説明

内燃機関の排気再循環システム

【課題】凝縮水の発生の抑制とNOx低減効果の確保とを両立させることのできる内燃機関の排気再循環システムを提供する。
【解決手段】HPL−EGR装置16と、LPL−EGR装置17と、両EGR装置16、17を制御して高圧側および低圧側の排気ガスの還流量をそれぞれに制御するECU50とを備えた内燃機関の排気再循環システムであって、ECU50は、低圧側排気再循環経路L2中の凝縮水量を推定する凝縮水量推定部51と、凝縮水量が予め設定された基準水量を超えるときには、高圧側排気ガスの還流量に対する低圧側排気ガスの還流量の比率を凝縮水量が基準水量を超えないときに比べて低下させるよう、両還流量の比率を可変制御する還流比率制御部52とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低圧側および高圧側の排気再循環回路を併有する内燃機関の排気再循環システムに関し、特に排気再循環経路中における凝縮水の発生を抑制するようにした内燃機関の排気再循環システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のエンジン(内燃機関)においては、NOx(窒素酸化物)の低減に効果的な排気再循環を行うEGR(Exhaust Gas Recirculation)システムを装着したものが多くなっており、希薄燃焼が可能でEGR流量が多くなるエンジンにおいては、排気再循環される排気ガス、すなわちEGRガスの温度を下げるためにEGRクーラ(排気冷却器)が多用されている。また、高温の排気ガスの一部を吸気側に還流させるHPL(High Pressure Loop)−EGR回路とは別に、排気後処理装置を通過した後の排気ガスをターボ過給機のコンプレッサより上流側に還流させることで低温かつ大量の排気再循環を可能にしたLPL(Low Pressure Loop)−EGR回路を装備するものも普及し始めている。
【0003】
このようなEGRクーラを用いるEGRシステムやLPL−EGRシステムでは、排気ガス中の水分が冷やされることで硝酸や硫酸等を含む酸性の凝縮水が発生し、その凝縮水が吸気管内に入ることにより吸気弁のバルブシートや燃料噴射弁等の金属部品が腐食し易くなり、LPL−EGR回路ではさらにターボ過給機のコンプレッサも腐食し易くなる。そこで、従来、このような腐食を防止する対策が施されている。
【0004】
例えば、エンジンの燃料噴射量および吸入空気量を基に燃焼により発生する水蒸気量を算出するとともに、排気ガス温度および排気管温度を推定または検出し、これら水蒸気量、排気ガス温度および排気管温度に基づいて排気管内で生じる凝縮水量を推定して、その凝縮水量が所定値を超えたときにはEGR弁(排気還流弁)の被水とその氷結によるEGR弁の固着の可能性があるもの判定として、EGR弁の開弁制御や故障診断を中止するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、低圧EGR回路のEGRクーラおよびEGR弁の間の排気還流通路から排気絞り弁により下流側の排気通路に低圧EGRガスを排出可能な連通路を設け、排気絞り弁の閉弁により排気還流通路内の圧力を高めることで、排気還流通路から排気絞り弁より下流側の排気通路内に凝縮水を排出させるようにしたものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
さらに、排気冷却器の下流側の排気ガスの温度が所定温度以下となる状態が継続した時間に基づいて凝縮水量を推定するとともに、その凝縮水量の推定値が一定量を超えたときにはEGR弁の開度を全閉位置よりは開き側の小開度に制御して、凝縮水がせき止められたりEGR弁の弁軸取付け穴等から漏れたりすることを防止するようにしたものが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
また、低圧EGR回路で還流される低圧EGRガス中の不活性ガス中の所定成分の還流遅れによってNOxやスモークの発生量が増加するのを抑制すべく、その不活性ガス中の所定成分の変化量を算出し、その変化量に応じて吸気ガスの所定成分の濃度変化を抑制するように高圧EGR回路で還流される高圧EGRガス量を制御するようにしたものも知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−220026号公報
【特許文献2】特開2008−002351号公報
【特許文献3】特開2007−205303号公報
【特許文献4】特開2009−047130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述のような従来の内燃機関の排気再循環システムにあっては、排気還流通路内に生じる凝縮水の量が所定値を超えたときには、吸気系主要部品の腐食を防止するためにEGR弁の開度を絞って排気再循環を禁止したり大幅に制限したりしていたために、排気再循環システム本来のNOx低減効果が十分に得られなくなってしまうという問題があった。
【0010】
特に、LPL−EGR装置を装備する排気再循環システムにおいては、低温かつ大量の排気再循環によって厳しいNOx低減要求に応えることが可能になるものの、凝縮水の発生量が多くなる。そのため、凝縮水量の増加時に排気再循環を単に禁止したり制限したりするのではNOx低減効果が大きく損なわれてしまうことになり、凝縮水の発生量を腐食防止に有効な範囲内に抑制しつつ所要のNOx低減効果を維持することが困難になっていた。
【0011】
一方、LPL−EGR装置の排気還流通路に流れる排気ガスの流量をその排気還流通路の両端の差圧としてセンサで検知しながら低圧EGR流量をフィードバック制御するような場合、その排気還流通路の上流部分に配置される異物捕集フィルタに凝縮水が付着して水膜が形成される際の差圧の増加を検出することにより、凝縮水量が許容限界量に達したことを把握するといったことも考えられるが、水膜による排気還流経路の閉塞によって本来流れるべき還流排気ガスが流れなくなる状態を許容することになり、やはりNOx低減効果が損なわれてしまう。
【0012】
また、低圧EGR流量のフィードバック制御の異常(ここでは、水膜形成による前後差圧の増加を低圧EGR流量の増加と誤検知してしまうことによる異常)を回避するために制御装置に排気還流経路の詰まりを判定する診断機能を設け、その診断機能を吸気系金属部品の腐食防止のために制限されるべき凝縮水量の判定にも利用するといったことが考えられるが、詰まり判定が可能な凝縮水量と吸気系金属部品の腐食防止のために制限されるべき凝縮水量には差があるため、NOx低減効果と十分な腐食防止効果を両立させることは容易ではない。
