説明

化学蒸着装置

【課題】ランニングコストや生産性を向上した高温媒体CVD法を行う化学蒸着装置を提供する。
【解決手段】減圧状態の処理チャンバー内のガス導入ヘッド31から導入された原料ガスが、エネルギー印加機構5により所定の高温に維持された高温媒体4の表面に接触するか表面付近を通過する際に生じた生成物が、基板ホルダーにより保持された基板9の表面に到達して薄膜が作成される化学蒸着装置において、ガス導入ヘッド31を高温媒体4に沿って配置することで、原料ガスの使用効率を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、原料ガスの反応によって基板の表面に所定の薄膜を作成する化学蒸着装置に関するものであり、特に、所定の高温に維持された高温媒体を処理チャンバー内に配置して高温媒体の作用による生成物を利用しながら成膜を行う化学蒸着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アモルファスシリコン(a−Si)膜やポリシリコン(poly−Si)膜の作成には、従来より化学蒸着法(または、化学気相成長法、CVD法とも呼ばれる)を利用した装置が用いられている。特に、プラズマを利用したプラズマCVD(PCVD)法は、スループットの大きい方法として現在用いられている主流の方法として知られている。PCVD法は、例えばa−Si膜の場合には、1〜10Pa程度のガス圧力下において高周波によるプラズマを生成し、プラズマ中で生成された生成物を堆積させて成膜を行う方法である。これに対し、プラズマを使用しない方法として、所定の高温に維持された高温媒体を処理チャンバー内に配置して高温媒体の作用により成膜を行う方法が近年開発されている。
【0003】
このうち、高温媒体を触媒として用いる方法が知られており、このような方法は触媒CVD(catalytic CVD,cat−CVD)法と呼ばれている(例えば、非特許文献1参照)。また、通電により1500℃以上の高温に発熱させたワイヤー又はフィラメントを高温媒体として用い、熱分解によって生成された生成物を対象物の表面に堆積させる方法が開発されている(例えば、非特許文献2参照)。この方法は、ワイヤー状又はフィラメントを使用することから、ホットワイヤーCVD(Hot Wire CVD,HWCVD)法と呼ばれたり、ホットフィラメントCVD(Hot Filament CVD,HFCVD)法と呼ばれたりすることがある。
【0004】
このような高温媒体を使用したCVD(以下、総称して高温媒体CVD)法は、通常の熱CVD法に比べて基板の温度が低くても充分な成膜速度で成膜が行えるため、低温プロセスとして有望視されている。また、プラズマを使用しないため、プラズマによる基板のダメージという問題からも無縁である。更に、導入するガス種を変えることにより、Si系のみならず、ダイヤモンド薄膜や電子デバイスの保護膜の作成等にも応用できる。このような高温媒体CVD法を行う従来の化学蒸着装置の構成について、図5及び図6を参照しながら説明する。図5は、従来の化学蒸着装置の構成を示した正面概略図、図6は、図5の装置に使用された高温媒体の構成を示す斜視概略図である。
【0005】
図5に示す装置は、排気系11によって内部を減圧状態に維持することが可能な処理チャンバー1と、処理チャンバー1内の所定の位置に基板9を保持する基板ホルダー2と、所定の原料ガスを処理チャンバー1に導入するガス導入系3と、ガス導入系3より導入された原料ガスが表面に接触するか表面付近を通過するようにして処理チャンバー1内に設けられた高温媒体4と、高温媒体4にエネルギーを印加して高温媒体4を所定の高温に維持するエネルギー印加機構5とを備えている。
【0006】
高温媒体4は、タングステン等の高融点金属の一本のワイヤーから成る構成である。高温媒体4は、図6に示すように、鋸波状に折り曲げられ、方形の枠体401に架設されている。枠体401には、フック402が取り付けられており、高温媒体4は、折り曲げられた部分がこのフック402に引っ掛けられている。そして、高温媒体4の両端は、締め付け具403によって固定されており、ある程度の張力が維持された状態となっている。また、締め付け具403は、高温媒体4へのエネルギーの導入部にも兼用されている。即ち、エネルギー印加機構5は、高温媒体4を通電して発熱させる直流又は交流の通電用電源となっている。そして、締め付け具403には導入棒404が取り付けられており、エネルギー印加機構5は、導入棒404を介して高温媒体4を通電するようになっている。
【0007】
図1に示す装置において、エネルギー印加機構5によって高温媒体4を通電し、高温媒体4を1500〜2200℃程度の範囲内の高温に発熱させる。この状態で、ガス導入系3によって所定の原料ガスを処理チャンバー1内に導入する。導入されたガスが、高温媒体4の表面に接触するか表面付近を通過する際に反応が生じ、この反応による生成物が基板9の表面に到達することで、基板9の表面に所定の薄膜が作成される。
【0008】
【非特許文献1】H. Matsumura、 J. Appl. Phys. 65 (11)、 1 4396(1989)
【非特許文献2】E. C. Molenbroek and A. H. Mahan、 J. Appl. Phys. 82(4)、 15 1909(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明によって解決しようとする課題は、大きく分けて三つある。第一番目は、高温媒体と基板との距離に関する課題である。上述したような高温媒体CVDでは、高温媒体の表面に接触するか表面付近を通過することで生成された生成物を基板に到達させて成膜を行うから、高温媒体と基板の距離は非常に重要なパラメータである。高温媒体を基板に近づけて配置すれば、生成物が基板に到達する確率が増して成膜速度が高くなるものの、高温媒体からの輻射熱が多くなり、基板の温度が高くなってしまう欠点がある。逆に、輻射熱を低減させるために高温媒体を基板から遠ざけると、生成物の到達確率が低くなり、成膜速度が低下してしまう。高温媒体と基板との距離は、これらの点を勘案して、最適な値を実験的に選定するようにする。
【0010】
しかしながら、従来の化学蒸着装置では、前述したように、一本のワイヤーを水平な面内に沿って設けた構成の高温媒体を使用しているため、高温媒体の垂れの問題がある。つまり、ワイヤーより成る高温媒体は、通電発熱により熱膨張する。ワイヤーには、締め付け具によって適当な張力が与えられているものの、通電発熱により熱膨張した際、フックで引っかかっている部分の間で垂れることが避けられない。例えば、1〜2メートル程度のタングステン製のワイヤーを4インチ四方程度の面内で折り曲げた構成で、1900℃程度に加熱すると、最大で2〜3mm程度垂れてしまう。
