説明

制御装置

【課題】矩形波制御に基づく制御の実行時に処理負荷を適切に低減することが可能な制御装置を実現する。
【解決手段】制御モード決定部20と、電圧指令値決定部33,43と、制御信号生成部23と、制御モード決定部20により決定された制御モードがパルス幅変調制御モードである場合に、制御信号生成部23の演算周期を、キャリア周期の1/2に設定された基準演算周期のN倍(Nは1以上の整数)の第一周期に設定するとともに、電圧指令値決定部43の演算周期を、第一周期のM倍(Mは2以上の整数)の第二周期に設定する演算周期設定部21と、を備え、演算周期設定部21は、制御モード決定部20により決定された制御モードが矩形波制御モードである場合に、電圧指令値決定部33の演算周期及び制御信号生成部23の演算周期の双方を、第二周期に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電圧を交流電圧に変換して交流電動機に供給する直流交流変換部を備えた電動機駆動装置の制御を行う制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記制御装置の従来例として、例えば下記の特許文献1に記載された技術がある。特許文献1に開示されている制御装置は、電圧指令値に応じた直流交流変換部の制御信号をパルス幅変調(PWM)制御に基づき生成すべく、コイルに流れる電流の検出値と指令値との偏差に基づく電流フィードバック演算を行い電圧指令値を生成する構成を備えている。そして、この制御装置は、処理能力の低い演算装置でも複数の交流電動機を制御することを可能とすべく、PWMキャリアの1周期を割り込み周期とし、各交流電動機に対する電流フィードバック演算の周期を、当該割り込み周期の2倍又は整数n倍の周期に設定するとともに、異なる交流電動機に対する電流フィードバック演算が互いに異なる割り込み周期で実行される構成とする。これにより、処理負荷の大きい電流フィードバック演算が実行されるタイミングを時間的に分散させ、処理能力の低い演算装置でも演算が破綻しないとされている。
【0003】
ところで、直流交流変換部を制御して行う交流電動機の制御には、直流交流変換部の出力電圧の波形に関して、PWM制御以外にも矩形波制御がある。矩形波制御では、PWM制御に比べて直流電源の電圧利用率(変調率)を高めることができるため、より大きなトルクを交流電動機に発生させることができる。そして、矩形波制御はPWM制御とは制御方式が大きく異なるため、矩形波制御の実行時の処理負荷の低減は、PWM制御に対する手法がそのまま適用できるとは限らない。しかしながら、上記特許文献1には、矩形波制御に言及した記載はなく、矩形波制御の実行時に処理負荷を適切に低減することが可能な構成は未だ判明していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3890907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、PWM制御に基づく制御に加えて矩形波制御に基づく制御も実行可能な構成において、矩形波制御に基づく制御の実行時に処理負荷を適切に低減することが可能な制御装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る、直流電圧を交流電圧に変換して交流電動機に供給する直流交流変換部を備えた電動機駆動装置の制御を行う制御装置の特徴構成は、パルス幅変調制御モードと矩形波制御モードとを含む複数の制御モードの中から1つの実行を決定する制御モード決定部と、前記制御モード決定部により決定された制御モードが前記パルス幅変調制御モードである場合には、前記直流交流変換部から前記交流電動機に供給する交流電圧波形の指令値である交流波形指令値を電圧指令値として決定し、前記制御モード決定部により決定された制御モードが前記矩形波制御モードである場合には、矩形波電圧の位相値を電圧指令値として決定する電圧指令値決定部と、前記制御モード決定部により決定された制御モードと前記電圧指令値とに基づき前記直流交流変換部の制御信号を生成する制御信号生成部と、前記制御モード決定部により決定された制御モードが前記パルス幅変調制御モードである場合に、前記制御信号生成部の演算周期を、キャリア周期の1/2に設定された基準演算周期のN倍(Nは1以上の整数)の第一周期に設定するとともに、前記電圧指令値決定部の演算周期を、前記第一周期のM倍(Mは2以上の整数)の第二周期に設定する演算周期設定部と、を備え、前記演算周期設定部は、前記制御モード決定部により決定された制御モードが前記矩形波制御モードである場合に、前記電圧指令値決定部の演算周期及び前記制御信号生成部の演算周期の双方を、前記第二周期に設定する点にある。
【0007】
この特徴構成によれば、パルス幅変調制御モードと矩形波制御モードとの制御方式の相違点に基づき、矩形波制御モードの実行時に制御特性を良好に維持しつつ処理負荷を適切に低減することができる。
すなわち、パルス幅変調制御モードでは、電気角1周内で制御信号の変更を反映できるタイミングが多いのに対し、矩形波制御モードでは、電気角1周内で制御信号の変更を反映できるタイミングが少ない。そのため、矩形波制御モードの実行時には、制御特性を良好に維持しつつ、制御信号を生成する処理を実行する制御信号生成部の演算周期をパルス幅変調制御モードの実行時に比べて長くすることができる。本発明では、このような矩形波制御モードに特有の性質に着目し、パルス幅変調制御モードの実行時に第一周期に設定される制御信号生成部の演算周期を、矩形波制御モードの実行時には第一周期のM倍の第二周期に設定する構成とする。これにより、矩形波制御モードの実行時にもパルス幅変調制御モードの実行時と同様に制御信号生成部の演算周期を第一周期に設定する場合に比べ、制御信号生成部による制御信号生成処理が間引かれる分だけ、処理負荷を低減することができる。
また、上記の特徴構成によれば、パルス幅変調制御モードの実行時及び矩形波制御モードの実行時の双方において、演算負荷が大きくなりやすい電圧指令値決定処理を実行する電圧指令値決定部の演算周期が第一周期のM倍の第二周期に設定されるため、電圧指令値決定部の演算周期が第一周期に設定される場合に比べ、電圧指令値決定処理が間引かれた分だけ処理負荷を低減することも可能となっている。
なお、本発明におけるキャリア周期を規定するキャリアは、パルス幅変調制御モードの実行時のパルス幅変調波形のキャリアと同一のものであっても良く、その場合には、例えば、「N」を「1」とすると好適である。また、本発明におけるキャリア周期を規定するキャリアは、パルス幅変調波形のキャリアとは異なるものであっても良く、その場合には、例えば、「N」を、パルス幅変調波形のキャリアの周期の本発明におけるキャリア周期に対する比とすると好適である。
【0008】
ここで、前記交流電動機の出力トルクと目標トルクとの偏差を導出するトルク偏差導出部を更に備え、前記電圧指令値決定部は、前記制御モード決定部により決定された制御モードが前記矩形波制御モードである場合に、前記トルク偏差導出部が導出した偏差に基づき少なくとも比例制御及び積分制御を行って前記矩形波電圧の位相値を決定し、前記演算周期設定部は、前記制御モード決定部により決定された制御モードが前記矩形波制御モードである場合に、前記トルク偏差導出部の演算周期を、前記第二周期のL倍(Lは2以上の整数)の第三周期に設定すると好適である。
【0009】
この構成によれば、トルク偏差導出部によるトルク偏差導出処理に用いられる出力トルクや目標トルクの第二周期に相当する期間内での変化が緩慢である場合に、制御特性を良好に維持しつつ処理負荷の更なる低減を図ることができる。
【0010】
また、上記のように、前記制御モード決定部により決定された制御モードが前記矩形波制御モードである場合に、前記トルク偏差導出部の演算周期を前記第三周期に設定する構成において、前記交流電動機のコイルに流れる電流の検出値に基づき前記出力トルクの推定値であるトルク推定値を導出するトルク推定値導出部を更に備え、前記トルク偏差導出部は、前記トルク推定値を前記出力トルクとして前記偏差を導出し、前記演算周期設定部は、前記制御モード決定部により決定された制御モードが前記矩形波制御モードである場合に、前記トルク推定値導出部の演算周期を、前記第三周期に設定すると好適である。
【0011】
この構成によれば、トルク推定値導出部の演算周期が、トルク偏差導出部の演算周期と同じく第三周期に設定されるため、必要以上に短い周期でトルク推定値が導出されることを抑制して処理負荷の更なる低減を図ることができるとともに、トルク偏差導出部により導出されるトルク偏差の出力トルクの変化に対する追従性を高く維持することができる。
【0012】
また、M個の前記交流電動機に対する前記電圧指令値決定部による前記電圧指令値の決定のための演算処理を単一の演算処理ユニットにより行うように構成され、M個の前記交流電動機のそれぞれについての前記電圧指令値決定部の演算を、前記第二周期で互いに異なる基準演算周期内に行うと好適である。
【0013】
この構成によれば、演算負荷の大きくなりやすい電圧指令値決定部による演算が、M個の交流電動機に対して互いに異なる基準演算周期内で実行されるため、処理能力が限られた演算処理ユニットを使用してM個の交流電動機の制御を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る制御装置の機能ブロック図である。
【図2】本発明の第一の実施形態に係る電動機駆動装置の構成を示す回路図である。
【図3】本発明の第一の実施形態に係る矩形波制御モードにおける三相電圧指令値の一例を示す図である。
【図4】本発明の第一の実施形態に係る制御モードマップの一例を示す図である。
【図5】本発明の第一の実施形態に係るPWM制御モードにおける各処理の実行タイミングを示すタイムチャートである。
【図6】本発明の第一の実施形態に係る矩形波制御モードにおける各処理の実行タイミングを示すタイムチャートである。
【図7】本発明の第一の実施形態に係る電動機制御処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第二の実施形態に係る各処理の実行タイミングを示すタイムチャートである。
【図9】本発明の第二の実施形態に係る各処理の実行タイミングを示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.第一の実施形態
本発明に係る制御装置の実施形態について、図面を参照して説明する。図1及び図2に示すように、本実施形態に係る制御装置1は、制御モードを決定する制御モード決定部20と、電圧指令値を決定する電圧指令値決定部(後述する位相値決定部33及び波形指令値決定部43)と、制御モードと電圧指令値とに基づきインバータ6のスイッチング制御信号S1〜S6を生成する制御信号生成部23と、電圧指令値決定部の演算周期及び制御信号生成部23の演算周期を設定する演算周期設定部21とを備えている。そして、制御装置1は、ベクトル制御法を用いて、直流電圧Vdcを交流電圧に変換して電動機MGに供給するインバータ6を備えた電動機駆動装置2の制御を行うように構成されている。本実施形態では、電動機MGは、三相交流により動作する埋込磁石構造の同期電動機(IPMSM)とされている。
