説明

化合物半導体基板

【課題】化合物半導体層全体の膜厚を抑制しつつ、半導体素子の高い性能と信頼性を両立することのできる化合物半導体基板を提供する。
【解決手段】シリコン単結晶の基板12と、基板上に形成される化合物半導体の第1の半導体層16と、第1の半導体層上に形成され、第1の半導体層よりもバンドギャップエネルギーの大きい、化合物半導体の障壁層18と、障壁層上に形成され、障壁層よりもバンドギャップエネルギーの小さい化合物半導体の第2の半導体層20と、第2の半導体層上に形成され、第2の半導体層よりもバンドギャップエネルギーの大きい化合物半導体の第3の半導体層22とを有することを特徴とする化合物半導体基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の製造に用いられる化合物半導体基板に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)等の化合物半導体は、シリコン(Si)より広いバンドギャップを有しており、各種半導体素子、例えば、高電子移動度トランジスタ、すなわちHigh Electron Mobility Transistor(HEMT)へ適用することで、素子特性の大幅な向上が期待できる。
【0003】
HEMTに用いられる化合物半導体基板としては、例えば、Si単結晶基板上に、複数の化合物半導体層を形成したものがある。図5は、従来技術の一例である化合物半導体基板を用いて製造されるHEMTの概略断面図である。
【0004】
図5に示すHEMTでは、シリコン(Si)等の基板52上に、多層構造の中間層(バッファ層)54と、電子走行層56と、電子供給層58とがこの順に積層され、ヘテロ接合構造が構成されている。そして、電子供給層58上には、ソース電極70a、ゲート電極70b、およびドレイン電極70cが形成されている。なお、必要に応じて、ソース電極70aおよびドレイン電極70cと、電子供給層58との間に、コンタクト抵抗を低減させる目的で、図示しないコンタクト層が形成されていてもよい。
【0005】
このような構成のHEMTでは、電子走行層56と電子供給層58とのヘテロ接合界面直下に形成される2次元電子ガスをキャリアとして利用する。ソース電極70aとドレイン電極70cに電圧を印加し、ゲート電極70bによりトランジスタを作動させると、ソース電極70aから電子走行層56に供給された電子が2次元電子ガス層中を高速で移動し、ドレイン電極70cに到達する。このとき、ゲート電極70bに加える電圧を制御してゲート電極70b直下の空乏層の厚さを変化させることで、ソース電極70aからドレイン電極70cへ移動する電子、すなわちドレイン電流を制御できる。
【0006】
ところで、HEMTでは、高いストレス電界を印加した場合、電流コラプスと呼ばれる現象により、電界ストレス印加前後でドレイン電流量が低下するという問題がある。この電流コラプスは、半導体素子に電流を流した際に、電子トラップ、その他の要因により、2次元電子ガス層中の電子の移動が妨げられるためと考えられる。そこで、HEMTにおいて、素子性能を維持しつつ、この電流コラプスを効果的に低減するための、さまざまな方法が提案されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、電流コラプスを悪化させることなくバッファ層を高抵抗化し、バッファ層中に発生するリーク電流を低減させるHEMTが開示されている。このHEMTは、基板上に、それぞれGaN系化合物半導体からなる低温バッファ層、バッファ層、電子走行層および電子供給層をこの順に積層して備える。そして、バッファ層には高抵抗化のための炭素が添加され、この添加される炭素濃度は、この炭素濃度に対して電流コラプスが急激に変化する濃度以下、かつHEMTの耐圧が急激に変化する濃度以上とされる。そして、電子走行層の層厚は、この層厚に対して電流コラプスが急激に変化する厚さ以上、かつHEMTの耐圧が急激に変化する厚さ以下とされる。
【0008】
また、特許文献2には、ノーマリオフ動作を実現するとともに、電流コラプス現象が抑制されたヘテロ接合を有する半導体装置が開示されている。この半導体装置は、窒化ガリウム(GaN)の半導体下層と、半導体下層の表面に設けられている窒化ガリウムアルミニウム(AlGaN)の半導体上層と、半導体上層の表面に設けられている絶縁ゲート部を備える。そして、半導体下層と半導体上層は、ヘテロ接合を構成し、半導体上層は、中間領域にマグネシウムを含むδドープ層を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−251144号公報