【0011】
このような垂れによって、高温媒体が延びる平面と基板の表面とが平行でなくなり、高温媒体と基板との距離が不均一になる。この結果、生成物の到達確率や輻射熱による基板の温度上昇も不均一になる。これは、成膜速度や膜質の不均一性をもたらす。また、垂れの量は制御困難であり、処理の再現性の点でも問題がある。即ち、ワイヤーより成る高温媒体は、1枚の基板の処理のたびごとに通電されて発熱するが、その際の垂れの量が毎回同じになることは少なく、微妙に異なる。一方、垂れの量の相違は成膜速度や膜質に非常に敏感に影響する。このため、垂れの量の相違により、成膜速度や膜質が処理のたびに変わってしまい、成膜処理の再現性が得られなくなってしまう。
【0012】
第二番目は、高温媒体の交換頻度に関する問題である。上記従来の化学蒸着装置では、長いワイヤーを折り曲げ、両端で引っ張るように成形する。このため、断線が生じ易くなり、結果的に寿命が短いという問題があった。また、交換する際に、一箇所断線しただけでも、全部を交換する必要があった。
【0013】
第三番目は、基板処理枚数に関する課題である。上記従来の化学蒸着装置の場合、同時に処理チャンバー内に配置されて成膜され得る基板は1枚に限られているため、生産性が低いという問題がある。また、これに関連して、原料ガスの利用効率が低いという問題もある。即ち、原料ガスは、処理チャンバー内を広く拡散し、そのうちの一部が高温媒体を経由して基板に到達するのみである。残りの多くは、基板への成膜に使用されることなく排気系によって排気される。このため、原料ガスの使用量に対する基板の処理枚数が多くなく、原料コストが比較的高いという問題がある。
【0014】
さらに、高温媒体を経由することで生じた生成物が、基板ではなく処理チャンバーの内面や処理チャンバー内の構造物の表面等(以下、単に処理チャンバーの内面)に達する結果、これらの表面に薄膜が多く堆積する。この薄膜の厚さが厚くなると、自重や内部応力により剥離し、処理チャンバー内にパーティクル(処理チャンバー内を浮遊する微粒子の総称)を発生させる。このパーティクルが基板の表面に付着すると、局所的な膜厚異常等の問題を生ずることになる。
【0015】
従来は、このような問題を防止するため、所定の枚数の基板を処理した後、処理チャンバーを大気に開放し、処理チャンバー内に堆積した薄膜を除去するクリーニングを行っていた。しかしながら、上記のように原料ガスの利用効率が悪いことから、処理チャンバーの内面への膜堆積の速度が速く、非常に高い頻度でクリーニングを行わなければならないという問題がある。クリーニングそのものに時間が掛かる上、クリーニングを行うにはクリーニング終了に再度処理チャンバー内を排気し、再現性等が確保されていることを確認した上で処理を再開するため、非常に長い時間装置の運転を止める必要がある。このようなクリーニングの頻度が高いことは、装置全体の生産性を著しく低下させる結果となる。
【0016】
本願発明は、これらの課題を解決するために成されたものであり、高温媒体CVD法を行う化学蒸着装置において、高温媒体の垂れに起因した問題を解消し、ランニングコストや生産性の点で優れた構成を提供するという技術的意義を有する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、本発明は、内部を減圧状態に維持することが可能な処理チャンバーと、処理チャンバー内の所定の位置に基板を保持する基板ホルダーと、所定の原料ガスを処理チャンバーに導入するガス導入系と、ガス導入系より導入された原料ガスが表面に接触するか表面付近を通過するようにして処理チャンバー内に設けられた高温媒体と、高温媒体にエネルギーを印加して高温媒体を所定の高温に維持するエネルギー印加機構とを備えており、原料ガスが高温媒体の表面に接触するか又は表面付近を通過することにより生成された生成物が基板に到達することで基板の表面に所定の薄膜が作成される化学蒸着装置であって、前記高温媒体は、前記基板ホルダーに保持された基板と平行な平面に沿って設置されており、前記ガス導入系は、処理チャンバー内に設けられたガス導入ヘッドを介して処理チャンバー内に原料ガスを導入するものであり、該ガス導入ヘッドは、前記高温媒体に沿って配置されていることを特徴とする化学蒸着装置を提供するものである。
【0018】
上記本発明は、前記基板ホルダーは基板を垂直に保持するものであり、前記高温媒体は、水平に延びる成分よりも垂直に延びる成分の方が多い形状であること、
前記高温媒体は、別々に取り付けられた複数の媒体エレメントから成るものであること、
前記基板ホルダーは基板を垂直に保持するものであり、前記媒体エレメントは、水平に延びる成分よりも垂直に延びる成分の方が多い形状であること、
前記各媒体エレメントは、各々別々に処理チャンバーから取り出して交換可能であること、
前記エネルギー印加機構は、前記高温媒体を構成する複数の媒体エレメントに対して各々独立して印加エネルギーを制御することが可能であること、
前記高温媒体は、複数本のワイヤー状の媒体エレメントから成るものであり、このワイヤー状の媒体エレメントの各々は、U字状の形状であること、
前記ワイヤー状の媒体エレメントは、端部が上側に位置したU字状であること、
前記ガス導入ヘッドは、前記高温媒体の設置面と同じ面に沿って設けられていること、
前記基板ホルダーが、前記高温媒体を挟んで対称の位置にそれぞれ設けられていること、をその好ましい態様として含むものである。
【発明の効果】
【0019】
請求項1記載の化学蒸着装置によれば、原料ガスの利用効率が向上するので原料コストも削減でき、同時に処理チャンバー内のクリーニング頻度も少なくすることができるという効果がある。
【0020】
請求項2及び4記載の化学蒸着装置によれば、基板ホルダーは基板を垂直に保持するものであり、高温媒体が、垂直な面であって前記基板ホルダーに保持された基板と平行な平面に沿って設けられているので、高温媒体の垂れに起因した空間的又は時間的な成膜の不均一性が抑制される。また、基板の表面の各点への生成物の到達確率や輻射熱が均一になるので、この点でも成膜の均一性が向上する。
【0021】
請求項3記載の化学蒸着装置によれば、高温媒体が、別々に取り付けられる複数の媒体エレメントから成るので、故障等の場合の交換コストが安くでき、また交換の際の作業も容易で短時間に済むという効果がある。
【0022】
また、請求項2及び4記載の化学蒸着装置によれば、基板ホルダーが基板を垂直に保持するものであり、高温媒体が、垂直な面であって基板ホルダーに保持された基板と平行な平面に沿って設けられているとともに、水平に延びる成分よりも垂直に延びる成分の方が多い形状であるので、高温媒体の垂れに起因した空間的又は時間的な成膜の不均一性が抑制される。また、基板の表面の各点への生成物の到達確率や輻射熱が均一になるので、この点でも成膜の均一性が向上する。
