説明

内燃機関の制御装置

【課題】この発明は、低温始動時でも気化燃料を筒内に速やかに供給し、始動性を向上させることを目的とする。
【解決手段】エンジン10は、通常の燃料タンク32、気化燃料タンク38、タンク内噴射弁40、気化燃料供給弁42等を備える。ECU70は、エンジンの運転中に気化燃料タンク38内に蓄えておいた気化燃料を、始動時にサージタンク20に供給する。このとき、ECU70は、気化燃料供給弁42とスロットルバルブ18とを閉弁した状態でクランキングを実行し、サージタンク20等の残留空気をクランキングにより排出する。そして、残留空気の排出が済んだ時点で、気化燃料の供給を開始する。これにより、気化燃料が残留空気と一緒に筒内に流入するのを抑制し、気化燃料の供給開始直後から高濃度の気化燃料を筒内に速やかに流入させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばアルコール燃料のように揮発性が低い燃料を用いる内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、例えば特許文献1(特開2007−224878号公報)に開示されているように、アルコール燃料を用いる内燃機関の制御装置が知られている。アルコール燃料は、特に低温時に気化し難いため、従来技術の内燃機関には、始動時に燃料を気化させるための気化室が設けられている。この気化室は、外部から遮断された密閉構造を有し、絞り通路を介して吸気通路に接続されている。また、気化室には、その内部に燃料を噴射する始動用燃料噴射弁と、噴射燃料を加熱するためのヒータとが設けられている。
【0003】
そして、内燃機関の始動時には、まず、内燃機関に対して始動信号が出力された時点でヒータを作動させ、その後に適宜時間が経過した時点で、始動用燃料噴射弁から気化室内に燃料を噴射する。燃料が噴射されるときに、気化室は、クランキングによる吸気負圧が作用することによって減圧状態となる。この結果、噴射燃料は、減圧状態の気化室内でヒータの熱を受けることにより気化し、吸気通路を介して各気筒に供給される。このように、従来技術では、始動時に燃料を気化室内で気化させることにより、冷間始動時等の始動性を確保するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−224878号公報
【特許文献2】実開平01−119874号公報
【特許文献3】特開平09−88740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した従来技術では、始動時にヒータを作動させてから気化室内に燃料を噴射し、気化燃料を生成するようにしている。しかしながら、この場合には、内燃機関に対して始動信号が出力された後に、ヒータの昇温、噴射燃料の加熱及び気化室の減圧が行われ、その結果として気化燃料が生成される。このため、従来技術では、始動時に気化燃料を生成するのに時間がかかり、気化燃料を筒内に速やかに供給することができないという問題がある。
【0006】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、低温始動時等の燃料が気化し難い状況でも、気化燃料を筒内に速やかに供給することができ、始動性を向上させることが可能な内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、燃料を貯留する燃料タンクと、
前記燃料タンク内の燃料を吸気通路及び/又は燃焼室に噴射する燃料噴射弁と、
前記吸気通路に接続され、前記燃料が気化した気化燃料を蓄える気化燃料タンクと、
前記燃料タンク内の燃料を前記気化燃料タンクに供給するタンク内燃料供給手段と、
前記気化燃料タンクと前記吸気通路との接続部を開,閉する常閉の気化燃料供給弁と、
前記接続部の上流側で吸入空気の量を調整するスロットルバルブと、
内燃機関の運転中に前記気化燃料供給弁を閉弁した状態で前記タンク内燃料供給手段を駆動し、前記気化燃料タンク内に気化燃料を生成する気化燃料生成手段と、
内燃機関の始動時に前記気化燃料供給弁と前記スロットルバルブとを閉弁した状態でクランキングを実行する閉弁クランキング手段と、
前記吸気通路のうち前記気化燃料供給弁から前記燃焼室に至るまでの空間に存在する残留空気が前記閉弁クランキング手段の作動により排出されたか否かを判定する空気排出判定手段と、
前記空気排出判定手段により前記残留空気が排出されたと判定したときに、前記気化燃料供給弁を開弁して前記気化燃料タンク内の気化燃料を前記吸気通路に供給する気化燃料供給手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
第2の発明によると、前記空気排出判定手段は、前記残留空気が排出された時点での負圧状態に対応する圧力判定値を有し、前記閉弁クランキング手段の作動中に前記吸気通路内の圧力が前記圧力判定値よりも低下したときに、前記残留空気が排出されたと判定する構成としている。
【0009】
第3の発明は、前記気化燃料タンク内に蓄えられた気化燃料の量、始動時に必要な気化燃料の量及びバッテリ電圧のうち、少なくとも1つのパラメータに基いて前記圧力判定値を可変に設定する圧力判定値可変手段を備える。
【0010】
第4の発明は、前記吸気通路のうち前記気化燃料供給弁から前記燃焼室に至るまでの空間に存在する空気を排出するのに必要なクランキング回数を算出するクランキング回数算出手段を備え、
前記空気排出判定手段は、前記閉弁クランキング手段による実際のクランキング回数が前記必要なクランキング回数に達したときに、前記残留空気が排出されたと判定する構成としている。
【0011】
第5の発明は、前記燃料噴射弁は筒内噴射弁であって、前記筒内噴射弁に供給する燃料の圧力をクランキング中に上昇させる噴射燃料昇圧手段と、
前記気化燃料供給手段により気化燃料を供給するときに、前記筒内噴射弁を駆動して筒内に燃料を噴射する筒内噴射制御手段と、を備える。
【0012】
第6の発明は、前記空気排出判定手段により前記残留空気が排出されたと判定しても、前記噴射燃料昇圧手段により上昇させた燃料の圧力が所定の燃圧判定値を超えるまでは気化燃料の供給を禁止する供給禁止手段を備える。
【0013】
第7の発明は、内燃機関の温度、燃料の性状及び前記筒内噴射弁の燃料噴射量のうち、少なくとも1つのパラメータに基いて前記燃圧判定値を可変に設定する燃圧判定値可変手段を備える。
【0014】
