説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】排ガス流量が減少した後に、排ガス流量が少ない状態が継続する場合においても、DPF入口温度を目標温度に安定的に制御できる内燃機関の排ガス浄化装置を提供することを目的とする。
【解決手段】フィードフォワード制御手段47と、DPF7の目標温度に対する補正操作量を指令するフィードバック制御手段49と、フィードフォワード手段47からの基本操作量とフィードバック制御手段49からの補正操作量とを加算して操作量を算出する操作量加算手段51とを有し、排ガス流量が急減少したときにフィードバック制御手段49を構成する積分器の積分値をリセットする積分器リセット手段55、または排ガス流量に基づく信号によってフィードフォワード制御手段の基本操作量を算出する基本操作量算出手段の少なくとも一方を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの排気浄化装置に関するもので、特に、排ガス中に含まれるパティキュレートマター(粒子状物質、以下PMと略す)を捕集するディーゼルパティキュレートフィルター(以下DPFと略す)の再生時のDPF入口温度制御に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排ガス規制において、NOx低減と同様に重要なのが、PMの低減である。これに対する有効な技術として、DPFが知られている。
DPFは、フィルターを用いたPM捕集装置であり、排ガス温度が低いエンジン運転状態では、このDPFにPMが貯まり続けるので、強制的に温度を上げてPMを燃焼する強制再生が行われる。
【0003】
温度上昇の手段として、一般的に、燃料噴射タイミングの遅延やポスト噴射や吸気絞り等を行うが、これらはいずれも燃費の悪化を伴う問題がある。一方、温度が高いほどPM燃焼速度が高くなり強制再生を短時間に効率的に行うことができDPF再生に伴う燃費悪化は小さくなる。
ところが、DPF温度が高すぎるとPMが急速に燃焼することで、DPF温度が急上昇し、DPFの破損あるいはDPFに担時下触媒の劣化等をまねく恐れがある。
このため、燃費悪化を抑制し、かつ安全にDPFを再生するために、DPF温度を再生に適した温度に維持できるような温度制御が必要となる。
【0004】
DPF強制再生時の昇温制御の例として、特開2005−320962号公報(特許文献1)が存在する。この特許文献1は、DPF再生中の温度制御において、運転状態に応じた最適なフィードバックゲインを用いて、目標温度へのフィードバックによる昇温制御の安定性と応答性を両立させることが示されている。
昇温操作量に対する排気温度変化は時間遅れをもち、さらに運転状態の変化によっても、制御対象の時間遅れが変化する。例えば、排気流量が増加すると、熱伝達率が増加して時間遅れが減少し、排気流量が小さくなると、操作量変化に対する排気温度変化の時間遅れや時定数が大きくなり時間遅れが増大する。
そのため、運転状態を検出して、この運転状態によって定まる排気流量と時間遅れとの関係から現在の時間遅れの大きさ知り、それに応じた最適なフィードバックゲインを算出して、該フィードバックゲインを用いて昇温操作量の補正を行うことで、時間遅れを考慮した補正を行って、速やかに目標温度に近づけることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−320962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1は前記のようにフィードバックゲインの補正を行うことで、速やかに目標温度に近づけることが示されているが、特に、排気流量が小さくなる場合においては、操作量(ポスト噴射量)変化に対する排気温度変化の時間遅れや時定数が大きくなるため、ポスト噴射量が例えば過剰な状態でも、DPFの入口温度の変化として現れるまでの時間が長くなり、排ガス温度の制御性能が悪化することから、単にフィードバックゲインの補正だけではDPF入口温度制御の安定性の向上は得られない。
【0007】
なお、フィードフォワード制御によって様々な運転条件点において適正な温度制御が行われていれば、定常状態におけるフィードバック操作量はゼロとなり、前記のようなフィードバックにおける問題点は発生しないが、小型汎用エンジンのように使用される回転数と負荷が独立に変化する場合には、全ての運転条件でフィードフォワード操作量を適正化することは困難である。
例えば、排ガス流量が短時間で急低下した後に、排ガス流量が少ない状態が継続する場合には、DPF入口温度が高くなる現象が発生し、これをフィードバック制御のゲインの改善やフィードフォワード制御の制御量の適正化で解決することは困難である。
【0008】
