説明

作業車両の変速制御装置

【課題】変速レバーのグリップ部に設けたスイッチ式変速操作部のアップダウン操作により、第1及び第2変速装置を連携して切り換える場合に、多段化した変速装置を違和感なく且つ確実に変速操作できるとともに、必要に応じて変速時間を短縮して作業効率の向上を図る。
【解決手段】変速レバー17にて副変速装置47の変速操作があった後は、アップスイッチ37若しくはダウンスイッチ38の操作では主変速装置46だけを切り換えるような制御部を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は作業車両の変速制御装置に関するものであり、特に、変速位置をアップ若しくはダウン指令する一対のスイッチ式操作部を備えた作業車両の変速制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、農業用トラクタをはじめとする此種作業車両には、特開平6−107023号公報に示されるように、アクチュエータの駆動によりシンクロメッシュ機構を介して変速可能な変速装置と、変速レバーの手動操作により変速可能な変速装置とを備え、前記変速レバーのグリップ部には変速位置をアップ若しくはダウン指令する一対のスイッチ式変速操作部を設け、このスイッチ式変速操作部のスイッチ信号に応じて前記アクチュエータを駆動させ、前者の変速装置を切り換え可能に形成したものが知られている。
【0003】
従って、前記双方の変速装置の各ギヤ組を組み合わせて変速位置を多段化することができ、例えば、湿式多板クラッチの駆動による第1変速装置が「高速」「低速」の2段の変速位置を備え、油圧シリンダの駆動によりシンクロメッシュを介して変速する第2変速装置が「1速」乃至「4速」の4段の変速位置を有し、変速レバーの手動操作による第3変速装置が「低速」「中速」「高速」の3段の変速位置を備えている場合は、第1、第2、第3変速装置の各変速段の組み合わせによって合計24段の変速段を構成することができる。いま、仮に変速レバーの手動操作にて第3変速装置の変速位置を「低速」に設定したときは、第1変速装置及び第2変速装置を連携して得られる変速段を「1段」乃至「8段」の8段階に切り換え可能であり、比較的低速域の範囲内で前記スイッチ式変速操作部のアップダウン操作により、変速位置を極めて簡単に変更することができる。
【0004】
ここで、例えば車速を低速域から中速域へ変更する場合に、変速レバーによって第3変速装置を「中速」へシフトアップした場合は、車速差が最小となるように、アクチュエータを駆動させて、中速域内に於いて第1及び第2変速装置を連携して得られる変速位置の最低段(「9段」)に自動変速させる制御が行われている。一方、例えば変速レバーによって第3変速装置を「高速」から「中速」へシフトダウンした場合には、中速域内に於いて第1及び第2変速装置を連携して得られる変速位置の最高段(「16段」)に自動変速させて、車速差が最小となるように自動制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−107023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の此種作業車両の変速制御装置は、前述したように、アクチュエータの駆動により変速可能な第1変速装置及び第2変速装置と、変速レバーの手動操作にて変速位置を変更可能な第3変速装置とを備え、第1、第2、第3変速装置の各変速段の組み合わせにより一連の変速段を構成している。そして、変速レバーのグリップ部に設けた一対のスイッチ式変速操作部により、第1、第2変速装置の変速位置を連携して切り換えるとともに、変速レバーの手動操作によって第3変速装置を切り換える。
【0007】
しかし、変速レバーによって第3変速装置をシフトアップ若しくはシフトダウンした場合は、第1及び第2変速装置を連携して得られる変速位置の最低段若しくは最高段に自動変速されるため、オペレータの所望する変速位置にするには前記スイッチ式変速操作部を多数回操作しなければならず、変速操作に時間がかかるとともに操作が極めて面倒であった。
【0008】
そこで、変速レバーのグリップ部に設けたスイッチ式変速操作部のアップダウン操作により、第1及び第2変速装置を連携して切り換える場合に、多段化した変速位置を違和感なく且つ確実に変速操作できるとともに、必要に応じて変速時間を短縮して作業効率の向上を図るために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は上記課題を鑑みて作業車両の変速制御装置を以下のように構成した。