【0013】
本発明は、上述のような従来技術の不具合に鑑みてなされたものであり、凝縮水の発生の抑制とNOx低減効果の確保とを両立させることのできる内燃機関の排気再循環システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る内燃機関の排気再循環システムは、上記課題解決のため、(1)過給用のコンプレッサが装着された吸気管および排気抵抗となる抵抗要素が設けられた排気管を有する内燃機関の前記コンプレッサより下流側の吸気管に前記抵抗要素より上流側の排気管から高圧側の排気ガスを還流させ、該還流させた高圧側の排気ガスを前記下流側の吸気管内の空気と共に前記内燃機関に吸入させる高圧側排気再循環経路を形成する高圧EGR装置と、前記内燃機関の前記抵抗要素より下流側の排気管から前記コンプレッサより上流側の吸気管に前記抵抗要素を通過した後の低圧側の排気ガスを還流させ、該還流させた低圧側の排気ガスを前記上流側の吸気管内の空気と共に前記コンプレッサにより圧縮させた後に前記内燃機関に吸入させる低圧側排気再循環経路を形成する低圧EGR装置と、前記高圧EGR装置および低圧EGR装置を制御し、前記コンプレッサより下流側の吸気管への前記高圧側の排気ガスの還流量と前記コンプレッサより上流側の吸気管への前記低圧側の排気ガスの還流量とをそれぞれに制御する制御装置と、を備えた内燃機関の排気再循環システムであって、前記制御装置は、前記低圧側排気再循環経路中の凝縮水の量を推定する凝縮水量推定手段と、前記凝縮水の量が予め設定された基準水量を超えるとき、前記高圧側の排気ガスの還流量に対する前記低圧側の排気ガスの還流量の比率を前記凝縮水の量が前記基準水量を超えないときに比べて低下させるよう、前記低圧側の排気ガスの還流量を減少させるとともに前記高圧側の排気ガスの還流量を増加させる還流比率制御手段と、を有していることを特徴とする。
【0015】
この排気再循環システムでは、凝縮水量が基準水量を超えると、高圧EGR装置に対し相対的に凝縮水発生量が多くなる低圧EGR装置の排気還流量は、凝縮水量が基準水量を超えないときに比べて減少し、一方、高圧EGR装置の排気還流量は、凝縮水量が基準水量を超えないときに比べて増加することになる。したがって、低圧EGR装置における排気還流量の減少に伴って凝縮水の発生量を減少させることができ、しかも、高圧EGR装置における排気還流量の増加により総排気還流量の不足を補うことで、低圧EGR装置における排気還流量の減少に伴うNOx低減効果の低下を抑えることができる。その結果、凝縮水の発生の抑制とNOx低減効果の確保とを両立させることが可能となる。
【0016】
本発明の内燃機関の排気再循環システムにおいては、(2)前記還流比率制御手段は、前記低圧側の排気ガスの還流量の減少量に応じて前記高圧側の排気ガスの還流量の増加量を変化させるのが好ましい。これにより、低圧EGR装置における排気還流量の減少によるNOx低減効果の低下を抑えるのに適した分だけ、高圧側の排気ガスの還流量を増加させることができ、凝縮水の発生の抑制とNOx低減効果の確保とを確実に両立させることができる。
【0017】
また、本発明の内燃機関の排気再循環システムにおいては、(3)前記制御装置は、前記高圧側の排気ガスの還流量が増加するのに伴って増加する前記内燃機関の排気ガス中の特定排出成分の濃度が許容範囲内に入るよう、前記特定排出成分の濃度に基づいて前記高圧側の排気ガスの還流量を選択的に制限する制約条件判定手段をさらに有しているのが好ましい。この構成により、高圧側の排気ガスの還流量が増加しても、それに伴う特定排出成分の排出量が許容範囲内に抑えられ、NOx低減効果の確保のために他の排気エミッションが悪化することが防止される。
【0018】
本発明の内燃機関の排気再循環システムにおいては、(4)前記低圧EGR装置は、前記低圧側の排気ガスが前記抵抗要素より下流側の排気管から前記コンプレッサより上流側の吸気管に還流するときに該還流中の低圧側の排気ガスを冷却する排気冷却器を有しており、前記凝縮水量推定手段は、前記低圧側排気再循環経路のうち前記排気冷却器から排気還流方向の下流側における凝縮水の量を推定することが好ましい。この構成により、凝縮水が発生し易い排気冷却器から排気還流方向の下流側における凝縮水量を基に凝縮水の発生量の制御がなされることになり、有効な腐食対策が可能となる。
【0019】
上記(4)の構成をとる場合、(5)前記低圧EGR装置は、前記排気冷却器と前記上流側の吸気管との間に前記低圧側の排気ガスの還流量を制御する低圧EGR弁を有し、前記凝縮水量推定手段は、前記低圧側排気再循環経路のうち前記排気冷却器から前記低圧EGR弁までの第1区間内における凝縮水の量と、前記低圧EGR弁から前記上流側の吸気管までの第2区間内における凝縮水の量とを、それぞれ推定することが好ましい。この場合、低圧EGR弁やコンプレッサ等の付近に溜まる凝縮水量がそれぞれ的確に把握でき、それぞれの腐食防止に有効な各区間についての凝縮水の抑制制御を行うことができる。
【0020】
上記(4)または(5)の構成をとる場合、(6)前記低圧EGR装置は、前記低圧側排気再循環経路のうち前記コンプレッサより下流側の第3区間内に前記コンプレッサからの過給空気を冷却する中間冷却器を有し、前記凝縮水量推定手段は、前記低圧側排気再循環経路のうち前記中間冷却器から排気還流方向の下流側における凝縮水の量を推定することを特徴とする。この場合、中間冷却器から排気還流方向の下流側、すなわち吸気マニホールドに到達する直前の通路区間における凝縮水量をも考慮した凝縮水の発生量の制御がなされることになり、より有効な腐食対策が可能となる。
【0021】
本発明の内燃機関の排気再循環システムにおいては、(7)前記内燃機関に吸入空気コンプレッサおよび排気タービンを有するターボ過給機が装着されており、前記コンプレッサが、前記ターボ過給機の前記吸入空気コンプレッサで構成され、前記抵抗要素が、前記ターボ過給機の前記排気タービンで構成されていることが望ましい。この構成により、厳しいNOx低減要求に対し大量の排気再循環を実行する場合であっても、低圧側排気再循環経路を通る排気ガスのエネルギによって排気タービンの回転数が十分に確保され、車両走行時の良好な加速応答性が得られる。