第8の発明は、前記燃料としてアルコール燃料を用いる構成としている。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によれば、内燃機関の運転中に気化燃料を生成し、この気化燃料を機関停止後の自然減圧を利用して気化燃料タンク内に蓄えておくことができる。これにより、始動時に気化燃料を生成する必要がないので、低温始動時でも、気化燃料を筒内に速やかに供給することができる。しかも、気化燃料の供給時には、閉弁クランキング手段により気化燃料供給弁とスロットルバルブとを閉弁した状態でクランキングを実行し、吸気通路の一部に存在する残留空気を排気系に排出することができる。これにより、始動時には、残留空気をクランキングにより排出した負圧雰囲気下において、気化燃料の供給を開始することができ、気化燃料が残留空気と一緒に筒内に流入するのを抑制することができる。また、この負圧雰囲気を利用して、気化燃料タンクから気化燃料が流出するときの流量を増大させ、気化燃料の供給を効率よく行うことができる。これにより、始動時には、気化燃料の供給開始直後から高濃度の気化燃料を筒内に速やかに流入させることができ、点火されずに排気系に流出する無駄な気化燃料を減少させることができる。従って、気化燃料を有効に活用して始動性を向上させ、また排気エミッションを改善することができる。
【0016】
第2の発明によれば、空気排出判定手段は、閉弁クランキング手段の作動中に吸気通路内の圧力が圧力判定値よりも低下したときに、残留空気が排出されたと判定することができる。従って、気化燃料供給手段は、この判定時に気化燃料の供給を開始すれば、高濃度の気化燃料を筒内に速やかに供給することができる。
【0017】
第3の発明によれば、圧力判定値可変手段は、気化燃料タンク内に蓄えられた気化燃料の量、始動時に必要な気化燃料の量及びバッテリ電圧のうち、少なくとも1つのパラメータに基いて圧力判定値を適切に設定することができる。これにより、状況に応じて気化燃料の節約やバッテリ性能の温存等を行うことができる。
【0018】
第4の発明によれば、空気排出判定手段は、閉弁クランキング手段による実際のクランキング回数が必要なクランキング回数に達したときに、残留空気が排出されたと判定することができる。従って、気化燃料供給手段は、この判定時に気化燃料の供給を開始すれば、高濃度の気化燃料を筒内に速やかに供給することができる。また、吸気圧センサを使用しなくてもよいので、システム構成を簡略化することができる。
【0019】
第5の発明によれば、筒内噴射を開始する前に、閉弁クランキング手段によるクランキング期間を利用して、燃料の圧力を十分に上昇させておくことができる。そして、この状態で筒内噴射を開始することにより、噴射燃料の微粒化を促進することができる。このため、始動時には、微粒化した噴射燃料と気化燃料との相乗効果により、気化燃料の消費量を抑制しつつ、燃料の着火性を高めることができる。従って、気化燃料の残量が少ない場合や極低温時の始動性を確実に向上させることができる。しかも、燃料を十分に昇圧することにより、燃料の噴射時間を短くすることができる。これにより、燃料噴射時期の設定範囲が広くなるため、噴射時期を最適化して排気エミッションや始動性を効果的に向上させることができる。
【0020】
第6の発明によれば、供給禁止手段は、筒内噴射用の燃料圧力が所定の燃圧判定値を超えるまで、気化燃料の供給を禁止することができる。これにより、筒内噴射圧が基準の圧力に達した適切なタイミングで、気化燃料の供給及び筒内噴射を開始することができる。
【0021】
第7の発明によれば、燃圧判定値可変手段は、内燃機関の温度、燃料の性状及び筒内噴射弁の燃料噴射量のうち、少なくとも1つのパラメータに基いて燃圧判定値を適切に設定することができる。これにより、筒内噴射圧を過剰に上昇させることなく、状況に応じて必要最低限の噴射圧を確保することができる。
【0022】
第8の発明によれば、低温時に気化し難いアルコール燃料を用いる場合でも、内燃機関の運転中に気化燃料タンク内に気化燃料を蓄えておき、この気化燃料を始動時に供給することにより、始動性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための全体構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるシステムの制御系統を示す構成図である。
【図3】本発明の実施の形態1による制御を実施しない比較例において、筒内に供給される気化燃料の濃度の時間的な変化を示す説明図である。
【図4】本発明の実施の形態1において、筒内に供給される気化燃料の濃度の時間的な変化を示す説明図である。
【図5】本発明の実施の形態1において、ECUにより実行される制御を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態1において、ECUにより実行される制御を示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施の形態2において、ECUにより実行される制御を示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施の形態3において、始動時に気化燃料と筒内噴射燃料とを併用する状態を示す説明図である。
【図9】本発明の実施の形態3において、ECUにより実行される制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
以下、図1乃至図6を参照しつつ、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための全体構成図である。本実施の形態のシステムは、FFV(Flexible Fuel Vehicle)に搭載される内燃機関としてのエンジン10を備えている。なお、図1には、4気筒エンジンを例示したが、本発明は、4気筒の内燃機関に限定されるものではない。エンジン10は、各気筒の燃焼室に吸入空気を吸込む吸気通路12と、燃焼室から排気ガスが排出される排気通路14とを備えている。
【0025】
吸気通路12には、上流側から順にエアクリーナ16、スロットルバルブ18及びサージタンク20が設けられている。スロットルバルブ18は、電子制御式のバタフライ弁により構成され、後述のECU70により開閉駆動される。そして、スロットルバルブ18は、全閉位置と全開位置との間で開,閉され、その開度に応じて吸気通路12を流れる吸入空気量を調整する。サージタンク20は、吸気通路12の途中に一定の広がりをもつ空間を形成し、吸気脈動の減衰効果等を発揮するものである。サージタンク20の下流側は、複数の吸気管からなる吸気マニホールド22を介して各気筒の吸気ポート24に接続されている。なお、サージタンク20、吸気マニホールド22及び吸気ポート24は、吸気通路12の一部を構成している。