即ち、請求項1記載の発明は、アクチュエータ44,45,55の駆動により変速可能な第1変速装置42及び第2変速装置46と、変速レバー17の手動操作にて変速位置を変更可能な第3変速装置47とを備え、第1、第2、第3変速装置42,46,47の各変速段の組み合わせにより一連の変速段を構成するとともに、車両には第1、第2変速装置42,46の変速位置をアップ若しくはダウン指令する一対のスイッチ式変速操作部37,38を設け、この変速操作部37,38のスイッチ信号に応じて前記アクチュエータ44,45,55を駆動させて第1及び第2変速装置42,46を連携して切り換え可能に形成した作業車両10の変速制御装置に於いて、前記変速レバー17にて第3変速装置47の変速操作があった後は、前記スイッチ式変速操作部37,38の操作では第2変速装置46だけを切り換える制御部30を備えたことを特徴とする作業車両の変速制御装置とした。
【0010】
請求項2記載の発明は、アクチュエータ44,45,55の駆動により変速可能な第1変速装置42及び第2変速装置46と、変速レバー17の手動操作にて変速位置を変更可能な第3変速装置47とを備え、第1、第2、第3変速装置42,46,47の各変速段の組み合わせにより一連の変速段を構成するとともに、車両には第1、第2変速装置42,46の変速位置をアップ若しくはダウン指令する一対のスイッチ式変速操作部37,38を設け、この変速操作部37,38のスイッチ信号に応じて前記アクチュエータ44,45,55を駆動させて第1及び第2変速装置42,46を連携して切り換え可能に形成した作業車両10の変速制御装置に於いて、前記第1及び第2変速装置42,46の現在の変速位置を記憶する手段30を設け、前記変速レバー17により第3変速装置47を他の位置に変速して走行した後に、再び、該変速レバー17により第3変速装置47を元の位置に変速操作した場合は、記憶手段30に記憶された第1及び第2変速装置42,46の変速位置に復帰させる制御部30を備えた作業車両の変速制御装置とした。
【0011】
請求項3記載の発明は、昇降自在な対地作業機と、アクチュエータ44,45,55の駆動により変速可能な第1変速装置42及び第2変速装置46と、変速レバー17の手動操作にて変速位置を変更可能な第3変速装置47とを備え、第1、第2、第3変速装置42,46,47の各変速段の組み合わせにより一連の変速段を構成するとともに、車両には第1、第2変速装置42,46の変速位置をアップ若しくはダウン指令する一対のスイッチ式変速操作部37,38を設け、この変速操作部37,38のスイッチ信号に応じて前記アクチュエータ44,45,55を駆動させて第1及び第2変速装置42,46を連携して切り換え可能に形成した作業車両10の変速制御装置に於いて、前後進を切り換える前後進切り換え装置43を設けるとともに、前記第1及び第2変速装置42,46の現在の変速位置を記憶する手段30を設け、作業状態から前記前後進切り換え装置43が前進若しくは後進に切り換えられて非作業状態に切り換わった後に、再び、作業状態に戻す場合は、記憶手段30に記憶された第1及び第2変速装置42,46の変速位置に復帰させる制御部30を備えた作業車両の変速制御装置とした。
【0012】
請求項4記載の発明は、上記第1変速装置42は高低2段の変速位置を有し且つ湿式多板クラッチ55の駆動にて変速され、上記第2変速装置46は少なくとも高低3段の変速位置を有し且つ油圧シリンダ44,45の駆動によりシンクロメッシュ機構を介して変速される請求項1,2または3記載の作業車両の変速制御装置とした。
【発明の効果】
【0013】
以上のように構成した請求項1記載の発明は、変速レバーにて第3変速装置の変速操作があった後は、スイッチ式変速操作部の操作では第2変速装置だけを切り換える制御部を備えたので、例えば、作業途中で一旦第3変速装置を切り換えて高速走行した後に再び作業速に戻す場合、スイッチ式変速操作部を少ない回数で操作すれば所望の変速位置に切り換わる。斯くして、変速操作が簡単となり、変速操作時間も短縮することができる。
【0014】