そこで、本発明はこれら問題に鑑みてなされたもので、排ガス流量が急減少した後に、排ガス流量が少ない状態が継続する場合においても、DPF入口温度を目標温度に安定的に制御できる内燃機関の排ガス浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、排気通路に酸化触媒(DOC)および排気微粒子(PM)を捕集するディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)を備え、前記DPFに捕集されたPMを再生処理する内燃機関の排気浄化装置において、前記PMの堆積量が所定値を超えた時に、昇温手段を制御して前記DPFを所定の目標温度近傍まで昇温して堆積したPMを焼却除去する再生制御手段を備え、該再生制御手段は、内燃機関の運転条件に基づいて前記昇温手段の基本操作量を指令するフィードフォワード制御手段と、DPFの目標温度に対する補正操作量を指令するフィードバック制御手段と、前記フィードフォワード手段からの基本操作量と前記フィードバック制御手段からの補正操作量とを加算して操作量を算出する操作量加算手段とを有し、排ガス流量若しくは該排ガス流量から算出した制御値によって排ガス流量が急減少したことを判断したときに前記フィードバック制御手段を構成する積分器の積分値をリセットする積分器リセット手段、または排ガス流量若しくは該排ガス流量から算出した制御値によって前記フィードフォワード制御手段の基本操作量を算出する基本操作量算出手段の少なくとも一方を備えたことを特徴とする。
【0010】
かかる発明によれば、前記DPFを通過する排ガス流量若しくは該排ガス流量から算出した制御値に基づいて、排ガス流量が急減少したことを判断したときに前記フィードバック制御手段を構成する積分器の積分値をリセットする積分器リセット手段を備えるため、例えば、PID制御における積分器に保持されている積分値が残っていることによって、昇温操作量であるレイトポスト噴射量に悪影響が生じることが防止される。この結果、排ガス流量が急激に減少した場合においても、DPF入口温度を目標温度付近に保持できる。
【0011】
すなわち、排ガス流量が急減少し、排ガス流量が少ない状態が継続する運転条件のときに、フィードフォワード制御手段から内燃機関の運転条件に基づいて昇温手段の基本操作量が指令されるが、その際に、従来技術においては、フィードバック制御手段の積分器には排ガス流量が急減少する前の積分値が残っている場合(たまっている場合)には、特に、排ガス流量が減少する方向においては、DPF入口温度の応答性が遅い(むだ時間が長い)ため、蓄積された積分値を吐き出すに時間を要し、その間にその積分値が補正操作量として加算されることでDPFの入口温度を上昇させて制御性を悪化させていた。
本願発明では、積分器の積分値をリセットする積分器リセット手段を備えるため、このような積分値が残ることによるDPF入口温度の制御性の悪化が防止される。
【0012】
また、フィードフォワード制御手段よる基本操作量を、排ガス流量若しくは該排ガス流量から算出した制御値によって算出する基本操作量算出手段を備えるため、すなわち、演算式によって、具体的にはDOCでの排ガス温度昇温特性をモデル化した伝達関数式を用いて算出して求める基本操作量算出手段を備えるため、様々な運転条件において適正化された基本操作量を求めることができる。
このため、予め運転条件に基づいて設定されたマップを用いる場合に比べて、小型汎用エンジンのように使用される回転数と負荷が独立に変化する場合において、様々な運転条件でのフィードフォワード操作量の適正化を図ることができ、DPF入口温度の制御性を向上できる。
【0013】
また、本発明において好ましくは、次のようにして排ガス流量の急減少を判定するとよい。
(1)排ガス流量の減少率が閾値以下のとき。
(2)排ガス流量が閾値以下に減少したとき。
(3)排ガス流量の減少率が閾値以下のときであって、且つ排ガス流量が閾値以下に減少したとき。
過渡運転時には頻繁にガス流量が急減するが、排ガス流量の減少率だけではなく、排ガス流量も同時に監視することによって、必要以上に積分値のリセットが動作することを防止できる。これによって、エンジン回転数や負荷が連続的に変化する過渡運転状態において、DPF入口温度の制御性が損なわれることがない。
(4)前記排ガス流量が閾値以下の状態が一定時間以上継続したとき。
このように、前記排ガス流量が閾値以下の状態が一定時間以上継続した場合の条件を追加することによって、過渡運転時における必要以上に積分値のリセット動作の防止をより一層確実にできる。
【0014】
また、本発明において好ましくは、前記フィードバック制御手段を構成するPID制御器の積分器の積分値が正の値のときに前記リセットを行うとよい。
このように、正の値の場合にだけリセットを行うことによって、リセット動作によって意図に反してDPF入口温度が上昇することを防止できる。すなわち、フィードバック制御手段の積分器の積分値が負の場合にリセットしてしまうことで、リセット動作によって意図に反してDPF入口温度が上昇することを防止するためである。
