半導体ウェーハの洗浄方法
【課題】半導体ウェーハの表面に付着するパーティクルがより微細なものとなっても、それらを効果的に除去することができる半導体ウェーハの洗浄方法を提供する。
【解決手段】洗浄液による半導体ウェーハの洗浄方法において、
前記洗浄液として、水より低表面張力、且つ水より低粘性を有するものを用い、前記半導体ウェーハの表面の温度を30℃〜50℃とした状態において、前記洗浄液で洗浄する。前記半導体ウェーハの裏面にウェーハの温度を上昇させるための流体を噴き付けることによってウェーハの温度を上昇させる。
【解決手段】洗浄液による半導体ウェーハの洗浄方法において、
前記洗浄液として、水より低表面張力、且つ水より低粘性を有するものを用い、前記半導体ウェーハの表面の温度を30℃〜50℃とした状態において、前記洗浄液で洗浄する。前記半導体ウェーハの裏面にウェーハの温度を上昇させるための流体を噴き付けることによってウェーハの温度を上昇させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハの洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造技術の進歩によってデバイスパターンが微細化し続けるにつれ、より微細な汚染物としてのパーティクルを半導体ウェーハ上から除去できる洗浄技術が望まれている。
【0003】
従来、枚葉洗浄装置として用いられる2流体ジェット洗浄装置は以下の様に構成されていた。即ち、乾燥空気または窒素等の気体と、純水等の液体と、を混合してミスト化された水滴(液滴ミスト)を、回転させた半導体ウェーハの表面に噴射する。これと共に、半導体ウェーハの中心部から外周部の方向にスキャンする。これにより、半導体ウェーハ上のパーティクルを除去し、洗浄する。
【0004】
また、この2流体ジェット洗浄装置を応用して、APM(アンモニアと過酸化水素水と水の混合液など)を使用し、リフトオフ作用によりパーティクルを除去する技術も知られている(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、上述した2流体ジェット洗浄装置を用いても、半導体ウェーハ表面に付着するパーティクルが微細なものの場合には、この様な微細なパーティクル(例えば、高さ70nm以下のもの)は除去することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−335671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
半導体ウェーハの表面に付着する微細なパーティクルを効果的に除去することができる半導体ウェーハの洗浄方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明の一態様によれば、洗浄液による半導体ウェーハの洗浄方法において、
前記洗浄液として、水より低表面張力、且つ水より低粘性を有するものを用い、前記半導体ウェーハの表面の温度を30℃〜50℃とした状態において、前記洗浄液で洗浄する事を特徴とする半導体ウェーハの洗浄方法が提供される。
【0009】
また、本願発明の他の一態様によれば、洗浄液による半導体ウェーハの洗浄方法において、前記洗浄液として、水より低表面張力、且つ水より高い沸点を有するものを用い、前記半導体ウェーハの表面の温度を80℃以上とした状態において、前記洗浄液で洗浄する事を特徴とする半導体ウェーハの洗浄方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
半導体ウェーハの表面に付着する微細なパーティクルを効果的に除去することができる半導体ウェーハの洗浄方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】半導体ウェーハ上の水の膜厚の測定図である。
【図2】水滴によりパーティクルに力が加えられる様子を示す模式図である。
【図3】純水を用いた2流体ジェット洗浄による除粒子性能を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る2流体ジェット洗浄装置の概念図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る半導体ウェーハの表面状態を示す模式図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る希釈IPA水溶液を用いた2流体ジェット洗浄による除粒子性能を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る半導体ウェーハの表面状態を示す模式図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る半導体ウェーハの表面状態を示す模式図である。
【図9】本発明の第4の実施形態に係る半導体ウェーハの表面状態を示す模式図である。
【図10】本発明の第5の実施形態に係る半導体ウェーハの洗浄装置の主要部を概略的に表す概念図である。
【図11】本発明の第5の実施形態に係る2流体ジェットノズルの断面図である。
【図12】本発明の第5の実施形態に係る半導体ウェーハの表面状態を示す模式図である。
【図13】本発明の第5の実施形態の第1の変形例に係る半導体ウェーハの洗浄装置の主要部の概略的に表す概念図である。
【図14】本発明の第7の実施形態に係る半導体ウェーハの洗浄装置の主要部を概略的に表す概念図である。
【図15】本発明の第8の実施形態に係る半導体ウェーハの洗浄装置の主要部を概略的に表す概念図である。
【図16】半導体ウェーハ上における水のスタグナントレイヤーとパーティクルを表す概略図である。
【図17】半導体ウェーハ上における希釈IPA水溶液のスタグナントレイヤーとパーティクルを表す概略図である。
【図18】本発明の第9の実施形態に係る希釈IPA水溶液にゼータ電位を制御する添加剤を加えた薬液のスタグナントレイヤーとパーティクルの様子を表す概略図である。
【図19】本発明の第9の実施形態に係るゼータ電位を制御した場合のパーティクルの挙動について表す概略図である。
【図20】本発明の第9の実施形態に係るアルカリ性の薬液を添加してゼータ電位を制御した洗浄液を用いて2流体ジェット洗浄を行った場合の除粒子性能を示す図である。
【図21】本発明の実施形態に係る半導体ウェーハへ薬液を吐出するノズルの軌跡を表す概略図である。
【図22】本発明の第10の実施形態に係る半導体ウェーハの洗浄装置の主要部を概略的に表す概念図である。
【図23】本発明の第10の実施形態に係るSiNのパーティクルのPREを表したグラフである。
【図24】本発明の第11の実施形態に係る半導体ウェーハの洗浄装置の主要部を概略的に表す概念図である。
【図25】本発明の第11の実施形態に係る洗浄液の温度と洗浄液の粘性との関係を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態の説明に先立ち、発明者らが本発明をなすに至った経緯について説明
する。
【0013】
発明者らは、背景技術の項で述べた2流体ジェット洗浄装置を用いても微細なパーティクルを除去できないという現象を解析するために、各種の実験を行い、その実験結果を分析した。
【0014】
発明者らは、半導体ウェーハを水で濡らし、これを回転させて表面の水滴を遠心力で飛ばした後にも半導体ウェーハの表面が濡れている事に着目した。以下に、これに関する実験の結果について説明する。
【0015】
水で濡らした半導体ウェーハを回転させて半導体ウェーハ上の水の膜厚を測定した。図1は、半導体ウェーハを回転速度500rpmで回転させた場合の、経過時間と、半導体ウェーハ上の水の膜厚と、半導体ウェーハの中心からの距離との関係を示す。同図の横軸は半導体ウェーハの中心からの距離(mm)を表し、縦軸は水の膜厚(nm)を表す。水の膜厚は、光の干渉を利用して求めたものである。同図には、水の供給を止めた時からの時間として記載してある。つまり水の供給を停止してからは、ウェーハ上の水は回転によりウェーハから排出される。同図には5秒、10秒、20秒、30秒、40秒、及び50秒経過後の水の膜厚のグラフが示される。
【0016】
図中、半導体ウェーハの中心から約50mmの位置での膜厚を例に説明する。同位置での測定結果の差(10秒毎の取り除かれた水膜厚)を表記すると、10秒時の残膜から20秒時の残膜を差し引くと、約1500nm/10秒の水が排出されている。更に20秒時の残膜から30秒時の残膜を差し引くと、約1100nm/10秒の水が排出されている。30秒時の残膜から40秒時の残膜を差し引くと、約700nm/10秒の水が排出されている。最後の差分となる40秒時の残膜から50秒時の残膜を差し引くと、約640nm/10秒の水が排出されている。この結果から言えることは最初の30秒まではウェーハ上の水が1μm/10秒程度以上の高速で排出され、その後の20秒ではウェーハ上から取り除かれる水の速度は600〜700nm/10秒の乾燥速度で乾いていく。
【0017】
また、この結果から言えることは、水の供給を止めた後、乾燥ステップへの移行直後から数十秒は多量の水がウェーハから排出される乾燥条件になっており、乾燥後半では排出速度が遅くなる。この現象から最初のステップは動的な液体の流れ(水流層:遠心力等により自由に流れる水の層)を主体とした液体の回転排出乾燥ステップと言える。後半のステップは排出速度が低下したため、動的な排出が望めない表面からの蒸発乾燥ステップが主となる蒸発乾燥ステップと言える。
【0018】
同図から得られた結果から、最後の干渉縞から得られた約70nm以下の厚さとなった時には、半導体ウェーハ外に飛散する水滴は観察されないので、もはや水流は存在せず、殆どが半導体ウェーハ表面のいわゆる濡れの層(スタグナントレイヤー)となっていると考えられる。この濡れの層は、殆ど蒸発によってしか除去されない。つまり、動的な動き、例えば遠心力、二流体洗浄時の水滴形状変化などの動的な流れを感じ取れない約70nm以下の厚さの水の層(濡れの層:スタグナントレイヤー)が半導体ウェーハ上に残る事が分かった。この明細書では、以後この水の層をスタグナントレイヤー(stagnant layer)と呼ぶことにする。
【0019】
但し、上記の結果は、乾燥プロセス条件(回転数、加速度)、及び下地の膜種、及び立
体形状にも依存する。つまり、濡れた半導体ウェーハ上には常時約70nm以下のスタグナントレイヤーが存在する事が分かった。
【0020】
即ち、本発明者らは、遠心力によっても流れないスタグナントレイヤーなる水の層が存
在することを確認した。本発明者らは、このスタグナントレイヤーの存在下において、ス
タグナントレイヤーの上面を流れる水流による半導体ウェーハの洗浄は以下の様に行われ
ることを独自に知得した。
【0021】
図2に示す大中小の3つのパーティクル110〜112が半導体ウェーハ100上に存在すると仮定する。この場合の半導体ウェーハ100の2流体ジェットによる洗浄について説明する。即ち、図2は、2流体ジェット洗浄装置を用いて半導体ウェーハ100の表面に対して噴射された霧状の液滴ミストに含まれる水滴103により、パーティクル110〜112に力が加えられる様子を模式的に表す。同図(a)は、水滴103が衝突する直前の状態を表し、同図(b)は、水滴103が衝突した直後の状態を表す。
【0022】
図2(a)に示す様に、半導体ウェーハ100の表面には、大きさの異なるパーティクル110〜112、及びスタグナントレイヤー101が付着している。また、スタグナントレイヤー101の上方には、面方向に流れる水流層102が存在する。パーティクル110〜112は、下方がスタグナントレイヤー101に部分的に埋もれた状態にある。
【0023】
