説明

内燃機関の制御装置

【課題】アルコールを含む燃料が使用される内燃機関において、始動時に燃料を適度に気化させることのできる制御装置を提供する。
【解決手段】電子制御装置70は、内燃機関10の始動開始時に吸気通路12に設けられるスロットルバルブ14の開度をアイドル運転状態に対応する開度よりも小さい所定開度に制御する。所定開度は、始動開始時の冷却水温と燃料のアルコール濃度とに基づいて設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の始動時においてスロットルバルブの開度を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の低温始動時には、噴射された燃料が十分に気化せず実際に燃焼に寄与する燃料が不足することがあるため、これにより燃焼室における燃焼状態が悪化することがある。
【0003】
そこで例えば特許文献1に記載の筒内噴射式の内燃機関では、機関始動時にスロットルバルブの開度をアイドル運転状態の目標開度よりも閉弁側に設定することによってシリンダ内を低圧に保持し、これにより燃料噴射圧とシリンダ内圧との差圧を大きくすることによって燃料の気化を促進するようにしている。
【特許文献1】特開2001−303987号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで近年、アルコールとガソリンとを混合したアルコール混合燃料などアルコールを含む燃料を使用可能な内燃機関が実用化されつつある。ここで図4にエタノール及びガソリンの蒸留特性(留出率)を示すが、ガソリンは複数の炭化水素が混合されてなるため、線Aに示すように温度が高くなるにつれて留出率が漸次上昇する一方、エタノールは、線Bに示すように温度がエタノールの沸点(1気圧において78℃)未満においてはほとんど留出せず、沸点を超えると急激に留出するという特性を有している。
【0005】
そのためアルコールを含む燃料を用いる場合には以下の問題が生じる。すなわち、例えばポート噴射式の内燃機関ではインジェクタによって噴射される燃料が吸気ポートに付着することがあり、アルコールの沸点を超えるような高温状態で内燃機関が始動される場合には、インジェクタから噴射された燃料に加えてポートに付着している燃料も一気に揮発するため、空気と燃料との重量比である空燃比がリッチとなることがある。また低温時にはアルコールはガソリンよりも気化しにくいため、低温始動時にスロットルバルブの開度をガソリンのみの燃料を用いた場合と同様の開度に設定してもアルコールを含む燃料を十分に気化させることができない場合があり、空燃比がリーンになるといった事態が生じうる。このような問題は、燃料のアルコール濃度が高いほど顕著になる。したがってアルコールを含む燃料を用いる内燃機関では、始動時のスロットルバルブの開度を単にアイドル運転状態の開度よりも小さく制御するようにしても燃料を適度に気化させることができない。
【0006】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、アルコールを含む燃料が使用される内燃機関において、始動時に燃料を適度に気化させることのできる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、アルコールを含む燃料を使用可能な内燃機関に適用され、同機関の始動開始時に吸気通路に設けられるスロットルバルブの開度をアイドル運転状態に対応するスロットルバルブの開度よりも小さい所定開度に制御する制御装置であって、前記所定開度は、前記始動開始時における機関温度と前記燃料のアルコール濃度とに基づいて設定されることを要旨とする。
【0008】
上記構成では、始動開始時のスロットルバルブの開度は機関温度と燃料のアルコール濃度とに基づいて設定される。したがって、アルコールの蒸留特性、及びこの蒸留特性が燃料全体の気化特性に及ぼす影響が燃料のアルコール濃度が高いほど大きくなるといったことを考慮した上で始動開始時のスロットルバルブの開度を設定することができる。このようにしてスロットルバルブの開度を適切に設定することができるため、吸気通路やシリンダ内の圧力を適切な値とすることができ、ポートや燃焼室に付着している燃料までもが急激に揮発して混合気の空燃比が過度にリッチになったり、燃料の気化が好適に促進されずに空燃比が過度にリーンになったりすることを抑制することができる。すなわち、機関始動時において燃料を適度に気化させることができるため、燃焼室における混合気の燃焼状態を適切な状態とすることができる。