【0022】
本発明の内燃機関の排気再循環システムにおいては、(8)前記抵抗要素が、前記排気管内を通る排気ガスを浄化する排気浄化ユニットで構成されているものであってもよい。この構成により、ターボ過給機以外の過給機を用いる場合であっても、凝縮水の発生の抑制とNOx低減効果の確保とを両立させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、凝縮水量が基準水量を超えると、高圧EGR装置に対し相対的に凝縮水発生量が多くなる低圧EGR装置の排気還流量を凝縮水量が基準水量を超えないときに比べて減少させる一方、高圧EGR装置の排気還流量を凝縮水量が基準水量を超えないときに比べて増加させるようにしているので、低圧EGR装置における排気還流量の減少に伴って凝縮水の発生量を減少させることができるとともに、低圧EGR装置における排気還流量の減少に伴うNOx低減効果の低下を高圧EGR装置における排気還流量の増加によって抑えることができ、その結果、凝縮水の発生の抑制とNOx低減効果の確保とを両立させることのできる内燃機関の排気再循環システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関の排気再循環システムの概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る内燃機関の制御系のブロック構成図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る内燃機関の排気再循環システムにおける制御装置で実行される持ち去られ凝縮水量の算出に使用されるマップの説明図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る内燃機関の排気再循環システムにおける制御装置で実行される凝縮水量の抑制のためのLP流量(低圧側排気還流量)比率制御の概念図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る内燃機関の排気再循環システムにおける制御装置で実行されるLP流量比率制御中のHP流量(高圧側排気還流量)の増量に制約を加える条件の説明図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る内燃機関の排気再循環システムにおける制御装置で実行されるLP流量比率制御のための制御プログラムを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
(一実施形態)
図1〜図6は、本発明に係る内燃機関の排気再循環システムの一実施形態を示しており、この実施形態は、本発明を多気筒内燃機関である直列4気筒のディーゼルエンジン10(以下、単にエンジン10という)に適用したものである。
【0027】
図1に示すように、本実施形態のエンジン10は、その本体ブロック10Mに複数の気筒11を有しており、このエンジン10には、各気筒11内の燃焼室(詳細を図示していない)に燃料を噴射するコモンレール型の燃料噴射装置12と、燃焼室に空気を吸入させる吸気装置13と、燃焼室からの排気ガスを排気させる排気装置14と、排気装置14内の排気エネルギを利用して吸気装置13内で吸入空気を圧縮し燃焼室に空気を過給するターボ過給機15と、このターボ過給機15より上流側の高圧側の排気ガスの一部を吸気側に還流させ再循環させる高圧EGR装置であるHPL−EGR装置16と、このターボ過給機15より下流側の低圧側の排気ガスの一部を吸気側に還流させ再循環させる低圧EGR装置であるLPL−EGR装置17とが装備されている。
【0028】
燃料噴射装置12は、図外の燃料タンクから燃料を汲み上げて高圧の燃圧(燃料圧力)に加圧し吐出するサプライポンプ21と、そのサプライポンプ21からの燃料が導入されるコモンレール22と、このコモンレール22を通して供給される燃料を後述するECU(電子制御ユニット)50からの噴射指令信号に対応するタイミングおよび開度(デューティー比)で燃焼室内に噴射する燃料噴射弁23とを含んで構成されている。なお、サプライポンプ21は、例えばエンジン10の回転動力を利用して駆動され、コモンレール22はサプライポンプ21から供給された高圧燃料を均等な圧力に保ちながら複数の燃料噴射弁23に分配・供給する。燃料噴射弁23は、電磁駆動される公知のニードル弁で構成され、噴射指令信号に応じてその開弁時間を制御されることにより噴射指令信号に応じた噴射量の燃料(例えば軽油)を燃焼室内に噴射・供給することができる。
【0029】
吸気装置13には、吸気マニホールド31と、それより上流側の吸気管32と、吸気管32の最上流部でフィルタにより吸入空気を清浄化するエアクリーナ33と、ターボ過給機15より下流側の吸気管部32b内で吸入空気コンプレッサ15aによる圧縮により昇温した過給空気を冷却するインタークーラ34(冷却器)と、新気の吸入流量を検出するエアフローメータ35と、エンジン10内への吸気量を調整するスロットルバルブ36と、吸気マニホールド31より上流側で吸気温度を検出する吸気温度センサ37(図2参照)とが、それぞれ装着されている。
【0030】
排気装置14は、排気マニホールド41と、それより下流側の排気管42と、アイドル時に排気温度を上げることができるとともにLPL−EGR装置17の背圧を制御することができる排気絞り弁43と、ターボ過給機15より下流側の排気管42に装着された公知の酸化触媒コンバータおよびディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)からなる排気浄化ユニット44と、排気浄化ユニット44を通過した排気ガスの温度を検出する排気温度センサ47と、を含んで構成されている。
【0031】
ターボ過給機15は、互いに回転方向一体に結合された吸入空気コンプレッサ15aおよび排気タービン15bを有し、排気エネルギにより排気タービン15bを回転させるとともに吸入空気コンプレッサ15aを回転させることで、この吸入空気コンプレッサ15aにより吸入空気を圧縮してエンジン10内に正圧の空気を供給することができる。
【0032】
HPL−EGR装置16は、排気マニホールド41および吸気管32の間に介装されたHPL−EGRパイプ61と、このHPL−EGRパイプ61の途中に装着されて排気ガスの還流量を調整することができるHPL−EGR弁62(高圧EGR弁)と、を有している。
【0033】
