説明

内燃機関の燃料噴射装置

【課題】筒内噴射用インジェクタと吸気通路噴射用インジェクタとを備えた内燃機関において、簡易かつ低コストな制御手段によって、高圧ポンプに装備されたスピル弁の本来の機能を損なうことなく、スピル弁に起因した騒音を低減する。
【解決手段】燃料タンク34の燃料を、低圧ポンプ40で低圧燃料供給管36及び低圧燃料分配管44を介して、インテーク・マニホールド14に装着された吸気通路噴射用インジェクタ26に供給する。低圧燃料供給管36には高圧ポンプ32が設けられ、燃料は高圧ポンプ32で高圧となり、高圧燃料分配管28を介して筒内噴射用インジェクタ24に供給される。吸気通路噴射(MPI)モードのとき、ソレノイド334の励磁を止め、電磁スピル弁330の作動を停止させる。これによって、電磁スピル弁330の弁座への着座による振動及び騒音を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気筒内に高圧で燃料を噴射する筒内噴射用インジェクタと、吸気通路に燃料を噴射する吸気通路噴射用インジェクタとを備えた内燃機関に関し、特に、筒内噴射用インジェクタに高圧で燃料を供給する高圧ポンプの騒音低減のための制御に関する。
【背景技術】
【0002】
気筒内に直接燃料を噴射する筒内噴射用インジェクタと、吸気通路(吸気ポートを含む。)に燃料を噴射する吸気通路噴射用インジェクタとの両方を備え、内燃機関の負荷や回転数に応じて、両インジェクタからの燃料噴射を選択する内燃機関が知られている。吸気通路噴射用インジェクタに供給される燃料は、燃料タンクに設けられた電動式低圧ポンプで吸気通路噴射用インジェクタに送られ、筒内噴射用インジェクタに供給される燃料は、内燃機関に取り付けられた機械式高圧ポンプで昇圧された後、筒内噴射用インジェクタに送られる。
【0003】
前記機械式高圧ポンプは、カムによりシリンダ内を摺動し、シリンダ内の燃料の圧力(燃圧)を高めるプランジャと、シリンダの燃料流入口を開閉し、筒内噴射用インジェクタの燃料噴射量に見合った吐出量に制御する電磁スピル弁とを備えている。この電磁スピル弁は、弁体を開位置に付勢するバネ力を付加するバネ部材と、励磁されて弁体を閉方向へ動作させるソレノイドとを備えている。
【0004】
電磁スピル弁の動作は、ソレノイドを非励磁にして弁体を開動作させると共に、プランジャを後退させ、シリンダ内に形成される加圧室に吸入口から燃料を吸入させる。次に、ソレノイドを励磁させて弁体を閉動作させて加圧室を閉鎖した後、プランジャを伸長させ、加圧室の容積を低減させることで、加圧室の燃圧を高める。これによって、シリンダに設けられた吐出口の逆止弁を押して、燃料を筒内噴射用インジェクタに供給する。弁体を開けると、シリンダ内の燃料は吸入側に戻る。弁体の閉鎖時期を調整することで、筒内噴射用インジェクタに供給する燃圧(燃料量)を調整できる。
【0005】
電磁スピル弁が弁座に着座する時、振動が発生する。この振動が高圧ポンプからロッカーカバーに伝わり、ロッカーカバーが振動することで、騒音が発生する。従来、吸気通路のみに燃料を送る吸気通路噴射モードのとき、電磁スピル弁の閉動作タイミングを遅らせ、プランジャの伸長時に電磁スピル弁を開放状態としておくことで、燃料を吸入口に戻すようにしていた。このように、弁体の閉動作タイミングを遅らせるだけであり、弁体の閉動作回数が減るわけではないので、閉動作による振動及び騒音を低減できなかった。
【0006】
内燃機関のアイドル運転時には、内燃機関の作動音が小さくなる。そのため、相対的に電磁スピル弁による騒音を無視できなくなる。そのため、アイドル運転時には筒内噴射用インジェクタの燃料噴射を止め、吸気通路噴射用インジェクタから燃料を噴射させ、騒音を低減する対策が考えられる。しかし、筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射を止めると、筒内噴射用インジェクタに付着物が堆積するという問題がある。そこで、特許文献1には、これら2つの問題を解決するための燃料噴射制御手段が開示されている。この手段は、アイドル運転を、内燃機関の温度により、冷間アイドル状態、温間アイドル状態及び高温アイドル状態に区分し、高圧ポンプを使用せず、低圧ポンプによる吸気通路噴射又は筒内噴射を基本とし、夫々の運転状態に特有の燃料噴射制御を行うようにしている。