【0009】
具体的には請求項2に記載の発明によるように、前記機関温度がアルコールの沸点近傍の所定温度以上であるときには、前記燃料のアルコール濃度が高いほど前記所定開度を大きく設定し、前記機関温度がアルコールの沸点近傍の所定温度未満であるときには、前記燃料のアルコール濃度が高いほど前記所定開度を小さく設定するといった態様を採用することができる。
【0010】
アルコールは、アルコールの沸点未満の温度ではほとんど気化しないものの、沸点を超えると急激に気化するという蒸留特性を有している。そして燃料のアルコール濃度が高いほど燃料全体に対するアルコールの蒸留特性の影響が大きくなるため、アルコール濃度が高い燃料が使用される場合には、機関温度がアルコールの沸点を超えると燃料が著しく気化しやすくなり、機関温度がアルコールの沸点未満では燃料が著しく気化しにくくなる。
【0011】
この点、上記構成によれば、機関温度がアルコールの沸点近傍の所定温度以上であるときには、燃料のアルコール濃度が高いほどスロットルバルブの開度が大きく設定されるため、燃料が過度に気化することを抑制することができるとともに、機関温度がアルコールの沸点近傍の所定温度未満では燃料のアルコール濃度が高いほどスロットルバルブの開度が小さく設定されるため、燃料の気化を好適に促進することができる。このようにしてスロットルバルブの開度を適切に設定することができ、燃料を適度に気化させることができるため、空燃比が過度にリッチになったりリーンになったりすることを抑制して燃焼状態を適切な状態とすることができる。
【0012】
なお、燃料のアルコール濃度が高いほど上記所定開度を大きくする下限の温度である上記所定温度と同所定開度を小さくする上限の温度である上記所定温度とは、同じ温度であってもよいし異なる温度であってもよい。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記所定温度は大気圧が高いほど高く設定されることを要旨とする。
上記構成によれば、アルコールの沸点は大気圧が高いほど高くなるといった大気圧によるアルコールの沸点の変動を考慮した上でスロットルバルブの開度を適切に設定することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れかに記載の発明において、前記内燃機関では、前記吸気通路に前記燃料が噴射されることを要旨とする。
上記内燃機関においてアルコールが高濃度で含まれる燃料を用いた場合、低温始動時には燃料が非常に気化しにくくなり、噴射された燃料が吸気通路に付着して燃焼室に到達しにくくなるため、空燃比が過度にリーンになるといった事態が生じうる。また、燃料が筒内に噴射されて筒内に付着する場合と吸気通路に噴射されて吸気通路に付着する場合とを比較すると、吸気通路に付着した燃料のほうが筒内に付着した燃料よりも残留し易いため、高温始動時には吸気通路に付着している燃料が一気に揮発して空燃比が過度にリッチになる可能性が高い。
【0015】
この点、上記構成によれば、吸気通路に燃料が噴射される内燃機関において始動時に燃料を適度に気化させることができるため、空燃比を適切に維持して燃焼状態を適切な状態とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を車載内燃機関の制御装置に具体化した一実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る制御装置が適用される内燃機関及びその周辺機構を示す模式図である。
【0017】
図1に示すように、内燃機関10は、各気筒11に形成される燃焼室18と、燃焼室18に吸入空気を送り込む吸気通路12と、燃焼室18での燃焼により生じた排気が排出される排気通路13とを備えている。
【0018】
吸気通路12にはスロットルバルブ14が設けられており、このスロットルバルブ14がスロットルモータ16の駆動制御を通じて開度調整がなされることにより燃焼室18に吸入される空気の量が調整される。また吸気通路12には、吸気ポートに燃料を噴射するインジェクタ15が設けられている。本実施形態の内燃機関10は、アルコール燃料(エタノール)のみ、ガソリン燃料のみ、あるいはアルコール燃料(エタノール)とガソリン燃料とが任意の割合で混合された混合燃料も燃料として使用可能であり、このインジェクタ15から任意のアルコール濃度の燃料が噴射される。さらに吸気通路12には、この吸気通路12を通過して燃焼室18に吸入される空気の量を検出するためのエアフロメータ52、吸入空気の温度を測定する吸気温センサ50が設けられている。