【0015】
また、本発明において好ましくは、前記基本操作量算出手段は、DPF入口目標温度とDOC入口温度の実測値との偏差と、排ガス流量を基に算出された前記制御値である制御ゲインとを用いて、予め設定されたDOCでの排ガス温度昇温特性をモデル化した伝達関数式を用いてフィードフォワード制御手段の基本操作量を算出するとよい。
【0016】
すなわち、DOCでの排ガス温度の昇温特性を、一次の伝達関数によってモデル化して、DPF入口温度が目標温度になるようなレイトポスト噴射量を演算して求めて、フィードフォワード制御手段の基本操作量とする。
【0017】
具体的には、DPF入口目標温度とDOC入口温度の実測値との偏差eから求められる時定数パラメータσと、排ガス流量から求められる制御ゲインKを用いて、基本操作量としてのレイトポスト噴射量Zを、Z=K/(1+σs)eの一次の伝達関数の関係式を用いて算出する。
σは、設計パラメータ(調整パラメータ)であり、小さい値に設定すると温度偏差eとKの変化に対し敏感に反応し、大きな値に設定すると穏やかに反応するようになる。
【0018】
このように、フィードフォワード制御手段による基本操作量を様々な運転条件点において適正化する代わりに、排ガス流量から求められた制御値である制御ゲインを用いて基本操作量であるレイトポスト噴射量を算出するようにしたため、予め運転条件に基づいて設定されたマップを用いる場合に比べて、様々な運転条件でのフィードフォワード操作量の適正化を図ることができる。
【0019】
また、DPF入口温度目標値とDOC入口温度計測値との偏差に基づいて基本操作量であるレイトポスト噴射量を決めることから、PID制御の積分器が大きな値を持つことがなくなり、すなわち、DPF入口温度目標値から大きくずれるようなことがなくなるため、排ガス流量が短時間で減少した後に、排ガス流量が少ない状態が継続する運転条件において、DPF入口温度の制御性が悪化することが防止される。
【0020】
また、本発明において好ましくは、前記昇温手段の操作量は、前記DOCの活性化後にメイン噴射後の燃焼に直接寄与しない時期に噴射するレイトポスト噴射の噴射量であるとよい。
このように、昇温手段の操作量がDOCの活性化後にメイン噴射後の燃焼に直接寄与しない時期に噴射するレイトポスト噴射の噴射量であるとよい。
【0021】
ここで、本願発明におけるレイトポスト噴射について説明する。
主噴射は、燃焼室内で主の燃焼を行わせるための噴射であり、アーリーポスト噴射は主噴射直後のシリンダ内の圧力がまだ高い状態で、主噴射より少量の燃料を噴射することをいい、このアーリーポスト噴射によって、排ガス温度を上昇させて高温化した排ガスがDOCに流入することで、DOCを活性化させる。その後、アーリーポスト噴射後のクランク角度が下死点近傍まで進んだ状態でさらに2回目のポスト噴射を行う。この2回目のポスト噴射をレイトポスト噴射といい、このレイトポスト噴射は燃焼室内の燃焼に寄与せず、排気行程によって燃焼室から排気通路に排出される。この燃焼室から排出された燃料は既に活性化されたDOCにおいて反応して、発生した酸化熱により排ガス温度をさらに上昇させてDPFの再生に必要な600℃程度に昇温してPMの燃焼を促進する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、前記DPFを通過する排ガス流量若しくは該排ガス流量から算出した制御値に基づいて、排ガス流量が急減少したことを判断したときに前記フィードバック制御手段を構成する積分器の積分値をリセットする積分器リセット手段を備えるため、例えば、PID制御における積分器に保持されている積分値が残っていることによって、昇温操作量であるレイトポスト噴射量に悪影響が生じることが防止される。この結果、排ガス流量が急激に減少した場合においても、DPF入口温度を目標温度付近に保持できる。
【0023】
また、フィードフォワード制御手段よる基本操作量を、前記DPFを通過する排ガス流量若しくは該排ガス流量から算出した制御値に基づいて算出する基本操作量算出手段を備えるため、様々な運転条件において適正化された基本操作量を演算して求めることができる。このため、予め運転条件に基づいて設定されたマップを用いる場合に比べて、小型汎用エンジンのように使用される回転数と負荷が独立に変化する場合において、様々な運転条件でのフィードフォワード操作量の適正化を図ることができ、DPF入口温度の制御性を向上できる。
【0024】
以上のように、DPF入口温度の制御性が向上することで、DPF入口の目標温度を数十℃高く設定してもDPFに担持された触媒を劣化させる温度に到達しなくなり、DPF担持された触媒の熱による劣化が防止され、DPFの耐久性能が向上する。