ここでは、一例として、パーティクル110の高さ(直径)は約90nm、パーティクル111の高さは約140nm、パーティクル112の高さは約180nm、スタグナントレイヤー101の厚さは約70nm、水流層102の厚さは約5μm、水滴103の半径は約20μmとする。
【0024】
なお、説明を明確化するため、水滴103の大きさはスタグナントレイヤー101等と比較して縮小して表している。
【0025】
続いて、図2(b)に示す様に、液滴ミストに含まれる水滴103が半導体ウェーハ100の表面上の水流層102に衝突すると、水滴103とその水流層102が混合変形して水滴衝突流体層120となる。本明細書においては、水滴103の衝突により変形した水流層102を、水滴衝突流体層120と称す。
【0026】
衝突により、水滴衝突流体層120には半導体ウェーハ100の外周方向に向かって同心円状に広がる複数の波が発生する。その波の力がパーティクル111,112に加わる。これにより、中径及び大径のパーティクル111,112が半導体ウェーハ100の表面から引き離され、除去される。
【0027】
しかし、大部分がスタグナントレイヤー101内に埋もれている小径のパーティクル110は、水滴衝突流体層120の力を有効に受けることができないので、除去されない。
【0028】
つまり、発明者らは次の事を独自に知得した。2流体ジェット洗浄装置では、スタグナントレイヤー101の存在によって、スタグナントレイヤー101の膜厚以下(例えば、約70nm以下)の高さの、スタグナントレイヤー101中に埋もれている微細なパーティクルを除去できない事が分かった。具体的には、図3に示すように、通常の純水(DIW)を用いた2流体ジェット洗浄では除粒子性能(PRE:particle removal efficiency)に微粒子径依存性があり、60nm以下の微細なパーティクルの除去が困難であることが明らかになった。また、PSL(ポリスチレンラテックス)粒子では粒子径が小さいほど除粒子性能が劣化する事が分かった。
【0029】
発明者らは、上述した独自の知得に基づいて本発明をなすに至った。以下に、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。これらの実施形態は、本発明を限定するものではない。
【0030】
まず、第1の実施形態から第4の実施形態は、洗浄液の性質と半導体ウェーハ100の表面の濡れ性とに着目し、スタグナントレイヤー101を薄くする様に、又は無くす様にするものである。
【0031】
なお、洗浄対象の半導体ウェーハは、その表面に凹凸を有するパターンが形成されているものとする。
【0032】
(第1の実施形態)
図4から図6を参照して本発明の第1の実施形態について説明する。本実施形態では、枚葉洗浄装置を用いた洗浄処理における洗浄液として、アルコール系やフッ素系など、水より低表面張力、且つ水より低粘性を有する薬液を水の代わりに用いる。例えば、アルコール系の薬液としてイソプロピルアルコール(IPA)など、フッ素系の薬液としてハイドロフルオロエーテル(HFE)などを用いて洗浄する。なお、上記薬液の濃度は高い方が好ましい。
【0033】
上記枚葉洗浄装置として、図4に示す2流体ジェット洗浄装置を用いた一例について説明する。この場合、2流体ジェット洗浄装置によって、上記洗浄液と気体の2流体を混合させた霧状の液滴ミスト307を半導体ウェーハ100の表面に対して噴射する。洗浄液の表面張力と粘性が水より低いので、図5に示す様に半導体ウェーハ100上に必然的に形成される洗浄液のスタグナントレイヤー101と水流層102の膜厚は、水を用いた場合の膜厚よりも薄くなる。
【0034】
これにより、液滴ミスト307に含まれる水滴103を半導体ウェーハ100の表面により近づけることができる。従って、水を用いた場合にはスタグナントレイヤー101内に埋もれていた微細なパーティクル(高さ70nm以下)が、薄くなったスタグナントレイヤー101から露出する。この様な状態下で半導体ウェーハ100の表面に到達した水滴103により、水滴衝突流体層が生じる。よって、図2を参照して説明した様に、水滴衝突流体層が有する波の力により、パーティクルが高効率に除去される。
【0035】
本実施形態の一例として、図6に希釈IPA水溶液(IPA希釈DIW)を用いた2流体ジェット洗浄による除粒子性能を示す。同図に示すように、図3に示した純水を用いた2流体ジェット洗浄と比較して、60nm以下の除粒子性能が向上することが分かる。
【0036】
本実施形態によれば、半導体ウェーハ100の表面の濡れ性が高い場合であっても、洗浄液の表面張力が低いので、洗浄液のスタグナントレイヤー101の厚さを薄く改善することができる。
【0037】
また、本実施形態によれば、上述の様に低表面張力の洗浄液が用いられるため、その洗浄液が凹凸を有するパターンの隅々にまで入り込みやすく、そこに存在するパーティクルを洗浄することができる。
【0038】
また、第1の実施形態の変形例として、例えば水を用いて洗浄する場合には、半導体ウェーハ100の表面を疎水性化できる界面活性剤を水に混合した洗浄液を用いる。これにより、洗浄液の表面張力を低くできる。従って、スタグナントレイヤー101が薄くなり、微細なパーティクルを効果的に除去することができる。
【0039】
(第2の実施形態)
次に、図7を参照して本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態は、表面張力が高い洗浄液(例えば水など)と、濡れ性が低い(撥水性)表面を持つ半導体ウェーハとを組み合わせる洗浄方法に関する。本明細書においては、洗浄液をはじく性質を撥水性と称す。
【0040】
本実施形態によれば、同図に示す様に濡れ性が低い(撥水性)半導体ウェーハ100の表面に洗浄液のスタグナントレイヤー101が形成されない。これにより、半導体ウェーハ100上の微細なパーティクルはスタグナントレイヤー101に埋もれることが無い。従って、上記表面張力が高い洗浄液が半導体ウェーハ100の面内を流れる力により、微細なパーティクルを効果的に除去することができる。
【0041】
(第3の実施形態)
次に、図8を参照して本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態は、濡れ性が低い(撥水性)表面を持つ半導体ウェーハを用いる点が第1の実施形態と異なる。即ち、本実施形態は、水より表面張力が低い洗浄液と、濡れ性が低い(撥水性)表面を持つ半導体ウェーハとを組み合わせる洗浄方法に関する。
【0042】
本実施形態によれば、同図に示す様に濡れ性が低い(撥水性)半導体ウェーハ100の表面に洗浄液のスタグナントレイヤー101が形成されない。従って、第2の実施形態と同様に半導体ウェーハ100上の微細なパーティクルを効果的に除去することができる。
【0043】
(第4の実施形態)
次に、図9を参照して本発明の第4の実施形態について説明する。本実施形態では、枚葉洗浄装置を用いて洗浄する際に、半導体ウェーハ100を撥水性化できる撥水化処理液を用いる点が第1の実施形態と異なる。
【0044】
即ち、撥水化処理液として、例えばシリコン樹脂コーティング剤を使用することで、予め半導体ウェーハ100を高撥水性にする。具体的には、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)又はテトラメチルシリルジエチルアミン(TMSDMA)等のシランカップリング剤を用いて高撥水性の表面に改質する。同図に示す様に、撥水性化された半導体ウェーハ100の表面は水で濡れないので、スタグナントレイヤー101が形成されない。従って、回転させた半導体ウェーハ100の表面に水を供給し、遠心力だけでパーティクル110〜112を除去することも可能である。
【0045】
また、枚葉洗浄装置として2流体ジェット洗浄装置を用いる場合、最初に半導体ウェーハ自身を高撥水性にすることで、洗浄に用いられる高圧の水が微細パターンの隙間に浸入しない。従って、微細パターンに横方向から加えられるダメージを減少させる事ができる。なお、パーティクルは微細パターンの隙間には殆ど存在しておらず、その多くは幅広なパターン部に存在している。
【0046】
また、本実施形態によれば、パーティクルを含めた表面がモノレイヤー(単分子層)で撥水性化される。この場合、パーティクルは構造を持っており、且つ微細パターンと比較して大きいため、水滴により物理的に力を受けて除去される。また、パーティクルが除去された後は、アッシング処理を行って撥水化コーティング膜を除去することが好ましい。
【0047】
次に、上述してきた実施形態とは異なる観点に基づいて前述のスタグナントレイヤー101を薄くして洗浄する方法について説明する。以下の実施形態では、気体の圧力によりスタグナントレイヤー101を薄くして、そこから露出させたパーティクルに物理的に力を加えて除去する事を基本的な原理とする。
【0048】
以下の実施形態では、半導体ウェーハ100の表面は親水性であるとする。
【0049】
(第5の実施形態)
図10〜図12を参照して本発明の第5の実施形態について説明する。図10は、本実施形態に係る半導体ウェーハの洗浄装置の主要部を概略的に表す概念図である。同図に示す様に、この半導体ウェーハの洗浄装置は、2流体ジェットノズル301と、気体ジェットノズル302とを備える、3流体ジェットノズル300を備える。
【0050】
2流体ジェットノズル301は、先端の噴射口301bから液体(例えば純水等)、及び気体(第2の気体;例えば乾燥空気、または窒素等)の二流体が混合されて生じる霧状の液滴ミスト307を、半導体ウェーハ100の表面に対してほぼ垂直に噴射するものである。また、気体ジェットノズル302は、先端の噴射口302aから気体308(第1の気体;例えば乾燥空気、または窒素等の不活性ガス等)を半導体ウェーハ100の表面に対して垂直からある角度を持って噴射するものである。
【0051】
この洗浄装置は2流体に加えてそれとは別の流体も用いるので、本明細書においては3流体ジェット洗浄装置と称す。
【0052】
気体308が供給されるガス導入口303は、3流体ジェットノズル300の上方に設けられる。ガス導入口303は、導入管301aの内部を貫通している気体通路を介して、気体ジェットノズル302の噴射口302aと通じる構造とされている。また、気体と液体とをそれぞれ別々に2流体ジェットノズル301に供給する導入口304も、3流体ジェットノズル300の上方に設けられる。この導入口304も、気体308が通過する気体通路とは隔離された、導入管301aの内部を貫通している気体通路と液体通路とを介して、2流体ジェットノズル301の噴射口301bと通じる構造とされている。
【0053】
次に、図11を参照して2流体ジェットノズル301の先端部分の断面構造について説明する。同図に示す様に、2流体ジェットノズル301は、その中心部に液体通路400を備え、液体通路400を同心円状に取り囲む様に気体通路401を備える。導入口304から供給された液体は内側の液体通路400を通過し、気体は外側の気体通路401を通過して、2流体ジェットノズル301の先端の噴射口301bから混合された液滴ミスト307として噴射される。液体と気体とは、液体と気体との混合点より下流側でより効果的に混合された液滴ミスト307となる。なお、外側に液体、内側に気体が供給されても良い。
【0054】
次に、本実施形態に係る半導体ウェーハの洗浄装置の動作を詳細に説明する。まず、図示しないステージが半導体ウェーハ100を水平に保持すると共に、半導体ウェーハ100の中心を通る鉛直軸の周りで回転させる。回転数は、例えば300〜500rpmである。
【0055】
