説明

作業車両の走行駆動装置

【課題】走行安定性及び不整地での走行性能を良好に確保しつつ、動力伝達効率を高め、燃費の改善を実施上有効に図り得る作業車両の走行駆動装置を提供する。
【解決手段】走行駆動装置は、エンジン1により駆動される油圧ポンプ11とこの油圧ポンプの吐出圧油により駆動される油圧モータ12とを有してなる油圧式動力伝達部10と、エンジンにより駆動される発電機21、バッテリ22やキャパシタなどの蓄電装置又はその両方からなる電力供給源と、この電力供給源から供給される電力により駆動される電動機25と、この電動機の出力と上記油圧式動力伝達部の油圧モータの出力とを合わせて車軸33に伝達する合力伝達部30とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールローダやホイールショベル、ホイールクレーンなどの作業車両の走行駆動装置に関し、特に、エンジン出力を油圧ポンプや油圧モータなどを用いて車軸に伝達するものに係わる。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の作業車両の走行駆動装置としては、エンジンにより駆動される油圧ポンプと、この油圧ポンプの吐出圧油により駆動される油圧モータとを備え、この油圧モータの動力を車軸に伝達して駆動する油圧式のものが広く用いられている。この油圧式走行駆動装置には、油圧モータの戻り側配管がタンクに連通するものと、油圧ポンプと油圧モータとを閉回路で接続するいわゆるHST(hydrostatic transmission)と呼ばれるものとがある。
【0003】
ところが、上記従来の油圧式走行駆動装置では、油圧ポンプや油圧モータの効率が低く、また配管の圧損などのエネルギー損失があるため、動力伝達効率が低いという問題があった。さらに、減速時の運動エネルギーはブレーキにより消費され、回生されないため、エネルギー効率が低く燃費が悪いという問題もある。
【0004】
そこで、このような問題を解決するために、例えば特許文献1に開示されるような走行駆動装置が提案されている。この提案の走行駆動装置は、エンジンにより駆動される油圧ポンプ及びこの油圧ポンプに閉回路で接続された油圧モータを有するHST駆動装置と、エンジンの駆動により発生した電力を用いて駆動される電動機(電動モータ)と、上記HST駆動装置により駆動される第1の駆動輪と、上記電動機により駆動される第2の駆動輪と、車速を検出する車速検出手段と、この車速検出手段で検出した車速の増加に伴い、上記HST駆動装置に分配する動力の割合を小さくし、上記電動機に分配する動力の割合を大きくするように、エンジン出力をHST駆動装置と電動機とに分配する制御手段とを備える。そして、この場合、車速の増加に伴いHST駆動装置に分配するエンジン出力の割合が小さくなり、電動機に分配するエンジン出力の割合が大きくなるため、特に高速時における燃費の改善を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2008−137524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記提案のものでは、その明細書の発明を実施するための最良の形態の項に記載されている如くHST駆動装置により前輪を駆動し、電動機により後輪を駆動した場合、車速に応じて車両のステア特性が変化し、走行安定性が低下するという問題がある。すなわち、低速ではHST駆動装置へ分配するエンジン出力の割合が大きいことから、車両はフロント駆動に近い状態となり、車両のステア特性は一般にアンダーステア特性となる一方、高速では電動機へ分配するエンジン出力の割合が大きいことから、車両はリア駆動に近い、あるいは完全にリア駆動状態となり、車両のステア特性は一般にオーバーステア特性となる。また、不整地での走行時に前輪がスタックしたとき、低速時は主にフロント駆動となっているため、スタック脱出のための後輪側の駆動力が不足し、不整地での走行性能が不十分であるという問題もある。
【0007】
その上、低速時にはHST駆動装置へ分配するエンジン出力の割合が大きいことから、例えば低速で一定速走行するように、低速かつ走行負荷トルクが低い場合でもHST駆動装置が主に駆動され、その分動力伝達効率が低く、燃費が悪化する。また、高速時には電動機へ分配するエンジン出力の割合が大きいことから、高速領域での加速や登坂走行の場合に電動機が主に駆動され、HST駆動装置のトルクは使用されない。このため、十分な駆動トルクが確保できず、高速領域での加速性や登坂性が低下するという問題がある。
【0008】
さらに、車軸の回転に伴ってHST駆動装置の油圧モータが常時回転する構成になっているため、油圧モータの機械的回転損失が常に発生し、エネルギー効率が低下するという問題もある。
【0009】
本発明はかかる諸点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、特に、エンジン出力を油圧機器と電気機器の併用により車軸に効率的に伝達することにより、走行安定性及び不整地での走行性能を良好に確保しつつ、動力伝達効率を高め、燃費の改善を実施上有効に図り得る作業車両の走行駆動装置を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明は、作業車両の走行駆動装置として、エンジンにより駆動される油圧ポンプとこの油圧ポンプの吐出圧油により駆動される油圧モータとを有してなる油圧式動力伝達部と、エンジンにより駆動される発電機、バッテリやキャパシタなどの蓄電装置又はその両方からなる電力供給源と、この電力供給源から供給される電力により駆動される電動機と、この電動機の出力と上記油圧式動力伝達部の油圧モータの出力とを合わせて車軸に伝達する合力伝達部とを備える構成にする。
【0011】
この構成では、車両の走行状態などに応じて、エンジン出力を油圧式動力伝達部及び合力伝達部を介して車軸に伝達する第1の動力伝達系と、エンジン出力を一旦電力供給源の電力に変換した後この電力により電動機を駆動し、その動力を合力伝達部を介して車軸に伝達する第2の動力伝達系とを別々に使用したり、併用したりすることができる。例えば低速でかつ走行負荷トルクが低い場合には動力伝達効率の高い第2の動力伝達系を主に使用することにより、その分動力伝達効率を高めて燃費を改善することができる。また、高速領域での加速や登坂走行の場合には第1の動力伝達系と第2の動力伝達系の併用によって車軸に十分な動力を伝達することができ、高速領域での加速性や登坂性を高めることができる。
【0012】