【0026】
また、エンジン10の各気筒には、吸気ポート24に燃料を噴射する吸気ポート噴射弁26と、燃焼室内(筒内)に燃料を直接噴射する筒内噴射弁28とが設けられている。これらの噴射弁26,28は、一般的な電磁駆動式の燃料噴射弁により構成されている。さらに、各気筒には、筒内に流入した混合気に点火する点火プラグ30(図2参照)と、それぞれ吸気ポート24及び排気ポートを開,閉する吸気弁及び排気弁(図示せず)とが設けられている。上述した噴射弁26,28には、車両の燃料タンク32内に液化状態で貯留されたアルコール燃料が供給される。
【0027】
燃料タンク32には、その内部に貯留した燃料を噴射弁26,28に向けて送出する燃料ポンプ(図示せず)が設けられている。また、筒内噴射用の燃料系統には、前記燃料ポンプにより送出された燃料の圧力を更に筒内噴射用の基準圧(例えば、10〜20MPa程度)まで昇圧させる昇圧ポンプ34が設置されている。昇圧ポンプ34は、例えばエンジンのカムシャフトに連結された機械式のポンプにより構成され、カムシャフトが回転することによって作動する。
【0028】
また、エンジン10は、始動時にクランク軸を回転駆動するスタータモータ36を備えている。車両の運転者がスタータスイッチをONにした場合には、ECU70に対してエンジンの始動要求が発生する。これにより、ECU70は、スタータモータ36を起動してクランク軸を回転させる動作(クランキング)を実行する。そして、エンジンが始動した時点、即ち、自立運転に移行した時点でクランキングを停止する。
【0029】
次に、エンジン10に搭載された燃料気化系統について説明する。本実施の形態では、エンジンの運転中に生成した気化燃料をタンクに蓄えておき、この気化燃料を次回の始動時に使用することを特徴としている。そして、燃料気化系統は、以下に述べる気化燃料タンク38、タンク内噴射弁40、気化燃料供給弁42、大気導入弁44、リリーフ弁46等を備えている。
【0030】
気化燃料タンク38は、密閉構造を有する耐圧容器として形成され、燃料タンク32内のアルコール燃料が気化した気化燃料を蓄えるように構成されている。また、気化燃料タンク38は、例えばエンジンルーム内において、エンジン10から熱が伝導し易い位置に設置されている。タンク内噴射弁40は、燃料タンク32に貯留された燃料を気化燃料タンク38内に噴射(供給)するもので、本実施の形態のタンク内燃料供給手段を構成している。タンク内噴射弁40は、例えば噴射弁26,28と同様の一般的な燃料噴射弁により構成され、その燃料噴射量は制御信号に応じて制御される。タンク内噴射弁40から噴射された燃料は、気化燃料タンク38内で気化することにより気化燃料となる。
【0031】
気化燃料タンク38は、スロットルバルブ18の下流側でサージタンク20と接続されている。この接続部には、常閉(ノーマル・クローズ)の電磁弁等により構成された気化燃料供給弁42が設けられている。気化燃料供給弁42の閉弁時には、気化燃料タンク38とサージタンク20との間が遮断され、気化燃料タンク38内に気化燃料を蓄えることが可能となる。また、気化燃料供給弁42の開弁時には、前記タンク20,38が相互に連通され、気化燃料タンク38に蓄えられた気化燃料がサージタンク20に供給される。
【0032】
また、気化燃料タンク38には、タンク内部と外部空間とを連通可能な位置に大気導入弁44が設けられている。大気導入弁44は常閉の電磁弁等により構成され、開弁時には気化燃料タンク38を大気解放するようになっている。気化燃料の供給時には、気化燃料供給弁42と大気導入弁44とが多少の時間差をもって一緒に開弁され、気化燃料を供給した分だけ大気導入弁44から気化燃料タンク38内に大気が導入される。なお、これらの弁42,44は、気化燃料の供給時を除いて閉弁状態に保持される。また、大気導入弁44は、エアクリーナ16とスロットルバルブ18との間で吸気通路12に接続されている。このため、大気導入弁44の開弁時には、エアクリーナ16より清浄化され、かつ吸気負圧の影響を受けない空気が気化燃料タンク38に導入される。
【0033】
さらに、気化燃料タンク38には、例えばチェック弁、リード弁等により構成された常閉のリリーフ弁46が設けられている。リリーフ弁46は、気化燃料タンク38内の圧力が所定の作動圧を超えたときに、この圧力を外部(例えば、吸気通路12)に解放するもので、リリーフ弁46の作動圧は、例えば大気圧程度の圧力か、または大気圧よりも数十kPa程度高い圧力に設定されている。この設定は、例えば気化燃料タンク38が常温程度かそれよりも少し高い温度に保持され、燃料の飽和蒸気圧がこの温度領域に対応した圧力となることを前提としている。これにより、リリーフ弁46は、気化燃料タンク38内に噴射された燃料が気化するときに、タンク内の空気を外部に逃がすように構成されている。また、リリーフ弁46は、気化燃料タンク38が密閉された状態において、タンク内の圧力が過大となるのを防止する安全弁としての機能も備えている。
【0034】
次に、図2を参照しつつ、エンジン10の制御系統について説明する。図2は、本発明の実施の形態1におけるシステムの制御系統を示す構成図である。この図に示すように、本実施の形態のシステムは、複数のセンサ48〜64を含むセンサ系統と、エンジン10の運転状態を制御するECU(Electronic Control Unit)70とを備えている。
【0035】
まず、センサ系統について説明すると、クランク角センサ48は、エンジン10のクランク軸の回転に同期した信号を出力するもので、ECU70は、この出力に基いてエンジン回転数及びクランク角を検出する。また、エアフローセンサ50は吸入空気量を検出し、水温センサ52はエンジンの冷却水温を検出する。吸気圧センサ54は、例えばサージタンク20の位置で吸入空気の圧力を検出するもので、ECU70は、吸気圧センサ54の出力に基いてサージタンク20内の圧力Psを検出する。吸気温センサ56は、吸入空気の温度を検出する。一方、タンク圧センサ58は気化燃料タンク38内の圧力を検出し、タンク温度センサ60は気化燃料タンク38内の温度を検出する。また、燃料性状センサ62は、燃料の性状として、燃料中のアルコール濃度を検出する。さらに、燃圧センサ64は、昇圧ポンプ34により昇圧された燃料の圧力、即ち、筒内噴射弁28から噴射される燃料の噴射圧を検出するものである。