HPL−EGRパイプ61は、排気管42内の排気通路のうち排気タービン15bより上流側の上流側排気管部42aまたは排気マニホールド41の内部と、吸気管32のうち吸入空気コンプレッサ15aより下流側の下流側吸気管部32bまたは吸気マニホールド31の内部とを連通させ、排気タービン15bを抵抗要素としてそれより上流側で高圧となる高圧側の排気ガスをエンジン10の吸気マニホールド31の直前または内部に還流させることができるようになっており、還流させた排気ガスを吸入空気コンプレッサ15a側から過給される空気と共にエンジン10に吸入させることができるようになっている。このHPL−EGRパイプ61は、吸気マニホールド31および排気マニホールド41と共にエンジン10に高圧側の排気ガスを再循環させる高圧側排気再循環経路L1を形成するとともに、その内部に高圧側排気再循環経路L1の主要部をなす高圧側排気還流通路61wを形成している。また、HPL−EGR弁62は、HPL−EGRパイプ61内の高圧側排気還流通路61wを開通させる開弁状態と、この高圧側排気還流通路61wの開通を制限(例えば遮断)する閉弁状態とに切替え可能になっている。
【0034】
LPL−EGR装置17は、排気管42および吸気管32の間に介装されたLPL−EGRパイプ71(低圧側の排気還流管)と、このLPL−EGRパイプ71の途中に装着されて排気ガスの還流量を調整することができるLPL−EGR弁72(低圧EGR弁)と、LPL−EGRパイプ71内を通る排気ガスをその途中で冷却することができる排気冷却器としてのLPL−EGRクーラ73と、LPL−EGRクーラ73より排気還流方向の上流側に位置する異物捕集フィルタ74と、下流側の排気管42内の排気通路42wのうち排気浄化ユニット44より下流側の排気通路部分でその通路断面積を絞るように開度を縮小させることができる前述の排気絞り弁43と、を有している。
【0035】
LPL−EGRパイプ71は、排気管42のうち排気タービン15bより下流側の下流側排気管部42bと吸気管32のうち吸入空気コンプレッサ15aより上流側の上流側吸気管部32aとを連通させ、排気タービン15bを抵抗要素としてそれより下流側で低圧となる低圧側の排気ガスを上流側吸気管部32a内に還流させることができるようになっており、還流させた排気ガスを上流側吸気管部32a内に導入された吸入空気と共に吸入空気コンプレッサ15aにより圧縮させた後にエンジン10に再度吸入させることができるようになっている。
【0036】
また、LPL−EGRパイプ71は、LPL−EGRパイプ71が吸気管32に接続される位置J1より下流側の吸気管32およびLPL−EGRパイプ71が排気管42に接続される位置J2より上流側の排気管42と共に、エンジン10に低圧側の排気ガスを再循環させる低圧側排気再循環経路L2を形成するとともに、その内部に低圧側排気再循環経路L2の主要部をなす低圧側排気還流通路71wを形成している。
【0037】
LPL−EGR弁72は、LPL−EGRクーラ73と吸気管32の上流側吸気管部32aとの間に配置されて低圧側の排気ガスの還流量を制御する、開閉および開度制御可能な弁であり、低圧側排気還流通路71wを開通させる開弁状態と、この低圧側排気還流通路71wの開通を制限(例えば遮断)する閉弁状態とに切替え可能になっている。
【0038】
LPL−EGRクーラ73は、詳細を図示しないが、低圧側排気還流通路71wの一部を形成するガス管部と、そのガス管部の周囲に冷却用流体通路を形成するハウジング部とを有しており、ハウジング部に導入される冷却用流体(例えば、エンジン冷却水)とガス管部内の低圧側排気還流通路71wの一部を通る還流排気ガスとの間における熱交換によって、低圧側の還流排気ガスを冷却できるようになっている。
【0039】
異物捕集フィルタ74は、網目の細かいメッシュ状のもので、排気浄化ユニット44を通過した還流排気ガス中の混入異物、例えばスパッタ(溶接時の飛散物)や排気浄化ユニット44からの脱落片等の異物がターボ過給機15の吸入空気コンプレッサ15aに入ってダメージを与えたりすることがないよう、そのような異物をLPL−EGRクーラ73より排気還流方向の上流側で捕集して還流排気ガス中から除去するようになっている。
【0040】
インタークーラ34は、LPL−EGR装置17によって形成される低圧側排気再循環経路L2のうち吸入空気コンプレッサ15aより下流側の第3区間内において、吸入空気コンプレッサ15aからの過給空気(圧縮により昇温した空気)を冷却するようになっている。このインタークーラ34は、詳細を図示しないが、低圧側排気還流通路L2の一部となる吸気通路32wの第3区間の一部を形成するガス管部と、そのガス管部の周囲に冷却用流体通路を形成するハウジング部とを有しており、ハウジング部に導入される冷却用流体(例えば、エンジン冷却水)とガス管部内を通る低圧側の還流排気ガスとの間における熱交換によって、低圧側の還流排気ガスを冷却できるようになっている。
【0041】
HPL−EGR装置16およびLPL−EGR装置17は、電子制御ユニットであるECU50(制御装置)によってHPL−EGR弁62およびLPL−EGR弁72の開閉動作および開度を制御され、吸気管32の下流側吸気管部32bへの高圧側排気ガスの還流量(以下、HP流量ともいう)と、吸気管32の上流側吸気管部32aへの低圧側排気ガスの還流量(以下、LP流量ともいう)とをそれぞれに制御されるようになっている。
【0042】
ECU50は、詳細なハードウェア構成を図示しないが、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、EEPROM(Electronically Erasable and Programmable Read Only Memory)等の不揮発性メモリ、A/D変換器やバッファ等を有する入力インターフェース回路、および、駆動回路等を有する出力インターフェース回路を含んで構成されている。そして、図2に示すように、このECU50が、エンジン10の運転制御、例えばサプライポンプ21の吐出制御(例えば、その電磁スピル弁の制御)、燃料噴射弁23による燃料噴射量制御、スロットルバルブ36の開度制御、HPL−EGR弁62やLPL−EGR弁72の開度(EGR率)制御、排気絞り弁43の開度制御等を実行するようになっている。
【0043】