しかも、エンジン出力は、第1の動力伝達系と第2の動力伝達系とを介して同一の車軸に伝達されるものであるため、動力伝達系の変更により車両のステア特性が変化することはなく、走行安定性を良好にすることができる。また、車軸として前輪車軸と後輪車軸の両方に適用した場合には不整地での走行時に例えば前輪がスタックしたとき後輪側の駆動によりスタック脱出することができ、不整地での走行性能を良好にすることができる。
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の作業車両の走行駆動装置において、エンジン出力、エンジン回転数又はアクセル量を検出あるいは推定する検出推定手段と、この検出推定手段からの信号を受け、エンジン出力、エンジン回転数又はアクセル量が所定値より小さい場合上記油圧式動力伝達部へ分配するエンジン出力を小さく若しくは零にすることで、主に電動機の出力により車軸を駆動し、エンジン出力、エンジン回転数又はアクセル量が所定値より大きい場合上記油圧式動力伝達部へ分配するエンジン出力を大きくし、電動機及び油圧式動力伝達部の両方の出力により車軸を駆動するように制御する制御手段とを更に備える構成にする。
【0014】
この構成では、エンジン出力、あるいはこれと関連するエンジン回転数又はアクセル量を検出推定手段により検出あるいは推定し、この検出推定手段からの信号を受ける制御手段の制御の下に、エンジン出力などが所定値より小さい場合には、油圧式動力伝達部へ分配するエンジン出力を小さく若しくは零にすることで、主に電動機の出力により車軸が駆動されるため、低出力時での動力伝達効率を確実に高めることができる。また、エンジン出力などが所定値より大きい場合には、油圧式動力伝達部へ分配するエンジン出力を大きくし、電動機及び油圧式動力伝達部の両方の出力により車軸が駆動されるため、高速領域での加速性や登坂性を確実に高めることができる。
【0015】
請求項3に係る発明は、請求項1記載の作業車両の走行駆動装置において、走行負荷を検出あるいは推定する検出推定手段と、この検出推定手段からの信号を受け、走行負荷が所定値より小さい場合上記油圧式動力伝達部へ分配するエンジン出力を小さく若しくは零にすることで、主に電動機の出力により車軸を駆動し、走行負荷が所定値より大きい場合上記油圧式動力伝達部へ分配するエンジン出力を大きくし、電動機と油圧式動力伝達部の両方の出力により車軸を駆動するように制御する制御手段とを更に備える構成にする。
【0016】
この構成では、エンジン出力と関連する走行負荷を検出推定手段により検出あるいは推定し、この検出推定手段からの信号を受ける制御手段の制御の下に、走行負荷が所定値より小さい場合には、油圧式動力伝達部へ分配するエンジン出力を小さく若しくは零にすることで、主に電動機の出力により車軸が駆動されるため、低負荷時での動力伝達効率を確実に高めることができる。また、走行負荷が所定値より大きい場合には、油圧式動力伝達部へ分配するエンジン出力を大きくし、電動機及び油圧式動力伝達部の両方の出力により車軸が駆動されるため、高負荷領域ないし高速領域での加速性や登坂性を確実に高めることができる。
【0017】
請求項4に係る発明は、請求項2又は3記載の作業車両の走行駆動装置において、上記電力供給源を、発電機と蓄電装置の両方で構成し、更にアクセルペダル又はブレーキペダルの操作を検出する操作検出手段を備え、上記制御手段は、この操作検出手段からの信号を受け、走行中にアクセルペダルの操作量が減少若しくは零になった場合、あるいは走行中にブレーキペダルが操作された場合に、上記電動機を発電機として動作させ、走行動力を電力回生するとともに、上記蓄電装置の充電量が設定値より低い場合には回生した電力を蓄電装置に充電し、上記蓄電装置の充電量が設定値より高い場合には回生した電力により上記発電機を電動機として動作させ、エンジンに正転トルクを与えることでエンジンブレーキにより回生電力を消費する制御を行うように設ける構成にする。この構成では、走行中にアクセルペダルの操作量が減少若しくは零になった場合、あるいは走行中にブレーキペダルが操作された場合つまり減速時には、そのことを操作検出手段が検出し、この操作検出手段からの信号を受ける制御手段の制御の下に、電動機を発電機として動作させ、走行動力を電力回生するとともに、蓄電装置の充電量が低い場合には回生した電力を蓄電装置に充電するため、回生電力を有効に利用することができ、その分エネルギー効率を高めることができる。
【0018】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし請求項4のいずれか一つに記載の作業車両の走行駆動装置において、更に、上記油圧式動力伝達部の油圧モータと合力伝達部との間に設けられたクラッチ装置を備える構成にする。この構成では、油圧モータの出力を車軸に伝達する場合には手動又は自動によりクラッチ装置を接続することにより、出力伝達を確保する一方、電動機のみで車軸を駆動して走行する場合にはクラッチ装置を切断することにより、油圧モータを停止させることができ、油圧モータの空転によるエネルギーロスを防止することができる。
【0019】
請求項6に係る発明は、請求項5記載の作業車両の走行駆動装置において、上記クラッチ装置を、上記油圧モータの回転数と合力伝達部の油圧モータ側入力回転数とが一致したとき自動的に接続状態となり、上記油圧モータの回転数が合力伝達部の油圧モータ側入力回転数より低下したとき自動的に切断状態となる回転数感応型のもので構成する。この構成では、クラッチ装置が回転数感応型のものであって、その接続状態と切断状態の切替は、接続対象物同士である油圧モータの回転数と合力伝達部の油圧モータ側入力回転数とが一致するときに行われるため、切替時のショックの発生やクラッチ装置の破損を防止することができる。
【0020】
請求項7に係る発明は、請求項1ないし請求項6のいずれか一つに記載の作業車両の走行駆動装置において、更に、上記電動機と合力伝達部との間に設けられた減速機を備える構成にする。この構成では、電動機から車軸への減速比が、減速機によって油圧モータから車軸へのそれよりも大きくなるため、電動機の発生トルクが小さいときでも高回転で出力することができる。
【0021】
