説明

円筒状部材の製造方法及びこれを用いた転写物、円筒状部材の瘤欠陥修正装置

【課題】瘤欠陥のない円筒状精密部材を製造する上で有利な円筒状精密部材の製造方法このようなロール面の形状を写し取った転写物を製造する方法を提供する。
【解決手段】円筒状部材の表面にめっき等の表面処理により形成された突起状の瘤欠陥について、前記瘤欠陥の箇所を欠陥検出手段により検出し前記円筒状部材のロール面に対して接線方向から加工用レーザービーム照射手段により加工用レーザービームを照射し前記瘤欠陥を除去することを特徴とする円筒状精密部材の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密なロール面を備えた円筒状部材の製造方法及びこのようなロール面の形状を写し取った転写物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精密ロール面を備えた円筒状部材は、その精密なロール面を対象物に押し当てて、連続的にロール面の形状を対象物に写し取る用途に用いられる。このような円筒状部材としては例えば印刷用の版胴やエンボスロールを挙げることができる。
例えば反射防止フィルムの製造方法としては、樹脂フィルムにフィラー等の微粒子を混ぜ合わせて作製する方法と、平滑樹脂フィルムの表面に反射防止フィルム成形用エンボスロール(以下、単にエンボスロールと呼ぶ)を押し付けて前記平滑樹脂フィルムの表面に凹凸を形成して作製する方法が知られている。
前記平滑樹脂フィルム表面に凹凸を形成して反射防止フィルムを作製する方法に用いるエンボスロールの構成は、金属性のロール芯材の表面に銅めっきやニッケルめっき等の各種めっきにより、密着層、下地層、剥離層、加工層が積層されて、前記加工層の表面にはサンドブラスト等により前記加工層の表面に凹凸が形成されている。さらに前記加工層の上には保護層としてクロムめっきが施された構成となっている。
ここでエンボスロールを作製する際のめっき工程において、めっき層の表面に点状の突起状瘤欠陥(以下、単に瘤欠陥と記す)が多数発生するという問題がある。
【0003】
従来、金属表面に生じた欠陥の修正方法としては、金属部材を変形させることなく肉盛によって修正する技術(特許文献1参照)、あるいは、溶接によって肉盛を行いこの溶接材の仕上げ加工を行う技術が知られている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2000−61960号公報
【特許文献2】特開2002−219567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の方法は、金属表面が窪んでいる欠陥の場合に修正が可能な方法であるため、エンボスロールを作製する際のめっき工程において点状の瘤欠陥が発生した場合、この欠陥を完全に修正することは困難であった。
そこで、本発明の目的は、瘤欠陥がない反射防止フィルム成形用エンボスロールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、エンボスロールの製造途中または製造最終工程の外観検査において、前記エンボスロールのロール面に対し垂直方向と接線方向の2方向から観測する顕微鏡機構を用いて瘤欠陥を調べ、発見した前記瘤欠陥に前記エンボスロールのロール面に対して接線方向から加工用レーザービーム照射手段により加工用レーザービームを照射し前記瘤欠陥を除去することで無欠陥のエンボスロールを作製する方法である。
本発明によれば、反射防止フィルム等を連続的に無欠陥で安定して生産する方法を提供できる。
【0006】
請求項1に係る第1の発明は、円筒状部材の瘤欠陥修復方法であって、前記ロール面を、突起状の瘤欠陥がないか検査する検査工程、前記ロール面の接線方向から前記瘤欠陥に対し加工用レーザービームを照射して当該瘤欠陥を除去する瘤欠陥除去工程、を備えることを特徴とする円筒状部材の製造方法である。これによれば前記ロール面の表面にある前記瘤欠陥にロール面の接線方向から加工用レーザービームを照射するので、前記瘤欠陥が除去されても加工用レーザービームの照射エネルギーは後方に散逸するので、ロール表面を損傷することなく前記瘤欠陥を除去できるという効果を奏する。