図2に示すように、ECU50には、エアフローメータ35、吸気温度センサ37および排気温度センサ47の他に、図外のアクセルペダルの踏み込みを検出するアクセル開度センサ101、スロットルバルブ36の開度を検出するスロットル開度センサ102、所定角度単位のクランク軸回転信号を出力するクランク角センサ103、エンジン10の冷却水温を検出する水温センサ104、吸気マニホールド31の入口付近でエンジン10の過給圧を検出する吸気管内圧力センサ105、外気温度を検出する外気温度センサ106、低圧側排気還流通路71wの両端(図1中の位置j1、j2)の間の差圧を検出するLP差圧センサ107、エンジン10が搭載された車両の走行速度または車輪回転速度を検出する車速センサ108等がそれぞれ接続されており、これらのセンサ群35,37,47および101〜108からのセンサ情報がECU50に取り込まれるようになっている。一方、ECU50には、図示しないそれぞれの駆動回路を介してサプライポンプ21(例えば、その電磁スピル弁)、複数の燃料噴射弁23、スロットルバルブ36、HPL−EGR弁62、LPL−EGR弁72(具体的には、これらの電磁駆動部(符号無し))がそれぞれ接続されている。また、ECU50のROMには、入力インターフェース回路に取り込まれるアクセル開度センサ101からの加速要求やクランク角センサ103からのエンジン回転数等を所定時間毎に取り込んでエンジン10の燃焼室内への燃料噴射量等を算出するための演算処理プログラムやマップ等が格納されている。
【0044】
ところで、本実施形態のエンジン10においては、HPL−EGR装置16およびLPL−EGR装置17により排気管42側から吸気管32側に排気ガスを還流させてエンジン10に再度吸入させる高圧側排気再循環経路L1および低圧側排気再循環経路L2を形成し、かつ、低圧側排気再循環経路L2中の排気ガスをLPL−EGRクーラ73により冷却するとともに、吸気管32内の吸気通路のうち吸入空気コンプレッサ15aより下流側の過給空気をインタークーラ34により冷却するようにしている。したがって、特に、LPL−EGRクーラ73やインタークーラ34により還流排気ガスやそれが混じった吸入空気(以下、双方を指してEGRガスという)が冷却され、EGRガス中の水分が冷やされることで、酸性の凝縮水が発生し易くなる。
【0045】
そこで、HPL−EGR装置16およびLPL−EGR装置17を制御するECU50は、次に述べる凝縮水量推定部51(凝縮水量推定手段)および還流比率制御部52(還流比率制御手段)の機能を発揮するように、ROM内にこれらの機能部に対応する制御プログラムを内蔵している。
【0046】
凝縮水量推定部51は、低圧側排気再循環経路L2のうちLPL−EGRクーラ73から排気還流方向の下流側における凝縮水の量を推定するようになっている。また、凝縮水量推定部51は、低圧側排気再循環経路L2のうちLPL−EGRクーラ73からLPL−EGR弁72までの第1区間内における凝縮水の量と、LPL−EGR弁72から上流側吸気管部32aまでの第2区間内における凝縮水の量と、インタークーラ34から排気還流方向の下流側の第3区間における凝縮水の量とを、それぞれ推定するようになっている。
【0047】
この凝縮水量推定部51は、低圧側排気再循環経路L2中に生じる凝縮水量の概略値を公知の方法により推定するもの、例えば排気管温度が所定値より低い時間が継続した低温継続時間に応じて推定するもの(例えば、特開2007−205303号公報参照)や、管壁温度等を考慮して凝縮水量を算出・推定するもの(例えば、特開2009−228564号公報参照)であってもよいが、ECU50の処理負荷や装置コストを抑えつつ凝縮水量を精度良くかつ安定して推定できるものであるのが好ましい。
【0048】
具体的には、凝縮水量推定部51は、例えば発生する凝縮水量を予めROM内に格納された算出モデルによって算出・推定するとともに、第1〜第3区間のうち対象区間内で単位時間毎に発生する凝縮水量のうち下流側に持ち去られる持ち去られ凝縮水量を予めの実験結果を基に作成したマップM1とその引数となるセンサ情報とにより推定し、凝縮水の発生量の推定値から持ち去られ量の推定値を差し引いて実際の凝縮水量を算出・推定するようになっている。
【0049】
より具体的には、マップM1は、図3に示すように、例えば専ら対象区間内を単位時間毎に通る低圧側排気ガスの還流量の増加に対応して増加する傾向となる持ち去られ凝縮水量を、第1〜第3区間の各区間について予めの実験によって求めたものであるか、さらに低圧EGRガス温度を引数に含めて凝縮水量をより精度良く推定可能にしたマップで構成され、あるいは、特定区間についての実験結果から作成したマップとそれを基に他の区間での持ち去られ凝縮水量を算出するための計算式の組合せで構成される。ここで、単位時間毎の低圧側排気ガス還流量(LP流量)は、例えばLP差圧センサ107の検出値から算出可能である。
【0050】
また、凝縮水量推定部51での算出モデルによる凝縮水の発生量の算出においては、まず、外気温度や大気圧、吸気マニホールド31の入口付近の吸入空気の温度および圧力等を基に、吸入空気中の水分量(蒸気/空気(mol%)=水蒸気圧/大気圧)および露点温度を算出するとともに、吸入空気の組成(各気体分子(N ,O ,Ar)および水(HO)のモル比)を求め、さらに、既知の燃料および吸入空気組成成分の質量と、センサ情報として得られる吸入空気量および制御値として把握している燃料噴射量から求まる空燃比とに基づいて、燃焼前後のガスの分子量をガス中の各成分のモル比と質量(次に述べる式中では括弧付の値と各成分の記号で示す)の積の和で表したモデル、例えば燃焼前のガスの分子量=(1)・CHx+(1+x/4+a)・O2+(b)・N2+(c)・Ar+(d)・H2O に対して、既燃ガスすなわち燃焼後のガスの分子量=(1)・CO2+(x/2+d)・H2O+(a)・O2+(b)・N2+(c)・Arによって算出し、その算出結果と既燃ガスの温度および圧力の検出値とから求まる既燃ガスの蒸気圧、分子量および密度等に基づいて、既燃ガス中の水分量(既燃ガスの絶対湿度)を算出する。そして、凝縮水量推定部51は、その既燃ガス中の水分量と、前記第1区間、第2区間または第3区間内での冷却条件下における相対湿度100%の既燃ガス中の水分量との差として、凝縮水の発生量を算出する。
【0051】
なお、第2区間においては、吸気管32の上流側から吸入される新気と低圧側排気還流通路71wを通過した還流排気ガスとが合流する位置j1から吸入空気コンプレッサ15aに入るまでのミキシング区間ではなく、低圧側排気還流通路71wのうちLPL−EGR弁72より排気還流方向下流側の部分(位置j1までの区間)とすることで、凝縮水量推定部51の算出精度を確保できる。