請求項8に係る発明は、請求項1ないし請求項7のいずれか一つに記載の作業車両の走行駆動装置において、上記合力伝達部は、減速比を変更可能な切替機構を有する構成にする。この構成では、車両の走行状態などに応じて、切替機構により合力伝達部での減速比を変更すること、例えばオンロードでは合力伝達部での減速比を高く切り替えることで高速走行性能を向上させることができ、また、オフロードでは合力伝達部での減速比を低く切り替えることで出力トルクを高めてオフロード走行性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明における作業車両の走行駆動装置によれば、低速で走行負荷トルクの低い場合には電動機などの動力伝達系を主に使用することにより、その分動力伝達効率を高めて燃費を改善することができ、また、高速領域での加速や登坂走行の場合には油圧モータなどの動力伝達系と電動機などの動力伝達系の併用によって車軸に十分な動力を伝達することができるので、高速領域での加速性や登坂性を高めることができる。しかも、エンジン出力は、油圧モータなどの動力伝達系と電動機などの動力伝達系とを介して同一の車軸に伝達されるものであるため、動力伝達系の変更により車両のステア特性が変化することはなく、走行安定性を良好に確保することができ、また、車軸として前輪車軸と後輪車軸の両方に適用した場合には不整地での走行性能を良好に確保することができる。
【0023】
特に、請求項2又は3に係る発明では、制御手段の制御の下に、低出力・低走行負荷の場合には油圧式動力伝達部へ分配するエンジン出力を小さく若しくは零にすることで、主に電動機の出力により車軸が駆動されるため、低出力時での動力伝達効率を確実に高めることができ、また高出力・高走行負荷の場合には油圧式動力伝達部へ分配するエンジン出力を大きくし、電動機及び油圧式動力伝達部の両方の出力により車軸が駆動されるため、高速領域での加速性や登坂性を確実に高めることができ、作動の信頼性を高めることができる。
【0024】
請求項4に係る発明では、走行中の減速時には制御手段の制御の下に、電動機を発電機として動作させ、走行動力を電力回生するとともに、蓄電装置の充電量が低い場合には回生した電力を蓄電装置に充電するため、回生電力を有効に利用することができ、その分エネルギー効率を高めて燃費の改善をより図ることができる。
【0025】
請求項5に係る発明では、電動機のみで車軸を駆動して走行する場合クラッチ装置を切断することにより、油圧モータを停止させることができるので、油圧モータの空転によるエネルギーロスを防止することができ、燃費の改善をより一層図ることができる。
【0026】
請求項6に係る発明では、クラッチ装置が回転数感応型のものであるため、切替時のショックの発生やクラッチ装置の破損を防止することができ、実施化を図る上で有効なものである。
【0027】
請求項7に係る発明では、電動機から車軸への減速比が、減速機によって油圧モータから車軸へのそれよりも大きくなるため、電動機の発生トルクが小さいときでも高回転で出力することができ、電動機を小型化しながら電動機の出力を高めることができる。
【0028】
さらに、請求項8に係る発明では、オンロードでは合力伝達部での減速比を高く切り替えることで高速走行性能を向上させることができるとともに、オフロードでは合力伝達部での減速比を低く切り替えることで出力トルクを高めてオフロード走行性能を向上させることができ、走行性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は本発明の第1の実施形態に係る作業車両の走行駆動装置の構成図である。
【図2】図2はコントローラの制御内容を示すフローチャート図である。
【図3】図3は発電機側の動力制御ルーチンを示すフローチャート図である。
【図4】図4は油圧ポンプ側の動力制御ルーチンを示すフローチャート図である。
【図5】図5は減速時の走行制御ルーチンを示すフローチャート図である。
【図6】図6は発電機回転数と発電機トルク及び発電機出力との関係を示す特性図である。
【図7】図7はエンジン回転数とエンジン出力との関係を示す特性図である。
【図8】図8は発電機回転数と発電機目標トルクとの関係を示す特性図である。
【図9】図9は電動機回転数と電動機目標トルクとの関係を示す特性図である。
【図10】図10はポンプ差圧と油圧ポンプ目標流量との関係を示す特性図である。
【図11】図11は供給側配管内圧力と油圧モータ容量との関係を示す特性図である。
【図12】図12は車速、アクセル量、エンジン回転数、エンジン動力+バッテリ動力、動力配分、アクチュエータ側動力、バッテリ充電量及びブレーキ量の時間軸上における相関関係を示す特性図の前半部である。
【図13】図13は同特性図の後半部である。
【図14】図14は本発明の第2の実施形態を示す図1相当図である。
【図15】図15は本発明の第3の実施形態を示す図1相当図である。
【図16】図16は本発明の第4の実施形態を示す図1相当図である。
【図17】図17は本発明の第5の実施形態を示す図1相当図である。
【図18】図18は本発明の第6の実施形態を示す図1相当図である。
【図19】図19は本発明の第7の実施形態を示す図1相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための形態である実施形態を図面に基づいて説明する。
【0031】
図1は本発明の第1の実施形態に係る作業車両の走行駆動装置の全体構成を示し、1はエンジン、2はエンジン1の出力軸に連結されたパワーデバイダであって、このパワーデバイダ2は、エンジン1の出力を油圧式動力伝達部10の油圧ポンプ11と電気式動力伝達部20の発電機21とに分配するものである。
【0032】
上記油圧式動力伝達部10は、エンジン1の出力により駆動される可変容量型の油圧ポンプ11と、この油圧ポンプ11の吐出圧油により駆動される可変容量型の油圧モータ12とを有し、この両者11,12を閉回路13で接続したいわゆるHSTと呼ばれる構成になっている。閉回路13内の圧力は、一対の安全弁としての高圧リリーフ弁14a,14bにより所定値以下に設定されている。油圧ポンプ11にはチャージポンプ15が付設され、このチャージポンプ15から吐出された作動油は低圧リリーフ弁16により最低設定圧を確保しており、閉回路13内の圧力が最低設定圧以下になった場合、チェック弁17a,17bから作動油を閉回路13内に送り込むことで閉回路13内の圧力を最低設定圧以上に確保し、閉回路13内でのキャビテーションの発生を防止するようになっている。
【0033】
上記電気式動力伝達部20は、電力供給源として、エンジン1の出力により駆動される発電機21と、蓄電装置としてのバッテリ22とを有し、また、この電力供給源としての発電機21又はバッテリ22からコンバータ23及びインバータ24を介して供給される電力により駆動される電動機25をも有している。ここで、コンバータ23は、本来、発電機21で発生した交流電力を直流電力に変換する回路であり、インバータ24は、直流電力を交流電力に変換して電動機25に供給する回路であるが、本実施形態では、後述するように車両の減速時に電動機25を発電機として、発電機21を電動機としてそれぞれ動作させる場合、コンバータ23はインバータとして機能し、インバータ24はコンバータとして機能するようになっている。