続いて、半導体ウェーハ100の表面に対して、気体308が気体ジェットノズル302の先端の噴射口302aから噴射され、液滴ミスト307が2流体ジェットノズル301の先端の噴射口301bから噴射される。気体308の噴射速度は、液滴ミスト307の噴射速度よりも高速である事が好ましい。液滴ミスト307の噴射速度は、例えば20〜50m/secである。また、気体308の噴射速度は、例えば150〜300m/secである。また、気体308が到達する半導体ウェーハ100の表面の領域は、液滴ミスト307が到達する領域である。なお、半導体ウェーハ100の表面には、液滴ミスト307により濡れた領域310が形成される。
【0056】
ここで、表面にスタグナントレイヤー101が存在している半導体ウェーハ100に対して上述した気体308の噴射が予め行われ、その後に液滴ミスト307が噴射された場合の表面状態について、図12を参照して説明する。図12において、各要素は図2と同一であるため、同一要素に同一符号を付して説明を省略する。
【0057】
気体308がスタグナントレイヤー101に対して噴射されると、気体308の圧力によりその厚さが薄くなる。つまり、図12に示す様に、スタグナントレイヤー101は図2よりも薄くなり、微細なパーティクル110〜112は図2よりも更にスタグナントレイヤー101の外部に露出する。
【0058】
なお、半導体ウェーハ100の表面に残留するスタグナントレイヤー101の厚さは、気体308の噴射速度(圧力)に依存する。例えば、気体308の噴射速度をより高速にすると、スタグナントレイヤー101の厚さはより薄くなる。
【0059】
続いて、この様にパーティクル110〜112がスタグナントレイヤー101から露出した状態下で半導体ウェーハ100の表面に到達した水滴103により、水滴衝突流体層が生じる(図示せず)。図2を参照して説明した様に、水滴衝突流体層が有する波の力により、パーティクル110〜112が高効率に除去される。
【0060】
一方、水滴衝突流体層が運動エネルギーを失うと、水滴衝突流体層を形成していた水分はスタグナントレイヤー101と一体になるので、再度、スタグナントレイヤー101が厚くなる。しかし、継続して噴射されている気体308により、次の水滴103が到達するまでの間に、再びスタグナントレイヤー101は薄くされる。
【0061】
つまり、気体308が噴射されている間、スタグナントレイヤー101は常に薄く保持されるので、水滴103を半導体ウェーハ表面に近づけることができ、パーティクルが除去され易くなる。
【0062】
また、以上で述べた気体308及び液滴ミスト307の噴射と共に、3流体ジェットノズル300は、図示しない走査部によって半導体ウェーハ100の中心部から外周部の方向に表面に沿ってスキャンされる。スキャン速度は、例えば0.01〜0.05m/secである。これらの噴射、3流体ジェットノズル300のスキャン、及び半導体ウェーハ100の回転に伴い、半導体ウェーハ100の表面全体のパーティクルが除去される。
【0063】
以上で述べた様に、本実施形態によれば、最初に気体308を半導体ウェーハに直接噴射することによってスタグナントレイヤー101を薄くすることができるので、スタグナントレイヤー101内に埋もれている微細なパーティクルを露出させ、水滴103と微細なパーティクルが接触する確率を高くすることができる。従って、微細なパーティクルを効率的に除去できる。
【0064】
また、液滴ミスト307の噴射とは個別に気体308の噴射を操作できるので、液滴ミスト307と気体308とを混合させずに噴射することができる。つまり、液滴ミスト307と気体308とが異なる速度ベクトルを有するので、高速の気体308によって液滴ミスト307に含まれる水滴103が加速され難い。従って、半導体ウェーハ表面の微細なパターンに過剰なダメージを加えることなく、スタグナントレイヤー101の厚さを薄くできる。
【0065】
(第5の実施形態の第1の変形例)
次に、図13を参照して第5の実施形態の第1の変形例について説明する。本変形例では、気体ジェットノズル602の角度が自由に調節可能である点が第5の実施形態と異なる。
【0066】
同図に示す様に、気体ジェットノズル602は、ホース603,604の間に調節ネジ605を備え、ホース604と、2流体ジェットノズル301との間に調節ネジ606を備える。この様な構成により、気体ジェットノズル602は、調節ネジ605,606を用いて先端の噴射口602aの向きが自由に調節できるので、気体308の噴射方向を調節できる。
【0067】
本実施形態によれば、気体308の噴射角度を自由に調節できるので、液滴ミスト307が噴射される領域に生じたスタグナントレイヤー101の厚さを自由に制御できる。従って、適切な角度で高速な気体308を噴射して、スタグナントレイヤー101の厚さを薄く保持できる。
【0068】
(第5の実施形態の第2の変形例)
次に、第5の実施形態の第2の変形例について説明する。本変形例は、気体ジェットノズル302の角度を第5の実施形態と異ならしめるものである。つまり、図10を参照して、気体ジェットノズル302の角度は、液滴ミスト307が噴射されるに先立ち、3流体ジェットノズル300のスキャンの方向に合わせて高速の気体308が噴射される様に設定される。例えば、3流体ジェットノズル300のスキャン方向が図10において右方向から左方向であれば、気体308は液滴ミスト307が噴射される領域の左側の領域に予め噴射される。3流体ジェットノズル300がスキャンされるので、予め気体308が噴射されてスタグナントレイヤー101が薄くなった領域に、続いて到達する液滴ミスト307に含まれる水滴103が衝突する。
【0069】
従って、本変形例によっても、スキャン中に高速で噴射される気体308がスタグナントレイヤー101を薄くするので、水滴103と微細なパーティクルが接触する確率を高くすることができる。従って、効率的に微細なパーティクルを除去できる。
【0070】
(第6の実施形態)
次に、本発明の第6の実施形態について説明する。本実施形態では、気体308の噴射速度を変化させながら洗浄する点が、第5の実施形態と異なる。即ち、本実施形態では、第5の実施形態に係る半導体ウェーハの洗浄装置を用いて、角度を変えて斜め方向から気体308を噴射する際に、半導体ウェーハ100の表面のパターンの大きさに応じて、その噴射速度を高速、または低速に変化させる。具体的には、パターンの大きさが小さい部分(例えば、パターン幅が約40nm以下の微細パターン)では、気体308の噴射速度を第5の実施形態よりも低速にして、パターンの大きさが大きい部分や、パターンが存在せず平面的な部分では、その噴射速度を第5の実施形態よりも高速にする。
【0071】
従って、本実施形態によれば、半導体ウェーハ100の表面の微細パターンを傷つけることなく、パターン形状に応じてスタグナントレイヤー101を適切に分散させ、その厚さを薄くすることができる。よって、液滴ミスト307に含まれる水滴103を半導体ウェーハ100の表面により近づけることができ、スタグナントレイヤー101内に埋もれていた微細なパーティクルを除去することができる。
【0072】
(第7の実施形態)
次に、図14を参照して本発明の第7の実施形態について説明する。本実施形態では、2組の気体ジェットノズル700,701を備える点が、第5の実施形態と異なる。即ち、図14に示す様に、3流体ジェットノズル710は気体308の導入口704、705、及び気体と液体の導入口706を備える。また、貫通している2組の気体通路707、708を設置し、2組の気体ジェットノズル700、701のそれぞれの噴射口700a、701aと通じる構造をしている。この2組の気体ジェットノズル700、701を有する構成により、第5の実施形態よりも自由度が高く気体308と液滴ミスト307とを個別に操作して、混合せずに噴射することができる。従って、洗浄の要求に従って、それぞれを自由にコントロールする事が可能である。
【0073】
(第8の実施形態)
次に、図15を参照して本発明の第8の実施形態について説明する。本実施形態では、2流体ジェットノズルと気体ジェットノズルとは一体の一体型ノズル(3流体ジェットノズル)として構成される点が第5の実施形態と異なる。
【0074】
図15は、本実施形態に係る3流体ジェットノズルの断面図を表す。同図に示す様に、この3流体ジェットノズル800は、中心部の液体通路400、及び液体通路400を取り囲む様に同心円状に配置された気体通路401から構成される2流体ジェットノズルと、気体通路401を取り囲む様に配置された同心円状の気体通路801とを備える。
【0075】
液体通路400から液体(例えば純水等)が供給され、気体通路401から気体(第2の気体;例えば乾燥空気、または窒素等)が供給され、液滴ミスト307が形成されて噴射口803から半導体ウェーハ100に噴射される。また、気体通路801から高速の気体308(第1の気体;例えば乾燥空気、または窒素等の不活性ガス等)が供給され、噴射口802から液滴ミスト307の周囲に噴射される。即ち、3流体ジェットノズル800は液体と第1の気体と第2の気体とを流通させた後に噴射させるものとして構成されている。
【0076】
また、3流体ジェットノズル800は、半導体ウェーハ100の表面の、気体308の圧力によってスタグナントレイヤー101が除去された領域に、液滴ミスト307に含まれる水滴103が衝突する様にスキャンされる。
【0077】
本実施形態によれば、第5の実施形態と同様に、高速の気体308によってスタグナントレイヤー101が薄く保持された状態で液滴ミスト307が噴射されるため、微細なパーティクルを効果的に除去できる。また、液滴ミスト307と気体308の噴射速度を個別に操作できるので、液滴ミスト307の噴射速度を低く維持し、気体308の噴射速度のみを高くしても、液滴ミスト307と気体308とが混合しない。従って、液滴ミスト307に含まれる水滴103は気体308によって加速されないので、水滴103により微細パターンにダメージが加えられる可能性が低い。また、本実施形態によれば、第5の実施形態の気体ジェットノズル302が占有する空間が不要であるため、プロセススペースの削減ができる。
【0078】
なお、上述してきた第5の実施形態から第8の実施形態によれば、半導体ウェーハ100の回転数、及び3流体ジェットノズル300,710,800のスキャン速度に関わらず、スタグナントレイヤー101が薄くなれば上述した効果が得られる。
【0079】
また、第5の実施形態から第8の実施形態において、第1の実施形態の洗浄液を用いて液滴ミスト307を形成する様にしても良い。この場合、第5の実施形態から第8の実施形態よりも効率的にパーティクルを除去できる。
【0080】
また、第2の実施形態から第4の実施形態で説明した撥水性の半導体ウェーハを用いて洗浄しても良い。この場合も、第5の実施形態から第8の実施形態よりも効率的にパーティクルを除去できる。
【0081】
なお、以上の実施形態において、大きい液滴は微細パターンの隅々にまで入り込めない場合があるので、2流体ジェット洗浄装置、又は3流体ジェット洗浄装置により噴射される液滴は、直径5μm以下が好ましい。
【0082】
(第9の実施形態)
次に、図16〜図20を参照して本発明の第9の実施形態について説明する。本実施形態は、枚葉洗浄装置を用いた洗浄処理における洗浄液として、希釈IPA水溶液にゼータ電位を制御する薬液を混合したものを用いる点が第1の実施形態と異なる。本明細書においてゼータ電位とは、洗浄液と接するパーティクルの表面の電位と、洗浄液と接する下地膜の表面の電位とを表す。
【0083】
図16は、半導体ウェーハ上における水のスタグナントレイヤーとパーティクルを表す概略図である。前述のように、パーティクル110〜112は水のスタグナントレイヤー101に埋もれている。
【0084】
