説明

作業車両における駆動力制御装置

【課題】作業車両の作業時の操作性を確保しつつ作業車両のブレーキが過熱することを確実に抑制できるようにする。
【解決手段】湿式ブレーキ装置の冷却油の温度が計測され、計測されたブレーキ冷却油温が所定値以上になった場合に、エンジンから駆動輪に伝達される駆動力を低減する制御を行なう。ブレーキ冷却油温が各温度レベルを超える毎に段階的に駆動力を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの動力が駆動力伝達経路を介して駆動輪(タイヤ)に駆動力として伝達される作業車両に関する発明であり、特に駆動力を制御する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホイールローダのエンジンから駆動輪(タイヤ)までの駆動力伝達経路には、トランスファー、モジュレーションクラッチ、トルクコンバータ、前進クラッチ、後進クラッチ、各速度段クラッチを有したトランスミッション、減速機が設けられている。
【0003】
エンジンの出力(トルク)は、トランスファー、モジュレーションクラッチ、トルクコンバータ、トランスミッション、減速機を介して駆動輪(タイヤ)に伝達される。
【0004】
モジュレーションクラッチは、従来から、ホイールローダ等の作業車両において、エンジンとトルクコンバータとの間に設けられ、入力側と出力側の係合度合いを変更して、エンジンからトルクコンバータに伝達される動力を変化させるために設けられている。モジュレーションクラッチは、油圧クラッチで構成され、油圧の大きさを変化させることで、油圧クラッチが係合動作(接続動作)し、ないしは開放動作(切断動作)する。
【0005】
運転室内には、オペレータが着座した位置からみて右側にアクセルペダル、右ブレーキペダル、左側に左ブレーキペダルが設けられている。
【0006】
モジュレーションクラッチは、運転室に設けられた左ブレーキペダルによって係合度合いが調整される。モジュレーションクラッチによりタイヤに伝達される駆動力が所要に可変されることで、インチング作業、つまり微速走行や作業機と走行の的確な複合動作などが可能となり、作業能率を向上させることができる。
【0007】
トランスミッションは、進もうとする方向、必要とする駆動力、必要とする速度(車速)に応じて、前進クラッチ、後進クラッチ、各速度段クラッチを選択的に係合動作、開放動作するものである。
【0008】
コントローラは、アクセルペダルの踏込み量(アクセル操作量)に応じたエンジン回転数が得られるようにエンジンを制御する。コントローラは、負荷に応じてエンジン回転数と燃料噴射量とを調整する。よって、アクセル操作量に応じた駆動力が、エンジンから駆動力伝達経路を介して駆動輪(タイヤ)に伝達されることになる。
【0009】
ホイールローダには、湿式ブレーキ装置が設けられている。湿式ブレーキ装置は、運転室に設けられた右ブレーキペダルを踏み込み操作することで作動する。右ブレーキペダルによるブレーキ踏込み量(ブレーキ操作量)が大きくなるに伴いブレーキ作動油圧が大きくなり、ブレーキ力が強まる。湿式ブレーキ装置は、アクスルに内蔵され、ブレーキ冷却油(デフオイル)に油浴されている。
【0010】
右ブレーキペダルが踏込まれると、ブレーキ作動油がピストンに作用して、ピストン、プレートを介して回転体のディスクが押圧される。この押圧により回転体のディスクと、アクスルシャフトとが一体になって減速され、それに伴って車両全体が制動される。
【0011】
ブレーキ作動時に、ブレーキ冷却油は、非回転体のプレートと回転体のディスクとの制動によって発生する摩擦熱を冷却し、放熱させる冷却油としての役割を果たす。
【0012】
左ブレーキペダルは、モジュレーションクラッチの係合度合いを調整するだけでなく、湿式ブレーキ装置を作動させる機能を持つ。またモジュレーションクラッチの係合度合いを調整する代わりに、トランスミッションのクラッチを切断する機能を持たせた機種もある。
【0013】
ホイールローダは、ブレーキ操作とアクセル操作とが同時に行われることを前提とする作業車両であり、アクセルペダル、ブレーキペダルの操作の仕方によっては、湿式ブレーキ装置において摩擦熱が非常に大きくなる。たとえば右足でアクセルペダルを踏み込みエンジン出力を上げつつ左足で左ブレーキペダルを踏み込み車体速度を低下させる操作が行われることがあり、このときは湿式ブレーキ装置において摩擦熱が非常に大きくなる。このような状況下であってもブレーキのオーバーヒートが発生しないように設計する必要がある。すなわち、オペレータが過度にブレーキとアクセルの同時操作を過酷に行なったとしても、ブレーキ冷却油温が過度に高くなることを抑制して、ブレーキラインの劣化、破損等を防止する必要がある。
【0014】
ホイールローダには、以下のとおり、各種の駆動力低減制御の機能が付加されている。
【0015】
a)モジュレーションクラッチ制御
これはブレーキ操作量が大きくなるに伴いモジュレーションクラッチの係合力を低下させて、駆動輪に伝達される駆動力を弱めるというものである。
【0016】
b)トランスミッションカットオフ制御
これは、ブレーキ操作量が所定のブレーキ操作量しきい値に達した場合に、トランスミッションのシフト位置を中立位置にシフトさせて、駆動輪に伝達される駆動力を断つというものである。
【0017】
現状では、上述のトランスミッションカットオフ制御は、オペレータのスイッチ操作により制御のオン/オフを選択することができるようになっている。
【0018】
なお、ブレーキとアクセルの同時操作時にエンジンの駆動力を制御することに関する特許文献としては、下記に掲げるものがある。
【0019】
特許文献1には、クラッチペダルによる手動変速が行われる一般自動車あるいは競技用自動車を対象として、サーキットコースを走行中にヒールアンドトゥ操作やダブルクラッチ操作を行い易くすることを目的として、シフトチェンジ時にアクセルペダルとブレーキペダルを同時操作するとエンジン回転数を低下させ、クラッチペダルの操作を検出するとエンジン回転数を増大させるという発明が記載されている。
【0020】
特許文献2には、一般自動車を対象として、ブレーキペダルを踏込んでいるつもりで、ブレーキペダルとアクセルペダルを誤って同時に踏込んでしまった場合の車両の暴走を抑制することを目的として、ブレーキペダルとアクセルペダルが共に相当量踏込まれた場合にエンジン回転数をアイドリング回転数まで低下させるという発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2006-233870号公報
【特許文献2】特開2005-291030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
オペレータによっては、とりわけダンプトラックにアプローチする作業状態のときに、使い勝手や操作官能上の理由で、上述のトランスミッションカットオフ制御を解除(オフ)して、ブレーキを作動させながらアクセルペダルを踏込んで車両の速度調整、位置調整を行うことがある。
【0023】
よって、こうした操作性を重視した状況のもとであっても、ブレーキのオーバーヒート対策を確実に行うことができる制御システムが望まれている。
【0024】