【0034】
上記油圧式動力伝達部10の出力部である油圧モータ12の回転動力(出力)と上記電気式動力伝達部20の出力部である電動機25の回転動力(出力)とは、合力伝達部としてのトランスファー30によって合わせられた後、プロベラシャフト31及び差動装置32を介して車軸33に伝達され、この車軸33及びその両端の車輪34を回転駆動するようになっている。トランスファー30は、油圧モータ12の出力軸に連結された第1のギヤ30aと、電動機25の出力軸に連結された第2のギヤ30bと、第1及び第2のギヤ30a,30bに共に噛合しかつプロペラシャフト31に連結された第3のギヤ30cとを有している。尚、車両が2つの車軸33を有する場合、2つの車軸33に共に走行駆動装置を搭載してもよく、あるいは1つの車軸33に走行駆動装置を搭載し、他の車軸をアイドラとしてもよい。3つ以上の車軸33を有する場合も同様である。
【0035】
さらに、40は走行駆動装置の制御手段としてのコントローラであって、このコントローラ40は、前後進切替スイッチ41の信号に従って、上記油圧式動力伝達部10の油圧ポンプ11の作動油吐出方向を切り替えるとともに、上記電気式動力伝達部20の電動機25の回転方向をインバータ24を介して切り替えるようになっている。コントローラ40には、前後進切替スイッチ41の信号以外に、エンジン1の出力回転数(つまりエンジン回転数)を検出するエンジン回転数検出手段42の信号、アクセルペダル43の踏み込み操作量(アクセル量)を検出するアクセル操作検出手段44の信号、コンバータ23の一相の相電圧などから発電機21の回転数を検出する発電機回転数検出手段45の信号、インバータ24の一相の相電圧などから電動機25の回転数を検出する電動機回転数検出手段46の信号、及び油圧ポンプ11の作動油吸い込み口と作動油吐出口との差圧を検出するポンプ差圧検出手段47の信号などが入力されるようになっており、コントローラ40は、これらの信号に基づいて、エンジン1、油圧式動力伝達部10の油圧ポンプ11及び電気式動力伝達部20の発電機21などを制御するようになっている。
【0036】
次に、上記コントローラ40による制御のうち、エンジン出力を油圧式動力伝達部10の油圧ポンプ12と電気式動力伝達部20の発電機21に分配する場合の制御内容を、図2ないし図5に示すフローチャートに従って説明する。
【0037】
図2において、スタートした後、先ず、ステップS1でアクセル操作検出手段4の信号に基づいてアクセル量が零より大きいか否かを判定する。この判定がYESのとき、つまりアクセル操作中のときには、ステップS2でエンジン回転数検出手段42によりエンジン回転数Nを検出するとともに、ステップS3でエンジン設定回転数Ne2を算出する。このエンジン設定回転数Ne2は、エンジン出力を発電機21のみに分配できるエンジン回転数の最大値である。発電機21の最大出力は、図6に示すように発電機回転数NがNg1以上ではPwgmax、Ng1未満ではTgmax×Nとなる。従って、Pwe2は、
【0038】
≧Ng1の場合 Pwe2=Pwgmax/η (1)
【0039】
<Ng1の場合 Pwe2=(Tgmax×N)/η (2)
【0040】
ここで、ηは発電機効率である。尚、低速で電動機25の回転数が低い場合、電動機25の最大入力電力が発電機21の発電電力以下となることがある。この場合、発電機21の発電量が電動機25の最大入力電力を越えないように発電機21の最大出力を制限してもよい。
【0041】
続いて、ステップS4でエンジン回転数Nがエンジン出力設定値Pwe2のときのエンジン回転数Ne2よりも小さいか否かを判定する。ここで、図7に示すように、エンジン出力Pweは、最大出力Pwemaxを発生するエンジン回転数以下ではエンジン回転数Nに対し単調に増加する傾向にあることから、エンジン回転数Nからエンジン出力Pweを容易にかつ確実に推定することができ、また、ステップS4の判定は、エンジン出力Pweがエンジン出力設定値Pwe2よりも小さいか否かを判定していることと同じである。
【0042】
そして、上記ステップS4の判定がYESのとき、つまりエンジン出力Pweがエンジン出力設定値Pwe2よりも小さい場合、ステップS5でエンジン出力Pweを発電機21にのみ配分するために発電機21の入力動力Pwg=Pweとした後、ステップS6でこれに基づき発電機側の動力制御を実行し、制御を終了する。尚、エンジン出力Pweを発電機1にのみ分配する場合、油圧ポンプ11の容量は零に制御される。
【0043】
一方、上記ステップS4の判定がNOのとき、つまりエンジン出力Pweがエンジン出力設定値Pwe2以上の場合、ステップS7でエンジン出力Pweを発電機21と油圧ポンプ11とに分配するためにエンジン出力Pweのうち、エンジン出力設定値Pwe2相当の動力を発電機21の入力動力Pwg(=Pwe2)に、残りの動力を油圧ポンプ11の入力動力Pwp(=Pwe−Pwe2)にそれぞれ設定した後、この設定値に基づいて、ステップS8で発電機21側の動力制御を実行するとともに、ステップS9で油圧ポンプ11側の動力制御を実行し、制御を終了する。
【0044】
また、上記ステップS1の判定がNOのとき、つまり走行中でアクセル量が零の減速時には、ステップS10で減速時の走行制御を実行し、制御を終了する。
【0045】
尚、バッテリ22の充電量が設定値以上の場合、バッテリ22の放電電力分だけ発電機21の入力動力Pwgを上述した値から減じることができる。この場合、発電機21の発電量が減少し、エンジン1の負荷が下がるため、これに応じてエンジン回転数を下げるように制御してもよい。
【0046】
上記ステップS6又はS8における発電機側の動力制御は、図3に示すフローチャートに従って行われる。
【0047】
すなわち、スタートした後、先ず、ステップS11で先に設定した発電機21の入力動力Pwgを確認するとともに、ステップS12で発電機回転数検出手段45により発電機21の回転数Nを検出する。尚、発電機21の回転数Nは、発電機回転数検出手段45で検出する代わりに、エンジン回転数Nに減速比を乗じて求めるようにしてもよい。
【0048】
続いて、ステップS13で発電機21の目標トルクTを、発電機21の回転数Nと発電機21の入力動力Pwgを用いて下記の式(3)により算出する。
【0049】
=Pwg×η/N (3)
【0050】