図17は、半導体ウェーハ上における希釈IPA水溶液のスタグナントレイヤーとパーティクルを表す概略図である。前述のように、希釈IPA水溶液のスタグナントレイヤー101の厚さは水のものよりも薄いので、パーティクル110〜112は図16の状態よりも露出する。そのため、水滴衝突流体層120が有する波の力により、パーティクル110〜112が除去され易くなる。パーティクル150は、半導体ウェーハ100の表面から引き離され、除去されたものを表す。
【0085】
図18は、希釈IPA水溶液にゼータ電位を制御する添加剤を加えた薬液のスタグナントレイヤーとパーティクルの様子を表す概略図である。その添加剤として、ゼータ電位を制御するアルカリ性の薬液又は界面活性剤を用いる。例えば、アルカリ性の薬液として水酸化アンモニウム(NH4OH)又はコリンなどを用いる。これにより、ゼータ電位は負電位に制御される。半導体ウェーハ100から脱離したパーティクル150のゼータ電位は負電位であるため、ゼータ電位が負電位である流体層120に再度付着しなくなる。
【0086】
図19は、ゼータ電位を制御した場合のパーティクルの挙動について表す概略図である。図19(a)に示す様に、パーティクル150のゼータ電位と、半導体ウェーハ100上の下地膜170のゼータ電位とを制御して負電位にすると、両者の間に反発力が働く。その結果、図19(b)に示す様に、パーティクル150は水流層102中に分散して、槽外へ排出される。これはゼータ電位効果によるものである。なお、このゼータ電位はパーティクル150の径に依存しない。また、このゼータ電位は電気泳動法で測定できる。
【0087】
図20にアルカリ性の薬液を添加してゼータ電位を制御した洗浄液を用いて2流体ジェット洗浄を行った場合の除粒子性能を示す。アルカリ性の薬液を添加しない純水を用いた2流体ジェット洗浄の場合と比較して、40nmのパーティクルの除去効率が向上していることが分かる。また、第1の実施形態に記載した希釈IPA水溶液を用いた2流体ジェット洗浄と比較しても、より短時間に効率良く微細なパーティクルを除去することが可能となる。
【0088】
以上で述べた様に、本実施形態によれば、40nm相当の微小なパーティクル150を半導体ウェーハ100から脱離させた後、再度半導体ウェーハ100へ付着させることなく、効率的に除去できる。
【0089】
なお、第1の実施形態において説明したHFE、HFEに微量のIPAを添加した溶液、又は界面活性剤を混合した水などを洗浄液として用い、その洗浄液に前述のゼータ電位を制御するアルカリ性の薬液を混合しても良い。また、HFE又はHFEに微量のIPAを添加した溶液にゼータ電位を制御する界面活性剤を混合しても良い。混合する界面活性剤は、基板表面を疎水化させる効果とゼータ電位を制御する効果とを共に有しているものであれば、1種類でも良い。また、上述したそれぞれの効果を有している複数種類の界面活性剤を混合しても良く、状況に応じて適宜変更して実施することができる。
【0090】
また、IPA、HFE、又はHFEに微量のIPAを添加した溶液などに酸性の薬液を混合した酸性の洗浄液を用いても良い。その場合、ゼータ電位を制御する薬液として界面活性剤等を混合する。
【0091】
また、第3の実施形態と第4の実施形態で説明した撥水性の半導体ウェーハを用いて洗浄しても良い。この場合、より効率的にパーティクルを除去できる。さらに、第5の実施形態から第8の実施形態において、本実施形態の洗浄液を用いて液滴ミスト307を形成する様にしても良い。この場合、より効率的にパーティクルを除去できる。
【0092】
なお、以上の第1の実施形態から第9の実施形態において、図21に示すように、ノズル180を半導体ウェーハ100の直径方向に表面に沿ってスキャンさせ、半導体ウェーハ100への薬液の吐出を1回のスキャンで行っても良い。これにより、中心部から外周部の方向にスキャンする場合と同様に、洗浄後の洗浄液が即時に排出されるので、除去されたパーティクルが再度半導体ウェーハ100に付着することを防止できる。
【0093】
(第10の実施形態)
次に、図22及び図23を参照して本発明の第10の実施形態について説明する。本実施形態は、枚葉洗浄装置を用いた洗浄処理において、洗浄中に半導体ウェーハ100の温度を上昇させる点が前記した第1の実施形態と異なる。
【0094】
図22は、本実施形態に係る半導体ウェーハ100の洗浄装置の動作を表している。まず、図示しないステージが半導体ウェーハ100を水平に保持すると共に、半導体ウェーハ100の中心を通る鉛直軸の周りで回転させる。回転数は、例えば300〜500rpmである。半導体ウェーハ100の裏面からは窒素等からなるホットキャリアガスや温水等のウェーハ温度上昇用の流体401を噴き付けることができ、半導体ウェーハ100の表面温度を調整することができる。
【0095】
図23は、常温のウェーハに純水で10%に希釈したIPA(dIPA)を用いて2流体洗浄を行った結果、温水によって45℃に加熱されたウェーハに純水で10%に希釈したIPAを用いて2流体洗浄を行った結果、温水によって45℃に加熱されたウェーハに純水で10%に希釈したIPAと純水で4%に希釈したコリン溶液とを35:1の割合で混合した溶液を用いて2流体洗浄を行った結果をそれぞれ表している。ここではSiNのパーティクルの除粒子性能(PRE)により評価を行っている。なお、2流体洗浄による処理時間は192秒、評価した粒子径は40nm、80nm、100nmとした。
【0096】
図23に示すように、温水によって45℃に加熱されたウェーハの方が全ての粒子径においてPREが高くなることが確認された。これは、ウェーハ表面を高温にすることによってパーティクルの運動量が増加し、パーティクルがスタグナントレイヤーから飛び出し易くなるためであると考えられる。
【0097】
なお、IPAを用いた2流体洗浄を行う場合はウェーハ表面の温度を50℃以下、より好ましくは30℃〜50℃の範囲に制御することが望ましい。ウェーハの表面温度が50℃を超えてしまうと洗浄中であってもノズルから離れた領域(例えば、ノズルが外周にある時のウェーハ中央部等)のIPAが蒸発し、部分的に乾燥が始まってしまう。一旦、ウェーハ表面が乾燥しパーティクルが下地に吸着すると、パーティクルが下地と強固に結びつき、2流体を用いても簡単には除去出来なくなるため好ましくない。
【0098】
以上示したように、本発明の第10の実施形態に係る半導体ウェーハの洗浄方法を用いることによって、半導体ウェーハの表面に付着する微細なパーティクルを効果的に除去することができる。なお、本実施形態に記載したウェーハの表面温度の調整は、前述した他の実施形態と組み合わせて実施することも勿論可能である。
【0099】
(第11の実施形態)
次に、図24及び図25を用いて本発明の第11の実施形態について説明する。本実施形態は、前記した第10の実施形態の枚葉洗浄装置を用いた洗浄処理と比較して、洗浄中に半導体ウェーハ100の温度を80℃以上に上昇させる点が異なる。
【0100】
本実施形態に係る半導体ウェーハ100の洗浄装置の構成は、図24に示すように、前記した第1の実施形態と同様である。なお、前記した第10の実施形態と同様に、半導体ウェーハ100の裏面から窒素等からなるホットキャリアガスや温水等のウェーハ温度上昇用の流体を噴き付ける構成が付いていても構わない。
【0101】
図24に示す2流体ジェット洗浄装置の動作の一例について説明する。この場合、2流体ジェット洗浄装置によって、洗浄液と気体の2流体を混合させた霧状の液滴ミスト402を半導体ウェーハ100の表面に対して噴射する。ここで、洗浄液は、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、酢酸等の水よりも沸点が高く、水よりも表面張力が低い液体が用いられる。また、洗浄液が半導体ウェーハ上に残らないように水で容易にリンス可能な液体を用いることが望ましい。前記したエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、酢酸等は水により容易にリンス可能である。
【0102】
上記に示したエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等は水よりも粘性が大きく高く、微細なパターンが表面に形成されたウェーハを洗浄するための洗浄液に用いることは困難である。しかし、図25に示すように、洗浄液の温度が上昇するにつれて粘性が低下し、80℃以上では水と同等に近い粘性となる。
【0103】
本実施形態では、前記したエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、酢酸等の水よりも沸点が高く、水よりも低表面張力かつ水により容易にリンス可能である液体を洗浄液として用い、ウェーハ表面の温度を80℃以上にすることにより、前記した第10の実施形態よりもパーティクルの運動量を向上させ、半導体ウェーハの表面に付着する微細なパーティクルを効果的に除去することができる。なお、前記したエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、酢酸等を水で希釈した80℃以上の沸点を有し、水よりも低表面張力の液体を用いても構わない。
【0104】
本実施形態において、洗浄液の温度は限定されないが半導体ウェーハ表面の温度を80℃以上に維持し、洗浄液の粘性を低下させる観点からより高温であることが望ましい。具体的には洗浄液の温度も80℃以上とすることが望ましい。
【0105】
以上、本発明の実施形態を詳述してきたが、具体的な構成は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変形して実施することができる。例えば、枚葉洗浄装置は2流体ジェット洗浄装置、又は3流体ジェット洗浄装置に限られない。
【0106】
また、洗浄対象の半導体ウェーハは、その表面に素子のパターンが形成されているものとして説明したが、どの様な表面状態でも良く、例えば平坦な表面でも良い。さらに、本発明の実施形態に係る半導体ウェーハの洗浄装置、及び半導体ウェーハの洗浄方法は、液晶表示装置のガラス基板等、半導体ウェーハ以外の基板の洗浄に用いることもできる。
【符号の説明】
【0107】
100 半導体ウェーハ、101 スタグナントレイヤー、102 水流層、110〜112 パーティクル、120 水滴衝突流体層、301 2流体ジェットノズル、302,602,700,701 気体ジェットノズル、307 液滴ミスト、308 気体、300,710,800 3流体ジェットノズル
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハの洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造技術の進歩によってデバイスパターンが微細化し続けるにつれ、より微細な汚染物としてのパーティクルを半導体ウェーハ上から除去できる洗浄技術が望まれている。
【0003】
従来、枚葉洗浄装置として用いられる2流体ジェット洗浄装置は以下の様に構成されていた。即ち、乾燥空気または窒素等の気体と、純水等の液体と、を混合してミスト化された水滴(液滴ミスト)を、回転させた半導体ウェーハの表面に噴射する。これと共に、半導体ウェーハの中心部から外周部の方向にスキャンする。これにより、半導体ウェーハ上のパーティクルを除去し、洗浄する。
【0004】
また、この2流体ジェット洗浄装置を応用して、APM(アンモニアと過酸化水素水と水の混合液など)を使用し、リフトオフ作用によりパーティクルを除去する技術も知られている(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、上述した2流体ジェット洗浄装置を用いても、半導体ウェーハ表面に付着するパーティクルが微細なものの場合には、この様な微細なパーティクル(例えば、高さ70nm以下のもの)は除去することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−335671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