請求項2に係る第2の発明は、エンボスパターンが形成されたロール面を備えた円筒状部材の製造方法であって、前記ロール面にエンボスパターンを形成するパターン形成工程、前記ロール面の接線方向から前記瘤欠陥に対し加工用レーザービームを照射して当該瘤欠陥を除去する瘤欠陥除去工程、を備えることを特徴とする円筒状部材の製造方法である。
これによれば前記エンボスパターンが形成されたロール面に対しても同様に、前記瘤欠陥にロール面の接線方向から加工用レーザービームを照射するので、前記瘤欠陥が除去されても加工用レーザービームの照射エネルギーは後方に散逸するので、ロール表面を損傷することなく前記瘤欠陥を除去できるという効果を奏する。
請求項3に係る第3の発明は、前記パターン形成工程と検査工程との間に、前記ロール面表面に金属層を形成する金属層形成工程を備えることを特徴とする請求項2記載の円筒状部材の製造方法である。
請求項4に係る第4の発明は、前記瘤欠陥除去工程で用いられる加工用レーザービームは、パルス幅1ピコ秒以下の超短パルスレーザーであることを特徴とする請求項2記載の円筒状部材の製造方法である。これによれば前記瘤欠陥の除去を非加熱で行えるので前記瘤欠陥を高い精度で除去することができるという効果を奏する。
請求項5に係る第5の発明は、前記検査工程は、前記ロール面上の検査対象部位を当該ロール面の法線方向と接線方向から観測し、予め設定した瘤欠陥の基準と一致するかを判定する工程であることを特徴とする請求項1から4のいずれかの記載の円筒状部材の製造方法である。これによれば、前記瘤欠陥を正確に確認出来るので前記瘤欠陥の見落としを防ぐことが出来、無欠陥の円筒状部材を作製することが出来る。
請求項6に係る第6の発明は、前記瘤欠陥除去工程は、前記ロール面の接線方向から前記瘤欠陥に対し当該円筒状部材の軸方向に揺動させながら加工用レーザービームを照射して当該瘤欠陥を除去する工程であることを特徴とする請求項1から5記載のいずれかに記載の円筒状部材の製造方法である。これによれば、瘤欠陥に加工用レーザービームを均一に照射できるので高い精度で前記瘤欠陥の除去をすることができるという効果を奏する。
請求項7に係る第7の発明は、請求項1から6のいずれかに記載の方法で製造された円筒状部材が備えるロール面の形状を転写されたことを特徴とする転写物である。
請求項8に係る第8の発明は、ロール面を備えた円筒状部材の瘤欠陥修正装置であって、当該瘤欠陥修正装置は少なくとも、前記ロール面上に検査対象部位を当該ロール面の法線方向から観測可能な第1観測手段と、前記検査対象部位を当該ロール面の接線方向から観測可能な第2観測手段と、前記第1観測手段及び第2観測手段によって特定された検査対象部位の突起を瘤欠陥と判断すべき基準と比較する瘤欠陥判定手段と、を備える瘤欠陥検出機構と、前記瘤欠陥検出機構によって検出された瘤欠陥の位置を検出する位置決め手段と、前記瘤欠陥を除去する加工用レーザーを当該瘤欠陥に前記ロール面の接線方向から照射可能な加工用レーザー照射手段と、を備える瘤欠陥除去機構とによって構成されることを特徴とする瘤欠陥修正装置である。
請求項9に係る第9の発明は、前記位置決め手段は可視レーザーであり、当該可視レーザーと前記加工用レーザービームとは同軸で入射可能であり、かつ両レーザーの焦点を同じとする手段をさらに備えることを特徴とする請求項8記載の瘤欠陥修正装置である。これにより前記可視レーザーで前記加工用レーザービームの照射位置を確認出来るので、高い精度で前記瘤欠陥除去をすることができるという効果を奏する。
請求項10に係る第10の発明は、前記位置決めレーザー照射手段は当該手段から照射される加工用レーザービームの出力を変更可能とする光減衰器と、発振波長の異なる2以上の高出力光源とをさらに備え、前記加工用レーザービームは前記円筒状部材の軸方向に揺動可能であることを特徴とする請求項9に記載の瘤欠陥修正装置である。これにより前記円筒状部材の材質を幅広く選択しても前記瘤欠陥を高精度に除去することが出来るという効果を奏する。
【発明の効果】
【0007】
以上の説明により明らかなように、本発明の円筒状部材の製造方法及び瘤欠陥修正装置では、以下の効果が得られる。
【0008】
第1に、図5に示すように、加工用レーザービームを円筒状部材であるエンボスロール7の接線方向からエンボスロール面に水平に入射し、集光レンズ31を用いて、加工用レーザービーム25がエンボスロール7の円周上の頂点に集光することで、瘤欠陥1にのみ加工用レーザービーム25のエネルギーが作用して瘤欠陥1の除去を行い、瘤欠陥1が除去されても、加工用レーザービーム25の照射エネルギーは後方に散逸し、エンボスロール7の表面にある保護層19を損傷することはないので、均一で安定した瘤欠陥1の除去を行うことができる。
