説明

六角棒状GaN系半導体結晶およびその製造方法

【課題】六角棒状GaN系半導体結晶の新規な製造方法を提供する。
【解決手段】GaN系半導体からなり、m面である表面を有する下地結晶10の前記表面上に、前記下地結晶10のc軸に沿って延びる複数のストライプ22を含むマスク20を形成する工程と、前記マスク22が形成された前記表面の上にGaN系半導体結晶30をエピタキシャル成長させる工程と、を含む六角棒状GaN系半導体結晶の製造方法において、GaN系半導体結晶30は下地結晶10の露出面15から成長し始め、マスク20と略同じ厚さのGaN系半導体結晶膜40がまず形成される。更にGaN系半導体結晶30を成長させ続けると、GaN系半導体結晶膜40の上に六角棒状GaN系半導体結晶30が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六角棒状GaN系半導体結晶およびその製造方法に関する。GaN系半導体は、一般式AlInGa1−a−bN(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦a+b≦1)で表される化合物半導体であり、窒化物半導体などとも呼ばれる。
【背景技術】
【0002】
六角棒状のGaN系半導体結晶を含む発光素子が提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
特許文献1に記載されたかかる発光素子の製造方法では、n型GaNからなる基板上に、成長穴を有するマスクを形成し、その成長穴に露出した基板表面からn型GaNを成長させて、基板表面に対して垂直方向に延びる六角棒状の結晶を得ている。六角棒の直径は、マスクの成長穴の径で定まる。特許文献1には、発光構造を備えた直径1μm、長さ20μmの六角棒状GaN系半導体結晶が記載されている。
【0004】
特許文献2には、六角棒形状を有する粒子状発光ダイオードを流動床法によって得る方法が開示されている。この方法によれば、アルミナ微粒子などの芯粒子の表面上に、AlGaNバッファー層、n型GaN層、活性層、p型GaN層を形成することによって粒子状発光ダイオードを得られるという。
【0005】
Alを含むGaN系半導体がKOH水溶液やKOH水溶液を含んだAZ400K現像液(クラリアント社製)によって容易にエッチングされることが知られている(非特許文献1、特許文献3)。また、SiC基板上にAlN層を介して形成されたGaN系半導体レーザ構造層を、AZ400K現像液でAlN層をエッチング除去することによってSiC基板から分離した例がある(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−86865号公報
【特許文献2】特開2010−87328号公報
【特許文献3】特開2007−115990号公報
【特許文献4】特開平9−307188号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S. J. Pearton, J. C.Zolper, R. J. Shul, and F. Ren, ”GaN: Processing, defects and devices”, J. Appl. Phys., vol. 86, p.1, 1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された方法では、GaN系半導体からなる六角棒状結晶の長手方向が結晶の成長方向であるので、その長さは、成長に要する時間を考慮すると、最大でも数十μmに制限されるであろう。特許文献2に記載された方法では、微粒子を芯粒子としてその表面に半導体結晶を成長させるので、やはり、その長さが制限されるであろう。よって、特許文献1、2に記載された方法は、十分に長い六角棒状のGaN系半導体結晶を得るためには不利である。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、六角棒状GaN系半導体結晶の新規な製造方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態には、下記(1)〜(3)に記載する六角棒状GaN系半導体結晶の製造方法が含まれる。
(1)GaN系半導体からなり、m面である表面を有する下地結晶の前記表面上に、前記下地結晶のc軸に沿って延びる複数のストライプを含むマスクを形成する工程と、前記マスクが形成された前記表面の上にGaN系半導体結晶をエピタキシャル成長させる工程と、を含む、六角棒状GaN系半導体結晶の製造方法。
(2)前記六角棒状GaN系半導体結晶の6つの側面がいずれもm面ファセットである、前記(1)に記載の製造方法。