半導体ウェーハの表面に付着する微細なパーティクルを効果的に除去することができる半導体ウェーハの洗浄方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明の一態様によれば、洗浄液による半導体ウェーハの洗浄方法において、
前記洗浄液として、水より低表面張力、且つ水より低粘性を有するものを用い、前記半導体ウェーハの表面の温度を30℃〜50℃とした状態において、前記洗浄液で洗浄する事を特徴とする半導体ウェーハの洗浄方法が提供される。
【0009】
また、本願発明の他の一態様によれば、洗浄液による半導体ウェーハの洗浄方法において、前記洗浄液として、水より低表面張力、且つ水より高い沸点を有するものを用い、前記半導体ウェーハの表面の温度を80℃以上とした状態において、前記洗浄液で洗浄する事を特徴とする半導体ウェーハの洗浄方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
半導体ウェーハの表面に付着する微細なパーティクルを効果的に除去することができる半導体ウェーハの洗浄方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】半導体ウェーハ上の水の膜厚の測定図である。
【図2】水滴によりパーティクルに力が加えられる様子を示す模式図である。
【図3】純水を用いた2流体ジェット洗浄による除粒子性能を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る2流体ジェット洗浄装置の概念図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る半導体ウェーハの表面状態を示す模式図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る希釈IPA水溶液を用いた2流体ジェット洗浄による除粒子性能を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る半導体ウェーハの表面状態を示す模式図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る半導体ウェーハの表面状態を示す模式図である。
【図9】本発明の第4の実施形態に係る半導体ウェーハの表面状態を示す模式図である。
【図10】本発明の第5の実施形態に係る半導体ウェーハの洗浄装置の主要部を概略的に表す概念図である。
【図11】本発明の第5の実施形態に係る2流体ジェットノズルの断面図である。
【図12】本発明の第5の実施形態に係る半導体ウェーハの表面状態を示す模式図である。
【図13】本発明の第5の実施形態の第1の変形例に係る半導体ウェーハの洗浄装置の主要部の概略的に表す概念図である。
【図14】本発明の第7の実施形態に係る半導体ウェーハの洗浄装置の主要部を概略的に表す概念図である。
【図15】本発明の第8の実施形態に係る半導体ウェーハの洗浄装置の主要部を概略的に表す概念図である。
【図16】半導体ウェーハ上における水のスタグナントレイヤーとパーティクルを表す概略図である。
【図17】半導体ウェーハ上における希釈IPA水溶液のスタグナントレイヤーとパーティクルを表す概略図である。
【図18】本発明の第9の実施形態に係る希釈IPA水溶液にゼータ電位を制御する添加剤を加えた薬液のスタグナントレイヤーとパーティクルの様子を表す概略図である。
【図19】本発明の第9の実施形態に係るゼータ電位を制御した場合のパーティクルの挙動について表す概略図である。
【図20】本発明の第9の実施形態に係るアルカリ性の薬液を添加してゼータ電位を制御した洗浄液を用いて2流体ジェット洗浄を行った場合の除粒子性能を示す図である。
【図21】本発明の実施形態に係る半導体ウェーハへ薬液を吐出するノズルの軌跡を表す概略図である。
【図22】本発明の第10の実施形態に係る半導体ウェーハの洗浄装置の主要部を概略的に表す概念図である。
【図23】本発明の第10の実施形態に係るSiNのパーティクルのPREを表したグラフである。
【図24】本発明の第11の実施形態に係る半導体ウェーハの洗浄装置の主要部を概略的に表す概念図である。
【図25】本発明の第11の実施形態に係る洗浄液の温度と洗浄液の粘性との関係を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態の説明に先立ち、発明者らが本発明をなすに至った経緯について説明
する。
【0013】
発明者らは、背景技術の項で述べた2流体ジェット洗浄装置を用いても微細なパーティクルを除去できないという現象を解析するために、各種の実験を行い、その実験結果を分析した。
【0014】
発明者らは、半導体ウェーハを水で濡らし、これを回転させて表面の水滴を遠心力で飛ばした後にも半導体ウェーハの表面が濡れている事に着目した。以下に、これに関する実験の結果について説明する。
【0015】
水で濡らした半導体ウェーハを回転させて半導体ウェーハ上の水の膜厚を測定した。図1は、半導体ウェーハを回転速度500rpmで回転させた場合の、経過時間と、半導体ウェーハ上の水の膜厚と、半導体ウェーハの中心からの距離との関係を示す。同図の横軸は半導体ウェーハの中心からの距離(mm)を表し、縦軸は水の膜厚(nm)を表す。水の膜厚は、光の干渉を利用して求めたものである。同図には、水の供給を止めた時からの時間として記載してある。つまり水の供給を停止してからは、ウェーハ上の水は回転によりウェーハから排出される。同図には5秒、10秒、20秒、30秒、40秒、及び50秒経過後の水の膜厚のグラフが示される。
【0016】
図中、半導体ウェーハの中心から約50mmの位置での膜厚を例に説明する。同位置での測定結果の差(10秒毎の取り除かれた水膜厚)を表記すると、10秒時の残膜から20秒時の残膜を差し引くと、約1500nm/10秒の水が排出されている。更に20秒時の残膜から30秒時の残膜を差し引くと、約1100nm/10秒の水が排出されている。30秒時の残膜から40秒時の残膜を差し引くと、約700nm/10秒の水が排出されている。最後の差分となる40秒時の残膜から50秒時の残膜を差し引くと、約640nm/10秒の水が排出されている。この結果から言えることは最初の30秒まではウェーハ上の水が1μm/10秒程度以上の高速で排出され、その後の20秒ではウェーハ上から取り除かれる水の速度は600〜700nm/10秒の乾燥速度で乾いていく。
【0017】
また、この結果から言えることは、水の供給を止めた後、乾燥ステップへの移行直後から数十秒は多量の水がウェーハから排出される乾燥条件になっており、乾燥後半では排出速度が遅くなる。この現象から最初のステップは動的な液体の流れ(水流層:遠心力等により自由に流れる水の層)を主体とした液体の回転排出乾燥ステップと言える。後半のステップは排出速度が低下したため、動的な排出が望めない表面からの蒸発乾燥ステップが主となる蒸発乾燥ステップと言える。
【0018】
同図から得られた結果から、最後の干渉縞から得られた約70nm以下の厚さとなった時には、半導体ウェーハ外に飛散する水滴は観察されないので、もはや水流は存在せず、殆どが半導体ウェーハ表面のいわゆる濡れの層(スタグナントレイヤー)となっていると考えられる。この濡れの層は、殆ど蒸発によってしか除去されない。つまり、動的な動き、例えば遠心力、二流体洗浄時の水滴形状変化などの動的な流れを感じ取れない約70nm以下の厚さの水の層(濡れの層:スタグナントレイヤー)が半導体ウェーハ上に残る事が分かった。この明細書では、以後この水の層をスタグナントレイヤー(stagnant layer)と呼ぶことにする。
【0019】
但し、上記の結果は、乾燥プロセス条件(回転数、加速度)、及び下地の膜種、及び立
体形状にも依存する。つまり、濡れた半導体ウェーハ上には常時約70nm以下のスタグナントレイヤーが存在する事が分かった。
【0020】
即ち、本発明者らは、遠心力によっても流れないスタグナントレイヤーなる水の層が存
在することを確認した。本発明者らは、このスタグナントレイヤーの存在下において、ス
タグナントレイヤーの上面を流れる水流による半導体ウェーハの洗浄は以下の様に行われ
ることを独自に知得した。
【0021】
図2に示す大中小の3つのパーティクル110〜112が半導体ウェーハ100上に存在すると仮定する。この場合の半導体ウェーハ100の2流体ジェットによる洗浄について説明する。即ち、図2は、2流体ジェット洗浄装置を用いて半導体ウェーハ100の表面に対して噴射された霧状の液滴ミストに含まれる水滴103により、パーティクル110〜112に力が加えられる様子を模式的に表す。同図(a)は、水滴103が衝突する直前の状態を表し、同図(b)は、水滴103が衝突した直後の状態を表す。
【0022】
図2(a)に示す様に、半導体ウェーハ100の表面には、大きさの異なるパーティクル110〜112、及びスタグナントレイヤー101が付着している。また、スタグナントレイヤー101の上方には、面方向に流れる水流層102が存在する。パーティクル110〜112は、下方がスタグナントレイヤー101に部分的に埋もれた状態にある。
【0023】
ここでは、一例として、パーティクル110の高さ(直径)は約90nm、パーティクル111の高さは約140nm、パーティクル112の高さは約180nm、スタグナントレイヤー101の厚さは約70nm、水流層102の厚さは約5μm、水滴103の半径は約20μmとする。
【0024】
なお、説明を明確化するため、水滴103の大きさはスタグナントレイヤー101等と比較して縮小して表している。
【0025】
続いて、図2(b)に示す様に、液滴ミストに含まれる水滴103が半導体ウェーハ100の表面上の水流層102に衝突すると、水滴103とその水流層102が混合変形して水滴衝突流体層120となる。本明細書においては、水滴103の衝突により変形した水流層102を、水滴衝突流体層120と称す。
【0026】
衝突により、水滴衝突流体層120には半導体ウェーハ100の外周方向に向かって同心円状に広がる複数の波が発生する。その波の力がパーティクル111,112に加わる。これにより、中径及び大径のパーティクル111,112が半導体ウェーハ100の表面から引き離され、除去される。
【0027】
しかし、大部分がスタグナントレイヤー101内に埋もれている小径のパーティクル110は、水滴衝突流体層120の力を有効に受けることができないので、除去されない。
【0028】
つまり、発明者らは次の事を独自に知得した。2流体ジェット洗浄装置では、スタグナントレイヤー101の存在によって、スタグナントレイヤー101の膜厚以下(例えば、約70nm以下)の高さの、スタグナントレイヤー101中に埋もれている微細なパーティクルを除去できない事が分かった。具体的には、図3に示すように、通常の純水(DIW)を用いた2流体ジェット洗浄では除粒子性能(PRE:particle removal efficiency)に微粒子径依存性があり、60nm以下の微細なパーティクルの除去が困難であることが明らかになった。また、PSL(ポリスチレンラテックス)粒子では粒子径が小さいほど除粒子性能が劣化する事が分かった。
【0029】
発明者らは、上述した独自の知得に基づいて本発明をなすに至った。以下に、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。これらの実施形態は、本発明を限定するものではない。
【0030】