なお、上述の特許文献1は、ブレーキが過熱状態であるかどうかとは無関係に、シフトチェンジ時という極めて限られた短時間の間だけエンジンの駆動力(エンジン回転数)を制御するというものであり、これをそのまま作業車両に適用しても到底ブレーキのオーバーヒート対策になり得ない。同様に、上述の特許文献2は、ブレーキが過熱状態であるかどうかとは無関係に、しかもアクセルペダルとブレーキペダルが共に相当量踏込まれた場合のみにエンジンの駆動力(エンジン回転数)の制御を行なうというものであり、到底作業車両のブレーキのオーバーヒート対策になり得ない。
【0025】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、作業車両の作業時の操作性を確保しつつ作業車両のブレーキが過熱することを確実に抑制できるようにすることを解決課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
第1発明は、
エンジンの動力が、駆動力伝達経路を介して駆動輪に駆動力として伝達されるとともに、湿式ブレーキ装置を備えた作業車両において、
湿式ブレーキ装置の冷却油の温度を計測するブレーキ冷却油温計測手段と、
計測されたブレーキ冷却油温が所定値以上になった場合に、エンジンから駆動輪に伝達される駆動力を低減する制御を行なう駆動力制御手段と
を備えたことを特徴とする。
【0027】
第2発明は、第1発明において、
駆動力制御手段は、ブレーキ冷却油温が各温度レベルを超える毎に段階的に駆動力を低減することを特徴とする。
【0028】
第3発明は、第1発明において、
駆動力制御手段は、ブレーキ冷却油温が上昇するに応じて連続的に駆動力を低減することを特徴とする。
【0029】
第4発明は、第1発明において、
ブレーキ操作子によるブレーキ操作量が大きくなるに伴いブレーキ力が大きくなるブレーキ装置が備えられた作業車両であって、
駆動力制御手段は、
ブレーキ操作量が大きくなるに伴いモジュレーションクラッチの係合力が低下するモジュレーションクラッチ制御または/および
ブレーキ操作量が所定のブレーキ操作量しきい値に達した場合に、トランスミッションのシフト位置を中立位置にシフトするトランスミッションカットオフ制御または/および
エンジンの最大トルクを低下させるエンジン出力制御
を行うことを特徴とする。
【0030】
第5発明は、第4発明において、
駆動力制御手段は、ブレーキ冷却油温が各温度レベルを超える毎に、ブレーキ操作量に対するモジュレーションクラッチの係合力の低下度合いを段階的に強めて、モジュレーションクラッチ制御を行なうことを特徴とする。
【0031】
第6発明は、第4発明において、
駆動力制御手段は、ブレーキ冷却油温が上昇するに応じて、ブレーキ操作量に対するモジュレーションクラッチの係合力の低下度合いを連続的に強めて、モジュレーションクラッチ制御を行なうことを特徴とする。
【0032】
第7発明は、第4発明において、
駆動力制御手段は、ブレーキ冷却油温が各温度レベルを超える毎に、ブレーキ操作量しきい値を低下させて、トランスミッションカットオフ制御を行なうことを特徴とする。
【0033】
第8発明は、第4発明において、
駆動力制御手段は、ブレーキ冷却油温が上昇するに応じて、ブレーキ操作量しきい値を連続的に低下させて、トランスミッションカットオフ制御を行なうことを特徴とする。
【0034】
第9発明は、第4発明において、
駆動力制御手段は、ブレーキ冷却油温が各温度レベルを超える毎に、エンジン最大トルクの低下度合いを段階的に強めて、エンジン出力制御を行なうことを特徴とする。
【0035】
第10発明は、第4発明において、
駆動力制御手段は、ブレーキ冷却油温が上昇するに応じて、エンジン最大トルクの低下度合いを連続的に強めて、エンジン出力制御を行なうことを特徴とする請求項4記載の作業車両における駆動力制御装置。
【0036】
第11発明は、第1発明において、
ブレーキ冷却油温計測手段は、湿式ブレーキ装置の冷却油の温度を検出する手段であることを特徴とする。
【0037】
第12発明は、第1発明において、
ブレーキ冷却油温計測手段は、車速と、ブレーキ作動油圧とに基づいてブレーキ熱負荷を求め、このブレーキ熱負荷に基づいて湿式ブレーキ装置の冷却油の温度を予測することを特徴とする。
【0038】
第13発明は、
エンジンの動力が、駆動力伝達経路を介して駆動輪に駆動力として伝達されるとともに、湿式ブレーキ装置を備えた作業車両において、
車速と、ブレーキ作動油圧とに基づいてブレーキ熱負荷を求め、このブレーキ熱負荷に基づいて湿式ブレーキ装置の冷却油の温度を予測するブレーキ冷却油温計測手段と、
計測された予測ブレーキ冷却油温が所定値以上になった場合に、警報信号を出力する警報信号出力手段と、
計測された予測ブレーキ冷却油温が所定値以上になった場合に、エンジンから駆動輪に伝達される駆動力を低減する制御を行なう駆動力制御手段と
を備えたことを特徴とする。
【0039】
第14発明は、第4発明において、
作業車両の降坂時には、モジュレーションクラッチ制御または/およびトランスミッションカットオフ制御を解除すること
を特徴とする。
【発明の効果】
【0040】
第1発明では、湿式ブレーキ装置の冷却油の温度が計測され、計測されたブレーキ冷却油温が所定値以上になった場合に、エンジンから駆動輪に伝達される駆動力を低減する制御を行なうようにしたので、ブレーキに負担がかかっているときに、そのブレーキにかかる負担が軽減され、ブレーキにおける摩擦熱の発熱が抑制され、ブレーキ冷却油温を低下させることができる。これにより既存のオーバーヒート対策のための制御(たとえばトランスミッションカットオフ制御)を解除(オフ)している状況下であっても確実にブレーキの過熱を抑制することができるようになり、作業車両の作業時の操作性を確保しつつ作業車両のブレーキが過熱することを確実に抑制できるようになる。
【0041】
ここで、「駆動力を低減」とは、駆動輪への駆動力を完全に断ち、駆動力を零レベルまで低減させることを含む意味で使用するものとする。
【0042】
第2発明では、ブレーキ冷却油温が各温度レベルを超える毎に段階的に駆動力を低減するようにしたので、あるいは第3発明では、ブレーキ冷却油温が上昇するに応じて連続的に駆動力を低減するようにしたので、ブレーキの発熱の度合いに応じた精度の高い制御を行なうことができる。
【0043】
第4発明では、モジュレーションクラッチ制御または/およびトランスミッションカットオフ制御または/およびエンジン出力制御といった制御を適宜組み合わせて、確実にブレーキの過熱を抑制することができる。また、制御対象が駆動力であるので、作業機へ伝達されるエンジンの出力トルクに影響することがなく、作業車両の作業時の操作性を確保しつつ作業車両のブレーキが過熱することを確実に抑制できる。
【0044】
「エンジン出力制御」とは、本明細書において、エンジン性能曲線はそのままで変更を加えることはせずにアクセルペダルの操作量(スロットル量)ないしは目標回転数に制限を加えることで、エンジン最大トルクを低下させる制御と、エンジン性能曲線を変更することで、エンジン最大トルクを低下させる制御の両方を含む意味で使用するものとする。
【0045】
第5発明〜第10発明によれば、第4発明の各種制御毎に、ブレーキ冷却油温の度合いに応じて、段階的にあるいは連続的に、その駆動力の低減度合いを強めるか、ブレーキ操作量しきい値を段階的にあるいは連続的に低下させて駆動輪への駆動力を完全に断つ時期を早めるようにしたので、ブレーキの発熱の度合いに応じた精度の高い制御を行なうことができる。
【0046】
ブレーキ冷却油温は、第11発明のごとく、センサなどにより直接検出してもよく、第12発明のごとく、車速と、ブレーキ作動油圧とに基づいてブレーキ熱負荷を求め、このブレーキ熱負荷に基づき予測してもよい。