(3)前記下地結晶が、GaN系半導体からなる自立m面単結晶基板、GaN系半導体からなるエピタキシャル成長層、または、バルク単結晶から切り出された薄いGaN系半導体層である、前記(1)または(2)に記載の製造方法。
【0011】
本発明の実施形態には、下記(4)〜(9)に記載する六角棒状GaN系半導体結晶が含まれる。
(4)長さが20μmを超える、六角棒状GaN系半導体結晶。
(5)アスペクト比が20を超える、六角棒状GaN系半導体結晶。
(6)6つの側面がいずれもm面ファセットである、前記(4)または(5)に記載の六角棒状GaN系半導体結晶。
(7)InGa1−xN(0≦x≦1)結晶である、前記(4)〜(6)のいずれかに記載の六角棒状GaN系半導体結晶。
(8)GaN系半導体からなり、m面である表面を有する下地結晶の前記表面上に、GaN系半導体結晶膜を介して連結された、前記(4)〜(7)のいずれかに記載の六角棒状GaN系半導体結晶。
(9)前記下地結晶が、GaN系半導体からなる自立m面単結晶基板、GaN系半導体からなるエピタキシャル成長層、または、バルク単結晶から切り出された薄いGaN系半導体層のいずれかである、前記(8)に記載の六角棒状GaN系半導体結晶。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、六角棒状GaN系半導体結晶の新規な製造方法が提供される。この方法によれば、長さ20μmを超える六角棒状GaN系半導体結晶や、アスペクト比が20を超える六角棒状GaN系半導体結晶を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】六角棒状GaN系半導体結晶の製造方法を例示する図。
【図2】下地結晶の上にマスクが形成された状態を模式的に示す斜視図。
【図3】六角棒状GaN系半導体結晶の形状を模式的に示す斜視図。
【図4】六角棒状GaN系半導体結晶の形状を模式的に示す図。
【図5】m面GaN基板上に形成された六角棒状GaN結晶のSEM像。
【図6】m面GaN基板上に形成された六角棒状GaN結晶のSEM像。
【図7】m面GaN基板上に形成された六角棒状GaN結晶のSEM像。
【図8】m面GaN基板上に形成された六角棒状GaN結晶のSEM像。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明をその実施形態を通して例示的に説明する。なお、添付図面において、m、c、aは、それぞれ六方晶であるGaN系半導体結晶のm軸、c軸、a軸を意味する。
【0015】
図3は、本発明の実施形態に係る製造方法により得ることができる六角棒状GaN系半導体結晶30の形状を模式的に示す斜視図である。図4は、図3に示す六角棒状GaN系半導体結晶30を図3における上方から見た図である。六角棒状GaN系半導体結晶30は、2つの端面39a、39bと6つの側面32〜37とを有する。六角棒状GaN系半導体結晶30の長手方向は当該結晶のc軸に平行であり、その6つの側面32〜37はいずれもm面ファセットである。六角棒状GaN系半導体結晶30の横断面(長手方向に直交する断面)の形状は正六角形であり得るが、それに限定されるものではない。
【0016】
六角棒状GaN系半導体結晶30の長さLは特に限定されないが、20μmあるいはそれを超える長さであり得る。該長さLは、100μm以上、1mm以上、更には10mm以上であり得る。
【0017】
六角棒状GaN系半導体結晶30の横断面の最大幅(六角形の最も長い対角線の長さ)に対する長さLの比であるアスペクト比は、20あるいはそれを超える値であり得る。該アスペクト比は50以上、100以上、200以上、更には500以上であり得る。
【0018】
以下、図1および図2を参照しながら、本発明の実施形態に係る、六角棒状GaN系半導体結晶30の製造方法を説明する。
【0019】
まず、図1(a)に示す工程では、GaN系半導体からなり、m面(10−10)である表面を有する下地結晶10を準備する。下地結晶10は、好ましくは、m面GaN基板のような、GaN系半導体からなる自立m面単結晶基板である。下地結晶10は、また、かかる基板の上に、MOVPE法、MBE法、スパッタ法、PLD(Pulsed Laser Deposition)法などの方法で形成された、GaN系半導体からなるエピタキシャル成長層であってもよい。下地結晶10は、また、m面6H−SiC基板、LiAlO基板、ストライプパターンが加工されたa面サファイア基板などの上に、ヘテロエピタキシャル成長により積層されたGaN系半導体層であってもよい。下地結晶10は、また、Si基板のような安価な基板の表面に接合された状態で供される、バルク単結晶から切り出された薄いGaN系半導体層であってもよい。