但し、この式(3)により算出した発電機21の目標トルクTが発電機21の最大トルクTgmaxを越える場合には、目標トルクTをTgmaxに制限する。これにより、発電機21の目標トルクTは、図8に示すような特性を有するものになる。
【0051】
そして、ステップS14で発電機21のトルクが目標トルクTになるように制御する。
【0052】
次に、ステップS15で電動機25の出力動力Pwmを下記の式(4)により算出する。
【0053】
wm=Pwg×η×η (4)
【0054】
ここで、ηは電動機25の効率である。尚、バッテリ22の充電量が設定値以上の場合、発電機21の入力動力Pwgに対しバッテリ22の放電電力を加算して電動機25の出力動力Pwmを設定してもよい。
【0055】
続いて、ステップS16で電動機回転数検出手段46により電動機25の回転数Nを検出した後、ステップS17でこの電動機25の回転数Nを基に下記の式(5)により電動機25の目標トルクTを算出する。
【0056】
=Pwm/N (5)
【0057】
但し、この式(5)により算出した電動機25の目標トルクTが電動機25の最大トルクTmmaxを越える場合には、目標トルクTをTmmaxに制限する。これにより、電動機25の目標トルクTは、図9に示すような特性を有するものになる。
【0058】
そして、ステップS18で電動機25のトルクが目標トルクTになるように制御する。以上によって、発電機側の動力制御を終了する。
【0059】
上記ステップS9における油圧ポンプ側の動力制御は、図4に示すフローチャートに従って行われる。
【0060】
すなわち、スタートした後、ステップS21で先に設定した油圧ポンプ11の入力動力Pwp(=Pwe−Pwe2)を確認するとともに、ステップS22でポンプ差圧検出手段47により油圧ポンプ11の差圧ΔPを検出し、ステップS23でエンジン回転数検出手段42により検出したエンジン回転数Nにパワーデバイダ2の減速比を乗算することで油圧ポンプ11の回転数Nを算出する。
【0061】
続いて、ステップS23で油圧ポンプ11の目標流量Qを下記の式(6)により算出する。
【0062】
=Pwp/ΔP (6)
【0063】
但し、この式(6)により算出した油圧ポンプ11の目標流量Qが油圧ポンプ11の最大流量Qpmaxを越える場合には、目標流量QをQpmaxに制限する。ここで、油圧ポンプ11の最大流量Qpmaxは、下記の式(7)により決定される。
【0064】
pmax=η×qpmax×N (7)
【0065】
但し、ηは油圧ポンプ11の容積効率、qpmaxは油圧ポンプ11の最大容量である。従って、油圧ポンプ11の目標流量Qは、図10に示すような特性を有するものになる。
【0066】
次に、ステップS25で油圧ポンプ11の目標容量qを下記の式(8)により算出する。
【0067】
=Q/(η×N) (8)
【0068】
そして、ステップS26で油圧ポンプ11の容量が目標容量qになるように制御する。以上によって、油圧ポンプ側の動力制御を終了する。
【0069】
以上のような動力制御によれば、エンジン出力Pweがエンジン出力設定値Pwe2以上となる場合には、エンジン出力は発電機21と油圧ポンプ11に分配され、発電機21あるいはバッテリ22からの供給電力により駆動される電動機25の出力と、油圧ポンプ11から圧油として供給される動力により駆動される油圧モータ12の出力とがトランスファー30によって合わせられて車軸33に伝達し、車軸33を回転駆動する。
【0070】
ここで、油圧モータ12の容量制御の一例を、図11を参照しながら説明するに、油圧モータ12は、閉回路13の供給側配管内圧力が設定値P以上では容量qが最大容量qpmaxになっており、供給側配管内圧力が設定値P以下になると圧力が低下するに従って容量qが低下し、最終的に最低容量qminとなる。最低容量qminは例えば零としてもよい。すると、電動機25のみで駆動する場合、油圧ポンプ11の容量が零となり、油圧ポンプ11からの吐出流量が零になるが、油圧モータ12の最低容量qmminを零とすることで油圧モータ12の吸い込み流量も零となり、吸い込み流量と吐出流量のバランスを取ることができる。また、上記容量制御としては、例えば閉回路13の配管に圧力センサを設け、この圧力センサの圧力測定値を基にコントローラ40により容量制御を電気的に行うか、あるいは油圧モータ12に、油圧制御により制御特性が変更可能な機能を設けてもよい。
【0071】
上記ステップS10における減速時の走行制御は、図5に示すフローチャートに従って行われる。
【0072】
すなわち、スタートした後、先ず、ステップS31で電動機25を発電機として動作させ、走行動力を回生する。続いて、ステップS32でバッテリ22からの信号に基づいてバッテリ充電量が設定値よりも小さいか否か判定し、この判定がYESのときには、ステップS33で回生電力をバッテリ22に充電して回収し、制御を終了する一方、判定がNOのときには、ステップS34で発電機21を電動機として動作させ、エンジン1に正転トルクを与えることでエンジンブレーキにより回生電力を消費し、制御を終了する。
【0073】
次に、上記走行駆動装置の動作について、図12及び図13を参照しながら説明する。図12及び図13は、加速、高速での定速、減速、低速での定速の走行パターンを行った場合の車速、アクセル量、エンジン回転数、エンジン動力+バッテリ動力、動力配分、アクチュエータ側動力、バッテリ充電量及びブレーキ量の変化特性を示す。
【0074】
先ず、車両の加速時では、運転者がアクセルペダル43を踏み込んで加速する。この場合、アクセル量の増加に応じてエンジン回転数が上昇し、エンジン出力Pweはエンジン出力設定値Pwe2以上になる。ここではフルアクセルとしているので、エンジン出力Pweは最大出力Pwemaxとなる。動力配分は、エンジン最大出力Pwemaxのうち、出力設定値Pwe2相当分を発電機入力動力として配分し、残り(Pwemax−Pwe2)を油圧ポンプ入力動力として分配する。但し、バッテリ充電量が設定値SOC1以上の場合には、バッテリ22が放電可能な状態にあるため、バッテリ22に放電させ、バッテリ放電量分だけ発電機21の発電量を減じることができる。この場合、発電機21の発電量がバッテリ放電量分だけ減るため、エンジン出力もその分減少し、結果としてバッテリ放電量とエンジン出力の和がエンジン最大出力Pwemaxとなる。また、バッテリ22が放電中は、上記のようにエンジン出力が減少するので、エンジン出力の減少に見合った量だけエンジン回転数を引き下げてもよい。以上のことから、車両の加速時には発電機25及びバッテリ22から電力供給を受けた電動機25が発生する出力と、油圧ポンプ11から動力供給されることで駆動される油圧モータ12の出力とがトランスファー30などを介して車軸33に伝達され、車軸33を回転駆動する。