請求項2記載の発明は、第1及び第2変速装置の変速位置を記憶しておき、第3変速装置を他の位置(例えば作業領域から高速領域)に切り換えて走行した後に再び元の位置に戻した場合には、記憶された第1及び第2変速装置の変速位置に復帰させるので、スイッチ式変速操作部を操作せずして元の速度(作業速度)に復帰でき、作業効率の向上を図ることができる。
【0015】
請求項3記載の発明は、第1及び第2変速装置の変速位置を記憶しておき、作業状態から前後進切り換え装置が切り換えられて非作業状態に切り換わった後に、再び作業状態に戻す場合には、記憶された第1及び第2変速装置の変速位置に復帰させるので、スイッチ式変速操作部を操作せずして作業速に復帰でき、作業効率の向上を図ることができる。
【0016】
請求項4記載の発明は、第1変速装置は高低2段の変速位置を有し且つ湿式多板クラッチの駆動にて変速され、第2変速装置は少なくとも高低3段の変速位置を有し且つ油圧シリンダの駆動によりシンクロメッシュ機構を介して変速されるので、スイッチ式変速操作部のアップ若しくはダウン操作により、第1及び第2変速装置を組み合わせ連携した多数の変速段を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図は本発明の一実施の形態を示すものである。
【図1】トラクタの側面図。
【図2】運転席の一部切欠平面図。
【図3】クラッチリンク機構の側面図。
【図4】クラッチリンク機構の正面図。
【図5】変速制御系のブロック図。
【図6】ミッションケース内の変速装置の構成を示す縦断側面図。
【図7】動力伝達経路を示す線図。
【図8】変速装置の変速パターンを示す一覧図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態を図面に従って詳述する。図1及び図2は作業車両の一例として農業用トラクタ10を示し、車体の前部にエンジン11を搭載し、該エンジン11の回転動力を後述するようにミッションケース12内の各種変速装置により適宜変速した後に、後輪13,13の二輪または後輪13,13と前輪14,14の四輪へ伝達するように構成してある。車体の後部にはリンク機構15を介してロータリ等の作業機Sを牽引する。
【0019】
一方、運転席16の右側には、変速装置を切り換えるための変速レバー17や、作業機の高さを変更するポジションレバー18、追加機器操作用のサブコンレバー19,19…等、各種操作レバーが配置されている。運転席16の前方にはハンドルポスト20が設けられ、このハンドルポスト20に操向操作部であるステアリングハンドル21が装着されている。該ステアリングハンドル21を回転操作することにより、操向輪である前輪14が回向して車体が旋回する。また、ハンドルポスト20の上部側面に作業機昇降スイッチ22と前後進切り換えレバー23を突設する。ハンドルポスト20の上部前方には、車速や変速位置等の表示部であるメータパネル24を配置し、ハンドルポスト20の下部右側にアクセルペダル25及びブレーキペダル26を設けるとともに、ハンドルポスト20の下部左側にクラッチペダル27を設ける。尚、符号30は制御部であるコントローラである。
【0020】
前記変速レバー17は逆h型のレバーガイド35から上方に突出され、車体の外側前方に「高速(H)」位置、車体の外側後方に「中速(M)」位置、車体の内側後方に「低速(L)」位置と、3段の変速パターンを有しており、該変速レバー17をレバーガイド35に沿って回動操作することにより、後述の副変速装置47が、リンク機構並びにワイヤケーブル等を介して「高速」「中速」「低速」の何れかに手動で切り換えられるように構成されている。また、該変速レバー17のグリップ部36の側面部には、変速位置をアップ若しくはダウン指令するスイッチ式変速操作部であるアップスイッチ37とダウンスイッチ38が設けられ、後述のハイロー切り換え装置42と主変速装置46とを連携して組み合わせた変速パターンを現位置からアップ若しくはダウンする。尚、変速レバー17の近傍には、後述するように、変速レバー17による手動変速操作時に車速差が最小となる自動変速制御を入り切りするために、プッシュ式の自動制御入り切りスイッチ39を設けてある。
【0021】