【0023】
また、請求項5記載の化学蒸着装置によれば、複数の媒体エレメントが各々別々に処理チャンバー1から取り出して交換可能なので、交換作業が短時間に終了するという効果がある。
【0024】
また、請求項6記載の化学蒸着装置によれば、複数の媒体エレメントに対して各々独立して印加エネルギーを制御できるので、膜厚や膜質等の不均一性を補償してさらに均一な成膜を行うことができるという効果がある。
【0025】
また、請求項7記載の化学蒸着装置によれば、媒体エレメントがU字状のワイヤーからなるので、ある限られた長さのワイヤーで垂直な成分を多く取ることができ、垂れに起因した問題をさらに低減させることができるという効果がある。
【0026】
また、請求項8記載の化学蒸着装置によれば、媒体エレメントが、端部が上側に位置したU字状のワイヤーで構成されているので、通電によりジュール発熱させる構成の場合でも、水平方向に膨らむ問題は発生しないという効果がある。
【0027】
また、請求項10記載の化学蒸着装置によれば、複数の基板に対して同時に成膜を行うことができるので、生産性が向上する。また、原料ガスの利用効率が向上するので原料コストも削減でき、同時に処理チャンバー内のクリーニング頻度も少なくすることができるという効果がある。
【0028】
また、請求項9記載の化学蒸着装置によれば、処理チャンバー内に原料ガスを導入するガス導入ヘッドが、高温媒体が延びる面と同じ面に沿って設けられているので、両側の基板に対して均一に原料ガスを供給することができ、バランス良く成膜できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図を参照して、この出願の発明の実施の形態について説明する。図1は、本願発明の第一の実施形態の化学蒸着装置の正面概略図である。図1に示す装置は、排気系11によって内部を減圧状態に維持することが可能な処理チャンバー1と、処理チャンバー1内の所定の位置に基板9を保持する基板ホルダー2と、所定の原料ガスを処理チャンバー1に導入するガス導入系3と、ガス導入系3より導入された原料ガスが表面に接触するか表面付近を通過するようにして処理チャンバー1内に設けられた高温媒体4と、高温媒体4にエネルギーを印加して高温媒体4を所定の高温に維持するエネルギー印加機構5とを備えている。
【0030】
処理チャンバー1は、不図示のゲートバルブを備えた気密な真空容器である。排気系11は、ターボ分子ポンプと回転ポンプの組み合わせのような多段の真空ポンプを備えており、処理チャンバー1内を1×10-3Pa程度まで排気可能に構成される。尚、処理チャンバー1の外面には、不図示のチャンバー温度制御機構が設けられている。ホットウォール型の装置の場合、処理チャンバー1を室温より高い所定の温度に加熱するよう制御される。処理チャンバー1を室温程度まで冷却するよう制御する場合もある。
【0031】
さて、図1に示す本実施形態の装置の大きな特徴点の一つは、基板ホルダー2は基板9を垂直に保持するものである点である。具体的に説明すると、基板ホルダー2は、全体が高さの低い柱状であり、高さ方向が水平方向になるようにして配置されている。この基板ホルダー2は、金属製のホルダー本体21と、ホルダー本体21に接続された誘電体ブロック22とから主に構成されている。そして、誘電体ブロック22の垂直に延びる前面が基板保持面になっている。
【0032】
また、基板保持面に静電気を誘起して基板9を静電吸着する静電吸着機構6が設けられている。静電吸着機構6は、誘電体ブロック22内に設けられた一対の吸着電極61と、吸着電極61に電圧を印加する吸着電源62とから構成されている。吸着電源62によって一対の吸着電極61に直流電圧が印加されると、誘電体ブロック22が誘電分極し、基板保持面に静電気が誘起される。この結果、基板9が垂直な姿勢を維持したまた基板保持面に保持されるようになっている。
【0033】
また、ホルダー本体21には、基板9の温度を制御する基板温度制御機構23が設けられている。例えば、基板温度制御機構23には、ジュール発熱方式のヒータをホルダー本体21内に設け、誘電体ブロック22を介して基板9を所定温度に加熱する構成が採用される。場合によっては、ホルダー本体21内に冷媒を流通させ基板9を冷却して所定の温度に維持する構成が採用されることがある。尚、誘電体ブロック22の基板保持面の下縁には、ホルダーフック24が設けられている。このホルダーフック24は、基板9の着脱を容易にするためのものである。
【0034】
不図示の搬送ロボットは、アームの先端により基板9をその両端で挟んで保持し基板9を垂直な姿勢にする。アームを移動させて基板9を誘電体ブロック22の表面に接触させて静電吸着機構6により吸着させる。基板ホルダー2から基板9を取り去る際には、これと逆の動作となる。上記基板ホルダー2への基板9の保持動作の際、基板9をホルダーフック24の上に載せて安定させた後に誘電体ブロック22に静電吸着させることができる。また、基板ホルダー2からの基板9の取り去り動作の際も、静電吸着をオフにしてもホルダーフック24があるので落下することが無く、ホルダーフック24に載っている状態から搬送ロボットのアームの先端に静電吸着させて取り去ることができる。このように、ホルダーフック24は基板9の着脱を容易にする意義がある。
【0035】
このように基板9を垂直に保持する構成は、本実施形態の別の大きな特徴点である高温媒体4を垂直な面に沿って延びる形状とする構成に密接に関連している。この点を、図2及び図3を使用しながら説明する。図2は、図1に示す高温媒体4の構成を説明する斜視概略図、図3は、図2をさらに拡大して示した詳細図である。
【0036】
図1、図2及び図3に示すように、本実施形態の装置における高温媒体4は、垂直な面であってかつ基板ホルダー2に保持された基板9と平行な平面に沿って延びる形状である複数の媒体エレメント41から成る構成である。各媒体エレメント41は、チタン、モリブデン又はタンタル等の高融点金属で形成されている。そして、図2から解るように、一つの媒体エレメント41は、一本のワイヤーを長いU字状に成形した構成である。従って、ワイヤーの両端は上側に位置し、曲がった部分が下側に位置する。尚、ワイヤーの直径は、0.2mm〜3mm程度である。また、一本のワイヤーの長さは、基板9の同方向の長さの2倍よりやや長い程度である。
【0037】
上側に位置する各媒体エレメント41の両端部分は、導入保持体42に連結されている。導入保持体42は、媒体エレメント41より少し太いワイヤー状又はロッド状である。導入保持体42は、各媒体エレメント41と同様の高融点金属から形成されている。各導入保持体42は垂直な姿勢であり、その下端に媒体エレメント41の端部がネジ43により連結されている。尚、ネジ43は、高融点であるアルミナ等で形成されていることが好ましい。