【0016】
このような構成において、本実施形態に係る制御装置1は、演算周期設定部21が制御モードに基づき行う電圧指令値決定部の演算周期及び制御信号生成部23の演算周期の設定に特徴を有する。以下、本実施形態に係る制御装置1の構成について詳細に説明する。本実施形態では、電動機MG、インバータ6、及びスイッチング制御信号S1〜S6が、それぞれ、本発明における「交流電動機」、「直流交流変換部」、及び「制御信号」に相当する。また、本実施形態では、位相値決定部33及び波形指令値決定部43が、本発明における「電圧指令値決定部」を構成している。
【0017】
1−1.制御装置の全体構成
まず、本実施形態に係る制御装置1の全体構成について図1及び図2を参照して説明する。図1に示すように、制御装置1は、制御モード決定部20と、演算周期設定部21と、フィードバック制御部22と、制御信号生成部23と、三相二相変換部24と、回転速度導出部25と、を備えている。そして、制御装置1には、目標トルクTM、電動機MGのコイルMに流れる電流の検出値(U相電流Iur、V相電流Ivr、W相電流Iwr)、及び電動機MGのロータの磁極位置θが入力され、これらの入力値に基づき上記の各機能部が電動機駆動装置2の制御のための処理を実行する。なお、本実施形態では、制御装置1が備える各機能部は、CPU1aが備えるメモリ(プログラムメモリ)に格納された電動機制御プログラムにより構成されており、CPU1a(より正確にはCPU1aが備えるCPUコア)が、電動機制御プログラムを実行するコンピュータとして動作する。なお、本例では、制御装置1に備えられるCPU1aは、シングルタスクのマイクロコンピュータとされている。本実施形態では、CPU1aが、本発明における「演算処理ユニット」に相当する。
【0018】
回転速度導出部25は、磁極位置θ(電気角上でのロータの回転角度)に基づき電動機MGの回転速度ωを導出する機能部である。図2に示すように、電動機MGのロータの各時点での磁極位置θは、回転センサ63により検出されて制御装置1(本例では回転速度導出部25、三相二相変換部24、及び制御信号生成部23)に入力される。そして、回転速度導出部25が導出した回転速度ωは、制御モード決定部20及びフィードバック制御部22に出力される。回転センサ63は、例えばレゾルバ等により構成される。
【0019】
三相二相変換部24は、入力される各相の電流の検出値Iur,Ivr,Iwrに対して磁極位置θに基づく三相二相変換を行い、実d軸電流Idr及び実q軸電流Iqrを導出する機能部である。なお、d軸は界磁の磁束方向に設定され、q軸は界磁の向きに対して電気角でπ/2進んだ方向に設定される。そして、三相二相変換部24が導出したdq座標での電流の検出値(実d軸電流Idr及び実q軸電流Iqr)は、フィードバック制御部22に出力される。図2に示すように、各相の電流の検出値Iur,Ivr,Iwrは電流センサ62により検出され制御装置1に入力される。なお、本例では、三相の全ての電流が検出される構成を例示しているが、U相、V相、W相の三相は平衡しており、それらの総和の瞬時値はゼロである。そのため、三相の内の二相分のみの電流を検出し、残る一相は制御装置1(CPU1a)において演算により求めてもよい。
【0020】
フィードバック制御部22は、制御信号生成部23がスイッチング制御信号S1〜S6を生成する際に利用される電圧指令値を、目標トルクTM、実d軸電流Idr、実q軸電流Iqr、及び回転速度ωに基づき導出する機能部である。電動機MGの目標トルクTMは、図示しない他の制御装置等からの要求信号として制御装置1(本例では、制御モード決定部20及びフィードバック制御部22)に入力される。すなわち、目標トルクTMは、電動機MGに対する出力トルクの指令値(トルク指令値)とされている。例えば、制御装置1が、電動車両やハイブリッド車両等の駆動力源として用いられる電動機MGを制御対象とする電動機駆動装置2の制御装置である場合には、目標トルクTMは、車両の運転者のアクセル操作等に応じて決定される。そして、フィードバック制御部22が導出した電圧指令値は、制御信号生成部23に出力される。なお、後述するように、フィードバック制御部22は、矩形波制御モードではトルクフィードバック制御部30を機能させて電圧指令値(位相値φ)を導出し、パルス幅変調(Pulse Width Modulation、以下「PWM」という。)制御モードでは電流フィードバック制御部40を機能させて電圧指令値(交流波形指令値Vd,Vq)を導出するように構成されている。すなわち、本例では、フィードバック制御部22が実行するフィードバック制御処理の内容は、制御モードによって異なる。トルクフィードバック制御部30及び電流フィードバック制御部40の詳細な構成は、後にそれぞれ第1−2節及び第1−3節にて説明する。
【0021】
また、フィードバック制御部22は、詳細は後述するが、直流電圧Vdcに対するインバータ6の出力電圧波形の基本波成分の実効値の比率である変調率Rを導出するように構成されている。直流電圧Vdcは、図2に示すように、直流電源3の電圧であり、電圧センサ61により検出されて制御装置1に入力される。直流電源3は、例えば、ニッケル水素二次電池やリチウムイオン二次電池等の各種二次電池、キャパシタ、或いはこれらの組合せ等で構成される。また、本例では、直流電源3からの直流電圧Vdcを平滑化する平滑コンデンサC1が備えられている。
【0022】
制御信号生成部23は、制御モード決定部20により決定された制御モードと、フィードバック制御部22が導出した電圧指令値と、回転センサ63により検出された磁極位置θとに基づき、インバータ6を駆動するためのスイッチング制御信号S1〜S6を生成する機能部である。なお、制御信号生成部23は、フィードバック制御部22が導出した電圧指令値に基づき三相の交流電圧指令値(U相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv、W相電圧指令値Vw)を生成し、これらの交流電圧指令値Vu,Vv,Vwに基づきスイッチング制御信号S1〜S6を生成する。そして、制御信号生成部23が生成したスイッチング制御信号S1〜S6により、インバータ6を介した電動機MGの駆動制御が行われる。なお、制御信号生成部23の詳細な構成は、後に第1−4節で説明する。
【0023】
ところで、インバータ6は、直流電圧Vdcを交流電圧に変換して電動機MGに供給するための装置であり、本例では、複数組のスイッチング素子と、フリーホイールダイオードとして機能する複数のダイオードと、を備えて構成されている。具体的には、インバータ6は、電動機MGの各相(U相、V相、W相の3相)のそれぞれについて一対のスイッチング素子、具体的には、U相用上アーム素子E1及びU相用下アーム素子E2、V相用上アーム素子E3及びV相用下アーム素子E4、並びにW相用上アーム素子E5及びW相用下アーム素子E6を備えている。また、各スイッチング素子E1〜E6の夫々には、1つのダイオードD1〜D6が並列接続されている。なお、スイッチング素子E1〜E6としては、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)型、バイポーラ型、電界効果型、MOS型等の種々の構造のパワートランジスタを用いることができる。
【0024】
そして、各相用の上アーム素子E1,E3,E5のエミッタと下アーム素子E2,E4,E6のコレクタとが、電動機MGの各相のコイルM(U相コイルMu、V相コイルMv、W相コイルMw)にそれぞれ接続されている。また、各相用の上アーム素子E1,E3,E5のコレクタはシステム電圧線51に接続され、各相用の下アーム素子E2,E4,E6のエミッタは負極線52に接続されている。
【0025】
スイッチング素子E1〜E6のそれぞれは、制御信号生成部23から出力されるスイッチング制御信号S1〜S6に従ってオンオフ動作(スイッチング動作)を行う。これにより、インバータ6は、直流電圧Vdcを交流電圧に変換して電動機MGに供給し、目標トルクTMに応じたトルクを電動機MGに出力させる。本実施形態では、スイッチング制御信号S1〜S6は、各スイッチング素子E1〜E6のゲートを駆動するゲート駆動信号とされている。
【0026】
なお、本例では、電動機MGは必要に応じて発電機としても動作するように構成されており、電動機MGが発電機として機能する際には、インバータ6は、発電された交流電圧を直流電圧に変換してシステム電圧線51に供給する。
【0027】
制御モード決定部20は、目標トルクTMと、回転速度導出部25が導出した回転速度ωとに基づき、電動機駆動装置2(電動機MG)の制御モードを決定する機能部である。制御モード決定部20は、PWM制御モードと矩形波制御モードとを含む複数の制御モードの中から1つの実行を決定するように構成される。本実施形態では、制御モード決定部20は、PWM制御モードと矩形波制御モードとの中から1つの制御モードを選択し、当該選択した制御モードの実行を決定するように構成されている。
【0028】
PWM制御モードでは、U、V、Wの各相のインバータ6の出力電圧波形であるPWM波形が、上アーム素子E1、E3、E5がオン状態となるハイレベル期間と、下アーム素子E2、E4、E6がオン状態となるローレベル期間とにより構成されるパルスの集合で構成されると共に、その基本波成分が一定期間で略正弦波状となるように、各パルスのデューティ比が制御される。PWM制御では、変調率Rを「0〜0.78」の範囲で変化させることができる。
【0029】
PWM制御には、通常PWM制御と過変調PWM制御の2つの制御方式が含まれる。通常PWM制御は、制御信号生成部23が電圧指令値に基づき生成する三相の交流電圧指令値Vu,Vv,Vwの振幅(基本波成分の振幅)がキャリア波形の振幅以下であるPWM制御である。また、過変調PWM制御は、三相の交流電圧指令値Vu,Vv,Vwの振幅(基本波成分の振幅)がキャリア波形の振幅を超えるPWM制御である。なお、キャリアは、例えば三角波や鋸波等とされる。
【0030】
通常PWM制御としては、正弦波PWM制御が代表的であるが、本実施形態では、正弦波PWM制御の各相の基本波に対して中性点バイアス電圧を印加する空間ベクトルPWM(Space Vector PWM、以下「SVPWM」という)制御を用いる。なお、SVPWM制御では、キャリアとの比較によらずにデジタル演算により直接PWM波形を生成する。本発明においては、このようにキャリアを用いずにPWM波形を生成する方式も、仮想的なキャリア波形の振幅との大小関係に基づき、通常PWM制御又は過変調PWM制御に含めることとする。すなわち、PWM波形の基本波成分の振幅が仮想的なキャリア波形の振幅以下である場合には通常PWM制御に含め、PWM波形の基本波成分の振幅が仮想的なキャリア波形の振幅を越える場合には過変調PWM制御に含める。なお、通常PWM制御としてのSVPWM制御では、変調率Rは「0〜0.707」の範囲で変化させることができる。
【0031】