この方法によって、製造された円筒状部材のロール面の形状を転写された転写物のパターン欠陥の発生を防ぐことができる。
【0009】
第2に、瘤欠陥1の検出及び計測手段として、エンボスロール7の半径方向と接線方向の2方向からCCDカメラを搭載する顕微鏡システムにより、瘤欠陥1を観測できるように配置され、瘤欠陥1の高さと面積情報を同時に取得できる。またそれぞれの顕微鏡に備えられた照明と、位置決めレーザーによって瘤欠陥1を鮮明に捕らえることができるとともに、予め規定された瘤欠陥1の判定基準、例えば高さ1μm以上の瘤欠陥1は除去する等の基準を設ける等により、除去すべき瘤欠陥1が決定されることで、除去すべき瘤欠陥1か否かの判定をするための処理時間が短縮でき、またレーザーによる瘤欠陥1の除去観察が見やすいので、瘤欠陥1の除去が不完全で瘤欠陥1が一部取り残されるという問題も生じない。
【0010】
第3に、レーザー光源を各種組み合わせて装備可能とすることで、エンボスロール7に幅広い材料範囲で構成されたエンボスロール7の瘤欠陥1を除去することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は円筒状部材であって、ロール表面に隆起した欠陥が生じるものであれば適用することができるが、ここでは防眩フィルム等の転写物に凹凸パターンを転写するためのエンボスロールについて説明する。
エンボスロール7の製造工程を図6、図7を用いて順次説明する。
まず、図6(a)に示す、材質が鉄またはアルミニウムの直径300mm長さ500mmのロール芯材9に、例えば、電解ニッケルめっきを行い、めっき厚数十μmの密着層11を形成し(図6(b))、その上に、例えば電析銅めっき、電析ニッケルめっき等でめっき厚50〜200μmの下地層13を形成する(図6(c))。
次に下地層13の表面を砥石研磨し、さらに剥離処理により剥離層15を形成し(図6(d))、またその上に、例えば電析ニッケルめっき,無電解ニッケルめっき,電析亜鉛めっき,電析銅めっきなどのいずれかを利用しめっき厚50〜200μmの加工層17を形成する(図7(e))。
この方式により、加工層17がエンボスロール7を稼動させたことにより損傷または、他の不具合により再生する必要が出てきた場合は、この剥離層15と加工層17を機械的に剥離して、下地層13を研磨によって整え、再び剥離層15を形成しさらにその上に加工層17をめっきにより形成する。
【0012】
次にエンボスロール7のエンボス形成方法について説明する。
加工層17への凹凸形成方法は、セラミックビーズを用いたブラスト処理技術またはフォトリソグラフィ技術を利用したものを用いることができる。フォトリソグラフィ技術としてはレーザー製版技術を応用することができる。表面に凹凸を形成後、硫酸,塩酸,硝酸,硫酸−過酸化水素,過硫酸アンモニウム液,塩化銅液,または塩化鉄液のいずれかのエッチング性溶液を用いて凹凸面を滑らかにする。さらに、図7(f)に示すように、加工層17の凹凸の形状表面を保護するため、電析クロムめっきにて、めっき厚10μmの保護層19を形成する。
【0013】
本発明で提案するエンボスロール7表面の瘤欠陥1の除去方法は、エンボスロール7の製造途中、または最終の外観検査で発見された瘤欠陥1に加工用レーザービーム25を照射して除去する方法である。
【0014】
上記の突起状の瘤欠陥1除去に用いる加工用レーザービームには、アブレーションの作用を用いる。ここでレーザーのアブレーションとは、固体にレーザービームを照射したとき、固体材料を構成する元素が種々の形態で爆発するように放出され、固体表面のレーザービーム照射部分がえぐられる現象、別の表現をすれば、レーザービームを固体表面に照射したときに発生するプラズマ発光と衝撃波を伴った固体表面の爆発的な剥離現象である。使用されるレーザービームのエネルギーとパルス幅、波長により、昇華を伴うもの、蒸発によるもの、溶融を伴うもの、衝撃波による破砕をともなうものなどがあるが、本発明においては、加工部周辺の変質や加工領域の拡大のない溶融を伴わない昇華や破砕のアブレーション加工が適している。
【0015】
アブレーション加工に用いる加工用レーザー装置は、発振パルス幅が1ピコ秒以下である超短パルスレーザー装置で、超短パルスレーザーを特定の物質に照射し、超短パルスレーザーアブレーション作用によりその物質を加工除去する。