【0019】
各気筒11には、燃焼室18を望むように点火プラグ17が配設されている。内燃機関10においては、吸気通路12を流れた吸入空気とインジェクタ15により噴射された燃料との混合気が燃焼室18に供給されると、この点火プラグ17からの火花放電により混合気に点火がなされて同混合気が燃焼する。そして、混合気の燃焼のエネルギーによってピストン26が往復移動して、クランクシャフト20が回転し、燃焼後の混合気は排気として燃焼室18から排気通路13に送り出される。
【0020】
内燃機関10において、燃焼室18と吸気通路12との間は吸気バルブ30の開閉動作によって連通・遮断され、燃焼室18と排気通路13との間は排気バルブ32の開閉動作によって連通・遮断される。
【0021】
こうした内燃機関10の各種制御は、車両に搭載された電子制御装置70によって行われる。電子制御装置70は、内燃機関10の制御にかかる演算処理を実行するCPU、その制御に必要なプログラムやデータの記憶されたROM、CPUの演算結果が一時的に記憶されるRAM、外部との間で信号を入・出力するための入・出力ポート等を備えて構成されている。
【0022】
電子制御装置70の入力ポートには、各種センサの検出信号等が入力される。各種センサとしては上記エアフロメータ52、上記吸気温センサ50、機関温度として内燃機関10の冷却水温を検出するための水温センサ54、及びアクセル操作量を検出するアクセルセンサ56が挙げられる。また各種センサとしては機関回転速度の算出等のためにクランクシャフト20の回転信号を出力するクランクポジションセンサ55、及びスロットルバルブ14の開度を検出するスロットルポジションセンサ51、排気通路13を流れる排気中の酸素及び未燃燃料の濃度に応じた信号を出力する空燃比センサ57等が挙げられる。さらに電子制御装置70の入力ポートには、車両の運転者により切り換え操作されて現在の操作位置に対応した信号を出力するイグニッションスイッチ58が接続されている。また電子制御装置70の出力ポートには、スロットルモータ16、インジェクタ15及び点火プラグ17などの駆動回路が接続されている。
【0023】
電子制御装置70は、入力ポートに入力される各種センサの検出信号等に基づいて機関運転状態を把握し、その把握した機関運転状態に応じて出力ポートに接続された各種駆動回路に指令信号を出力する。こうしてスロットルバルブ14の開度制御、インジェクタ15による燃料噴射量の制御、点火プラグ17の点火時期の制御等が電子制御装置70を通じて実施される。また本実施形態では、燃焼室18に供給される空気と燃料との重量比である空燃比を理論空燃比とすべく、インジェクタ15から噴射される燃料の量が空燃比センサ57によって検出される排気中の酸素濃度及び未燃燃料の濃度に基づいて制御される。なおアルコール(エタノール)の理論空燃比は約「9」であり、ガソリンの理論空燃比は約「14.7」であることから、燃料のアルコール濃度が高くなるほど理論空燃比は小さくなる。したがって本実施形態では、電子制御装置70が、空燃比センサ57の検出信号に基づいて燃料の理論空燃比を導出するとともに、導出される理論空燃比に基づいて燃料のアルコール濃度を推定するようにしている。
【0024】
また本実施形態では、電子制御装置70が内燃機関10の制御装置として、同機関10の始動開始時におけるスロットルバルブ14の初期開度をアイドル運転状態に対応する開度Oiよりも小さい所定開度となるように制御することにより、始動開始時の吸気負圧を適切に制御して燃料を適度に気化させるようにしている。なおこの制御は、アイドル運転状態に対応する開度Oiよりもスロットルバルブを閉じる開度であるため、以下この制御を始動時閉じ込み制御という。
【0025】
ところで本実施形態の内燃機関10は、アルコールを任意の濃度で含む燃料を使用可能な構成となっている。したがってスロットルバルブ14の始動時閉じ込み制御を行うにあたり、スロットルバルブ14の初期開度を単にアイドル運転状態の開度よりも小さく設定しても燃料が適度に気化しない場合があり、そのような場合、空燃比を理論空燃比とすべく燃料噴射量を制御しているにも拘わらず、空燃比が過度にリッチになったりリーンになったりする虞がある。
【0026】