ここで、前記エンジン11はエンジンフード28にて被蔽されており、該エンジンフード28はフードステー29にて支持されている。図3及び図4に示すように、前記エンジンフード28はトップカバー28aとサイドカバー28bとからなり、クラッチハウジング 12aの湾曲した上面部12aaに正面視門型形状のブラケット71の基部71aを固設し、該クラッチハウジング12aにブラケット71を立設する。そして、該ブラケット71の左右両側面部71bに前記フードステー29の左右脚部29a,29aをボルト締めにて固定する。尚、該ブラケット71の基部71aは断面視コ字形であり、該基部71aの一側部には突起部71cが突設されている。尚、符号68はマフラー、69はエアクリーナ、70はエアクリーナ69とエンジン11とを接続するインレットパイプである。このインレットパイプ70は前記ブラケット71に支持されている。また、66はブレーキロッドである。
【0022】
一方、キャビン内に設けた軸72には前記クラッチペダル27が枢着され、この軸72を中心にアーム73がクラッチペダル27と一体に回動する。また、クラッチハウジング12a内には軸74を設け、該軸74には後述の湿式多板型メインクラッチ40を入り切りするためのクラッチヨーク75を枢着し、このクラッチヨーク75の基端部にクラッチアーム76を取り付けある。該クラッチヨーク75とクラッチアーム76は軸74を中心に一体に回動する。そして、前記アーム73とクラッチアーム76とをクラッチロッド77にて連結するとともに、クラッチアーム76の前端部に調整用のストッパボルト78を螺着する。
【0023】
而して、これらクラッチアーム76やクラッチロッド77等からクラッチリンク機構が構成され、前記クラッチペダル27を踏み込んだときには、クラッチロッド77が引き上げられてクラッチアーム74と一体にクラッチヨーク75が回動し、メインクラッチ40が切り状態となる。このとき、クラッチアーム76の前端部に螺着したストッパボルト78が、前記ブラケットの突起部71cの下面に当接するため、このストッパボルト78の螺着位置を調整することにより、クラッチヨーク75の回動量即ちクラッチペダル27の踏み込み量の調整が可能である。前記ストッパボルト78はフードステー29の下方部にあるので、前記サイドカバー28bを開放すればストッパボルト78が露出し、極めて容易にクラッチリンク機構の調整を行うことができる。
【0024】
次に、図5乃至図9に従って動力伝達系の構成について説明する。ミッションケース12は最前部に設けられたクラッチハウジング12aと、その後方に順次接続されたフロントミッションケース12b及びミッドミッションケース12cと、最後部に設けられたリヤミッションケース12dとから構成されている。前記クラッチハウジング12aには、湿式多板のメインクラッチ40及びクラッチヨーク75とPTOクラッチ41が設けられ、フロントミッションケース12bには、ハイロー切り換え装置42と前後進切り換え装置43が設けられている。前記クラッチペダル27の踏み込み操作によりクラッチヨーク75の先端部が前方へ押されると、メインクラッチ40が「切」状態となる。
【0025】
また、ミッドミッションケース12cには、油圧シリンダ44,45の駆動で変速位置が切り換わるシンクロメッシュ式の主変速装置46と、前記変速レバー17による手動切り換え式の副変速装置47とが設けられ、前輪14への動力を伝達する前輪伝達軸48には、等速四駆と倍速四駆とを切り換える四駆切り換え装置49を設けてある。更に、リヤミッションケース12dにはリヤデファレンシャル装置50とPTO変速装置51が設けられている。
【0026】
前記エンジン11の回転動力は、クラッチペダル27の踏み込み操作によりメインクラッチ40にて断続され、第1変速装置であるハイロー切り換え装置42、前後進切り換え装置43、第2変速装置である主変速装置46、第3変速装置である副変速装置47へと順次伝達される。ハイロー切り換え装置42は、「高速」「低速」二つのギヤ組53,54を切り換えるためのアクチュエータとして湿式多板のハイロークラッチ55を有する変速装置であり、前記コントローラ30によりハイロークラッチ55がハイ側に「入」となれば、一方のギヤ組53を介して動力が「高速」で伝達され、ハイロークラッチ55がロー側に「入」となれば、前記一方のギヤ組53よりも減速比の高い他方のギヤ組54を介して動力が「低速」で伝達される。
【0027】
前後進切り換え装置43は、「前進」「後進」二つのギヤ組56,57を切り換えるためのアクチュエータとして湿式多板の前後進クラッチ58を有する変速装置であり、前述の前後進切り換えレバー22が前進位置に操作されている場合は、コントローラ30により前後進クラッチ58が「前進」側に「入」となり、前記ギヤ組56を介して動力が正回転で伝達される。また、前後進切り換えレバー22が後進位置に操作されている場合は、コントローラ30により前後進クラッチ58が「後進」側に「入」となり、前記ギヤ組57を介して動力が逆回転で伝達される。