【0038】
尚、前述したように、基板9と高温媒体4の距離(図1中Lで示す)は、技術的に重要なパラメータである。高温媒体4からの輻射熱を少なくしつつ充分な量の生成物を基板9に到達させるには、距離Lは1〜10cm程度であることが好ましい。1cm未満であると基板9への輻射熱があまりに多くなる問題が生じる。また、10cmを越えると、生成物の基板9への到達量が減ってしまう問題が生ずる。
【0039】
また、図1、図2及び図3に示すように、一つの媒体エレメント41の両端を保持した一対の導入保持体42を保持する保持板44が設けられている。導入保持体42は、アルミナ等の高融点の絶縁材45を介在させた状態で保持板44を気密に貫通している。保持板44は、アルミナやPBN(パイロリティック・ボロンナイトライド)等の高融点材料で形成されることが好ましい。この保持板44は、処理チャンバー1の上壁部の外面に取り付けられるようになっている。即ち、図1に示すように、処理チャンバー1の上壁部には、各保持板44よりも小さなスロット100が、保持板44の数だけ形成されている。各保持板44に保持された導入保持体42は、このスロット100に挿通されて下方に延び、その下端に媒体エレメント41を連結している。
【0040】
各保持板44と処理チャンバー1の上壁部の外面との間には、Oリング等の不図示の真空シールが設けられており、各保持板44はスロット100を気密に塞ぐ状態となっている。尚、各保持板44は、ネジ止め等により処理チャンバー1の上壁部に取り付けられている。保持板44を経由しての処理チャンバー1の加熱が問題となるときは、保持板44と処理チャンバー1との間に断熱材が設けられる。
【0041】
また、エネルギー印加機構5は、図2に示すように、媒体エレメント41の数に等しい数の通電用電源51から構成されている。通電用電源51は、媒体エレメント41に交流又は直流の電流を通して発熱させ、媒体エレメント41を2200℃程度までの所定の高温に維持できるよう構成されている。そして、各通電用電源51には、制御部8が設けられている。制御部8は、各通電用電源51を制御し、各媒体エレメント41の通電電流を各々独立して制御する。この結果、各媒体エレメント41の温度が独立して制御されるようになっている。
【0042】
尚、通電用電源51を媒体エレメント41と同数とすることは必須の条件ではない。例えば、複数の媒体エレメント41を並列につないで各回路に独立して制御可能な制御素子(例えば可変抵抗)を設けるようにしてもよく、この場合には、通電用電源51の数は媒体エレメント41の数より少なくなる(例えば1つ)。
【0043】
本実施形態の装置のさらに別の特徴点は、ガス導入系3が、処理チャンバー1内に設けられた複数のガス導入ヘッド31を介して処理チャンバー1内に原料ガスを導入するものであり、各ガス導入ヘッド31からの原料ガスの導入量を独立して制御できるものである点である。この点を、再び、図1、図2及び図3を使用して説明する。
【0044】
まず、図1又は図2に示すように、ガス導入系3は、処理チャンバー1内に設けられたガス導入ヘッド31と、処理チャンバー1外に設けられたガスボンベ32とガス導入ヘッド31とを繋ぐ配管33と、配管33上に設けられたバルブ34、流量調整器35及び不図示のフィルタ等とから構成されている。そして、図2に示すように、ガス導入ヘッド31は、媒体エレメント41の数に等しい数だけ設けられている。
【0045】
より具体的に説明すると、図2及び図3に示すように、各ガス導入ヘッド31は、垂直な姿勢の細長い管である。各ガス導入ヘッド31は、U字状である各媒体エレメント41のそのU字の内部に位置している。つまり、各ガス導入ヘッド31は、各媒体エレメント41が設けられた垂直な面と同じ面に沿って設けられている。従って、各媒体エレメント41と同様、各ガス導入ヘッド31は、基板ホルダー2に保持された基板9に対して平行である。尚、各ガス導入ヘッド31は、高融点の金属又は石英等で形成されている。
【0046】
そして、図3に示すように、各ガス導入ヘッド31は、基板9を臨む側面にガス吹き出し孔311を均等に有している。各ガス吹き出し孔311の直径は3〜15mm程度、間隔は10〜50mm程度である。また、図2に示すように、ガス導入系3の配管33は、ガス導入ヘッド31の数だけ分岐しており、その先端にガス導入ヘッド31が連結されている。そして、分岐した後の配管33のそれぞれに流量調整器35が設けられている。そして、制御部8は、各流量調整器35を独立して制御できるうようになっている。つまり、各ガス導入ヘッド31から処理チャンバー1内に導入される原料ガスの流量が、独立して制御できるようになっている。尚、本明細書おいて、「原料ガス」とは、成膜のために導入されるガスの総称であり、成膜に直接寄与するガスのみならず、キャリアガスやバッファガスのような成膜には直接関与しないガスも含まれる。
【0047】
本実施形態の装置のさらに別の特徴点は、このようなガス導入ヘッド31が、媒体エレメント41とともにユニット化されている点である。即ち、各ガス導入ヘッド31は、そのガス導入ヘッド31が内側に位置する媒体エレメント41を保持する保持板44に保持されている。具体的には、前述した一対の導入保持体42の丁度真ん中の位置で保持板44を気密に貫通するようにしてヘッド保持具312が設けられている。ヘッド保持具312は、内部が中空であり、ガス導入系3の配管33とガス導入ヘッド31とを気密に繋いでいる。このように、本実施形態では、一つの媒体エレメント41と一つのガス導入ヘッド31とが一つの保持板44に保持されており、これらが一つのユニット(以下、媒体ヘッドユニット)を構成している。
【0048】
本実施形態のさらに別の大きな特徴点は、処理チャンバー1内に同時に二枚の基板9が保持できるようになっていることであり、高温媒体4及びガス導入ヘッド31が設けられた面に対して面対称になるように二枚の基板9が保持できるようになっている点である。この点を、再び図1及び図2を使用して説明する。
【0049】
図1に示すように、前述した基板ホルダー2は、処理チャンバー1内に二つ設けられている。二つの基板ホルダー2は、その基板保持面が垂直で且つ平行に向かい合うように設けられている。そして、前述した高温媒体4及びガス導入ヘッド31が設けられた平面は、二つの基板ホルダー2の基板保持面に対して平行で且つ等距離となっている。尚、ガス導入ヘッド31のガス吹き出し孔311は、図3に示すように両側面に設けられている。ガス吹き出し孔311の大きさ、数及び間隔は、双方の側面で同一である。但し、ガス導入ヘッド31内での急激なガス圧の低下を防止するため、図3に示すように上下方向に互い違いに設けられている。