すなわち図4に示すように、ガソリンは線Aに示すように温度が高くなるにつれて留出率が漸次上昇する一方、エタノールは、線Bに示すように温度がエタノールの沸点(1気圧において78℃)未満においてはほとんど留出せず、沸点を超えると急激に留出するという特性を有している。そして燃料のアルコール濃度が高いと、このアルコールの蒸留特性が燃料全体の気化特性に及ぼす影響が大きくなる。したがって燃料のアルコール濃度が高い場合にスロットルバルブ14の初期開度が適切に設定されていないと、アルコールの沸点未満の低温始動時には燃料が過度に気化しにくくなるため空燃比が過度にリーンとなり、アルコールの沸点以上の高温始動時には燃料が過度に気化しやすくなるため、空燃比が過度にリッチとなる虞がある。
【0027】
さらに本実施形態の内燃機関10では、インジェクタ15が燃料を吸気通路12に噴射するようにしている。したがって低温始動時には噴射された燃料が吸気通路12に付着して燃焼室18に到達しにくくなり、空燃比がよりリーンになりやすい。また燃料が燃焼室18内に噴射されて燃焼室18の壁面に付着する場合と吸気通路12に噴射されて吸気通路12に付着する場合とを比較すると、吸気通路12に付着した燃料のほうが燃焼室18内に付着した燃料よりも残留し易いため、高温始動時には吸気通路12に付着している燃料が急激に気化して空燃比がリッチになる可能性が高い。
【0028】
そこで本実施形態では、電子制御装置70が、スロットルバルブ14の始動時閉じ込み制御を実行するにあたり、スロットルバルブ14の初期開度を機関温度、アルコール濃度及び大気圧に基づいた所定開度に制御することにより、燃料を適度に気化させるようにしている。以下、電子制御装置70によって実行されるスロットルバルブ14の始動時の閉じ込み制御を図2及び図3に基づいて説明する。
【0029】
図2は、始動時閉じ込み制御の実行手順を示すフローチャートである。なおこの制御は、実際には内燃機関10の運転中において所定周期毎に行われる。
図2に示すように、始動時閉じ込み制御が開始されると、まずステップS11においてイグニッションスイッチがオン状態であるか否かが判定される。そしてイグニッションスイッチがオフ状態であれば内燃機関10は運転停止状態であるためエンドに移り、本処理を一旦終了する。一方イグニッションスイッチ58がオン状態であると判定されると、ステップS12に移り、前回の制御においてイグニッションスイッチ58がオン状態であったか否かが判定される。イグニッションスイッチ58がオン状態であったと判定されると既に始動時のスロットルバルブ14の閉じ込み制御が実行されているため、エンドに移り本処理を一旦終了する。一方、前回の制御においてイグニッションスイッチがオフ状態であったと判定されると、現在は内燃機関10の始動開始時であるため、スロットルバルブ14の初期開度を制御すべくステップS13に移る。
【0030】
ステップS13では、冷却水温の検出、アルコール濃度の推定及び大気圧の算出が行われる。なお冷却水温は水温センサ54により検出され、アルコール濃度は空燃比センサ57の検出結果から導出される理論空燃比に基づいて推定される。また大気圧はスロットルポジションセンサ51により検出されるスロットルバルブ14の開度とエアフロメータ52により検出される吸気流量から求められる。すなわち、スロットルバルブ14の開度が同じでも、大気圧が高い場合には吸気流量が多くなるため、吸気流量及びスロットルバルブ14の開度とから大気圧を算出することができる。
【0031】
そしてステップS14では、スロットルバルブ14の初期開度がステップS13において導出された冷却水温、アルコール濃度及び大気圧に基づいて設定される所定開度となるように制御する。具体的には、図3に示すマップに基づいてスロットルバルブ14の初期開度が設定される。すなわち図3(a)は大気圧P1におけるスロットルバルブ14の初期開度の設定態様を示すマップであり、(b)は大気圧P1よりも低い大気圧P2におけるスロットルバルブ14の初期開度の設定態様を示すマップである。この図3(a)及び(b)において、冷却水温T1及びT2は各大気圧におけるアルコールの沸点を示している。
【0032】
図3(a)では、領域Aにおいてスロットルバルブ14の初期開度が最も小さい所定開度Oaに設定され、領域B,領域C,領域D及び領域Eの順にスロットルバルブ14の初期開度が所定開度Ob,Oc,Od,Oeと大きく設定され、領域Fではスロットルバルブ14の初期開度がアイドル運転状態に対応する開度Oi未満で且つ最大の所定開度Ofに設定される。すなわち、冷却水温がアルコールの沸点T1よりも低く燃料のアルコール濃度が高い領域Aでは、燃料が非常に気化しにくいため、燃料の気化を促進すべくスロットルバルブ14の初期開度が小さい開度Oaに設定される。そして、アルコールの沸点T1未満の領域においては燃料中のアルコール濃度が低くなるほど燃料は気化しやすくなり、冷却水温が高くなるほど燃料が気化しやすくなるため、領域B及び領域Cの順にスロットルバルブ14の初期開度が開度Ob,Ocと大きく設定される。