【0047】
ブレーキ冷却油温を予測する場合には、第13発明のごとく、予測ブレーキ冷却油温が所定値以上になった段階で、オペレータに警報信号を与え、所定値以上になった段階で駆動力を低減する制御に移行するようにすれば、ブレーキが過熱状態に至ることを確実に防止することができる。
【0048】
第14発明では、作業車両の降坂時に、モジュレーションクラッチ制御または/およびトランスミッションカットオフ制御を解除することで、降坂時にエンジンブレーキを効かせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、実施例の作業車両における駆動力制御装置の構成を示すブロック図であり、ホイールローダの構成を、本発明に係る部分について示した図である。
【図2】図2は、コントローラで行われる処理の手順を示すフローチャートである。
【図3】図3は、モジュレーションクラッチ圧を制御する場合の制御特性を示したグラフである。
【図4】図4は、トランスミッションに対するシフト指令を制御する場合の制御特性を示したグラフである。
【図5】図5は、エンジン出力を制御する場合の制御特性を示したグラフである。
【図6】図6は、制御特性を連続的に変化させて制御を行なう場合の処理手順を示したフローチャートである。
【図7】図7は、ブレーキ熱負荷とブレーキ冷却油温の予測値との対応関係を示したグラフである。
【図8】図8は、一定の熱負荷を与え続けた場合における時間とブレーキ冷却油温との対応関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0051】
図1は、実施形態の作業車両における駆動力制御装置の構成を示すブロック図であり、ホイールローダの構成を、本発明に係る部分について示している。
【0052】
同図1に示すように、ホイールローダ1のエンジン10から駆動輪(タイヤ)60までの駆動力伝達経路19には、PTO軸2、モジュレーションクラッチ20、トルクコンバータ30、前進クラッチ、後進クラッチ、各速度段クラッチを有したトランスミッション50、プロペラシャフト3、ディファレンシャルギヤ4、アクスルシャフト5が設けられている。アクスルシャフト5には、湿式ブレーキ装置90が設けられている。ディファレンシャルギヤ4、アクスルシャフト5、湿式ブレーキ装置90はアクスル7に内蔵されている。アクスル7はブレーキ室を構成し、湿式ブレーキ装置90は、ブレーキ冷却油に油浴されている。
【0053】
ホイールローダ1のエンジン10の出力軸は、PTO軸2に連結されている。PTO軸2は、モジュレーションクラッチ20に連結されているとともに、油圧ポンプ8に連結されている。
【0054】
エンジン10の出力(トルク)の一部は、PTO軸2、モジュレーションクラッチ20、トルクコンバータ30、トランスミッション50、プロペラシャフト3、ディファレンシャルギヤ4、アクスルシャフト5を介して駆動輪(タイヤ)60に伝達される。
【0055】
また、エンジン10の出力の残りは、PTO軸2を介して油圧ポンプ8に伝達される。これにより油圧ポンプ8が駆動され、油圧ポンプ8から吐出された圧油が操作弁1bを介して、油圧シリンダ1cに伝達され、たとえばブームとバケットからなる作業機1aが作動される。
【0056】
モジュレーションクラッチ20は、エンジン10とトルクコンバータ30との間に設けられ、入力側と出力側の係合度合いを変更して、エンジン10からトルクコンバータ30に伝達される動力を変化させるために設けられている。モジュレーションクラッチ20は、湿式多板の油圧クラッチで構成され、油圧の大きさを変化させることで、油圧クラッチが係合動作(接続動作)し、ないしは開放動作(切断動作)する。本実施例では、モジュレーションクラッチ20に供給される油圧が大きくなると、係合動作し、油圧が小さくなると、開放動作するものとする。
【0057】
トルクコンバータ30は、モジュレーションクラッチ20とトランスミッション50との間に設けられている。
【0058】
トランスミッション50は、前進走行段Fに対応する前進クラッチ55、後進走行段Rに対応する後進クラッチ56、各速度段に対応する速度段クラッチ、つまり1速速度段、2速速度段、3速速度段、4速速度段にそれぞれ対応する1速クラッチ51、2速クラッチ52、3速クラッチ53、4速クラッチ54を有している。各クラッチは、湿式多板の油圧クラッチで構成されている。トランスミッション50では、進もうとする方向、必要とする駆動力、必要とする速度(車速)に応じて、前進クラッチ55、後進クラッチ56、各速度段クラッチ51〜54が選択的に係合動作、開放動作されて、変速が行なわれる。 トランスミッション50の各クラッチ51〜56に供給若しくは各クラッチ51〜56から排出される圧油の油圧を制御することにより、トランスミッション50の各クラッチ51〜56の入力側と出力側の摩擦係合力が制御される。前進クラッチ55、後進クラッチ56のいずれもが係合されず開放されているとき、トランスミッション50のシフト位置は、中立位置NTとなり、トランスミッション50から駆動輪60に伝達されるべき駆動力が断たれる。
【0059】
ホイールローダ1の運転室には、前後進選択操作レバー71と、変速レバー72からなるシフトレバー70が備えられている。
【0060】
前後進選択操作レバー71と変速レバー72の操作によって、前進(F)、後進(R)、1速、2速、3速、4速の各速度段を含むシフトレンジが選択可能となっている。
【0061】
前後進選択操作レバー71は、操作位置に応じて、前進走行段(前進クラッチ55)あるいは後進走行段(後進クラッチ56)を選択する。前後進選択操作レバー7の操作位置(前進位置「F」、後進位置「R」)を示す前後進位置信号は、コントローラ80に入力される。
【0062】
変速レバー72は、操作位置に応じて、速度段の変速範囲であるシフトレンジを選択する。変速レバー72の選択位置は、たとえばシフトレンジ「1速」、シフトレンジ「2速」、シフトレンジ「3速」、シフトレンジ「4速」からなる。変速レバー72の操作位置(シフトレンジ「1速」、「2速」、「3速」、「4速」)を示すシフトレンジ信号は、コントローラ80に入力される。
【0063】
コントローラ80は、シフト指令を生成、出力して、前後進選択操作レバー71、変速レバー72の選択位置に対応するクラッチをトランスミッション50で選択的に係合するようにクラッチに供給される圧油を制御する。こうしたシフトレバー70の操作に応じたシフト指令を、本明細書では、「通常シフト指令」と呼び、後述するトランスミッションカットオフ制御実行時における「中立位置NTへの強制的なシフト指令」と区別するものとする。
【0064】
同様にモジュレーションクラッチ20に供給若しくはモジュレーションクラッチ20から排出される圧油の油圧(以下、モジュレーションクラッチ圧Pmという)を制御することにより、モジュレーションクラッチ20の入力側と出力側の摩擦係合力が制御される。
【0065】
トランスミッション50の各クラッチ51〜56、モジュレーションクラッチ20は、コントローラ80によって、係合動作、開放動作が制御される。
【0066】
トランスミッション50の出力軸には、トランスミッション出力軸の回転数Ntを検出する車速センサ9が設けられている。車速センサ9の検出回転数Ntを示す信号は、コントローラ80に入力される。コントローラ80では、入力されたトランスミッション出力軸回転数Ntがホイールローダ1の車体速度(以下、車速という)Vに変換される。
【0067】