【0050】
また、二つの基板ホルダー2の基板保持面のそれぞれに正しく基板9が保持された状態では、図2に示すように、二つの基板9の中心軸(基板9の中心を貫く基板9に垂直な仮想軸)が一致するようになっている。そして、この一致した中心軸に対して、高温媒体4及びガス導入ヘッド31が配設された領域の中心点もほぼ一致するようになっている。「高温媒体4及びガス導入ヘッド31が配設された領域の中心点」とは、図2に示すように、高温媒体4の高さ(媒体エレメント41の高さ)hの中央と、高温媒体4の幅(複数の媒体エレメント41の全体の幅)wの中央とを満足する点である。
【0051】
上記構成に係る本実施形態の化学蒸着装置の動作について、以下に説明する。まず、基板9は不図示の予備真空チャンバー内に配置されており、この予備真空チャンバーと処理チャンバー1とが同程度の真空圧力まで排気されている状態で、不図示のゲートバルブが開き、不図示の搬送ロボットによって基板9が処理チャンバー1内に搬入される。そして、基板9は、一方の基板ホルダー2によって保持される。同様に、二枚目の基板9が搬入され、他方の基板ホルダー2に保持される。この結果、二枚の基板9が垂直、平行かつ同軸上に保持された状態となる。尚、二枚の基板9は、それぞれ静電吸着機構6により基板ホルダー2に静電吸着される。
【0052】
不図示のゲートバルブが閉じた後、ガス導入系3が動作して原料ガスが所定の流量で処理チャンバー1内に導入される。即ち、原料ガスは、各ガス導入ヘッド31のガス吹き出し孔311から吹き出し、処理チャンバー1内の空間に拡散する。この際、制御部8は、ガス導入系3に設けられた流量調整器35を制御し、各ガス導入ヘッド31からの原料ガスの導入量を独立して制御する。また、処理チャンバー1に設けられた排気系11は、排気速度調整器を備えており、処理チャンバー1内が所定の真空圧力になるように排気速度を制御する。
【0053】
そして、高温媒体4を構成する各媒体エレメント41は、エネルギー印加機構5の各通電用電源51によって予め通電されてジュール発熱しており、所定の高温に維持されている。尚、制御部8は、各媒体エレメント41が所定の高温に維持されるよう、各通電用電源51を独立して制御する。各ガス導入ヘッド31から吹き出して拡散した原料ガスは、媒体エレメント41の表面に接触するか又は表面付近を通過する際に反応が生じる。この反応による生成物が基板9の表面に到達し、この到達が重なると、経時的に薄膜に成長する。この際、基板ホルダー2に設けられた基板温度制御機構23により基板9の温度が制御される。
【0054】
このような状態を所定時間維持し、所定の厚さで薄膜が作成されると、ガス導入系3及びエネルギー印加機構5の動作を止める。そして、排気系11によって処理チャンバー1内を再度排気した後、不図示のゲートバルブを開けて不図示の搬送ロボットが基板9を一枚ずつ処理チャンバー1から取り出す。
【0055】
成膜の具体例について、a−Si膜を作成する場合を例にして説明する。原料ガスとしては、モノシランを流量1〜20sccm(sccmは、0℃一気圧での1分あたりの流量(立方センチメートル))、水素ガスを流量1〜100sccmの程度の流量で混合して導入する。高温媒体4の温度を1500〜2200℃、基板9の温度を250〜350℃、処理チャンバー1内の圧力を0.5〜40Paに維持して蒸着を行うと、100〜1000オングスローム/分程度の成膜速度でa−Si膜の作成が行える。このようなa−Si膜は、太陽電池用等として効果的に利用できる。
【0056】
次に、上述した本実施形態の装置の動作における薄膜作成のメカニズムの一例について説明する。高温媒体4を利用することは、前述したように成膜時の基板9の温度を低くするためであるが、何故基板9の温度を低くしても成膜が行えるかについては、必ずしも明らかではない。一つのモデルとして、以下のような表面反応が生じていることが考えられる。
【0057】
図4は、本実施形態の装置における成膜の一つの考えられるモデルについて説明する概略図である。上記a−Si膜を作成する場合を例にとると、導入されたモノシランガスが、所定の高温に維持された高温媒体4の表面に接触した際、又は、表面付近を通過する際、図4に示すように、水素分子の吸着解離反応に類似したモノシランの接触分解反応が生じ、SiH3*及びH*という分解活性種が生成される。詳細なメカニズムは明かではないが、モノシランを構成する一つの水素が高温媒体4の表面に吸着することで、その水素とシリコンの結合が弱まってモノシランが分解し、タングステン表面への吸着が熱によって解かれてSiH3*及びH*(又は、SiH2*及び2H*)という分解活性種が生成されると考えられる。水素にも同様な接触分解反応が生じ、2H*という分解活性種が生成される。そして、これらの生成物が基板9に到達してa−Si膜が堆積することになる。尚、このようにして堆積したa−Si膜は、水素を含んだ状態のアモルファス膜である。
【0058】
また、高温媒体4の作用については、Jan. J. Appl. Pys. Vol.37(1998)pp.3175-3187 の論文で詳細な議論がされている。この論文では、高温媒体4の温度をパラメータにした成膜速度の傾きが高温媒体4の材料によって異なることから、高温媒体4の表面で生じているのは単なる熱分解ではなく触媒作用であるとしている(同 Fig.7参照)。このことから、この種のCVD法を触媒化学蒸着(cat−CVD)法と呼んでいる。
【0059】
さらに、本実施形態の装置におけるような成膜方法は、高温媒体4の表面での熱電子の作用によるものとの考え方もできる。つまり、高温に維持された高温媒体4の表面からは、仕事関数以上のエネルギーを持った熱電子が原料ガスに作用し、この結果、原料ガスが分解したり活性化したりするとの考え方を採ることができる。
【0060】
本実施形態の装置における成膜のメカニズムについては、上記いずれの考え方も採り得る。また、これらの現象が同時に生じているとの考え方を採ることもできる。いずれの考え方を採るにしても、高温媒体4の表面又は表面付近では、分解や活性化等の変化が原料ガスについて生じており、この変化による生成物を利用して成膜が行われている。
【0061】
次に、本実施形態の装置の技術的意義について説明する。まず、基板ホルダー2が基板9を垂直に保持するものであり、高温媒体4が垂直な面であってかつ基板9と平行な平面に沿って延びる形状である点は、前述した垂れに起因する問題を効果的に解消する技術的意義がある。即ち、図2及び図3に示すようにU字状の媒体エレメント41からなる高温媒体4が通電により発熱し、熱膨張した場合でも、熱膨張は主に垂直方向に働き、水平方向にはあまり働かない。