まず、第1の実施形態から第4の実施形態は、洗浄液の性質と半導体ウェーハ100の表面の濡れ性とに着目し、スタグナントレイヤー101を薄くする様に、又は無くす様にするものである。
【0031】
なお、洗浄対象の半導体ウェーハは、その表面に凹凸を有するパターンが形成されているものとする。
【0032】
(第1の実施形態)
図4から図6を参照して本発明の第1の実施形態について説明する。本実施形態では、枚葉洗浄装置を用いた洗浄処理における洗浄液として、アルコール系やフッ素系など、水より低表面張力、且つ水より低粘性を有する薬液を水の代わりに用いる。例えば、アルコール系の薬液としてイソプロピルアルコール(IPA)など、フッ素系の薬液としてハイドロフルオロエーテル(HFE)などを用いて洗浄する。なお、上記薬液の濃度は高い方が好ましい。
【0033】
上記枚葉洗浄装置として、図4に示す2流体ジェット洗浄装置を用いた一例について説明する。この場合、2流体ジェット洗浄装置によって、上記洗浄液と気体の2流体を混合させた霧状の液滴ミスト307を半導体ウェーハ100の表面に対して噴射する。洗浄液の表面張力と粘性が水より低いので、図5に示す様に半導体ウェーハ100上に必然的に形成される洗浄液のスタグナントレイヤー101と水流層102の膜厚は、水を用いた場合の膜厚よりも薄くなる。
【0034】
これにより、液滴ミスト307に含まれる水滴103を半導体ウェーハ100の表面により近づけることができる。従って、水を用いた場合にはスタグナントレイヤー101内に埋もれていた微細なパーティクル(高さ70nm以下)が、薄くなったスタグナントレイヤー101から露出する。この様な状態下で半導体ウェーハ100の表面に到達した水滴103により、水滴衝突流体層が生じる。よって、図2を参照して説明した様に、水滴衝突流体層が有する波の力により、パーティクルが高効率に除去される。
【0035】
本実施形態の一例として、図6に希釈IPA水溶液(IPA希釈DIW)を用いた2流体ジェット洗浄による除粒子性能を示す。同図に示すように、図3に示した純水を用いた2流体ジェット洗浄と比較して、60nm以下の除粒子性能が向上することが分かる。
【0036】
本実施形態によれば、半導体ウェーハ100の表面の濡れ性が高い場合であっても、洗浄液の表面張力が低いので、洗浄液のスタグナントレイヤー101の厚さを薄く改善することができる。
【0037】
また、本実施形態によれば、上述の様に低表面張力の洗浄液が用いられるため、その洗浄液が凹凸を有するパターンの隅々にまで入り込みやすく、そこに存在するパーティクルを洗浄することができる。
【0038】
また、第1の実施形態の変形例として、例えば水を用いて洗浄する場合には、半導体ウェーハ100の表面を疎水性化できる界面活性剤を水に混合した洗浄液を用いる。これにより、洗浄液の表面張力を低くできる。従って、スタグナントレイヤー101が薄くなり、微細なパーティクルを効果的に除去することができる。
【0039】
(第2の実施形態)
次に、図7を参照して本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態は、表面張力が高い洗浄液(例えば水など)と、濡れ性が低い(撥水性)表面を持つ半導体ウェーハとを組み合わせる洗浄方法に関する。本明細書においては、洗浄液をはじく性質を撥水性と称す。
【0040】
本実施形態によれば、同図に示す様に濡れ性が低い(撥水性)半導体ウェーハ100の表面に洗浄液のスタグナントレイヤー101が形成されない。これにより、半導体ウェーハ100上の微細なパーティクルはスタグナントレイヤー101に埋もれることが無い。従って、上記表面張力が高い洗浄液が半導体ウェーハ100の面内を流れる力により、微細なパーティクルを効果的に除去することができる。
【0041】
(第3の実施形態)
次に、図8を参照して本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態は、濡れ性が低い(撥水性)表面を持つ半導体ウェーハを用いる点が第1の実施形態と異なる。即ち、本実施形態は、水より表面張力が低い洗浄液と、濡れ性が低い(撥水性)表面を持つ半導体ウェーハとを組み合わせる洗浄方法に関する。
【0042】
本実施形態によれば、同図に示す様に濡れ性が低い(撥水性)半導体ウェーハ100の表面に洗浄液のスタグナントレイヤー101が形成されない。従って、第2の実施形態と同様に半導体ウェーハ100上の微細なパーティクルを効果的に除去することができる。
【0043】
(第4の実施形態)
次に、図9を参照して本発明の第4の実施形態について説明する。本実施形態では、枚葉洗浄装置を用いて洗浄する際に、半導体ウェーハ100を撥水性化できる撥水化処理液を用いる点が第1の実施形態と異なる。
【0044】
即ち、撥水化処理液として、例えばシリコン樹脂コーティング剤を使用することで、予め半導体ウェーハ100を高撥水性にする。具体的には、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)又はテトラメチルシリルジエチルアミン(TMSDMA)等のシランカップリング剤を用いて高撥水性の表面に改質する。同図に示す様に、撥水性化された半導体ウェーハ100の表面は水で濡れないので、スタグナントレイヤー101が形成されない。従って、回転させた半導体ウェーハ100の表面に水を供給し、遠心力だけでパーティクル110〜112を除去することも可能である。
【0045】
また、枚葉洗浄装置として2流体ジェット洗浄装置を用いる場合、最初に半導体ウェーハ自身を高撥水性にすることで、洗浄に用いられる高圧の水が微細パターンの隙間に浸入しない。従って、微細パターンに横方向から加えられるダメージを減少させる事ができる。なお、パーティクルは微細パターンの隙間には殆ど存在しておらず、その多くは幅広なパターン部に存在している。
【0046】
また、本実施形態によれば、パーティクルを含めた表面がモノレイヤー(単分子層)で撥水性化される。この場合、パーティクルは構造を持っており、且つ微細パターンと比較して大きいため、水滴により物理的に力を受けて除去される。また、パーティクルが除去された後は、アッシング処理を行って撥水化コーティング膜を除去することが好ましい。
【0047】
次に、上述してきた実施形態とは異なる観点に基づいて前述のスタグナントレイヤー101を薄くして洗浄する方法について説明する。以下の実施形態では、気体の圧力によりスタグナントレイヤー101を薄くして、そこから露出させたパーティクルに物理的に力を加えて除去する事を基本的な原理とする。
【0048】
以下の実施形態では、半導体ウェーハ100の表面は親水性であるとする。
【0049】
(第5の実施形態)
図10〜図12を参照して本発明の第5の実施形態について説明する。図10は、本実施形態に係る半導体ウェーハの洗浄装置の主要部を概略的に表す概念図である。同図に示す様に、この半導体ウェーハの洗浄装置は、2流体ジェットノズル301と、気体ジェットノズル302とを備える、3流体ジェットノズル300を備える。
【0050】
2流体ジェットノズル301は、先端の噴射口301bから液体(例えば純水等)、及び気体(第2の気体;例えば乾燥空気、または窒素等)の二流体が混合されて生じる霧状の液滴ミスト307を、半導体ウェーハ100の表面に対してほぼ垂直に噴射するものである。また、気体ジェットノズル302は、先端の噴射口302aから気体308(第1の気体;例えば乾燥空気、または窒素等の不活性ガス等)を半導体ウェーハ100の表面に対して垂直からある角度を持って噴射するものである。
【0051】
この洗浄装置は2流体に加えてそれとは別の流体も用いるので、本明細書においては3流体ジェット洗浄装置と称す。
【0052】
気体308が供給されるガス導入口303は、3流体ジェットノズル300の上方に設けられる。ガス導入口303は、導入管301aの内部を貫通している気体通路を介して、気体ジェットノズル302の噴射口302aと通じる構造とされている。また、気体と液体とをそれぞれ別々に2流体ジェットノズル301に供給する導入口304も、3流体ジェットノズル300の上方に設けられる。この導入口304も、気体308が通過する気体通路とは隔離された、導入管301aの内部を貫通している気体通路と液体通路とを介して、2流体ジェットノズル301の噴射口301bと通じる構造とされている。
【0053】
次に、図11を参照して2流体ジェットノズル301の先端部分の断面構造について説明する。同図に示す様に、2流体ジェットノズル301は、その中心部に液体通路400を備え、液体通路400を同心円状に取り囲む様に気体通路401を備える。導入口304から供給された液体は内側の液体通路400を通過し、気体は外側の気体通路401を通過して、2流体ジェットノズル301の先端の噴射口301bから混合された液滴ミスト307として噴射される。液体と気体とは、液体と気体との混合点より下流側でより効果的に混合された液滴ミスト307となる。なお、外側に液体、内側に気体が供給されても良い。
【0054】
次に、本実施形態に係る半導体ウェーハの洗浄装置の動作を詳細に説明する。まず、図示しないステージが半導体ウェーハ100を水平に保持すると共に、半導体ウェーハ100の中心を通る鉛直軸の周りで回転させる。回転数は、例えば300〜500rpmである。
【0055】
続いて、半導体ウェーハ100の表面に対して、気体308が気体ジェットノズル302の先端の噴射口302aから噴射され、液滴ミスト307が2流体ジェットノズル301の先端の噴射口301bから噴射される。気体308の噴射速度は、液滴ミスト307の噴射速度よりも高速である事が好ましい。液滴ミスト307の噴射速度は、例えば20〜50m/secである。また、気体308の噴射速度は、例えば150〜300m/secである。また、気体308が到達する半導体ウェーハ100の表面の領域は、液滴ミスト307が到達する領域である。なお、半導体ウェーハ100の表面には、液滴ミスト307により濡れた領域310が形成される。
【0056】
ここで、表面にスタグナントレイヤー101が存在している半導体ウェーハ100に対して上述した気体308の噴射が予め行われ、その後に液滴ミスト307が噴射された場合の表面状態について、図12を参照して説明する。図12において、各要素は図2と同一であるため、同一要素に同一符号を付して説明を省略する。
【0057】
気体308がスタグナントレイヤー101に対して噴射されると、気体308の圧力によりその厚さが薄くなる。つまり、図12に示す様に、スタグナントレイヤー101は図2よりも薄くなり、微細なパーティクル110〜112は図2よりも更にスタグナントレイヤー101の外部に露出する。
【0058】
なお、半導体ウェーハ100の表面に残留するスタグナントレイヤー101の厚さは、気体308の噴射速度(圧力)に依存する。例えば、気体308の噴射速度をより高速にすると、スタグナントレイヤー101の厚さはより薄くなる。
【0059】
続いて、この様にパーティクル110〜112がスタグナントレイヤー101から露出した状態下で半導体ウェーハ100の表面に到達した水滴103により、水滴衝突流体層が生じる(図示せず)。図2を参照して説明した様に、水滴衝突流体層が有する波の力により、パーティクル110〜112が高効率に除去される。
【0060】
一方、水滴衝突流体層が運動エネルギーを失うと、水滴衝突流体層を形成していた水分はスタグナントレイヤー101と一体になるので、再度、スタグナントレイヤー101が厚くなる。しかし、継続して噴射されている気体308により、次の水滴103が到達するまでの間に、再びスタグナントレイヤー101は薄くされる。
【0061】
つまり、気体308が噴射されている間、スタグナントレイヤー101は常に薄く保持されるので、水滴103を半導体ウェーハ表面に近づけることができ、パーティクルが除去され易くなる。