【0036】
センサ系統には、上記センサ48〜64の他にも、車両やエンジンの制御に必要な各種のセンサ(例えば排気空燃比を検出する空燃比センサ、スロットルバルブ18の開度を検出するスロットルセンサ、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ等)が含まれており、これらのセンサはECU70の入力側に接続されている。なお、本発明は、必ずしも吸気圧センサ54やタンク温度センサ60を必要とするものではない。一例を挙げれば、吸気圧センサ54を使用せず、エンジンの吸入空気量、回転数等に基いて吸入空気の圧力を推定してもよい。また、タンク温度センサ60を使用せず、エンジンの温度や運転履歴、気化燃料タンク38への熱伝導特性等に基いてタンク内温度を推定してもよい。
【0037】
一方、ECU70の出力側には、スロットルバルブ18、噴射弁26,28,40、点火プラグ30、スタータモータ36、気化燃料供給弁42、大気導入弁44等を含む各種のアクチュエータが接続されている。そして、ECU70は、センサ系統によりエンジンの運転情報を検出し、その検出結果に基いて各アクチュエータを駆動することにより、運転制御を行う。具体的には、クランク角センサ48の出力に基いてエンジン回転数とクランク角とを検出し、エアフローセンサ50により吸入空気量を検出する。また、以下に述べる通常の燃料噴射制御を実行しつつ、クランク角に基いて点火時期を決定し、点火プラグ30を駆動する。
【0038】
通常の燃料噴射制御は、後述の気化燃料供給制御が実行される場合を除いて、エンジン10の運転中に実行されるもので、始動時の燃料噴射制御も含んでいる。この燃料噴射制御では、吸入空気量、エンジン回転数、エンジン冷却水の温度等に基いて燃料噴射量を算出し、クランク角に基いて燃料噴射時期を決定した後に、噴射弁26,28の何れか一方または両方を駆動する。この場合、吸気ポート噴射弁26と筒内噴射弁28の噴射量の比率は、エンジンの運転状態や燃料の性状に応じて可変に設定される。さらに、ECU70は、燃料気化系統の制御として、以下に述べる気化燃料生成制御と、気化燃料供給制御とを実行する。
【0039】
[実施の形態1の動作]
(気化燃料生成制御)
気化燃料生成制御は、エンジン10の運転中(好ましくは、暖機終了後の運転中)に、気化燃料タンク38内で燃料を気化させ、気化燃料を生成するものである。具体的に述べると、気化燃料生成制御では、気化燃料供給弁42と大気導入弁44とを閉弁した状態で、タンク内噴射弁40から燃料を噴射する。このとき、燃料の噴射量は、噴射燃料の全てが気化し、かつ気化した燃料の蒸気圧が飽和蒸気圧となるように算出される。
【0040】
そして、タンク内噴射弁40から噴射された燃料は、タンク内の空気をリリーフ弁46から追い出しつつ、速やかに気化して気化燃料となる。このとき、リリーフ弁46は、タンク内の空気圧により燃料の気化が抑制されるのを回避し、気化燃料の生成を促進することができる。この結果、燃料の気化が完了すると、タンク内の空気は殆ど排出され、気化燃料タンク38内には、気化燃料が飽和蒸気圧に近い圧力状態で充満した状態となる。
【0041】
上述した気化燃料生成制御により、気化燃料タンク38内には、エンジンの運転中に気化燃料を蓄えることができる。そして、気化燃料タンク38は、タンク内で生じる自然減圧を利用して、エンジン停止後の冷間時にも、気化燃料の少なくとも一部を気相状態に保持することができる。なお、気化燃料生成制御は、気化燃料タンク38内の温度が気化燃料を生成し得る所定の判定温度以上の場合にのみ実行するのが好ましい。
【0042】
(気化燃料供給制御)
気化燃料供給制御は、エンジンの始動時に気化燃料供給弁42と大気導入弁44とを開弁し、気化燃料タンク38内に蓄えられていた気化燃料をサージタンク20に供給するものである。具体的に述べると、まず、ECU70は、スタータスイッチがONされたときに、始動要求が発生したことを検出する。そして、気化燃料供給弁42と大気導入弁44とを閉弁し、かつスロットルバルブ18を全閉位置に保持した状態で、スタータモータ36に通電し、クランキングを開始する。これにより、サージタンク20内には、クランキングによって吸気負圧が生じる。
【0043】
そして、ECU70は、サージタンク20内の吸気負圧が十分に増大したときに、気化燃料供給弁42と大気導入弁44とを開弁する。これにより、気化燃料タンク38内の気化燃料は、吸気負圧によってサージタンク20内に供給される。このとき、気化燃料タンク38内には、気化燃料が流出した分だけ大気導入弁44から空気が流入するので、気化燃料の供給はスムーズに行われる。また、気化燃料供給弁42と大気導入弁44とを開弁するときには、気化燃料タンク38内の圧力が大気圧以上であれば、先に気化燃料供給弁42を開弁する。一方、気化燃料タンク38内の圧力が大気圧よりも低ければ、先に大気導入弁44を開弁する。これにより、タンク内の気化燃料が大気中に流出したり、サージタンク20から気化燃料タンク38内に空気が逆流するのを防止することができる。
【0044】
気化燃料タンク38からサージタンク20に供給された気化燃料は、吸気ポート24を介して筒内に流入し、筒内で点火されて燃焼する。そして、ECU70は、エンジン回転数の上昇等により始動を確認した時点で、クランキングを停止する。また、気化燃料供給弁42と大気導入弁44とを閉弁し、気化燃料供給制御を終了する。そして、通常の燃料噴射制御を開始し、吸気ポート噴射弁26や筒内噴射弁28から燃料を噴射する。なお、気化燃料から通常の燃料噴射への切換は、必ずしもエンジンの始動を確認してから行う必要はない。一例を挙げれば、始動時に必要な量の気化燃料を供給した時点で、通常の燃料噴射に切換えてもよい。また、各気筒に対して1サイクル目の燃焼時のみ気化燃料を供給し、2サイクル目以降の燃焼時には通常の燃料噴射制御を実行してもよい。
【0045】
このように、エンジンの運転中に蓄えておいた気化燃料を使用すれば、始動時に気化燃料を生成する場合と比較して、気化燃料を筒内に速やかに供給することができ、燃料が気化し難い低温始動時でも、始動性を向上させることができる。なお、気化燃料供給制御は、始動時の機関温度(例えば、エンジン冷却水の温度等)が気化燃料を必要とする所定の判定温度以下の場合にのみ実行するのが好ましい。
【0046】