【0007】
特許文献2には、特許文献1と同様の目的をもつ制御手段が開示されている。この制御手段は、車室内の騒音レベルを推定する騒音レベル推定手段と、筒内噴射用インジェクタに付着物が堆積しやすい運転状態であるか否かを推定する付着物堆積推定手段とをもつ制御装置を備えている。この制御装置によって、推定された騒音レベルが設定値以下のとき、高圧ポンプによる昇圧動作を禁止し、推定された騒音レベルが設定値以下であり、かつ筒内噴射用インジェクタに付着物が堆積しやすいと推定されたとき、低圧ポンプから供給された燃料を昇圧せずに、筒内噴射用インジェクタに供給するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−9815号公報
【特許文献2】特開2010−1815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1及び特許文献2に開示された制御手段は、内燃機関の多種の運転状態量を検出するための多種のセンサーを装備する必要があると共に、複雑な制御を必要とし、制御手段が高コストになるという問題がある。
【0010】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、筒内噴射用インジェクタと吸気通路噴射用インジェクタとを備えた内燃機関において、簡易かつ低コストな制御手段によって、高圧ポンプに装備された電磁スピル弁の本来の機能を損なうことなく、電磁スピル弁に起因した騒音を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するため、本発明の内燃機関の燃料噴射装置は、筒内噴射用インジェクタ及び吸気通路噴射用インジェクタと、燃料タンクから各インジェクタに燃料を供給する低圧ポンプと、低圧ポンプから供給される燃料をさらに昇圧して筒内噴射用インジェクタに供給すると共に、スピル弁の動作で燃料供給量を調整する高圧ポンプとを備えていることを前提とする。かかる構成に加えて、内燃機関の負荷を検出する負荷検出センサーと、内燃機関の回転数を検出する回転数センサーと、筒内噴射用インジェクタに供給する燃料の圧力を検出する燃圧センサーとを備えている。
【0012】
また、制御装置は、前記各センサーで検出される内燃機関の負荷及び回転数に応じて、吸気通路噴射用インジェクタのみから噴射を行う吸気通路噴射モード、又は筒内噴射用インジェクタと吸気通路噴射用インジェクタの両方から噴射を行う併用モードを設定した燃料噴射マップを記憶する記憶部を備えており、この燃料噴射マップに基づいて内燃機関の燃料噴射モードを選択する。さらに、内燃機関が吸気通路噴射モードであり、かつ燃圧センサーで検出された燃圧が設定値以上のとき、スピル弁の作動を停止させるスピル弁動作制御部を備えている。該スピル弁動作制御部は、前記の運転条件を満たしていないとき、スピル弁を通常制御する。筒内噴射用インジェクタに供給する燃料の燃圧は、内燃機関の運転条件に応じて、筒内噴射の応答性が維持される燃圧に設定される。
【0013】
こうして、内燃機関が吸気通路噴射モードであり、かつ筒内噴射用インジェクタに供給される燃料の圧力が設定値以上のとき、スピル弁を閉動作させないので、スピル弁の閉動作回数を低減し、スピル弁の弁体の着座によって発生する振動及び騒音を低減できる。また、筒内噴射用インジェクタに供給する燃料の燃圧を設定値以上に維持しているので、高圧ポンプから筒内噴射用インジェクタへ燃料を高圧噴射する機能を保持できるので、吸気通路噴射モードから併用モードに移行することになっても、速やかに対応できる。
【0014】
さらに、吸気通路噴射モードであるか否か、及び燃圧が設定値以上か否かのみを条件とした簡単な制御であるので、検出すべき内燃機関の運転状態値が少なくて済み、そのため、少数のセンサーの装備で済む。また、簡易な制御であるので制御装置を簡素化できる。そのため、低コストな制御手段を実現できる。
【0015】
本発明において、内燃機関の負荷を検出するセンサーとして、気筒内燃焼室の圧力を検出するセンサーを設けるとよい。そして、燃料噴射マップは、内燃機関の筒内圧力及び回転数に応じて吸気通路噴射モード及び併用モードが設定されているとよい。これによって、気筒の正味平均有効圧(筒内圧力)を検出するだけで、内燃機関の負荷を正確に把握できる。
