである。
【符号の説明】
【0074】
(1)シリンダヘッド
(2)シリンダ
(3)ピストン
(4)油燃料噴射弁
(5)、(55)、(56)ガス燃料噴射弁
(6)燃焼室
(7)キャビティ
(8)キャビティ側壁
(9)シリンダヘッド触火面
(10)エンジン本体
(11)供給通路
(12)吸気ポート
(13)排気ポート
(20)液体燃料供給装置
(21)液体燃料タンク
(22)サプライポンプ
(23)コモンレール
(24)、(25)、(26)供給通路
(30)ガス燃料供給装置
(31)高圧ガス燃料ボンベ
(32)レギュレータ
(33)、(34)供給通路
(40)高圧冷却流体供給装置
(41)加圧装置
(42)冷却流体タンク
(43)、(44)供給通路
(50)切替装置
(60)電子制御装置
(70)スワール
(71)油燃料噴霧
(72)、(73)、(74)ガス燃料混合気
(75)吸入空気流
(76)排気ガス流
(A)シリンダ中心線
(B)ガス燃料噴射弁の中心線と燃焼室を形成するシリンダヘッドの面との交点
(C)ガス燃料噴射弁中心線
(AB面)シリンダ中心線Aと交点Aを含む面(図3に斜線で示した面)
(S0)、(S1)、(S2)、(S3)、(S4)ステップ
(S5)、(S6)、(S7)、(S8)ステップ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドとシリンダおよびピストンにより燃焼室を形成し、シリンダヘッドには軽油やDME等の圧縮着火性の良い油燃料を上記燃焼室内に直接に噴射する油燃料噴射弁と天然ガス等の圧縮着火性の悪いガス燃料を上記燃焼室内に直接に噴射するガス燃料噴射弁を備え、上記ガス燃料噴射弁からのガス燃料の噴射を停止させて上記油燃料噴射弁から噴射した油燃料のみを燃焼させて運転するディーゼル運転モードと、上記油燃料噴射弁からパイロット噴射した少量の油燃料の燃焼火炎により上記ガス燃料噴射弁から噴射した主燃料であるガス燃料を点火して燃焼させて運転するパイロット噴射燃料着火式ガス運転モードとの2種類の運転モードに切り替えが可能な二元運転モードエンジンにおいて、ガス燃料供給装置から供給される天然ガス等の圧縮着火性の悪いガス燃料と高圧冷却流体供給装置から供給される空気や水等の冷却流体とを任意に切り替えて上記ガス燃料噴射弁に供給する切換装置を配設し、上記ディーゼル運転モード時には上記油燃料噴射弁から上記燃焼室内に油燃料を噴射すると共に上記切換装置から上記ガス燃料噴射弁に上記冷却流体を供給して上記ガス燃料噴射弁から上記燃焼室内に上記冷却流体を噴射し、上記パイロット噴射燃料着火式ガス運転モード時には上記油燃料噴射弁から上記燃焼室内に少量の油燃料をパイロット噴射すると共に上記切換装置から上記ガス燃料噴射弁にガス燃料を供給して上記ガス燃料噴射弁から上記燃焼室内に主燃料であるガス燃料を噴射するようにしたことを特徴とする二元運転モードエンジンシステム。
【請求項2】
上記油燃料噴射弁は上記シリンダヘッドの上記シリンダのシリンダ中心線の近傍に配置し、上記油燃料噴射弁の先端部の多噴孔ノズルから上記シリンダの内壁面の方向に向かって放射状に油燃料を噴射し、上記ガス燃料噴射弁は上記シリンダヘッドの上記シリンダ中心線から離れた位置に単数または複数を配置し、上記ガス燃料噴射弁の先端部の単噴孔ノズルまたは多噴孔ノズルからガス燃料または冷却流体を噴射する方向が上記ガス燃料噴射弁の中心線と燃焼室を形成するシリンダヘッドの面との交点と上記シリンダ中心線とを含む面より上記燃焼室内を旋回する空気のスワールの下流方向に向けたことを特徴とする請求項1に記載の二元運転モードエンジンシステム。
【請求項3】
上記ディーゼル運転モード時には上記ガス燃料噴射弁から上記燃焼室内にエンジンの1サイクル当たりにおいて複数回に分割して冷却流体を噴射し、上記パイロット噴射燃料着火式ガス運転モード時には上記ガス燃料噴射弁から上記燃焼室内にエンジンの1サイクル当たりにおいて複数回に分割してガス燃料を噴射するようにしたことを特徴とする請求項1乃至2に記載の二元運転モードエンジンシステム。
【請求項4】
4サイクルエンジンでは、上記ディーゼル運転モード時に上記ガス燃料噴射弁から上記燃焼室内に噴射する冷却流体の噴射は上記シリンダの吸気行程の開始から圧縮行程の終了に至る期間内であり、上記パイロット噴射燃料着火式ガス運転モード時に上記ガス燃料噴射弁から上記燃焼室内に噴射するガス燃料の噴射は上記シリンダの吸気行程の開始から圧縮行程の終了に至る期間内であることを特徴とする請求項1乃至3に記載の二元運転モードエンジンシステム。
【請求項5】
上記ディーゼル運転モード時に上記ガス燃料噴射弁から上記燃焼室内に噴射する冷却流体の量は、上記エンジンの運転状態により調整することを特徴とする請求項1乃至4に記載の二元運転モードエンジンシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−51121(P2008−51121A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2007−313058(P2007−313058)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(304029066)
【Fターム(参考)】