ところで、上述した気化燃料の供給開始時には、吸気通路12のうち気化燃料供給弁42から燃焼室に至るまでの空間に空気(残留空気)が存在している。この残留空気は、気化燃料の供給が開始されると、気化燃料と一緒に筒内に吸い込まれることになり、供給開始直後に気化燃料の濃度を低下させる原因となる。なお、上記空間は、正確に述べると、サージタンク20、吸気マニホールド22及び吸気ポート24の内部に形成された空間であるが、サージタンク20内の空間が大部分を占めている。このため、以下の説明では、上記空間内の残留空気のことを、サージタンク20等の残留空気と称するものとする。
【0047】
図3は、本発明の実施の形態1による制御を実施しない比較例において、筒内に供給される気化燃料の濃度の時間的な変化を示す説明図である。この図に示すように、筒内の気化燃料濃度は、気化燃料が筒内に流入し始める時点t1から徐々に上昇し、時点t2において、始動1点火目(1サイクル目)の燃焼に必要な濃度に到達する。そして、この時点t2にて、1サイクル目の点火が行われる。時点t1からt2までの期間中には、サージタンク20等の残留空気が気化燃料と一緒に筒内に流入するので、筒内の気化燃料濃度が点火に必要なレベルに到達せず、点火を行うことができない。従って、この期間中に筒内に流入する気化燃料(図3中の斜線部分に示す流出燃料)は、そのまま未燃燃料として排気通路14に流出することになる。この結果、比較例では、始動時に気化燃料が無駄に消費され、始動性が低下するだけでなく、排気エミッションが悪化するという問題がある。
【0048】
このため、本実施の形態では、気化燃料の供給を開始する前に、まず、気化燃料供給弁42を閉弁し、かつスロットルバルブ18を全閉位置に保持した状態でクランキングを実行する。これにより、サージタンク20等の残留空気は、クランキングにより排気系に排出される。このとき、スロットルバルブ18を全閉しておくことにより、新気がサージタンク20内に流入するのを抑制し、残留空気の排出を効率よく行うことができる。そして、本実施の形態では、残留空気がクランキングにより排出されたか否かを判定し、この判定が成立した時点で気化燃料の供給を開始する。
【0049】
具体的に述べると、サージタンク20内の圧力は、残留空気が排出されるにつれて低下し、排出が十分に済んだ時点で所定の負圧状態となる。ECU70には、この所定の負圧状態に対応する圧力判定値Pcが予め記憶されている。そして、ECU70は、サージタンク20内の圧力Psが前記所定の負圧状態に対応する圧力判定値Pcよりも低下したときに、残留空気がクランキングにより排出されたものとみなし、気化燃料の供給を開始する構成としている。
【0050】
上記構成によれば、始動時には、サージタンク20等の残留空気をクランキングにより排出した負圧雰囲気下において、気化燃料の供給を開始することができる。このため、気化燃料が残留空気と一緒に筒内に流入するのを抑制することができる。また、サージタンク20内の大きな吸気負圧を利用して、気化燃料タンク38から気化燃料が流出するときの流速(流量)を増大させ、気化燃料の供給を効率よく行うことができる。これにより、始動時には、気化燃料の供給開始直後から高濃度の気化燃料を筒内に速やかに流入させることができる。
【0051】
図4は、本発明の実施の形態1において、筒内に供給される気化燃料の濃度の時間的な変化を示す説明図である。この図に示すように、本実施の形態によれば、気化燃料が筒内に流入し始める時点t1から1サイクル目の点火を行う時点t2までの期間を、図3に示す比較例よりも短縮することができる。これにより、点火されずに排気系に流出する無駄な気化燃料(流出燃料)を減少させ、気化燃料を有効に活用することができる。従って、始動性を向上させ、始動時の排気エミッションを改善することができる。
【0052】
また、上述した圧力判定値Pcは、定数として設定してもよいが、気化燃料タンク38内に蓄えられた気化燃料の量、始動時に必要な気化燃料の量及びバッテリ電圧のうち、少なくとも1つのパラメータに基いて可変に設定する構成としてもよい。具体的に述べると、例えば気化燃料タンク38内の気化燃料が少ない場合には、少量の気化燃料により始動を効率的に行う必要がある。この場合には、サージタンク20内の負圧をより増大させた上で、気化燃料を供給するのが好ましい。このため、本実施の形態では、気化燃料タンク38内に蓄えられた気化燃料の量が少ないほど、圧力判定値Pcを低く設定する。なお、タンク内に蓄えられている気化燃料の量は、例えば気化燃料生成制御において気化燃料タンク38内に燃料を噴射したときのタンク内の温度及び圧力と、自然減圧後におけるタンク内の温度とに基いて算出することができる。
【0053】
また、始動時に必要な気化燃料の量は、外気温やエンジンの機関温度が高いほど、減少する。気化燃料の必要量が少ない場合には、サージタンク20を極端な負圧状態にしなくても、供給動作を円滑に行うことができる。このため、本実施の形態では、始動時に必要な気化燃料の量が少ないほど(または外気温や機関温度が高いほど)、圧力判定値Pcを高く設定する。なお、始動時に必要な気化燃料の量は、予め実験等でデータを取得しておくことにより、外気温や機関温度に基いて算出することができる。
【0054】
さらに、サージタンク20の減圧はクランキングにより実現されるが、バッテリ電圧が低い場合には、クランキング時間を短縮してバッテリ性能を温存するのが好ましい。このため、本実施の形態では、バッテリ電圧が低いほど、圧力判定値Pcを高く設定する。これらの設定は、例えば各パラメータと圧力判定値Pcとの関係をデータ化したマップデータを作成し、このマップデータをECU70に予め記憶させておくことにより実現される。上記構成によれば、各パラメータに基いて圧力判定値Pcを適切に設定することができ、サージタンク20内の圧力を無駄に減圧することなく、必要最低限の負圧状態に保持することができる。
【0055】
[実施の形態1を実現するための具体的な処理]
次に、図5及び図6を参照して、上述した制御を実現するための具体的な処理について説明する。まず、図5は、本発明の実施の形態1において、ECUにより実行される気化燃料生成制御を示すフローチャートである。図5に示すルーチンは、エンジンの運転中に繰返し実行されるものとする。
【0056】
図5に示すルーチンでは、まず、タンク温度センサ60により気化燃料タンク38内の温度Tを検出し(ステップ100)、このタンク内温度Tが判定温度T1よりも大きいか否かを判定する(ステップ102)。ここで、判定温度T1とは、気化燃料を生成し得る温度の下限値に対応して設定されるもので、タンク内での燃料噴射を許可するための判定温度である。ステップ102の判定成立時には、燃料が気化し易い温度状態なので、気化燃料タンク38内に噴射する燃料の噴射量を算出し、気化燃料供給弁42と大気導入弁44とを閉弁した状態でタンク内噴射弁40を駆動する(ステップ104)。これにより、気化燃料タンク38内には気化燃料が蓄えられる。