【0075】
車両を定速で走行する場合、通常、加速時よりも少ない動力で走行することができる。そこで、定速走行になると運転者は速度に見合う程度にアクセル量を減少させる。このため、エンジン回転数が減少し、それに伴ってエンジン出力Pweは出力設定値Pwe2よりも減少する。この場合、エンジン出力Pweは発電機21にのみ分配され、油圧ポンプ11への動力分配はされないので、油圧モータ12は油圧ポンプ11からの動力供給を受けなくなり、油圧モータ12の出力動力は零となる。車軸33は、発電機21より電力供給を受けて駆動される電動機25によって駆動される。
【0076】
車両の減速時には、電動機25が発電機として動作し、バッテリ22への電力回生が行われ、バッテリ22の充電量が回復する。
【0077】
次に、上記走行駆動装置の効果について説明するに、低速で一定速走行する場合には、上述したようにエンジン出力Pweは発電機21にのみ分配され、この発電機21より電力供給を受けて駆動される電動機25によって車軸33が駆動される。このため、エンジン出力Pweの一部を動力伝達効率の低い油圧式動力伝達部10の油圧ポンプ11に分配する場合に比べて低速走行時での動力伝達効率を高め、その分燃費を改善することができる。
【0078】
また、高速での加速や登坂走行の場合には、通常、運転者はアクセル量を大きくするようにアクセルペダル43を操作するため、エンジン出力Pweが増加するとともに、そのエンジン出力Pweが発電機21と油圧ポンプ11とに分配され、発電機21より電力供給を受けて駆動される電動機25の出力と、油圧ポンプ11より動力供給を受けて駆動される油圧モータ12の出力とによって車軸33が駆動される。このため、車軸33に対し十分な駆動トルクを確保することができ、高速での加速性や登坂性を高めることができる。
【0079】
しかも、エンジン出力Pweは、油圧式動力伝達部10と電気式動力伝達部20とを介して同一の車軸33に伝達されるものであるため、動力伝達系の変更により車両のステア特性が変化することはなく、走行安定性を良好に確保することができる。また、車軸33として前輪用車軸と後輪用車軸の両方に適用した場合には不整地での走行時に例えば前輪がスタックしたとき後輪側の駆動によりスタック脱出することができ、不整地での走行性能を良好にすることができる。
【0080】
さらに、車両の減速時には、電動機25を発電機として動作させ、回生した電力をバッテリ22の充電に利用しているため、その分エネルギー効率を高めることができる。
【0081】
図14は本発明の第2の実施形態に係る作業車両の走行駆動装置の全体構成を示す。この第2の実施形態の場合、油圧式動力伝達部50の構成が第1の実施形態の場合のそれと異なる。
【0082】
すなわち、油圧式動力伝達部50は、エンジン1の出力により駆動される油圧ポンプ51と、この油圧ポンプ51の吐出圧油により駆動される油圧モータ52と、この両者51,52の間に介在された切替弁53とを有している。切替弁53は、前後進切替スイッチ41の信号を受けるコントローラ40の制御の下に、位置切替が行われることで油圧モータ52の回転方向の切替を行うものである。
【0083】
また、上記油圧式動力伝達部50は、高圧リリーフ弁54a,54b及びチェック弁55a,55bも有しているが、第1の実施形態の場合の油圧式動力伝達部10の如きチャージポンプ15や低圧リリーフ弁16は存在しない構成になっている。尚、走行駆動装置の油圧式動力伝達部50以外の構成は、第1の実施形態の場合と同じであり、同一部材には同一符号を付してその説明は省略する。
【0084】
そして、上記第2の実施形態においても、走行駆動装置の基本的な動作及び効果は、第1の実施形態の場合のそれと同じである。
【0085】
図15は本発明の第3の実施形態に係る作業車両の走行駆動装置の全体構成を示す。この第3の実施形態の場合、走行駆動装置は、複数(図では2つ)の車軸33a,33bを駆動するのに適した構成になっている。
【0086】
すなわち、走行駆動装置の油圧式動力伝達部10は、油圧ポンプ11の吐出圧油により駆動される一対の油圧モータ12a,12bを有するHSTの構成になっている。また、走行駆動装置の電気式動力伝達部20は、電力供給源としての発電機21又はバッテリ22から供給される電力により駆動される一対の電動機25a,25bと、この各電動機25a,25bに対し発電機21又はバッテリ22から供給される直流電力を交流電力に変換して供給する一対のインバータ24a,24bとを有している。
【0087】
上記一対の油圧モータ12a,12bの出力軸は、共にトランスファー30の第1のギヤ30aに連結されているとともに、上記一対の電動機25a,25bの出力軸は、共にトランスファー30の第2のギヤ30bに連結されている。そして、一対の油圧モータ12a,12bの出力と一対の電動機25a,25bの出力とはトランスファー30によって合わせられた後、プロベラシャフト31、車輪間差動装置32a,32b及び車軸間差動装置61を介して前後2つの車軸33a,33bに伝達され、この両車軸33a,33b及びそれらの両端の車輪34a,34bを回転駆動するようになっている。尚、走行駆動装置のその他の構成は、第1の実施形態の場合と同じであり、同一部材には同一符号を付してその説明は省略する。
【0088】
そして、上記第3の実施形態においては、作業車両のうち、特に車軸数の多い大型車両において、複数の車軸33a,33bを駆動するために大きな駆動トルクを要する場合にも対応することができるとともに、第1の実施形態の場合と同様に油圧モータ12a,12b及び電動機25a,25bなどを制御することで、動力伝達効率を高めて燃費を改善することができるなどの効果をも奏する。
【0089】
図16は本発明の第4の実施形態に係る作業車両の走行駆動装置の全体構成を示す。この第4の実施形態の場合、走行駆動装置は、油圧式動力伝達部10の油圧モータ12とトランスファー30との間に設けられたクラッチ装置71を備えている。
【0090】
上記クラッチ装置71は、図に詳示していないが、ワンウェイクラッチなどの回転数感応型のものであり、油圧モータ12の回転数とトランスファー30の油圧モータ側入力部である第1のギヤ30aの回転数とが一致したとき自動的に接続状態となり、油圧モータ12の回転数がトランスファー30の第1のギヤ30aの回転数より低下したとき自動的に切断状態となるように設けられている。尚、走行駆動装置のその他の構成は、第1の実施形態の場合と同じであり、同一部材には同一符号を付してその説明は省略する。