【0020】
ここで、下地結晶10の表面は、結晶学的に厳密に定義されるm面(10−10)に対して数度以内のオフ角を有してもよい。
【0021】
次いで、図1(b)に示す工程では、下地結晶10の表面にマスク20を形成する。マスク20は下地結晶10のc軸に沿ってそれぞれ延びた複数のストライプ22を含む。図2には、図1(b)に示す工程で形成されるマスク20が例示的に示されている。マスクMは、SiN、SiO、SiON、Wなどで構成し得る。隣り合うストライプ22間の距離、即ち、下地結晶10の露出面(結晶成長面)15のa軸方向における幅Uは、例えば、0.05μm〜10μmとすることができる。下地結晶10の露出面15上に成長する六角棒状GaN系半導体結晶30のa軸方向の幅は、該露出面15の幅Uよりも大きくなる。
【0022】
各ストライプ22のa軸方向における幅Mは、隣り合う露出面15上にそれぞれ成長する六角棒状GaN系半導体結晶30同士が干渉しないように定める必要がある。幅Mを小さくする程、ひとつの下地結晶10上に多数の六角棒状GaN系半導体結晶30を成長させることができる。幅Mあるいは幅Uは全て同じとすることができるが、必須ではない。
【0023】
マスク20の厚さは、例えば、0.05μm〜1μmであり、好ましくは0.05μm〜0.2μmである。各ストライプ22の長さは、製造するべき六角棒状GaN系半導体結晶30の長さに応じて決定し得る。マスク20のパターニングはフォトリソグラフィ技法を用いて行うことができる。露光用光源の短波長化、露光装置の進歩によって、線幅100nm未満のストライプパターンをフォトリソグラフィで形成することが可能となっている。
【0024】
次いで、図1(c)に示す工程では、常圧MOVPE法を用いて、マスク20が形成された下地結晶10の上にGaN系半導体をエピタキシャル成長させる。キャリアガスには窒素ガスを用い、成長温度を約1000℃、成長炉内に供給するV族元素(NHガス等によって供給されるN)とIII族元素(TMG、TMA、TMI等によって供給されるGa、Al、In)とのモル比(V−III比)を1500程度に設定する。GaN系半導体は下地結晶10の露出面15から成長し始め、マスク22と略同じ厚さのGaN系半導体結晶膜40がまず形成される。更にGaN系半導体を成長させ続けると、GaN系半導体結晶膜40の上に六角棒状GaN系半導体結晶30が形成される。
【0025】
上記方法を用いて作製したm面GaN基板上の六角棒状GaN結晶のSEM(走査型電子顕微鏡)像を図5〜8に示す。作製にあたっては、厚さ80nmのSiN膜をマスクとして使用し、ストライプのa軸方向の幅は10μm、隣り合うストライプ間の距離は2μmとした。常圧MOVPEによるGaN成長の際には、キャリアガスに窒素ガス、III族原料にトリメチルガリウム(TMG)、V族原料にアンモニアを使用し、成長温度は1030℃、アンモニア流量は7.5SLM(Standard Litter per Minute)、V−III比は1500、成長時間は180分間とした。この成長時間は、マスクを設けないm面GaN基板上に同じ条件で平坦な層状のGaN結晶を約4μm成長させるのに要する時間と同じである。GaN成長中は10RPMで基板を回転させた。GaNの意図的なドーピングは行わなかった。
【0026】
図5は平面像であり、m面GaN基板のc軸に平行な棒状の結晶が、該基板の表面に多数形成されていることが判る。図6は断面像で、棒状の結晶の断面が六角形であることが判る。
【0027】
六角棒状GaN結晶は基板の略全面で整然と形成されており、例外的に構造が乱れていたのは、意図しない異物が付着していた部分であった。この例外的な部分を除けば、基板上に形成された全ての六角棒の長さは、該基板のc軸方向のサイズと略同じ約7.5mmであった。六角棒状GaN結晶の断面の最大幅(六角形の最も長い対角線の長さ)が約10μmだったので、六角棒状結晶の幅に対する長さの比は700以上であった。
【0028】
より高倍率の平面像である図7、より高倍率の断面像である図8が示すように、六角棒状GaN結晶の側面は極めて平坦性が高く、かつ、滑らかであった。このことと、隣接する側面同士がなす角が120度であったことから、六角棒状結晶の側面はm面ファセットであると考えられた。CL(カソードルミネッセンス)像に現れるダークスポットの数から六角棒状結晶の側面の貫通転位密度を見積もったところ、10cm−2のオーダーであり、m面GaN基板表面の貫通転位密度より一桁低かった。
【0029】