過変調PWM制御は、通常PWM制御に比べて各パルスのデューティ比を基本波成分の山側で大きく谷側で小さくすることにより、インバータ6の出力電圧波形の基本波成分の波形を歪ませ、振幅が通常PWM制御よりも大きくなるように制御する。過変調PWM制御では、変調率Rは「0.707〜0.78」の範囲で変化させることができる。
【0032】
矩形波制御モードでは、各スイッチング素子E1〜E6のオン及びオフが電動機MGの電気角1周期につき1回ずつ行われ、各相について電気角半周期につき1回のパルスが出力される回転同期制御である。ここで、回転同期制御とは、電動機MGの電気角の周期とインバータ6のスイッチング周期とを同期させる制御である。具体的には、矩形波制御では、U、V、Wの各相の交流電圧指令値Vu,Vv,Vw(インバータ6の出力電圧波形)が、図3に示すように、電気角半周期毎にハイレベル期間とローレベル期間とが1回ずつ交互に現れるとともにこれらのハイレベル期間とローレベル期間との比が1:1の矩形波となるように制御する。このとき、各相の出力電圧波形は、互いに120°位相をずらして出力される。これにより、矩形波制御は、インバータ6に矩形波状電圧を出力させる。矩形波制御では、変調率Rは最大変調率である「0.78」に固定される。言い換えれば、変調率Rが最大変調率に到達すると矩形波制御モードの実行が制御モード決定部20により決定される。
【0033】
制御装置は、図4に示すような制御モードマップを記憶している。そして、制御モード決定部20は、制御モードマップを参照し、回転速度ω及び目標トルクTMに基づいて制御モードを決定する。図4に示すように、本例では、制御モードマップには、電動機MGの動作可能領域として、第一領域A1、第二領域A2、及び第三領域A3の3つの領域が設定されている。
【0034】
そして、制御モード決定部20は、回転速度ωと目標トルクTMとの関係が第一領域A1内或いは第二領域A2内にある場合には、PWM制御モードの実行を決定する。ところで、上記のように、PWM制御には、通常PWM制御と過変調PWM制御の2つの制御方式が含まれる。そして、制御モード決定部20は、回転速度ωと目標トルクTMとの関係が第一領域A1内にある場合には、PWM制御モードの実行を決定するとともに、当該PWM制御モードにおける制御方式を通常PWM制御方式に決定する。また、制御モード決定部20は、回転速度ωと目標トルクTMとの関係が第二領域A2内にある場合には、PWM制御モードの実行を決定するとともに、当該PWM制御モードにおける制御方式を過変調PWM制御方式に決定する。また、制御モード決定部20は、回転速度ωと目標トルクTMとの関係が第三領域A3内にある場合には、矩形波制御モードの実行を決定する。
【0035】
また、本実施形態では、電動機MGの界磁磁束を調整する界磁制御に関して、最大トルク制御及び弱め界磁制御を実行可能に構成されている。そして、本実施形態では、通常PWM制御方式に基づくPWM制御モードの実行時には最大トルク制御が実行され、矩形波制御モード及び過変調PWM制御方式に基づくPWM制御モードの実行時には弱め界磁制御が実行されるように構成されている。ここで、最大トルク制御とは、同一電流に対して電動機MGの出力トルクが最大となるように電流位相を調整する制御である。また、弱め界磁制御とは、最大トルク制御に比べて電動機MGの界磁磁束を弱めるように電流位相を調整する制御である。
【0036】
ところで、本実施形態では、フィードバック制御部22が導出した変調率R或いは当該変調率Rに基づき導出された数値が、制御モード決定部20に入力されるように構成されている。これにより、制御モード決定部20は、回転速度ω及び目標トルクTMに基づいて制御モードを決定することを前提としつつ、変調率R或いは当該変調率Rに関連付けられた数値(例えば、後述するd軸電流調整指令値Idm等)に基づいて制御モードの選択に一定の制限を課すことが可能とされている。また、本例では、制御モード決定部20は、回転速度ω及び目標トルクTMに基づいて制御モードを決定しているが、制御モード決定部20が、弱め界磁制御で電動機MGの界磁磁束を弱めるために設定されるd軸電流調整指令値Idm及び変調率Rに基づいて制御モードを決定する構成とすることもできる。
【0037】
そして、制御モード決定部20が実行を決定した制御モードの情報は、演算周期設定部21に送られ、演算周期設定部21は、当該決定された制御モードの種類に基づき各部の演算周期を設定する。また、制御モード決定部20が実行を決定した制御モードの情報は、フィードバック制御部22及び制御信号生成部23の双方にも送られ、フィードバック制御部22及び制御信号生成部23は、当該決定された制御モードの種類に応じた演算を行う。
【0038】
演算周期設定部21は、制御モード決定部20が実行を決定した制御モードに基づき、制御信号生成部23の演算周期を設定する。また、演算周期設定部21は、制御モード決定部20により決定された制御モードが矩形波制御モードである場合には、トルクフィードバック制御部30が備えるトルク推定値導出部31、トルク偏差導出部32、及び位相値決定部33の各部の演算周期を設定する。一方、演算周期設定部21は、制御モード決定部20により決定された制御モードがPWM制御モードである場合には、電流フィードバック制御部40が備える電流指令値導出部41、電流偏差導出部42、及び波形指令値決定部43の各部の演算周期を設定する。なお、演算周期設定部21が設定する各部の演算周期についての詳細は、後に第1−5節で説明する。
【0039】
1−2.トルクフィードバック制御部の構成
トルクフィードバック制御部30は、目標トルクTM、実d軸電流Idr、及び実q軸電流Iqrに基づきトルクフィードバック制御を行い、電圧指令値としての矩形波電圧の位相値φ(電圧位相)を導出する機能部である。本実施形態では、図3に示すように、矩形波電圧の位相値φは、U相の交流電圧指令値Vu(矩形波)の電気角における立ち下がり位置と、電気角の原点との間の位相差とされている。なお、位相差φを、U相の交流電圧指令値Vu(矩形波)の電気角における立ち上がり位置と、電気角の原点との間の位相差とすることも可能である。
【0040】
トルクフィードバック制御部30は、トルク推定値導出部31と、トルク偏差導出部32と、位相値決定部33とを備えており、演算周期設定部21が設定した演算周期毎に各部が処理を実行する。なお、詳細は後述するが、本実施形態では、演算周期設定部21は、トルク推定値導出部31の演算周期及びトルク偏差導出部32の演算周期を、位相値決定部33の演算周期よりも長く設定する。そして、本実施形態では、制御モード決定部20により決定された制御モードが矩形波制御モードである場合に、トルクフィードバック制御部30が機能して位相値φを導出する。具体的には、制御モード決定部20により決定された制御モードが矩形波制御モードである場合に、位相値決定部33が矩形波電圧の位相値φを電圧指令値として決定するように構成されている。
【0041】
トルク推定値導出部31は、電動機MGのコイルM(Mu,Mv,Mw)に流れる電流の検出値Iur,Ivr,Iwrに基づき、電動機MGの出力トルク(実出力トルク)の推定値であるトルク推定値TEを導出する機能部である。図示は省略するが、制御装置1は、実d軸電流Idr及び実q軸電流Iqrを引数とするトルク推定値TEのマップ(トルク推定値マップ)を記憶している。また、トルク推定値導出部31を備えるフィードバック制御部22には、上記のように、三相二相変換部24が電流の検出値Iur,Ivr,Iwrに基づき生成した実d軸電流Idr及び実q軸電流Iqrが入力される。トルク推定値導出部31は、トルク推定値マップを参照し、三相二相変換部24から入力されたdq座標での電流検出値(実d軸電流Idr及び実q軸電流Iqr)に対応するトルク推定値TEを導出する。
【0042】
なお、電流の検出値Iur,Ivr,Iwrには高周波のノイズが含まれるため、トルク推定値導出部31は、トルク推定値TEの導出過程でローパスフィルタによるノイズ除去を行うように構成されている。なお、ローパスフィルタによるノイズの除去は、トルク推定値マップを参照して導出されたトルク推定値TEに対して行う構成としても良いし、電流の検出値(U相電流Iur、V相電流Ivr、及びW相電流Iwr、或いは実d軸電流Idr及び実q軸電流Iqr)に対して行う構成としても良い。
【0043】
トルク偏差導出部32は、電動機MGの出力トルク(実出力トルク)と目標トルクTMとの偏差ΔTを導出する機能部である。本実施形態では、トルク偏差導出部32は、トルク推定値導出部31が導出したトルク推定値TEを電動機MGの出力トルクとして、電動機MGの出力トルクと目標トルクTMとの偏差ΔTを導出するように構成されている。
【0044】
なお、本実施形態では、良好な制御特性を得るべく、トルク偏差ΔTを、インバータ6の出力電圧Vの検出値及び回転速度ωの検出値(本例では、磁極位置θの検出値に基づき導出された回転速度ω)にも基づき導出する構成を採用している。具体的には、以下の式(1)に基づきトルク偏差ΔTを導出するように構成されている。
ΔT=C・(TM−TE)・(ω/V)・・・(1)
ここで、Cは定数である。このようにV及びωにも基づきトルク偏差ΔTを導出する構成とすることで、トルク偏差ΔTと位相値φの差との関係を比例関係とすることができ、制御特性を良好なものとすることが可能となっている。なお、インバータ6の出力電圧Vの検出値や回転速度ωの検出値に対してローパスフィルタによるノイズ除去を施す構成とすることも可能である。
【0045】
位相値決定部33は、トルク偏差導出部32が導出したトルク偏差ΔTに基づき、比例制御及び積分制御を行って矩形波電圧の位相値φを決定する。具体的には、位相値決定部33は、下記の式(2)に示すようにトルク偏差ΔTに基づく比例積分制御演算(PI制御演算)を行って、位相値φを導出する。
φ=(Kpt+Kit/s)・ΔT・・・(2)
ここで、Kptは比例制御ゲイン、Kitは積分制御ゲイン、sはラプラス演算子である。なお、上記の比例積分制御演算に代えて、比例積分微分制御演算(PID制御演算)を行う構成とすることもできる。
【0046】
そして、トルクフィードバック制御部30は、基本的に、位相値決定部33が決定した位相値φを電圧指令値の導出結果として制御信号生成部23に出力する。但し、トルクフィードバック制御部30は、位相値φの値を所定の位相値許容範囲に制限するように構成されており、位相値決定部33が決定した位相値φが位相値許容範囲内に収まらない場合には、位相値φの値を当該位相値許容範囲の上限値や下限値に補正する。具体的には、位相値決定部33が決定した位相値φが位相値許容範囲の上限値を超える場合には、当該上限値を電圧指令値の導出結果として制御信号生成部23へ出力し、位相値決定部33が決定した位相値φが位相値許容範囲の下限値を下回る場合には、当該下限値を電圧指令値の導出結果として制御信号生成部23に出力する。なお、位相値許容範囲は、例えば、位相値φとトルクとの関係を示す位相値−トルク曲線(図示せず)の形状から定めることができ、−90度から90度の範囲としたり、−120度から120度の範囲としたりすることができる。