ホイールローダ1の運転席には、アクセルペダル11が設けられている。アクセルペダル11は、オペレータによって踏み込み操作される。アクセル操作量センサ11aでは、アクセルペダル11の踏み込み操作量であるアクセル操作量Saが検出され、アクセル操作量Saを示す信号がコントローラ80に入力される。
エンジン10には、エンジン10の実際の回転数Neを検出するエンジン回転数センサ10aが設けられている。エンジン回転数センサ10aの検出回転数Neを示す信号は、コントローラ80に入力される。
【0068】
コントローラ80では、アクセル操作量Saに応じた目標回転数が得られるように、エンジン10を制御する。エンジン10は、ディーゼルエンジンであり、エンジン出力の制御は、シリンダ内に噴射する燃料量を調整することで行われる。この調整は、エンジン10の燃料噴射ポンプに付設したガバナを制御することで行われる。ガバナとしては、一般的にオールスピード制御方式のガバナが用いられ、アクセル操作量Saに応じた目標回転数となるように、負荷に応じてエンジン回転数と燃料噴射量とを調整する。すなわち、ガバナは目標回転数と実際のエンジン回転数Neとの偏差がなくなるように燃料噴射量を増減する。
【0069】
湿式ブレーキ装置90は、運転室に設けられた左右ブレーキペダル12を踏み込み操作することで作動する。ブレーキ操作量センサ12aでは、左右ブレーキペダル12の踏み込み操作量であるブレーキ操作量Sbが検出され、ブレーキ操作量Sbを示す信号がコントローラ80に入力される。
【0070】
実施例では、湿式ブレーキ装置90は、油圧作動式のブレーキ装置であるとする。この場合、左右ブレーキペダル12によるブレーキ踏込み量、つまりブレーキ操作量Sbが大きくなるに伴いブレーキ作動油圧Pbが大きくなり、ブレーキ力が強まる。ブレーキ作動油圧センサ13では、ブレーキ作動油圧Pbが検出され、ブレーキ作動油圧Pbを示す信号がコントローラ80に入力される。ブレーキ作動油圧センサ13では、湿式ブレーキ装置90の作動油圧Pbが検出され、ブレーキ作動油圧Pbを示す信号がコントローラ80に入力される。
【0071】
左右ブレーキペダル12が踏込まれると、ブレーキ作動油が図示しないピストンに作用して、ピストン、プレート91を介して回転体のディスク92が押圧される。この押圧により回転体のディスク92と、アクスルシャフト5とが一体になって減速され、それに伴って車両全体が制動される。ブレーキ作動時に、ブレーキ冷却油は、非回転体のプレート91と回転体のディスク92との制動によって発生する摩擦熱を冷却し、放熱させる冷却油としての役割を果たす。
【0072】
アクスル7には、冷却油であるブレーキ冷却油の温度Tmを検出するブレーキ冷却油温センサ14が設けられている。ブレーキ冷却油温センサ14では、湿式ブレーキ装置90の冷却油の温度Tmが検出され、ブレーキ冷却油温Tm示す信号がコントローラ80に入力される。
ブレーキ冷却油温センサ14は、ブレーキ冷却油温計測手段の一形態を構成する。ブレーキ冷却油温計測手段の他の形態に、計算によりブレーキ冷却油温Tmの予測値を計測するものがあるが、これについては後述する。
【0073】
ところで、前述したようにホイールローダ1には、以下のとおり、各種の駆動力低減制御の機能が標準装備あるいはオプション設定の形式で付加されている。
【0074】
a)モジュレーションクラッチ制御
これはブレーキ操作量Sbが大きくなるに伴いモジュレーションクラッチ20の係合力を低下させて、駆動輪60に伝達される駆動力を弱めるというものである。
【0075】
b)トランスミッションカットオフ制御
これは、ブレーキ操作量Sbが所定のブレーキ操作量しきい値(以下、カットオフ点という)に達したときに、トランスミッション50のシフト位置を中立位置NTにシフトさせて、駆動輪60に伝達される駆動力を断つというものである。
【0076】
上述のトランスミッションカットオフ制御は、オペレータが運転室に設けられた図示しないスイッチを操作することにより、その制御のオン/オフを選択することができるようになっている。
【0077】
上述のa)のモジュレーションクラッチ制御、b)のトランスミッションカットオフ制御は、いずれもエンジン10から駆動輪60に伝達される駆動力を低減する制御を行なうものである。エンジン10から駆動輪60に伝達される駆動力を低減する制御の他の例には、下記のものがある。
【0078】
c)エンジン出力制御
これは、エンジン10の最大トルクを低下させることで、駆動輪60に伝達される駆動力を弱めるというものである。エンジン出力制御には、エンジン性能曲線はそのままで変更を加えることはせずにアクセルペダル11の操作量(スロットル量)ないしは目標回転数に制限を加えることで、エンジン最大トルクを低下させる制御と、エンジン性能曲線を変更することで、エンジン最大トルクを低下させる制御の両方式がある。
【0079】
a)、b)、c)の各種制御によって駆動輪60に伝達される駆動力が低減される。それにより湿式ブレーキ装置90にかかる負荷が軽減され、湿式ブレーキ装置90における発熱を抑制することができる。駆動力が低減されることで車速が低下し、ブレーキをかけているのと同じ効果があるからである。ただし、ブレーキ操作量に対するブレーキ作動油圧は制御しない。
【0080】
駆動力制御手段としてのコントローラ80は、ブレーキ冷却油温センサ14で検出されたブレーキ冷却油温Tmが所定値以上になった場合に、上述のa)、b)、c)の各種制御のうちのいずれか1つ、あるいはいずれか2つ、あるいは全てを実施して、エンジン10から駆動輪60に伝達される駆動力を低減する制御を行なう。この場合、ブレーキ冷却油温Tmが各温度レベルを超える毎に段階的に駆動力を低減させることができる。また、ブレーキ冷却油温Tmが上昇するに応じて連続的に駆動力を低減させてもよい。
【0081】
なお、ホイールローダ1の種類によっては、元々、モジュレーションクラッチ20が存在しない車両もある。よって、この種の車両には、a)のモジュレーションクラッチ制御を除いた制御をb)、c)を適用すればよい。
【0082】
また、b)のトランスミッションカットオフ制御が装備されている車両の場合には、カットオフ点がオペレータによって任意に設定可能となっている。
【0083】
以下、具体例につき説明する。
【0084】
(第1の制御;モジュレーションクラッチ制御を用いた駆動力低減制御)
図2は、コントローラ80で行われる処理の手順を示すフローチャートである。 図3は、横軸をブレーキ操作量Sb(%)とし、縦軸をモジュレーションクラッチ圧Pm(MPa)としたときの制御特性Lm0、Lm1、Lm2、Lm3をそれぞれ示したグラフである。
【0085】
制御特性Lm0は、「処置なし」に対応する制御特性であり、制御特性Lm1は、「処置レベル1」に対応する制御特性であり、制御特性Lm2は、「処置レベル2」に対応する制御特性であり、制御特性Lm3は、「処置レベル3」に対応する制御特性である。制御特性Lm0、Lm1、Lm2、Lm3はいずれも、ブレーキ操作量Sbが大きくなるほどモジュレーションクラッチ圧Pmがより低下する特性を有している。
【0086】
制御特性Lm0、Lm1、Lm2、Lm3の順で、ブレーキ操作量Sbに対するモジュレーションクラッチ圧Pmが段階的に強まり、モジュレーションクラッチ20の係合力の低下度合いが段階的に強まる。「処置なし」の場合の制御特性Lm0は、従来のモジュレーションクラッチ制御実行時の制御特性に相当する。
【0087】
図3の内容は、たとえば2次元のデータテーブルとしてコントローラ80内に記憶されているものとする。