このレーザー装置の特徴は、多光子吸収や熱緩和時間よりも短時間の現象であることなどにより非熱加工が可能であること、また非線形応答のため加工分解能は光の回折限界以下であり、高い精度の加工が可能である。
【0016】
このようにして作製したエンボスロール7表面の微細な凹凸を適正にフィルムに施すことができれば、ヘイズを低くでき、表示パネルの視認性を向上できる。
【0017】
本発明によるエンボスロール表面の瘤欠陥1の修復方法では、大別して、瘤欠陥1をレーザーで除去する機能に加えて、それに先立って瘤欠陥1を検知、特定する機能を有し、これらの機能は、マイクロメートルの桁で高精度に一体化され、瘤欠陥1検査修正機構を成している。
【0018】
瘤欠陥1を除去する機能を実現するために、図1に示すように、加工用レーザー装置21から出射された加工用レーザービーム25は対物レンズ29にて広げられ、そして、該対物レンズ29の先に配置された集光レンズ31にてレーザー照射位置、すなわちレーザー加工位置にビームスポット33、すなわち、加工点Pを形成する。
【0019】
前述した、特許文献1のエンボスロール7面に垂直に加工用レーザービームを入射する方式では、10倍から50倍の倍率の対物レンズで集光し、作動距離20mmから5mmの範囲であった。本発明のエンボスロール7の円周に対して接線方向から入射する方式でも、加工用レーザービームによる瘤欠陥1の除去が行われる範囲を極力小さくするためにレンズの開口数を可能な限り大きくすることが望ましく、集光レンズ31の大きさは有効直径50mm以上として、一般的なエンボスロール7の直径300mmを考慮して光学系を配置するためには作動距離を70mm以上にする必要があり、対物レンズ29と瘤欠陥1が除去されるエンボスロール7の加工点Pとの距離(作動距離)は、100mmに設定した。尚、これらの設計条件は必要とされるスポット径と焦点深度が得られればよく、この数字に限定されるものではない。
【0020】
第1図に示した構成では、加工用レーザー装置21と共に波長の異なる可視光の位置決めレーザー装置23を設けている。2つのレーザー装置から照射されるレーザーは同軸で入射されるようにハーフミラー27aで合体される。この場合、対物レンズ29と最終段の集光レンズ31は、色消しレンズであることが特に望ましい。この位置決めレーザー装置23から発信される位置決めレーザーは、加工用レーザービームの照射位置の特定と確認のために組み込まれるが、瘤欠陥1の検出、可視化の目的でも利用しうる。
【0021】
ここで、同様の目的のために、レーザーの出力端に偏光素子、NDフィルターなどによる光減衰器を装備してレーザー出力を低出力と高出力に切り替えられるようにすることで、低出力に設定したレーザーをエンボスロール7表面に接線方向から照射することで、瘤欠陥1の探索にも利用可能となるし、加工用レーザービーム照射位置の確認を行うこともできるようになる。
【0022】
また、上記のようにレーザー出力切り替え機能を持つ2台以上の波長の異なる高出力レーザーを準備しておくことも有効であり、広範囲の材質のエンボスロール7へ適用することも可能になり、多種のレーザーを装備することはすべて本発明の範囲に含まれる。
【0023】
瘤欠陥1の検知と特定および、加工高さ,形状の観測には、それぞれエンボスロール7面の円周に対して接線方向から観測する顕微鏡システム35a(第1観測手段)とエンボスロール7面に垂直な方向から観測する顕微鏡システム35b(第2観測手段)の互いに角度90度をなす2組のCDDカメラを具備した顕微鏡システムが準備される。
【0024】
ここで、接線方向から観測する顕微鏡システム35aの視界は、加工用レーザー装置21の加工用レーザービームと位置決めレーザー装置23の可視レーザーの光軸と一致され、瘤欠陥1の存在する領域を集光レンズ31、対物レンズ29を介し、ハーフミラー27bで分岐して観測する。分岐場所は、レーザー光源と対物レンズ29の間としたが、これは、集光レンズ31と対物レンズ29の間で分岐してもよい。
【0025】
接線方向からの観測用照明は、照明装置37から導かれたライトガイド39にて角度をつけて配置し、良好な明るさを持った視界を得るために光軸上後方に反射鏡41を配置した(図2参照)。この反射鏡41は、反射光量が100%に近い必要はなく、白色の紙やプラスチックシートでもよく、表面に散乱効果をもつことがより好ましい。