【0016】
本発明において、前記燃圧の設定値は、内燃機関の負荷及び回転数に基づいて、前記吸気通路噴射モードの内、前記併用モードとの境界付近に設けられたヒステリシス領域、アイドル領域、該ヒステリシス領域及びアイドル領域の何れにも属さない領域によってそれぞれ異なるようにするとよい。これによって、内燃機関の運転状態に応じて、筒内噴射の応答性を維持できるので、吸気通路噴射モードから併用モードに移行することになっても、速やかに対応できる。
【0017】
さらに、加えて、前記燃圧の設定値は、アイドル領域、ヒステリシス領域及びアイドル領域の何れにも属さない領域、ヒステリシス領域の順に大きな値にするとよい。このように設定することで、筒内噴射の応答性を維持できると共に、高圧ポンプを駆動する可能性が低い場合には、スピル弁を停止させやすくなり、スピル弁の停止機会を拡大できる。
【0018】
本発明において、内燃機関が始動モードであることを検出する始動モードセンサーを備え、スピル弁動作制御部は、内燃機関が吸気通路噴射モードであって、始動モードでなく、かつ前記燃圧が設定値以上のとき、スピル弁の作動を停止させるものであるとよい。内燃機関の始動時には、気筒内の急速昇温等のため、筒内噴射を必要とする場合がある。前記構成によって、内燃機関が始動モードであるとき、誤ってスピル弁の作動を停止させてしまうおそれがなくなる。
【0019】
本発明において、内燃機関の排気路に設けられた排ガス浄化触媒と、内燃機関を冷却する冷却水の温度を検出する冷却水温センサーを備え、制御装置は、冷却水温センサーの検出値に基づいて排ガス浄化触媒が活性温度に達しているか否かを判定する触媒活性判定部を備え、内燃機関が始動モードであって、触媒活性判定部が排ガス浄化触媒は活性温度に達していないと判定したとき、制御装置は、排ガス浄化触媒が活性温度に達するまで内燃機関を併用モードで運転させるようにするとよい。これによって、内燃機関の始動時、排ガス浄化触媒が活性温度以下であるときでも、速やかに排ガス浄化触媒の機能を発揮させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、筒内噴射用インジェクタ及び吸気通路噴射用インジェクタを備えた内燃機関において、筒内噴射用インジェクタに高圧の燃料を供給しない時期に、高圧ポンプに設けられたスピル弁の作動を停止させるようにしたので、スピル弁の着座により発生する振動及び騒音を簡易かつ低コストな手段で低減できる。また、高圧ポンプの高圧室の燃圧を設定値以上に保持した状態でスピル弁の閉動作を停止させるようにしているので、筒内噴射用インジェクタへ燃料を高圧噴射できる機能を維持でき、併用モードに移行するとき、速やかに移行できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明装置の一実施形態を示す全体構成図である。
【図2】前記実施形態の高圧ポンプの動作を示す動作線図である。
【図3】前記実施形態の操作手順を示すフロー図である。
【図4】前記実施形態で用いられる燃料噴射マップを示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【0023】
本発明装置を車載用直列4気筒型ガソリンエンジンに適用した一実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。図1は本実施形態の全体構成図である。エンジン10は、4つの気筒12を備え、各気筒12は、夫々対応するインテーク・マニホールド14を介して共通のヘッダー16に接続されている。吸気aは、吸気取入口及びエアクリーナ(図示省略)等を介してヘッダー16に吸入され、ヘッダー16からインテーク・マニホールド14を経て各気筒12に吸入される。
【0024】
各気筒12の排気路は、夫々各気筒12に対応したエキゾースト・マニホールド18を介して、共通の排気管20に接続されている。排気管20には、三元触媒コンバータ22が介設され、ここで排気中のNO等の有害物が除去される。
【0025】