【0062】
従って、熱膨張によって各媒体エレメント41は下方に垂れるものの、基板9と高温媒体4との距離が本質的に変わってしまうことはない。このため、高温媒体4の表面又は表面付近で生成された生成物の基板9への到達確率が局所的に変わってしまったり、高温媒体4から基板9への輻射熱が局所的に変わってしまったりすることがない。このようなことから、空間的に均一(即ち基板9の面内で均一)な成膜ができるとともに、時間的に均一な成膜(即ち再現性の良い成膜)が行える。
【0063】
特に、液晶ディスプレイ用の基板は、大型化の傾向が顕著である。例えば、50cm×50cm以上の大きさの基板に対して実用的な成膜を行うことは、従来のような水平配置の高温媒体4では垂れによって本質的に不可能である。このような大型の基板9に対しては、本実施形態のような垂直配置の高温媒体4によって初めて実用的な成膜が可能になる。尚、各媒体エレメント41のU字の下側の曲がった部分が若干下方に変位するが、この部分は基板9の下縁から下方にはみ出した部分であり、基板9の表面に与える影響は少ない。従って、この部分が下方に変位しても、成膜を不均一にする問題は殆ど無い。
【0064】
また、高温媒体4が設けられた平面と基板9の表面とが平行である構成は、基板9の表面の各点への生成物の到達確率を均一にするとともに、基板9の表面の各点が受ける高温媒体4からの輻射熱を均一にする技術的意義がある。尚、「高温媒体が垂直な平面に沿って設けられている」という場合、水平に延びる複数のワイヤー状の部材をある垂直な面に沿って配置したような構成も含まれる。この場合、各媒体エレメント41は熱膨張により真ん中部分が垂れるが、その場合でも、その垂れの量が各媒体エレメント41で均一であり、その垂れの量が基板9への生成物の到達確率や熱輻射量の不均一にするほどで無ければ問題無い。また、そのような垂れが時間的に(処理のたびに)安定して生じていれば問題無い。しかし、生成物や熱輻射量を不均一にするほどの垂れであったり、時間的に不安定な垂れである場合、成膜が不均一になったり再現性が低下したりする問題が生ずる恐れがある。
【0065】
このような点を考慮すると、「高温媒体が垂直な平面に沿って設けられている」という条件とともに、「水平方向に延びる成分よりも垂直方向に延びる成分が大きい」という条件が成立することが好ましい。最も単純な例について説明すると、高温媒体4が一本のワイヤーから成る場合、そのワイヤーは、垂直な平面内で斜め45度の角度よりも垂直に近い角度で配置されることが好ましい。また、別の例としては、高温媒体4がメッシュ状であり、それが垂直な平面に沿って配置される場合、水平方向に延びるワイヤーの総延長よりも、垂直方向に延びる総延長の方が長いことが好ましい。
【0066】
また、「高温媒体が垂直な平面に沿って設けられている」とともに「水平方向に延びる成分よりも垂直方向に延びる成分が大きい」ということを考慮すると、各媒体エレメント41が垂直に延びる直線状の一本のワイヤーから成る構成とし、これらを垂直な平面に沿って配設し、それらの下端を固定しないで自由に垂れさせる構成が最も好ましいように思える。しかし、このようにすると、媒体エレメント41が通電により発熱するものである場合、問題を生ずる。即ち、通電するためには、両端に電流導入用の部材を取り付けなければならない。従って、下端を固定しない構成は困難である。このような点を考慮すると、上述したU字状が最もシンプルで電流導入が容易であり、また垂れによる影響も非常に少ない。
【0067】
尚、U字状のワイヤーの場合、両端を下側にして電流導入部を取り付け、曲がった部分を上側にしてフックなどで引っかける媒体エレメント41の構成が考えられる。しかし、この場合、下側が固定されているので、熱膨張によってワイヤーが水平方向に膨らんでしまう。従って、両端を上側にして配置する構成が最適である。尚、U字以外の形状としては、U字を横につないだ形状、例えば丸みを帯びたw状やm状などでもよい。
【0068】
次に、高温媒体4が複数の媒体エレメント41から成り、それらが別々に取り付けられているという構成は、高温媒体4の交換から生ずるコストを低減させる技術的意義を有する。即ち、ワイヤー状から成る媒体エレメント41の断線のような故障が生じた場合、その故障が生じた媒体エレメント41を交換すれば足り、全体を交換する必要がない。このため、交換によって生じる材料コストが低減される。さらに、ワイヤーから成る媒体エレメント41を複数本使用すると、1本のワイヤーから成る高温媒体4に比べ、各媒体エレメント41の長さは短くなる。このため、成形や架設の際に加わる張力が小さくなり、断線の恐れが低下する。
【0069】
尚、複数の媒体エレメント41が各々別々に処理チャンバー1から取り出して交換可能である構成は、交換作業を短時間にする技術的意義がある。即ち、複数の媒体エレメント41を同時に処理チャンバー1から取り出して処理チャンバー1外で分解して交換するような構成であると、取り出し作業が大がかりになり、時間がかかる。本実施形態のように、断線等の故障のある媒体エレメント41のみ処理チャンバー1から取り出せる構成だと、交換作業が容易で短時間に済む。
【0070】
次に、各媒体エレメント41に対する印加エネルギーが独立して制御される構成は、基板9の表面への成膜の不均一性を補償する技術的意義がある。即ち、図2に示すように三つの媒体エレメント41が使用されている場合、中央の媒体エレメント41に向き合う基板9の中央部分は、中央の媒体エレメント41のみならずその両側の媒体エレメント41によっても輻射熱を少なからず受ける。一方、両側の媒体エレメント41に向き合う基板9の両側部分は、その向き合う媒体エレメント41や中央の媒体エレメント41からは多く輻射熱を受けるものの、反対側の媒体エレメント41から受ける輻射熱は少ない。このため、この両側の部分で基板9の温度が低くなり易い。このような場合でも、両側の媒体エレメント41への通電電流を中央の媒体エレメント41に比べて大きくしてやると、基板9の両側が受け取る輻射熱が相対的に多くなり、基板9の温度分布を均一にすることができる。この結果、成膜速度や膜質もまた均一にすることができる。
【0071】
次に、基板ホルダー2が処理チャンバー1内に二つ設けられており、二枚の基板9を同時に処理できる構成であることは、生産性の増大に直結する。と同時に、従来無駄になっていた原料ガスの多くが二枚目の基板9への成膜に利用されるので、原料ガスの利用効率が向上するという技術的意義がある。さらに、処理チャンバー1の内面等への膜堆積が少なくなるので、クリーニング頻度が低くなる。この点で、さらに生産性の向上が期待できる。また、高温媒体4とガス導入ヘッド31とが同一平面上に設けられており、その平面を中心にして両側に面対称な状態で基板9が設けられる構成は、両側の基板9に対して均等に生成物を供給し、また熱輻射の影響も均等にすることで、両側の基板9がバランス良く成膜される技術的意義がある。