さらには、DPF入口の目標温度を高く設定することができるようになることで、DPFの再生制御時間を短縮することが可能になり、再生時のレイトポスト噴射によるオイルダイリューションの問題も解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係るディーゼルエンジンの排気浄化装置の概要構成図である。
【図2】再生制御手段の第1実施形態を示す構成ブロック図である。
【図3】再生制御手段の第2実施形態を示す構成ブロック図である。
【図4】第1実施形態の制御フローチャートである。
【図5(a)】図4のフローチャートにおける各ステップの詳細を示すサブルーチンのフローチャートである。
【図5(b)】図4のフローチャートにおける各ステップの詳細を示すサブルーチンのフローチャートである。
【図5(c)】図4のフローチャートにおける各ステップの詳細を示すサブルーチンのフローチャートである。
【図5(d)】図4のフローチャートにおける各ステップの詳細を示すサブルーチンのフローチャートである。
【図6】第2実施形態の制御フローチャートである。
【図7】(a)、(b)はそれぞれ図6のフローチャートの詳細を示すサブルーチンのフローチャートである。
【図8】第1実施形態の確認試験結果を示す説明図である。
【図9】ゲインKマップを説明する特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【0027】
図1を参照して、本発明に係るディーゼルエンジンの排ガス浄化装置の全体構成について説明する。
図1に示すように、ディーゼルエンジン(以下エンジンという)1の排気通路3には、DOC(酸化触媒)5と該DOC5の下流側にスート(煤)を捕集するDPF(パティキュレートフィルタ)7とからなる排ガス後処理装置9が設けられている。
また、排気通路3には排気タービン11aとこれに同軸駆動されるコンプレッサ11bを有する排気ターボ過給機13を備えており、該排気ターボ過給機13のコンプレッサ11bから吐出された空気は給気通路15を通って、インタークーラ17に入り給気が冷却された後、吸気スロットルバルブ19で給気流量が制御され、その後、インテークマニホールド21からシリンダ毎に設けられた吸気ポートからエンジン1の吸気弁を介して燃焼室内に流入するようになっている。
【0028】
また、エンジン1においては、図示しないが、燃料の噴射時期、噴射量、噴射圧力を制御して燃焼室内に燃料を噴射するコモンレール燃料噴射装置が設けられており、該コモンレール燃料噴射装置が各気筒の燃料噴射弁22に対して所定の燃料噴射時期に、所定の燃料圧力に制御された燃料を供給するようになっている。
【0029】
また、排気通路3、または排気マニホールド23の途中から、EGR(排ガス再循環)通路25が分岐されて、排ガスの一部が吸気スロットルバルブ19の下流側部位にEGRクーラ27、EGRバルブ29を介して投入されるようになっている。
【0030】
エンジン1の燃焼室で燃焼された燃焼ガス即ち排ガス31は、シリンダ毎に設けられた排気ポートが集合した排気マニホールド23及び排気通路3を通って、前記排気ターボ過給機13の排気タービン11aを駆動してコンプレッサ11bの動力源となった後、排気通路3を通って排ガス後処理装置9に流入する。
【0031】
また、DOC5の下流側にDPF7が配置されており、該DPF7の再生制御手段33には、コンプレッサ11bへ流入する給流量を検出するエアフローメータ35、DOC入口温度センサ37、DPF入口温度センサ39からの信号が入力されている。
さらに、エンジン回転数センサ41、エンジン負荷センサ43からの信号がそれぞれ再生制御手段(ECU)33に入力されている。
【0032】
この再生制御手段33は、DPF7に堆積されたPMの堆積量が所定値を超えた時に、昇温手段を制御してDPF7の入口温度を目標温度近傍(約600℃)まで昇温して堆積したPMを焼却除去する。
再生制御手段33によるPMの燃焼除去についての制御概要をまず説明する。
強制再生を開始する条件、例えば、車両であれば走行距離、エンジンの運転時間、トータル燃料消費量等を基に判定されて、強制再生が開始されるとDOC5を活性化するためのDOC昇温制御が実行される。このDOC昇温制御は、吸気スロットルバルブ19の開度が絞られ、燃焼室内に流入する空気量を絞って、排ガス中の未燃燃料を増加させる。さらに、アーリーポスト噴射によって、主噴射の直後にシリンダ内の圧力がまだ高い状態で主噴射より少量の燃料を噴射する1回目のポスト噴射を行い、このアーリーポスト噴射によって、エンジンの出力には影響を与えずに排ガス温度を高め、この高温化された排ガスがDOC5に流入することで、DOC5を活性化させ、そしてDOC5の活性化に伴い排ガス中の未燃燃料を酸化される際に発生する酸化熱で排ガス温度を上昇させる。
【0033】