なお、マスクのストライプ方法をm面GaN基板のa軸に平行に設けた場合にも、同様にGaNを成長させることによって、棒状結晶が形成された。しかし、その棒状結晶は断面が六角形ではなく、しかも、側面の平坦性が極めて悪く、棒の太さが長手方向に沿って大きく変動していた。また、マスクのストライプ方向をm面GaN基板のc軸に平行とした場合であっても、キャリアガスに水素ガスを使用するとともに、V−III比を2700とすると、極端な3次元成長が起こり、棒状のGaN結晶は形成されなかった。
【0030】
図1(c)に示す構造に含まれる六角棒状GaN系半導体結晶30は、下地結晶10の表面に結合されたままで、発光素子、受光素子、光起電力素子のような光半導体素子のコアとして用いることができる。これらの素子を作製するには、六角棒状GaN系半導体結晶30の露出した側面上にエピタキシャル成長によってn型GaN系半導体層とp型GaN系半導体層を順次積層し、pn接合構造を形成すればよい。
【0031】
また、図1(c)に示す構造から六角棒状GaN系半導体結晶30のみを取り出すことが可能である。それには、六角棒状GaN系半導体結晶30とGaN系半導体結晶膜40を組成の異なるGaN系半導体で形成したうえで、後者を選択的にエッチング除去することにより、六角棒状GaN系半導体結晶30を下地結晶10から分離させればよい。
【0032】
例えば、六角棒状GaN系半導体結晶30をInx1Ga1−x1N(0≦x1≦1)、GaN系半導体結晶膜40をAlx2Iny2Ga1−x2−y2N(0<x2≦1、0≦y2<1)で形成すると、KOH水溶液もしくはKOH水溶液を含んだAZ400K現像液(クラリアント社製)をエッチャントとするウェットエッチングによりGaN系半導体結晶膜40を選択的にエッチングして、六角棒状GaN系半導体結晶30を下地結晶10から分離することができる。
【0033】
単離された六角棒状GaN系半導体結晶30は、発光素子、受光素子、光起電力素子その他各種の半導体素子のコアとして使用することができる。例えば、特許文献2に開示された「流動床法」を用いて、単離された六角棒状GaN系半導体結晶30の表面に各種のGaN系半導体層をエピタキシャル成長させて、粒子状の半導体素子を構成することができる。
【0034】
単離された六角棒状GaN系半導体結晶30は、また、気相法、液相法、あるいはアモノサーマル法のようなソルボサーマル法によってバルクGaN系半導体結晶を製造する際の種結晶として使用することができる。
【符号の説明】
【0035】
10 下地結晶
20 マスク
30 六角棒状GaN系半導体結晶
40 GaN系半導体結晶膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GaN系半導体からなり、m面である表面を有する下地結晶の前記表面上に、前記下地結晶のc軸に沿って延びる複数のストライプを含むマスクを形成する工程と、
前記マスクが形成された前記表面の上にGaN系半導体結晶をエピタキシャル成長させる工程と、
を含む、六角棒状GaN系半導体結晶の製造方法。
【請求項2】
前記六角棒状GaN系半導体結晶の6つの側面がいずれもm面ファセットである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記下地結晶が、GaN系半導体からなる自立m面単結晶基板、GaN系半導体からなるエピタキシャル成長層、または、バルク単結晶から切り出された薄いGaN系半導体層である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
長さが20μmを超える、六角棒状GaN系半導体結晶。
【請求項5】
アスペクト比が20を超える、六角棒状GaN系半導体結晶。
【請求項6】
6つの側面がいずれもm面ファセットである、請求項4または5に記載の六角棒状GaN系半導体結晶。
【請求項7】
InGa1−xN(0≦x≦1)結晶である、請求項4〜6のいずれか一項に記載の六角棒状GaN系半導体結晶。
【請求項8】
GaN系半導体からなり、m面である表面を有する下地結晶の前記表面上に、GaN系半導体結晶膜を介して連結された、請求項4〜7のいずれか一項に記載の六角棒状GaN系半導体結晶。
【請求項9】
前記下地結晶が、GaN系半導体からなる自立m面単結晶基板、GaN系半導体からなるエピタキシャル成長層、または、バルク単結晶から切り出された薄いGaN系半導体層のいずれかである、請求項8に記載の六角棒状GaN系半導体結晶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−35711(P2013−35711A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172310(P2011−172310)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】