【0047】
また、本実施形態では、トルクフィードバック制御部30は、位相値φの急激な変化により過電流が発生することを抑制すべく、位相値φの変化率をある値以下に制限するように構成されている。例えば、位相値決定部33により前回決定された位相値φと今回決定された位相値φとの差が5度以下に制限される構成とすることができる。
【0048】
1−3.電流フィードバック制御部の構成
電流フィードバック制御部40は、目標トルクTM、実d軸電流Idr、実q軸電流Iqr、及び回転速度ωに基づき電流フィードバック制御を行い、電圧指令値として、インバータ6から電動機MGに供給する交流電圧波形の指令値である交流波形指令値を導出する機能部である。本実施形態では、電流フィードバック制御部40が導出する交流波形指令値は、d軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqとされている。以下の説明では、d軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを総称して単に「交流波形指令値Vd、Vq」という場合がある。
【0049】
電流フィードバック制御部40は、電流指令値導出部41と、電流偏差導出部42と、波形指令値決定部43とを備えており、演算周期設定部21が設定した演算周期毎に各部が処理を実行する。本実施形態では、演算周期設定部21は、電流指令値導出部41の演算周期、電流偏差導出部42の演算周期、及び波形指令値決定部43の演算周期の全てを互いに同一の周期に設定する。そして、本実施形態では、制御モード決定部20により決定された制御モードがPWM制御モードである場合に、電流フィードバック制御部40が機能して交流波形指令値Vd,Vqを導出する。具体的には、制御モード決定部20により決定された制御モードがPWM制御モードである場合に、波形指令値決定部43が交流波形指令値Vd,Vqを電圧指令値として決定するように構成されている。
【0050】
電流指令値導出部41は、目標トルクTMに基づきd軸電流指令値Id及びq軸電流指令値Iqを導出する機能部である。具体的には、電流指令値導出部41は、例えばマップを参照して、入力された目標トルクTMに基づいて基本d軸電流指令値Idbを導出する。ここで、基本d軸電流指令値Idbは、最大トルク制御を行う場合におけるd軸電流の指令値に相当する。そして、基本d軸電流指令値Idbからd軸電流調整指令値Idmが減算され、d軸電流指令値Idが導出される。すなわち、Id=Idb−Idmとなる。また、電流指令値導出部41は、例えばマップを参照して、目標トルクTM及びd軸電流調整指令値Idmに基づきq軸電流指令値Iqを導出する。
【0051】
なお、上記のように、本実施形態では、電動機MGの界磁磁束を調整する界磁制御に関して、最大トルク制御及び弱め界磁制御を実行可能に構成されている。そして、最大トルク制御ではd軸電流調整指令値Idmが零とされ、弱め界磁制御ではd軸電流調整指令値Idmが正の値とされる。なお、d軸電流調整指令値Idmの導出方法については本節の最後で述べる。
【0052】
電流偏差導出部42は、電流指令値導出部41が導出したd軸電流指令値Id及びq軸電流指令値Iqと、三相二相変換部24が導出した実d軸電流Idr及び実q軸電流Iqrとに基づき、電流偏差を導出する機能部である。具体的には、電流偏差導出部42は、d軸電流指令値Idから実d軸電流Idrを減算してd軸電流偏差ΔIdを導出するとともに、q軸電流指令値Iqから実q軸電流Iqrを減算してq軸電流偏差ΔIqを導出する。
【0053】
波形指令値決定部43は、電流偏差導出部42が導出した電流偏差ΔId,ΔIqに基づき、比例制御及び積分制御を行って交流波形指令値(d軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vq)を決定する。具体的には、波形指令値決定部43は、以下の式(3)及び式(4)に示すように電流偏差ΔId,ΔIqに基づく比例積分制御演算(PI制御演算)を行って、交流波形指令値Vd,Vqを導出する。
Vd=(Kpd+Kid/s)・ΔId−Eq・・・(3)
Vq=(Kpq+Kiq/s)・ΔIq+Ed+Em・・・(4)
ここで、Kpd及びKpqは、それぞれd軸及びq軸の比例制御ゲインであり、Kid及びKiqは、それぞれd軸及びq軸の積分制御ゲインである。また、sはラプラス演算子である。
【0054】
また、Edはd軸電機子反作用であり、回転速度ωとd軸インダクタンスLdと実d軸電流Idrとの積で与えられる。Eqはq軸電機子反作用であり、回転速度ωとq軸インダクタンスLqと実q軸電流Iqrとの積で与えられる。Emは永久磁石(図示せず)の電機子鎖交磁束による誘起電圧であり、当該永久磁石の電機子鎖交磁束の実効値により定まる誘起電圧定数MIfと回転速度ωとの積で与えられる。本例では、上記永久磁石はロータに配置されている。なお、上記の比例積分制御演算に代えて、比例積分微分制御演算(PID制御演算)を行う構成とすることもできる。
【0055】
そして、電流フィードバック制御部40は、波形指令値決定部43が決定した交流波形指令値(d軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vq)を電圧指令値の導出結果として制御信号生成部23に出力する。
【0056】
ところで、フィードバック制御部22は、直流電圧Vdcに対するインバータ6の出力電圧波形の基本波成分の実効値の比率である変調率Rを導出する変調率導出部(図示せず)を備えている。変調率導出部は、波形指令値決定部43により導出されたd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqと、電圧センサ61により検出された直流電圧Vdcの値とに基づき、下記の式(5)に従って変調率Rを導出する。
R=√(Vd+Vq)/Vdc・・・(5)
ここでは、変調率Rは、3相の線間電圧実効値を直流電圧Vdcの値で除算した値として導出される。
【0057】
そして、フィードバック制御部22は、変調率Rから目標変調率「0.78」を減算した変調率偏差ΔRを所定のゲインを用いて積算することで積算値ΣΔRを導出する。そして、積算値ΣΔRが正の値である場合には、当該積算値ΣΔRに比例定数を乗算して上記のd軸電流調整指令値Idm(>0)を導出し、ΣΔRが零以下の値である場合には、d軸電流調整指令値Idmを零にする。なお、過変調PWM制御方式では、目標変調率は「0.707〜0.78」の範囲で設定することもできる。
【0058】
1−4.制御信号生成部の構成
制御信号生成部23は、フィードバック制御部22が導出した電圧指令値に基づき、インバータ6を駆動するためのスイッチング制御信号S1〜S6を生成する機能部である。制御信号生成部23は、三相電圧指令値導出部26と、信号発生部27とを備え、演算周期設定部21が設定した演算周期毎に各部が処理を実行する。本実施形態では、上記のように、制御モードが矩形波制御モードである場合には、トルクフィードバック制御部30(位相値決定部33)により電圧指令値としての矩形波電圧の位相値φが導出され、制御信号生成部23は当該位相値φに基づきスイッチング制御信号S1〜S6を生成する。また、制御モードがPWM制御モードである場合には、電流フィードバック制御部40(波形指令値決定部43)により電圧指令値としての交流波形指令値Vd,Vqが導出され、制御信号生成部23は当該交流波形指令値Vd,Vqに基づきスイッチング制御信号S1〜S6を生成する。
【0059】
三相電圧指令値導出部26は、制御モードが矩形波制御モードである場合には、位相値決定部33が決定した位相値φに従って、図3に示すような、各相の交流電圧指令値(U相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv、W相電圧指令値Vw)を導出する。なお、矩形波制御モードでは、インバータ6の出力電圧の操作量は位相値φのみであり、図3に示すように、位相値φが定まると各相の交流電圧指令値Vu,Vv,Vwが一意に定まる。そして、矩形波制御モードでは、交流電圧指令値Vu、Vv、Vwを、インバータ6の各スイッチング素子E1〜E6のオンオフ切替位相の指令値とすることができる。この指令値は、各スイッチング素子E1〜E6のオンオフ制御信号に対応し、各スイッチング素子E1〜E6のオン又はオフを切り替えるタイミングを表す磁極位置θの位相を表す指令値である。
【0060】
一方、三相電圧指令値導出部26は、制御モードがPWM制御モードである場合には、波形指令値決定部43が決定した交流波形指令値Vd,Vqに従って、各相の交流電圧指令値Vu,Vv,Vwを導出する。具体的には、三相電圧指令値導出部26は、d軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqに対して磁極位置θに基づく二相三相変換を行い、三相の交流電圧指令値であるU相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv、及びW相電圧指令値Vwを導出する。なお、上記のように、本実施形態では、PWM制御には通常PWM制御と過変調PWM制御とが含まれ、三相電圧指令値導出部26は、制御モード決定部20により決定された制御方式が通常PWM制御方式である場合には、当該通常PWM制御方式に応じた交流電圧指令値Vu,Vv,Vwを導出する。また、三相電圧指令値導出部26は、制御モード決定部20により決定された制御方式が過変調PWM制御方式である場合には、当該過変調PWM制御方式に応じた交流電圧指令値Vu,Vv,Vwを導出する。
【0061】
信号発生部27には、三相電圧指令値導出部26が導出したU相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv、及びW相電圧指令値Vwが入力される。信号発生部27は、それらの交流電圧指令値Vu,Vv,Vwに従って、図2に示す各スイッチング素子E1〜E6を制御するスイッチング制御信号S1〜S6を発生する。そして、インバータ6は、信号発生部27が発生したスイッチング制御信号S1〜S6に従って、各スイッチング素子E1〜E6のオンオフ動作を行う。これにより、電動機MGのPWM制御(通常PWM制御又は過変調PWM制御)又は矩形波制御が行われる。
【0062】
1−5.制御モードに応じた各部の演算周期
次に本発明の要部である、制御モードに応じた各部の演算周期の設定について、図5及び図6を参照して説明する。本実施形態では、上記のように、制御モード決定部20は、PWM制御モードと矩形波制御モードとの中から1つの制御モードを選択し、当該選択した制御モードの実行を決定するように構成されている。そして、演算周期設定部21は、制御モード決定部20により決定された制御モードがPWM制御モードであるか矩形波制御モードであるかに応じて、電圧指令値決定部(位相値決定部33及び波形指令値決定部43)及び制御信号生成部23を含む各部の演算周期を設定する(切り替える)ように構成されている。なお、本実施形態では、制御モードがPWM制御モードである場合には、PWM制御の方式が通常PWM制御方式であるか過変調PWM制御方式であるかを区別せずに各部の演算周期を設定する。そして、制御モードがPWM制御モードである場合には、図5に示すようなスケジュールで各処理が実行され、制御モードが矩形波制御モードである場合には、図6に示すようなスケジュールで各処理が実行される。