【0026】
エンボスロール7面に垂直な方向から観測する顕微鏡システム35bは、検査時には瘤欠陥1の投影面積の算出に使用される。また、可視レーザー照射時には、加工用レーザービームの面内方向の位置決めに用いられる。
エンボスロール7の軸方向へのビームスポット33の移動は、集光レンズ31の光軸と垂直方向の位置を移動させることによって可能である。
すなわち加工用レーザービームの照射では、集光レンズ31を瘤欠陥1の大きさに合わせてエンボスロールの軸方向に往復移動させることで、加工用レーザービームのビームスポット33が左右に移動(揺動)し瘤欠陥1を除去することが出来る。
【0027】
垂直方向の観測用照明は、顕微鏡システム35bに組み込まれた図示しない対物レンズの作動距離を短く取れると共に、反射光量も十分取れるため、顕微鏡システム35bの内部に同軸落射した。
【0028】
図3、図4にそれぞれの顕微鏡システムの視野に捉えられた瘤欠陥1の概要を示す。
図3は、エンボスロール7面に対して接線方向から観測したエンボスロール7の円周の上端部の概略図である。結果として、瘤欠陥1が存在すると観測画面3のエンボスロール端面5に輝点として映し出される。
【0029】
図4は、エンボスロール7面に垂直な方向から観測したエンボスロール7の円周上の概略図である。瘤欠陥1は、半球状のまたは半球をつなぎ合わせたような突起状の構造で黒色に映し出される。
【0030】
加工用レーザービームのエンボスロール7の半径方向への微調整も行われることが望ましい。この場合、接線方向から観測する顕微鏡システム35aとエンボスロール7面に垂直な方向から観測する顕微鏡システム35bの双方の画像に捉えられた位置決め用の可視レーザー23のレーザーのビームスポット33の大きさなどにより加工用レーザービームの照射位置の調整が行われる。
【0031】
加工用レーザー装置21,位置決めレーザー装置23、そしてエンボスロール7面に対して接線方向から観測する顕微鏡システム35a、エンボスロール7面に垂直な方向から観測する顕微鏡システム35bは、検査修正制御装置43と電気的に接続され、それぞれの動作が制御される。また、エンボスロール7を回転、並びに、軸方向に移動させ、位置を検出するローラ制御機構45が検査修正制御装置43とのコマンドとステータス情報通信を行うように設けられている。
【0032】
次に、瘤欠陥1の検出から除去までの動作を、順を追って説明する。
【0033】
先ず、瘤欠陥1の検査と修正に供されるエンボスロール7が、図示しない電動機などを用いたロールの回転機構つきロール検査台に懸架されるとローラ制御機構45により、エンボスロール7の位置だしが行われる。このエンボスロール7の軸方向の一方の端に、瘤欠陥1検査修正機構の観測位置が設定され、回転角度と共に初期値がローラ制御機構45から検査修正制御装置43に送られ、検査修正制御装置43内部の図示しない記憶装置に記録される。
【0034】
次に、検査修正制御装置43からの検査開始コマンドによりローラ制御機構45は、エンボスロール7を回転させる。エンボスロール7が回転開始すると、検査修正制御装置43は順次、エンボスロール7面に対して接線方向から観測する顕微鏡システム35aとエンボスロール7面に垂直な方向から観測する顕微鏡システム35bの双方からの取得画像を処理し、異常を発見すると、それぞれ輝点の高さ、暗部の大きさを予め設定された判定値と比較し、瘤欠陥1と判断するとその位置情報をローラ制御機構45から吸い上げ、検査結果データとして取得画像とその処理結果、輝点の高さ、暗部の大きさと共に記憶部に格納する。エンボスロール7が1回転終わると、軸方向にエンボスロール7を所定量移動させ、次のラインの検査を行う。
【0035】
この動作を順次繰り返して、瘤欠陥1の検出、特定を終了する。欠陥数‘0’の場合、エンボスロール7は、次工程に送り出される。
【0036】
瘤欠陥1が少なくとも1つ特定されたエンボスロール7は、検査結果データに基づいて位置だしされ、レーザーによる除去動作が行われる。位置決めレーザー装置23のレーザーによって瘤欠陥1に許容誤差範囲内で位置決めした後、加工用レーザー装置21に設けられた図示しない開閉器を動作させ、加工用レーザー装置21の加工用レーザービームを瘤欠陥1に照射させる。そして、エンボスロール7面に垂直な方向から観測する顕微鏡システム35bによって計測された寸法範囲内で集光レンズ31を集光レンズ31を図示しない微動機構で揺動させながら、エンボスロール7面に対して接線方向から観測する顕微鏡システム35aにて観測された画像から瘤欠陥1の高さを順次モニターして、規定値以下となった時点で集光レンズ31の揺動を停止し、加工用レーザー装置21の図示しない開閉器を閉じる。