【0028】
主変速装置46は、四つのギヤ組からなるシンクロメッシュギヤ式変速装置であり、前後進切り換え装置43から出力された回転動力を、動力上手側から4速ギヤ組59、3速ギヤ組60、2速ギヤ組61、1速ギヤ組62の何れか一つを通じて副変速装置47へ伝達する。4速ギヤ組59と3速ギヤ組60との駆動側ギヤ間にはシンクロメッシュ機構を有するシフタリングを設け、コントローラ30により油圧シリンダ44を伸縮駆動し、このシフタリングが前後スライドして「4速」若しくは「3速」に変速されるように構成し、これと同様に、2速ギヤ組61と1速ギヤ組62との駆動側ギヤ間にもシンクロメッシュ機構を有するシフタリングを設け、コントローラ30により油圧シリンダ45を伸縮駆動し、このシフタリングが前後スライドして「2速」若しくは「1速」に変速されるように構成してある。
【0029】
副変速装置47は、前記変速レバー17の手動操作により切り換わるスライディングメッシュギヤ式変速装置となっており、「高速」(直結)のギヤ組63、「中速」のギヤ組64、「低速」のギヤ組65と、3段の変速位置を有している。後述するように、「高速」のギヤ組63と「中速」のギヤ組64との間に設けられたシフタリングが、変速レバー17の手動操作にて中立位置から前方へスライドすれば「高速」(直結)となり、このシフタリングが中立位置から後方へスライドすれば「中速」となる。また、「低速」のギヤ組65の前方に設けられたシフタリングが、変速レバー17の手動操作にて中立位置から後方へスライドすれば「低速」となる。
【0030】
そして、前記副変速装置47で変速された回転動力は、リヤデファレンシャル装置50を経て後輪13に伝達されるとともに、前輪伝達軸48にも伝達される。そして、該前輪伝達軸48に設けられた四駆切り換え装置49にて「等速」或いは「増速」に切り換えられた後、フロントデファレンシャル装置66を経て前輪14に伝達される。更に、エンジン11の回転動力はメインクラッチ40の前段にてPTO系に分岐され、PTOクラッチ41により断接される。そして、PTO変速装置51に変速された後、車体後部に突設したPTO取り出し軸52に伝達される。
【0031】
斯くして、前記ハイロー切り換え装置42と主変速装置46とを連携して、8段の変速パターンが得られ、更に、副変速装置47の変速パターン3段を組み合わせて、24段の変速パターンを得ることができる。そして、前述した変速レバー17のグリップ部36に設けたアップスイッチ37若しくはダウンスイッチ38の押し操作により、コントローラ30からハイロークラッチ55或いは油圧シリンダ44,45が駆動されて、ハイロー切り換え42と主変速装置46とを連携して組み合わせた変速パターンを現位置からアップ若しくはダウンさせることができる。そして、コントローラ30は各スイッチやセンサの検出信号に基づいて現在の変速位置を判別し、前記メータパネル24に設けられたインジケータに現変速位置を表示する。
【0032】
前記変速レバー17のグリップ部36に設けられているアップスイッチ37またはダウンスイッチ38を押し操作した場合には、コントローラ30の指令信号によって、ハイロー切り換え装置42と主変速装置46とを連携して組み合わせた変速パターンを現位置からアップ若しくはダウンさせる。例えば、変速レバー17が「低速(L)」位置にシフトされているときは、副変速装置47が「低速」位置にあり、アップスイッチ37若しくはダウンスイッチ38の操作により、変速段が「1段」から「8段」の範囲内で変速される。これに対して、例えば変速レバー17が「高速(H)」位置にシフトされているときは、副変速装置47が「高速」位置にあり、アップスイッチ37若しくはダウンスイッチ38の操作によって、変速段が「17段」から「24段」の範囲内で変速される。
【0033】
ここで、自動制御入り切りスイッチ39が「入」状態の場合、前記変速レバー17による手動変速操作があったときは、リンク機構を介して副変速装置47を変速すると同時に、ハイロークラッチ55及び油圧シリンダ44,45を作動させて、ハイロー切り換え装置42及び主変速装置46を連携して得られる変速位置を車速差が最小となるように自動変速させる制御が行われる。
【0034】