そして、次に、DOC入口温度が所定温度に達したかを判定し、超えている場合には、レイトポスト噴射によってDPF7の入口温度をさらに上昇させる。このレイトポスト噴射とは、前述したように、前記アーリーポスト噴射後のクランク角度が下死点近傍まで進んだ状態で噴射する2回目のポスト噴射のことをいい、このレイトポスト噴射によって、排気弁の開状態時に燃焼室から排気通路3へ燃料を流出させて、排出された燃料は既に活性化されたDOC5において反応して、発生した酸化熱により排ガス温度をさらに上昇させてDPF7の再生に必要な温度、例えば600℃にしてPMの燃焼を促進する。
【0034】
(第1実施形態)、
次に、図2の制御構成ブロック図を参照して再生制御手段33におけるレイトポスト噴射量制御の第1実施形態をについて説明する。
再生制御手段33には、このレイトポスト噴射量(操作量)を制御して、DPF7の入口温度を目標とする約600℃に安定制御するために、エンジン回転数と燃料噴射量(エンジン負荷)を基に基本噴射量が設定されたフィードフォワード制御マップ45に基づいて、レイトポスト噴射量の基本噴射量(基本操作量)を指令するフィードフォワード制御手段47と、DPF7の目標温度に対するレイトポスト補正噴射量(補正操作量)を指令するフィードバック制御手段49と、前記フィードフォワード制御手段47からの基本噴射量と前記フィードバック制御手段49からの補正噴射量とを加算して噴射量を算出する噴射量(操作量)加算手段51(図2参照)と、を有している。
さらに、第1実施形態においては、前記フィードバック制御手段49を構成する積分器53の積分値をリセットする積分器リセット手段55を備えている。
【0035】
フィードフォワード制御手段47は、前述したように、エンジンの運転条件であるエンジン回転数と燃料噴射量(エンジン負荷)を基に基本噴射量が設定されたフィードフォワード制御マップ45を用いてフィードフォワード制御指令値57である基本噴射量を算出する。
【0036】
一方、フィードバック制御手段49には、DPF7の目標入口温度を制御開始時の初期値の目標温度と、その後の目標温度を設定する目標温度設定部59が設けられ、DPF7の目標入口温度と実測したDPF7の入口温度とを加減算器61に入力して、目標入口温度と実測入口温度との偏差を加減算器61の出力信号として得て、PID演算部63でフィードバック演算を行ってフィードバック制御指令値65である補正噴射量を算出する。
PID演算部63では、比例要素(P)の演算が比例ゲインKpを用いて行われ、微分要素(D)の演算が微分ゲインKdを用いて行われ、積分要素(I)の演算が積分ゲインKi行われて、それぞれの演算結果が、加算器67に入力されて、フィードバック制御指令値65が算出される。
【0037】
そして、フィードフォワード制御指令値57と、フィードバック制御指令値65とが加算器(噴射量加算手段)51に入力されて、加算指令値69を出力する。この加算指令値69の信号は指令飽和手段71に入力されてDPF7の保護のために出力信号に制限が掛けられる。そして指令飽和手段71を通過した信号は、レイトポスト燃料噴射指令信号として出力される。
【0038】
また、指令飽和手段71の出力信号と加算器51の出力信号とを加減算器73に入力してその偏差に基づいてフィードバック制御手段49に対して自動調合を行う自動調合PID75が設けられている。自動調合PID75の演算要素77の出力信号は加減算器78に入力されて積分器53に入力される。
このように、フィードバック制御手段49のワインドアップ対策(入力飽和対策)として自動調合PID75を設けることによって、指令飽和手段71によって指令値にリミッタが掛けられている間に、フィードバック制御手段49のPID演算部63の積分器53に積分値が溜まり続けることが防止される。これによって、フィードバック制御目標値が変化した際の追従性が向上するようになっている。
【0039】
さらに、第1実施形態においては、積分器53の積分値をリセットする積分器リセット手段55が設けられている。この積分器リセット手段55は、排ガス流量が急減少したことを判断する急減少判定部79を有し、この急減少判定部79で急減少であると判定したときに、積分器53の積分値をリセットする。
【0040】
積分器リセット手段55による制御フローを、図4を参照して説明する。図4のステップS1の詳細を図5(a)に示し、ステップS2の詳細を図5(b)に示し、ステップS3の詳細を図5(c)に示し、ステップS4の詳細を図5(d)に示す。
まず、図4のステップS1で、排ガス流量変化率判断を行う。この流量変化率判断は、図5(a)に示すように、ステップS11で排ガス流量Gexを算出する。排ガス流量の算出は、エアフローメータ35からの空気流量Gの信号と、図示しないコモンレール燃料噴射装置からの燃料噴射量指令値Gの信号とを基に、Gex=G+Gによって算出し、次に、ステップS12で、排ガス流量Gexの時間的微分dGex/dtを算出する。ステップS13で、時間的微分dGex/dtが閾値K1未満か否かを判定し、Yesの場合にはステップS14でフラグ1をONし、NOの場合にはステップS15でフラグ1をOFFしてリターンする。