各気筒12には、夫々気筒12の燃焼室に向けて燃料を噴射するための筒内噴射用インジェクタ24が設けられている。また、各インテーク・マニホールド14には、吸気通路内に向けて燃料を噴射するための吸気通路噴射用インジェクタ26が設けられている。これらインジェクタ24及び26は、エンジン全体の駆動を制御するエンジン・コントロール・ユニット(ECU)30から送られる信号によって制御される。ECU30は、メモリ302、スピル弁動作制御部304、及び触媒活性判定部306を備えている。
【0026】
各筒内噴射用インジェクタ24は共通の高圧燃料分配管28に接続されており、高圧燃料分配管28は高圧ポンプ32の吐出口に接続されている。高圧ポンプ32の吸入口は、燃料タンク34に接続された低圧燃料供給管36に接続されている。低圧燃料供給管36には、燃料供給方向上流側から順に燃料フィルタ38、低圧ポンプ40及び燃料圧レギュレータ42が介設されている。各吸気通路噴射用インジェクタ26は、共通した低圧燃料分配管44に接続され、低圧燃料分配管44は、燃料圧レギュレータ42と高圧ポンプ32との間の低圧燃料供給管36に合流している。
【0027】
燃料タンク34に貯留している燃料は低圧ポンプ40によって汲み上げられ、エンジン10に送られる。燃料タンク34から汲み上げられた燃料は、燃料フィルタ38で夾雑物を除去される。燃料圧レギュレータ42は、低圧ポンプ40から吐出された燃料の圧力が予め定められた設定圧より高くなると、燃料の一部を燃料タンク34に戻し、設定圧に維持する役割をもつ。
【0028】
高圧ポンプ32は、ポンプカム320が回転することで、プランジャ322がシリンダ324の内部を往復動する。シリンダ12の内部に、低圧燃料供給管36が接続した吸入口326と、燃料分配管28に接続された吐出口328との間の流路を開閉する電磁スピル弁330が設けられている。スピル弁330は、コイルバネ332のバネ力で開放位置に付勢され、ソレノイド334の励磁によって該流路を閉じる位置に動作する。吐出口328には、逆止弁336が設けられ、逆止弁336にはコイルバネ336aのバネ力が吐出口328を閉じる方向に付勢されている。
【0029】
高圧燃料分配管28には、高圧燃料分配管28内の燃圧に比例した出力電圧を発生する燃圧センサー46が設けられている。また、気筒12を形成するシリンダブロック13には、該シリンダブロック13を冷却する冷却水が循環する冷却水ジャケット(図示省略)が設けられている。シリンダブロック13に、シリンダブロック13を冷却する冷却水の温度に比例した出力電圧を発生する水温センサー48が設けられている。また、エンジン10の回転数を検出する回転数センサー50が設けられ、回転数センサー50の検出値がECU30に送られる。また、各気筒12内の燃焼室の圧力を検出する筒内圧センサー52が設けられ、筒内圧センサー52の検出値もECU30に送られる。
【0030】
かかる構成において、燃料タンク34から低圧ポンプ40によって燃料が汲み上げられ、低圧ポンプ40から吐出した燃料は、燃料圧レギュレータ42によって設定圧力に保持され、燃料の一部は、低圧燃料供給管36及び低圧燃料分配管44を経て、各インテーク・マニホールド14の吸気通路噴射用インジェクタ26から噴射する。他方、残りの燃料は、低圧燃料供給管36から高圧ポンプ32に供給される。高圧ポンプ32の吸入口326から電磁スピル弁330を通り、シリンダ324の内部に入った燃料は、電磁スピル弁330が閉鎖位置に動作した後で、プランジャ322が伸長することで高圧となる。高圧となった燃料は、逆止弁336を押し退けて、高圧燃料分配管28に流入し、各気筒12に設けられた筒内噴射用インジェクタ24から燃焼室に噴射する。
【0031】
図2は、プランジャ322及び電磁スピル弁330の動作を示す。図中、A、B及びCは、図1中に付記されたA、B及びCの部位を指す。即ち、Aは高圧ポンプ32の吸入口326の領域を指し、Bはシリンダ12の内部領域(高圧室)を指し、Cは吐出口328の吐出側、即ち、高圧燃料分配管28の内部領域を指している。図中、電磁スピル弁330の駆動信号がオンとは、ソレノイド334が励磁された時であり、オフとはソレノイド334が非励磁の時である。斜線域Dはプランジャ322から高圧の燃料が高圧燃料分配管28に圧送される区間を意味する。なお、低圧ポンプ40及びポンプカム320の駆動、及びソレノイド334の励磁時期は、ECU30のスピル弁動作制御部306によって制御される。
【0032】