【0091】
そして、第4の実施形態においては、第1の実施形態の場合と同様な効果を奏することに加えて、定速走行の如く電動機25のみで車軸33を駆動して走行する場合、油圧モータ12の容量が零となり、その回転数がトランスファー30の第1のギヤ30aの回転数より低下することから、クラッチ装置71は自動的に切断状態になる。このため、トランスファー30側からの動力伝達によって油圧モータ12が空転することはなく、その分エネルギーロスを防止することができ、燃費の改善を図ることができる。
【0092】
その上、上記クラッチ装置71は回転数感応型のものであって、その接続状態と切断状態の切替は、接続対象物同士である油圧モータ12の回転数とトランスファー30の第1のギヤ30aの回転数とが一致するときに行われるため、切替時のショックの発生やクラッチ装置71の破損を防止することができる。
【0093】
図17は本発明の第5の実施形態に係る作業車両の走行駆動装置の全体構成を示す。この第5の実施形態の場合、走行駆動装置は、電動機25とトランスファー30との間に設けられた減速機81を備える構成になっている。尚、走行駆動装置のその他の構成は、第1の実施形態の場合と同じであり、同一部材には同一符号を付してその説明は省略する。
【0094】
そして、第4の実施形態においては、第1の実施形態の場合と同様に効果を奏することに加えて、電動機25から車軸33への減速比が、上記減速機81によって油圧モータ12から車軸33へのそれよりも大きくなるため、電動機25の発生トルクが小さいときでも高回転で出力することができ、その結果、電動機25を小型化しながら電動機25の出力を高めることができるという効果をも奏する。
【0095】
図18は本発明の第6の実施形態に係る作業車両の走行駆動装置の全体構成を示す。この第6の実施形態の場合、走行駆動装置は、電動機25の出力と油圧モータ12の出力とを合わせて車軸33側に伝達する合力伝達部として、減速比を高低2段に変更可能な切替機構91を有するトランスファー90と、第4の実施形態の場合と同じく油圧モータ12とトランスファー90との間に設けられたクラッチ装置71とを備えている。
【0096】
上記切替機構91は、油圧モータ12及び電動機25の出力を低い減速比で車軸33側に伝達する3つのギヤ92a,92b,92cよりなる第1のギヤ列92と、油圧モータ12及び電動機25の出力を高い減速比で車軸33側に伝達する3つのギヤ93a,93b,93cよりなる第2のギヤ列93と、上記第1及び第2のギヤ列92,93のいずれか一方を動力伝達状態に連結するためのセレクター94とを有し、このセレクター94を第1のギヤ列92側に寄せたときには第1のギヤ列92が動力伝達状態に連結され、第2のギヤ列92が空転状態になることにより、油圧モータ12及び電動機25の出力が低い減速比で車軸33側に伝達される一方、セレクター94を第2のギヤ列93側に寄せたときには第2のギヤ列93が動力伝達状態に連結され、第1のギヤ列92が空転状態になることにより、油圧モータ12及び電動機25の出力が高い減速比で車軸33側に伝達されるようになっている。上記セレクター94は、変速切替スイッチ95の信号を受けるコントローラ40の制御の下に、変速切替スイッチ95の切替操作に応じてエアシリンダなどのアクチュエータ(図示せず)によって位置切替が行われるようになっている。尚、走行駆動装置のその他の構成は、第1の実施形態の場合と同じであり、同一部材には同一符号を付してその説明は省略する。
【0097】
そして、上記第6の実施形態においては、第1の実施形態の場合と同様の効果と、油圧モータ12とトランスファー90との間に設けられたクラッチ装置71を備えたことによる第4の実施形態の場合と同様の効果とに加えて、車両の走行状態などに応じて、トランスファー90の切替機構91により減速比を適宜変更することができる。例えばオンロードではトランスファー90での減速比を高く切り替えることで高速走行性能を向上させることができ、また、オフロードではトランスファー90での減速比を低く切り替えることで出力トルクを高めてオフロード走行性能を向上させることができる。
【0098】
図19は本発明の第7の実施形態に係る作業車両の走行駆動装置の全体構成を示す。この第7の実施形態の場合、油圧モータ12の出力と電動機25の出力とを合わせて車軸33に伝達する構成が、第1の実施形態の場合のそれと異なる。
【0099】
すなわち、上記電動機25は、油圧モータ12の出力軸101に対し同軸に取り付けられ、電動機25の出力と油圧モータ12の出力は、出力軸101により合わせられ、トランスファー102及びプロベラシャフト31などを介して車軸33に伝達されるように構成されている。トランスファー102は、油圧モータ101の出力軸101と連結された第1のギヤ102aと、この第1のギヤ102aと噛合しかつプロペラシャフト31に連結された第2のギヤ102bとを有している。第7の実施形態の場合、油圧モータ12の出力軸101とトランスファー102とによって、油圧モータ101の出力と電動機25の出力とを合わせて車軸33に伝達する合力伝達部100が構成されている。尚、走行駆動装置のその他の構成は、第1の実施形態の場合と同じであり、同一部材には同一符号を付してその説明は省略する。
【0100】
そして、上記第7の実施形態においても、走行駆動装置の基本的な動作及び効果は、第1の実施形態の場合のそれと同じである。
【0101】
尚、本発明は上記第1ないし第7の実施形態に限定されるものではなく、その他種々の形態を包含するものである。例えば上記第1の実施形態では、エンジン回転数Nを検出するエンジン回転数検出手段42を設け、この検出手段42で検出したエンジン回転数Nからエンジン出力Pweを推定し、このエンジン出力Pweがエンジン出力設定値Pwe2より小さい場合エンジン出力Pweを発電機21にのみ配分し、エンジン出力Pweがエンジン出力設定値Pwe2以上の場合エンジン出力Pweを発電機21と油圧ポンプ11の両方に分配するようにしたが、本発明は、エンジン出力を、例えば出力トルクと回転数とを基に直接的に検出するエンジン出力検出手段を設け、この検出手段で検出したエンジン出力Pweの大きさに応じて、エンジン出力Pweの分配を制御するようにしてもよい。また、エンジン出力Pweとエンジン回転数Nとは相関関係があり、しかもエンジン回転数Nをガバナで制御する場合アクセル量とエンジン回転数Nとは相関関係を有するようになるため、エンジン回転数又はアクセル量を検出手段で検出し、その検出値が所定値より小さい場合エンジン出力Pweを発電機21にのみ分配し、検出値が所定値より大きい場合エンジン出力Pweを発電機21と油圧ポンプ11の両方に分配するようにしてもよい。