例えば、副変速装置47が「低速」の状態で、主変速装置46が「3速」、ハイロー切り換え装置42が「高」、即ち、変速段が「6段」にある状態で、変速レバー17を「低速(L)」位置から「中速(M)」位置へと増速側に操作した場合は、副変速装置47が「中速」位置に切り換わると同時に、コントローラ30がハイローバルブと主変速1−2速バルブ及び主変速3−4速バルブを制御して、ハイロー切り換え装置42を「低速」、主変速装置46を「1速」の状態、即ち、新たな副変速装置「中速」の最低変速段である「9段」へ自動変速する。
【0035】
これに対して、例えば、副変速装置47が「高速」の状態で、主変速装置46が「3速」、ハイロー切り換え装置42が「低速」、即ち、変速段が「21段」にある状態で、変速レバー17を「高速(H)」位置から「中速(M)」位置に操作した場合は、副変速装置47が「中速」位置に切り換わると同時に、コントローラ30がハイローバルブと主変速1−2速バルブ及び主変速3−4速バルブを制御して、ハイロー切り換え装置42を「高速」、主変速装置46を「4速」の状態、即ち、新たな副変速装置「中速」の最高変速段である「16段」へ自動変速する。
【0036】
このように、前記自動制御入り切りスイッチ39が「入」状態の場合には、変速レバー17が増速側に操作されたときに、新たな副変速位置内の最低速段へ自動的に変速し、一方、変速レバー17が減速側に操作されたときは、新たな副変速位置内の最高速段へ自動的に変速することにより、前回までの変速位置と新たな変速位置との変速差が最小となるため、メインクラッチ40を接続したときの変速ショックをできる限り抑止することができる。
【0037】
そして、新たな副変速位置内の最低速段若しくは最高速段からオペレータの所望する変速段へと変速するのであるが、通常はアップスイッチ37若しくはダウンスイッチ38を操作したときは、ハイロー切り換え装置42と主変速装置46とを連携して組み合わせた変速パターンを現位置から1段階ずつアップ若しくはダウンするため、アップスイッチ37若しくはダウンスイッチ38を多数回操作しなければならず、変速操作が煩雑であった。そこで、請求項1記載の発明では、前記変速レバー17にて副変速装置47の変速操作を行った後は、アップスイッチ37若しくはダウンスイッチ38の操作では、コントローラ30は主変速装置46だけを切り換えるように制御信号を出力する。
【0038】
例えば、副変速装置47が「低速」の状態で、主変速装置46が「3速」、ハイロー切り換え装置42が「高速」、即ち、変速段が「6段」にある状態で、変速レバー17を「低速(L)」位置から「中速(M)」位置へと増速側に操作した場合は、自動制御により新たな副変速装置「中速」の最低変速段である「9段」へ自動変速されるが、然る後に、アップスイッチ37を操作したときは、ハイロー切り換え装置42はその位置を保持しつつ、アップスイッチ37の操作毎に主変速装置46だけが順次「1速」→「2速」、「2速」→「3速」、「3速」→「4速」と切り換わる。即ち、新たな副変速装置「中速」の最低変速段である「9段」から「11段」、「13段」、「15段」と一段おきに変速されるので、変速操作を容易且つ短時間に行うことが可能となる。
【0039】
このように、前記副変速装置47の操作があったときはタイマを作動させ、該タイマにより所定時間が経過した後に、前記アップスイッチ37若しくはダウンスイッチ38の操作があったときは、ハイロー切り換え装置42は切り換えずに主変速装置46だけを切り換える。尚、タイマの作動に代えて距離センサを設け、該距離センサにより所定距離を走行した後、前記アップスイッチ37若しくはダウンスイッチ38の操作があったときは主変速装置46だけを切り換えるようにしてもよい。また、他の所定操作を検出した後に主変速装置46だけを切り換えるようにすることもできる。
【0040】
ここで、前記変速レバー17により副変速装置47を他の位置に変速して走行した後に、再び、変速レバー17により副変速装置47を元の位置に変速操作した場合は、元の副変速位置内の最低速段若しくは最高速段に変速される。例えば、副変速装置47が「低速」で、主変速装置46が「1速」、ハイロー切り換え装置42が「高速」、即ち、変速段が「2段」にある状態で作業を行っている場合に、この作業状態から変速レバー17を「低速(L)」位置から「高速(H)」位置へと手動操作した場合は、新たな副変速位置「高速」での最低変速段である「17段」へ自動変速される。そして、高速移動走行後に、再び、変速レバー17を「高速(H)」位置から「低速(L)」位置へと手動操作した場合は、新たな副変速位置「低速」での最高変速段である「8段」へ自動変速される。しかし、元の作業速度である「2段」に復帰させるためには、オペレータがダウンスイッチ38を多数回操作しなければならず、変速操作が煩雑であった。