【0041】
図4のフローに戻って、ステップS2で排ガス流量の判断を行う。図5(b)に示すように、ステップS21で排ガス流量Gexが閾値K2未満か否かを判定して、Yesの場合にはステップS22でフラグ2をONし、NOの場合にはステップS23でフラグ1をOFFしてリターンする。
【0042】
次に、図4のフローのステップS3でタイマーカウントを行う。このタイマーのカウントは、図5(c)に示すように、ステップS31でフラグ1がONか、またはフラグ3がONか否かを判定し、Yesの場合にはステップS32でフラグ2がONか否かを判定する。ステップS31でNOの場合には、ステップS35でフラグ3をOFFし、ステップS36でタイマーをゼロにする。
ステップS32でフラグ2がONの場合には、ステップS33でフラグ3をONにして、ステップS34でタイマーにΔt(サブルーチンの処理が実行される周期時間)を加算する。
【0043】
次に、図4のフローのステップS4で積分値のリセットを行う。この積分値のリセットは、図5(d)に示すように、ステップS41でタイマーが閾値K3を超えているか否かを判定し、超えていなければリターンし、超えていれば、ステップS42で積分値が閾値K4を超えているか否かを判定する。例えば、積分値が正の値である場合、すなわちK4=0として判定する。
積分値が正の値である場合には、ステップS43に進んで、積分値をゼロにリセットする。そして、ステップS44でタイマーをリセットしてリターンする。
【0044】
以上説明したように急減少判定部79では、ステップS1で排ガス流量の変化率を判断し、さらに、ステップS2で排ガス流量を判断して、排ガス流量が急減少したことを判定するので、過渡運転時には頻繁にガス流量が急減するが、排ガス流量の減少率だけではなく、排ガス流量も同時に監視することによって、必要以上に積分値のリセットが動作することを防止できる。
これによって、エンジン回転数や負荷が連続的に変化する過渡運転状態において、DPF入口温度の制御性が損なわれることがない。
さらに、ステップS3によって、排ガス流量が閾値以下の状態が一定時間以上継続した場合に、排ガス流量の急減少と判定するので、つまり、ステップS41のように排ガス流量が閾値以下の状態が一定時間以上継続した場合の条件を追加することによって、過渡運転時における必要以上に積分値のリセット動作の防止をより一層確実にできる。
【0045】
図8に、確認試験結果を示す。図8(a)は、排ガス流量を示し、定常からステップ状に変化して減少させた場合を示す。(b)はその時のレイトポスト噴射量の変化を示し、(c)はDPF入口排ガス温度の変化を示す。(b)(c)の点線が従来技術としての積分器リセット手段55を設けていない場合であり、実線が本発明の積分器リセット手段55を設けた場合である。
図8(b)より、レイトポスト噴射量の減少の応答性が従来技術より迅速に変化していることが分かる。また、図8(c)より、DPF入口排ガス温度のオーバーシュートが抑えられることが分かる。
【0046】
以上のように、第1実施形態によれば、急減少判定部79によって、DPF7を通過する排ガス流量若しくは排ガス流量の時間微分である排ガス流量の減少率(制御値)に基づいて、排ガス流量が急減少したことを判断したときに、フィードバック制御手段49を構成する積分器53の積分値をリセットする積分器リセット手段55を備えるので、PID演算部63における積分器53に保持されている積分値が残っていることによって、昇温操作量であるレイトポスト噴射量に悪影響が生じることが防止される。この結果、排ガス流量が急激に減少した場合においても、DPF入口温度を目標温度付近に確実に保持できるようになる。
【0047】
DPF入口温度の制御性が向上することで、DPF入口の目標温度を数十℃高く設定してもDPF7に担持された触媒を劣化させる温度に到達しなくなり、DPF担持された触媒の熱による劣化が防止され、DPF7の耐久性能が向上する。
さらには、DPF入口の目標温度を高く設定することができるようになることで、DPF7の再生制御時間を短縮することが可能になり、再生時のレイトポスト噴射によるオイルダイリューションの問題も解消できる。
【0048】
(第2実施形態)
次に、図3の制御構成ブロック図を参照して再生制御手段33におけるレイトポスト噴射量制御の第2実施形態をについて説明する。
フィードフォワード制御手段47は第1実施形態と同一であるため、説明は省略する。また、第1実施形態の積分器リセット手段55は設けられていない。第2実施形態は第1実施形態のフィードフォワード制御手段47と異なることに特徴がある。
【0049】