【0102】
さらに、エンジン出力Pweと走行負荷PwLとの間には、下記の式(9)に示す関係が成立する。
【0103】
wL=Pwe×η (9)
【0104】
但し、ηはアクチュエータ効率である。このように、エンジン出力Pweと走行負荷PwLとがほぼ比例関係にあるため、本発明は、エンジン出力Pweの代わりに、走行負荷PwLを検出あるいは推定する検出推定手段を設け、この検出推定手段で検出あるいは推定した走行負荷PwLの大きさに応じてエンジン出力Pweの分配制御を行うようにしてもよい。ここで、走行負荷PwLの推定方法としては、例えば下記の式(10)を用いればよい。
【0105】
wL={F+F+M(g×sinθ+a)}×V (10)
【0106】
但し、Fはタイヤの転がり抵抗、Fは空気抵抗、Mは車両質量、gは重力加速度、aは加速度、Vは車速、θは路面傾斜角である。式(10)より、車速V、加速度a及び路面傾斜角θをそれぞれ測定すれば走行負荷を推定することができる。
【0107】
加えて、上記第1の実施形態では、車両の減速時に電動機25を発電機として動作させ、回生電力をバッテリ22に充電するに当たり、その充電量が設定値以上の場合、発電機21を電動機として動作させ、エンジン1に正転トルクを与えることでエンジンブレーキにより回生電力を消費するようにしたが、本発明は、バッテリ22の充電量が設定値以上の場合、発電機21を電動機として動作させる代わりに、発電機21と電動機25との間に接続した回生抵抗器により回生電力を消費するように構成してもよい。また、バッテリ22の代わりに、キャパシタなどのその他の蓄電装置を用いてもよい。さらに、車両の減速時としては、上記第1の実施形態の如くアクセルペダル43の踏み込み量であるアクセル量が零のときに限らず、ブレーキペダルの踏み込み操作が入力された場合、その操作量つまりブレーキ操作量に応じて電動機25の発電量を増加させてもよい。この場合にはブレーキ操作量の増加に応じて回生電力を増加させることができる。
【符号の説明】
【0108】
1 エンジン
10,50 油圧式動力伝達部
11,51 油圧ポンプ
12,12a,12b,52 油圧モータ
20 電気式動力伝達部
21 発電機(電力供給源)
22 バッテリ(蓄電装置、電力供給源)
25,25a,25b 電動機
30,90 トランスファー(合力伝達部)
33,33a,33b 車軸
40 コントローラ(制御手段)
42 エンジン回転数検出手段
43 アクセルペダル
44 アクセル操作検出手段
71 クラッチ装置
81 減速機
91 切替機構
100 合力伝達部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動される油圧ポンプとこの油圧ポンプの吐出圧油により駆動される油圧モータとを有してなる油圧式動力伝達部と、
エンジンにより駆動される発電機、バッテリやキャパシタなどの蓄電装置又はその両方からなる電力供給源と、
この電力供給源から供給される電力により駆動される電動機と、
この電動機の出力と上記油圧式動力伝達部の油圧モータの出力とを合わせて車軸に伝達する合力伝達部とを備えたことを特徴とする作業車両の走行駆動装置。
【請求項2】
エンジン出力、エンジン回転数又はアクセル量を検出あるいは推定する検出推定手段と、
この検出推定手段からの信号を受け、エンジン出力、エンジン回転数又はアクセル量が所定値より小さい場合上記油圧式動力伝達部へ分配するエンジン出力を小さく若しくは零にすることで、主に電動機の出力により車軸を駆動し、エンジン出力、エンジン回転数又はアクセル量が所定値より大きい場合上記油圧式動力伝達部へ分配するエンジン出力を大きくし、電動機及び油圧式動力伝達部の両方の出力により車軸を駆動するように制御する制御手段とを備えた請求項1記載の作業車両の走行駆動装置。
【請求項3】
走行負荷を検出あるいは推定する検出推定手段と、
この検出推定手段からの信号を受け、走行負荷が所定値より小さい場合上記油圧式動力伝達部へ分配するエンジン出力を小さく若しくは零にすることで、主に電動機の出力により車軸を駆動し、走行負荷が所定値より大きい場合上記油圧式動力伝達部へ分配するエンジン出力を大きくし、電動機と油圧式動力伝達部の両方の出力により車軸を駆動するように制御する制御手段とを備えた請求項1記載の作業車両の走行駆動装置。
【請求項4】
上記電力供給源は、発電機と蓄電装置の両方からなり、
アクセルペダル又はブレーキペダルの操作を検出する操作検出手段を備えており、
上記制御手段は、この操作検出手段からの信号を受け、走行中にアクセルペダルの操作量が減少若しくは零になった場合、あるいは走行中にブレーキペダルが操作された場合に、上記電動機を発電機として動作させ、走行動力を電力回生するとともに、上記蓄電装置の充電量が設定値より低い場合には回生した電力を蓄電装置に充電し、上記蓄電装置の充電量が設定値より高い場合には回生した電力により上記発電機を電動機として動作させ、エンジンに正転トルクを与えることでエンジンブレーキにより回生電力を消費する制御を行うように設けられている請求項2又は3記載の作業車両の走行駆動装置。
【請求項5】
上記油圧式動力伝達部の油圧モータと合力伝達部との間に設けられたクラッチ装置を備えた請求項1ないし請求項4のいずれか一つに記載の作業車両の走行駆動装置。
【請求項6】
上記クラッチ装置は、上記油圧モータの回転数と合力伝達部の油圧モータ側入力回転数とが一致したとき自動的に接続状態となり、上記油圧モータの回転数が合力伝達部の油圧モータ側入力回転数より低下したとき自動的に切断状態となる回転数感応型のものである請求項5記載の作業車両の走行駆動装置。
【請求項7】
上記電動機と合力伝達部との間に設けられた減速機を備えた請求項1ないし請求項6のいずれか一つに記載の作業車両の走行駆動装置。
【請求項8】
上記合力伝達部は、減速比を変更可能な切替機構を有してなる請求項1ないし請求項7のいずれか一つに記載の作業車両の走行駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−98680(P2011−98680A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255739(P2009−255739)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(304020362)コベルコクレーン株式会社 (296)
【Fターム(参考)】