【0052】
図4に示すように、還流比率制御部52は、凝縮水量推定部51によって予め設定され計算周期で単位期間毎に凝縮水の発生量算出値Qw1から持ち去られ凝縮水量Qw2を差し引いた今回の実凝縮水量の算出値Qwa[g/s]が算出されるとき、その算出値Qwaを、吸気系部品の腐食防止等のために対象区間に要求される凝縮水の基準水量として予め設定されたクライテリアQwb(基準水量)から対象区間における凝縮水量の現在の蓄積量Qwcを差し引いた値である許容水量Qwdと比較することにより、凝縮水量推定部51により算出された今回の凝縮水量Qwaと現在までの凝縮水の蓄積量Qwcとの和である最新の凝縮水量がクライテリアQwbを超えるか否かを判定するようになっている。
【0053】
また、還流比率制御部52は、図4中の(ii)部分に示す発生量Qwaで示す今回の実凝縮水量の算出値(以下、凝縮水量Qwaともいう)が許容水量Qwdを上回るとき、すなわち、今回の凝縮水量Qwaと現在の運転期間における凝縮水の蓄積量Qwc(例えば、エンジン10の冷却水温度や排気管温度が所定値より低く凝縮水が生じ得るようになってから現在までの累積運転時間またはエンジン10の始動時から冷却水温度や排気管温度が所定値より低い現在までの運転期間における凝縮水量Qwaの積算値)との和である最新の凝縮水量がクライテリアQwbを超えるときには、最新の凝縮水量が基準水量Qwbを超えないときに比べて高圧側排気ガスの還流量(HP流量)に対する低圧側排気ガス還流量(LP流量)の比率を低下させるように、その比率を可変制御するようになっている。なお、図4および図5中では、低圧側排気ガス還流量をLP流量と、高圧側排気ガス還流量をHP流量と記している。
【0054】
すなわち、還流比率制御部52は、図4中の(ii)部分に示すように今回の実凝縮水量の算出値Qwaが許容水量Qwdを上回るときには、今回の実凝縮水量の算出値Qwaを許容水量Qwdに抑えるべく、その凝縮水量Qwdに対応する許容LP流量Xを算出するとともに、その許容LP流量Xまでの低圧側排気ガス還流量(LP流量)の低下によってLPL−EGR装置17およびHPL−EGR装置16におけるNOx低減効果が低下するのを抑えるよう、許容LP流量XまでのLP流量の減少量に応じ高圧側排気ガス還流量(HP流量)の増加量を変化させて、LP流量のHP流量に対する比率(以下、LP流量比率ともいう)を可変制御するようになっている。なお、LP流量を許容LP流量Xまで減少させるときには、LPL−EGR弁72の開度を縮小させるか、排気絞り弁43を開く、あるいは、その双方を実行することになる。
【0055】
またECU50は、さらに、次の制約条件判定部53(制約条件判定手段)の機能を発揮するように、ROM内にこの機能部に対応する制御プログラムを内蔵している。
【0056】
制約条件判定部53は、例えば高圧側の排気ガスの還流量が増加するのに伴って増加傾向を示すエンジン10の排気ガス中の特定排出成分の濃度値が許容範囲内に入るようにするという制約条件に従って、その特定排出成分の濃度が予め設定した制約値に達するときのエンジン10の運転条件に基づいて、高圧側の排気ガスの還流量を選択的に減少させることができるようになっている。
【0057】
より具体的には、制約条件判定部53は、例えば図5に示すように、エンジン回転数、燃料噴射量および吸気中の酸素濃度が一定となる運転条件下において吸気マニホールド31内の吸気温度が高くなるほど増加する傾向を示すスモーク成分の濃度値(FSN:Filter Smoke Number)が許容範囲内に入るように、図2中に示すマップM2(公知の簡易Sootモデルでもよい)によりスモーク成分の濃度値を所定時間毎に算出し、その算出値が制約値(例えば、スモークFSN=1)に達するときの吸気温度を超えないようにするという制約条件の下で、吸気マニホールド31内の吸気温度を高圧側の排気ガスの還流量を適宜制限するようになっている。
【0058】
勿論、ここにいう特定排出成分は、スモークでなくHC(炭化水素)であってもよいしこれらの両者を含むもの(複数種類の排出成分)であってもよい。
【0059】
次に、作用について説明する。
【0060】
図6は、ECU50で所定時間毎に実行される制御プログラムの概略の処理手順を示すフローチャートである。この制御プログラムは、ECU50により上述した燃料噴射量の制御等を実行させるための制御プログラムと並行して、ECU50に凝縮水量推定部51、還流比率制御部52および制約条件判定部53の機能を発揮させるべく、所定時間毎に繰り返し実行される。
【0061】
図6に示すように、この制御においては、まず、各種センサ群35,37,47および101〜108からのセンサ情報がECU50に取り込まれて、エンジン10の運転状態が取得される(ステップS11)。
【0062】
次いで、凝縮水量推定部51によって予め設定され計算周期で単位期間毎に凝縮水の発生量Qw1から持ち去られ凝縮水量Qw2を差し引いた今回の実発生凝縮水量Qwaが算出される(ステップS12)。
【0063】
次いで、吸気系部品の腐食防止等のために対象区間毎に設定されたクライテリアQwbからその対象区間内における凝縮水量の現在の蓄積量Qwcを差し引いて、許容水量Qwdが算出される(ステップS13)。
【0064】
次いで、今回の実発生凝縮水量Qwaと許容水量Qwdとが比較され、今回の凝縮水量Qwaと現在までの凝縮水の蓄積量Qwcとの和である最新の凝縮水量がクライテリアQwbを超えるか否かが判定される(ステップS14)。
【0065】
このとき、今回の実発生凝縮水量Qwaが許容水量Qwdを超えていれば(ステップS14でYESの場合)、次いで、実発生凝縮水量Qwaを許容水量Qwdまでの値に抑えるべく、還流比率制御部52が低圧側排気ガス還流量の高圧側排気ガス還流量に対する比率であるLP流量比率を低減させる(ステップS15)。そして、そのLP流量比率になるように、凝縮水量Qwdに対応する許容LP流量Xが算出されるとともに(ステップS16)、許容LP流量Xまでの低圧側排気ガス還流量(LP流量)の低下によってLPL−EGR装置17およびHPL−EGR装置16におけるNOx低減効果が低下するのを抑えるように、高圧側排気ガス還流量(HP流量)を低圧側排気ガス還流量の低下量に応じて増加させた要求HP流量Yが算出される(ステップS17)。