図3に示すように、第2実施形態のフィードフォワード制御手段81は、第1実施形態のように、予め試験によって運転条件に応じたフィードフォワード指令値をマップ等に設定して、そのマップからレイトポスト噴射量の基本噴射量(基本操作量)を算出して指令するものではなく、予め設定されたDOC伝達関数モデルを用いて排ガス流量の実測値およびDOC5の入口温度の実測値を基に基本噴射量を算出して指令する。
【0050】
フィードフォワード制御手段81は、DPF入口目標温度とDOC入口温度の実測値とがそれぞれ入力されて偏差eが算出される加減算器(偏差算出部)83と、排ガス流量を基に制御ゲイン(制御値)Kを算出するゲイン算出部85と、予め設定されたDOC伝達関数モデルを用いてのレイトポスト基本噴射量演算部(基本操作量算出手段)87とを備えており、
レイトポスト基本噴射量演算部87では、具体的には、DPF入口目標温度とDOC入口温度の実測値との偏差eと、設計パラメータ(調整パラメータ)σと、排ガス流量から求められる制御ゲインKを用いて、基本操作量としてのレイトポスト噴射量Zを、Z=K/(1+σs)eの一次の伝達関数の関係式を用いて算出される。
【0051】
フィードフォワード制御手段81の制御フローを、図6を参照して説明する。
まず、ステップS110で温度偏差eを算出する。具体的には図7(a)に示すように、ステップS111でDOC入口温度TDOCINを取り込み、ステップS112でDPF入口目標温度rTDPFINを取り込む。そして、ステップS113で温度偏差eをe=rTDPFIN−TDOCINによって算出する。
【0052】
図6のフローのステップS120で、排ガス流量Gexを算出する。この排ガス流量Gexの算出はステップS11での説明と同様であり、具体的には図7(b)に示すように、ステップS121でエアフローメータ35からの空気流量Gのとの込みと、ステップS122で、図示しないコモンレール燃料噴射装置からの燃料噴射量指令値Gの取り込みとを基に、ステップS123でGex=G+Gによって算出する。
【0053】
次に、図6のフローのステップS130で、排ガス流量のフィルター処理を行ない、ローパスフィルタ89や一次遅れ処理を行ってノイズ除去を行う。その後、ステップS140で制御ゲインKを決定する。制御ゲインKは、図9に示すような排ガス流量に対してゲインKが設定されたゲインKマップ91によって求める。このゲインKマップ91は、予め試験データまたはシミュレーション計算の算出より設定される。
【0054】
そして、ステップS150で、伝達関数の計算を行う。伝達関数はDPF入口目標温度とDOC入口温度の実測値との偏差eと、設計パラメータ(調整パラメータ)σと、排ガス流量から求められる制御ゲインKを用いて、基本操作量としてのレイトポスト噴射量Zを、Z=K/(1+σs)eの一次の伝達関数の関係式を用いて算出される。σを小さい値に設定すると温度偏差eとKの変化に対し敏感に反応し、大きな値に設定すると穏やかに反応するようになる。
その後、ステップS160では、ステップS150で算出した噴射量の単位換算をして指令値を算出してリターンする。
【0055】
第1実施形態のフィードフォワード制御手段47のように、基本操作量を様々な運転条件点において適正化したフィードフォワード制御マップ45を用いてフィードフォワード制御指令値57である基本噴射量を算出する代わりに、排ガス流量から求められた制御値である制御ゲインを用いて基本操作量であるレイトポスト噴射量を算出するようにしたため、予め運転条件に基づいて設定されたマップを用いる場合に比べて、小型汎用エンジンのように使用される回転数と負荷が独立に変化する場合において、様々な運転条件でのフィードフォワード操作量の適正化を図ることができ、DPF入口温度の制御性を向上できる。
【0056】
また、DPF入口温度目標値とDOC入口温度計測値との偏差に基づいて基本操作量であるレイトポスト噴射量を決めることから、PID演算部63の積分器53が大きな値を持つことがなくなり、すなわち、DPF入口温度目標値から大きくずれるようなことがなくなるため、排ガス流量が短時間で減少した後に、排ガス流量が少ない状態が継続する運転条件において、DPF入口温度の制御性が悪化することが防止される。
【0057】
なお、第1実施形態と第2実施形態とを組み合わせて構成してもよいことは勿論であり、この場合には、フィードフォワード制御手段81は第2実施形態によって構成し、フィードバック制御手段49に対しては、PID演算部63の積分器53に積分器リセット手段55が設けられるようにする。このように構成することによって、より一層DPF入口温度の制御性を向上するこができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、排ガス流量が減少した後に、排ガス流量が少ない状態が継続する場合においても、DPF入口温度を目標温度に安定的に制御できるので、ディーゼルエンジンの排ガス浄化装置への利用に適している。
【符号の説明】
【0059】
1 ディーゼルエンジン