【0063】
制御装置1が備えるCPU1aは、所定のクロック周期を基準として時間を計測するタイマ(図示せず)を備えている。そして、本実施形態では、タイマは、図5及び図6に示すように、キャリア周期TCの1/2に設定された基準演算周期T0に基づきプログラムの実行周期を監視し、CPUコアの割り込みコントローラに通知するように構成されている。そして、制御装置1の各部による一連の制御処理(電動機制御処理)は、基準演算周期T0毎に実行されるCPU1aの割り込み機能により開始される。
【0064】
なお、基準演算周期T0の2倍の周期をもつキャリアは、PWM制御モードにおけるPWM波形のキャリアと同一のものとしても良いし、PWM制御モードにおけるPWM波形のキャリアとは異なるものとしても良い。また、制御装置1がPWM制御モードにおけるPWM波形のキャリアとして互いに異なる周期を持つ複数のキャリアを選択可能な構成では、それらの中で基準となるキャリア(基準キャリア)の周期の1/2を基準演算周期T0とすることができる。例えば、基準演算周期T0を200μsとすることができる。
【0065】
図5は、制御モード決定部20により決定された制御モードがPWM制御モードである場合における、各処理の実行タイミングを示すタイムチャートである。この図において、「PS」は回転センサ63による磁極位置検出処理を示し、「IS」は電流センサ62による電流検出処理を示す。すなわち、図5における「PS」及び「IS」は、それぞれ、磁極位置検出処理PS及び電流検出処理ISが実行されるタイミングを示している。図6においても同様である。これらの磁極位置検出処理PS及び電流検出処理ISの実行周期は、制御装置1が制御モードに応じて設定する。
【0066】
また、図5における「FC」は、フィードバック制御部22によるフィードバック制御処理を示す。すなわち、図5における「FC」は、フィードバック制御処理FCが実行されるタイミングを示している。図6においても同様である。PWM制御モードでは、上述したように電流フィードバック制御部40により電流フィードバック制御処理が実行され、当該電流フィードバック制御処理には、電流指令値導出部41による電流指令値導出処理、電流偏差導出部42による電流偏差導出処理、波形指令値決定部43による波形指令値決定処理が含まれる。そして、本実施形態では、電流指令値導出部41、電流偏差導出部42、及び波形指令値決定部43の演算周期は互いに同一に設定されており、図5では、電流指令値導出部41、電流偏差導出部42、及び波形指令値決定部43を含む電流フィードバック制御部40の演算周期を「T1」として示している。すなわち、電流指令値導出処理、電流偏差導出処理、及び波形指令値決定処理を含む電流フィードバック制御処理は、周期T1毎に実行される。本実施形態では、周期T1が本発明における「第二周期P2」に相当する。
【0067】
図5における「VC」は、制御信号生成部23による制御信号生成処理を示す。すなわち、図5における「VC」は、制御信号生成処理VCが実行されるタイミングを示している。図6においても同様である。制御信号生成処理には、三相電圧指令値導出部26による三相電圧指令値導出処理と、信号発生部27による信号発生処理とが含まれる。本実施形態では、三相電圧指令値導出部26及び信号発生部27の演算周期は互いに同一に設定されており、図5では、三相電圧指令値導出部26及び信号発生部27を含む制御信号生成部23の演算周期を「T2」として示している。すなわち、三相電圧指令値導出処理及び信号発生処理を含む制御信号生成処理VCは、周期T2毎に実行される。本実施形態では、周期T2が本発明における「第一周期P1」に相当する。
【0068】
なお、図5においては本発明の理解を容易にすべく、フィードバック制御処理FC及び制御信号生成処理VCの各処理(各演算処理)が実行されるタイミングを四角形の領域で表しているが、これらの四角形は各処理のタイミングを厳密に表しているわけではなく、四角形が含まれる基準演算周期T0内で当該四角形に対応する処理が実行されることを示している。また、同じ基準演算周期T0内に複数配置されている四角形の組については、左側に配置されている四角形に対応する処理が、右側に配置されている四角形に対応する処理よりも先に実行されることを意味する。後に参照する図6、図8、図9についても同様である。
【0069】
また、本願明細書では、「演算周期」は、同一の処理が繰り返し行われる場合において、各処理が基準演算周期T0内のどのタイミングで実行されるかを考慮せずに定義している。すなわち、ある演算処理を繰り返し実行する機能部の演算周期は、各演算処理が実行される基準演算周期T0同士の間隔(時間的長さ)を意味する。
【0070】
図5より明らかなように、制御モードがPWM制御モードである場合には、制御信号生成部23の演算周期T2(第一周期P1)は、基準演算周期T0と等しい値に設定される。すなわち、本実施形態では、第一周期P1は基準演算周期の1倍であり、本発明における「N」が「1」とされている。また、電流フィードバック制御部40の演算周期T1(第二周期P2)は、基準演算周期T0の2倍に設定される。すなわち、本実施形態では、第二周期P2は第一周期P1の2倍であり、本発明における「M」が「2」とされている。
【0071】
なお、上記のように演算周期を設定することで、図5に示すように、フィードバック制御処理FCが実行されずに制御信号生成処理VCが実行される基準演算周期T0が存在するが、そのような基準演算周期T0では、制御信号生成処理VCは、直近のフィードバック制御処理FCにより導出された交流波形指令値Vd,Vqに基づき実行される。
【0072】
ところで、制御モードがPWM制御モードである場合には、電流センサ62により検出された電流の検出値Iur,Ivr,Iwrは、電流偏差導出部42による電流偏差ΔId,ΔIqの導出処理に用いられる。本実施形態では、電流偏差ΔId,ΔIqに基づき導出される交流波形指令値Vd,Vqの、コイルMに流れる電流の変化に対する追従性を高めるべく、電流の検出値Iur,Ivr,Iwrの更新周期(電流検出処理ISの実行周期)を、電流フィードバック制御部40の演算周期T1と等しく設定している。具体的には、図5に示すように、電流検出処理ISを、フィードバック制御処理FCが実行される基準演算周期T0の始点で実行する構成としている。なお、電流検出処理ISの実行周期を周期T1よりも長く設定し、始点において電流検出処理ISが実行されない基準演算周期T0内で実行されるフィードバック制御処理FCが、以前の基準演算周期T0の始点で実行された電流検出処理ISの検出結果に基づき行われる構成とすることもできる。
【0073】
一方、回転センサ42による磁極位置θの検出値は、制御信号生成部23による制御信号生成処理に用いられる。本実施形態では、制御信号生成部23によるスイッチング制御信号S1〜S6の生成をより正確な磁極位置θに基づき行うべく、磁極位置θの更新周期(磁極位置検出処理PSの実行周期)を、制御信号生成部23の演算周期T2と等しく設定している。具体的には、図5に示すように、磁極位置検出処理PSを、制御信号生成処理VCが実行される基準演算周期T0の始点で実行する構成としている。なお、磁極位置検出処理PSの実行周期を周期T2よりも長く設定し、始点において磁極位置検出処理PSが実行されない基準演算周期T0内で実行される制御信号生成処理VCが、以前の基準演算周期T0の始点で実行された磁極位置検出処理PSの検出結果に基づく予測値を用いて行われる構成とすることができる。例えば、磁極位置検出処理PSの実行周期を周期T1に設定し、フィードバック制御処理FCが実行される基準演算周期T0の始点でのみ磁極位置検出処理PSが実行される構成とすることができる。
【0074】
次に、図6を参照して、制御モード決定部20により決定された制御モードが矩形波制御モードである場合について説明する。なお、特に説明しない点は、図5を参照して説明したPWM制御モードと同様とする。上述したように、矩形波制御モードでは、フィードバック制御処理は、トルクフィードバック制御部30によるトルクフィードバック制御処理とされ、当該トルクフィードバック制御処理には、トルク推定値導出部31によるトルク推定値導出処理、トルク偏差導出部32によるトルク偏差導出処理、位相値決定部33による位相値決定処理が含まれる。そして、図6では、「FCA」は、トルク推定値導出処理及びトルク偏差導出処理(以下これらの処理をまとめて「第一フィードバック制御処理」という場合がある。)を示し、「FCB」は位相値決定処理(以下「第二フィードバック制御処理」という場合がある。)を示している。すなわち、図6における「FCA」及び「FCB」は、それぞれ、第一フィードバック制御処理FCA及び第二フィードバック制御処理FCBが実行されるタイミングを示している。なお、このようにフィードバック制御処理FCを第一フィードバック制御処理FCAと第二フィードバック制御処理FCBとに分けているのは、本実施形態では、以下に述べるように、第一フィードバック制御処理FCAの実行周期と、第二フィードバック制御処理FCBの実行周期とが、互いに異なる値に設定されるからである。
【0075】
図6では、第一フィードバック制御処理FCAを実行するトルク推定値導出部31及びトルク偏差導出部32の演算周期を「T1A」として示している。すなわち、トルクフィードバック制御処理の一部であるトルク推定値導出処理及びトルク偏差導出処理は、周期T1A毎に実行される。本実施形態では、周期T1Aが本発明における「第三周期P3」に相当する。そして、図6に示すように、周期T1A(第三周期P3)は基準演算周期T0の4倍、言い換えれば、第二周期P2の2倍に設定される。すなわち、本実施形態では、第三周期P3は第二周期P2の2倍であり、本発明における「L」が「2」とされている。
【0076】
また、図6では、第二フィードバック制御処理FCBを実行する位相値決定部33の演算周期を「T1B」として示している。すなわち、トルクフィードバック制御処理の残りの一部である位相値決定処理は、周期T1B毎に実行される。この周期T1Bは、第二周期P2と同一の周期に設定される。具体的には、上記のように第二周期P2は本例では基準演算周期T0の2倍に設定され、周期T1Bも基準演算周期T0の2倍に設定される。
【0077】
このように、第一フィードバック制御処理FCAの実行周期T1Aを第二フィードバック制御処理FCBの実行周期T1Bよりも長く設定するのは、トルク推定値TEやトルク偏差ΔTの基準演算周期T0に相当する期間内での変化が緩慢であり、第一フィードバック制御処理FCAの一部を間引いても電動機MGの制御特性を良好に維持することが可能であるからである。なお、位相値決定部33による位相値φの導出に用いられる積分制御ゲインKit(上記式(2)参照)が所定の演算周期で更新されるように構成されている場合には、積分ゲインKitの基準演算周期T0に相当する期間内での変化も緩慢であるため、積分ゲインKitの更新周期を第三周期P3に設定することができる。