【0037】
この動作を1本のエンボスロール7の発見されたすべての瘤欠陥1に対して行った後、エンボスロール7の表面を清浄することですべての瘤欠陥1検査修復工程を終了する。
【0038】
以上、検査工程と修復工程を分離した手順で説明したが、1つの瘤欠陥1を検知した時点で逐次修復動作を行うようにしてもよく、上に説明した手順に拘束されるものではない。また、エンボスロール7を軸方向に移動するとしたが、検査修正機構部分を移動するようにしてもよい。こうすることで、前後の工程でのエンボスロール7の移動を回避することができる。
【実施例1】
【0039】
本発明に関連するエンボスロール7表面の瘤欠陥1修復方法の実施例を以下に説明する。
【0040】
(実施例1)
図5は、エンボスロール7を形成させる層構成と瘤欠陥1の除去方法を示す概略図である。
【0041】
軸のある鉄性のロール芯材9を砥石研磨後、電析ニッケルめっきを行い密着層11を形成し、次に電析銅めっきを行い、下地層13を約200μm形成した。この面をバーチカル研磨により整面し、銀の置換めっきを行って剥離層15を形成した。さらに、電析銅めっきを行い、バーチカル研磨により表面粗さRa0.001〜0.005μmになるように研磨し加工層17を形成した。この研磨面である加工層17を、粒子経50〜150μm程度の炭化珪素を用いて約4時間ブラスト処理を行い,微細な凹凸を形成した後,塩化鉄液によってエッチングして表面の凹凸を軽減した。
【0042】
この研磨面である加工層17を水滴が残らないようにエアガンで乾燥させた後、瘤欠陥検査を行い加工層17の表面に発生した瘤欠陥1を検知し、特定された瘤欠陥1に超短パルスレーザー装置(ホヤカンデオオプトロニクス社製FLS−5000;発振波長775nm、ピークパワー800mW、最大パルスエネルギー800μJ/パルス、最小パルス幅150フェムト秒、パルス繰り返し周波数1kHz、直線偏光されたビームスポットの径10μm)を用いて、レーザー(ビーム直径約50μm,加工部とレンズ間の距離約100mm,レーザー出力値100mW,パルス幅200fs)をエンボスロール7の接線方向から照射して突起状の瘤欠陥1を取り除いた。
【0043】
引続き加工層17の表面に、電析クロムめっきにてめっき厚10μmめっきして保護層19を形成した。
【0044】
さらに、このクロムめっきによる保護層17の表面検査を行い、クロムめっきを行う前に検出されなかった瘤欠陥1に加工用レーザービームを照射して取り除いた。こうして得られたエンボスロールを用い、このロール面をポリエステルフィルム上に積層した紫外線硬化樹脂に転写し、フィルムを作製すると無欠陥のフィルムシートを作製するとことができた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、液晶テレビ、パソコンなどに用いる液晶表示装置などの画像表示装置の表示面の表面に対する外光の写りこみを防止する反射防止フィルムを作製する為の反射防止フィルム成形用エンボスロールの表面欠陥の除去及び修復方法にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施例であるエンボスロール表面の瘤欠陥修復方法の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施例であるエンボスロール表面の瘤欠陥修復方法のエンボスロール円周に対して接線方向から観測する照明系の構成を示す概略図である。
【図3】本発明の実施例であるエンボスロール表面の瘤欠陥修復方法のエンボスロール円周に対して接線方向から観測したエンボスロールの円周上上端部の概略図である。
【図4】本発明に関わるエンボスロール面に垂直方向から観測したエンボスロールの円周上の概略図である。
【図5】本発明に関わるエンボスロールの構成と瘤欠陥の除去方法を示す概略図である。
【図6】本発明に関するエンボスロールの形成工程を示す図
【図7】本発明に関するエンボスロールの形成工程
【符号の説明】
【0047】
1・・・・ 瘤欠陥
3・・・・ 観測画面