【0072】
尚、上述した実施形態では、二枚の基板9が同時に保持されて同時に成膜されたが、各基板保持面で同時に二枚以上の基板9が保持される構成とし、同時に4枚以上の基板9を成膜できるようにすると、さらに生産性は向上する。この場合でも、垂直で互いに平行に向かい合う一対の基板保持面は平坦面であり、そのような平坦面に沿って面一に複数の基板9が保持されるようにする。尚、基板ホルダー2が複数設けられる構成は必須のものではない。即ち、垂直で平行に向かい合う一対の基板保持面を有するように一つの基板ホルダーを構成してもよい。
【0073】
次に、ガス導入ヘッド31が複数設けられており、それらから導入されるガスの量が独立して制御される構成は、上述した媒体エレメント41の場合と同様、基板9の表面への成膜の不均一性を補償する技術的意義を有する。即ち、図2に示す中央の媒体エレメント41に向き合う基板9の中央部分は、中央の媒体エレメント41のみならずその両側の媒体エレメント41からも生成物の供給を少なからず受ける。一方、両側の媒体エレメント41に向き合う基板9の両側部分は、その向き合う媒体エレメント41や中央の媒体エレメント41からは多く生成物が供給されるものの、反対側の媒体エレメント41からの生成物の供給は少ない。このため、この両側の部分で成膜速度が低くなり易い。このような場合でも、両側のガス導入ヘッド31から導入される原料ガスの量を多くしてやると、各々向かい合う媒体エレメント41を経由して基板9の両側部分に供給される生成物の量が相対的に多くなり、生成物の到達量の分布が均一になる。この結果、成膜速度や膜質もまた均一にすることができる。
【0074】
次に、一つの媒体エレメント41と一つのガス導入ヘッド31が媒体ヘッドユニットとしてユニット化されている構成は、装置の構造を簡略化し、部品の交換やメンテナンス等をし易くする技術的意義がある。上述したように、本実施形態では、媒体エレメント41が複数別々に取り付けられているとともに、ガス導入ヘッド31も複数設けられている。そして、これら複数の媒体エレメント41と複数のガス導入ヘッド31とを基板9に対して均等に配置する必要がある。つまり、媒体エレメント41の数とガス導入ヘッド31の数が同じで基板9と平行な面内に等間隔に配置する必要がある。このような点を考慮すると、媒体エレメント41とガス導入ヘッド31とを一つのユニットにし、これを等間隔で並べる構成が構造的にシンプルとなるので最適である。尚、媒体エレメント41とガス導入ヘッド31とが同数であることは必須の条件ではない。一つの媒体エレメント41に対して二つや三つのガス導入ヘッド31を設けてもよく、またはその逆でもよい。
【0075】
また、媒体エレメント41は前述したように断線などの場合には交換する必要がある。そして、ガス導入ヘッド31も、ガス吹き出し孔311の目詰まりなど場合にはメンテナンス作業を行う必要がある。このような交換やメンテナンスの際、媒体エレメント41とガス導入ヘッド31が別々に設けられていると、処理チャンバー1からの取り出しや処理チャンバー1内への装着作業がしにくくなる。特に、媒体エレメント41とガス導入ヘッド31とが同一平面上に設けられる構成では、両者が別々に取り付けられていると、構造的に複雑で、交換やメンテナンスの作業がしにくい。このようなことから、媒体エレメント41とガス導入ヘッド31を一つのユニットにして交換可能にする構造が好ましい。特に、媒体エレメント41をU字状にし、そのU字の内側にガス導入ヘッド31を配置する構成は、最も構造的にシンプルでメンテナンス性に優れている。
【0076】
尚、上記説明では、媒体エレメント41は直線状のワイヤーを曲げて成形されたものであった。しかしながら、コイル状のものをU字状にしてもよく、ワイヤー状以外の例えばロッド状のものを媒体エレメント41して使用してもよい。また、「フィラメント」という用語は、通電されるワイヤーというような意味である解されるので、フィラメントと呼ばれるものもワイヤーと同様に媒体エレメント41を構成し得る。
【0077】
また、媒体エレメント41が通電により発熱するものであることは、媒体エレメント41を所定の高温に維持するのが容易にできるという技術的意義を有するが、これに限られるものではない。例えば、ワイヤーにレーザー等の光を照射して高温に維持する構成も考えられる。
【0078】
尚、図2及び図3に示すように、本実施形態の装置では、三つの媒体エレメント41と三つのガス導入ヘッド31が配置されているが、基板9が大きくなった場合、さらにこれ以上の数を配置する場合がある。また、本実施形態では、方形の基板9を処理することが想定されているため、媒体エレメント41とガス導入ヘッド31とが配置された領域の形状は方形であるが、基板9が円形である場合、この領域を変形にすることがあり得る。つまり、中央の媒体エレメント41とガス導入ヘッド31が最も長く、外側になるに従い媒体エレメント41とガス導入ヘッド31が徐々に短くなる構成である。
【0079】
また、前述した例では、a−Si膜を採り上げたが、窒化シリコン膜、ポリシリコン膜等、任意の種類の薄膜の作成に本願発明の化学蒸着装置は使用可能である。さらに、成膜の対象物である基板9には、半導体デバイスを製作する際のウェーハ、液晶ディスプレイを製作する際の液晶基板等が該当し得る。
【0080】
上述した化学蒸着装置によれば、基板ホルダーは基板を垂直に保持するものであり、高温媒体が、垂直な面であって前記基板ホルダーに保持された基板と平行な平面に沿って設けられているので、高温媒体の垂れに起因した空間的又は時間的な成膜の不均一性が抑制される。また、基板の表面の各点への生成物の到達確率や輻射熱が均一になるので、この点でも成膜の均一性が向上する。そして、高温媒体が、別々に取り付けられる複数の媒体エレメントから成るので、故障等の場合の交換コストが安くでき、また交換の際の作業も容易で短時間に済むという効果がある。また、上述した化学蒸着装置によれば、基板ホルダーが基板を垂直に保持するものであり、高温媒体が、垂直な面であって基板ホルダーに保持された基板と平行な平面に沿って設けられているとともに、水平に延びる成分よりも垂直に延びる成分の方が多い形状であるので、高温媒体の垂れに起因した空間的又は時間的な成膜の不均一性が抑制される。また、基板の表面の各点への生成物の到達確率や輻射熱が均一になるので、この点でも成膜の均一性が向上する。また、上述した化学蒸着装置によれば、複数の媒体エレメントが各々別々に処理チャンバー1から取り出して交換可能なので、交換作業が短時間に終了するという効果がある。