【0033】
またアルコールの沸点T1以上では燃料中のアルコールはほとんど気化するため、冷却水温T1が変化しても燃料中のアルコールの気化状態はさほど変化しないが、ガソリンは冷却水温が高くなるほど気化しやすくなる。したがって冷却水温がアルコールの沸点T1以上の領域においては、燃料のアルコール濃度が高くなるほど、すなわち燃料中のガソリンが少ないほど燃料が気化しやすいことから、領域D及び領域Eの順にスロットルバルブ14の初期開度を開度Od,Ofと大きく設定する。またアルコール濃度が高く冷却水温がアルコールの沸点T1よりも高い領域Fでは、燃料が非常に気化しやすいためスロットルバルブ14の初期開度を大きい開度Ofに設定して燃料が過度に気化することを抑制し、空燃比が過度にリッチになることを抑制する。
【0034】
また図3(b)では、図3(a)と同様にして領域A’においてスロットルバルブ14の初期開度が最も小さく、領域B’、領域C’、領域D’及び領域E’の順にスロットルバルブ14の初期開度が大きくなり、領域F’においてスロットルバルブ14の開度が最大の開度に設定される。なお図3(b)は、図3(a)に示す大気圧P1よりも低い大気圧P2におけるマップであり、アルコールの沸点が図3(a)に示す温度T1よりも低い温度T2となる。したがって図3(a)では冷却水温T1を境界としてスロットルバルブ14の開度設定がなされたことに対し、図3(b)に示す大気圧P2においては冷却水温T2を境界として各領域が設定される。このように大気圧が変化するとアルコールの沸点が変化するため、本実施形態では、スロットルバルブ14の初期開度を設定するマップが各大気圧において設定されている。
【0035】
したがってステップS14では、ステップS13において求められた大気圧に対応するマップを選択し、そのマップにステップS13において求められた冷却水温及びアルコール濃度を適用することによりスロットルバルブ14の初期開度が所定開度に設定され、スロットルバルブ14の初期開度がこの所定開度となるように制御される。
【0036】
すなわち大気圧が例えば圧力P1であるときには図3(a)のマップを用い、始動開始時の冷却水温が低温であって燃料のアルコール濃度が90%程度と高い場合(点a)には、領域Aにあるとしてスロットルバルブ14の初期開度が小さい開度Oaに設定される。また大気圧は同じ圧力P1であっても、暖機後に機関温度がさほど低下しないまま再始動されて始動開始時に比較的高い温度T3(T1>T3>T2)である場合(点b)には、領域Bにあるとしてスロットルバルブ14の初期開度が開度Obに設定される。またアルコール濃度が90%程度の同じ燃料を用い且つ暖機後に再始動時がなされて冷却水温が温度T3である場合でも、大気圧が圧力P2であれば図3(b)のマップが用いられ、領域E’にある(点e)としてスロットルバルブ14の初期開度が比較的大きい所定開度に設定される。このようにして内燃機関10のスロットルバルブ14の初期開度が適切な開度に制御され、同始動開始時に燃料が適度に気化する。
【0037】
その後ステップS15に移り、クランクポジションセンサ55の出力に基づいて検出される機関回転数が所定回転数以上となったか否かが判定される。なおこの所定回転数は、例えば内燃機関10が自立運転可能と判断できる基準となる回転数に設定されている。そして機関回転数が所定回転数未満であるときにはステップS15における判定が繰り返され、機関回転数が所定回転数以上となるとステップS16に移り、スロットルバルブ14を初期開度から徐々に開き始める。すなわち内燃機関10が自立運転可能となって機関始動が適切になされたと判断できると、スロットルバルブ14の閉じ込みを終了しアイドル運転状態に対応した開度Oiとする。なおステップS15では、機関回転数が所定回転数以上であるか否かを判定することに代わり、イグニッションスイッチ58がオフ状態からオン状態に変化してから所定時間が経過しているか否かを判定するようにしてもよい。
【0038】