【0078】
上記のようにトルクフィードバック制御部30の各部の演算周期を設定することで、図6に示すように、第一フィードバック制御処理FCAが実行されずに第二フィードバック制御処理FCBが実行される基準演算周期T0が存在するが、そのような基準演算周期T0では、トルク偏差ΔTを更新せずに位相値決定処理(上記式(2)に基づくPI制御演算)を実行する。すなわち、本実施形態では、トルク偏差導出部32により導出された1つのトルク偏差ΔTEを用いて、2回のPI制御演算を行う。
【0079】
また、図6に示すように、矩形波制御モードでは、PWM制御モード(図5参照)とは異なり、制御信号生成処理部23の演算周期T2は、基準演算周期T0の2倍に設定される。言い換えれば、矩形波制御モードでは、制御信号生成処理部23の演算周期T2が、PWM制御モードにおける制御信号生成処理部23の演算周期T2の2倍に設定される。すなわち、矩形波制御モードでは、PWM制御モードに比べ、制御信号生成処理VCの一部が間引かれることになる。なお、矩形波制御モードではPWM制御モードに比べ電気角1周内で交流電圧指令値Vu,Vv,Vwの変更を反映できるスイッチング素子E1〜E6のオンオフ切替点が少ないため、制御信号生成処理VCの一部を間引いても電動機MGの制御特性を良好に維持することが可能である。
【0080】
以上のように、本実施形態では、矩形波制御モードにおいて、第一フィードバック制御処理FCAの一部を間引くとともに制御信号生成処理VCの一部を間引くことで、電動機MGの制御特性の劣化を抑制しつつ、制御装置1が備えるCPU1aの演算負荷を低減することが可能となっている。
【0081】
なお、制御モードが矩形波制御モードである場合には、電流センサ62により検出された電流の検出値Iur,Ivr,Iwrは、トルク推定値導出部31によるトルク推定値TEの導出に用いられる。本実施形態では、トルク推定値導出部31により導出されるトルク推定値TEの、コイルMに流れる電流の変化に対する追従性を高めるべく、電流の検出値Iur,Ivr,Iwrの更新周期(電流検出処理ISの実行周期)を、トルク推定値導出部31の演算周期T1Aと等しく設定している。具体的には、図6に示すように、電流検出処理ISを、第一フィードバック制御処理FCAが実行される基準演算周期T0の始点で実行する構成としている。なお、電流検出処理ISの実行周期を周期T1Aよりも長く設定し、始点において電流検出処理ISが実行されない基準演算周期T0内で実行されるトルク推定値導出処理が、以前の基準演算周期T0の始点で実行された電流検出処理ISの検出結果に基づき行われる構成とすることもできる。
【0082】
一方、回転センサ42による磁極位置θの検出値は、制御信号生成部23による制御信号生成処理に用いられる。本実施形態では、制御信号生成部23によるスイッチング制御信号S1〜S6の生成をより正確な磁極位置θに基づき行うべく、磁極位置θの更新周期(磁極位置検出処理PSの実行周期)を、制御信号生成部23の演算周期T2と等しく設定している。具体的には、図6に示すように、磁極位置検出処理PSを、制御信号生成処理VCが実行される基準演算周期T0の始点で実行する構成としている。なお、磁極位置検出処理PSの実行周期を周期T2よりも長く設定し、始点において磁極位置検出処理PSが実行されない基準演算周期T0内で実行される制御信号生成処理VCが、以前の基準演算周期T0の始点で実行された磁極位置検出処理PSの検出結果に基づく予測値を用いて行われる構成とすることができる。
【0083】
なお、図5及び図6のタイムチャートには、制御モード決定部20による制御モード決定処理は含まれていない。この制御モード決定処理は、その処理のための入力変数(例えば目標トルクTM)の更新周期が基準演算周期T0よりも十分に長い周期となっているため、それほど頻繁に演算処理を行う必要がなく、上述した各処理に比べて長い演算周期とされる。従って、図示はしないが、制御モード決定処理は、基準演算周期T0内における上述した各処理が行われていない空き時間を利用して実行される。なお。制御モード決定処理が1つの基準演算周期T0内で完了しない場合には、複数の基準演算周期T0に分けて実行される。
【0084】
1−6.電動機制御処理の手順
次に、本実施形態に係る電動機制御処理の手順、具体的には、演算周期設定部21が実行する演算周期設定処理について、図7のフローチャートを参照して説明する。以下に説明する演算周期設定処理の各処理は、演算周期設定部21により実行される。なお、本実施形態では、演算周期設定部21を含む各機能部は、CPU1aが備えるメモリ(プログラムメモリ)に格納された電動機制御プログラムにより構成されている。よって、本実施形態では、CPU1aが、電動機制御プログラム(演算周期設定プログラム)を実行するコンピュータとして動作する。
【0085】
演算周期設定部21には、制御モード決定部20が実行を決定した制御モードの情報が入力される。そして、制御モードが変更された場合には(ステップ#01:Yes)、変更後の制御モードが矩形波制御モードであるか否かが判定される(ステップ#02)。そして、変更後の制御モードが矩形波制御モードである場合には(ステップ#02:Yes)、ステップ#03〜#06の処理が順次実行され、変更後の制御モードが矩形波制御モードでない場合、すなわち、PWM制御モードである場合には(ステップ#02:No)、ステップ#07〜#10の処理が順次実行される。また、ステップ#01の判定で制御モードが変更されていない場合には(ステップ#01:No)、処理は終了する。
【0086】
ステップ#03〜#06の各処理は、上記のように変更後の制御モードが矩形波制御モードである場合に(ステップ#02:Yes)、順次実行される。具体的には、トルク推定値導出部31の演算周期を第三周期P3に設定し(ステップ#03)、トルク偏差導出部32の演算周期を第三周期P3に設定し(ステップ#04)、位相値決定部33の演算周期を第二周期P2に設定し(ステップ#05)、制御信号生成部23の演算周期を第二周期P2に設定する(ステップ#06)。そして、処理は終了する。なお、ステップ#03〜#06の各処理の実行順序は適宜変更可能である。また、本例では、第二周期P2は、第一周期P1の2倍(M=2)に設定され、第三周期P3は、第二周期P2の2倍(L=2)に設定されている。
【0087】
また、ステップ#07〜#10の各処理は、上記のように変更後の制御モードが矩形波制御モードでない場合に(ステップ#02:No)、順次実行される。具体的には、電流指令値導出部41の演算周期を第二周期P2に設定し(ステップ#07)、電流偏差導出部42の演算周期を第二周期P2に設定し(ステップ#08)、波形指令値決定部43の演算周期を第二周期P2に設定し(ステップ#09)、制御信号生成部23の演算周期を第一周期P1に設定する(ステップ#10)。そして、処理は終了する。なお、ステップ#07〜#10の各処理の実行順序は適宜変更可能である。また、本例では、第一周期P1は、キャリア周期TCの1/2に設定された基準演算周期T0の1倍(N=1)に設定されている。
【0088】
2.第二の実施形態
次に、本発明に係る制御装置の第二の実施形態について説明する。本実施形態に係る制御装置1は、M個(Mは2以上の整数)の電動機MGを制御対象としている点で、1個の電動機MGを制御対象とする上記第一の実施形態とは異なる。そのため、図示は省略するが、電動機駆動装置2は、上記第一の実施形態とは異なり、インバータ6、電流センサ62、及び回転センサ63をそれぞれM個ずつ備えている。また、本実施形態では、M個の電動機MGの全ては、三相交流により動作する埋込磁石構造の同期電動機(IPMSM)とされている。ここでは、上記「M」が「2」である場合を例として説明する。すなわち、本実施形態では、上記第一の実施形態と同様、第二周期P2は第一周期P1の2倍に設定される。なお、以下では、本実施形態に係る制御装置1の構成について、上記第一の実施形態との相違点を中心に説明し、特に説明しない点については、上記第一の実施形態と同様とする。
【0089】
本実施形態では、制御装置1の制御対象となる電動機駆動装置2が、2個の電動機MG(第一電動機MG1及び第二電動機MG2)を駆動制御するための2個のインバータ6を備えている。よって、制御装置1は、図1に示す各機能部を、2個のインバータ6のそれぞれに対応して備えている。なお、各機能部が2個のインバータ6のそれぞれに対して行う処理は同様であり、一方のインバータ6に対する処理は上記第一の実施形態と同様であるため、ここでは各機能部の詳細な説明は省略する。
【0090】
なお、電動機駆動装置2が駆動制御の対象とする第一電動機MG1と第二電動機MG2とは、同じ性能の電動機であっても良いし、異なる性能の電動機であっても良い。そして、第一電動機MG1は、電動機駆動装置2が備える2つのインバータ6の一方を介して直流電源3に接続され、第二電動機MG2は、電動機駆動装置2が備える2つのインバータ6の他方を介して直流電源3に接続されている。
【0091】
そして、2個の電動機MG1,MG2に対する電圧指令値決定部(位相値決定部33及び波形指令値決定部43)による電圧指令値の決定のための演算処理を含む各演算処理が、制御装置1が備えるCPU1aにより行われるように構成されている。すなわち、制御装置1は、単一の演算処理ユニットとしてのCPU1aを用いて、2個のインバータ6を制御するように構成されている。そして、このように単一の演算処理ユニットで複数(本例では2個)のインバータ6を制御する構成では、電動機駆動装置2を制御するための全体の演算負荷を、CPU1aの処理能力の範囲内に収める必要がある。本実施形態では、以下に述べるように、第一電動機MG1についての演算負荷が大きい処理と、第二電動機MG2についての演算負荷が大きい処理とが、同一の基準演算周期T0内で実行されないように、各電動機MGに対する制御スケジュールを設定している。以下、図8及び図9を参照してこの点について説明する。
【0092】
図8は、第一電動機MG1に対して矩形波制御モードで制御が行われ、第二電動機MG2に対してPWM制御モードで制御が行われている場合における、各電動機MGについての各処理の実行スケジュールを示している。また、図9は、第一電動機MG1及び第二電動機MG2の双方に対して矩形波制御モードで制御が行われている場合における、各電動機MGについての各処理の実行スケジュールを示している。
【0093】
ここで、「PS」は上記第一の実施形態と同様、回転センサ63による磁極位置検出処理を示し、「PS1」及び「PS2」は、それぞれ、第一電動機MG1及び第二電動機MG2についての磁極検出処理を示す。同様に、「IS」は上記第一の実施形態と同様、電流センサ62による電流検出処理を示し、「IS1」及び「IS2」は、それぞれ、第一電動機MG1及び第二電動機MG2についての電流検出処理を示す。
【0094】