また、上述した化学蒸着装置によれば、複数の媒体エレメントに対して各々独立して印加エネルギーを制御できるので、膜厚や膜質等の不均一性を補償してさらに均一な成膜を行うことができるという効果がある。また、上述した化学蒸着装置によれば、媒体エレメントがU字状のワイヤーからなるので、ある限られた長さのワイヤーで垂直な成分を多く取ることができ、垂れに起因した問題をさらに低減させることができるという効果がある。また、上述した化学蒸着装置によれば、媒体エレメントが、端部が上側に位置したU字状のワイヤーで構成されているので、通電によりジュール発熱させる構成の場合でも、水平方向に膨らむ問題は発生しないという効果がある。また、上述した化学蒸着装置によれば、複数の基板に対して同時に成膜を行うことができるので、生産性が向上する。また、原料ガスの利用効率が向上するので原料コストも削減でき、同時に処理チャンバー内のクリーニング頻度も少なくすることができるという効果がある。また、上述した化学蒸着装置によれば、処理チャンバー内に原料ガスを導入するガス導入ヘッドが、高温媒体が延びる面と同じ面に沿って設けられているので、両側の基板に対して均一に原料ガスを供給することができ、バランス良く成膜できるという効果がある。また、上述した化学蒸着装置によれば、ガス導入系が、処理チャンバー内に設けられた複数のガス導入ヘッドを介して処理チャンバー内に原料ガスを導入するものであり、各ガス導入ヘッドからの原料ガスの導入量が独立して制御されるので、膜厚や膜質等の不均一性を補償して均一な成膜を行うことができるという効果がある。また、上述した化学蒸着装置によれば、複数のガス導入ヘッドが各々別々に処理チャンバーから取り出すことが可能な状態で設けられているので、ガス導入ヘッドの交換やメンテナンスの作業が容易で短時間に済むという効果がある。また、上述した化学蒸着装置によれば、高温媒体を構成する一つの媒体エレメントと、複数のガス導入ヘッドの一つが、一つの媒体ヘッドユニットを構成しており、この媒体ヘッドユニットが交換可能に複数設けられているので、装置の構造がシンプルになり、媒体エレメントやガス導入ヘッドの交換やメンテナンスが容易になるという効果がある。また、上述した化学蒸着装置によれば、U字状の媒体エレメントの内側に長い管状のガス導入ヘッドが位置した構造なので、さらに構造がシンプルになり、交換やメンテナンスがさらに容易にであるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本願発明の第一の実施形態の化学蒸着装置の正面概略図である。
【図2】図1に示す高温媒体4の構成を説明する斜視概略図である。
【図3】図2をさらに拡大して示した詳細図である。
【図4】本実施形態の装置における成膜の一つの考えられるモデルについて説明する概略図である。
【図5】従来の化学蒸着装置の構成を示した正面概略図である。
【図6】図5の装置に使用された高温媒体の構成を示す斜視概略図である。
【符号の説明】
【0082】
1 処理チャンバー
11 排気系
2 基板ホルダー
3 ガス導入系
31 ガス導入ヘッド
311 ガス吹き出し孔
35 流量調整器
4 高温媒体
41 媒体エレメント
5 エネルギー印加機構
51 通電用電源
8 制御部
9 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を減圧状態に維持することが可能な処理チャンバーと、処理チャンバー内の所定の位置に基板を保持する基板ホルダーと、所定の原料ガスを処理チャンバーに導入するガス導入系と、ガス導入系より導入された原料ガスが表面に接触するか表面付近を通過するようにして処理チャンバー内に設けられた高温媒体と、高温媒体にエネルギーを印加して高温媒体を所定の高温に維持するエネルギー印加機構とを備えており、原料ガスが高温媒体の表面に接触するか又は表面付近を通過することにより生成された生成物が基板に到達することで基板の表面に所定の薄膜が作成される化学蒸着装置であって、
前記高温媒体は、前記基板ホルダーに保持された基板と平行な平面に沿って設置されており、前記ガス導入系は、処理チャンバー内に設けられたガス導入ヘッドを介して処理チャンバー内に原料ガスを導入するものであり、該ガス導入ヘッドは、前記高温媒体に沿って配置されていることを特徴とする化学蒸着装置。
【請求項2】
前記基板ホルダーは基板を垂直に保持するものであり、前記高温媒体は、水平に延びる成分よりも垂直に延びる成分の方が多い形状であることを特徴とする請求項1に記載の化学蒸着装置。
【請求項3】
前記高温媒体は、別々に取り付けられた複数の媒体エレメントから成るものであることを特徴とする請求項1に記載の化学蒸着装置。
【請求項4】
前記基板ホルダーは基板を垂直に保持するものであり、前記媒体エレメントは、水平に延びる成分よりも垂直に延びる成分の方が多い形状であることを特徴とする請求項3に記載の化学蒸着装置。
【請求項5】
前記各媒体エレメントは、各々別々に処理チャンバーから取り出して交換可能であることを特徴とする請求項3又は4に記載の化学蒸着装置。
【請求項6】
前記エネルギー印加機構は、前記高温媒体を構成する複数の媒体エレメントに対して各々独立して印加エネルギーを制御することが可能であることを特徴とする請求項3乃至6のいずれか1項に記載の化学蒸着装置。
【請求項7】
前記高温媒体は、複数本のワイヤー状の媒体エレメントから成るものであり、このワイヤー状の媒体エレメントの各々は、U字状の形状であることを特徴とする請求項4に記載の化学蒸着装置。
【請求項8】
前記ワイヤー状の媒体エレメントは、端部が上側に位置したU字状であることを特徴とする請求項7に記載の化学蒸着装置。
【請求項9】
前記ガス導入ヘッドは、前記高温媒体の設置面と同じ面に沿って設けられていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の化学蒸着装置。
【請求項10】
前記基板ホルダーが、前記高温媒体を挟んで対称の位置にそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項9に記載の化学蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−108416(P2009−108416A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308917(P2008−308917)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【分割の表示】特願平11−108970の分割
【原出願日】平成11年4月16日(1999.4.16)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】