5・・・・ エンボスロール端面
7・・・・ エンボスロール
9・・・・ ロール芯材
11・・・・ 密着層
13・・・・ 下地層
15・・・・ 剥離層
17・・・・ 加工層
19・・・・ 保護層
21・・・・ 加工用レーザー装置
23・・・・ 位置決めレーザー装置
25・・・・ 加工用レーザービーム
27a、27b・・・・ハーフミラー
29・・・・対物レンズ
31・・・・集光レンズ
33・・・・ビームスポット
35a、35b・・・・顕微鏡システム
37・・・・照明装置
39・・・・ライトガイド
41・・・・反射鏡
43・・・・検査修正制御装置
45・・・・ローラ制御機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状部材の製造方法であって、
前記ロール面を、突起状の瘤欠陥がないか検査する検査工程、
前記ロール面の接線方向から前記瘤欠陥に対し加工用レーザービームを照射して当該瘤欠陥を除去する瘤欠陥除去工程、
を備えることを特徴とする円筒状部材の製造方法。
【請求項2】
エンボスパターンが形成されたロール面を備えた円筒状部材の製造方法であって、
前記ロール面にエンボスパターンを形成するパターン形成工程、
前記ロール面を、突起状の瘤欠陥がないか検査する検査工程、
前記ロール面の接線方向から前記瘤欠陥に対し加工用レーザービームを照射して当該瘤欠陥を除去する瘤欠陥除去工程、
を備えることを特徴とする円筒状部材の製造方法。
【請求項3】
前記パターン形成工程と検査工程との間に、前記ロール面表面に金属層を形成する金属層形成工程を備えることを特徴とする請求項2記載の円筒状部材の製造方法。
【請求項4】
前記瘤欠陥除去工程で用いられる加工用レーザービームは、パルス幅1ピコ秒以下の超短パルスレーザーであることを特徴とする請求項2記載の円筒状部材の製造方法。
【請求項5】
前記検査工程は、前記ロール面上の検査対象部位を当該ロール面の法線方向と接線方向から観測し、予め設定した瘤欠陥の基準と一致するかを判定する工程であることを特徴とする請求項1から4のいずれかの記載の円筒状部材の製造方法。
【請求項6】
前記瘤欠陥除去工程は、
前記ロール面の接線方向から前記瘤欠陥に対し当該円筒状部材の軸方向に揺動させながら加工用レーザービームを照射して当該瘤欠陥を除去する工程であることを特徴とする請求項1から5記載のいずれかに記載の円筒状部材の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の方法で製造された円筒状部材が備えるロール面の形状を転写されたことを特徴とする転写物。
【請求項8】
ロール面を備えた円筒状部材の瘤欠陥修正装置であって、
当該瘤欠陥修正装置は少なくとも、
前記ロール面上の検査対象部位を当該ロール面の法線方向から観測可能な第1観測手段と、前記検査対象部位を当該ロール面の接線方向から観測可能な第2観測手段と、
前記第1観測手段及び第2観測手段によって特定された検査対象部位の突起を瘤欠陥と判断すべき基準と比較する瘤欠陥判定手段と、
を備える瘤欠陥検出機構と、
前記瘤欠陥検出機構によって検出された瘤欠陥の位置を検出する位置決め手段と、
前記瘤欠陥を除去する加工用レーザーを当該瘤欠陥に前記ロール面の接線方向から照射可能な加工用レーザービーム照射手段と、
を備える瘤欠陥除去機構とによって構成されることを特徴とする瘤欠陥修正装置。
【請求項9】
前記位置決め手段は可視レーザーであり、当該可視レーザーと前記加工用レーザービームとは同軸で入射可能であり、かつ両レーザーの焦点を同じとする手段をさらに備えることを特徴とする請求項8記載の瘤欠陥修正装置。
【請求項10】
前記位置決めに用いる可視レーザーは当該手段から照射される加工用レーザービームの出力を可視領域内で変更可能とする光減衰器と、発振波長の異なる2以上の高出力光源とをさらに備え、
前記加工用レーザービームは前記円筒状部材の軸方向に揺動可能であることを特徴とする請求項9に記載の瘤欠陥修正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−73723(P2008−73723A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255498(P2006−255498)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】