そしてステップS17に移り、スロットルポジションセンサ51により検出されるスロットルバルブ14の開度がアイドル運転状態に対応した開度Oiか否かを判定する。そしてスロットルバルブ14の開度がアイドル運転状態に対応する開度Oi以上となるまでステップS17の判定が繰り返され、ステップS17においてスロットルバルブ14の開度がアイドル運転に対応した開度Oiとなると、エンドに移り本処理を終了する。
【0039】
このようにして本実施形態では、始動開始時におけるスロットルバルブ14の初期開度を冷却水温、アルコール濃度及び大気圧に基づいて設定される所定開度となるように制御するようにしている。したがってアルコールの蒸留特性及びこの蒸留特性が燃料全体の気化特性に及ぼす影響が燃料のアルコール濃度が高いほど大きいといったことを考慮した上で始動開始時のスロットルバルブ14の初期開度を制御することができるため、機関始動時において燃料を適度に気化させて、燃焼室における混合気の空燃比を適切な空燃比とすることができる。
【0040】
以上詳述した上記実施形態では、以下の作用効果を奏することができる。
(1)本実施形態の電子制御装置70は、内燃機関10の始動開始時にスロットルバルブ14の開度をアイドル運転状態に対応する開度Oiよりも小さい所定開度に制御し、この所定開度を始動開始時の冷却水温とアルコール濃度とに基づいて設定するようにしている。したがって、アルコールの蒸留特性、及びこの蒸留特性が燃料全体の気化特性に及ぼす影響が燃料のアルコール濃度が高いほど大きくなるといったことを考慮した上で始動開始時のスロットルバルブ14の開度を制御することができる。このようにしてスロットルバルブ14の開度を適切な開度に制御して吸気負圧を適切な圧力とすることができるため、吸気ポートに付着している燃料までもが一気に揮発して混合気の空燃比が過度にリッチになったり、燃料の気化が好適に促進されずに空燃比が過度にリーンになったりすることを抑制することができる。すなわち、内燃機関10の始動開始時において燃料を適度に気化させることができるため、燃焼室18における混合気の燃焼状態を適切な状態とすることができる。
【0041】
(2)本実施形態の電子制御装置70は、冷却水温がアルコールの沸点以上であるときには、燃料のアルコール濃度が高いほどスロットルバルブ14の初期開度を大きく設定し、冷却水温がアルコールの沸点未満であるときには、燃料のアルコール濃度が高いほどスロットルバルブ14の初期開度を小さく設定するようにしている。ここでアルコールは、アルコールの沸点未満の温度ではほとんど気化しないものの、沸点を超えると急激に気化するという蒸留特性を有している。そして燃料のアルコール濃度が高いほど燃料全体に対するアルコールの蒸留特性の影響が大きくなるため、アルコール濃度が高い燃料が使用される場合には、機関温度がアルコールの沸点を超えると燃料が著しく気化しやすくなり、機関温度がアルコールの沸点未満では燃料が著しく気化しにくくなる。
【0042】
この点、本実施形態によれば、冷却水温がアルコールの沸点以上にあるときには、燃料のアルコール濃度が高いほどスロットルバルブ14の初期開度が大きく設定されて吸気通路12の負圧の度合が小さくなるように制御されるため、燃料が過度に気化することを抑制することができる。一方、冷却水温がアルコールの沸点未満にあるときには、燃料のアルコール濃度が高いほどスロットルバルブ14の開度が小さく設定されて吸気通路12の負圧の度合が大きくなるように制御されるため、燃料の気化を好適に促進することができる。このようにしてスロットルバルブ14の開度を適切に設定することができるため、燃料を適度に気化させることができ、空燃比が過度にリッチになったりリーンになったりすることを抑制することができ、燃焼状態を適切な状態とすることができる。
【0043】
(3)本実施形態の電子制御装置70は、冷却水温とアルコール濃度とからスロットルバルブ14の初期開度を設定するマップを大気圧毎に有している。そして、各マップでは、アルコールの沸点を境界として、同沸点以上ではアルコール濃度が高いほどスロットルバルブ14の初期開度を大きく設定し、同沸点未満ではアルコール濃度が高いほどスロットルバルブ14の初期開度が小さくなるように設定される。したがって大気圧が高いほどアルコールの沸点が高いといったことを考慮した上でスロットルバルブ14の初期開度を適切に設定することができる。
【0044】