3 排気通路
5 DOC(前段酸化触媒)
7 DPF(ディーゼルパティキュレートフィルター)
9 排ガス後処理装置
33 再生制御手段
35 エアフローメータ
37 DOC入口温度センサ
39 DPF入口温度センサ
41 エンジン回転数センサ
43 エンジン負荷センサ
45 フィードフォワード制御マップ
47、81 フィードフォワード制御手段
49 フィードバック制御手段
51 加算器(操作量加算手段)
53 積分器
55 積分器リセット手段
63 PID演算部
83 加減算器(偏差算出部)
85 ゲイン算出部
87 レイトポスト基本噴射量演算部(基本操作量算出手段)
91 ゲインKマップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路に酸化触媒(DOC)および排気微粒子(PM)を捕集するディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)を備え、前記DPFに捕集されたPMを再生処理する内燃機関の排気浄化装置において、
前記PMの堆積量が所定値を超えた時に、昇温手段を制御して前記DPFを所定の目標温度近傍まで昇温して堆積したPMを焼却除去する再生制御手段を備え、
該再生制御手段は、内燃機関の運転条件に基づいて前記昇温手段の基本操作量を指令するフィードフォワード制御手段と、DPFの目標温度に対する補正操作量を指令するフィードバック制御手段と、前記フィードフォワード手段からの基本操作量と前記フィードバック制御手段からの補正操作量とを加算して操作量を算出する操作量加算手段とを有し、
排ガス流量若しくは該排ガス流量から算出した制御値によって排ガス流量が急減少したことを判断したときに前記フィードバック制御手段を構成する積分器の積分値をリセットする積分器リセット手段、または排ガス流量若しくは該排ガス流量から算出した制御値によって前記フィードフォワード制御手段の基本操作量を算出する基本操作量算出手段の少なくとも一方を備えたことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記積分器リセット手段は排ガス流量の減少率が閾値以下のときに排ガス流量の急減少と判定することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記積分器リセット手段は排ガス流量が閾値以下に減少したときに排ガス流量の急減少と判定することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
前記積分器リセット手段は排ガス流量の減少率が閾値以下のときであって、且つ排ガス流量が閾値以下に減少したときに排ガス流量の急減少と判定することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
前記排ガス流量が閾値以下の状態が一定時間以上継続した場合に、排ガス流量の急減少と判定することを特徴とする請求項3または4記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項6】
前記フィードバック制御手段を構成する積分器の積分値が正の値のときに前記リセットを行うことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項7】
前記基本操作量算出手段は、DPF入口目標温度とDOC入口温度の実測値との偏差と、排ガス流量を基に算出された制御ゲインとを用いて、予め設定されたDOCでの排ガス温度昇温特性をモデル化した伝達関数式を用いて前記基本操作量を算出することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項8】
前記昇温手段の操作量は、前記DOCの活性化後にメイン噴射後の燃焼に直接寄与しない時期に噴射するレイトポスト噴射の噴射量であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5(a)】
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【図5(b)】
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【図5(c)】
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【図5(d)】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−72666(P2012−72666A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216085(P2010−216085)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】