また、「FC」は上記第一の実施形態と同様、フィードバック制御部22によるフィードバック制御処理を示し、「FC1」及び「FC2」は、それぞれ、第一電動機MG1及び第二電動機MG2についてのフィードバック制御処理を示す。同様に、「VC」は上記第一の実施形態と同様、制御信号生成部23による制御信号生成処理を示し、「VC1」及び「VC2」は、それぞれ、第一電動機MG1及び第二電動機MG2についての制御信号生成処理を示す。
【0095】
なお、本実施形態では、上記実施形態とは異なり、制御モード決定部20により決定された制御モードが矩形波制御モードである場合に、演算周期設定部21は、トルク推定値導出部31及びトルク偏差導出部32の演算周期を、位相値決定部33の演算周期と同じく第二周期P2に設定する。そのため、図8及び図9では、図6のようにトルクフィードバック制御部30によるフィードバック制御処理FCを第一フィードバック制御処理FCAと第二フィードバック制御処理FCBとに分ける必要はなく、単に「FC」として示している。
【0096】
また、周期「T1*」はフィードバック制御処理の実行周期を示し、「T11」及び「T12」は、それぞれ、第一電動機MG1及び第二電動機MG2についてのフィードバック制御処理の実行周期を示す。同様に、周期「T2*」は制御信号生成処理の実行周期を示し、「T21」及び「T22」は、それぞれ、第一電動機MG1及び第二電動機MG2についての制御信号生成処理の実行周期を示す。
【0097】
上記のように、図8における第二電動機MG2は、PWM制御モードで制御されている。そして、図8に示すように、本実施形態でも、上記第一の実施形態と同様、制御モードがPWM制御モードである場合の制御信号生成部23の演算周期T22(第一周期P1)は、基準演算周期T0と等しい値に設定される。すなわち、本実施形態でも、第一周期P1は基準演算周期の1倍であり、本発明における「N」が「1」とされている。また、制御モードがPWM制御モードである場合の電圧指令値決定部としての波形指令値決定部43の演算周期T12(第二周期P2)は、基準演算周期の2倍に設定される。すなわち、本実施形態では「M」が「2」とされているため、第二周期P2は第一周期P1の2倍となる。
【0098】
また、図8における第一電動機MG1は、矩形波制御モードで制御されており、制御モードが矩形波制御モードである場合の電圧指令値決定部としての位相値決定部33の演算周期T11及び制御信号生成部23の演算周期T21は、共に第二周期P2に設定される。
【0099】
ところで、フィードバック制御部21によるフィードバック制御処理FCは、制御信号生成部23による制御信号生成処理VCに比べて演算負荷が大きくなりやすい。この点に鑑み、本例では、図8に示すように、第一電動機MG1についてのフィードバック制御処理FC1と、第二電動機MG2についてのフィードバック制御処理FC2とが、互いに異なる基準演算周期T0内で実行されるように構成されている。すなわち、M個(本例ではM=2)の電動機MG1,MG2のそれぞれについての電圧指令値決定部の演算を、第二周期P2で互いに異なる基準演算周期T0内に行うように構成されている。言い換えれば、第一電動機MG1についての電圧指令値決定部(図8の例では位相値決定部33)の演算と第二電動機MG2についての電圧指令値決定部(図8の例では波形指令値決定部43)の演算とを、第二周期P2で互いに異なる基準演算周期T0内に行うように構成されている。
【0100】
具体的には、第一電動機MG1についてのフィードバック制御処理FC1の実行周期T11と、第二電動機MG2についてのフィードバック制御処理FC2の実行周期T12とは、共に第二周期P2に設定されているが、互いに半周期(基準演算周期T0)だけずれている。すなわち、第一電動機MG1についてのフィードバック制御処理FC1が実行される基準演算周期T0と、第二電動機MG2についてのフィードバック制御処理FC2が実行される基準演算周期T0とが交互に現れるように、周期T11と周期T12とが設定されている。これにより、第一電動機MG1についての演算負荷が大きい処理と、第二電動機MG2についての演算負荷が大きい処理とが、互いに異なる基準演算周期T0内で実行され、電動機駆動装置2を制御するための全体の演算負荷を、CPU1aの処理能力の範囲内に収めることが容易な構成となっている。
【0101】
なお、上記のように設定することで、第一電動機MG1についてのフィードバック制御処理FC1、第一電動機MG1についての制御信号生成処理VC1、及び第二電動機MG2についての制御信号生成処理VC2が実行される基準演算周期T0があるが、本例では、図8に示すように、当該基準演算周期T0内で、フィードバック制御処理FC1、制御信号生成処理VC1、制御信号生成処理VC2の順に処理が順次実行される。なお、この順番は適宜変更可能である。
【0102】
詳細な説明は省略するが、図9に示すように、第一電動機MG1及び第二電動機MG2の双方が矩形波制御モードで制御されている場合も同様に、第一電動機MG1についての電圧指令値決定部(図9の例では位相値決定部33)の演算と第二電動機MG2についての電圧指令値決定部(図9の例では位相値決定部33)の演算とが、第二周期P2で互いに異なる基準演算周期T0内に行われるように設定される。また、図示は省略するが、第一電動機MG1及び第二電動機MG2の双方がPWM制御モードで制御されている場合も同様に、第一電動機MG1についての電圧指令値決定部(波形指令値決定部43)の演算と第二電動機MG2についての電圧指令値決定部(波形指令値決定部43)の演算とが、第二周期P2で互いに異なる基準演算周期T0内で行われるように設定される。
【0103】
3.その他の実施形態
最後に、本発明に係るその他の実施形態を説明する。なお、以下の各々の実施形態で開示される特徴は、その実施形態でのみ利用できるものではなく、矛盾が生じない限り、別の実施形態にも適用可能である。
【0104】
(1)上記第一の実施形態では、「N」が「1」に設定され、「M」が「2」に設定され、「L」が「2」に設定されている構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、「N」として1以上の任意の整数を設定可能であり、「M」として2以上の任意の整数を設定可能であり、「L」として2以上の任意の整数を設定可能である。これらの値は、例えば、電動機MGの特性や状態(回転速度等)、必要とされる制御特性の程度、基準演算周期T0の長さ、或いは演算処理ユニットの性能等に応じて設定することができる。例えば、「L」を「3」に設定することができる。
【0105】
(2)上記第一の実施形態では、制御モード決定部20により決定された制御モードが矩形波制御モードである場合に、トルク推定値導出部31及びトルク偏差導出部32の演算周期が、第二周期P2のL倍(L=2)の第三周期P3に設定される構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、トルク推定値導出部31及びトルク偏差導出部32の演算周期を、位相値決定部33の演算周期と同じく第二周期P2に設定する構成とすることもできる。すなわち、第一フィードバック制御処理FCAの実行周期と第二フィードバック制御処理FCBの実行周期とが互いに同じ値に設定される構成とすることができる。
【0106】
(3)上記第二の実施形態では、「N」が「1」に設定され、「M」が「2」に設定されている構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、「N」として1以上の任意の整数を設定可能であり、「M」として2以上の任意の整数を設定可能である。これらの値は、例えば、電動機MGの特性や状態(回転速度等)、必要とされる制御特性の程度、基準演算周期T0の長さ、或いは演算処理ユニットの性能等に応じて設定することができる。
【0107】
(4)上記第二の実施形態では、トルク推定値導出部31及びトルク偏差導出部32の演算周期が、位相値決定部33の演算周期と同じく第二周期P2に設定される構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、上記第一の実施形態と同様に、制御モード決定部20により決定された制御モードが矩形波制御モードである場合に、トルク推定値導出部31及びトルク偏差導出部32の演算周期が、第二周期P2のL倍(Lは2以上の整数)の第三周期P3に設定される構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。例えば、「L」を「2」や「3」に設定することができる。
【0108】
(5)上記第一及び第二の実施形態では、トルク推定値導出部31がトルク推定値マップを参照してトルク推定値TEを導出する構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、トルク推定値導出部31が数式に基づき、dq座標での電流検出値(実d軸電流Idr及び実q軸電流Iqr)からトルク推定値TEを導出する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。数式は、例えば下記の式(6)とすることができる。
TE=P・Q・Iqr+P・(Ld−Lq)・Idr・Iqr・・・(6)
ここで、P,Q,Ld,Lqは、それぞれ、極対数、逆起電圧定数、d軸インダクタンス、q軸インダクタンスである。
また、上記の式に代えて、電流の検出値と電圧(電圧指令値又は電圧の検出値)とに基づき電力を導出し、当該電力を回転速度ωで除することによりトルク推定値TEを導出する構成とすることもできる。
さらに、トルクフィードバック制御部30に三相の電流の検出値Iur,Ivr,Iwrが入力され、トルク推定値導出部31がU相電流Iur、V相電流Ivr、及びW相電流Iwrに基づき、マップの参照や数式による演算によってトルク推定値TEを導出する構成とすることもできる。
【0109】
(6)上記第一及び第二の実施形態では、フィードバック制御部22がトルクフィードバック制御部30を備え、制御モード決定部20により決定された制御モードが矩形波制御モードである場合には、電圧指令値がトルクフィードバック制御部30により導出される構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、制御モード決定部20により決定された制御モードが矩形波制御モードである場合にも、パルス幅変調制御モードである場合と同様、電圧指令値が、電流フィードバック制御部40による電流フィードバック制御処理により導出される構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この構成では、制御モード決定部20により決定された制御モードが矩形波制御モードである電動機MGに対しては、図8のMG1と同様に、電流フィードバック制御部40(波形指令値決定部43)の演算周期及び制御信号生成部23の演算周期、並びに磁極位置検出処理PS及び電流検出処理ISの実行周期を設定することができる。すなわち、電流フィードバック制御部40(波形指令値決定部43)の演算周期及び制御信号生成部23の演算周期、並びに磁極位置検出処理PS及び電流検出処理ISの実行周期の全てを第二周期P2に設定する構成とする。