【特許文献2】特開2009−289826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に開示されている技術は、電子走行層に対して、高いストレス電圧を印加した場合に発生する電流コラプスを抑制する方法として、電子走行層の厚さを最適化したものである。しかしこの場合、必要以上に電子走行層の膜厚が厚くなることが避けられない。よって、化合物半導体層全体の膜厚が大きくなることによる転位や反りの増加に対して、必ずしも十分に対応できているとはいえなかった。
【0011】
特許文献2に開示されている技術は、電流コラプスが抑制されたヘテロ接合を実現する方法として、中間領域にマグネシウムを含むδドープ層を形成する。これにより、ヘテロ接合の表層領域において、電流コラプスの原因となるトラップを消滅させるという点に特徴があるものといえる。しかしこの方法では、電子走行層やバッファ層に存在するヘテロ接合の表層領域より深いトラップに起因する電流コラプスに対しては、十分な効果が見込めないという点が懸念される。
【0012】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、化合物半導体層全体の膜厚を抑制しつつ、半導体素子の高い性能と信頼性を両立することのできる化合物半導体基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様の化合物半導体基板は、シリコン単結晶の基板と、前記基板上に形成され、炭素濃度が1×1018/cm以上1×1021/cm以下である化合物半導体の第1の半導体層と、前記第1の半導体層上に形成され、炭素濃度が5×1017/cm以下であり、前記第1の半導体層よりもバンドギャップエネルギーの大きい、化合物半導体の障壁層と、前記障壁層上に形成され、炭素濃度が5×1017/cm以下であり、前記障壁層よりもバンドギャップエネルギーの小さい化合物半導体の第2の半導体層と、前記第2の半導体層上に形成され、前記第2の半導体層よりもバンドギャップエネルギーの大きい化合物半導体の第3の半導体層と、を有することを特徴とする。
【0014】
上記態様の化合物半導体基板において、第1の半導体層が第2の半導体層よりも高抵抗であることが望ましい。
【0015】
上記態様の化合物半導体基板において、第1の半導体層と障壁層、および、障壁層と第2の半導体層は、それぞれの境界面において格子整合していることが望ましい。
【0016】
上記態様の化合物半導体基板において、第1の半導体層がAlx1Iny1Ga1−x1−y1N(0≦x1≦1,0≦y1≦1,0≦x1+y1≦1)、障壁層がAlInGa1−a−bN(0≦a≦1,0≦b≦1,0≦a+b≦1)、第2の半導体層がAlx2Iny2Ga1−x2−y2N(0≦x2≦1,0≦y2≦1,0≦x2+y2≦1)、第3の半導体層がAlx3Iny3Ga1−x3−y3N(0≦x3≦1,0≦y3≦1,0≦x3+y3≦1)で表される化合物半導体であることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、化合物半導体層全体の膜厚を抑制しつつ、半導体素子の高い性能と信頼性を両立することのできる化合物半導体基板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施の形態の化合物半導体基板の構造を示す概略断面図である。
【図2】窒化物半導体の格子定数とバンドギャップエネルギーを示す図である。
【図3】実施の形態の化合物半導体基板を用いて製造されるHEMTの概略断面図である。
【図4】実施の形態の化合物半導体基板を用いて製造されるHEMTのバンド図である。
【図5】従来技術の一例である化合物半導体基板を用いて製造されるHEMTの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本実施の形態を、図面を参照してより詳細に説明する。
【0020】
(第1の実施の形態)
本実施の形態の化合物半導体基板は、シリコン単結晶の基板と、基板上に形成され、炭素濃度が1×1018/cm以上1×1021/cm以下である化合物半導体の第1の半導体層と、第1の半導体層上に形成され、炭素濃度が5×1017/cm以下であり、第1の半導体層よりもバンドギャップエネルギーの大きい、化合物半導体の障壁層と、障壁層上に形成され、炭素濃度が5×1017/cm以下であり、障壁層よりもバンドギャップエネルギーの小さい化合物半導体の第2の半導体層と、第2の半導体層上に形成され、第2の半導体層よりもバンドギャップエネルギーの大きい化合物半導体の第3の半導体層と、を備えている。なお、本明細書中濃度の単位は、「/cm」で示すが、「atoms/cm」と同義である。
【0021】
本実施の形態においては、特にHEMTの製造に好適な化合物半導体基板を例に説明する。本実施の形態の化合物半導体基板を用いることで、高い性能と信頼性を両立させるHEMTを製造することが可能である。
【0022】