【0088】
コントローラ80では、記憶されているデータテーブルの内容を参照して、検出されたブレーキ冷却油温Tmが各温度レベルTm1、Tm2、Tm3を超える毎に、制御特性Lm1、Lm2、Lm3を順次選択し、選択した制御特性にしたがいモジュレーションクラッチ圧Pmを制御することで、ブレーキ操作量Sbに対するモジュレーションクラッチ20の係合力の低下度合いを段階的に強める。
【0089】
すなわち、図2に示すように、検出されたブレーキ冷却油温Tmが温度レベルTm1(たとえば120℃)未満である場合には(ステップ101の判断YES)、「処置なし」とされ、制御特性Lm0が選択され、この選択した制御特性Lm0にしたがいモジュレーションクラッチ圧Pmが制御される(ステップ104)。
【0090】
検出されたブレーキ冷却油温Tmが温度レベルTm1(たとえば120℃)以上であって(ステップ101の判断NO)、温度レベルTm2(たとえば130℃)未満である場合には(ステップ102の判断YES)、「処置レベル1」とされ、制御特性Lm1が選択され、この選択した制御特性Lm1にしたがいモジュレーションクラッチ圧Pmが制御される(ステップ105)。
【0091】
検出されたブレーキ冷却油温Tmが温度レベルTm2(たとえば130℃)以上であって(ステップ102の判断NO)、温度レベルTm3(たとえば140℃)未満である場合には(ステップ103の判断YES)、「処置レベル2」とされ、制御特性Lm2が選択され、この選択した制御特性Lm2にしたがいモジュレーションクラッチ圧Pmが制御される(ステップ106)。
【0092】
検出されたブレーキ冷却油温Tmが温度レベルTm3(たとえば140℃)以上である場合には(ステップ103の判断NO)、「処置レベル3」とされ、制御特性Lm3が選択され、この選択した制御特性Lm3にしたがいモジュレーションクラッチ圧Pmが制御される(ステップ107)。
【0093】
こうして検出ブレーキ冷却油温Tmが各温度レベルTm1、Tm2、Tm3を超える毎に、ブレーキ操作量Sbに対するモジュレーションクラッチ20の係合力の低下度合いが段階的に強まり、駆動輪60への駆動力の低減度合いが段階的に強まる。このため湿式ブレーキ装置90の発熱の度合いに応じた精度の高い制御を行なうことができ、湿式ブレーキ装置90の過熱を確実に抑制することができる。
【0094】
また、検出ブレーキ冷却油温Tmが各温度レベルTm1、Tm2、Tm3を超える毎に、各温度レベルに応じた警報信号を出力する実施も可能である。すなわち、検出ブレーキ冷却油温Tmが温度レベルTm1(たとえば120℃)以上、温度レベルTm2(たとえば130℃)未満の範囲にあるときには、「処置レベル1」に対応した駆動力低減制御を行なう他、「処置レベル1」であることを示す警報信号を出力して、音や画面表示などで、オペレータに「処置レベル1」の段階にあることを知らしめる。さらに検出ブレーキ冷却油温Tmが温度レベルTm2(たとえば130℃)以上、温度レベルTm3(たとえば140℃)未満の範囲にあるときには、「処置レベル2」に対応した駆動力低減制御を行なう他、「処置レベル2」であることを示す警報信号を出力して、音や画面表示などで、オペレータに「処置レベル2」の段階にあることを知らしめる。さらに検出ブレーキ冷却油温Tmが温度レベルTm3(たとえば140℃)以上の範囲にあるときには、「処置レベル3」に対応した駆動力低減制御を行なう他、「処置レベル3」であることを示す警報信号を出力して、音や画面表示などで、オペレータに「処置レベル3」の段階にあることを知らしめる。
【0095】
ところで、この第1の制御が行なわれると、駆動輪60からエンジン10への動力伝達についても同様に低下することから、エンジンブレーキが効かなくなるおそれがある。そこで、降坂時にエンジンブレーキを効かせるために、降坂時には、この第1の制御を解除(オフ)する実施も可能である。たとえば、車体に傾斜計を搭載するか、あるいは車体加速度を計測するなどして、降坂時であることを判断し、降坂時であると判断された場合には、図2に示す処理を実行することとして第1の制御をオフにする(あるいは「処置なし」に対応する制御のみを実施する)。なお、降坂時であってもアクセルペダル11を踏込みながら左右ブレーキペダル12を踏込む操作をしている場合には、エンジンブレーキの効用はない。この場合、オペレータに、加速する意思があると考えられるからである。よって、このように降坂時であってもアクセルペダル11を踏込みながら左右ブレーキペダル12を踏込む操作をしていると判断された場合には、図2に示す処理を実行することとして第1の制御をオンとする実施も可能である。
【0096】
上述の説明では、ブレーキ操作量Sbとモジュレーションクラッチ圧Pmからなる2次元のデータテーブル(図3)にしたがい制御が行なわれることを想定した。しかし、湿式ブレーキ装置90の過熱は、前述のごとくアクセルペダル11と左右ブレーキペダル12の同時操作時に起こり得る。よって、図3に示す2次元のデータテーブルに代えて、3次元のデータテーブルを用意し、この3次元のデータテーブルにしたがい駆動力低減制御を実施してもよい。ブレーキ操作量Sbが大きくなるほど、アクセル操作量Saが大きくなるほど、モジュレーションクラッチ圧Pmがより低下する制御特性を、「処置なし」、「処置レベル1」、「処置レベル2」、「処置レベル3」に応じて設定して、3次元データテーブルとして記憶しておけばよい。
【0097】
以上の説明では、ブレーキ冷却油温Tmが各温度レベルTm1、Tm2、Tm3を超える毎に、ブレーキ操作量Sbに対するモジュレーションクラッチ20の係合力の低下度合いを段階的に強めることとしている。
【0098】
しかし、ブレーキ冷却油温Tmが上昇するに応じて、ブレーキ操作量Sbに対するモジュレーションクラッチ20の係合力の低下度合いを連続的に強める実施も可能である。この場合、たとえば図3における各制御特性Lm0、Lm1、Lm2、Lm3間で補間演算が行われ、検出ブレーキ冷却油温Tmが温度Tm1(120℃)未満であるときは、制御特性Lm0にしたがい駆動力低減制御が行なわれ、Tm1〜Tm2(120℃〜125°)間の温度Tm12であるときは、各制御特性Lm0、Lm1間で補間された制御特性Lm01にしたがい駆動力低減制御が行なわれ、Tm2(125℃)であるときは、制御特性Lm1にしたがい駆動力低減制御が行なわれ、Tm2〜Tm3(125℃〜135℃)間の温度Tm23であるときは、各制御特性Lm1、Lm2間で補間された制御特性Lm12にしたがい駆動力低減制御が行なわれ、Tm3(135℃)であるときは、制御特性Lm2にしたがい駆動力低減制御が行なわれ、Tm3〜Tm4(135℃〜140℃)間の温度Tm34であるときは、各制御特性Lm2、Lm3間で補間された制御特性Tm23にしたがい駆動力低減制御が行なわれ、Tm4(140℃)以上であるときは、制御特性Lm3にしたがい駆動力低減制御が行なわれることになる(図3参照)。
【0099】
処理手順は、図6に示される。すなわち、まず、現在のブレーキ冷却油温Tmが読み出され(ステップ201)、図3に示す制御特性を参照して現在のブレーキ冷却油温Tmに対応するモジュレーションクラッチ圧Pmが補間計算により求められ(ステップ202)、計算されたモジュレーションクラッチ圧Pmが得られるようにモジュレーションクラッチ20が制御される(ステップ203)。
【0100】
(第2の制御;トランスミッションカットオフ制御を用いた駆動力低減制御)
この第2の制御の処理手順は、図2と同様である。