【0110】
(7)上記第一及び第二の実施形態では、制御装置1がトルク推定値導出部31を備え、トルク偏差導出部32が、トルク推定値導出部31が導出したトルク推定値TEを出力トルクとして、電動機MGの出力トルクと目標トルクTMとの偏差を導出する構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、電動機駆動装置2が電動機MGの出力トルク(実出力トルク)を検出するトルクセンサを備える場合には、トルク偏差導出部32が、トルクセンサの検出結果を出力トルクとして、電動機MGの出力トルクと目標トルクTMとの偏差を導出する構成とすることができる。この場合、制御装置1がトルク推定値導出部31を備えない構成とすることができる。
【0111】
(8)上記第一及び第二の実施形態では、トルク偏差導出部32が式(1)に基づきトルク偏差ΔTを導出する構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、トルク偏差ΔTをΔT=TM−TEに基づき導出する構成とすることも可能である。
【0112】
(9)上記第一及び第二の実施形態では、目標トルクTMに基づくフィードバック演算(電流フィードバック演算及びトルクフィードバック演算)により電圧指令値が決定される構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、フィードバック演算とともにフィードフォワード演算をも実行して電圧指令値を決定する構成としたり、フィードフォワード演算のみを実行して電圧指令値を決定する構成としたりすることも可能である。また、電圧指令値の決定を、フィードバック演算及びフィードフォワード演算以外の演算により実行する構成とすることもできる。
【0113】
(10)上記第二の実施形態では、M個(M:2以上の整数)即ち複数(上記第二の実施形態では2個)の電動機MGに対する電圧指令値決定部(位相値決定部33,波形指令値決定部43)による電圧指令値の決定のための演算処理が、単一の演算処理ユニットであるCPU1aにより行われるように構成され、複数の電動機MGのそれぞれについての電圧指令値決定部の演算が、第二周期P2で互いに異なる基準演算周期T0内に行われる構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、制御装置1が複数の演算処理ユニットを備え、複数の電動機MGに対する電圧指令値決定部(位相値決定部33,波形指令値決定部43)による電圧指令値の決定のための演算処理が、当該複数の演算処理ユニットにより行われる構成とすることもできる。この場合、複数の電動機MGのそれぞれについての電圧指令値決定部の演算が、互いに同じ基準演算周期T0内に行われる構成とすることもでき、又、互いに異なる基準演算周期T0内で行われる構成とすることもできる。また、演算処理ユニットの性能によっては、単一の演算処理ユニットにより電圧指令値の決定のための演算処理が行われる場合であっても、複数の電動機MGのそれぞれについての電圧指令値決定部の演算が、第二周期P2で互いに同じ基準演算周期T0内に行われる構成とすることも可能である。
【0114】
(11)上記第一及び第二の実施形態では、制御モード決定部20が、PWM制御モードと矩形波制御モードとの中から1つの実行を決定する構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、制御モード決定部20が決定可能な制御モードとして、スイッチング素子のオン及びオフが電動機MGの電気角1周期につきX回(Xは2以上の整数)ずつ行われるXパルス制御モード(例えば、3パルス制御モードや5パルス制御モード等)が備えられている構成とすることもできる。このようなXパルス制御モードは、矩形波制御モードと同じく回転同期制御モードであり、制御モード決定部20がこのようなXパルス制御モードの実行を決定可能な構成では、Xパルス制御モードの実行時に上記実施形態における矩形波制御モードの実行時と同様に各機能部(各処理)の演算周期を設定することができる。
【0115】
(12)上記第一及び第二の実施形態では、電動機駆動装置2が直流電源3からの直流電圧Vdcをインバータ6へ供給する構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、直流電源3からの電源電圧を変換して所望値のシステム電圧を生成するDC−DCコンバータ等の電圧変換部を備え、当該電圧変換部により生成されたシステム電圧を直流交流変換部としてのインバータ6に供給する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合において、電圧変換部は、電源電圧を昇圧する昇圧コンバータとすることができる他、電源電圧を降圧する降圧コンバータとし、或いは電源電圧の昇圧及び降圧の双方を行う昇降圧コンバータとすることもできる。
【0116】
(13)上記第一及び第二の実施形態では、電動機MGが三相交流により動作する埋込磁石構造の同期電動機(IPMSM)である構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、例えば、電動機MGとして、表面磁石構造の同期電動機(SPMSM)を用いることができ、或いは、同期電動機以外にも、例えば、誘導電動機等を用いることもできる。また、このような電動機MGに供給する交流として、三相以外の単相、二相、又は四相以上の多相交流を用いることができる。
【0117】
(14)上記第一及び第二の実施形態では、制御装置1が備える各機能部が、CPU1aが備えるメモリ(プログラムメモリ)に格納された電動機制御プログラム(すなわちソフトウェア)により構成されている構成を例として説明したが、制御装置1が備える機能部の少なくとも一部が、ハードウェアを備えて構成されていても良い。
【0118】
(15)その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、本願の特許請求の範囲に記載された構成及びこれと均等な構成を備えている限り、特許請求の範囲に記載されていない構成の一部を適宜改変した構成も、当然に本発明の技術的範囲に属する。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、直流電圧を交流電圧に変換して交流電動機に供給する直流交流変換部を備えた電動機駆動装置の制御を行う制御装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0120】
1:制御装置
1a:CPU(演算処理ユニット)
2:電動機駆動装置
6:インバータ(直流交流変換部)
20:制御モード決定部
21:演算周期設定部
23:制御信号生成部
31:トルク推定値導出部
32:トルク偏差導出部
33:位相値決定部(電圧指令値決定部)
40:電流フィードバック制御部
41:電流指令値導出部
42:電流偏差導出部
43:波形指令値決定部(電圧指令値決定部)
Iur:U相電流(電流の検出値)
Ivr:V相電流(電流の検出値)
Iwr:W相電流(電流の検出値)
M:コイル
MG:電動機(交流電動機)
P1:第一周期
P2:第二周期
P3:第三周期
S1〜S6:スイッチング制御信号(制御信号)
T0:基準演算周期
TM:目標トルク
Vd:d軸電圧指令値(交流波形指令値、電圧指令値)
Vq:q軸電圧指令値(交流波形指令値、電圧指令値)
φ:位相値(電圧指令値)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧を交流電圧に変換して交流電動機に供給する直流交流変換部を備えた電動機駆動装置の制御を行う制御装置であって、
パルス幅変調制御モードと矩形波制御モードとを含む複数の制御モードの中から1つの実行を決定する制御モード決定部と、
前記制御モード決定部により決定された制御モードが前記パルス幅変調制御モードである場合には、前記直流交流変換部から前記交流電動機に供給する交流電圧波形の指令値である交流波形指令値を電圧指令値として決定し、前記制御モード決定部により決定された制御モードが前記矩形波制御モードである場合には、矩形波電圧の位相値を電圧指令値として決定する電圧指令値決定部と、
前記制御モード決定部により決定された制御モードと前記電圧指令値とに基づき前記直流交流変換部の制御信号を生成する制御信号生成部と、
前記制御モード決定部により決定された制御モードが前記パルス幅変調制御モードである場合に、前記制御信号生成部の演算周期を、キャリア周期の1/2に設定された基準演算周期のN倍(Nは1以上の整数)の第一周期に設定するとともに、前記電圧指令値決定部の演算周期を、前記第一周期のM倍(Mは2以上の整数)の第二周期に設定する演算周期設定部と、を備え、
前記演算周期設定部は、前記制御モード決定部により決定された制御モードが前記矩形波制御モードである場合に、前記電圧指令値決定部の演算周期及び前記制御信号生成部の演算周期の双方を、前記第二周期に設定する制御装置。
【請求項2】
前記交流電動機の出力トルクと目標トルクとの偏差を導出するトルク偏差導出部を更に備え、
前記電圧指令値決定部は、前記制御モード決定部により決定された制御モードが前記矩形波制御モードである場合に、前記トルク偏差導出部が導出した偏差に基づき少なくとも比例制御及び積分制御を行って前記矩形波電圧の位相値を決定し、
前記演算周期設定部は、前記制御モード決定部により決定された制御モードが前記矩形波制御モードである場合に、前記トルク偏差導出部の演算周期を、前記第二周期のL倍(Lは2以上の整数)の第三周期に設定する請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記交流電動機のコイルに流れる電流の検出値に基づき前記出力トルクの推定値であるトルク推定値を導出するトルク推定値導出部を更に備え、
前記トルク偏差導出部は、前記トルク推定値を前記出力トルクとして前記偏差を導出し、
前記演算周期設定部は、前記制御モード決定部により決定された制御モードが前記矩形波制御モードである場合に、前記トルク推定値導出部の演算周期を、前記第三周期に設定する請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
M個の前記交流電動機に対する前記電圧指令値決定部による前記電圧指令値の決定のための演算処理を単一の演算処理ユニットにより行うように構成され、
M個の前記交流電動機のそれぞれについての前記電圧指令値決定部の演算を、前記第二周期で互いに異なる基準演算周期内に行う請求項1から3のいずれか一項に記載の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−39726(P2012−39726A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176680(P2010−176680)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】