(4)本実施形態の内燃機関10では、インジェクタ15が燃料を吸気通路12に噴射するようにしている。ここで低温始動時には、燃料が気化しにくくなるため、内燃機関10においてアルコールが高濃度で含まれる燃料を用いると燃料がより気化しにくくなって噴射された燃料が吸気通路12に付着して燃焼室18に到達しにくくなるため、空燃比が過度にリーンになるといった事態が生じうる。また、燃料が燃焼室18内に噴射されて燃焼室18内に付着する場合と吸気通路12に噴射されて吸気通路12に付着する場合とを比較すると、吸気通路12に付着した燃料のほうが燃焼室18に付着した燃料よりも残留し易いため、高温始動時には吸気通路12に付着している燃料が急激に揮発して空燃比が過度にリッチになる可能性が高い。この点、本実施形態では、吸気ポートに燃料が噴射される内燃機関10においてスロットルバルブ14の初期開度を上記態様で設定するため、始動開始時に燃料を適度に気化させることができ、空燃比を適切に維持して燃焼状態を適切な状態とすることができる。
【0045】
なお上記実施形態は以下のように適宜変更してもよい。
・上記実施形態の内燃機関10では、吸気通路12に燃料を噴射するようにしていたが、燃焼室内に燃料を噴射する筒内噴射式の内燃機関10に本発明の制御装置を適用するようにしてもよい。すなわち、筒内噴射式の内燃機関であっても、使用される燃料のアルコール濃度が高い場合には、低温始動時に燃料が非常に気化しにくくなり、高温始動時には燃焼室内壁に付着した燃料が過剰に気化することがある。そのため筒内噴射式の内燃機関に本発明の制御装置を適用することにより、機関始動時に燃料を適度に気化させるといった効果を得ることができる。
【0046】
・上記各実施形態では、燃料のアルコール濃度を空燃比センサにより検出された空燃比に基づいて推定し、大気圧をスロットルバルブ14の開度と吸気流量から算出するようにしている。しかしながら、これらの導出方法は特に限定されない。例えば、燃料タンクやタンクからインジェクタまでの燃料パイプに燃料のアルコール濃度を直接検出するアルコール濃度センサを設け、燃料のアルコール濃度を同アルコール濃度センサにより導出するようにしてもよい。また大気圧を、スロットルバルブ14の開度と吸気流量とにより算出するにあたり、吸気温センサ50により検出される吸気温度で補正するようにしてもよい。また大気圧についても、圧力センサにより大気圧を直接検出するようにしてもよい。
【0047】
・上記各実施形態では、大気圧毎に冷却水温とアルコール濃度とからスロットルバルブ14の初期開度を設定するマップが設けられていたが、マップを用いることなく演算等によりスロットルバルブ14の初期開度を設定するようにしてもよい。また大気圧を考慮することなく、冷却水温とアルコール濃度のみからスロットルバルブ14の初期開度を設定するようにしてもよい。
【0048】
・上記各実施形態では、アルコール濃度が高いほどスロットルバルブ14の初期開度を大きくしたり小さくしたりする基準となる冷却水温の境界の温度をアルコールの沸点としている。しかしながら、この基準となる冷却水温はアルコールの沸点近傍であればよく、アルコールの沸点よりも高い温度であってもよいし、低い温度であってもよい。さらにアルコール濃度が高いほどスロットルバルブ14の初期開度を大きくする冷却水温の下限と、上記アルコール濃度が高いほどスロットルバルブ14の初期開度を小さくする冷却水温の上限とは、同じ温度でなく異なる温度であってもよい。
【0049】
・上記各実施形態では、機関温度がアルコールの沸点近傍の所定温度以上であるときには、燃料のアルコール濃度が高いほど前記初期開度を大きく設定し、機関温度がアルコールの沸点近傍の所定温度未満であるときには、前記燃料のアルコール濃度が高いほど前記初期開度を小さく設定するようにしている。しかしながら、機関温度と燃料のアルコール濃度に基づいたスロットルバルブ14の初期開度の設定態様は特に限定されない。例えば機関温度がアルコールの沸点近傍の所定温度以上であるときには、燃料のアルコール濃度が高いほど前記初期開度を大きく設定し、機関温度がアルコールの沸点近傍の所定温度未満であるときには、スロットルバルブの開度を一律に小さい開度に設定するようにしてもよい。また、機関温度がアルコールの沸点近傍の所定温度未満であるときには、前記燃料のアルコール濃度が高いほど前記初期開度を小さく設定するようにし、機関温度がアルコールの沸点近傍の所定温度以上であるときには、スロットルバルブの開度を一律に大きい開度に設定するようにしてもよい。
【0050】
また、燃料のアルコール濃度が低い場合には、燃料の気化特性はガソリンの蒸留特性に類似したものとなるため、燃料のアルコール濃度が低い場合には、アルコールの沸点を基準にスロットルバルブの初期開度を設定することなく、機関温度が高いほどスロットルバルブの初期開度を大きく設定するようにしてもよい。