【0062】
また、以上で述べた気体308及び液滴ミスト307の噴射と共に、3流体ジェットノズル300は、図示しない走査部によって半導体ウェーハ100の中心部から外周部の方向に表面に沿ってスキャンされる。スキャン速度は、例えば0.01〜0.05m/secである。これらの噴射、3流体ジェットノズル300のスキャン、及び半導体ウェーハ100の回転に伴い、半導体ウェーハ100の表面全体のパーティクルが除去される。
【0063】
以上で述べた様に、本実施形態によれば、最初に気体308を半導体ウェーハに直接噴射することによってスタグナントレイヤー101を薄くすることができるので、スタグナントレイヤー101内に埋もれている微細なパーティクルを露出させ、水滴103と微細なパーティクルが接触する確率を高くすることができる。従って、微細なパーティクルを効率的に除去できる。
【0064】
また、液滴ミスト307の噴射とは個別に気体308の噴射を操作できるので、液滴ミスト307と気体308とを混合させずに噴射することができる。つまり、液滴ミスト307と気体308とが異なる速度ベクトルを有するので、高速の気体308によって液滴ミスト307に含まれる水滴103が加速され難い。従って、半導体ウェーハ表面の微細なパターンに過剰なダメージを加えることなく、スタグナントレイヤー101の厚さを薄くできる。
【0065】
(第5の実施形態の第1の変形例)
次に、図13を参照して第5の実施形態の第1の変形例について説明する。本変形例では、気体ジェットノズル602の角度が自由に調節可能である点が第5の実施形態と異なる。
【0066】
同図に示す様に、気体ジェットノズル602は、ホース603,604の間に調節ネジ605を備え、ホース604と、2流体ジェットノズル301との間に調節ネジ606を備える。この様な構成により、気体ジェットノズル602は、調節ネジ605,606を用いて先端の噴射口602aの向きが自由に調節できるので、気体308の噴射方向を調節できる。
【0067】
本実施形態によれば、気体308の噴射角度を自由に調節できるので、液滴ミスト307が噴射される領域に生じたスタグナントレイヤー101の厚さを自由に制御できる。従って、適切な角度で高速な気体308を噴射して、スタグナントレイヤー101の厚さを薄く保持できる。
【0068】
(第5の実施形態の第2の変形例)
次に、第5の実施形態の第2の変形例について説明する。本変形例は、気体ジェットノズル302の角度を第5の実施形態と異ならしめるものである。つまり、図10を参照して、気体ジェットノズル302の角度は、液滴ミスト307が噴射されるに先立ち、3流体ジェットノズル300のスキャンの方向に合わせて高速の気体308が噴射される様に設定される。例えば、3流体ジェットノズル300のスキャン方向が図10において右方向から左方向であれば、気体308は液滴ミスト307が噴射される領域の左側の領域に予め噴射される。3流体ジェットノズル300がスキャンされるので、予め気体308が噴射されてスタグナントレイヤー101が薄くなった領域に、続いて到達する液滴ミスト307に含まれる水滴103が衝突する。
【0069】
従って、本変形例によっても、スキャン中に高速で噴射される気体308がスタグナントレイヤー101を薄くするので、水滴103と微細なパーティクルが接触する確率を高くすることができる。従って、効率的に微細なパーティクルを除去できる。
【0070】
(第6の実施形態)
次に、本発明の第6の実施形態について説明する。本実施形態では、気体308の噴射速度を変化させながら洗浄する点が、第5の実施形態と異なる。即ち、本実施形態では、第5の実施形態に係る半導体ウェーハの洗浄装置を用いて、角度を変えて斜め方向から気体308を噴射する際に、半導体ウェーハ100の表面のパターンの大きさに応じて、その噴射速度を高速、または低速に変化させる。具体的には、パターンの大きさが小さい部分(例えば、パターン幅が約40nm以下の微細パターン)では、気体308の噴射速度を第5の実施形態よりも低速にして、パターンの大きさが大きい部分や、パターンが存在せず平面的な部分では、その噴射速度を第5の実施形態よりも高速にする。
【0071】
従って、本実施形態によれば、半導体ウェーハ100の表面の微細パターンを傷つけることなく、パターン形状に応じてスタグナントレイヤー101を適切に分散させ、その厚さを薄くすることができる。よって、液滴ミスト307に含まれる水滴103を半導体ウェーハ100の表面により近づけることができ、スタグナントレイヤー101内に埋もれていた微細なパーティクルを除去することができる。
【0072】
(第7の実施形態)
次に、図14を参照して本発明の第7の実施形態について説明する。本実施形態では、2組の気体ジェットノズル700,701を備える点が、第5の実施形態と異なる。即ち、図14に示す様に、3流体ジェットノズル710は気体308の導入口704、705、及び気体と液体の導入口706を備える。また、貫通している2組の気体通路707、708を設置し、2組の気体ジェットノズル700、701のそれぞれの噴射口700a、701aと通じる構造をしている。この2組の気体ジェットノズル700、701を有する構成により、第5の実施形態よりも自由度が高く気体308と液滴ミスト307とを個別に操作して、混合せずに噴射することができる。従って、洗浄の要求に従って、それぞれを自由にコントロールする事が可能である。
【0073】
(第8の実施形態)
次に、図15を参照して本発明の第8の実施形態について説明する。本実施形態では、2流体ジェットノズルと気体ジェットノズルとは一体の一体型ノズル(3流体ジェットノズル)として構成される点が第5の実施形態と異なる。
【0074】
図15は、本実施形態に係る3流体ジェットノズルの断面図を表す。同図に示す様に、この3流体ジェットノズル800は、中心部の液体通路400、及び液体通路400を取り囲む様に同心円状に配置された気体通路401から構成される2流体ジェットノズルと、気体通路401を取り囲む様に配置された同心円状の気体通路801とを備える。
【0075】
液体通路400から液体(例えば純水等)が供給され、気体通路401から気体(第2の気体;例えば乾燥空気、または窒素等)が供給され、液滴ミスト307が形成されて噴射口803から半導体ウェーハ100に噴射される。また、気体通路801から高速の気体308(第1の気体;例えば乾燥空気、または窒素等の不活性ガス等)が供給され、噴射口802から液滴ミスト307の周囲に噴射される。即ち、3流体ジェットノズル800は液体と第1の気体と第2の気体とを流通させた後に噴射させるものとして構成されている。
【0076】
また、3流体ジェットノズル800は、半導体ウェーハ100の表面の、気体308の圧力によってスタグナントレイヤー101が除去された領域に、液滴ミスト307に含まれる水滴103が衝突する様にスキャンされる。
【0077】
本実施形態によれば、第5の実施形態と同様に、高速の気体308によってスタグナントレイヤー101が薄く保持された状態で液滴ミスト307が噴射されるため、微細なパーティクルを効果的に除去できる。また、液滴ミスト307と気体308の噴射速度を個別に操作できるので、液滴ミスト307の噴射速度を低く維持し、気体308の噴射速度のみを高くしても、液滴ミスト307と気体308とが混合しない。従って、液滴ミスト307に含まれる水滴103は気体308によって加速されないので、水滴103により微細パターンにダメージが加えられる可能性が低い。また、本実施形態によれば、第5の実施形態の気体ジェットノズル302が占有する空間が不要であるため、プロセススペースの削減ができる。
【0078】
なお、上述してきた第5の実施形態から第8の実施形態によれば、半導体ウェーハ100の回転数、及び3流体ジェットノズル300,710,800のスキャン速度に関わらず、スタグナントレイヤー101が薄くなれば上述した効果が得られる。
【0079】
また、第5の実施形態から第8の実施形態において、第1の実施形態の洗浄液を用いて液滴ミスト307を形成する様にしても良い。この場合、第5の実施形態から第8の実施形態よりも効率的にパーティクルを除去できる。
【0080】
また、第2の実施形態から第4の実施形態で説明した撥水性の半導体ウェーハを用いて洗浄しても良い。この場合も、第5の実施形態から第8の実施形態よりも効率的にパーティクルを除去できる。
【0081】
なお、以上の実施形態において、大きい液滴は微細パターンの隅々にまで入り込めない場合があるので、2流体ジェット洗浄装置、又は3流体ジェット洗浄装置により噴射される液滴は、直径5μm以下が好ましい。
【0082】
(第9の実施形態)
次に、図16〜図20を参照して本発明の第9の実施形態について説明する。本実施形態は、枚葉洗浄装置を用いた洗浄処理における洗浄液として、希釈IPA水溶液にゼータ電位を制御する薬液を混合したものを用いる点が第1の実施形態と異なる。本明細書においてゼータ電位とは、洗浄液と接するパーティクルの表面の電位と、洗浄液と接する下地膜の表面の電位とを表す。
【0083】
図16は、半導体ウェーハ上における水のスタグナントレイヤーとパーティクルを表す概略図である。前述のように、パーティクル110〜112は水のスタグナントレイヤー101に埋もれている。
【0084】
図17は、半導体ウェーハ上における希釈IPA水溶液のスタグナントレイヤーとパーティクルを表す概略図である。前述のように、希釈IPA水溶液のスタグナントレイヤー101の厚さは水のものよりも薄いので、パーティクル110〜112は図16の状態よりも露出する。そのため、水滴衝突流体層120が有する波の力により、パーティクル110〜112が除去され易くなる。パーティクル150は、半導体ウェーハ100の表面から引き離され、除去されたものを表す。
【0085】
図18は、希釈IPA水溶液にゼータ電位を制御する添加剤を加えた薬液のスタグナントレイヤーとパーティクルの様子を表す概略図である。その添加剤として、ゼータ電位を制御するアルカリ性の薬液又は界面活性剤を用いる。例えば、アルカリ性の薬液として水酸化アンモニウム(NH4OH)又はコリンなどを用いる。これにより、ゼータ電位は負電位に制御される。半導体ウェーハ100から脱離したパーティクル150のゼータ電位は負電位であるため、ゼータ電位が負電位である流体層120に再度付着しなくなる。
【0086】
図19は、ゼータ電位を制御した場合のパーティクルの挙動について表す概略図である。図19(a)に示す様に、パーティクル150のゼータ電位と、半導体ウェーハ100上の下地膜170のゼータ電位とを制御して負電位にすると、両者の間に反発力が働く。その結果、図19(b)に示す様に、パーティクル150は水流層102中に分散して、槽外へ排出される。これはゼータ電位効果によるものである。なお、このゼータ電位はパーティクル150の径に依存しない。また、このゼータ電位は電気泳動法で測定できる。
【0087】
図20にアルカリ性の薬液を添加してゼータ電位を制御した洗浄液を用いて2流体ジェット洗浄を行った場合の除粒子性能を示す。アルカリ性の薬液を添加しない純水を用いた2流体ジェット洗浄の場合と比較して、40nmのパーティクルの除去効率が向上していることが分かる。また、第1の実施形態に記載した希釈IPA水溶液を用いた2流体ジェット洗浄と比較しても、より短時間に効率良く微細なパーティクルを除去することが可能となる。
【0088】
以上で述べた様に、本実施形態によれば、40nm相当の微小なパーティクル150を半導体ウェーハ100から脱離させた後、再度半導体ウェーハ100へ付着させることなく、効率的に除去できる。
【0089】