【0066】
この間、制約条件判定部53によって排気ガス中のスモーク成分やHCの濃度値が所定時間毎に算出され、その算出値が制約値を超えない(制約値以下)か判定される(ステップS18)。そして、排気ガス中のスモーク成分やHCの濃度値がその制約値を超えなければ(ステップS18のYESの場合)、今回の処理を終了する。
【0067】
一方、排気ガス中のスモーク成分やHCの濃度値がその制約値を超えると判定されたときには(ステップS18のNOの場合)、次いで、排気ガス中のスモーク成分やHCの濃度値がその制約値以下になるように、要求HP流量Yが小さい値に補正される。このとき、低圧側排気ガス還流量および高圧側排気ガス還流量の和である全EGR流量が減少し、NOx低減効果は多少低下するが、排気ガス中のスモーク成分やHCの増加によって排気浄化性能が損なわれることが回避できることになる。
【0068】
このように、本実施形態の排気再循環システムにおいては、低圧側排気再循環経路L2中の凝縮水の量(今回の実発生凝縮水量Qwaと蓄積量Qwcの和)が基準水量であるクライテリアQwbを超えると、HPL−EGR装置16に対し相対的に凝縮水発生量が多くなるLPL−EGR装置17における排気還流量は、凝縮水量が基準水量を超えないときに比べて減少し、一方、HPL−EGR装置16における排気還流量は、凝縮水量が基準水量を超えないときに比べて増加するような制御が実行される。
【0069】
したがって、低圧側排気再循環経路L2中の凝縮水量が増加したときに、LPL−EGR装置17における排気還流量の減少に伴って凝縮水の発生量を減少させることができ、しかも、LPL−EGR装置17における排気還流量の減少に伴うNOx低減効果の低下を、HPL−EGR装置16における排気還流量の増加によって抑えることができる。その結果、凝縮水の発生の抑制とNOx低減効果の確保とを両立させることが可能となる。
【0070】
また、本実施形態では、LPL−EGR装置17における排気還流量の減少によるNOx低減効果の低下を抑えるのに適した分だけ、HPL−EGR装置16によって高圧側の排気ガスの還流量を増加させることができるので、凝縮水の発生の抑制とNOx低減効果の確保とを確実に両立させることができる。
【0071】
さらに、高圧側の排気ガスの還流量が増加しても、それに伴う特定排出成分の排出量が許容範囲内に抑えられ、NOx低減効果の確保のために他の排気エミッションが悪化してしまうようなことが未然に防止される。
【0072】
加えて、本実施形態においては、凝縮水が発生し易いLPL−EGRクーラ73から排気還流方向の下流側における凝縮水量を基に凝縮水の発生量の制御がなされることから、吸入空気コンプレッサ15aやバルブ類等の有効な腐食対策が可能となる。
【0073】
また、凝縮水量推定部51は、LPL−EGRクーラ73からLPL−EGR弁72までの第1区間とLPL−EGR弁72から吸気管32までの第2区間とについてそれぞれ凝縮水量を推定して、各区間について設定した基準水量を基に凝縮水量の判定を行うので、凝縮水量を的確に抑制してLPL−EGR弁72や吸入空気コンプレッサ15a等の的確な腐食防止を図ることができる。さらに、インタークーラ34から排気還流方向の下流側で、吸気マニホールド31に到達する直前の通路区間における凝縮水量をも考慮した凝縮水量の抑制制御がなされることになり、吸気弁やその弁座等に対する有効な腐食対策が可能となる。
【0074】
また、本実施形態においては、厳しいNOx低減要求に対し大量の排気再循環を実行する場合であっても、低圧側排気再循環経路L2を通る排気ガスのエネルギによって排気タービン15bの回転数[rpm]が十分に確保されるので、車両走行時の良好な加速応答性が得られることになる。
【0075】
このように、本実施形態の排気再循環システムにおいては、凝縮水量が基準水量を超えると、HPL−EGR装置16に対し相対的に凝縮水発生量が多くなるLPL−EGR装置17の排気還流量(LP流量)を凝縮水量が基準水量を超えないときに比べて減少させる一方、HPL−EGR装置16の排気還流量(HP流量)を凝縮水量が基準水量を超えないときに比べて増加させるようにしているので、LPL−EGR装置17における排気還流量の減少に伴って凝縮水の発生量を減少させることができるとともに、LPL−EGR装置17における排気還流量の減少に伴うNOx低減効果の低下をHPL−EGR装置16における排気還流量の増加によって抑えることができる。
【0076】
なお、上述の各実施形態においては、凝縮水量推定部51によって一定時間毎の実凝縮水量Qwaを算出していたが、低圧側排気再循環経路L2中に生じた実際の凝縮水の部分的な蓄積量や貯留液面レベルをセンサで検知して対象区間内の凝縮水量を算出・推定するようなものであってもよい。
【0077】
また、上述の各実施形態においては、エンジン10にターボ過給機15が装着されるとともに、排気管42内の排気通路を高圧側と低圧側に区画する抵抗要素がターボ過給機15の排気タービン15bで構成されていたが、本発明は、ターボ過給機を有しない内燃機関についても適用可能である。例えば、排気管42内を通る排気ガスを浄化する排気浄化ユニット44によって本発明にいう抵抗要素が構成され、エンジン10が排気タービン15bを有しないような場合にも本発明は適用可能である。そして、そのような構成を採用する場合においても、凝縮水量が多くなったときに的確にLP流量比率が低減され、凝縮水の発生量が抑えられるので、凝縮水の発生の抑制とNOx低減効果の確保とを両立させることができる。
【0078】
以上説明したように、本発明に係る内燃機関の排気再循環システムは、凝縮水量が基準水量を超えると、高圧EGR装置に対し相対的に凝縮水発生量が多くなる低圧EGR装置の排気還流量を凝縮水量が基準水量を超えないときに比べて減少させるよう、その高圧側の排気還流量に対する流量比率を制御するようにしているので、低圧EGR装置における排気還流量の減少に伴って凝縮水の発生量を減少させるとともに、低圧EGR装置によるNOx低減効果の低下を高圧EGR装置における排気還流量の増加によって補うことができ、その結果、凝縮水の発生の抑制とNOx低減効果の確保とを両立させることのできる内燃機関の排気再循環システムを提供することができるという効果を奏するものであり、排気ガスから生じる凝縮水による吸気系金属部品の腐食防止を図った内燃機関の排気再循環システム全般に有用である。
【符号の説明】