図1は、実施の形態の化合物半導体基板の構造を示す概略断面図である。本実施の形態の化合物半導体基板10は、シリコン(Si)単結晶の基板12上に、例えば窒化物半導体の中間層14が形成される。そして、中間層14上には、例えば窒化物半導体の第1の半導体層16が形成される。
【0023】
また、第1の半導体層16上には、第1の半導体層16よりもバンドギャップエネルギーの大きい、例えば窒化物半導体の障壁層18が形成されている。また、障壁層18上には、障壁層18よりもバンドギャップエネルギーの小さい、例えば窒化物半導体の第2の半導体層20が形成されている。
【0024】
さらに、第2の半導体層20上には、第2の半導体層20よりもバンドギャップエネルギーの大きい、例えば窒化物半導体の第3の半導体層22が形成されている。
【0025】
中間層14は、Si単結晶の基板12と第1の半導体層16の熱膨張係数の違いによる反りと、格子定数の違い、すなわち格子不整合によるミスフィット転位発生を抑える目的で形成される。バッファ層とも称される。
【0026】
一般的には、中間層14には2層または3層の窒化物半導体層を1対以上積層した多層構造が用いられる。例えば、厚さ10〜50nmの単結晶AlNによる第一層と、厚さ50〜200nmの単結晶GaNによる第二層を交互に5〜40層程度積層することによって形成される。本実施の形態においては、特に中間層14の構造を限定するものではない。しかし、多層構造の中間層14を用いることが製造上の容易性や制御性の点で好ましい。
【0027】
第1の半導体層16は、例えばAlx1Iny1Ga1−x1−y1N(0≦x1≦1,0≦y1≦1,0≦x1+y1≦1)で表される化合物半導体で形成される。例えばGaNである。また、膜厚は、例えば、500〜2000nm程度である。
【0028】
第1の半導体層16は、例えば、炭素(C)を不純物として含有する高抵抗層である。第1の半導体層16の抵抗は、第2の半導体層20の抵抗よりも高い。
【0029】
そして、その炭素濃度が1×1018/cm以上1×1021/cm以下である。なお、炭素以外にも不純物として、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)等を不純物として用いることも可能である。なお、炭素濃度は、例えばSIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy)を用いて評価が可能である。
【0030】
障壁層18は、例えばAlInGa1−a−bN(0≦a≦1,0≦b≦1,0≦a+b≦1)で表される化合物半導体で形成される。組成は、第1の半導体層16よりもバンドギャップエネルギーが大きくなるよう設計される。
【0031】
図2は、窒化物半導体の格子定数とバンドギャップエネルギーを示す図である。例えば、第1の半導体層16がGaNである場合、Alを含んだAlGa1−aN(0<a≦1)とすることで、第1の半導体層16よりもバンドギャップエネルギーを大きくすることが可能となる。バンドギャップエネルギーは、化合物半導体の組成が決まれば理論的に求めることができる。
【0032】
障壁層18は、不純物が含有されない、いわゆるアンドープ層であるか、または、不純物濃度が5×1017/cm以下の低不純物層である。不純物は、例えば炭素、亜鉛、マグネシウムである。また、膜厚は、例えば、5〜50nm程度である。
【0033】
第2の半導体層20は、例えばAlx2Iny2Ga1−x2−y2N(0≦x2≦1,0≦y2≦1,0≦x2+y2≦1)で表される化合物半導体で形成される。組成は、障壁層18よりもバンドギャップエネルギーが小さくなるよう設計される。例えば、障壁層18がAlGa1−aN(0<a≦1)である場合、GaNとすることで、障壁層18よりもバンドギャップエネルギーを小さくすることが可能となる。
【0034】
第2の半導体層20は、不純物が含有されない、いわゆるアンドープ層であるか、または、不純物濃度が5×1017/cm以下の低不純物層である。不純物は、例えば炭素、亜鉛、マグネシウムである。また、膜厚は、例えば、100〜1000nm程度である。
【0035】
第1の半導体層16と、第2の半導体層20が同一の組成の化合物半導体であることが化合物半導体基板10の製造を容易にする観点から望ましい。
【0036】
第3の半導体層22は、例えばAlx3Iny3Ga1−x3−y3N(0≦x3≦1,0≦y3≦1,0≦x3+y3≦1)で表される化合物半導体で形成される。組成は、第2の半導体層20よりもバンドギャップエネルギーが大きくなるよう設計される。例えば、第2の半導体層20がGaNである場合、Alを含んだAlx3Ga1−x3N(0<x3≦1)とすることで、第2の半導体層20よりもバンドギャップエネルギーを大きくすることが可能となる。
【0037】