【0057】
次に、図6は、本発明の実施の形態1において、ECUにより実行される気化燃料供給制御を示すフローチャートである。この図に示すルーチンは、エンジンの運転中に繰返し実行されるものとする。図6に示すルーチンでは、まず、イグニッションスイッチ(IGSW)がONになったか否かを判定する(ステップ200)。この判定成立時には、気化燃料供給弁42と大気導入弁44とを閉弁し、かつスロットルバルブ18を全閉位置に保持する(ステップ202)。また、前述した各種のパラメータに基いて圧力判定値Pcを算出する(ステップ204)。そして、スタータモータ36を起動し、クランキングを開始する(ステップ206)。これにより、サージタンク20内の圧力は、残留空気の排出が進むにつれて低下する。
【0058】
次の処理では、吸気圧センサ54により検出したサージタンク20内の圧力Psを読込み(ステップ208)、この圧力Psが圧力判定値Pcよりも低下したか否かを判定する(ステップ210)。そして、ステップ210の判定が不成立の場合には、まだ残留空気の排出が十分に済んでいないので、この判定が成立するまでステップ206〜210の処理を繰返し、クランキングを継続する。
【0059】
一方、ステップ210の判定が成立した場合には、残留空気の排出が十分に済んだので、気筒判別処理等の結果に基いて始動時に最初に点火を行う初点火気筒を決定する(ステップ212)。そして、初点火気筒の吸気行程に合わせて、気化燃料供給弁42と大気導入弁44とを開弁し、気化燃料の供給を開始する(ステップ214)。続いて、初点火気筒から点火を順次開始する(ステップ216)。次に、例えば始動に必要な量の気化燃料を供給した時点で、気化燃料供給弁42と大気導入弁44とを閉弁し、気化燃料の供給を停止する(ステップ218)。そして、通常の燃料噴射制御(始動時噴射制御)を開始し、吸気ポート噴射弁26や筒内噴射弁28から燃料を噴射する(ステップ220)。
【0060】
なお、前記実施の形態1では、図5中に示すステップ100〜104が請求項1における気化燃料生成手段の具体例を示している。また、図6中に示すステップ202,206が請求項1における閉弁クランキング手段の具体例、ステップ210が請求項1,2における空気排出判定手段の具体例、ステップ214が請求項1における気化燃料供給手段の具体例をそれぞれ示している。また、ステップ204は、請求項3における圧力判定値可変手段の具体例を示している。
【0061】
実施の形態2.
次に、図7を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態は、前記実施の形態1とほぼ同様の構成及び制御(図1、図2、図5)を採用しているものの、クランキング回数に基いて残留空気が排出されたか否かを判定する構成としたことを特徴としている。なお、本実施の形態では、実施の形態1と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0062】
[実施の形態2の特徴]
サージタンク20等の残留空気は、クランキング回数が1回増える毎に、エンジンの総シリンダ容積(=1気筒の容積×気筒数)分だけ排気系に排出される。ここで、クランキング回数は、クランク軸が1燃焼サイクル分(720°CA)回転する毎に、1回ずつカウントされるものとする。従って、残留空気の排出が済むまでに必要なクランキング回数は、サージタンク20等に存在する残留空気の空気量Vs(以下、サージタンク内空気量Vsと称す)を、総シリンダ容積で除算することにより求めることができる。
【0063】
この原理に基いて、本実施の形態では、残留空気を排出するのに必要なクランキング回数を算出し、実際のクランキング回数が前記必要なクランキング回数に達したときに、気化燃料の供給を開始する構成としている。この構成によれば、吸気圧センサ54を使用しなくても、残留空気の排出が済んだ時点で気化燃料の供給を開始することができる。従って、本実施の形態によれば、実施の形態1とほぼ同様の作用効果が得られる上に、システム構成を簡略化してコストダウンを促進することができる。
【0064】
[実施の形態2を実現するための具体的な処理]
次に、図7を参照しつつ、上述した制御を実現するための具体的な処理について説明する。図7は、本発明の実施の形態2において、ECUにより実行される制御を示すフローチャートである。この図に示すルーチンは、実施の形態1の図6に代えて、エンジンの運転中に繰返し実行されるものとする。
【0065】
図7に示すルーチンでは、まず、ステップ300,302において、前記図6中に示すステップ200,202と同様の処理を行う。次に、既知であるサージタンク20の容積及び大気圧と、吸気温センサ56により検出した吸気温とに基いて、サージタンク内空気量Vsを算出する(ステップ304)。そして、サージタンク内空気量Vsと総シリンダ容積とに基いて、残留空気を排出するのに必要なクランキング回数Ncを算出する(ステップ306)。次の処理では、気筒判別処理等の結果に基いて、必要な回数のクランキングが済んだ時点で最初に点火を行う初点火気筒を決定する(ステップ308)。なお、吸気遅れ等により気化燃料が実際に筒内に流入するタイミングが遅れる場合には、その分だけ初点火を遅くしてもよい。
【0066】
次の処理では、クランキングを実行しつつ、実際のクランキング回数Nが必要なクランキング回数Ncに達したか否かを判定する(ステップ310,312)。そして、この判定成立時には、残留空気の排出が済んだものと判断し、気化燃料の供給を開始する(ステップ314)。続いて、実施の形態1と同様に、初点火気筒から点火を順次開始し、必要量の気化燃料を供給した時点で供給を停止すると共に、通常の始動時噴射制御に移行する(ステップ316,318,320)。一方、ステップ312の判定が不成立の場合には、まだ残留空気の排出が済んでいないと判断されるので、この判定が成立するまでステップ310〜312の処理を繰返し、クランキングを継続する。
【0067】
なお、前記実施の形態2では、図7中に示すステップ302,310が請求項1における閉弁クランキング手段の具体例を示している。また、ステップ312は、請求項1,4における空気排出判定手段の具体例、ステップ314は、請求項1における気化燃料供給手段の具体例をそれぞれ示している。
【0068】
実施の形態3.