吸入口326(A領域)からシリンダ324の内部(B領域)へ燃料を吸入するとき、ソレノイド334は非励磁であり、電磁スピル弁330は開放位置にある。この状態でプランジャ322を後退(下降)させ、燃料を吸入口326からシリンダ324の内部へ吸入する。電磁スピル弁330が開放状態のままプランジャ322を伸長(上昇)させると、燃料はシリンダ12内から吸入口326へ戻る。従って、電磁スピル弁330の閉鎖時期によって、シリンダ324内の燃圧が決まり、この燃圧に応じて、燃料の吸入口326への戻り量、及び高圧燃料分配管28への圧送量が決まる。シリンダ324の内部(B領域)から高圧燃料分配管28(C領域)へ燃料を吐出するとき、ソレノイド334を励磁し、電磁スピル弁330を閉じた状態で、プランジャ322を伸長させる。
【0033】
プランジャ322が伸長してシリンダ内部の燃圧を高圧とした後は、ソレノイド334の励磁を解除しても、シリンダ内部の高圧により電磁スピル弁330は閉位置を保つ。プランジャ322が伸長端から後退し始め、シリンダ内部の高圧が解除されることで、電磁スピル弁330は開放位置に移動する。
【0034】
図3は、エンジン回転数と筒内圧力に応じて、吸気通路噴射用インジェクタ26のみから燃料噴射を行う吸気通路噴射(MPI)モードとするか、あるいは併用モード(筒内噴射DI+吸気通路噴射MPI)とするかを定めた燃料噴射マップである。この燃料噴射マップが予めECU30のメモリ302に記憶されている。この燃料噴射マップに基づいて、エンジン10の燃料噴射モードが決定される。また、MPIモード時には、各運転領域毎に、高圧燃料分配管28の燃圧が設定されている。例えば、MPIモードで運転されるアイドル領域Iでは、燃圧が7MPaに設定され、その他のMPIモード領域では、燃圧が10MPaに設定されている。
【0035】
MPIモード領域と併用(DI+MPI)モード領域との境界Eにヒステリシス領域Hが設けられ、ヒステリシス領域Hでは、燃圧が15MPaに設定されている。このように、アイドル領域I、アイドル領域I及びヒステリシス領域Hの何れにも属さない領域、及びヒステリシス領域Hの順に、燃圧設定値が大きな値に設定されている。ちなみに併用モードでは、15MPa以上で、そのときの運転状態に応じた燃圧に設定されている。
【0036】
次に、本実施形態の操作手順を示す。図4において、まず、エンジン10の運転が始動モードであるとき(S10)、ECU30のスピル弁動作制御部304で、電磁スピル弁330を通常制御する(S18)。始動モードであるか否かは、回転数センサー50の検出値に基づいて判定する。即ち、始動後、エンジン10の回転数≦(0+α)のとき、始動モードであり、エンジン10の回転数が(0+α)を超えたとき、始動モードでないとする。
【0037】
エンジン10が始動モードでないとき(S10)、エンジン10がMPIモードかどうかを判定する(S12)。エンジン10の燃料噴射モードは、回転数センサー50及び筒内圧センサー52の検出値から、図3に示す燃料噴射マップに基づいて、アイドル運転I(MPIモード)か、MPIモードか、併用モードかが決められている。MPIモードであるとき(S12)、ECU30に入力される燃圧センサー46の検出値に基づいて、高圧燃料分配管28の燃圧が、運転領域に応じて設定された設定値以上かどうかをみる(S14)。ここで、設定値以上であるとき、スピル弁動作制御部304によって、電磁スピル弁330の駆動信号をオフにする。即ち、ソレノイド334を非励磁にする。
【0038】
これで電磁スピル弁330は、閉動作をしなくなり、そのため、シリンダ324の内部で燃圧が高くならないので、筒内噴射用インジェクタ24に燃料が供給されなくなる。なお、S12で、MPIモードでないと判定したとき、又はS14で高圧燃料分配管28の燃圧が設定値以上でないと判定したとき、スピル弁動作制御部304によって、電磁スピル弁330を通常制御にする(S18)。そして、S20で、エンジン10が停止するまで、S12からS18のステップを繰り返す。
【0039】
また、エンジン10の始動時に、水温センサー48の検出値によって、始動運転を異ならしめる。即ち、水温センサー48の検出値が設定値以上、例えば40℃以上のとき、ECU30の触媒活性判定部306で、三元触媒コンバータ22に装備された触媒が活性温度に達していると判定する。この判定に基づいて、エンジン10をMPIモードで始動させ、次に、MPIモードで、アイドル運転を行うか、車両を発進させる。