【0079】
10 エンジン(内燃機関、ディーゼルエンジン)
11 気筒
15 ターボ過給機
15a 吸入空気コンプレッサ(コンプレッサ)
15b 排気タービン(抵抗要素)
16 HPL−EGR装置(高圧EGR装置)
17 LPL−EGR装置(低圧EGR装置)
32 吸気管
34 インタークーラ(中間冷却器)
42 排気管
43 排気絞り弁
44 排気浄化ユニット
50 ECU(電子制御ユニット、制御装置)
51 凝縮水量推定部(凝縮水量推定手段)
52 還流比率制御部(還流比率制御手段)
53 制約条件判定部(制約条件判定手段)
61w 高圧側排気還流通路
62 HPL−EGR弁(高圧EGR弁)
71w 低圧側排気還流通路
72 LPL−EGR弁(低圧EGR弁)
73 LPL−EGRクーラ(排気冷却器、低圧EGRクーラ)
104 水温センサ
105 吸気管内圧力センサ
106 外気温度センサ
107 LP差圧センサ
L1 高圧側排気再循環経路
L2 低圧側排気再循環経路
Qw1 発生量(発生量算出値)
Qw2 持ち去られ凝縮水量
Qwa 実発生凝縮水量(凝縮水量)
Qwb クライテリア(基準水量)
Qwc 蓄積凝縮量(蓄積量)
Qwd 許容水量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過給用のコンプレッサが装着された吸気管および排気抵抗となる抵抗要素が設けられた排気管を有する内燃機関の前記コンプレッサより下流側の吸気管に前記抵抗要素より上流側の排気管から高圧側の排気ガスを還流させ、該還流させた高圧側の排気ガスを前記下流側の吸気管内の空気と共に前記内燃機関に吸入させる高圧側排気再循環経路を形成する高圧EGR装置と、前記内燃機関の前記抵抗要素より下流側の排気管から前記コンプレッサより上流側の吸気管に前記抵抗要素を通過した後の低圧側の排気ガスを還流させ、該還流させた低圧側の排気ガスを前記上流側の吸気管内の空気と共に前記コンプレッサにより圧縮させた後に前記内燃機関に吸入させる低圧側排気再循環経路を形成する低圧EGR装置と、前記高圧EGR装置および低圧EGR装置を制御し、前記コンプレッサより下流側の吸気管への前記高圧側の排気ガスの還流量と前記コンプレッサより上流側の吸気管への前記低圧側の排気ガスの還流量とをそれぞれに制御する制御装置と、を備えた内燃機関の排気再循環システムであって、
前記制御装置は、
前記低圧側排気再循環経路中の凝縮水の量を推定する凝縮水量推定手段と、
前記凝縮水の量が予め設定された基準水量を超えるとき、前記高圧側の排気ガスの還流量に対する前記低圧側の排気ガスの還流量の比率を前記凝縮水の量が前記基準水量を超えないときに比べて低下させるよう、前記低圧側の排気ガスの還流量を減少させるとともに前記高圧側の排気ガスの還流量を増加させる還流比率制御手段と、を有していることを特徴とする内燃機関の排気再循環システム。
【請求項2】
前記還流比率制御手段は、前記低圧側の排気ガスの還流量の減少量に応じて前記高圧側の排気ガスの還流量の増加量を変化させることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気再循環システム。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記高圧側の排気ガスの還流量が増加するのに伴って増加する前記内燃機関の排気ガス中の特定排出成分の濃度が許容範囲内に入るよう、前記特定排出成分の濃度に基づいて前記高圧側の排気ガスの還流量を選択的に制限する制約条件判定手段をさらに有していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の内燃機関の排気再循環システム。
【請求項4】
前記低圧EGR装置は、前記低圧側の排気ガスが前記抵抗要素より下流側の排気管から前記コンプレッサより上流側の吸気管に還流するときに該還流中の低圧側の排気ガスを冷却する排気冷却器を有しており、
前記凝縮水量推定手段は、前記低圧側排気再循環経路のうち前記排気冷却器から排気還流方向の下流側における凝縮水の量を推定することを特徴とする請求項1ないし請求項3のうちいずれか1の請求項に記載の内燃機関の排気再循環システム。
【請求項5】
前記低圧EGR装置は、前記排気冷却器と前記上流側の吸気管との間に前記低圧側の排気ガスの還流量を制御する低圧EGR弁を有し、
前記凝縮水量推定手段は、前記低圧側排気再循環経路のうち前記排気冷却器から前記低圧EGR弁までの第1区間内における凝縮水の量と、前記低圧EGR弁から前記上流側の吸気管までの第2区間内における凝縮水の量とを、それぞれ推定することを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の排気再循環システム。
【請求項6】
前記低圧EGR装置は、前記低圧側排気再循環経路のうち前記コンプレッサより下流側の第3区間内に前記コンプレッサからの過給空気を冷却する中間冷却器を有し、
前記凝縮水量推定手段は、前記低圧側排気再循環経路のうち前記中間冷却器から排気還流方向の下流側における凝縮水の量を推定することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の内燃機関の排気再循環システム。
【請求項7】
前記内燃機関に吸入空気コンプレッサおよび排気タービンを有するターボ過給機が装着されており、
前記コンプレッサが、前記ターボ過給機の前記吸入空気コンプレッサで構成され、
前記抵抗要素が、前記ターボ過給機の前記排気タービンで構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のうちいずれか1の請求項に記載の内燃機関の排気再循環システム。
【請求項8】
前記抵抗要素が、前記排気管内を通る排気ガスを浄化する排気浄化ユニットで構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項7のうちいずれか1の請求項に記載の内燃機関の排気再循環システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−163061(P2012−163061A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24908(P2011−24908)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】