【0101】
図4は、横軸をブレーキ操作量Sb(%)とし、縦軸をシフト指令としたときの制御特性Lt1、Lt2、Lt3をそれぞれ示したグラフである。
【0102】
制御特性Lt1は、「処置レベル1」に対応する制御特性であり、制御特性Lt2は、「処置レベル2」に対応する制御特性であり、制御特性Lt3は、「処置レベル3」に対応する制御特性である。制御特性Lt1、Lt2、Lt3はいずれも、ブレーキ操作量Sbがカットオフ点(ブレーキ操作量しきい値)に達したときに、「通常シフト指令」から「中立位置NTへの強制的なシフト指令」へ切り替わる特性を有している。
【0103】
制御特性Lt1、Lt2、Lt3の順で、カットオフ点が段階的に(ブレーキ操作量Sbがたとえば80%→50%→20%に)低下する。
【0104】
図4中の制御特性Lt0は、従来のトランスミッションカット制御の設定を、オペレータが任意に行った場合を例示している。
【0105】
図4の内容は、2次元のデータテーブルとして、コントローラ80に記憶される。
【0106】
コントローラ80では、記憶されたデータテーブルを参照して、検出されたブレーキ冷却油温Tmが各温度レベルTm1、Tm2、Tm3を超える毎に、制御特性Lt1、Lt2、Lt3を順次選択し、選択した制御特性にしたがい、対応するカットオフ点でトランスミッション50のシフト位置を中立位置NTに制御する。これにより、検出されたブレーキ冷却油温Tmが各温度レベルTm1、Tm2、Tm3を超える毎に、より低いブレーキ操作量Sbの段階で駆動輪60への駆動力伝達が断たれ、より早期の段階で湿式ブレーキ装置90にかかる負担が軽減されることになる。
【0107】
この第2の制御の処理手順は、第1の制御について図2を用いて説明したのと同様であるので繰り返しの説明は省略する。ただし、「処置なし」と判断された場合には、オペレータが任意に設定した制御特性Lt0が選択されて、この制御特性Lt0にしたがい、ブレーキ操作量Sbが、オペレータが設定したカットオフ点に達したときにトランスミッション50のシフト位置が中立位置NTに制御され、駆動輪60への駆動力伝達が断たれることになる(ステップ104)。
【0108】
また、オペレータが任意に設定した制御特性Lt0と、現在の検出ブレーキ冷却油温Tmに対応する制御特性のうち、いずれかカットオフ点がより低い方の制御特性が優先的に選択されて制御が実行されることになる。
【0109】
たとえば、現在の検出ブレーキ冷却油温TmがTm2(130℃)以上〜Tm3(140℃)未満であれば(図2のステップ102の判断NO、ステップ103の判断YES)、「処置レベル2」であるとされる(ステップ106)。
【0110】
ここで、今現在オペレータによって、カットオフ点が90%の制御特性Lt0が設定されていれば、カットオフ点がより低い、「処置レベル2」に対応する制御特性Lt2(カットオフ点50%)が選択されて、この制御特性Lt2にしたがい、ブレーキ操作量Sbが50%に達したときにトランスミッション50のシフト位置が中立位置NTに制御され、駆動輪60への駆動力伝達が断たれることになる。
【0111】
これに対して、今現在オペレータによって、カットオフ点が20%の制御特性Lt0が設定されていれば、カットオフ点がより低い、オペレータが設定した制御特性Lt0(カットオフ点20%)が選択されて、このオペレータが設定した制御特性Lt0にしたがい、ブレーキ操作量Sbが20%に達したときにトランスミッション50のシフト位置が中立位置NTに制御され、駆動輪60への駆動力伝達が断たれることになる。
【0112】
こうして検出ブレーキ冷却油温Tmが各温度レベルTm1、Tm2、Tm3を超える毎に、カットオフ点が段階的に低下して、より低いブレーキ操作量Sbの段階で湿式ブレーキ装置90にかかる負担が軽減される。このため湿式ブレーキ装置90の発熱の度合いに応じた精度の高い制御を行なうことができ、湿式ブレーキ装置90の過熱を確実に抑制することができる。
【0113】
また、前述の第1の制御と同様に、検出ブレーキ冷却油温Tmが各温度レベルTm1、Tm2、Tm3を超える毎に、各温度レベルに応じた警報信号を出力する実施も可能である。
【0114】
ところで、この第2の制御の駆動力低減制御が行なわれると、駆動輪60からエンジン10への動力伝達が断たれることから、エンジンブレーキが効かなくなるおそれがある。そこで、降坂時にエンジンブレーキを効かせるために、第1の制御と同様に、降坂時であると判断された場合には、第2の制御を解除(オフ)する実施も可能である。
【0115】
上述の説明では、ブレーキ操作量Sbとシフト指令からなる2次元のデータテーブル(図4)にしたがい制御が行なわれることを想定した。しかし、湿式ブレーキ装置90の過熱は、前述のごとくアクセルペダル11と左右ブレーキペダル12の同時操作時に起こり得る。よって、図4に示す2次元のデータテーブルに代えて、ブレーキ操作量Sbとアクセル操作量Saとシフト指令からなる3次元のデータテーブルを用意し、この3次元のデータテーブルにしたがい第2の制御を実施してもよい。ブレーキ操作量Sbとアクセル操作量Saがそれぞれ設定されたカットオフ点に達したときに、シフト指令が「中立位置NTへの強制的なシフト指令」に切り替わる制御特性を、「処置レベル1」、「処置レベル2」、「処置レベル3」に応じて設定して、3次元データテーブルとして記憶しておけばよい。
【0116】
上述の説明では、ブレーキ冷却油温Tmが各温度レベルTm1、Tm2、Tm3を超える毎に、カットオフ点を低下させることとしている。
【0117】
しかし、ブレーキ冷却油温Tmが上昇するに応じて、カットオフ点を連続的に低下させる実施も可能である。この場合、たとえば、図4に制御特性Lt100(カットオフ点100%)が付加された上で、図4における各制御特性Lt100、Lt1、Lt2、Lt3間で補間演算が行われ、検出ブレーキ冷却油温Tmが温度Tm1(120℃)未満であるときは、制御特性Lt100にしたがい駆動力低減制御が行なわれ、Tm1〜Tm2(120℃〜125℃)間の温度Tm12であるときは、各制御特性Lt100、Lt1間で補間された制御特性Lt1001にしたがい駆動力低減制御が行なわれ、Tm2(125℃)であるときは、制御特性Lt1にしたがい駆動力低減制御が行なわれ、Tm2〜Tm3(125℃〜135℃)間の温度Tm23であるときは、各制御特性Lt1、Lt2間で補間された制御特性Tt12にしたがい駆動力低減制御が行なわれ、Tm3(135℃)であるときは、制御特性Lt2にしたがい駆動力低減制御が行なわれ、Tm3〜Tm4(135℃〜140℃)間の温度Tm34であるときは、各制御特性Lt2、Lt3間で補間された制御特性Tt23にしたがい駆動力低減制御が行なわれ、Tm4(140℃)以上であるときは、制御特性Lt3にしたがい駆動力低減制御が行なわれることになる(図4参照)。
【0118】
(第3の制御;エンジン出力制御を用いた駆動力低減制御)
この第3の制御の処理手順は、図2と同様である。
【0119】
実施例では、エンジン性能曲線を変更することで、エンジン最大トルクを低下させる制御を行なう場合について説明する。しかし、エンジン性能曲線はそのままで変更を加えることはせずにアクセルペダル11の操作量(スロットル量)ないしは目標回転数に制限を加えることで、エンジン最大トルクを低下させる制御を行なう実施も可能である。
【0120】