第3の半導体層22は、不純物が含有されない、いわゆるアンドープ層であるか、または、不純物濃度が5×1017/cm以下の低不純物層である。不純物は、例えば炭素、亜鉛、マグネシウムである。また、膜厚は、例えば、10〜50nm程度である。
【0038】
第1の半導体層16のバンドギャップエネルギーをEg、障壁層18のバンドギャップエネルギーをEgb、第2の半導体層20のバンドギャップエネルギーをEg2、とする場合に、バンドギャップエネルギーの差ΔEgI=Egb−Eg、ΔEgII=Egb−Egが、0.5eV以上であることが望ましく、1.0eV以上であることがより望ましい。
【0039】
また、第1の半導体層16と障壁層18、および、障壁層18と第2の半導体層20は、それぞれの境界面において格子整合していることが望ましい。本明細書中、格子整合とは、必ずしも2層の格子定数が完全一致する場合に限らない。
【0040】
第1の半導体層16の格子定数をa、障壁層18の格子定数をab、第2の半導体層20の格子定数をa2、とする場合に、格子定数の変化量ΔaI=(ab−a)/ab、ΔaII=(ab−a2)/abが絶対値換算で1%以下である場合も格子整合しているとみなすものとする。格子整合している場合であっても、ΔaI=(ab−a)/ab、ΔaII=(ab−a2)/abが0.5%以下、さらには、0.3%以下であることがより望ましい。
【0041】
例えば、第1の半導体層16および第2の半導体層20がGaNである場合、図2より明らかなように、例えば障壁層18をAl0.82In0.18Nとすることで、第1の半導体層16と障壁層18、および、障壁層18と第2の半導体層20を、それぞれの境界面において格子整合させることが可能となる。
【0042】
なお、第1の半導体層16と障壁層18、および、障壁層18と第2の半導体層20を、それぞれの境界面において格子整合させ、かつ、障壁層18のバンドギャップエネルギーが境界面より内部で大きくなっていることがさらに望ましい。障壁層18内で層厚方向に組成を変調させることで、この構造を実現することが可能である。
【0043】
図3は、実施の形態の化合物半導体基板を用いて製造されるHEMTの概略断面図である。実施の形態の化合物半導体基板10の第3の半導体層22上に、ソース電極30a、ゲート電極30b、およびドレイン電極30cが形成されている。
【0044】
第2の半導体層20は、いわゆる電子走行層として機能する。また、第3の半導体層22は、いわゆる電子供給層として機能する。
【0045】
第1の半導体層16は、いわゆる耐圧保持層として機能する。上述のように、例えば炭素が不純物として導入されることにより高抵抗層となっているため、HEMTがオフ時のリーク電流を低減し、高耐圧化、ノーマリオフ化を容易に実現する。
【0046】
もっとも、不純物が高い濃度で導入されていることにより、第1の半導体層16に生ずる、不純物に起因する電子トラップ等により、電流コラプスが低下(悪化)し、性能が劣化する恐れがある。
【0047】
図4は、実施の形態の化合物半導体基板を用いて製造されるHEMTのバンド図である。Eはフェルミレベル、Eは価電子帯レベル、Eは伝導帯レベルを示す。図4に示すように、障壁層のバンドギャップエネルギーが電子走行層および耐圧保持層よりも大きい。いいかえれば、障壁層のバンドギャップ幅が電子走行層および耐圧保持層よりも大きい。
【0048】
このため、図3のHEMTでは、障壁層により電子走行層および耐圧保持層の電子トラップ等の電荷が、量子化学的に分離される。このため、電流コラプスの原因となる電子トラップの電荷が耐圧保持層から電子走行層に到る確率が減少し、耐圧保持層中の電子トラップの電荷が電子走行層に与える影響を遮断することが可能となる。したがって、例え、電子走行層の厚さが薄くても電流コラプスの発生を抑制することができる。よって、化合物半導体層全体の膜厚を抑制しつつ、HEMTの高い性能と信頼性を両立することが可能となる。そして、化合物半導体層全体の膜厚を抑制できるため、基板の反り等の問題を低減するとともに製造コストを削減することも可能となる。
【0049】
なお、上述のように、耐圧保持層となる第1の半導体層16が炭素を不純物として含有する場合に、その炭素濃度が1×1018/cm以上1×1021/cm以下であることが望ましい。この範囲を下回ると、HEMTの耐圧が十分確保できない恐れがあるからである。またこの範囲を上回ると電流コラプスを抑制することが困難になるからである。
【0050】
また、上述のように、耐圧保持層となる第1の半導体層16のバンドギャップエネルギーをEg、障壁層18のバンドギャップエネルギーをEgb、電子走行層となる第2の半導体層20のバンドギャップエネルギーをEg2、とする場合に、バンドギャップエネルギーの差ΔEgI=Egb−Eg、ΔEgII=Egb−Egが、0.25eV以上であることが望ましく、0.5eV以上であることがより望ましく、1.0eV以上であることがさらに望ましい。これは、HEMTを製造した場合に、電流コラプスの抑制効果が向上するからである。