【0041】
そこで、請求項2記載の発明では、予め、各センサが検出したハイロー切り換え装置42と主変速装置46の現在の変速位置をコントローラ30の記憶部に記憶しておき、前記変速レバー17により副変速装置47を他の位置に変速して走行した後に、再び、変速レバー17により副変速装置47を元の位置に変速操作した場合は、コントローラ30の記憶部に記憶されたハイロー切り換え装置42と主変速装置46の元の変速位置に復帰させるように制御する。
【0042】
従って、前述の副変速装置47が「低速」で、主変速装置46が「1速」、ハイロー切り換え装置42が「高速」、即ち、変速段が「2段」にある状態で作業を行っている場合に、この作業状態から変速レバー17を「低速(L)」位置から「高速(H)」位置へと手動操作して高速移動走行した後に、再び、変速レバー17を「高速(H)」位置から「低速(L)」位置へと手動操作した場合は、コントローラ30に記憶されている元の変速位置、即ち、変速段が「2段」の変速位置に復帰することができ、アップスイッチ37及びダウンスイッチ38の操作を行わずして元の作業速度に復帰できるため、作業効率が著しく向上する。
【0043】
また、請求項3記載の発明は、予め、各センサが検出したハイロー切り換え装置42と主変速装置46の現在の変速位置をコントローラ30の記憶部に記憶しておき、作業状態から前後進切り換え装置43が前進若しくは後進に切り換えられて非作業状態に切り換わった後に、再び、作業状態に戻す場合は、コントローラ30に記憶されたハイロー切り換え装置42と主変速装置46を元の変速位置に復帰させるように制御する。
【0044】
例えば、副変速装置47が「低速」で、主変速装置46が「1速」、ハイロー切り換え装置42が「高速」、即ち、変速段が「2段」にある状態で作業を行っている場合に、この作業状態から変速レバー17を「低速(L)」位置から「高速(H)」位置へと手動操作するとともに、作業機昇降スイッチ23を操作して作業機を非作業位置まで上昇させて非作業状態にする。そして、前後進切り換えレバー22を「後進」側に切り換えて車体を高速走行にて後退させた後に、再び、作業機昇降スイッチ23にて作業機を作業位置まで下降させるとともに、変速レバー17を「高速(H)」位置から「低速(L)」位置へと手動操作した場合は、コントローラ30に記憶されている元の変速位置、即ち、変速段が「2段」の変速位置に復帰することができ、アップスイッチ37及びダウンスイッチ38の操作を行わずして元の作業速度に復帰できるため、作業効率が著しく向上する。
【0045】
尚、前記アップスイッチ37またはダウンスイッチ38を押し操作した場合には、コントローラ30の指令信号によって、ハイロー切り換え装置42と主変速装置46とを連携して組み合わせた変速パターンを現位置からアップ若しくはダウンさせるが、湿式多板のハイロークラッチ55を有したハイロー切り換え装置42と、油圧シリンダ44,45の駆動によるシンクロメッシュ機構を有した主変速装置46とでは変速時間が異なるのでスイッチ操作に違和感が生じるため、通常はシンクロメッシュの同期時間内にハイロークラッチ55の切り換えを完了させ、前後進クラッチ58にて昇圧制御を実施することにより、円滑な変速操作が行われる。
【0046】
しかし、前後進切り換え装置43を「前進」若しくは「後進」に切り換えた後の前後進クラッチ58の昇圧は、相対回転差が大きいために吸収エネルギーが極めて大となり、車速及びエンジン回転数を最適な数値に合わせる必要がある。そこで、斯かる場合には、前後進クラッチ58とハイロークラッチ55の双方を一旦「切」とし、前後進クラッチ58を「前進」若しくは「後進」に接続した後に、ハイロークラッチ55にて昇圧制御を実行することにより、円滑な変速操作を行うことができる。
【0047】
尚、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【符号の説明】
【0048】
10 トラクタ
17 変速レバー
30 コントローラ
36 グリップ部
37 アップスイッチ
38 ダウンスイッチ