なお、第1の実施形態において説明したHFE、HFEに微量のIPAを添加した溶液、又は界面活性剤を混合した水などを洗浄液として用い、その洗浄液に前述のゼータ電位を制御するアルカリ性の薬液を混合しても良い。また、HFE又はHFEに微量のIPAを添加した溶液にゼータ電位を制御する界面活性剤を混合しても良い。混合する界面活性剤は、基板表面を疎水化させる効果とゼータ電位を制御する効果とを共に有しているものであれば、1種類でも良い。また、上述したそれぞれの効果を有している複数種類の界面活性剤を混合しても良く、状況に応じて適宜変更して実施することができる。
【0090】
また、IPA、HFE、又はHFEに微量のIPAを添加した溶液などに酸性の薬液を混合した酸性の洗浄液を用いても良い。その場合、ゼータ電位を制御する薬液として界面活性剤等を混合する。
【0091】
また、第3の実施形態と第4の実施形態で説明した撥水性の半導体ウェーハを用いて洗浄しても良い。この場合、より効率的にパーティクルを除去できる。さらに、第5の実施形態から第8の実施形態において、本実施形態の洗浄液を用いて液滴ミスト307を形成する様にしても良い。この場合、より効率的にパーティクルを除去できる。
【0092】
なお、以上の第1の実施形態から第9の実施形態において、図21に示すように、ノズル180を半導体ウェーハ100の直径方向に表面に沿ってスキャンさせ、半導体ウェーハ100への薬液の吐出を1回のスキャンで行っても良い。これにより、中心部から外周部の方向にスキャンする場合と同様に、洗浄後の洗浄液が即時に排出されるので、除去されたパーティクルが再度半導体ウェーハ100に付着することを防止できる。
【0093】
(第10の実施形態)
次に、図22及び図23を参照して本発明の第10の実施形態について説明する。本実施形態は、枚葉洗浄装置を用いた洗浄処理において、洗浄中に半導体ウェーハ100の温度を上昇させる点が前記した第1の実施形態と異なる。
【0094】
図22は、本実施形態に係る半導体ウェーハ100の洗浄装置の動作を表している。まず、図示しないステージが半導体ウェーハ100を水平に保持すると共に、半導体ウェーハ100の中心を通る鉛直軸の周りで回転させる。回転数は、例えば300〜500rpmである。半導体ウェーハ100の裏面からは窒素等からなるホットキャリアガスや温水等のウェーハ温度上昇用の流体401を噴き付けることができ、半導体ウェーハ100の表面温度を調整することができる。
【0095】
図23は、常温のウェーハに純水で10%に希釈したIPA(dIPA)を用いて2流体洗浄を行った結果、温水によって45℃に加熱されたウェーハに純水で10%に希釈したIPAを用いて2流体洗浄を行った結果、温水によって45℃に加熱されたウェーハに純水で10%に希釈したIPAと純水で4%に希釈したコリン溶液とを35:1の割合で混合した溶液を用いて2流体洗浄を行った結果をそれぞれ表している。ここではSiNのパーティクルの除粒子性能(PRE)により評価を行っている。なお、2流体洗浄による処理時間は192秒、評価した粒子径は40nm、80nm、100nmとした。
【0096】
図23に示すように、温水によって45℃に加熱されたウェーハの方が全ての粒子径においてPREが高くなることが確認された。これは、ウェーハ表面を高温にすることによってパーティクルの運動量が増加し、パーティクルがスタグナントレイヤーから飛び出し易くなるためであると考えられる。
【0097】
なお、IPAを用いた2流体洗浄を行う場合はウェーハ表面の温度を50℃以下、より好ましくは30℃〜50℃の範囲に制御することが望ましい。ウェーハの表面温度が50℃を超えてしまうと洗浄中であってもノズルから離れた領域(例えば、ノズルが外周にある時のウェーハ中央部等)のIPAが蒸発し、部分的に乾燥が始まってしまう。一旦、ウェーハ表面が乾燥しパーティクルが下地に吸着すると、パーティクルが下地と強固に結びつき、2流体を用いても簡単には除去出来なくなるため好ましくない。
【0098】
以上示したように、本発明の第10の実施形態に係る半導体ウェーハの洗浄方法を用いることによって、半導体ウェーハの表面に付着する微細なパーティクルを効果的に除去することができる。なお、本実施形態に記載したウェーハの表面温度の調整は、前述した他の実施形態と組み合わせて実施することも勿論可能である。
【0099】
(第11の実施形態)
次に、図24及び図25を用いて本発明の第11の実施形態について説明する。本実施形態は、前記した第10の実施形態の枚葉洗浄装置を用いた洗浄処理と比較して、洗浄中に半導体ウェーハ100の温度を80℃以上に上昇させる点が異なる。
【0100】
本実施形態に係る半導体ウェーハ100の洗浄装置の構成は、図24に示すように、前記した第1の実施形態と同様である。なお、前記した第10の実施形態と同様に、半導体ウェーハ100の裏面から窒素等からなるホットキャリアガスや温水等のウェーハ温度上昇用の流体を噴き付ける構成が付いていても構わない。
【0101】
図24に示す2流体ジェット洗浄装置の動作の一例について説明する。この場合、2流体ジェット洗浄装置によって、洗浄液と気体の2流体を混合させた霧状の液滴ミスト402を半導体ウェーハ100の表面に対して噴射する。ここで、洗浄液は、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、酢酸等の水よりも沸点が高く、水よりも表面張力が低い液体が用いられる。また、洗浄液が半導体ウェーハ上に残らないように水で容易にリンス可能な液体を用いることが望ましい。前記したエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、酢酸等は水により容易にリンス可能である。
【0102】
上記に示したエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等は水よりも粘性が大きく高く、微細なパターンが表面に形成されたウェーハを洗浄するための洗浄液に用いることは困難である。しかし、図25に示すように、洗浄液の温度が上昇するにつれて粘性が低下し、80℃以上では水と同等に近い粘性となる。
【0103】
本実施形態では、前記したエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、酢酸等の水よりも沸点が高く、水よりも低表面張力かつ水により容易にリンス可能である液体を洗浄液として用い、ウェーハ表面の温度を80℃以上にすることにより、前記した第10の実施形態よりもパーティクルの運動量を向上させ、半導体ウェーハの表面に付着する微細なパーティクルを効果的に除去することができる。なお、前記したエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、酢酸等を水で希釈した80℃以上の沸点を有し、水よりも低表面張力の液体を用いても構わない。
【0104】
本実施形態において、洗浄液の温度は限定されないが半導体ウェーハ表面の温度を80℃以上に維持し、洗浄液の粘性を低下させる観点からより高温であることが望ましい。具体的には洗浄液の温度も80℃以上とすることが望ましい。
【0105】
以上、本発明の実施形態を詳述してきたが、具体的な構成は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変形して実施することができる。例えば、枚葉洗浄装置は2流体ジェット洗浄装置、又は3流体ジェット洗浄装置に限られない。
【0106】
また、洗浄対象の半導体ウェーハは、その表面に素子のパターンが形成されているものとして説明したが、どの様な表面状態でも良く、例えば平坦な表面でも良い。さらに、本発明の実施形態に係る半導体ウェーハの洗浄装置、及び半導体ウェーハの洗浄方法は、液晶表示装置のガラス基板等、半導体ウェーハ以外の基板の洗浄に用いることもできる。
【符号の説明】
【0107】
100 半導体ウェーハ、101 スタグナントレイヤー、102 水流層、110〜112 パーティクル、120 水滴衝突流体層、301 2流体ジェットノズル、302,602,700,701 気体ジェットノズル、307 液滴ミスト、308 気体、300,710,800 3流体ジェットノズル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄液による半導体ウェーハの洗浄方法において、
前記洗浄液として、水より低表面張力、且つ水より低粘性を有するものを用い、前記半導体ウェーハの表面の温度を30℃〜50℃とした状態において、前記洗浄液で洗浄する事を特徴とする半導体ウェーハの洗浄方法。
【請求項2】
前記半導体ウェーハの表面の温度は、前記半導体ウェーハの裏面にウェーハの温度を上昇させるための流体を噴き付けることによって上昇する事を特徴とする請求項1に記載の半導体ウェーハの洗浄方法。
【請求項3】
洗浄液による半導体ウェーハの洗浄方法において、
前記洗浄液として、水より低表面張力、且つ水より高い沸点を有するものを用い、前記半
導体ウェーハの表面の温度を80℃以上とした状態において、前記洗浄液で洗浄する事を特徴とする半導体ウェーハの洗浄方法。
【請求項4】
前記洗浄液は、水でリンス可能である事を特徴とする請求項3に記載の半導体ウェーハの洗浄方法。
【請求項5】
前記洗浄液は、前記洗浄液の温度が上昇すると常温よりも粘性が低下する事を特徴とする請求項3に記載の半導体ウェーハの洗浄方法。
【請求項6】
前記洗浄液は、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、酢酸のうちのいずれかである事を特徴とする請求項3に記載の半導体ウェーハの洗浄方法。
【請求項1】
洗浄液による半導体ウェーハの洗浄方法において、
前記洗浄液として、水より低表面張力、且つ水より低粘性を有するものを用い、前記半導体ウェーハの表面の温度を30℃〜50℃とした状態において、前記洗浄液で洗浄する事を特徴とする半導体ウェーハの洗浄方法。
【請求項2】
前記半導体ウェーハの表面の温度は、前記半導体ウェーハの裏面にウェーハの温度を上昇させるための流体を噴き付けることによって上昇する事を特徴とする請求項1に記載の半導体ウェーハの洗浄方法。
【請求項3】
洗浄液による半導体ウェーハの洗浄方法において、
前記洗浄液として、水より低表面張力、且つ水より高い沸点を有するものを用い、前記半
導体ウェーハの表面の温度を80℃以上とした状態において、前記洗浄液で洗浄する事を特徴とする半導体ウェーハの洗浄方法。
【請求項4】
前記洗浄液は、水でリンス可能である事を特徴とする請求項3に記載の半導体ウェーハの洗浄方法。
【請求項5】
前記洗浄液は、前記洗浄液の温度が上昇すると常温よりも粘性が低下する事を特徴とする請求項3に記載の半導体ウェーハの洗浄方法。
【請求項6】
前記洗浄液は、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、酢酸のうちのいずれかである事を特徴とする請求項3に記載の半導体ウェーハの洗浄方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図8】
【図9】
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【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2011−60954(P2011−60954A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208231(P2009−208231)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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