図5は、横軸をエンジン回転数Nt(rpm)とし、縦軸をエンジントルクTe(kg・m)としたときの制御特性Le0、Le1、Le2、Le3をそれぞれ示したグラフである。図5において最大トルク線Rで規定される領域がエンジン10が本来、出し得る性能を示す。制御特性Le0は、最大トルク線Rに沿って設定されている。
【0121】
制御特性Le0は、「処置なし」に対応する制御特性であり、制御特性Le1は、「処置レベル1」に対応する制御特性であり、制御特性Le2は、「処置レベル2」に対応する制御特性であり、制御特性Le3は、「処置レベル3」に対応する制御特性である。制御特性Le1、Le2、Le3はいずれも、エンジン回転数Neが定格出力点Bに上昇するまでは最大トルク線Rに沿っているが、定格出力点Bを越えたエンジン回転数Neの範囲では、最大トルク線R上の最大トルクよりも最大トルクが低くなる特性を有している。
【0122】
定格出力点Bを越えたエンジン回転数Neの範囲でみると、制御特性Le0、Le1、Le2、Le3の順で、最大トルクが段階的に低下する。
【0123】
図5の内容は、2次元のデータテーブルとして、コントローラ80に記憶される。
【0124】
コントローラ80では、記憶されたデータテーブルを参照して、検出されたブレーキ冷却油温Tmが各温度レベルTm1、Tm2、Tm3を超える毎に、制御特性Le1、Le2、Le3を順次選択し、選択した制御特性にしたがい、出力トルクの最大値が制限されるように燃料噴射量を制御する。これにより、検出されたブレーキ冷却油温Tmが各温度レベルTm1、Tm2、Tm3を超える毎に、駆動輪60へ伝達される駆動力の制限が段階的に強まり、段階的に湿式ブレーキ装置90にかかる負担が軽減されることになる。
【0125】
この第3の制御の処理手順は、第1の制御について図2を用いて説明したのと同様であるので繰り返しの説明は省略する。ただし、他のエンジン出力制御が併用されている場合には、第2の制御について説明したのと同様にして、他のエンジン出力制御によって制限されるエンジン出力制御特性と、現在の検出ブレーキ冷却油温Tmに対応する制御特性のうち、いずれかエンジン最大トルクの制限値がより低い方の制御特性が優先的に選択されて制御が実行されることになる。
【0126】
こうして検出ブレーキ冷却油温Tmが各温度レベルTm1、Tm2、Tm3を超える毎に、エンジン最大トルクが段階的に低下して、駆動輪60へ伝達される駆動力の制限が段階的に強まる。このため湿式ブレーキ装置90の発熱の度合いに応じた精度の高い制御を行なうことができ、湿式ブレーキ装置90の過熱を確実に抑制することができる。
【0127】
また、前述の第1の制御、第2の制御と同様に、検出ブレーキ冷却油温Tmが各温度レベルTm1、Tm2、Tm3を超える毎に、各温度レベルに応じた警報信号を出力する実施も可能である。
【0128】
上述の説明では、ブレーキ冷却油温Tmが各温度レベルTm1、Tm2、Tm3を超える毎に、エンジン最大トルク値Teを低下させることとしている。
【0129】
しかし、ブレーキ冷却油温Tmが上昇するに応じて、エンジン最大トルク値Teを連続的に低下させる実施も可能である。この場合、図5における各制御特性Le0、Le1、Le2、Le3間で補間演算が行われ、検出ブレーキ冷却油温Tmが温度Tm1(120℃)未満であるときは、制御特性Le0にしたがい駆動力低減制御が行なわれ、Tm1〜Tm2(120℃〜125℃)間の温度Tm12であるときは、各制御特性Le0、Le1間で補間された制御特性Te01にしたがい駆動力低減制御が行なわれ、Tm2(125℃)であるときは、制御特性Le1にしたがい駆動力低減制御が行なわれ、Tm2〜Tm3(125℃〜135℃)間の温度Tm23であるときは、各制御特性Le1、Le2間で補間された制御特性Te12にしたがい駆動力低減制御が行なわれ、Tm3(135℃)であるときは、制御特性Le2にしたがい駆動力低減制御が行なわれ、Tm3〜Tm4(135℃〜140℃)間の温度Tm34であるときは、各制御特性Le2、Le3間で補間された制御特性Te23にしたがい駆動力低減制御が行なわれ、Tm4(140℃)以上であるときは、制御特性Le3にしたがい駆動力低減制御が行なわれることになる(図5参照)。
【0130】
上述の第1の制御、第2の制御、第3の制御は単独で実施してもよく、いずれか2つの組み合わせを併用して実施してもよく、第1〜第3の制御の全てを同時に実施してもよい。
【0131】
ところで、上述の説明では、ブレーキ冷却油温センサ14によって、湿式ブレーキ装置90の冷却油の温度Tmを検出する場合を想定して説明したが、ブレーキ冷却油温計測手段としては、計算により湿式ブレーキ装置90の冷却油の温度を予測するものであってもよい。
【0132】
以下では、車速センサ9で検出される車速Vと、ブレーキ作動油圧センサ13で検出されるブレーキ作動油圧Pbとに基づいてブレーキ熱負荷を求め、このブレーキ熱負荷に基づいて湿式ブレーキ装置90の冷却油の温度を予測するブレーキ冷却油温計測手段について説明する。
【0133】
図7は、ブレーキ熱負荷(発熱率)と、ブレーキ冷却油のバランス温度予測値Tm´との関係を示したグラフである。同図7からわかるように、ブレーキ熱負荷(発熱率)と、ブレーキ冷却油のバランス温度予測値Tm´とは比例関係にある。よって、ブレーキ熱負荷(発熱率)がわかれば、ブレーキ冷却油のバランス温度Tm´を一義的に予測できる。ブレーキ熱負荷(発熱率)は、車速V×ブレーキ作動油圧Pbに比例する関係にある。
【0134】
一方、図8は、ある一定の熱負荷を与え続けた場合における時間(分)とブレーキ冷却油(ブレーキ冷却油)の実際の温度Tmとの関係を示したグラフである。同図8からわかるように、ある一定の熱負荷を与え続けると、徐々にブレーキ冷却油温度Tmが上昇し、やがて湿式ブレーキ装置90で発生する熱と、アクスル7から放熱される熱との熱収支が釣合い、一定の温度でバランスする。
【0135】
よって、計算によってブレーキ熱負荷(発熱率)を求め、求めたブレーキ熱負荷(発熱率)に対応するバランス温度Tm´を図7の対応関係から予測値として求めて、予測値Tm´が危険温度に達した時点でオペレータに警告を与えるなどすれば、実際の温度Tmが危険温度に到達することを未然に防止することができる。
【0136】
ブレーキ冷却油温予測値Tm´を求める計算の手順は、以下のとおりである。この処理は、コントローラ80で行われる。
【0137】
1) まず、車速V、ブレーキ作動油圧Pbあるいはこれを計算できるデータが検出され、データがコントローラ80に取り込まれる。
【0138】
2) 1)で得られたデータから湿式ブレーキ装置90を作動させた瞬間の発熱率qをつぎのように計算する。
【0139】
発熱率q=車速V×制動トルクTb÷タイヤ半径(駆動輪60の半径)
制動トルクTb=α×(ピストン面積×ブレーキ作動油圧Pb−戻しスプリング力×スプリング本数)
α(定数;車両、ブレーキの仕様から決まる値)
=4(輪)×1輪当たりのブレーキ枚数×2(面)×ブレーキディスク摩擦面の動摩擦係数×効率β×有効半径((ディスク外径+内径)/4)
効率β(定数;車両、ブレーキの仕様から決まる値)
=(1−((1−ブレーキ案内部の動摩擦係数×ブレーキディスク摩擦面の動摩擦係数)÷(1+ブレーキ案内部の動摩擦係数×ブレーキディスク摩擦面の動摩擦係数))^(2×1輪当たりのブレーキ枚数))÷(4×1輪当たりのブレーキ枚数×ブレーキディスク摩擦面の動摩擦係数×ブレーキ案内部の動摩擦係数)
3)2)で求めた発熱率qをある一定時間積算し発熱量を求める。
【0140】
4)3)で求めた発熱量を再度時間で割り、平均発熱率を求める。
【0141】