【0040】
水温センサー48の検出値が設定値以下、例えば40℃未満のとき、触媒活性判定部306で、三元触媒コンバータ22に増備された触媒が活性温度に達していないと判定する。この判定に基づいて、エンジン10をMPIモードで始動させ、次に、併用モードに切り替える。併用モード運転により、エンジン10の排ガスを急速昇温させ、三元触媒コンバータ22に装備された触媒を活性温度まで急速上昇させる。該触媒が活性温度に昇温したら、MPIモードに切り替え、アイドル運転を行うか、車両を発進させる。
【0041】
本実施形態によれば、MPIモードで運転中、ECU30のスピル弁動作制御部306から、ソレノイド334に励磁信号を送信しないようにし、電磁スピル弁330の作動を停止したので、電磁スピル弁330の着座時に発生する振動がなくなり、該振動に起因した騒音を低減できる。また、ソレノイド334の励磁を停止することで、電力消費を低減できる。さらに、図3に示す各燃料噴射モードに応じて、高圧燃料分配管28の燃圧設定値を異なる値に定め、この燃圧設定値以上に保持することで、筒内噴射の応答性を維持できる。そのため、吸気通路噴射モードから併用モードに移行することになっても、速やかに対応できる。
【0042】
また、かかる制御を簡易かつ低コストな制御手段で達成できると共に、検出するエンジン10の運転状態値も少なく済み、そのため、装備するセンサー類も、燃圧センサー46、冷却水温センサー48、回転数センサー50、及び筒内圧センサー52だけでよい。また、燃料噴射マップは、内燃機関の筒内圧力及び回転数に応じてMPIモード及び併用モードを設定しているので、気筒12の正味平均有効圧(筒内圧力)を検出するだけで、エンジン10の負荷を正確に把握できる。
【0043】
また、燃圧設定値を、アイドル領域I、アイドル領域I及びヒステリシス領域Hの何れにも属さない領域、及びヒステリシス領域Hの順に、大きな値に設定しているので、筒内噴射の応答性を維持できると共に、高圧ポンプ32を駆動する可能性が低い場合には、電磁スピル弁330を停止させやすくなり、電磁スピル弁330の停止機会を拡大できる。
【0044】
また、回転数センサー50を設けて、エンジン10が始動モードか否かを検出し、スピル弁動作制御部306によって、エンジン10が始動モードでないとき、電磁スピル弁330の作動を停止させるようにしているので、エンジン10が始動モードであるとき、誤って電磁スピル弁330の作動を停止させてしまうおそれがなくなる。
【0045】
また、冷却水温センサー48と、冷却水温センサー48の検出値に基づいて三元触媒コンバータ22に装備された排ガス浄化触媒が活性温度に達しているか否かを判定する触媒活性判定部306とを備え、エンジン10が始動モードであって、触媒活性判定部306が排ガス浄化触媒が活性温度に達していないと判定したとき、排ガス浄化触媒が活性温度に達するまでエンジン10を併用モードで運転させるようにしているので、エンジン10の始動時、排ガス浄化触媒が活性温度以下であるときでも、速やかに排ガス浄化触媒の機能を発揮させることができる。
【0046】
なお、本実施形態では、S10で始動モードの判定を行うとき、始動モードの判定を回転数センサー50の検出値に基づいて行っているが、代わりに、車速センサーの検出値や、スロットル弁の開閉状態を検出し、これらの検出値から始動モードであるかどうかを判定するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、筒内噴射用インジェクタに高圧の燃料を供給する高圧ポンプに設けられたスピル弁の閉動作を低減して、スピル弁の着座により発生する振動及び騒音を簡易かつ低コストな手段で低減できる。
【符号の説明】
【0048】
10 エンジン
12 気筒
13 シリンダブロック
14 インテーク・マニホールド
16 ヘッダー
18 エキゾースト・マニホールド
20 排気管
22 三元触媒コンバータ
24 筒内噴射用インジェクタ
26 吸気通路噴射用インジェクタ
28 高圧燃料分配管
30 ECU
302 メモリ
304 スピル弁動作制御部
306 触媒活性判定部
32 高圧ポンプ
320 ポンプカム
322 プランジャ