次に、図8及び図9を参照して、本発明の実施の形態3について説明する。本実施の形態は、前記実施の形態1とほぼ同様の構成及び制御(図1、図2、図5)を採用しているものの、気化燃料の供給と筒内への燃料噴射とを併用する構成としたことを特徴としている。なお、本実施の形態では、実施の形態1と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0069】
[実施の形態3の特徴]
始動時において、例えば気化燃料の残量が少ない場合や、温度環境が極端に低い場合等には、気化燃料だけでの始動が難しい場合がある。このような場合に、本実施の形態では、図8に示すように、始動時に気化燃料を供給するだけでなく、筒内への燃料噴射を併用する構成としている。図8は、本発明の実施の形態3において、始動時に気化燃料と筒内噴射燃料とを併用する状態を示す説明図である。
【0070】
ここで、筒内での燃料噴射には高い噴射圧が必要とされるので、筒内噴射弁28に燃料を供給する燃料系統には、燃料の圧力を筒内噴射用の基準圧に保持するための昇圧ポンプ34が設けられている(図1参照)。しかし、昇圧ポンプ34は、エンジンのカムシャフトにより駆動される機械式のポンプであるため、クランキングが開始されてから前記燃料系統の末端の圧力が基準圧となるまでの間には、ある程度の時間が必要となる。これに対し、本実施の形態では、実施の形態1と同様に、残留空気の排出が済むまでクランキングを継続する構成としている。このため、クランキング期間を利用して前記燃料系統の圧力を基準圧まで安定的に上昇させることができる。
【0071】
具体的に述べると、本実施の形態では、まず、クランキング期間中に昇圧ポンプ34により筒内噴射用の燃料噴射圧を上昇させつつ、この燃料噴射圧を燃圧センサ64により筒内噴射圧Pinjとして検出する。そして、残留空気の排出が済んだと判定されても、筒内噴射圧Pinjが所定の燃圧判定値Prcを超えるまでは気化燃料の供給を禁止する構成としている。ここで、所定の燃圧判定値Prcとは、前述した筒内噴射用の基準圧に対応して設定されている。そして、筒内噴射圧Pinjが燃圧判定値Prcを超えたときには、気化燃料の供給を開始すると共に、筒内噴射弁28からの燃料噴射を開始する。
【0072】
上記構成によれば、クランキング期間中に燃料噴射圧を十分に昇圧しておき、その後に筒内噴射弁28から燃料噴射を開始することができ、噴射燃料の微粒化を促進することができる。そして、微粒化した噴射燃料と気化燃料との相乗効果により、気化燃料の消費量を抑制しつつ、燃料の着火性を高めることができる。従って、気化燃料の残量が少ない場合や極低温時の始動性を確実に向上させることができる。しかも、本実施の形態では、筒内噴射圧を十分に昇圧することにより、燃料の噴射時間を短くすることができる。これにより、燃料噴射時期の設定範囲が広くなるため、噴射時期を最適化して排気エミッションや始動性を効果的に向上させることができる。
【0073】
また、上述した燃圧判定値Prcは、定数として設定してもよいが、エンジン10の温度、燃料の性状及び筒内噴射弁28の燃料噴射量のうち、少なくとも1つのパラメータに基いて可変に設定する構成としてもよい。具体的に述べると、例えばエンジンの温度(一例を挙げれば、エンジン冷却水の水温)が低い場合や、燃料中のアルコール濃度が高い場合には、燃料噴射量が増える傾向があるので、燃料噴射圧を高くして噴射時間を短くするのが好ましい。そこで、本実施の形態では、エンジンの温度が低いほど、また、燃料中のアルコール濃度が高いほど、燃圧判定値Prcを高く設定する。同様に、燃料噴射量が多いほど、燃圧判定値Prcを高く設定する。これらの設定は、例えば各パラメータと燃圧判定値Prcとの関係をデータ化したマップデータを作成し、このマップデータをECU70に予め記憶させておくことにより実現される。
【0074】
上記構成によれば、各パラメータに基いて燃圧判定値Prcを適切に設定することができる。即ち、筒内噴射圧を過剰に上昇させることなく、状況に応じて必要最低限の噴射圧を確保することができる。これにより、燃料の噴射時間を短縮し、噴射時期の設定範囲を広げることができる。なお、始動時における筒内噴射弁28の燃料噴射量は、例えば気化燃料タンク38内の気化燃料の残量(気化燃料の最大供給量)と始動時の要求燃料との差分、または極低温始動時の要求燃料と気化燃料の最大供給量との差分等に基いて決定されるもので、実験等により求めることができる。また、エンジンの温度としては、例えば潤滑油やエンジン本体の温度を用いてもよい。
【0075】
[実施の形態3を実現するための具体的な処理]
次に、図9を参照しつつ、上述した制御を実現するための具体的な処理について説明する。図9は、本発明の実施の形態3において、ECUにより実行される制御を示すフローチャートである。この図に示すルーチンは、実施の形態1の図6に代えて、エンジンの運転中に繰返し実行されるものとする。
【0076】
図9に示すルーチンでは、まず、ステップ400〜410において、前記図6中に示すステップ200〜210とほぼ同様の処理を行う。ただし、ステップ404では、前述した各種のパラメータに基いて燃圧判定値Prcを算出する処理も実行する。そして、ステップ410において、サージタンク20内の圧力Psが圧力判定値Pc未満よりも低下したと判定した場合には、燃圧センサ64により検出した筒内噴射圧Pinjを読込む(ステップ412)。
【0077】
次に、筒内噴射圧Pinjが燃圧判定値Prcよりも高いか否かを判定し、この判定成立時には、クランキング中に筒内噴射圧が十分に上昇したので、ステップ416〜426において、前記図6中に示すステップ212〜220とほぼ同様の処理を実行する。ただし、ステップ420では、筒内噴射弁28から燃料を噴射する筒内噴射制御を実行する。一方、ステップ414の判定が不成立の場合には、まだ筒内噴射圧が十分に上昇していないので、この判定が成立するまで気化燃料の供給及び筒内噴射を禁止し、ステップ406〜414の処理を繰返し実行する。これにより、筒内噴射圧が基準圧に達した適切なタイミングで、気化燃料の供給及び筒内噴射を開始することができる。
【0078】
なお、前記実施の形態3では、昇圧ポンプ34が、筒内噴射弁28に供給する燃料の圧力をクランキング中に上昇させる噴射燃料昇圧手段を構成している。また、図9中に示すステップ402,406は、請求項1における閉弁クランキング手段の具体例を示し、ステップ410は、請求項1,2における空気排出判定手段の具体例を示している。また、ステップ414は、請求項6における供給禁止手段の具体例、ステップ418は、請求項1における気化燃料供給手段の具体例、ステップ420は、請求項5における筒内噴射制御手段の具体例をそれぞれ示している。さらに、ステップ404は、請求項3における圧力判定値可変手段の具体例及び請求項7における燃圧判定値可変手段の具体例を示している。
【0079】