【0051】
また、上述のように、耐圧保持層となる第1の半導体層16と障壁層18、および、障壁層18と電子走行層となる第2の半導体層20は、それぞれの境界面において格子整合していることが望ましい。
【0052】
これは、それぞれの境界面が格子整合することにより、HEMTを製造した場合に、これらの界面でのピエゾ分極に由来する電子の発生を抑制することができ、高耐圧化、ノーマリオフ化を容易に実現できるからである。また、格子不整合による転位の発生等も抑制することができる。
【0053】
さらに、移動度の低下も抑制することができる。格子不整合により発生する転移が電子の散乱中心になることが抑制されるからである。
【0054】
以上のように、実施の形態の化合物半導体基板によれば、電子走行層の下に高耐圧化のための高抵抗層(耐圧保持層)を有するHEMTを製造した場合に、この高抵抗層等の深い領域に起因する電流コラプスを抑制することが、化合物半導体層全体の膜厚を不要に増加させることなく実現できる。よって、低コストで、半導体素子の高い性能と信頼性を両立することのできる化合物半導体基板を提供することが可能となる。
【0055】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。上記、実施の形態はあくまで、例として挙げられているだけであり、本発明を限定するものではない。また、実施の形態の説明においては、化合物半導体基板、半導体素子等で、本発明の説明に直接必要としない部分等については記載を省略したが、必要とされる化合物半導体基板、半導体素子等に関わる要素を適宜選択して用いることができる。
【0056】
例えば、電子走行層となる第2の半導体層と、電子供給層となる第3の半導体層との間に、例えばAlN等のスペーサー層を形成しても構わない。
【0057】
また、例えば、電子供給層となる第3の半導体層上に保護膜となるシリコン窒化膜が設けられても構わない。
【0058】
また、実施の形態においては、特にHEMTの製造に用いられる場合を例に説明したが、HEMT以外の半導体素子の製造に本発明の化合物半導体基板を適用することも可能である。
【0059】
また、実施の形態においては、GaN系の化合物半導体を例に説明したが、GaAs系等、その他の化合物半導体を用いることも可能である。
【0060】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての化合物半導体基板が、本発明の範囲に包含される。本発明の範囲は、特許請求の範囲およびその均等物の範囲によって定義されるものである。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は、下記実施例により制限されるものではない。
【0062】
[実施例1]
まず、図1に示す層構造を有する化合物半導体基板を、以下の工程で作製した。まず、直径4インチのSi(111)単結晶基板12を、Metal Organic Chemical Vapor Deposition(MOCVD)装置内にセットした。
【0063】
次に、原料にトリメチルアルミニウム(TMA)、NHを用い、1000℃での気相成長により、厚さ20nmのAlN単結晶層を形成した。さらにその上に、原料としてトリメチルガリウム(TMG)、TMA、NHを用い、1000℃での気相成長により、厚さ80nmのGaN単結晶層を積層させ、これらを同様の工程にて、交互に繰り返し、各10層、合計20層を積層させ、多層構造のバッファ層を形成し、これを中間層14とした。
【0064】
中間層14上に、原料にTMG、NHを用い、第1の半導体層(耐圧保持層)16として、炭素濃度5×1020/cmのGaNを1000nm堆積した。その上に、原料にTMA、トリメチルインジウム(TMI)、NHを用い、障壁層18として、炭素濃度1×1017/cmのAl0.82In0.18Nを10nm堆積した。
【0065】
障壁層18上に、原料にTMG、NHを用い、1000℃での気相成長により、第2の半導体層(電子走行層)20として、炭素濃度1×1017/cmのGaN単結晶を200nm積層させた。さらにその上に、原料にTMG、TMA、NHを用い、第3の半導体層(電子供給層)22として、炭素濃度1×1017/cmの厚さ30nmのAl0.25Ga0.75N単結晶層を積層させた。
【0066】
この化合物半導体基板上にチタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、金(Au)を用いて、ソース電極30a、ゲート電極30b、およびドレイン電極30cを形成し、図3に示す構造のHEMTを製造した。以上の工程を経て、実施例1の評価用半導体素子を得た。なお、気相成長により形成した各層の厚さの調整は、原料の供給量および供給時間の調整により行った。