324 シリンダ
326 吸入口
328 吐出口
330 電磁スピル弁
332,336a コイルバネ
334 ソレノイド
336 逆止弁
34 燃料タンク
36 低圧燃料供給管
38 燃料フィルタ
40 低圧ポンプ
42 燃料圧レギュレータ
44 低圧燃料分配管
46 燃圧センサー
48 冷却水温センサー
50 回転数センサー
52 筒内圧センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室内に燃料を噴射する筒内噴射用インジェクタと、吸気通路に燃料を噴射する吸気通路噴射用インジェクタと、燃料タンクから前記各インジェクタに燃料を供給する低圧ポンプと、該低圧ポンプから供給される燃料をさらに昇圧して前記筒内噴射用インジェクタに供給すると共に、スピル弁の動作で燃料供給圧力を調整する高圧ポンプとを備えた内燃機関の燃料噴射装置において、
内燃機関の負荷を検出する負荷検出センサーと、
内燃機関の回転数を検出する回転数センサーと、
前記筒内噴射用インジェクタに供給する燃料の圧力を検出する燃圧センサーと、
内燃機関の負荷及び回転数に応じて前記吸気通路噴射用インジェクタのみから噴射を行う吸気通路噴射モード、又は前記筒内噴射用インジェクタと該吸気通路噴射用インジェクタの両方から噴射を行う併用モードを設定した燃料噴射マップを記憶する記憶部を有し、該燃料噴射マップに基づいて内燃機関の燃料噴射モードを制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、内燃機関が前記吸気通路噴射モードであり、かつ前記燃圧センサーで検出された燃圧が設定値以上のとき、前記スピル弁の作動を停止させるスピル弁動作制御部を備えていることを特徴とする内燃機関の燃料噴射装置。
【請求項2】
前記負荷検出センサーが気筒内の燃焼室の圧力を検出する筒内圧センサーであり、
前記燃料噴射マップは、内燃機関の筒内圧力及び回転数に応じて、前記吸気通路噴射モード及び前記併用モードが設定されていることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射装置。
【請求項3】
前記燃圧の設定値は、内燃機関の負荷及び回転数に基づいて、前記吸気通路噴射モードの内、前記併用モードとの境界付近に設けられたヒステリシス領域、アイドル領域、該ヒステリシス領域及びアイドル領域の何れにも属さない領域によってそれぞれ異なるようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の燃料噴射装置。
【請求項4】
前記燃圧の設定値は、前記アイドル領域、前記ヒステリシス領域及びアイドル領域の何れにも属さない領域、前記ヒステリシス領域の順に大きな値としたことを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の燃料噴射装置。
【請求項5】
内燃機関が始動モードであることを検出する始動モードセンサーを備え、前記制御装置のスピル弁動作制御部は、さらに内燃機関が始動モードでないとき、前記スピル弁の作動を停止させるものであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の内燃機関の燃料噴射装置。
【請求項6】
内燃機関の排気路に設けられた排ガス浄化触媒と、内燃機関を冷却する冷却水の温度を検出する冷却水温センサーを備え、
前記制御装置は、前記冷却水温センサーの検出値に基づいて前記排ガス浄化触媒が活性温度に達しているか否かを判定する触媒活性判定部を備え、
内燃機関が始動モードであって、前記触媒活性判定部が前記排ガス浄化触媒が活性温度に達していないと判定したとき、前記制御装置は、前記排ガス浄化触媒が活性温度に達するまで内燃機関を前記併用モードで運転させるものであることを特徴とする請求項5に記載の内燃機関の燃料噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−92077(P2013−92077A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233544(P2011−233544)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】