【0051】
・上記各実施形態では、燃料に含まれるアルコールとしてエタノールを例示したが、メタノール等の他のアルコールを用いるようにしてもよい。なおメタノールは、1気圧における沸点が65℃であるため、アルコール濃度が高いほどスロットルバルブの初期開度を大きくしたり小さくしたりする基準となる機関温度は、エタノールを用いる場合よりも低い温度となる。また、例えば燃料に複数種類のアルコールが含まれる場合には、各アルコールの沸点や各アルコールの濃度に応じてスロットルバルブ14の初期開度を適宜設定する。
【0052】
・上記各実施形態では、機関温度としての冷却水温に基づいてスロットルバルブ14の初期開度を設定するようにしている。しかしながら、機関温度として、冷却水温に代わり吸気温センサ50により検出される吸気温度を用いるようにしてもよい。
【0053】
また例えば電子制御装置が機関運転時間や機関停止時間を記憶するといった態様を採用する場合には、機関始動時に前回の機関運転時間及び始動前の停止時間に基づいて始動開始時に機関温度を推定するようにしてもよい。すなわち、内燃機関を長期間運転して停止しその直後に再始動する場合は、再始動時における機関温度が高いと考えられる。したがってこの場合、始動開始時の機関温度を例えばアルコールの沸点以上であると推定し、スロットルバルブの初期開度を大きく設定するようにしてもよい。また内燃機関の自動始動及び自動停止が行われるいわゆるエコラン車両においては、機関の自動始動時には機関温度が高い可能性が高いことから、自動始動時には機関温度高いものとして、アルコール濃度が高いほどスロットルバルブ14の初期開度を大きく設定するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明にかかる内燃機関の制御装置の一実施形態において、同制御装置が適用される内燃機関とその周辺機構とを示す模式図。
【図2】電子制御装置によって実行されるスロットルバルブの始動時閉じ込み制御の実行手順を示すフローチャート。
【図3】(a)及び(b)は、冷却水温及び燃料のアルコール濃度に基づくスロットルバルブの開度設定を示すマップ。
【図4】アルコール及びガソリンの蒸留特性を示すグラフ。
【符号の説明】
【0055】
10…内燃機関、11…気筒、12…吸気通路、13…排気通路、14…スロットルバルブ、15…インジェクタ、16…スロットルモータ、17…点火プラグ、18…燃焼室、20…クランクシャフト、26…ピストン、30…吸気バルブ、32…排気バルブ、50…吸気温センサ、51…スロットルポジションセンサ、52…エアフロメータ、54…水温センサ、55…クランクポジションセンサ、56…アクセルセンサ、57…空燃比センサ、58…イグニッションスイッチ、70…電子制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールを含む燃料を使用可能な内燃機関に適用され、同機関の始動開始時に吸気通路に設けられるスロットルバルブの開度をアイドル運転状態に対応するスロットルバルブの開度よりも小さい所定開度に制御する制御装置であって、
前記所定開度は、前記始動開始時における機関温度と前記燃料のアルコール濃度とに基づいて設定される
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記機関温度がアルコールの沸点近傍の所定温度以上であるときには、前記燃料のアルコール濃度が高いほど前記所定開度を大きく設定し、
前記機関温度がアルコールの沸点近傍の所定温度未満であるときには、前記燃料のアルコール濃度が高いほど前記所定開度を小さく設定する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記所定温度は大気圧が高いほど高く設定される
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項において、
前記内燃機関では、前記吸気通路に前記燃料が噴射される
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−48098(P2010−48098A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−210780(P2008−210780)
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】