5)4)で求めた平均発熱率をブレーキ熱負荷とし、このブレーキ熱負荷(平均発熱率)に対応するバランス温度Tm´を図7の対応関係から求めて、これをブレーキ冷却油温予測値Tm´とする。
【0142】
よって、つぎのような制御を行なうことができる。
【0143】
(第4の制御)
上述の第1の制御、第2の制御、第3の制御における「検出ブレーキ冷却油温Tm」を、「ブレーキ冷却油温予測値Tm´」に置換して同様の駆動力低減制御を行なう。
【0144】
これにより実際のブレーキ冷却油温Tmがしきい値Tm1、Tm2、Tm3に到達する前に事前に駆動力低減制御を開始させることができる。
【0145】
(第5の制御)
上述の第1の制御、第2の制御、第3の制御における「検出ブレーキ冷却油温Tm」を、「ブレーキ冷却油温予測値Tm´」に置換して同様の警報信号出力を行なう。
【0146】
これにより実際のブレーキ冷却油温Tmがしきい値Tm1、Tm2、Tm3に到達する前に事前に警報をオペレータに知らしめることができる。オペレータとしては、警報にしたがい車速を抑制したり、エンジンブレーキを効かせるなどの措置を事前にとることができる。
【0147】
(第6の制御)
第5の制御と第6の制御を組み合わせて実施することができる。
【0148】
たとえば、ブレーキ冷却油温の予測値Tm´が所定温度レベルTm1値以上になった場合に、警報信号を出力するとともに、エンジン10から駆動輪60に伝達される駆動力を低減する制御(第1の制御、第2の制御、第3の制御)を行なう。これにより湿式ブレーキ装置90が過熱状態に至ることを確実に防止することができる。具体的には、ブレーキ冷却油の劣化防止、ブレーキディスク92、プレート91などの部品の劣化防止、ゴム部品の熱硬化等の劣化防止、これによる湿式ブレーキ装置70の寿命延長、改修コストの低減が図られる。
【0149】
なお、実施例では、作業車両としてホイールローダを想定して説明したが、本発明は、エンジンから駆動輪(タイヤを装着した車輪のみならず履帯式車両におけるスプロケットを含む)に至る駆動力伝達経路の各構成要素を制御したり、エンジンを制御したりして、駆動力を低減(完全に駆動力を断つ場合も含む)することができる構成の作業車両であれば、フォークリフト、ブルドーザなどの他の作業車両にも同様にして適用することができる。
【符号の説明】
【0150】
1 ホイールローダ(作業車両)、9 車速センサ、10 エンジン、10a エンジン回転数センサ、12a ブレーキ操作量センサ、13 ブレーキ作動油圧センサ、14 ブレーキ冷却油温センサ、19 駆動力伝達経路 20 モジュレーションクラッチ、50 トランスミッション、60 駆動輪、80、コントローラ、90 湿式ブレーキ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの動力が、駆動力伝達経路を介して駆動輪に駆動力として伝達されるとともに、湿式ブレーキ装置を備えた作業車両において、
湿式ブレーキ装置の冷却油の温度を計測するブレーキ冷却油温計測手段と、
計測されたブレーキ冷却油温が所定値以上になった場合に、エンジンから駆動輪に伝達される駆動力を低減する制御を行なう駆動力制御手段と
を備えたことを特徴とする作業車両における駆動力制御装置。
【請求項2】
駆動力制御手段は、ブレーキ冷却油温が各温度レベルを超える毎に段階的に駆動力を低減することを特徴とする請求項1記載の作業車両における駆動力制御装置。
【請求項3】
駆動力制御手段は、ブレーキ冷却油温が上昇するに応じて連続的に駆動力を低減することを特徴とする請求項1記載の作業車両における駆動力制御装置。
【請求項4】
ブレーキ操作子によるブレーキ操作量が大きくなるに伴いブレーキ力が大きくなるブレーキ装置が備えられた作業車両であって、
駆動力制御手段は、
ブレーキ操作量が大きくなるに伴いモジュレーションクラッチの係合力が低下するモジュレーションクラッチ制御または/および
ブレーキ操作量が所定のブレーキ操作量しきい値に達した場合に、トランスミッションのシフト位置を中立位置にシフトするトランスミッションカットオフ制御または/および
エンジンの最大トルクを低下させるエンジン出力制御
を行うことを特徴とする請求項1記載の作業車両における駆動力制御装置。
【請求項5】
駆動力制御手段は、ブレーキ冷却油温が各温度レベルを超える毎に、ブレーキ操作量に対するモジュレーションクラッチの係合力の低下度合いを段階的に強めて、モジュレーションクラッチ制御を行なうことを特徴とする請求項4記載の作業車両における駆動力制御装置。
【請求項6】
駆動力制御手段は、ブレーキ冷却油温が上昇するに応じて、ブレーキ操作量に対するモジュレーションクラッチの係合力の低下度合いを連続的に強めて、モジュレーションクラッチ制御を行なうことを特徴とする請求項4記載の作業車両における駆動力制御装置。
【請求項7】
駆動力制御手段は、ブレーキ冷却油温が各温度レベルを超える毎に、ブレーキ操作量しきい値を低下させて、トランスミッションカットオフ制御を行なうことを特徴とする請求項4記載の作業車両における駆動力制御装置。
【請求項8】
駆動力制御手段は、ブレーキ冷却油温が上昇するに応じて、ブレーキ操作量しきい値を連続的に低下させて、トランスミッションカットオフ制御を行なうことを特徴とする請求項4記載の作業車両における駆動力制御装置。
【請求項9】
駆動力制御手段は、ブレーキ冷却油温が各温度レベルを超える毎に、エンジン最大トルクの低下度合いを段階的に強めて、エンジン出力制御を行なうことを特徴とする請求項4記載の作業車両における駆動力制御装置。
【請求項10】
駆動力制御手段は、ブレーキ冷却油温が上昇するに応じて、エンジン最大トルクの低下度合いを連続的に強めて、エンジン出力制御を行なうことを特徴とする請求項4記載の作業車両における駆動力制御装置。
【請求項11】
ブレーキ冷却油温計測手段は、湿式ブレーキ装置の冷却油の温度を検出する手段であることを特徴とする請求項1記載の作業車両における駆動力制御装置。
【請求項12】
ブレーキ冷却油温計測手段は、車速と、ブレーキ作動油圧とに基づいてブレーキ熱負荷を求め、このブレーキ熱負荷に基づいて湿式ブレーキ装置の冷却油の温度を予測することを特徴とする請求項1記載の作業車両における駆動力制御装置。
【請求項13】
エンジンの動力が、駆動力伝達経路を介して駆動輪に駆動力として伝達されるとともに、湿式ブレーキ装置を備えた作業車両において、
車速と、ブレーキ作動油圧とに基づいてブレーキ熱負荷を求め、このブレーキ熱負荷に基づいて湿式ブレーキ装置の冷却油の温度を予測するブレーキ冷却油温計測手段と、
計測された予測ブレーキ冷却油温が所定値以上になった場合に、警報信号を出力する警報信号出力手段と、
計測された予測ブレーキ冷却油温が所定値以上になった場合に、エンジンから駆動輪に伝達される駆動力を低減する制御を行なう駆動力制御手段と
を備えたことを特徴とする作業車両における駆動力制御装置。
【請求項14】
作業車両の降坂時には、モジュレーションクラッチ制御または/およびトランスミッションカットオフ制御を解除すること
を特徴とする請求項4記載の作業車両における駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−229910(P2010−229910A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79156(P2009−79156)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】