【0067】
評価用半導体素子について、コラプスファクターを評価した。評価は、オフ状態でソース電極、ドレイン電極間にストレス電圧を印加し、ストレス電圧印加前後のオン状態の導通電流量の比からコラプスファクターを算出した。コラプスファクターはその値が大きく「1.0」に近いほど、HEMTの出力電流特性の再現性が良好で、通電損失が小さいことになる。また、縦耐圧、リーク特性も評価した。評価半導体素子の構成および評価結果は表1に示す。
【0068】
[実施例2]
障壁層18として、原料にTMG、TMA、TMI、NHを用い、炭素濃度1×1017/cmのAl0.7In0.1Ga0.2Nを10nm堆積すること以外は、実施例1と同様に評価用半導体素子を製造し評価した。評価半導体素子の構成および評価結果は表1に示す。
【0069】
[実施例2’]
障壁層18として、原料にTMG、TMA、TMI、NHを用い、炭素濃度1×1017/cmのAl0.6In0.2Ga0.2Nを10nm堆積すること以外は、実施例1と同様に評価用半導体素子を製造し評価した。評価半導体素子の構成および評価結果は表1に示す。
【0070】
[比較例1]
障壁層18を省略する以外は、実施例1と同様に評価用半導体素子を製造し評価した。評価半導体素子の構成および評価結果は表1に示す。
【0071】
[実施例3〜6、比較例2〜5]
第1の半導体層16、障壁層18、および第2の半導体層20の炭素濃度を変更する以外は、実施例1と同様に評価用半導体素子を製造し評価した。評価半導体素子の炭素濃度および評価結果を表2に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
なお、表1および表2の評価の欄において、◎は評価結果が特に良好、○は良好、△は可、×は不可であったことを示す。
【0075】
表1に示す通り、実施例により良好なコラプスファクターが実現でき、かつ、縦耐圧、
リーク特性が良好となることが明らかになった。また、表2に示すとおり、第1の半導体層、障壁層、第2の半導体層それぞれの炭素濃度が、実施例の範囲にあれば、デバイス特性が良好であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、半導体素子製造用の化合物半導体基板として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0077】
10 化合物半導体基板
12 基板
14 中間層
16 第1の半導体層
18 障壁層
20 第2の半導体層
22 第3の半導体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン単結晶の基板と、
前記基板上に形成され、炭素濃度が1×1018/cm以上1×1021/cm以下である化合物半導体の第1の半導体層と、
前記第1の半導体層上に形成され、炭素濃度が5×1017/cm以下であり、前記第1の半導体層よりもバンドギャップエネルギーの大きい、化合物半導体の障壁層と、
前記障壁層上に形成され、炭素濃度が5×1017/cm以下であり、前記障壁層よりもバンドギャップエネルギーの小さい化合物半導体の第2の半導体層と、
前記第2の半導体層上に形成され、前記第2の半導体層よりもバンドギャップエネルギーの大きい化合物半導体の第3の半導体層と、
を有することを特徴とする化合物半導体基板。
【請求項2】
前記第1の半導体層が前記第2の半導体層よりも高抵抗であることを特徴とする請求項1記載の化合物半導体基板。
【請求項3】
前記第1の半導体層と前記障壁層、および、前記障壁層と前記第2の半導体層は、それぞれの境界面において格子整合していることを特徴とする請求項1または請求項2記載の化合物半導体基板。
【請求項4】
前記第1の半導体層がAlx1Iny1Ga1−x1−y1N(0≦x1≦1,0≦y1≦1,0≦x1+y1≦1)、前記障壁層がAlInGa1−a−bN(0≦a≦1,0≦b≦1,0≦a+b≦1)、前記第2の半導体層がAlx2Iny2Ga1−x2−y2N(0≦x2≦1,0≦y2≦1,0≦x2+y2≦1)、前記第3の半導体層がAlx3Iny3Ga1−x3−y3N(0≦x3≦1,0≦y3≦1,0≦x3+y3≦1)で表される化合物半導体であることを特徴とする請求項1ないし請求項3いずれか一項記載の化合物半導体基板。








【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−38157(P2013−38157A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171737(P2011−171737)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】