42 ハイロー切り換え装置
43 前後進切り換え装置
44,45 油圧シリンダ
46 主変速装置
47 副変速装置
55 ハイロークラッチ
58 前後進クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータ44,45,55の駆動により変速可能な第1変速装置42及び第2変速装置46と、変速レバー17の手動操作にて変速位置を変更可能な第3変速装置47とを備え、第1、第2、第3変速装置42,46,47の各変速段の組み合わせにより一連の変速段を構成するとともに、車両には第1、第2変速装置42,46の変速位置をアップ若しくはダウン指令する一対のスイッチ式変速操作部37,38を設け、この変速操作部37,38のスイッチ信号に応じて前記アクチュエータ44,45,55を駆動させて第1及び第2変速装置42,46を連携して切り換え可能に形成した作業車両10の変速制御装置に於いて、前記変速レバー17にて第3変速装置47の変速操作があった後は、前記スイッチ式変速操作部37,38の操作では第2変速装置46だけを切り換える制御部30を備えたことを特徴とする作業車両の変速制御装置。
【請求項2】
アクチュエータ44,45,55の駆動により変速可能な第1変速装置42及び第2変速装置46と、変速レバー17の手動操作にて変速位置を変更可能な第3変速装置47とを備え、第1、第2、第3変速装置42,46,47の各変速段の組み合わせにより一連の変速段を構成するとともに、車両には第1、第2変速装置42,46の変速位置をアップ若しくはダウン指令する一対のスイッチ式変速操作部37,38を設け、この変速操作部37,38のスイッチ信号に応じて前記アクチュエータ44,45,55を駆動させて第1及び第2変速装置42,46を連携して切り換え可能に形成した作業車両10の変速制御装置に於いて、前記第1及び第2変速装置42,46の現在の変速位置を記憶する手段30を設け、前記変速レバー17により第3変速装置47を他の位置に変速して走行した後に、再び、該変速レバー17により第3変速装置47を元の位置に変速操作した場合は、記憶手段30に記憶された第1及び第2変速装置42,46の変速位置に復帰させる制御部30を備えた作業車両の変速制御装置。
【請求項3】
昇降自在な対地作業機と、アクチュエータ44,45,55の駆動により変速可能な第1変速装置42及び第2変速装置46と、変速レバー17の手動操作にて変速位置を変更可能な第3変速装置47とを備え、第1、第2、第3変速装置42,46,47の各変速段の組み合わせにより一連の変速段を構成するとともに、車両には第1、第2変速装置42,46の変速位置をアップ若しくはダウン指令する一対のスイッチ式変速操作部37,38を設け、この変速操作部37,38のスイッチ信号に応じて前記アクチュエータ44,45,55を駆動させて第1及び第2変速装置42,46を連携して切り換え可能に形成した作業車両10の変速制御装置に於いて、前後進を切り換える前後進切り換え装置43を設けるとともに、前記第1及び第2変速装置42,46の現在の変速位置を記憶する手段30を設け、作業状態から前記前後進切り換え装置43が前進若しくは後進に切り換えられて非作業状態に切り換わった後に、再び、作業状態に戻す場合は、記憶手段30に記憶された第1及び第2変速装置42,46の変速位置に復帰させる制御部30を備えた作業車両の変速制御装置。
【請求項4】
上記第1変速装置42は高低2段の変速位置を有し且つ湿式多板クラッチ55の駆動にて変速され、上記第2変速装置46は少なくとも高低3段の変速位置を有し且つ油圧シリンダ44,45の駆動によりシンクロメッシュ機構を介して変速される請求項1,2または3記載の作業車両の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−96353(P2010−96353A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292308(P2009−292308)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【分割の表示】特願2001−177474(P2001−177474)の分割
【原出願日】平成13年6月12日(2001.6.12)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】