また、実施の形態2,3では、それぞれの構成を個別に例示したが、本発明はこれに限らず、実施の形態2,3を組合わせた構成を実現してもよい。
【0080】
また、実施の形態では、吸気通路12に対する気化燃料の供給部位として、サージタンク20を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、スロットルバルブ18の下流側であれば、吸気通路12の任意の部位に気化燃料タンク38を接続し、この部位に気化燃料を供給する構成としてよいものである。
【0081】
また、実施の形態では、気化燃料タンク38をエンジン10からの熱が伝わり易い場所に配置する構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、エンジン10で発生する熱により気化燃料タンク38を積極的に加熱する構成としてもよい。一例を挙げれば、エンジン10と気化燃料タンク38との間に冷却水配管を設け、エンジン冷却水により気化燃料タンク38を加熱する構成としてもよい。また、排気通路14と気化燃料タンク38との間にヒートパイプ等の熱伝導部材を設け、排気熱により気化燃料タンク38を加熱する構成としてもよい。これらの構成により、気化燃料タンク38内での燃料の飽和蒸気圧を高め、蓄えられる気化燃料の量を増やすことができる。
【0082】
また、実施の形態では、吸気ポート噴射弁26と筒内噴射弁28の両方を備えたエンジン10を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、噴射弁26,28のうち何れか一方を備えず、他方のみを備えた内燃機関に適用してもよい。
【0083】
さらに、実施の形態では、アルコール燃料を使用するエンジン10を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、通常のガソリンや、ガソリンにアルコール以外の成分を添加した各種の燃料に対しても適用し得るものである。
【符号の説明】
【0084】
10 エンジン(内燃機関)
12 吸気通路
14 排気通路
16 エアクリーナ
18 スロットルバルブ
20 サージタンク(吸気通路)
22 吸気マニホールド(吸気通路)
24 吸気ポート(吸気通路)
26 吸気ポート噴射弁(燃料噴射弁)
28 筒内噴射弁(燃料噴射弁)
32 燃料タンク
34 昇圧ポンプ(噴射燃料昇圧手段)
36 スタータモータ
38 気化燃料タンク
40 タンク内噴射弁(タンク内燃料供給手段)
42 気化燃料供給弁
44 大気導入弁
46 リリーフ弁
48 クランク角センサ
50 エアフローセンサ
52 水温センサ
54 吸気圧センサ
56 吸気温センサ
58 タンク圧センサ
60 タンク温度センサ
62 燃料性状センサ
64 燃圧センサ
70 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を貯留する燃料タンクと、
前記燃料タンク内の燃料を吸気通路及び/又は燃焼室に噴射する燃料噴射弁と、
前記吸気通路に接続され、前記燃料が気化した気化燃料を蓄える気化燃料タンクと、
前記燃料タンク内の燃料を前記気化燃料タンクに供給するタンク内燃料供給手段と、
前記気化燃料タンクと前記吸気通路との接続部を開,閉する常閉の気化燃料供給弁と、
前記接続部の上流側で吸入空気の量を調整するスロットルバルブと、
内燃機関の運転中に前記気化燃料供給弁を閉弁した状態で前記タンク内燃料供給手段を駆動し、前記気化燃料タンク内に気化燃料を生成する気化燃料生成手段と、
内燃機関の始動時に前記気化燃料供給弁と前記スロットルバルブとを閉弁した状態でクランキングを実行する閉弁クランキング手段と、
前記吸気通路のうち前記気化燃料供給弁から前記燃焼室に至るまでの空間に存在する残留空気が前記閉弁クランキング手段の作動により排出されたか否かを判定する空気排出判定手段と、
前記空気排出判定手段により前記残留空気が排出されたと判定したときに、前記気化燃料供給弁を開弁して前記気化燃料タンク内の気化燃料を前記吸気通路に供給する気化燃料供給手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記空気排出判定手段は、前記残留空気が排出された時点での負圧状態に対応する圧力判定値を有し、前記閉弁クランキング手段の作動中に前記吸気通路内の圧力が前記圧力判定値よりも低下したときに、前記残留空気が排出されたと判定してなる請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記気化燃料タンク内に蓄えられた気化燃料の量、始動時に必要な気化燃料の量及びバッテリ電圧のうち、少なくとも1つのパラメータに基いて前記圧力判定値を可変に設定する圧力判定値可変手段を備えてなる請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記吸気通路のうち前記気化燃料供給弁から前記燃焼室に至るまでの空間に存在する空気を排出するのに必要なクランキング回数を算出するクランキング回数算出手段を備え、
前記空気排出判定手段は、前記閉弁クランキング手段による実際のクランキング回数が前記必要なクランキング回数に達したときに、前記残留空気が排出されたと判定してなる請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記燃料噴射弁は筒内噴射弁であって、前記筒内噴射弁に供給する燃料の圧力をクランキング中に上昇させる噴射燃料昇圧手段と、
前記気化燃料供給手段により気化燃料を供給するときに、前記筒内噴射弁を駆動して筒内に燃料を噴射する筒内噴射制御手段と、
を備えてなる請求項1乃至4のうち何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記空気排出判定手段により前記残留空気が排出されたと判定しても、前記噴射燃料昇圧手段により上昇させた燃料の圧力が所定の燃圧判定値を超えるまでは気化燃料の供給を禁止する供給禁止手段を備えてなる請求項5に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
内燃機関の温度、燃料の性状及び前記筒内噴射弁の燃料噴射量のうち、少なくとも1つのパラメータに基いて前記燃圧判定値を可変に設定する燃圧判定値可変手段を備えてなる請求項6に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記燃料としてアルコール燃料を用いてなる請求項1乃至7のうち何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−220114(P2011−220114A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86435(P2010−86435)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】